【文献】
Microbiol. Immunol.,2002年,Vol.46. No.8,pp.535-548
【文献】
Microbiol. Immunol.,2002年,Vol.46, No.12,pp.819-831
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞、IL−10産生性の制御性T細胞、またはHelios陰性Foxp3陽性の制御性T細胞であるか;および/または(b)組成物が、免疫抑制作用を有する、請求項1に記載の組成物。
組成物が、アーモンド皮、イヌリン、オリゴフルクトース、ラフィノース、ラクチュロース、ペクチン、ヘミセルロース、アミロペクチン、アセチル−CoA、ビオチン、ビート糖蜜、酵母抽出物、難消化性デンプン、コルチコステロイド、メサラジン、メサラミン、スルファサラジン、スルファサラジン誘導体、免疫抑制剤、シクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリン、プレドニゾン、メトトレキサート、抗ヒスタミン剤、グルココルチコイド、エピネフリン、テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム、抗ロイコトリエン剤、抗コリン鼻炎薬、抗コリン充血除去剤、肥満細胞安定化剤、モノクローナル抗IgE抗体、ワクチン、抗TNF阻害剤、およびその組合せからなる群より選択される物質をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物または請求項3に記載の医薬組成物。
Foxp3Tregの発現、IL−10発現の促進、CTLA4発現の促進、IDO発現の促進、およびIL−4発現の抑制からなる群より選択される1つの測定結果を、前記個体において制御性T細胞の増殖または集積が誘導されたことの指標として用いる、請求項1、2および6のいずれか1項に記載の組成物または請求項3に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物>
制御性T細胞の増殖、集積または制御性T細胞の増殖と集積の両方を誘導する組成物についてここに記載する。該組成物は、以下に挙げるもののうち1つ以上を有効成分として含む:クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATCC 29799、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613、cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163、ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5、オシロスピラ菌(Oscillospiraceae bacterium)NML 061048、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、およびクロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA、ブラウティア・ココイデス(Blautia cocoides)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662からなる群より選択される(少なくとも1種類、1種類以上の)生物体、1種類以上の該細菌の培養上清、本明細書に記載の(少なくとも1種類、1種類以上の)細菌を増殖させた培地の成分、本明細書に記載の(少なくとも1種類;1種類以上の)細菌に由来する生理活性物質;ならびに上記細菌種など本明細書に記載されているいずれかの細菌種DNAのヌクレオチド配列と少なくとも97%の相同性を有するヌクレオチド配列を含むDNAを含む(少なくとも1種類;1種類以上の)細菌。本明細書に記載の細菌は、実施例19〜28で概説する方法を用いてヒト糞便試料から単離されたものである。
【0046】
「制御性T細胞」という用語は、異常なまたは過剰な免疫応答を抑制し、かつ免疫寛容に何らかの役割を果たしているT細胞を指す。制御性T細胞は通常、転写因子Foxp3陽性CD4陽性T細胞である。本発明の制御性T細胞にはこのほか、IL−10を産生するCD4陽性T細胞である転写因子Foxp3陰性の制御性T細胞が含まれる。
【0047】
「制御性T細胞の増殖または集積を誘導する」という用語は、制御性T細胞の増殖および/または集積に至る、未成熟T細胞から制御性T細胞への分化を誘導する作用を指す。さらに、「制御性T細胞の増殖または集積を誘導する」という用語の意味にはインビボにおける作用、インビトロにおける作用およびエクスビボにおける作用が含まれる。以下に挙げる作用がすべて含まれる:クロストリジウム類に属する上記細菌、該細菌の培養上清もしくは上清成分(1つまたは複数)、または該細菌に由来する生理活性物質の投与または摂取により、インビボで制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用;クロストリジウム類に属する上記細菌、該細菌の培養上清もしくは上清成分(1つまたは複数)、または該細菌に由来する生理活性物質を、培養制御性T細胞に作用させることにより、その増殖または集積を誘導する作用;ならびにクロストリジウム類に属する上記細菌、該細菌の培養上清もしくは上清成分(1つまたは複数)、または該細菌に由来する生理活性物質を、生体から採取したのちにそれを採取した生体または別の生体などの生体に導入する予定である制御性T細胞に作用させることにより、その増殖または集積を誘導する作用。制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用は、例えば、次のように評価することができる。具体的には、クロストリジウム類に属する上記細菌、該細菌の培養上清もしくは上清成分(1つまたは複数)、または該細菌に由来する生理活性物質を無菌マウスなどの実験動物に経口投与し、その後、大腸におけるCD4陽性細胞を単離し、該細胞に含まれる制御性T細胞の割合を、フローサイトメトリーにより測定する(実施例7を参照のこと)。
【0048】
本発明の組成物により増殖または集積が誘導される制御性T細胞は、好ましくは、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である。
【0049】
本発明では、「ヒト由来細菌」は、ヒト個体から採取した糞便試料もしくは消化管生検から単離された細菌種またはヒトから採取した糞便試料もしくは消化管生検から単離された細菌を祖先とする(例えば、糞便試料もしくは消化管生検から採取された細菌の子孫である)細菌種を意味する。例えば、該細菌種は、ヒトから採取した糞便試料または消化管生検から既に単離され、子孫が生じるのに十分な時間培養されたものであってよい。次いで、この子孫をさらに培養または凍結することができる。ヒト由来細菌は、ヒト個体、好ましくは健常なヒト個体の消化管に生息する天然の共生生物である。
【0050】
本発明では、「クロストリジウム類」という用語(「クロストリジウム類に属する細菌を含有する組成物」における場合など)は、ファーミキューテス門に属し芽胞形成能を有するグラム陽性の偏性嫌気性菌の一種を指す。現在この種類の細菌のほとんどがクロストリジウム目に含まれているが、この分類は依然として一部旧来の方法に基づくものであり、将来、配列決定技術が新たに進歩し、この種類の細菌の全ゲノムの配列決定が可能になることで再定義される可能性があることに留意することが重要である。本発明者らがTregを強力に誘導するものであると同定しインビトロで培養した、クロストリジウム類に属する17種の豊富にみられた種の分類を表2にまとめる。ここに挙げた種はいずれも、現在の分類規則に従ってクロストリジウム科に分類され、クラスターIV、XIVa、XVIおよびXVIIIに属する。
【0051】
本発明の組成物は、上記細菌株のいずれか1つの菌株を単独で(1つの菌株のみ)含み得るが、該細菌の2つ以上の菌株を一緒に用いることもできる。例えば、表2または表4に挙げた菌株のうち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17の菌株を任意の組合せで一緒に用いて制御性T細胞に作用させることができる。いくつかの実施形態では、表4に挙げた23種、17種、5種または3種の混合物を一緒に用いて(および1種または複数種の組成物で投与して)制御性T細胞に作用させることができる。いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる(該組成物が含む):表4に記載されている菌株1(OTU136、最近縁種:クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298)、菌株3(OTU221、最近縁種:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATTC 29799)、菌株4(OTU9、最近縁種:クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1)、菌株5(OTU296、最近縁種:クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA)、菌株6(OTU21、最近縁種:ブラウティア・ココイデス(Blautia coccoides)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA)、菌株7(OUT166、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613)、菌株8(OTU73、最近縁種:cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A)、菌株9(OTU174、最近縁種:クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662)、菌株10(OTU166、最近縁種:クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613)、菌株12(OTU55、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)、菌株13(OTU337、最近縁種:アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241)、菌株14(OTU314、最近縁種:ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA)、菌株15(OTU195、最近縁種:クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981)、菌株16(OTU306、最近縁種:クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163)、菌株18(OTU46、最近縁種:クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum))、菌株21(OTU87、最近縁種:ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5)、菌株23(OTU152、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)、菌株24(OTU253、最近縁種:オシロスピラ菌(Oscillospiraceae bacterium)NML 061048、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes))、菌株25(OTU259、最近縁種:ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5)、菌株26(OTU281、最近縁種:クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA)、菌株27(OTU288、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)、菌株28(OTU344、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、クロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA)、および菌株29(OTU359、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)。
【0052】
いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる(該組成物が含む):表4に記載されている菌株1(OTU136、最近縁種:クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298)、菌株3(OTU221、最近縁種:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATTC 29799)、菌株4(OTU9、最近縁種:クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1)、菌株6(OTU21、最近縁種:ブラウティア・ココイデス(Blautia coccoides)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA)、菌株7(OUT166、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613)、菌株8(OTU73、最近縁種:cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A)、菌株9(OTU174、最近縁種:クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662)、菌株13(OTU337、最近縁種:アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241)、菌株14(OTU314、最近縁種:ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA)、菌株15(OTU195、最近縁種:クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981)、菌株16(OTU306、最近縁種:クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163)、菌株18(OTU46、最近縁種:クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum))、菌株21(OTU87、最近縁種:ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5)、菌株26(OTU281、最近縁種:クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA)、菌株27(OTU288、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)、菌株28(OTU344、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、クロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA)、および菌株29(OTU359、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)。
【0053】
いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる(該組成物が含む):表4に記載されている菌株1(OTU136、最近縁種:クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298)、菌株4(OTU9、最近縁種:クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1)、菌株16(OTU306、最近縁種:クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163)、菌株27(OTU288、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)、および菌株29(OTU359、最近縁種:ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1)。いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる:表4に記載されている菌株6(OTU21、最近縁種:ブラウティア・ココイデス(Blautia coccoides)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA)、菌株8(OTU73、最近縁種:cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A)、菌株13(OTU337、最近縁種:アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241)、菌株14(OTU314、最近縁種:ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA)、および菌株26(OTU281、最近縁種:クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA)。いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる:表4に記載されている菌株3(OTU221、最近縁種:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATTC 29799)、菌株7(OUT166、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613)、菌株9(OTU174、最近縁種:クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662)、菌株15(OTU195、最近縁種:クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981)、および菌株28(OTU344、最近縁種:クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、クロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA)。いくつかの実施形態では、以下の菌株を組み合わせることができる:表4に記載されている菌株1(OTU136、最近縁種:クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298)、菌株2(OTU46、最近縁種:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATCC 29799)および菌株3(OTU221、最近縁種:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATTC 29799)。
【0054】
上記細菌種、好ましくはクロストリジウムクラスターXIVaまたはクラスターIVに属する細菌種の菌株を複数組み合わせて用いることによって、制御性T細胞に対して優れた効果を発揮させることができる。クラスターXIVaおよびクラスターIVに属する細菌のほかにも、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)(クラスターXVIIIに属する)およびcf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055(クラスターXVIに属する)を用いることができる。細菌を1菌株以上(例えば、クラスターXIVaに属する菌株を1つ以上、クラスターIVに属する菌株を1つ以上、クラスターXVIIIもしくはXVIに属する菌株を1つ以上または上記のいずれかの組合せ)を用いる場合、用いる菌株の数および比は様々なものであり得る。用いる数および比は、様々な因子(例えば、制御性T細胞の増殖または集積の誘導または阻害などの所望の効果;治療、予防または重症度軽減の対象となる疾患または病態;被投与者の年齢または性別;健常なヒトにおける菌株の典型的な量)に基づいて決定できる。
【0055】
該菌株は単一の組成物中に存在していてよく、この場合、該菌株を同時に摂取または吸収することが可能であり(単一の組成物で)、あるいは、該菌株は2つ以上の組成物中に存在してもよく(例えば、それぞれ別々の組成物中に存在してもよい)、この場合、該菌株が別々に摂取され得るか、組成物を組み合わせて、得られる組合せ(併用組成物)が摂取または吸収され得る。効果を奏する任意の数または組合せの菌株(例えば、1〜20、1〜15、1〜10、1〜5、1〜3、1〜2などの1〜22の任意の数、およびその間の任意の数または例えば、1〜23、3〜23、5〜23、1〜20、1〜17、3〜17、5〜17、1〜15、1〜10、1〜5、3〜5、1〜3、1〜2などの1〜23、およびその間の任意の数)を投与することができる。
【0056】
本発明の特定の実施形態では、本開示に記載されている22または23菌株(例えば、実施例32および表4の23菌株)の一部または全部の組合せを用いる。例えば、記載されている22または23菌株の少なくとも1、2以上、3、3以上、4、4以上、5、5以上、6、6以上または22もしくは23菌株を含めた任意の数の菌株を用いることができる。いくつかの実施形態では、表4に記載されている3、5、17または23菌株の特定の組合せを用いることができる(該組成物は、表4に記載されている3、5、17または23菌株の組合せを含む)。ここに挙げた菌株は互いに組み合わせても、引用文献に記載されていない菌株と組み合わせても使用することができる。
【0057】
クロストリジウム類に属する細菌、特に本明細書に記載の細菌などの細胞は、芽胞型でも栄養型でも用いることができる。高温・高圧条件に対して安定である、有効期間が長い、取扱いが容易である、抗生物質に耐性を示す、ならびにコールドチェーンによる保存および流通を必要としないという観点から言うと、該細菌は芽胞型であることが好ましくてよい。設備が芽胞に汚染されることが許容されない特定の製造組織の指示の順守という観点からいうと、該細菌は逆に栄養型の細胞で生産(のちに投与)され得る。
【0058】
「クロストリジウム類に属する細菌に由来する生理活性物質」という用語は、該細菌に含まれる物質、該細菌の分泌産物、および該細菌の代謝産物を包含する。このような生理活性物質は、既知の精製方法によって該細菌、その培養上清、またはクロストリジウム類に属する菌だけが定着したマウスの腸管内容物から活性成分を精製することにより同定が可能である。
【0059】
ヒトから採取した糞便試料の「クロロホルム処理」とは、糞便試料中に存在し芽胞形成能を有する細菌を単離する方法のことであり、芽胞形成画分がヒトの糞便をクロロホルム(例えば、3%クロロホルム)で処理することによって得られ、かつマウス制御性T細胞およびヒト制御性T細胞などの哺乳動物制御性T細胞を含む制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り、特に限定されるものではない。
【0060】
上記「クロストリジウム類に属する細菌」を培地で培養すると、該細菌からは、該細菌に含まれる物質、該細菌によって産生される分泌産物および代謝産物が放出される。本発明の組成物の有効成分である「細菌の培養上清」の意味には、このような物質、分泌産物、および代謝産物が包含される。培養上清は、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り特に限定されるものではない。培養上清の例としては、培養上清のタンパク質画分、培養上清のポリサッカライド画分、培養上清の脂質画分、および培養上清の低分子代謝産物画分が挙げられる。
【0061】
細菌組成物は、医薬組成物、栄養補助食品、または飲食品(動物用飼料であってもよい)の形態で投与してもよく、あるいはモデル動物実験の試薬として用いてもよい。医薬組成物、栄養補助食品、飲食品、および試薬は制御性T細胞の増殖または集積を誘導する。本明細書に記載されている実施例では、クロストリジウム類に属する細菌等により誘導された制御性T細胞(Treg細胞)が、エフェクターT細胞の増殖を抑制することが明らかになった。本発明の組成物は、免疫抑制作用を有する組成物として好適に用いることができる。免疫抑制作用は、例えば、以下のように評価できる。本発明の組成物を経口投与したマウスなどの実験動物から単離した制御性T細胞を、脾臓から単離したエフェクターT細胞(CD4
+CD25
−細胞)に作用させ、その増殖能を[
3H]−チミジンの取り込み量を指標に測定する(実施例14を参照のこと)。
【0062】
本発明の細菌組成物は、例えば、慢性炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、もしくは橋本病などの自己免疫疾患;食物アレルギー、花粉症、もしくは喘息などのアレルギー疾患;クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)による感染症などの感染症;TNF仲介性の炎症性疾患(例えば、回腸嚢炎などの消化管の炎症性疾患、アテローム性動脈硬化症などの心血管系の炎症性病態、もしくは慢性閉塞性肺疾患などの炎症性肺疾患)などの炎症性疾患を予防または治療する(その有害作用を部分的にもしくは全面的に軽減する)ための医薬組成物として;組織拒絶が起こり得る臓器移植をはじめとする状況における拒絶反応を抑制するための医薬組成物として;免疫機能を改善するための栄養補助食品、飲食品として;またはエフェクターT細胞の増殖もしくは機能を抑制するための試薬として使用することができる。
【0063】
該組成物が治療(有害作用の軽減または予防)に有用な対象疾患のさらに具体的な例としては、自己免疫疾患、アレルギー疾患、感染症、および臓器移植における拒絶反応、例えば炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎、クローン病、スプルー、自己免疫性関節炎、リウマチ性関節炎、1型糖尿病、多発性硬化症、骨髄移植に付随する移植片対宿主拒絶反応、変形性関節症、若年性慢性関節炎、ライム病関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、脊椎関節症、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病、甲状腺炎、ぜんそく、乾癬、強皮症皮膚炎(dermatitis scleroderma)、アトピー性皮膚炎、移植片対宿主拒絶反応、臓器移植に関連した急性又は慢性の免疫疾患、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化、播種性血管内凝固症候群、川崎病、グレーブス病(パセドゥ病)、ネフローゼ症候群、慢性疲労症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症、ヘノッホ・シェ−ライン紫斑病、腎臓における顕微鏡的血管炎、慢性活動性肝炎、ブドウ膜炎、敗血症性ショック、毒素性ショック症候群、敗血症候群、悪液質、エイズ(後天性免疫不全症候群)、急性横断性脊髄炎、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、原発性胆汁性肝硬変症、溶血性貧血、多腺性機能不全症候群1型、多腺性機能不全症候群2型、シュミット症候群、成人(急性)呼吸窮迫症候群、脱毛症、円形脱毛症、血清反応陰性関節症、関節症、ライター病、乾癬性関節症、クラミジア感染症、エルシニア・サルモネラ感染による関節症、脊椎関節症、アテローム性疾患/動脈硬化、アレルギー性大腸炎、アトピー性アレルギー、食物アレルギー(例えば、ピーナッツアレルギー、ナッツアレルギー、卵アレルギー、乳アレルギー、大豆アレルギー、小麦アレルギー、魚介アレルギー、貝アレルギーまたはゴマアレルギー、など)、自己免疫性水疱性疾患、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、類天疱瘡、線状IgA病、自己免疫性溶血性貧血、クームス試験陽性溶血性貧血、後天性悪性貧血、若年性悪性貧血、筋肉脊髄炎/ロイヤルフリー病、慢性粘膜皮膚カンジダ症、巨細胞性動脈炎、原発性硬化性肝炎、特発性自己免疫性肝炎、後天性免疫不全症候群、後天性免疫不全関連疾患、C型肝炎、分類不能型免疫不全症(分類不能型低ガンマグロブリン血症)、拡張型心筋症、線維性肺疾患、特発性線維化性肺胞炎、炎症後間質性肺炎、間質性肺炎、結合組織病間質性肺疾患、混合性結合組織疾患肺疾患、全身性硬化症間質性肺疾患、関節リウマチ間質性肺疾患、全身性エリテマトーデス肺疾患、皮膚筋炎/多発性筋炎肺疾患、シェーグレン病肺疾患、強直性脊椎炎肺疾患、血管炎性びまん性肺疾患、ヘモジデリン沈着症肺疾患、薬剤誘発性間質性肺疾患、放射線線維症、閉塞性細気管支炎、慢性好酸球性肺炎、リンパ球浸潤性肺疾患、感染後間質性肺炎、痛風性関節炎、自己免疫性肝炎、1型自己免疫性肝炎(古典的自己免疫性又はルポイド肝炎)、2型自己免疫性肝炎抗(抗LKM1抗体肝炎)、自己免疫性低血糖、黒色表皮腫によるB型インスリン抵抗性、副甲状腺機能低下症、臓器移植に関連した免疫疾患、臓器移植に関連した慢性免疫疾患、変形性関節症、原発性硬化性胆管炎、特発性白血球減少症、自己免疫性好中球減少症、腎疾患NOS、糸球体腎炎、腎臓における顕微鏡的血管炎、円板状エリテマトーデス、特発性男子不妊症またはNOS、精子自己免疫、多発性硬化症(全てのサブタイプに関する)、インスリン依存性糖尿病、交感性眼炎、肺高血圧症による結合組織病、グッドパスチャー症候群、結節性多発動脈炎の肺症状、急性リウマチ熱、リウマチ様脊椎炎、スティル病、全身性硬化症、高安病/動脈炎、自己免疫性血小板減少症、特発性血小板減少症、自己免疫性甲状腺疾患、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫甲状腺機能低下症(橋本病)、萎縮性自己免疫性甲状腺機能低下症、原発性粘液水腫、水晶体起因性ブドウ膜炎、原発性血管炎、白斑、アレルギー性鼻炎(花粉アレルギー)、アナフィラキシー、ペットアレルギー、ラテックスアレルギー、薬物アレルギー、アレルギー性鼻炎結膜炎、好酸球性食道炎、好酸球増加症候群、好酸球性胃腸炎、皮膚エリスマトーデス、好酸球性食道炎、好酸球増加症候群、好酸球性胃腸炎、および下痢が挙げられる。
【0064】
該組成物が治療に有用な対象疾患のほかの例としては、結腸癌、嚢胞性線維症、セリアック病、2型糖尿病、および自閉症に関連する免疫病理が挙げられる。ここに挙げた疾患は、消化管微生物叢におけるクロストリジウムクラスターIVおよびXIVの減少を特徴とする。
【0065】
本明細書に記載の組成物はほかにも、例えば、免疫による過度の炎症または患者のミクロビオームの変化によるダメージによって、感染症に対する耐性が損なわれている個体の感染症を予防または治療するための医薬組成物として使用することができる。宿主のホメオスタシスの維持または回復を損ない、結果としてこのような免疫病理学的な組織ダメージを与える感染性病原体の例としては、サルモネラ、赤痢菌、クロストリジウム.ディフィシル(C. difficile)、マイコバクテリウム(結核の原因となる)、原虫(マラリアの原因となる)、糸状線虫類(フィラリア症の原因となる)、住血吸虫(住血吸虫症の原因となる)、トキソプラズマ(トキソプラズマ症の原因となる)、リーシュマニア(リーシュマニア症の原因となる)、HCVおよびHBC(C型肝炎およびB型肝炎の原因となる)、ならびに単純ヘルペスウィルス(ヘルペスの原因となる)が挙げられる。
【0066】
当業者に公知の製剤方法によって、記載の細菌組成物から医薬品を製剤化できる。例えば、該組成物はカプセル剤、錠剤、丸剤、小袋剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤などの形態で経口的または非経口的に使用することができる。
【0067】
上に挙げた製剤を製剤化するために、該細菌組成物を、以下のものを1つ以上含む薬学的に許容されるまたは飲食品などでの摂取が許容される担体と適宜組み合わせて使用することができる:滅菌水、生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、溶媒、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、およびその他の添加剤。
【0068】
医薬品また医薬製剤、特に経口投与のための医薬品は、大腸における制御性T細胞の増殖または集積をさらに効率的に誘導するために、本発明の組成物を大腸に効率的に送達することを可能にする追加の組成物を含む。該細菌組成物の大腸への送達を可能にする様々な組成物を用いることができる。その例としてはpH感受性組成物が挙げられ、より具体的には、腸溶性ポリマーが胃を通過後pHがアルカリ性になったときに内容物を放出する緩衝化小袋製剤または腸溶性ポリマーが挙げられる。医薬品の製剤化にpH感受性組成物を使用する場合、pH感受性組成物は該組成物の分解されるpHの閾値が約6.8〜約7.5であるポリマーであることが好ましい。このような数値範囲は、胃の遠位部においてpHがアルカリ側へ移行する範囲であるため、大腸への送達に用いるのに好適な範囲である。
【0069】
該細菌組成物を大腸に送達するのに有用な医薬品のまた別の実施形態は、内容物(例えば、該細菌組成物)の放出を小腸通過時間に相当する約3〜5時間だけ遅らせることによって大腸への送達を確保する組成物が挙げられる。放出を遅らせる医薬品の1つの実施形態では、ハイドロゲルを殻として用いる。ハイドロゲルは胃腸液と接触すると水和して膨張し、その結果、内容物が効率的に溶出される(主として大腸で放出される)。放出を遅らせる投与単位としては、投与する薬物または薬剤有効成分をコートするか、選択的にコートする材料を有する、薬物含有組成物が挙げられる。このような選択的コーティング材料としては例えば、生体内分解性ポリマー、徐々に加水分解されていくポリマー、徐々に水溶していくポリマー、および/または酵素分解性ポリマーが挙げられる。放出を効率的に遅らせるコーティング材料としては多数のものが利用可能であり、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、メタクリル酸ポリマーおよびコポリマーなどのアクリル酸ポリマーおよびコポリマー、ならびにポリビニルピロリドンなどのビニルポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0070】
大腸への送達を可能とする組成物としてはさらに、大腸粘膜特異的に接着する生体接着性組成物(例えば、米国特許第6,368,586号明細書に記載のポリマー)および消化管において特に生物学的製剤をタンパク質分解酵素活性による分解から守るためにプロテアーゼ阻害剤を組み込んだ組成物が挙げられる。
【0071】
大腸への送達を可能にするシステムとしては、例えば、細菌発酵によるガス産生の結果として生じる胃の遠位部における圧力変化を利用して内容物を放出するような、圧力変化によって引き起こされる大腸への送達システムが挙げられる。このようなシステムは特に限定されるものではなく、その具体例としては、坐薬の基剤中に内容物を分散させ疎水性ポリマー(例えばエチルセルロース)でコートしたカプセルが挙げられる。
【0072】
大腸への送達を可能にするシステムのまた別の例には、大腸に存在する酵素(例えば、炭水化物加水分解酵素または炭水化物還元酵素)によって特異的に分解される大腸への組成物送達システムがある。このようなシステムは特に限定されるものではなく、その具体例としては、非デンプン多糖類、アミロース、キサンタンガム、およびアゾポリマーなどの食物成分を使用するシステムが挙げられる。
【0073】
該細菌組成物を医薬品として用いる場合、免疫抑制に用いられる既知の医薬組成物と併用してもよい。いくつかの実施形態では、該医薬品は、該細菌組成物と既知の医薬組成物をともに含み得る。このような公知の医薬組成物は特に限定されるものではなく、コルチコステロイド、メサラジン、メサラミン、スルファサラジン、スルファサラジン誘導体、免疫抑制剤、シクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリン、プレドニゾン、メトトレキサート、抗ヒスタミン、グルココルチコロイド、エピネフリン、テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム、抗ロイコトリエン、抗コリン鼻炎薬、抗コリン充血除去剤、肥満細胞安定化剤、モノクローナル抗IgE抗体、ワクチン(好ましくは、アレルゲンの量を徐々に増加させるワクチン接種に用いるワクチン)、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴール、ゴリムマブ、またはエタネルセプトなどの抗TNF阻害剤、およびその組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの治療用組成物であり得る。ここに挙げた治療用組成物を本明細書に記載の細菌組成物と併用することが好ましい。このほか、該細菌組成物は、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の予防または治療のためのワクチンなどワクチン製剤の効力を改善するアジュバントとして用いてもよい。
【0074】
該細菌組成物は、飲食品、例えば健康飲食品、乳児用の飲食品、妊婦、運動選手、高齢者をはじめとする特定のグループの飲食品、機能性食品、飲料、特定保健用飲食品、栄養補助食品、病者用飲食品、または動物用飼料などとして用いることができる。飲食品の具体例としては、ジュース、清涼飲料水、茶飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料等の各種飲料;ビール等のアルコール飲料;飯類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物含有食品;魚肉ハム、ソーセージ、水産練り製品等の練製品;カレー、あんかけ食品、中華スープ等のレトルト製品;スープ類;牛乳、乳飲料、アイスクリーム、チーズ、ヨーグルト等の乳製品;みそ、ヨーグルト、発酵飲料、漬け物等の発酵物;豆製品;ビスケット、クッキーなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、ゼリー、プリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;インスタントスープ、インスタントみそ汁等のインスタント食品、電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状、またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。本発明の組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができるが、ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象に使用できる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
理論に束縛されることを望むものではないが、ファーミキューテスの群(クロストリジウムクラスターIVおよびXIVaが属する群)に属する細菌が相対的に豊富な個体の方が、バクテロイデスの群に属する細菌が相対的に豊富な個体よりも体重の増加量が多い。該細菌組成物は、栄養素の吸収を調節し飼料効率を向上させることができる。このような観点から、該細菌組成物は体重増加の促進、または効率の高い動物飼料に使用できる。体重増加が有益な疾患および病態としては、例えば、飢餓、癌、AIDS、胃腸障害(例えば、セリアック病、消化性潰瘍、炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎)、膵炎、胃炎、下痢)、甲状腺機能亢進症、感染症、腎疾患、心疾患、肺疾患、結合組織疾患、ならびに投薬、食欲不振、アジソン病、認知症、うつ病、高カルシウム血症、パーキンソン病および結核による体重減少が挙げられる。
【0076】
該細菌組成物を無抗生物質の動物飼料に添加することにより、該動物飼料を摂取する動物の体重を、抗生物質含有動物飼料を摂取する動物が得る体重と同等かそれ以上のレベルに増加させることが可能になることに加えて、胃内の病原性細菌を、典型的な抗生物質含有動物飼料を摂取する動物のものと同じレベルまで減少させることが可能になる。該細菌組成物は抗生物質の添加が不要な動物飼料の成分として使用できる。
【0077】
さらに、商業的に利用されており、家畜生産に容易に組み込むことができない従来の細菌(乳酸桿菌(Lactobacillus)およびビフィズス菌(Bifidobacteria))とは異なり、芽胞型の本発明の細菌組成物はペレット化でき、スプレーでき、または動物飼料と容易に混合でき、かつ飲料水に添加することもできる。
【0078】
該細菌組成物を含む動物飼料は、多種多様なタイプの動物および様々な年齢の動物に与えることが可能であり、また定期的に与えることも特定の期間(例えば、出生時、離乳期、または動物を移動もしくは輸送するとき)与えることも可能である。
【0079】
該細菌組成物は、ヒトおよび非ヒト(例えば、家畜をはじめとする食用動物)における体重増加の促進およびエネルギー吸収の増大に用いることができる。
【0080】
該細菌組成物の細菌有効成分は、当該技術分野で周知の発酵技術を用いて製造できる。一実施形態では、クロストリジウム類に属する細菌種の急速な増殖を維持できる嫌気発酵槽を用いて、該有効成分を製造する。嫌気発酵槽は、例えば、攪拌槽型反応器または使い捨てのウェーブバイオリアクターであり得る。BL培地およびEG培地、または動物性成分を含まないこれとほぼ同じタイプの培地などの培地を用いて、細菌種の増殖を維持できる。細菌産物は、遠心分離およびろ過などの従来の技術によって発酵ブロスから精製および濃縮が可能であり、また任意選択で、当該技術分野で周知の技術によって乾燥および凍結乾燥させることが可能である。
【0081】
本明細書に記載の細菌組成物を含む飲食品は、当該技術分野で周知の製造技術によって製造できる。免疫抑制作用による免疫機能の改善に有効な1種類以上の成分(例えば、栄養素など)を該飲食品に添加してもよい。また、免疫機能の改善以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0082】
また、該細菌組成物は、通常のプロバイオテック株であれば破壊されるような加工工程を要する食品に組み込むことができる。具体的には、商業利用が可能なプロバイオテック株のほとんどは、例えば熱処理、長期保管、凍結、機械的ストレス、または高圧処理(例えば、押し出し成形及びロール成形)によって加工する必要のある食品に組み込むことができない。これに対して、本明細書に記載の細菌組成物は、芽胞を形成するという有利な特性を有するため、そのような加工食品に容易に組み込むことができる。例えば、芽胞形態の該細菌組成物は乾燥食品の中でも生存可能であり、摂取された後も生存し続けることが可能である。該細菌組成物は低温殺菌加工、典型的には約70℃以上〜約100℃以下の温度で実施される加工に耐えることができる。該細菌組成物は殺菌段階を必要とする乳製品に組み込むことができる。さらに、該細菌組成物は何年もの長期保存、焼くおよび煮るなどの高温加工、凍結および冷蔵などの低温加工、および押し出し成形およびロール成形などの高圧処理に耐えることができる。
【0083】
このような厳しい条件での加工を必要とする数多くの食品としては、食べるために電子レンジでの加工を要する食品(例えば、オートミール)、食べるために焼くことを要する食品(例えば、マフィン)、食べるために短時間殺菌・高温処理を要する食品(例えば、ミルク)、および飲むために加熱を要する食品(例えば、ホットティー)が挙げられる。
【0084】
投与するまたは摂取させる該細菌組成物の量は、その対象となる個人の年齢、体重、性別、症状、健康状態などの因子、および投与または摂取させる細菌組成物の種類(医薬品、飲食品)を考慮に入れて経験的に決定され得る。例えば、1回当たりの投与量または摂取量は一般に、0.01mg/kg体重〜100mg/kg体重であり、特定の実施形態では、1mg/kg体重〜10mg/kg体重である。本明細書にはこのほか、対象の免疫を抑制する(免疫応答を軽減する)方法が記載され、該方法は、クロストリジウム類に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質を上記のように対象に投与するか摂取させることを特徴とする。
【0085】
該細菌組成物は、個体に1回投与しても2回以上投与してもよい。該組成物を2回以上投与する場合、該組成物を定期的に(例えば、1日1回、2日に1回、週1回、2週間に1回、月1回、6か月に1回、または年1回)投与しても、必要に応じて投与しても、不定期に投与してもよい。しかるべき投与頻度は(様々な因子の中でも特に、対象の宿主遺伝学的因子、年齢、性別、および健康状態もしくは疾患の状態によって左右され得る)、経験的に決定され得る。例えば、患者に1回量の該組成物を投与し、様々な時間において(例えば、1日後、2日後、1週間後、2週間後、1か月後)、その患者から採取した糞便試料中の該組成物の各細菌株のレベルが測定され得る。細菌のレベルが、例えばその最大値の半分に低下したとき、2回目の投与を実施する、など。
【0086】
該細菌組成物を含む製品(医薬品、飲食品または試薬)またはその説明書は、その製品が免疫を抑制するために用いられる旨を説明する書類または記載(製品が免疫抑制作用を有する旨の記載および製品がエフェクターT細胞の増殖や機能を抑制する作用を有する旨の記載を含む)を付したものであり得る。ここで「製品またはその説明書に注意書きを付す」は、製品の本体、容器、包装などに書類または記載を付すこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物をはじめとする印刷物などに注意書きを付すことを意味する。
【0087】
<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する方法>
前述の通り、および実施例に示す通り、該細菌組成物を個体に投与することにより、該個体において制御性T細胞の増殖または集積を誘導することができる。これにより、個体において制御性T細胞の増殖または集積を誘導する方法が提供され、該方法は、以下のものからなる群より選択される少なくとも1種類の物質を該個体に投与することを含む:(a)クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATCC 29799、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613、cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163、ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5、オシロスピラ菌(Oscillospiraceae bacterium)NML061048、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、およびクロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA、ブラウティア・ココイデス(Blautia cocoides)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662;(b)本明細書に記載/列挙されている少なくとも1種類(1種類、1種類以上)の細菌の培養上清;(c)本明細書に記載/列挙されている(1種類以上の、少なくとも1種類の)細菌に由来する生理活性物質;または(a)、(b)および(c)のうちのいずれか2つもしくは3つの組合せ。該個体には制御性T細胞の増殖、集積または増殖と集積の両方を誘導する所望の効果を得るのに十分な量で該細菌組成物を投与(提供)する。該細菌組成物は、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患、および感染症から選択される少なくとも1つの疾患の治療、該疾患の重症度の軽減または該疾患の予防を必要とする個体に投与してよい。
【0088】
「個体」または「対象」は健常状態であっても罹患状態であってもよいことに留意されたい。該方法は、少なくとも1種類(1種類、1種類以上)の抗生物質を、該細菌組成物の前にまたはこれと組み合わせて投与する段階をさらに含み得る。投与する抗生物質は、例えば、グラム陰性菌を減少させる抗生物質のような、クロストリジウム類のグラム陽性菌による消化管への再定着を促進する抗生物質であり得る。このような抗生物質の例としては、アミノグリコシド系抗生物質(アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、トブラマイシンおよびパロモマイシン)、セファロスポリン系抗生物質(セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフォキソチン)、スルホンアミド、アンピシリン、およびストレプトマイシンが挙げられる。
【0089】
さらに、アーモンド皮、イヌリン、オリゴフルクトース、ラフィノース、ラクチュロース、ペクチン、へミセルロース(例えば、キシログルカン、αグルカン)、アミロペクチン、および難消化性デンプンなどの上部消化管では分解されず、腸管内で腸内細菌の生育を促すプレバイオティクス組成物、ならびにアセチル−CoA、ビオチン、ビート糖蜜、および酵母抽出物などの増殖因子は、クロストリジウム類に属する組成物中の細菌種の増殖に選択的に寄与する。個体において制御性T細胞の増殖および/または集積を誘導する方法は、上記物質から選択される少なくとも1種類の物質を該細菌組成物と組み合わせて該個体に投与することを含み得る。このほか、本明細書では、該細菌組成物とプレバイオティクス組成物とを含む組成物を考慮する。
【0090】
上記抗生物質、および上記プレバイオティクス組成物または増殖因子は組み合わせて用いてもよい。さらに、治療用組成物を、該細菌組成物、抗生物質、およびプレバイオティクス組成物または増殖因子からなる群より選択される少なくとも1種類の物質とともに個体に投与してもよい。
【0091】
治療用組成物としては、例えば、コルチコステロイド、メサラジン、メサラミン、スルファサラジン、スルファサラジン誘導体、免疫抑制剤、シクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリン、プレドニゾン、メトトレキサート、抗ヒスタミン、グルココルチコロイド、エピネフリン、テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム、抗ロイコトリエン、抗コリン鼻炎薬、抗コリン充血除去剤、肥満細胞安定化剤、モノクローナル抗IgE抗体、ワクチン(好ましくは、アレルゲンの量を徐々に増加させるワクチン接種に用いられるワクチン)、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴール、ゴリムマブ、またはエタネルセプトなどの抗TNF阻害剤、およびその組み合わせからなる群から選択される1つの治療用組成物が挙げられる。ここに挙げた治療用組成物は、該細菌組成物の前に、該細菌組成物と組み合わせて、または該細菌組成物の後に投与でき、さらに任意選択で、抗生物質、プレバイオティクス組成物、増殖因子または抗生物質、プレバイオティクス組成物および増殖因子の任意の組合せと組み合わせて投与できる。
【0092】
該細菌組成物、「抗生物質」、および「プレバイオティクス組成物または増殖因子」からなる群から選択される少なくとも1種類の物質と治療用組成物との併用については特に制限はない。例えば、「1種類の物質」と治療用組成物とを同時に、または適宜順次に/個々に個体へ経口投与または非経口投与する。
【0093】
該細菌組成物の投与が制御性T細胞の増殖および/または集積を誘導するかどうかは、制御性T細胞の数、大腸のT細胞群における制御性T細胞の割合、制御性T細胞の機能、または制御性T細胞のマーカーの発現のうち少なくとも1つが増加または増強していることを指標として判定できる。具体的な方法は、生検もしくは血液試料などの患者試料におけるFoxp3発現Tregの数もしくは割合、該細菌組成物を投与した個体のIL−10発現の促進(増強)、CTLA4発現の促進(増強)、IDO発現の促進(増強)、IL−4発現の抑制、または定着を制御性T細胞の増加もしくは集積の誘導の指標として測定することである。
【0094】
このような発現を検出する方法としては、転写レベルでの遺伝子発現の検出にはノーザンブロッティング法、RT−PCR法、およびドットブロット法;翻訳レベルでの遺伝子発現の検出にはELISA法、ラジオイムノアッセイ、イムノブロッティング法、免疫沈降法、およびフローサイトメトリーが挙げられる。
【0095】
このような指標を測定するのに用いられる試料としては、個体から採取した組織および体液、例えば生検で得られた血液、および糞便試料などが挙げられる。
【0096】
<組成物による治療に対する個体の応答をモニターすることにより個体の細菌組成物に対する応答を予測する方法>
このほか、患者試料(例えば、大腸生検または糞便試料)中のクロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATCC 29799、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613、cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163、ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5、オシロスピラ菌(Oscillospiraceae bacterium)NML061048、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、およびクロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA、ブラウティア・ココイデス(Blautia cocoides)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662からなる群より選択される少なくとも1種類の細菌種の量(例えば、計数)または割合を決定する方法を記載する。ある個体において、上記リストから選択される細菌の割合または計数が健常個体(例えば、自己免疫疾患、アレルギー病態、癌、臓器拒絶反応などの該細菌組成物で治療する可能性のある疾患または病態を有さない/有することが確認されていない個体)について同様の判定を実施して得られたベースライン値よりも低い場合、その個体は該細菌組成物に応答する可能性があると判定される。この判定を、例えば臨床医が用いて、個体または患者が該細菌組成物による治療から利益を得る可能性があるかどうかを判定したり、あるいは臨床試験に含める個体または患者を選択したりできる。次いで、臨床医は個体または患者が治療による利益を得る可能性があるという判定を踏まえて、その個体または患者に該細菌組成物を投与することができる。この判定はほかにも、記載の細菌組成物による治療に対する個体の応答をモニターする方法として用いることが可能であり、ここでは、該細菌組成物による治療後に測定値が(治療前の測定値と比べて)高くなっていれば、それはその個体が治療に良好に応答したことを示す(例えば、その個体における定着および免疫抑制増強に成功したことのプラスの指標となる)。任意選択で、ここに記載した予測およびモニタリングの方法は、個体試料中のクロストリジウムクラスターIVおよびXIVaに属し該細菌組成物中に存在しない他の共生種の割合または絶対数を測定する段階をさらに含んでよく、ここでは、治療前のベースライン値よりも低いことが治療に対する正の応答の可能性がより高いことを示し、また治療後の値の増加は、その個体が治療に良好に応答したことを示す。ここに記載した予測およびモニタリングの方法では、微生物叢の組成を決定するために様々な既知の方法を用いることができる。例えば、16S rRNA配列決定を用いることができる。
【0097】
<ワクチンアジュバント組成物およびワクチン組成物の使用により感染症または自己免疫疾患を治療または予防する方法>
前述の通り、また実施例に示すように、クロストリジウム類に属する細菌による大腸におけるTreg細胞の誘導は、局所および全身の免疫応答において重要な役割を果たしている。該細菌組成物は、アジュバントとして使用しワクチン製剤の効果を向上させることもできる。一実施形態では、該細菌組成物はワクチンのアジュバントとして(例えば、アレルゲンの量を徐々に増加させるワクチン接種プロトコルのアジュバントとして)自己免疫疾患またはアレルギー疾患の予防または治療に使用できる。
【0098】
自己免疫疾患およびアレルギー疾患の例としては、<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物>において「対象疾患の具体例」として記載したものが挙げられる。
【0099】
その他の実施形態
このほか、該細菌組成物は抗生物質治療も受けている個体にも投与することができる。本発明者らは、バンコマイシンまたはメトロニダゾールなどのGram+細菌に作用する抗生物質が、クロストリジウム類に属する細菌種を哺乳動物の消化管から効果的に排除するか大幅に減少させ、その結果、制御性T細胞のレベルを低下させることが可能であることを示した(実施例5、
図30)。理論に束縛されることを望むものではないが、クロストリジウム類に属する細菌の免疫寛容の維持における重要な役割は、それらの細菌の不在またはレベル低下が、免疫寛容の不全を特徴とする自己免疫疾患に重要な役割を果たし得ることを強く示すものである。したがって、Gram+細菌に対する抗生物質による治療を受けている個体(例えば、C.ディフィシル(C.difficile)およびジアルジア(Giardia)などの病原体による感染症の治療を受けている個体)では、クロストリジウム類に属する細菌が失われるリスクが高いため免疫寛容不全がみられるが、予防手段として該細菌組成物の使用により「再生息」させることが可能である。該細菌組成物は抗生物質治療前、抗生物質治療と同時、または抗生物質治療後のいずれにも用いることが可能であるが、抗生物質治療と同時または抗生物質治療後に用いるのが好ましい。該細菌組成物は、残留抗生物質に対するその耐性を向上させるため、芽胞型で投与するのが好ましい。グラム陽性菌に対する抗生物質としては、特に限定されないが、バンコマイシン、メトロニダゾール、リネゾリド、ラモプラニン、フィダキソマイシン、セファロスポリン系抗生物質(セファレキシン、セフロキシム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファクロル、セファマンドール、セフォキソチン、セフプロジル、セフトビプロール);フルオロキノロン系抗生物質(シプロ、レバキン、フロキシン、テクイン、アベロックス、ノルフロックス);テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン);ペニシリン系抗生物質(アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンV、ジクロキサシリン、カルベニシリン、バンコマイシン、メチシリン);およびカルバペネム系抗生物質(エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム)が挙げられる。
【0100】
<Treg誘導生物を選択する方法>
ほかにも、Tregを誘導することができる細菌を得る方法を記載し、この方法は、(1)哺乳動物、好ましくはヒトから得られた糞便または生検試料から細菌の芽胞形成画分を分離すること(例えば、クロロホルム処理または熱処理によって);(2)任意選択で、非ヒト哺乳動物、好ましくは無菌非ヒト哺乳動物に芽胞形成画分を経口投与すること;(3)任意選択で、この非ヒト哺乳動物から糞便試料を採取し、この糞便試料の希釈(例えば、体積で10倍、100倍、1,000倍または10,000倍に希釈する)によって希釈糞便試料を作製し、この希釈試料を第二の無菌非ヒト哺乳動物に経口投与することであり、この任意選択の段階(3)は2回以上繰り返されてもよい、(4)(1)で得られた芽胞形成画分または(3)の非ヒト哺乳動物の腸内容物試料の段階希釈物を、好気条件または偏性嫌気条件下でプレートに播くこと、および(5)この培養プレートから単一のコロニーを選択することを含む。このコロニーを、実施例に記載する方法などの既知の方法を用いて、細菌が制御性T細胞の増殖および/または制御性T細胞の集積を誘導する能力についてさらに評価してもよい。
【0101】
以下に記載するのは、特定の態様を説明するための例である。これらは決して限定することを意図したものではない。
【0102】
なお、実施例で用いたマウスは下記の通りに準備または作製した。以下の説明では、マウスを「SPF」または「GF」と称することがある。この「SPF」および「GF」は、特定の病原菌の非存在下(SPF)、および無菌下(GF)でそれぞれ維持されたマウスであることを示す。
【0103】
<マウス>
SPFまたはGF条件下で維持されたC57BL/6、Balb/cおよびIQIマウスを三協ラボサービス(日本)、SLC(日本)、クレア(日本)、またはジャクソン研究所(USA)から購入した。GFマウスおよびノトバイオートマウスを東京大学、ヤクルト中央研究所、または三協ラボサービスのノトバイオート施設内で繁殖させ維持した。
Myd88−/−、
Rip2−/−および
Card9−/−マウスをNPL1〜3に記載されている通りに作製し、遺伝的背景がC57BL/6になるよう戻し交配を8代以上行った。Foxp3
eGFPマウスをジャクソン研究所から購入した。
【0104】
<
Il10venusマウス>
Il10プロモーターの制御下にIl10およびVenusがコードされるバイシストロニックな領域を作製するために、最初にターゲティングコンストラクトを作製した。具体的には、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)に続いて、配列内部リボソーム侵入部位(IRES)、黄色蛍光蛋白質(Venus)、およびSV40ポリAシグナル(SV40ポリA)からなるカセット(IRES−Venus−SV40ポリAシグナルカセット、非特許文献4参照)をIl10遺伝子の終止コドンとポリAシグナル(エクソン5)との間に挿入した。次いで、得られたターゲティングコンストラクトを用いて、マウスゲノム内のIl10遺伝子領域との相同組み換えを生じさせた。このようにして、
Il10venusアレルを有する
Il10venusマウスを作製した(
図1参照)。なお、
図1中、「tk」はチミジンキナーゼをコードする遺伝子を表し、「neo」はネオマイシン耐性遺伝子を表し、「BamH1」は制限酵素BamH1による切断部位を表す。
【0105】
Il10venusマウスからゲノムDNAを抽出し、BamH1で処理し、
図1に示すプローブを用いてサザンブロッティングを行った。得られた結果は
図2に示す。野生型および
Il10venusのアレルがそれぞれ19kbおよび5.5kbの大きさのバンドとして検出された。したがって、得られた結果から明らかなように、
Il10venusマウスのゲノムに相同組み換えが生じた。
【0106】
さらに、FACSAriaを用いて、
Il10venusマウスの大腸粘膜固有層のCD4
+Venus
−細胞またはCD4
+Venus
+細胞をソーティングした。次いで、後述の方法にてABI7300システムによるリアルタイムRT−PCRを実施し、IL−10mRNAの発現量を調べた。CD4
+Venus
+細胞でのみIL−10mRNAの発現が検出されたことから、
Il10venusマウスでのIL−10mRNAの発現がVenusの発現として正確に反映されていることが明らかになった。なお、上述
Il10venusマウスの無菌状態は、実験動物中央研究所(川崎、日本)で確立された。この無菌状態の
Il10venusマウスを三協ラボサービス(東京、日本)のビニルアイソレーター内で維持し、のちの実施例で用いた。
【0107】
実施例の実験および解析を以下の通りに実施した。
【0108】
<マウス細菌のマウスへの定着およびその解析の方法>
NPL5、6の記載に従って、SFBまたはクロストリジウムを定着させたマウスを作製した。得られたノトバイオートマウスの盲腸内容物または糞便を滅菌水または嫌気性希釈液に溶かした。溶かした盲腸内容物または糞便をそのままあるいはクロロホルム処理後にGFマウスに経口投与した。乳酸桿菌属細菌3株およびバクテロイデス属細菌16株をBLおよびEG寒天培地で嫌気的に別々に培養した。培養した細菌を回収して嫌気性TS培地に懸濁し、GFマウスに強制経口投与した。マウスにおける細菌定着の状態を、糞便塊の塗沫標本を顕微鏡で観察することにより評価した。
【0109】
<腸固有層リンパ球の単離およびフローサイトメトリー>
小腸および大腸を採取し縦方向に切開した。盲腸も分離し、盲腸内容物をそのまま−80℃で凍結するか、2mlのPBSに懸濁した後40%グリセロールを加え(最終濃度20%)、液体窒素で急速凍結し使用するまで−80℃で保管した。大腸および小腸をPBSで洗浄して管腔内容物をすべて除去し、5mM EDTAを含有するHanks平衡塩溶液(HBSS)中、37℃で20分間振盪した。ピンセットを用いて上皮細胞、筋肉層および脂肪組織を除去した後、固有層を小片に細切し、振盪している水浴中、4%ウシ胎仔血清、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼおよび40μg/ml DNaseI(すべてRoche Diagnostics社製)を含有するRPMI1640とともに37℃で1時間インキュベートした。消化した組織を5mM EDTAを含有するHBSSで洗浄し、40%パーコール(GE Healthcare)5mlに再懸濁し、15mlのFalconチューブに入れた80%パーコール2.5mlに重層した。25℃、800gで20分間の遠心分離によりパーコール勾配分離を実施した。固有層リンパ球をパーコール勾配の境界面から回収し、氷冷PBSに懸濁した。制御性T細胞の解析のため、単離リンパ球をLIVE/DEAD fixable violet死細胞染色キット(Invitrogen)で標識して解析での死細胞を除去した。細胞をPBS、2%FBS、2mM EDTAおよび0.09%NaN3を含有する染色緩衝液で洗浄し、PECy7標識抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences)で表面CD4を染色した。Foxp3およびHeliosの細胞内染色は、Alexa700標識抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience)、Alexa647標識抗Helios(22F6、eBioscience)およびFoxp3 Staining Buffer Set(eBioscience)を用いて実施した。Th1およびTh17細胞の解析のため、単離リンパ球を、50ng/mlホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA、Sigma)および1μg/mlイオノマイシン(Sigma)でGolgiStop(BD Biosciences)存在下にて4時間刺激した。4時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、LIVE/DEAD fixable violet死細胞染色キットで標識し、PECy7標識抗CD4抗体で表面CD4を染色した。細胞を洗浄し、Cytofix/Cytopermで固定し、Perm/Wash緩衝液(BD Biosciences)で透過処理し、APC標識抗IL−17抗体(eBio17B7、eBioscience)およびFITC標識抗IFN−γ抗体(XMG1.2、BD Biosciences)で染色した。抗体で染色された細胞をLSR Fortessa(BD Biosciences)で解析し、Flow Joソフトウェア(Treestar)を用いてデータを解析した。
【0110】
<リアルタイムRT−PCR>
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて調製したRNAから、MMV逆転写酵素(Promega)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)およびABI 7300 real time PCR system(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCR、またはSYBR Premix Ex Taq(TAKARA)およびLightCycler 480を用いたリアルタイムRT−PCRで解析した。各サンプルについて、得られた値をGAPDH量で正規化した。プライマーセットをPrimer Express Version 3.0(Applied Biosystems)を用いて設計し、初期評価で90%以上の配列一致性を示したものを選択した。用いたプライマーセットは以下の通りである:
Foxp3
5’−GGCAATAGTTCCTTCCCAGAGTT−3’(配列番号1)
5’−GGGTCGCATATTGTGGTACTTG−3’(配列番号2)
CTLA4
5’−CCTTTTGTAGCCCTGCTCACTCT−3’(配列番号3)
5’−GGGTCACCTGTATGGCTTCAG−3’(配列番号4)
GITR
5’−TCAGTGCAAGATCTGCAAGCA−3’(配列番号5)
5’−ACACCGGAAGCCAAACACA−3’(配列番号6)
IL−10
5’−GATTTTAATAAGCTCCAAGACCAAGGT−3’(配列番号7)
5’−CTTCTATGCAGTTGATGAAGATGTCAA−3’(配列番号8)
GAPDH
5’−CCTCGTCCCGTAGACAAAATG−3’(配列番号9)
5’−TCTCCACTTTGCCACTGCAA−3’(配列番号10)
Mmp2
5’−GGACATTGTCTTTGATGGCA−3’(配列番号11)
5’−CTTGTCACGTGGTGTCACTG−3’(配列番号12)
Mmp9
5’−TCTCTGGACGTCAAATGTGG−3’(配列番号13)
5’−GCTGAACAGCAGAGCCTTC−3’(配列番号14)
Mmp13
5’−AGGTCTGGATCACTCCAAGG−3’(配列番号15)
5’−TCGCCTGGACCATAAAGAA−3’(配列番号16)
Ido1
5’−AGAGGATGCGTGACTTTGTG−3’(配列番号17)
5’−ATACAGCAGACCTTCTGGCA−3’(配列番号18)。
【0111】
<大腸腸上皮細胞(IEC)の調製および培養>
最初に大腸を採取し、縦方向に切開し、PBSですすいだ。次いで、大腸を振盪器上、37℃で30分間、1mMジチオスレイトール(DTT)で処理した後、1分間ボルテックスすることにより、上皮の統合性を崩壊させた。解離した腸上皮細胞(IEC)を回収し、20%パーコール5mlに懸濁し、15mlのFalconチューブに入れた80%パーコール2.5mlに重層した。次いで、チューブを25℃、780gで20分間遠心し、パーコール密度勾配遠心分離による細胞分離を行った。境界面の細胞を回収し、大腸IEC(純度90%以上、生存率95%)として使用した。回収して得られたIECを10%FBS含有RPMIに懸濁し、1×10
5個のIECを24ウェルプレートで24時間培養した。その後、培養上清を回収し、活性型TGF−β1のレベルをELISA(Promega)によって測定した。
【0112】
またインビトロT細胞培養のため、MACS精製脾臓CD4
+T細胞を96ウェル丸底プレートで各ウェル1.5×10
5個ずつ、GFマウスまたはクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地、および25ng/ml hIL−2(Peprotech)とともに、25μg/ml 抗TGF−β抗体(R&D)存在下または非存在下で培養した。丸底プレートには、抗CD3抗体および抗CD28抗体(BD Bioscience)10μg/mlを結合させた。5日間の培養後、CD4
+T細胞を回収し、リアルタイムPCRに供した。
【0113】
<大腸炎実験モデル>
C57BL/6マウス(2週齢)にクロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を経口投与し、通常の環境で6週間飼育した。
【0114】
DSS誘導大腸炎モデル作製のため、マウスに6日間、2%(wt/vol)DSS(試薬等級、DSS塩、分子量=36〜50kD、MP Biomedicals社製)を飲料水とともに与えた。
【0115】
またオキサゾロン誘導大腸炎モデル作製のため、マウスを、3%オキサゾロン(4−エトキシメチレン−2−フェニル−2−オキサゾリン−5−オン、Sigma−Aldrich)/100%エタノール溶液150μlの経皮塗布により前感作した。その5日後、1%オキサゾロン/50%エタノール溶液150μlを前感作マウスの直腸内に浅麻酔下で再投与した。なお、直腸内投与は3.5Fカテーテルを用いて行った。
【0116】
各マウスの体重、潜血、肉眼で確認できる出血、および便の硬さを毎日分析した。さらに、"S.Wirtz, C.Neufert, B.Weigmann, M.F.Neurath, Nat Protoc 2,541(2007)"の記載に従って、体重減少率、腸内出血(出血なし、潜血(hemoccult+)、または肉眼で確認できる出血)、および便の硬さ(正常便、軟便、または下痢)を数値で評価し、疾患活動性指数(DAI)を算出した。
【0117】
<OVA特異的IgE反応>
クロストリジウム定着マウス(2週齢)の糞便懸濁液をBALB/c SPFマウスに接種し、コンベンショナルな環境で飼育した。次いで、OVA(グレードV、Sigma)1μgおよびミョウバン(Thermo Scientific)2mgを全量0.2mlでマウス(4週齢および6週齢時)の腹腔内に注射した。このマウスの尾の付け根から血清を毎週回収し、OVA特異的IgEをELISA(Chondrex)によって測定した。次いで、8週齢時に脾細胞を回収し、96ウェルプレートに各ウェル1×10
6個ずつ播き、OVA(100μg/ml)で3日間刺激した。その後、培養上清を回収し、IL−4およびIL−10レベルをELISA(R&D)によって測定した。
【0118】
<統計解析>
対照群と実験群との間の差をスチューデントt検定によって評価した。
【0119】
<クロロホルム処理およびGFマウスへの糞便試料の経口接種>
健常被験者(日本人、男性、29歳)のヒト糞便(2g)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)20mlで懸濁し、70μmの細胞ストレーナーに通し、凝集物および残滓を除去した。次いで、クロロホルムを加えて、または加えずに糞便懸濁物を混合し(最終濃度3%)、振盪している水浴で60分間インキュベートした。クロロホルム処理を行っていない糞便懸濁物を無菌(GF)マウスに経口接種した(250μl/マウス)。N2ガスを30分間通気することによってクロロホルムを蒸発させた後、ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性(芽胞形成)画分を含有するアリコートをIQI GFマウスに接種した。各ex−GFマウス群をビニルアイソレーター内で3週間または4週間別々に飼育した。
【0120】
<同居実験>
Treg誘導ヒト細菌が水平に伝達し得るかどうかを評価するため、IQI GFマウスをクロロホルム処理したヒト糞便で定着させたex−GFマウス(実施例21のマウス)と4週間、ビニルアイソレーターで同居させた(マウス#D1〜#D6と命名した6個体)。
【0121】
<GFマウスへの希釈盲腸内容物の接種>
クロロホルム処理したヒト糞便を接種したex−GFマウス(#C4)の凍結盲腸内容物を10倍体積(w/v)のPBSに懸濁し、70μmの細胞ストレーナーに通し、3%クロロホルムで処理した。次いで、懸濁物をPBSで2000倍(マウス#E1〜#E4と命名した4個体)または20000倍(マウス#F1〜#F8と命名した8個体)に希釈し、GF IQIマウスに経口接種した(細胞2.5×10
5個または2.5×10
4個/250μl/マウス)。4週間後、大腸および小腸からリンパ球を回収し、Foxp3
+Treg細胞の割合およびそのHelios発現を解析した。盲腸内容物を凍結し、使用まで−80℃で保管した。
【0122】
<再定着実験>
20000倍希釈物を接種したex−GFマウス(#F3、7および8)の凍結盲腸内容物を10倍体積(w/v)のPBSに懸濁し、70μm細胞ストレーナーに通し、3%クロロホルムで処理した。懸濁物をGF IQIマウス(マウス#G1〜#G5、#H1〜#H4または#I1〜#I4と命名したそれぞれ5個体、4個体または4個体のマウス)に経口接種した。4週間後、大腸および小腸を回収し、Foxp3
+Treg細胞の割合およびそのHelios発現を解析した。盲腸内容物を20%グリセロール溶液に懸濁し、液体窒素で急速凍結し、−80℃で保管した。
【0123】
<培養細菌の定着実験>
#G2マウスの盲腸内容物のグリセロールストックをPBSで希釈し、BL寒天プレートに播いた。48時間後、プレートスクレーパーでプレートをかき取って全細菌コロニーを回収し、GF IQIマウス(マウス#K1〜#K4と命名した4個体)に接種した。BL寒天プレートを用いて、#F8マウスの盲腸内容物の凍結ストックから6菌株が単離された。これらの単離された菌株をGF IQIマウス(マウス#J1〜#J4と命名した4個体)に接種した。(培養方法の詳細については後述する)。
【0124】
<16S rRNA遺伝子の定量PCR解析>
QIAamp DNA Stool mini kit(QIAGEN)を用いて、上記健常被験者のヒト糞便(ヒト糞便)、クロロホルム処理したヒト糞便を強制経口投与したGFマウスの盲腸内容物(B−4マウスの盲腸内容物)またはSPF ICRマウスの糞便(SPFマウスの糞便)から細菌ゲノムDNAを単離した。単離したDNAを定量PCRの鋳型として使用した。増幅プログラムは、95℃で1分間を1サイクル、次いで95℃で10秒間および60℃で30秒間を50サイクルで構成された。LightCycler480(Roche)を用いて定量PCR解析を実施した。ΔCt法により相対量を算出し、総細菌量に対し正規化した。以下のプライマーセットを用いた:総細菌、5’−GGTGAATACGTTCCCGG−3’(配列番号45)および5’−TACGGCTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号46);クロストリジウムクラスターXIVa(クロストリジウム・ココイデス(Clostridium coccoides)亜群)、5’−AAATGACGGTACCTGACTAA−3’(配列番号47)および5’−CTTTGAGTTTCATTCTTGCGAA−3’(配列番号48);クロストリジウムクラスターIV(クロストリジウム・レプタム(Clostridium leptum))、5’−CCTTCCGTGCCGSAGTTA−3’(配列番号49)および5’−GAATTAAACCACATACTCCACTGCTT−3’(配列番号50);バクテロイデス属、5’−GAGAGGAAGGTCCCCCAC−3’(配列番号51)および5’−CGCTACTTGGCTGGTTCAG−3’(配列番号52);ビフィドバクテリウム属、5’−CGGGTGAGTAATGCGTGACC−3’(配列番号53)および5’−TGATAGGACGCGACCCCA−3’(配列番号54)。クロロホルム処理したヒト糞便を強制経口投与したマウスでは、クロロホルム処理前のヒト糞便と比較して、クロストリジウムクラスターXIVaおよびIVなどの芽胞形成細菌のレベルが高く、バクテロイデス属およびビフィドバクテリウム属などの非芽胞形成細菌が大幅に減少していたことに留意されたい。
【0125】
<16S rRNA遺伝子メタ配列解析のための盲腸内容物からのDNAの単離>
A1−1、A2−4、B−4、E−3、E−7、E−8、F−2、G−3、H−3、I−3およびJ−3の盲腸内容物を、4℃、5000×gで10分間の遠心分離により収集し、10mMトリス−HClと1mM EDTA(pH8)とを含有するトリス−EDTA 10mlに懸濁した後、DNA単離に使用した。細胞懸濁物にリゾチーム(SIGMA、15mg/ml)を加えた。穏やかにかき混ぜながら37℃で1時間インキュベートした後、精製アクロモペプチダーゼ(Wako)を加え(最終的に2000単位/ml)、37℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞懸濁物にドデシル硫酸ナトリウム(最終的に1%)を加え、よくかき混ぜた。次いで、懸濁物にプロテイナーゼK(Merck)を加え(最終的に1mg/ml)、混合物を55℃で1時間インキュベートした。高分子量DNAを、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール、および最後にポリエチレングリコール沈殿によって単離し精製した。
【0126】
<16S rRNA遺伝子のメタ配列>
このDNAのアリコートを細菌16S rRNA遺伝子のPCR増幅および配列決定に用いた。(i)454アダプター配列(下線部)と試料に特異的なエラー修正バーコード(10塩基、太字)とユニバーサル細菌プライマー8Fとからなる修飾プライマー8F(5’−CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG+バーコード+agrgtttgatymtggctcag−3’(配列番号55))ならびに
(ii)454アダプター配列(下線部)と細菌プライマー338Rとを含む修飾プライマー338R(5’−CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCTCAG+tgctgcctcccgtaggagt−3’(配列番号56))を用いて、遺伝子の可変領域1〜2(V1〜2)にわたる約330bpのアンプリコンを作製した。各糞便DNA試料についてポリメラーゼ連鎖反応を実施した。各反応物50μLは、DNA 40ng、10×Ex Taq緩衝液(TAKARA)5μl、2.5mM dNTP混合物5μl、Ex Taq 0.2μlおよび各プライマー0.2μMを含んだ。PCR条件は、96℃で2分間実施する初期変性段階、次いで20サイクルの変性(96℃、30秒)、アニーリング(55℃、45秒)および増幅(72℃、1分)、最後に72℃で10分間実施する増幅段階で構成された。次いで、各試料から作製したアンプリコンをAMPur XP(Beckman Coulter)を用いて精製した。DNA量をQuant-iT Picogreen dsDNA Assay Kit(Invitrogen)およびTBS-380mini蛍光光度計(Turner Biosystems)を用いて定量した。増幅されたDNAを454GS Junior(Roche)パイロシーケンシングの鋳型として用いた。配列決定は、GS Junior Titanium emPCR Kit-Lib-L、GS Junior Titanium Sequencing KitおよびGS Junior Titanium PicoTiterPlate Kit(すべてRoche社製)を製造業者の説明書(GS Junior Titanium Series、emPCR Amplification Method Manual-Lib-LおよびSequencing Method Manual)に従って用いて実施した。得られた配列(各試料について3400のリードが得られた)を配列類似性(97%超の同一性)に基づいてOTUに分類した。各OTUの代表的な配列を、核酸データベース(Ribosomal Database Project)の配列とBLASTを用いて比較し、最近縁種を決定した。次いで、最近縁種に基づいてOTUを種に分類した。近縁種の全データおよびリード数を表1に示す。
【0127】
<細菌株の単離>
#F8、#G2、#I1および#K3の盲腸内容物からの細菌株の単離を、好気性条件または偏性嫌気性条件(80%N2、10%H2、10%CO2)下でBL寒天プレート(Eiken Chemical)またはEG寒天プレート上に盲腸試料の段階希釈物を播くことにより実施した。EG寒天プレートは以下の成分(1リットル当たりの量で表す):肉エキス500ml;プロテオースペプトンNo.3(10.0g、Difco);酵母抽出物(5.0g、Difco);Na2HPO4(4.0g);D(+)−グルコース(1.5g);可溶性デンプン(0.5g);L−シスチン(0.2g)、L−システイン−HCl−H2O(0.5g);Tween80(0.5g);Bacto Agar(16.0g、Difco);ウマ脱線維素血液(50ml)を含む培地を含有した。37℃で2日または4日間培養した後、それぞれ単一のコロニーを取り出し、ABCMブロスまたはEG寒天プレートにより37℃でさらに2日または4日間培養した。単離した菌株をEGストック培地(10%DMSO)に回収し、−80℃で保管した。単離した菌株の懸濁物をマウスに再接種するため、TS培地(トリプチカーゼダイズブロスw/oデキストロース27.5g、Na2CO3 0.84g、L−システイン−HCl−H2O 0.5g、蒸留水1000ml、NaOHでpHを7.2±0.2に調整、次いで、115℃で15分間高圧滅菌した)。単離した菌株を同定するため、16SrRNAをコードする遺伝子の配列決定を実施した。16S rRNA遺伝子を、KOD FX(TOYOBO)を用いたコロニーPCRによって増幅した。使用した16S rRNA遺伝子特異的プライマーペアは:8F(5’−AGAGTTTGATCMTGGCTCAG−3’(配列番号57))およびC.インドリス(C.indolis)、C.ボルテアエ(C.bolteae)、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、L.菌DJF_VP30、A.コリホミニス(A.colihominis)、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、C.ラバレンス(C.lavalense)、C.シンビオサム(C.symbiosum)およびE.コントルタム(E.contortum)に対して519R(5’−ATTACCGCGGCKGCTG−3’(配列番号58))またはC.サッカログミア(C.saccharogumia)、C.ラモーサム(C.ramosum)、F.プラウティ(F.plautii)、C.ハセワイ(C.hathewayi)、C.シンデンス(C.scindens)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)2335、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616およびcf クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)MLG055に対して1513R(5’−ACGGCTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号59))であり、GeneAmp PCR System9700(Applied Biosystems)を用いて増幅した。増幅プログラムは、98℃で2分間を1サイクル、次いで98℃で10秒、57℃で30秒および68℃で40秒を40サイクルで構成された。Illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GE Healthcare)を用いて、反応混合物から各増幅DNAを精製した。配列解析は、BigDye Terminator V3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)およびApplied Biosystems 3730xl DNA解析器(Applied Biosystems)を用いて実施した。得られた配列をBLASTを用いて核酸データベースの配列と比較し、最近縁種を決定した。全単離株の最近縁種および%同一性、最近縁種の属−種に関する情報、クロストリジウムクラスター、由来するマウスのID、類似性の最大値および単離株の培地を表2にまとめた。
【0128】
実施例1
まず、大腸粘膜固有層における制御性T細胞(Treg細胞)の集積が共生細菌に依存するものであるかどうかを検討した。具体的には、特定の病原菌の非存在下(SPF)で飼育されたBalb/cマウスの末梢リンパ節(pLN)または該マウスの大腸もしくは小腸(SI)の粘膜固有層からリンパ球を単離した。CD4およびFoxp3を抗体で染色した。次いで、CD4
+リンパ球におけるFoxp3
+細胞の比率をフローサイトメトリーを用いて解析した。結果から、特定の病原性微生物の非存在(SPF)環境下で維持したマウスの消化管の粘膜固有層、特に大腸の粘膜固有層に、Foxp3
+Treg細胞が高頻度に存在することが明らかになった。さらに、大腸の粘膜固有層のFoxp3
+Treg細胞の数は生後3か月まで徐々に増加していくが、末梢リンパ節のFoxp3
+Treg細胞の数は生後2週から基本的に一定であることがわかった。
【0129】
実施例2
次に、実施例1で明らかになった大腸における経時的なTreg細胞の集積が腸内共生細菌の定着と関係するかどうかを検討した。具体的には、無菌(GF)またはSPF環境下で飼育したマウス(8週齢:Balb/cマウス、IQIマウスおよびC57BL/6マウス)の小腸、大腸および末梢リンパ節から単離したリンパ球のCD4およびFoxp3の発現を解析した。3回以上の独立した実験でほぼ同じ結果が得られた。
【0130】
また、SPFマウスおよびGFマウス(Balb/CマウスまたはC57BL/6マウス)から粘膜固有層リンパ球を回収した。CD4およびFoxp3を抗体で染色した。次いで、粘膜固有層リンパ球をFACSにより解析した。
【0131】
さらに、抗生物質を水とともに8週間経口投与したマウス(SPF C57BL/6マウス)の大腸の粘膜固有層、小腸(SI)の粘膜固有層、パイエル板(PP)、および腸間膜リンパ節(MLN)からリンパ球を単離した。CD4およびFoxp3を抗体で染色した。次いで、リンパ球をFACSにより解析した。2回以上の独立した実験でほぼ同じ結果(個々のマウスのCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合)が得られた。なお、下記文献の記載に従って、以下の抗生物質を組み合わせて使用した:
アンピシリン(A;500mg/L、Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L、NACALAI TESQUE,INC)
メトロニダゾール(M;1g/L、NACALAI TESQUE,INC)
ネオマイシン(N;1g/L、NACALAI TESQUE,INC)
Rakoff-Nahoum, J.Paglino, F.Eslami-Varzaneh, S.Edberg, R.Medzhitov, Cell 118,229(Jul 23, 2004)
Fagarasanら, Science 298, 1424(Nov 15, 2002)。
【0132】
結果から明らかなように、GFマウスの小腸または末梢リンパ節におけるFoxp3
+CD4
+細胞の頻度および絶対数は、SPFマウスと同等かそれ以上であった。また、抗生物質を8週間経口投与したSPFマウスの小腸粘膜固有層、パイエル板、および腸間膜リンパ節のTreg細胞数は、抗体を投与しなかったSPFマウスと同等かそれ以上であった。一方、GFマウスの大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+CD4
+細胞数は、SPFマウスよりも有意に減少していた。この減少は、異なる遺伝的背景のマウス(Balb/c、IQI、C57BL/6)でも、異なる動物施設で飼育したマウスでも共通して観察された。また、抗生物質を投与したSPF C57BL/6マウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数が有意に減少することも明らかになった。
【0133】
実施例3
次に、実施例2で示されたGFマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少が、微生物叢が存在しないことに起因するかどうかを直接確認した。具体的には、ジャクソン研究所から購入したB6 SPFマウスの糞便懸濁物をGF−IQIマウスに経口投与した(コンベンショナル化)。投与の3週間後、大腸粘膜固有層からリンパ球を単離し、CD4
+リンパ球におけるFoxp3の発現を解析した。結果は、小腸粘膜固有層のTreg細胞数が変化しないことを示した。しかし、大腸粘膜固有層のTreg細胞数は有意に増加した。したがって、大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+Treg細胞の集積には宿主と微生物との相互作用が重要な役割を果たしているのに対して、小腸粘膜固有層におけるTreg細胞の集積には異なる機序があることが明らかになった。
【0134】
実施例4
次に、M.N.Kweonら, J Immunol 174, 4365(Apr 1, 2005)に記載されている方法に従って、マウス消化管関連リンパ組織と、大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+細胞数との間の関係を検討した。具体的には、妊娠第14日のC57BL/6マウスに、細胞外ドメイン組換えタンパク質(リンホトキシンβ受容体(LTβR)とヒトIgG1のFc部位との融合タンパク質(LTβR−Ig)、Hondaら, J Exp Med 193, 621(Mar 5, 2001)参照)100μgを腹腔内注射した。このマウスから得られた胎児にも同じくLTβR−Igを腹腔内注射し、孤立リンパ小節(ILF)、パイエル板(PP)、および大腸板(colonic-patch)(CP)が完全に除去されたマウスを作製した。次いで、LTβR−Igで処置したマウス、およびラットIgGで処置したマウス(対照)の大腸粘膜固有層のCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合をFACSにより分析した。結果は、孤立リンパ小節、パイエル板、および大腸板(colonic-patch)が欠損したマウス(LTβR−Igで処置したマウス)の大腸粘膜固有層ではFoxp3
+細胞の割合がむしろ増加していることを示す。したがって、GFマウスおよび抗生物質で処置したマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少は、単に消化管関連リンパ組織の形成不全の二次的影響によるというより、大腸粘膜固有層におけるTreg細胞集積を促進し腸内細菌によって引き起こされる特定のシグナルの伝達が生じなかったためであることが示唆された。
【0135】
実施例5
特定の腸内細菌叢が大腸Treg細胞の集積を誘導するのかどうかを検討するため、SPFマウス(4週齢〜)にグラム陽性菌に対する抗生物質としてバンコマイシン、またはグラム陰性菌に対する抗生物質としてポリミキシンBを4週間投与し、CD4
+細胞群におけるFoxp3
+細胞の割合(CD4における[%]Foxp3
+)を分析した。結果は、バンコマイシンを投与したマウスの大腸のTreg細胞数が対照よりも著明に減少していることを示す。これに対して、ポリミキシンBを投与したマウスのTreg細胞数には何ら影響はみられなかった。以上の事実は、Treg細胞の集積にグラム陽性の共生細菌が主要な役割を果たしていることを示唆した。
【0136】
実施例6
最近の報告から、腸のT細胞応答に芽胞形成性細菌が重要な役割を果たしていることが示唆されている(V. Gaboriau-Routhiauら,Immunity 31, 677(Oct 16, 2009)参照)。そこで、3%クロロホルムに耐性を示す糞便微生物(芽胞形成細菌画分)をGFマウスに経口投与し、次いで、CD4
+細胞群におけるFoxp3
+細胞の割合(CD4における[%]Foxp3
+)について分析した。
【0137】
クロロホルム処理した糞便投与の3週間後、投与したマウスのTreg細胞の数はSPFマウスおよび無処理の糞便を強制投与したGFマウスと同レベルまで著明に増加していた。
【0138】
したがって、実施例5に示した結果と考え合わせると、常在微生物叢の特定の構成細菌がグラム陽性群に属している可能性が高く、芽胞形成画分がTreg細胞の誘導に重要な役割を果たしていること明らかになった。
【0139】
実施例7
次に、実施例4〜6で示唆された大腸Treg細胞の集積を誘導する腸内細菌の種を同定した。具体的には、GF−Balb/cマウスまたはGF−IQIマウスに、分節した糸状菌(SFB)、バクテロイデス属細菌16株(Bactero.(B.ブルガタス(B. vulgatus)6株、B.アシディファシエンス(B. acidifaciens)群1 7株、およびB.アシディファシエンス(B. acidifaciens)群2 3株))、乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.(L.アシドフィルス(L. acidophilus)、L.ファーメンタム(L. fermentum)、およびL.マリナム(L. murinum))、およびクロストリジウム属細菌46株(Clost."Itoh, K.およびMitsuoka,T. Characterization of clostridia isolated from faeces of limited flora mice and their effect on caecal size when associated with germ-free mice.Lab.Animals 19:111-118 (1985))"参照)、またはコンベンショナルな環境で飼育したマウス(SPF)から採取した微生物叢を経口投与した。マウスをビニルアイソレーター内で3週間維持した。次いで、このマウスから大腸および小腸のCD4細胞を単離した。大腸および小腸のTreg細胞数をフローサイトメトリーにより分析した。
【0140】
クロストリジウム属に属する細菌を、以下に示す通り、16SrRNAの配列を決定することにより分類した。具体的には、細菌の16SrRNA遺伝子を、16SrRNA遺伝子特異的プライマーペア:
5’AGAGTTTGATCMTGGCTCAG−3’(配列番号:60)および5’ATTACCGCGGCKGCTG−3’(配列番号:61)(T.Aebischerら, Vaccination prevents Helicobacter pylori-induced alterations of the gastric flora in mice. FEMS Immunol. Med. Microbiol. 46, 221-229 (2006)参照)を用いたPCRにより増幅した。次いで、1.5kbのPCR産物をpCR−Bluntベクターに挿入した。ClustalWソフトウェアプログラムを用いて、挿入物の配列を決定し配列比較した。これにより得られた、クロストリジウム属細菌46株のうちの菌株1〜41に由来する16SrRNA遺伝子の配列を配列番号21〜61に示す。クロストリジウム41株の配列とGenbankデータベースから得られた既知の細菌の配列をもとにMegaソフトウェアを用いた近隣結合法により系統樹を構築した。
【0141】
結果は、分節した糸状菌(SFB)を定着させたGFマウスでは大腸のTreg細胞数に何ら影響が認められないことを示した。また、乳酸桿菌属細菌3株のカクテルを定着させたマウスでもほぼ同じ結果が得られた。一方、クロストリジウム属細菌46株を定着させたマウスでは、大腸粘膜固有層のFoxp3
+細胞の集積が強力に誘導されたことが明らかになった。重要なことに、このような集積はマウスの遺伝的背景とは関係なく促進され、ただ一つの細菌属の腸内細菌の定着にも関わらず、SPFマウスとほぼ同数まで増加された。また、クロストリジウムの定着は小腸粘膜固有層のTreg細胞数を変化させないことも明らかになった。バクテロイデス属細菌16株を定着させた場合にも大腸のTreg細胞数が有意に増加したことに注目されたい。しかし、その増加の程度は定着させたマウスの遺伝的背景によって異なっていた。
【0142】
実施例8
次に、SPFマウス、GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、およびクロストリジウム定着マウスの胸腺および大腸のLPリンパ球におけるCD4、Foxp3、およびHeliosの発現をフローサイトメトリーにより解析した。結果は、SPFマウスまたはクロストリジウム定着マウスに認められたFoxp3
+細胞のほとんどがHeliosを発現しなかったことを示す。Heliosは胸腺由来ナチュラルTreg細胞に発現することが知られている転写因子である(A.M.Thorntonら, J Immunol 184, 3433(Apr 1, 2010)参照)ことに注目されたい。したがって、SPFマウスおよびクロストリジウム定着マウスに認められたTreg細胞のほとんどが末梢部で誘導されたTreg細胞(いわゆるiTreg細胞)であることが示唆された。
【0143】
実施例9
次に、クロストリジウムなどの定着が他のT細胞に影響を及ぼすかどうかを検討した。具体的には、GF IQIマウスにSFB、バクテロイデス属細菌(Bactero.)16株、クロストリジウム属細菌(Clost.)46株、またはコンベンショナルな環境(SPF)下で飼育したマウスから採取した微生物叢を定着させた。3週間後、これらのマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、Golgistop(BD Bioscience)の存在下、PMA(50ng/ml)およびイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BD Bioscience)の説明書に従い、抗IL−17 PE抗体(TC11−18H10)および抗IFN−g FITC抗体(BD Bioscience)を用いて細胞内サイトカインを染色した。次いで、CD4
+白血球におけるIFN−γ
+細胞またはIL−17
+細胞の割合をフローサイトメトリーにより分析した。結果は、クロストリジウムの定着は大腸のTh1細胞(CD4
+IFN−γ
+細胞)には何ら影響を及ぼさず、Th17細胞(CD4
+IL−17
+細胞)をわずかに増加させるにとどまったことを示す。したがって、クロストリジウム属はTreg細胞を特異的に誘導する細菌属であることが示唆された。
【0144】
実施例10
クロストリジウムの46株が大腸におけるCD8
+腸管上皮内リンパ球(IEL)の集積に影響を及ぼすことが報告されている。したがって、クロストリジウムは様々な側面で免疫系を調節し、前述の通り、特に大腸におけるTreg細胞の誘導および維持に著明な能力を発揮すると考えられる。ほかにも、サイトカインの一種であるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)がTreg細胞発生の調節に重要な役割を果たしていることが知られている。
【0145】
そこで、クロストリジウムの定着がTGF−βの豊富な大腸環境をもたすのかどうかを検討した。具体的には、まずGFマウス、クロストリジウム定着マウス、および乳酸桿菌定着マウスの全大腸を24時間培養し、その培養上清の活性型TGF−β(TGF−β1)濃度をELISAによって測定した(分析個体数は各群4匹ずつ)。
【0146】
結果は、GFマウスおよび乳酸桿菌定着マウスの大腸よりもクロストリジウム定着マウスの大腸の方がTGF−βの産生量が有意に多かったことを示す。
【0147】
次に、GFマウスおよびクロストリジウム定着マウスの腸上皮細胞(IEC)を24時間培養し、その培養上清の活性型TGF−β(TGF−β1)濃度をELISAによって測定した(分析個体数は各群4匹ずつ)。
【0148】
結果は、クロストリジウム定着マウスから単離されたIECの培養上清にTGF−βが検出されたが、GFマウスから単離されたIECの培養上清にはTGF−βが検出されなかったことを示す。
【0149】
次に、前述の通り、脾臓CD4
+T細胞を抗TGF−β抗体の存在下または非存在下で、GFマウスまたはクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地および抗CD3抗体とともに5日間培養した。次いで、T細胞を回収し、リアルタイムRT−PCRによってFoxp3の発現を解析した。
【0150】
結果は、クロストリジウム定着マウス由来のIECの培養上清を脾臓CD4
+T細胞に添加すると、Foxp3発現細胞への分化が促進されたことを示す。一方、Treg細胞への分化は抗TGF−β抗体によって阻害された。
【0151】
潜在型TGF−βの活性化に寄与すると考えられているMMP2、MMP9、およびMMP13の発現を調べた。Treg細胞の誘導に関与すると考えられているインドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現も調べた。具体的には、無菌C57BL/6マウスにクロストリジウム属の細菌株(Clost.)46株、または乳酸桿菌属の細菌株(Lacto.)3株を経口投与した。投与の3週間後、IECを採取し、MMP2、MMP9、MMP13、およびIDO遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって解析した(解析個体数は各群3匹ずつ)。
【0152】
潜在型TGF−βの活性化と上記MMPとの関係については、D’Angeloら, J. Biol. Chem. 276, 11347-11353, 2001;Heidingerら, Biol. Chem. 387, 69-78, 2006;Yuら, Genes Dev. i4, 163-176, 2000 を参照されたい。IDOとTreg細胞誘導との関係については、G. Matteoliら, Gut 59, 595(May, 2010)を参照されたい。
【0153】
結果は、前述のTGF−β産生と一致して、MMP2、MMP9、およびMMP13をコードする遺伝子の転写産物は、GFマウスおよび乳酸桿菌定着マウスのIECと比較してクロストリジウム定着マウス由来のIECで高レベルに発現したことを示す。
【0154】
さらに、IDOはクロストリジウム定着マウスにのみ発現した。
【0155】
したがって、クロストリジウムがIECを活性化し、これにより大腸内でTGF−βおよび他のTreg細胞誘導分子が産生されることが明らかになった。
【0156】
実施例11
次に、クロストリジウムの定着によって誘導されるTreg細胞の集積が、病原体関連分子パターン認識受容体によるシグナル伝達に依存しているかどうかを検討した。具体的には、
Myd88−/−(
Myd88(Toll様受容体のシグナル伝達アダプター)が欠損)、
Rip2−/−(Rip2(NOD受容体アダプター)が欠損)、および
Card9−/−(Card9(デクチン−1シグナル伝達に不可欠なシグナル伝達因子)が欠損)の各SPFマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数を調べた。さらに、
Myd88−/−GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させ、Treg細胞数の変化を調べた。結果は、病原体関連分子パターン認識受容体の関連因子が欠損した各種SPFマウスのTreg細胞の数は、対照とした野生型同腹子と比較して変化しなかったことを示す。また、Myd88欠損GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させると、大腸粘膜固有層におけるTreg細胞の集積が誘導されることがわかった。したがって、大腸粘膜固有層のTreg細胞集積を誘導する機序は、ほとんどの細菌によって引き起こされる主要な病原体関連分子パターン認識経路の活性化ではなく、特定の共生細菌種に依存することが示唆された。
【0157】
実施例12
腸管Foxp3
+Treg細胞はIL−10産生を介して一部の免疫抑制機能を発揮することが知られている(NPL9参照)。また、CD4
+Foxp3
+細胞からIL−10が特異的に除去されている動物は炎症性腸疾患を発症することが知られている(NPL18参照)。そこで、まず各種組織のリンパ球におけるIL−10の発現を調べた。具体的には、SPF
Il10venusマウスの各種組織からリンパ球を単離し、フローサイトメトリーによりCD4およびVenusの発現を解析した。
【0158】
Il10venusマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、FACSにより細胞表面でのT細胞受容体β鎖(TCRβ)発現を検出した。
【0159】
Il10venusマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離した。リンパ球をGolgistop(BD Bioscience)の存在下、PMA(50ng/ml)およびイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BD Bioscience)の説明書に従い、抗IL−17 PE抗体、抗IL−4 APC抗体(11B11)および抗IFN−g FITC抗体(BD Bioscience)を用いて細胞内サイトカインを染色した。
【0160】
また、Foxp3
eGFPレポーターマウスの脾臓(Spl)からFoxp3
+CD4
+細胞およびFoxp3
−CD4
+細胞を単離し、
Il10venusマウスの大腸粘膜固有層および小腸(SI)粘膜固有層からVenus
+細胞を単離した。得られた各細胞を所定の遺伝子発現について解析した。遺伝子発現はPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)およびABI 7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCRにより解析した。ここで、各細胞の値をGAPDH量で正規化した。
【0161】
結果は、Venus
+細胞(IL−10産生細胞)が、SPF条件下で維持されたマウスの頸部リンパ節(末梢リンパ節)、胸腺、末梢血、肺、および肝臓ではほとんど検出されなかったことを示す。一方、Venus
+細胞は同マウスの脾臓、パイエル板および腸間膜リンパ節でわずかに検出された。これに対して、小腸および大腸の粘膜固有層リンパ球にはVenus
+細胞が多数認められた。また、腸のVenus
+細胞のほとんどがCD4陽性であり、T細胞受容体β鎖(TCRβ)陽性でもあった。Venus
+CD4
+T細胞はTh2型(IL−4産生)、Th17型(IL−17産生)のいずれの表現型も示さなかったが、Foxp3ならびに細胞障害性Tリンパ球抗原(CTLA−4)およびグルココルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質(GITR)などのその他のTreg細胞関連因子を発現することがわかった。腸内Venus
+細胞でのCTLA−4の発現レベルは、Foxp3
eGFPレポーターマウスから単離された脾臓のGFP
+Treg細胞でのレベルよりも高いことが明らかになった。
【0162】
実施例13
Venus+細胞は細胞内のFoxp3発現に基づいて、少なくとも2つのサブセット、すなわちVenus
+Foxp3
+二重陽性(DP)Treg細胞とVenus
+Foxp3
−Treg細胞に分類することができる。後者のサブセットの細胞は1型制御性T細胞(Tr1)に相当する(NPL8および9参照)。そこで、実施例8で観察されたVenus
+細胞(IL−10産生細胞)についてFoxp3の発現を調べた。具体的には、GFまたはSPF条件下で飼育した
Il10venusマウスの大腸および小腸の粘膜固有層におけるCD4、Foxp3、およびVenusの発現をFACSにより解析し、腸管粘膜固有層のVenus
+細胞数をSPF
Il10venusマウスとGF
Il10venusマウスとの間で比較した。
【0163】
また、SPF
Il10venusマウスの各種組織のCD4細胞における細胞内VenusおよびFoxp3の発現をフローサイトメトリーにより解析した。
【0164】
共生細菌の存在が消化管の制御性細胞におけるIL−10発現に何らかの影響を及ぼすかどうかを検討するため、無菌(GF)
Il10venusマウスを作製した。次いで、得られたGF
Il10venusマウスに所定の細菌種を定着させた。細菌を定着させてから3週間後、大腸および小腸でFoxp3および/またはVenusが発現しているCD4
+細胞群(V
+F
−、Venus
+Foxp3
−細胞;V
+F
+、Venus
+Foxp3
+細胞;V
−F
+、Venus
−Foxp3
+細胞)をフローサイトメトリーにより解析した。
【0165】
共生細菌の存在が消化管の制御性細胞におけるIL−10発現に何らかの影響を及ぼすかどうかを確認するため、抗生物質を1群当たり5匹または6匹の
Il10venusマウスに水とともに10週間投与した。以下の抗生物質を組み合わせて使用した。
アンピシリン(A;500mg/L、Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L、NACALAI TESQUE,INC.)
メトロニダゾール(M;1g/L、NACALAI TESQUE,INC.)
ネオマイシン(N;1g/L、NACALAI TESQUE,INC.)
【0166】
次いで、大腸の粘膜固有層、小腸(SI)の粘膜固有層、腸間膜リンパ節(MLN)、およびパイエル板(PP)のリンパ球のCD4およびFoxp3を抗体で染色し、FACSにより解析した。結果は、ほぼ同じ結果を与える2回以上の独立した実験から得た。
【0167】
結果は、SPFマウスの小腸粘膜固有層にはVenus
+Foxp3
−細胞、すなわちTr1様細胞が多数存在し、大腸にはVenus
+Foxp3
+DP Treg細胞が高頻度で存在していたことを示す。これに対して、他の組織にも十分な数のFoxp3
+細胞が観察されたが、その細胞のほとんどでVenusの発現は認められなかった。
【0168】
また、大腸のVenus
+Foxp3
−、Venus
+Foxp3
+、およびVenus
−Foxp3
+のすべての制御性T細胞分画は、GF条件下で有意に減少していることが明らかになった。さらに、抗生物質で処理したSPF
II10Venusマウスでも同様にVenus
+細胞の減少が認められた。
【0169】
クロストリジウム属細菌の定着は、大腸のVenus
+Foxp3
−、Venus
+Foxp3
+、およびVenus
−Foxp3
+すべての制御性T細胞分画を強力に誘導し、その誘導の程度はSPFマウスのものと同程度であった。また、乳酸桿菌属細菌3株の定着およびSFBの定着が大腸のVenus
+および/またはFoxp3
+細胞数に及ぼす影響はごくわずかであることがわかった。さらに、バクテロイデス属細菌16株の定着もVenus
+細胞を誘導したが、定着の影響はVenus
+Foxp3
−Tr1様細胞に特異的であった。これに対して、試験したいずれの細菌種も、小腸粘膜固有層のIL−10産生細胞数に何ら有意な影響を及ぼさないことがわかった(
図26参照)。
【0170】
したがって、大腸に定着したクロストリジウム属の細菌または該細菌に由来する生理活性物質が、IL−10
+制御性T細胞の大腸粘膜固有層への集積またはT細胞のIL−10発現を誘導するシグナルをもたらすことが明らかになった。小腸のVenus
+細胞数は、共生細菌が存在しないか減少している状況による影響をあまり受けず、IL−10+制御性細胞(Tr1様細胞)は共生細菌とは関係なく小腸粘膜固有層に集積することが明らかになった。
【0171】
実施例14
クロストリジウム属細菌によって誘導されたVenus
+細胞が、SPFマウス大腸のVenus
+細胞と同様の免疫抑制機能を有するかどうかを検討した。具体的には、脾臓から単離したCD4
+CD25
−細胞(エフェクターT細胞、Teff細胞)を平底96ウェルプレートに2×10
4個/ウェルで播種し、30Gy放射線照射で処理した2×10
4個の脾臓CD11c
+細胞(抗原提示細胞)、0.5μg/mlの抗CD3抗体、および多数のTreg細胞とともに3日間培養した。さらに、最後の6時間は[
3H]−チミジン(1μCi/well)を添加してCD4
+CD25
−を培養した。なお、実施例14で用いたTreg細胞は、Foxp3
eGFPレポーターマウスの脾臓から単離されたCD4
+GFP
+T細胞、またはクロストリジウム細菌を定着させたGF
Il10venusマウスもしくはSPF
Il10venusマウスの大腸粘膜固有層のCD4
+Venus
+T細胞であった。次いで、[
3H]−チミジンの取込み量によって細胞の増殖を測定し、毎分のカウント(cpm)値で示した。
【0172】
結果は、クロストリジウム属細菌を定着させたマウスのVenus
+CD4
+細胞がインビトロでのCD25
−CD4
+活性型T細胞の増殖を抑制したことを示す。この抑制活性は、Foxp3
eGFPレポーターマウスから単離されたGFP
+細胞にわずかに劣るものの、SPF
Il10venusマウスから単離されたVenus
+細胞と同程度であった。したがって、クロストリジウム属の細菌は、十分な免疫抑制活性を有するIL−10発現T細胞を誘導することによって、大腸における免疫恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
【0173】
実施例15
次に、大量のクロストリジウムの定着が局所性免疫応答およびその結果生じるTreg細胞の増殖に及ぼす影響を検討した。
【0174】
<デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎モデル>
まず、前述の通りにDSS誘導大腸炎モデルを作製し、クロストリジウムの接種およびTreg細胞の増殖がモデルマウスに及ぼす影響を検討した。具体的には、対照マウスおよびクロストリジウム接種マウスを2%DSSで処理した後、6日間、体重の減少、便の硬さおよび出血を観察および測定し、数値により評価した。また、6日目に大腸を回収し、解剖し、HE染色により組織学的に分析した。
【0175】
結果は、体重減少および直腸出血などの大腸炎の症状が、大量のクロストリジウムを有するマウス(以下、「クロストリジウム豊富マウス」とも称する)で、対照マウス(コンベンショナルな環境で6週間飼育し、糞便懸濁物を接種しなかったC57BL/6マウス)と比較して有意に抑制されたことを示す。大腸の短縮、浮腫および出血などの大腸炎症に典型的なすべての特徴は、クロストリジウム豊富マウスに比して対照マウスで著明に認められた。さらに、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、および陰窩欠損などの組織学的特徴については、DSS処置したクロストリジウム豊富マウスの方が対照マウスよりも重症度が低かった。
【0176】
<オキサゾロン(oxazolone)誘導大腸炎モデル>
次に、前述の通りにオキサゾロン誘導大腸炎モデルを作製し、クロストリジウムの接種およびTreg細胞の増殖がモデルマウスに及ぼす影響を検討した。具体的には、対照マウスおよびクロストリジウム接種マウスをオキサゾロンで感作した後、直腸の内側を1%オキサゾロン/50%エタノール溶液で処理した。次いで、体重減少を観察し測定した。さらに、大腸を解剖し、HE染色により組織学的に分析した。
【0177】
結果は、対照マウスでは持続的な体重減少を伴って大腸炎が進行したことを示す。一方、クロストリジウム豊富マウスでは体重減少が軽減されていた。また、クロストリジウム豊富マウスの大腸では、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、および出血などの組織学的疾患を有する部位が減少していることも明らかになった。
【0178】
実施例16
次に、大量のクロストリジウムの定着およびその結果生じるTreg細胞の増殖が全身性免疫応答(全身性IgE産生)に及ぼす影響を検討した。具体的には、前述の通り、対照マウスおよびクロストリジウム接種マウスを、ミョウバンに吸着させた卵白アルブミン(OVA)を2週間間隔で2回投与することにより免疫した。次いで、これらのマウスから血清を採取し、ELISAによりOVA特異的IgEのレベルを調べた。また、各群のマウスから脾細胞を採取し、インビトロでのOVA再刺激によるIL−4およびIL−10の産生を調べた。
【0179】
結果は、IgEレベルがクロストリジウム豊富マウスで対照マウスよりも有意に低かったことを示す。さらに、OVAおよびミョウバンで感作したクロストリジウム豊富マウスの脾細胞では、対照マウスに比してOVAの再刺激によるIL−4産生量が減少しIL−10産生量が増加した。
【0180】
したがって、実施例15に示した結果と考え合わせると、クロストリジウムによる大腸でのTreg細胞の誘導は局所性および全身性の免疫応答に重要な役割を果たしている。
【0181】
実施例17
次に、クラスターIVに属するクロストリジウム3菌株(
図49に記載した菌株22、23および32)をGF Balb/cマウスに定着させた。3週間後、大腸のFoxp3
+Treg細胞をFACSにより解析した。結果は、クロストリジウム3菌株を定着させたノトバイオートマウスにおけるTreg細胞の誘導パターンが、GFマウスと全46株を接種したマウスの中間のパターンを示したことを示す。
【0182】
実施例18
次に、マウスから採取した糞便試料の芽胞形成画分と同様に、ヒトから採取した糞便試料の芽胞形成(例えば、クロロホルム耐性)画分が制御性T細胞の増殖または集積を誘導する効果を有するかどうかを検討した。
【0183】
健常被験者(日本人、男性、29歳)のヒト糞便をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で懸濁し、クロロホルム(最終濃度:3%)と混合した後、振盪している水浴中で60分間インキュベートした。N
2ガスを通気することによってクロロホルムを蒸発させた後、ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性(例えば、芽胞形成)画分を含有するアリコートを無菌(GF)マウス(IQI、8週齢)に経口接種した。処置したマウスをビニルアイソレーター内で3週間飼育した。大腸を採取し、縦方向に切開し、洗浄して糞便内容物を除去し、37℃で20分間、5mM EDTAを含有するハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で振盪した。上皮細胞および脂肪組織を除去した後、大腸を細片化し、4%ウシ胎児血清、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼおよび40μg/ml DNaseI(いずれもRoche Diagnostics社製)を含有するRPMI1640とともに37℃で1時間、浸透している水浴中でインキュベートした。消化した組織を5mM EDTAを含有するHBSSで洗浄し、40%パーコール(GE Healthcare社製)5mlに再懸濁し、15ml Falconチューブに入れた80%パーコール2.5mlに重層した。25℃、780gで20分間遠心分離することにより、パーコール勾配分離を実施した。境界面の細胞を回収し、PBS、2% FBS、2mM EDTAおよび0.09%NaN
3を含有する染色緩衝液に懸濁し、フィコエリシン標識抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences社製)で細胞表面のCD4を染色した。Foxp3の細胞内染色は、Alexa647標識抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience社製)およびFoxp3 Staining Buffer Set(eBioscience社製)を用いて実施した。CD4陽性リンパ球の集団におけるFoxp3陽性細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。
【0184】
結果は、ヒト腸内細菌の芽胞形成(例えば、クロロホルム耐性)画分をGFマウスに定着させると、マウスの大腸粘膜固有層でFox3+制御性(Treg)細胞の集積が誘導されたことを示す。
【0185】
次に、クロロホルム処理したヒト糞便の強制経口投与により、どのような細菌種が増殖するかを調べた。
【0186】
具体的には、QIAamp DNA Stoolミニキット(QIAGEN社製)を用いて、前述の健常被験者のヒト糞便(ヒト糞便)またはクロロホルム処理したヒト糞便を投与したGFマウスの糞塊(GF+Chloro.)から細菌のゲノムDNAを単離した。LightCycler480(Roche社製)を用いて定量的PCR分析を実施した。デルタCt法により相対量を算出し、総細菌量、希釈度、および試料重量に対し正規化した。以下のプライマーセットを用いた:
総細菌
5’−GGTGAATACGTTCCCGG−3’(配列番号:62)および
5’−TACGGCTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号:63)
クロストリジウムクラスターXIVa(クロストリジウム・ココイデス(Clostridium coccoides)亜群)
5’−AAATGACGGTACCTGACTAA−3’(配列番号:64)および
5’−CTTTGAGTTTCATTCTTGCGAA−3’(配列番号:65)
クロストリジウムクラスターIV(クロストリジウム・レプタム(Clostridium leptum))
5’−GCACAAGCAGTGGAGT−3’(配列番号:66)および
5’−CTTCCTCCGTTTTGTCAA−3’(配列番号:69)
バクテロイデス属
5’−GAGAGGAAGGTCCCCCAC−3’(配列番号:67)および
5’−CGCTACTTGGCTGGTTCAG−3’(配列番号:68)。
【0187】
結果は、クロロホルム処理したヒト糞便を強制経口投与したものでは、クロロホルム処理前のヒト糞便に比して、クロストリジウムクラスターXIVaおよびIVなどの芽胞形成細菌が大量に存在し、またバクテロイデス属などの非芽胞形成細菌が大幅に減少していたことを示す。
【0188】
実施例19
健常被験者(日本人、男性、29歳)のヒト糞便(2g)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)20mlで懸濁し、クロロホルムを加えて、または加えずに混合し(最終濃度3%)、振盪している水浴で60分間インキュベートした。次いで、N2ガスを30分間通気することによってクロロホルムを蒸発させた。未処理のヒト糞便(「huUT」と命名)およびクロロホルム処理したヒト糞便(「huChloro」と命名)の懸濁物を無菌(GF)マウス(IQI、8週齢)に経口接種した(250μl/マウス)。huUT懸濁物は#A1〜#A4の番号を付したGFマウス4個体に接種し、huChloro懸濁物は#B1〜#B4の番号を付したGFマウス4個体に接種した。このよう糞便の懸濁物などを接種したGFマウスを以後、「ex−GFマウス」とも呼ぶ。マウスがさらに微生物で汚染されるのを避けるため、ex−GFマウスの各群をビニルアイソレーターで別々に飼育した。3週間後、各マウスから小腸および大腸粘膜固有層のリンパ球を別々に採取し、フローサイトメトリーにより表面のCD4および細胞内のFoxp3、Helios、IL−17およびIFN−γの発現を調べた。細胞内IL−17およびIFN−γの染色には、単離リンパ球をインビトロでPMAおよびイオノマイシンにより4時間刺激した。Foxp3はTreg細胞の分化および機能に不可欠な転写因子である。HeliosはIkaros転写因子ファミリーのメンバーであり、Helios−Foxp3
+Treg細胞は末梢で誘導されるTreg細胞[いわゆる誘導されたTreg(iTreg)細胞]であることが示唆されている。
図1A〜1Dに示されるように、小腸および大腸粘膜固有層のCD4
+T細胞におけるFoxp3
+Treg細胞の割合は、両群のex−GFマウスでGFマウスよりも増加していた。両群のex−GFマウスで、小腸および大腸のFoxp3
+Treg細胞におけるHelios−細胞の割合の著明な増加も観察された。注目すべきことに、Foxp3
+Treg細胞以外にも、exGF+huUTマウスではIL−17発現CD4
+細胞(すなわち、Th17細胞)の有意な集積が観察されたのに対して、exGF+huChloroマウスではそれがわずかに観察されるにとどまった(
図1E、1F)。両群マウスともに、CD4
+細胞におけるIFN−γ
+細胞の割合に変化は認められなかった(
図1E、1G)。
【0189】
実施例20
死菌もまたTreg細胞の誘導に影響を及ぼすかどうかを検討するため、クロロホルム処理したヒト糞便の懸濁物を高圧滅菌し(121℃で20分間)、GFマウスに経口接種した(週1回を4週間)。4週間後、マウスを屠殺し、各マウスの大腸粘膜固有層のリンパ球をフローサイトメトリーによりCD4、Foxp3およびHeliosの発現について調べた。
図2に示されるように、死菌の接種は、Foxp3
+細胞数にもHelios−Foxp3
+細胞数にも何ら影響を及ぼさなかった。これらの結果は接種した死菌の量が不十分であった可能性を否定するものではないが、Treg細胞の誘導には生菌が必要であることを示唆している。
【0190】
実施例21
クロロホルム耐性細菌によるTreg細胞の誘導を裏付けるため、同じ被験者から別の日に糞便を新たに採取し、クロロホルムで処理し、IQI GFマウス(#C1〜C7の番号を付した7個体)に接種した。3〜4週間後、#C1〜#C5のマウスを屠殺し、各マウスから小腸および大腸粘膜固有層のリンパ球を別々に採取し、フローサイトメトリーによりCD4およびFoxp3の発現について調べた。実施例19の結果と一致して、クロロホルム処理したヒト糞便を用いた定着により、大腸および小腸粘膜固有層におけるFoxp3
+CD4
+Treg細胞の集積が有意に誘導された(
図3)。これらの結果は、クロロホルム耐性の芽胞形成細菌が腸粘膜固有層におけるTreg細胞の分化、増殖および/または動員を誘導し得ることをさらに裏付けるものである。
【0191】
実施例22
ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性の芽胞形成画分によるTreg細胞の誘導が水平に伝達可能かどうかを試験するため、IQI GFマウス(#D1〜#D6の番号を付した6個体)を4週間、マウス#C6および#C7とビニルアイソレーター内の同じケージで同居させた。大腸および小腸の粘膜固有層リンパ球を単離し、CD4およびFoxp3について調べた。同居させたマウスでCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合の有意な増加がみられた(
図4)。したがって、ヒト腸内細菌によるTreg細胞誘導は水平に伝達可能である。これらの結果から、Treg細胞の誘導には腸内微生物叢のわずかな構成細菌よりもむしろ大量の構成細菌が役割を果たしていると考えられる。
【0192】
実施例23
マウス#C4の盲腸内容物の凍結ストックを解凍し、10倍体積(w/v)のPBSに懸濁し、70μmの細胞ストレーナーに通した。次いで懸濁物を3%クロロホルムで処理し、PBSで2000倍または20000倍に希釈し、GF IQIマウスに経口接種した(それぞれ、細菌細胞2.5×10
5個または2.5×10
4個/250μl/個体)。2000倍希釈試料は4個体(exGF+2000と命名し、#E1〜#E4の番号を付した)に経口接種し、20000倍希釈試料は8個体(exGF+20000と命名し、#F1〜#F8の番号を付した)に接種した。3週間後、腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、CD4、Foxp3およびHeliosについて調べた。2000倍希釈試料、20000倍希釈試料ともに、腸粘膜固有層において同程度にFoxp3
+CD4
+細胞の著明な集積を誘導した(
図5)。したがって、経口接種する細菌の量は、2.5×10
4細菌細胞未満に最小化できる。
【0193】
実施例24
マウス#F3、#F7または#F8の盲腸内容物の凍結ストックを、10倍体積(w/v)のPBSに懸濁し、70μmの細胞ストレーナーに通し、3%クロロホルムで処理した。次いで、マウス#F3の糞便懸濁物をGFマウス5個体(#G1〜#G5の番号を付した)に、マウス#F7の糞便懸濁物をGFマウス4個体(#H1〜#H4の番号を付した)に、マウス#F8の糞便懸濁物をGFマウス4個体(#I1〜#I4の番号を付した)に経口接種した。4週間後、大腸および小腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、フローサイトメトリーによりCD4、Foxp3およびHeliosの発現を調べた。#F、#Gおよび#Hのいずれのマウスでも、腸粘膜固有層のCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合が未処置GFマウスに比して有意に増加した(
図6)。したがって、exGF+20000マウスでのヒト腸内細菌定着によるTreg細胞誘導も伝達可能である。さらに、のちのメタ16S rDNA配列決定のデータ(
図8)に示されるように、これらのマウスには、20種の既知の細菌(C.アミノフィラム(C.aminophilum)、H.サックガロボランス(H.saccgarovorans)、E.フィシカテナ(E.fissicatena)、H.フィリホルミス(H.filiformis)、C.クロストリディイフォルメ(C.clostridioforme)、C.インドリス(C.indolis)、C.ボルテアエ(C.bolteae)、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、L.菌DJF_VP30、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、C.ラバレンス(C.lavalense)、C.シンビオサム(C.symbiosum)、E.コントルタム(E.contortum)、C.サッカログミア(C.saccharogumia)、C.ラモーサム(C.ramosum)、F.プラウティ(F.plautii)、C.シンデンス(C.scindens)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)2335、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616およびcf クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)MLG055)と16S rDNAの配列類似性を有する細菌が共通してみられた。
【0194】
実施例25
#F8マウスの盲腸内容物の凍結ストックを好気性条件下、0.85%NaClで段階希釈し、BL寒天上に播いた。37℃で2日または4日間培養した後、単一コロニーが50個観察された。50コロニーのうち、29コロニーを取り出し、ABCMブロスにより37℃でさらに2日または4日間培養し、EGストック培地(10%DMSO)中で−80℃にて保管した。各コロニーのゲノムDNAを単離し、16S rRNAコード遺伝子配列を解析した。各コロニーの16S rRNAの配列から、調べたこの29コロニーが3つの菌株によって表され、それぞれがクロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)と100%の類似性、クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)と99.75%の類似性、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)と100%の類似性、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)と99.17%の類似性、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)と99.23%の類似性、またはクロストリジウム菌種(Clostridium sp.)2335と99.66%の類似性を有することが明らかになった。元の50コロニーから選択した29コロニーには、クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、およびフラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)のみが存在していた(それぞれ25コロニー、3コロニーおよび1コロニー)。これらの3つの単離株を増殖させ、混合し、GF IQIマウス(#J1〜J4の番号を付した4個体)に接種した。3〜4週間後、大腸粘膜固有層のリンパ球を採取し、フローサイトメトリーによりCD4、Foxp3、およびHeliosの発現について調べた。Foxp3
+細胞またはHelios−細胞は、3つの細菌株の大腸への定着により誘導されず、または誘導されてもごくわずかであった(
図7)。これらの結果は、クロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)とクロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)(ともにクラスターXVIIIに含まれる)の組み合わせは、マウスの大腸でのTreg細胞の誘導に十分ではないことを示唆する。フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)は選択した29コロニーのうち1コロニーのみを代表する菌株であったため、その効果は明らかでなかった。
【0195】
実施例26
実施例19で実施した方法と同様に、#G2マウスの盲腸内容物の凍結グリセロールストックをPBSで懸濁し、BL寒天プレート上に播き、48時間インキュベートした。実施例19とは異なり、プレート上の全細菌をプレートスクレーパーでかき取って回収し、TSブロスに懸濁し、GF IQIマウス(#K1〜#K4の番号を付した4個体)に接種した。この実験に使用した細菌懸濁物には、プレート上で増殖はしなかったが生き延びた細菌が含まれていたことに留意する必要がある。4週間後、K1〜K4マウスの大腸および小腸から粘膜固有層のリンパ球を単離し、CD4、Foxp3およびHeliosの発現について調べた。全4個体において、腸粘膜固有層のCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合(
図9A、9B)およびFoxp3
+Treg細胞におけるHelios−細胞の割合(
図9A、9C)が未処置GFマウスに比して有意に増加した。BL寒天プレート上で増殖した細菌6株を接種したマウスでTreg細胞が誘導されなかったことを考えると、プレート上で増殖はしなかったが生き延びた細菌がTreg細胞の誘導に関与している可能性もある。
【0196】
実施例27
マウス#A1、#C4、#F8、#G2、#H3、#I3、#J3および#K3の盲腸内容物から細菌DNAを抽出した。細菌16S rRNAをコードする遺伝子の可変領域1〜2(V1〜2)をPCRによって増幅し、メタ配列決定の鋳型として使用した。得られた配列(各試料について3400リード)を配列類似性(97%超の同一性)に基づいて操作的分類単位(OTU)に分類した。各OTUの代表的な配列をBLASTを用いて核酸データベースの配列と比較し、既知の種の最近縁種を決定した。各OTUについて検出されたリード数および最近縁種を表1に示す。各盲腸試料について同じ最近縁種を有するOTUの相対存在量を
図8に示す。マウス#A1では153のOTU(最近縁種は93種であった)が同定され、その半数がバクテロイデス属の種に近縁であった。これに対して、マウス#C4では113のOTUが同定され、そのほとんどがクロストリジウム科に属する種に近縁であった。マウス#F8、#G2、#H3、#I3、#J3および#K3では97〜68のOTUが同定された。これらのマウスでは、腸にTreg細胞の集積が観察され、細菌の大部分がC.アミノフィラム(C.aminophilum)、H.サックガロボランス(H.saccgarovorans)、E.フィシカテナ(E.fissicatena)、H.フィリホルミス(H.filiformis)、C.クロストリディイフォルメ(C.clostridioforme)、C.インドリス(C.indolis)、C.ボルテアエ(C.bolteae)、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、L.菌DJF_VP30、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、C.ラバレンス(C.lavalense),C.シンビオサム(C.symbiosum)、E.コントルタム(E.contortum)、C.サッカログミア(C.saccharogumia)、C.ラモーサム(C.ramosum)、F.プラウティ(F.plautii)、C.シンデンス(C.scindens)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)2335、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616およびcf クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)MLG055と16S rDNAの配列類似性を有する細菌で構成されていた。
【0197】
マウス#J3では、Treg集積は観察されず、3つのOTUが検出された。それぞれC.サッカログミア(C.saccharogumia)、C.ラモーサム(C.ramosum)またはF.プラウティ(F.plautii)と16S rDNAの配列類似性を有していた。これらの結果は、これらの3種の組合せは腸でのTreg細胞集積の誘導に不十分であることを示唆する。
【0198】
実施例28
BL寒天またはEG寒天プレートを用いて、マウス#F8、#G2、#I1および#K3の盲腸内容物から細菌株を単離した。EG寒天プレートから144コロニー、およびBL寒天プレートから116コロニーを選択した。これらのクローンの16S rRNAコード配列のBLAST検索から、これらが17種に属し、それぞれがC.インドリス(C.indolis)、C.ボルテアエ(C.bolteae)、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、L.菌DJF_VP30、A.コリホミニス(A.colihominis)、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、C.ラバレンス(C.lavalense)、C.シンビオサム(C.symbiosum)、E.コントルタム(E.contortum)、C.サッカログミア(C.saccharogumia)、C.ラモーサム(C.ramosum)、F.プラウティ(F.plautii)、C.ハセワイ(C.hathewayi)、C.シンデンス(C.scindens)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)2335、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616およびcfクロストリジウム菌種(Clostridium sp.)MLG055と93〜100%の相同性を有することが明らかになった(表2)。ここに挙げた細菌はいずれもクロストリジウムクラスターIV、XIVaまたはXVIIIに属するものであった(クラスターIVが2種、クラスターXIVaが12種、クラスターXVIが1種、クラスターXVIIIが2種)。
【0199】
実施例29
実施例28で選択したコロニーの中から追加のコロニーを選択して単離し、EGおよびBL培地を用いてこれらの株を培養した。これらのクローンの16S rRNAコード配列のBLAST検索から、これらの菌株が計31種(実施例28で挙げた種を含む)に属し、それぞれがクロストリジウム・サッカログミア(Clostridium saccharogumia)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)JCM1298、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)、シュードフラボニフラクター・カピローサス(Pseudoflavonifractor capillosus)ATCC 29799、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)WM1、バクテロイデス菌種(Bacteroides sp.)MANG、クロストリジウム・サッカロリティカム(Clostridium saccharolyticum)、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)5_1_57FAA、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)6_1_63FAA、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)14616、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)ATCC BAA−613、cf.クロストリジウム菌種(cf.Clostridium sp.)MLG055、エリシペロトリクス菌(Erysipelotrichaceae bacterium)2_2_44A、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)DJF_VP30、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)3_1_57FAA_CT1、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、アナエロツルンカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)DSM17241、ルミノコッカス菌種(Ruminococcus sp.)ID8、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)2_1_46FAA、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・アスパラギホルメ(Clostridium asparagiforme)DSM15981、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)WAL−14163、ユーバクテリウム・コントルタム(Eubacterium contortum)、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)D5、オシロスピラ菌(Oscillospiraceae bacterium)NML 061048、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)、ラクノスピラ菌(Lachnospiraceae bacterium)A4、クロストリジウム菌種(Clostridium sp.)316002/08、およびクロストリジウム菌(Clostridiales bacterium)1_7_47FAA、ブラウティア・ココイデス(Blautia cocoides)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)DSM14662と93〜100%の相同性を有することが明らかになった(表3)。細菌株のストックは、培養物の増殖に使用する培地を加えた10%グリセロール中に保管し、チューブは−80℃の冷凍庫で保管した。
【0200】
実施例30
実施例29の菌株がGFマウスにおいてTregsを誘導する能力を有するかどうかを検討するため、表3の31株をTS培地を用いて等体積の培地で混合し、GFマウスに接種した。16S rRNA配列の詳細な解析から、31株のうち8株が他の菌株と重複していることが明らかになり(表3を参照、アスタリスクで示されている)、結果として異なる細菌株は23株となった。
図10に示されるように、23株の混合物(23mix)をGFマウスに経口投与したところ、きわめて強いレベルのTregが誘導された(大腸粘膜固有層では35〜40%、小腸では10%超;
図10)。23mixによる定着で観察されたこれらのTregは、ほとんどがHelios
−であった。
【0201】
実施例31
ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性画分の腸内微生物叢に少数ではなく多数存在するメンバーがTreg細胞の誘導を引き起こしているのかどうかを検討するため、実施例19に記載した通りに、ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性画分を接種したマウス(+huChloマウス)の希釈盲腸試料を成体GFマウスに接種した。
図11に示されるように、ぞれぞれ+2×10
4マウスおよび2×10
5マウスを作製するためにhuChloマウス盲腸試料を希釈(2×10
4および2×10
5に希釈)しても、これらの成体GFマウスでTregが誘導された。
【0202】
実施例32
実施例30の23株の混合物が、制御性細胞の機能を増強することを特徴とする周知のヒトクロストリジウム株フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)よりも効果的に成体GF IQIマウスのTregを誘導する能力を有するかどうかを検討するため、表4の23株を培地と等量で混合してカクテルを作製し、これを成体IQI GFマウスに投与した。比較のため、別の群のIQI GFマウスにフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)を投与した。
図12に示されるように、23株の混合物(23−mix)を成体IQI GFマウスに経口投与したところ、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)よりも高レベルのTregが誘導された。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)(+Faecali.)はごくわずかなレベルのTreg誘導を示した。
【0203】
実施例33
実施例31に記載した+2×10
4マウスの微生物叢群が安定であるかどうかを検討するため、成体GFマウスに連続経口接種を実施して+2×10
4−reマウス(二次接種)および+2×10
4−re−reマウス(三次接種)を作製した。
図13に示されるように、+2×10
4−reマウス、+2×10
4−re−reマウスのいずれにおいてもTregの有意な誘導がみられた。Treg細胞を誘導するために不必要な微生物叢の成分をさらに排除するため、実施例31に記載した+2×10
4マウスの盲腸内容物を再び2×10
4倍に希釈し、別の成体GFマウス群(+(2x10
4)
2マウス)に経口接種した。
図13に示されるように、+(2×10
4)
2マウスでは大腸でTreg細胞の著明な集積が認められた。
【0204】
実施例34
実施例19、実施例31、および実施例33に記載した+huUT(+hu)、+huChlo、+2×10
4、+2×10
4−reおよび+(2x10
4)
2の消化管微生物叢の組成を評価するため、これらの成体マウスの盲腸内容物から細菌DNAを抽出した。細菌16SリボソームDNA(rDNA)の可変領域(V1〜V2)を増幅し、454シーケンサーを用いたメタ配列決定を実施した。得られた配列(各試料について3400リード)を配列類似性(96%超の同一性)に基づいて操作的分類単位(OTU)に分類した。各OTUの代表的な配列を、BLASTを用いて、公開されている16Sおよびゲノムデータベースに寄託されている配列と比較し、最近縁種を決定した。
図14に示されるように、+huマウスでは、バクテロイデス門に属するOTUが盲腸微生物群の約50%を占めていた。これに対して、+huChloマウスのほとんどのOTUがクロストリジウムに属する種に近縁であった。+2×10
4、+2×10
4−reおよび+(2x10
4)
2マウスでは、細菌の大部分が、
図14に挙げたクラスターXIVa(C.レプタム(C.leptum)群とも呼ばれる)、IV、XVI、およびXVIIIに属する約20種のクロストリジウムと16S rDNA配列類似性を有する細菌で構成されていた。
【0205】
実施例35
実施例30で単離された23株を接種したマウス(+23−mixマウス)の盲腸内容物について16S rDNAのメタ解析を実施したところ、
図14および表4に挙げた23株のうち17株の存在が確認された。この17株がTreg細胞を誘導できるかどうかを判定するため、これらの17株の混合物を成体GFマウスに接種した(+17−mixマウス)。各細菌株を2mLのEG液体培地で培養しコンフルエンスまで増殖させた後、これらの発端培養物を50mLチューブに入れて混合した(2mL×17株=34mL)。細菌を遠沈してペレット状にし、PBS 10mLに再懸濁した。各菌株を約1×10
6〜1×10
7個含む200μLのアリコートを、成体GFマウスの接種に用いた。
図15に示されるように、IQI、BALBおよびB6成体マウスに17株の混合物を経口投与したところ、この3種のマウスモデルでTregを誘導することができた。
【0206】
実施例36
実施例35で明らかになった17株がそれぞれ個々にTregを誘導できるかどうかを検討するため、17株をそれぞれ1株ずつ成体GFマウスに単一定着させた。
図16に示されるように、単一の菌株を単一定着させた成体GFマウスで低レベルないし中レベルのTregが認められた。重要なことに、17株の混合物と同程度にTregを誘導する単一菌株はなかった。
【0207】
実施例37
実施例35に記載した17株のサブセットがTregを誘導できるかどうかを検討するため、表4に示すように、無作為に選択した3〜5株の組合せ3−mix、5mixA、5−mixB、および5−mixCを作製し、成体GFマウスの接種に用いた。
図17に示されるように、5種混合物のみがTreg細胞の頻度の有意な増加を引き起こし、その増加の程度は+17−mixマウスで観察されたものと比べると中程度であった。
【0208】
実施例38
実施例35に記載した17株混合物(17−mix)の投与の有益性を検討するため、成体SPFマウスに17−mixまたは対照培地のいずれかを経口接種し、3週間後にFoxp3
+Treg細胞の誘導を評価した。
図18に示されるように、処置の3週間後、大腸のFoxp3
+Treg(CD4)細胞の頻度に有意な増加が認められた。
【0209】
実施例39
アレルギー性下痢の動物モデルにおける17−mix投与の有益性を検討するため、成体SPFマウスに17−mixまたは対照培地を経口接種し、この間アレルギー性下痢の誘発物質である卵白アルブミン(OVA)で処置した。
図19に示されるように、17−mixを投与したマウスでは、下痢の頻度および重症度(下痢スコア)が対照マウスに比して有意に減少した。
【0210】
実施例40
大腸炎の動物モデルにおける17−mix投与の有益性を検討するため、成体SPFマウスに17−mixまたは対照培地のいずれかを経口接種し、この間大腸炎を実験的に誘発する物質としてよく用いられるトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)で処置した。
図20に示されるように、SPF 17−mixマウスの方はTNBSへの曝露時に対照マウスよりも低い死亡率を示した。
【0211】
実施例41
17−mixに示した菌株の、潰瘍性大腸炎の診断およびモニタリングツールとしての有用性を評価するため、この17菌株および欧州MetaHITプロジェクトで作製され公開されているヒト糞便ミクロビオームゲノムのドラフトゲノム配列を用いて、健常なヒト被験者および潰瘍性大腸炎(UC)のヒト被験者における17菌株の相対存在量を調べた。
図21に示されるように、UC被験者(N=20)では健常被験者(N=15)に比してこの17菌株が減少していることがわかった。
【0212】
配列番号:OTU136;OTU46;OTU221;OTU9;OTU296;OTU21;OTU166;OTU73;OTU174;OTU14;OTU55;OTU337;OTU314;OTU195;OTU306;OTU87;OTU86;OTU152;OTU253;OTU259;OTU281;OTU288;OTU334;OTU359;OTU362;またはOTU367はそれぞれ、配列番号19〜44である。