特許第6307239号(P6307239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6307239節類抽出物入り液体調味料、及びその塩味、旨味、味持続性増強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307239
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】節類抽出物入り液体調味料、及びその塩味、旨味、味持続性増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20180326BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-209476(P2013-209476)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-73439(P2015-73439A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本食品科学工学会第60回記念大会講演集、第97頁(平成25年8月29日) 〔刊行物等〕第60回 日本食品科学工学会 2E−a7(平成25年8月30日)
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 靖
(72)【発明者】
【氏名】持丸 慎介
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−097854(JP,A)
【文献】 特開2010−088308(JP,A)
【文献】 特開2006−288203(JP,A)
【文献】 特開2007−229590(JP,A)
【文献】 前川浩一郎 他,「かつおぶし濃香エキスOG」の特性と用途,ジャパンフードサイエンス,2010年,第49巻第9号(通巻582号),p.26-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分、節類の抽出物及び節類の水蒸気抽出物を含有する液体調味料であって、
前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下であり、
前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下であり、
pHが5.0以上7.0以下であり、
喫食時のブリックス値が8.3%以下である
ことを特徴とする節類抽出物入り液体調味料。
【請求項2】
喫食時の塩分濃度が0.6質量%以上2.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【請求項3】
喫食時のブリックス値が6.3%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【請求項4】
節類の水抽出物が、熱水抽出物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【請求項5】
前記液体調味料は、かけつゆであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【請求項6】
塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の塩味増強方法。
【請求項7】
塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、旨味及び塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の旨味及び塩味増強方法。
【請求項8】
塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、味の持続性及び塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の味持続性及び塩味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、節類抽出物入り液体調味料、及びその塩味、旨味、味持続性増強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
節類から抽出されただしや抽出エキスなどの節類抽出物は、味噌汁や吸い物のほか、つゆや煮物用調味液などの各種液体調味料に欠くことのできない食品素材として、従来から広く使用されている。ここで、節類抽出物を含有する液体調味料においては、節類抽出物としての節類だしの風味を向上させることが、製品全体の高品質化につながるものと考えられている。
【0003】
ここで、節類だしの風味を向上させる方法としては、低酸素濃度下で抽出する方法などが従来知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、節類だしの抽出中や抽出後の品質劣化を抑制することによって、品質を維持しようとするものである。また、節類抽出物入り液体調味料の好適例としては「つゆ」があるが、節類だしと同様に、低溶存酸素濃度に制御することで酸化による劣化を防止する方法や(例えば、特許文献2参照)、ビタミンCを添加して風味の劣化を抑制する方法(例えば、特許文献3参照)が従来知られている。なお、特許文献2、3の方法は、いずれも劣化の抑制によって品質を改善しようとするものであるが、後味に残る節類特有の雑味を緩和することで、風味の改善を達成しようとしたものではなかった。また、節類の使用量を増やすことで節風味を増強させ、風味の優れた節類抽出物入り調味料を製造することも試みられてきたが、コスト高につながるという欠点があった。そればかりではなく、節風味が増強されると同時に、後味に残る特有の苦み、煙のような風味、魚臭など好ましくない風味も同時に増強されてしまい、香味バランスが悪化するという欠点も指摘されていた。
【0004】
上記の欠点を解消しうるものとして、節類抽出物入り調味料における節使用量を一定以下に抑えるか、あるいは、調味料の喫食時におけるトリメチルアミンを所定濃度に抑えた上で、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンを所定濃度含有させた節類抽出物入り液体調味料が従来提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、このような技術のほか、例えば、節類から節類だしを熱水抽出する際に、香気成分を含む節類由来の水蒸気を回収し、得られた水蒸気抽出物を熱水抽出物に添加するという方法が従来提案されている(例えば、特許文献5、6参照)。
【0005】
そして、特許文献5、6の方法によれば、肉質感のする香りがよく、燻煙香の除かれた風味の良い節類だしが得やすくなることから、この節類だしを用いることで、高品質の節類抽出物入り液体調味料を得ることが可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−287641号公報
【特許文献2】特開昭58−155052号公報
【特許文献3】特開2008−86298号公報
【特許文献4】特開2011−78325号公報
【特許文献5】特開2006−288203号公報
【特許文献6】特開2011−97854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、つゆ等に代表される節類抽出物入り液体調味料には、通常、節類だしに由来する旨味のほか、醤油や塩などに由来する塩味が付与されている。しかしながら、近年では消費者の健康志向が次第に高まり、食品に対する減塩の要求が強くなってきている。このような関係上、節類の水蒸気抽出物を節類の熱水抽出物に添加するタイプの液体調味料についても、出来るだけ少ない塩分にて十分に塩味を感じられるものが市場にて望まれている。また、液体調味料の減塩を図ったときでも、十分かつ好ましい旨味が感じられ、全体としての風味バランスが損なわれないことも同様に市場にて望まれている。ただし、この種のタイプの液体調味料では、従来、燻煙香の除去等による風味向上は図られていたが、減塩との関係性について何ら着目されてこなかったという事情がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塩分が少なくても塩味等を十分に感じさせることができ、全体としての風味バランスも優れた節類抽出物入り液体調味料を提供することにある。また、本発明の別の目的は、節類抽出物入り液体調味料について塩味、塩味及び旨味あるいは塩味及び味持続性を増強しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、節類抽出物入り液体調味料における諸成分のなかで、特に塩分、節類の水系溶媒抽出物及び節類の水蒸気抽出物について相互の含有比率に着目するとともに、併せてpHの値についても着目し、これらの比率や値の適正化を図ることを思い付いた。その結果、水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)、水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する水系溶媒抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)、pHの値を適正化することにより、塩分が少なくても塩味等を十分に感じさせることができ、全体としての風味バランスも優れた節類抽出物入り液体調味料を実現できることを新たに知見した。そして、本発明者らは上記の知見に基づいてさらに鋭意研究を進めることにより、下記の発明を完成させるに至ったのである。
【0010】
上記の課題を解決するための手段[1]〜[]を以下に列挙する。
【0011】
[1]塩分、節類の抽出物及び節類の水蒸気抽出物を含有する液体調味料であって、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下であり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下であり、pHが5.0以上7.0以下であり、喫食時のブリックス値が8.3%以下であることを特徴とする節類抽出物入り液体調味料。
【0012】
[2]喫食時の塩分濃度が0.6質量%以上2.1質量%以下であることを特徴とする手段1に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【0013】
[3]喫食時のブリックス値が6.3%以下であることを特徴とする手段1または2に記載の節類抽出物入り液体調味料
[4]節類の水抽出物が、熱水抽出物であることを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【0014】
]前記液体調味料は、かけつゆであることを特徴とする手段1乃至のいずれか1項に記載の節類抽出物入り液体調味料。
【0015】
]塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の塩味増強方法。
【0016】
]塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、旨味及び塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の旨味及び塩味増強方法。
【0017】
]塩分及び節類の抽出物を含有する液体調味料に対し、節類の水蒸気抽出物を添加するとともに、その際に前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)が2.23以上13.39以下となり、前記水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する前記抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)が5.40以上14.40以下となり、pHが5.0以上7.0以下となり、喫食時のブリックス値が8.3%以下となるように調整することで、味の持続性及び塩味を増強することを特徴とする節類抽出物入り液体調味料の味持続性及び塩味増強方法。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、請求項1〜に記載の発明によると、塩分が少なくても塩味等を十分に感じさせることができ、全体としての風味バランスも優れた節類抽出物入り液体調味料を提供することができる。請求項に記載の発明によると、節類抽出物入り液体調味料について塩味を増強しうる方法を提供することができる。請求項に記載の発明によると、節類抽出物入り液体調味料について旨味及び塩味を増強しうる方法を提供することができる。請求項に記載の発明によると、節類抽出物入り液体調味料について味持続性及び塩味を増強しうる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の節類抽出物入り液体調味料、及びその塩味、旨味、味持続性増強方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明の節類抽出物入り液体調味料は、基本的に、塩分、節類の水系溶媒抽出物及び節類の水蒸気抽出物を含有するものである。
【0021】
本発明において用いる「節類」は、一般にだし取りに使用される節類であれば特に限定されない。節原料としては、鰹節、鯖節のほか、宗田鰹節、あご節、まぐろ節、煮干等を用いることができ、これらのうちから複数を任意に選択してもよい。また、節類は、裸節、荒節、(本)枯節等のいずれでもよく、特に限定されない。節原料の形状及びサイズについても特に限定されず、薄削り、厚削り、粗砕品、粉砕品、粉状のもの等を任意に選択することができる。
【0022】
本発明において用いる「節類の水系溶媒抽出物」とは、上記の節類を水系の溶媒で抽出してなる液体のことを言い、後述する水蒸気抽出に依らないものを指す。抽出に用いる水系溶媒としては、水(例えば、水道水、脱イオン水、蒸留水など)が好ましく、その理由としては得られる抽出物(だし液)に余計な香味を付与しないためである。また、求める香味成分や香気成分を確実に抽出する一方、不要な成分を極力抽出しないようにするためである。なお、抽出時における水の温度は特に限定されないが、生産効率やコストのことを考えると熱水を用いることが好ましい。
【0023】
ただし、余計な香味を付与せずまた求める成分を選択的に抽出可能なものであれば、使用目的などに応じて、水以外の水系溶媒(例えば、アルコール含有水やだし液など)を抽出に使用することができる。ここで、アルコールとしてはエタノールを用いることが好ましい。また、だし液としては、如何なるものを用いてもよいが、例えば、節類等から通常の方法で抽出したものを用いることができる。なお、これらを抽出用の水系溶媒として使用する場合、比較的薄い濃度(アルコールであれば50%以下、だし液であれば乾燥重量比で10倍量抽出以下)のものとすることで、求める成分が抽出しやすくなる。なお、これらのような水系溶媒を用いた節類の抽出条件については特に限定されず、一般的に用いられている条件を採用することができる。
【0024】
本発明において用いる「節類の水蒸気抽出物」とは、上記の節類を水蒸気で抽出してなる液体のことを言い、例えば、本願出願人が提案した特開2011−97854号公報に記載の水蒸気蒸留法(香気成分含有液の製造方法)により得られた抽出物を適用することができる。具体的には、節類を抽出タンクに入れ、あるいは節類及び節類乾燥重量の3倍量以下の抽出溶媒を抽出タンク内に入れ、その抽出タンク内に蒸気を注入することによって、前記節類から抽出された成分を揮発させて冷却部に送気し、冷却凝縮温度が10℃より高い温度から70℃未満で留出する成分を回収する、ことにより得られた抽出物を適用することができる。なお、冷却凝縮温度は25℃以上65℃以下であることが好ましい。
【0025】
上記水蒸気蒸留法に用いる抽出タンクは、香気成分が大気中に飛散しないようにほぼ密封でき、蒸気を注入できるものであればよいが、特に多機能抽出機が好ましい。また、上記水蒸気蒸留法に用いる香気成分回収装置としては、冷却部を備え、抽出タンクから送気された揮発成分を冷却して留出させ、回収できるものが好適である。当該回収装置としては、コンデンサータイプの機器が好ましい(特開2011−97854号公報の図1参照)。
【0026】
この蒸留法では、抽出タンク内に、「節類」あるいは「節類及び少量の抽出溶媒」が入れられた状態で、抽出タンク内に蒸気を注入して、節類またはその周辺の溶媒と蒸気を接触させる。それによって当該蒸気中に抽出された前記節類からの成分を揮発させて、蒸気とともに香気成分回収装置(冷却部)に送気し、冷却凝縮温度70℃未満で留出する成分を回収する。このようにして得られた留出液は、好ましい香気成分を高濃度で含有したものとなる。
【0027】
上記水蒸気蒸留法における抽出溶媒の量としては、節類及び節類乾燥重量の3倍量以下とすることがよく、より好ましくは2倍量以下とする。抽出溶媒の量が多すぎると、蒸気が節類またはその周辺の溶媒に接触しにくくなり、求める香気成分を十分に抽出できなくなるからである。
【0028】
上記水蒸気蒸留法において注入タンクに注入する蒸気としては、水蒸気、飽和水蒸気、過熱水蒸気等のいずれを用いてもよく、例えば、ボイラ等で発生させた通常の水蒸気を用いることが好適である。蒸気の注入箇所は、抽出タンクの適切な箇所(例えば最下部)に連通された管を通して抽出タンク内に注入させたものであればよい。注入する蒸気量は、節類及び節類乾燥重量1kg当たり好ましくは0.1kg/h〜10kg/h、より好ましくは0.5kg/h〜5kg/hである。なお、蒸気量が0.1kg/h未満の場合には、回収に多大な時間を要するため、効率が悪くなるおそれがある。逆に10kg/hを超える場合には、蒸気が節類またはその周辺の溶媒に接触する時間が短くなり、十分な香気成分を抽出できなくなるおそれがある。
【0029】
水蒸気蒸留により得た抽出留液は、そのまま用いてもよいが、濃縮して用いることもできる。この場合の濃縮方法としては特に限定されず、逆浸透膜濃縮、凍結濃縮など適宜選択すればよい。
【0030】
本発明において「塩分」は、主として食塩(醤油や味噌等を使用した場合にはその中に含まれる食塩)に由来するものである。ここでは、減塩製品の製造を目的としているため、塩分濃度(換言すると、液体調味料中に含まれる食塩の質量%)は従来よりも少なめに設定され、具体的には、喫食時の塩分濃度が0.6質量%以上2.1質量%以下となるように設定される。その理由は、塩分濃度が喫食時にこの程度であれば、減塩を図ることができ、かつ好適な風味バランスを維持することが可能だからである。ここで、醤油の使用は任意であるが、好適なものとしては、例えば、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油等がある。味噌の使用も任意であるが、好適なものとしては、例えば、白味噌、赤味噌、麦味噌、仙台味噌、八丁味噌、米味噌等がある。
【0031】
本発明の節類抽出物入り液体調味料では、上述した喫食時の塩分濃度範囲における節類の水蒸気抽出物の含有量(「水蒸気抽出物に由来する節類の質量%」:B1)が、節量換算値で、0.11質量%以上0.67質量%以下となるように設定されていることが好ましい。ここでいう節量換算とは、水蒸気蒸留に使用した節量から得た水蒸気抽出留液から、水蒸気抽出留液中の節含量を求め、その抽出留液の添加割合を乗じたものである。例えば、水蒸気蒸留に10kgの鰹節を用いて18kgの抽出留液を得た場合、抽出留液の節含量は、55.6質量%とする。本抽出留液を塩味増強組成物として、液体調味料100質量部に0.6質量部添加した場合、節量換算値は、「55.6質量%×0.6÷100=0.33質量%、となる。
【0032】
本発明において、水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する塩分濃度(S)の比率(S/B1)は、1.80以上18.88以下になっている必要がある。その理由は、水蒸気抽出物由来節類含有量に対する塩分濃度の比率が小さすぎると、風味バランスを損なうため好ましくないからである。逆に、水蒸気抽出物由来節類含有量に対する塩分濃度の比率が大きすぎると、十分な塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果が得られず好ましくないからである。この比率(S/B1)は、1.80以上13.39以下になっていることがより好ましく、さらに2.23以上13.39以下になっていることが特に好ましい。
【0033】
本発明の節類抽出物入り液体調味料では、上述した喫食時の塩分濃度範囲における節類の水系溶媒抽出物の含有量(「水系溶媒抽出物に由来する節類の質量%」:B2)が、節量換算値で、0.5質量%以上4.0質量%以下となるように設定されていることが好ましい。ここでいう「水系溶媒抽出物に由来する節類の質量%:B2」とは、以下のような計算により得られる。節15質量部とおよそ100質量部の熱水から、100質量部のだしを得た場合、このだしの節含量は、15質量%とする。このだしを液体調味料に5倍希釈となるように用いた場合、液体調味料中の節含量は、3質量%として計算される。
【0034】
本発明において、水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)に対する、水系溶媒抽出物に由来する節類の質量%(B2)の比率(B2/B1)は、1.80以上になっている必要がある。その理由は、水蒸気抽出物由来節類含有量に対する水系溶媒抽出物由来節類含有量の比率が小さすぎると、風味バランスを損なうため好ましくないからである。逆に、水蒸気抽出物由来節類含有量に対する水系溶媒抽出物由来節類含有量の比率が大きすぎると、十分な塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果が得られず好ましくないからである。この比率(B2/B1)は、5.40以上14.40以下になっていることがより好ましく、5.40以上10.80以下になっていることが特に好ましい。
【0035】
上記の比率(S/B1)は、比率(B2/B1)よりも小さいことが好ましい。その理由は、実際に行った評価試験において、当該2つの比率がこのような大小関係にあるときに、塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果に関して好結果が得られることが、実際に行った評価試験よりわかっているからである。なお、このことを換言すると、「水蒸気抽出物に由来する節類の質量%(B1)<塩分濃度(S)<水系溶媒抽出物に由来する節類の質量%(B2)」の関係にあることが好ましい、ということになる。
【0036】
本発明の節類抽出物入り液体調味料は、弱酸性から中性を示すこと、具体的にはpHが5.0以上7.0以下である必要があり、好ましくは5.0以上6.5以下、より好ましくは5.0以上6.0以下である。その理由は、pHが5.0未満であると、酸性が強くなりすぎる結果、十分な塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果が得られないばかりか、酸味が勝ってしまい風味バランスを損なうおそれがあるからである。また、pHが7.0超であるとアルカリ性域に入ってしまう結果、十分な塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果が得られないばかりか、風味バランスを損なうおそれがあるからである。なお、当該液体調味料がこのような液性を示すのは、その成分として酢酸やアミノ酸等を含んでいることによるものである。
【0037】
本発明の節類抽出物入り液体調味料は、喫食時のブリックス値(Bx値)が8.3%以下であることが好ましい。その理由は、ブリックス値が上記値を超えると十分な塩味増強効果、旨味増強効果、味持続性増強効果が得にくくなるからである。なお、ブリックス値はより好ましくは6.3%以下である。
【0038】
本発明の節類抽出物入り液体調味料には、塩分、節類の水系溶媒抽出物、節類の水蒸気抽出物のほか、醤油、味噌、食酢、出汁抽出液、糖類、柑橘類、調味料類、増粘剤、香料などが配合されていてもよい。醤油及び味噌の好適例は先に述べたとおりである。食酢としては、例えば、穀物酢、米酢、玄米酢、ブドウ酢、リンゴ酢、醸造アルコールを原料に製造されるアルコール酢などといった醸造酢や、合成酢等が挙げられる。出汁抽出液としては、肉類、魚介類、野菜類、キノコ類、海藻類などに含まれる旨味成分を抽出した液体のことを指すものであって、好適例としては魚節から抽出した液体などがある。糖類としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グラニュー糖、上白糖、三温糖、中白糖、白ザラ糖、中ザラ糖、水あめ等が挙げられる。柑橘類としては、例えば、ゆず、すだち、レモン、ミカン、カボス等が挙げられる。調味料類としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、トラガントガム等といった増粘多糖類が挙げられる。また、本発明が適用できる液体調味料としては、つゆが好ましく、かけつゆがさらに好ましい。かけつゆとは、うどん、そばなどの麺類にかけて使用するタイプのつゆであり、うどんつゆ、そばつゆ等が挙げられる。かけつゆは、麺の味付けとともに、そのつゆは、スープとして食される。つけつゆ等に比較して、塩分濃度が低いことに特徴がある。
【0039】
以下、実施形態の節類抽出物入り液体調味料をより具体化して行ったいくつかの試験について説明する。
【0040】
(1)試験1(水蒸気抽出物由来節類質量%に対する塩分濃度の比率(S/B1)の好適範囲を決める試験)
【0041】
この試験では、表1の配合量に従い以下の手順で節類抽出物入り液状調味料(ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆ)を作製した。
【0042】
まず、節類の水蒸気抽出物としての節水蒸気抽出留液の作製手順について述べる。ここでは、鰹節10kgに対し、水を20kg入れそこへ水蒸気を20kg/hの速度で注入し、抽出・揮発を行った。揮発して得られた蒸気は、冷却管を通じて冷却(25℃〜65℃)及び凝縮させ、抽出留液として18kg回収したものを用いることとした。この節水蒸気抽出留液は55.6質量%の節を含有するものと計算される。
【0043】
節類の水系溶媒抽出物としての節水抽出物の作製手順について述べる。ここでは、90℃に加温した水1000mLに鰹節150gを加え、90℃で30分間保持して、節成分を抽出した。その後、前記抽出液を濾過して濾液を取得し、この濾液に節に吸収された分の水(約180mL程度)を加えて、節水抽出物1000mLを得た。この節水抽出物は15質量%の節を含有するものと計算される。
【0044】
そして、このように取得した節水蒸気抽出留液及び節水抽出物と、醤油、砂糖、食塩及び水とを配合し、これらを均一に混合することで、節類抽出物入り液体調味料を作製した。そしてこの試験では、節水蒸気抽出留液の配合量のみを0.10質量%〜1.50質量%の範囲で変更することにより複数のサンプル(試験例1−1〜1−8の8種類)を得た。具体的にいうと、節水蒸気抽出留液の配合量を「試験例1−1」では0.10質量%、「試験例1−2」では0.20質量%、「試験例1−3」では0.40質量%、「試験例1−4」では0.60質量%、「試験例1−5」では0.80質量%、「試験例1−6」では1.00質量%、「試験例1−7」では1.20質量%、「試験例1−8」では1.50質量%、にそれぞれ設定した。
【0045】
その結果、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)の計算値は、「試験例1−1」では0.06質量%、「試験例1−2」では0.11質量%、「試験例1−3」では0.22質量%、「試験例1−4」では0.33質量%、「試験例1−5」では0.44質量%、「試験例1−6」では0.56質量%、「試験例1−7」では0.67質量%、「試験例1−8」では0.83質量%、であった。なお、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値は一律に3.00質量%、塩分濃度(S)の計算値は一律に1.50質量%であった。よって、これらの数値に基づいて、比率(S/B1)、比率(B2/B1)を算出した結果を表1に示す。それによると、比率(S/B1)は最小で1.79、最大で26.79という値となった。比率(B2/B1)は最小で3.60、最大で53.96という値となった。また、各試験例についてそれぞれ従来公知の分析を行い、pHの値、ブリックスの値(%)を調査したところ、いずれもpH=5.4、ブリックス=4.3%であった(表1参照)。
【0046】
次にこれら8種類の試験区について、熟練した官能評価者4名のパネルによる官能検査を行うことにより3項目(「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」)につき評価した。
【0047】
「塩味増強度」の評価に関しては、節水蒸気抽出留液を全く配合していないコントロール(表1では記載を省略)と比較して、1.15倍程度の塩味増強効果が図られていると評価できるものを「◎」、1.10倍程度の塩味増強効果が図られていると評価できるものを「○」、1.05倍程度の塩味増強効果が図られていると評価できるものを「△」、全く効果のないものを「×」で表現した。ちなみに、本願出願人が自社内であらかじめ行った官能評価によると、「人は、塩分1.00%前後において、0.02%程度の塩分の違いを認識できる」ことを確認している。つまり、これは塩分1.00%と1.02%とで識別が可能であることを意味している。よって、塩分値1.0%と1.1%とでは明らかな違いとして認識することができる。
【0048】
「旨味増強度」の評価に関しては、上記コントロールと比較したときに、相対的に旨味の増強度がかなり強いものを「◎」、強いものを「○」、やや強いものを「△」、差がないものを「×」で表現した。
【0049】
「味の伸び(持続性)」とは、上記コントロールと比較して、後に味(だし感やだし味全体)が強く残ること、後味として強いこと、あるいは味が消えるまでの時間が長いこと等を言うものと定義する。「味の伸び」の評価としては、コントロールと比較して、相対的に味の伸びの増強度がかなり強いものを「◎」、強いものを「○」、やや強いものを「△」、差のないものを「×」とした。その結果を同じく表1に示す。
【0050】
表1に示されるように、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」に関しては、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)が0.11質量%であった試験例1−2(S/B1=13.39かつB2/B1=26.98)から、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)が0.67質量%であった試験例1−7(S/B1=2.23,B2/B1=4.50)までの6つのものにおいて、「〇」以上の評価となった。これに対し、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)が0.06質量%であった試験例1−1(S/B1=26.79かつB2/B1=53.96)や、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)が0.83質量%であった試験例1−8(S/B1=1.79かつB2/B1=3.60)では、コントロールとの差が認められず「×」の評価となった。なお、評価が「×」のものは、特定の味が際立ってしまう等、全体としての風味バランスが良いとは言い難いものであった。これに対し、評価が「△」以上のものは、全体としての風味バランスが良かった。
【0051】
従って、この試験1のような条件に設定した場合、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」の向上を達成するうえでは、比率(S/B1)を2.23以上13.39以下に設定することがよく、比率(B2/B1)を4.50以上26.98以下に設定することがよいという結果が得られた。
【0052】
【表1】
【0053】
(2)試験2(塩分濃度(S)の好適範囲を決める試験)
【0054】
この試験では、基本的に上記試験1の手順に準拠して、表2の配合量に従い節類抽出物入り液状調味料(ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆ)を作製した。この試験では、液体調味料中に含まれる塩分濃度(S)が様々な値をとるように、食塩の配合量を5段階に設定変更することで複数のサンプル(試験例2−1〜試験例2−20の20種類)を得た。
【0055】
具体的にいうと、「試験例2−1、2−2、2−3及び2−4」の4つについては食塩の配合量を0.00質量%とした。「試験例2−5、2−6、2−7及び2−8」の4つについては食塩の配合量を0.30質量%とした。「試験例2−9、2−10、2−11及び2−12」の4つについては食塩の配合量を0.60質量%とした。「試験例2−13、2−14、2−15及び2−16」の4つについては食塩の配合量を1.20質量%とした。「試験例2−17、2−18、2−19及び20」の4つについては食塩の配合量を1.50質量%とした。なお、節水蒸気抽出留液の配合量を「試験例2−1、2−5、2−9、2−13及び2−17」では0.20質量%、「試験例2−2、2−6、2−10、2−14及び2−18」では0.40質量%、「試験例2−3、2−7、2−11、2−15及び2−19」では0.60質量%、「試験例2−4、2−8、2−12、2−16及び2−20」では0.80質量%、にそれぞれ設定した。
【0056】
そしてこれら20種類のサンプルについて、上記試験1と同様の計算・分析を行った結果を表2に示す。これによると、液体調味料中に含まれる塩分濃度(S)は、「試験例2−1〜試験例2−4」では0.60質量%、「試験例2−5〜試験例2−8」では0.90質量%、「試験例2−9〜試験例2−12」では1.20質量%、「試験例2−13〜試験例2−16」では1.80質量%、「試験例2−17〜試験例2−20」では2.10質量%、であった。なお、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)の計算値は、「試験例2−1、2−5、2−9、2−13及び2−17」では0.11質量%、「試験例2−2、2−6、2−10、2−14及び2−18」では0.22質量%、「試験例2−3、2−7、2−11、2−15及び2−19」では0.33質量%、「試験例2−4、2−8、2−12、2−16及び2−20」では0.44質量%、であった。なお、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値は一律に3.00質量%であった。
【0057】
よって、これらの数値に基づいて、比率(S/B1)、比率(B2/B1)を算出した結果を表2に示す。それによると、比率(S/B1)は最小で1.35、最大で18.88という値となった。比率(B2/B1)は最小で6.74、最大で26.98という値となった。また、各試験例についてそれぞれ従来公知の分析を行い、pHの値を調査したところ、いずれもpH=5.4であった。また、ブリックスの値(%)を調査したところ最小で3.4%、最大で4.9%であった(表2参照)。
【0058】
次にこれら20の試験区について、上記試験1と同様の官能試験による評価を行った結果を表2に示す。即ち、表2に示されるように、「試験例2−4」(S/B1=1.35かつB2/B1=6.74)では、唯一コントロールとの差が認められず「×」の評価となったが、それ以外の試験区においては、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」について向上効果が認められた。ちなみに、「△」以上の評価となった19種の試験区の比率(S/B1)に注目すると、最小で1.80、最大で18.88であった。「〇」以上の評価となった16種の試験区の比率(S/B1)に注目すると、最小で2.70、最大で16.19であった。「◎」以上の評価となった3種の試験区の比率(S/B1)に注目すると、最小で2.70、最大で5.40であった。なお、評価が「×」のものは、特定の味が際立ってしまう等、全体としての風味バランスが良いとは言い難いものであった。これに対し、評価が「△」以上のものは、全体としての風味バランスが良かった。
【0059】
従って、この試験2のような塩分条件(即ち、喫食時の塩分が0.6質量%以上2.1質量%以下)に設定した場合、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」の向上を達成するうえでは、少なくとも比率(S/B1)を1.80以上18.88以下に設定する必要があり、より好ましくは2.70以上16.19以下、特に好ましくは2.70以上5.40以下に設定することがよいという結果が得られた。
【0060】
【表2】
【0061】
(3)試験3(水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)に対する、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の比率(B2/B1)の好適範囲を決める試験)
【0062】
この試験では、基本的に上記試験1の手順に準拠して、表3の配合量に従い節類抽出物入り液状調味料(ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆ)を作製した。この試験では、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)が様々な値をとるように、節水抽出物の配合量を10段階に設定変更することで複数のサンプル(試験例3−1〜試験例3−10の10種類)を得た。具体的にいうと、「試験例3−1〜試験例3−10」における節水抽出物の配合量を、この順序で、0.00質量%、3.33質量%、6.67質量%、10.00質量%、13.33質量%、16.67質量%、20.00質量%、26.67質量%、33.33質量%、40.00質量%に設定した。
【0063】
そしてこれら10種類のサンプルについて、上記試験1と同様の計算・分析を行った結果を表3に示す。これによると、液体調味料中に含まれる水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値は、「試験例3−1〜試験例3−10」の順序で、0.00質量%、0.50質量%、1.00質量%、1.50質量%、2.00質量%、2.50質量%、3.00質量%、4.00質量%、5.00質量%、6.00質量%となった。なお、液体調味料中に含まれる塩分濃度(S)は一律に1.50質量%、水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)の計算値は一律に0.28質量%であった。
【0064】
よって、これらの数値に基づいて、比率(S/B1)、比率(B2/B1)を算出した結果を表3に示す。それによると、比率(S/B1)は一律に5.40であった。比率(B2/B1)は最小で0.00、最大で21.60という値となった。また、各試験例についてそれぞれ従来公知の分析を行い、pHの値を調査したところ、いずれもpH=5.4であった。また、ブリックスの値(%)を調査したところ最小で4.1%、最大で4.6%であった(表3参照)。
【0065】
次にこれら10の試験区について、上記試験1と同様の官能試験による評価を行った結果を表3に示す。即ち、表3に示されるように、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値が0.00質量%、5.00質量%、6.00質量%である「試験例3−1、試験例3−9、試験例3−10」については、コントロールとの差が認められず「×」の評価となったが、それ以外の試験区においては、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」について向上効果が認められた。なお、上記の評価となった主な原因は、試験例3−1では比率(B2/B1)の値が小さすぎ、試験例3−9及び試験例3−10では比率(B2/B1)の値が大きすぎるからであると考察された。ちなみに、「△」以上の評価となった7種の試験区の比率(B2/B1)に注目すると、最小で1.80、最大で14.40であった。「〇」以上の評価となった5種の試験区の比率(B2/B1)に注目すると、最小で5.40、最大で14.40であった。「◎」以上の評価となった3種の試験区の比率(B2/B1)に注目すると、最小で7.20、最大で10.80であった。なお、評価が「×」のものは、特定の味が際立ってしまう等、全体としての風味バランスが良いとは言い難いものであった。これに対し、評価が「△」以上のものは、全体としての風味バランスが良かった。
【0066】
従って、この試験3のような条件に設定した場合、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」の向上を達成するうえでは、少なくとも比率(B2/B1)を1.80以上に設定する必要があり、より好ましくは1.80以上14.40以下、特に好ましくは5.40以上14.40以下、最も好ましくは7.20以上10.80以下に設定することがよいという結果が得られた。
【0067】
【表3】
【0068】
(4)試験4(pHの好適範囲を決める試験)
【0069】
この試験では、基本的に上記試験1の手順に準拠して、表4の配合量に従い節類抽出物入り液状調味料(ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆ)を作製した。この試験では、液体調味料が様々なpHの値をとるように、pH調整剤を適宜使用して複数のサンプル(試験例4−1〜試験例4−24の24種類)を得た。pH調整剤としては、酸度15%の高酸度酢あるいは食添NaOHを用いた。なお、節水蒸気抽出留液の配合量を「試験例4−1、4−4、4−7、4−10、4−13、4−16、4−19及び4−22」では0.40質量%、「試験例4−2、4−5、4−8、4−11、4−14、4−17、4−20及び4−23」では0.60質量%、「試験例4−3、4−6、4−9、4−12、4−15、4−18、4−21及び4−24」では0.80質量%、にそれぞれ設定した。
【0070】
そしてこれら24種類のサンプルについて、上記試験1と同様の計算・分析を行った結果を表4に示す。これによると、各試験例についてそれぞれ従来公知の分析を行い、pHの値を調査したところ、「試験例4−1〜試験例4−3」ではpH=4.0、「試験例4−4〜試験例4−6」ではpH=4.5、「試験例4−7〜試験例4−9」ではpH=5.0、「試験例4−10〜試験例4−12」ではpH=5.5、「試験例4−13〜試験例4−15」ではpH=6.0、「試験例4−16〜試験例4−18」ではpH=6.5、「試験例4−19〜試験例4−21」ではpH=7.0、「試験例4−22〜試験例4−24」ではpH=7.5であった。また、ブリックスの値(%)を調査したところ一律に4.3%であった(表4参照)。なお、液体調味料中に含まれる塩分濃度(S)は一律に1.50質量%、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値は一律に3.00質量%であった。水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)の計算値は、最小で0.22質量%、最大で0.44質量%であった。そして、これらの数値に基づいて、比率(S/B1)、比率(B2/B1)を算出したところ、比率(S/B1)は、最小で3.37、最大で6.74という値となった。比率(B2/B1)は最小で6.74、最大で13.49という値となった。
【0071】
次にこれら24の試験区について、上記試験1と同様の官能試験による評価を行った結果を表4に示す。即ち、表4に示されるように、pHが4.00あるいは4.50である「試験例4−1〜試験4−6」については、コントロールとの差が認められず「×」の評価となった。また、pHが7.50である「試験例4−22〜試験4−24」についても、コントロールとの差が認められず「×」の評価となった。これに対し、それ以外の試験区においては、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」について向上効果が認められた。なお、上記の評価となった主な原因は、試験例4−1〜試験例4−6ではpHの値が低すぎ、試験例4−22〜試験例4−24ではpHの値が高すぎるからであると考察された。ちなみに、「△」以上の評価となった15種の試験区のpHは、最小で5.00、最大で7.00であった。「〇」以上の評価となった12種の試験区のpHは、最小で5.00、最大で6.50であった。「◎」以上の評価となった1種の試験区のpHは5.50であった。なお、評価が「×」のものは、特定の味が際立ってしまう等、全体としての風味バランスが良いとは言い難いものであった。これに対し、評価が「△」以上のものは、全体としての風味バランスが良かった。
【0072】
従って、この試験4のような条件に設定した場合、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」の向上を達成するうえでは、少なくともpHを5.00以上7.00以下に設定する必要があり、より好ましくは5.00以上6.50以下、特に好ましくは5.50前後に設定することがよいという結果が得られた。
【0073】
【表4】
【0074】
(5)試験5(ブリックスの値の好適範囲を決める試験)
【0075】
この試験では、基本的に上記試験1の手順に準拠して、表5の配合量に従い節類抽出物入り液状調味料(ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆ)を作製した。この試験では、液体調味料が様々なブリックスの値(Bx値)をとるように、砂糖の配合量を変更して複数のサンプル(試験例5−1〜試験例5−15の15種類)を得た。なお、節水蒸気抽出留液の配合量を「試験例5−1、5−4、5−7、5−10及び5−13」では0.40質量%、「試験例5−2、5−5、5−8、5−11及び5−14」では0.60質量%、「試験例5−3、5−6、5−9、5−12及び5−15」では0.80質量%、にそれぞれ設定した。
【0076】
そしてこれら15種類のサンプルについて、上記試験1と同様の計算・分析を行った結果を表5に示す。これによると、各試験例についてそれぞれ従来公知の分析を行い、ブリックスの値を調査したところ、「試験例5−1〜試験例5−3」ではBx=3.3、「試験例5−4〜試験例5−6」ではBx=4.3、「試験例5−7〜試験例5−9」ではBx=6.3、「試験例5−10〜試験例5−12」ではBx=8.3、「試験例5−13〜試験例5−15」ではBx=10.3であった。なお、液体調味料中に含まれる塩分濃度(S)は一律に1.50質量%、水系溶媒抽出物由来節類質量%(B2)の計算値は一律に3.00質量%、pHの値(%)は一律に5.4であった(表5参照)。水蒸気抽出物由来節類質量%(B1)の計算値は、最小で0.22質量%、最大で0.44質量%であった。そして、これらの数値に基づいて、比率(S/B1)、比率(B2/B1)を算出したところ、比率(S/B1)は、最小で3.37、最大で6.74という値となった。比率(B2/B1)は最小で6.74、最大で13.49という値となった。
【0077】
次にこれら15の試験区について、上記試験1と同様の官能試験による評価を行った結果を表5に示す。即ち、表5に示されるように、Bx=10.3である「試験例5−13〜試験5−15」については、コントロールとの差が認められず「×」の評価となったが、それ以外の試験区においては、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」について向上効果が認められた。ちなみに、「△」以上の評価となった12種の試験区のBx値は、最小で3.3、最大で8.3であった。「〇」以上の評価となった9種の試験区のBx値は、最小で3.3、最大で6.3であった。「◎」以上の評価となった1種の試験区のBx値は4.3であった。なお、評価が「×」のものは、特定の味が際立ってしまう等、全体としての風味バランスが良いとは言い難いものであった。これに対し、評価が「△」以上のものは、全体としての風味バランスが良かった。
【0078】
従って、この試験5のような条件に設定した場合、「塩味増強度」、「旨味増強度」及び「味の伸び(持続性)」の向上を達成するうえでは、少なくともBx値を8.3以下に設定する必要があり、好ましくは6.3以下、より好ましくは3.3以上6.3以下、特に好ましくは4.3前後に設定することがよいという結果が得られた。
【0079】
【表5】
【0080】
(6)まとめ
【0081】
上述したように、本実施形態によると、塩分が少なくても塩味等を十分に感じさせることができ、全体としての風味バランスも優れた節類抽出物入り液体調味料を提供することができる。また、節類抽出物入り液体調味料について塩味を増強しうる方法、旨味を増強しうる方法、味持続性を増強しうる方法を提供することができる。
【0082】
なお、本発明の実施形態は発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて以下のように変更してもよい。例えば、上記実施形態では本発明の節類抽出物入り液状調味料を、ストレートタイプの鰹だし入りかけつゆとして具体化したが、これに限定されない。即ち、ストレートタイプに代えて濃縮タイプの液状調味料に具体化してもよい。また、鰹だし入りかけつゆに代えて、例えば、鰹だし入りのそばつゆ、そうめんつゆ、てんつゆ等として具体化してもよい。