(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メイン電源および前記ターゲット電源それぞれが電気的に並列な複数の回路に分解できるとき、前記補償回路は、ひとつの回路ごとに補償電流を計算する複数の算出部を含むことを特徴とする請求項4に記載の電源装置。
【背景技術】
【0002】
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)テクノロジを用いたCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、メモリなどの半導体集積回路を試験する際、試験対象回路(以下、DUT:Device Under Test)内のフリップフロップやラッチは、クロックが供給される動作中は電流が流れ、クロックが停止すると回路が静的な状態となって電流が減少する。したがって、DUTの動作電流(負荷電流)の合計は、試験の内容などに応じて時々刻々と変動する。
【0003】
DUTに電力を供給する電源回路はたとえばレギュレータを用いて構成され、理想的には負荷電流にかかわらず一定の電圧(もしくは電流)を供給可能である。しかしながら実際の電源回路は、無視できない出力インピーダンスを有し、また電源回路とDUTの間にも無視できないインピーダンス成分が存在するため、負荷変動によって電源電圧が変動してしまう。
【0004】
多くの場合、試験装置の電源環境と、実機の電源環境が同一であることは希であり、したがって、試験装置と実機においてDUTに同じ負荷変動が生じたとしても、それぞれには、異なる電源電圧波形が発生する。試験装置と実機における電源電圧波形の相違は、パスと判定すべきDUTをフェイルと判定するオーバーキル、ならびに、フェイルと判定すべきDUTをパスと判定するテストエスケープの要因となる。
【0005】
図1は、本発明者らが検討した補償回路を備える電源装置の構成を示すブロック図である。DUT1の電源端子P1には、電源電圧V
DDが供給され、その接地端子P2は接地される。DUT1のI/O端子P3には、図示しない試験装置のドライバからテストパターンS
TESTが供給される。
【0006】
電源装置8は、メイン電源10と電源補償回路12を備え、DUT1の電源端子P1に電源電圧V
DDを供給する。メイン電源10の出力端子は、電源ラインを介してDUT1の電源端子P1と接続される。メイン電源10は、デジタル制御回路とデジタル/アナログ変換器の組み合わせ、リニアレギュレータ、スイッチングレギュレータなどであり、電源端子P1の電源電圧V
DDが目標電圧V
REFと一致するように、出力電圧V
OUTを制御する。
【0007】
電源補償回路12のソース電流源12bは、制御パターンS
CNT1に応じてスイッチングし、メイン電源10とは別の経路からDUT1の電源端子P1にパルス状の補償電流I
SRCを注入(ソース)する。シンク電流源12cは、制御パターンS
CNT2に応じてスイッチングし、パルス状の補償電流I
SINKをDUT1とは別の経路に引き込む(シンク)。
【0008】
そして、DUT1に供給されるテストパターンS
TESTに応じて発生しうる電源電圧V
DDの変動をキャンセルするように、電源補償回路12に対する補償用の制御パターンS
CNT1、S
CNT2をテストパターンS
TESTに対応付けて定義しておく。実試験時には、テストパターンS
TESTをDUT1に供給しつつ、電源補償回路12を制御パターンS
CNT1、S
CNT2に応じて制御することにより、電源電圧V
DDを一定に保つことができる。
【0009】
上述のように、試験装置と実機の電源環境の相違に起因するオーバーキル、テストエスケープを防止するために、DUTを試験する際に、DUTの実動作環境と同じ電源環境を再現したいという要請がある。これを本明細書において電源環境のエミュレーションと称する。
図1の電源補償回路においても、実機と同じ所望の電源電圧波形が得られるように、制御パターンS
CNTを定めておき、補償回路が生成する補償電流を時間とともに変化させることで、試験装置において、実機の電源環境を再現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1の電源回路8では、デバイスの動作条件(すなわちテストパターンS
TEST)が変更されるごとに、補償電流波形(すなわち制御パターンS
CNT1,S
CNT2)を算出し直さなければならず、試験コストが高くなるという問題がある。
【0012】
また予測制御であるが故に、DUTの特性の個体ばらつきなど、未知の変動成分を十分に補償することができず、十分な補償精度が得られない場合があった。あるいは個体ばらつきによる変動成分を補償するためには、各DUTの特性をあらかじめ測定する必要があり、さらに試験コストが高くなる。
【0013】
さらには、
図1の電源補償回路では、原理上、デバイスの動作条件(テストパターンS
TEST)が既知であることが要求され、適用範囲が限定されるという問題もあった。
【0014】
ここでは、試験装置用の電源回路におけるエミュレートを例として本発明の課題を説明したが、試験装置以外で使用される電源回路においても、別の電源環境をエミュレートしたい場合もあり得る。
【0015】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、従来と異なるアプローチで、所望の電源環境をエミュレートあるいは再現可能な電源装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある態様は、電源電圧を供給する電源回路に関する。電源回路は、メイン電源と、その入力に電源電圧に応じた検出信号がフィードバックされ、メイン電源の特性とエミュレーションの対象であるターゲット電源の特性に応じた入出力特性を有し、検出信号に応じた補償電流を、電源電圧の発生ノードに注入(ソース)および引き抜き(シンク)を行う補償回路と、を備える。
【0017】
この態様によると、ターゲット電源において発生する電源電圧の波形を、エミュレートあるいは再現することができる。
なお電源の特性とは、インピーダンスやコンダクタンスの他、インパルス応答など、電源の周波数特性と相関を有する特性をいう。
【0018】
入出力特性は、メイン電源のコンダクタンスとターゲット電源のコンダクタンスに応じていてもよい。なおコンダクタンスは、インピーダンスの逆数であるから、入出力特性は、インピーダンスの逆数に応じているとみなしてもよい。
【0019】
入出力特性は、メイン電源のコンダクタンスとターゲット電源のコンダクタンスの差分に応じていてもよい。
【0020】
補償回路は、差分に相当するコンダクタンスに、検出信号が示す電源電圧が印加されたときに流れる電流を示す制御信号を生成する算出部と、制御信号に応じた補償電流を発生する電流源と、を含んでもよい。
【0021】
算出部は、アナログフィルタもしくはアナログ増幅器を含んでもよい。算出部は、デジタルフィルタを含んでもよい。
【0022】
メイン電源およびターゲット電源それぞれが電気的に並列な複数の回路に分解できるとき、補償回路は、回路ごとに補償電流を計算する複数の算出部を含んでもよい。メイン電源およびターゲット電源のコンダクタンスを、複数の成分に分解し、成分ごとに個別に補償電流を制御することにより、回路設計が容易となり、また回路構成を簡素化できる。
【0023】
本発明の別の態様は試験装置に関する。試験装置は上述のいずれかの電源回路を備えてもよい。
これにより、DUTが使用される実機環境をエミュレートすることができ、オーバーキルやテストエスケープを低減できる。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のある態様によれば、所望の電源環境をエミュレートできる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図2は、実施の形態に係る電源装置のブロック図である。電源装置100は、回路30に電源電圧V
DDを供給する。回路30は、半導体デバイスであってもよいし、基板上に搭載された複数の回路素子を含んでもよい。便宜的に、電源電圧V
DDの供給先(発生ノード)を、電源端子32と称する。
【0030】
電源装置100は、メイン電源102および補償回路104を備える。メイン電源102は、たとえば電源電圧V
DDを目標電圧V
REFに安定化する定電圧源である。メイン電源102の種類は特に限定されず、デジタル制御回路とD/Aコンバータの組み合わせ、あるいはスイッチングレギュレータやリニアレギュレータなどを用いうる。
【0031】
補償回路104の入力INには、電源電圧V
DDに応じた検出信号V
Sがフィードバックされる。また補償回路104の出力OUTは、電源電圧V
DDの供給先の電源端子VDDと接続される。補償回路104は、検出信号V
Sに応じた補償電流i
COMPを、電源電圧V
DDの発生ノードである電源端子32に注入(ソース)し、あるいは引き抜く(シンク)。以下、説明の簡潔化のため、V
S=V
DDとするが、本発明はそれには限定されず、検出電圧V
Sは、電源電圧V
DDを分圧した信号であってもよいし、増幅した信号であってもよい。
【0032】
補償回路104の入出力特性f
IOは、メイン電源102の特性とエミュレーションの対象であるターゲット電源110の特性に応じて設定される。電源の特性とは、(i)インピーダンスや(ii)コンダクタンスの他、(iii)インパルス応答やステップ応答など、電源の周波数特性と相関を有する特性をいう。以下では、理解の容易化と説明の簡潔化のため、電源の特性として、コンダクタンスGに着目する。
【0033】
図3(a)〜(d)は、電源装置100の原理を説明する図である。
図3(a)には、メイン電源102の等価回路図が示される。メイン電源102は、理想電源106と、回路網108を含む。回路網108は、メイン電源102の内部インピーダンスや、メイン電源102から回路30に至る電源ライン、バイパスコンデンサなどのインピーダンスなどを含み、したがってメイン電源102の応答特性(周波数特性)を表している。メイン電源102は、電源電圧V
DDの波形に影響を及ぼすすべての回路素子を含む回路ブロックに相当し、具体的にはスイッチングレギュレータやリニアレギュレータの本体に加えて、電源ライン、バイパスコンデンサ等も含む。ここでは明確化のために一例として、回路網108を、シャントキャパシタC,シリーズインダクタLおよびシリーズ抵抗Rの組み合わせでモデル化しているが、本発明はそれには限定されない。
【0034】
メイン電源102の回路網108のコンダクタンスをG
MAINとする。回路網108のコンダクタンスは、回路網108の出力ノード(つまり電源電圧V
DDの発生ノード)の電圧をv、回路網108に流れる電流をiとしたとき、式(1)で表される。
i=G
MAIN×v
なお理想電源106のインピーダンスはゼロと近似できる。
図3(a)のコンダクタンスG
MAINは、式(2)で表される。
G
MAIN=1/jωL+1/R+jωC …(2)
【0035】
図3(b)には、エミュレーションの対象のターゲット電源110の等価回路図が示される。ターゲット電源110についても、理想電源112と回路網114の組み合わせでモデル化することができる。回路網114のコンダクタンスをG
TGTは、式(3)で表される。
G
TGT=1/jωL’+1/R’+jωC’ …(3)
【0036】
図3(c)は、
図3(a)のメイン電源102に、回路網116を追加した電源回路102’である。回路網116は、ターゲット電源110のコンダクタンスG
TGTとメイン電源102のコンダクタンスG
MAINの差分に応じた補償コンダクタンスG
COMPを有する。
G
COMP=G
TGT−G
MAIN
【0037】
図3(c)において、電源端子32からメイン電源102’側を見たコンダクタンスG’は、式(4)で表され、
図3(b)のターゲット電源110のコンダクタンスG
TGTと一致する。
G’=G
MAIN+G
COMP=G
MAIN+(G
TGT−G
MAIN)=G
TGT …(4)
【0038】
回路網116に流れる電流i’は、電源電圧V
DDを用いて、式(5)で表される。
i’=G
COMP×V
DD …(5)
【0039】
図3(d)は、実施の形態に係る電源装置100の等価回路図を示す。電源装置100の補償回路104は、
図3(c)の回路網116に流れる電流i’を発生する電流源である。ここで、補償回路104の入出力特性として、式(6)が成り立つとき、
図3(d)の電源装置100と、
図3(c)の電源回路102’(すなわち
図3(b)のターゲット電源110)が等価となる。
i
COMP=G
COMP×V
DD
【0040】
つまり補償回路104の入力を、電源電圧V
DDに応じた検出信号V
S、その出力を補償電流i
COMPとしたときに、その入出力特性f
IOを、ターゲット電源110のコンダクタンスG
TGTとメイン電源102のコンダクタンスG
MAINの差分にもとづいて設定すればよい。
【0041】
以上が電源装置100の原理である。この電源装置100によれば、ターゲット電源110とメイン電源102それぞれの特性(たとえばコンダクタンス)にもとづいて補償回路104の入出力特性f
IOを設定することにより、ターゲット電源110の電源環境をエミュレートすることができる。
【0042】
本発明は、
図2あるいは
図3のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例を説明する。
【0043】
以下では、補償回路104の具体的な構成例を説明する。
【0044】
図4(a)、(b)は、回路網108(114)の一例の等価回路図であり、
図4(c)は、電源装置100の構成例のブロック図である。
図4(a)において理想電源106(112)は短絡でき、したがって
図4(b)の等価回路が得られる。つまり
図4(a)の回路網108のコンダクタンスGは、シャントキャパシタC、シリーズ抵抗R、シリーズインダクタLそれぞれのコンダクタンスG
C,G
R,G
Lの並列接続と把握される。
G=G
C+G
R+G
L
【0045】
メイン電源102におけるL,R,Cの値を、L
1,R
1,C
1とし、それぞれのコンダクタンスをG
L1,G
R1,G
C1とする。
G
L1=1/jωL
1
G
R1=1/R
1
G
C1=jωC
1
G
MAIN=G
L1+G
R1+G
C1
【0046】
同様に、ターゲット電源110のL,R,Cの値を、L
2,R
2,C
2とし、それぞれのコンダクタンスをG
L2,G
R2,G
C2とする。
G
L2=1/jωL
2
G
R2=1/R
2
G
C2=jωC
2
G
TGT=G
L2+G
R2+G
C2
【0047】
コンダクタンスの差分(補償コンダクタンス)G
COMPは、式(6)となる。
G
COMP=G
TGT−G
MAIN
=ΔG
L+ΔG
R+ΔG
C
=(G
L2−G
L1)+(G
R2−G
R1)+(G
C2−G
C1) …(6)
【0048】
i
COMP=G
COMP×V
S={ΔG
L+ΔG
R+ΔG
C}×V
S
が成り立つから、L成分(誘導性)、R成分(抵抗性)、C成分(容量性)それぞれのコンダクタンスの差分ΔG
L,ΔG
R,ΔG
Cを、個別に補償すればよいことがわかる。この場合、補償回路104は、
図4(c)に示すように、L成分、R成分,C成分を補償する3つの補償ユニット120_1〜120_3に分けて構成することができる。補償ユニット120_1の入出力特性はΔG
Lに応じて設定され、補償ユニット120_2の入出力特性はΔG
Rに応じて設定され、補償ユニット120_3の入出力特性はΔG
Cに応じて設定される。
【0049】
図5(a)、(b)は、一般化された回路網108(114)および補償回路104を示す図である。回路網108(114)を電源端子32から望んだときに、複数N個の回路(枝)122の並列接続として表され、i番目(1≦i≦N)のシャント回路122のコンダクタンスがG
iであり、全体のコンダクタンスが式(7)で表されるとき、補償回路104は、複数N個の補償ユニット120で構成することができる。
G=Σ
i=1:NG
i …(7)
たとえばシャント回路122_1は抵抗性のコンダクタンスを有し、シャント回路122_2は誘導性のコンダクタンスを有し、シャント回路122_3は容量性のコンダクタンスを有し、シャント回路122_4は抵抗と容量の直列接続のコンダクタンスを有し、シャント回路122_5は抵抗とインダクタの直列接続のコンダクタンスを有し、シャント回路122_6は、抵抗、容量、インダクタの直列接続のコンダクタンスを有する。この考えを導入することにより、補償回路104の設計を簡素化できる。
【0050】
図6(a)、(b)は、補償回路104の構成例を示す回路図である。
図6(a)の補償回路104は、算出部130および電流源132を備える。補償回路104が
図5に示したように複数の補償ユニット120を備える場合、補償ユニット120それぞれが、算出部130および電流源132を含む。
算出部130は、差分に相当するコンダクタンスΔGに、検出信号V
Sが示す電源電圧V
DDが印加されたときに流れる電流を示す制御信号V
CNTを生成する。
V
CNT=ΔG×V
DD
【0051】
電流源132は、制御信号V
CNTに応じた補償電流i
COMPを発生する。すなわち電流源132は、変換ゲインAを有するV/I変換回路、あるいはトランスコンダクタンスアンプと把握することもできる。
i
COMP=V
CNT×A
【0052】
図6(b)の補償回路104は、
図5(b)に示すように複数の補償ユニット120を含む補償回路104に対応しており、複数の補償ユニット120の間で、電流源132が共有される。算出部130は補償ユニット120ごとに設けられ、加算器133は、複数の補償ユニット120_1〜120_Nが生成した制御信号V
CNT1〜V
CNTNを加算する。電流源132は加算された制御信号V
CNTを補償電流i
COMPに変換する。
【0053】
補償回路104は、以下で説明するように、アナログ回路、デジタル回路もしくはそれらの組み合わせで構成することができる。
【0054】
(アナログ回路による実装)
図7は、第1の構成例に係る補償回路104aを示す回路図である。
図7の補償回路104aにおいて、算出部130aは、オペアンプを用いた反転増幅器あるいはフィルタで構成される。具体的には算出部130aは、オペアンプ134、入力回路136および帰還回路138を備える。入力回路136のインピーダンスをZ
IN、帰還回路138のインピーダンスをZ
FBとするとき、算出部130aの入出力特性は、式(7)で表され、補償電流i
COMPは式(8)で表される。なおここでは、補償電流i
COMPは、負がシンク電流に、正がソース電流に対応するものとする。
V
CNT=−Z
FB/Z
IN×V
S …(7)
i
COMP=V
CNT×A=−A×Z
FB/Z
IN×V
S …(8)
なお、電流源132の変換ゲインAを負とすることで、i
COMPは正、すなわちソース電流となり、負性のインピーダンス(抵抗、キャパシタ、インダクタンスなど)を補償することができる。
【0055】
図7の補償回路104aは、容量性、抵抗性、誘導性あるいはそれらの組み合わせのコンダクタンスを補償することができる。
【0056】
(容量性コンダクタンス)
たとえば
図4(c)の補償ユニット120_3のように、容量性のコンダクタンスを補償する場合、入力回路136をキャパシタC
INで、帰還回路138を抵抗R
FBで構成すればよい。この場合、Z
IN=1/(jωC
IN)であり、補償電流i
COMPは以下の式で表される。
i
COMP=−A×R
FB/(jωC
IN)
−1×V
S
補償すべきコンダクタンスがΔG
C=jωCで表され、V
S=V
DDである場合には、式(9)を満たすように、A,R
FB,C
INの値を設計すればよい。
jωC=−A×R
FB/(jωC
IN)
−1 …(9)
【0057】
(抵抗性コンダクタンス)
たとえば
図4(c)の補償ユニット120_2のように、抵抗性のコンダクタンスを補償する場合、入力回路136を抵抗R
INで、帰還回路138を抵抗R
FBで構成すればよい。この場合、Z
IN=R
INであり、補償電流i
COMPは以下の式で表される。
i
COMP=−A×R
FB/R
IN×V
S
補償すべきコンダクタンスの差分がΔG
R=1/Rであり、V
S=V
DDである場合には、式(10)を満たすように、A,R
FB,R
INの値を設計すればよい。
1/R=−A×R
FB/R
IN …(10)
【0058】
(抵抗性+容量性のコンダクタンス)
補償回路104a(あるいは補償ユニット120a)が補償すべきコンダクタンスの差分が、抵抗Rと容量Cの直列接続である場合、入力回路136をR
INとC
INの直列接続で、帰還回路138を抵抗R
FBで構成すればよい。この場合、Z
IN=R
IN+(jωC
IN)
−1であり、補償電流i
COMPは以下の式で表される。
i
COMP=−A×R
FB/{R
IN+(jωC
IN)
−1}×V
S
補償すべきコンダクタンスの差分ΔGが、ΔG=1/{R+(jωC)
−1}であり、V
S=V
DDである場合、R=R
IN/(R
FB×A)、C=−C
IN×R
FB×Aを満たすように、A,R
FB,R,Cを設計すればよい。
【0059】
(誘導性コンダクタンス)
図4(c)の補償ユニット120_1のように、誘導性のコンダクタンスを補償する場合、入力回路136を抵抗R
INで、帰還回路138をキャパシタC
FBで構成すればよい。この場合、Z
IN=R
IN,Z
FB=(jωC
FB)
−1であり、補償電流i
COMPは以下の式で表される。
i
COMP=−A/(jωC
FBR
IN)×V
S
補償すべきコンダクタンスがΔG
C=1/jωLで表され、V
S=V
DDである場合には、式(11)を満たすように、A,R
IN,C
FBの値を設計すればよい。
L=−C
FB×R
IN/A …(11)
【0060】
(抵抗性+誘導性コンダクタンス)
補償すべきコンダクタンスの差分が、インダクタLと抵抗Rの直列接続である場合、入力回路136を抵抗R
INで、帰還回路138を抵抗R
FBとキャパシタC
FBの並列接続で構成すればよい。
Z
IN=R
IN
Z
FB=1/(R
FB−1+jωC
FB)
i
COMP=−A/(R
IN/R
FB+jωC
FBR
IN)×V
S
補償すべきコンダクタンスが、ΔG=1/(R+jωL)で表されるとき、
R=R
IN/R
FB/A
L=C
FBR
IN/A
を満たすように、A,R
IN,R
FB,C
FBの値を設計すればよい。
【0061】
図8は、第2の構成例に係る補償回路104bを示す回路図である。この補償回路104bは、抵抗性、誘導性、容量性の直列接続のコンダクタンスを補償することができる。算出部130bは、オペアンプ140、抵抗R
1,R
2、キャパシタC
1,C
2を含む。算出部130bの入出力特性は、式(12)で表される。
V
CNT={jωC
1R
1+(jωC
2R
2)
−1+(C
1+C
2)/C
2×R
1/R
2}
−1×V
S
i
COMP=−A×V
CNT
=−A/{jωC
1R
1+(jωC
2R
2)
−1+(C
1+C
2)/C
2×R
1/R
2}×V
S
…(12)
【0062】
補償すべきコンダクタンスの差分ΔGが、L,C,Rの直列接続であり、ΔG={jωL+(jωC)
−1+R}であるとき、
L=C
1R
1/A
C=AC
2R
2
R=(C
1+C
2)/C
2×R
1/R
2/A
を満たすように、回路定数を定めればよい。
【0063】
当業者によれば、ここで例示した補償回路104以外にも、さまざまな回路構成を取り得ること、またそれらも本発明に含まれることが理解される。
【0064】
(デジタル回路による実装)
図9は、第3の構成例に係る補償回路104cを示す回路図である。算出部130cは、A/Dコンバータ150、デジタル演算部152、D/Aコンバータ154を含む。A/Dコンバータ150は、検出信号V
Sをデジタル値D
Sに変換する。デジタル演算部152は、デジタル演算処理によって、上述の算出部130に対応する演算を行い、制御信号V
CNTに相当する制御値D
CNTを生成する。D/Aコンバータ154は、制御値D
CNTをアナログの制御信号V
CNTに変換する。D/Aコンバータ154および電流源132を、電流DACとして一体に構成してもよい。
【0065】
たとえばデジタル演算部152は、デジタルフィルタで構成することができる。フィルタは、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタ、FIR(Finite Impulse Response)フィルタのいずれで構成してもよい。
図10(a)、(b)は、FIRフィルタのデジタル演算部152aの構成例を示す回路図である。
図10(a)は、直接型、
図10(b)は転置型である。タップ係数a
0〜a
N−1は、メイン電源102の応答特性およびターゲット電源110の応答特性にもとづいて算出される伝達特性にもとづいて定めればよい。伝達特性は具体的には、電源電圧波形から補償電流波形への変換特性、言い換えればコンダクタンスG
MAINとG
TGTの差分から計算することができる。
【0066】
図11(a)〜(c)は、IIRフィルタのデジタル演算部152bの構成例を示す回路図である。
図11(a)は、一次IIRフィルタであり、その伝達特性は、以下の式で与えられる。z
−1は遅延要素を表す。
H(z)=1/(1−az
−1)
である。
図11(b)、(c)はそれぞれ、直接型I構成、直接型II構成の2次のIIRフィルタであり、それらの伝達特性は、タップ係数a
1〜a
2,b
0〜b
2を用いて以下の式で与えられる。
H(z)=(b
0+b
1z
−1+b
2z
−2)/(1−a
1z
−1−a
2z
−2)
【0067】
当業者によれば、補償回路104に要求される所望の入出力特性が得られるように、フィルタのタップ係数を適宜計算することができるため、計算手法については説明を省略する。
【0068】
デジタル演算部152は、デジタルフィルタに代えて、プロセッサとソフトウェアプログラムの組み合わせで構成してもよい。
【0069】
最後に、電源装置100の用途を説明する。
図12は、実施の形態に係る電源装置100を備える試験装置2のブロック図である。
図12には試験装置2に加えて、試験対象の半導体デバイス(以下、DUTと称す)1が示される。
【0070】
DUT1は、複数のピンを備え、その中の少なくともひとつが電源電圧V
DDを受けるための電源端子P1であり、別の少なくともひとつが接地端子P2である。複数の入出力(I/O)端子P3は、外部からのデータを受け、あるいは外部にデータを出力するために設けられており、試験時においては、試験装置2から出力される試験信号(テストパターン)S
TESTを受け、あるいは試験信号S
TESTに応じたデータを試験装置2に対して出力する。
図12には、DUT1からの信号を評価するための構成は省略されている。
【0071】
試験装置2は、上述した電源装置100、パターン発生器PG、複数のタイミング発生器TGおよび波形整形器FC、複数のドライバDRを備える。
【0072】
試験装置2は複数n個のチャンネルCH1〜CHnを備えており、その中のいくつか(CH1〜CH4)がDUT1の複数のI/O端子P3に割り当てられる。実際の試験装置2のチャンネル数は、数百〜数千のオーダーである。試験装置2のうち、第1〜第4チャンネルCH1〜CH4は、DUT1にテストパターンを供給する試験ユニットである。
【0073】
電源装置100は、DUT1の電源端子P1に供給すべき電源電圧V
DDを生成する。したがってDUT1およびピンP1が、上述の回路30および電源端子32に対応する。電源装置100は、メイン電源102および補償回路104を備える。
【0074】
メイン電源102の応答特性(周波数特性)S1はあらかじめ測定され、あるいはシミュレーションによって求められており、補償回路104に保持されている。応答特性S1のデータ形式は特に限定されないが、たとえば上述したように、回路網108のコンダクタンスやインピーダンス、インパルス応答などであってもよく、メモリに保持されている。試験装置2による試験の開始に先立って、試験装置2においてエミュレートしたいターゲット電源110の応答特性S2が入力される。補償回路104の入出力特性は、メイン電源102の応答特性と、入力されたターゲット電源110の応答特性にもとづいて設定される。
【0075】
以上が試験装置2の構成である。この試験装置2によれば、任意の、たとえばDUT1が搭載される実機の電源環境をターゲット電源110としてエミュレートすることができる。これにより、実動作環境と同じ条件でDUT1を試験することができ、これによりオーバーキルやテストエスケープを抑制できる。
【0076】
あるいは電源装置100のエミュレーション機能を、実機の電源回路の設計に活用することが可能である。たとえば、とあるターゲット電源110の応答特性をエミュレートして、そのときの歩留まりを測定し、歩留まりが低ければ、応答特性を修正する。これを許容される歩留まりが得られるまで繰り返し、最終的な目標の応答特性を決定する。そして目標の応答特性が得られるように、実機の電源を設計することができる。
【0077】
また電源装置100のうち、メイン電源102は従来の試験装置2に備わっているハードウェアであり、新たに追加されるのは補償回路104のみである。補償回路104は、たとえば算出部130と電流源132で構成することができ、仮に全チャンネルに補償回路104を設けたとしても、試験装置2のコスト増はたいした問題とはならず、従来のテストパターンにもとづくフィードフォワードによる補償電流の生成に比べて、試験コストを下げることができる。
【0078】
また、電源装置100は、予測制御(フィードフォワード制御)ではなく、フィードバック制御であるため、DUTの特性の個体ばらつきなど、未知の変動成分を含めて、補償することができる。これにより各DUTの特性をあらかじめ測定する必要がないため、試験コストは一層低くなる。
【0079】
また、電源装置100を用いると、デバイスの動作条件(テストパターンS
TEST)が不要であるため、適用範囲も限定されない。
【0080】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0081】
(第1変形例)
図7、
図8では、算出部130を反転型の増幅器(フィルタ)で構成したがそれには限定されず、非反転型の増幅器(フィルタ)で構成することも可能である。
【0082】
(第2変形例)
図5では、回路網108(回路網114)を、並列な複数のシャント回路122に分解したが本発明はそれには限定されない。たとえばシャント回路122_iの上側の端子と、シャント回路122_i+1の上側の端子の間には、シリーズ回路が挿入されてもよい。つまり回路網108は、シャント回路、シリーズ回路を組み合わせて表現することが可能である。
【0083】
(第3変形例)
実施の形態では、
図5(a)、(b)を参照して説明したように、分解されたひとつのシャント回路(あるいはシリーズ回路)122を、ひとつの補償ユニット120に対応付けたが、本発明はそれには限定されない。算出部130を、デジタルフィルタで構成する場合には、フィルタのタップ係数を適切に設定することにより、複数の回路122を、ひとつの補償ユニット120で補償することが可能となる。あるいは算出部130をアナログ回路で構成する場合においても、増幅器(フィルタ)の回路構成を変更することで、複数の回路122を、ひとつの補償ユニット120で補償することが可能となる。
【0084】
(第4変形例)
実施の形態では、電源装置100の用途として試験装置2を説明したが、それに限定されない。一般的な電子機器、産業機器、車載機器、家電製品等においても、既存の電源回路(メイン電源)に補償回路104を追加することで、所望の電源特性を得ることができる。
【0085】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。