特許第6307900号(P6307900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6307900
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】フッ素化炭化水素化合物充填ガス容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/10 20060101AFI20180402BHJP
   B24B 31/02 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   F17C1/10
   B24B31/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-14133(P2014-14133)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-140860(P2015-140860A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】小日向 悠子
【審査官】 吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−266246(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123038(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/088185(WO,A1)
【文献】 特公昭48−008676(JP,B1)
【文献】 特開2005−317302(JP,A)
【文献】 特公昭46−034967(JP,B1)
【文献】 特開2003−232495(JP,A)
【文献】 特開2004−270917(JP,A)
【文献】 特開平09−026093(JP,A)
【文献】 特開2011−104666(JP,A)
【文献】 米国特許第04884708(US,A)
【文献】 特開2012−207978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/10
B24B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:CF又はC11Fで表される鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が充填されてなる、アルミナを含有しない研磨石を用いて内面研磨した、材質がマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、又はステンレス鋼であることを特徴とするガス容器。
【請求項2】
前記鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が、末端の炭素原子にフッ素原子が結合していないことを特徴とする請求項1に記載のガス容器。
【請求項3】
前記鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が、2−フルオロブタン、2−メチル−2−フルオロプロパン、2−フルオロペンタンからなる群より選択される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス容器。
【請求項4】
前記鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が、2−フルオロブタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス容器。
【請求項5】
前記研磨石の主成分が鉄であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化炭化水素化合物が充填されたガス容器に関する。詳しくは、特定の研磨石を用いて内面研磨することで、高純度を維持したままフッ素化炭化水素化合物が充填できるガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フッ素化炭化水素化合物は、被エッチングガス材料への高い選択性により、半導体製造用ドライエッチングガスとして利用されている。半導体製造分野等で使用されるフッ素化炭素化合物は、99.9%以上の高純度での供給が求められており、製造したフッ素化炭素化合物を高純度で維持したままガス容器に充填する必要がある。
【0003】
ガス容器は、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼で製造されたものが多く使用されている。高純度ガス充填用ガス容器としては、パーティクルや吸着水による汚染を防止するため、通常、内面を鏡面近くまで研磨したものが使用される。研磨方法には、バレル研磨、ショットブラスト研磨、電解研磨、電解複合研磨等の種々の方法がある。しかしながら、電解研磨は高価なため、市販のガスの容器に採用されない。簡便かつ安価な方法は、ガス容器の内部空間に研磨石等を装入し、ガス容器を様々な方向に回転させることで、その内面を研磨するバレル研磨であり、従って、市販のガスは、バレル研磨された容器に充填されている。
【0004】
バレル研磨で用いられる研磨石としては、ダイヤモンド、ジルコニア、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ−シリカの複合酸化物、鉄、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。その中で、アルミナ含有セラミック系研磨石が一般的に広く用いられている。
【0005】
例えば、特許文献1には高純度ガスの純度を維持することが可能な金属製中空容器の内面研磨処理方法が開示されている。研磨メディアとして、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化ジルコニウムなどのセラミックス材を用いると記載されている。
【0006】
特許文献2には、高純度ガス充填用高圧ガス容器の内面処理方法が開示されている。ガス容器の内面を研磨処理した後、酸洗浄液で洗浄する方法であるが、研磨方法は、アルミナ含有セラミック系研磨材を用いた一般的なバレル研磨である。
【0007】
また、特許文献3には、ハロゲン系ガス充填容器の内面処理方法が開示されているが、研磨に用いる砥材として実施例に挙げられているのは、いずれもアルミナを含有する砥材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−104666号公報
【特許文献2】特開平09−026093号公報
【特許文献3】特開2004−270917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、これまでにも高純度ガス充填用ガス容器の内面研磨や洗浄に関する方法が種々提案されている。しかし、フッ素化炭化水素化合物は、アルミナと接触すると、異性化や分解反応が起こりやすく、アルミナを含有する研磨石でバレル研磨したガス容器に当該化合物を充填すると、容器内面に残留している研磨石の微量残留物によって当該化合物の純度が低下する問題があった。
【0010】
そこで、本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミナを含有しない研磨石を用いて内面研磨したガス容器を用いると、フッ素化炭化水素化合物の分解反応が起こらず、高純度で維持したまま当該化合物を充填できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かくして本発明によれば、式:CF又はC11Fで表される鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が充填されてなる、アルミナを含有しない研磨石を用いて内面研磨した、材質がマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とするガス容器が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アルミナを含有しない研磨石を用いて内面研磨したガス容器に、式:CF又はC11Fで表される鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物を充填することにより、分解反応により引き起こされる脱HF化合物の生成を抑制することを特徴とする。
本発明において、当該フッ素化炭化水素化合物の純度、及び脱HF化合物の含有量は、水素炎イオン化検出器(FID)を検出器としたガスクロマトグラフィーによりピーク面積から算出される値である。
【0013】
本発明においてフッ素化炭化水素化合物は、式:CF又はC11Fで表される鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物である。CF又はC11Fの例としては、1−フルオロブタン、2−フルオロブタン、1−フルオロ−2−メチルプロパン、2−フルオロ−2−メチルプロパン、1−フルオロペンタン、2−フルオロペンタン、3−フルオロペンタン、1−フルオロ−2−メチルブタン、1−フルオロ−3−メチルブタン、2−フルオロ−2−メチルブタン、2−フルオロ−3−メチルブタン、及び1−フルオロ−2,2−ジメチルプロパンからなる群より選択される、鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が好ましい。前記鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が、2−フルオロブタン、2−フルオロ−2−メチルプロパン、及び2−フルオロペンタンからなる群より選択される、鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物であるのがより好ましい。前記鎖状飽和フッ素化炭化水素化合物が、2−フルオロブタンであるのが特に好ましい。
【0014】
本発明のガス容器は、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、及びステンレス鋼製からなる群より選択される。
【0015】
本発明で用いられる研磨石は、主成分が鉄の研磨石である。研磨石の例としては、鉄、炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼からなる群より選択される研磨石が好ましい。
【0016】
研磨石の粒径は、特に限定されるものではないが、内面を効率よく研磨するためには、粒径の異なる数種の研磨石を組み合わせて使用することが好ましい。研磨石の平均粒径が1〜20mmの大粒球形と平均粒径1〜100μmの微粒子粉とを組み合わせて使用するのがより好ましい。形状は、四角柱、三角柱、三角錐、球状などの形状のものを用いることができる。
【0017】
次にガス容器の内面研磨方法について詳細に述べる。
内面研磨は、研磨石等を容器に入れた後、内容物がこぼれないように密栓し、容器を横転した状態で遊星運動の回転を加える、いわゆるバレル研磨法によって容器自身に自転と公転運動を与え、研磨石が容器内部で重力をかけながら流動することによって内面を平滑化する方法による。なお、この内面研磨においては、研磨石とともに純水、酸化性溶液、塩基性溶液、又は界面活性剤を添加した水等の液を加え、湿式バレル研磨するのが一般的で、必要に応じてさらに亜硝酸塩などの防錆剤を加えることもある。内面研磨の後には、通常、水及び低沸点、親水性の溶剤で洗浄したのち乾燥し、バルブを取り付けてガス容器として使用する。
【0018】
ガス容器へのフッ素化炭化水素化合物の充填は、真空引きしたガス容器に、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガスからなる群より選択される不活性ガスによってパージ処理した充填ラインを通して、フッ素化炭化水素化合物を充填する方法による。
パージ処理は、充填ラインを不活性ガスで満たした後に真空引きする回分パージ処理、不活性ガスを充填ラインに連続的に流す流通パージのいずれの方法でもよい。充填ラインは、不動態化又は電界研磨で内面処理した配管で構成されたものであることが好ましい。
【0019】
フッ素化炭化水素化合物をアルミナと、接触させたことで起こる分解反応により生じる脱HF化合物としては、例えば、2−フルオロブタンの場合、(E)−2−ブテン、(Z)−2−ブテン、1−ブテンが挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:Agilent(登録商標)7890A(アジレント社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製、製品名「Inert Cap(登録商標)1」、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で20分間保持
インジェクション温度:80℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:40/1
検出器:FID
【0022】
実施例1
マンガン鋼製、容量10リットルのガス容器を、スチールボール(アルミナを含まない炭素綱球)を研磨石として用いたバレル研磨によって内面研磨した後、高温高圧純水及び高圧イソプロピルアルコールで内部を洗浄した。その後、バルブを取り付け、0.1Paまで真空加熱乾燥しガス容器を用意した。電解研磨されたSUS製タンクに入っている2−フルオロブタンの脱HF化合物量を測定後、直ちに2−フルオロブタン1kgを、用意したガス容器に、配管を通して充填した。充填後の24時間後、ガス容器中の2−フルオロブタン中の脱HF化合物量を測定した。
【0023】
実施例2
クロムモリブデン鋼製、容量3.6リットルのガス容器を用いた以外は、実施例1と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
【0024】
比較例1
バレル研磨にアルミナ含有セラミック系研磨石を用いた以外は、実施例1と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
【0025】
比較例2
バレル研磨にアルミナ含有セラミック系研磨石を用いた以外は、実施例2と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
【0026】
実施例3
2−フルオロブタンの代わりに、2−フルオロペンタンを用いた以外は、実施例1と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
【0027】
比較例3
バレル研磨にアルミナ含有セラミック系研磨石を用いた以外は、実施例3と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
【0028】
比較例4
2−フルオロブタンの代わりに、1,2−ジフルオロブタンを用いた以外は、比較例1と同様にして、脱HF化合物量を測定した。
実施例1〜3、比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1からわかるように、スチールボールを用いて内面研磨したガス容器に、本発明のフッ素化炭化水素化合物を充填した場合は、分解反応等により引き起こされる脱HF化合物の生成量を抑制し、高純度を維持したまま充填できることがわかる(実施例1〜3)。
一方で、アルミナ含有セラミック系研磨石を用いて内面研磨したガス容器に、前記フッ素化炭化水素化合物を充填した場合は、脱HF化合物量が増加し、純度が低下することがわかる(比較例1〜3)。
また、1,2−ジフルオロブタンは、アルミナ含有セラミック系研磨石を用いて内面研磨したガス容器に充填しても、脱HF化合物は生成せず、高純度を維持したまま充填できることがわかる(比較例4)。