(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施の形態)
図面を参照して、本発明による第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による視線検出装置1の構成を説明する図である。
図1において視線検出装置1は、眼鏡2を装着した被検者3の視線を検出する。
【0014】
視線検出装置1は、前方視野用カメラ10、眼球用カメラ11、赤外LED12、ダイクロイックミラー13、ヘッドバンド14、画像記録装置15、PC16、画像処理装置17、較正演算装置18、モニター19、プリンタ20および不図示のPC用入力装置を含む。
図1において画像記録装置15はPC16と接続されているが、画像記録装置15をPC16から切り離して被検者3が携帯して持ち歩くことも可能である。また、画像処理装置17および較正演算装置18は、PCIボードとしてPC16のスロットに装着されている。
【0015】
ヘッドバンド14には、前方視野用カメラ10、眼球用カメラ11、赤外LED12、およびダイクロイックミラー13が取り付けられている。眼鏡2を装着した被検者3の頭部にヘッドバンド14を装着すると、ダイクロイックミラー13が眼鏡2の前方に配置され、前方視野用カメラ10、眼球用カメラ11および赤外LED12が眼鏡2の上方に配置される。
【0016】
ダイクロイックミラー13は、赤外光を反射し、可視光を透過する。ゆえに被検者3は、ヘッドバンド14を装着した状態であっても、眼鏡2およびダイクロイックミラー13を通して前方の視界を自由に見ることができる。
【0017】
被検者3がヘッドバンド14を装着した状態において、前方視野用カメラ10は、被検者3の前方の視野と略同じ方向または若干下の方向を向いて固定され、被検者3の前方の水平画角約90度の視野の動画像を撮影する。前方視野用カメラ10により撮影された動画像は、画像記録装置15に記録される。
【0018】
赤外LED12から照射された赤外光は、ダイクロイックミラー13で反射されて被検者3の眼球を照明する。眼球用カメラ11は、ダイクロイックミラー13を介して上記眼球の瞳孔にピントを合わせた状態で、上記赤外光で照明された眼球の動画像を撮影する。眼球用カメラ11により撮影された動画像は、画像記録装置15に記録される。なお、眼球用カメラ11は、左目および右目のそれぞれに対して設けられ、左目の動画像および右目の動画像を別々に撮影する。そして、左目の動画像と右目の動画像とが別々に画像記録装置15に記録される。
【0019】
画像記録装置15に一旦記録された前方視野の画像と眼球の画像とは、再生されて画像処理装置17に出力される。画像処理装置17は、画像記録装置15から入力された眼球の画像に対して演算処理を行い、左目および右目のそれぞれについて、眼球の画像における瞳孔中心の座標や角膜反射の中心座標などを眼球運動データとして時系列で出力する。
【0020】
較正演算装置18は、画像処理装置17から出力された眼球運動データに対して演算処理を行い、前方視野の画像における注視点の座標を注視位置データとして出力すると共に、被検者3の注視点への視線が眼鏡2のレンズを透過する点(以下、透過点と呼ぶ)の座標を透過位置データとして出力する。なお、注視点および透過点は、左右の眼それぞれについて算出するが、通常、注視点は左右で同一の位置となる。また、透過点の座標は、眼鏡2のレンズ面における座標である。透過点を測定する面は、眼鏡2のレンズの表面でも裏面でもよいが、レンズが非球面レンズ、特に累進レンズを用いている場合には、そのレンズの設計の基準になっている面とした方が、設計により有用である。
【0021】
PC16は、画像処理装置17から出力された前方視野の画像、眼球の画像および眼球運動データや、較正演算装置18から出力された注視位置データおよび透過位置データなどを全て取り込むことができる。
【0022】
そして、PC16は、取り込んだ眼球運動データや注視位置データ、透過位置データなどを、モニター19に表示したり、不図示のHD(ハードディスク)などの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりすることができる。
【0023】
またPC16は、前方視野の画像上に注視点の位置を示すマークを重ねた画像や、注視点の累積頻度マップなどを、モニター19に表示したり、不図示のHDなどの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりすることができる。
【0024】
さらにPC16は、眼鏡2のレンズ画像上に透過点の位置を示すマークを重ねた画像や、透過点の累積頻度マップなどを、モニター19に表示したり、不図示のHDなどの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりすることができる。
【0025】
プリンタ20は、PC16から入力された各種データや画像を紙面に印刷する。
【0026】
なお、上述では、眼球用カメラ11で撮影された眼球の画像は画像記録装置15に一旦記録され、これを再生して画像処理装置17に送られると説明したが、画像記録装置15に記録するのと同時に画像処理装置17に送られるようにしてもよい。こうすることにより、視線の測定と同時に注視位置データや透過位置データを求めることも可能である。
【0027】
また、上述した較正演算装置18では、予め較正された眼球運動データと注視位置データの関係を用いて、画像処理装置17で測定された眼球運動データから注視位置データを求めている。さらに、予め較正された眼球運動データと透過位置データの関係を用いて、画像処理装置17で測定された眼球運動データから透過位置データを求めている。眼球運動データと注視位置データの関係、および眼球運動データと透過位置データの関係は、予め左右の眼でそれぞれ較正される。なお、この較正方法はいかなる方法を用いてもよい。
【0028】
本実施形態の視線検出装置1は、上述した注視位置データや透過位置データをモニター19に表示する表示方法に特徴を有するので、以下、この点について詳しく説明する。
【0029】
−第1の表示方法−
図2は、視線検出装置1による第1の表示方法の一例を説明する図である。PC16は、モニター19に表示させたフレーム内に、前方視野用カメラ10により撮影された前方視野の動画像21と、眼鏡2の左側のレンズを示す左レンズ画像22と、眼鏡2の右側のレンズを示す右レンズ画像23とを別々の領域に同時に表示させる。左レンズ画像22および右レンズ画像23は、それぞれ、レンズフレームの形状を示す線の内側に、レンズにおける非点収差の分布を示す等高線が描かれた画像である。なお、本実施形態の眼鏡2のレンズは、例えば、累進レンズであるとする。ゆえに、
図2の左レンズ画像22および右レンズ画像23からは、左右のレンズの下部の側方に非点収差が高い領域が存在していることがわかる。
【0030】
またPC16は、前方視野の動画像21上に、注視点の位置を示す注視点マーク24を重ねて表示させる。さらにPC16は、左レンズ画像22上に、眼鏡2の左側レンズの透過点の位置を示す左透過点マーク25を重ねて表示させ、右レンズ画像23上に、眼鏡2の右側レンズの透過点の位置を示す右透過点マーク26を重ねて表示させる。
【0031】
さらにPC16は、前方視野の動画像21の右隣に、被検者3の眼球から注視点までの距離を表す棒グラフ27を表示させる。なお、被検者3の眼球から注視点までの距離については、例えば、上記眼球運動データに基づいて検出した被検者3の視線の角度に基づいて求めればよい。さらにPC16は、左レンズ画像22の右隣に、眼鏡2の左側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ28と、当該透過点での非点収差量を表す棒グラフ29とを表示させる。さらにPC16は、右レンズ画像23の右隣に、眼鏡2の右側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ30と、当該透過点での非点収差量を表す棒グラフ31とを表示させる。
【0032】
第1の表示方法によれば、注視点と透過点の対応や、被検者3の眼球から注視点までの距離と眼鏡2のレンズの透過点での加入度や非点収差量との関係を明瞭に表示することができる。
【0033】
−第2の表示方法−
図3および
図4は、視線検出装置1による第2の表示方法の一例を説明する図である。PC16は、モニター19に表示させたフレーム内の左側に前方視野の動画像32を表示させ、その右側に並べて前方視野の動画像33を表示させる。なお、前方視野の動画像32および33は、同じ動画像である。
【0034】
またPC16は、前方視野の動画像32上に左レンズ画像34を重ねて表示させる。このときPC16は、前方視野の動画像32上での注視点と、左レンズ画像34上での透過点とが同じ位置になるように重ね、これらの点の位置を示すマーク35を表示させる。同様にPC16は、前方視野の動画像33上に右レンズ画像36を重ねて表示させる。このときPC16は、前方視野の動画像33上での注視点と、右レンズ画像36上での透過点とが同じ位置になるように重ね、これらの点の位置を示すマーク37を表示させる。
【0035】
さらにPC16は、左側に表示された前方視野の動画像32の下側に、被検者3の眼球から注視点までの距離を表す棒グラフ38と、眼鏡2の左側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ39と、当該透過点での非点収差量を表す棒グラフ40とを並べて表示させる。同様にPC16は、右側に表示された前方視野の動画像33の下側に、被検者3の眼球から注視点までの距離を表す棒グラフ41と、眼鏡2の右側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ42と、当該透過点での非点収差量を表す棒グラフ43とを並べて表示させる。
【0036】
図3は、被検者3が、卓上に置かれたPCのモニター(視線検出装置1とは別のモニター)を注視しているときの表示例であり、
図4は、被検者3が、キーボードを注視しようとして頭部と視線を下方へずらしたときの表示例である。
図3の表示例によれば、注視点および透過点を示すマーク35および37がPCのモニター上に位置していると共に、左レンズ画像34および右レンズ画像36の中央付近に位置していることが確認できる。一方、
図4の表示例によれば、注視点および透過点を示すマーク35および37がキーボード上に位置していると共に、左レンズ画像34および右レンズ画像36の下部付近に位置していることが確認できる。また、被検者3の眼球から注視点までの距離を表す棒グラフ38および40と、レンズの加入度を表す棒グラフ39および42と、レンズの非点収差量を表す棒グラフ40および43とから、
図3の状態に比べて
図4の状態では、被検者3の眼球から注視点までの距離が短くなっていると共にレンズの加入度および非点収差量が高くなっていることが確認できる。
【0037】
このように第2の表示方法によれば、被検者3がモニターを注視しているときとキーボードを注視しているときとにおける、眼鏡2のレンズ上における透過点の位置やその透過点での非点収差量の違いなどが一目瞭然である。また、第2の表示方法では、被検者3の眼鏡2のレンズ越しの視界と眼鏡2のレンズの透過点との関係をより認識しやすいという特徴がある。
【0038】
ここで、前方視野の動画像32および33に重ねて表示する左レンズ画像34および右レンズ画像36の形状と大きさについて説明する。前方視野の動画像32および33の大きさに対して、重ねて表示される左レンズ画像34および右レンズ画像36の大きさは、被検者3の視野におけるレンズフレームの大きさと相対的に同じになるように揃えて表示することが望ましい。そうすると、被験者3の網膜の中心窩を使って中心視している注視点だけでなく、その付近の周辺視の領域についても眼鏡レンズ上の透過点と前方視野のおおよその位置関係を把握しやすくなるという利点がある。
【0039】
ただし、前方視野用カメラ10と被験者3の視野には視差があるため、前方視野の動画像32および33に対する左レンズ画像34と右レンズ画像36の形状と大きさは、前方視野用カメラ10で撮影される物体の、形状や被験者3からの距離に依存して、厳密には複雑に変形し、正確に重ねて表示させるのは難しい。そこで簡略化するために、注視点を基準にしてその近傍での前方視野の動画像32および33に対する左レンズ画像34と右レンズ画像36の表示倍率を決定し、実際のレンズフレームの形状を比例拡大しただけの図形を左レンズ画像34および右レンズ画像36のレンズフレームの形状を示す線として作成し、前方視野の動画像32および33に重ねて表示させる。
【0040】
それに対して、大きさを合わせないで表示してもよい。例えば左レンズ画像34と右レンズ画像36の表示倍率を大きめに設定して拡大して表示すると、レンズにおける非点収差の分布を示す等高線の間隔を細かくして高精細に表示しやすくなるので、非点収差の分布と透過点の位置関係をより正確に表示できるという利点がある。逆に左レンズ画像34と右レンズ画像36を縮小して表示すると、前方視野の動画像32および33の画角が狭いときでもフレーム内に左レンズ画像34と右レンズ画像36の全体を表示できるという利点がある。ただし、左レンズ画像34と右レンズ画像36の大きさは揃えておくことが望ましい。
【0041】
−第3の表示方法−
図5は、視線検出装置1による第3の表示方法の一例を説明する図である。PC16は、モニター19に表示させたフレーム内に前方視野の動画像44を1つ表示させる。またPC16は、前方視野の動画像44上に、左レンズ画像45と、右レンズ画像46とを重ねて表示させる。左レンズ画像45と右レンズ画像46の形状と大きさは第2の表示方法と同様である。このときPC16は、前方視野の動画像44上での注視点と、左レンズ画像45上での透過点と、右レンズ画像46上での透過点とが同じ位置になるように重ね、これらの点の位置を示すマーク47も重ねて表示させる。
【0042】
さらにPC16は、前方視野の動画像44の下側に、被検者3の眼球から注視点までの距離を表す棒グラフ48と、眼鏡2の左側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ49と、眼鏡2の右側レンズの透過点での加入度を表す棒グラフ50と、左側レンズの透過点での非点収差量を表す棒グラフ51と、右側レンズの透過点での非点収差量を表す棒グラフ52との5本の棒グラフを並べて表示させる。なお、左レンズ画像45および右レンズ画像46が前方視野の動画像44からはみ出した領域については、そのまま表示させてもよい。
【0043】
また第3の表示方法において、
図6に示すように、左右の眼の注視点53および54を独立して表示させるようにしてもよい。この場合、前方視野の動画像44の下側には、被検者3の左眼の眼球から左眼の注視点までの距離を表す棒グラフ55と、被検者3の右眼の眼球から右眼の注視点までの距離を表す棒グラフ56と、上記棒グラフ49〜52との6本の棒グラフを並べて表示させる。較正に誤差がある場合や、眼に斜視などの疾患がある場合、左右の眼の注視点53および54の位置が重ならないことがある。したがって、このような表示をすることで、これらの現象を見つけることの助けになる。
【0044】
以上の第1〜第3の表示方法によれば、注視点の位置と透過点の位置との対応関係をわかりやすく表示することができる。したがって、被検者3の眼鏡2の使い方の傾向を調べたり、眼鏡2のレンズが設計者の意図したとおりの使われ方をしているかなどを、簡単に観察することができるので、被検者3に最適な眼鏡のレンズのタイプを選定したり、設計したりという作業を効率よく行うことができる。
【0045】
−累進眼鏡レンズの設計−
ここで、視線検出装置1の測定結果を用いて新しい累進眼鏡レンズを設計する手順を
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
【0046】
ステップS11において、被検者に基準となる眼鏡レンズを装用させた状態で特定の環境下に置き、このときの被検者の視線情報(注視位置データおよび透過位置データ)を視線検出装置1により測定する。ここで、基準となる眼鏡レンズとは、新しい累進眼鏡レンズを設計する上で基準とする眼鏡レンズであり、例えば試作品などである。特定の環境下とは、新しい累進眼鏡レンズを装用するであろう環境のうちの一つであり、例えばPCを操作する環境などが挙げられる。
【0047】
ステップS12において、上記ステップS11で測定した視線情報を評価する。例えば、被検者がPCを操作している状態で、被検者の注視点がモニターに位置するときの透過点の分布を解析する。これにより、被検者がモニターを注視するときには眼鏡レンズ上のどの領域を使用しているか、モニターを注視するときには眼球からモニターまでの距離をどの程度にしているか、眼球からモニターまでの距離と透過点での加入度の関係、注視しているモニターに表示された文字の大きさと透過点の非点収差量の関係などを評価する。同様にして、キーボードやPCの操作中に使う資料などを注視しているときの視線情報の評価もそれぞれ行う。
【0048】
ステップS13において、ステップS12での評価の結果に基づいて新しい累進眼鏡レンズの設計を行う。例えば、PCの操作により適した新しい累進眼鏡レンズを設計するという課題があるとする。この場合に、ステップS12での評価により、被検者はモニターに表示された文字を見るときには眼鏡レンズ上の領域のうち非点収差量が0.5D以下の領域のみを使うが、キーボードを見るときには非点収差量がより大きい1.5Dまでの領域も使うという結果が得られたとする。そこで、モニターまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を0.5D以下に抑え、キーボードまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を1.5Dまで許容する、という設計目標をたてて、新しい累進眼鏡レンズを設計することができる。
【0049】
なお、以上説明した設計方法は一例であり、上述した設計方法に限らない。例えば、被検者の人数を増やしたり測定環境を増やしたりすることで、より汎用的な設計目標を立てて設計することもできる。
【0050】
−累進眼鏡レンズの製造および販売−
次に、このように視線検出装置1の測定結果を用いて設計した新しい累進眼鏡レンズを製造して製品として販売するまでの手順を、
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
【0051】
図8において、ステップS21〜S23における被検者の視線情報を測定して評価し、評価結果を用いて累進眼鏡レンズを設計する手順は、上述した
図7のステップS11〜S13までの手順と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
そして、ステップS24において、ステップS23で設計した新しい累進眼鏡レンズを製造し、ステップS25では被検者はステップS24で製造した新しい累進眼鏡レンズを装用してステップS21と同様に視線情報を再び測定し、ステップS26において再び評価する。そしてステップS27において新しい累進眼鏡レンズが製品として完成しているかどうかを、予め定めた目標性能と照らし合わせるなどして判定し、完成している場合はステップS28に進み、完成していない場合はステップS23に戻る。
【0053】
この戻ったステップS23では、ステップS26で評価した結果を考慮して直前のステップS23での設計を修正して再設計する。そして再度ステップS24〜S26を繰り返し、ステップS27で再判定をする。このステップS23〜S27の手順を何度か繰り返して、新しい累進眼鏡レンズの完成度を高める。そして新しい累進眼鏡レンズの完成度が所定以上となると、ステップS27を肯定判定してステップS28に進み、新しい累進眼鏡レンズを製品として販売する。
【0054】
以上説明した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)視線検出装置1は、眼鏡2を装着した被検者3の眼球の動きを測定する測定手段(眼球用カメラ11および画像処理装置17)と、当該測定手段による測定結果に基づいて、被検者3の前方視野における注視点を検出する較正演算装置18と、当該測定手段による測定結果に基づいて、眼鏡2のレンズにおいて被検者3の注視点への視線が透過する透過点を検出する較正演算装置18と、注視点の位置を示す注視点マーク24を、前方視野の動画像21に重ねてモニター19に表示させると共に、透過点の位置を示す左透過点マーク25および右透過点マーク26を、眼鏡2のレンズを示す左レンズ画像22および右レンズ画像23に重ねてモニター19に表示させるPC16と、を備える。これにより、被検者が注視している注視点の位置と眼鏡レンズ上の透過点位置との相互関係をわかりやすく表示することができる。すなわち、被検者の注視点および透過点の検出結果を、眼鏡レンズの設計や選択の際に有用な態様で表示することができる。この表示方法は、特に、領域によって屈折力が変化する累進眼鏡レンズの設計や選択の場合に有用である。
【0055】
(2)上記(1)の視線検出装置1は、第2の表示方法において、注視点マークと左透過点マークおよび右透過点マークとを重ねるようにして、前方視野の動画像と左レンズ画像および右レンズ画像とを重ねて表示させるように構成したので、被検者3の眼鏡2のレンズ越しの視界と眼鏡2のレンズの透過点との関係とをよりわかりやすく表示することができる。
【0056】
(第2の実施の形態)
図面を参照して、本発明による第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、上述したように測定した注視位置データおよび透過位置データをまとめた視線測定レポートを生成する点に特徴を有するので、以下この点について説明する。
【0057】
PC16は、画像処理装置17から入力された前方視野の画像や較正演算装置18から出力された注視位置データおよび透過位置データなどに基づいて後述する視線測定レポートを生成し、生成した視線測定レポートを、モニター19に表示したり、不図示のHDなどの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりする。プリンタ20は、PC16から入力された視線測定レポートを紙面に印刷して、紙の視線測定レポートを生成する。
【0058】
図9は、視線測定レポートの一例を示す図である。
図9に示す視線測定レポートは、被検者3が机に向かって椅子に座り、メモ帳に書かれた文章をキーボードによってPCに入力するという作業を行っている状態において、被検者3の視線を視線検出装置1により測定したデータをまとめたものである。視線測定レポートには、左右の眼鏡レンズにおける透過点が、注視領域(モニター、キーボード、メモ帳など)ごとに区別してプロットされる。なお、注視領域がモニターであるときの透過点を求める際、PC16は、前方視野の画像から例えば特徴点抽出などの公知の画像処理を用いてモニターの領域を求める。そして、PC16は、注視位置データとモニターの領域の座標を比較することで、注視点がモニターの領域内であることを求め、当該注視点に対応する透過点を求める。注視領域がキーボードやメモ帳である場合も同様にして求める。
【0059】
具体的に、視線測定レポートの上部には、被検者3の前方視野の画像71が表示され、その下側に、左レンズ画像72と右レンズ画像73とが並べて表示される。
【0060】
前方視野の画像71は、前方視野用カメラ10により撮影された動画像において、代表的なフレーム画像を1枚抽出したものである。前方視野の画像71には、机の上に置かれたPCのモニターと、キーボードと、キーボードの横に置かれたメモ帳が写っており、前方視野の画像71上には、当該モニターを囲む枠線74と、当該キーボードを囲む枠線75と、当該メモ帳の一部を囲む枠線76とが重ねて表示される。
【0061】
左レンズ画像72および右レンズ画像73は、第1の実施の形態と同様に、レンズフレーム内にレンズの非点収差の分布を示す等高線が描かれた画像である。左レンズ画像72上には、被検者3が、枠線74内に対応する前方視野の領域(すなわちモニター)を注視していたときにおける左側レンズの透過点を複数プロットし、プロットした複数の透過点が占める領域(以下、透過領域と呼ぶ)を示すパターン77が重ねて表示される。同様に、左レンズ画像72上には、被検者3が、枠線75内に対応する前方視野の領域(すなわちキーボード)を注視していたときにおける左側レンズの透過領域を示すパターン78と、枠線76内に対応する前方視野の領域(すなわちメモ帳)を注視していたときにおける左側レンズの透過領域を示すパターン79とが重ねて表示される。
【0062】
さらに、右レンズ画像73上には、被検者3が、枠線74内に対応する前方視野の領域(すなわちモニター)を注視していたときにおける右側レンズの透過領域を示すパターン80と、枠線75内に対応する前方視野の領域(すなわちキーボード)を注視していたときにおける右側レンズの透過領域を示すパターン81と、枠線76内に対応する前方視野の領域(すなわちメモ帳)を注視していたときにおける右側レンズの透過領域を示すパターン82とが重ねて表示される。
【0063】
このような表示により、例えば、枠線74内に対応する前方視野の領域(すなわちモニター)を注視していたときに被検者3の視線が眼鏡2を透過している領域は、左レンズ画像72および右レンズ画像73上に上書きされたパターン77および80が示す領域であるというように、注視対象物と眼鏡レンズ上での透過点の分布との対応が一目瞭然に表示できる。なお、前方視野の画像71上に描かれた枠線74〜76と、左レンズ画像72および右レンズ画像73上に描かれたパターン77〜82は、ラベルや色などで対応関係が分かりやすいように識別表示されているものとする。
【0064】
さらに、前方視野の画像71の右側には、被検者3が、枠線74、75および76に対応する前方視野の領域を注視しているときにおける被検者3の眼球から注視点までの距離の範囲を示す棒グラフ91が表示される。
【0065】
さらに、左レンズ画像72の右側には、被検者3が、枠線74、75および76に対応する前方視野の領域を注視しているときにおける左側レンズの透過点の加入度の範囲を示す棒グラフ92と、当該透過点の非点収差量の範囲を示す棒グラフ93が並べて表示される。すなわち棒グラフ92は、左側レンズ上のパターン77、78および79が示す領域における加入度の範囲を示し、棒グラフ93は、当該領域における非点収差量の範囲を示す。
【0066】
同様に、右レンズ画像73の右側には、被検者3が、枠線74、75および76に対応する前方視野の領域を注視しているときにおける右側レンズの透過点の加入度の範囲を示す棒グラフ94と、当該透過点の非点収差量の範囲を示す棒グラフ95が並べて表示される。すなわち棒グラフ94は、右側レンズ上のパターン80、81および82が示す領域における加入度の範囲を示し、棒グラフ95は、当該領域における非点収差量の範囲を示す。
【0067】
なお、棒グラフ91〜95は、
図9では、枠線74、75および76に対応する3つの領域を注視しているときの値の範囲を示すようにしたが、これに限らなくてよい。例えば、枠線74、75および76に対応する3つの領域のいずれかを指定して、指定した領域を注視しているときの値の範囲を示すようにしてもよい。また例えば、枠線74、75および76に対応する3つの領域ごとに色分けした複数の棒グラフに分割して表示するようにしてもよい。
【0068】
また、左レンズ画像72および右レンズ画像73の下側には、測定日96、被検者3の氏名97、眼鏡2の識別番号98、および棒グラフ91〜95が示す数値99〜103が表示される。なお、
図9では、数字や文字を省略してアスタリスクマーク(*)で記載している。
【0069】
図10は、同じ被検者3が
図9の測定で使用した眼鏡とは別の眼鏡を装着した場合における視線測定レポートの一例を示す図である。
図9と
図10とを比較すると、眼鏡レンズの透過領域を示すパターン77〜81が、
図9よりも
図10において眼鏡レンズの中央部に集まっていることが確認できる。これは、
図9の測定で使用した眼鏡を装着した場合に比べて、
図10の測定で使用した眼鏡を装着した場合、被検者3は、眼鏡レンズの中央部しか使用できていないことを意味する。つまり、被検者3は、
図10の測定のときには眼鏡レンズの中央部を通してしか注視対象物を見ることができずに、頭の向きを変えることで視線を動かしていたことが推測される。仮に、頭をあまり動かさなくても視線を変えやすい眼鏡が良い眼鏡であるとした場合、
図10の測定で使用した眼鏡よりも
図9の測定で使用した眼鏡の方が良い眼鏡であることが示唆される。
【0070】
このように視線測定レポートは、被検者3と眼鏡レンズの適正を示す資料であるため、測定者が被検者3に視線の測定結果を説明するときに使うことができる。また、眼鏡販売店において、視線測定レポートを用いて、特性の異なる複数の累進眼鏡レンズの中から被検者である購入予定者にとって最適な累進眼鏡レンズを選択することができる。
【0071】
この最適な累進眼鏡レンズを選択する手順について、
図11に示すフローチャートを用いて説明する。ステップS31において、選択肢とする累進眼鏡レンズを複数(例えば3つ)用意し、被検者に、それぞれの累進眼鏡レンズを装用させた状態で、それぞれの累進眼鏡レンズでの視線情報を視線検出装置1により測定する。この3つの累進眼鏡レンズとは、互いに特性が異なるレンズであり、例えば、1つは被検者が現在使用中の累進眼鏡レンズであり、他の2つは購入候補の新しい眼鏡のトライアルレンズである。視線情報の測定は、上述した
図7のステップS11の測定と同様に行い、そして視線測定レポートを測定した累進眼鏡レンズごとにPC16で作成してプリンタ20で印刷する。また、被検者が測定時に置かれる環境は、全ての測定で同じとする。
【0072】
ステップS32において、ステップS31で測定した視線情報を評価する。例えば、上記3つの累進眼鏡レンズのうち、どの累進眼鏡レンズにおいて、最も透過位置データが広く分布しているかなどを評価する。被検者は、上記3つの累進眼鏡レンズでの測定結果を示した視線測定レポートを比較することで、上記3つの累進眼鏡レンズを使用したときの適正を客観的に評価することができる。したがって、視線測定レポートを用いれば、上記3つの累進眼鏡レンズの特徴を、測定者が被検者にわかりやすく説明することができる。
【0073】
ステップS33において、ステップS32での評価の結果に基づいて、上記3つの累進眼鏡レンズの中から1つの累進眼鏡レンズを選択する。例えば、仮に、最も広く累進眼鏡レンズの領域を使うことができる累進眼鏡レンズを最適とする場合には、上記3つの累進眼鏡レンズの中から、透過位置データが最も広く分布しているものを選択すればよい。なお、ここでは1つの累進眼鏡レンズを選択する例について説明したが、複数の累進眼鏡レンズを選択するようにしてもよい。
【0074】
ステップS34において、眼鏡店では、ステップS33で選択された累進眼鏡レンズを被検者に販売する。
【0075】
このように、被検者が眼鏡販売店で新しい眼鏡を購入しようとする際に、使用中の眼鏡を装着した状態と1つ以上の新しい眼鏡レンズを装着した状態とでそれぞれ視線検出装置1により視線を測定して視線測定レポートを生成することで、視線測定レポートを用いて使用中の眼鏡と新しい眼鏡での透過領域を比較することができるので、新しい眼鏡を選択することを補助することができる。
【0076】
また、視線測定レポートの別の形態としては、1枚のレポートに新旧などの複数の眼鏡での測定結果をまとめても良い。この場合は簡素化のために前方視野の画像71を省略し、少なくとも1つ以上の透過領域を示すパターン77〜82を重ねて表示した複数の眼鏡での左レンズ画像72と右レンズ画像73だけを並べて印刷しても良い。
【0077】
また、視線測定レポートの別の用途としては、新開発した眼鏡レンズを販売する場合に、同一被検者で新旧の複数の設計の眼鏡レンズを装着した状態でそれぞれ視線検出装置1により視線を測定して視線測定レポートを生成し、この視線測定レポートをパンフレットやポスターとして印刷することで、販売促進用の資料として使用することもできる。
【0078】
以上説明した第2の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
視線測定レポートでは、注視点の位置を示す枠線74〜76が前方視野の画像71に重ねて印刷されていると共に、透過点の位置を示すパターン77〜82が左レンズ画像72および右レンズ画像73に重ねて印刷されているので、注視対象物と眼鏡レンズ上での透過点の分布との対応関係を測定者が被検者に説明して認識させることに役立つ。したがって、視線測定レポートを用いて被検者3に適した眼鏡レンズを容易に選択して、販売することができる。
【0079】
(変形例1)
上述した第1および第2の実施の形態では、左レンズ画像および右レンズ画像を、眼鏡のフレーム形状に沿って表示する例について説明したが、これに限らなくてよく、例えば、
図12に示すように丸め加工前のレンズの形状200に沿って表示するようにしてもよい。
【0080】
(変形例2)
上述した第1および第2の実施の形態では、左レンズ画像および右レンズ画像を、非点収差の分布を等高線で示す収差図マップとする例について説明したが、これに限らなくてよく、例えば、
図13に示すようにレンズの加入度の分布を等高線で示す加入度マップであってもよいし、レンズの遠用基準点と近用基準点を示したものでもよいし、ただフレーム形状を示すだけのものでもよい。また、例えば、眼球用カメラ11で撮影した画像であってもよい。
【0081】
(変形例3)
上述した左レンズ画像および右レンズ画像において、被検者3の眼球から注視点までの距離から想定した、レンズ設計上の推奨する透過点の領域を色付けして表示しても良い。
【0082】
(変形例4)
上述した第1の実施の形態では、上記注視点および上記透過点の位置を示すマークを表示する例について説明したが、これに限らなくてよい。例えば、上記注視点および上記透過点の位置を、停留点頻度マップや軌跡などで表示するようにしてもよい。
【0083】
(変形例5)
上述した第1の実施の形態では、視線検出装置1で測定中の注視点および透過点の位置を表示する例について説明した。しかしながら、視線検出装置1によって、過去に同一被検者で測定した注視点および/または透過点の位置や、比較対象として測定した他の被検者の注視点および/または透過点の位置などを、前方視野の動画像や左右のレンズ画像上に重ねて表示するようにしてもよい。また、複数の被検者で測定した注視点および/または透過点の位置を統計して、注視点および/または透過点の平均的な位置等を算出し、当該位置を前方視野の動画像や左右のレンズ画像上に重ねて表示するようにしてもよい。
【0084】
また、上述した第1の実施の形態において、PC16は、前方視野の動画像を省略して、視線検出装置1で測定した、少なくとも1つ以上の透過点の位置(透過領域)を重ねて表示した左右のレンズ画像のみをモニター19に表示させるようにしてもよい。この場合、PC16は、現在測定中の透過点の位置と、過去に同一被検者で測定した透過点の位置とを共に左右のレンズ画像上に重ねて表示するようにしてもよい。
【0085】
(変形例6)
上述した実施の形態では、
図1に示すように、被検者3の頭部に装着する形式の視線検出装置1を用いる例について説明したが、これに限らなくてもよい。視線検出装置1は、被検者3の頭部に対する眼球の相対的な動きを測定する機能があればよく、例えば眼球の動きを検出する据え置き型の視線検出装置と、頭部の動きを検出する別の装置を組み合わせたものを用いてもよい。
【0086】
(変形例7)
上述した実施の形態では、透過点の位置をレンズ画像上に重ねて表示する例について説明した。しかしながら、透過点の位置を、レンズ上の位置を表す2次元座標上に表示するようにしてもよい。
【0087】
(第3の実施の形態)
図面を参照して、本発明による第3の実施の形態について説明する。
図14は、本発明の第3の実施の形態による視線検出装置1の構成を説明する図である。
図14において視線検出装置1は、眼鏡2を装着した被検者3の視線を検出する。なお、後述する較正を行う際には、眼鏡2のレンズの外周部に後述する基準板30が取り付けられる。
【0088】
図14の図は、基準板30を除き、第1の実施の形態の
図1の図と同様である。従って、同様な構成要素については同じ参照符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
なお、透過点の座標は、第1の実施の形態でも説明したように、眼鏡2のレンズ面における座標である。透過点を測定する面は、眼鏡2のレンズの表面でも裏面でもよいが、レンズが非球面レンズ、特に累進レンズを用いている場合には、そのレンズの設計の基準になっている面とした方が、設計により有用である。また、眼鏡2のレンズが累進レンズであり、その累進面が裏面の場合は、表面で測定した透過点の座標を、視線の角度と眼鏡2のレンズの屈折率を考慮して後面の座標におおよそ換算することもできる。
【0090】
以下、第3の実施の形態における眼球運動データと注視位置データの関係、および眼球運動データと透過位置データの関係の較正方法について説明する。眼球運動データである瞳孔および角膜反射の中心座標は、注視位置データである注視点の座標と、透過位置データである眼鏡2のレンズ上の透過点の座標とに、複数の係数を持つ数式でそれぞれ換算される。換算式は、注視点および透過点の横座標と縦座標をそれぞれ1本の式で表現したものであってもよいし、または、注視点および透過点によって幾つかの領域に分けられた複数本の式であってもよい。後者の場合、式は領域の境界で滑らかに結ばれることが望ましい。なお、領域は、累進レンズの屈折力の分布が特徴的な領域ほど細かく分割してもよい。これらの換算式は、眼鏡2のレンズが累進レンズなどの特徴的な屈折力の分布を有するレンズの場合には、それによる換算の複雑さを十分に表現できるような自由度を持たせておく。
【0091】
眼鏡2のレンズが単純な単焦点球面レンズの場合であっても、眼鏡2のレンズ上の透過点の位置と屈折による視線の到達点のずれの関係は、3次式以上の非線形な関係を持つ。視線を測定する範囲が、視野±30度さらには±45度程度と広い場合には、さらに高次の関係となる。また、累進レンズの場合には、非回転対称なより複雑な関係となる。そのため、換算式は、例えば次式(1)〜(4)のような2変数の4次多項式を使うことで表現することができる。つまり、眼鏡の屈折による視線の偏向を精度良く表現するためには、視野が±30度より狭い場合でも3次以上、これより視野が広い場合には少なくとも4次以上が必要である。
【0092】
X=A
44x
4y
4+A
43x
4y
3+A
34x
3y
4+?…?+A
11xy+A
01y+A
10x+A
00 …(1)
Y=B
44x
4y
4+B
43x
4y
3+B
34x
3y
4+?…?+B
11xy+B
01y+B
10x+B
00 …(2)
X'=A
44'x
4y
4+A
43'x
4y
3+A
34'x
3y
4+?…?+A
11'xy+A
01'y+A
10'x+A
00' …(3)
Y'=B
44'x
4y
4+B
43'x
4y
3+B
34'x
3y
4+?…?+B
11'xy+B
01'y+B
10'x+B
00' …(4)
【0093】
ここで、式(1)と式(2)は、眼球運動データを注視位置データに換算する換算式である。式(1)と式(2)において、XとYは、注視点の座標であり、xとyは、瞳孔と角膜反射の中心座標の差の値である。また、式(3)と(4)は、眼球運動データを透過位置データに換算する換算式である。式(3)と式(4)において、X’とY’は、透過点の座標であり、xとyは、瞳孔と角膜反射の中心座標の差の値である。
【0094】
これらの式(1)〜(4)の係数は、被検者3ごと、望ましくは測定ごとに実測して較正する。この較正により、視線検出装置1の頭部への装着状態や被検者3の眼球形状の固体差などに起因するズレ、及び眼鏡2のレンズでの屈折による視線の偏向、及び眼鏡2のレンズでの屈折による眼球画像の歪み、及び前方視野用カメラ10の収差による視野の歪み、及び左右の眼と前方視野用カメラ10の位置の違いによる視差などを補正することができる。
【0095】
−注視位置データの較正−
眼球運動データと注視位置データとの関係を較正する際には、被検者3に対する位置が既知である固定した複数の指標を被検者3に注視させる。そして、このときの眼球運動データから式(1)および式(2)によって算出される注視点の位置が当該指標の位置に合致するように、較正演算装置18により最小二乗法を用いて式(1)および式(2)の係数を求める。
【0096】
図15は、この較正用の指標の配置例を示す。指標22は、指標板21に印刷されている。指標板21は、被検者3から例えば2mの距離に置かれ、かつ被検者3の視野の中央方向に配置され、かつ、指標板21の全てが前方視野用カメラ10の視野に収まるように配置される。指標22の配置の範囲は、少なくとも水平方向の視野角が60度を超え、望ましくは被検者3が眼鏡2を使用して見ることのできる視野の範囲をほぼ満たすようにする。また、指標22の配置の密度は、指標22を注視するときに透過する眼鏡2のレンズの領域が屈折力の変化が大きい領域であるほど、高密度で配置される。
【0097】
指標22は、上下方向(Y方向)及び左右方向(X方向)に5組以上かつ全部で25点以上が配置されているので、式(1)および式(2)の4次式の係数を最小二乗法で全て求めることができる。
【0098】
具体的には、例えば眼鏡2のレンズが累進レンズである場合は、指標22の配置の範囲は、水平方向の視野角が±45度以内、垂直方向の視野角が上方30度以内、下方45度以内に配置される。指標22の配置の密度は、被検者3の視野の中央を通る縦線23上と、被検者3の視野の中央より下方の領域24とに高密度に配置される。この縦線23は、眼鏡2の累進レンズでの主経線に相当する。また、被検者3の視野の中央より下方の領域24は、遠用部領域と近用部領域の間の累進部領域に相当する。指標22が高密度で配置されている領域ほど、最小二乗法で求められた較正係数の精度が高くなるし、精度の検証をすることもできる。ゆえに、累進レンズのように特徴的な屈折力の分布をもった眼鏡を較正する場合にも、効率よく、高精度に較正演算をすることができる。
【0099】
累進レンズの場合、累進部領域の主経線上でレンズ中央から約20mm下方までの範囲が屈折力分布の変化が特徴的な領域であり、この範囲で加入度が最大4ジオプター程度変化する。そこで累進部領域に相当する上記領域24に4点以上の指標22を配置することで、指標22を1ジオプター刻みよりも密に配置することになるので、累進部領域を十分に精度良く較正および検証することができる。また、このようにすることで、特に累進部領域の較正精度を視線の角度で2度以下にすることができる。視線の角度2度は、眼鏡2のレンズの透過点の座標に換算して1mm程度である。累進レンズの累進帯長やインセット量などのスペックはmmオーダーで設計されるので、1mmの精度があれば十分である。
【0100】
較正用の注視点データを測定するときには、指標板21の指標22のうちの任意の指標22を使って測定することができる。ゆえに、較正の精度を高めたい部分ほど、より多くの指標22を使って測定する。全ての指標22はラベル付けされており、実際に測定に使用したラベルは、PC16を経由して較正演算装置18に通知される。較正演算装置18は、通知されたラベルに基づいて測定に使用された指標22を判断し、測定に使用された指標22のデータのみを使って式(1)および式(2)の係数を較正する。
【0101】
なお、左右の眼と前方視野用カメラ10の位置の違いによる視差を較正するためには、指標板21を、被検者3からの距離が2mの位置の他に、例えば、被検者3からの距離が1mの位置、被検者3からの距離が0.2mの位置と複数の既知の位置に置いて、それぞれの位置に置いたときで測定を行う必要がある。このときには、視野中央の1点の指標のみを測定に使えばよい。
【0102】
−透過位置データの較正−
眼球運動データと透過位置データとの関係を較正する際には、眼鏡2のレンズ上の位置が既知である点を視線が透過する方向を被検者3に注視させる。そして、このときの眼球運動データから式(3)および式(4)によって算出される透過点の位置が、当該既知の点の位置に合致するように、較正演算装置18により最小二乗法を用いて式(3)および式(4)の係数を求める。
【0103】
図16は、透過位置データを較正する際に用いる基準板30の一例を説明する図である。基準板30は、六角形のリング状で構成され、眼鏡2のレンズの外周部に取り付けられる。なお、基準板30の取り付け方法は重要ではないが、例えば両面テープなど取り外しが可能な方法を用いる。リング状の基準板30の内側はくりぬかれているので、被検者3の視線をさえぎることもなく、視線検出装置1の眼球用カメラ12が被検者3の眼球を撮像することにも影響しない。
【0104】
基準板30には、互いに略120度異なる3方向の基準線31〜33が描かれている。この3方向の基準線31〜33は、それぞれの方向において等間隔で複数描かれている。眼鏡2のレンズには、レンズ上の位置が既知である2つのマーク34および35が、例えば水平方向に並んで刻印されている。基準板30を眼鏡2に取り付ける際には、基準線31〜33のうちの所定の基準線31a〜33aを延長した線31b〜33bの交点がマーク35と一致し、且つ基準線31aを延長した線31bがマーク34を通るように取り付ける。これにより、眼鏡2のレンズに対して基準線31〜33が位置決めされる。なお、基準線31〜33の位置決めに用いるマーク34および35は、少なくとも2箇所刻印されていればよい。また、
図16に記載した線31b〜33bは説明のためのものであり、実際には描かれていないものである。また、
図16では、簡略のために眼鏡2の片側のレンズだけに基準板30を取り付けた様子を図示しているが、実際には眼鏡2の両側のレンズにそれぞれ基準板30が取り付けられる。
【0105】
図17は、透過位置データを較正する際の眼球運動データの測定方法を説明する図である。被検者3はコーナーキューブ40を手に持ち、コーナーキューブ40の稜線の交わる頂点41の方向を注視する。コーナーキューブ40の特性上、コーナーキューブ40に入った光は、コーナーキューブ40の向きによらずに、光の入射方向と逆の方向に反射する。ゆえに被検者3は、コーナーキューブ40の頂点41の方向を注視することで、コーナーキューブ40に映った自分の瞳を観察することになる。
【0106】
図18は、コーナーキューブ40の頂点41を被検者3が注視したときに、コーナーキューブ40に映る視界を説明する図である。被検者3は、コーナーキューブ40の縁50の中に、コーナーキューブ40の3本の稜線と当該3本の稜線がそれぞれ対面で反射した3本の稜線の像とを計6本の直線51〜56として観察できる。この直線51〜56が交わる点がコーナーキューブの頂点41である。この頂点41の方向を被検者3が注視すると、コーナーキューブ40の特性上、コーナーキューブ40の向きによらず、コーナーキューブ40の頂点41に被検者3の瞳孔57が重なって映る。なお、被検者3は、コーナーキューブ40の頂点41に焦点を合わせるので瞳孔57が若干ぼやけて見えるが、頂点41と瞳孔57とが重なっているということは簡単に認識できる。
【0107】
被検者3は、手や首を動かして、コーナーキューブ40と頭部の位置関係を調節し、コーナーキューブ40の稜線とその像の直線51〜56のいずれか3本が、コーナーキューブ40に映る基準板30の基準線31〜33のうちの所定の基準線31c〜33cと重なるように調節する。被検者3がこの状態でコーナーキューブ40の頂点41を注視しているときの眼球運動データを視線検出装置1により測定して記録する。このとき、被検者3の視線42(
図17)は、眼鏡2のレンズにおいて、基準線31c〜33cを延長した線の交点を透過していることになる。上述したように眼鏡2のレンズ上の位置が既知であるマーク34および35に対して基準線31〜33が位置決めされているので、上記交点の眼鏡2のレンズにおける位置は、マーク34および35の位置から求めることができる。
【0108】
次に、被検者3は、さらに手や首などを動かして、コーナーキューブ40と頭部の位置関係を調節し、
図17に示した状態から
図19に示す状態へと、視線42が眼鏡2のレンズを透過する位置を変える。このとき被検者3は、コーナーキューブ40に映る視界が、
図20に示すように、コーナーキューブ40の稜線とその像の直線51〜56のいずれか3本が、基準板30の基準線31〜33のうち、所定の3本の基準線31d〜33dと重なるように調節する。被検者3がこの状態でコーナーキューブ40の頂点41を注視しているときの眼球運動データを視線検出装置1により測定して記録する。このとき、被検者3の視線42(
図17)は、眼鏡2のレンズにおいて、基準線31d〜33dを延長した線の交点を透過していることになる。
【0109】
このような、3本の基準線31〜33の組から定まる透過点における眼球運動データの測定を、複数の透過点(すなわち基準線31〜33の複数の組)で繰り返し行う。そして較正演算装置18は、この測定結果に基づいて、式(3)および式(4)の係数を較正する。以上のような較正は、左右の眼についてそれぞれ行われる。
【0110】
なお、式(3)および式(4)は、視野の広さに応じて3次式以上に、できれば4次式が望ましいので、眼球運動データを測定する透過点は、上下方向(Y方向)及び横方向(X方向)にそれぞれ5点以上かつ全部で25点以上とする。なお、眼球運動データを測定する透過点の数は、注視点を較正する際において眼球運動データを測定する注視点の数(すなわち、使用する指標22の数)と同じである必要はない。
【0111】
図21は、眼球運動データを測定する透過点の配置例を説明する図である。
図21(A)に示す配置例では、計29個の透過点60が眼鏡2のレンズの広い範囲に亘って配置されているため、4次式の式(3)および式(4)の係数を較正できる。ただし、測定精度が低下することを許容して簡便さを重視する場合には、
図19(B)または
図19(C)に示す配置例のように、眼球運動データを測定する透過点60の個数を少なくすることもできる。この場合、式(3)および式(4)の次数は小さくなる。
【0112】
なお、上述した測定では、コーナーキューブ40の頂点41と瞳孔中心57が一致していること、及び、コーナーキューブ40の稜線およびその像の直線51〜56と基準板30の基準線31〜33が一致していることを、同時に満たす必要がある。しかしながら、コーナーキューブ40の特性上、前者はコーナーキューブ40の向きに寄らず満たされるので、測定中のコーナーキューブ40を持つ手のブレなどの影響も受けないし、瞳孔中心57を探す必要もないため、容易に測定を行うことができ、測定時間の短縮と測定精度の向上を実現できる。
【0113】
以上のようにして、被検者3の眼球運動データと注視位置データとの関係、および被検者3の眼球運動データと透過位置データとの関係を較正する。これにより、視線検出装置1は、被検者3の眼鏡のレンズが単焦点レンズでも累進レンズであっても、被検者3の注視位置データを高精度で測定することが可能であり、さらに眼鏡2のレンズの透過位置データも高精度で測定することが可能である。
【0114】
−累進眼鏡レンズの設計−
また、このように較正された視線検出装置1の測定結果は、新しい累進眼鏡レンズの設計に活用することができる。新しい累進眼鏡レンズの設計の手順を説明するフローチャートは、第1の実施の形態の
図7と同様であるので、以下第1の実施の形態の
図7を参照して説明する。
【0115】
ステップS11において、被検者に基準となる眼鏡レンズを装用させた状態で特定の環境下に置き、このときの被検者の視線情報(注視位置データおよび透過位置データ)を視線検出装置1により測定する。ここで、基準となる眼鏡レンズとは、新しい累進眼鏡レンズを設計する上で基準とする眼鏡レンズであり、例えば試作品などである。特定の環境下とは、新しい累進眼鏡レンズを装用するであろう環境のうちの一つであり、例えばPCを操作する環境などが挙げられる。視線検出装置1は、上述した方法で較正されているため、精度よく注視位置データおよび透過位置データを測定することができる。
【0116】
ステップS12において、上記ステップS11で測定した視線情報を評価する。例えば、被検者がPCを操作している状態で、被検者の注視点がモニターに位置するときの透過点の分布を解析する。これにより、被検者がモニターを注視するときには眼鏡レンズ上のどの領域を使用しているか、モニターを注視するときには眼球からモニターまでの距離をどの程度にしているか、眼球からモニターまでの距離と透過点での加入度の関係、注視しているモニターに表示された文字の大きさと透過点の非点収差量の関係などを評価する。同様にして、キーボードやPCの操作中に使う資料などを注視しているときの視線情報の評価もそれぞれ行う。
【0117】
ステップS13において、ステップS12での評価の結果に基づいて新しい累進眼鏡レンズの設計を行う。例えば、PCの操作により適した新しい累進眼鏡レンズを設計するという課題があるとする。この場合に、ステップS12での評価により、被検者はモニターに表示された文字を見るときには眼鏡レンズ上の領域のうち非点収差量が0.5D以下の領域のみを使うが、キーボードを見るときには非点収差量がより大きい1.5Dまでの領域も使うという結果が得られたとする。そこで、モニターまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を0.5D以下に抑え、キーボードまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を1.5Dまで許容する、という設計目標をたてて、新しい累進眼鏡レンズを設計することができる。
【0118】
このように、上述したコーナーキューブ40を用いた較正方法により較正された視線検出装置1によって得られた透過位置データを解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを設計することで、精度のよい透過位置データに基づいて眼鏡のレンズを設計することができる。
【0119】
なお、以上説明した設計方法は一例であり、上述した設計方法に限らない。例えば、被検者の人数を増やしたり測定環境を増やしたりすることで、より汎用的な設計目標を立てて設計することもできる。
【0120】
−累進眼鏡レンズの製造および販売−
次に、このように視線検出装置1の測定結果を用いて設計した新しい累進眼鏡レンズを製造して製品として販売するまでの手順を説明する。この手順は、第1の実施の形態の
図8と同様であるので、以下
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
【0121】
図8において、ステップS21〜S23における被検者の視線情報を測定して評価し、評価結果を用いて累進眼鏡レンズを設計する手順は、上述した
図9のステップS11〜S13までの手順と同様である。
【0122】
そして、ステップS24において、ステップS23で設計した新しい累進眼鏡レンズを製造し、ステップS25では被検者はステップS24で製造した新しい累進眼鏡レンズを装用してステップS21と同様に視線情報を再び測定し、ステップS26において再び評価する。そしてステップS27において新しい累進眼鏡レンズが製品として完成しているかどうかを、予め定めた目標性能と照らし合わせるなどして判定し、完成している場合はステップS28に進み、完成していない場合はステップS23に戻る。
【0123】
この戻ったステップS23では、ステップS26で評価した結果を考慮して直前のステップS23での設計を修正して再設計する。そして再度ステップS24〜S26を繰り返し、ステップS27で再判定をする。このステップS23〜S27の手順を何度か繰り返して、新しい累進眼鏡レンズの完成度を高める。そして新しい累進眼鏡レンズの完成度が所定以上となると、ステップS27を肯定判定してステップS28に進み、新しい累進眼鏡レンズを製品として販売する。
【0124】
このように、上述したコーナーキューブ40を用いた較正方法により較正された視線検出装置1によって得られた透過位置データを解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを製造することで、精度のよい透過位置データに基づいて眼鏡のレンズを製造することができる。
【0125】
−累進眼鏡レンズの選択−
また、視線検出装置1の測定結果は、特性の異なる複数の累進眼鏡レンズの中から被検者にとって最適な累進眼鏡レンズを選択する際にも活用することができる。
図22は、このような最適な累進眼鏡レンズを選択する手順を説明するフローチャートである。
【0126】
ステップS31において、選択肢とする累進眼鏡レンズを複数(例えば3つ)用意し、被検者に、それぞれの累進眼鏡レンズを装用させた状態で、それぞれの累進眼鏡レンズでの視線情報を視線検出装置1により測定する。この3つの累進眼鏡レンズとは、互いに特性が異なるレンズであり、例えば、1つは被検者が現在使用中の累進眼鏡レンズであり、他の2つは別の累進眼鏡レンズである。視線情報の測定は、上述した
図9のステップS11の測定と同様に行う。また、被検者が測定時に置かれる環境は、全ての測定で同じとする。
【0127】
ステップS32において、ステップS31で測定した視線情報を評価する。例えば、上記3つの累進眼鏡レンズのうち、どの累進眼鏡レンズにおいて、最も透過位置データが広く分布しているかなどを評価する。被検者は、上記3つの累進眼鏡レンズでの測定結果を比較して評価することで、上記3つの累進眼鏡レンズを使用したときの適正を客観的に評価することができる。
【0128】
ステップS33において、ステップS32での評価の結果に基づいて、上記3つの累進眼鏡レンズの中から1つの累進眼鏡レンズを選択する。例えば、仮に、最も広く累進眼鏡レンズの領域を使うことができる累進眼鏡レンズを最適とする場合には、上記3つの累進眼鏡レンズの中から、透過位置データが最も広く分布しているものを選択すればよい。
【0129】
このように、上述したコーナーキューブ40を用いた較正方法により較正された視線検出装置1によって得られた透過位置データを解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを選択することで、精度のよい透過位置データに基づいて眼鏡のレンズを選択することができる。
【0130】
以上説明した第3の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)視線検出装置1の較正方法は、眼鏡2のレンズに対して所定の位置(眼鏡2のレンズの外周部に取り付けられた基準板30)に基準線31〜33が配置され、コーナーキューブ40に映った基準線31〜33とコーナーキューブ40の稜線とその像の直線51〜56と略一致させた状態で、視線検出装置1により被検者3の眼球の動きを測定する測定工程と、当該測定工程による測定結果に基づいて視線検出装置1を較正する較正工程と、を有するので、眼鏡レンズにおいて被検者の視線が透過する領域に何ら部材を設置することなく、較正を行うことができる。したがって、オクルーダを用いた較正方法と比して、透過点を精度よく較正することができる。また、オクルーダを用いた較正方法のように特殊な透過率特性をもったシートを加工して使用するなどの手間がかからず、容易に較正を行うことができる。
【0131】
(2)上記(1)の較正方法において、測定工程では、コーナーキューブ40の稜線とその像の直線51〜56を用いるようにしたので、コーナーキューブ40に何ら加工を施すことなく、容易に較正を行うことができる。
【0132】
(変形例1)
上述した実施の形態では、注視位置データを較正する際に、
図15に示す指標板21を用いる例について説明したが、これに限らなくてよい。例えば、
図23(A)に示すように、指標22を眼鏡2のレンズの屈折力に応じてさらに高密度に配置した指標板21を用いるようにしてもよい。
【0133】
また例えば、
図23(B)に示すように、指標22を視野の周辺部に対応する領域で密に配置した指標板21を用いるようにしてもよい。被検者3が視野の周辺部を注視したときに、瞳孔が瞼でけられることや角膜表面の非球面性により眼球運動データの検出精度が視野の中心部に比べて低下してしまう。ゆえに、
図23(B)に示すように、指標22を視野の周辺部に対応する領域で密に配置することで、これを補う効果がある。
【0134】
また、眼鏡2のレンズは単焦点球面レンズや単焦点非球面レンズや累進レンズなど、どれでもよいが、特に球面度数の強いレンズでは視野の周辺部での歪が大きくなる。この場合は、
図23(C)に示すように指標22を均等に配置した指標板21を用いてもよいが、度の強さに応じて視野の周辺部での大きな歪を精度よく補正するために、
図23(D)に示すように、指標22を周辺に密に配置した指標板21を用いてもよい。
【0135】
(変形例2)
上述した実施の形態では、透過位置データを較正する際に、
図16に示す基準板30を用いる例について説明したが、これに限らなくてよく、例えば
図24に示す基準板30を用いるようにしてもよい。
図24に示す基準板30は、
図16に示す基準板30よりも大きく、眼鏡2のレンズのほぼ全てがリング状の基準板30の内側に入るように構成されている。これにより、より広い視野で測定を行うことができる。
【0136】
(変形例3)
上述した実施の形態では、リング状の基準板30は平面であり、測定される透過位置データの座標は、基準板30と同じ平面上に座標軸を持つという前提で説明したが、これに限らなくてよい。例えば、基準板30を基準に測定された透過位置データを、眼鏡2のレンズを設計するときに使用する座標系に換算してもよい。また特に、眼鏡2のレンズが大きく湾曲したカーブを持つものである場合などは、基準板30を、平面形状ではなくレンズのカーブに合わせて湾曲したものにしてもよい。
【0137】
(変形例4)
上述した実施の形態では、基準板30に、互いに異なる3方向の基準線31〜33が描かれている例について説明したが、これに限らなくてよく、眼鏡2のレンズ上で透過点の位置を定めることができるように、少なくとも互いに異なる2方向の基準線が描かれていればよい。この場合、この2方向の基準線と、コーナーキューブ40の稜線またはその像51〜56とを一致させた状態で、視線検出装置1により眼球運動データを測定する。
【0138】
(変形例5)
上述した実施の形態では、透過位置データを較正するために眼球運動データを測定する際、コーナーキューブ40の稜線およびその像の直線51〜56に、基準板30の基準線31〜33を一致させる例について説明したが、これに限らなくてもよい。コーナーキューブ40の稜線に代えて、例えば、コーナーキューブ40に基準線を予め描いておき、コーナーキューブ40の当該基準線に、基準板30の基準線31〜33を一致させるようにしてもよい。
【0139】
(変形例6)
上述した実施の形態では、基準線31〜33が描かれた基準板30を眼鏡2に取り付ける例について説明したが、この他の方法で、基準線31〜33を眼鏡のレンズの外周部に配置するようにしてもよい。例えば、テストレンズを着脱自在に保持することができる検眼用フレームを被検者3が装着して測定を行う場合には、検眼用フレームのレンズホルダ部分(すなわち保持するレンズの外周部となる部分)に基準線31〜33を描いておくようにしてもよい。
【0140】
(変形例7)
上述した実施の形態では、眼球運動データから透過位置データを算出する例について説明した。しかしながら、上述した実施の形態のように眼球運動データと注視位置データの関係が十分精度よく較正されている場合は、注視位置データから透過位置データを算出するようにしてもよい。この場合、注視位置データと透過位置データとの関係を較正すればよい。
【0141】
注視位置データから透過位置データを算出するには、例えば、上記式(3)および(4)に準じる、注視位置データ(X,Y)を2変数とした4次多項式でなる換算式を用いる。この換算式の係数を求めることにより、注視位置データと透過位置データとの関係を較正する。具体的には、
図17に示したように、被検者3は、手や首などを動かして、コーナーキューブ40と頭部の位置関係を調節する。そして、
図18に示したように、コーナーキューブ40の稜線とその像の直線51〜56が、基準板30の所定の基準線31c〜33cと重なるように調節する。視線検出装置1は、被検者3がこの状態でコーナーキューブ40の頂点41を注視しているときの前方視野用カメラ10の撮像画像を記録する。較正演算装置18は、この撮像画像に映ったコーナーキューブ40の頂点41の位置を注視位置データとして検出する。なお、撮像画像に映った前方視野用カメラ10のレンズ中心がコーナーキューブ40の頂点41に一致するため、撮像画像からコーナーキューブ40の頂点41の位置を求めることができる。較正演算装置18は、検出した注視位置データから上記換算式によって算出される透過点の位置が、基準線31c〜33cを延長した線の交点に合致するように、最小二乗法を用いて上記換算式の係数を求める。
【0142】
なお、注視位置データと透過位置データとの関係を較正する際に、
図18に示した状態での被検者3の眼球の動きを視線検出装置1により測定し、当該測定結果から式(1)および(2)を用いて注視位置データを求めるようにしてもよい。この場合も、この注視位置データから上記換算式によって算出される透過点の位置が、基準線31c〜33cを延長した線の交点に合致するように、最小二乗法を用いて上記換算式の係数を求める。
【0143】
変形例7においても、上述した実施の形態と同様に、眼鏡レンズにおいて被検者3の視線が透過する領域に何ら部材を設置することなく、較正を行うことができるので、オクルーダを用いた較正方法と比して、透過点を精度よく較正することができる。
【0144】
(変形例8)
上述した実施の形態では、式(1)〜(4)において、瞳孔と角膜反射の中心座標の差の値(x、y)を用いて、注視位置データおよび透過位置データを算出する例について説明した。しかしながら、瞳孔の中心座標だけを用いて、注視位置データおよび透過位置データを算出するようにしてもよい。これは、測定する視野が広くて角膜反射の中心座標を測定できない場合に向いている。
【0145】
(変形例9)
上述した実施の形態では、注視位置データおよび透過位置データの較正演算を、較正演算装置18が行う例について説明した。しかしながら、当該較正演算を、PCにてソフトウェアで演算処理するようにしてもよい。特に、既存の装置を使って複数の段階に較正を分ける場合、前段の処理をハードウェア処理し、後段の処理をPCにてソフトウェアで演算処理してもよい。また、この処理は、被検者3が注視対象物を注視中にリアルタイムで処理してもよいし、処理速度に制限がある場合には保存した画像を使って後処理してもよい。
【0146】
(変形例10)
上述した実施の形態では、
図1に示すように、被検者3の頭部に装着する形式の視線検出装置1に対して本発明を適用する例について説明したが、これに限らなくてもよい。被検者3の頭部に対する眼球の相対的な動きを測定する機能があればよく、例えば眼球の動きを検出する据え置き型の視線検出装置と、頭部の動きを検出する別の装置を組み合わせたものに対しても本発明を適用することができる。
【0147】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態を説明する。第4の実施の形態の説明では、第3の実施の形態の説明と重複する部分があるが、説明の便宜上、重複してその説明をする。
図25は、本実施形態に係る視線検出装置(光学装置)110の構成を示す概略図である。
図25に示すように、視線検出装置110は、例えば累進眼鏡(光学機器)116を装用した被験者の頭部に装着されて用いられる。
【0148】
視線検出装置110は、前方視野カメラ111、眼球用カメラ112、赤外LED113、ヘッドバンド114、ダイクロイックミラー115、画像記録装置117、画像処理装置118、較正演算装置119及び制御装置CONTで構成される。被験者は、累進眼鏡116および可視光を透過するダイクロイックミラー115を介して前方の視界を自由に見ることができる。
【0149】
制御装置CONTとしては、例えばパーソナルコンピュータなどの情報処理装置が用いられる。画像記録装置117は、例えば被験者が携帯して持ち歩き可能である。画像処理装置118及び較正演算装置119は、ボードとして制御装置CONTのスロット等に装着されている。
【0150】
前方視野カメラ111は、被験者の前方の視野とおおむね同じ方向か、被験者の前方の視野に対して若干下の方向を向くように固定されている。前方視野カメラ111は、被験者の前方の水平画角約90度を動画で撮影する。前方視野カメラ111によって撮影された画像は、画像記録装置117に記録される。
【0151】
赤外LED113は、赤外光を射出する光源である。赤外LEDから照射された赤外光はダイクロイックミラー115で反射されて被験者の眼球を照明する。眼球用カメラ112は、赤外光で照明された眼球の動画像を撮影する。眼球用カメラ112は、左目用に1台、右目用に1台、計2台設けられている。眼球用カメラ112のピントは、ダイクロイックミラー115を介して、左目及び右目にそれぞれ合わされている。眼球用カメラ112によって撮影された左目及び右目の画像は、画像記録装置117によって個別に記録される。
【0152】
画像記録装置117に記録された画像、すなわち、前方視野カメラ111によって撮影された画像と、眼球用カメラ112によって撮影された眼球の画像は、例えば画像処理装置118に送信される。
【0153】
画像処理装置118は、画像記録装置117から送信された眼球の画像を用いて、当該眼球の画像における瞳孔中心の座標や角膜反射の中心座標などを眼球の運動情報として時系列に出力する。画像処理装置118は、出力した眼球の運動情報を、例えば較正演算装置119に送信する。
【0154】
較正演算装置119は、画像処理装置118で出力された眼球の運動情報を演算処理することで、注視点や透過点などの視線情報を算出し、これを時系列に出力する。この演算処理は、第一の較正演算部による第一の較正演算ステップと、第二の較正演算部による第二の較正演算ステップとから行われる。第一の較正演算部は、眼球の運動情報に基づいて視線情報を算出する。第二の較正演算部は、視線および眼球用カメラ112によって撮影された眼球の画像が眼鏡116のレンズでの屈折作用を受けることで発生した視線情報の誤差を補正する。なお、第一の較正演算部と第二の較正演算部は統合してもよく、その場合は統合された一つの較正演算ステップで、眼球の運動情報に基づいて、眼鏡116のレンズでの屈折作用による誤差を補正した視線情報を算出する。
【0155】
注視位置データは、前方視野カメラ111によって撮影された前方視野の画像における注視点の座標を含むデータである。
【0156】
透過位置データは、眼鏡レンズ上の透過位置の座標を含むデータである。すなわち、透過位置データは、眼鏡レンズ116の累進面である面の座標データである。透過位置データとしては、眼鏡レンズ116の眼球側の面の座標データ、眼球とは反対側の面の座標データのうち一方のデータを用いても良いし、両面についての座標データを用いても良い。較正演算装置119は、上記の演算処理を行う際には較正データ(後述)を用いる。
【0157】
制御装置CONTは、不図示の記憶部を有している。制御装置CONTは、画像記録装置117に記録された画像や、画像処理装置118で出力された眼球の運動情報、較正演算装置119で出力された注視位置データ及び透過位置データを、当該記憶部に記憶させることができる。
【0158】
また、制御装置CONTは、例えば不図示のモニターや外部記憶装置などに接続されている。この場合、制御装置CONTは、画像記録装置117に記録された画像や、画像処理装置118で出力された眼球の運動情報、較正演算装置119で出力された注視位置データ及び透過位置データを、例えばモニターに出力したり、外部記憶装置などの記録媒体に記録したりする。
【0159】
また、制御装置CONTは、較正演算装置119で出力された注視位置データを出力する際に、画像記録装置117から送られた前方視野の画像の上に例えば点や丸などの印を重ねた状態で出力することができる。この場合、印が重ねられた位置は、前方視野の画像の上における注視位置データの示す座標に一致する。また、制御装置CONTは、注視位置データに基づいて、注視位置の累積頻度マップなどをモニターに表示したり、記憶部あるいは外部記憶媒体に記録したりすることができる。
【0160】
また、制御装置CONTは、較正演算装置119で出力された透過位置データの座標をモニターに表示したり、記憶部あるいは外部記憶装置に記録したりすることができる。この場合、注視位置データを出力する場合と同様に、モニターに眼鏡レンズ116の画像や図面を表示し、その上に透過位置データに相当する座標に印を重ねた画像や、累積頻度マップを表示したりすることもできる。
【0161】
なお、ここでは眼球用カメラ112で撮影された眼球の画像は、画像記録装置117に一旦記録され、それを再生して画像処理装置118に送られると説明したが、画像記録装置117に記録すると同時に画像処理装置118に送られるようにしてもよい。そうすると、視線の測定と同時に注視位置データや透過位置データを求めることも可能である。
【0162】
次に、較正演算装置119における較正方法について説明する。ここでは、第一の較正演算ステップと第二の較正演算ステップを統合するとして説明する。
【0163】
眼球の運動情報である瞳孔と角膜反射の中心座標は、注視位置データである注視点の座標と眼鏡レンズ上の透過位置の座標に、複数の係数を持つ数式でそれぞれ換算される。換算式は、注視位置および透過位置の横座標と縦座標をそれぞれ1本の式で表現したものであってもよいし、または、注視位置および透過位置によって幾つかの領域に分けられた複数本の式であってもよい。後者の場合、式は領域の境界で滑らかに結ばれることが望ましい。領域は累進レンズの屈折力の分布が特徴的な領域ほど細かく分割してもよい。これらの換算式は、累進眼鏡レンズの特徴的な屈折力の分布による換算の複雑さを十分に表現できるような自由度を持たせておく。
【0164】
較正用の測定において視線を測定する範囲は重要である。視野に対して狭すぎると、視野の周辺では較正に使うことのできるデータが得られない。そのため視野の周辺での較正の精度が低くなる。逆に広すぎると視野から外れてしまい、較正に使うことのできない無駄なデータが多くなり、その分だけ較正に使うことのできる有効なデータが少なくなる。そのため較正の作業効率が低下するだけでなく、較正の精度が低下したり、較正に必要なデータ数を得られなくて較正に失敗したりする。
【0165】
そこで、最低限必要な範囲を考える一つの基準として、眼鏡レンズを購入するときなどに眼鏡店で用いられている検眼レンズの大きさを基準とする。円形の検眼レンズの有効径は35mm程度である。眼球の回旋点から検眼レンズまでの距離を25mmとすると、視線の角度範囲に換算して±35度程度となる。さらに瞳孔の大きさが直径6mmのときに、瞳孔に入る光束が検眼レンズをすべて通るための角度範囲は±30度程度である。つまり全幅で60度程度の角度範囲を較正用の測定の範囲とすることが望ましい。
【0166】
しかし、累進眼鏡レンズでは直径35mmでは狭すぎてその特徴を十分に試すことができないため、検眼レンズと組み合わせて使われるトライアルレンズでは、レンズ下方のみ長く変形させたレンズを用いている。また、一般に使われる眼鏡フレームの大きさは、検眼レンズに比べて中心から下方や左右方向に大きいものが多い。特に横幅は50mmを超えているものも多い。そのため眼鏡レンズは、もともとは直径が50mm以上で設計されて製品化されていることが多い。
【0167】
このことから最大限必要な範囲を考えると、直径で50mm程度、または、横方向は幅50mm、縦方向は下方に25mm、上方に15mm程度あればよい。これは角度に換算すると、全幅で90度程度、または、左右方向に±45度、下方に45度、上方に30度程度である。
【0168】
眼球の運動情報と注視位置データの関係も、眼球の運動情報と透過位置データの関係も、非線形であるので、これらを換算するには上下方向(Y方向)と水平方向(X方向)の2変数それぞれ最低限でも2次の多項式が必要である。この場合、X方向とY方向に3組以上かつ全部で9点以上の較正用の指標を注視したときの眼球の運動情報と注視位置データおよび透過位置データを測定し、これから最小二乗法を用いることで、2変数の2次多項式の係数をすべて求めることができる。
【0169】
さらに、換算の精度を高めるためには次数を高くする必要がある。例えば、眼鏡116のレンズが単純な単焦点球面レンズの場合であっても、眼鏡116のレンズ上の視線の透過点の位置と屈折による視線の到達点のずれの関係は3次式以上の非線形な関係をもつ。これは球面レンズの横球面収差が入射瞳を通る光線の光軸からの高さの3乗に比例するという3次収差論に関係する。このことから透過位置データと注視位置データの関係は厳密には2次多項式では換算できないことがわかる。視線を測定する範囲が視野±30度さらには±45度程度と広い場合には3次式よりもっと高次の関係となる。さらに累進レンズの場合には非回転対称なより複雑な関係となる。
【0170】
この他に、角膜表面の形状が球面ではなく非球面になっている影響や、前方視野用カメラ111と眼球用カメラ112の歪曲収差の影響などもあり、視線を測定する視野が広いほど換算に用いる多項式の次数を高くする必要があり、2次ではなく3次や4次の多項式を用いることが望ましい。
【0171】
そのため、換算式は例えば下記[数1]、[数2]、[数3]及び[数4]のような2変数の4次多項式を使うことで表現することができる。つまり、眼鏡の屈折による視線の偏向を精度良く表現するためには、視野が±30度より狭い場合でも3次以上、これより視野が広い場合には少なくとも4次以上が必要である。
【0176】
ここで、[数1]と[数2]は眼球の運動情報と注視位置データの換算式であり、XとYは注視点の座標である。xとyは瞳孔と角膜反射の中心座標の差の値を使う。[数3]と[数4]は眼球の運動情報と眼鏡116のレンズ上の視線の透過位置データの換算式であり、X´とY´は眼鏡116のレンズ上の透過位置の座標である。xとyは瞳孔と角膜反射の中心座標の差の値を使う。この換算式の係数は、被験者ごと、望ましくは測定ごとに実測して較正する。
【0177】
上記換算式の係数を較正することで、視線検出装置110の頭部への装着状態や被験者の眼球形状の固体差などに起因するズレ、及び眼鏡116のレンズでの屈折による視線の偏向、及び眼鏡116のレンズでの屈折による眼球画像の歪み、及び前方視野用カメラの収差による視野の歪み、及び左右の眼と前方視野用カメラの位置の違いによる視差などを補正することができる。
【0178】
眼球の運動情報と注視位置データの較正は、被験者に対する位置が既知である固定した複数の指標を被験者に注視させ、そのときの眼球の運動情報から算出される注視位置データが指標の位置に合致するように、較正演算装置で最小二乗法を使って[数1]及び[数2]の係数を求めることで行われる。
【0179】
図26は、上記の較正用の指標の配置を示す図である。
図26に示すように、指標121は指標板120に印刷されている。指標板120は被験者から例えば2mの距離に置かれ、かつ被験者の視野の中央方向に配置され、かつ、その全てが前方視野用カメラの視野に収まるように配置される。指標121の配置の範囲は少なくとも水平方向の視野角が60度を超え、望ましくは被験者が眼鏡を使用して見ることのできる視野の範囲をほぼ満たし、配置の密度は、それを注視するときに透過する累進眼鏡レンズの屈折力が特徴的な領域であるほど、高密度で配置される。
【0180】
指標121は上下方向(Y方向)及び横方向(X方向)に5組以上かつ全部で25点以上が配置されているので、式1および式2の4次式の係数を最小二乗法で全て求めることができる。
【0181】
具体的には、指標の配置の範囲は水平方向が±45度以内、垂直方向が上方30度以内、下方45度以内に配置され、指標の配置の密度は被験者の視野の中央を通る縦線上122と、被験者の視野の中央より下方の領域とに高密度に配置される。これらはそれぞれ、累進眼鏡レンズでの主経線上と、遠用領域と近用領域の間の累進帯域とに相当する。
【0182】
指標が高密度で配置されている領域ほど、最小二乗法で求められた較正データの精度が高くなるし、精度の検証をすることもできるので、累進眼鏡レンズのように特徴的な屈折力の分布をもった眼鏡を使用する場合に、効率よく、高精度に較正演算をするのに都合がよい。
【0183】
累進レンズの場合、累進部の主経線上でレンズ中央から約20mm下方までの範囲が屈折力分布の変化が特徴的な領域であり、この範囲で加入度が最大4ジオプター程度変化する。そこで、この部分に4点以上の指標を配置することで、指標を1ジオプター刻みよりも密に配置することになるので、累進部を十分に精度良く較正および検証することができる。
【0184】
このようにすることで、特に累進部の較正精度を視線の角度で2度以下にすることができる。視線の角度2度は眼鏡レンズの透過点の座標に換算して1mm程度である。累進レンズの累進帯長やインセット量などのスペックはmmオーダーで設計されるので、1mmの精度があれば十分である。
【0185】
較正用の注視点データを測定するときには、指標板120の指標121のうちの任意の指標を使って測定することができるので、較正の精度を高めたい部分ほどより多くの指標121を使って測定する。全ての指標121はラベル付けされていて、実際に測定に使用したラベルが制御装置CONTを経由して較正演算装置119に通知され、較正演算装置119は測定に使用された指標のデータのみを使って較正データを算出する。これにより較正データの数を任意に変更することができるので、較正の精度を確認しながら必要に応じて較正データの数を調整することができる。
【0186】
左右の眼と前方視野用カメラの位置の違いによる視差を較正するためには、指標板120と被験者の距離は2mの他に、例えば1m、0.2mと複数の既知の距離に置かれて、それぞれ測定する必要がある。このときには視野中央の1点の指標のみを測定に使えばよい。
【0187】
眼球の運動情報と透過位置データの較正は、眼鏡116のレンズ上の位置が既知の点を視線が透過する方向を被験者に注視させ、そのときの眼球の運動情報から算出される透過位置データが眼鏡116のレンズ上の透過点の位置に合致するように、較正演算装置119で最小二乗法を使って[数3]、[数4]の係数を求めることで行われる。このとき、較正のために測定する注視点データの数は、眼球の運動情報と注視位置データの較正のときのそと同じである必要はなく、較正の精度を確認しながら必要に応じて較正データの数を調整することができる。
【0188】
図27は累進眼鏡のレンズ上の実際の透過位置の較正データの測定方法を説明する図である。
図27に示すように、累進眼鏡のレンズ131上の実際の透過位置の測定は、被験者が指標を注視しているときに、直径1mmから2mm程度の穴132と格子パターン136がある半透明な遮光板133をレンズ131の表面に軽く接触させて穴132の中心を通して指標を注視し、そのときの穴132の中心位置を透過位置として、眼鏡フレーム134やレンズ131上に記した位置が既知のマーク135を規準にして、その位置を遮光板133の格子パターン136を物差しとして使い測長することで行う。測長は、記録された眼球用カメラの画像からあとで測ってもよい。
【0189】
これにより、被験者が累進眼鏡を使用している場合でも、被験者の注視位置データを高精度で測定することが可能であり、さらに眼鏡レンズの透過位置データも高精度で測定することが可能である。
【0190】
図28は新しい累進眼鏡レンズの設計の手順を説明する図である。測定S111では、被験者は基準となる眼鏡レンズを装用した状態で、特定の環境下に置かれ、このときの視線情報を測定される。ここで基準となる眼鏡レンズとは、新しい累進眼鏡レンズを設計する上で基準とする眼鏡レンズであり、例えば試作品などである。特定の環境下とは、新しい累進眼鏡レンズを装用することが想定される環境のうちの一つであり、例えば自動車の運転などである。
【0191】
視線情報を測定するに際には、視線追跡装置にて、被験者の眼球の運動情報から視線情報を算出し、さらに装用している累進眼鏡レンズによる視線情報の誤差を補正することで、正確な視線情報を測定する。
【0192】
評価S112では、測定された視線情報が評価される。例えば、被験者が自動車の運転中にサイドミラーを見たときの透過点の分布を解析することで、そのときに眼鏡レンズ上のどの領域を使用しているとか、サイドミラーを見るときに眼球と首をどの程度動かして視線を変えているかなどを調べることができる。
【0193】
設計S113では、評価の結果に基づいて新しい累進レンズの設計を行う。このとき例えば、サイドミラーを見るときに首を動かす量を基準眼鏡レンズのときの50%に抑えることができるような累進眼鏡レンズの収差性能を実現する、というような設計目標を立てて設計を行うことができる。
【0194】
もちろんこれらは一例である。測定者の人数を増やしたり測定環境を増やしたりすることで、より汎用的な設計目標を立てて設計することもできる。
【0195】
図29は新しい累進眼鏡レンズを製造して製品として販売するまでの手順を説明する図である。
【0196】
測定S121、評価S122、設計S123までは
図28と同じである。ただし、製造S124では、設計S123により設計された新しい累進眼鏡レンズを試作品として製造し、これを測定S121で再測定し、評価S122で再評価し、設計S123でさらに改良したものを再設計する。この手順を何度か繰り返して完成度を高めたものを製品として販売するのである。
【0197】
図30は、特性の異なる複数の累進眼鏡レンズの中から、被験者にとって最適な累進眼鏡レンズを選択する手順を説明する図である。
【0198】
測定S131では、特性の異なる累進眼鏡レンズを3つ取り上げ、被験者は、それぞれを装用した状態でそれぞれの視線情報を測定される。それぞれの測定は
図28の測定S111と同様であるが、被験者が測定時に置かれる環境は全ての測定で同じようにする。
【0199】
評価S132では、測定S131で測定された視線情報が比較評価される。例えば、どの累進眼鏡レンズがもっとも透過位置データが広く分布しているかなどが評価される。
【0200】
選択S133では、評価S132の結果に基づいて一つの累進眼鏡レンズが選択される。例えば、仮に、もっとも広く眼鏡レンズの領域を使うことができる眼鏡レンズが最適とするならば、透過位置データがもっとも広く分布しているものを選択すればよい。
【0201】
これらのようにして、本発明の視線追跡装置を使って得られたデータを、新しい累進レンズの開発や被験者に最適な累進レンズを選定することなどに活用することができる。
【0202】
次に、第一の較正演算ステップと第二の較正演算ステップをそれぞれ別に行う場合について説明する。
【0203】
複数のステップに分けて較正する場合、まず、第一の較正演算ステップでは、視線検出装置の頭部への装着状態や被験者の眼球形状の固体差などに起因する成分だけを主な較正対象として、より簡単な測定で取得する。
図31は、このときの較正用の指標の配置を示す図である。
【0204】
図31に示すように、指標141は指標板140に例えば被験者から2mの距離に、被験者の視野全体の中央方向の1つと、そこから上下左右の4点の計5点だけが用いられる。5点は全て被験者の視野の中央付近にのみ配置されている。このとき、眼球の運動情報と視線情報の換算式には[数1]〜[数4]のような4次式をそのまま使用すると全ての未定係数を最小二乗法で求めることはできないので、次数を減らしたり、係数間の関係を規定したりするなどして未定係数を減らした数式を用いる。
【0205】
なお、このステップで左右の眼と前方視野用カメラの位置の違いによる視差を較正する場合は、さらに被験者と指標の距離を変えて中央の点だけを被験者に注視させる。このときの被験者と指標の距離は2mの他に、例えば1m、0.2mの合計3点である。このステップの較正データだけを使っても、眼球の運動情報を較正演算装置119で演算処理して注視位置データとして出力することができる。
【0206】
次に第二の較正演算ステップでは、
図26の指標を使い、より精度の高い較正データの測定を行う。このときは、眼球の運動情報の代わりに、第一の較正演算ステップで求めた較正データを使って出力された注視位置データを使って、より高精度な注視点の座標および透過点の座標を、[数1]〜[数4]のような多くの係数を持つ数式で換算する。
【0207】
このような複数の段階に分けた較正は、既存の視線検出装置の較正機能を使うことができる点で便利である。既存の装置では、前述のように、眼鏡のレンズでの屈折作用による誤差を考慮していないために視野の周辺部などでは精度よく較正できないという問題がある。しかし既存の装置は、眼球の運動情報を取得してそれから注視位置データを取得するという第一の較正演算部の機能の一部を既に有しているし、眼鏡のレンズでの屈折作用以外の誤差に対しては既に対策が施されていることが期待できるからである。また眼球の運動情報が出力されないような既存の装置でも、このように複数のステップに分けて較正することで、既存の装置を活用することができる。
【0208】
以上のように、本実施形態によれば、視線検出装置110の被験者が累進眼鏡116を使用している場合でも、視野の全域で眼球の運動情報を正しく較正できる。これにより、視線検出装置110を用いる場合において、視野の全域で視線が累進眼鏡116のレンズ上を透過する点を正確に求めることができる。
【0209】
本発明の技術範囲は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、本実施形態では、これらの較正演算は較正演算装置119で行われるとして説明したが、制御装置CONTにてソフトウェアで演算処理されてもよい。特に、既存の装置を使って複数の段階に較正を分ける場合、前段の処理をハードウェア処理し、後段の処理を制御装置CONTにてソフトウェアで演算処理してもよい。また、この処理は、被験者が注視対象物を注視中にリアルタイムで処理してもよいし、処理速度に制限がある場合には保存した画像を使って後処理してもよい。
【0210】
また、眼鏡レンズの累進面が後面の場合は、前面で測定した透過点の座標を、視線の角度と眼鏡レンズの屈折率を考慮して後面の座標におおよそ換算することができる。
【0211】
また、較正用の指標は
図26に限らない。例えば、第2の実施の形態と同様に、
図23(A)〜
図23(D)の指標を使用するようにしてもよい。
【0212】
また、累進眼鏡のレンズ上の実際の透過位置の較正データを測定するには前述の方法に限らない。例えば、較正データを測定するときに、
図32のようにピンホール191を配置したフィルム190を眼鏡レンズ131上に貼り付けて用いることもできる。ただしピンホール191の配置は範囲と密度が較正用の指標121と同じようにする必要がある。そうすることで視野の周辺部や累進レンズの累進部を含む全ての視野で、精度よく透過位置データを較正することができる。
【0213】
フィルムには眼鏡レンズとの位置合わせ用のピンホール192があり、これとレンズ上のマーク135を重ねることで眼鏡レンズに対する各ピンホールの位置を知ることができる。
【0214】
このフィルムは例えばコダック社の赤外写真用ラッテン2フィルタなどの赤外光を透過して可視光を遮蔽するフィルタを使うことができる。この場合、眼鏡レンズに貼り付けたフィルムの各ピンホール越しに遠方を順次注視し、そのときの眼球の運動情報と眼鏡レンズ上の各ピンホールの位置を測定することができる。なお、この方法の場合は注視位置データの較正データの測定は、前述の方法で別途測定する。
【0215】
また、視線検出装置は
図25のように被験者の頭部に装着する形式でなくてもよい。被験者の眼球の動きを測定する方式のものであればよく、例えば据え置き型のものでも被験者の頭部に対する眼球の相対的な方向を検出する機能のある装置であれば本発明を適用することができるし、またはこの機能の無い据え置き型の視線検出装置でも、頭部の動きを検出する別の装置と組み合わせて使うことで、本発明を摘要することができる。
【0216】
以上の説明はあくまで一例であり、上記の実施形態の構成に何ら限定されるものではない。また、上記実施形態に各変形例の構成を適宜組み合わせてもかまわない。
従来技術では、検出した透過点の位置を2次元でプロットした図を作成することが述べられているが、検出結果をどのように表示すれば、眼鏡レンズの設計や選択の際に有用であるかということについては考慮されていないため、表示方法としては不十分である。
従来技術では、眼鏡レンズの広い範囲にシートを貼りつける必要があるため、被検者の視線への影響や視線検出装置の測定結果への影響を完全に防ぐことは難しく、測定誤差を生じやすい。また、ピンホールが小さいために視界が狭く且つ不明瞭であること、および注視対象物と眼鏡レンズ上に貼りつけたシートのピンホールとでは被検者の眼からの距離が極端に異なるために、視界の中のピンホールの境界が不明瞭であることなどからも、測定精度が低くなることが予測される。ゆえに従来技術では、透過点の較正精度が低くなる可能性があった。
従来技術では、視線検出装置において、眼鏡等の光を屈折させて眼球に入射させる光学機器を被験者が装着していることは念頭に置いておらず、回旋点と注視点とを結ぶ一本の直線が視線であるという前提で視線方向や眼球回転角を計算している。したがって、被験者が上記の光学機器を装着している場合、被験者の実際の視線は光学機器の位置に応じて屈折するため、検出結果と実際の視線情報との間には誤差が含まれてしまう。
従来技術では、例えば累進眼鏡のような屈折力の分布が局所的に異なる眼鏡や屈折力の強い眼鏡などを被験者が装用している場合において、眼球の運動情報を較正するに際して、視野の中央付近のみでの較正にしか言及していない。そのために視野の周辺部や累進領域では、眼球の運動情報を精度よく較正しきれず、視線が累進眼鏡レンズ上を透過する点を正確に求めることができない場合があった。
上記実施形態によれば、検出した眼鏡レンズ上の透過点の位置を、眼鏡レンズの設計や選択の際に有用な態様で表示できる。
上記実施形態によれば、透過点を精度よく較正することができる。
上記実施形態によれば、より正確な視線情報の検出に寄与することができる。
【0217】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2012年第205451号(2012年9月19日出願)
日本国特許出願2012年第205452号(2012年9月19日出願)
日本国特許出願2012年第206099号(2012年9月19日出願)