【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0028】
<配位子の合成>
(合成例1:N,N’−Dicyclohexylethanediimineの合成)
【化13】
空気下、室温でシクロヘキシルアミン23.0g(231.6mmol)とn−プロパノール160mLの混合溶液に40%グリオキサール水溶液15.4g(103.4mmol)と水48mL、n−プロパノール16mLを加え、1.5時間70℃で撹拌した。室温まで冷却後、ろ過し、ろ物を水10mLで3回、冷却したメタノール20mLで1回、順次掛け洗い洗浄を行った。残った固体を減圧下で乾燥することにより、白色粉末19.6g(収率86%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 1.12-1.78 (m, 20H), 3.07-3.15 (m, 2H), 7.89 (s,
2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 24.61, 25.53, 33.98, 69.50, 160.13.
Anal. Calc. for C
14H
24N
2 : C, 76.31; H, 10.98; N, 12.71. Found: C, 76.36; H, 10.96; N, 12.77. MS(FAB) for C
14H
24N
2 : m/z 221.3 (M+)
【0029】
(合成例2:N,N’−Di(1−adamantyl)ethanediimineの合成)
【化14】
空気下、室温でアダマンチルアミン5.0g(33.08mmol)をエタノール72mLに溶解し撹拌を開始した。この溶液に40%グリオキサール水溶液2.4g(16.54mmol)を滴下した。約30分後に生成物の晶析が認められた。22時間後反応溶液をろ過し、固体を冷エタノール6mLで2回、ろ物を掛け洗い洗浄した。得られた白色粉末を減圧下で乾燥させた(収量3.36g;1晶目63%)。ろ液を液量が半分になるま
で濃縮し溶存している生成物を晶析させた。これをろ過し、冷エタノール5mLで2回、ろ物を掛け洗い洗浄を行った。得られた白色粉末を減圧下で乾燥させた(収量0.75g;2晶目)。1晶と2晶を合わせて白色粉末4.1g(収率77%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 1.63-1.73 (m, 24H), 2.18 (s, 6H), 7.91 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 29.48, 36.50, 42.87, 58.64, 157.96. Anal. Calc. for C
22H
32N
2 : C, 81.43; H, 9.94; N, 8.63. Found: C, 81.18; H, 9.91; N, 8.64. MS(FAB) for C
22H
32N
2 : m/z 325.3 (M+)
【0030】
(合成例3:1,2−Bis[(2,6−diisopropylphenyl)imino]acenaphtheneの合成)
【化15】
空気下、室温でアセナフトキノン1.54g(182.2mmol)をアセトニトリル62mLに溶解し、攪拌を開始した。この溶液を1時間還流させ、酢酸14.5mL(253.6mmol)を添加した。反応溶液が均一になったことを確認後、2,6−ジイソプロピルアニリンを30分以上かけて滴下した。生成した固体をろ別し、ヘキサン30mLで2回掛け洗い洗浄した後、減圧下で乾燥することにより、黄色粉末11.3g(収率69%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 0.97 (d, J = 6.8, 12H), 1.24 (d, J = 7.2 ,12H),
2.96-3.07 (m, 4H), 6.63 (d, J = 7.2, 2H), 7.27 (s, 6H), 7.36 (t, J = 8.0, 2H), 7.88 (d, J = 8.0, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 23.27, 23.57, 28.74, 123.59, 123.59, 124.41, 128.01, 129.00, 129.61, 131.23, 135.55, 140.92, 147.61, 161.10.
Anal. Calc. for C
36H
40N
2: C, 86.35; H, 8.05; N, 5.59. Found: C, 86.22; H, 8.14; N, 5.62. MS(FAB) for C
36H
40N
2 : m/z 501.3 (M+)
【0031】
(合成例4:N,N’−Di(cyclohexyl)butane−2,3−diimineの合成)
【化16】
空気下、室温でシクロへキシルアミン4.9g(49.8mmol)とメタノール34mLの混合溶液に2,3−ブタジオン1.70g(19.8mmol)とメタノール17mLを注加し、室温で18時間攪拌した。反応溶液をろ過、濃縮した後に得られた茶褐色のオイルをKugelrohr蒸留により精製した(40Pa,140℃)。これにより茶褐色粉
末1.41 g (収率 29%) を得た。
Anal. Calc. for C
16H
28N
2: C, 77.36; H, 11.36; N, 11.28. Found: C, 77.30; H, 11.40; N, 11.31.
【0032】
(合成例5:N,N’−Diphenylbutane−2,3−diimineの合成)
【化17】
空気下、室温でジアセチル6.02g(69.7mmol)とメタノール55mLの混合溶液にアニリン22.65g(243.9mmol)とメタノール45mLを加えて攪拌を開始した。この溶液にジアセチルに対して触媒量(10mol%)のぎ酸0.6gを添加し、室温で5時間攪拌した。生成した固体をろ別し、メタノール20mLでろ物の掛け洗い洗浄を行い、黄色粉末11.3g(収率69%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 2.18 (s, 6H), 6.82 (d, J = 8.2, 4H), 7.14 (t, J
= 7.4, 2H), 7.39 (t, J = 8.2, 4H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 15.51, 118.84, 123.92, 129.15, 151.03, 168.35.
Anal. Calc. for C
16H
16N
2: C, 81.32; H, 6.82; N, 11.85. Found: C, 81.35; H, 6.93;
N, 11.82. MS(FAB) for C
16H
16N
2 : m/z 237.2 (M+)
【0033】
(合成例6:N,N’−Di(tert−butyl)ethanediimineの合成)
【化18】
空気下、室温でtert−ブチルアミン20.76g(284.0mmol)とヘキサン51mLの混合溶液を氷浴につけて冷却し、40%グリオキサール水溶液20.30g(139.9mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。分液後、ヘキサン層を硫酸マグネシウム2.00gにて乾燥させた。ろ過後、減圧下で乾燥し、白色粉末19.8g(収率84%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 1.15 (s, 18H), 7.83 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 29.37, 58.16, 157.82.
Anal. Calc. for C
10H
20N
2 : C, 71.37; H, 11.98; N, 16.65. Found: C, 71.09; H, 12.14; N, 16.45.
【0034】
(合成例7:N,N’−Bis(1,1,3,3−tetramethylbutyl)ethanediimineの合成)
【化19】
空気下、室温で1,1,3,3−テトラメチルブチルアミン19.50g(150.9
mmol)と水100mLの混合溶液に40%グリオキサール水溶液20.30g(139.9mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。ろ過後、ろ物を水10mLで2回、掛け洗い洗浄した後、減圧下で乾燥することにより、白色粉末19.65g(収率95%)で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 0.89 (s, 18H), 1.26 (s, 12H), 1.67 (s, 4H), 7.91 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 29.50, 31.78, 32.22, 62.09, 157.73.
Anal. Calc. for C
18H
36N
2: C, 77.08; H, 12.94; N, 9.98. Found: C, 77.17; H, 13.19; N, 9.97. MS(FAB) for C
18H
36N
2 : m/z 280.3 (M+)
【0035】
(合成例8:N,N’−Di(1−adamantyl)butane−2,3−diimineの合成)
【化19】
空気下、室温でアダマンチルアミン3.51g(11.62mmol)とメタノール40mLの混合溶液に2,3−ブタジオン1.0g(23.23mmol)を注加し、室温で18時間攪拌した。反応溶液をろ過、濃縮した後に得られた茶褐色のオイルをKugelrohr蒸留により精製した(40Pa,140℃)。これにより黄白色粉末1.8g (収率45%) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 1.63-1.73 (m, 24H), 2.18 (s, 6H), 2.48 (s, 6H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3, d/ppm) : 15.32, 29.41, 35.47, 42.81, 59.48, 154.91.
【0036】
<鉄錯体の合成>
(合成例9:N,N’−Di(1−adamantyl)ethanediimine FeCl
2の合成)
【化20】
窒素雰囲気下、合成例2で合成した配位子1.00g(3.08mmol)をCH
2Cl
250mL(50倍volume)に溶解させ、塩化鉄(II)0.39g(3.08mmol)を加えた。塩化鉄は反応の進行と共に溶解し、同時に青〜紫色の不溶物として目的物が析出した。24時間撹拌後、反応溶液を窒素気流下ろ過した。ろ物をヘキサン10mL(10倍volume)に加えて20分懸濁させた後、ろ過した。ろ液をGCにて分析し、配位子のピークが消失するまで洗浄を繰り返し、未反応配位子を除去した後、室温にて減圧乾燥させて鉄錯体を得た(収率86%)。
なお、錯体は常磁性のため、NMRでの構造決定が困難である。そのためFAB−Massによるフラグメントピーク(−Cl)の確認、若しくは元素分析による推定構造を示した。
Anal. Calc. for C
22H
32Cl
2FeN
2 : C, 58.46; H, 7.15; N, 6.21. Found: C, 58.45; H, 7.18; N, 6.22.
【0037】
(合成例10:N,N’−Dicyclohexylethanediimine FeCl
2の合成)
【化21】
配位子を合成例1で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
14H
24Cl
2FeN
2: m/z 346.1 (M
+), m/z 311.2 (M
+-Cl).
【0038】
(実施例1:N,N’−Di(cyclohexyl)butane−2,3−diimine FeCl
2の合成)
【化22】
配位子を合成例4で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
16H
28Cl
2FeN
2: m/z 374.1 (M
+), m/z 339.1 (M
+-Cl).
【0039】
(実施例2:N,N’−Diphenylbutane−2,3−diimine FeCl
2の合成)
【化23】
配位子を合成例5で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
16H
16Cl
2FeN
2: m/z 362.0 (M
+), m/z 327.1 (M
+-Cl).
【0040】
(合成例11:N,N’−Di(tert−butyl)ethanediimine
FeCl
2の合成)
【化24】
配位子を合成例6で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
10H
20Cl
2FeN
2: m/z 294.0 (M
+), m/z 259.1 (M
+-Cl).
【0041】
(合成例12:N,N’Bis(1,1,3,3−tetramethylbutyl)ethanediimine FeCl
2の合成)
【化25】
配位子を合成例7で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
18H
36Cl
2FeN
2: m/z 406.1 (M
+), m/z 371.1 (M
+-Cl).
【0042】
(実施例3:1,2−Bis[(2,6−diisopropylphenyl)imino]acenaphthene FeCl
2の合成)
【化26】
配位子を合成例3で合成した配位子に置き換えた以外は、合成例9と同様の方法により鉄錯体を得た。
MS(FAB) for C
36H
40Cl
2FeN
2: m/z 626.3 (M
+), m/z 591.3 (M
+-Cl), Anal. Calc. for C
36H
40Cl
2FeN
2 : C, 68.91; H, 6.43; N, 4.46. Found: C, 68.87; H, 6.51; N, 4.48.
【0043】
<有機ケイ素化合物の製造>
(実施例4〜16)
合成例9〜12、及び実施例1〜3で合成した鉄錯体をそれぞれ使用して、アルケン類のヒドロシリル化反応を実施した。なお、具体的な実験操作及び条件については、下記の通りである。
鉄錯体を空気中で所定量(実施例4:合成例9で合成した鉄錯体、5mg,0.011mmol)精密に測り取り、窒素気流下のシュレンクに移した。1−オクテン(8.52mL,54.26mmol)、Ph
2SiH
2(1.00mL,5.43mmol)を順次加え、室温で撹拌を開始した。続いてNaBHEt
3(22μL,0.022mmol)を加えた後、100℃に昇温してシュレンクを密閉した状態で撹拌を維持した。所定の時間が経過した後、同温度にて窒素気流下、GCで反応溶液を分析した。反応終了確認後、反応溶液を室温に戻した。セライトろ過、アセトニトリルで洗浄した後、減圧下濃縮し、残渣を蒸留することでヒドロシリル化反応生成物を単離した。結果を表1に示す。
【化27】
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例17〜24)
Ph
2SiH
2をMeSiH
2に置き換えた以外、実施例4〜16と同様の方法により、アルケン類のヒドロシリル化反応を実施した。結果を表2に示す。
【化28】
【0046】
【表2】
【0047】
(実施例25、26)
下記表3に記載の条件を変更した以外、実施例7と同様の方法により、アルケン類のヒドロシリル化反応を実施した。結果を表3に示す。
【化29】
【0048】
【表3】
【0049】
(実施例27〜32)
合成例10で合成した鉄錯体(5mg,0.011mmol)精密に測り取り、窒素気流下のシュレンクに移した。所定量の1−オクテンとMePhSiH
2を順次加え、室温で撹拌を開始した。続いてNaBHEt
3(2.7mg,0.022mmol)を加えた
後、100℃に昇温してシュレンクを密閉した状態で撹拌を維持した。所定の時間が経過した後、同温度にて窒素気流下、GCで反応溶液を分析した。反応終了確認後、反応溶液を室温に戻した。セライトろ過、アセトニトリルで洗浄した後、減圧下濃縮し、残渣を蒸留することでヒドロシリル化反応生成物を単離した。結果を表4に、1−オクテン/MePhSiH
2と転化率の関係を示したグラフを
図1に示す。
【化30】
【0050】
【表4】
【0051】
(実施例33〜35)
合成例9で合成した鉄錯体(5mg,0.011mmol)精密に測り取り、窒素気流
下のシュレンクに移した。1−オクテン(173.93mL,1.11mol)、Ph
2SiH
2(20.42mL,0.11mol)を順次加え、室温で撹拌を開始した。続いてNaBHEt
3(2.7mg,0.022mmol)を加えた後、100℃に昇温して
シュレンクを密閉した状態で撹拌を維持した。所定の時間が経過した後、同温度にて窒素気流下、GCで反応溶液を分析した。結果を表5に、反応時間と転化率の関係を示したグラフを
図2に示す。
【化31】
【0052】
【表5】
【0053】
実施例35の結果より、反応開始から15日経過後の転化率が42%であることが明らかであるが、15日以降も鉄触媒が失活していないことを確認した。即ち、鉄錯体はヒドロシリル化反応においてターンオーバー数(turnover number)が4200を超える優れた活性を有することが明らかである。