(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6308857
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】成分濃度計測装置と方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/71 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
G01N21/71
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-89775(P2014-89775)
(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-224812(P2014-224812A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-90976(P2013-90976)
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】倉田 孝男
(72)【発明者】
【氏名】松永 易
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆
(72)【発明者】
【氏名】江藤 修三
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−163383(JP,A)
【文献】
特開2001−311793(JP,A)
【文献】
特開平06−109639(JP,A)
【文献】
特開昭55−075636(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/045782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照成分と対象成分が含まれる被対象物に光を照射し、被対象物と光との相互作用から得られるスペクトルデータから被対象物に含まれる前記対象成分の濃度を計測する成分濃度計測装置であって、
前記計測について、前記参照成分の濃度を一定に維持した状態における、前記対象成分の濃度と前記参照成分の輝線強度との関係を第1関係とし、
前記第1関係において、前記対象成分の各濃度について、当該濃度に対応する前記参照成分の輝線強度を、前記対象成分の濃度が0のときの前記参照成分の輝線強度を1として無次元化したものを平準化率とし、
前記成分濃度計測装置は、前記対象成分の各濃度に対するそれぞれの前記平準化率が常に同じとなる前記対象成分と前記参照成分の輝線強度を利用して、前記対象成分の濃度を計測するものであり、
前記被対象物に前記光を照射する照射装置と、
前記被対象物から得られるスペクトルデータを分析し、前記対象成分と前記参照成分に特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測する分析装置と、
前記対象成分の輝線強度から前記対象成分の濃度を特定する演算装置と、を備え、
該演算装置は、
前記第1関係から求めた、前記対象成分の濃度に対する前記対象成分の輝線強度の補正関係を記憶し、
新たに計測された前記参照成分の輝線強度と、新たに計測された前記対象成分の輝線強度と、前記補正関係とから、前記対象成分の濃度を特定する、成分濃度計測装置。
【請求項2】
前記補正関係は、
(A)前記参照成分の濃度を一定に維持した状態において、前記第1関係と、前記対象成分の濃度と前記対象成分の輝線強度との第2関係とを求め、
(B)前記第1関係から、前記対象成分の濃度に対する前記参照成分の輝線強度の前記平準化率を求め、
(C)前記第2関係を前記平準化率で補正して求めたものである、ことを特徴とする請求項1に記載の成分濃度計測装置。
【請求項3】
前記補正関係は、前記第2関係の輝線強度の値を対象成分の濃度に相当する前記平準化率で除して求めたものである、ことを特徴とする請求項2に記載の成分濃度計測装置。
【請求項4】
参照成分と対象成分が含まれる被対象物に光を照射し、被対象物と光との相互作用から得られるスペクトルデータから被対象物に含まれる前記対象成分の濃度を計測する成分濃度計測方法であって、
前記計測について、前記参照成分の濃度を一定に維持した状態における、前記対象成分の濃度と前記参照成分の輝線強度との関係を第1関係とし、
前記第1関係において、前記対象成分の各濃度について、当該濃度に対応する前記参照成分の輝線強度を、前記対象成分の濃度が0のときの前記参照成分の輝線強度を1として無次元化したものを平準化率とし、
前記成分濃度計測方法は、前記対象成分の各濃度に対するそれぞれの前記平準化率が常に同じとなる前記対象成分と前記参照成分の輝線強度を利用して、前記対象成分の濃度を計測するものであり、
照射装置により、前記被対象物に前記光を照射し、
分析装置により、前記被対象物から得られるスペクトルデータを分析し、前記対象成分と前記参照成分に特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測し、
前記第1関係から求めた、前記対象成分の濃度に対する前記対象成分の輝線強度の補正関係を記憶し、
新たに計測された前記参照成分の輝線強度と、新たに計測された前記対象成分の輝線強度と、前記補正関係とから前記対象成分の濃度を特定する、ことを特徴とする成分濃度計測方法。
【請求項5】
前記補正関係は、
(A)前記参照成分の濃度を一定に維持した状態において、前記対象成分の濃度を変化させて、前記第1関係と、前記対象成分の濃度と対象成分の輝線強度との第2関係とを求め、
(B)前記第1関係から、前記対象成分の濃度に対する前記参照成分の輝線強度の前記平準化率を求め、
(C)前記第2関係を前記平準化率で補正して求めたものである、ことを特徴とする請求項4に記載の成分濃度計測方法。
【請求項6】
前記補正関係は、前記第2関係の輝線強度の値を対象成分の濃度に相当する前記平準化率で除して求めたものである、ことを特徴とする請求項5に記載の成分濃度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質に含まれる成分濃度を計測する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学薬品、微生物、放射線物質、爆発物などを分析する手段として、レーザ誘起ブレークダウン分光分析法(Laser Induced Breakdown Spectroscopy:以下、LIBS法)が知られている。
LIBS法は、パルスレーザ光をレンズで集光させて試料に照射し、試料を急速に高温にすることでプラズマを生成し、励起された電子が低いエネルギーレベルに落ちる時に発生する光の波長と強度を分析することにより試料に含まれる成分などを計測するものである。
【0003】
さらに、LIBS法を用いて、試料に含まれる特定成分の濃度を計測する手段として、例えば特許文献1、2が開示されている。
【0004】
特許文献1は、LIBS法で検出された輝線強度と、プラズマの再結合により生じる白色光の強度との比から、試料の定量分析を行うものである。
特許文献2は、Na元素の発光スペクトル線の強度と、この発光スペクトル線を含まない波長範囲の強度とを測定し、それらの比からNa元素の濃度を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2763907号公報
【特許文献2】特許第4357710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された従来の手段では、輝線強度と白色光強度との比、或いは、発光スペクトル線の強度とこれを含まない波長範囲の強度との比から試料に含まれる特定成分の濃度を計測している。
しかし、LIBS法において、励起された電子が低いエネルギーレベルに落ちる時に発生する光の信号強度は光学系、照射条件、外乱など様々な要因の影響を受けるため、計測毎に信号強度が大きく変動し、成分濃度を安定して正確に計測することができなかった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、LIBS法において、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、物質に含まれる成分濃度を正確に計測することができる成分濃度計測装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、被対象物に光を照射し、被対象物と光との相互作用から得られるスペクトルデータから被対象物に含まれる対象成分の濃度を計測する成分濃度計測装置であって、
前記被対象物に前記光を照射する照射装置と、
前記被対象物から得られるスペクトルデータを分析し、前記対象成分と参照成分に特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測する分析装置と、
前記対象成分の輝線強度から前記対象成分の濃度を特定する演算装置と、を備え、
該演算装置は、
参照成分の濃度を一定に維持した状態における、対象成分と参照成分の輝線強度と対象成分の濃度との関係から求めた、対象成分の濃度に対する対象成分の輝線強度の補正関係を記憶し、
前記補正関係を用いて新たに計測された前記対象成分の輝線強度から前記対象成分の濃度を特定する、ことを特徴とする成分濃度計測装置が提供される。
【0009】
前記補正関係は、
参照成分の濃度を一定に維持した状態における、前記対象成分の濃度と前記参照成分の輝線強度との第1関係と、前記対象成分の濃度と対象成分の輝線強度との第2関係とから、前記対象成分の濃度に対する前記参照成分の輝線強度の平準化率を求め、第2関係を前記平準化率で補正して求める。
【0010】
前記補正は、対象成分の濃度が0のときの参照成分の輝線強度を1として、平準化率を無次元化し、
前記第2関係の輝線強度の値を対象成分の濃度に相当する平準化率で除して求める、ことが好ましい。
【0011】
また本発明によれば、被対象物に光を照射し、被対象物と光との相互作用から得られるスペクトルデータから被対象物に含まれる対象成分の濃度を計測する成分濃度計測方法であって、
照射装置により、前記被対象物に前記光を照射し、
分析装置により、前記被対象物から得られるスペクトルデータを分析し、対象成分と参照成分に特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測し、
参照成分の濃度を一定に維持した状態における、対象成分と参照成分の輝線強度と対象成分の濃度との関係から求めた、対象成分の濃度に対する対象成分の輝線強度の補正関係を記憶し、
前記補正関係を用いて新たに計測された前記対象成分の輝線強度から前記対象成分の濃度を特定する、ことを特徴とする成分濃度計測方法が提供される。
【0012】
前記補正関係は、
(A)参照成分の濃度を一定に維持した状態において、前記対象成分の濃度を変化させて、前記対象成分の濃度と前記参照成分の輝線強度との第1関係と、前記対象成分の濃度と対象成分の輝線強度との第2関係とを求め、
(B)前記第1関係から、前記対象成分の濃度に対する前記参照成分の輝線強度の平準化率を求め、
(C)前記第2関係を前記平準化率で補正して求める。
【0013】
前記補正は、対象成分の濃度が0のときの参照成分の輝線強度を1として、平準化率を無次元化し、
前記第2関係の輝線強度の値を対象成分の濃度に相当する平準化率で除して求める、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
LIBS法において、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、同時に計測される対象成分と参照成分の輝線強度の比率は一定である。また、参照成分の濃度が一定である場合、参照成分の輝線強度は本来一定となる。
本発明はかかる新規の知見に基づくものである。
【0015】
すなわち、本発明の装置と方法によれば、参照成分の濃度を一定に維持した状態における、対象成分と参照成分の輝線強度と対象成分の濃度との関係から求めた、対象成分の濃度に対する対象成分の輝線強度の補正関係を求めておくので、この補正関係を用いて新たに計測された対象成分の輝線強度から対象成分の濃度を特定することができる。
【0016】
従って本発明によれば、LIBS法において、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、物質に含まれる成分濃度を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による成分濃度計測装置の全体構成図である。
【
図2】計測されたスペクトルデータの一例を示す図である。
【
図4】補正前と補正後のCs濃度と輝線強度の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明による成分濃度計測装置10の全体構成図である。
本発明の成分濃度計測装置10は、被対象物1に光2を照射し、被対象物1と光2との相互作用から得られるスペクトルデータ3から被対象物1に含まれる対象成分aの濃度を計測する装置である。
【0020】
図1において、本発明の成分濃度計測装置10は、照射装置12、分析装置14、及び演算装置16を備える。
【0021】
照射装置12は、例えばパルスレーザ装置であり、集光光学系13を介して、被対象物1に光2を集光して照射する。被対象物1は、例えば大気中の雲、エアロゾル、等である。また、光2は、例えば、ナノ秒パルスレーザ光である。
【0022】
分析装置14は、被対象物1から得られるスペクトルデータ3を分析し、対象成分aと参照成分bに特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測する。
【0023】
分析装置14は、この例では、被対象物1と光2との相互作用で発生する発光4をフィルタ14aと望遠レンズ14bを介して分光器15bまで導く光ファイバ15a、発光4をスペクトルデータ3に分光する分光器15b、及び分光器15bを制御する分光制御装置15cを有する。
【0024】
分光器15bは、好ましくはICCD付分光器である。ICCD(Intensified CCD)は、CCDの前にイメージインテンシファイチューブが取り付けられたCCD検出器である。ICCD付分光器を用いることで、微弱光と瞬間現象の計測が可能となる。
分光制御装置15cは、好ましくはコンピュータ(PC)である。
【0025】
上述した構成により、照射装置12(パルスレーザ装置)から光2(ナノ秒パルスレーザ光)を大気中の被対象物1に集光して照射し、被対象物1と光2との相互作用によりプラズマを発生させ、そのブレークダウンにより、プラズマ発光を発生させ、その発光4をフィルタ14aと望遠レンズ14bを介して集光し、分光器15bにて計測することができる。
【0026】
演算装置16は、好ましくは解析用コンピュータ(PC)であり、計測されたスペクトルデータ3の対象成分aの輝線強度から対象成分aの濃度を特定する。
【0027】
演算装置16は、記憶装置17を有している。
記憶装置17は、対象成分aの濃度と参照成分bの輝線強度との第1関係から、対象成分aの濃度に対する参照成分bの輝線強度の平準化率NEを求め、対象成分aの濃度とその輝線強度との第2関係を平準化率NEで補正した補正関係を記憶している。
演算装置16は、この補正関係を用いて新たに計測された対象成分aの輝線強度から対象成分aの濃度を特定する。
【0028】
図2は、計測されたスペクトルデータ3の一例を示す図である。この図において、横軸は波長(nm)、縦軸は信号強度(相対強度)である。
この例では、塩化セシウムの水溶液を大気中に散布し、セシウムエアロゾルのスペクトルを取得した例である。
この例で対象成分aはセシウム(Cs)であり、参照成分bはHα線(水素のα線)である。なお、参照成分bはHα線に限定されず、酸素(O)、窒素(N)、その他であってもよい。
【0029】
Hα線、酸素(O
2)、及びセシウム(Cs)の輝線の波長はそれぞれ既知(656.3nm、777.4nm、852.1nm)である。従って、
図2から、Hα線、酸素、及びセシウムの輝線の強度(以下「輝線強度」と呼ぶ)は、順に、約19×10
4、約14×10
4、約7.5×10
4であることがわかる。
【0030】
しかし、LIBS法で計測されたスペクトルデータ3の輝線強度は、計測毎に信号強度が大きく変動するため、
図2から対象成分a(この例ではセシウム)の成分濃度を安定して正確に計測することはできない。
【0031】
本発明の成分濃度計測方法は、上述した成分濃度計測装置10を用い、被対象物1に光2を照射し、被対象物1と光2との相互作用から得られるスペクトルデータ3から被対象物1に含まれる対象成分aの濃度を計測する方法である。
【0032】
本発明の成分濃度計測方法は、S1〜S3の各ステップ(工程)からなる。
ステップS1では、照射装置12により、被対象物1に光2を照射する。
ステップS2では、分析装置14により、被対象物1から得られるスペクトルデータ3を分析し、対象成分aと参照成分bに特有な輝線の波長及び強度をそれぞれ計測する。
ステップS3では、対象成分aの輝線強度から対象成分aの濃度を特定する。
【0033】
ステップS3は、以下に説明するS3−1〜S3−3の各ステップからなる。
【0034】
図3は、平準化率NEを求める手段の説明図である。
図3(A)は対象成分aと参照成分bの輝線強度と対象成分aの濃度との関係図である。
【0035】
ステップS3−1では、参照成分bの濃度を一定に維持した状態で、対象成分aの濃度を変化させて、対象成分aの濃度と参照成分bの輝線強度との関係(「第1関係」と呼ぶ)と、対象成分aの濃度と対象成分aの輝線強度との関係(「第2関係」と呼ぶ)とを求める。すなわち、参照成分bの濃度が既知の一定値であり、対象成分aの濃度が既知であって、かつ、対象成分aの濃度が互いに異なる複数または多数の被対象物1をサンプルとして用意し、これらの被対象物1の各々に対し上述のステップS1、S2を行うことにより、対象成分aの濃度を変化させた複数または多数のスペクトルデータ3を取得し、これらのスペクトルデータ3から第1関係と第2関係を求める。
図3(A)の横軸は対象成分aの濃度、縦軸は対象成分aと参照成分bの輝線強度である。すなわち
図3(A)は、参照成分bの濃度を一定に維持した状態における第1関係と第2関係を示している。
【0036】
参照成分bの濃度が一定である場合、参照成分bの輝線強度は本来一定となる。しかし、
図3(A)の第1関係に示すように、実際の計測では変化している。この原因は、計測毎に信号強度が大きく変動することによる。
一方、対象成分aと参照成分bの輝線強度の比率は、この影響を受けない。従って、同一の計測において、参照成分bの輝線強度の変化率と対象成分aの輝線強度の変化率は、同一と考えることができる。
【0037】
従ってステップS3−2では、第1関係から、対象成分aの濃度に対する参照成分bの輝線強度の平準化率NEを求める。
図3(B)は、対象成分aの濃度と参照成分bの輝線強度の平準化率NE(無次元)との関係図である。この例では、対象成分aの濃度が0のときの参照成分bの輝線強度を1として、平準化率NEを無次元化している。すなわち、対象成分aの各濃度について、この濃度に対応する参照成分bの輝線強度を、対象成分aの濃度が0のときの参照成分bの輝線強度で除することにより、参照成分bの輝線強度を無次元化した平準化率NEを求めている。
この場合、平準化率NEは、0以上の正数である。
【0038】
図4は、補正前と補正後のCs濃度と輝線強度の関係図である。この図において、(A)は補正前の関係図、(B)は補正後の関係図である。
【0039】
図4(A)は、
図3(A)における対象成分aの濃度とその輝線強度との第2関係図である。この第2関係図には、参照成分bの濃度を一定に維持した状態で、対象成分aと参照成分bの輝線強度が計測毎に大きく変動する影響がそのまま含まれている。
この図における直線は線形化した関係図であり、相関係数r
2は0.8695であった。
【0040】
ステップS3−3では、第2関係(
図4(A)のデータ)を平準化率NEを用いて補正して、対象成分aの濃度と対象成分aの輝線強度との補正関係を求める。この補正は、対象成分aの濃度が0のときの参照成分bの輝線強度を1として、平準化率NEを無次元化した場合、
図4(A)の輝線強度の値を対象成分aの濃度に相当する平準化率NEで除することに相当する。
図4(B)は、補正後の対象成分aの濃度と対象成分aの輝線強度との関係(「補正関係」と呼ぶ)を示している。
この図における直線は線形化した関係図であり、相関係数r
2は0.9874であり、
図4(A)よりも1に近く、正確な関係であることがわかる。
【0041】
ステップS3−4では、演算装置16により、
図4(B)の補正関係から、新たに計測された対象成分aの輝線強度から対象成分aの濃度を特定する。すなわち、次のように、対象成分aの濃度を特定する。対象成分aの濃度が未知である新たな(対象成分aの濃度計測対象となる)被対象物1に対して、照射装置12により光2を照射し、これによりスペクトルデータ3を得る。このスペクトルデータ3を、分析装置14により分析することにより、対象成分aと参照成分bに特有な輝線の波長及びその強度をそれぞれ新たに計測する。次に、演算装置16は、このように新たに計測された参照成分bの輝線強度を、上述した補正関係を求めるのに使用した、対象成分aの濃度が0のときの参照成分bの輝線強度で除することにより、新たな平準化率NEを得る。次に、演算装置16は、この新たな平準化率NEで、新たに計測された対象成分aの輝線強度を除した値(輝線強度)を、上述の補正関係に適用することにより、対象成分aの濃度を特定する。
【0042】
LIBS法において、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、同時に計測される対象成分aと参照成分bの輝線強度の比率は一定である。また、参照成分bの濃度が一定である場合、参照成分bの輝線強度は本来一定となる。
従って、参照成分bの濃度を一定に維持した状態で、対象成分aの濃度を変化させて得られた対象成分aの濃度に対する参照成分bの輝線強度の平準化率NE(例えば、対象成分aの濃度が0のときの参照成分bの輝線強度を1とする値)は、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、常に対象成分aの濃度に対し同じ値となる。
【0043】
上述した本発明の装置と方法によれば、参照成分bの濃度を一定に維持した状態で、予め対象成分aの濃度を変化させて、平準化率NEを求め、これを用いて対象成分aの濃度と対象成分aの輝線強度との補正された補正関係を求めておくので、この補正関係と、新たに計測された対象成分aの輝線強度とから対象成分aの濃度を特定することができる。
【0044】
従って本発明によれば、LIBS法において、計測毎に信号強度が大きく変動する場合でも、物質に含まれる成分濃度を正確に計測することができる。
【0045】
上述したように、本発明によれば、外乱要因等により信号の絶対強度が変化しても物質内の濃度比に起因する輝線強度の比が一定であるため、分析対象成分aの濃度を正確に計測することができる。
特に水分を含有する物質の場合には、Hα線(656.3nm)を使用することにより、物質ごとに参照となる輝線を変更することなく普遍的な計測システムを構成することが可能である。
【0046】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
a 対象成分、b 参照成分、NE 平準化率、1 被対象物、2 光(ナノ秒パルスレーザ光)、3 スペクトルデータ、10 成分濃度計測装置、12 照射装置、13 集光光学系、14 分析装置、14a フィルタ、14b 望遠レンズ、15a 光ファイバ、15b 分光器(ICCD付分光器)、15c 分光制御装置(PC)、16 演算装置(PC)、17 記憶装置