特許第6309124号(P6309124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309124電子部品用金属材料及びその製造方法、それを用いたコネクタ端子、コネクタ及び電子部品
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  • 特許6309124-電子部品用金属材料及びその製造方法、それを用いたコネクタ端子、コネクタ及び電子部品 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6309124
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】電子部品用金属材料及びその製造方法、それを用いたコネクタ端子、コネクタ及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
   C23C28/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-26202(P2017-26202)
(22)【出願日】2017年2月15日
【審査請求日】2017年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−004626(JP,A)
【文献】 特開2014−041807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C25D 5/48
C25D 7/00
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、
前記下層上に形成された中層と、
前記中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層と、
前記上層上に形成された、Cの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層と、
を備え、
前記中層が、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、前記B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成されており、
250℃30秒加熱後の前記処理層の表面に付着した酸化物粒子の面積率が0.1%以下である電子部品用金属材料。
【請求項2】
前記処理層が、さらにS、P及びNからなる群から選択された1種以上を含む請求項1に記載の電子部品用金属材料。
【請求項3】
基材と、
前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、
前記下層上に形成された中層と、
前記中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層と、
を備え、且つ、
前記中層が、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、前記B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成された金属材料を、リン酸エステル系処理液を2.5〜5.0g/L含有する処理液中に設け、超音波撹拌することで前記金属材料の表面にCの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層を形成する工程を含む、電子部品用金属材料の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸エステル系処理液が、下記一般式〔1〕および〔2〕で表されるリン酸エステルの少なくとも1種と、下記一般式〔3〕および〔4〕で表される環状有機化合物群から選択される少なくとも1種とを含有するリン酸エステル系液である請求項3に記載の電子部品用金属材料の製造方法。
【化1】
【化2】
(式〔1〕、〔2〕において、R1およびR2はそれぞれ置換アルキルを表し、Mは水素またはアルカリ金属を表す。)
【化3】
【化4】
(式〔3〕、〔4〕中、R1は水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R2はアルカリ金属、水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R3はアルカリ金属または水素を表し、R4は−SH、アルキル基かアリール基で置換されたアミノ基、またはアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R5およびR6は−NH2、−SHまたは−SM(Mはアルカリ金属を表す)を表す。)
【請求項5】
請求項1または2に記載の電子部品用金属材料を接点部分に備えたコネクタ端子。
【請求項6】
請求項5に記載のコネクタ端子を備えたコネクタ。
【請求項7】
請求項1または2に記載の電子部品用金属材料を接点部分に備えたFFC端子。
【請求項8】
請求項1または2に記載の電子部品用金属材料を接点部分に備えたFPC端子。
【請求項9】
請求項7に記載のFFC端子を備えたFFC。
【請求項10】
請求項8に記載のFPC端子を備えたFPC。
【請求項11】
請求項1または2に記載の電子部品用金属材料を外部接続用電極に備えた電子部品。
【請求項12】
ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に、請求項1または2に記載の電子部品用金属材料を備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用金属材料及びその製造方法、それを用いたコネクタ端子、コネクタ及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用及び車載用電子機器用接続部品であるコネクタには、黄銅やリン青銅の表面にNiやCuの下地めっきを施し、さらにその上にSn又はSn合金めっきを施した材料が使用されている。Sn又はSn合金めっきは、一般的に低接触抵抗及び高はんだ濡れ性という特性が求められ、更に近年めっき材をプレス加工で成形したオス端子及びメス端子勘合時の挿入力の低減化が求められている。
【0003】
これに対し、特許文献1には、導電性を有する基材と、前記基材に形成された被覆層とを備えた被覆材において、前記被覆層は少なくとも表面側に、Snと、貴金属との金属間化合物を含むことを特徴とする被覆材が開示されている。そしてこれによれば、接触抵抗が低く、低摩擦係数を有して挿入力の低減に有効であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−126763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、被覆層がSnと、貴金属の金属間化合物を含んでおり、Snと貴金属との金属間化合物(Ag3Sn)を含むAg−Sn合金層の厚みが好ましくは1μm以上3μm以下となっている。しかしながら、本発明者らの評価では、この厚みでは十分に挿入力を下げることができなかった。また、この合金層はSnマトリックス中に金属間化合物粒子が分散した状態になっているので、Snが露出した状態になっている。しかし、腐食環境下ではこの表面は腐食する可能性がある。これは電気抵抗の上昇につながる。
このように、従来のSn−Ag合金/Ni下地めっき構造を有する電子部品用金属材料にはまだ十分に挿入力を下げることができないという問題が残されていた。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料、それを用いたコネクタ端子、コネクタ及び電子部品を提供することを課題とする。なお、凝着磨耗とは固体間の真実接触面積を構成する凝着部分が、摩擦運動によりせん断されることに基因して生ずる摩耗現象のことをいう。この凝着磨耗が大きくなると、オス端子とメス端子を勘合した時の挿入力が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、基材上に所定の金属により下層と中層と上層と処理層とを設け、当該処理層の加熱後の表面の酸化物粒子の付着量を制御することにより、低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料を作製することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、基材と、前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、前記下層上に形成された中層と、前記中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層と、前記上層上に形成された、Cの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層とを備え、前記中層が、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、前記B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成されており、250℃30秒加熱後の前記処理層の表面に付着した酸化物粒子の面積率が0.1%以下である電子部品用金属材料である。
【0009】
本発明の電子部品用金属材料は一実施形態において、前記処理層が、さらにS、P及びNからなる群から選択された1種以上を含む。
【0010】
本発明は別の一側面において、基材と、前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、前記下層上に形成された中層と、前記中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層とを備え、且つ、前記中層が、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、前記B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成された金属材料を、リン酸エステル系処理液を2.5〜5.0g/L含有する処理液中に設け、超音波撹拌することで前記金属材料の表面にCの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層を形成する工程を含む、電子部品用金属材料の製造方法である。
【0011】
本発明の電子部品用金属材料の製造方法は一実施形態において、前記リン酸エステル系処理液が、下記一般式〔1〕および〔2〕で表されるリン酸エステルの少なくとも1種と、下記一般式〔3〕および〔4〕で表される環状有機化合物群から選択される少なくとも1種とを含有するリン酸エステル系液である。
【化1】
【化2】
(式〔1〕、〔2〕において、R1およびR2はそれぞれ置換アルキルを表し、Mは水素またはアルカリ金属を表す。)
【化3】
【化4】
(式〔3〕、〔4〕中、R1は水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R2はアルカリ金属、水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R3はアルカリ金属または水素を表し、R4は−SH、アルキル基かアリール基で置換されたアミノ基、またはアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R5およびR6は−NH2、−SHまたは−SM(Mはアルカリ金属を表す)を表す。)
【0012】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に備えたコネクタ端子である。
【0013】
本発明は更に別の一側面において、本発明のコネクタ端子を備えたコネクタである。
【0014】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に備えたFFC端子である。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を接点部分に備えたFPC端子である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明のFFC端子を備えたFFCである。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明のFPC端子を備えたFPCである。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、本発明の電子部品用金属材料を外部接続用電極に備えた電子部品である。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に、本発明の電子部品用金属材料を備えた電子部品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料について説明する。図1に示すように、実施形態に係る電子部品用金属材料10は、基材11上に下層12が形成され、下層12上に中層13が形成され、中層13上に上層14が形成されている。
【0023】
<電子部品用金属材料の構成>
(基材)
基材11としては、特に限定されないが、例えば、銅及び銅合金、Fe系材、ステンレス、チタン及びチタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金などの金属基材を用いることができる。また、金属基材に樹脂層を複合させたものであっても良い。金属基材に樹脂層を複合させたものとは、例としてFPCまたはFFC基材上の電極部分などがある。
【0024】
(上層)
上層14は、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成されている。
Sn及びInは、酸化性を有する金属ではあるが、金属の中では比較的柔らかいという特徴がある。よって、Sn及びIn表面に酸化膜が形成されていても、例えば電子部品用金属材料を接点材料としてオス端子とメス端子を勘合する時に、容易に酸化膜が削られ、接点が金属同士となるため、低接触抵抗が得られる。
また、Sn及びInは塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガスに対する耐ガス腐食性に優れ、例えば、上層14に耐ガス腐食性に劣るAg、下層12に耐ガス腐食性に劣るNi、基材11に耐ガス腐食性に劣る銅及び銅合金を用いた場合には、電子部品用金属材料の耐ガス腐食性を向上させる働きがある。なおSn及びInでは、厚生労働省の健康障害防止に関する技術指針に基づき、Inは規制が厳しいため、Snが好ましい。
【0025】
Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os、Irは、金属の中では比較的耐熱性を有するという特徴がある。よって基材11や下層12の組成が上層14側に拡散するのを抑制して耐熱性を向上させる。また、これら金属は、上層14のSnやInと化合物を形成してSnやInの酸化膜形成を抑制し、はんだ濡れ性を向上させる。なお、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os、Irの中では、導電率の観点でAgがより望ましい。Agは導電率が高い。例えば高周波の信号用途にAgを用いた場合、表皮効果により、インピーダンス抵抗が低くなる。
【0026】
上層14に、Snを11.8〜22.9at%含むSnAg合金であるζ(ゼータ)相が存在することが好ましい。当該ζ(ゼータ)相が存在することで耐ガス腐食性が向上し、ガス腐食試験を行っても外観が変色しにくくなる。
上層14に、ζ(ゼータ)相と、Ag3Snであるε(イプシロン)相とが存在することが好ましい。ε(イプシロン)相の存在によって、上層14にζ(ゼータ)相のみが存在する場合と比較して皮膜が硬くなり凝着磨耗が低下する。また上層14のSn割合が多くなることで耐ガス腐食性が向上する。
上層14に、Ag3Snであるε(イプシロン)相のみが存在することが好ましい。上層14にε(イプシロン)相が単独に存在することによって、上層14にζ(ゼータ)相とAg3Snであるε(イプシロン)相とが存在する場合と比較して皮膜が更に硬くなり凝着磨耗が低下する。また上層14のSn割合がより多くなることで耐ガス腐食性も向上する。
上層14に、Ag3Snであるε(イプシロン)相と、Sn単相であるβSnとが存在することが好ましい。Ag3Snであるε(イプシロン)相と、Sn単相であるβSnとが存在することによって、上層14にε(イプシロン)相のみが存在する場合と比較して更に上層のSn割合がより多くなることで耐ガス腐食性が向上する。
上層14に、Snを11.8〜22.9at%含むSnAg合金であるζ(ゼータ)相と、Ag3Snであるε(イプシロン)相と、Sn単相であるβSnとが存在することが好ましい。ζ(ゼータ)相と、Ag3Snであるε(イプシロン)相と、Sn単相であるβSnとが存在することによって、耐ガス腐食性が向上し、ガス腐食試験を行っても外観が変色しにくく、凝着磨耗が低下する。この構成は拡散過程で生じるものであった、平衡状態の構造ではない。
上層14がβSn単独では存在してはいけない。βSn単独での存在の場合には、凝着磨耗が大きく、ウィスカも発生し、耐熱性及び耐微摺動磨耗性等が劣化する。
【0027】
上層14は、B構成元素群の金属を10〜50at%含有することが好ましい。B構成元素群の金属が10at%未満であると、耐ガス腐食性が悪く、ガス腐食試験を行うと外観が変色する場合がある。一方、B構成元素群の金属が50at%を超えると、上層14におけるB構成元素群の金属の割合が大きくなって凝着磨耗が大きくなり、またウィスカも発生しやすくなる。更に耐微摺動磨耗性が悪い場合もある。
【0028】
(処理層)
上層14上には、Cの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層が設けられている。当該処理層は、上層14を形成した後に行う封孔処理等の表面処理によって形成されるものであり、上記処理層が含むCは、当該封孔処理等の表面処理起因の成分である。処理層は、さらにS、P及びNからなる群から選択された1種以上を含んでもよい。処理層のCの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下であると、潤滑性が向上する。
【0029】
処理層について、250℃で30秒間加熱した後に、当該処理層の表面に付着した酸化物粒子の面積率が0.1%以下となるように制御されている。当該加熱後の処理層表面に付着する酸化物粒子は、電子部品用金属材料の凝着磨耗性に悪影響を及ぼすため、当該酸化物粒子の面積率を0.1%以下に制御することで、低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料が得られる。
【0030】
(中層)
中層13は、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上と、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種とで構成されている。このような構成によれば、耐熱性やはんだ濡れ性を向上するという効果を有する。また、この場合、中層13の厚みが0.01μm以上0.40μm未満であるのが好ましい。Sn及びInは塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガスに対する耐ガス腐食性に優れ、例えば、下層12に耐ガス腐食性に劣るNi、基材11に耐ガス腐食性に劣る銅及び銅合金を用いた場合には、電子部品用金属材料の耐ガス腐食性を向上させる働きがある。Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuは、SnやInと比較して皮膜が硬いために凝着磨耗が生じにくく、基材11の構成金属が上層14に拡散するのを防止し、耐熱性試験やはんだ濡れ性劣化を抑制するなどの耐久性を向上させる。
中層13の厚みが0.01μm未満であると皮膜が硬くなり凝着磨耗が減少するおそれがある。一方中層13厚みが0.40μm以上であると曲げ加工性が低下し、また機械的耐久性が低下して、めっき削れが発生する場合もある。
Sn及びInの中では、厚生労働省の健康障害防止に関する技術指針に基づき、Inは規制が厳しいため、Snが好ましい。またNi、Cr、Mn、Fe、Co及びCuの中ではNiが好ましい。これはNiが硬くて凝着磨耗が生じにくく、また十分な曲げ加工性が得られるためである。
中層13においてB構成元素群の金属が35at%以上であることが好ましい。Snが35at%以上になることで皮膜が硬くなり凝着磨耗が減少する場合がある。
中層13は、Ni3SnとNi3Sn2とで構成されていてもよく、Ni3Sn2又はNi3Sn4単独で構成されていてもよい。Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4が存在することによって耐熱性やはんだ濡れ性が向上する場合がある。
中層13に、Ni3Sn4と、Sn単相であるβSnとが存在することが好ましい。これらが存在することによって耐熱性やはんだ濡れ性は、Ni3Sn4とNi3Sn2が存在する場合と比較して耐熱性やはんだ濡れ性が向上する場合がある。
また、この場合、上層14の厚みが0.02μm以上1.00μm未満であるのが好ましい。上層14の厚みが0.02μm未満であると、耐ガス腐食性が悪く、ガス腐食試験を行うと外観が変色する。一方、上層14の厚みが1.00μm以上であると、硬い基材11または下層12による薄膜潤滑効果が低下して凝着磨耗が大きくなる。また機械的耐久性が低下して、めっき削れが発生しやすくなる。上層14の厚みは0.50μm未満であるのが好ましい。
【0031】
(下層)
下層12は、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成されている。このような構成により、基材11の金属元素が中層13や上層14へ拡散することを抑制することができる。
【0032】
下層12の厚みは0.05μm以上であるのが好ましい。下層12の厚みが0.05μm未満であると、硬い下層による薄膜潤滑効果が低下して凝着磨耗が大きくなるおそれがある。基材11の構成金属は上層14に拡散しやすくなり、耐熱性やはんだ濡れ性が劣化するおそれがある。一方、下層12の厚みは5.00μm未満であるのが好ましい。厚みが5.00μm以上であると曲げ加工性が悪いおそれがある。
【0033】
(下層のその他の組成)
下層12が、A構成元素群の金属の総量が50mass%以上、且つ、B、P、Sn及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上の金属の総量が50mass%未満の組成を有してもよい。下層12の合金組成がこのような構成となることで、下層12がより硬化して、更に薄膜潤滑効果が向上して更に凝着磨耗が低下し、下層12の合金化は基材11の構成金属が上層に拡散するのを更に防止し、耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させる場合がある。
【0034】
(上層のその他の組成)
上層14が、B構成元素群及びC構成元素群の金属の総量が50mass%以上、且つ、As、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ni、Pb、Sb、W及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上の金属の総量が50mass%未満の組成を有しても良い。このような構成によって更に凝着磨耗が少なくし、またウィスカの発生を抑制し、さらに耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させる場合がある。
【0035】
(中層のその他の組成)
中層13が、C構成元素群の金属の総量が50mass%以上、且つ、Bi、Cd、Co、Cu、Fe、In、Mn、Mo、Ni、Pb、Sb、Se、Sn、W、Tl及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上の金属の総量が50mass%未満の組成を有しても良い。このような構成によって更に凝着磨耗が少なくし、またウィスカの発生を抑制し、さらに耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させる場合がある。
【0036】
(電子部品用金属材料の製造方法)
本発明の電子部品用金属材料の製造方法は、まず、基材と、前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、前記下層上に形成された中層と、前記中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層とを備え、且つ、前記中層が、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、前記B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成された金属材料を準備する。当該金属材料は、湿式(電気、無電解)めっき、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いて形成することができる。
【0037】
上層14、中層13及び下層12が、基材11上にA構成元素群から選択された1種又は2種以上を成膜し、その後、B構成元素群から選択された1種又は2種を成膜し、その後、C構成元素群から選択された1種又は2種類以上を成膜し、B構成元素群及びC構成元素群の各元素が拡散することでそれぞれ形成されていても良い。例えばB構成元素群の金属がAg、C構成元素群の金属がSnの場合、SnへのAgの拡散は速く、自然拡散によってSn−Ag合金層を形成する。合金層形成によりSnの凝着力を一層小さくし、また低ウィスカ性及び耐久性も更に向上させることができる。
【0038】
上層14を形成させた後に更に凝着磨耗抑制し、また低ウィスカ性及び耐久性を更に向上させる目的で熱処理を施しても良い。熱処理によって上層のB構成元素群の金属とC構成元素群の金属とが拡散されて合金層をより形成しやすくなり、Snの凝着力を一層小さくし、また低ウィスカ性及び耐久性も更に向上させることができる。また、当該熱処理を還元性雰囲気又は非酸化性雰囲気で行っても良い。
なお、この熱処理については、処理条件(温度×時間)は適宜選択できる。また、特にこの熱処理はしなくてもよい。なお、熱処理をB構成元素群の金属の融点以上で行い、B構成元素群から選択された1種又は2種及びA構成元素群から選択された1種又は2種以上の合金層、及び、B構成元素群から選択された1種又は2種及びC構成元素群から選択された1種又は2種類以上の合金層を形成すると、当該合金層をより良好に形成しやすくなる。また、熱処理をB構成元素群の金属の融点以上で行い、C構成元素群から選択された1種又は2種類以上及びB構成元素群から選択された1種又は2種の合金層を形成すると、当該合金層をより良好に形成しやすくなる。
【0039】
次に、上層14上に、または上層14上に熱処理を施した後に、更に凝着磨耗性を低下させ、また低ウィスカ性及び耐久性も向上させる目的で後処理を施し、これにより処理層を形成する。当該後処理としては、リン酸エステル系処理液を2.5〜5.0g/L含有する処理液中に設け、超音波撹拌することで前記金属材料の表面にCの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層を形成する。
【0040】
本発明の電子部品用金属材料の製造方法では、このように金属材料の表面(上層の表面)に設ける処理層の形成で、リン酸エステル系処理液を2.5〜5.0g/Lという高濃度で含有する処理液を用いて、封孔成分を超音波撹拌により処理液中に微細分散させることで、強固な封孔膜を生成し、熱処理等による酸化を防止することで、処理層の加熱後の表面に付着した酸化物粒子の面積率を0.1%以下に制御することができる。リン酸エステル系処理液の濃度が2.5g/L未満では濃度が薄く耐食性、耐熱性に問題があり、5.0g/Lを超えると凝着磨耗性が高くなる。リン酸エステル系処理液の濃度は、3.0〜4.0g/Lであるのがより好ましい。また、処理層形成の際の電解電位は2.0〜3.5Vであるのが好ましい。当該電解電位が2.0V未満では強固な封孔膜が作れず耐食性、耐熱性に問題が生じるおそれがあり、3.5Vを超えると変色の問題が生じるおそれがある。また、当該電解電位は、3.0〜3.5Vであるのがより好ましい。
【0041】
また、後処理によって凝着磨耗性の低下の他に、潤滑性が向上し、耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させることもできる。具体的な後処理としてはインヒビターを用いた、リン酸塩処理があり、さらに潤滑処理、シランカップリング処理等がある。なお、この熱処理については、処理条件(温度×時間)は適宜選択できる。
【0042】
後処理の前に、熱処理で酸化した表面に対して酸化物除去を行うことが望ましい。当該酸化物の除去は、酸洗、または、後処理液と同じ液で逆電解することで行ってもよい。これにより、酸化されていない、フレッシュな合金面が露出する。ここに、後処理成分が吸着する。酸化物が露出した表面よりも、合金が露出した表面にはより多くの特定の構造を有した有機物が付着するので、潤滑性、耐久性がさらに向上することが期待される。もちろん、還元性雰囲気で熱処理を行えば、上記酸化物除去処理はしなくてもよい。
【0043】
後処理としては、上層14表面を、1種又は2種以上のリン酸エステルと、環状有機化合物の1種又は2種以上とを含有する水溶液(リン酸エステル系液とよぶ)を用いて行うことが望ましい。リン酸エステル系液に添加されるリン酸エステルは、めっきの酸化防止剤および潤滑剤としての機能を果たす。本発明に使用されるリン酸エステルは、一般式〔1〕および〔2〕で表される。一般式〔1〕で表される化合物のうち好ましいものを挙げると、ラウリル酸性リン酸モノエステルなどがある。一般式〔2〕で表される化合物のうち好ましいものを挙げると、ラウリル酸性ジリン酸エステルなどがある。
【0044】
【化5】
【化6】
(式〔1〕、〔2〕において、R1およびR2はそれぞれ置換アルキルを表し、Mは水素またはアルカリ金属を表す。)
【0045】
リン酸エステル系液に添加される環状有機化合物は、めっきの酸化防止剤としての機能をはたす。本発明に使用される環状有機化合物の群を一般式〔3〕および〔4〕で表す。一般式〔3〕および〔4〕で表す環状有機化合物群のうち好ましいものを挙げると、例えばメルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾールのNa塩、メルカプトベンゾチアゾールのK塩、ベンゾトリアゾール、1−メチルトリアゾール、トリルトリアゾール、トリアジン系化合物などがある。
【0046】
【化7】
【化8】
(式〔3〕、〔4〕中、R1は水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R2はアルカリ金属、水素、アルキル、または置換アルキルを表し、R3はアルカリ金属または水素を表し、R4は−SH、アルキル基かアリール基で置換されたアミノ基、またはアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R5およびR6は−NH2、−SHまたは−SM(Mはアルカリ金属を表す)を表す。)

【0047】
後処理後に上層14表面にPとNが共に存在するように処理を行うのがさらに好ましい。めっき表面にPが存在しないとはんだ付け性が劣化しやすくなり、まためっき材の潤滑性も悪くなる。一方SnまたはSn合金めっき表面にNが存在しないと、高温環境下においてめっき材の接触抵抗が上昇しやすくなる場合がある。
【0048】
<電子部品用金属材料の特性>
上層14の表面の最大高さ(Rz)は3μm以下であるのが好ましい。上層14の表面の最大高さ(Rz)が3μm以下であると比較的腐食しやすい凸部が少なくなり平滑となるため、耐ガス腐食性が向上する。
【0049】
<電子部品用金属材料の用途>
本発明の電子部品用金属材料の用途は特に限定しないが、例えば電子部品用金属材料を接点部分に備えたコネクタ端子、電子部品用金属材料を接点部分に備えたFFC端子またはFPC端子、電子部品用金属材料を外部接続用電極に備えた電子部品などが挙げられる。なお、端子については、圧着端子、はんだ付け端子、プレスフィット端子等、配線側との接合方法によらない。外部接続用電極には、タブに表面処理を施した接続部品や半導体のアンダーバンプメタル用に表面処理を施した材料などがある。
また、このように形成されたコネクタ端子を用いてコネクタを作製しても良く、FFC端子またはFPC端子を用いてFFCまたはFPCを作製しても良い。
また本発明の電子部品用金属材料は、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、該基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して該基板に取り付ける圧入型端子に用いても良い。
コネクタはオス端子とメス端子の両方が本発明の電子部品用金属材料であっても良いし、オス端子またはメス端子の片方だけであっても良い。なおオス端子とメス端子の両方を本発明の電子部品用金属材料にすることで、更に低挿抜性が向上する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例及び比較例を共に示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
実施例1〜7、比較例1〜6として、電解脱脂、酸洗、表1に示す条件で、第1めっき、第2めっき、第3めっき、熱処理を行った後、酸洗またはカソード電解で金属酸化層(酸化錫層)を除去し、アノード電解を行った。なお、還元性雰囲気で熱処理を行えばこのような金属酸化層は形成されず、その場合、当該酸化物除去工程は行う必要がない。
【0051】
(素材)
(1)板材:厚み0.30mm、幅30mm、成分Cu−30Zn
(2)オス端子:厚み0.64mm、幅2.3mm、成分Cu−30Zn
(3)圧入型端子:常盤商行製、プレスフィット端子PCBコネクタ、R800
【0052】
(第1めっき条件)
(条件1)半光沢Niめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+サッカリン
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
(条件2)光沢Niめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+サッカリン+添加剤
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
(条件3)Ni-Coめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸浴+硫酸コバルト
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
(条件4)無光沢Niめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
(条件5)Ni−Pめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+亜リン酸塩
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0053】
(第2めっき条件)
Agめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:シアン化Agめっき液
めっき温度:40℃
電流密度:0.2〜4A/dm2
【0054】
(第3めっき条件)
Snめっき
表面処理方法:電気めっき
めっき液:メタンスルホン酸Snめっき液
めっき温度:40℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0055】
(熱処理)
熱処理はホットプレートにサンプルを置き、ホットプレートの表面が所定の温度になったことを確認して実施した。
【0056】
(中間処理)
熱処理後のサンプルを希硫酸(10g/1L)に5秒浸漬させた。その後純水に5秒浸漬させた。
【0057】
(後処理)
さらに表面処理液として表2に示す濃度のA−12:リン酸エステル系処理液を用いて、陽極電解(表2に記載の電解電位、定電圧電解)を2秒行い、めっき表面に表面処理を行った。実施例1〜7及び比較例2、4〜6については、処理液建浴時に超音波撹拌を行い、それから当該電解を実施した。処理液の超音波撹拌条件は、超音波分散機による撹拌(超音波周波数:20kHz、超音波出力:500Wで10分間実施)とした。これらの処理の後に、試料を2秒間浸漬後、温風により乾燥した。
【0058】
(上層、中層及び下層の厚み測定、上層の組成及び構造の決定)
得られた試料の上層及び中層の厚み測定、上層の組成決定は、STEM(走査型電子顕微鏡)分析による線分析で行った。分析した元素は、上層、中層及び下層の組成と、C、S及びOである。これら元素を指定元素とする。また、指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(at%)を分析した。厚みは、線分析(または面分析)から求めた距離に対応する。STEM装置は、日本電子株式会社製JEM−2100Fを用いた。本装置の加速電圧は200kVである。
上層の構造の決定は、STEMによって決定した組成を状態図に照らし合わせることにより決定した。
また、下層の厚みは、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製 SEA5100、コリメータ0.1mmΦ)で測定した。
上層、中層及び下層の厚み測定、上層の組成及び構造の決定は、任意の10点について評価を行って平均化した。
【0059】
(評価)
各試料について以下の評価を行った。
・処理層のC濃度
以下の方法によって処理層のC濃度を測定した。
アルバック・ファイ株式会社製XPS分析装置(型式:PHI5000 Versa Probe II)を用いて、以下の条件にてXPSによる測定を行った。これにより、最表面におけるC濃度を測定した。
(測定条件)
到達真空度:2.2×10-7Pa
励起源:単色化 AlK
出力:25W
検出面積:100μmφ
入射角:90度
取り出し角:45度
中和銃:なし
(スパッタ条件)
イオン種:Ar+
加速電圧:2kV
掃引領域:3mm×3mm
レート:0.4nm/min(SiO2換算)
【0060】
・処理層の加熱後の表面に付着した酸化物粒子の面積率
以下の方法によって250℃にて30秒加熱後の処理層の表面に付着した酸化物粒子の面積率を測定した。
日立ハイテクノロジーズ社製走査電子顕微鏡(型式:SU−70)を用いて、EDS面分析を行い、酸化物であることを確認し、NSS(Noran System Six)粒子解析ソフトを用い、二次電子像において82%以上の輝度を持つものを酸化物粒子として認識し、面積率を算出した。
なお、加熱はホットプレートにサンプルを置き、ホットプレートの表面が250℃になった後30秒加熱した。
【0061】
・凝着磨耗性
凝着磨耗性は、市販のSnリフローめっきメス端子(090型住友TS/矢崎090IIシリーズメス端子非防水/F090−SMTS)を用いてめっきを施したオス端子と挿抜試験することによって評価した。
試験に用いた測定装置は、アイコーエンジニアリング製1311NRであり、オスピンの摺動距離5mmで評価した。サンプル数は5個とし、凝着磨耗は挿入力を用いて評価した。挿入力は、各サンプルの最大値を平均した値を採用した。凝着磨耗のブランク材としては、比較例1のサンプルを採用し、当該比較例1のサンプルに対する凝着磨耗性について評価した。
上記試験条件及び試験結果を表1〜2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(評価結果)
実施例1〜7は、優れた低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料であった。
比較例1、3は、処理層を形成する際の電解液を超音波撹拌しなかったため、酸化物粒子の面積率が多く、凝着磨耗性が高かった。
比較例2は、A−12の濃度が低く、処理層を形成する際の電解電位が低いため、処理層のC濃度が低く、すなわち十分な封孔膜が得られず酸化物粒子が多くなった。このため、凝着磨耗性が高かった。
比較例4は、A−12の濃度は高いが、処理層を形成する際の電解電位が低いため、処理層のC濃度が低く、すなわち十分な封孔膜が得られず酸化物粒子が多くなった。このため、凝着磨耗性が高かった。
比較例5は、A−12の濃度が低いため、処理層のC濃度が低く、すなわち十分な封孔膜が得られず酸化物粒子が多くなった。このため、凝着磨耗性が高かった。
比較例6は、A−12の濃度が低く、処理層のC濃度が低くなり、すなわち十分な封孔膜が得られず酸化物粒子が多くなった。このため、凝着磨耗性が高かった。
【符号の説明】
【0065】
10 電子部品用金属材料
11 基材
12 下層
13 中層
14 上層
【要約】
【課題】低凝着磨耗性を有する電子部品用金属材料を提供する。
【解決手段】電子部品用金属材料は、基材と、基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、下層上に形成された中層と、中層上に形成された、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種類以上との合金で構成された上層と、上層上に形成された、Cの含有量が60at%以上であり且つOの含有量が30at%以下である処理層とを備える。中層が、A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、B構成元素群から選択された1種又は2種とで構成されており、250℃30秒加熱後の処理層の表面に付着した酸化物粒子の面積率が0.1%以下である。
【選択図】図1
図1