特許第6309206号(P6309206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309206極性基含有オレフィン系共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309206
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】極性基含有オレフィン系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/80 20060101AFI20180402BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20180402BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20180402BHJP
   C07F 9/50 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   C08F4/80
   C08F10/00
   C07F15/00 C
   C07F9/50
【請求項の数】11
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-99944(P2013-99944)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-159540(P2014-159540A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年5月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-10226(P2013-10226)
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎庫
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】黒田 潤一
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/050256(WO,A1)
【文献】 特開2011−068881(JP,A)
【文献】 JACS,2014年,136,11898-11901
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(C
【化1】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、R5は水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、4個のR8はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、R6及びR7はそれぞれ独立して、下記化学式
【化2】
【化3】
【化4】
で示される基のいずれかであり(ただし、上記化学式はR6及びR7とXの結合位置を示すためにX−R6、X−R7部位として示している。Meはメチル基である。)、Lは電子供与性配位子を表し、qは0、1/2、1または2である。)
で示される金属錯体を重合触媒として使用することを特徴とする一般式(1)
【化5】
(式中、R1は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
で示されるオレフィンを含むモノマーの単独重合体または共重合体の製造方法。
【請求項2】
共重合体が、一般式(1)
【化6】
(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表す。)
で示されるオレフィンと一般式(2)
【化7】
(式中、R2は水素原子またはメチル基を表し、R3は−COOR12、−CN、−OCOR12、−OR12、−CH2−OCOR12、−CH2OH、−CH2−N(R132または−CH2−Hal(R12は水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R13は水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族性置換基、またはアルコキシカルボニル基を表し、Halはハロゲン原子を表す。)を表す。)で示される極性基を有するオレフィンとの共重合体である請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
6またはR7の少なくとも一方が下記式
【化8】
式中、(X)は一般式(C3)のXと結合する位置を示す。)
で示される2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基(メンチル基)である請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
6及びR7がともに2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基(メンチル基)である請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
8がすべて水素原子である請求項1〜4のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
MがPdである請求項1〜5のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
XがPである請求項1〜6のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
一般式(1)で示されるオレフィンがエチレンである請求項1〜7のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
一般式(2)で示されるオレフィンが、R3が−CH2−OCOR12、−CH2OH、−CH2−N(R132または−CH2−Hal(R12、R13及びHalは、一般式(2)の記載と同じ意味を表す。)を表すアリル化合物である請求項2〜8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項10】
一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンが酢酸アリルである請求項2〜8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項11】
下記式(C4)
【化9】
(式中、Menはメンチル基を表し、Meはメチル基を表す。)で示される化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系重合体、特に極性基を有するアリル化合物等の極性基含有モノマーの重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非極性モノマーであるエチレンやプロピレンなどのオレフィンと極性基を有するビニルモノマーとの共重合体は広く知られている。特にエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレンとビニルアルコールとからなるランダム共重合体であり、エチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合で得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することによって合成される。EVOHはその優れたガスバリア性を生かして、食品包装用途など広い分野で使用されている。
【0003】
一方で、アリル基を有するモノマーの重合はビニルモノマーと比べて難しく、その重合体は殆ど知られていない。その主な理由は、アリル基を有するモノマーをラジカル重合させた場合、モノマーへの退化的連鎖移動反応のためポリマーの生長反応が極めて遅く、重合度の低いオリゴマーしか得られなかったためである(Chem. Rev. 58, 808 (1958))。
【0004】
特開2011−68881号公報(特許文献1)及びJ. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)(非特許文献1)には、周期律表第10族の金属錯体触媒を使用したエチレンと極性基含有アリルモノマーの配位共重合が示されており、ラジカル重合法では得られなかった極性基含有アリルモノマー共重合体を合成している。しかしながら、得られた重合体の分子量が、数平均分子量(Mn)で数千〜数万程度であり、フィルム成形性や透明性の面で、向上の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−68881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、種々の応用が可能な高分子量の極性基を有するオレフィン共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、新規の周期律表第10族金属錯体を触媒として極性基含有ビニルモノマー(極性基を有するアリルモノマーを含む)を重合することにより、種々の応用が可能な高分子量の極性基を有するビニルモノマー共重合体が提供可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[17]の重合体の製造方法、及び[18]の化合物に関する。
[1] 一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、R5は水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、Y、R6及びR7はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R6及びR7のうち少なくとも一方が、一般式(5)
【化2】
(式中、Rは置換基を有してもよい炭素原子数1〜14のアルキレン基を表し、R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R9及びR10の少なくとも一方は、水素原子ではなく、R9、R10、R11及び前記アルキレン基Rは、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示されるシクロアルキル基を表し、QはZ[−S(=O)2−O−]M、Z[−C(=O)−O−]M、Z[−P(=O)(−OH)−O−]MまたはZ[−S−]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を表し(ただし、両側のZ、Mは基の結合方向を示すために記載している。)、Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表し、YとZは結合して環構造を形成してもよく、R6またはR7はYと結合して環構造を形成してもよい。また、Lは電子供与性配位子を表し、qは0、1/2、1または2である。)
で示される金属錯体を重合触媒として使用することを特徴とする一般式(1)
【化3】
(式中、R1は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
で示されるオレフィンを含むモノマーの単独重合体または共重合体の製造方法。
[2] 共重合体が、一般式(1)
【化4】
(式中の記号は前項1の記載と同じ意味を表す。)
で示されるオレフィンと一般式(2)
【化5】
(式中、R2は水素原子またはメチル基を表し、R3は−COOR12、−CN、−OCOR12、−OR12、−CH2−OCOR12、−CH2OH、−CH2−N(R132または−CH2−Hal(R12は水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R13は水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族性置換基、またはアルコキシカルボニル基を表し、Halはハロゲン原子を表す。)を表す。)で示される極性基を有するオレフィンとの共重合体である前項1に記載の重合体の製造方法。
[3] 一般式(5)中、置換基を有してもよいアルキレン基Rの炭素原子数が2〜6である前項1または2に記載の重合体の製造方法。
[4] 一般式(5)中、置換基を有してもよいアルキレン基Rの炭素原子数が4である前項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[5] 一般式(5)中、R9またはR10の少なくとも一方が、炭素原子数1〜6のアルキル基またはシクロアルキル基である前項1〜4のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[6] 一般式(5)中、R9またはR10の少なくとも一方がイソプロピル基である前項1〜5のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[7] 一般式(C1)中、R6またはR7の少なくとも一方が下記式
【化6】
(式中、炭素原子とXとの結合も表記しており、Xは一般式(C1)の記載と同じ意味を表す。)
で示される2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基(メンチル基)である前項1〜6のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[8] 一般式(C1)中、R6及びR7がともに2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基(メンチル基)である前項1〜7のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[9] 一般式(C1)で示される触媒が、一般式(C2)
【化7】
(式中、Y1はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜70の2価の炭化水素基を表し、Q、M、X、R5、R6、R7、L及びqは一般式(C1)の記載と同じ意味を表す。)
で示される前項1〜8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[10] 一般式(C2)中のQが−SO2−O−である(ただし、SはY1に結合し、OはMに結合する。)前項9に記載の重合体の製造方法。
[11] 一般式(C2)で示される触媒が、一般式(C3)
【化8】
(式中、4個のR8はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、M、X、R5、R6、R7、L及びqは一般式(C1)の記載と同じ意味を表す。)
で示される前項9または10に記載の重合体の製造方法。
[12] 一般式(C3)中のR8がすべて水素原子である前項11に記載の重合体の製造方法。
[13] MがPdである前項1〜12のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[14] XがPである前項1〜13のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[15] 一般式(1)で示されるオレフィンがエチレンである前項1〜14のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[16] 一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンが、R3が−CH2−OCOR12、−CH2OH、−CH2−N(R132または−CH2−Hal(R12、R13及びHalは、一般式(2)の記載と同じ意味を表す。)を表すアリル化合物である前項1〜15のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[17] 一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンが酢酸アリルである前項1〜16のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[18] 下記式(C4)
【化9】
(式中、Menはメンチル基を表し、Meはメチル基を表す。)で示される化合物。
【発明の効果】
【0010】
周期律表第10族の金属錯体を触媒として使用し、極性基を有するアリルモノマーを含む極性基を有するオレフィンと無極性オレフィンを共重合させる本発明の方法により、従来困難であった高分子量の極性基を有する共重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[触媒]
本発明で使用する周期表第10族金属錯体からなる触媒(の構造)は、一般式(C1)で示される。
【化10】
式中、Mは周期律表第10族の金属原子を表す。Xはリン(P)原子または砒素原子(As)を表す。R5は水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、Y、R6及びR7はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R6及びR7のうち少なくとも一方が、一般式(5)
【化11】
(式中、Rは置換基を有してもよい炭素原子数1〜14のアルキレン基を表し、R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R9及びR10のうち少なくとも一方は、水素原子ではなく、R9、R10、R11及び前記アルキレン基Rは、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示されるシクロアルキル基を表す。
【0012】
QはZ[−S(=O)2−O−]M、Z[−C(=O)−O−]M、Z[−P(=O)(−OH)−O−]M、またはZ[−S−]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を表す(ただし、両側のZ、Mは基の結合方向を示すために記載している。)。Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表す。YとZは結合して環構造を形成してもよい。R6及び/またはR7はYと結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、qは0、1/2、1または2である。
また、本明細書では、「炭化水素」は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を含む。
【0013】
以下、一般式(C1)の構造について説明する。
Mは周期律表第10族の元素を表す。周期律表第10族の元素としては、Ni、Pd、Ptが挙げられるが、触媒活性や得られる分子量の観点からNi及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。
【0014】
Xはリン原子(P)または砒素原子(As)であり、中心金属Mに2電子配位している。Xとしては、入手が容易であることと触媒コストの面からPが好ましい。
5は、水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアシロキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基における炭素原子数1〜30の炭化水素基としては炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。ハロゲン原子は塩素、臭素が好ましい。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基が好ましい。アリールオキシ基としてはフェノキシ基が好ましい。アシロキシ基としてはアセトキシ基、ピバロキシ基が好ましい。R5の特に好ましい例として、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシメチル基、フェノキシメチル基、1−アセトキシフェニル基、1−ピバロキシプロピル基などが挙げられる。
【0015】
Y、R6及びR7はそれぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R6及びR7のうち少なくとも一方が、前記一般式(5)で示されるシクロアルキル基を表す。さらには、R6及びR7は、合成の容易さから双方とも前記一般式(5)で示されるシクロアルキル基であることが好ましい。
【0016】
Y、R6及びR7のアルコキシ基としては、炭素原子数1〜20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。Y、R6及びR7のアリールオキシ基としては炭素原子数6〜24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。Y、R6及びR7のシリル基としてはトリメチルシリル基、アミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などが挙げられる。また、R6とR7は同じでも、異なっていてもよい。また、R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。R6及び/またはR7はYと結合して環構造を形成してもよい。Y及びR6、R7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1−アダマンチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2’−メトキシベンジル基、3’−メトキシベンジル基、4’−メトキシベンジル基、4’−トリフルオロメチルベンジル基、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、3,5−ジイソプロピルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−フリル基、2−ビフェニル基、2’,6’−ジメトキシ−2−ビフェニル基、2’−メチル−2−ビフェニル基、2’,4’,6’−トリイソプロピル−2−ビフェニル基などが挙げられる。
【0017】
一般式(5)において、Rは置換基を有してもよい炭素原子数1〜14のアルキレン基を表す。R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基を表し、R9及びR10のうち少なくとも一方は、水素原子でない。この水素原子でない置換基R9またはR10が、重合反応中のβ−水素脱離によるポリマーの連鎖移動を抑制して、得られる重合体の分子量を向上させると考えられる。R9、R10及びR11が表すアルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜30の炭化水素基の具体例として、前記のY及びR6、R7の具体例と同様のものが挙げられる。R9、R10及びR11は、同じでも異なっていてもよい。R9、R10、R11及び前記アルキレン基Rは、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。前記アルキレン基Rは、炭素原子数が2〜6であるものが好ましく、炭素原子数が4であるものがより好ましい。
【0018】
9またはR10の少なくとも一方は、炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数3〜8のシクロアルキル基であることが好ましい。さらにR9、R10は少なくとも一方がイソプロピル基であることが好ましい。
【0019】
以下、R6またはR7が一般式(5)で表される場合のX−R6またはX−R7部位の具体例を挙げる。なお、Meはメチル基を表し、XとM、XとYとの結合は省略している。
【化12】
【0020】
【化13】
【0021】
【化14】
【0022】
【化15】
【0023】
【化16】
【0024】
【化17】
【0025】
これらの中で、R6及びR7は下記式で示されるメンチル基が好ましい。さらにR6及びR7は双方ともメンチル基であることがより好ましい。
【化18】
Qは−S(=O)2−O−、−C(=O)−O−、−P(=O)(−OH)−O−、または−S−で示される2価の基を表し、Mに1電子配位する部位である。前記各式の左側がZに結合し、右側がMに結合している。これらの中でも触媒活性の面から−S(=O)2−O−が特に好ましい。
【0026】
Zは水素原子、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基を表す。YとZは結合して環構造を形成してもよい。「ハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜40の炭化水素基」におけるハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基の具体例としてはY、R6及びR7について述べたものが挙げられる。炭素原子数1〜40の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基などが挙げられる。
【0027】
Z−Q部位は電気陰性度の大きい酸素原子または硫黄原子で金属原子Mに1電子配位している。Z−Q−M間の結合電子は、MからZ−Qに移動しているため、形式上、Z−Qをアニオン状態、Mをカチオン状態で表記することも可能である。
【0028】
一般式(C1)において、Y部位とZ部位は結合することができる。この場合、一般式(C1)は一般式(C2)で示される。一般式(C2)では、Y−Z部位を一体としてY1で示している。ここで、Y1はQとXとの間の架橋構造を表すことになる。
【化19】
【0029】
式中、Y1はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1〜70の2価の炭化水素基を表す。Q、M、X、R5、R6、R7、L及びqは一般式(C1)と同じ意味を表す。
1におけるハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基の具体例はYで説明したものと同様である。炭素原子数1〜70の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基等が挙げられ、特にアリーレン基が好ましい。
6及びR7の具体例は、前記と同様のものが挙げられる。
【0030】
架橋構造Y1はXとQ部位を結合する架橋部位である。XをP原子で示した架橋構造Y1の具体例を以下に示す。ここで、複数の14、同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子1〜20の炭化水素基、またはハロゲン原子で置換された炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。
【化20】
【0031】
置換基R6またはR7は、Y1部位と結合して環構造を形成してもよい。具体的には以下に示す構造が挙げられる。なお、以下の例は、置換基R6とY1部位が結合して環構造を形成している場合を示している。
【化21】
【0032】
一般式(C2)で示される触媒の中でも、特に以下の一般式(C3)で示されるものが好ましい。
【化22】
式中、4個のR8はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、M、R5、R6、R7、L及びqは一般式(C1)と同じ意味を表す。
【0033】
式(C3)においては、R5は炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。R6及びR7は、少なくとも一方が2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル基(メンチル基)であることが好ましく、ともにメンチル基であることが特に好ましい。MはPdが好ましい。
【0034】
一般式(C3)で示される触媒の中でも特に下記式(C4)で示される化合物が好ましい。
【化23】
【0035】
一般式(C1)及び(C2)で示される触媒の金属錯体は、公知の文献(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8948)に記載の方法と同様の方法で、合成することができる。すなわち、0価あるいは2価のMソースと一般式(C1)または(C2)中の配位子とを反応させて金属錯体を合成する。
【0036】
一般式(C3)及び式(C4)で示される化合物は、一般式(C2)中のY1及びQを、一般式(C3)及び式(C4)に対応する特定の基にすることにより合成することができる。
【0037】
0価のMソースは、パラジウムソースとして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが挙げられ、ニッケルソースとして、テトラカルボニルニッケル(0):Ni(CO)4、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルが挙げられる。
【0038】
2価のMソースは、パラジウムソースとして、(1,5−シクロオクタジエン)(メチル)塩化パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(CH3CN)2、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(PhCN)2、(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ジクロロパラジウム(II):PdCl2(TMEDA)、(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ジメチルパラジウム(II):PdMe2(TMEDA)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II):Pd(acac)2(acac=アセチルアセトナト)、(トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム(II):Pd(OSO2CF32が、ニッケルソースとして、(アリル)塩化ニッケル、(アリル)臭化ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II):Ni(acac)2、(1,2−ジメトキシエタン)ジクロロニッケル(II):NiCl2(DME)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II):Ni(OSO2CF32が挙げられる。
【0039】
一般式(C1)または一般式(C2)で示される金属錯体は、単離して使用することができるが、錯体を単離することなくMを含む金属ソースと配位子前駆体を反応系中で接触させて、これをそのまま(in situ)重合に供することもできる。特に一般式(C1)及び(C2)中のR5が水素原子の場合、0価のMを含む金属ソースと配位子前駆体とを反応させた後、錯体を単離することなくそのまま重合に供することが好ましい。
この場合の配位子前駆体は、一般式(C1)の場合、
【化24】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)、及び
【化25】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される。
一般式(C2)の場合、一般式(C2−1)
【化26】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される。
【0040】
一般式(C1)におけるMソース(M)と配位子前駆体(C1−1)(X)あるいは配位子前駆体(C1−2)(Z)との比率(X/MあるいはZ/M)またはMソース(M)と配位子前駆体(C2−1)(C2配位子)との比率((C2配位子)/M)は、0.5〜2.0の範囲で、さらには、1.0〜1.5の範囲で選択することが好ましい。
【0041】
一般式(C1)あるいは一般式(C2)の金属錯体を単離する場合、予め電子供与性配位子(L)を配位させて安定化させたものを用いることもできる。この場合、qは1/2、1または2となる。qが1/2とは一つの2価の電子供与性配位子が2つの金属錯体に配位していることを意味する。qは金属錯体触媒を安定化する意味で1/2または1が好ましい。なお、qが0の場合は配位子がないことを意味する。
【0042】
電子供与性配位子(L)とは、電子供与性基を有し、金属原子Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物である。
【0043】
電子供与性配位子(L)としては、硫黄原子を有するものとしてジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものとして、アルキル基の炭素原子数1〜10のトリアルキルアミン、アルキル基の炭素原子数1〜10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン(別名:2,6−ルチジン)、アニリン、2,6−ジメチルアニリン、2,6−ジイソプロピルアニリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、キノリン、2−メチルキノリンなどが挙げられる。酸素原子を有するものとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。金属錯体の安定性及び触媒活性の観点から、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン(別名:2,6−ルチジン)、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、2,6−ジメチルピリジン(別名:2,6−ルチジン)がより好ましい。
【0044】
一般式(C1)、一般式(C2)、または一般式(C3)で示される金属錯体は、担体に担持して重合に使用することもできる。この場合の担体は、特に限定されないが、シリカゲル、アルミナなどの無機担体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機担体などを挙げることができる。金属錯体の担持法としては、金属錯体の溶液を担体に含浸させて乾燥する物理的な吸着方法や、金属錯体と担体とを化学的に結合させて担持する方法などが挙げられる。
【0045】
[モノマー]
本発明の重合体の製造方法に用いられる第1のモノマーであるオレフィンは、一般式(1)
【化27】
で示される。
【0046】
一般式(1)において、R1は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。R1としては、水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基が好ましい。具体的には、一般式(1)のオレフィンとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、スチレンが挙げられる。この中で、エチレン及びプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。またこれらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて重合することができる。
【0047】
本発明では、さらに極性基を有するオレフィンやその他のモノマーを共重合することができる。本発明で共重合に用いられる第2のモノマーである極性基を有するオレフィンは、一般式(2)
【化28】
で示される。
【0048】
一般式(2)において、R2は水素原子またはメチル基を表す。R3は、−COOR12、−CN、−OCOR12、−OR12、−CH2−OCOR12、−CH2OH、−CH2−N(R132または−CH2−Hal(R12は水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基を表し、R13は水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族性置換基、またはアルコキシカルボニル基を表し、Halはハロゲン原子を表す。)を表す。R12は水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。R13は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、t−ブトキシカルボニル基、またはベンジルオキシカルボニル基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子または臭素原子が好ましい。
【0049】
一般式(2)で示される極性基を有するオレフィン化合物の具体例としては、酢酸ビニル、酢酸アリル、アリルアルコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸、アクリロニトリル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、アリルアミン、N−アリルアニリン、N−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、N−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、N−ベンジル−N−アリルアミン、塩化アリル、臭化アリルなどが挙げられる。この中でも特に、酢酸ビニル、酢酸アリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、またはアクリロニトリルが好ましい。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンは一般式(1)で示されるオレフィンと共重合して用いる。
【0050】
一般式(1)で示されるオレフィンと一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンの組み合わせとしては、エチレンと酢酸ビニル、エチレンと酢酸アリル、エチレンとアリルアルコール、エチレンとメタクリル酸メチル、エチレンとメタクリル酸、エチレンとアクリル酸メチル、エチレンとアクリル酸、エチレンとアクリロニトリル、エチレンとメチルビニルエーテル、エチレンとエチルビニルエーテル、エチレンとプロピルビニルエーテル、エチレンとアリルアミン、エチレンとN−アリルアニリン、エチレンとN−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、エチレンとN−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、エチレンとN−ベンジル−N−アリルアミン、エチレンと塩化アリル、エチレンと臭化アリル、プロピレンと酢酸ビニル、プロピレンと酢酸アリル、プロピレンとアリルアルコール、プロピレンとメタクリル酸メチル、プロピレンとメタクリル酸、プロピレンとアクリル酸メチル、プロピレンとアクリル酸、プロピレンとアクリロニトリル、プロピレンとメチルビニルエーテル、プロピレンとエチルビニルエーテル、プロピレンとプロピルビニルエーテル、プロピレンとアリルアミン、プロピレンとN−アリルアニリン、プロピレンとN−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、プロピレンとN−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、プロピレンとN−ベンジル−N−アリルアミン、プロピレンと塩化アリル、プロピレンと臭化アリルなどが挙げられる。これらの中でも重合体の性能と経済性の面でエチレンと酢酸ビニル、エチレンと酢酸アリル、エチレンとアリルアルコール、エチレンとメタクリル酸メチル、エチレンとアクリル酸メチル、エチレンとアクリロニトリル、エチレンと塩化アリル、エチレンとアリルアミンが好ましい。
【0051】
また、本発明の(共)重合体の製造方法では、一般式(1)と一般式(2)で示されるモノマーに加えて、1種類あるいはそれ以上の第3のモノマーを共重合させてもよい。第3のモノマーとしては、ノルボルネン、一酸化炭素などが挙げられる。
【0052】
[重合方法]
本発明の金属錯体を触媒として使用する場合、一般式(1)及び一般式(2)で示されるモノマーの重合方法は特に制限されるものではなく、一般に使用される方法で重合可能である。すなわち、溶液重合法、懸濁重合法、気相重合法などのプロセス法が可能であるが、特に溶液重合法、懸濁重合法が好ましい。また重合様式は、バッチ様式でも連続様式でも可能である。また、一段重合でも、多段重合でも行うこともできる。
【0053】
一般式(C1)、(C2)または(C3)で示される金属錯体触媒は2種類以上を混合して重合反応に使用してもよい。混合して使用することで重合体の分子量、分子量分布、一般式(2)のモノマーに由来するモノマーユニットの含有量を制御することが可能であり、所望の用途に適した重合体を得ることができる。一般式(C1)、(C2)または(C3)で示される金属錯体触媒とモノマーの総量のモル比は、モノマー/金属錯体の比で、1〜10,000,000の範囲、好ましくは10〜1,000,000の範囲、より好ましくは100〜100,000の範囲が用いられる。
【0054】
重合温度は、特に限定されない。通常−30〜400℃の範囲で行われ、好ましくは0〜180℃、より好ましくは20〜150℃の範囲で行われる。
一般式(1)で示されるオレフィンの圧が内部圧力の大半を占める重合圧力については、常圧から100MPaの範囲内で行われ、好ましくは常圧から20MPa、より好ましくは常圧から10MPaの範囲内で行われる。
【0055】
重合時間は、プロセス様式や触媒の重合活性などにより適宜調整することができ、数分の短い時間も、数千時間の長い反応時間も可能である。
【0056】
重合系中の雰囲気は触媒の活性低下を防ぐため、モノマー以外の空気、酸素、水分などが混入しないように窒素やアルゴンなどの不活性ガスで満たすことが好ましい。また溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することが可能である。不活性溶媒は、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0058】
[重合体の構造の解析方法]
実施例で得た(共)重合体の構造は、日本電子(株)製JNM−ECS400を用いた各種NMR解析により決定した。一般式(2)で示される極性基を有するオレフィンに由来するモノマーユニットの含有率と共重合体末端構造は、溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼン(0.55mL)及び緩和試薬としてCr(acac)3(10mg)を用い、120℃において、逆ゲート付きデカップリング法を用いた13C−NMR(9.0マイクロ秒の90°パルス、スペクトル幅:31kHz、緩和時間:10秒、取り込み時間:10秒、FIDの積算回数5,000〜10,000回)、または溶媒として1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2を使用した120℃における1H−NMRによって決定した。
【0059】
数平均分子量及び重量平均分子量は、東ソー(株)製,TSKgel GMHHR−H(S)HTカラム(7.8mmI.D.×30cmを2本直列)を備えた東ソー(株)製高温GPC装置、HLC−8121GPC/HTを用い、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィー(溶媒:1,2−ジクロロベンゼン、温度:145℃)により算出した。
【0060】
[金属錯体触媒1の合成]
下記の反応スキームに従って金属錯体触媒1を合成した。
【化29】
【0061】
(a)塩化メンチル(化合物1a)の合成
文献(J. Org. Chem., 17, 1116. (1952))記載の手法で、塩化メンチル(化合物1a)の合成を行った。すなわち、塩化亜鉛(77g、0.56mol)の37%塩酸(52mL、0.63mol)溶液に、(−)−メントール(27g、0.17mol)を加え、35℃に加熱しながら、5時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応液にヘキサン(50mL)を加え、分液漏斗を使用して、有機層と水層を分離した。有機層は水(30mL×1)で洗浄後、さらに濃硫酸(10mL×5)及び水(30mL×5)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮を行い、塩化メンチル(化合物1a)を無色の油状物質として得た。収量は27g(収率91%)であった。
【0062】
(b)塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c)の合成
文献(Journal fur Praktische Chemie, 322, 485. (1980))記載の手法で、塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c)の合成を行った。すなわち、アルゴン雰囲気下、塩化メンチル(化合物1a;2.6g、15mmol)とマグネシウム(0.63g、26mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(30mL)中で、70℃に加熱しながら反応させて得られた塩化メンチルマグネシウム(化合物1b)の溶液を、三塩化リン(0.63mL、7.2mmol)のTHF(30mL)溶液に−78℃で加えた。室温まで昇温後、70℃に加熱しながら2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、蒸留精製を行い、塩化ジメンチルホスフィンを得た。収量は、0.62g(収率25%)であった。
31P−NMR(162MHz,THF):δ 123.9;
【0063】
(c)2−(ジメンチルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸(化合物1d)の合成
ベンゼンスルホン酸(0.18g,1.2mmol)のTHF溶液(10mL)に、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,1.4mL,2.3mmol)を0℃で加え、室温で1時間撹拌した。反応容器を−78℃に冷却した後に、塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c;0.36g,1.1mmol)を−78℃で加え、室温で15時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(0.97mL,1.3mmol)で停止した後に、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2−(ジメンチルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸(化合物1d)を白色粉末として得た。収量は0.31g(収率63%)であった。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ8.27 (br s, 1H), 7.77 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 7.59-7.52 (m, 2H), 3.54 (br s, 1H), 2.76 (br s, 1H), 2.16 (br s, 1H), 1.86-1.38 (m, 12H), 1.22-0.84 (m, 22H), 0.27 (br s, 1H);
31P{1H}−NMR(162MHz,CDCl3):δ 45.1(br.),−4.2(br.);
【0064】
(d)金属錯体触媒1の合成
アルゴン雰囲気下、2−(ジメンチルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸(化合物1d;0.14g,0.30mmol)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.26mL,1.5mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)に、(cod)PdMeCl(文献;Inorg. Chem., 1993, 32, 5769-5778に従って合成。cod=1,5−シクロオクタジエン、0.079g,0.30mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣を塩化メチレン(10mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(0.42g,3.0mmol)と2,6−ルチジン(0.35mL,3.0mmol)の塩化メチレン懸濁液(2mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行い、金属錯体触媒1を得た。収量は、0.17g(収率80%)であった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 8.26 (ddd, J = 7.8, 3.9, 1.4 Hz, 1H), 7.81 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 7.56 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.49 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.43 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 3.75 (s, 1H), 3.24 (s, 3H), 3.17 (s, 3H), 2.59 (s, 1H), 2.49-2.39 (m, 2H), 2.29-2.27 (m, 1H), 2.05-1.96 (m, 1H), 1.89-1.37 (m, 12H), 1.21-1.11 (m, 2H), 0.98 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.95 (d, J = 6.2 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.78 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.58 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.41 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 0.08 (d, J = 6.6 Hz, 3H);
31P−NMR(162MHz,CDCl3):δ 16.6;
【0065】
[重合体の合成]
上記の方法で合成した金属錯体触媒1を使用して、一般式(C1)で示されるオレフィンの単独重合、及び一般式(C2)で表される極性基を有するオレフィンとの共重合を行った。重合条件及び重合結果をそれぞれ表1及び表2に示す。
なお、触媒濃度及び触媒活性は次の式により計算した。
【数1】
【数2】
【0066】
実施例1:酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体1の調製)
アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒1(34.6mg,0.050mmol)を含む50mLオートクレーブ中に、トルエン(12mL)、酢酸アリル(3mL,28mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、15時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ中にメタノール(約20mL)を加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体1を得た。収量は2.0gであった。触媒活性は、2.7g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量95,000、重量平均分子量142,000と算出し、Mw/Mnは1.5であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:1.8(酢酸アリルモル分率=1.7%)と決定した。
【0067】
実施例2:酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体2の調製)
実施例1のトルエンと酢酸アリルの容積比を変えて、同様に酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒1(34.6mg,0.050mmol)を含む50mLオートクレーブ中に、トルエン(9mL)、酢酸アリル(6mL,56mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、15時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ中にメタノール(約20mL)を加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体2を得た。収量は1.9gであった。触媒活性は、2.5g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量79,000、重量平均分子量125,000と算出し、Mw/Mnは1.5であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:2.9(酢酸アリルモル分率=2.8%)と決定した。
【0068】
実施例3:酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体3の調製)
実施例1及び実施例2のトルエンと酢酸アリルの容積比、反応スケール及び触媒濃度を変えて、同様に酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒1(6.9mg,0.010mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、トルエン(37.5mL)、酢酸アリル(37.5mL,350mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、5時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(300mL)に加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体3を得た。収量は0.63gであった。触媒活性は、13g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量170,000、重量平均分子量470,000と算出し、Mw/Mnは2.9であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:2.9(酢酸アリルモル分率=2.8%)と決定した。
【0069】
実施例4:酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体4の調製)
実施例3のトルエンと酢酸アリルの容積比、反応スケール及び反応時間を変えて、同様に酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒1(13.9mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、酢酸アリル(300mL,2800mmol)を加えた。エチレン(4.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、43時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(1L)中に加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体4を得た。収量は6.8gであった。触媒活性は、7.9g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量290,000、重量平均分子量790,000と算出し、Mw/Mnは2.7であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:2.7(酢酸アリルモル分率=2.6%)と決定した。
【0070】
比較例1:金属錯体触媒2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体1の調製)
金属錯体触媒1の代わりに、下記式
【化30】
で示される金属錯体触媒2(文献;J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 14606-14607に従って合成)を使用して、実施例1と同様の手法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒2(58.2mg,0.10mmol)を含む50mLオートクレーブ中に、トルエン(12mL)、酢酸アリル(3mL,28mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、3時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ中にメタノール(約20mL)を加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、共重合体(比較重合体1)を得た。収量は1.7gであった。触媒活性は、5.7g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量15,000、重量平均分子量35,000と算出し、Mw/Mnは2.3であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、13C−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:1.3(酢酸アリルモル分率=1.2%)と決定した。
【0071】
比較例2:金属錯体触媒3を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体2の調製)
金属錯体触媒1の代わりに、下記式
【化31】
で示される金属錯体触媒3(文献;J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 8948-8949.に従って合成)を使用して、実施例1と同様の手法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒3(63.0mg,0.10mmol)を含む50mLオートクレーブ中に、塩化メチレン(3.75mL)、トルエン(3.75mL)、酢酸アリル(7.5mL,70mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、3時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ内の反応液にメタノール(約20mL)を加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、共重合体(比較重合体2)を得た。収量は0.29gであった。触媒活性は、0.97g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量4,000、重量平均分子量7,000と算出し、Mw/Mnは1.7であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、13C−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:3.8(酢酸アリルモル分率=3.7%)と決定した。
【0072】
比較例3:金属錯体触媒4を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体3の調製)
金属錯体触媒1の代わりに、下記式
【化32】
で示される金属錯体触媒4(特許文献1;特開2011−68881号公報に従って合成)を使用して、実施例3と同様の手法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒4(50.2mg,0.10mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、トルエン(37.5mL)、酢酸アリル(37.5mL,350mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、5時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(約100mL)中に加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、共重合体(比較重合体3)を得た。収量は3.0gであった。触媒活性は、6.0g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量11,000、重量平均分子量26,000と算出し、Mw/Mnは2.4であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、13C−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:4.1(酢酸アリルモル分率=4.0%)と決定した。
【0073】
比較例4:金属錯体触媒5を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体4の調製)
金属錯体触媒1の代わりに、下記式
【化33】
で示される金属錯体触媒5(特許文献1;特開2011−68881号公報に従って合成)を使用して、実施例3と同様の手法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒5(84.2mg,0.10mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、トルエン(37.5mL)、酢酸アリル(37.5mL,350mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、5時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(約100mL)中に加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、共重合体(比較重合体4)を得た。収量は0.21gであった。触媒活性は、0.42g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量37,000、重量平均分子量85,000と算出し、Mw/Mnは2.3であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、13C−NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:1.3(酢酸アリルモル分率=1.2%)と決定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
表1及び2に示すように、本発明の金属錯体触媒1を使用した実施例1〜4では、これまでの触媒(比較例1〜4)では製造が困難であった高分子量のアリルモノマー共重合体を合成することができるようになった。また、金属錯体触媒の触媒濃度を低くした実施例3は、実施例1及び2に比べてより高い触媒活性を示した。
【0077】
さらに、金属錯体触媒1を使用して、一般式(C1)で示されるオレフィンとしてエチレンの単独重合、及び酢酸アリル以外の一般式(C2)で表される極性基を有するオレフィン(アクリル酸メチル、ブチルビニルエーテル、アクリロニトリル、酢酸ビニル)との共重合を行った。重合条件及び重合結果をそれぞれ表3及び表4に示す。
【0078】
実施例5:エチレンの単独重合(重合体5の調製)
アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒1(6.9mg,0.010mmol)を含む300mLオートクレーブ中に、トルエン(100mL)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、1時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ中にメタノール(約150mL)を加えた。生じた重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体5を得た。収量は2.1gであった。触媒活性は、205g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量405,000、重量平均分子量618,000と算出し、Mw/Mnは1.5であった。
【0079】
実施例6:アクリル酸メチルとエチレンの共重合(重合体6の調製)
アルゴン雰囲気下、金属錯体触媒1(6.9mg,0.010mmol)を含む50mLオートクレーブ中に、トルエン(7.5mL)、アクリル酸メチル(7.5mL,84mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、3時間撹拌した。室温に冷却後、オートクレーブ中にメタノール(約20mL)を加えた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体6を得た。収量は2.0gであった。触媒活性は、67g/(mmol・h)と算出された。サイズ排除クロマトグラフィーにより、数平均分子量55,000、重量平均分子量171,000と算出し、Mw/Mnは3.1であった。共重合体中のアクリル酸メチル含有率は、1H−NMR測定により、エチレン:アクリル酸メチルのモル比は100:1.3(アクリル酸メチルモル分率=1.3%)と決定した。
【0080】
実施例7:ブチルビニルエーテルとエチレンの共重合(重合体7の調製)
トルエン、アクリル酸メチルをトルエン(10mL)、ブチルビニルエーテル(5mL,39mmol)に代え、反応時間を15時間とした以外は実施例6と同様にしてブチルビニルエーテルとエチレンの共重合体(重合体7)を製造した。結果を表3および表4に示す。
【0081】
実施例8:アクリロニトリルとエチレンの共重合(重合体8の調製)
トルエン、アクリル酸メチルをトルエン(2.5mL)、アクリロニトリル(2.5mL,38mmol)に代え、反応温度、時間を100℃、96時間とした以外は実施例6と同様にしてアクリロニトリルとエチレンの共重合体(重合体8)を製造した。結果を表3および表4に示す。
【0082】
実施例9:酢酸ビニルとエチレンの共重合(重合体9の調製)
トルエン、アクリル酸メチルをトルエン(3mL)、酢酸ビニル(12mL,130mmol)に代え、反応温度、時間を80℃、15時間とした以外は実施例6と同様にして酢酸ビニルとエチレンの共重合体(重合体9)を製造した。結果を表3および表4に示す。
【0083】
比較例5:金属錯体触媒2を使用したエチレン単独重合(比較重合体5の調製)
金属錯体触媒1の代わりに金属錯体触媒2を使用して、実施例5と同様の手法で、エチレンの単独重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒2(29mg,0.050mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、トルエン(75mL)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、1時間撹拌した。室温に冷却後、反応液をメタノール(300mL)に加えた。生じた重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、比較重合体5を得た。結果を表3および表4に示す。
【0084】
比較例6:金属錯体触媒4を使用したアクリル酸メチルとエチレンの共重合(比較重合体6の調製)
金属錯体触媒1の代わりに金属錯体触媒4を使用して、実施例6と同様の手法で、アクリル酸メチルとエチレンの共重合を行った。すなわち、窒素雰囲気下、金属錯体触媒4(50mg,0.10mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、トルエン(37.5mL)及びアクリル酸メチル(37.5mL,420mmol)を加えた。エチレン(3.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、3時間撹拌した。室温に冷却後、反応液をメタノール(300mL)に加えた。生じた重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、比較重合体6を得た。結果を表3および表4に示す。
【0085】
比較例7:金属錯体触媒3を使用したアクリロニトリルとエチレンの共重合(比較重合体7の調製)
文献(J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 8948-8949.)に、金属錯体触媒3を使用したアクリロニトリルとエチレンの共重合が記載されている。すなわち、金属錯体触媒3(0.010mmol)を使用して、エチレン(3.0MPa)を充填したトルエン(2.5mL)及びアクリロニトリル(2.5mL)を含むオートクレーブ中、100℃、120時間の重合を行い、比較重合体7が0.23g得られている。結果を表3および表4に示す。
【0086】
比較例8:金属錯体触媒2を使用した酢酸ビニルとエチレンの共重合(比較重合体8の調製)
文献(J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 14606-14607.)に、金属錯体触媒2を使用した酢酸ビニルとエチレンの共重合が記載されている。すなわち、金属錯体触媒2(0.10mmol)を使用して、エチレン(3.0MPa)を充填したトルエン(3mL)及び酢酸ビニル(12mL)を含むオートクレーブ中、80℃、15時間の重合を行い、比較重合体8が1.0g得られている。結果を表3および表4に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
表3及び4に示すように、本発明の金属錯体触媒1を使用することで、これまでの周期律表第10族金属錯体触媒(比較例5〜8)では製造が困難であった、高分子量のポリエチレン及び極性基含有モノマー共重合体を合成することができるようになった。