(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309225
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】アルコール生成物代謝促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/685 20060101AFI20180402BHJP
A61K 31/683 20060101ALI20180402BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20180402BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20180402BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20180402BHJP
【FI】
A61K31/685
A61K31/683
A61P3/00
A61P39/02
A23L33/12
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-182392(P2013-182392)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-48340(P2015-48340A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奈良 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 舞亜
(72)【発明者】
【氏名】水野 友葵
(72)【発明者】
【氏名】日暮 聡志
(72)【発明者】
【氏名】大町 愛子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】
伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】
Ways to Cure your Hangover,Dumb Little Man [online],2006年11月,[retrieved on 2017.04.13], Retrieved from the Internet: <URL: http://www.dumblittleman.com/plenty-of-ways-to-cure-your-hangover/>, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 35/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルエタノールアミンと、ホスファチジルコリンと、ホスファチジルイノシトールと、ホスファチジルセリンと、からなるリン脂質を有効成分とし、前記ホスファチジルエタノールアミン、前記ホスファチジルコリン、前記ホスファチジルイノシトール、前記ホスファチジルセリンの比が43:46:7:4であることを特徴とするアルコール生成物代謝促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール生成物代謝促進剤を含むことを特徴とするアルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物、又はアルコール生成物代謝促進用医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に吸収されたアルコールの代謝生成物である酢酸やアセトンをすみやかに代謝する作用を有し、アルコール摂取の弊害である吐き気などの不快感やめまい、二日酔い等の症状緩和に有用で、安定性及び安全性に優れたアルコール生成物代謝促進剤に関する。本発明は、さらに該アルコール生成物代謝促進剤を含有する、アルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物、又はアルコール生成物代謝促進用医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
昔から、適量の飲酒は、健康保持増進のために有効であるとされている。最近の疫学研究によれば、適量の飲酒は、全く酒を飲まない、あるいは多量の飲酒に比べ、死亡率を低下させることが報告されている。また、このような現象は、人種や性別、地域条件などに無関係な、適量の飲酒がもたらす、ストレスの発散ならびに、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の予防による効果であると推察されている。
一方、過剰にアルコールを摂取した場合、血液中のアルコール濃度が上昇し、その濃度が0.4%程度になると、延髄にある呼吸中枢の機能が著しく低下して呼吸困難となり、最悪の場合、死に至る可能性がある。また、過剰にアルコールを摂取した後、8から14時間程度経過すると、しばしば、頭痛や悪心、嘔吐、過呼吸、心悸亢進、発汗などをともなう二日酔いの症状を呈する。したがって、生体内にアルコール、特に、過剰なアルコールやその代謝生成物が存在する場合には、生体機能に大きな変化をもたらすだけでなく、生命の危険を伴う場合があることから、摂取したアルコールをすみやかに代謝して、生体に無害な状態にすることが重要である。
また、アルコール代謝の過程では、その代謝生成物として、アセトアルデヒドや酢酸、アセトンが生成する。特に、酢酸やアセトンは、二日酔いの原因物質と考えられていることから、TCA回路を活性化して酢酸を二酸化炭素と水に分解したり、アセトンの生成を抑制する、あるいは、生成したアセトンを尿や呼気から生体外に積極的に排出することにより、それらの濃度をすみやかに低下させ、生体にとって無害な状態にすることが求められる(非特許文献1、2)。
このため、安全に摂取することが可能で、すみやかにアルコールやその代謝生成物を生体にとって無害な状態にすることが期待できる安定性に優れた飲食品や栄養組成物、医薬品の開発が望まれている。
これまで、アルコールの代謝を促進する食品成分として、ウコンやカフェイン、カテキン等が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−169831号公報
【特許文献2】特開2012−31080号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tsukamoto, S. et. al. : Jpn. J.Alcohol & Drug Dependence, 26 :500−510, 1991
【非特許文献2】Maxwell, RC. et. al. : PLOS ONE, 5 :1−9, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示のウコン、カフェイン又はカテキン等を多量に摂取した場合、肝臓に悪影響を及ぼす可能性がある。また、カフェインには不眠やめまい、不安といった副作用があり、多量にカフェインを摂取した場合には中毒症状を呈することが知られている。
【0006】
本発明は、生体内に吸収されたアルコールの代謝生成物である酢酸やアセトンをすみやかに代謝する作用を有し、アルコール摂取の弊害である吐き気などの不快感やめまい、二日酔い等の症状軽減に有用な、日常的に安全に摂取することが出来るアルコール生成物代謝促進剤、及び該アルコール生成物代謝促進剤を配合したアルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物、又はアルコール生成物代謝促進用医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を進めたところ、バターミルクに、顕著なアルコール生成物代謝促進効果あることを見出した。
すなわち本発明は、以下の様態を含むものである。
(1)バターミルクを有効成分とするアルコール生成物代謝促進剤。
(2)(1)に記載のアルコール生成物代謝促進剤を含むことを特徴とするアルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物、又はアルコール生成物代謝促進用医薬品。
(3)(1)乃至(2)のいずれかに記載のアルコール生成物代謝促進剤を経口摂取することによるアルコール代謝を促進する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルコール生成物代謝促進剤は、生体内に吸収されたアルコールの代謝生成物である酢酸やアセトンを代謝する作用が顕著であり、アルコール摂取の弊害である吐き気などの不快感やめまい、二日酔い等の症状軽減に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアルコール生成物代謝促進剤の有効成分であるバターミルクは、公知の方法でヒト、ウシ、水牛、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類の乳から調製されたものや市販されているバターミルクを使用することが可能である。例えば、バターミルクは、生乳から分離した脂肪分40重量%以上のクリームや発酵クリーム、ホエイクリーム等を原料としてチャーン等を用いてチャーニング(剪断処理)することによって脂肪球を破壊・融合してバターを製造する際に排出される脂肪分1から15重量%の水相成分として得ることができる。また、上記のように調製したバターミルクは、通常、食品や医薬品を製造する際に使用される熱等による殺菌処理をすること、ならびに凍結乾燥や噴霧乾燥等により乾燥することが可能である。
【0010】
本発明のバターミルクは、そのままアルコール生成物代謝促進剤として使用してもよいが、必要に応じて、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることも出来る。また、凍結乾燥や噴霧乾燥等により乾燥したバターミルクも、そのままアルコール生成物代謝促進剤として使用することが可能であり、常法に従い、製剤化して用いることもできる。
さらに、これらを製剤化した後に、これを栄養剤やヨーグルト、飲料、ウエハース等の飲食品、栄養組成物及び医薬品に配合することも可能である。
【0011】
本発明のアルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物及びアルコール生成物代謝促進用医薬品とは、このバターミルクのみを含む場合の他に、安定剤や糖類、脂質、フレーバー、ビタミン、ミネラル、フラボノイド、ポリフェノール等、他の飲食品や医薬に通常含まれる原材料等を含有することができる。また、本発明の有効成分であるバターミルクに加えて、アルコール代謝促進作用を示す他の成分、例えば、ウコンやカフェイン、カテキン等とともに使用することも可能である。
【0012】
アルコール生成物代謝促進用飲食品、アルコール生成物代謝促進用栄養組成物及びアルコール生成物代謝促進用医薬品におけるバターミルクの配合量については、バターミルクが乳等に由来する食品であることから、特に制限はなく、安全性に全く問題はない。但し、本発明でアルコール生成物代謝促進効果を発揮させるためには、成人一人一日あたり本発明のバターミルクを100mg以上経口摂取できるように、飲食品や栄養組成物、医薬等へ配合することが好ましい。
【0013】
本発明のアルコール生成物代謝促進剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、経口投与が可能なアルコール生成物代謝促進用組成物とすることができる。製剤化に際して、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。賦形剤としては、例えばショ糖、乳糖、デンプン、結晶性セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム等の1種又は2種以上を組み合わせて加えることができる。
【0014】
以下に実施例、試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
(バターミルクの製造)
生乳から分離したクリーム(脂肪分47%)10kgをメタルチャーンで剪断処理することにより、バターと水相画分であるバターミルクに分離した。このバターミルクを凍結乾燥して、バターミルクの粉末(実施例品1)440gを得た。このバターミルクの粉末には、全乳固形分中、脂肪が7.3%、タンパク質が32.5%、炭水化物が52.5%、灰分が7.7%含まれていた。このようにして得られたバターミルクの粉末は、そのまま本発明のアルコール生成物代謝促進剤として使用可能である。
【0016】
[試験例1]
バターミルクのアルコール生成物代謝促進効果を調べた。
7週齢の雄性ICR系マウスを9匹ずつ、実施例品1のバターミルクをマウス体重1kgあたり100mg投与するB群、実施例品1のバターミルクからクロロホルム−メタノール(2:1)溶液、アセトン、フロロシルカラム、シリカゲルカラムを用いてスフィンゴミエリンを除き、既報(Haruta, Y. et. al. : Bioscience Biotechnology, and Biochemistry, 72 :2151−2157, 2008)に従いリン脂質の組成を測定したところ、ホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンを43:46:7:4で含むものをマウス体重1kgあたり100mg投与するC群に分けた。それぞれをゾンデで経口投与した1時間後に、マウス体重1kgあたり2gになるようにエタノールを投与し、その1時間後に採血して、血液に含まれる酢酸とアセトンの濃度を測定した。また、陽性対象として、カフェインをマウス体重1kgあたり200mg投与するD群とスフィンゴミエリンをマウス体重1kgあたり16mg投与するE群を設定し、溶媒である水のみを投与するA群(コントロール)と比較した。その結果を表1に示す。
バターミルク及びバターミルクからスフィンゴミエリンを除いたものをマウス体重1kgあたり100mg投与したB群ならびにC群の血液中の酢酸濃度やアセトン濃度は、コントロール(A群)に比べ有意に低下した。一方、カフェインをマウス体重1kgあたり200mg投与したD群の血液中の酢酸濃度やアセトン濃度は、コントロール(A群)に比べ有意に増加した。また、スフィンゴミエリンをマウス体重1kgあたり16mg投与したE群の血液中の酢酸濃度やアセトン濃度は、コントロール(A群)と同等であった。したがって、本発明のバターミルクは、体内に吸収されたエタノールの代謝生成物である酢酸やアセトンをすみやかに代謝する作用を有し、その効果は、マスウ体重1kgあたり100mg以上摂取した場合に認められることが明らかとなった。
【0017】
【表1】
数値は、平均値±標準偏差(n=9)を示す。
※は、コントロール(A群)と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【実施例2】
【0018】
(アルコール生成物代謝促進用カプセル剤の調製)
表2に示す配合で原材料を混合した後、常法により造粒し、カプセルに充填して、本発明のアルコール生成物代謝促進用カプセル剤を製造した。
【0019】
【表2】
【実施例3】
【0020】
(アルコール生成物代謝促進用錠剤の調製)
表3に示す配合で原材料を混合した後、常法により1gに成型、打錠して本発明のアルコール生成物代謝促進用錠剤を製造した。
【0021】
【表3】
【実施例4】
【0022】
(アルコール生成物代謝促進用液状栄養組成物の調製)
実施例品1のバターミルク50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合して50g/5kgのバターミルク溶液を得た。このバターミルク溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン17.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機 (第1種圧力容器、TYPE: RCS−4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明のアルコール生成物代謝促進用液状栄養組成物50kgを製造した。
【実施例5】
【0023】
(アルコール生成物代謝促進用飲料の調製)
脱脂粉乳300gを400gの脱イオン水に溶解した後、実施例品1のバターミルク10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、酸味料2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、本発明のアルコール生成物代謝促進用飲料10本(100ml入り)を調製した。