特許第6310902号(P6310902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6310902
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】偏波フリーICタグ
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20180402BHJP
   G06K 19/07 20060101ALI20180402BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   G06K19/077 252
   G06K19/07 210
   H01Q13/08
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-236765(P2015-236765)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-102789(P2017-102789A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年12月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511238033
【氏名又は名称】株式会社IRO
(73)【特許権者】
【識別番号】000233491
【氏名又は名称】株式会社日立システムズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山内 繁
(72)【発明者】
【氏名】猿山 雅章
(72)【発明者】
【氏名】井上 久仁浩
(72)【発明者】
【氏名】田崎 耕司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊博
【審査官】 甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−035034(JP,A)
【文献】 特開2006−157129(JP,A)
【文献】 特開2008−028536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/18
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形状のアンテナ素子を有するパッチアンテナと、
前記アンテナ素子の異なる位置にそれぞれ第1の給電点及び第2の給電点が形成され、
前記第1の給電点に電気的に接続される第1のICタグ部と、
前記第2の給電点に電気的に接続される第2のICタグ部とを備え、
前記アンテナ素子は、一方の対角線上における対向するコーナーのそれぞれに切り欠き部を形成してなる、
ことを特徴とする偏波フリーICタグ。
【請求項2】
前記第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部から、該第1の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、
前記第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部から、第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項3】
前記第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、前記第1の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から前記アンテナ素子の中心付近に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、
前記第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、前記第2の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から前記アンテナ素子の中心を除く中心近傍に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項4】
前記第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、前記第1の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から前記第1の縁辺部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、
前記第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、前記第2の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から前記第2の縁辺部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項5】
前記第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部から、該第1の縁辺部に対して垂直方向に向かう縁辺からアンテナ素子の中心までの長さの半分の距離だけ離れた位置に形成され、
前記第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に隣接する第2の縁辺部から、該第2の縁辺部に対して垂直方向に向かう縁辺からアンテナ素子の中心までの長さの半分の距離だけ離れた位置に形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項6】
前記パッチアンテナは、左旋回円偏波又は右旋回円偏波を送受信する機能を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項7】
前記第1のICタグ部及び前記第2のICタグ部のそれぞれは、
ICチップと、
前記ICチップに接続される第1のアンテナと、
前記第1のアンテナと対向する位置に配置され、かつ、前記パッチアンテナを構成するグラウンド板に電気的に接続される第2のアンテナとを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏波フリーICタグ。
【請求項8】
少なくとも前記第1のアンテナ及び前記第2のアンテナは、電磁誘導結合が可能となるように互いに所定の間隔をおいて配置され、
前記第2のアンテナはループコイルであり、前記第1のICタグ部に対応する第2のアンテナの一端がグラウンド板に接続され、他端が前記グラウンド板に積層された誘電体基板に形成された第1のスルーホールを通って前記第1の給電点に接続され、
前記第2のICタグ部に対応する第2のアンテナの一端が前記グラウンド板に接続され、他端が前記誘電体基板に形成された第2のスルーホールを通って前記第2の給電点に接続されている、
ことを特徴とする請求項7に記載の偏波フリーICタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波フリーICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年パッシブICタグの感度を増加させるという要望が高まっている。ICタグとリーダ/ライタ装置の通信において、ICタグとリーダ/ライタ装置に組み込まれたアンテナの偏波が一致する場合にICタグが良好な感度となることが知られている。アンテナの偏波には、電界が常に一つの平面内に存在する直線偏波や、電磁界が伝搬方向に向かって回転する円偏波がある(以下の特許文献1参照)。円偏波の内、電磁界が電波の進行方向に向かって右に回転(右旋回)する円偏波を右旋回円偏波といい、左に回転(左旋回)する円偏波を左旋回円偏波という。
【0003】
例えば、ICタグのアンテナの偏波を直線偏波とし、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合、リーダ/ライタ装置のアンテナで発生させる円偏波を、直線偏波を発生させるICタグのアンテナに送信した場合、回転する偏波の概略半分がICタグの直線偏波と一致する成分となって通信される。
【0004】
また、ICタグのアンテナの偏波を円偏波とし、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合、両者の対向するアンテナの円偏波が共に右旋回円偏波であるか、あるいは共に左旋回円偏波である場合に、すなわち円偏波の偏波方向が共に同じ回転方向で一致している場合に良好な感度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−164258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ICタグのアンテナの偏波を直線偏波とし、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合には、回転する偏波の概略半分がICタグの直線偏波と一致しない成分となって電波エネルギーの半分が無駄に使用されることになる。
【0007】
また、ICタグのアンテナの偏波を円偏波とし、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合には、ICタグのアンテナ偏波が直線偏波でリーダ/ライタ装置のアンテナ偏波が円偏波の場合のような無駄な電波エネルギーの消費という問題は解消するが、以下のような問題が生じる。
【0008】
つまり、2つの円偏波の偏波方向が一致していない場合に最低感度または応答しない場合がある。例えば左旋回円偏波を発生させるアンテナを有するICタグと通信されるリーダ/ライタ装置のアンテナの円偏波が右旋回円偏波である場合には、通信そのものが行えない。特に、企業間をまたがる物流、例えばICタグを取り付けた物流コンテナを海外に輸出する場合に、輸出先におけるリーダ/ライタ装置のアンテナの円偏波の偏波方向は未知である。この場合輸出先におけるICタグに格納された情報を読み取ることができないというリスクが生じる。
【0009】
本発明は、バッテリーレスのパッシブICタグにおいて、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波の種類、特に円偏波の回転方向にかかわらず良好な感度状態で通信を行うことができる偏波フリーICタグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る偏波フリーICタグは、略矩形状のアンテナ素子を有するパッチアンテナと、アンテナ素子の異なる位置にそれぞれ第1の給電点及び第2の給電点が形成され、第1の給電点に電気的に接続される第1のICタグ部と、第2の給電点に電気的に接続される第2のICタグ部とを備え、アンテナ素子は、一方の対角線上における対向するコーナーのそれぞれに切り欠き部を形成してなることを特徴とする。
【0011】
上述の発明において、第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部から、第1の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部から、第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される、ことが好ましい。
【0012】
上述の発明において、第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、第1の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置からアンテナ素子の中心付近に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、第2の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から前記アンテナ素子の中心を除く中心近傍に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成されることが好ましい。
【0013】
上述の発明において、第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、第1の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から第1の縁辺部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成され、第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に直角に隣接する2つの第2の縁辺部の内のいずれか一方の縁辺部に対して垂直方向に延び、かつアンテナ素子の中心に向かう直線上であって、第2の縁辺部からアンテナ素子の中心までの長さの半分の位置から第2の縁辺部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成することが好ましい。
【0014】
上述の発明において、第1の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部から、第1の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって縁辺の長さの半分の距離だけ離れた位置に形成され、第2の給電点は、アンテナ素子の第1の縁辺部に隣接する第2の縁辺部から、第2の縁辺部に対して垂直方向で中心部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される、ことが好ましい。ここに所定の距離とは、給電点のアンテナインピーダンスの整合を取るための調節の距離であり、電磁気学では縁辺と中心までの最短の長さの半分の距離が好ましいとされている。アンテナインピーダンスを高めに調整する場合は給電点を縁辺近くに、低めに調整するには中心よりの位置に形成することが知られている。
【0015】
上述の発明において、1つのパッチアンテナの2つの給電点にそれぞれ2つのICチップ配置することで、左旋回円偏波又は右旋回円偏波のいずれであっても送受信する機能を有する、ことが好ましい。
【0016】
上述の発明において、第1のICタグ部及び前記第2のICタグ部のそれぞれは、ICチップと、ICチップに接続される第1のアンテナと、第1のアンテナと対向する位置に配置され、かつ、前記パッチアンテナを構成するグラウンド板に電気的に接続される第2のアンテナとを有する、ことが好ましい。
【0017】
上述の発明において、少なくとも第1のアンテナ及び第2のアンテナは、電磁誘導結合が可能となるように互いに近接し2つのループコイル間で相互電磁誘導するように対向して配置され、第2のアンテナはループコイルであり、第1のICタグ部に対応する第2のアンテナの一端がグラウンド板に接続され、他端がグラウンド板に積層された誘電体基板に形成された第1のスルーホールを通って第1の給電点に接続され、第2のICタグ部に対応する第2のアンテナの一端がグラウンド板に接続され、他端が誘電体基板に形成された第2のスルーホールを通って第2の給電点に接続されている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波の種類にかかわらず良好な感度状態で通信を行うことができる偏波フリーICタグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】偏波フリーICタグの外観を示す斜視図である。
図2】パッチアンテナの2つの給電点の位置とアンテナインピーダンス(給電点インピーダンス)の関係を説明するための図である。
図3】偏波フリーICタグを構成するパッチアンテナの構造の成り立ちを説明するための図である。
図4】パッチアンテナで円偏波が発生する原理を説明するための図である。
図5】パッチアンテナの給電点と電磁結合コイルの接続を説明するための部分透過平面図である。
図6図1のA−A線断面図である。
図7図1のA−A線断面詳細図である。
図8図1のB−B線断面図である。
図9図1のB−B線断面詳細図である。
図10】偏波フリーICタグに内蔵されているICタグ部を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態に係る偏波フリーICタグについて、図面に基づいて説明する。
【0021】
[偏波フリーICタグの構成]
図1は偏波フリーICタグの外観を示す斜視図である。図2はパッチアンテナの2つの給電点の位置とアンテナインピーダンス(給電点インピーダンス)の関係を説明するための図である。図3は偏波フリーICタグを構成するパッチアンテナの構造が左および右旋回の円偏波のそれぞれの発生を加算して1つに集約できることを説明するための図である。図4はパッチアンテナで円偏波が発生する原理を高周波電流の向きで説明するための図で、左旋回の事例を代表にしたものである。図5はパッチアンテナの給電点と電磁結合コイルの接続を説明するための部分透過平面図である。図6図1のA−A線断面図である。図7図1のA−A線断面詳細図である。図8図1のB−B線断面図である。図9図1のB−B線断面詳細図である。図10は、ICタグ部6とICタグ部8を示した正面図である。
【0022】
図1に示すように、偏波フリーICタグ1は、グラウンド板(グラウンド導体)11と、グラウンド板11に載置されたプリント基板(誘電体)9と、プリント基板9を挟んでグラウンド板11に対して略平行に配置されたアンテナ素子(アンテナパターン)4と、アンテナ素子4に配置され、それぞれICタグ5,7を含むICタグ部6,8(図7図9参照)とを備えて構成されている。なお、最終的には、図6図8に示すように偏波フリーICタグ1の全体を覆うようにカバー体40がグラウンド板11にねじ42で固定される。なお、プリント基板は、請求項7に記載された「誘電体基板」に対応している。つまり、偏波フリーICタグ1はその内部に2つのICタグ5とICタグ7を含んでいる。
【0023】
[パッチアンテナ]
パッチアンテナ3は、略矩形状のアンテナ素子4と、プリント基板9と、プリント基板9を介してアンテナ素子4と電気的に接続されるグラウンド板11を備えて構成される。パッチアンテナ3は、アンテナ素子4と電気的に接続されるICチップ30、35(後述する)と共働して、外部のリーダ/ライタ装置(図示せず)に対して信号を送受信する機能を有する。アンテナ素子4は、1対の向かい合う角を切り欠いてなる形状(図2の例では左上と右下の角を切り欠いて切り欠き部12、13が形成されてなる形状)である。また、アンテナ素子4には、検波方向が規定される所望の位置に給電点f,fが設けられている。所望の給電点位置の詳細については後述する。
【0024】
アンテナ素子4の上記した形状は、概念的には左旋回円偏波を発生させる機能を有する2角切り欠き形状(図3の左上側に示す形状)と、右旋回円偏波を発生させる機能を有する2角切り欠き形状(図3の左下側に示す形状)を90度時計回りに回転させた形状とを組み合わせたような形状である。実際には2つのパッチアンテナを組み合わせて形成するのではなく、向かい合う角を切り欠いた形状の一つのパッチアンテナに後述する2か所の位置にそれぞれ右旋回円偏波発生用の給電点fと左旋回円偏波発生用の給電点fの構造を加算して1つに集約するように設けて形成している。なお、給電点fは、請求項1に記載された「第1の給電点」に対応し、給電点fは、請求項1に記載された「第2の給電点」に対応している。
【0025】
上記した形状にした理由は、左旋回円偏波を発生させる機能を有する2角切り欠き形状(図3の左上側に示す形状)と右旋回円偏波を発生させる機能を有する2角切り欠き形状(図3の左下側に示す形状)を組み合わせることによって、左旋回円偏波と右旋回円偏波のいずれの円偏波を受信した場合であってもどちらか片方のICタグが必ず動作して偏波フリーICタグ1として最良の受信感度を確保できるようにするためである。
【0026】
また、アンテナ素子4は図5に示すように二つの給電点f,fを有している。具体的には、アンテナ素子4は、給電点fに接続された電磁結合コイル(ループコイル)17と、給電点fに接続された電磁結合コイル(ループコイル)19とを介してそれぞれグラウンド板11に接続されている。
【0027】
[パッチアンテナの円偏波の発生原理]
本発明に係る偏波フリーICタグを構成するアンテナ素子4の形状は、左旋回円偏波発生機能と右旋回円偏波発生機能を持たせるように上記したような形状としているが、以下に、パッチアンテナ3において左旋回円偏波と右旋回円偏波の発生の原理について簡単に説明する。最初に、図4を参照して正方形のパッチアンテナで円偏波を発生させる仕組み(原理)について説明する。左上と右下の角を45度の斜辺を有する直角二等辺三角形ΔS状に切り欠いて形成されたパッチアンテナでは、切り欠きの45度の斜辺で反射した電流の向きが左右方向となるので、偏波面が垂直になったり、斜めになったり、水平になったりして、時間経過とともに偏波面が回転する円偏波が発生する。なお、切り欠く形状の直角二等辺三角形ΔSの面積は、アンテナ素子4の面積の概略150分の1程度に設定されるのが好ましいとされている。
【0028】
以下、具体的に偏波面が回転する原理について説明する。図4の(1)で左下から左上に向かっている電流は、左上の切り欠き45度の斜辺に衝突し、結果90度向きが変わる。その後(2)で示すように左上から右上に向かって流れる。一方、(1)で右下から右上に向かっている電流は、右上の角に衝突することで、(2)のように180度逆方向に向かう。(2)では、これら2つの電流のベクトルを合成した、左上から右下への電流がパッチアンテナ全体に流れることになる。したがって、偏波面は斜めになる。すなわち、パッチアンテナ3の偏波面は(1)では垂直となり、(2)では斜めとなり、(3)では水平となり、(4)では斜めとなり、偏波面は時間とともに(1)〜(4)のように変化していく。図4は電流の進む方向を矢印で示しているが(2)〜(4)では、高周波電流(交流)の極性が逆になっているため、(2)での電流のベクトルが左上から右下への向きだとすると、(4)での電流のベクトルは逆向きの右下から左上になる。この結果、偏波面が回転する円偏波が発生する。
【0029】
一般に切り欠きのない正方形のパッチアンテナから放射される電磁波は、水平偏波や垂直偏波のような直線偏波であり、給電点と中心点を結ぶ方向と一致した電界面の偏波が出る。ところが、上記したように向かい合う角を切り欠くことによって円偏波を放射するようになる。例えば、パッチアンテナのアンテナ素子の左上と右下の角を切り欠くことによって左旋回偏波を発生させることができる(図3の左上側のアンテナ)。それとは逆にパッチアンテナのアンテナ素子の右上と左下の角を切り欠くことによって右旋回偏波を発生させることができる(図3の左下側のアンテナ)。
【0030】
なお、パッチアンテナ3の利得は、パッチアンテナを形成するプリント基板の材質によって決まる。一般的に基板の比誘電率が低いほど、損失は少ない傾向にあり、利得は高くなる。究極の材質は真空又は空気である。一方、基板の比誘電率が高いほど、パッチアンテナ3を小型化できる。したがって、利得と小型化の優先度に従いバランスをとりながらパッチアンテナ3を設計することが望ましい。
【0031】
[パッチアンテナに設ける給電点の位置とアンテナインピーダンスの関係]
アンテナインピーダンス(給電点インピーダンス)Zfeedについては、通常は50オーム系の同軸ケーブルで直接給電することが多いので、以下ではアンテナインピーダンスZfeedを50オームと決めて、アンテナインピーダンスZfeedとの関係で最良の感度を確保できる給電点の位置について説明する。
【0032】
図2に示すようにアンテナインピーダンスZfeedを50オーム(Ω)とした場合でアンテナ形状が幅Lの正方形の対角線上の1対の2角切り欠き形状である場合における第1の給電点fLの位置は、パッチアンテナ3の縁辺部27から給電点fまでの長さをAとし、アンテナ素子4の縁辺部27からX軸線Xの中心Oまでの距離をaとした場合、アンテナ素子4の縁辺部27からX軸線Xの中心Oまでの距離aの半分(a−A)の位置(つまりL/4)にした場合に最良の感度となる。
【0033】
一方、第2の給電点fの位置は、アンテナ素子4の縁辺部28から給電点fまでの長さをBとし、アンテナ素子4の縁辺部28からY軸線Yの中心Oまでの距離をaとした場合、アンテナ素子4の縁辺部28からY軸線Yの中心Oまでの距離aの半分(a−B)の位置(つまりL/4)にした場合に最良の感度となる。
【0034】
上記した給電点の位置とアンテナインピーダンスZfeedとの関係式は、電磁気学やアンテナ工学などで知られる以下の数式(1)のとおりである。
feed=50|tan(A/L−1/2)π|・・・・・・・(1)
【0035】
上記した数式(1)は、横軸にアンテナの給電点の位置(アンテナの縁辺部からの距離)、縦軸にインピーダンスを取り、実測データをグラフ上にプロットし、プロットを結ぶ曲線グラフ(図示せず)から作成したものである。数式(1)を用いて、給電点を含む給電装置(図示せず)のインピーダンス(給電インピーダンス)の値を入力すると、給電点位置(A/L)が求められる。インピーダンスZfeed50オームで電磁結合したい場合には、A/L及びB/Lは約0.25となり、給電点f、fの配置構成は図2で示したようになる。
【0036】
インピーダンスZfeedを50オーム以外のインピーダンスで電磁結合したい場合には、上記した実測データに基づく曲線グラフから給電点の位置とアンテナインピーダンスZfeedとの関係式を求めた上でアンテナの給電点の位置を求めることができる。なお、インピーダンス(Zfeed)50オームを超えたインピーダンスで電磁結合したい場合には、給電点f、fをアンテナ素子4の縁辺部側により接近させればよい。給電点f、fをアンテナ素子4の縁辺上に設けた場合には理論上は無限に大きくなるが、損失などの影響から実際には200オーム程度となることが知られている。
【0037】
上記したように給電点の位置は、アンテナ素子4の中心O(中心点)から縁辺部までの間のいずれかに設けるが、電磁結合コイル17,19が接続される給電点f、fのインピーダンスが50オーム以下の場合は、中心点Oを除く中心点近傍から縁辺部までの半分の位置の間に設ける。給電点のインピーダンスが50オームのときは丁度半分の位置(L/4)に設ける。50オームを超えた場合には、縁辺部からアンテナ素子4の中心までの長さの半分の位置から縁辺部に向かって所定の距離だけ離れた位置に形成される。
給電点のインピーダンスがわからない場合は、計算設計ができないので、実験よって設けることが可能である。実験による給電点の位置は、アンテナ素子4の中心点から縁辺部までの間の位置を徐々にずらし、感度が最大になったところがインピーダンス整合が取れた位置として求めることが可能である。
【0038】
[ICタグ部]
図7に示すICタグ部6は、ICチップ30及びコイルアンテナ31を有する第1のICタグ5と、渦巻き状のループコイル17とを有して構成されている。コイルアンテナ31はICチップ30を取り囲むように形成されており、コイル両端が図示しない接続端子を介してICチップ30に電気的に接続されている。ループコイル17の一方の端部(コイル終端(EP))はパッチアンテナ3のアンテナパターンに設けられた給電点fにはんだ付けやレーザー溶着あるいはプリント基板積層等により電気的に接続されている。ループコイル17の他方の端部(コイル始端(SP))はプリント基板9に形成されたスルーホール20を介してグラウンド板11にはんだ付けやレーザー溶着あるいはプリント基板積層等により電気的に接続されている(図6,7参照)。ICタグ部6は、請求項1に記載された「第1のICタグ部」に対応し、スルーホール20は、請求項7に記載された「第1のスルーホール」に対応している。
【0039】
図9に示すICタグ部8は、ICチップ35及びコイルアンテナ37を有する第2のICタグ7と、渦巻き状のループコイル19とを有して構成されている。コイルアンテナ37はICチップ35を取り囲むように形成されており、コイル両端が図示しない接続端子を介してICチップ35に電気的に接続されている。ループコイル19の一方の端部(コイル終端(EP))はパッチアンテナ3のアンテナパターンに設けられた給電点fにはんだ付けやレーザー溶着あるいはプリント基板積層等により電気的に接続されている。ループコイル19の他方の端部(コイル始端(SP))はプリント基板9に形成されたスルーホール22を介してグラウンド板11にはんだ付けやレーザー溶着あるいはプリント基板積層等により電気的に接続されている(図8,9参照)。なお、ループコイル17、19の結合コイルパターンについては、具体的には使用する周波数で整合がとれて感度最良となる巻数(例えば、1回巻〜数回巻)で形成するのが好ましい。なお、ICタグ部8は、請求項1に記載された「第2のICタグ部」に対応し、スルーホール22は、請求項7に記載された「第2のスルーホール」に対応している。
【0040】
図10は、ICタグ部6とICタグ部8の正面図である。一例としては、日立化成株式会社製のIM5−PK2525型など2.5mm四方の小型寸法のICタグ部が好適である。
【0041】
ループコイル17は、コイルアンテナ31と対向する位置にICチップ30と所定間隔をおいて配置され、ICタグ5のコイルアンテナ31との相互電磁誘導結合でトランスのように2つのコイルが対向して電磁エネルギーの伝達を促す役割を有する。ループコイル19は、コイルアンテナ37と対向する位置にICチップ35と所定間隔をおいて配置され、ICタグ7のコイルアンテナ37との相互電磁誘導結合でトランスのように2つのコイルが対向して電磁エネルギーの伝達を促す役割を有する。なお、コイルアンテナ31、37は、請求項6、7に記載された「第1のアンテナ」に対応している。ループコイル17、19は、請求項6、7に記載された「第2のアンテナ」に対応している。
【0042】
ICチップ30は、ループコイル17の高周波電流からICチップ30が必要とする電力を作り出す機能の電源回路や送受信回路、メモリ、ロジック制御回路等を内蔵している。ICチップ35も上記同様にICチップ35が必要とする電力を作り出す機能を有する電源回路や送受信回路、メモリ、ロジック制御回路等を内蔵している。
【0043】
パッシブタグであるICタグ部6,8はバッテリーを内蔵していないが、それぞれループコイル17,19によって受信された電波から相互電磁誘導結合(トランス結合)による誘導起電力を得て、それぞれICチップ30,35の内部の集積回路で構成される電源回路が動作し、ICタグ全体が機能する。なお、これらの構成要素の構成や動作の詳細については当業者に容易に理解できるため省略する。
【0044】
ロジック制御回路はCPU(Central Processing Unit)により構成され、メモリはID(識別情報)等のデータを保存する。ここで、保存されるID等のタグ情報はICチップ30とICチップ35の2つで1つの偏波フリーICタグ1を構成する都合上、ICチップ30、35に共通の情報とするが、あえて異なる情報としてもよい。
【0045】
同一の情報とした場合のメリットとしては、あたかも一つのICタグとして機能させることができ、冗長性を持たせることができる点が挙げられる。異なる情報とした場合のメリットとしてはICチップの故障時にいずれのICチップが故障したか認識できるという点が挙げられる。
【0046】
メモリはデータを保存するROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等から構成される。偏波フリーICタグ1はリーダ/ライタ装置(図示せず)との間で前記データに基づいて通信を行うことができる。例えば、メモリは、ICタグが設置された例えば、貨物の固有情報または位置等の情報や通信記録その他を格納することができる。なお、これらの構成要素の構成や動作の詳細については当業者に容易に理解できるため省略する。
【0047】
[ICタグの動作]
以下に、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合において、上記した構成の偏波フリーICタグ1に対してリーダ/ライタ装置から円偏波が送信された場合の偏波フリーICタグの動作について説明する。リーダ/ライタ装置から例えば右旋回円偏波が放射されると、ループコイル17とコイルアンテナ31との電磁誘導により、電磁誘導結合されたICチップ30は最良の感度で機能することになる。また、リーダ/ライタ装置から例えば左旋回円偏波が放射された場合でも、ループコイル19とコイルアンテナ37との電磁誘導により、電磁誘導結合されたICチップ35は最良の感度で機能することになる。
【0048】
[効果]
従来のICタグでは、リーダ/ライタ装置のアンテナの偏波を円偏波とした場合に、ICタグのアンテナの偏波を直線偏波とすると、回転する偏波の概略半分がICタグの直線偏波と一致しない成分となって電波エネルギーの半分が無駄に使用され、ICタグのアンテナの偏波を円偏波とした場合であっても、2つの円偏波の偏波方向が一致していない場合に最低感度または最悪状態では応答しない場合をつくってしまう。
【0049】
本発明に関わる偏波フリーICタグによれば、左旋回円偏波用のアンテナと右旋回円偏波用のアンテナを有するので、例えばリーダ/ライタ装置のアンテナから放射される円偏波が右旋回円偏波であっても左旋回円偏波のいずれでであっても、とりうる最良の感度で通信を行うことができる。例えば、ICタグを取り付けた物流コンテナを海外に輸出する場合に、輸出先におけるリーダ/ライタ装置のアンテナの円偏波の偏波方向は未知である場合が多い。しかし、本実施の形態に係る偏波フリーICタグを物流コンテナに取り付ければ、輸出先におけるリーダ/ライタ装置のアンテナの円偏波がいかなる円偏波であってもICタグに格納された情報を容易に読み取ることができる。
【0050】
また、本発明に関わる偏波フリーICタグはバッテリーレスのパッシブICタグであるので電池交換の必要がない。
【0051】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。上述の実施の形態においては、RFID通信にて用いられるUHF帯の周波数として920MHzが挙げられている。しかしながら、RFID通信にて用いられるUHF帯の周波数としては、たとえば860MHzから960MHzの帯域であれば、どのような周波数であってもよい。また、RFID通信にて用いられる周波数としては、UHF帯の周波数には限られず、マイクロ波と呼ばれる2.45GHzを中心とする周波数であっても良く、433MHzを中心とする周波数であってもよく、その他の周波数であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…偏波フリーICタグ、3…パッチアンテナ、4…アンテナ素子(アンテナパターン)、5,7…ICタグ、6,8…ICタグ部、9…プリント基板(誘電体)、11…グラウンド板、17,19…電磁結合コイル(ループコイル)、20,22…スルーホール、27,28…縁辺部、30,35…ICチップ、31,37…コイルアンテナ
図1
図2
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図6
図7
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図10