(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6313960
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20180409BHJP
G01N 21/75 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
G01N35/00 F
G01N21/75 A
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-243453(P2013-243453)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102428(P2015-102428A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】横川 健
(72)【発明者】
【氏名】和久井 章人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 創
(72)【発明者】
【氏名】入江 隆史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
【審査官】
素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−151519(JP,A)
【文献】
特開2004−061452(JP,A)
【文献】
特開2012−107936(JP,A)
【文献】
特開平09−080055(JP,A)
【文献】
特開2012−215677(JP,A)
【文献】
特開2007−218749(JP,A)
【文献】
特開平10−332534(JP,A)
【文献】
米国特許第04451433(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 21/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルと試薬とが混合した反応液を収めたセルを円周上に保持し、回転と停止を繰り返すセルディスクと、
サンプルを前記セルに分注するサンプル分注機構と、
試薬を前記セルに分注する試薬分注機構と、
前記回転と停止を繰り返すセルディスクの周辺に配置された光源と、
前記光源から照射された光を、前記反応液を介して受光する受光部と、を備えた自動分析装置において、
前記光源は、前記セルディスクが回転して停止する間に、1つの前記セルに対し、所定の時間光を照射し続け、
さらに、前記所定の時間に含まれる第1の時間帯で、前記受光部で受光した光の出力を積算する第1回路と、
前記所定の時間に含まれる、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯で、前記受光部で受光した光の出力を積算する第2回路と、
前記第1回路と前記第2回路から得られた積算値を比較する解析部と、を備え、
前記解析部は、比較した結果から前記反応液の異常又は前記セルの異常を検出することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記解析部は、前記第2の時間帯で得られた前記第2回路の積算値に対し、前記第1時間帯と前記第2の時間帯との比を掛け算した値と、前記第1の時間帯で得られた前記第1回路の積算値とを比較する自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とは同じ時間幅であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記第1の時間帯は、前記第2の時間帯の2倍の時間幅であって、
前記解析部は、前記第1回路から得られた積算値と、前記第2回路から得られた積算値の2倍を比較し、
前記解析部は、比較した結果から前記反応液の内外の異常を検出することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記反応液の異常は、前記反応液の気泡異常又は前記反応液の混合不良であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記セルの異常は、前記セルの傷又は汚れのいずれかでることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記第1回路と前記第2回路は、2重積分型のアナログデジタル変換回路であることを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンプルに含まれる成分量を分析するサンプル分析装置、例えば血液や尿に含まれる成分量を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルに含まれる成分量を分析するサンプル分析装置として、光源からの光を、サンプルと試薬とが混合した反応液に照射し、その結果得られる単一又は複数の波長の透過光量を測定し吸光度を算出して、ランベルト・ベールの法則に従い、吸光度と濃度の関係から成分量を割り出す自動分析装置が広く用いられている(例えば特許文献1)。これらの装置においては、回転と停止を繰り返すセルディスクに、反応液を保持する多数のセルが円周状に並べられ、セルディスク回転中に、予め配置された透過光測定部により、約10分間、一定の時間間隔で吸光度の経時変化が測定される。
【0003】
反応液の反応には、基質と酵素との呈色反応と、抗原と抗体との凝集反応の大きく2種類の反応が用いられる。前者は生化学分析であり、検査項目としてLDH(乳酸脱水素酵素)、ALP(アルカリホスファターゼ)、AST(アスパラギン酸オキソグルタル酸アミノトンラフェナーゼ)などがある。後者は免疫分析であり、検査項目としてCRP(C反応性蛋白)、IgG(免疫グロブリン)、RF(リウマトイド因子)などがある。後者の免疫分析で測定される測定物質は血中濃度が低く高感度が要求される。これまでも、ラテックス粒子の表面に抗体を感作(結合)させた試薬を用い、サンプル中に含まれる成分を認識し凝集させる際に、反応液に光を照射し、ラテックス凝集塊に散乱されずに透過した光量を測定することでサンプル中に含まれる成分量を定量するラテックス免疫凝集法での高感度化が図られてきた。さらに装置としては、透過光量を測定するのではなく、散乱光量を測定することによる高感度化も試みられている。
【0004】
上記の透過光や散乱光を測定する際に、反応液中の気泡などの異物を検出することは測定結果の信頼性を保証する上で非常に重要な技術である。気泡検出に関する特許文献を特許文献2に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4451433号明細書
【特許文献2】特開2012−141246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反応液の光路中に気泡やゴミ、フィブリン等の異物がある場合、透過光量や散乱光量に異常値が生じる。また、反応液の撹拌が不十分な場合も同様に、透過光量や散乱光量に異常値が生じる。特許文献1では、異物がない場合の測定波形との乖離がないことを波形解析により、異物の有無を検出している。しかし、この方式では波形解析を行うために、測定データを一度正規化した後に各値の乖離をチェックするといった複雑な演算処理をすることが必要となる。さらに、逐次データを取り込むため、ノイズなどの外乱に影響されやすいことも課題として挙げられる。このような異常値を精度良くなおかつ簡易的な方法により検出し、測定結果の信頼性を向上することが本発明の解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動分析装置は、サンプルと試薬とが混合した反応液を収めたセルを円周上に保持し、回転と停止を繰り返すセルディスクと、サンプルを前記セルに分注するサンプル分注機構と、試薬を前記セルに分注する試薬分注機構と、光源と、前記光源から照射された光を、前記反応液を介して受光する受光部と、を備えた自動分析装置において、前記光源は、前記セルディスクが回転して停止する間に、1つの前記セルに対し、所定の時間光を照射し続け、さらに、前記所定の時間に含まれる第1の時間帯で、前記受光部で受光した光の出力を積算する第1回路と、前記所定の時間に含まれる、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯で、前記受光部で受光した光の出力を積算する第2回路と、前記第1回路と前記第2回路から得られた積算値を比較する解析部と、を備え、前記解析部は、比較した結果から前記反応液の異常又は前記セルの異常を検出する自動分析装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応液中の異物や反応液の混合の不十分な状態を簡易的な方法で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明による自動分析装置の全体構成例を示す概略図である。
【
図2】本発明によるブロック回路図の1例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例に係わる自動分析装置における透過光測定を行った際の透過光強度の模式図である。
【
図4】本発明の実施例に係わる自動分析装置における散乱光測定を行った際の散乱光強度の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による自動分析装置の例について説明する。
図1は、本発明による自動分析装置の全体構成例を示す概略図である。この自動分析装置は、高感度化のための散乱光測定部を搭載している。自動分析装置は主にサンプルディスク3、試薬ディスク6、セルディスク9の3種類のディスクと、これらのディスク間でサンプルや試薬を移動させる分注機構、これらを制御する制御部、測定部、測定したデータを解析処理する解析部、制御データ、測定データ、解析データを格納するデータ格納部、データ格納部からデータを入出力する入力部、出力部からなる。
【0011】
サンプルディスク3には、サンプル1を収めたサンプルカップ2を円周上に複数配置する。試薬ディスク6には、試薬4を収めた試薬ボトル5を複数配置する。
【0012】
セルディスク9には、内部でサンプル1と試薬4とを混合させ反応液7とするセル8を円周上に複数配置する。セルディスク9は、分析中に回転と停止を繰り返す。
【0013】
サンプル分注機構10は、サンプルカップ2からセル8にサンプル1を分注して一定量移動させる。
【0014】
試薬分注機構11は、試薬ボトル5からセル8に試薬4を分注して一定量移動させる。
【0015】
攪拌部12は、セル8内で、サンプル1と試薬4を攪拌し混合させる。洗浄部14は、分析の終了したセル8から反応液7を排出し洗浄する。洗浄されたセル8には再びサンプル分注機構10から次のサンプル1が分注され、試薬分注機構11から新しい試薬4が分注され、別の反応に使用される。
【0016】
セル8は、温度・流量が制御された恒温槽内の恒温流体15に浸漬されており、セル8及びその中の反応液7が一定温度に保たれた状態で移動される。恒温流体17には水を用い、恒温流体の温度と流量を制御する恒温流体制御部にて制御する。温度は反応温度である37±0.1℃に温調する。
【0017】
セルディスク円周上の一部に透過光測定部13及び散乱光測定部16を備え付ける。透過光測定部13及び散乱光測定部16は、夫々、光源と受光部101を含み、受光部101は、光源から照射された光を、反応液7を介して受光する。
【0018】
受光部101で得られた透過光又は散乱光の光量を、公知の手段により解析し、サンプル中の成分濃度を求め、出力部より出力する。
【0019】
なお、
図1では、透過光測定部13と散乱光測定部16の両方が搭載されている場合を示しているが、本発明では、いずれの測定部でも採用でき、いずれかの測定部がある装置において適用可能である。
【0020】
図2は本発明の実施例に係わる自動分析装置における透過光又は散乱光強度測定のブロック回路図である。ブロック回路図は、受光部101、Logアンプ102、ADC1(103)(アナログデジタル変換回路1)、ADC2(104)(アナログデジタル変換回路2)、メモリ105(データ格納部)、CPU106(解析部)から構成される。受光部101にて透過光又は散乱光を電圧に変換して、Logアンプ102により増幅し、2重積分型のADC1(103)、ADC2(104)によりアナログ値をデジタル値に変換し、メモリ105に一時保存されたデータをCPU106(解析部)にて演算する。
【0021】
図2ではブロック回路図の1例を示しており、2重積分型のADCとして説明したが、入力値を積算する回路であれば、本発明は2重積分型のADCに限られるのもではない。また、一度メモリ105に保存することを示したが、メモリ105に保存しなくとも、2つの上記回路の出力を比較できるのであれば、本発明はこれに限るものではない。つまり、最低限、光の出力を積算する2つの回路と、夫々の回路から得られた積算値を比較するCPU(解析部)があれば、本発明を実現することができる。
【0022】
図3は本発明の実施例に係わる自動分析装置における透過光測定を行った際の透過光強度の模式図である。横軸が時間、縦軸が透過光強度を示している。
【0023】
この図では、セルディスク9が回転して停止する間に、1つのセル8に対し、所定の時間光を照射し続けている場合を示している。ここで所定の時間とはt
1以下のある時間からt
3以上のある時間までの時間をいう。
【0024】
透過光測定部13により測光される光強度推移201に示されるように、反応液7の中に気泡202が入っている状態だと、測光範囲203で気泡202によって吸光されるため、光強度が低くなる。そこで測光範囲203を2分割して、時間t
1からt
2までの光度を積分した積分値I
1204と時間t
2からt
3までの光度を積分した積分値I
2205の値の差分を演算する。
【0025】
ブロック回路図で説明すると、入力値を積算する回路(ADC1)は、所定の時間に含まれる、時間t
1からt
2までの時間帯で、受光部101で受光した光の出力を積算し、入力値を積算する回路(ADC2)は、所定の時間に含まれる、時間t
2からt
3までの時間帯で、受光部101で受光した光の出力を積算する。そして、CPU(解析部)は、これらの積算値を比較して、差分を演算する。なお、上記では、積算する範囲が重複しない場合を例としたが、重複しても構わない。
【0026】
また、上記では、時間t
1からt
2までの時間帯と時間t
2からt
3までの時間帯とが、同じ時間幅の場合を示している。この場合には、単純に積算値同士を比較することができるので、簡単な比較解析ができる。なお、t
1からt
3までの間に反応液の反応が進行するが、この時間は反応速度よりも遥かに短い時間であるため、この影響は無視できる。
【0027】
図4は本発明の実施例に係わる自動分析装置における散乱光測定を行った際の散乱光強度の模式図であり、上記と同様の演算を行う。
【0028】
演算の結果一定値以上の差分が生じた場合は、CPU(解析部)は、反応液の異常として検出し、反応液7に気泡が混入した状態で測光していると判断しアラームを発生させ、その測定データをアラーム付きのデータとして処理する。アラーム付きの測定データをもとに再検査の依頼をオペレータに促すことで、測定データの信頼性を向上させることが可能となる。
【0029】
本発明では、測光範囲の積分値の比較を行うことで気泡検出機能を実現しているため、測定データを一度正規化した後に値の乖離を判断するといった処理をすることがなく、簡易的な処理により同様の気泡検出機能を実現することが可能となる。また、気泡が測光データに与える変動量はノイズよりも大きいため、外乱に対するロバスト性も強いことがこの方法のメリットとして挙げられる。
【0030】
今回の実施例では、積分値I
1204と積分値I
2205の差分を演算することで気泡の検出を行っているが、気泡検出の方法はこの限りではない。図示していないが、例えば
図3において、時間t
1からt
3までの積分値を2分した値と積分値I
1204や積分値I
2205を比較することで、一定以上の差分が生じた場合は気泡があると判断することが可能である。言い換えれば、入力値を積算する回路(ADC1)で積算する受光時間を、入力値を積算する回路(ADC2)で積算する受光時間の2倍とし、回路(ADC1)の積算値と、回路(ADC2)の積算値の2倍とを比較して判断することが可能である。また、2分した場合に限らず、積算する時間帯を1:aとした場合には、積算値を1:1/aの割合で規格化した値同士を比較すればよい。つまり、一方の受光時間を基準として、他方の受光時間で得られた積算値に対し受光時間の比(一方の受光時間/他方の受光時間)を掛け算して規格化した値と、基準となる一方の受光時間から得られた積算値とを解析部で比較すればよい。又は、互いの積算値から単位時間当たりの光強度を求め、これらを解析部で比較してもよい。
【0031】
また、測光範囲を2分割して演算処理を行っているが、それ以上の数で分割をして、積分値の比較を行うことで気泡の検出を行うことも可能である。
【0032】
さらに、気泡の検出に限らず、反応液7の混合が不十分な場合も積分値に差分が生じるため、反応液の混合の良否や、セルについた傷や汚れ、恒温流体内の異物の検出も可能である。
【0033】
以上、本発明を説明した。本発明によれば、反応液中の異物や反応液の混合の不十分な状態を簡易的な方法で検出することが可能となる。また、同じ反応液の光測定を時間分割して行い、これらを比較することで、より正確な異常測定が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1…サンプル
2…サンプルカップ
3…サンプルディスク
4…試薬
5…試薬ボトル
6…試薬ディスク
7…反応液
8…セル
9…セルディスク
10…サンプル分注機構
11…試薬分注機構
12…攪拌部
13…透過光測定部
14…洗浄部
15…恒温流体
16…散乱光測定部
101…受光部
102…Logアンプ
103…ADC1
104…ADC2
105…メモリ
106…CPU
201…光強度推移
202…気泡
203…測光範囲
204…積分値I
1
205…積分値I
2