(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン棒の評価技術ないし製造技術に関し、より詳細には、FZシリコン単結晶育成用原料として好適な多結晶シリコン棒を評価ないし製造する技術に関する。
【0002】
半導体デバイス等の製造に不可欠な単結晶シリコンは、CZ法やFZ法により結晶育成され、その際の原料として多結晶シリコン棒や多結晶シリコン塊が用いられる。このような多結晶シリコン材料は、多くの場合、シーメンス法により製造される(特許文献1等参照)。シーメンス法とは、トリクロロシランやモノシラン等のシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により気相成長(析出)させる方法である。
【0003】
例えば、CZ法で単結晶シリコンを結晶育成する際には、石英ルツボ内に多結晶シリコン塊をチャージし、これを加熱溶融させたシリコン融液に種結晶を浸漬して転位線を消滅(無転位化)させた後に、所定の直径となるまで徐々に径拡大させて結晶の引上げが行われる。このとき、シリコン融液中に未溶融の多結晶シリコンが残存していると、この未溶融多結晶片が対流により固液界面近傍を漂い、転位発生を誘発して結晶線を消失させてしまう原因となる。
【0004】
また、特許文献2には、多結晶シリコンロッド(多結晶シリコン棒)をシーメンス法で製造する工程中に該ロッド中で針状結晶が析出することがあり、かかる多結晶シリコン棒を用いてFZ法による単結晶シリコン育成を行うと、上述の不均質な微細構造によって個々の晶子がその大きさに相応して均一には溶融せず、不溶融の晶子が固体粒子として溶融帯域をとおって単結晶ロッドへと通り抜けて未溶融粒子として単結晶の凝固面に組み込まれ、これにより欠陥形成が引き起こされるという問題が指摘されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、多結晶シリコン棒中の結晶粒は必ずしもランダム配向しておらず、結晶配向度(ランダム配向性)は多結晶シリコン析出時の諸条件に依存し、結晶配向度が比較的高い(ランダム配向性が比較的低い)多結晶シリコン棒乃至多結晶シリコン塊を単結晶シリコンの製造用原料として用いると、部分的な溶融残りが局部的に生じることがあり、これが転位発生を誘発して結晶線消失の原因ともなり得るとの知見に基づき、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを高い定量性と再現性で選別するための手法が開示されている。
【0006】
特許文献3が開示する方法は、具体的には、多結晶シリコンを板状試料とし、ミラー指数面<hkl>からのブラッグ反射が検出される位置に板状試料を配置し、スリットにより定められるX線照射領域が板状試料の主面上をφスキャンするように板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、ミラー指数面<111>又は<220>からのブラッグ反射強度の板状試料の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、このチャートに現れるピーク(S/N比が3以上のもの)の本数で、多結晶シリコンの結晶配向度を評価するというものである。
【0007】
そして、特許文献3には、上記φスキャン・チャートに現れるピークの本数が、ミラー指数面<111>および<220>の何れについても、板状試料の単位面積当たりの換算で24本/cm
2以下であると、斯かる多結晶シリコン棒を原料として単結晶シリコンを製造すると、転位発生の誘発に起因する結晶線消失を生じる場合がないとの実施例が報告されている。
【0008】
しかし、近年の単結晶シリコンインゴットの大口径化に伴い、その製造原料である多結晶シリコン棒の直径も大きくなり、概ね130mm以上の直径であることが求められるようになってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3は本発明者らによる報告であるが、本発明者らが更に検討を進めたところ、このような多結晶シリコン棒の大口径化に伴い、例えば、直径が150mmの多結晶シリコン棒について評価すると、ミラー指数面(111)の上記ピーク本数が24本/cm
2以下であっても単結晶シリコン製造時に結晶線消失が生じる場合があることが分かってきた。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、直径130mm以上の多結晶シリコン棒の結晶配向性を評価する新たな手法を提起し、その手法により、単結晶シリコン製造用原料として好適な大口径の多結晶シリコン棒を選別することにより、単結晶シリコンの安定的製造に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の態様の多結晶シリコン棒は、化学気相法による析出で育成された半径Rが65mm以上の多結晶シリコン棒であって、下記の手順でX線回折法により評価した面積比S
p/S
tが2%以下である、多結晶シリコン棒。
(1a)前記多結晶シリコン棒の中心(r=0)からR/3までの領域から、該多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取する。
(1b)前記板状試料を、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射が検出される位置に配置する。
(1c)スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように前記板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートを求める。
(1d)該回折チャートに現れたピーク部の面積S
pと、前記回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を算出する。
【0013】
また、本発明に係る第2の態様の多結晶シリコン棒は、化学気相法による析出で育成された半径Rが65mm以上の多結晶シリコン棒であって、下記の手順でX線回折法により評価した面積比S
p/S
tの平均値が0.5%以下である、多結晶シリコン棒。
(2a)前記多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域、r=R/3からr=R/2までの第2の領域、r=R/2からr=Rまでの第3の領域の各領域から、前記多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を少なくとも1枚採取する。
(2b)前記板状試料を、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射が検出される位置に配置する。
(2c)スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように前記板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートを求める。
(2d)該回折チャートに現れたピーク部の面積S
pと、前記回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を算出する。
(2e)前記複数の板状試料についての前記面積比S
p/S
tの平均値を算出する。
【0014】
好ましくは、前記ピーク部はS/N比が3以上のものとして定義されている。
【0015】
本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、化学気相法により半径Rが65mm以上の多結晶シリコン棒を製造する方法であって、前記多結晶シリコン棒の析出工程において、析出開始時の供給ガス量を100とし、前記多結晶シリコン棒の中心をr=0としたときに、r=R/3からr=R/2までの第2の領域では前記供給ガス量を2%以上減少させ、さらに、r=R/2からr=Rまでの第3の領域では前記供給ガス量を5%以上減少させるように条件設定して育成することを特徴とする。
【0016】
例えば、前記r=R/3からr=R/2までの第2の領域では前記供給ガス量2〜5%減少させ、さらに、前記r=R/2からr=Rまでの第3の領域では前記供給ガス量5〜8%減少させるように条件設定する。
【0017】
本発明に係るFZシリコン単結晶は、上述の多結晶シリコン棒を原料として育成されたFZシリコン単結晶である。
【発明の効果】
【0018】
上述の手順により求められる面積比S
p/S
tは結晶配向度の指標となる。従って、この面積比S
p/S
tを判定基準として用いて多結晶シリコン棒を評価すれば、シリコン単結晶、特にFZシリコン単結晶の育成用原料として好適な多結晶シリコン棒を選択することができ、部分的な溶融残りの局部的な発生が抑制され、残留応力も軽減される。これにより、単結晶シリコンの安定的な製造に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明者らは、直径130mm以上の大口径のFZ単結晶シリコンの製造を安定的に行うことを目的とした多結晶シリコン棒の結晶品質向上につき検討を進める中で、多結晶シリコン析出時の諸条件により、多結晶シリコン棒中の結晶配向度に差異が生じるという知見を得るに至った。特許文献3にも記載されているように、単結晶シリコンとは異なり、多結晶シリコンのブロックは多くの結晶粒を含んでいるが、これら多くの結晶粒はそれぞれがランダムに配向しているものと考えられがちである。しかし、本発明者らが検討したところによれば、多結晶シリコンブロックに含まれる結晶粒は、必ずしも完全にはランダム配向しているわけではない。
【0022】
そして、上述したように、例えば直径が150mmの多結晶シリコン棒の場合、ミラー指数面(111)のピーク本数が24本/cm
2以下であっても単結晶シリコン製造時に結晶線消失が生じる場合があることからも分かるように、大口径の多結晶シリコン棒になるほど、結晶配向度についてのより精度の高い評価が求められる。
【0023】
本発明者らが、直径150〜200mmの多結晶シリコン棒をFZシリコン単結晶化用原料として用いた実験によれば、帯域熔融プロセス中の晶癖線消失の有無と、多結晶シリコン棒の結晶配向性との間に関係が認められた。
【0024】
特許文献3に開示の方法では、φスキャン・チャートに現れるピークの本数を結晶配向性に指標として採用しているが、本発明ではこれに変え、回折チャートに現れたピーク部の面積S
pと、回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を結晶配向性の指標として用いることで、より精度の高い結晶配向度評価を可能としている。
【0025】
具体的には、化学気相法による析出で育成された半径Rが65mm以上(すなわち、直径が130mm以上)の多結晶シリコン棒を対象とし、下記の手順でX線回折法により評価した面積比S
p/S
tが2%以下である多結晶シリコン棒を、単結晶シリコン製造用の原料として選択する。
(1a)前記多結晶シリコン棒の中心(r=0)からR/3までの領域から、該多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取する。
(1b)前記板状試料を、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射が検出される位置に配置する。
(1c)スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように前記板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートを求める。
(1d)該回折チャートに現れたピーク部の面積S
pと、前記回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を算出する。
【0026】
より精度の高い評価のためには、下記の手順でX線回折法により評価した面積比S
p/S
tの平均値が0.5%以下である多結晶シリコン棒を、単結晶シリコン製造用の原料として選択する。
(2a)前記多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域、r=R/3からr=R/2までの第2の領域、r=R/2からr=Rまでの第3の領域の各領域から、前記多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を少なくとも1枚採取する。
(2b)前記板状試料を、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射が検出される位置に配置する。
(2c)スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように前記板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートを求める。
(2d)該回折チャートに現れたピーク部の面積S
pと、前記回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を算出する。
(2e)前記複数の板状試料についての前記面積比S
p/S
tの平均値を算出する。
【0027】
本発明者らの検討によれば、上記面積比(S
p/S
t)は、板状試料を採取した部位(多結晶シリコン棒の中心からの距離)依存性を示す。直径が130mm以上の多結晶シリコン棒の一般的な傾向として、中心部(シリコン芯線)直近で最も高い値を示し、表面側ほど減少する。また、FZ単結晶化原料として用いた際、FZプロセス中に晶癖線が消失した際に原料として用いた多結晶シリコン棒の上記面積比(S
p/S
t)は、相対的に高いことが確認された。
【0028】
このような検討結果に基づき、本発明では、面積比S
p/S
tが2%以下、もしくは、面積比S
p/S
tの平均値が0.5%以下である多結晶シリコン棒を、単結晶シリコン製造用の原料として選択することとした。
【0029】
なお、上述のピーク部は、S/N比が3以上のものとして定義することが好ましい。
【0030】
ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートに現れたピーク部の面積S
p(具体的には、面積比S
p/S
t)が結晶配向性の指標となる理由を、本発明者らは下記のように考えている。
【0031】
シーメンス法のような化学気相法は、高温赤熱したシリコン芯線の表面に水素ガスとトリクロロシランガスを供給し、CVD反応により多結晶を析出させ、径拡大させて行く方法である。
【0032】
その析出プロセスにおいて、小径の段階では中心部と表面の温度差(ΔT)は概ね無視できる程度のものである。しかし、径が拡大するにつれて、ΔTは徐々に大きくなる。高温赤熱状態を作り出すために、シリコン芯線への印加電圧と供給電流を制御しながら多結晶シリコン棒の表面温度制御が行われるが、大口径となると、中心部に流れる電流量(I
c)と表面領域に流れる電流量(I
s)の差(ΔI=I
c−I
s>0)が大きくなる。
【0033】
これは、多結晶シリコン棒の表面は常に、水素ガス流とトリクロロシランガス流により除熱される状態にあることによる。このことは、析出プロセス中の多結晶シリコン棒の表面温度を一定に維持しようとすれば、径拡大に伴い、徐々に表面領域に流れる電流量(I
s)を上げる必要があることを意味しており、I
c>I
sの関係にある中心部に流れる電流量(I
c)は高くならざるを得ない。
【0034】
本発明者らの検討によれば、多結晶シリコン棒の大口径化に伴い、CVDプロセス中に、既に結晶化していた領域が部分的に融解し、その後に再結晶化するという現象が顕著になる。このような再結晶化が起こると、最終的に得られる多結晶シリコン棒の結晶配向度は比較的高く(ランダム配向性が比較的低く)なる。上記再結晶化は、直径2R=130mm以上の多結晶シリコン棒で特に顕著であり、多結晶シリコン棒の中心(r=0)からR/3までの領域において、上述の過剰電流による部分的融解と再結晶化が生じやすく、当該領域の結晶配向度が高くなる傾向が認められる。
【0035】
そこで、本発明では、化学気相法による析出で育成された半径Rが65mm以上(直径が130mm以上)の多結晶シリコン棒の中心(r=0)からR/3までの領域から、該多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取し、その結晶配向度をX線回折法により評価することにしている。上述のとおり、この結晶配向度の指標として、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射強度の板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートに現れたピーク部の面積S
p(具体的には、面積比S
p/S
t)を用いる。
【0036】
本発明者らは、板状試料の回転角度依存性を示す回折チャートにおいてミラー指数面(111)に対応する位置に回折ピークが認められる多結晶シリコン棒は、これをFZシリコン単結晶の製造原料として用いた場合に、晶癖線の消滅が生じやすいことを確認した。これは、結晶配向度が比較的高い多結晶シリコン棒は、帯域熔融プロセス中に部分的に熔融しない熔け残り部分となり易く、固体−液体界面の平衡状態が乱れてしまうことによると考えられる。
【0037】
図1A及び
図1Bは、シーメンス法などの化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒10からの、X線回折プロファイル測定用の板状試料20の採取例について説明するための図である。図中、符号1で示したものは、表面に多結晶シリコンを析出させてシリコン棒とするためのシリコン芯線である。なお、この例では、多結晶シリコン棒の結晶配向度の径方向依存性の有無を確認すべく3つの領域(領域A:多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域、領域B:r=R/3からr=R/2までの第2の領域、領域C:r=R/2からr=Rまでの第3の領域)から板状試料20を採取している。
【0038】
図1Aで例示した多結晶シリコン棒10の直径は概ね150mmであり、この多結晶シリコン棒10の側面側から、直径が概ね20mmで長さが概ね75mmのロッド11を、シリコン芯線1の長手方向と垂直にくり抜く。
【0039】
そして、
図1Bに図示したように、このロッド11のシリコン芯線1に近い部位(領域A)、多結晶シリコン棒のr=R/3からr=R/2までの領域(領域B)、多結晶シリコン棒10の側面に近い部位(領域C)、からそれぞれ、多結晶シリコン棒10の径方向に垂直な断面を主面とする厚みが概ね2mmの板状試料(20
A、20
B、20
C)を採取する。
【0040】
なお、ロッド11を採取する部位、長さ、および本数は、シリコン棒10の直径やくり抜くロッド11の直径に応じて適宜定めればよく、板状試料20もくり抜いたロッド11のどの部位から採取してもよいが、シリコン棒10全体の性状を合理的に推定可能な位置であることが好ましい。本発明では、少なくとも、多結晶シリコン棒の中心(r=0)からR/3までの領域から板状試料を採取する。
【0041】
また、上記の例では、3つの領域(領域A:多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域、領域B:r=R/3からr=R/2までの第2の領域、領域C:r=R/2からr=Rまでの第3の領域)から各1枚の板状試料20を採取しているが、複数枚の板状試料20を採取するようにすれば、より精度の高い結晶配向度の評価が可能となる。なお、上述したように、本発明では、少なくとも、上記領域A(多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域)からは必ず板状試料を採取する。
【0042】
さらに、円板状試料20の直径を概ね20mmとしたのも例示に過ぎず、直径はX線回折測定時に支障がない範囲で適当に定めればよい。
【0043】
図2は、板状試料20からのX線回折プロファイルを、いわゆるθ-2θ法で求める際の測定系例の概略を説明するための図である。スリット30から射出されてコリメートされたX線ビーム40(Cu−Kα線:波長1.54Å)は板状試料20に入射し、板状試料20をXY平面内で回転させながら、試料回転角度(θ)毎の回折X線ビームの強度を検知器(不図示)で検出して、θ-2θのX線回折チャートを得る。
【0044】
図3は、上記で得られたθ-2θのX線回折チャートの例で、ミラー指数面<111>、<220>、<311>、<400>からの強いブラッグ反射がそれぞれ、2θ=28.40°、47.24°、55.98°、68.98°の位置にピークとなって現れる。
【0045】
図4は、板状試料20からのX線回折プロファイルを、いわゆるφスキャン法で求める際の測定系の概略を説明するための図である。例えば、板状試料20の上記θを、ミラー指数面(111)からのブラッグ反射が検出される角度とし、この状態で、板状試料20の中心から周端に渡る領域にスリットにより定められる細い矩形の領域にX線を照射させ、このX線照射領域が板状試料20の全面をスキャンするように板状試料20の中心を回転中心としてYZ面内で回転(φ=0°〜360°)させる。
【0046】
図5A〜Cは、FZシリコン単結晶の製造原料として用いた場合に晶癖線の消滅が生じた多結晶シリコン棒から採取した板状試料から得たφスキャンの回折チャートであり、
図5Aに示した試料Aは領域A(多結晶シリコン棒の略中心r≒0)から、
図5Bに示した試料Bは領域B(r≒R/2)から、
図5Cに示した試料Cは領域C(r≒R)から採取したものである。この回折チャートから、それぞれの板状試料につき、(111)回折ピーク部の面積S
pと、回折チャートの全面積S
tの比(S
p/S
t)を算出する。
【0047】
その結果、試料AはS
p/S
t=11.2%、試料BはS
p/S
t=1%、試料CはS
p/S
t=0%であり、多結晶シリコン棒の中心近傍領域から採取した試料ほどS
p/S
t比が大きく、表面近傍領域から採取した試料ほどS
p/S
t比が小さくなっている。
【0048】
図6は、上述のFZ歩留り(%)と(111)回折ピーク部の面積比(S
p/S
t)の関係につき、40本の多結晶シリコン棒を用いて得られたデータを纏めた図である。具体的には、これらの多結晶シリコン棒をFZシリコン単結晶の製造原料として用い、FZシリコン単結晶化の歩留まり(晶癖線の消失が認められなかった領域長の全体長比率:%)と上述の面積比(S
p/S
t)との相関関係を調べている。この結果を統計的に処理すると、相関係数r0は0.862となる。統計学的に相関係数の有意性の検定を行うと、
r=0.862
※※>>r0(38,0.01)=0.402
となり、危険率1%の判定条件により、「高度に有意な相関関係が認められる。」と判定される。危険率5%の場合は、r0(38,0.05)=0.314となる。判定の基準値r0は、自由度と危険率で定まる値であり、自由度は、データ数−2であり、この場合は、40−2=38となる。
【0049】
この図に示された結果から、FZシリコン単結晶の製造原料として用いた場合の晶癖線の消滅の度合いは上記S
p/S
t比が大きいほど高い(ミラー指数面(111)からのピーク面積比が高い)ことが明瞭に読み取れる。
【0050】
なお、上記S
p/S
t比の算出に際しては、ミラー指数面(111)からのピーク強度の算出(面積算出)が必要となる。そこで、先ず、回折チャート中に現れた全回折強度の平均値I
aを算出し、チャートのベースラインI
bをチャート上から読み取り、(I
a−I
b)/
Ia×100の値を採用した。
つまり、回折チャートに現れたピーク部の面積Spは回折強度の平均値Iaにスキャン角度幅を掛けて得られた数値であり、回折チャートの全面積Stは回折強度からベースライン強度を引いた数値をスキャン角度幅の領域で積分して得られた数値である。
【0051】
本発明者らは、上述の手法により多結晶シリコン棒の結晶配向度の評価結果を蓄積し、上記の(111)回折ピークを生じさせない多結晶シリコン棒の育成条件についての検討を進めた。
【0052】
上記(111)回折ピークを生じさせないためには、多結晶シリコン棒の中心近傍領域に流れる電流を制限する一方、外側表面の温度をCVDプロセス中で一定に制御することが肝要である。
【0053】
そのため、本発明者らは、ガス流による表面からの除熱量を少なくすることが重要と考え、供給ガス中のトリクロロシランの濃度を変えずに、供給ガス総量(水素ガス量とトリクロロシランガス量の合計)を従来よりも低く設定することとした。
【0054】
このような原料ガス供給を行えば、供給されるトリクロロシランの量は少なくなるから、その分だけ成長速度は低下する。しかし、本発明者らが実験を繰り返したところ、(111)回折ピークを生じさせないことで、これを原料として用いた場合のFZシリコン単結晶化の歩留まりが飛躍的に向上するため、シリコン単結晶の生産性そのものは低下しないことが分かった。
【実施例】
【0055】
異なる析出条件下で育成された、直径約140mmの多結晶シリコン棒を6本(A〜F)準備した。これらの多結晶シリコン棒のそれぞれにつき、
図1Aおよび1Bで示した3つの部位から、厚みが概ね2mmの板状試料(20
A、20
B、20
C)を採取し、
図4に示した測定系で、ミラー指数面(111)のφスキャン・チャートを得た。なお、板状試料20の直径は約20mmである。
【0056】
多結晶シリコン棒A〜Cは、析出開始時の供給ガス量を100としたときに、多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域での供給ガス量は100のまま維持し、r=R/3からr=R/2までの第2の領域では2〜5%減少させ、さらに、r=R/2からr=Rまでの第3の領域では5〜8%減少させるように条件設定して育成した。
【0057】
これに対し、多結晶シリコン棒D〜Fは、析出開始時の供給ガス量を100としたときに、多結晶シリコン棒の中心(r=0)からr=R/3までの第1の領域での供給ガス量は100のまま維持し、r=R/3からr=R/2までの第2の領域では0.2〜1%減少させ、さらに、r=R/2からr=Rまでの第3の領域では0.5〜3%減少させるように条件設定して育成した。
【0058】
表1に、上記板状試料を用いて測定した、第1の領域から採取した試料の(111)回折ピーク面積比(%)、第1〜3領域から採取した試料の(111)回折ピーク面積比の平均(%)、供給ガス量の減少率(%)、多結晶シリコン中の残留応力の有無、そして、これらの多結晶シリコン棒を原料として用いた場合のFZシリコン単結晶化の歩留まり(晶癖線の消失が認められなかった領域長の全体長比率:%)を纏めた。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示されているように、晶癖線消失が認められなかった多結晶シリコン棒(A〜C)は、多結晶シリコン棒(D〜F)に比較して、(111)回折ピーク面積比が小さい。また、多結晶シリコン棒(A〜C)では、圧縮応力は認められるものの引張応力は認められていないのに対し、多結晶シリコン棒(D〜F)では、圧縮応力と引張応力の双方が認められている。
【0061】
この結果によれば、多結晶シリコン棒の析出工程において、析出開始時の供給ガス量を100としたときに、r=R/3からr=R/2までの第2の領域では2%以上減少させ、さらに、r=R/2からr=Rまでの第3の領域では5%以上減少させるように条件設定して育成することが好ましい。例えば、析出開始時の供給ガス量を100としたときに、r=R/3からr=R/2までの第2の領域では2〜5%減少させ、さらに、r=R/2からr=Rまでの第3の領域では5〜8%減少させるように条件設定して育成する。