【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、上述したEBSDを用いた、試料の各位置における結晶方位の定量的解析においては、試料の各位置における結晶方位の方向を測定するにあたり、当該試料(例えば、金属板試料10)の被測定面へ、x軸、y軸、z軸の直交する3軸方向の座標軸(本発明において「直交座標」と記載する場合がある。)を付与して位置を規定し、当該規定された位置における結晶方位のオイラー角の値の測定を行っている。
勿論、試料が、金属板試料10のように角型形状をした金属板や、一軸方向に伸線しているワイヤー等の場合は、当該直交座標により結晶方位の測定を行うことに何ら問題はない。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によると、試料における結晶の成長状態によっては、上述した直交座標による方位測定では、当該試料の結晶方位解析において課題があることを知見した。
【0010】
例えば、試料における結晶の成長状態が、当該試料の中心部から外側に向けて放射状に成長したものである場合、当該試料における結晶方位解析において、直交座標による結晶方位測定では課題があることについて、
図1を参照しながら説明する。
図1は、SEM内に設置され電子線を照射されている、結晶が中心部から外側に向けて放射状に成長し、半球形状を有する放射状成長試料20(本発明において、「放射状試料20」と記載する場合がある。)を示す模式図である。
【0011】
放射状試料20は、被測定面を得る為の切断前においては、球状をとる結晶試料で、中心部から外側に向けて放射状に成長した結晶試料である。従って、当該放射状試料20の結晶方位測定を行う場合、前記球状の結晶を切断し、円形の切断面30を被測定面として露出させ、被測定試料を調製したものである。
当該試料の切断面30を見ると、中心部31から外側に向けて放射状に成長し配向している結晶が存在している。当該配向の状態を矢印「→」22により模式的に表現する。尚、放射状試料20の結晶成長は理想的に進行し、中心部から外部向けて完全に放射状に成長したものと仮定している。
【0012】
上述した
図3に示す金属板試料10と同様に、
図1に示す放射状試料20も切断面30が、SEM内で高傾斜して設置されている。尚、
図1に示す放射状試料20においても、説明の便宜上、結晶方位の測定位置21として、7×7=49個の部分を仮定している。
放射状試料20の被測定面へ電子線50を照射すると、電子線照射点23において後方散乱して菊池パターン52を形成する。形成された菊池パターン52を高感度カメラで撮影し、当該菊池パターン52をコンピュータ(図示していない)にて画像処理し、放射状試料20における各結晶方位の測定位置21における結晶方位22を測定することが出来る。
【0013】
上述した
図1に示す放射状試料20の切断面30において、直交座標で規定される結晶方位の測定位置21における結晶方位の測定を行って、得られたデータ例を表1に示す。また、比較の為、
図3に示す金属板試料10において、直交座標系による方位の測定を行って、得られたデータ例を表2に示す。
尤も、今回の測定においては、被測定面が放射状試料20の切断面30、または、金属板試料10の表面であって、いずれも平面である為、各部分の直交座標による位置はZ=0であることから(X
m,Y
n)で示される。そして、当該(X
m,Y
n)で示される(但し、m、nは、0から6の整数である。)位置における結晶方位のオイラー角の値α,β,γの値が測定される。そして、表1、2および後述する表3において、α,β,γの単位は「°」とした。
【0014】
【表1】
【表2】
【0015】
尚、
図1においては、説明の便宜上、結晶方位の測定位置の数を7×7=49個と仮定しているが、実際の測定においては、例えば、100×100=10,000から1,000×1,000=1,000,000個程度の位置を考える。
尤も、
図1において結晶方位の測定位置は、7×7=49個の正方形の位置であるが、放射状試料20の断面30は円形であるため、四隅の位置(X
m,Y
n)=(0,0)、(1,0)、(5,0)、(6,0)、(6,1)、(6,5)、(6,6)、(5,6)、(1,6)、(0,6)、(0,5)、(0,1)には、結晶方位の測定のデータは存在しない。これ以外の位置においては、それぞれ結晶方位の測定のデータがオイラー角の値(α、β=0°、γ=0°)として測定される。
【0016】
放射状試料20の各位置における、結晶方位の測定のデータの一部を表1に示した。(0,0)、(1,0)、(5,0)、・・・(1,6)、(5,6)、(6,6)には、上述したようにα、β、γともデータはない。一方、(2,0)はα=341°、β=γ=0°、(3,0)はα=0°、β=γ=0°、・・・(3,6)はα=180°、β=γ=0°、(4,6)はα=161°β=γ=0°が測定される。
この結果、表1のデータから結晶方位の配向性について判断することは、困難であることが理解出来る。仮に、表1のデータを基に、結晶方位を、配向の状態を示す矢印22で表現した模式図を
図2に示す。すると、
図2に示されるように、矢印は全て、円の中心から外側へ放射状に向くこととなる。
【0017】
ここでEBSDは、試料結晶からの情報を視覚化する種々の機能を搭載している。その機能の一つとして、測定されたオイラー角の値(例えば、表1に示すデータ)から、試料の結晶方位分布を視覚的に確認させる手段として、結晶方位の差異を色彩の差異として表現するマッピング機能がある。
【0018】
当該EBSDのマッピング機能を用いて、表1のデータ(
図1で示す矢印の向き)をマッピングすれば、(0°、90°、180°、360°)といった放射状の向きを有する各方位の矢印(
図2参照)は、全て異なる色彩として表現されてしまう。
この結果、本発明者らは、得られたマッピング情報から、結晶方位を直観的に判断することが困難であることに想到した。
【0019】
一方、
図3において、測定領域は正方形であり、金属板試料10の被測定面も同形であるため、全ての位置の部分において結晶方位の測定データが存在する。しかも、上述したように、当該金属板試料10はY軸に平行な方向へ向って圧延された圧延材であり、当該圧延操作により、金属板試料10を構成する結晶は圧延方向に配向している。従って、全ての結晶方位の測定位置11において、オイラー角の値はα=0°、β=γ=0°となる。
この結果、金属板試料10の各位置における結晶方位の評価データを示す表2において、オイラー角の値として0°が並ぶこととなる。即ち、どの位置の結晶方位も同一の0°であり、配向性があること理解出来る。仮に、表2のデータを基に、結晶方位を、配向の状態を示す矢印12で表現したものを
図4に示す。すると、
図4に示されるように、矢印は全て0°方向に向くこととなる。
【0020】
ここで、上述したEBSDのマッピング機能を用いて、表2のデータ(
図3で示す矢印の向き)をマッピングすれば、
図4において全て0°方向に向いている矢印は、同一色彩として表現される。従って、得られたマッピング情報から、結晶方位を直観的に判断することが容易である。
【0021】
以上、放射状試料20と金属板試料10とを用いた対比説明から明らかなように、放射状に結晶方位が並ぶ試料をSEMで測定した場合、測定されたオイラー角の値から直接、結晶方位情報を得ることは可能であるが、EBDSのマッピング機能を用いて得られた、マッピング情報(結晶方位マップ)から、直観的に結晶方位を判断することは困難であることが判明した。
【0022】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、EBSDによるオイラー角の値から、合理的且つ容易に結晶方位の解析を行うことが出来る結晶方位の解析方法、および、当該解析方法に用いる結晶方位解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究をおこなった。
そして、上述の課題が発生する原因は、結晶の成長に関して配向性を有してはいるものの、直交座標を適用して結晶方位を測定すると解析が困難となる試料があること。即ち、EBSDによるマッピング情報から直観的に結晶方位を判断することが不適である試料が存在することに想到した。
【0024】
ここで、本発明者らは研究を続け、被測定試料における結晶方位を解析するなら、それに適した座標系をもって測定すれば良いことに想到した。例えば、結晶が中心部から外部へ向かって放射状に成長している試料において、結晶方位解析するには、当該試料の中心を原点とし、そこから半径方向への位置を示すr軸と、ある半径方向を原点とし、そこから円周方向への回転角度θを座標軸とするθ軸と、z軸との3軸から成る円筒座標(r,θ,z)を適用して解析すれば良いことに想到した。
【0025】
さらに、本発明者らは、得られた試料の各部分における直交座標による結晶方位の測定結果を、円筒座標による結晶方位の測定結果に換算する結晶方位評価装置にも想到し、本発明を完成した。
【0026】
即ち、課題を解決する為の第1の発明は、
試料の被測定面へ直交座標を付与し、前記直交座標で規定される位置における結晶方位のオイラー角の値を測定する工程と、
前記直交座標で規定される位置とオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置とオイラー角の値とに換算する工程とを、有することを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0027】
第2の発明は、
前記直交座標で規定される位置(x,y,z)における結晶方位のオイラー角の値の測定値が(α,β,γ)のとき、下記(1)〜(6)式によって、円筒座標により規定される位置(r,θ,z)と、オイラー角の値(α’,β’,γ’)とに換算することを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0028】
第3の発明は、
前記(2)式における
に替えて、
を用いることを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0029】
第4の発明は、
前記結晶方位の測定方法が、電子線後方散乱回折法であることを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0030】
第5の発明は、
試料の被測定面に付与された直交座標で規定された位置の値と、当該位置において測定された結晶方位のオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置の値と、オイラー角の値とへ換算する、ことを特徴とする結晶方位解析装置である。