特許第6314890号(P6314890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6314890
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】結晶方位の解析方法および解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20058 20180101AFI20180416BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   G01N23/20 350
   G01N23/203
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-70382(P2015-70382)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-191562(P2016-191562A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓真
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−304688(JP,A)
【文献】 特公昭51−012230(JP,B1)
【文献】 特開2008−270783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276、
H01J 37/00−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の被測定面へ直交座標を付与し、前記直交座標で規定される位置における結晶方位のオイラー角の値を測定する工程と、
前記直交座標で規定される位置とオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置とオイラー角の値とへ換算する工程とを、有することを特徴とする結晶方位の解析方法。
【請求項2】
前記直交座標で規定される位置(x,y,z)における結晶方位のオイラー角の値の測定値が(α,β,γ)のとき、下記(1)〜(6)式によって、円筒座標により規定される位置(r,θ,z)と、オイラー角の値(α’,β’,γ’)とに換算することを特徴とする請求項1に記載の結晶方位の解析方法。
【請求項3】
前記(2)式における
に替えて、
を用いることを特徴とする請求項2に記載の結晶方位の解析方法。
【請求項4】
前記結晶方位の測定方法が、電子線後方散乱回折法であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の結晶方位の解析方法。
【請求項5】
試料の被測定面に付与された直交座標で規定された位置の値と、当該位置において測定された結晶方位のオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置の値と、オイラー角の値とへ換算する、ことを特徴とする結晶方位解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の結晶方位の解析方法および解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料の結晶方位の測定において、電子線後方散乱回折法(本発明において「EBSD」と記載する場合がある。)は、試料の結晶方位の構造を測定することで、当該試料の相の同定を行う他、多結晶性試料においては、結晶方位分布や結晶粒の大きさを測定することが出来る。さらに、これらの測定データを基に、試料における隣り合う測定点間の方位差などの各種測定を行うことが出来、さらに、当該試料における結晶方位の配向性の解析を行うことも出来る。
【0003】
従来、EBSDは鉄鋼材料試料等の評価に用いられており、得られた結晶方位データを測定することで、当該試料の結晶方位の評価をすることが行われている。そして、得られた評価結果は、鋼板の打ち抜き性、圧延方向の磁気特性(例えば、特許文献1参照。)、引張強度(例えば、特許文献2参照。)といった特性評価に用いられている。
【0004】
EBSDにおいては、測定装置として走査型電子顕微鏡(本発明において「SEM」と記載する場合がある。)を用い、試料へ電子線を照射する。そして、当該試料の被測定面で生じる電子線の回折現象によって発生する「菊池線」と呼ばれる回折図形を撮影する。この菊池線は、当該試料の結晶方位の情報を含んでいる。そこで、当該菊池線を解析することにより、当該試料の被測定面における結晶方位を測定することが可能となる。
【0005】
EBSDについて図面を参照しながら、さらに具体的に説明する。
図3は、角形形状を有する圧延された金属板を試料とし、SEMを用いてEBSDを行う際、当該SEM内に設置され電子線を照射される前記金属板試料を示す模式図である。
まず、金属板試料10は、AからB方向(後述する直交座標において、Y軸に平行な方向である。)へ向って圧延された圧延材である。そして、当該圧延操作により、金属板試料10の結晶方位の測定位置11において結晶は圧延方向に配向している。ここで、当該配向の状態を矢印「→」12により模式的に表現している。
尚、図3に示す金属板試料10は、理想的に圧延され100%の配向が達成されているものと仮定している。また、図3に示す金属板試料10においては、説明の便宜上、結晶方位の測定位置11として、7×7=49個の部分を仮定しているが、現実の解析においては、100×100=10,000個〜1,000×1,000=1,000,000個程度の部分の位置を考える。
【0006】
EBSDの測定装置は、SEMと、所定のソフトウエアを有するコンピュータ(図示していない)とで構成されている。そして、当該SEM内において高傾斜して設置されている被測定試料である金属板試料10の各結晶方位の測定位置11へ電子線50が照射されると、電子線照射点13において後方散乱し所謂菊池パターン51を形成する。形成された菊池パターン51を高感度カメラ等で撮影し、当該菊池パターン51を前記コンピュータにて画像処理し、金属板試料10の各結晶方位の測定位置11における結晶方位12を短待間で測定し、解析するものである。
EBSDは、金属板試料10のようなバルク試料表面の各位置における部分毎の微細構造の定量的測定や、表面の各位置における結晶方位の定量的測定が出来、その分析エリアはSEMにて観察できる領域である。当該SEMの分解能にもよるが、最小数10nmの分解能で測定ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−61358号公報
【特許文献2】特開2008−266673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、上述したEBSDを用いた、試料の各位置における結晶方位の定量的解析においては、試料の各位置における結晶方位の方向を測定するにあたり、当該試料(例えば、金属板試料10)の被測定面へ、x軸、y軸、z軸の直交する3軸方向の座標軸(本発明において「直交座標」と記載する場合がある。)を付与して位置を規定し、当該規定された位置における結晶方位のオイラー角の値の測定を行っている。
勿論、試料が、金属板試料10のように角型形状をした金属板や、一軸方向に伸線しているワイヤー等の場合は、当該直交座標により結晶方位の測定を行うことに何ら問題はない。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によると、試料における結晶の成長状態によっては、上述した直交座標による方位測定では、当該試料の結晶方位解析において課題があることを知見した。
【0010】
例えば、試料における結晶の成長状態が、当該試料の中心部から外側に向けて放射状に成長したものである場合、当該試料における結晶方位解析において、直交座標による結晶方位測定では課題があることについて、図1を参照しながら説明する。
図1は、SEM内に設置され電子線を照射されている、結晶が中心部から外側に向けて放射状に成長し、半球形状を有する放射状成長試料20(本発明において、「放射状試料20」と記載する場合がある。)を示す模式図である。
【0011】
放射状試料20は、被測定面を得る為の切断前においては、球状をとる結晶試料で、中心部から外側に向けて放射状に成長した結晶試料である。従って、当該放射状試料20の結晶方位測定を行う場合、前記球状の結晶を切断し、円形の切断面30を被測定面として露出させ、被測定試料を調製したものである。
当該試料の切断面30を見ると、中心部31から外側に向けて放射状に成長し配向している結晶が存在している。当該配向の状態を矢印「→」22により模式的に表現する。尚、放射状試料20の結晶成長は理想的に進行し、中心部から外部向けて完全に放射状に成長したものと仮定している。
【0012】
上述した図3に示す金属板試料10と同様に、図1に示す放射状試料20も切断面30が、SEM内で高傾斜して設置されている。尚、図1に示す放射状試料20においても、説明の便宜上、結晶方位の測定位置21として、7×7=49個の部分を仮定している。
放射状試料20の被測定面へ電子線50を照射すると、電子線照射点23において後方散乱して菊池パターン52を形成する。形成された菊池パターン52を高感度カメラで撮影し、当該菊池パターン52をコンピュータ(図示していない)にて画像処理し、放射状試料20における各結晶方位の測定位置21における結晶方位22を測定することが出来る。
【0013】
上述した図1に示す放射状試料20の切断面30において、直交座標で規定される結晶方位の測定位置21における結晶方位の測定を行って、得られたデータ例を表1に示す。また、比較の為、図3に示す金属板試料10において、直交座標系による方位の測定を行って、得られたデータ例を表2に示す。
尤も、今回の測定においては、被測定面が放射状試料20の切断面30、または、金属板試料10の表面であって、いずれも平面である為、各部分の直交座標による位置はZ=0であることから(X,Y)で示される。そして、当該(X,Y)で示される(但し、m、nは、0から6の整数である。)位置における結晶方位のオイラー角の値α,β,γの値が測定される。そして、表1、2および後述する表3において、α,β,γの単位は「°」とした。
【0014】
【表1】
【表2】
【0015】
尚、図1においては、説明の便宜上、結晶方位の測定位置の数を7×7=49個と仮定しているが、実際の測定においては、例えば、100×100=10,000から1,000×1,000=1,000,000個程度の位置を考える。
尤も、図1において結晶方位の測定位置は、7×7=49個の正方形の位置であるが、放射状試料20の断面30は円形であるため、四隅の位置(X,Y)=(0,0)、(1,0)、(5,0)、(6,0)、(6,1)、(6,5)、(6,6)、(5,6)、(1,6)、(0,6)、(0,5)、(0,1)には、結晶方位の測定のデータは存在しない。これ以外の位置においては、それぞれ結晶方位の測定のデータがオイラー角の値(α、β=0°、γ=0°)として測定される。
【0016】
放射状試料20の各位置における、結晶方位の測定のデータの一部を表1に示した。(0,0)、(1,0)、(5,0)、・・・(1,6)、(5,6)、(6,6)には、上述したようにα、β、γともデータはない。一方、(2,0)はα=341°、β=γ=0°、(3,0)はα=0°、β=γ=0°、・・・(3,6)はα=180°、β=γ=0°、(4,6)はα=161°β=γ=0°が測定される。
この結果、表1のデータから結晶方位の配向性について判断することは、困難であることが理解出来る。仮に、表1のデータを基に、結晶方位を、配向の状態を示す矢印22で表現した模式図を図2に示す。すると、図2に示されるように、矢印は全て、円の中心から外側へ放射状に向くこととなる。
【0017】
ここでEBSDは、試料結晶からの情報を視覚化する種々の機能を搭載している。その機能の一つとして、測定されたオイラー角の値(例えば、表1に示すデータ)から、試料の結晶方位分布を視覚的に確認させる手段として、結晶方位の差異を色彩の差異として表現するマッピング機能がある。
【0018】
当該EBSDのマッピング機能を用いて、表1のデータ(図1で示す矢印の向き)をマッピングすれば、(0°、90°、180°、360°)といった放射状の向きを有する各方位の矢印(図2参照)は、全て異なる色彩として表現されてしまう。
この結果、本発明者らは、得られたマッピング情報から、結晶方位を直観的に判断することが困難であることに想到した。
【0019】
一方、図3において、測定領域は正方形であり、金属板試料10の被測定面も同形であるため、全ての位置の部分において結晶方位の測定データが存在する。しかも、上述したように、当該金属板試料10はY軸に平行な方向へ向って圧延された圧延材であり、当該圧延操作により、金属板試料10を構成する結晶は圧延方向に配向している。従って、全ての結晶方位の測定位置11において、オイラー角の値はα=0°、β=γ=0°となる。
この結果、金属板試料10の各位置における結晶方位の評価データを示す表2において、オイラー角の値として0°が並ぶこととなる。即ち、どの位置の結晶方位も同一の0°であり、配向性があること理解出来る。仮に、表2のデータを基に、結晶方位を、配向の状態を示す矢印12で表現したものを図4に示す。すると、図4に示されるように、矢印は全て0°方向に向くこととなる。
【0020】
ここで、上述したEBSDのマッピング機能を用いて、表2のデータ(図3で示す矢印の向き)をマッピングすれば、図4において全て0°方向に向いている矢印は、同一色彩として表現される。従って、得られたマッピング情報から、結晶方位を直観的に判断することが容易である。
【0021】
以上、放射状試料20と金属板試料10とを用いた対比説明から明らかなように、放射状に結晶方位が並ぶ試料をSEMで測定した場合、測定されたオイラー角の値から直接、結晶方位情報を得ることは可能であるが、EBDSのマッピング機能を用いて得られた、マッピング情報(結晶方位マップ)から、直観的に結晶方位を判断することは困難であることが判明した。
【0022】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、EBSDによるオイラー角の値から、合理的且つ容易に結晶方位の解析を行うことが出来る結晶方位の解析方法、および、当該解析方法に用いる結晶方位解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究をおこなった。
そして、上述の課題が発生する原因は、結晶の成長に関して配向性を有してはいるものの、直交座標を適用して結晶方位を測定すると解析が困難となる試料があること。即ち、EBSDによるマッピング情報から直観的に結晶方位を判断することが不適である試料が存在することに想到した。
【0024】
ここで、本発明者らは研究を続け、被測定試料における結晶方位を解析するなら、それに適した座標系をもって測定すれば良いことに想到した。例えば、結晶が中心部から外部へ向かって放射状に成長している試料において、結晶方位解析するには、当該試料の中心を原点とし、そこから半径方向への位置を示すr軸と、ある半径方向を原点とし、そこから円周方向への回転角度θを座標軸とするθ軸と、z軸との3軸から成る円筒座標(r,θ,z)を適用して解析すれば良いことに想到した。
【0025】
さらに、本発明者らは、得られた試料の各部分における直交座標による結晶方位の測定結果を、円筒座標による結晶方位の測定結果に換算する結晶方位評価装置にも想到し、本発明を完成した。
【0026】
即ち、課題を解決する為の第1の発明は、
試料の被測定面へ直交座標を付与し、前記直交座標で規定される位置における結晶方位のオイラー角の値を測定する工程と、
前記直交座標で規定される位置とオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置とオイラー角の値とに換算する工程とを、有することを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0027】
第2の発明は、
前記直交座標で規定される位置(x,y,z)における結晶方位のオイラー角の値の測定値が(α,β,γ)のとき、下記(1)〜(6)式によって、円筒座標により規定される位置(r,θ,z)と、オイラー角の値(α’,β’,γ’)とに換算することを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0028】
第3の発明は、
前記(2)式における
に替えて、
を用いることを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0029】
第4の発明は、
前記結晶方位の測定方法が、電子線後方散乱回折法であることを特徴とする結晶方位の解析方法である。
【0030】
第5の発明は、
試料の被測定面に付与された直交座標で規定された位置の値と、当該位置において測定された結晶方位のオイラー角の値とを、円筒座標により規定される位置の値と、オイラー角の値とへ換算する、ことを特徴とする結晶方位解析装置である。
【発明の効果】
【0031】
直交座標による方位測定では結晶方位解析が困難な試料でも、本発明によれば結晶方位解析を容易に行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】電子線を照射される放射状試料を示す模式図である。
図2】放射状に結晶成長した試料に係るEBSDのオイラー角の値(表1に記載ののデータ)を反映させた、結晶方位の模式図である。
図3】電子線を照射される角形形状を有する圧延された金属板試料示す模式図である。
図4】圧延された金属板試料に係るEBSDのオイラー角の値(表2に記載のデータ)を反映させた、結晶方位の模式図である。
図5】従来の技術に係るSEMを示すブロック図である。
図6】本発明に係る結晶方位解析装置を示すブロック図である。
図7】放射状に結晶成長した試料に係るEBSDのオイラー角の値を円筒座標系に変換し、当該変換後の値(表3に記載のデータ)を反映させた、結晶方位の模式図である。
図8】直交座標系と円筒座標系とにおける、測定位置の関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を実施するための形態について、1.測定される試料(被測定試料)、2.試料の前処理、3.試料の設置、4.EBSD測定データの処理、の順に説明する。
【0034】
1.測定される試料(被測定試料)
本発明は、EBSDを用いた試料の結晶方位を解析する方法であって、中心部から外側に向けて放射状に結晶成長している試料に適した結晶方位の解析方法、および、解析装置である。
従って、EBSDによって観察される被測定試料の領域は、当該領域の中心部と外側とを定義出来るような円形またはそれに近い楕円等の形状であることが通常である。尤も、当該領域が円形またはそれに近い楕円等の形状をしていれば、当該被測定試料の3次元的な形状は問われない。具体的には、球形試料の断面、円筒形試料を軸に垂直な方向に切断した際に得られる断面、ワイヤー形状試料を伸線方向に垂直な方向に切断した際に得られる断面等、であっても適用することが出来る。
【0035】
上述したように、EBSDは、SEMを用いて試料の結晶方位を測定する為、試料において結晶方位の測定を行う領域は、100μm×100μm以下、50nm×50nm以上であることが好ましい。
【0036】
2.試料の前処理
試料の前処理においては、EBSDによる測定を実施する為の被測定面を得る為、試料を適宜に切断して、断面出しを実施する。そして、断面出しの際には、当該断面の汚染やダメージを防ぐ為に、試料の種類に応じてイオン加工や研磨を施すことが好ましい。
さらに、試料の導電性が低い場合には、EBSD測定における電子線の照射によるチャージを防ぐ目的で、上述した断面へ、カーボンや重金属のコーティングを施すことが好ましい。
そして、試料をSEM内に設置する際、試料の導電性を保つ観点から、試料ホルダーへの固定は導電性ペーストを用いて行うことが好ましい。
【0037】
3.試料の設置
本発明に係るEBSD測定に用いる結晶方位の解析装置を備えたSEMについて、図5、6を参照しながら説明する。
図5は、EBSDに用いる結晶方位の解析装置を備えた、従来の技術に係るSEMを示すブロック図であり、符号1は試料、符号2は電子線を照射する為の電子銃、符号3は試料を固定する為のステージ、符号4は試料から発生する散乱した電子線(菊池線)を撮影する検出器の役割を果たすカメラ、符号5は試料ステージの制御部、符号6は電子銃の制御部、符号7はカメラの制御部、符号8は装置各部の制御や測定データの保存、直交座標を用いたEBSD解析を行うコンピュータである。
【0038】
図6は、本発明に係る結晶方位解析装置を示すブロック図であり、符号1〜8の部分は上述した従来の技術に係るSEMと同様である。そして、発明に係る結晶方位解析装置は、さらに符号9で示すコンピュータ(結晶方位解析)を備えている。
当該コンピュータ(結晶方位解析)は、符号8で示すコンピュータから直交座標により結晶方位データを受領し、それを円筒座標による結晶方位の測定結果に換算し、被測定試料における結晶方位解析を実施するものである。
尚、本ブロック図においては、コンピュータ(結晶方位解析)9とコンピュータ8とは、別装置となっているが、所望により一体化することも出来る。
【0039】
電子銃2で発生し、試料1へ向かい、当該試料に衝突・散乱してカメラ4へ向かう破線は、電子線の光路を示している。
試料1へ照射する電子線の加速電圧、電流量は、被測定試料の種類やSEMの特性に依る部分がある為、一概には規定出来ない。例えば、銅の単体を被測定試料とする場合には、加速電圧は約15kV、電流量は約3〜6nAにて測定を行うことが好ましい。
【0040】
カメラ4にて散乱した電子線(菊池線)を撮影し易くする為に、試料1を水平から約70°程度傾け、散乱した電子線がカメラ4側へ向けて照射されるように設置することが好ましい。
散乱した電子線(菊池線)はカメラ4にて観測される。そして、カメラ4にて観測された菊池パターンのデータは、コンピュータ8へ送られる。
【0041】
4.EBSD測定データの処理
結晶方位の解析装置を備えたSEMを用いたEBSD測定データの処理について、図1、2、7、8、表1、3を参照しながら、(1)結晶相の種類の確認、(2)直交座標を用いたEBSD測定、(3)直交座標から円筒座標への変換、(4)試料の結晶配向性の解析、の順に説明する。
【0042】
(1)結晶相の種類の確認
試料における結晶相の種類を確認する。結晶方位が、概ね1軸方向へ揃っているものであれば、従来の技術に係る直交座標を用いたEBSD測定を適用することが出来る。一方、結晶方位が、中心部から外側に向けて放射状に結晶成長しているものが明らかである、あるいは想定されるものであれば、本発明に係る結晶方位解析装置を用い、以下に説明する本発明に係る測定データの処理操作を適用すれば良い。
【0043】
(2)直交座標を用いたEBSD測定
試料に対し、従来の技術に係る直交座標を用いたEBSD測定を実施し、直交座標で規定される位置における各部分の結晶方位を、オイラー角の値(α、β、γ)として測定する。
当該直交座標を用いたEBSD測定について、図1および表1を参照しながら説明する。
【0044】
上述したように図1は、SEM内に設置され電子線を照射されている、結晶が中心部から外側に向けて放射状に成長し、半球形状を有する放射状試料20を示す模式図である。
【0045】
放射状試料20の被測定面へ電子線50を照射すると、照射された電子線50が後方散乱して菊池パターン52を形成する。この結果、形成された菊池パターン52を高感度カメラで撮影し、当該菊池パターン52をコンピュータにて画像処理し、電子線50が照射されている結晶方位の測定位置21における結晶方位22を、オイラー角の値(α,β,γ)として測定することが出来る。
【0046】
上述した図1に示す放射状試料20の切断面30において、直交座標で規定される結晶方位の測定位置21における結晶方位の測定を行い、得られたオイラー角のデータを表1に示す。
【0047】
(3)直交座標から円筒座標への変換
放射状試料20へ円筒座標を適用し、各位置を(r,θ)で示す(但し、m、nは、0から6の整数であり、Z=0である。)。
そして、表1に示された直交座標で規定される位置における結晶方位の値を、下記(1)〜(6)式によって、円筒座標により規定される位置(r,θ)と、オイラー角の値(α’,β’,γ’)とに換算した結果を表3に示す。ここで表3において、α’,β’,γ’の単位は「°」とした。
【0048】
【0049】
また、直交座標で規定される位置における結晶方位の値を、円筒座標により規定される位置における結晶方位の値に換算する際、上述した(2)式における
に替えて、近似式である、
を用いることも好ましい構成である。
本発明者らの検討によれば、当該近似式を用いることによりオイラー角に与える誤差は最大でも0.18°である。従って、結晶方位の解析に当該近似式を用いても、精度上の問題はないと考えられる。
また、(1)式に示すように
であることから、表3に示すγの値は近似値である。
【0050】
まず、表1に示す直交座標に係るX、Yの値を、上述した(1)式および(2)式により、円筒座標に係る値へ変換し、また、表1に示す直交座標に係るオイラー角の値を、(3)式〜(5)式により円筒座標に係る値へ変換する。当該変換された値を表3に示す。
【0051】
表3に示すオイラー角の値に0°が並んでいることから、どの位置の結晶方位も同一の0°であり配向性があることが理解出来る。このことを、放射状に結晶成長した試料に係るEBSDのオイラー角の値を円筒座標系に変換し、当該変換後の値(表3に記載のデータ)を反映させた、結晶方位の模式図である図7を参照しながら説明する。
【0052】
即ち、表1のデータからでは、放射状試料結晶方位の配向性について判断することは困難であった。しかし、座標変換とオイラー角の値の変換を行うことにより得られた表3のデータに基づけば、放射状試料における結晶方位の配向性について判断することとが可能となる。
ここで、仮に、表3に記載のデータを基に、結晶方位を矢印の向きで示すと図7となり、結晶方位を示す矢印は全てr軸の正方向を向いていることとなる。
【0053】
尤も、放射状に結晶成長した実際の試料から得られる、位置データとオイラー角の値とを上述の方法で処理し、表3に示す形式とした場合、このように全ての測定位置のオイラー角の値が0°となることは極めて稀である。通常は、オイラー角の値が0°近傍に分布する状態を示す、または、近傍に存在する測定位置内のオイラー角の値はほぼ同値となるが、離れた測定位置のオイラー角の値は異なった値を示す、といった状態となる。しかし、このような状態となったとしても、放射状試料における結晶方位の配向性について判断することとは容易である。
【0054】
ここで、直交座標系と円筒座標系とにおける、測定位置の関係を示す模式図である図8を参照しながら、円筒座標系と直交座標系とにおける測定位置の関係を説明する。
直交座標系(左側)において中心の測定位置Cは、円筒座標系(右側)においてr=0の位置でθ=0°〜360°に引き伸ばされて位置することとなる。一方、直交座標系において最も外側に位置するそれぞれの測定位置は、円筒座標系において、rがほぼ半径の位置で、θ=0°〜360°における各々のθに位置することとなる。
【0055】
(4)試料の結晶配向性の解析
上述した「(3)直交座標から円筒座標への変換」を本発明に係る結晶方位の解析装置が実施することにより、例えば、市販のEBSD用解析ソフト(例えば、Oxford Instruments社のEBSD用解析ソフト、『Project Manager−Tango』等がある。)と組み合わせることにより、直交座標による方位測定では結晶方位解析が困難な試料でも、結晶方位解析を行うことが出来る。
【0056】
【表3】
【符号の説明】
【0057】
1 試料
2 電子銃
3 試料ステージ
4 カメラ
5 試料ステージ制御部
7 カメラ制御部
8 コンピュータ
9 コンピュータ(結晶方位解析)
10 金属板試料
11 結晶方位の測定位置
12 配向の状態を示す矢印
13 電子線照射点
21 結晶方位の測定位置
22 配向の状態を示す矢印
23 電子線照射点
30 切断面
31 中心部
50 電子線
51 菊池パターン
52 菊池パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8