(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係数算出部は、前記I成分補償部及び前記Q成分補償部の出力と前記既知信号とをシンボル毎に比較して前記第1及び第2の係数を各項独立に最適化することで算出することを特徴とする請求項1に記載の光伝送歪補償装置。
前記第1及び第2の多項式の少なくとも一方は、IQ平面上で弓なり状に変化する歪成分を補償する項を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光伝送歪補償装置。
前記弓なり状に変化する歪成分を補償する項として、前記第1の多項式は、Q成分の1次の項、Q成分の2次の項、及びQ成分の3次の項の少なくとも一つを含み、前記第2の多項式は、I成分の1次の項、I成分の2次の項、及びI成分の3次の項の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項3に記載の光伝送歪補償装置。
直交変調信号のI成分及びQ成分を基にI成分の歪を表す第1の多項式を構成し、第1の係数を前記第1の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたI成分を算出するI成分補償部と、
前記直交変調信号のI成分及びQ成分を基にQ成分の歪を表す第2の多項式を構成し、第2の係数を前記第2の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたQ成分を算出するQ成分補償部と、
前記I成分補償部及び前記Q成分補償部の出力と既知信号とを比較して前記第1及び第2の係数を算出する係数算出部と、
前記I成分補償部及び前記Q成分補償部の出力の位相変動を補償するキャリア位相再生部とを備え、
前記係数算出部は、前記キャリア位相再生部の出力と前記既知信号との誤差に前記キャリア位相再生部における補償と逆の補償処理を行ったものを用いて前記第1及び第2の係数を算出することを特徴とする光伝送歪補償装置。
直交変調信号のI成分及びQ成分を基にI成分の歪を表す第1の多項式を構成し、第1の係数を前記第1の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたI成分を算出するI成分補償部と、
前記直交変調信号のI成分及びQ成分を基にQ成分の歪を表す第2の多項式を構成し、第2の係数を前記第2の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたQ成分を算出するQ成分補償部と、
前記I成分補償部及び前記Q成分補償部の出力と既知信号とを比較して前記第1及び第2の係数を算出する係数算出部と、
前記直交変調信号に等化処理を行う適応等化部と、
前記直交変調信号に補償処理を行う位相変動補償部とを備え、
前記I成分補償部及び前記Q成分補償部は前記適応等化部及び前記位相変動補償部の後段に設けられ、
前記適応等化部及び前記位相変動補償部は、前記係数算出部の算出結果から求めたIQ歪を付加した既知信号を用いて前記等化処理及び前記補償処理のフィルタ係数及び補償量を算出することを特徴とする光伝送歪補償装置。
前記歪が補償されたI成分及びQ成分と前記既知信号とをシンボル毎に比較して前記第1及び第2の係数を各項独立に最適化することで算出することを特徴とする請求項12に記載の光伝送歪補償方法。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信では、同相位相成分(In phase成分:I成分)と直交位相成分(Quadrature Phase成分:Q成分)のそれぞれに対して独立に振幅変調を行う直交変調が採用される。QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)や16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの多値変調により伝送レートの高速化が果たされている。更なる高速化のために64QAM等への多値化も進められている。受信側では、光復調器によって光信号が電気信号に変換されA/D変換された後、伝送路の歪を補償するため、デジタル信号処理によって、波長分散補償、偏波処理・適応等化、誤り訂正が行われ、受信感度の向上を図っている。
【0003】
このようなQPSK、16QAM、64QAMなどの多値変調を用いる場合に顕在化する問題として、コンスタレーション歪(IQ歪)がある。多値変調信号は、電気段においては4レーンの電気信号(X偏波のI成分とQ成分、Y偏波のI成分とQ成分)として扱われる。すなわち、送信側において、4レーンの電気信号として信号は生成され、光変調器により多値変調光信号に変換される。
【0004】
光変調器としては、例えば、マッハツェンダー干渉計型の変調器が適用される。このような光変調器では、バイアス電圧の誤差や、干渉計の消光比が無限大でないことなどによる不完全性があり、このような不完全性によりコンスタレーションの歪が生じる。コンスタレーション歪が生じると、正確に送信された情報を復号することができず、ビット誤り率の増大等を発生させることになる。ここで、コンスタレーションとは、信号空間ダイヤグラムとも呼ばれ、デジタル変調によるデータ信号点を2次元の複素平面上に表したものである(複素平面上のI成分とQ成分で示される点)。
【0005】
例えば、16QAM、64QAMは、それぞれ16点、64点からなるコンスタレーションを有する変調方式であり、信号空間上にそれぞれ16点、64点が正方的に配置されるものが一般的である。16QAMは、同相位相成分と直交位相成分のそれぞれに互いに独立な4値の振幅変調を行ったものとみなすことができ、64QAMは、同相位相成分と直交位相成分のそれぞれに互いに独立な8値の振幅変調を行ったものとみなすことができる。
【0006】
コンスタレーション歪の1つとしてDC(Direct Current)オフセットがある。通常、光変調器に対して、光出力がnull点となるようにバイアス電圧が印加される。このバイアス電圧がnull点からシフトしてしまった場合に、DCオフセットが発生する。また、光変調器を構成するマッハツェンダー干渉計は、消光比(オン/オフ比)が無限大、すなわち、オフのときに光出力が完全に0であることが理想であるが、オフのときに完全に0にならない場合、消光比は無限大ではなくなり、DCオフセットが発生する。DCオフセットは、光信号では残存キャリアの形で現れるため、光信号のスペクトルを観察することで確認することができる。
【0007】
DCオフセットと、これによるキャリアの残存は、局部発振レーザを用いるコヒーレント検波方式ではない直接検波方式(例えば、1010のオンオフ信号の強度を受光素子で直接検波する方式、強度変調直接検波などともいう)でも生じる。直接検波方式では、残存キャリアは、受信側の電気段で再びDCオフセットとして現れるため、コンデンサ等によるアナログ的なDCブロック回路で容易に除去することができる。これに対して、コヒーレント検波方式で、かつ送信レーザと受信側の局部発振レーザの周波数が正確に一致していない場合、残存キャリアは、受信側の電気段では直流に変換されず、DCブロック回路で除去することができない。
【0008】
また、コンスタレーション歪として知られているものに、IQ(In-phase Quadrature)クロストークがある。IQクロストークは、光変調器のバイアス電圧誤差により、同相位相(In-phase)成分と直交位相(Quadrature)成分の位相差が正確に90°にならない場合に発生する。
【0009】
これらのコンスタレーション歪の問題に対応するため、光送信装置に適用される光変調器の特性を予め計測しておき、送信装置内のデジタル信号処理装置により光変調器の特性を補償する技術が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。また、無線通信において直交変調を使用する場合に、I−Q信号成分間の利得不平衡及び位相不平衡によって引き起こされる直交誤差と呼ばれる歪を受信機側において校正する技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る光伝送歪補償装置、光伝送歪補償方法及び通信装置について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るコヒーレント光通信装置の受信装置を示す図である。受信装置1は、光ファイバ2から受信した光信号を電気信号に変換してデジタル処理する。
【0020】
受信装置1において、まず偏波分離器3が光信号を2つの直交偏波成分に分離する。これらの光信号と局発光源4の局発光が90°ハイブリッド回路5,6に入力され、両光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光、直交(90°)及び逆直交(−90°)で干渉させた1組の出力光の計4つの出力光が得られる。これらの出力光はフォトダイオード(不図示)によりそれぞれアナログ信号に変換される。これらのアナログ信号はAD変換器7によりデジタル信号に変換される。
【0021】
波長分散補償部8以降の構成は、AD変換器7からデジタル信号として出力された直交変調信号をデジタル処理して歪を補償する光伝送歪補償装置である。ここで、光ファイバ2中を光信号が伝搬する際に、波長分散という効果によって信号波形が歪む。波長分散補償部8は、その歪の大きさを受信信号から推定して補償する。
【0022】
光通信において水平偏波と垂直偏波を合成して送信し受信において分離する際に、偏波モード分散という効果によって偏波変動が生じ波形が歪む。適応等化部9は、その歪みを補償する等化処理を行う。偏波分離は最初に光復調器によって行われるが、適応等化部9においてより完全に偏波分離が処理される。送信側で長周期・既知パターン信号や短周期・既知パターン信号を挿入し、受信した該信号との誤差を最小にする方法等が提案されている。
【0023】
周波数オフセット補償部10は、送受のローカル信号(キャリア信号)の周波数誤差を補正する。位相変動補償部11は、周波数オフセット補償部10での残留オフセットや適応等化部9で取りきれなかった残留位相変動又は位相スリップを送信側で挿入した短周期・既知パターン信号を利用して補償処理を行う。
【0024】
IQ歪補償部12は、DCオフセット、消光比による歪等のIQ平面上の歪み(IQ歪)を補償する。IQ歪の補償は、周波数オフセット補償部10及び位相変動補償部11により位相変動や位相スリップが低減された状態にて行うことが好ましい。
【0025】
キャリア位相再生(Carrier Phase Recovery:CPR)部13は、周波数オフセット補償部10及び位相変動補償部11で取りきれなかった位相変動を補償する。仮判定したコンスタレーション(信号点)と受信したコンスタレーション(信号点)とのずれΦを検出し、Φだけ位相回転を行って補正する。この位相回転による補正は、exp(jΦ)を乗ずることで行える。その後、誤り訂正部14が処理を行う。
【0026】
なお、光変調器の歪等の静的にあまり変動しない歪は、送信側でもある程度の補償が可能である。しかし、光変調器のバイアス調整等によって発生する動的に変動する歪は、送信側での補償は難しい。受信側における補償は、動的に変動する歪に対応しやすいという特徴がある。
【0027】
図2は、歪がない場合の16QAM変調のコンスタレーションを示す図である。
図3は、I成分及びQ成分の歪が発生した場合の16QAMのコンスタレーションを示す図である。光通信における受信側におけるコンスタレーションの歪は、単にDC成分が一律にオフセットしたものではなく、弓なり状の歪である。これは、直交変調器及び直交復調器の非線形性によるものと考えられる。以後、IQ平面上で弓なり状に変化する歪成分を弓なり状歪と称する。この弓なり状歪は、従来のように単にDC成分をオフセットするだけでは補償することができない。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態1に係る光伝送歪補償装置を示す図である。IQ歪補償部12は、位相変動補償部11とキャリア位相再生部13との間に設置され、I成分補償部15、Q成分補償部16、及び係数算出部17を有する。
【0029】
I成分補償部15は、位相変動補償部11から出力された直交変調信号のI成分Xi及びQ成分Xqを基にI成分の歪を表すN項の第1の多項式を構成し、係数算出部17から出力されたI成分補償部用の第1の係数を第1の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたI成分を算出する。I成分及びQ成分で構成される第1の多項式の第n項をINi(n)、第1の多項式の第n項の係数をhi(n)とすると、I成分補償部15の出力は以下の式で表される。
【数1】
【0030】
Q成分補償部16は、位相変動補償部11から出力された直交変調信号のI成分Xi及びQ成分Xqを基にQ成分の歪を表すN項の第2の多項式を構成し、係数算出部17から出力されたQ成分補償用の第2の係数を第2の多項式の各項に乗じることで、歪が補償されたQ成分を算出する。I成分及びQ成分で構成される第2の多項式の第n項をINq(n)、第2の多項式の第n項の係数をhq(n)とすると、Q成分補償部16の出力は以下の式で表される。
【数2】
【0031】
上記の処理はシンボル毎に行われ、係数算出部17において、各項の係数は独立的に最適化される。各項の係数は1次であるため、瞬時値を使用することができ、メモリは不要である。
【0032】
キャリア位相再生部13は、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力の位相変動を補償するために、I成分とQ成分で構成される信号ベクトルの位相をφだけ回転する。従って、キャリア位相再生部13の出力は以下の式で表される。
【数3】
【0033】
係数算出部17は、第1及び第2の係数を乗算する前の第1及び第2の多項式の個々の項について、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力と参照信号(既知信号)とを比較して第1及び第2の係数を算出する。具体的には、キャリア位相再生部13の出力と参照信号との誤差が最小になるように第1及び第2の係数を算出する。当該誤差には、キャリア位相再生部13における位相回転補償が含まれるため、それを相殺するために誤差に逆回転の位相が与えられて係数算出部17に供給される。なお、参照信号として、例えば送信信号に同期検出用として挿入された長周期・既知パターン信号(例えば、1万ビット当たり256ビット)を利用できる。長周期・既知パターン信号に疑似的なランダムな信号が設定されることで、
図3に示すIQ軸の弓なり状歪が検出されやすくなっている。仮に1と0のみの繰り返しの場合、歪は直線状となり弓なり状歪の検出は難しい。
【0034】
図5は、本発明の実施の形態1に係るI成分補償部及びQ成分補償部を示す図である。ここではN=7である。非線形性を表す式として使用されるVoltera級数展開の一部の項を用いて歪を近似している。これは非線形フィルタと等価になる。第1及び第2の多項式の項数の増減、他軸成分の利用、及び次数の増減は、「弓なり状歪は多項式で表現できる」という技術的思想に基づいて設定される。
【0035】
I成分補償部15の出力は、位相変動補償部11からのI成分Xi及びQ成分Xqを基にした以下の多項式で表される。
【数4】
【0036】
Q成分補償部16の出力は、位相変動補償部11からのI成分Xi及びQ成分Xqを基にした以下の多項式で表される。
【数5】
【0037】
弓なり状歪は、
図3に示すように、I軸に沿って弓なりに変化し、Q軸に沿って弓なりに変化している。これは、I成分に対する2次曲線及び3次曲線、Q成分に対する2次曲線及び3次曲線で疑似的に表せると推察される。上式の第2項、第3項、及び第6項は、それを目的としている。
【0038】
第5項は、象限の違いによって弓なりの曲率が変わらないようにするための補正項である。第1項は、送信側でのIQ合成時や受信側でのIQ分離時の増幅率の差、更にはI成分及びQ成分のラインにおける負荷の差において生じる振幅比のズレを振幅を調整して補償するものである。第4項は、変調器の制御信号対変調出力が正弦波に近い形状の非線形性を持つため、それを3次曲線で近似し線形に戻すための項である。第7項は、従来のDCオフセットの補償に対応する。
【0039】
なお、上記多項式の各項の係数hi(1)〜hi(7)及び係数hq(1)〜hq(7)は係数算出部17によりそれぞれ独立的に算出される。
【0040】
上記の結果より、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力は以下の信号ベクトルで示される。
【数6】
【0041】
この信号ベクトルは、キャリア位相再生部13の位相回転補償により、位相がΦだけ回転させられる。キャリア位相再生部13の出力CPR_OUTは以下の式で示される。
【数7】
【0042】
送信信号に挿入された長周期・既知パターン信号を受信した際に、CPR_OUTから、長周期・既知パターン信号の真値(参照信号:TSi+jTSq)を減じて、誤差errを計算する。
【数8】
【0043】
ここで、I成分補償部15及びQ成分補償部16では、キャリア位相再生部13による位相回転補償を未だ行っていない。従って、位相回転補償を行った結果と参照信号との誤差errで係数算出を行うと、位相回転補償の影響が含まれ、IQ歪を補償する係数を正しく計算できない。そこで、係数算出部17へ入力するデータは、誤差errに対して位相回転補償を戻す操作を行ってerr×e
−jΦとする。これは参照信号に位相回転補償を行ったことと等価である。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態1に係る係数算出部を示す図である。係数算出部17は、最小二乗法(Least Mean Square、LMS)アルゴリズムを用いてI成分補償部15及びQ成分補償部16の多項式の全項の係数を求める。この時のLSMアルゴリズムは以下の式で示される。
【数9】
ここで、kは算出の更新の回数を示し、長周期・既知パターン信号においてシンボル毎に更新を行う。E
kはk回目に入力される一般的な誤差の表現である。なお、入力信号INi(n)、INq(n)、誤差err及び位相回転量φについてもk毎に値は異なるが、下側の式ではkの表示を省略している。μは1以下の係数である。
【0045】
上記の式のように、LSMアルゴリズムは、現状の係数hi(n)
k,hq(n)
k、誤差err×e
−jΦ及び入力信号Xi,Xqとから、誤差が最小になるように次の係数hi(n)
k+1,hq(n)
k+1を求めていく。入力状況によって収束値が変化する。
【0046】
係数の初期値は、例えば、hi(1)=1、hi(2)=hi(3)=hi(4)=hi(5)=hi(6)=hi(7)=0、hq(1)=1、hq(2)=hq(3)=hq(4)=hq(5)=hq(6)=hq(7)=0と設定できる。これは入力信号をそのまま出力することを示している。初期値は上記の例に限定されない。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態ではIQ歪を多項式で表すことで、弓なり状歪などの非線形的に生ずるコンスタレーション歪を精度よく補償することができる。
【0048】
また、係数算出部17は、最小二乗法アルゴリズムを用いて第1及び第2の係数を算出する。これにより、一般的な最小平均自乗誤差法(Minimum Mean Square Error:MMSE)アルゴリズムを用いた場合に比べて高速かつ簡易に係数を算出することができる。
【0049】
また、IQ歪補償部12をキャリア位相再生部13の前段に設けることで、IQ歪の影響を受けやすいキャリア位相再生の位相補償精度を向上することができる。
【0050】
また、係数算出部17は、キャリア位相再生部13の出力と既知信号との誤差にキャリア位相再生部13における補償と逆の補償処理を行ったものを用いて第1及び第2の係数を算出する。これにより、位相回転補償の影響を取り除いて、IQ歪を補償する係数を精度よく算出できるため、IQ歪補償の性能を向上できる。
【0051】
また、IQ歪補償部12を位相変動補償部11の後段に設置することで、IQ歪補償処理を位相変動の影響を低減した後で行うことができる。従って、IQ歪を補償する係数を精度よく算出でき、IQ歪補償の精度も向上できる。
【0052】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2に係る光伝送歪補償装置を示す図である。IQ歪補償部12とキャリア位相再生部13との間にSkew補償部18が設けられている。Skew補償部18が加わることに伴い係数算出部17における係数の導出式が変わる。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0053】
図8は、本発明の実施の形態2に係るSkew補償部を示す図である。Skew補償部18は、主に送信時におけるI成分の信号とQ成分の信号との遅延差を補償するSkew補償を行うものである。Skew補償部18は、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力のSkew補償を行うフィルタ19と、誤差errにキャリア位相再生部13における補償と逆の補償処理を行ったものを用いてフィルタ19のフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部20とを有する。フィルタ19は、I成分とQ成分とのクロストークも考慮して、バタフライ型のFIRフィルタで構成される。それぞれのFIRフィルタのタップ係数はt
11,t
12,t
21,t
22で示される。例えば、5段のFIRフィルタの場合、それぞれ5つのタップ係数を有する。フィルタ係数算出部20は、それぞれのFIRフィルタに対応したLMSアルゴリズムを有する。
【0054】
【数10】
即ち、キャリア位相再生部13の出力は、Skew補償部18の入力のReal成分であるINsiに(t
11+j・t
21)を畳み込んだ値と、Imag成分であるINsqに(t
12+j・t
22)を畳み込んだ値の和を、位相量φだけ回転した値となる。
【0055】
Skew補償部18の入力は、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力であることから、上式は以下のようになる。
【数11】
【0056】
実施の形態1と同様に、上式で示されるキャリア位相再生部13の出力から長周期・既知パターン信号の真値が減ぜられ、誤差errが計算される。
【数12】
【0057】
誤差errにキャリア位相再生部13における補償と逆の補償処理を行ったもの(err×e
−jΦ)が、Skew補償部18におけるFIRフィルタの係数を算出するLMSアルゴリズムに供給される。フィルタ係数t
11,t
12を算出するLMSアルゴリズムには、それぞれ実数部であるReal[err・e
−jΦ]が供給される。フィルタ係数t
21,t
22を算出するLMSアルゴリズムには、それぞれ虚数部であるImag[err・e
−jΦ]が供給される。
【0058】
この時、各フィルタ係数t
11,t
12,t
21,t
22に対するLMSアルゴリズムの算出式は以下のようになる。このLMSアルゴリズムを更新していくことで、FIRフィルタのタップ係数のセットが求められる。
【数13】
【0059】
kは算出の更新の回数を示し、ここでは長周期・既知パターン信号のシンボル毎に更新を行うことができる。E
kはk回目におけるLMSに入力される一般的な誤差の表現である。なお、入力信号INsi,INsq、誤差err及び位相回転量φの値もk毎に異なるが、上式ではkの表示を省略している。
【0060】
係数の初期値は、例えば、t
11={0,0,1,0,0}、t
12={0,0,0,0,0}、t
21={0,0,0,0,0}、t
22={0,0,1,0,0}と設定できる。これは入力信号をそのまま出力することを示している。初期値は上記の例に限定されない。
【0061】
一方、係数算出部17は、I成分補償部15及びQ成分補償部16の多項式の係数hi(n),hq(n)を求めるため、LMSアルゴリズムを用いる。その時のLSMアルゴリズムの式は以下で示される。
【数14】
【0062】
kは算出の更新の回数を示し、ここでは長周期・既知パターン信号のシンボル毎に更新を行うことができる。E
kはk回目におけるLMSに入力される一般的な誤差の表現である。なお、入力信号INsi,INsq、誤差err及び位相回転量φの値もk毎に異なるが、上式ではkの表示を省略している。
【0063】
係数の初期値は、例えば、hi(1)=1、hi(2)=hi(3)=hi(4)=hi(5)=hi(6)=hi(7)=0、hq(1)=1、hq(2)=hq(3)=hq(4)=hq(5)=hq(6)=hq(7)=0と設定できる。これは入力信号をそのまま出力することを示している。初期値は上記の例に限定されない。
【0064】
Skew補償部18をIQ歪補償部12の後段に設置した場合、LMSアルゴリズムに入力される誤差E
kは、キャリア位相再生部13の出力において算出される誤差errに対して、Skew補償の分とキャリア位相再生の分を戻したものである。実際には、参照信号にそれらを与える。上式のerrの右側に追加されている項はその処理を目的としている。
【0065】
上述のように、係数算出部17は、誤差errにSkew補償部18及びキャリア位相再生部13における補償と逆の補償処理を行ったものを用いて第1及び第2の係数を算出する。これにより、Skew及び位相回転補償の影響を取り除いて、IQ歪を補償する係数を精度よく算出できるため、IQ歪補償の性能を向上できる。
【0066】
なお、上述のように位相変動や位相スリップが低減された状態でIQ歪補償を実施することで効果が増すために、IQ歪補償部12を位相変動補償部11の後段に設置した。しかし、他に位相変動や位相スリップを除去できる処理部があれば、その後段にIQ歪補償部12を設置してもよい。
【0067】
実施の形態3.
図9は、本発明の実施の形態3に係る光伝送歪補償装置を示す図である。適応等化部9及び位相変動補償部11は、それぞれ既知信号と受信信号との誤差に基づいて等化処理及び補償処理のフィルタ係数及び補償量を算出する。例えば、適応等化部9の既知信号として、パケットデータの先頭位置に数百シンボルレベルで配置される同期用の長周期・既知パターン信号やデータ全体に数十シンボル毎に配置される短周期・既知パターン信号が利用できる。位相変動補償部11の既知信号として、上記短周期・既知パターン信号が利用できる。
【0068】
未補償の受信信号にはIQ歪が残存しているが、既知信号にはIQ歪が含まれていない。このため、両者の誤差にはIQ歪が残ったままとなる。そこで、本実施の形態では、適応等化部9及び位相変動補償部11は、係数算出部17の算出結果から求めたIQ歪を付加した既知信号を用いて等化処理及び補償処理のフィルタ係数及び補償量を算出する。具体的には、逆符号の係数又は補償量を乗算又は加算することで既知信号にIQ歪を付加する。これにより、適応等化部9における係数計算と位相変動補償部11における補償量計算が、IQ歪の影響を受けない又は大幅に低減された状態で等化処理及び補償処理を精度よく実施でき、さらにIQ歪補償の効果も向上できる。
【0069】
実施の形態4.
図10は、本発明の実施の形態4に係るコヒーレント光通信装置の送信装置を示す図である。実施の形態1〜3ではIQ歪補償部12を含む光伝送歪補償装置を受信装置1に適用した場合について説明したが、本実施の形態では光信号を送信する送信装置21のデジタル信号処理装置(Digital Signal Processor: DSP)22に適用している。DSP22の出力信号に基づいて信号光源23の出力光を変調器24,25が変調する。それらの出力光が偏波合成器26によって直交する偏波状態に多重されて光ファイバ2に出力される。
【0070】
図11は、本発明の実施の形態4に係る光伝送歪補償装置を示す図である。送信側のIQ歪補償部12は、後段の変調器24,25等による歪の形状を予測して多項式でその歪を近似する。係数算出部17は、I成分補償部15及びQ成分補償部16の出力と歪予測形状との誤差が最小になるようにそれぞれ第1及び第2の係数を算出する。この係数算出において、MMSEアルゴリズム(Minimum Mean Square Error、最小平均自乗誤差)アルゴリズムが適用可能である。これにより、後段の変調器等による歪を補償することができる。
【0071】
なお、実施の形態1〜4では、X偏波のみについて説明を行ったが、Y偏波においても同様の方法が適用できることは言うまでもない。また、実施の形態1〜4の光伝送歪補償方法を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステム又はプログラマブルロジックデバイスに読み込ませ、実行することにより光伝送歪補償を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。