(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、長期加熱条件下(ヒートエージング)における物性低下の抑制を実現できる耐熱老化性樹脂組成物、及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンサルファイド樹脂と熱老化防止剤とを含む耐熱老化性樹脂組成物であって、
前記熱老化防止剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛からなる群より選択される1種であること、及び
前記熱老化防止剤の含有量として次の条件A又はBを満足すること、
を特徴とする耐熱老化性樹脂組成物。
条件A:熱老化防止剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、及び水酸化マグネシウムのうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件B:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
【0008】
(2)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、熱老化防止剤と、ガラス繊維とを含む耐熱老化性樹脂組成物であって、
前記熱老化防止剤が、酢酸ナトリウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかであること、及び
前記熱老化防止剤の含有量として次の条件C又はDを満足すること、
を特徴とする耐熱老化性樹脂組成物。
条件C:熱老化防止剤が、酢酸ナトリウムの場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件D:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
【0009】
(3)前記ガラス繊維が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して5〜300質量部含むことを特徴とする前記(2)に記載の耐熱老化性樹脂組成物。
【0010】
(4)さらに次亜燐酸塩を含むことを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の耐熱老化性樹脂組成物。
【0011】
(5)前記ガラス繊維が次亜燐酸塩によって表面処理されていることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の耐熱老化性樹脂組成物。
【0012】
(6)前記次亜燐酸塩が、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して0.1〜50μmol/g含むことを特徴とする前記(4)又は(5)に記載の耐熱老化性樹脂組成物。
【0013】
(7)前記ポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量が20000〜200000であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐熱老化性樹脂組成物。
【0014】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の耐熱老化性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期加熱条件下(ヒートエージング)における物性低下の抑制を実現できる耐熱老化性樹脂組成物、及びその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<耐熱老化性樹脂組成物>
本発明の第1の態様による耐熱老化性樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂と熱老化防止剤とを含む耐熱老化性樹脂組成物であって、前記熱老化防止剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛からなる群より選択される1種であること、及び前記熱老化防止剤の含有量として次の条件A又はBを満足すること、を特徴としている。
条件A:熱老化防止剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、及び水酸化マグネシウムのうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件B:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
また、本発明の第2の態様による耐熱老化性樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂と、熱老化防止剤と、ガラス繊維とを含む耐熱老化性樹脂組成物であって、前記熱老化防止剤が、酢酸ナトリウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかであること、及び前記熱老化防止剤の含有量として次の条件C又はDを満足すること、を特徴としている。
条件C:熱老化防止剤が、酢酸ナトリウムの場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件D:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
ことを特徴としている。
第1の態様と第2の態様とでは、ガラス繊維の有無、及び使用する熱老化防止剤の種類とその含有量において異なる。いずれの態様においても、耐熱老化性に優れるが、本発明において「耐熱老化性」とは、長期加熱条件下(ヒートエージング)において、引張強度、引張伸び、及び抵抗率の低下抑制、誘電率の上昇抑制、及び着色抑制、発生ガスの抑制などをし得る性能を意味する。
以下に、各態様の樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
【0018】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS樹脂)]
PAS樹脂は、第1の態様と第2の態様とにおいて共通成分であり、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。
この場合、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で同一の繰返し単位を用いたポリマー、即ちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。
【0019】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするPPS樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。
又、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが好ましく使用できる。尚、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0020】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0021】
本発明に用いるPAS樹脂の重量平均分子量は、いずれの態様においても、20000〜200000であることが好ましく、30000〜150000であることがより好ましく、50000〜100000であることがさらに好ましい。当該重量平均分子量が20000〜200000の範囲にあるものは、機械的物性、耐熱性(熱老化特性)および流動性のバランスが優れており、好ましい。
【0022】
[熱老化防止剤]
本発明において用いる熱老化防止剤は、いずれの態様においても所定の金属塩が用いられるが、以下の通り、それぞれの態様において用いられる金属塩が異なる。
第1の態様における熱老化防止剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛からなる群より選択される1種が用いられる。これらは2種以上を併用してもよい。
また、第1の態様における熱老化防止剤は、以下の条件A又は条件Bを満足するように配合される。すなわち、熱老化防止剤の含有量は、用いられる金属塩の種類に応じて、条件A又はBに従って配合される。
条件A:熱老化防止剤が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酢酸カリウム、水酸化リチウム、及び水酸化マグネシウムのうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件B:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
条件A及び条件Bのいずれにおいても、上記数値範囲を外れると熱老化防止の効果を発揮することができない。また、条件Aにおける熱老化防止剤の含有量は、40〜200μmol/gとすることが好ましく、60〜120μmol/gとすることがより好ましい。同様に、条件Bにおける熱老化防止剤の含有量は、40〜200μmol/gとすることが好ましく、60〜120μmol/gとすることがより好ましい。
【0023】
第1の態様において、熱老化防止剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛がより好ましく、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛が特に好ましい。
【0024】
一方、第2の態様における熱老化防止剤は、酢酸ナトリウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかが用いられる。
また、第2の態様における熱老化防止剤は、以下の条件C又は条件Dを満足するように配合される。すなわち、熱老化防止剤の含有量は、用いられる金属塩の種類に応じて、条件C又はDに従って配合される。
条件C:熱老化防止剤が、酢酸ナトリウムの場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して40〜280μmol/g含有する。
条件D:熱老化防止剤が、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、及び塩基性炭酸亜鉛のうちのいずれかである場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂に対して20〜280μmol/g含有する。
条件C及び条件Dのいずれにおいても、上記数値範囲を外れると熱老化防止の効果を発揮することができない。また、条件Cにおける熱老化防止剤の含有量は、40〜200μmol/gとすることが好ましく、60〜120μmol/gとすることがより好ましい。同様に、条件Dにおける熱老化防止剤の含有量は、40〜200μmol/gとすることが好ましく、60〜120μmol/gとすることがより好ましい。
【0025】
第2の態様において、熱老化防止剤としては、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛が特に好ましい。
【0026】
本発明の耐熱老化性樹脂組成物において、各成分を混合して混合物を調製するに当たり、熱老化防止剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する場合は少量の純水に溶解させてPAS樹脂にまぶして添加して混合物を調製すればよく、それ以外の熱老化防止剤の場合は、全て粉末のままPAS樹脂と混合して添加して混合物を調製すればよい。
【0027】
[ガラス繊維]
ガラス繊維は、第2の態様の耐熱老化性樹脂組成物のみにおいて、機械強度の向上を目的として配合される。使用し得るガラス繊維としては、繊維長や繊維径などの形状に特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して使用することができる。
【0028】
本発明の第2の態様の熱老化性樹脂組成物において、ガラス繊維はPAS樹脂100質量部に対して5〜300質量部配合することが好ましく、20〜100質量部配合することがより好ましい。当該ガラス繊維の配合量が5〜300質量部の範囲にあるものは、機械強度および流動性のバランスが優れており、好ましい。
【0029】
使用可能なガラス繊維として、上市しているものとしては、例えば、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−747H)、オーウェンスコーニング製造(株)製、チョップドガラス繊維(CS GL−HF)等が挙げられる。
なお、ガラス繊維は、後記の次亜燐酸塩によって表面処理したものであってもよい。そのようなガラス繊維としては、上記のオーウェンスコーニング製造(株)製、チョップドガラス繊維(CS GL−HF)等が挙げられる。
【0030】
[次亜燐酸塩]
本発明の第2の態様における耐熱老化性樹脂組成物においては、さらに次亜燐酸塩を配合することが好ましい。当該次亜燐酸塩を配合することで、熱老化防止剤と相まって、初期物性(引張強度、引張伸び、曲げ強度、曲げ破壊歪み、シャルピー衝撃強さなど)の低下を抑制することができる。次亜燐酸塩としては、次亜燐酸カルシウムが好ましい。なお、当該次亜燐酸塩は金属塩に属するものではあるが熱老化防止能がないことから、本発明に係る熱老化防止剤には含まれない。また、次亜燐酸塩の含有量についても金属塩たる熱老化防止剤の含有量にも算入しない。
次亜燐酸塩は上記の通り初期物性の低下の抑制に寄与するが、熱老化の速度を若干早める傾向にあるため、次亜燐酸塩の含有量としては、PAS樹脂に対して0.1〜50μmol/gであることが好ましく、0.1〜35μmol/gであることがより好ましく、0.1〜20μmol/gであることがさらに好ましい。なお、上述のように、ガラス繊維の表面処理に次亜燐酸塩を使用する場合においても、PAS樹脂に対する次亜燐酸塩の好ましい含有量は上記範囲と同じである。つまり、次亜燐酸塩によって表面処理されたガラス繊維を用いる場合には、その表面処理剤としての次亜燐酸塩と別添する次亜燐酸塩との合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
[他の成分]
本発明の熱老化性樹脂組成物においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、ガラス繊維以外の無機充填材、滑剤、カーボンブラック、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、その他の樹脂等の高分子や、添加剤を含有していてもよい。
【0032】
本発明の耐熱老化性樹脂組成物は、以上の各成分を含んでなるが、熱老化防止剤を含有させるタイミングとしては特に制限はなく、例えばPAS樹脂の重合中、洗浄中、押出時などが挙げられる。中でも押出時が好ましく、例えば、熱老化防止剤を含む上述の各成分を混合して得た混合物を押出機に投入して溶融混練することができる。
【0033】
<成形品>
本発明の成形品は、既述の本発明の耐熱老化性樹脂組成物を成形してなることを特徴としている。本発明の耐熱老化性樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本発明の耐熱老化性樹脂組成物に係る各成分を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
本発明の成形品としては、具体的には、自動車部品、重機部品、電気機器部品などとしての耐熱老化樹脂成形品に適用することができる。より具体例としては、モーターコイルの被覆材、モーターインシュレーター、ランプリフレクター等が挙げられるが、本発明の成形品はこれらに限定されることはない。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
各実施例・比較例において、表1に示す各原料成分をドライブレンドして得た混合物を、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。なお、水酸化ナトリウムについては、予め純水に溶解させPAS樹脂にまぶして混合に供した。表1に示す各原料成分の詳細を以下に記す。
(A)PAS樹脂
PPS樹脂1:(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A、重量平均分子量(Mw):64000)
ここで、PPS樹脂1の重量平均分子量(Mw)は以下のようにして測定して得た。
[重量平均分子量(Mw)の測定法]
溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、PPS樹脂1をオイルバスで230℃/10分間加熱溶解後、必要に応じ高温濾過により精製し、0.05質量%濃度溶液を調製した。測定装置としてセンシュー科学製SSC-7000、UV検出器(検出波長:360nm)を用いて高温GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算で分子量を算出した。
(B)熱老化防止剤
水酸化ナトリウム:和光純薬工業(株)製、和光1級
酢酸ナトリウム:和光純薬工業(株)製、和光特級
水酸化カルシウム:関東化学(株)製、特級
酢酸カルシウム:関東化学(株)製、特級
【0036】
次いで、作製したペレットを用いて、下記の方法にて引張試験を行った。
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で厚み1mmtのダンベル試験片を作製し、140℃のホットプレス機で3分間アニール後に、ASTMD638に準じて引張伸び(TE)を測定した(引張速度50mm/min)。
また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し、300、500、1000時間後に取り出し、ASTMD638に準じて引張伸びを測定した。
以上の各測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、実施例1〜5においては、比較例1〜5と比較して、1000時間後の引張伸びの低下が少なかったことが分かる。これらの実施例・比較例の比較から、本発明の耐熱老化性樹脂組成物は耐熱老化性に優れることが分かる。
また、水酸化ナトリウムの添加量においてのみ異なる、実施例1〜3、比較例1〜3の比較から、水酸化ナトリウムの添加量が適切な量でないと、耐熱老化性の効果を奏しないことが分かる。
さらに、熱老化防止剤の種類を異ならせた、実施例1、実施例4〜5、比較例4〜5の比較から、本発明において規定する熱老化防止剤たる金属塩でないと耐熱老化性の効果を奏しないことが分かる。
【0039】
[実施例6〜19、比較例6〜12]
各実施例・比較例において、表2〜4に示す各原料成分を用い、実施例1〜5と同様にしてペレット化した。表2〜4に示す各原料成分のうち、表1に掲げたもの以外について詳細を以下に記す。
(A)PAS樹脂
PPS樹脂2:(株)クレハ製、フォートロンKPS W202A、重量平均分子量(Mw):33000)
なお、PPS樹脂2の重量平均分子量は、前記PPS樹脂1の重量平均分子量の測定と同じ手法により測定して得た。
(B)熱老化防止剤
水酸化亜鉛:添川理化学(株)製
酸化亜鉛:松下アムテック(株)製、パナテトラWZ−0531P
炭酸亜鉛:和光純薬工業(株)製、和光1級
塩基性炭酸亜鉛:和光純薬工業(株)製、和光1級
(C)ガラス繊維
ガラス繊維1:日本電気硝子(株)製、ECS03T−747H
ガラス繊維2:オーウェンスコーニング製造(株)製、CS GL−HF
(D)次亜燐酸塩
次亜燐酸カルシウム:大道製薬(株)製
【0040】
次いで、作製したペレットを用いて、下記の方法にて各種評価を行った。
(1)引張試験
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で厚み4mmtのダンベル試験片を作製しISO 527−1,2に準じて引張強さ(TS)及び引張伸び(TE)の測定を行った。測定結果を表2〜4に示す。
また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し、300、500、1000時間後に取り出し、ISO 527−1,2に準じて引張強さ及び引張伸びの測定を行った。測定結果を表2〜4に示す。
なお、測定機は、オートグラフ全自動引張り試験機AGS−20kNG((株)島津製作所製)を用い、測定は、引張り速度:5mm/min、標線間距離:50mm、つかみ具間距離:115mmの条件で行った。
さらに、初期値に対する上記所定時間経過後の引張強さ及び引張伸びの比の値を保持率として表2〜4に示す。
一方、(1)熱老化防止剤(水酸化亜鉛)の含有量のみが異なる実施例6、7、10、及び比較例6〜7について初期と1000時間後の引張伸びの値をプロットしたプロット図を
図1に、(2)PPS樹脂の重量平均分子量のみが異なる実施例7、9、及び比較例6、9について初期と1000時間後の引張伸びの値をプロットしたプロット図を
図2に、(3)熱老化防止剤の種類のみが異なる実施例7、14、15、及び比較例6、11について初期と1000時間後の引張伸びの値をプロットしたプロット図を
図3に示す。
【0041】
(2)比誘電率の測定方法
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で80mm×80mm×2mmtの平板試験片を作製し、横河・ヒューレット・パッカード(株)製 LCRメータ 4284A及び横河・ヒューレット・パッカード(株)製 誘電体用測定電極 HP16451Bを用いてIEC60250に準じて、測定周波数50Hzでの比誘電率を測定した。また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し、300、500、1000時間後に取り出し、IEC60250に準じて、測定周波数50Hzでの比誘電率を測定した。測定結果を表2〜4に示す。
【0042】
(3)表面抵抗率の測定方法
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で80mm×80mm×2mmtの平板試験片を作製し、デジタル超高抵抗/微小電流計 R8340A アドバンテスト(株)製及び超高抵抗用試料測定箱 TR42 アドバンテスト(株)製を用いてJISK6911に準じて、表面抵抗率を測定した。測定結果を表2〜4に示す。
また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し、300、500、1000時間後に取り出し、ISK6911に準じて、表面抵抗率を測定した。測定結果を表3に示す。
【0043】
(4)色相の測定方法
(1)引張試験と同様に作製したダンベル試験片に対し、日本電色工業製色差計を用いて、JIS Z8722に規定される0°−d方式により測色し、これからJIS Z8730に規定されるハンター色差式によって色相L(黒色度)を求めた。また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し500時間後に取り出し、同様の測定を実施した。結果を表2〜3に示す。
【0044】
(5)発生ガスの測定方法
(1)引張試験と同様に作製したダンベル試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し1000時間後に取り出した。前記試験片をニッパで細かくなるべく同じような大きさ(0.05mm×1mmくらい)に切って、切った後の試験片約20mgを、ガラスウールと共に専用チューブに入れ、TDS Gerstel TDS3 / GC Agilent HP7890 / MS Agilent 5975C triple axisを用いて、320℃×10分間のガス発生量を測定した。定量は、ガラスウールに担持したn−ヘキサデカン1μg(1μg/μl)のメタノール溶液を1μl採取)のエリア値からサンプルエリア値を換算した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表2〜4より、実施例6〜19においては、比較例6〜12と比較して、引張強度(TS)・引張伸び(TE)の保持率が高かったことが分かる。これらの実施例・比較例の比較から、本発明の耐熱老化性樹脂組成物は耐熱老化性に優れることが分かる。
また、熱老化防止剤の有無においてのみ異なる実施例12と比較例10との比較から、熱老化防止剤を用いることで誘電率の上昇抑制、及び抵抗率の低下抑制を実現できたことが分かる。
さらに、主として熱老化防止剤の有無において異なる、実施例7及び実施例14と、比較例6及び比較例11との比較から、熱老化防止剤を用いることで誘電率の上昇抑制を実現できたことが分かる。なお、比較例11は水酸化カルシウムを使用しているが、水酸化カルシウムは本発明の第2の態様において規定する熱老化防止剤たる金属塩でないため、耐熱老化性の効果を奏しないことが分かる。
さらに、熱老化防止剤の有無においてのみ異なる実施例7と比較例6との比較から、熱老化防止剤を用いることで発生ガス量を低減可能であることが分かる。
さらに、主として熱老化防止剤の有無において異なる、実施例7及び14と、比較例6との比較から、熱老化防止剤を用いることで着色抑制を実現できたことが分かる。
さらに、比較例6と実施例10との比較、及び比較例6と実施例7との比較から、本発明の第2の態様(ガラス繊維充填系)では熱老化防止剤の添加によりTS及びTEの初期物性においては若干低下することが分かる。これは、熱老化防止剤(金属塩)が、ガラス繊維とPPS樹脂との界面における化学結合又は相互作用を若干劣化させるためと推定される。ただし、次亜燐酸カルシウムによる表面処理をしたガラス繊維を用いたか否かについてのみが異なる、実施例7及び11、実施例10及び12、実施例16及び18、並びに実施例17及び19の比較、あるいは次亜燐酸カルシウムを添加したか否かについてのみが異なる実施例7及び実施例8の比較から、次亜燐酸カルシウムを添加するといずれもTS及びTEの初期物性の低下は小さい。従って、第2の態様においては、次亜燐酸カルシウムを添加することで、TS及びTEの初期物性の低下が抑制されることが分かる。これは、次亜燐酸カルシウムを添加することで、ガラス繊維とPPS樹脂との界面における相互作用がより強化されて熱老化防止剤による界面への影響が抑制されると推察される。
なお、以上の比較例6、実施例10、及び実施例12における引張伸び(TE)の経時変化を
図4に、比較例6、実施例7、及び実施例8における引張伸び(TE)の経時変化を
図5に示した。
【0049】
一方、
図1より、熱老化防止剤の含有量が本発明に規定する範囲内でないと耐熱老化性に劣ることが分かる。また、
図2より、PPS樹脂の重量平均分子量が大きい方が耐熱老化性に優れることが分かる。さらに、
図3より、熱老化防止剤が本発明で規定する種類のものでないと耐熱老化性に劣ることが分かる。さらに、
図4及び
図5より、ガラス繊維充填系では、ガラス繊維に次亜燐酸カルシウムによる表面処理をしたものを用いることや、次亜燐酸カルシウムを別途添加することで、初期物性の低下が抑制されることが分かる。