(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
麺線の表面を形成し、小麦ふすまを対麺原料粉5〜30質量%含有する2層の外層と、2層の前記外層間に介在し、小麦ふすまを対麺原料粉70〜90質量%含有する1層の内層とを含む三層構造を有し、且つ該内層における小麦ふすまの対麺原料粉含有量が、2層の前記外層それぞれにおける小麦ふすまの対麺原料粉含有量より多く、
麺全体における小麦ふすまの対麺原料粉含有量が42.5質量%以上である、多層麺。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから、小麦ふすまの需要が増してきている。小麦ふすまは、低糖質で、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の栄養素に富み、便秘や下痢の予防・改善等に有用な機能性食品として知られている。しかし、小麦ふすまを小麦粉等に混入して製造した麺は、小麦ふすま特有のざらつきがあり、麺線の表面に滑らかさがなく、喉越しが悪いという問題があった。また、小麦ふすまは、麺の主原料である小麦粉とは色が異なっているため、小麦ふすまを含む麺は、これを含まない通常の麺とは異なる外観を呈し、それ故に、通常の麺とは異なる特殊な扱いを受けることが多く、外観の点でも改良の余地があった。
【0003】
小麦ふすまを含む麺に関し、例えば特許文献1には、平均粒度50ミクロン以下で、粒径が10ミクロン〜50ミクロンの特定小麦ふすまが40重量%以上で構成された小麦ふすまを、穀粉原料に対し5〜20重量%含むことを特徴とした小麦ふすま入りそばが記載されている。この小麦ふすま入りそばは、単一の生地から製造されるもので、多層麺ではない。特許文献1によれば、小麦ふすまの粒度範囲とその添加量とを前記のように規定することで、小麦ふすまを含む利点(食物繊維を多量に含み、低カロリーである)を活かしつつ、従来のそばと外観風味共に変わらないそばが得られるとされている。
【0004】
また特許文献2には、多層麺に小麦ふすまを適用した技術が記載されている。具体的には、小麦ふすま入りの麺の喉越しを良くすることを主たる目的として、小麦粉を主体とし且つ小麦ふすまを含まない2枚の麺帯相互の中間に、小麦ふすまを含む中間層を挿入して三層麺帯とすることが記載されている。特許文献2には、中間層における小麦ふすまの含有量の適切な範囲について記載はないが、実施例では、小麦ふすまの含有量を約50質量%としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、機能性食品として有用な小麦ふすまを含みながらも、食感、風味及び外観が良好な多層麺及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、麺線の表面を形成し、小麦ふすまを対麺原料粉5〜30質量%含有する外層と、該外層よりも内側に存し、小麦ふすまを対麺原料粉20〜90質量%含有する内層とを含んで構成され、且つ該内層における小麦ふすまの対麺原料粉含有量の方が該外層におけるそれよりも多い多層麺である。
【0008】
また本発明は、麺線の表面を形成する外層と、該外層よりも内側に存する内層とを含んで構成される多層麺の製造方法であって、外層用麺生地から作製した外層麺帯と内層用麺生地から作製した内層麺帯とを重ね合わせ、圧延して多層構造の麺帯を作製する工程を有し、前記外層用麺生地は、小麦ふすまを対麺原料粉5〜30質量%含有し、前記内層用麺生地は、小麦ふすまを対麺原料粉20〜90質量%含有し、且つ該内層用麺生地における小麦ふすまの対麺原料粉含有量の方が該外層用麺生地におけるそれよりも多い、多層麺の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機能性食品として有用な小麦ふすまを含みながらも、麺線表面が滑らかであって食感が良好で、且つ小麦ふすまの風味が低減されていて風味も良好であり、更に、特許文献2に記載の如き小麦ふすまを含む従来の多層麺と比べて、色調のグラデーションが自然で外観が良好な多層麺が提供される。本発明の多層麺は、小麦ふすまを含むことで、通常の麺に比して低糖質で、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の栄養素に富んでおり、小麦ふすまの持つ機能性を持ち得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層麺は、麺線の表面を形成する外層と、該外層よりも内側に存する内層とを含んで構成される。本発明の多層麺の構造の一例として、内層の両面側それぞれに外層が積層された積層構造が挙げられる。斯かる積層構造の多層麺における内層は、単一の層であっても良く、組成が互いに同一又は異なる複数の層の積層構造であっても良い。積層構造の多層麺の典型例は、2層の外層の間に1層の内層が介在配置された積層三層構造であるが、本発明の多層麺はこれに限定されず、四層以上が積層された積層多層構造であっても良い。
【0011】
また、本発明の多層麺の構造の他の一例として、外層が内層を同心状に覆う同心状構造が挙げられる。斯かる同心状構造の多層麺における内層は、単一の層であっても良く、相対的に外側に位置する層が相対的に内側に位置する層を覆う同心状構造であっても良い。同心状構造の多層麺の典型例は、外層及び内層がそれぞれ単一の層である同心状二層構造であるが、本発明の多層麺はこれに限定されず、三層以上が同心状に積層された同心状多層構造であっても良い。
【0012】
本発明の多層麺は小麦ふすまを含有する。小麦ふすまは、小麦粒の外皮部を主体とするものである。小麦ふすまとしては、一般的な小麦粉の製造過程で生じる、小麦粒から胚乳を除去した残部、あるいはこの残部からさらに胚芽を除去したもの等を用いることができ、基本的に組成や製造過程を問わない。また、小麦ふすまの原料となる小麦の種類は特に制限されない。
【0013】
本発明において、小麦ふすまとして特に好ましいものは、原料である小麦粒の大きな断片が比較的多く混入している、「粗い小麦ふすま」ではなく、該断片の混入率が比較的低い、「細かい小麦ふすま」(微粉ふすま)である。微粉ふすまを用いることで、麺線の表面の滑らかさが一層向上すると共に麺線の中心部(内層)の食感が向上し、結果として麺線全体の食感が一層良好になり、また、外観に関しては、色調のグラデーションに不自然さがなく、麺線全体の色調に均一感、統一感のある良好な外観が得られやすくなる。ここでいう、微粉ふすまは、具体的には、平均粒径が好ましくは200μm未満、更に好ましくは100μm未満、より好ましくは10〜90μmの範囲にある小麦ふすまである。小麦ふすまの平均粒径は、測定対象の小麦ふすまの粒径分布を測定することにより測定可能であり、この粒径分布は、例えば日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定することができる。このような微粉ふすまは、例えば、原料小麦を粉砕して得られた通常の小麦ふすまを、更に粉砕し分級することで得られる。
【0014】
本発明の多層麺において、外層は小麦ふすまを対麺原料粉5〜30質量%含有し、内層は小麦ふすまを対麺原料粉20〜90質量%含有し、且つ小麦ふすまの麺原料粉に対する含有量は、外層よりも内層の方が多い。このように、小麦ふすまを麺線の内側に多く偏在させることで、小麦ふすまを配合することによる不都合、例えば、麺線の表面の滑らかさが失われる、喉越しが悪くなる、外観不良等が回避され、小麦ふすまの持つ機能性(便通を良くする等)を活かすことが可能となる。多層麺に小麦ふすまの持つ機能性を確実に付与するためには、多層麺に比較的多量の小麦ふすまを含有させる必要があるところ、その必要性に対応するのは主として内層であり、内層には、食感や外観等に影響を与えない範囲で、なるべく多量の小麦ふすまが含有されることが好ましい。一方、外層は、主として、小麦ふすまをこのように比較的多量に含有する内層の欠点を補うためのものであり、本発明において、外層にも小麦ふすまを含有させている最大の理由は、内層と外層との色の違いによる不自然さを解消し、外観の良好な多層麺とするためである。特許文献2記載のふすま入りそばのように、小麦ふすまを含有する内層に対し、外層に小麦ふすまが全く含有されていないと、内外層の色の違いが際立ち、外観が不自然な感じのものとなってしまう。
【0015】
本発明の多層麺において、外層における小麦ふすまの含有量は、外層の麺原料粉に対して、好ましくは10〜20質量%であり、内層における小麦ふすまの含有量は、内層の麺原料粉に対して、好ましくは40〜90質量%である。尚、ここでいう、「外層における小麦ふすまの含有量」は、多層麺が前記積層三層構造を有している場合は、2層の外層それぞれについての小麦ふすまの含有量を意味し、特に断らない限り、小麦ふすま以外の他の成分についても同じ意味である。
【0016】
本発明に多層麺を構成する外層及び内層は、それぞれ通常、小麦ふすま以外に穀粉を含有する。穀粉としては、中華麺、パスタ等の麺類の製造に用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉の他、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、そば粉、米粉、豆粉等が挙げられ、多層麺の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明に多層麺を構成する外層及び内層は、小麦ふすま及び穀粉以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、及びこれらにα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉;小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、かんすい、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、酵素剤等が挙げられ、多層麺の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
尚、本発明において「麺原料粉」は、麺線の製造に用いられる常温常圧下で粉状の原料であり、具体的には例えば、小麦ふすま;小麦粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉;乾燥グルテン、澱粉、卵白粉、増粘剤等が挙げられる。一方、食塩、かんすい等の副原料は、本発明でいう麺原料粉には含まれない。
【0019】
本発明の多層麺が前記積層三層構造(外層/内層/外層)を有している場合、三層全体の厚みは1〜3mmであることが好ましく、また、各層の厚みの比は、粘弾性のバランスを良好にし且つ食感を向上させる観点から、好ましくは外層/内層/外層=2/1/2〜1/6/1、更に好ましくは外層/内層/外層=2/1/2〜1/4/1である。前記積層三層構造において、2層の外層の厚みは、互いに異なっていても良いが、同程度の厚みであることが好ましい。
【0020】
本発明の多層麺は、この種の多層麺(麺線の表面を形成する外層と、該外層よりも内側に存する内層とを含んで構成される多層麺)と同様に製造することができる。本発明の多層麺の製造方法には、外層用麺生地から作製した外層麺帯と内層用麺生地から作製した内層麺帯とを重ね合わせ、圧延して多層構造の麺帯を作製する工程を有するものが含まれる。外層用麺生地は、小麦ふすまを対麺原料粉5〜30質量%含有し、内層用麺生地は、小麦ふすまを対麺原料粉20〜90質量%含有し、且つ該内層用麺生地における小麦ふすまの対麺原料粉含有量の方が該外層用麺生地におけるそれよりも多い。斯かる工程は、特に、前述した積層構造(積層三層構造)の多層麺の製造に有効である。
【0021】
外層用麺生地及び内層用麺生地は、それぞれ、常法に従って作製することができる。例えば外層用麺生地を作製する場合、前述した外層の原料(麺原料)に所定量の水を加え、必要に応じ更に、かんすい、食塩等を加えて混捏すれば良い。麺原料への加水量は、麺原料100質量部に対し、好ましくは30〜70質量部、更に好ましくは33〜65質量部である。
【0022】
こうして得られた外層用麺生地を圧延することで、外層麺帯が得られる。内層用麺生地及び内層麺帯もこれと同様の手順で作製することができる。外層麺帯と内層麺帯とを重ね合わせ、常法に従って圧延して多層構造の麺帯を作製した後、該多層構造の麺帯から常法に従って麺線を切り出すことで、目的とする多層麺(生麺)が得られる。
【0023】
本発明の多層麺は、麺の種類が制限されるものではないが、パスタ、中華麺、うどん、そばであることが好ましく、中華麺であることがより好ましい。また、本発明の多層麺は、生麺の他、茹で麺、蒸し麺、冷凍麺、乾麺、半生麺、即席麺(ノンフライ即席麺、フライ即席麺)等にも適用可能である。
【実施例】
【0024】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0025】
〔実施例1〜5並びに比較例2及び3〕
下記表1に示す配合の麺原料100質量部に、かんすい(オリエンタル酵母工業社製「かんすいCS」)1質量部、食塩1質量部を溶解させた水を加え、製麺用ミキサーを用いて、常法により高速(90rpm)で10分間混捏し、圧延して、厚さ6mmの外層用シート状麺生地及び厚さ12mmの内層用のシート状麺生地を作製した。麺原料として用いたものは次の通り。平均粒径50μmの小麦ふすま、小麦粉(日清製粉株式会社製「特ナンバーワン」)、乾燥グルテン(日本コロイド株式会社製「スーパーグル85H」)。
2枚の前記外層用麺生地の間に1枚の前記内層用麺生地を介在配置させ、その積層物を圧延して外層/内層/外層の三層麺帯とした後、#22角の切り刃を通して、1.3mm厚の麺線とし、三層構造の生中華麺を得た。
なお、実施例5は、参考例である。
【0026】
〔比較例1〕
下記表1に示す配合の麺原料(表1における「外層」欄に記載)を用い、常法に従って単層構造の生中華麺を得た。
【0027】
〔評価試験〕
評価対象の生中華麺100gを熱湯で1分間茹でた後、その茹でた中華麺を、温かいラーメンスープの入った容器に入れてラーメンを得た。このラーメンについて麺の滑らかさ(食感)、風味及び外観をそれぞれ下記評価基準によりパネラー10人に評価してもらった。その結果(パネラー10人の平均点)を下記表1に示す。
【0028】
(滑らかさの評価基準)
・比較例1を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比べ、麺線表面の滑らかさが極めて良好(小麦ふすまを含まない通常の中華麺と遜色ないレベル)。
4点:対照品に比べ、麺線表面の滑らかさが良好。
3点:対照品と麺線表面の滑らかさが同程度。
2点:対照品に比べ、麺線表面がザラザラしていて滑らかさに劣る。
1点:対照品に比べ、麺線表面がかなりザラザラしていて滑らかさに極めて劣る。
【0029】
(風味の評価基準)
・比較例1を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比べ、小麦ふすまの風味がかなり低減し、極めて良好。
4点:対照品に比べ、小麦ふすまの風味が低減し、良好。
3点:対照品と小麦ふすまの風味が同程度。
2点:対照品に比べ、小麦ふすまの風味が強く、好ましくない。
1点:対照品に比べ、小麦ふすまの風味がかなり強く、極めて好ましくない。
【0030】
(外観の評価基準)
・比較例2を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比べ、麺の色調がごく自然で、極めて優れる。
4点:対照品に比べ、麺の色調がより優れる。
3点:対照品と麺の色調が同程度。
2点:対照品に比べ、麺の色調が不自然で外観に劣る。
1点:対照品に比べ、麺の色調がかなり不自然で外観にかなり劣る。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、各実施例は、各比較例に比して滑らかさ(食感)、風味及び外観の全ての評価項目が4点以上の高評価であった。比較例2は、内層には小麦ふすまが含まれているが外層には小麦ふすまが含まれていない多層麺であり、特許文献2記載の麺類に対応するものであるところ、外層に小麦ふすまが含まれていないため、麺線の表面の滑らかさは良好であったが、その一方で、該外層と小麦ふすまを大量に含む内層との色の違いが際立ち、外観が不自然な感じのものとなって低評価となった。以上のことから、機能性食品として有用な小麦ふすまを含みながらも食感、風味及び外観が良好な多層麺を得るためには、外層及び内層それぞれに小麦ふすまを前記特定量含有させることが有効であることがわかる。