【実施例】
【0091】
〔豆乳発酵エキスの作製〕
[実施例1−1]
<菌前培養をMRS培地で行った豆乳発酵エキスの調製>
豆乳発酵エキスは、以下に示す方法で調製した。
【0092】
表1に記載の各種L.delbrueckii(独立行政法人理化学研究所より入手)をMRS培地に接種し、37℃で24時間前培養した。培養培地を遠心して集菌した後、10倍濃縮した菌液をそれぞれ無調整豆乳(キッコーマンソイフーズ社製)に接種し、37℃で48時間、嫌気培養した。培養終了後、100℃で30分間加熱し、次いで、エタノールを含量50%(v/v)となるように添加し撹拌した。この添加液を4℃で24時間静置した後、不溶物を遠心および濾過によって除去し、清澄な豆乳発酵エキスを得た。
【0093】
[実施例1−2]
<菌前培養を無調整豆乳で行った豆乳発酵エキスの調製>
豆乳発酵エキスは、以下に示す方法で調製した。
L.delbrueckii JCM 1105を無調整豆乳に接種し、37℃で24時間前培養した。培養培地を遠心して集菌した後、10倍濃縮した菌液を無調整豆乳(キッコーマンソイフーズ社製)に接種し、37℃で48時間培養した。培養終了後、100℃で30分間加熱し、次いで、エタノールを含量50%(v/v)となるように添加し撹拌した。この添加液を4℃で24時間静置した後、不溶物を遠心および濾過によって除去し、清澄な豆乳発酵エキスを得た。L.delbrueckii JCM 1148を用いて同様の操作を行った場合も、清澄な豆乳発酵エキスが得られた。
【0094】
[比較例1]
<豆乳抽出エキス(非発酵)の調製>
無調整豆乳(キッコーマンソイフーズ社製)を100℃で30分間加熱し、次いで、エタノールを含量50%(v/v)となるように添加した後、遠心および濾過を行って清澄な豆乳抽出エキス(非発酵)を得た。
[実施例2]
<胚軸発酵エキスの調製>
胚軸発酵エキスは、以下に示す方法で調製した。
ミルで破砕した胚軸に16%重量で精製水を加え、室温で5時間浸漬させた。次いで、100℃で2時間加熱処理を行った後、遠心および加熱滅菌処理を行い、得られた液を胚軸抽出液とした。L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105またはL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148(独立行政法人理化学研究所より入手)をMRS培地に接種し、37℃で24時間前培養し、培養培地を遠心して集菌した後、胚軸抽出液に接種し、37℃で72時間培養した。培養終了後、100℃で30分間加熱し、含量エタノールを50%(v/v)となるように添加して撹拌し、4℃で24時間静置した後、不溶物を遠心および濾過によって除去し、清澄な胚軸発酵エキスを得た。
【0095】
[比較例2]
<胚軸抽出エキス(非発酵)の調製>
実施例2で調製した胚軸抽出液を100℃で30分間加熱し、次いで、エタノールを含量50%(v/v)となるように添加し、遠心および濾過を行って清澄な胚軸抽出エキス(非発酵)を得た。
【0096】
〔試料の各種分析〕
[分析例1]
(a)イソフラボンの定量分析
試料は全てPTFE 0.45μmフィルターで濾過した後、下記の条件でHPLC(東ソー社製、LC−8020)に付し、イソフラボン配糖体およびイソフラボンアグリコンを分離、検出した。HPLCカラムはYMC−Triart C18(YMC社製,TA12S03−0546WT,50×4.6mmI.D.,粒子径3μm)を使用した。溶離には、溶離液A(アセトニトリル:精製水:蟻酸=10:90:0.1)と溶離液B(アセトニトリル:精製水:蟻酸=60:40:0.1)をそれぞれ5%および95%含む溶液で開始し、溶離液A 35%、溶離液B 65%で終了する直線濃度勾配を用いた。流速は、2.0mL/minとし、UV検出器を用いて、254nmにおける吸光度を測定した。試料中のイソフラボン含量は、標準液と試料のHPLCチャートより、それぞれ各イソフラボンのピーク面積を求めて算出した。標準化合物として、和光純薬社製のイソフラボン化合物の精製品(ダイジン、グリシチン、ゲニスチン、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステイン、6”−O−アセチルダイジン、6”−O−アセチルグリシチン、6”−O−アセチルゲニスチン、6”−O−マロニルダイジン、6”−O−マロニルグリシチンおよび6”−O−マロニルゲニスチン)を用いた。
【0097】
また、イソフラボン配糖体からイソフラボンアグリコンへの変換率は、発酵前後のイソフラボン配糖体(マロニル配糖体を含む)のモル濃度を算出し、[(発酵前のイソフラボン配糖体)−(発酵後のイソフラボン配糖体)]/(発酵前のイソフラボン配糖体)×100(%)として算出した。
各実施例および比較例のサンプルならびに市販の豆乳発酵液の各種イソフラボンの濃度を表1に示す。
【0098】
実施例1−1にて調製した豆乳発酵エキスについて、用いる乳酸菌の種類によってアグリコン化の有無に違いがあった。L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148およびL.delbrueckii subsp.bulgaricus JCM 1001を用いた場合には、イソフラボン配糖体であるダイジンおよびゲニスチンの減少とイソフラボンアグリコンであるダイゼインおよびゲニステインの生成が認められ、イソフラボンアグリコン高含有の豆乳発酵エキスを得た。これらのイソフラボンアグリコンの濃度は、すでに市販されている豆乳発酵液よりも高いものであった。また、実施例1−2にて調製した豆乳発酵エキスおいてもイソフラボンのアグリコン化が認められたことから、豆乳発酵エキス作製の菌前培養には、MRS培地だけでなく無調整豆乳も使用できることが明らかとなった。
【0099】
一方で、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1010およびL.delbrueckii subsp.delbrueckii JCM 1012を用いて作製した豆乳発酵エキスにおいては、イソフラボンのアグリコン化は認められなかった。
【0100】
また、実施例2にて調製した胚軸発酵エキスについても、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148を用いたとき、比較例2にて調製した胚軸抽出エキス(非発酵)と比較して、イソフラボン配糖体であるダイジン、グリシチンおよびゲニスチンの減少とイソフラボンアグリコンであるダイゼイン、グリシテインおよびゲニステインの増加が認められた。胚軸発酵エキスのイソフラボンアグリコン含有量は、発酵に同一の乳酸菌を用いて調製した実施例1−1の豆乳発酵エキスよりもさらに高いものであった。特に、後述の試験例4においてAGEs生成阻害活性への寄与が特に大きいことが示されたグリシテインを200μM以上と多量に含むものであった。
【0101】
【表1】
【0102】
[分析例2]
(b)ポリアミンの定量分析
試料は全てPTFE 0.45μmフィルターで濾過した後、Novella−Rodriguez S.et al.,J.Agric.Food Chem.,48,5117−5123(2000)らの方法に基づいて、HPLCを用いてポリアミンを分析した[カラム:Nova Pack C
18, 3.9 ×150mm,粒径4μm(Waters社製)]。
各実施例および比較例のサンプルならびに市販の豆乳発酵エキスの各種ポリアミンの濃度を表2に示す。
【0103】
実施例1−1にて調製した豆乳発酵エキスにおけるプトレッシン、スペルミジンおよびカダベリンの濃度は、比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)と比較して約2.0−2.5倍高いことがわかった。これらのポリアミンの濃度は、すでに市販されている豆乳発酵液よりも高いものであった。
【0104】
また、実施例2にて調製した胚軸発酵エキスにおけるプトレッシン、カダベリンおよびスペルミジンの濃度は、比較例2の胚軸抽出エキス(非発酵)と比較して約1.4−3.0倍高いことがわかった。スペルミンの濃度については、測定限界以下またはプトレッシン、カダベリンおよびスペルミジンの濃度と比較して微量であった。胚軸発酵エキスのポリアミン含有量は、豆乳発酵エキスよりもさらに高いものであり、特に、非常に多量のスペルミジンおよびカダベリンを含有していた。
【0105】
【表2】
【0106】
[分析例3]
(c)全窒素量、pH、グルコース、スクロースおよび乳酸含有量の分析
また、各実施例および比較例のサンプルならびに市販の豆乳発酵液の全窒素量、pH、グルコース、スクロースおよび乳酸含有量を表3に示した。それぞれの分析に用いた手法は以下のとおりである:
【0107】
豆乳発酵エキスおよび胚軸発酵エキスにおいては、豆乳抽出エキス(非発酵)および胚軸抽出エキス(非発酵)に比較して、pHの低下および乳酸生成が認められた。また、豆乳発酵エキスにおける全窒素量は0.040前後、胚軸発酵エキスにおける全窒素量は、0.110前後であった。豆乳発酵エキスおよび胚軸発酵エキスにおけるグルコースおよびスクロースの合計含有量は、市販の豆乳発酵液に比較して著しく低く、全て1.5mg/mL以下であった。
【0108】
【表3】
【0109】
また、上記分析例1〜3の結果をもとに、各実施例および比較例のサンプルならびに市販の豆乳発酵液について、イソフラボンまたはポリアミン量に対する糖質量を算出した結果を以下の表4および5に示す。なお、表4および5中の各成分の含有量は以下のとおり算出した:
(a1)イソフラボン化合物:表1に記載の9種のイソフラボンの合計量(μM)
(a2)イソフラボンアグリコン:表1に記載のダイゼイン、グリシテインおよびゲニステインの合計量(μM)
(b)ポリアミン:表2に記載のプトレッシン、スペルミジンおよびカダベリンの合計量(μM)
(c)糖質:表3に記載のグルコースおよびスクロースの含有量をμMに換算後の合計量(mg/mL)
【表4】
【表5】
【0110】
〔試作品の効果効能評価〕
[試験例1]表皮角化細胞における発酵エキスの細胞賦活作用の評価
実施例1−1および実施例2で調製した発酵エキスのうち、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148を用いて調製した発酵エキスならびに比較例1および2で調製した抽出エキス(非発酵)について、以下に示す方法で表皮角化細胞における細胞賦活作用を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0111】
正常ヒト表皮角化細胞[クラボウ社製,製品名NHEK(NB)]を1ウェルあたり5×10
3個となるように96ウェルマイクロプレートに播種し、37℃、二酸化炭素濃度5vol%中にて48時間培養した。播種培地にはHuMedia−KG2培地(クラボウ社製)を用いた。次いで、HuMedia−KB2(クラボウ社製)培地を用いて各濃度に調製した試料培養液に交換し、さらに48時間培養した。各試料培養液の最終エタノール濃度は1%になるように調製を行った。
【0112】
培養終了後、Cell Counting Kit−8(同仁化学社製)を用い、生細胞数を測定した。評価には、試料培養液の他に、ポジティブコントロールとしてHuMedia−KG2を、各試料のブランクとして1%エタノール含有HuMedia−KB2を用いた。
【0113】
表皮角化細胞における細胞賦活作用評価結果を、試料無添加のブランクにおける細胞賦活作用を100とした相対値[Index(%)]にて
図1に示した。ブランクであるエタノール1%および比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)においては有意な表皮細胞賦活作用が認められなかったのに対し、実施例1−1の豆乳発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルではともに124%と、有意な細胞賦活作用が認められた。また、実施例2の胚軸発酵エキスについても、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは152%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは151%と、いずれも有意な細胞賦活作用が認められ、また、比較例2の胚軸抽出エキス(非発酵)と比較して高い作用を示し、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。
図1より明らかなように、本発明の発酵エキスは、正常ヒト表皮角化細胞に対して非常に強力な細胞賦活作用を有していることが確認された。
【0114】
[試験例2]皮膚線維芽細胞における発酵エキスの細胞賦活作用の評価
試験例1と同様のサンプルについて、以下に示す方法で皮膚線維芽細胞における細胞賦活作用を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0115】
正常ヒト皮膚線維芽細胞[クラボウ社製,製品名NHDF(NB)]を1ウェルあたり2×10
3個となるように96ウェルマイクロプレートに播種し、37℃、二酸化炭素濃度5vol%中にて48時間培養した。播種培地には、10%FBS含有DMEM培地(ライフテクノロジー社製)を用いた。次いで、FBS不含DMEM培地を用いて各濃度に調製した試料培養液に交換し、さらに48時間培養した。各試料培養液の最終エタノール濃度は1%になるように調製を行った。
【0116】
培養終了後、Cell Counting Kit−8(同仁化学社製)を用い、生細胞数を測定した。評価には、試料培養液の他に、ポジティブコントロールとして10%FBS含有DMEM培地を、各試料のブランクとして1%エタノール含有FBS不含DMEM培地を用いた。
【0117】
皮膚線維芽細胞における細胞賦活作用評価結果を、試料無添加のブランクにおける細胞賦活作用を100とした相対値[Index(%)]にて
図2に示した。ブランクであるエタノール1%および比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)においては皮膚線維芽細胞賦活作用が認められなかったのに対し、実施例1−1の豆乳発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは113%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは117%と、いずれも有意な細胞賦活作用が認められ、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。また、実施例2の胚軸発酵エキスについても、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは132%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは137%と、強力な細胞賦活作用が認められ、胚軸発酵エキスの効果は、実施例1−1の豆乳発酵エキスと比較してより高いものであった。
図2より明らかなように、本発明の発酵エキスは、正常ヒト皮膚線維芽細胞に対して非常に強力な細胞賦活作用を有していることが確認された。
【0118】
[試験例3]発酵エキスの抗酸化作用(DPPHラジカル消去活性)の評価
試験例1と同様のサンプルおよび市販の豆乳発酵エキスについて、以下に示す方法で抗酸化作用(DPPHラジカル消去活性)を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0119】
96ウェルマイクロプレートに試料を40μLずつ添加した。そこへ、0.1Mリン酸緩衝液(pH5.5)および0.15mMの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)メタノール溶液をそれぞれ80μLずつ添加し、よく混合した後、室温、暗所にて1時間静置した。静置後、DPPHラジカルに由来する517nmの吸光度を測定した。試料無添加の場合の吸光度を(A)、試料を添加した場合の吸光度を(B)としたとき、DPPHラジカルの消去率は次式に定義される。
DPPHラジカル消去率={1−(B)/(A)}×100
抗酸化作用を有するポジティブコントロールとしてTroloxを、各試料のブランクとして50%エタノールを用いた。
【0120】
抗酸化作用(DPPHラジカル消去活性)評価結果を
図3に示した。比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)におけるDPPHラジカル消去活性は54%であったのに対し、実施例1−1の豆乳発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは76%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは69%と高いDPPHラジカル消去活性が認められ、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。また、比較例2の胚軸抽出エキス(非発酵)におけるDPPHラジカル消去活性は77%であったのに対し、実施例2の胚軸発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは82%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは80%と非常に高いDPPHラジカル消去活性が認められ、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。また、胚軸発酵エキスの効果は、実施例1−1の豆乳発酵エキスに比較してより高いものであった。一方で、A社およびB社製の豆乳発酵エキスには、DPPHラジカル消去活性はほとんど認められなかった。
図3より明らかなように、本発明の発酵エキスは、非常に強力な抗酸化作用を有していることが確認された。
【0121】
同様の方法で、イソフラボン標品の抗酸化作用を評価した結果を
図4に示した。実施例1−1のL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵した豆乳発酵エキスに含まれるイソフラボンよりも多い200μMのイソフラボン標品においても、高いDPPHラジカル消去活性は認められなかった。このことから、発酵エキスのDPPHラジカル消去活性の大部分は、イソフラボン以外の有効成分によって発揮されていると考えられた。よって、本発明の発酵エキスは、抗酸化物質として広く知られているイソフラボンに加えて、イソフラボン以外の高い抗酸化能を有する成分を含有しており、非常に強力な抗酸化作用を発揮することが確認された。
【0122】
[試験例4]発酵エキスの抗糖化作用の評価
試験例3と同様のサンプルについて、以下に示す方法で抗糖化作用を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0123】
1.5mLマイクロチューブに500μLの0.1M PBS、20μLの40mg/mLヒト血清アルブミン、100μLの2Mグルコース溶液、360μLの蒸留水および20μLの試料を添加し、よく混合した後60℃で40時間インキュベートした。同時に各反応ブランクとして、グルコース溶液の代わりに蒸留水を添加したものをインキュベートした。陽性コントロールとして試料の代わりに蒸留水を添加したものを、陽性コントロールブランクとして、陽性コントロールのグルコース溶液の代わりに蒸留水を添加したものをインキュベートした。インキュベート後、96ウェルプレートに試験溶液を分注し、励起波長370nm、蛍光波長440nmにて蛍光を測定した。試料添加の場合の蛍光を(A)、反応ブランクの蛍光を(B)、陽性コントロールの蛍光を(C)、陽性コントロールブランクの蛍光を(D)としたとき、AGEs生成阻害活性は次式に定義される。
AGEs生成阻害活性={1−(A−B)/(C−D)}×100
また、AGEs生成阻害活性を有するポジティブコントロールとして、アミノグアニジンを用いた。
【0124】
発酵エキスの抗糖化作用評価結果を
図5に示した。比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)におけるAGEs生成阻害活性は17%であったのに対し、実施例1−1の豆乳発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105で発酵したサンプルでは30%、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルでは36%と高いAGEs生成阻害活性が認められ、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。また、比較例2の胚軸抽出エキス(非発酵)におけるAGEs生成阻害活性は81%であったのに対し、実施例2の胚軸発酵エキスにおいては、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵したサンプルともに100%という非常に高いAGEs生成阻害活性が認められ、豆乳発酵エキスと同様に、発酵によって作用が増強する傾向が認められた。また、胚軸発酵エキスの効果は、実施例1−1の豆乳発酵エキスに比較してより高いものであった。一方で、A社およびB社製の豆乳発酵エキスには、AGEs生成阻害活性は認められなかった。
図5より明らかなように、本発明の発酵エキスは、非常に強力な抗糖化作用を有していることが確認された。
【0125】
同様に、イソフラボン標品の抗糖化作用を評価した結果を
図6に示した。豆乳発酵エキスに含まれるダイジン、ダイゼイン、ゲニスチンおよびゲニステインについては、実施例1−1のL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1105およびL.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148で発酵した豆乳発酵エキスに含まれる濃度よりも高い200μMの標品においても、豆乳発酵エキスに匹敵する強力な抗糖化作用は認められなかった。このことから、豆乳発酵エキスの抗糖化作用は、イソフラボンの組み合わせによって相乗的な効果が発揮されているか、もしくはイソフラボン以外の有効成分によっても効果が発揮されている可能性が考えられた。また、グリシテイン200μM標品において非常に顕著なAGEs生成阻害作用が認められたことから、
図5で示した胚軸発酵エキスの抗糖化作用は、主にグリシテインによって発揮されている可能性が考えられた。
【0126】
[試験例5]豆乳発酵エキスの抗酸化作用(細胞保護作用)の評価
実施例1−1で調製した豆乳発酵エキスのうち、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148を用いて調製した豆乳発酵エキスおよび比較例1で調製した豆乳抽出エキス(非発酵)について、以下に示す方法で抗酸化作用(細胞保護作用)を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0127】
正常ヒト表皮角化細胞[クラボウ社製,製品名NHEK(NB)]を1ウェルあたり10×10
3個となるように96ウェルマイクロプレートに播種し、37℃、二酸化炭素濃度5vol%中にて24時間培養した。播種培地にはHuMedia−KG2培地(クラボウ社製)を用いた。次いで、HuMedia−KB2(クラボウ社製)培地を用いて各濃度に調製した試料培養液に交換し、さらに24時間培養した。各試料培養液の最終エタノール濃度は1%になるように調製を行った。試料培養液への交換から24時間後に、tert−butyl hydroperoxide(t−BHP)を最終濃度0.5mMとなるように曝露し、2時間培養した。次いで、各ウェルをHBSS(−)で十分に洗浄した後、HuMedia−KB2培地でさらに22時間培養を行った。
【0128】
培養終了後、Cell Counting Kit−8(同仁化学社製)を用い、細胞生存率を算出した。評価には、試料培養液の他に、ポジティブコントロールとしてTroloxを、TroloxのブランクとしてDMSOを、各試料のブランクとして1%エタノール含有HuMedia−KB2培地を用いた。
【0129】
抗酸化作用(細胞保護作用)評価結果を
図7に示した。比較例1の豆乳抽出エキス(非発酵)における細胞生存率は14%であったのに対し、実施例1−1の豆乳発酵エキスにおいては48%と高い細胞生存率が認められ、発酵によって細胞保護作用が増強する傾向が認められた。
図7より明らかなように、本発明の豆乳発酵エキスは、非常に強力な抗酸化作用を有していることが確認された。
【0130】
[試験例6]豆乳発酵エキスの保湿作用の評価
実施例1−1で調製した豆乳発酵エキスのうち、L.delbrueckii subsp.lactis JCM 1148を用いて調製した豆乳発酵エキスについて、以下に示す方法でヒトin vivoにおける保湿作用を評価した。試料は全て、1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH7.4±0.05に調整した後、0.20μmフィルターで濾過滅菌を行った。
【0131】
豆乳発酵エキスを用いて、表6の処方に基づき2種類の化粧水を作製し、試験試料とした。
【0132】
【表6】
【0133】
被験者の前腕内側部に3cm四方の試験部位を取り、試験試料を1日3回、3日間塗布した。試験試料の最終塗布から8〜10時間後に、角層水分量および経皮水分蒸散量の測定を行った。角層水分量の測定には高感度角層膜厚・水分計ASA−MX3を、経皮水分蒸散量の測定にはバポスキャンAS−VT100RSを用いた(ともにアサヒバイオメッド社製)。
【0134】
豆乳発酵エキスの保湿作用評価結果を
図8および
図9に示した。3名の被験者いずれにおいても、豆乳発酵エキス含有化粧水の塗布によって角層水分量が10%以上増加した。また、豆乳発酵エキス含有化粧水の塗布によって経皮水分蒸散量は10%以上減少する傾向が認められた。このことから、豆乳発酵エキスは角層水分量増加作用および角層バリア機能増強作用を有しており、ヒトin vivoにおいて保湿作用を発揮することが確認された。
【0135】
本出願は、2012年12月11日に出願された日本国特許出願第2012−269928号、2013年7月1日に出願された日本国特許出願第2013−137901号、および2013年7月17日に出願された日本国特許出願第2013−148391号に基づく優先権を主張するものであり、この内容はここに参照として組み込まれる。