特許第6323086号(P6323086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6323086熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323086
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/14 20060101AFI20180507BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180507BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180507BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20180507BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   C08L83/14
   C08K3/22
   C08J5/24CFH
   C08G77/50
   C08L63/00 Z
【請求項の数】17
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2014-48704(P2014-48704)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172146(P2015-172146A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝志
(72)【発明者】
【氏名】川畑 毅一
(72)【発明者】
【氏名】田島 晶夫
(72)【発明者】
【氏名】木谷 綾花
(72)【発明者】
【氏名】阿山 亨一
【審査官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/005633(WO,A1)
【文献】 特開2010−174234(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/050105(WO,A1)
【文献】 特開2008−050494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83
C08G 77
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(B)、(C)、および(F)を含有する熱硬化性樹脂組成物。
(A)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物であって、SiH基とアルケニル基とを有する熱硬化性樹脂。
(B)Pt触媒。
(C)硬化禁止剤。
(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物。
ここで、(C)硬化禁止剤は、(B)Pt触媒の配合量(質量)の250〜200,000倍である。
【請求項2】
前記シルセスキオキサンがダブルデッカー型シルセスキオキサンである請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(D)または(E)を含む、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(D)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとアルケニル基を有するエポキシ化合物とアルケニル基を有するシリル化合物とを反応させることにより得られる、SiH基を有する熱硬化性樹脂。
(E)アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂(A)が、下記式(1)で示される化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
式(1)において、Xはそれぞれ独立して、
下記式(X−I)、式(X−II)または式(X−III)で表される基であり、式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(X−I)で表される基と式(X−II)で表される基と式(X−III)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の式(X−I)で表される基の数をa、式(X−II)で表される基の数をb、式(X−III)で表される基の数をcとした場合に、
a+2b+c=4であり、0<a≦3であり、0≦b≦1であり、0<c≦3である。
はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシ
ルから選択される基であり、mは1〜100を満たす平均値である。

式(X−II)において、Rは式(1)におけるRと同様であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは−OSi(R−の繰り返しの数であり、rは、2〜20を満たす平均値である。

式(X−III)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、sは−OSi(R−の繰り返しの数であり、sは、2〜20を満たす平均値である。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂(D)が、下記式(D1)で示される化合物である、請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
式(D1)において、X’はそれぞれ独立して、下記式(a)、式(b)、式(c−i)、式(c−ii)、式(c−iii)、式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基であり、式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(a)で表される基と式(b)〜式(d−iii)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の、
式(a)で表される基の数をA、
式(b)で表される基の数をB、
式(c−i)、式(c―ii)または式(c−iii)で表される基の数をC、
式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基の数をDとした場合に、A+2B+C+D=4であり、0.5≦A≦3.0であり、0.5≦2B≦2.0であり、0.1≦C≦2であり、0≦D≦1.0である。
1’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、m’は1〜100を満たす平均値である。



式(b)において、R1’は式(D1)におけるR1’と同様であり、R2’及びR3’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、tは−OSi(R3’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。


式(d−i)〜(d−iii)において、R、R4’およびR4’’はそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基である。xは−OSi(R4’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。yは−OSi(R4’’−の繰り返しの数であり、1〜10を満たす平均値である。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂(D)が、下記式(D2)で示される化合物である、請求項項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
式(D2)において、R’’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは0〜100の整数である。aiiは、0.1≦aii≦3.5、Xiiは、0≦2Xii≦2.0、Yiiは、0≦Yii≦3.0、Ziiは、0.1≦Zii≦3.5である。
【請求項7】
前記片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物(F)が、下記式(2)で示される化合物である請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、mは−OSi(R−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。
【請求項8】
前記アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物(E)が式(3)で示される化合物である、請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
式(3)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、nは、−OSi(R−の繰り返しの数であり、1〜50を満たす平均値である。
【請求項9】
熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記(D)SiH基を有するシルセスキオキサン、アルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサン、アルケニル基を有するエポキシ化合物およびアルケニル基を有するシリル化合物を反応させることにより得られる、SiH基を有する熱硬化性樹脂を1〜50質量%の割合で含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記熱硬化性樹脂(E)を1〜10質量%の割合で含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物を2〜20質量%含有する、請求項1〜1のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物
【請求項12】
さらに、無機化合物が分散された請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
無機化合物が蛍光体および/または金属酸化物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
80℃の温度で30日間保管条件下での粘度上昇率が50%以内である、請求項1〜1のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜1のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を成型して得られるプリプレグ。
【請求項16】
請求項1に記載のプレプリグを熱硬化させて得られる物品。
【請求項17】
塗膜状またはシート状であり、厚みが0.1μm〜3,000μmである、請求項1に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性、高耐熱性、高透明、耐熱黄変性に優れたシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンから;なる熱硬化性樹脂組成物と、該熱硬化性樹脂組成物を成型して得られる成型体及び、硬化した該成型体を含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LEDパッケージを構成する部材としては金属リードフレーム、リフレクタ樹脂、LEDチップ、金線、封止樹脂並びに蛍光体などが挙げられる。LEDは照明等の用途に市場が拡大しているが、その大出力化に伴いLEDパッケージ内の発熱が問題となっており、構成部材にも高耐熱性が要求されるようになってきている。封止樹脂に関しては、エポキシ樹脂を用いた場合には、その発熱による黄変が避けられなくなっているため、エポキシ樹脂に変わってより耐熱性、耐光性に優れているシリコーン樹脂が白色LEDの封止材料として用いられてきている。一般的に使用されているシリコーン封止樹脂は、付加反応を応用する2液混合型である。これは、異なる組成をもつ2つの組成物を混ぜ合わせ、一方の組成物に含まれる触媒の作用により付加反応を開始させて硬化させるものである。
【0003】
この場合、混合後、室温においても硬化反応が進むために粘度が徐々に上昇し、その後の工程である蛍光体の分散工程、パッケージへのディスペンス工程などにおいて、粘度変化がある故に、工程初期と後期の製品品質で蛍光体の分散状態やディスペンス量変化が発生し、その結果、均質な製品が作りにくいなどの問題がある。また粘度が上昇し続けて最終的にはゲル化または固体化してディスペンスができなくなり、結果として封止樹脂や蛍光体の歩留まりが低下する。さらに、2液混合操作において、混合比率が若干ずれることで、樹脂の硬度や弾性率が変化し、生産ロット間で性能差が発生する問題も指摘されている。
【0004】
このような問題を解決するために、近年、予め2液を混合して−30℃程度の低温保存し、粘度上昇を抑制した製品も販売されているが、使用に際しては室温に戻す必要があり、室温に戻した直後から粘度変化が発生する為、根本的な解決には至っていない。
【0005】
また、粘度変化による蛍光体の分散状態やディスペンス量変化による光学ばらつきを改善するために蛍光体シートの開発も行なわれている。蛍光体シートは発光するチップ上に取り付けられるため、封止樹脂同様に耐熱性、耐光性が必要であり、多くの場合このようなシート形成材料には封止樹脂向けに好適な材料もしくは封止樹脂そのものが転用して使用されている(特許文献1)。
【0006】
この様に蛍光体シートが完全に硬化された場合、接着層を使用してLEDチップに貼りつける必要があり工程が複雑となる。また接着層を用いない場合にはシート形成後に半硬化状態にまで一旦硬化させてシート形成を行ない、その後チップに載せて本硬化すると共に蛍光体シートを接着させる。この場合、半硬化の蛍光体シートは室温においても封止樹脂と同様に徐々に硬化が更に進行し、本硬化の際には接着不良を起こす欠点がある為、保管には非常に低い温度条件を要する(特許文献2)。
【0007】
また、特許文献1には、加工に優れる程度まで硬化を進行させることが記載されているが、最終的にはシート形成温度以上でLEDチップと接着させる為に、やはり半硬化状態であることが必要である。実施例を見ても明らかな通り、転用された封止樹脂はメーカーが硬化に必要としている温度よりも低い温度でフィルムが形成されている。このように半硬化樹脂はやはりその保管に際しては硬化がこれ以上進行しないように非常に低い温度での保管が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−1792号公報
【特許文献2】特開2009−235368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、LED用封止剤や蛍光体シートは2液混合型のシリコーン樹脂を使用する為、混合後の付加反応進行の為に作業性に制限があったり、保存には低温保管が必要となったりしている。そこで本発明は、室温で保存が可能で粘度変化やポットライフによる作業制限を受けず、また従来のような2液混合の工程で発生する分量誤差による性能ばらつきが生じない熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応から得られるSiH基とアルケニル基とを含む熱硬化性樹脂とPt触媒並びに硬化遅延剤からなる熱硬化性樹脂組成物が室温で保存安定性が高く、しかも熱により硬化が可能で、封止材料として好適に使用でき、成型物としても保存安定性が高く、ポストキュアにより好適に硬化物を与え、なおかつ密着性を兼ね備えることを見出した。また、本発明は該熱硬化性樹脂組成物にSiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとアルケニル基を有するエポキシ化合物とアルケニル基を有するシリル化合物とを反応させることにより得られるSiH基を有する熱硬化性樹脂や、片末端にのみSiH基を有するオルガノポリシロキサンを含有させることによっても、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.(A)および(B)を含有する熱硬化性樹脂組成物。
(A)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物であって、SiH基とアルケニル基とを有する熱硬化性樹脂。
(B)Pt触媒。
【0012】
2.さらに、(C)を含む前項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(C)硬化禁止剤。
ここで、(C)硬化禁止剤は、(B)Pt触媒の配合量(質量)の250〜200,000倍である。
【0013】
3.前記シルセスキオキサンがダブルデッカー型シルセスキオキサンである前項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0014】
4.さらに、(D)〜(F)の少なくとも1つを含む、前項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(D)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとアルケニル基を有するエポキシ化合物とアルケニル基を有するシリル化合物とを反応させることにより得られる、SiH基を有する熱硬化性樹脂。
(E)アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物。
(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物。
【0015】
5.前記熱硬化性樹脂(A)が、下記式(1)で示される化合物である、前項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0016】
【0017】
式(1)において、Xはそれぞれ独立して、
下記式(X−I)、式(X−II)または式(X−III)で表される基であり、式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(X−I)で表される基と式(X−II)で表される基と式(X−III)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の式(X−I)で表される基の数をa、式(X−II)で表される基の数をb、式(X−III)で表される基の数をcとした場合に、
a+2b+c=4であり、0<a≦3であり、0≦b≦1であり、0<c≦3である。
はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシ
ルから選択される基であり、mは1〜100を満たす平均値である。
【0018】
【0019】
【0020】
式(X−II)において、Rは式(1)におけるRと同様であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは−OSi(R−の繰り返しの数であり、rは、2〜20を満たす平均値である。
【0021】
【0022】
式(X−III)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、sは−OSi(R−の繰り返しの数であり、sは、2〜20を満たす平均値である。
【0023】
6.前記熱硬化性樹脂(D)が、下記式(D1)で示される化合物である、前項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0024】

【0025】
式(D1)において、X’はそれぞれ独立して、下記式(a)、式(b)、式(c−i)、式(c−ii)、式(c−iii)、式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基であり、式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(a)で表される基と式(b)〜式(d−iii)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の、
式(a)で表される基の数をA、
式(b)で表される基の数をB、
式(c−i)、式(c―ii)または式(c−iii)で表される基の数をC、
式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基の数をDとした場合に、A+2B+C+D=4であり、0.5≦A≦3.0であり、0.5≦2B≦2.0であり、0.1≦C≦2であり、0≦D≦1.0である。
1’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、m’は1〜100を満たす平均値である。
【0026】
【0027】
【0028】
式(b)において、R1’は式(D1)におけるR1’と同様であり、R2’及びR3’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、tは−OSi(R3’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。
【0029】
【0030】
【0031】
式(d−i)〜(d−iii)において、R、R4’およびR4’’はそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基である。xは−OSi(R4’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。yは−OSi(R4’’−の繰り返しの数であり、1〜10を満たす平均値である。
【0032】
7.前記熱硬化性樹脂(D)が、下記式(D2)で示される化合物である、前項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0033】
【0034】
式(D2)において、R’’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは0〜100の整数である。aiiは、0.1≦aii≦3.5、Xiiは、0≦2Xii≦2.0、Yiiは、0≦Yii≦3.0、Ziiは、0.1≦Zii≦3.5である。
【0035】
8.前記片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物(F)が、下記式(2)で示される化合物である前項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0036】
【0037】
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、mは−OSi(R−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。
【0038】
9.前記アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物(E)が式(3)で示される化合物である、前項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0039】
【0040】
式(3)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、nは、−OSi(R−の繰り返しの数であり、1〜50を満たす平均値である。
【0041】
10.熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記(D)SiH基を有するシルセスキオキサン、アルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサン、アルケニル基を有するエポキシ化合物およびアルケニル基を有するシリル化合物を反応させることにより得られる、SiH基を有する熱硬化性樹脂を1〜50質量%の割合で含有する前項1〜9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0042】
11.熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記熱硬化性樹脂(E)を1〜10質量%の割合で含有する前項1〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0043】
12.熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物を2〜20質量%含有する、前項1〜11のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0044】
13.さらに、無機化合物が分散された前項1〜12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0045】
14.無機化合物が蛍光体および/または金属酸化物である、前項13に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0046】
15.80℃の温度で30日間保管条件下での粘度上昇率が50%以内である、前項1〜14のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0047】
16.前項1〜15のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を成型して得られるプリプレグ。
【0048】
17.項16に記載のプレプリグを熱硬化させて得られる物品。
【0049】
18.塗膜状またはシート状であり、厚みが0.1μm〜3,000μmである、前項17に記載の物品。
【発明の効果】
【0050】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、保存安定性に優れるため、室温での粘度変化や化学変化を起こすことがなく、なお且つ高屈折率、高耐熱性、密着性に優れる硬化物及び半硬化物を与えることができる。そのため、本発明の熱硬化性樹脂組成物を利用してなるシリコーン封止樹脂(封止剤)は従来のように直前に2液混合して使用する必要がない。
【0051】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、容易に、半硬化状態のまま任意の形状に成型し、プリプレグとすることができる。保存安定性に優れるため、半硬化状態を長期間維持しており、使用の自由度が極めて高い。さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、無機化合物を分散させて使用することも可能である。
【0052】
さらに、該プリプレグを熱処理し、熱硬化させることができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物はシルセスキオキサン骨格が主成分であるので、その硬化物は耐熱性に優れるとともに、耐UV性にも優れる。さらには、ポリフタルアミド樹脂、銀またはセラミックス等のハウジング基材に対する優れた接着性を示し、吸湿リフロー、ヒートサイクル試験、さらには耐イオウ試験等の厳しい信頼性試験にも耐えうる、室温で保存安定な樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなる優れた成型硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、単独で(A)と表記された場合は、本書では(A)で定義されたものを意味するが、例えば熱硬化性樹脂(A)のように適宜表現しなおすことがある。このルールは、(B)〜(F)も同様である。
【0054】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、以下の(A)および(B)を含有することを特徴とする。
(A)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物であって、SiH基とアルケニル基とを含む熱硬化性樹脂。
(B)Pt触媒。
【0055】
(A)で定義される熱硬化性樹脂(以降、熱硬化性樹脂(A)ともいう)は、SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物である。SiH基を有するシルセスキオキサンとしては、ダブルデッカー型シルセスキオキサンおよびT8構造のカゴ型シルセスキオキサンが挙げられる。T8構造のカゴ型シルセスキオキサンは8個の官能基を有しているのに対して、本発明で用いているダブルデッカー型シルセスキオキサンは4つの官能基しか有しておらず、構造の制御が行いやすい。また完全縮合型のカゴ型シルセスキオキサンと違い、本発明で好適に用いているダブルデッカー型シルセスキオキサンは不完全縮合型であり、分子の自由度が比較的高く、柔軟性に優れる。このような観点からダブルデッカー型シルセスキオキサンが好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂(A)としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0057】
【0058】
式(1)において、Xはそれぞれ独立して、下記式(X−I)、式(X−II)または式(X−III)で表される基である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される基であり、mは1〜100を満たす平均値である。その中でも、mは1が好ましい。
【0059】
【0060】
【0061】
式(X−II)において、Rは式(1)におけるRと同様であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは−OSi(R−の繰り返しの数であり、rは、2〜20を満たす平均値である。rは、2〜10が好ましい。Rは式(1)におけるRと同様である。
【0062】
【0063】
式(X−III)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、sは−OSi(R−の繰り返しの数であり、sは、2〜20を満たす平均値である。sは、2〜10が好ましく、2〜4がより好ましい。
【0064】
式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(X−I)で表される基と式(X−II)で表される基と式(X−III)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の式(X−I)で表される基の数をa、式(X−II)で表される基の数をb、式(X−III)で表される基の数をcとした場合に、a+2b+c=4であり、0<a≦3であり、0≦b≦1であり、0<c≦3である。
【0065】
本発明において、a+2b+c=4であり、0<a≦3であり、0≦b≦1であり、0<c≦3を満たす範囲の化合物について説明する。
【0066】
a>cであれば、一般式(1)で表される前記化合物は、平均的にビニル基よりSiH基の数の方が多く、いわゆるSiH基型の熱硬化性樹脂と定義できる。
【0067】
前記熱硬化性樹脂(A)としては、SiH基型の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。前記aは、硬化物とした際の優れた特性を顕著とさせる観点から、aが1.0〜3.0であることが好ましく、1.5〜2.5であることがより好ましい。一般式(1)で表される上記化合物中の、a、b、cは、発明者の任意により、例えば、国際公開第2011/145638号に記載の製造方法に準拠することにより調整できる。
【0068】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物全量基準で、前記熱硬化性樹脂(A)を50〜95質量%含有することが好ましく、80〜90質量%含有することがより好ましい。熱硬化性樹脂(A)の配合割合を80質量%以上とすることにより、ダブルデッカー型シルセスキオキサンが保有する特性、すなわち耐熱性、耐UV性、高屈折率等の特性を保持させることが可能である。また、熱硬化性樹脂(A)の配合割合を95質量%以下とすることにより、硬化物の硬度をD45以下にすることが可能である。
【0069】
(B)のPt触媒(以降、Pt触媒(B)ともいう)は、熱硬化性樹脂(A)を加熱下に硬化させることができる白金を含む触媒であり、白金は酸化されていなくてもよいし、酸化されていてもよい。酸化された白金としては、例えば、酸化白金が挙げられる。部分的に酸化された白金としては、例えば、アダムス触媒などが挙げられる。
【0070】
白金触媒としては、例えば、カルステッド触媒(Karstedt catalyst)、スパイヤー触媒(Speier catalyst)およびヘキサクロロプラチニック酸などが挙げられる。これらは一般的によく知られた触媒である。このなかでも酸化されていないタイプのカルステッド触媒が好ましく用いられる。
【0071】
全熱硬化性樹脂組成物中の白金触媒(B)の配合割合は、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化を進めるのに十分な量であることが好ましいが、後述する(C)硬化禁止剤との配合割合により、混合後、ある温度以上に上昇する以外には安定した粘度を保持するか、または半硬化させた状態で、ある温度以上に上昇する以外には硬化反応がそれ以上進まず硬度や反応性を保持することが可能な配合割合として、白金純分で10ppb〜200ppbが好適である。好ましくは30ppb〜150ppbであり、より好ましくは50ppb〜100ppbである。
【0072】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前述の熱硬化性樹脂(A)およびPt触媒(B)に加えて、さらに(C)硬化禁止剤を含むことにより、保存安定性が一層向上する。このため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(C)硬化禁止剤を含むことが好ましい。
【0073】
(C)硬化禁止剤(以降(C)成分ともいう)について説明する。
熱硬化性樹脂(A)にPt触媒(B)を配合することで硬化反応がスタートするが、この反応を所定温度まで禁止させる為に配合するのが硬化禁止剤である。
【0074】
硬化禁止剤としては、ヒドロシリル化触媒による付加型硬化性組成物で用いられている公知のものが使用できる。具体的には、例えば、アルケニル基を2個以上含む化合物、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、スズ系化合物および有機過酸化物が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0075】
アルケニル基を2個以上含む化合物としては、例えば、両末端ビニル基含有のジシロキサン、トリシロキサン類および1,3,5,7−テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基含有環状シロキサン類が挙げられる。
【0076】
脂肪族不飽和結合を含有する化合物としては、例えば、3−メチル−1−ドデシン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のプロパギルアルコール類、エン−イン化合物類、無水マレイン酸およびマレイン酸ジメチル等のマレイン酸エステル類が挙げられる。
【0077】
有機リン化合物としては、例えば、トリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類およびトリオルガノフォスファイト類が挙げられる。
【0078】
スズ系化合物としては、例えば、ハロゲン化第一スズ2水和物およびカルボン酸第一スズが挙げられる。また有機過酸化物としては、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドおよび過安息香酸t−ブチルが挙げられる。
【0079】
これらのうち、1,3−ジビニルジシロキサン、1,3,5,7−テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンまたは1−エチニル−1−シクロヘキサノールが好ましい。
【0080】
(C)成分の配合量としては、本発明の硬化性樹脂組成物が、ある温度以上に上昇するまで安定した粘度を保持するか、または半硬化させた状態で、ある温度以上に上昇するまで硬化反応がそれ以上進まない量である。具体的にはPt触媒(B)の配合量(質量)の250〜200,000倍であり、好ましくは500〜100,000倍である。さらに好ましくは5000〜50,000倍である。
【0081】
また本発明は必要に応じて、
(D)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとアルケニル基を有するエポキシ化合物とアルケニル基を有するシリル化合物とを反応させることにより得られるSiH基を有する熱硬化性樹脂(以降、熱硬化性樹脂(D)ともいう)、
(E)アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物(以降、化合物(E)ともいう)、
(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物(以降、化合物(F)ともいう)、
のうち一つまたは二つ以上を含むことも可能である。
【0082】
熱硬化性樹脂(D)としては、例えば、下記式(D1)で表される化合物が挙げられる。
【0083】
【0084】
式(D1)において、X’はそれぞれ独立して、下記式(a)、式(b)、式(c−i)、式(c−ii)、式(c−iii)、式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基であり、式(1)で表される化合物1分子あたり[該化合物が式(a)で表される基と式(b)〜式(d−iii)で表される基の割合が異なる化合物の混合物である場合は該化合物1分子平均]の、
式(a)で表される基の数をA、
式(b)で表される基の数をB、
式(c−i)、式(c−ii)または式(c−iii)で表される基の数をC、
式(d−i)、式(d−ii)または式(d−iii)で表される基の数をDとした場合に、A+2B+C+D=4であり、0.5≦A≦3.0であり、0.5≦2B≦2.0であり、0.1≦C≦2であり、0≦D≦1.0である。
【0085】
1’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、m’は1〜100を満たす平均値である。
【0086】
【0087】
【0088】
式(b)において、R2’及びR3’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、tは−OSi(R3’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。
【0089】
【0090】
【0091】
式(d−i)〜(d−iii)において、R、R4’およびR4’’はそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基である。xは−OSi(R4’−の繰り返しの数であり、1〜20を満たす平均値である。yは−OSi(R4’’−の繰り返しの数であり、1〜10を満たす平均値である。
【0092】
前記式(a)で表される基は、前記SiH基を有するシルセスキオキサン由来の基であり、前記式(b)で表される基に相当する化合物と、式(c−i)〜(c−iii)で表される基に相当するエポキシ誘導体、必要に応じて用いられる式(d−i)〜式(d−iii)で表される基に相当する化合物とが反応した後のSiH基残基である。したがって、前記式(a)で表される基は、本発明の化合物を密着付与材として適用するシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの反応物である熱硬化性樹脂と反応し得るため、本発明の化合物の密着付与材としての機能を強化する役割を持つ。
【0093】
前記式(b)で表される基は、シルセスキオキサンの架橋成分であり、本発明の化合物に柔軟性を与えることができる。具体的には、例えば、下記式(1−1)で表される化合物のように、ポリマー構造をとる。
【0094】
【0095】
式(1−1)において、X1はそれぞれ独立して、前記式(a)、式(c−i)〜(c−iii)、式(d−i)〜(d−iii)で表される基であり、X2は式(b)で表される式である。R17はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される基であり、メチルであることが好ましい。uは0〜1000を満たす平均値である。
【0096】
式(b)で表される基の数であるBの値が大きくなればなるほど、分子同士の架橋成分が多くなり、本発明の化合物は高分子量の化合物になる。B=0であれば、架橋成分が全く無い状態である。0<B<1の範囲では、Bの値が大きくなるにつれて架橋成分が増加し、分子量は増加する。B>1の範囲では、分子同士の架橋が非常に進行した状態であり、ゲル状となるため熱硬化性樹脂として使用できない。Bの値を0<B≦1の範囲内で変えることによって、本発明の化合物の分子量を調整することが出来る。
【0097】
式(c−i)〜(c−iii)で表される基は、前記シルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの架橋体中のSiH残基に結合したエポキシ基であり、LED用ハウジング基材との密着性を高める役割を持つ。(c−i)の成分は、エポキシ基に加えイソシアヌル環骨格を有する基であり、金属との密着性も高める役割を有する。
【0098】
式(d−i)〜式(d−iii)で表される基は、前記シルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの架橋体中のSiH残基に結合したアルコキシシリル基またはトリアルキルシリル基またはビニルシリル基である。
【0099】
下記式(d−i)で表される基は、熱硬化性樹脂(D)由来の基であり、任意の成分である。式(d−i)で表される基は、金属との密着を向上する目的や、樹脂との相溶性を向上する目的で用いられる。
【0100】
【0101】
式(d−i)において、Rはそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基である。
【0102】
下記式(d−ii)で表される基は、熱硬化性樹脂(D)由来の基であり、任意の成分である。式(d−ii)で表される基は、樹脂との相溶性を向上する目的、粘度を調整する目的、または硬化性樹脂組成物を硬化させた後の硬度を調整する目的で用いられる。
【0103】
【0104】
式(d−ii)において、R4’はそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基であり、好ましくはメチルである。xは−OSi(R4’−の繰り返しの数である。xは、1〜20を満たす平均値であり、1〜10を満たす平均値であることが好ましい。
【0105】
下記式(d−iii)で表される基は、熱硬化性樹脂(D)由来の基であり、任意の成分である。式(d−iii)で表される基は、樹脂との相溶性を向上する目的、粘度を調整する目的、または硬化性樹脂組成物を硬化させた後の硬度を調整する目的で用いられる。
【0106】
【0107】
式(d−iii)において、R4’’はそれぞれ独立して、メチル、エチル、ブチルおよびイソプロピルから選択される基であり、好ましくはメチルである。yは−OSi(R4’’−の繰り返しの数である。yは、1〜10を満たす平均値である。
【0108】
A+2B+C+D=4であり、0.5≦A≦3.0であり、0.5≦2B≦2.0であり、0.1≦C≦2であり、0≦D≦1.0である。AからDの値は、本発明の化合物を密着付与材として適用する熱可塑性樹脂組成物の性質に合わせて任意に調整できる。
【0109】
熱硬化性樹脂(D)由来の基に関してさらに説明する。式(d−ii)または式(d−iii)で表される基を得るための反応試剤と反応の方法について説明する。
【0110】
まず式(d−ii)で表される基または式(d−iii)で表される基を得るための反応試剤について説明する。
【0111】
下記反応式に示すように、環状のオクタメチルテトラシクロシロキサン(D4)に対して、過剰モルのジビニルテトラジシロキサン(DVDS)とヘキサメチルジシロキサン(MM)を酸触媒存在下に平衡化反応を行い、化合物a、化合物b、化合物cの平衡化混合物を得て、式(d−ii)で表される基または式(d−iii)で表される基を得るための反応試剤とする。
【0112】
【0113】
前記反応式において、aは1〜20であり、bは1〜20であり、cは1〜20である。
【0114】
D4に対するDVDSとMMを合わせた反応のモル比は、2以上が好ましい。モル比が2以上であれば、生成するシロキサン鎖の分子量は短く、蒸留で除去可能な成分となり、後の精製工程にて、反応に関与しなかった余分の化合物a、化合物bおよび化合物cの除去が容易になる。
【0115】
式(d−ii)または式(d−iii)で表される基を得るための反応の方法について記載する。
本発明のイソシアヌル環骨格を有し且つエポキシ基を有する化合物であり且つ、前記式(d−ii)または式(d−iii)で表される基を持たせる反応として、熱硬化性樹脂(D)由来の基が式(c−i)で表される基である場合において説明する。
【0116】
下記反応式に示すように、第1段目の反応おいて、SiH基を4つ持つダブルデッカー型の化合物であるDD−4Hと(c−i)であるMA−DGICを先にヒドロシリル化反応させ、式(c−i)で表される基を有する化合物をまず得る。なお式(c−i)の化合物は、四国化成株式会社よりMA−DGICとして販売されている。DD−4Hは国際公開第2004/024741号に記載された方法に従って合成することができる。
【0117】
【0118】
前記反応式において、aiは0.1〜3.5である。
【0119】
次いで、下記反応式に示すように、2段目の反応において、上記1段目の化合物中のSiH基のモル数に対して、前記化合物a、化合物b、化合物cの混合物のビニル基のモル数が過剰になるようにヒドロシリル化反応させることにより、下記生成物を得る。
【0120】
【0121】
前記反応式において、aiは、0.1≦ai≦3.5、Xiは、0≦2Xi≦2.0、Yiは0≦Yi≦3.0、Ziは0.1≦Zi≦3.5、Wiは0≦Wi≦3.0である。
【0122】
ビニル基のモル数が過剰になるようにヒドロシリル化反応させるが、100℃以上、さらには120℃以上の高温度領域においても消失することはなく残存SiH基が残る。
【0123】
反応に関与しなかった余分の化合物a、化合物b、化合物cは、薄膜蒸発器を用いた蒸留にて留去することができる。あるいは溶媒抽出法によっても除去することは可能である。あるいは発明者の任意により、そのまま残存させてもよい。薄膜蒸発器を用いた蒸留において余分の化合物a、化合物b、化合物cを留去させる場合の温度は、120℃〜180℃の範囲が好ましく、操作圧力は0.13kPa以下が好ましい。
【0124】
溶媒抽出法において余分の化合物a、化合物b、化合物cを除去するための好ましい溶剤は、溶解力が大きく、沸点の比較的低い溶剤である。好ましい溶媒は、低級アルコールである。特に好ましい溶媒はメタノールである。さらに精製度を上げるためには、溶媒抽出操作の繰り返しを多くすればよい。
【0125】
次に式(d−iii)で表される基のみを得る方法について詳細に記載する。
【0126】
下記反応式に示すように、第1段目の反応おいて、DD−4HとMA−DGICを先にヒドロシリル化反応させ、式(c−i)で表される基を有する化合物をまず得る。
【0127】
【0128】
前記反応式において、aiiは0.1≦aii≦3.5である。
【0129】
第2段目の反応において用いる反応剤は、式(G)で表される化合物を用いる。
【0130】
【0131】
式(G)において、R’およびR’’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは0〜100の整数である。R’とR’’は、メチルが好ましい。rは、1〜100であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。
【0132】
下記反応式に示すように、上記1段目の化合物中のSiH基のモル数に対して、前記式(G)で表される化合物のビニル基のモル数が過剰になるようにヒドロシリル化反応させることにより、下記生成物を得る。
【0133】
【0134】
前記反応式において、aiiは、0.1≦aii≦3.5、Xiiは、0≦2Xii≦2.0、Yiiは0≦Yii≦3.0、Ziiは0.1≦Zii≦3.5、rは1〜20である。
【0135】
前記式(G)で表される化合物のビニル基のモル数が過剰になるようにヒドロシリル化反応させるが、100℃以上、さらには120℃以上の高温度領域においても消失することはなく残存SiH基が残る。
【0136】
反応に関与しなかった余分のオルガノポリシロキサンは、ビニル基を有する化合物であるので熱硬化性可能な樹脂成分としてそのまま残存させてもよい。あるいは適宜溶媒抽出等で除去してもよい。余分のオルガノポリシロキサンを除去するための好ましい溶剤は、溶解力が大きく、沸点の比較的低い溶剤である。好ましい溶媒は、低級アルコールである。特に好ましい溶媒はメタノールである。さらに精製度を上げるためには、溶媒抽出操作の繰り返しを多くすればよい。
【0137】
また、熱硬化性樹脂(D)としては、例えば、下記式(D2)で表される化合物が挙げられる。
【0138】
【0139】
式(D2)において、R’’はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、rは0〜100の整数である。aiiは、0.1≦aii≦3.5、Xiiは、0≦2Xii≦2.0、Yiiは0≦Yii≦3.0、Ziiは0.1≦Zii≦3.5である。
【0140】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物全量基準で、硬化性樹脂(D)を1〜50質量%含有することが好ましく、2〜15質量%含有することがより好ましい。SiH基を有する熱硬化性樹脂(D)の配合割合を1質量%以上とすることにより、LEDハウジング基材との密着強度を向上させることが可能である。
【0141】
なお、熱硬化性樹脂(D)におけるエポキシ部は、任意に用いることができるものであることから、エポキシ部の合計が熱硬化性樹脂組成物全量基準で0.01〜10質量%となるような質量部で含有することが好ましく0.05〜5質量%となるような質量部で含有することがより好ましい。
【0142】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(E)アルケニル基を2個以上有するオルガノシロキサン化合物(化合物E)を含んでもよい。本発明のアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンとしては、下記一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0143】
【0144】
前記式(3)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基であり、nは、−OSi(R−の繰り返しの数であり、1〜50を満たす平均値である。
【0145】
化合物(E)は、本発明の硬化組成物の粘度の調整や、硬化物に強度または柔軟性を補佐するための成分である。前記式(3)において、R及びRが、全て炭素数1〜4のアルキルの場合は、好ましくはメチルが用いられ、下記一般式(4)で表される。
【0146】
【0147】
前記式(4)において、n’は、1〜20を満たす平均値である。n’が20以下であると本発明の硬化組成物との相溶性が良好となり好ましい。柔軟性を付与する意味では、5以上が好ましく、ガスバリアの観点からは、10以下が好ましい。柔軟性とガスバリアの観点から5〜8が特に好ましい。
【0148】
また、前記式(3)においてR及びRの少なくとも一部がフェニル基である下記一般式、(5)または(6)も好適に用いることができる。
【0149】
【0150】
前記式(5)において、xは1〜50を満たす平均値であり、好ましくは1〜20である。
【0151】
【0152】
前記式(6)において、y+zは、1〜50を満たす平均値であり、屈折率とガスバリアの観点からy/(y+z)<0.5を満たす値が好ましい。硬化物に柔軟性を付与する意味では、y+zが10以上であることが好ましい。
【0153】
これら化合物(E)は、任意により組み合わせて使用してもよい。
【0154】
化合物(E)は、公知慣用の方法により製造することができる。式(4)で表されるオルガノシロキサン化合物は、例えば、テトラメチルビニルジシロキサンとオクタメチルシクロテトラシロキサンとを活性白土等の固体酸触媒存在下に平衡化反応させた後、ろ過により固体酸触媒を除去し、その後、0.13kPa程度の真空条件、100〜120℃の温度条件下で低沸カットさせることにより製造できる。式(5)または式(6)で表されるオルガノシロキサン化合物も、公知慣用の方法により製造できる。また、工業的にGELEST社より入手可能である。
【0155】
化合物(E)の配合割合は、本発明の全熱硬化性樹脂組成物中、1質量〜10質量%以下とすることが好ましい。化合物(E)の配合割合を上記の範囲とすることにより、耐熱性が向上し、樹脂強度が高まるため、好ましい。
【0156】
(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物(化合物(F))について説明する。
化合物(F)としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0157】
【0158】
式(2)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル及びシクロヘキシルから選択される基であり、メチルまたはブチルが好ましい。mは−OSi(R−の繰り返しの数である。mは、1〜20を満たす平均値であり、2〜15を満たす平均値であることが好ましい。
【0159】
化合物(F)は、硬度を低くするために用いる。すなわち前記熱硬化性樹脂(A)が有するアルケニル基と反応させることができ、このことにより全体の架橋密度を下げることにより、低硬度化を達成できる。
【0160】
化合物(F)の配合が多い程、硬化物の硬度を下げることができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物における(F)の含有量は、硬化物の屈折率が1.5以上を保てるになるような含有量であることが好ましい。硬化物の屈折率が1.5以上を保てるような含有量とすることにより、LED用封止剤として光の取り出し効率が向上し、密着性を高めることができる。
【0161】
化合物(F)の数平均分子量は、148〜2000であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。(F)の数平均分子量が400以下であると、揮発性が高くなり硬化組成物を配合し硬化させる段階で気散する恐れがあるため400以上の数平均分子量がより好ましい。
【0162】
また、化合物(F)の数平均分子量を2000以下とすることにより、SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物であって、SiH基とアルケニル基とを含む熱硬化性樹脂との相溶性を保ち、硬化物の透明性を保ち、また、密着性能を保つことが可能である。
【0163】
化合物(F)の配合割合は、本発明の全熱硬化性樹脂組成物中、2〜20質量%とすることが好ましく、5〜15質量%とすることがより好ましい。化合物(F)の配合割合を2質量%以上とすることにより、硬化物の硬度をD45以下に下げることが可能である。また、化合物(F)の配合割合を20質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱性、耐UV性、密着性等の諸特性を保持させながら効果的に低硬度の硬化物を得ることが可能である。
【0164】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、チクソ性の付与や光学特性付与といった任意の目的に応じて、さらに無機化合物を分散させて用いる事ができる。使用する無機化合物に限定はなく、公知の材料が使用できる。また、無機化合物の構造は、アモルファスでもよく、結晶をなしていてもよい。分散させる無機化合物の組み合わせも限定されない。無機化合物としては、各種の蛍光体や金属酸化物を好適に用いることができる。勿論、蛍光体や金属酸化物を併用して使用してもよい。
【0165】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に蛍光体を分散させることで、発光機能を有し、LED用の組成物として用いることができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物における蛍光体の含有量は、1〜90質量%であることが好ましく、2〜50質量%であることがより好ましい。
【0166】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いる事ができる蛍光体に制限はない。また、組成物中における蛍光体の濃度分布が均一であっても、異なっていてもよい。使用する蛍光体の種類、または蛍光体の濃度分布の有無およびその分布の条件は、LEDの使用環境や用途、目的に応じて決定すればよい。
【0167】
蛍光体は、LEDチップから放出される青色光、紫色光、紫外光を吸収して波長を変換し、LEDチップの光と異なる波長の赤、橙色、黄色、緑色、青色領域の波長の光を放出するものである。これにより、LEDチップから放出される光の一部と、蛍光体から放出される光の一部とが混合して、白色を含む多色系のLEDが得られる。具体的には、青色系LEDにLEDからの光によって黄色系の発光色を発光する蛍光体を光学的に組み合わせることによって、単一のLEDチップを用いて白色系を発光させることができる。
【0168】
上述のような蛍光体には、緑色に発光する蛍光体、青色に発光する蛍光体、黄色に発光する蛍光体、赤色に発光する蛍光体等の種々の蛍光体がある。本発明に用いられる具体的な蛍光体としては、有機蛍光体、無機蛍光体、蛍光顔料、蛍光染料等公知の蛍光体が挙げられる。有機蛍光体としては、アリルスルホアミド・メラミンホルムアルデヒド共縮合染色物やペリレン系蛍光体等を挙げることができ、長期間使用可能な点からペリレン系蛍光体が好ましく用いられる。本発明に特に好ましく用いられる蛍光物質としては、無機蛍光体が挙げられる。以下に本発明に用いられる無機蛍光体について記載する。
【0169】
緑色に発光する蛍光体として、例えば、[SrAl:Eu]、[YSiO:Ce,Tb]、[MgAl1119:Ce,Tb]、[SrAl1225:Eu]、[(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)Ga:Eu]がある。
【0170】
青色に発光する蛍光体として、例えば、[Sr(POCl:Eu]、[(SrCaBa)(POCl:Eu]、[(BaCa)(POCl:Eu]、[(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)Cl:Eu,Mn]、[(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)(POCl:Eu,Mn]がある。
【0171】
緑色から黄色に発光する蛍光体として、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム酸化物蛍光体、少なくともセリウムで賦括されたイットリウム・ガドリニウム・アルミニウム酸化物蛍光体、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット酸化物蛍光体、及び、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・ガリウム・アルミニウム酸化物蛍光体などがある(いわゆるYAG系蛍光体)。具体的には、[Ln12:R(Lnは、Y、Gd、Laから選ばれる少なくとも1以上であり、Mは、Al、Caの少なくともいずれか一方を含み、Rは、ランタノイド系である。)]、[(Y1−xGax)(Al1−yGay)12:R(Rは、Ce、Tb、Pr、Sm、Eu、Dy、Hoから選ばれる少なくとも1以上であり、0<Rx<0.5、0<y<0.5である。)]を使用することができる。
赤色に発光する蛍光体として、例えば、[YS:Eu]、[LaS:Eu]、[Y:Eu]、[GdS:Eu]がある。
【0172】
また、現在主流の青色LEDに対応し発光する蛍光体としては、[Y(Al,Ga)12:Ce,(Y,Gd)Al12:Ce,LuAl12:Ce,Yl512:Ce]などのYAG系蛍光体、[TbAl12:Ce]などのTAG系蛍光体、[(Ba,Sr)SiO:Eu]系蛍光体や[CaScSi12:Ce]系蛍光体、[(Sr,Ba,Mg)SiO:Eu]などのシリケート系蛍光体、[(Ca,Sr)Si:Eu]、[(Ca,Sr)AlSiN:Eu]、[CaSiAlN:Eu]などのナイトライド系蛍光体、[Cax(Si,Al)12(O,N)16:Eu]などのオキシナイトライド系蛍光体、さらには[(Ba,Sr,Ca)Si:Eu]系蛍光体、[CaMgSi16Cl:Eu]系蛍光体、[SrAl:Eu,SrAl1425:Eu]などの蛍光体が挙げられる。
【0173】
これらの中では、YAG系蛍光体、TAG系蛍光体、シリケート系蛍光体が、発光効率
や輝度などの点で好ましく用いられる。また、これら以外にも、用途や目的とする発光色に応じて公知の蛍光体を用いることができる。
【0174】
次に、無機化合物が金属酸化物である場合について説明する。金属酸化物として、シリカ,アルミナ、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが好適に用いられる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物における金属酸化物の割合は、熱硬化性樹脂組成物全量に対する質量比で1〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%、更に好ましくは1〜20質量%である。
【0175】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に酸化チタンや酸化アルミニウムを使用した場合にはリフレクタ用材料としても好適に用いうる。リフレクタ材料に関しては、ポリフタルアミド樹脂が幅広く利用されている。しかしながらポリフタルアミド樹脂は長期間使用による劣化、特に変色が起こりやすいことが指摘されており、本発明の熱硬化性樹脂組成物はこの問題を解決できる。
【0176】
また、例えばシリカでは、天然に産する珪石を細粒化(天然シリカ)したものを使用してもよく、産業的に合成されたシリカ(合成シリカ)を使用してもよい。天然シリカの場合、結晶であるため結晶軸を持つ。このため、結晶由来の光学的な特徴を期待することができるものの、比重が合成シリカと比べてやや高いため、熱硬化性樹脂組成物中での分散に影響する場合がある。また、天然物を粉砕して得る場合、不定形状の粒子であったり、粒径分布が広い材料となる場合がある。
【0177】
合成シリカは、湿式合成シリカ及び乾式合成シリカがあるが、本発明では特に使用の限定はない。ただし、合成シリカでは製法に関わらず結晶水を持つ場合があり、この結晶水が熱硬化性樹脂組成物若しくは硬化物、またはLED素子等に何らかの影響を与える可能性がある場合は、結晶水数も考慮して選択することが好ましい。
【0178】
合成シリカは、結晶ではなくアモルファスであるため、結晶軸がなく、結晶由来の光学的な特徴はあまり期待できない。しかしながら、粒子分布の制御のほか、粒子径を極めて小さくできるなどの特徴を活かすことができる。
【0179】
特に、ヒュームドシリカはナノオーダーの粒子径であり、粒子の分散性に優れている。さらに同じ重さで比較した場合は、粒子径が小さいほど表面積の総和が大きくなることから、光の反射方向がより多様化するので、より好ましく用いることができる。
【0180】
また、一般にシリカは表面積が大きく、かつ表面に存在するシラノールの効果により親水性の材料(親水性シリカ)であるが、化学修飾により疎水性シリカとすることもできる。どちらの性質のシリカを使用するかは、目的により選択されるが、本発明においては、実験的な検証では親水性シリカの使用が好ましい。
【0181】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の混合調製方法としては特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、三本ロールまたはビーズミル等の混合機を用いて、常温または加温下で、上述した硬化促進剤、シリコーン樹脂、および、必要に応じて上記熱硬化剤、酸化防止剤等の各所定量を混合する方法が挙げられる。
【0182】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、保存安定性に非常に優れており、温度80℃の環境下で30日間保存した際の粘度上昇率が50%以内である。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱硬化性であり、容器中での保存のため、硬化に影響しない湿度条件は考慮しない。粘度上昇率が50%以内であれば、柔らかい状態を維持しており、この後の成型作業などに影響を与えることがなく好ましい。今後、柔らかい状態を半硬化状態と表記することがある。
【0183】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、半硬化状態で成型し、任意の形状にすることができる。成型方法に制限はなく、例えば熱プレス成型やフィルムコーター、押出し成型などの成形機、またスクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷などの印刷法・・・・が挙げられる。また上記成型物は、プリプレグのように再加工し、次工程で用いる事ができる。例えば、塗膜状またはシート状のような平面状に成型されたプリプレグは、これを細かく切り出して、チップのような形状として封止や接着用の材料にすることが可能である。また、射出成型やコンプレッション成型法を用いることによって、反射機能を備えたLEDハウジング材料、リフレクタ材料にすることが可能である。なお、本書において、形状を問わず熱硬化性樹脂組成物を成型したものを、プリプレグと表現する。
【0184】
上記、塗膜状またはシート状のような平面状に成型されたプリプレグの厚みは、蛍光体含有量と、所望の光学特性から決められる。具体的には、塗膜状であれば0.1μm以上であり、シート状であれば10μm〜3000μm程度が成型可能である。光学特性・耐熱性を高める観点からは、蛍光体シートの膜厚は1000μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。蛍光体シートを1000μm以下の膜厚にすることによって、バインダ樹脂による光吸収や光散乱を提言することができるので、光学的に優れた蛍光体シートとなる。
【0185】
本発明の熱硬化性樹脂組成物またはこのプリプレグを加熱処理し、目的の物品(硬化物)を得る。硬化物を得る条件としては、温度は60〜200℃であることが好ましく、好ましくは80〜160℃であることがより好ましい。また、時間は1時間〜24時間であることが好ましく、経済的な観点からは、2時間〜5時間であることがより好ましい。
なお、物品は、それ自体が1つの製品として機能するものの他、例えば封止材のように特定の構造体中に存在し、部材の一部として硬化してなるものも物品に含まれる。
【0186】
本発明の熱硬化性樹脂組成物またはこのプリプレグの用途は特に限定されないが、例えば、封止剤、ハウジング材、リード電極または放熱板等に接続するためのダイボンド材、発光ダイオード等の光半導体素子の発光素子をフリップチップ実装した場合のアンダーフィル材、発光素子上のパッシベーション膜として用いることができる。なかでも、光半導体素子からの発光による光を効率よく取り出すことのできる光半導体装置を製造できることから、封止剤、リフレクタ材料、蛍光体シート、アンダーフィル材またはダイボンド材として好適に用いることができる。
【0187】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の硬度は、D硬度で45以下、A硬度で30以上の範囲であることが好ましい。また屈折率は1.5以上の高屈折率であることが好ましい。屈折率が1.5以上であると、LEDの光取り出し効率に優れた硬化物となる。
【0188】
本発明の熱硬化性樹脂組成物で発光素子を封止する方法としては特に限定されず、例えば、モールド型枠中に本発明の光半導体用組成物を予め注入し、そこに発光素子が固定されたリードフレーム等を浸漬した後、硬化させる方法、および発光素子を挿入した型枠中に本発明の光半導体用組成物を注入し硬化する方法が挙げられる。
【0189】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を注入する方法としては、例えば、ディスペンサーによる注入、トランスファー成形および射出成形が挙げられる。更に、その他の封止方法としては、例えば、本発明の光半導体用組成物を発光素子上へ滴下、孔版印刷、スクリーン印刷、および、マスクを介して塗布し硬化させる方法、および底部に発光素子を配置したカップ等に本発明の光半導体用組成物をディスペンサー等により注入し、硬化させる方法が挙げられる。
【0190】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を封止剤として含む光半導体素子もまた、本発明の1つである。
【0191】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、例えば、透明性、耐熱性、耐熱黄変性などに優れている。そのため、硬化物を含む物品は、半導体の封止材、光半導体の封止材、蛍光体シート、リフレクタ、絶縁膜、シール剤、光学レンズなどの用途に好適に用いることができる。また、透明材料、光学材料、光学フィルム、光学シート、接着剤、電子材料、絶縁材料、層間絶縁膜、塗料、インク、コーティング材料、成形材料、ポッティング材料、液晶シール剤、表示デバイス用シール剤、太陽電池封止材料、レジスト材料、カラーフィルター、電子ペーパー用材料、ホログラム用材料、太陽電池用材料、燃料電池用材料、表示材料、記録材料、防水材料、防湿材料、電池用固体電解質、ガス分離膜に用いることができる。また、他の樹脂への添加剤等に用いることができる。
【実施例】
【0192】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【0193】
<数平均分子量、重量平均分子量の測定>
本発明で合成したポリマーの数平均分子量と重量平均分子量は、次のように測定した。
日本分光(株)製の高速液体クロマトグラフシステムCO−2065plusを使用し、試料濃度1質量%のTHF溶液20μLを分析サンプルとして、カラム:Shodex KF804L[昭和電工(株)製](直列に2本接続)、カラム温度:40℃、検出器:RI、溶離液:THF、および溶離液流速:1.0mL毎分でGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。
【0194】
実施例で使用した試薬等は下記の通りである。
FM−2205(両末端にビニル基を有する数平均分子量が700のポリジメチルシロキサン):MA−DGIC(モノアリルジグリシジルイソアヌレート):四国化成工業株式会社製
S210(ビニルトリメトキシシラン):JNC株式会社製
【0195】
(A)SiH基を有するシルセスキオキサンとアルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサンとの反応物であって、SiH基とアルケニル基とを含む熱硬化性樹脂
本発明の(A)成分である、SiH基とアルケニル基とを含む熱硬化性樹脂として、国際公開2011/145638号に開示されている方法で製造した、下記シルセスキオキサン誘導体ベースポリマー1またはシルセスキオキサン誘導体ベースポリマー2を用いた。
【0196】
[シルセスキオキサン誘導体ベースポリマー1]
前記式(1)において、a[式(X−I)]=2.34、b[式(X−II)]=0、c[式(X−III)]=1.66である化合物、下記化学式で表される化合物をシルセスキオキサン誘導体ベースポリマー1とした。
【0197】
【0198】
[シルセスキオキサン誘導体ベースポリマー2]
前記式(1)において、a[式(X−I)]=2.37、2b[式(X−II)]=0.48、c[式(X−III)]=1.14である、下記化学式で表される化合物をシルセスキオキサン誘導体ベースポリマー2とした。
【0199】
【0200】
(D)SiH基を有するシルセスキオキサン、アルケニル基を2個有するオルガノポリシロキサン、アルケニル基を有するエポキシ化合物およびアルケニル基を有するシリル化合物を反応させることにより得られる、SiH基を有する熱硬化性樹脂
【0201】
[シルセスキオキサン誘導体ベースポリマー3]
本発明の(D)成分であるSiH基を有する熱硬化性樹脂として、前記式(D1)において、A[式(a)]=1.32、2B[式(b)]=1.38、C[式(c−i)]=0.65、D[式(d−i)]=0.65である下記式で表されるシルセスキオキサン誘導体ベースポリマー3を用いた。
【0202】
【0203】
シルセスキオキサン誘導体ベースポリマー3は、下記反応式により、次の方法で合成した。温度計、還流冷却器、および撹拌機を備えた内容積300mLの反応容器にシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)を50g、ビニルシリコーン(FM−2205)を18.6g(0.0266モル)、モノアリルジエポキシイソシアヌレート(MA−DGIC)を7.47g(0.0252モル)、S210を3.7g(0.0252モル)、溶媒としてトルエン50gを入れた。
【0204】
窒素雰囲気下、加熱攪拌を開始した。内容物が100℃に達した後、Pt濃度がDD−4Hに対して1ppmとなる量を加え、そのまま5時間加熱攪拌を行った。GCよりMA−DGICの消失を確認して反応を終了した。室温まで冷却した後、活性炭を1.6g加え3時間以上攪拌した後、ろ過により活性炭を除去した。ろ液をエバポレーターにて90℃、0.13kPaの減圧条件下に溶媒であるトルエンを留去した。74gの水アメ状の無色透明の液体を得た。
【0205】
得られた生成物の分子量をGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=3900、重量平均分子量:Mw=18200であった。
【0206】
【0207】
(F)片末端にのみSiH基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン化合物
本発明の(F)成分である、片末端にのみSiH基を有するオルガノポリシロキサンとして、JNC株式会社製の数平均分子量が900または500の片末端SiHシリコーンを用いた。また、(F)成分の比較化合物として、数平均分子量500の両末端SiHシリコーンを用いた。
【0208】
片末端にのみSiH基を有する数平均分子量が900と500のオルガノポリシロキサンは、日本国特開2000−273178号公報に記載されている方法を参照して製造したものを用いた。また、数平均分子量500の両末端SiHシリコーンは、日本国特開2003−252995号公報に記載されている方法を参照することにより製造したものを用いた。
【0209】
[数平均分子量が900の片末端SiHシリコーン]
前記式(2)において、R=ブチル、R=メチル、m=11である、下記化学式により表される化合物を数平均分子量が900の片末端SiHシリコーンとした。
【0210】
【0211】
[数平均分子量が500の片末端SiHシリコーン]
前記式(2)において、R=ブチル、R=メチル、m=5である、下記化学式で表される化合物を数平均分子量が500の片末端SiHシリコーンとした。
【0212】
【0213】
[数平均分子量500の両末端SiHシリコーン]
本発明の(F)成分の比較成分として、下記式で表される数平均分子量500の両末端SiHシリコーンを用いた。
【0214】
【0215】
(B)Pt触媒
本発明の(B)成分であるPt触媒として、カルステッド触媒 商標名Pt−VTS 3wt%キシレン溶液(ユミコア社製)を用いた。
【0216】
(E)アルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン化合物
本発明の(E)成分であるアルケニル基を2個以上有する化合物として、前記式(3)において、R=メチル、R=メチル、n=8である、下記化学式で表される数平均分子量が700の両末端ビニルシリコーンを用いた。
【0217】
【0218】
エポキシ基含有シランカップリング剤
また、比較実施例には密着付与材としてエポキシ基含有シランカップリング剤として、グリシジルエーテルトリメトキシシラン:商標名S510(JNC株式会社製)を用いた。
【0219】
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
スクリュー管に上記実施例で合成した化合物、またはポリオルガノシロキサンの混合物を入れた。スクリュー管を自転・公転ミキサー[株式会社シンキー製「あわとり練太郎(登録商標)」ARE−250]にセットし、混合・脱泡を行い、中間樹脂組成物である中間組成物a〜dを得た。表1に各熱硬化性樹脂組成物の質量%を示す。
【0220】
上記中間組成物a〜dに、さらにユミコア社製のカルステッド触媒(商品名Pt−VTS:Pt濃度が3質量%のキシレン溶液)を硬化禁止剤:MVS−H(商品名、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン:JNC株式会社製)で100倍(質量)に希釈したものをPt濃度が所定量になるように加え、さらに硬化禁止剤を所定量になるように加えて、再び自転・公転ミキサーにて混合・脱泡を行い、熱硬化性樹脂組成物である組成物A1〜A8、B1、C1〜C5、D1〜D2、および比較組成物A9〜A12、C6〜C7を得た。表2に各熱硬化性樹脂組成物の質量%およびPt触媒、硬化禁止剤の配合量を示す。
【0221】
得られた組成物A1〜A8、B1、C1〜C5、D1〜D2、および比較組成物A9〜A12、C6〜C7について、以下の方法により保存安定性、および硬化性を評価した。その結果を表2の中に示す。
【0222】
<保存安定性>
保存安定性は、保存容器中に上記組成物をとり、これらを80℃恒温槽に30日間入れた後の粘度を測定して評価するものである。試験前の粘度と比べ、試験後の粘度上昇率が50%以下であるかを調べた。○は粘度上昇率50%以下、×は粘度上昇率50%以上を示す。
【0223】
<熱硬化性樹脂組成物の硬化性>
硬化性は、PFA製シャーレに組成物を入れ、160℃で1時間加熱し硬化するかを調べた。硬化しフィルムが得られれば○、硬化せず液状やワックス上であれば×とした。
【0224】
<硬化物の作製>
上記熱硬化性樹脂組成物A1、B1、C1、D1それぞれについて、ガラス2枚にニチアス(株)製ナフロンSPパッキン(4mm径)をスペーサーとして挟み、この中に熱硬化性樹脂組成物を流し込み、減圧脱泡後、80℃にて1時間、その後150℃にて4時間の順に加熱することにより硬化させ、ガラスをはがして4mm厚の表面が平滑な硬化物A1、B1、C1、D1を得た。
【0225】
得られた硬化物A1、B1、C1、D1について、以下の方法によりその物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0226】
<粘度>
硬化物A1、B1、C1、D1の硬化前の熱硬化性樹脂組成物A1、B1、C1、D1の粘度は、東機産業(株)製のTV−22型粘度計コーンプレートタイプを使用し、恒温槽温度25℃にて測定した。
【0227】
<光透過率>
厚さ4mmの硬化物を作製し、島津製作所(株)製紫外可視分光光度計 UV−1650にて波長400nmにおける光の透過率を測定した。
【0228】
<耐熱透過率>
耐熱試験は、以下の方法にて実施、評価した。厚さ4mmの硬化物を作製し、島津製作所(株)製紫外可視分光光度計 UV−1650にて波長400nmにおける光の透過率を測定し、初期透過率とした。硬化物を180℃のオーブン[定温乾燥機:ヤマト科学(株)製DX302]に入れ、一定時間(表2では1000時間)加熱処理した。
【0229】
前記耐熱試験後の硬化物の光線透過率を紫外可視分光光度計で測定し、波長400nmの透過率から、この波長における保持率(一定時間熱処理後の透過率/各波長の初期透過率×100)を計算して評価した。180℃の耐熱試験1000時間後における400nmの透過率保持率が85%以上であれば〇、75%以上であれば△、75%以下であれば×とした。
【0230】
<耐UV透過率>
耐UV透過率は、4mm厚の硬化物に、ウシオ株式会社製のDeep UV Lampを用い、365nmのバンドパスフィルターを通して、550〜600mW/cmの照射強度にてUV照射した。2000時間照射後における400nmの保持率99%以上であれば〇、97%以上であれば△、97以下であれば×とした。
【0231】
<屈折率>
試験片は硬化物をバンドソーにて切断し、JIS K7142(2008年)に従って試験片を作製した。この試験片を用いて、アッベ屈折計[(株)アタゴ製NAR−2T]によりナトリウムランプのD線(586nm)を用いて屈折率を測定した。中間液はヨウ化メチレンを用いた。
【0232】
<硬化物の硬度>
JIS K6253(2006年)の規定に準じて、D硬度を西東京精密(株)製デュロメータWR−105Dにより、A硬度をWR−104Aにより測定した。
【0233】
<接着強さ試験 PPA>
JIS K6850(1999年)に従って試験を行った。試験片は、基材としてポリフタルアミド樹脂[ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製アモデル(商品名)A−4122NLWH905]をJIS K6850(1999年)に従って寸法を調整して作製したものの間に熱硬化性樹脂組成物を挟み、80℃にて1時間加熱後、150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させて作製した。接着試験は引張圧縮試験機[(株)島津製作所製オートグラフAGS−500B]により5kNのロードセルを用いて測定した。
【0234】
<接着強さ試験 PA9T>
JIS K6850(1999年)に従って試験を行った。試験片は、基材としてポリフタルアミド樹脂[クラレ(株)製ジェネスタ(商品名)PA9T]をJIS K6850(1999年)に従って寸法を調整して作製したものの間に熱硬化性樹脂組成物を挟み、80℃にて1時間加熱後、150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させて作製した。接着試験は引張圧縮試験機[(株)島津製作所製オートグラフAGS−500B]により5kNのロードセルを用いて測定した。
【0235】
<接着強さ試験 Ag>
JIS K6850(1999年)に従って試験を行った。試験片は、基材として銀メッキされた標準試験基板[日本テストパネル(株)製]の間に熱硬化性樹脂組成物を挟み、80℃にて1時間加熱後、150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させて作製した。接着試験は引張圧縮試験機[(株)島津製作所製オートグラフAGS−500B]により5kNのロードセルを用いて測定した。
【0236】
<吸湿リフロー試験>
底辺部が銀メッキされたパワーLED用のPPA樹脂パッケージ[エノモト(株)製 型番5050 D/G]16個に熱硬化性樹脂組成物をディスペンサー(武蔵エンジニアリング(株)製 型番MPP−1)で注入した後、80℃にて1時間加熱後、さらに150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させた。これらのPPA樹脂パッケージを環境試験機(エスペック社製 型番SH−241)内にて、温度30℃、相対湿度60%、192時間の吸湿条件にて吸湿させた後、模擬リフロー機[マルコム(株)製 型番SRS−1C]にてJEDEC規格に準じた温度条件(260℃)にてリフローを2回通した。16個中の剥離個数、クラック発生個数を示した。
【0237】
<ヒートサイクル試験 PPA 剥離・クラック>
底辺部が銀メッキされたパワーLED用のPPA樹脂パッケージ[エノモト(株)製 型番5050 D/G]16個に熱硬化性樹脂組成物をディスペンサー(武蔵エンジニアリング(株)製 型番MPP−1)で注入した後、80℃にて1時間加熱後、さらに150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させた。これらのPPA樹脂パッケージを模擬リフロー機[マルコム(株)製 型番SRS−1C]にてJEDEC規格に準じた温度条件(260℃)にてリフローを1回通した。この後、冷熱衝撃装置[エスペック株式会社製 型番TSE−11]のテストエリアに入れ、−40℃で30分間さらし、105℃で30分間さらすことを1サイクルとして、500サイクル繰り返すことにより実施した。なお、両さらし温度の間の移動時間は2分間で実施した。剥離、クラックの発生を顕微鏡にて観察した。16個中の不良率を示す。
【0238】
<ヒートサイクル試験 PA9T 剥離・クラック>
底辺部が銀メッキされたパワーLED用のPA9T樹脂パッケージ[I−CHIUN社製 型番SMD5050N−TA112]15個に熱硬化性樹脂組成物をディスペンサー(武蔵エンジニアリング(株)製 型番MPP−1)で注入した後、80℃にて1時間加熱後、さらに150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させた。これらのPA9T樹脂パッケージを、模擬リフロー機[マルコム(株)製 型番SRS−1C]にてJEDEC規格に準じた温度条件(260℃)にてリフローを1回通した。これらのPA9T樹脂パッケージを、冷熱衝撃装置[エスペック(株)製 型番TSE−11]のテストエリアに入れ、−40℃で30分間さらし、105℃で30分間さらすことを1サイクルとして、500サイクル繰り返すことにより実施した。なお、両さらし温度の間の移動時間は2分間で実施した。剥離、クラックの発生を顕微鏡にて観察した。表2および4に、15個中の不良率を示す。
【0239】
<ヒートサイクル試験 ワイヤ断線>
ブルーLEDチップ[GeneLite社製 品番B1515ACA0]およびゴールドワイヤ[田中貴金属社製 品番SR−25]を搭載したLED樹脂パッケージ[エノモト(株)製 型番5050 D/G 32個に熱硬化性樹脂組成物をディスペンサー [武蔵エンジニアリング(株)社製 型番MPP−1]で注入した後、80℃にて1時間加熱後、さらに150℃にて4時間加熱する条件で加熱硬化させた。このLED樹脂パッケージを、リフローシミュレーター[マルコム(株)製 型番SRS−1C]にてJEDEC規格に準じた温度条件(260℃)にてリフローを1回通した。さらに、冷熱衝撃装置[エスペック(株)製 型番TSE−11]のテストエリアに入れ、−40℃で30分間さらし、105℃で30分間さらすことを1サイクルとして、500サイクル繰り返すことにより実施した。なお、両さらし温度の間の移動時間は2分間で実施した。LEDを点灯させた。表2および4に、点灯不良率を示す。
【0240】
【表1】
【0241】
【表2】
【0242】
【表3】
【0243】
表2に示すように、本発明の組成物A1〜A8、B1、C1〜C5、D1〜D2は、Pt触媒および硬化禁止剤の量を厳密に制御することにより、保存安定性および硬化性を両立させた熱硬化性組成物であることが分かった。
これに対し、比較組成物A9〜A12、C6〜C7は、保存安定性が悪い、もしくは硬化性が悪いため、そのまま熱硬化性組成物としては用いられない組成物であることがわかった。
【0244】
表3に示すように、本発明の組成物A〜Dを用いた硬化物A〜Dは、屈折率1.5以上、さらにシルセスキオキサンが有する耐熱透過率、耐UV透過率を保持し、尚かつリフレクター基材であるポリフタルアミド樹脂(PPA、PA9T)や銀との密着性も良く、さらに耐吸湿リフロー、耐ヒートサイクル性に優れていることがわかった。
【0245】
<半硬化樹脂シート作成>
PFA製シャーレに、厚さ0.5mmになるように前記熱硬化性組成物A4を入れ、100℃で60分間加熱した。表面タック性のある半硬化樹脂シートが得られた。
【0246】
同様に、表面に剥離剤を塗布したSUS製金型の間に、前記熱硬化性組成物A4を入れ、ホットプレス機にて160℃で5分間加熱した。表面タック性のある厚さ1mmの半硬化樹脂成型シートが得られた。
【0247】
<半硬化樹脂シートの硬化>
上記で得られた半硬化樹脂シートを、表面鏡面仕上げのSUS板に乗せ、160℃で120分間加熱した。半硬化樹脂シートは一度軟化の後、硬化しSUS板に密着した。
【0248】
<半硬化樹脂シートによるLEDベアチップ封止>
上記で得られた半硬化樹脂シートを、LEDベアチップが実装してある実装面に乗せ、160℃で120分間加熱した。半硬化樹脂シートは一度軟化の後硬化し板に密着し、LEDベアチップの表面が封止されたパッケージが得られた。
【0249】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高耐熱性、高耐UV性であり、基板に対する密着性が高く、靭性に優れているため吸湿リフロー耐性、ヒートサイクル耐性に優れ、さらには耐イオウ性に優れる硬化物を与えるため、特にハイパワーLED等の光半導体素子の封止材、蛍光体シート並びにリフレクタ材料として非常に有用である。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は成型が容易であり、成型後に高温に加熱することで容易に成型硬化物を作成することが可能である。更には、成型後、加熱することで完全に硬化する手前の半硬化状態の成型物は、この状態で室温にて保管してもそれ以上の反応が進行することなく、半硬化成型物として常温で流通させることが可能であり、更にこれを使用する際に、半硬化成型物を作成したよりも高温で再硬化させることで完全な硬化物を得ることが可能である。例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物に蛍光体及び/または無機化合物を添加せしめ、これを充分に混合後、シート状に成型する。得られた成型物を完全に硬化するよりも低い温度、すなわち80℃から140℃または150℃以上で短時間で半硬化することで、一旦冷却させることにより室温で保存しても安定性に優れる蛍光体シートを作成することができる。これらの蛍光体シートは室温で安定であるので、製造後、在庫することが容易であり、流通経路においても冷蔵倉庫、冷蔵車両を必要とすることなく流通コストを抑えることが可能となる。また当該シートを使用する場合にはLEDチップ上に載せて、半硬化物作成時よりも高い温度もしくは長い時間加熱することで一旦軟化・ゲル化することで密着性が生じることとなり、チップやその回りの部材と密着した上で完全硬化し、容易に蛍光体で覆われた好適に光波長変換できる半導体発光装置を作成可能となる。