(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6323478
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】信号処理装置、撮像装置および電子機器
(51)【国際特許分類】
H04N 5/369 20110101AFI20180507BHJP
H04N 5/374 20110101ALI20180507BHJP
H04N 5/378 20110101ALI20180507BHJP
【FI】
H04N5/369
H04N5/374
H04N5/378
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-37218(P2016-37218)
(22)【出願日】2016年2月29日
(62)【分割の表示】特願2013-551471(P2013-551471)の分割
【原出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2016-136751(P2016-136751A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-288160(P2011-288160)
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【弁理士】
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】駒場 貴文
【審査官】
粕谷 満成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−054246(JP,A)
【文献】
特開平06−163700(JP,A)
【文献】
特開2010−141543(JP,A)
【文献】
特開2007−317719(JP,A)
【文献】
特開2006−129255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/369
H04N 5/378
H04N 5/374
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に形成された信号処理装置であって、
光電変換された電荷により生成された信号を出力するための複数の信号線と、
複数の前記信号線のうち、第1信号線に出力された前記信号の信号処理を行う第1信号処理回路と、複数の前記信号線のうち、第2信号線に出力された前記信号の信号処理を行う第2信号処理回路と、を有する信号処理部と、
電源回路と前記第1信号処理回路及び前記第2信号処理回路とを接続する配線であって前記電源回路からの電源電圧を前記第1信号処理回路及び前記第2信号処理回路に供給するための第1配線と、を備え、
前記第1配線の配線抵抗は、外部に設けられた第2配線の配線抵抗と並列接続され、
前記電源回路は、前記半導体基板に配置され、
前記第1配線において、前記電源回路から前記第1信号処理回路までの配線の長さと前記電源回路から前記第2信号処理回路までの配線の長さとは異なる信号処理装置。
【請求項2】
前記第1配線の両端は、前記第2配線と接続するための端子に接続されている請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記第1配線の配線抵抗は、前記端子により前記第2配線の配線抵抗と並列接続されている請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1配線の幅は、前記第2配線の幅よりも短い請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記第1信号処理回路は、前記信号を増幅する第1増幅部を含み、
前記第2信号処理回路は、前記信号を増幅する第2増幅部を含む請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第1信号処理回路は、前記信号をデジタル信号に変換するために用いる第1比較器を含み、
前記第2信号処理回路は、前記信号をデジタル信号に変換するために用いる第2比較器を含む請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の信号処理装置を有する撮像装置。
【請求項8】
半導体基板に形成された電子機器であって、
光電変換された電荷により生成された信号を出力するための複数の信号線と、複数の前記信号線のうち、第1信号線に出力された前記信号の信号処理を行う第1信号処理回路と、複数の前記信号線のうち、第2信号線に出力された前記信号の信号処理を行う第2信号処理回路と、を有する信号処理部と、電源回路と前記第1信号処理回路及び前記第2信号処理回路とを接続する配線であって前記電源回路からの電源電圧を前記第1信号処理回路及び前記第2信号処理回路に供給するための第1配線と、を有する信号処理装置と、
前記信号処理装置が配置され、前記第1配線に接続される第2配線を有する基板と、を備え、
前記第1配線の配線抵抗は、前記第2配線の配線抵抗と並列接続され、
前記電源回路は、前記半導体基板に配置され、
前記第1配線において、前記電源回路から前記第1信号処理回路までの配線の長さと前記電源回路から前記第2信号処理回路までの配線の長さとは異なる電子機器。
【請求項9】
前記信号処理装置は、前記第1配線の両端に前記第2配線と接続するための第1端子が配置され、
前記基板は、前記第2配線の両端に前記第1配線と接続するための第2端子が配置されている請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
前記第1配線の配線抵抗は、前記第1端子及び前記第2端子により前記第2配線の配線抵抗と並列接続されている請求項9に記載の電子機器。
【請求項11】
前記第1配線の幅は、前記第2配線の幅よりも短い請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項12】
前記第1信号処理回路は、前記信号を増幅する第1増幅部を含み、
前記第2信号処理回路は、前記信号を増幅する第2増幅部を含む請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項13】
前記第1信号処理回路は、前記信号をデジタル信号に変換するために用いる第1比較器を含み、
前記第2信号処理回路は、前記信号をデジタル信号に変換するために用いる第2比較器を含む請求項8から請求項12のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項14】
前記基板は、セラミックにより構成されている請求項8から請求項13のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項15】
前記基板は、樹脂により構成されている請求項8から請求項13のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項16】
前記基板は、前記第2配線を含む複数の配線が積層されて構成されている請求項8から請求項15のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項17】
前記基板は、前記電源回路の動作を確認するために用いる第3端子を有する請求項8から請求項16のいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項18】
前記第3端子は、前記基板において、前記信号処理装置が配置される面とは反対側の面に配置されている請求項17に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
信号処理装置、撮像装置
および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの電子カメラに搭載されているCMOSセンサは、受光面に行列状に配置された複数の画素を有し、各画素で入射光に応じた電荷が蓄積される。そして、増幅トランジスタで蓄積された電荷量に応じた電気信号に変換され、選択トランジスタを介して垂直信号線に読み出される。各画素から垂直信号線に読み出された信号は、各列毎に配置されたPGA回路(Programable Gain Amplifier:可変ゲインアンプ)やADC回路(AD変換回路)などを介してCMOSセンサの外部に読み出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−239604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、列毎に配置される回路にバイアス電源などを供給する電源回路が固体撮像素子内部に構成されている場合、この内部電源回路から列毎に配置される回路に供給する配線は、列方向に長い距離を引き回さなければならない。一方、固体撮像素子の面積には限りがあり、配線の幅や厚みを十分に大きくすることができないため、配線抵抗が大きくなってしまうという問題がある。特にフルサイズのCMOSセンサは、列方向の配線が長くなるので、配線抵抗による電圧降下が大きくなる。
【0005】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、固体撮像素子内部に形成された電源回路から列毎に配置される回路に供給する配線の配線抵抗を小さくすることができる
信号処理装置、撮像装置
および電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る信号処理装置は、
半導体基板に形成された信号処理装置であって、光電変換された電荷により生成された信号を出力するための
複数の信号線と、
複数の信号線のうち、第1信号線に出力された信号の信号処理を行う
第1信号処理回路と、複数の信号線のうち、第2信号線に出力された信号の信号処理を行う第2信号処理回路と、を有する信号処理部と、
電源回路と第1信号処理回路及び第2信号処理回路とを接続する配線であって電源回路からの電源電圧を
第1信号処理
回路及び第2信号処理回路に供給するための第1配線と、を備え、第1配線の配線抵抗は、外部に設けられた第2配線の配線抵抗と並列接続され
、電源回路は、半導体基板に配置され、第1配線において、電源回路から第1信号処理回路までの配線の長さと電源回路から第2信号処理回路までの配線の長さとは異なる。
【0007】
また、第1配線の両端は、第2配線と接続するための端子に接続されている。
また、第1配線の配線抵抗は、端子により第2配線の配線抵抗と並列接続されている。
また、第1配線の幅は、第2配線の幅よりも短い。
また、
第1信号処理回路は、信号を増幅する
第1増幅部を含
み、第2信号処理回路は、信号を増幅する第2増幅部を含む。
第1信号処理回路は、信号をデジタル信号に変換するために用いる
第1比較器を含
み、第2信号処理回路は、信号をデジタル信号に変換するために用いる第2比較器を含む。
また、本発明に係る撮像装置は、上述の信号処理装置を有する。
【0008】
本発明に係る電子機器は、
半導体基板に形成された電子機器であって、光電変換された電荷により生成された信号を出力するための
複数の信号線と、
複数の信号線のうち、第1信号線に出力された信号の信号処理を行う
第1信号処理回路と、複数の信号線のうち、第2信号線に出力された信号の信号処理を行う第2信号処理回路と、を有する信号処理部と、
電源回路と第1信号処理回路及び第2信号処理回路とを接続する配線であって電源回路からの電源電圧を
第1信号処理回路及び第2信号処理回路に供給するための第1配線と、を有する信号処理装置と、信号処理装置が配置され、第1配線に接続される第2配線を有する基板と、を備え、第1配線の配線抵抗は、第2配線の配線抵抗と並列接続され
、電源回路は、半導体基板に配置され、第1配線において、電源回路から第1信号処理回路までの配線の長さと電源回路から第2信号処理回路までの配線の長さとは異なる。
【0009】
また、
信号処理装置は、第1配線の両端に第2配線と接続するための第1端子が配置され
、基板は、第2配線の両端に第1配線と接続するための第2端子が配置されている。
また、第1配線の配線抵抗は、第1端子及び第2端子により第2配線の配線抵抗と並列接続されている。
また、第1配線の幅は、第2配線の幅よりも短い。
【0010】
また、
第1信号処理回路は、信号を増幅する
第1増幅部を含
み、第2信号処理回路は、信号を増幅する第2増幅部を含む。
また、
第1信号処理回路は、信号をデジタル信号に変換するために用いる
第1比較器を含
み、第2信号処理回路は、信号をデジタル信号に変換するために用いる第2比較器を含む。
【0011】
また
、基板は、セラミックにより構成されている。
また
、基板は、樹脂により構成されている。
【0012】
また
、基板は、第2配線を含む複数の配線が積層されて構成されている。
また
、基板は、電源部の動作を確認するために用いる第3端子を有する。
また、第3端子は、
信号処理装置を実装する面とは反対側の面に配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る
信号処理装置、撮像装置
および電子機器は、電源回路がチップ素子内部に構成されている場合に、この内部電源から列毎に配置される回路に供給する配線の配線抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】固体撮像素子101およびパッケージ102の断面図である。
【
図3】逐次比較型AD変換器の構成例を示す図である。
【
図5】積分型AD変換器のタイミングチャートである。
【
図6】固体撮像素子101上の配線抵抗を説明するための図である。
【
図7】積分型AD変換器に供給される電源を示す図である。
【
図8】積分型AD変換器の問題点を説明するための図である。
【
図9】配線110と配線167の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る
信号処理装置、撮像装置
および電子機器の実施形態について図面を用いて詳しく説明する。
図1は、本発明に係る固体撮像素子101および撮像装置100の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、撮像装置100は、半導体基
板上に回路が形成された固体撮像素子101と、固体撮像素子101を格納するパッケージ102とで構成される。
【0017】
固体撮像素子101は、画素部103と、垂直走査回路104と、カラム回路105と、水平出力回路106と、内部電源107とを有する。
【0018】
画素部103は、行列状(N行M列)に配置された複数の画素pを有する。また、各画素pは、入射光量に応じた電荷を蓄積するフォトダイオード、蓄積された電荷量に応じた電気信号に変換して増幅する増幅トランジスタ、増幅された電気信号を垂直走査回路104から与えられるタイミング信号によって垂直信号線VLINEに読み出す選択トランジスタなどを有する。尚、画素pの回路および動作についての詳細な説明は省略する。
【0019】
垂直走査回路104は、画素部103の各画素pから光電変換された電気信号を垂直信号線VLINEに読み出すタイミングを与える。尚、垂直信号線104の動作を制御する信号や基準クロックなどは外部から与えられるが、
図1では省略してある。
【0020】
カラム回路105は、垂直信号線VLINE毎に設けられる全ての回路を含み、本実施形態ではPGA回路151、ADC回路152などの回路を有するが、CDS回路(相関二重サンプリング回路)などを設けてもよい。尚、PGA回路151およびADC152については後で詳しく説明する。
【0021】
水平出力回路106は、カラム回路105から出力される信号を列毎に外部に出力する回路である。例えば画素部103から行毎に垂直信号線VLINEに読み出され、カラム回路105を介して出力されるアナログ信号またはADC回路152でデジタルに変換されたデジタルデータを一行分だけ一時的に保持し、画素単位で順番に外部に出力する。
【0022】
内部電源107は、カラム回路105に電源を供給するために固体撮像素子101内部に配置された電源回路である。例えばPGA回路151の場合は、バイアス電源や基準電圧VREFを与える。また、ADC回路152の場合は、AD変換時の低電圧側の基準電圧VRBを与える。
【0023】
ここで、以降の説明において、N×M個の画素pのうち特定の画素を指す場合は座標(行番号,列番号)を付加して、例えば画素p(1,1)のように表記し、全ての画素に共通の場合は座標を省略して画素pと表記する。また、垂直信号線VLINEやカラム回路105についても同様に、特定の列の垂直信号線VLINEやカラム回路105を指す場合は(列番号)を付加して、例えば垂直信号線VLINE(1)やカラム回路105(1)のように表記し、全てに共通の場合は列番号を省略して垂直信号線VLINEやカラム回路105と表記する。
【0024】
図1において、固体撮像素子101はパッケージ102に格納され、固体撮像素子101側のパッドとパッケージ102側のリードピンとの間がボンディングワイヤで接続される。尚、
図1では、本実施形態の説明に関係がある内部電源107からカラム回路105に電源を供給する配線110(固体撮像素子101の内部の配線(第1の配線に相当))の左端のパッド161および右端のパッド163と、パッケージ側のリードピン162およびリードピン164とがそれぞれボンディングワイヤで接続されている。
【0025】
ここで、撮像装置100の断面の様子を
図2に示す。
図2は、固体撮像素子101がパッケージ102に格納された様子を示す図で、階段状に加工されたパッケージ102の中に固体撮像素子101が配置されている。そして、固体撮像素子101と同じ高さになるように加工されたパッケージ102の中段に配置されたリードピン162と、固体撮像素子101の左端のパッド161との間は金のボンディングワイヤ165で接続される。同様に、固体撮像素子101の右端のパッド163と、パッケージ102の中段に配置されたリードピン164との間は金のボンディングワイヤ166で接続される。尚、
図1で説明したように、固体撮像素子101上の左端のパッド161と右端のパッド163との間は、固体撮像素子101内部の配線110により接続され、内部電源107からカラム回路105に電源が供給される。
【0026】
図2において、リードピン162およびリードピン163は、パッケージ102を貫通して撮像装置100の外部ピン168に出ている。尚、外部ピン168は、内部電源107の動作を確認するために電圧VRBをモニタするための端子である。ここで、本実施形態に係る撮像装置100では、パッケージ102を積層型のパッケージで構成しており、層間に配置された配線167(固体撮像素子101の外部の配線(第2の配線に相当))により、リードピン162とリードピン163とが接続される。これにより、固体撮像素子101の内部の配線110と、パッケージ102の層間に配置された外部の配線167とが並列に配置されるので、配線抵抗を小さくすることができる。例えば配線110の抵抗をR1、配線167の抵抗をR2とした場合、固体撮像素子101上の左端のパッド161と右端のパッド163との抵抗R3は、1/R3=1/R1+1/R2の式により求められる。
【0027】
このようにして、カラム回路105の左端または右端に配置された内部電源107から供給される電源電圧の配線抵抗による電圧降下を少なくすることができる。
【0028】
次に、配線抵抗による電圧降下が大きい場合の問題点について説明する。
図3は、カラム回路105の一例として、PGA回路151およびADC回路152の回路例を示した図である。
【0029】
図3において、PGA回路151は、オペアンプOP1と、コンデンサC11と、可変コンデンサC12と、スイッチPGA_AZとで構成される。画素pから垂直信号線VLINEに読み出された電気信号は、コンデンサC11を通してオペアンプOP1の負入力端子(−)に入力される。ここで、オペアンプOP1の正入力端子(+)には内部電源107から基準電圧VREFが与えられている。そして、負帰還用の可変コンデンサC12と入力側のコンデンサC11との比率で決まるゲインで増幅され、オペアンプOP1から出力される。尚、スイッチPGA_AZは、可変コンデンサC12に蓄積された電荷をリセットするためのスイッチで、実際には、リセットしてから露光前の画素pの電気信号(ダーク信号)を読み出した後に露光後の画素pの電気信号(光信号)を読み出して各画素の回路のばらつきを補正する。
【0030】
ADC回路152は、PGA回路151から出力されるアナログ信号をデジタルデータに変換するためのAD変換回路である。AD変換回路は、様々な方式が知られているが、ここでは、一般的な逐次比較型AD変換器の例と、積分型AD変換器の例について説明する。尚、他の方式のAD変換器であっても内部電源107により供給される電圧を利用する場合は、同様に適用可能である。
[逐次比較型AD変換器の例]
図3は、一般的な逐次比較型のADC回路152の回路例である。逐次比較型のADC回路152は、サンプルホールド回路180と、コンパレータ181と、カウンタ182と、DA変換器183と、デコーダ184とで構成される。PGA回路151から出力される電気信号は、一旦、サンプルホールド回路180に保持され、コンパレータ181でDA変換器183の出力電圧と比較される。そして、例えばDA変換器183の出力電圧がサンプルホールド回路180に保持された電圧よりも大きくなった場合にカウンタ182のカウントを停止させ、このカウント値をデコーダ184でデコードした値がAD変換後のデジタルデータとして出力される。ここで、DA変換器183には、基準電圧VRが与えられるが、この基準電圧VRが配線110の抵抗成分によって列間でばらつくと、AD変換後のデジタルデータも列間でばらついてしまうという問題が生じる。尚、基準電圧VRではなく、固体撮像素子101内の内部電源107からコンパレータ181のバイアス電源を供給する場合でも同様の問題が生じる。
【0031】
また、画面の一部に強烈な光が入射した時に、同じ行の画素が黒または白になる現象(スミア)が発生する場合もある。これは、固体撮像素子101の片側に配置された内部電源107から基準電圧VRを供給する場合、配線110は共通配線なので、強烈な光が入射すると流れる電流が大きくなり、他の列のADC回路152に影響を与えるためである。
[積分型AD変換器の例]
次に、ADC回路152が積分型AD変換回路の場合の例について説明する。
図4は、ADC回路152として積分型AD変換器を用いる場合の回路例を示している。また、
図5は、
図4のADC回路152の主要部のタイミングチャートである。
【0032】
図4において、垂直信号線VLINEに読み出される信号は、PGA回路151で増幅後、ADC回路152の前段のスイッチSPL1およびスイッチSPL2により、コンデンサC1からC8にサンプルホールドされた後、デジタルデータに変換される。尚、ADC回路152には、内部電源107から配線110を介して電圧VRBが与えられる。電圧VRBは、AD変換の低電圧側の基準電圧で、ここでは1Vとする。また、電圧VRTは、AD変換の高電圧側の基準電圧で、ここでは2Vとする。さらに、ランプ電圧VRAMPは、ランプ出力波形の電圧が与えられる。
【0033】
先ず、
図5のタイミングT1において、ADC回路152の前段に配置された2つのスイッチSPL1,SPL2と、スイッチPGA_AZと、スイッチADC_AZとがオンになり、タイミングT2までの期間にダーク信号(未露光時の画素の信号)をコンデンサC10に取り込む。続いて、タイミングT3でスイッチSPL1およびスイッチSPL2がオンになり、シグナル信号(露光時の画素の信号)の取り込みが開始され、タイミングT4でスイッチSPL1およびスイッチSPL2がオフになった時点で、シグナル信号がコンデンサC1からC8の電圧Vcmとして取り込まれる。尚、この期間、スイッチSW11からSW18はオンされた状態になっており、コンデンサC1からC8の対極は、電圧VRTに接続されている。ここで、電圧VRTに接続されるスイッチSW12からSW18と、電圧VRBに接続されるスイッチSW2からSW8とは、互いに排他的に動作し、例えばスイッチSW2がオンしている場合は、スイッチSW12はオフとなり、逆にスイッチSW2がオフしている場合は、スイッチSW12はオンとなる。尚、スイッチSW1とSW11は、コース変換では排他的に動作するが、ファイン変換ではスイッチSW1とSW11とが共にオフになり、スイッチSW21がオンになる。
【0034】
次のタイミングT5からT6の期間でコース変換(粗いAD変換)が行われる。
図5の例では、コース変換で上位3ビットのデジタル値が決定される。先ず、タイミングT5でコンデンサC1に接続されているスイッチSW1をオンにする(排他的にスイッチSW11はオフになる)と、コンデンサC1の片側が電圧VRTから電圧VRBに切り替えられ、(VRT−VRB)/8だけシグナル信号の電圧Vcmは降下する。続いて、コンデンサC2に接続されているスイッチSW2をオンにする(排他的にスイッチSW12はオフになる)と、コンデンサC2の片側が電圧VRTから電圧VRBに切り替えられ、さらに(VRT−VRB)/8だけシグナル信号の電圧Vcmは降下する。以下、同様に、スイッチSW3からSW8までを繰り返す毎に(VRT−VRB)/8だけシグナル信号の電圧Vcmは段階的に降下していく。そして、コンパレータCP1の出力が反転した時点でスイッチSW1からSW8までの切り替えを停止し、その時のスイッチSW1からSW8までのオンオフ状態を3ビットのデジタル値に変換する。
図5の例では、スイッチSW8までオンした時点でコンパレータCP1が反転するので、AD変換後の上位3ビットの値は”111”となる。
【0035】
次のタイミングT6からT7の期間でファイン変換(細かいAD変換)が行われる。ADC回路152が8ビットのAD変換器を構成する場合は、コース変換で上位3ビットのデジタル値が決定され、ファイン変換で下位5ビットのデジタル値が決められる。先ず、タイミングT6でスイッチSW21がオンになり(スイッチSW1とSW11は共にオフ)、ランプ電圧VRAMPが与えられ、タイミングT6からT7の期間で電圧VRTから電圧VRBまで変化する。そして、再び、コンパレータCP1が反転した時のタイミングt1とタイミングT6の時間を計測して、時間比率により下位5ビットを求める。例えば、タイミングT6とT7の期間を5ビット(10進数:32)の量子化幅で等分して、タイミングT6からタイミングt1の時間に応じて下位5ビットが求まる。例えばタイミングT6とT7の中間にタイミングt1がある場合、下位5ビットは”10000(10進数:16)”となる。尚、ここでは、8ビットのAD変換を行う場合について説明したが、12ビットのAD変換であっても構わない。またサブレンジを上位3ビット、下位5ビットに分けたが、他のビット数の組み合わせでも構わない。
【0036】
ここで、
図4において、ADC回路152の全てのスイッチは制御部CTL1によりオンオフ制御される。また、制御部CTL1は、コンパレータCP1の出力に応じて、コース変換とファイン変換とを制御する。例えばコース変換では、
図5で説明したように、コンパレータCP1の出力が反転するまでスイッチSW1からSW8までを順番にオン(SW11からSW18は排他的にオフ)して行き、コンパレータCP1の出力が反転した時点で上位3ビットが決まる。さらに、ファイン変換ではスイッチSW21をオン(SW1とSW11はオフ)してランプ電圧VRAMPをコンデンサC1に与え、タイミングT6から再びコンパレータCP1の出力が反転するタイミングt1までの時間を計測して、時間比率により下位5ビットを求める。そして、制御部CTL1は、コース変換で求まった上位3ビットと、ファイン変換で求まった下位5ビットとを併せて、最終的な8ビットのAD変換値として出力する。このようにして、積分型のAD変換が行われる。
【0037】
次に、内部電源107から電圧VRBが供給される場合の積分型AD変換器の問題点について、
図6を用いて説明する。
図6は、撮像装置100の固体撮像素子101の平面図である。尚、
図6において、
図1と同符号のものは同じものを示す。
図6において、固体撮像素子101内に設けられた内部電源107は、画素部103の左側に配置され、内部電源107の出力Voutは、固体撮像素子101内の配線110によって各列のカラム回路105に与えられる。ところが、配線110は、固体撮像素子101の左端から右端まで長い距離を配線されるので、分布抵抗R1aが積算されて配線抵抗R1を有している(R1a<R1)。この配線抵抗により、内部電源107から与えられる電源の電圧降下が大きくなるという問題が生じる。特にADC回路152が積分型AD変換回路である場合、
図7に示すように、AD変換の量子化レンジを与える基準電圧として、高電圧側の電圧VRTと、低電圧側の電圧VRBとが与えられる。尚、内部電源107の出力Voutは電圧VRBを与え、電圧VRTは撮像装置100の外部から与えられるものとする。また、ランプ電圧VRAMPは、固体撮像素子101内部で電圧VRTから電圧VRBまで変化させる回路により得られる。
【0038】
ここで、外部から供給される電圧VRTの場合は、外部ピンにより供給されるので左端や右端に偏ることなく供給することができ、一般にパッケージ配線などが用いられるので、内部電源107のように固体撮像素子101内だけで配線される場合に比べて電圧降下の影響を少なくすることができる。これに対して、
図6のように、固体撮像素子101に配置された内部電源107から電源を供給する場合は、固体撮像素子101内で配線されるが、例えばフルサイズのCMOSセンサでは素子の微細化によって配線110の線幅や厚さを十分に確保できないため、配線抵抗が大きくなり、これによる電圧降下が大きくなってしまう。また、レイアウトの制約から固体撮像素子101内に左端または右端に偏って内部電源107が配置されるため、配線長が長くなって電圧降下の影響が大きくなる。
【0039】
図4に示す積分型AD変換器の場合も、他のAD変換器の場合と同様に、内部電源107から供給される電圧VRBの電圧降下が大きくなると、先に説明したスミア現象(横方向)が発生し易くなる。これは、先のAD変換器の例と同様に、固体撮像素子101の片側に配置された内部電源107から電圧VRBを供給する場合、配線110は共通配線なので、強烈な光が入射すると流れる電流が大きくなって配線110の電圧が振られるため、他の列のADC回路152に影響を与え、スミアが発生する。
【0040】
また、積分型AD変換器の場合、このAD変換器特有のサブレンジ接続段差の問題も生じる。サブレンジ接続段差は、AD変換のフルレンジの信号を容量切り替えによって信号レベルを判定するので、電圧VRBの変動によって容量切り替え時の信号レベルが不連続になり、正確なレベル判定ができないという問題である。例えば
図4および
図5の場合、コンデンサC1からC8の各コンデンサの片側が電圧VRTから電圧VRBに切り替えられる毎に、(VRT−VRB)/8の電圧だけシグナル信号の電圧Vcmは段階的に降下しなければならないが、配線抵抗による電圧降下が大きい場合、電圧VRBが電圧VRB’に変動するため、(VRT−VRB)の電位差を正確に1/8した電圧にならない。このため、入射光量とAD変換出力の特性が不連続になってしまうという問題が生じ、画質が劣化する。
図8(a)および
図8(b)は、横軸に入射光量、縦軸にAD変換出力の特性を示す図である。
図8(a)は、コンデンサへ与える電圧を電圧VRTから電圧VRBに切り替える毎に1/8ずつ重なり、電圧が連続して変化する理想的な特性を示している。尚、
図8(a)では、切替前後の特性の重なり部分がわかり易いように、切替前後の特性を少し上下にずらして誇張して描いてある。一方、
図8(b)は配線抵抗による電圧降下がある場合の特性を示しており、切り替え時に入射光量とAD変換出力の特性が不連続になり、帯が発生してしまう。
図8(b)のような不連続な特性が生じると、例えば徐々に明るさが変化するグラデーション画像の場合、特定の明るさの部分に帯が現れるなどの影響が出てしまう。
【0041】
そこで、本実施形態に係る撮像装置100では、
図9(a)に示すように、固体撮像素子101の配線110の両端は、固体撮像素子101側のパッド161,163にそれぞれ接続され、さらにボンディングワイヤ165,166によって、パッケージ102側のリードピン162,164にそれぞれ接続されている。そして、
図9(b)に示すように、パッケージ102側のリードピン162とリードピン164との間には、パッケージ102内に設けられたAu(金)またはCu(銅)などの配線167によって接続されている。尚、パッケージ102は、セラミックや樹脂による積層型パッケージ(例えば8層など)で構成されるので、層間に配線167を形成することができる。
このようにして、本実施形態に係る撮像装置100は、固体撮像素子101内部に形成された内部電源107から電源を供給する場合に、固体撮像素子101内の配線110と、パッケージ102側に設けた配線167とを並列に接続することにより、内部電源107から供給される電源の配線抵抗を小さくすることができる。これにより、配線抵抗による電圧降下が小さくなり、スミアの抑制や積分型AD変換器特有のサブレンジ接続段差などの問題を解消することができる。
[PGA回路151への適用例]
上記の実施例では、内部電源107から列毎に設けられたAD変換回路に電源を供給する場合について説明したが、AD変換回路である必要はなく、固体撮像素子101内の内部電源107から列毎に設けられたカラム回路105に内部配線によって電源を供給していた従来の回路全てに適用可能であり、配線抵抗を下げることができる。
【0042】
例えば
図4で説明したPGA回路151に、固体撮像素子101内に設けられた内部電源107からバイアス電源やリファレンス電源(外部から供給されるものを除く)などを供給する場合でも同様に適用可能である。例えばバイアス電源を内部電源107から供給する場合、同じ行の画素に強烈な光が入射すると、配線抵抗が高いのでバイアス電源が振られてスミアが発生したり、バイアス電圧がずれることによって出力のレベルずれが生じるという問題が発生する。
【0043】
このような場合でもあっても、本実施形態に係る撮像装置100では、
図2に示したように、パッケージ102に配線167を設けて固体撮像素子101内の配線110と並列に接続することにより、内部電源107から供給される電源の配線抵抗を小さくすることができるので、PGA回路151におけるスミアの発生などによる画質劣化を防止することができる。
【0044】
尚、上記の実施例では、PGA回路151やADC回路152の場合について説明したが、固体撮像素子101内に設けられた内部電源107から列毎に設けられた回路(カラム回路105や画素部102など)に電源を供給する場合でも同様に適用可能であり、内部電源107から供給される電源の配線抵抗を小さくすることができるという効果が得られる。
【0045】
以上、本発明に係る
信号処理装置、撮像装置
および電子機器について、各実施形態で例を挙げて説明してきたが、その精神またはその主要な特徴から逸脱することなく他の多様な形で実施することができる。そのため、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明は、特許請求の範囲によって示されるものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0046】
100・・・撮像装置;101・・・固体撮像素子;102・・・パッケージ;103・・・画素部;104・・・垂直走査回路;105・・・カラム回路;106・・・水平出力回路;107・・・内部電源;110・・・配線;151・・・PGA回路;152・・・ADC回路;161,163・・・パッド;162,164・・・リードピン;165,166・・・ボンディングワイヤ;167・・・配線;168・・・外部ピン;180・・・サンプルホールド回路;181・・・コンパレータ;182・・・カウンタ;183・・・DA変換器;184・・・デコーダ;p・・・画素;VLINE・・・垂直信号線;SPL1,SPL2・・・スイッチ;C1からC8,C10,C11・・・コンデンサ;C12・・・可変コンデンサ;PGA_AZ,ADC_AZ・・・スイッチ;TSW,SPL1,SPL2・・・スイッチ;SW1からSW8、SW11からSW18、SW21・・・スイッチ;CP1・・・コンパレータ;OP1・・・オペアンプ;CTL1・・・制御部