特許第6325036号(P6325036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6325036抗がん剤に起因する末梢神経障害を改善するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6325036
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】抗がん剤に起因する末梢神経障害を改善するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20180507BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20180507BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20180507BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20180507BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20180507BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/195 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20180507BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20180507BHJP
   A23C 21/00 20060101ALI20180507BHJP
   A23C 19/076 20060101ALI20180507BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20180507BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   A61K38/00
   A61K38/01
   A61P25/02
   A61P43/00 121
   A61K35/20
   A61K31/20
   A61K31/23
   A61K31/202
   A61K31/7016
   A61K38/16
   A61K31/715
   A61K33/00
   A23L33/21
   A23L33/15
   A23L33/16
   A23L33/18
   A23L33/19
   A23L33/195
   A23L33/115
   A23L33/12
   A23L33/125
   A23C21/00
   A23C19/076
   A23C9/123
   A23L2/00 F
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-161457(P2016-161457)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2018-27925(P2018-27925A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年2月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】殿内 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中島 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】村松 真実
【審査官】 砂原 一公
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/165345(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065552(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/199192(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/179910(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/163316(WO,A1)
【文献】 ONAL, Aytul et al.,Effect of prolonged administration of bovine lactoferrin in neuropathic pain: Involvemtent of opioid,Life Sciences,2010年,Vol.86, No.7-8,p.251-259
【文献】 荒川和彦 ほか,抗がん剤による末梢神経障害の特徴とその作用機序,日本緩和医療薬学雑誌,2011年 3月,Vol.4, No.1,p.1-13,[検索日 2017.10.17], インターネット:<http://jpps.umin.jp/issue/magazine/pdf/0401_01.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善用組成物。
【請求項2】
前記乳たんぱく質が、カゼイン、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、ホエイたんぱく質分離物(WPI)、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群から選択される少なくとも1つのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記乳たんぱく質加水分解物がホエイたんぱく質加水分解物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記乳たんぱく質加水分解物の含有量が、組成物100kcalあたり0.5〜3gである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記発酵乳由来たんぱく質がフレッシュチーズに由来する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記発酵乳由来たんぱく質が、ラクトバシルス・ブルガリクス(Lactobacillus Bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus Thermophilus)またはそれらの組合せを用いて脱脂乳を発酵させて得られた発酵乳のたんぱく質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記発酵乳由来たんぱく質の含有量が、組成物100kcalあたり0.5〜6gである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記中鎖脂肪酸が炭素数8〜14の中鎖脂肪酸である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドの含有量が、組成物100kcalあたり0.01〜2gである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記n−3系脂肪酸が、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸から選択される1種以上の脂肪酸を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記n−3系脂肪酸の含有量が、組成物100kcalあたり0.05〜2.2gである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記イソマルチュロースの含有量が、組成物100kcalあたり1〜15gである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
脂質成分としてn−6系脂肪酸をさらに含み、該n−6系脂肪酸とn−3系脂肪酸との重量比が1〜3である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
食物繊維、ビタミン類およびミネラル類からなる群から選択される少なくとも1つの成分をさらに含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
飲料または流動食である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
今日、がんによる死亡者の数は世界的に増加の一途をたどっており、その効果的な治療方法の研究が継続している。がんの治療方法は大別して手術療法、化学療法、放射線療法の三つががあり、化学療法としては抗がん剤を使用する方法が多く用いられている。近年、抗がん剤を使用した治療においては、白金製剤(プラチナ製剤)や、ビンカアルカロイド系製剤およびタキサン系製剤が多く使用されている。
【0002】
一方で、白金製剤や、ビンカアルカロイド系製剤およびタキサン系製剤といった抗がん剤は、使用した場合の副作用として手足のしびれや痛み、感覚異常などの末梢神経障害を発現することがある(非特許文献1)。抗がん剤により引き起こされる末梢神経障害は、抗がん剤の使用を中止した後も回復するまで長期間かかり食欲も大きく減退することがあり、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる恐れがある。さらに、末梢神経障害が発現した場合には、その重篤化を防ぐために、抗がん剤の投与量の減量や投与の中止を余儀なくされる場合が多く、抗がん剤により引き起こされる末梢神経障害は、がんを治療する上で重大な問題として認識されている(非特許文献2)。とくに、抗がん剤治療が有効な場合や、術後補助療法として行われる場合は、末梢神経障害の症状をコントロールしながら治療を続けていくことが望まれる(非特許文献1)。したがって、抗がん剤治療を継続していく上で、末梢神経障害の改善方法の確立は極めて重要な課題である。また、抗がん剤治療期間中は、食欲の減退した患者の栄養状態を維持することも求められる。しかしながら、未だに有効な方法が存在しないのが現状である。
【0003】
このような現状において末梢神経障害の重篤化を防ぐために試みられている方法は、二つに大別される(非特許文献2)。一つは、抗がん剤の投与量の減量または投与の中止、休薬期間の延長によって、末梢神経障害が重篤化するのを防ぐ方法である。抗がん剤の投与を中止することは、末梢神経障害を食い止める唯一の確実な方法であるが、投与中止後も末梢神経障害は持続しまたは増悪することがある。もう一つは、末梢神経障害の発症・進行を予防する薬物療法との併用やセルフケアの実践によって、末梢神経障害を軽減させる方法である(非特許文献2)。末梢神経障害を緩和するための薬物療法では、抗うつ薬(塩酸アミトリプチリン)、抗てんかん薬(カルバマゼピン)、抗不整脈薬(メキシレチン)、電解質類(マグネシウムやカルシウム)の静脈投与、ビタミンB12製剤(メコバラミン)、アミノ酸類(アセチルL−カルニチン)、漢方薬の牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)等が用いられることが多い(非特許文献1および2)。しかしながら、これらの薬物療法は経験的に症状緩和を試みているにすぎず、その効果は限定的である。また、末梢神経障害の治療において、上述のような薬物の使用は保険適用外使用とされており、患者の負担軽減の観点からも、薬物使用を抑制することが好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大石了三ら、福岡医誌、104(5)、171-180、2013
【非特許文献2】荒川和彦ら、日本緩和医療薬学雑誌、4、1-13、2011
【発明の概要】
【0005】
本発明は、今般、抗がん剤の投与された患者に特定の組成物を摂取させると、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害が効果的に改善すること見出した。さらに、上記組成物を用いることにより、末梢神経障害の改善と共に、抗がん剤治療中の患者に対する栄養供給を効果的に行うことができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0006】
したがって、本発明は、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害を効果的に改善する手段を提供することをその目的としている。また、本発明は、末梢神経障害の改善と共に、抗がん剤の治療中の患者に対する栄養供給を効果的に行うことをその目的としている。
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善用組成物。
(2)上記乳たんぱく質が、カゼイン、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、ホエイたんぱく質分離物(WPI)、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群から選択される少なくとも1つのものである、(1)に記載の組成物。
(3)上記乳たんぱく質加水分解物がホエイたんぱく質加水分解物である、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)上記乳たんぱく質加水分解物の含有量が、組成物100kcalあたり0.5〜3.0gである、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の組成物。
(5)上記発酵乳由来たんぱく質がフレッシュチーズに由来する、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の組成物。
(6)上記発酵乳由来たんぱく質が、ラクトバシルス・ブルガリクス(Lactobacillus Bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus Thermophilus)またはそれらの組合せを用いて脱脂乳を発酵させた発酵乳に由来する、(1)〜(5)のいずれか一つに記載の組成物。
(7)上記発酵乳由来たんぱく質の含有量が、組成物100kcalあたり0.5〜6gである、(1)〜(6)のいずれか一つに記載の組成物。
(8)上記中鎖脂肪酸が炭素数8〜14の中鎖脂肪酸である(1)〜(7)のいずれか一つに記載の組成物。
(9)上記中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドの含有量が、組成物100kcalあたり0.01〜2gである、(1)〜(8)のいずれか一つに記載の組成物。
(10)上記n−3系脂肪酸が、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸から選択される1種以上の脂肪酸を含んでなる、(1)〜(9)のいずれか一つに記載の組成物。
(11)上記n−3系脂肪酸の含有量が、組成物100kcalあたり0.05〜2.2gである、(1)〜(10)のいずれか一つに記載の組成物。
(12)前記イソマルチュロースの含有量が、組成物100kcalあたり1〜15gである、(1)〜(11)のいずれか一つに記載の組成物。
(13)脂質成分としてn−6系脂肪酸をさらに含み、該n−6系脂肪酸とn−3系脂肪酸との重量比が1〜3である、(1)〜(12)のいずれか一つに記載の組成物。
(14)食物繊維、ビタミン成分およびミネラル成分から選択される少なくとも1つの成分をさら含んでなる、(1)〜(13)のいずれか一つに記載の組成物。
(15)飲料である、(1)〜(14)のいずれか一つに記載の組成物。
【0008】
本発明によれば、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害を顕著に改善することができる。さらに、本発明によれば、末梢神経障害の改善と共に患者に対する栄養補給を効果的に行うことが可能となる。かかる本発明によれば、抗がん剤治療を受ける患者において、QOLの維持・向上させつつ抗がん剤治療を継続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の組成物を摂取させた抗がん剤治療中のがん患者(1名)における末梢神経障害の有害事象Gradeの変化を示す図である。
図2】本発明の組成物を摂取させた抗がん剤治療中の別のがん患者(1名)における末梢神経障害の有害事象Gradeの変化を示す図である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明の組成物は、たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる。上記成分が組成物中に配合されていると、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害に対する優れた改善効果が実現できることは意外な事実である。
【0011】
たんぱく質成分
本発明のたんぱく質成分は、乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質を含んでなる。
本発明の乳たんぱく質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、カゼイン、乳たんぱく質濃縮物(Milk Protein Concentrate : MPC、総乳たんぱく質(Total Milk Protein : TMP)ともいう)、ホエイ、α−ラクトアルブミン(α−La)およびβ−ラクトグロブリン(β−Lg)等のホエイたんぱく質、ホエイたんぱく質濃縮物(Whey Protein Concentrate : WPC)、ホエイたんぱく質分離物(Whey Protein Isolate : WPI)、ならびにラクトフェリン等が挙げられる。これらの乳たんぱく質の加水分解物は、必要に応じてアミノ酸残基を修飾する等して、溶解性、粘性、ゲル化性、熱安定性、乳化安定性等の物理的特性や生理学的特性を変更してもよい。また、本発明における乳たんぱく質加水分解物は、必要に応じて所定の分子量以下に分画して用いることもできる。乳たんぱく質加水分解物の分子量としては、50,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明の乳たんぱく質加水分解物としては、例えば、上記各乳たんぱく質を酵素により加水分解したものが用いられる。乳たんぱく質を加水分解する酵素としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、エンドプロテアーゼおよびエキソプロテアーゼの各種プロテアーゼ、これらのプロテアーゼを含む粗精製物、ならびにこれらのプロテアーゼを含む菌体破砕物等を用いることができる。これらは単独で使用することもできるが、複数種を組み合わせて使用することもできる。各種プロテアーゼとしては、例えば、動物由来のプロテアーゼであるペプシン、トリプシン、キモトリプシンおよびパンクレアチン、植物由来のプロテアーゼであるパパイン、ブロメラインおよびアクチニダイン、微生物由来のプロテアーゼが挙げられる。これらのプロテアーゼは、市販されているものを使用してもよい。市販されているエンドプロテアーゼとしては、例えば、いずれもNovozymes社から販売されている、バシラス・リシェニフォルムス(Bacillus licheniformus)由来のアルカラーゼ(登録商標)、バシラス・レントゥス(Bacillus lentus)由来のエスペラーゼ(登録商標)、枯草菌由来のニュートラーゼ(登録商標)およびバシラス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のプロタメックス(登録商標)およびブタすい臓由来のトリプシン(PTN(登録商標))等が挙げられる。また、市販されているエキソプロテアーゼとしては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のフレーバーザイム(登録商標)、およびブタまたはウシ内臓由来のカルボキシペプチダーゼ等が挙げられる。本発明の乳たんぱく質を加水分解する場合、バシラス・リシェニフォルムス由来のアルカラーゼおよびブタすい臓由来のトリプシン(PTN)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0013】
本発明の乳たんぱく質加水分解物の一実施形態である、ホエイたんぱく質の加水分解物は、例えば以下の方法により調製することができる。
乾燥重量約90重量%のたんぱく質を含むホエイたんぱく質分離物(WPI)を、8重量%のたんぱく質を含むよう水に溶解する。得られたWPI水溶液を85℃で2分間加熱してホエイたんぱく質を変性させる。変性処理後の水溶液をバシラス・リシェニフォルムス由来のアルカラーゼ2.4Lをホエイたんぱく質の重量に対して2重量%となるように添加し、55℃で3時間反応させる。その後、さらにブタすい臓由来のトリプシン(PTN6.0S)をホエイたんぱく質の重量に対して3重量%となるように添加し、55℃で3時間反応させる。得られた反応液を、20,000×gで10分間遠心分離し、上清を分画分子量10,000の限外ろ過膜にかけて、限外ろ過膜を通過した分画をホエイたんぱく質の加水分解物とする。
【0014】
本発明の乳たんぱく質加水分解物は、市販されているものを使用してもよい。市販されている乳たんぱく質加水分解物としては、例えば、Peptigen IF-3080、Peptigen IF-3090、PeptigenIF-3091およびLacprodan DI-3065(いずれもAria Foods Ingredients社製)、WE80BG(FrieslandCampina Domo社製)、Hyprol 3301、Hyprol 8361およびHyprol 8034(いずれもKerry社製)、Tatua2016およびHMP406(いずれもTatua社製)、Whey Hydrolysate 7050(Fonterra社製)、ならびにBiozate3(Davisco社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物における乳たんぱく質加水分解物の含有量は、他の成分の含有量、組成物の投与対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。具体的には、本発明の組成物における乳たんぱく質加水分解物の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、組成物100kcalあたり0.5〜3.0gであり、好ましくは0.9〜3.0gであり、より好ましくは1.2〜2.0gである。
【0016】
本発明の発酵乳由来たんぱく質としては、発酵乳に含まれるたんぱく質を使用することができる。発酵乳としては、例えば、牛乳、水牛乳、山羊乳、羊乳および馬乳等の家畜乳、これらの家畜乳の脱脂乳、部分脱脂乳、還元全乳、還元脱脂乳、還元部分脱脂乳、ならびにこれらの家畜乳から製造されるバターおよびクリームなどの発酵乳原料を1種または2種以上組み合わせて調製した液状発酵乳原料を、乳酸菌やビフィズス菌等の細菌により発酵させたものが挙げられる。発酵に用いられる乳酸菌やビフィズス菌としては、例えば、Lactobacillus bulgaricusStreptococcus thermophilusStreptococcus lactisStreptococcus cremorisStreptococcus diacetilactisEnterococcus faeciumEnterococcus fecalisLactobacillus caseiLactobacillus helveticusLactobacillus acidophilusLactobacillus rhamnosusLactobacillus plantarumLactobacillus murinusLactobacillus reuteriLactobacillus brevisLactobacillus gasseriBifidobacterium longumBifidobacterium bifidumBifidobacterium bifidumBifidobacterium breve等が挙げられる。また、発酵乳を製造する際には、上記乳酸菌やビフィズス菌に加え、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属の細菌を併用することもできる。
【0017】
本発明に用いられる発酵乳としては、例えば、ヨーグルトやチーズ等が挙げられる。チーズとしては熟成させていないフレッシュチーズが好ましく、フレッシュチーズとしては、例えば、カッテージ、クワルク、ストリング、ヌーシャルテ、クリームチーズ、モッツァレラ、リコッタおよびマスカルポーネ等が挙げられる。
【0018】
本発明における発酵乳由来たんぱく質は、本発明の効果を妨げない限り、いずれの発酵乳を用いて調製したたんぱく質でもよいが、好ましくはクワルク、またはLactobacillus bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusの単独もしくは組み合わせにより脱脂乳を発酵させて得られた発酵乳を用いて調製したたんぱく質であり、より好ましくはLactobacillus bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusの組み合わせにより脱脂乳を発酵させて得られた発酵乳を用いて調製したたんぱく質である。
【0019】
本発明における発酵乳由来たんぱく質を得るための発酵乳の一実施形態であるクワルクは、例えば以下の方法により製造することができる。
ウシ脱脂乳を加熱殺菌し、次いで、発酵のスターターとなる乳酸菌(Lactobacillus bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusの混合物)を0.5〜5%(W/W)となるように接種して発酵させる。発酵によりウシ脱脂乳のpHが約4.6に達すると、ウシ脱脂乳がカード(curd:凝乳)とホエイに分離する。ホエイを分離して得られたカードを冷却してクワルクを得る。このようにして得られたクワルクの組成は、例えば、全固形分17〜19%(w/w)、たんぱく質11〜13%(w/w)、脂肪1%(w/w)未満、炭水化物2〜8%(w/w)、乳糖2%(w/w)未満である。また、クワルクは、スターターとなる乳酸菌を接種して発酵させ、レンネットを添加して凝固させて得ることもできる。また、スターターとなる乳酸菌として、Lactococcus lactisおよび/またはLactococcus cremorisLeuconostoc mesenteroides等のLeuconostoc属細菌の混合物を用いることもできる。
【0020】
本発明の組成物における発酵乳由来たんぱく質の含有量は、他の成分の含有量、組成物の投与対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。具体的には、本発明の組成物における発酵乳由来たんぱく質の含有量は、組成物100kcalあたり0.5〜6.0gであり、好ましくは2.0〜6.0gであり、より好ましくは2.5〜4.5gである。なお、本発明の発酵乳由来たんぱく質の組成物への添加方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、ヨーグルト、クワルクをはじめとする上記発酵乳をそのまま組成物中に含有させてもよく、発酵乳から分離した発酵乳由来たんぱく質を組成物中に含有させてもよい。
【0021】
脂肪成分
本発明の脂肪成分は、中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸を含んでなる。
本発明の中鎖脂肪酸としては、炭素数8〜14の中鎖脂肪酸が好ましい。また、本発明の中鎖脂肪酸は、その一部または全部が中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT : Medium-chain triglyceride)の形態で含まれることが好ましい。MCTは体内で速やかに吸収されエネルギーになりやすく、体に脂肪が付きにくいという特徴を有する。MCTを含む油脂としては、パーム油、パーム核油およびココナッツ油等のヤシ科植物から得られる油脂や、中鎖脂肪酸含有油脂等が挙げられる。本発明の組成物は、中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドをそのまま含んでいてもよく、上記油脂の形態で含んでいてもよい。
【0022】
本発明のn−3系脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、α−リノレン酸、ドコサペンタエン酸(DPA)等が挙げられ、好ましくはα−リノレン酸、DHAおよびEPAであり、より好ましくはDHAおよびEPAである。n−3系脂肪酸を含む油脂としては、魚油、シソ油、アマニ油(フラックス油)、エゴマ油、ナタネ油、ダイズ油およびキャノーラ油(サラダ油)等が挙げられる。本発明の組成物は、n−3系脂肪酸をそのまま含んでいてもよく、上記油脂の形態で含んでいてもよい。
【0023】
本発明の組成物は、中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸に加え、その他の脂肪酸を含んでいてもよい。
【0024】
その他の脂肪酸としては、オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸およびアラキドン酸等が挙げられるが、好ましくはリノール酸等のn−6系脂肪酸である。その他の脂肪酸を含む油脂としては、高オレイン酸のハイオレイックヒマワリ油、ナタネ油、オリーブ油、高オレイン酸ベニバナ油、ダイズ油、コーン油およびパーム油等の食用油が挙げられる。本発明の組成物は、その他の脂肪酸をそのまま含んでいてもよく、上記油脂の形態で含んでいてもよい。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物中のn−6系脂肪酸と、n−3系脂肪酸との重量比は、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1.5〜2.5であり、さらに好ましくは1.8〜2.2であり、さらに好ましくは1.9〜2.1である。
【0026】
本発明の組成物は、乳リン脂質、大豆由来レシチン、卵黄レシチン等の公知のリン脂質を1種または複数種含んでいてもよい。本発明のリン脂質は、乳、大豆、卵等の由来となる原料から分画、精製することができる。また、本発明の効果が得られる限り、市販のリン脂質を用いてもよい。
【0027】
本発明のリン脂質としては、乳リン脂質が好ましい。乳リン脂質(ミルクレシチンともいう)は、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、リゾホスファチジルコリン(LPC)から構成され、乳脂肪球皮膜(MFGM)のみに局在している。MFGMリン脂質画分の成分組成は、例えば、乳業技術 Bulletin of Japan Dairy Technical Association, Vol. 50:pp. 58-91, 2000に記載されている。
【0028】
本発明の組成物におけるリン脂質の含有量は、本発明の効果を他の成分の含有量、組成物の投与対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。好適なリン脂質の含有量は、組成物100kcalあたり1〜15g、1〜10g、2〜10g、3〜10g、4〜10g、5〜10g、6〜10g、7〜10gまたは7〜9gである。
【0029】
糖質成分
本発明の組成物は、糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる。イソマルチュロースはCAS Registry番号13718-94-0、化学式C12H22O11で示される物質である。
【0030】
イソマルチュロースは、パラチノース(登録商標)として市販されており、市販のパラチノースシロップ、還元パラチノース、パラチノース水あめ等の製品に含まれる。本発明の組成物には、イソマルチュロース自体を添加してもよく、イソマルチュロースを含有する上記製品を添加してもよい。
【0031】
また、本発明の組成物は、イソマルチュロース以外の糖質を含んでいてもよい。イソマルチュロース以外の糖質としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、ハチミツ、デキストリン等が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物における糖質の含有量は、他の成分の含量、摂取対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。好適な糖質の含有量は、組成物100kcalあたり1〜25g、1〜22g、2〜20g、4〜18g、4〜16g、6〜16g、6〜16g、8〜14g、10〜14g、1〜15g、1.5〜12g、2〜10g、3〜9g、4〜8gまたは5〜7gである。
【0033】
また、本発明の組成物において、たんぱく質成分と、脂質成分との重量比率は、好ましくは0.3:1〜3:1であり、より好ましくは1.4:1〜2:1である。
【0034】
また、本発明の組成物において、たんぱく質成分と、糖質成分との重量比率は、好ましくは1:2〜1:20であり、より好ましくは1:2〜1:4である。
【0035】
また、本発明の組成物において、脂質成分と、糖質成分との重量比率は、好ましくは1:3〜1:7であり、より好ましくは1:4〜1:6である。
【0036】
付加的な栄養成分
本発明の組成物は、付加的な栄養素を少なくとも1つ、あるいは2種以上組み合わせて配合することによって、その栄養学的な組成、風味、形態、pH、浸透圧等を調節することができる。本発明における付加的な栄養素としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、アミノ酸、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類、人工甘味料(例えばアスパルテームなど)、水分等が挙げられる。
【0037】
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに分けられ、両者のいずれを用いることもできる。水溶性食物繊維としては、例えば、難消化性オリゴ糖、難消化性デキストリン、ラクチトール、ラフィノース、ペクチン、グアーガム等が挙げられる。また、不溶性食物繊維としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、大豆食物繊維、小麦ふすま、パインファイバー、コーンファイバー、ビートファイバー等が挙げられる。
【0038】
本発明の組成物における食物繊維の含有量は、特に限定されず、他の成分の含量、摂取対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。好適な食物繊維の含有量は、組成物100kcalあたり0.5〜10g、0.5〜8g、0.5〜6g、0.5〜4g、0.5〜2gまたは1〜2gである。
【0039】
ビタミン類の好適な例としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、葉酸、ビオチン、パントテン酸またはそれらの一部または全部の組合せ等が挙げられるが、より好ましくはビオチンである。
【0040】
本発明の組成物におけるビタミン類の含有量は、他の成分の含量、摂取対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。好適なビタミン成分の含有量は、組成物100kcalあたり1〜200μg、10〜200μg、20〜100μg、30〜100μg、40〜100μgまたは40〜60μgである。また、好適なビオチンの含有量は、組成物100kcalあたり0.5〜20μg、0.5〜10μg、1〜10μg、2〜10μg、4〜10μg、5〜9μg、6.5〜8μgまたは7〜8μgである。
【0041】
ミネラル類の好適な例としては、ナトリウム、塩素、カリウム、硫黄、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、ヨウ素、マンガン、銅、亜鉛、セレン、クロム、モリブデンまたはそれらの一部または全部の組合せ等挙げられるが、より好ましくはナトリウム、亜鉛または銅またはそれらの組合せである。
【0042】
本発明の組成物におけるミネラル類の含有量は、他の成分の含量、摂取対象の病態、病状、年齢、体重、用途等によって適宜調整することができる。好適なミネラル類の含有量は、組成物100kcalあたり10〜900mg、30〜800mg、40〜700mg、100〜600mg、150〜550mg、200〜500mg、250〜500mgまたは300〜500mgである。また、好適なナトリウムの含有量は、組成物100kcalあたり10〜150mg、20〜130mg、30〜110mg、40〜100mg、50〜90mg、60〜80mgまたは65〜75mgである。また、好適な亜鉛の含有量は、組成物100kcalあたり0.01〜30mg、0.05〜15mg、0.05〜10mg、0.1〜7mg、0.3〜5mg、0.5〜2.5mgまたは0.5〜1.5mgである。また、好適な銅の含有量は、組成物100kcalあたり0.002〜20mg、0.004〜15mg、0.006〜10mg、0.008〜5mg、0.01〜1mgまたは0.03〜0.07mgである。
【0043】
また、本発明の組成物における水分の含有量は、組成物100kcalあたり1〜99g、10〜99g、30〜99g、50〜99g、70〜99g、75〜99g、80〜99gまたは80〜90gである。
【0044】
本発明の組成物の形態は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、液状、ペースト状、固形、粉末等であってよいが、液状であることが好ましい。
【0045】
本発明の組成物のpHは、特に限定されないが、例えば、そのpHはpH2〜pH6、好ましくはpH3〜pH5とすることができる。
【0046】
本発明の組成物の浸透圧は、特に限定されないが、例えば、約300〜1000mOsm/L、好ましくは約300〜750mOsm/Lである。
【0047】
また、室温で測定する場合、本発明の組成物の粘度は、例えば、約5〜100 cp(1cp=0.001Pa・s)、好ましくは80未満である。
【0048】
また、本発明の組成物のカロリーは、特に限定されないが、例えば、約0.5〜2kcal/mL、好ましくは1〜1.5kcal/mLである。
【0049】
本発明の組成物の調製方法は、特に限定されないが、公知手法により、上述の成分を配合、均質化して実施することができる。また、本発明の調製方法では、本発明の組成物または各成分に対して公知の殺菌(加熱等)処理を施すことが好ましい。したがって、本発明の態様によれば、たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを組成物中に配合する工程、ならびに所望により組成物を均質化および加熱する工程を含む、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善用組成物の製造方法が提供される。殺菌工程および均質化工程の回数は特に限定されず、後述するように、複数回行っても良い。混合工程、均質化工程、および殺菌工程の順序は、特に限定されないが、殺菌工程の後に均質化工程を行うことが好ましい。また、組成物の使用形態が粉末の場合、均質化物を、例えば噴霧乾燥や凍結乾燥してもよい。
【0050】
以下、本発明の調製方法について、より具体的な例を挙げて説明する。
まず、本発明の調製方法の好ましい例では、温水をタンク内で撹拌しておき、そこへビタミン類以外の成分を混合・拡散しやすさを考慮して順次、添加・混合・撹拌して、混合液とする。原料を混合・拡散させやすい投入順序は、原料の量や特性により異なり、一度にあるいは分割して様々な順序で投入するが、例えば、糖質、たんぱく質、脂肪、ミネラル類の順で投入する方法がある。またもう一つの例としては、一部の糖質、たんぱく質、その他の糖質、ミネラル類、脂肪の順で投入する方法がある。さらにもう一つの例としては、脂肪、たんぱく質、糖質、ミネラル類の順で投入する方法がある。この混合液を、スチームインジェクション式で加熱殺菌した後に、ホモゲナイザーで均質化(二段階の圧力で均質化)して、均質化液とする。この均質化液へビタミン類、フレーバー(香料)などを添加・混合して、最終的な混合液とする。この最終的な混合液を、さらにスチームインフュージョン式で加熱殺菌(二段階殺菌)した後に、ホモゲナイザーで均質化(二段階の圧力で均質化)して本発明の組成物を得ることができる。
【0051】
本発明の調製方法における混合条件は、成分および組成物の種類、割合、性質等に応じて適宜設定してよいが、たんぱく質を混合する際の混合温度は、例えば、2℃〜70℃、好ましくは55℃以下、より好ましくは5〜55℃、さらに好ましくは40〜55℃、さらに好ましくは40〜53℃、さらに好ましくは40〜50℃である。たんぱく質を使用する際の混合温度を2℃〜70℃の範囲とすることは、たんぱく質の凝固(カード化)を防止し、かつ、たんぱく質を水などへ溶解または分散させる上で好ましい。
【0052】
また、本発明の殺菌工程では、公知の高温殺菌処理を施すことが好ましい。殺菌工程では、例えば、温度を100〜150℃、保持時間を1〜30秒間、好ましくは115〜145℃、1〜20秒間、より好ましくは120〜145℃、1〜10秒間、さらに好ましくは125〜140℃、1〜5秒間とすることができる。
【0053】
また、高温殺菌する際、混合液へ圧力を調整(加圧や減圧)してもよい。この時、通常では混合液の沸騰を防止する等の目的から、例えば、殺菌圧力を1〜10kg/cm程度とする。つまり、本発明の高温殺菌では、温度(加熱)に加えて、このような圧力を加えてもよい。そして、高温殺菌する装置として、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション式殺菌機、スチームインフュージョン式殺菌機、通電加熱式殺菌機等がある。
【0054】
また、本発明では、混合液を殺菌した後、均質化することが好ましい。殺菌後に均質化することは、殺菌時の加熱に伴う増粘の程度を低減する上で好ましい。ここで、殺菌した後に均質化する回数は1回または複数回であってもよい。例えば、混合液に1回目の殺菌を行った後に、さらに2回目の殺菌を行った場合には、この2回目の殺菌後に1回目の均質化を行ってもよい。また、混合液に1回目の殺菌を行った後に均質化し、さらに2回目の殺菌を行った場合には、この2回目の殺菌後に2回目の均質化してもよい。また、混合液を殺菌した後に均質化し、2回目の殺菌を行わない場合には、そのまま2回目の均質化を行ってもよい。
【0055】
均質化工程は、公知のホモジナイザーを使用して実施することができる。均質化工程の好適な条件は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、温度を10〜60℃程度、流量を100〜10000L/h程度に設定する場合、圧力を10〜100MPa、好ましくは20〜80MPa、より好ましくは30〜70MPa、さらに好ましくは20〜50MPaである。
【0056】
なお、本発明の調製方法では、容器への充填前または充填後に、均質化物(殺菌液を均質化したもの)を再度殺菌してもよい。具体的には、必要に応じて再度、均質化物を加熱殺菌した後に冷却してから無菌充填する手法(例えば、UHT殺菌法とアセプティック包装法を併用した方法)や、缶容器やソフトバックへ充填してからレトルト殺菌する手法(例えば、レトルト法、オートクレーブ法)を適用することができる。
【0057】
また、上述のようにして得られた本発明の組成物は、所望により、薬学上許容可能な添加剤を用いてさらに製剤化してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。薬学上許容可能な添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、溶剤、等張化剤等が挙げられる。
【0058】
本発明の組成物は、医薬品、飲食品、栄養組成物、サプリメント、特別用途食品、栄養機能食品、健康食品、医薬品添加物、機能性表示食品または食品添加物等のいずれの形態でも好適に利用することができる。
【0059】
本発明によれば、上記組成物を対象に摂取させることにより、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害を効果的に改善することができる。したがって、本発明の別の態様によれば、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善方法であって、それを必要とする対象に本発明の組成物の有効量を摂取させることを含む方法が提供される。ここで、本発明の「改善」とは、確立された病態または症状を治療することだけでなく、将来確立される可能性のある病態または症状を予防することをも含む。
【0060】
本発明の「対象」とは、特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒト、家畜動物種または野生動物等であり、さらに好ましくはヒトであり、さらに好ましくはヒトがん患者である。
【0061】
また、本発明の抗がん剤としては、末梢神経障害を発現しうる限り特に限定されず、公知の抗がん剤を適用してよく、例えば、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、肺がん、乳がん、大腸がん、肝細胞がん、消化管間質腫瘍、腎細胞がん等に対する抗がん剤が挙げられる。より具体的には、本発明の抗がん剤としては、微小管に傷害を与えて末梢神経障害を引き起こす抗がん剤が挙げられる。そのような薬剤の好適な例としては、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系薬剤や、ビンクリスチン、ビンプラスチン、ビンデシン、ビノレルビン等のビンアルカロイド系薬剤が挙げられる。他に、神経細胞の傷害により軸索障害をきたすことにより末梢神経障害を引き起こす抗がん剤が挙げられる。そのような薬剤の好適な例としては、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金製剤が挙げられる。
【0062】
抗がん剤に起因する末梢神経障害の好適な例としては、刺痛や焼けるような痛み等の疼痛、四肢末端のしびれ、灼熱感等の知覚異常、冷感刺激に対する過敏等の知覚過敏、感覚消失・感覚麻痺や違和感等の感覚異常、知覚性運動失調、筋力の低下等が挙げられる。本発明の抗がん剤による末梢神経障害は、一種類の抗がん剤を用いた単剤療法で生じる末梢神経障害のみならず、作用機序の異なる複数の薬剤を組み合わせて投与する多剤併用療法や、作用機序の異なる薬剤が最大の有効性を発揮できるように薬剤の組み合わせや投与方法に工夫をこらすバイオケミカル・モジュレーション(biochemical modulation)の療法において発生する末梢神経障害を包含する。
【0063】
本発明の組成物を対象に摂取させる手法は、経口または非経口のいずれであってもよく、その摂取形態は、医薬品の形態であっても飲食品等の非医薬品の形態であってもよい。
【0064】
本発明の組成物を医薬品として摂取させる場合には、例えば、経腸栄養剤、液剤等による経鼻チューブ、胃瘻、腸瘻などによる経腸または経口投与を挙げることができるが、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の製剤に加工する投与形態であってもよい。
【0065】
また、本発明の組成物を飲食品として摂取させる場合には、牛乳、清涼飲料(果実ジュース型飲料、乳シェーク型飲料等)、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、食品組成物、加工食品その他の市販食品等の形態を例示することができる。また、組成物は、使用前に再構成できる可溶性粉末とすることもできる。
【0066】
本発明の組成物を摂取する時期は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、本発明の組成物は、抗がん剤の投与の前、抗がん剤の投与期間中および/または抗がん剤の投与後に摂取することが好ましい。また、本発明の組成物は、食前、食事後、食間および/または就寝前に適宜摂取させてもよい。また、本発明の組成物は、食事の代わりに用いることもできるし、食事の補助としても利用できる。
【0067】
本発明の組成物の有効量は、対象の性別、症状、状態、体重等によって適宜調節することができ、好適な有効量は、カロリーに換算して、一日あたり、10〜3000kcal、50〜2500kcal、50〜2000kcal、100〜2000kcal、100〜1500kcal、100〜1250kcal、100〜1000kcal、150〜850kcal、150〜650kcalまたは200〜600kcalである。また、本発明の組成物の好適な有効量は、固形分重量に換算して、一日あたり2〜665g、11〜555g、11〜445g、22〜445g、22〜335g、22〜280g、22〜280g、33〜190g、33〜145gまたは45〜135gである。また、本発明の組成物の好適な有効量は、固形分重量に換算して、一回につき患者あたり、0.5〜135gの範囲で適宜調節することができる。また、本発明の組成物は、1日1〜3回程度、1週間以上(好ましくは1ヶ月〜12ヶ月程度)摂取してもよい。
【0068】
また、本発明の別の態様によれば、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善のための、たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる組成物の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善用組成物の製造における、たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースを含んでなる組成物の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、抗がん剤の投与に起因する末梢神経障害の改善のための、たんぱく質成分として乳たんぱく質加水分解物および発酵乳由来たんぱく質;脂肪成分として中鎖脂肪酸またはそのトリグリセリドおよびn−3系脂肪酸;ならびに糖質成分としてイソマルチュロースの組合せが提供される。上記態様は、いずれも本発明の組成物および方法の記載に基づき実施することができる。
【実施例】
【0069】
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。なお、以下の実施例において%は特段の記載がない限り、重量%を意味する。また、本願明細書の単位及び測定方法は、特段の記載がなければ日本工業規格(JIS)の規定に従う。
【0070】
実施例1:供試組成物の調製
乳たんぱく質加水分解物
乾燥物として約90%のたんぱく質含量のホエイたんぱく質分離物(WPI、ダビスコ社)を、8%(w/v)のたんぱく質含有量で蒸留水に溶解した。溶液は85℃2分間の加熱処理したんぱく質を変性させた。この加熱後の溶液のpHは約7.5であった。加水分解は、アルカラーゼ2.4L(酵素、ノボザイムス社)を基質に対して2.0%の濃度で添加し3時間55℃で反応させた。次に、豚由来のトリプシンである PTN 6.0S(ノボザイムズジャパン)を基質に対して3.0%の濃度で添加し3時間55℃で反応させた。全加水分解時間は6時間であった。反応終了時のpHは約7.0であった。得られた反応液を遠心処理(20,000×g、10分)し、さらに分画分子量10,000のUF膜処理(ミリポア社ウルトラフリー−MC)し、乳たんぱく質加水分解物(ホエイたんぱく質加水分解物)を得た。
【0071】
発酵乳由来たんぱく質
脱脂乳を殺菌(120℃、30秒)してから、乳酸菌のスターター(Lactobacillus bulgaricus,およびStreptococcus thermophilus)を5%(w/w)程度で接種して発酵させた。得られた発酵液のpHが約4.6に達し、カードが形成された後、セパレーターを用いて、ホエイを遠心分離し、得られたカードを冷却し、発酵乳由来たんぱく質を得た。
【0072】
供試組成物
供試組成物を100L得ることを想定し、55℃の温水をタンク内で撹拌しておき、たんぱく質成分(乳たんぱく質加水分解物2kg、発酵乳由来たんぱく質3kg含有)、脂肪成分(中鎖脂肪酸トリグリセリド0.59kg、精製魚油0.2kg、食用油1.91kg含有)、および糖成分(イソマルチュロース7kg含有)、食物繊維1.2kg、ミネラル類71g(ナトリウム、亜鉛、銅含有)を添加し、混合した。得られた混合液を、スチームインジェクション式で加熱殺菌(135℃、5秒間)した後に、ホモゲナイザーで均質化(15MPa)して、均質化液とした。この均質化液へビオチン7.5mg等を添加・混合して、再び混合液を得た。得られた混合液を、クエン酸でpH3.8に調整し、さらにスチームインフュージョン式で加熱殺菌(135℃、5秒間)した後に、ホモゲナイザーで均質化(15MPa)して以下の表1および表2に示される供試組成物(100kcal/100mL)を100L得た。なお、供試組成物におけるドコサヘキサンエン酸およびエイコサペンタエン酸の含有量は総計0.06gであり、供試組成物中のn−6系脂肪酸とn−3系脂肪酸との重量割合(n−6/n−3)は2.0であった。上記n−6系脂肪酸はリノール酸であり、n−3系脂肪酸はα−リノレン酸、ドコサヘキサンエン酸およびエイコサペンタエン酸を合わせたものである。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施例2:抗がん剤に起因する末梢神経障害の改善効果の確認試験
化学療法実施中であり、外来通院可能でありかつ自身で研究継続可能ながん患者2名(症例1−女性、43歳、悪性リンパ腫患者、ステージIV;症例2−女性、47歳、大腸がん患者、ステージIV)を被験者として選択した。化学療法は、約20日間を1サイクルとして、各サイクルの初日に抗がん剤を被験者に点滴投与した。
なお、抗癌剤投与レジメンは、悪性リンパ腫患者に関しては、前半2回の抗がん剤投与ではR−CHOP療法(リツキシマブ520mg、シクロホスファミド1040mg、アドリアマイシン69mg、ビンクリスチン1.9mg)を用い、後半2回の抗がん剤投与ではR−CVP療法(リツキシマブ520mg、シクロホスファミド1040mg、ビンクリスチン1.9mg)を用いた。
また、大腸がん患者に関しては、最初の4回の抗がん剤投与ではCapeOX療法(カペシタビン1200mg、オキサリプラチン(L−OHP100mg)を用い、最後の1回の抗がん剤投与ではR−CVP Cape/Bev療法(カペシタビン1200mg、ベバシズマブ270mg)を用いた。
【0076】
また、化学療法実施中において、供試組成物を摂取するコースAと、通常食のみ摂取するコースBとを設けて、A・B各コースを各被験者に対して交互に繰り返した。具体的には、Aコースでは、被験者は、化学療法実施(点滴治療施行)3日前から実施前日まで1日3本(600kcal相当)の供試組成物を経口摂取し、さらに化学療法当日から化学療法後3日目までの4日間は1日1本(200kcal相当)を経口摂取し、その後通常通りの食事を経口摂取した。一方で、Bコースの場合、被験者は化学療法の前後において通常通り食事を経口摂取した。
【0077】
試験中は、被験者は化学療法に伴う末梢神経障害(しびれ等)をCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)のversion 4の有害事象を参考に、患者本人の自記による4段階の評価を実施した。評価の分類は、Grade0を正常とし、Grade1:軽くしびれや痛みがある、Grade2:しびれや痛みによるやりづらさはあるが生活には困らない、Grade3:しびれや痛みがひどく生活に困る、とした。
【0078】
結果は、図1および図2に示される通りであった。抗がん剤の副作用である末梢神経障害に関しては、化学療法を経る毎に蓄積されていき、末梢神経障害の有害事象のGradeが下がることがないのが通常である。しかしながら、本試験の結果、いずれの被験者でも供試組成物の摂取時には、末梢神経障害の有害事象のGradeの低下が確認された。具体的には、図1の悪性リンパ種患者では、供試組成物を併用することにより、3回目の抗がん剤の点滴(60日目)で有害事象がGrade2からGrade1に低下した。また、図2の大腸がん患者では、60日目までの期間についてみると、供試組成物を摂取することなく抗がん剤を点滴(25日目)した場合には有害事象の上昇がGrade0からGrade2であったのに対し、供試組成物の摂取を併用して抗がん剤を点滴(4日目、46日目)した場合には有害事象の上昇がGrade0からGrade1に抑制されていた。
また、いずれの被験者も食欲の減退により供試組成物の摂取が困難となることはなく、末梢神経障害の改善と共に供試組成物による栄養補給が継続された。
図1
図2