(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにビカルバゾール構造を含む化合物については、これまでに有機エレクトロルミネッセンス素子への応用に関する提案がなされている。しかしながら、3,3’−ビカルバゾール骨格の2つの窒素原子にシアノベンゼンが置換した構造を有する化合物については、具体的な検討結果は示されていない。このため、これらの構造を有する化合物がどのような性質を示すのかを正確に予測することは極めて困難である。
【0007】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を高めるためには、発光材料として用いることができる新たな化合物を開発することが検討されているが、どのような構造を採用すれば発光効率を改善しうるのかは、未だ明らかではない。この点に関して、特許文献1では、ビカルバゾール構造を含む化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料として用いることが提案されており、特許文献2ではホスト材料として用いることが提案されているが、このような化合物を発光材料として用いることについては、検討が行われておらず、その有用性についても示唆はない。
【0008】
本発明者らはこれらの従来技術の課題を考慮して、ビカルバゾール構造を含む化合物を発光材料として用いることについて検討を進めた。さらに、ビカルバゾール構造を含む化合物の中でも、発光効率が高い化合物を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、3,3’−ビカルバゾール骨格の2つの窒素原子にシアノベンゼンが置換した構造を有する化合物を合成することに成功するとともに、これらの化合物が発光材料として有用であることを初めて明らかにした。また、そのような化合物が、遅延蛍光材料として有用であることを見出し、発光効率が高い有機発光素子を安価に提供しうることを明らかにした。本発明者らは、これらの知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0010】
[1]下記一般式(1)で表される化合物。
一般式(1)
A−D−A
[一般式(1)において、Dは下記式:
【化3】
で表される構造(ただし構造中の水素原子は置換基で置換されていてもよい)を含む2価の基であり、2つのAは下記式:
【化4】
で表される構造(ただし構造中の水素原子はシアノ基以外の置換基で置換されていてもよく、nは1〜5の整数を表す)の基を表す。]
[2]一般式(1)の2つのAが同一の構造を有することを特徴とする[1]に記載の化合物。
[3]下記一般式(2)で表されることを特徴とする[1]または[2]に記載の化合物。
【化5】
[一般式(2)において、R
1〜R
5は各々独立に水素原子または置換基を表し、少なくとも1つはシアノ基を表す。また、R
6〜R
10は各々独立に水素原子または置換基を表し、少なくとも1つはシアノ基を表す。R
11〜R
17およびR
21〜R
27は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
[4]一般式(2)において、R
1〜R
5のうち、少なくとも2つはシアノ基を表し、R
6〜R
10のうち、少なくとも2つはシアノ基を表すことを特徴とする[3]に記載の化合物。
[5]一般式(2)において、R
1、R
5、R
6およびR
10はシアノ基を表すことを特徴とする[3]または[4]に記載の化合物。
[6]一般式(2)において、R
2、R
4、R
7およびR
9はシアノ基を表すことを特徴とする[3〜5のいずれか1項に記載の化合物。
[7]一般式(2)において、R
1〜R
5およびR
6〜R
10のうち、シアノ基を表すもの以外は、水素原子または炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、R
11〜R
17およびR
21〜R
27は水素原子または炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基を表すことを特徴とする[3]〜[6]のいずれか1項に記載の化合物。
[8]一般式(2)において、R
1〜R
5およびR
6〜R
10のうち、シアノ基を表すもの以外は、水素原子を表し、R
11〜R
17およびR
21〜R
27は水素原子を表すことを特徴とする[3]〜[7]のいずれか1項に記載の化合物。
[9][1]〜[8]のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
[10]下記一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体。
一般式(1)
A−D−A
[一般式(1)において、Dは下記式:
【化6】
で表される構造(ただし構造中の水素原子は置換基で置換されていてもよい)を含む2価の基であり、2つのAは下記式:
【化7】
で表される構造(ただし構造中の水素原子はシアノ基以外の置換基で置換されていてもよく、nは1〜5の整数を表す)の基を表す。]
[11][9]に記載の発光材料を含む発光層を基板上に有することを特徴とする有機発光素子。
[12]遅延蛍光を放射することを特徴とする[11]に記載の有機発光素子。
[13]有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする[11]または[12]に記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビカルバゾール構造を含む化合物は、発光材料として有用である。また、本発明の化合物の中には遅延蛍光を放射するものが含まれている。本発明の化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、高い発光効率を実現しうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて
1Hであってもよいし、一部または全部が
2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0014】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする。
一般式(1)
A−D−A
【0015】
一般式(1)において、Dは下記式で表される構造を含む2価の基を表す。
【化8】
【0016】
上記構造中に存在する水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、置換基は存在していなくてもよい。また、2つ以上の置換基が存在するときは、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
置換基としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。さらに好ましい置換基は、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0018】
アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基を挙げることができる。アルコキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、
イソプロポキシ基を挙げることができる。置換基として採用しうるアリール基は、単環でも縮合環でもよく、具体例としてフェニル基、ナフチル基を挙げることができる。ヘテロアリール基も、単環でも縮合環でもよく、具体例としてピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基を挙げることができる。これらのヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して結合する基であっても、ヘテロアリール環を構成する炭素原子を介して結合する基であってもよい。
【0019】
一般式(1)において、Aは下記式で表される構造の基を表す。
【化9】
【0020】
上記構造中に存在する水素原子はシアノ基以外の置換基で置換されていてもよい。置換基の数は特に制限されず、置換基は存在していなくてもよい。また、2つ以上の置換基が存在するときは、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
上記構造中に存在する水素原子が置換されうる置換基としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数12〜40のアリール置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0022】
一般式(1)における2つのAは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。2つのAが互いに同一であるときは、分子全体が線対称または点対称となっていることが好ましい。
【0023】
通常の発光材料はアクセプターとして作用するAとドナーとして作用するDが結合したA−D構造を有する。これに対して一般式(1)で表される化合物は、A−D−Aの構造を有しており、ドナーとして作用するDに対してアクセプターとして作用するAが2つ結合している。Aが2つ以上結合しているとアクセプターとしての機能が打ち消しあって、分子が発光材料として有効に機能しない危険性が生じることが一般に懸念される。しかしながら、本発明にしたがってAとDをそれぞれ選りすぐって互いに組み合わせることにより、発光効率が高くて優れた効果を有する発光材料を提供できることが判明した。これは、HOMOとLUMOの広がりを分子レベルで制御して、発光材料として好ましい条件を満たすようにしたためであると考えられる。
【0024】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【化10】
【0025】
一般式(2)において、R
1〜R
5は各々独立に水素原子または置換基を表し、少なくとも1つはシアノ基を表す。また、R
6〜R
10は各々独立に水素原子または置換基を表し、少なくとも1つはシアノ基を表す。R
11〜R
17およびR
21〜R
27は各々独立に水素原子または置換基を表す。
R
1〜R
5およびR
6〜R
10において、各々1箇所がシアノ基で置換される位置の組み合わせとしては、例えば、R
5とR
6がシアノ基である場合、R
4とR
7がシアノ基である場合、R
3とR
8がシアノ基である場合を挙げることができる。
【0026】
一般式(2)において、R
1〜R
5のうち、少なくとも2つはシアノ基を表し、R
6〜R
10のうち、少なくとも2つはシアノ基を表すことが好ましい。特に、R
1〜R
5のうち、2つまたは3つがシアノ基を表し、R
6〜R
10のうち、2つまたは3つがシアノ基を表すことが好ましい。
R
1〜R
5およびR
6〜R
10において、各々2箇所がシアノ基で置換される位置の組み合わせとしては、例えば、R
4、R
5、R
6およびR
7がシアノ基である場合、R
3、R
4、R
7およびR
8がシアノ基である場合、R
1、R
3、R
6およびR
8がシアノ基である場合、R
1、R
5、R
6およびR
10がシアノ基である場合、R
2、R
4、R
7およびR
9がシアノ基である場合、R
2、R
5、R
7およびR
10がシアノ基である場合を挙げることができる。
また、R
1〜R
5およびR
6〜R
10において、各々3箇所がシアノ基で置換される位置の組み合わせとしては、例えば、R
1、R
3、R
5、R
6、R
8およびR
10がシアノ基である場合、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8がシアノ基である場合、R
2、R
3、R
4、R
7、R
8およびR
9がシアノ基である場合を挙げることができる。
【0027】
特に、一般式(2)において、R
1、R
5、R
6およびR
10がシアノ基を表すか、R
2、R
4、R
7およびR
9がシアノ基を表すことが好ましい。3,3’−ビカルバゾール骨格の2つの窒素原子とシアノベンゼンの結合位に対して、オルト位にシアノ基が位置することにより、発光効率をより高めることができる。
【0028】
一般式(2)において、R
1〜R
5およびR
6〜R
10のうち、シアノ基を表すもの以外は、水素原子または炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基を表すことが好ましく、R
11〜R
17およびR
21〜R
27は水素原子または炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基を表すことが好ましい。中でも、R
1〜R
5およびR
6〜R
10のうち、シアノ基を表すもの以外は、水素原子を表すことがより好ましく、R
11〜R
17およびR
21〜R
27は水素原子を表すことがより好ましい。一般式(2)をこのような構造とすることにより、発光効率をより高めることができる。
【0029】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0031】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、一般式(1)で表される最小化合物の分子量である。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0032】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、発光材料として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、発光材料として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のAかDのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を発光材料として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしを反応させることにより、二量体や三量体を得て、それらを発光材料として用いることも考えられる。
【0033】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(4)または(5)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化13】
【0034】
一般式(4)および(5)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、L
1およびL
2は連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0〜20であり、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは2〜10である。連結基は−X
11−L
11−で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X
11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L
11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(4)および(5)において、R
101、R
102、R
103およびR
104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基である。
L
1およびL
2で表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のAかD、一般式(2)の構造のR
1〜R
5およびR
6〜R
10のうちシアノ基を表すもの以外、またはR
11〜R
17およびR
21〜R
27のいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
【0035】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記式(6)〜(9)で表される構造を挙げることができる。
【化14】
【0036】
これらの式(6)〜(9)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のAかDのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化15】
【0037】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。例示された繰り返し単位に限定されるものではない。
【0038】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、以下のスキームにしたがって合成することが可能である。
【化16】
上式におけるDおよびAの説明については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。上式におけるXはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
一般式(1)で表される化合物のうち、例えば一般式(2)で表される化合物は以下のスキームにより合成することが可能である。ただし、以下に記載するスキームは、R
1とR
6、R
2とR
7、R
3とR
8、R
4とR
9、R
5とR
10が同一である場合の合成法を示すものである。
【化17】
【0039】
上式におけるR
1〜R
5、R
6〜R
10、R
11〜R
17およびR
21〜R
27の説明については、一般式(2)における対応する記載を参照することができる。上式におけるXはハロゲン原子を表す。
上記の2つのスキームにおける反応は、公知の反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0040】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光材料として有用である。このため、本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光層に発光材料として効果的に用いることができる。一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。すなわち本発明は、一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体の発明と、一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光体として使用する発明と、一般式(1)で表される化合物を用いて遅延蛍光を発光させる方法の発明も提供する。そのような化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、遅延蛍光を放射し、発光効率が高いという特徴を有する。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0041】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項−三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0042】
本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。このとき、本発明の一般式(1)で表される化合物は、いわゆるアシストドーパントとして、発光層に含まれる他の発光材料の発光をアシストする機能を有するものであってもよい。すなわち、発光層に含まれる本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光層に含まれるホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と発光層に含まれる他の発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有するものであってもよい。
有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を
図1に示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表す。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0043】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0044】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In
2O
3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0045】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0046】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。発光材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子および有機フォトルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる本発明の発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0047】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0048】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0049】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0050】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0051】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0052】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0053】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0054】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0055】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R
2〜R
7は、各々独立に水素原子または置換基を表す。nは3〜5の整数を表す。
【0056】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0062】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0064】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0071】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0073】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0075】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0079】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0081】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0083】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0084】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例】
【0085】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR−3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
【0086】
(合成例1) 化合物1の合成
【化37】
【0087】
3,3’−ビ−9H−カルバゾール3.00g(9.03mmol)、炭酸カリウム4.98g(36.0mmol)を200mL三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ、N,N−ジメチルホルムアミド78.0mLを加えて、窒素気流下、室温で2時間撹拌した。この混合物へ、5−フルオロイソフタロニトリル2.93g(18.0mmol)を加えた後、窒素雰囲気下、70℃で20時間撹拌した。撹拌後、この混合物中の溶媒を減圧蒸留により除去した。除去後、この混合物にクロロホルム100mLと水50mLとを加えて撹拌した。撹拌後、この混合物を吸引ろ過してろ液を得た。得られたろ液の水層と有機層を分離し、有機層を水で洗浄した。洗浄後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。乾燥後、この混合物を吸引ろ過してろ液を得た。得られたろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。展開溶媒はまず、クロロホルム:酢酸エチル=10:1の混合溶媒を用いた。得られたフラクションを濃縮して得た固体をクロロホルムとメタノールの混合溶媒で再結晶したところ、目的物の淡橙色粉末状固体を収量0.700g、収率13.3%で得た。
1H NMR(500MHz,CDCl
3,δ):8.45(d,J=1.5Hz,2H),8.26(d,J=7.8Hz,2H),8.22(d,1.5Hz,4H),8.02(t,1.4Hz,2H),7.83(dd,J=8.5Hz,1.8Hz,2H),7.54−7.51(m,4H),7.45−7.42(m,4H)
元素分析:計算値(C
40H
20N
6):C82.18;H3.45;N14.37%;
実測値:C82.07;H3.51;N14.34%
【0088】
(合成例2) 化合物2の合成
【化38】
【0089】
3,3’−ビ−9H−カルバゾール1.00g(3.01mmol)、炭酸カリウム1.66g(12.0mmol)を100mL三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ、N,N−ジメチルホルムアミド24.0mLを加えて、窒素気流下、室温で2時間撹拌した。この混合物へ、2−クロロイソフタロニトリル1.80g(11.1mmol)を加えた後、窒素雰囲気下、150℃で20時間撹拌した。撹拌後、この混合物中の溶媒を減圧蒸留により除去した。除去後、この混合物に酢酸エチル100mLと水50mLとを加えて撹拌した。撹拌後、この混合物を吸引ろ過してろ液を得た。得られたろ液の水層と有機層を分離し、有機層を水で洗浄した。洗浄後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。乾燥後、この混合物を吸引ろ過してろ液を得た。得られたろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。展開溶媒はまず、アセトン:酢酸エチル:ヘキサン=1:5:5の混合溶媒を用いた。得られたフラクションを濃縮して得た固体をクロロホルムとメタノールの混合溶媒で洗浄したところ、目的物の淡橙色粉末状固体を収量0.902g、収率51.3%で得た。
1H NMR(500MHz,Acetone−d
6,δ):8.70(d,J=1.4Hz,2H),8.53(d,J=8.0Hz,4H),8.42(d,7.7Hz,2H),8.14(t,8.0Hz,2H),7.93(dd,J=8.5Hz,1.8Hz,2H),7.52(t,J=7.5Hz,2H),7.44−7.41(m,4H),7.30(d,8.2Hz,2H)
13C NMR(125MHz,Acetone−d
6,δ):143.30,142.06,140.83,139.97,136.28,131.75,127.70,127.27,125.60,125.11,122.33,121.90,120.41,116.46,115.26,110.97,110.75.
元素分析:計算値(C
40H
20N
6):C82.18;H3.45;N14.37%
実測値:C82.23;H3.52;N14.39%
【0090】
(実施例1) 薄膜型有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10
-4Pa以下の条件にて化合物1とDPEPOとを異なる蒸着源から蒸着し、化合物1の濃度が10重量%である薄膜を100nmの厚さで形成して薄膜型有機フォトルミネッセンス素子とした。
化合物1の代わりに、化合物2を用いた薄膜型有機フォトルミネッセンス素子も作製した。
これらの各薄膜型有機フォトルミネッセンス素子の発光スペクトルを
図2に示す。
また、化合物1を用いた薄膜型有機フォトルミネッセンス素子と化合物2を用いた薄膜型有機フォトルミネッセンス素子の過渡減衰曲線を
図3に示す。この過渡減衰曲線は、化合物に励起光を当てて発光強度が失活してゆく過程を測定した発光寿命測定結果を示すものである。通常の一成分の発光(蛍光もしくはリン光)では発光強度は単一指数関数的に減衰する。これは、グラフの縦軸がセミlog である場合には、直線的に減衰することを意味している。
図3に示す化合物1の過渡減衰曲線では、観測初期にこのような直線的成分(蛍光)が観測されているが、数μ秒以降には直線性から外れる成分が現れている。これは遅延成分の発光であり、初期の成分と加算される信号は、長時間側に裾をひくゆるい曲線になる。このように発光寿命を測定することによって、化合物1は蛍光成分のほかに遅延成分を含む発光体であることが確認された。
【0091】
(実施例2) 有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10
-4Paで積層した。まず、ITO上にα−NPDを30nmの厚さに形成し、次いでmCPを10nmの厚さに形成した。次に、化合物1とDPEPOを異なる蒸着源から共蒸着し、20nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物1の濃度は10重量%とした。次に、DPEPOを10nmの厚さに形成し、TPBiを30nmの厚さに形成し、さらにフッ化リチウム(LiF)を0.5nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
化合物1の代わりに、化合物2を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子も作製した。
これらの各有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルを
図4に示す。
また、化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子と化合物2を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度−外部量子効率特性を
図5に示す。仮に発光量子効率が100%の蛍光材料を用いてバランスの取れた理想的な有機エレクトロルミネッセンス素子を試作したとすると、光取り出し効率が20〜30%であれば、蛍光発光の外部量子効率は5〜7.5%となる。この値が一般に、蛍光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率の理論限界値とされている。
図5から明らかなように、化合物1を用いた本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、理論限界値を超える高い外部量子効率を実現している点で極めて優れている。
【0092】
【化39】