(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空容器と、前記真空容器内に設置され、エミッタティップを備えたガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する集束レンズと、前記集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射し、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記ガス供給手段は、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガスを含む混合ガス容器と、前記真空容器と前記混合ガス容器とを接続する配管を備え、前記混合ガス容器内の水素ガス濃度は爆発下限以下であることを特徴とするイオンビーム装置。
請求項1記載のイオンビーム装置において、前記ガス供給手段は、前記混合ガス容器の水素ガス濃度を前記混合ガス容器の濃度とは異なる濃度でエミッタティップ近傍に供給することを特徴とするイオンビーム装置。
真空容器と、前記真空容器内に設置され、エミッタティップを備えたガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する集束レンズと、前記集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射し、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記ガス供給手段は、水素ガス、及び水素ガス濃度が爆発下限以下となるように不活性ガスまたは窒素ガスを含む混合ガス容器と、前記水素ガスを吸着する材料を含む水素ガス吸着材料含有容器と、水素ガスを前記エミッタティップ近傍に供給する水素ガス配管とを有することを特徴とするイオンビーム装置。
請求項8記載のイオンビーム装置において、前記水素ガス配管とは別に、不活性ガスまたは窒素ガスを前記エミッタティップ近傍に供給する不活性ガス配管または窒素ガス配管を有することを特徴とするイオンビーム装置。
請求項8記載のイオンビーム装置において、前記水素ガス配管には水素ガスとは異なる不純物ガス濃度を低下させる水素ガス純化器が設置されていることを特徴とするイオンビーム装置。
請求項8記載のイオンビーム装置において、前記ガス供給手段は2種のガス系統を有し、それぞれのガス系統はガス供給経路に設置された加熱機構と排気経路とを有し、それぞれの前記排気経路は真空ポンプに接続されており、それぞれの前記排気経路を分離するバルブが設けられていることを特徴とするイオンビーム装置。
請求項1記載のイオンビーム装置において、前記エミッタティップを有する前記真空容器には真空排気ポンプが少なくとも2個接続されて、各々の前記真空排気ポンプと前記真空容器との間に真空バルブを有し、さらに前記少なくとも2個の真空排気ポンプ内にはゲッタ材を有しており、一つの真空排気ポンプは水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上大きく、他の一つの真空排気ポンプは水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上小さいことを特徴とするイオンビーム装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者等は、水素ガスを用いる場合の安全性を考慮しつつ、水素イオンビームを安定化させる各種条件について検討した。その結果、水素ガスの濃度が低い(50%未満)ガスを用いることにより水素イオンビーム電流が安定すること、水素ガス濃度が爆発限界以下であっても水素イオンビーム電流の安定性は変わらず、安全性と安定性とを両立できることを見出した。本発明はこの新規な知見により生まれたものである。
【0018】
以下、本発明の実施例について図を用いて説明する。なお、同一符号は同一構成要素を示す。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1の実施例に係るイオンンビーム装置の一例について
図1を用いて説明する。以下に、イオンビーム装置として、走査イオン顕微鏡装置の第1の例を説明する。本例の走査イオン顕微鏡は、ガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、試料室103、冷却機構(冷凍機)104、及び、ガス供給機構126を有する。ここでガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、及び、試料室103は真空容器である。
【0020】
ガス電界電離イオン源101は、針状のエミッタティップ121、エミッタティップに対向して設けられ、イオンが通過する開口部(孔)127を有する引き出し電極124、細線状のフィラメント122、円柱状のフィラメントマウント123、及び、円柱状のエミッタベースマウント164を有する。
【0021】
また、ガス電界電離イオン源101が配置された真空容器115を真空排気するイオン源真空排気用ポンプ112が設けられている。真空容器115とイオン源真空排気用ポンプ112の間には真空遮断可能なバルブ129が配置されている。
【0022】
さらにガス電界電離イオン源101の真空容器115には非蒸発ゲッタ材料170を内包する真空室171が接続されている。また、非蒸発ゲッタ材料には真空室171の外に加熱機構172が備えられている。加熱機構172は抵抗加熱、ランプ加熱などを原理としたものなどである。また、イオン源真空排気用ポンプ112と真空容器115および、非蒸発ゲッタ材料170を内包する真空室171と真空容器115との間には真空遮断可能なバルブ174が配置されている。また、非蒸発ゲッタ材料170を内包する真空室171には真空遮断可能なバルブ177を介して真空ポンプ178が接続されている。
【0023】
さらにガス電界電離イオン源101は、エミッタティップ121の傾斜を変える傾斜機構161を含み、これはエミッタベースマウント164に固定されている。これは、エミッタティップ先端の方向をイオンビーム照射軸(光軸)162に精度良く合わせるために用いる。この角度軸調整により、イオンビームの歪みを少なくするという効果を奏する。
【0024】
また、イオンビーム照射系は、上記ガス電界電離イオン源101から放出されたイオンを集束する集束レンズ105、該集束レンズ105及び差動排気口167を通過したイオンビーム114を制限する可動な第1アパーチャ106、該第1アパーチャ106を通過したイオンビーム114を走査あるいはアラインメントする第1偏向器135、該第1アパーチャ106を通過したイオンビーム114を偏向する第2偏向器107、該第1アパーチャ106を通過したイオンビーム114を制限する第2アパーチャ136、該第2アパーチャ136を通過したイオンビームを試料109の上に集束する静電型イオンレンズである対物レンズ108から構成される。本対物レンズ108は4個の電極から構成される。
【0025】
また、イオンビーム照射系カラム102の真空容器を真空排気するイオンビーム照射系カラム真空排気用ポンプ117が設けられている。真空容器とイオンビーム照射系カラム真空排気用ポンプ117の間には真空遮断可能なバルブ128が配置されている。
【0026】
また、試料室103内部には、試料109を載置する試料ステージ110、荷電粒子検出器111、およびイオンビームを照射したときの試料のチャージアップを中和するための電子銃116が設けられている。本実施例のイオン顕微鏡は、更に、試料室103を真空排気する試料室真空排気用ポンプ113を有する。また、試料室103には図示してないが試料近傍にエッチングやデポジションガスを供給するガス銃が設けられている。
【0027】
また、床120の上に配置された装置架台137の上には、防振機構119を介して、ベースプレート118が配置されている。ガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、及び、試料室103は、ベースプレート118によって支持されている。
【0028】
冷却機構104は、ガス電界電離イオン源101の内部、エミッタティップ121を冷却する。なお、冷却機構104は例えばギフォード・マクマホン型(GM型)冷凍機あるいは、パルス管冷凍機を用いる場合には、床120には、図示してないがヘリウムガスを作業ガスとする圧縮機ユニット(コンプレッサ)が設置される。圧縮機ユニット(コンプレッサ)の振動は、床120を経由して、装置架台137に伝達される。装置架台137とベースプレート118との間には除振機構119が配置されており、床の高周波数の振動はガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、試料室103などには伝達しにくいという特徴を持つ。従って、圧縮機ユニット(コンプレッサ)の振動が、床120を経由して、ガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、及び、試料室103に伝達しにくいという特徴を持つ。ここでは、床120の振動の原因として、冷凍機(図示せず)及びコンプレッサを説明した。しかしながら、床120の振動の原因はこれに限定されるものではない。
【0029】
また、防振機構119は、防振ゴム、バネ、ダンパ、又は、これらの組合せによって構成されてよい。
【0030】
また、ガス供給機構126は、混合ガス容器140、混合ガス容器バルブ141、ガス微量調整バルブ142、ガス溜め容器143、ガス圧力測定器144、第一のガス供給配管145、水素選択透過膜146、水素選択透過膜加熱機構147、水素ガス純化器148、第二のガス供給配管149、第二のガス供給配管バルブ150、混合ガス容器カバー151、水素ガスセンサー152、ガス溜め容器排気ポンプ153、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154などから構成されている。
【0031】
ここで、本実施例のガス電界電離イオン源101のエミッタティップ121先端には原子によるナノメートルオーダのピラミッド型構造が形成されている。これをナノピラミッドと呼ぶことにする。ナノピラミッドは、典型的には、先端に1個の原子を有し、その下に3個又は6個の原子の層を有し、さらにその下に10個以上の原子の層を有する。
【0032】
エミッタティップとしては、タングステン、モリブデン細線などを用いる。また、エミッタティップの先端にナノピラミッドを形成する方法は公知であり、イリジウム、白金、レニウム、オスミウム、パラジュウム、ロジュウム等を被覆させた後に、フィラメントに通電してエミッタティップを高温加熱する方法や、他に、真空中での電界蒸発、ガスエッチィング、イオンビーム照射、リモデリング方法等がある。このような方法によれば、タングステン線、モリブデン線先端に原子のナノピラミッドを形成することができる。例えば<111>のタングステン線の先端をイリジウムで被覆した場合には、先端が1個または3個のタングステン原子あるいはイリジウムなどの原子で構成されるのが特徴となる。また、これとは別に、白金、イリジウム、レニウム、オスミウム、パラジュウム、ロジュウムなどの、細線の先端に真空中でのエッチングあるいはリモデリングにより同様なナノピラミッドを形成することもできる。
【0033】
エミッタティップ121の先端に形成される電界強度を調整することによって、エミッタティップ121の先端の1個の原子の近傍でイオンを生成させることができる。従って、イオンが放出される領域、即ち、イオン光源は極めて狭い領域であり、ナノメータ以下である。このように、非常に限定された領域からイオンを発生させることによって、ビーム径を1nm以下とすることができる。そのため、イオン源の単位面積及び単位立体角当たりの電流値は大きくなる。これは試料上で微細径・大電流のイオンビームを得るためには重要な特性である。
【0034】
なお、白金、レニウム、オスミウム、イリジウム、パラジュウム、ロジュウム、などを用いて、先端原子1個のナノピラミッドが形成された場合には、同様に単位面積・単位立体角から放出される電流すなわちイオン源輝度を大きくすることができ、イオン顕微鏡の試料上のビーム径を小さくしたり、電流を増大したりするのに好適となる。ただし、エミッタティップが十分冷却され、かつガス供給が十分な場合には、必ずしも先端を1個に形成する必要はなく、3個、6個、7個、10個などの原子数であっても十分な性能を発揮できる。特に、4個以上の10個未満の原子で先端を構成する場合には、イオン源輝度を高くでき、かつ先端原子が蒸発しにくく安定した長寿命の動作が可能である。
【0035】
図2は、
図1に示した本実施例に係るイオン顕微鏡の制御装置の一例を示す。本実施例で示す制御装置は、ガス電界電離イオン源101を制御する電界電離イオン源制御装置191、冷凍機104を制御する冷凍機制御装置192、非蒸発ゲッタ材料の加熱機構および冷却機構などの温度制御装置291、引き出し電極印加電圧電源295、水素濃度制御装置296、集束レンズ105および対物レンズ108を制御するレンズ制御装置193、可動な第1アパーチャ106を制御する第1アパーチャ制御装置(図示せず)、第1偏向器135を制御する第1偏向器制御装置(図示せず)、第2偏向器107を制御する第2偏向器制御装置195、試料ステージ110を制御する試料ステージ制御装置197、試料室真空排気用ポンプ13を制御する真空排気用ポンプ制御装置198、試料ステージ110、荷電粒子検出器111の電極等に電圧を印加する複数の電源およびその制御装置196、および計算処理能力をもつ本体制御装置199を有する。本体制御装置199は演算処理部199b、記憶部199c、画像表示部199a等を備える。画像表示部199aは、荷電粒子検出器111の検出信号から生成された画像、及び、入力手段によって入力した情報を表示する。
【0036】
試料ステージ110は、試料109を試料載置面内にて直交2方向へ直線移動させる機構、試料109を試料載置面に垂直な方向への直線移動させる機構、及び、試料109を試料載置面内にて回転させる機構を有する。試料ステージ110は、更に、試料109を傾斜軸周りに回転させることによりイオンビーム114の試料109への照射角度を可変できる傾斜機能を備える。これらの制御は計算処理装置(本体制御装置)199からの指令により、試料ステージ制御装置197によって実行される。
【0037】
図3に、
図1に示した本実施例に係るイオン顕微鏡の試料室内部の様子を示す。対物レンズ108は、4個の電極301、302、303、304から構成されている。
図4に静電レンズ電極間隔を模式的に示す。試料が載置される試料ステージ110に最も近い電極301と、試料に2番目に近い電極302との第1の間隔s1が、試料ステージ110に2番目に近い電極302と試料ステージ110に3番目に近い電極303との第2間隔s2、および 試料ステージ110に3番目に近い電極303と試料ステージ110に4番目に近い電極304との第3間隔s3のいずれに比べても 小さく、さらに第2の間隔s2が第3間隔s3に比べて略同じまたは小さくなっている。
【0038】
ここで、
図4(A)では各々の電極形状は、同じ穴径で平らなドーナッツ形円板となっており、電極間隔とは平行な円板距離である。しかし、レンズ電極形状は、同じ穴径を持つドーナッツ形円板でなくても、
図4(B)に示したように、各電極の穴径が異なっても良く、電極の穴側が尖った形状を有する構造であっても良い。また、平らなドーナッツ形円板でなくても
図4(C)に示したような形状でも良い。
図4(C)に示したような電極形状では、電極間隔としては、イオンビームが通過する穴の近傍の最も近い距離s2aと、レンズ電極の周辺での間隔s2bがある。静電レンズの収差を少なくして、さらに高電圧印加に対して放電などの事故を生じない安定した構造にするためには、s2aがs2bに比べて略同じか小さくすれば良いということが分かった。このため、本実施例では、電極間の距離とは、電極間で最も接近する距離ではなく、イオンビームが通過する穴の近傍の最も近い距離とする。したがって、
図4(C)の電極302と電極303の間隔で、図示s2aとs2bを比べて、s2bが短くても、電極302と電極303の間隔はs2aとする。ただし、繰り返しになるがs2aはs2bに比べて、同じか短いことが好ましい。同じく
図4(C)電極303と電極304の間隔としては、s3aとs3bなどがあるが、電極203と電極204の間隔はs3aとする。
【0039】
なお、本実施例では、試料に最も近い電極301と、試料に2番目に近い電極302との第1の間隔は0.5mm、試料に2番目に近い電極302と、試料に3番目に近い電極303との第2間隔は4mm、および 試料に3番目203に近い電極と、試料に4番目に近い電極304との第3間隔は4mmとした。ただし、これらの数字に限定されるものではない。
【0040】
また、各々の電極は電気絶縁されており、
図3に示すように、各々、4個の高圧電源401、402、403、404から電圧を印加できる。ただし、4個の高圧電源のうち、高圧電源401と、高圧電源404が無い場合も本実施例の効果は得られる。特に、静電レンズの2個の電極に異なる電圧を印加できる電源、あるいは2個の電源のみで構成する場合には、装置コストを低減できるという効果を奏する。
【0041】
なお、荷電粒子検出器111は、その先端に電極306を備え、蛍光体307、および大気側に光電子増倍管308を備える。符号407は荷電粒子検出器先端の電極印加用電源、符号408は蛍光体印加用電源である。電子銃116は電子エミッタ309および電子照射電極310などから構成されている。電子エミッタ309および電子照射電極310も、各々電気絶縁されていて、2個の高圧電源409、410(但し、高圧電源409は図示せず)から電圧を印加できる。試料ステージ110も電気絶縁されていて高圧電源(試料印加用電源)405から電圧を印加できる。
【0042】
次に、本例のガス電界電離イオン源の動作を説明する。真空排気後、十分な時間が経過した後、冷凍機104を運転する。それによってエミッタティップ121が冷却される。まず、エミッタティップ121にイオンの加速電圧として、正の高電圧を印加する。次に、エミッタティップ121に対して負電位となるように引き出し電極124に高電圧を印加する。すると、エミッタティップの先端に強電界が形成される。イオン化ガスの供給機構126からイオン化ガスを供給すると、イオン化ガスは強電界によって分極し、エミッタティップ面に引っ張られる。さらにイオン化ガスは最も電界の強いエミッタティップ121の先端近傍に到達する。そこでイオン化ガスが電界電離し、イオンビーム114が生成される。イオンビーム114は、引き出し電極124の孔127を経由して、イオンビーム照射系に導かれる。
【0043】
次に、イオンビーム照射系の動作を説明する。イオンビーム照射系の動作は、本体制御装置199からの指令により制御される。ガス電界電離イオン源101によって生成されたイオンビーム114は、集束レンズ105、ビーム制限アパーチャ(第1アパーチャ)106、対物レンズ108(電極304、303、302、301)を順次通過して、試料ステージ110上の試料109の上に照射される。まず、イオン光学条件は、イオン光源を試料上に結像する倍率を少なくとも0.5以上として、大電流を得られる条件とした。なお、荷電粒子検出器111からの信号は、輝度変調され、本体制御装置199に送られる。本体制御装置199は、走査イオン顕微鏡像を生成し、それを画像表示部に表示する。こうして、試料表面の観察が実現される。
【0044】
次に、本実施例の特徴であるイオン化ガス供給機構の動作について説明する。容量5リットルの混合ガス容器140には、濃度99%のヘリウムガスと濃度1%の水素ガスの混合ガスが約5MPaの圧力で封入されている。混合ガス容器バルブ141を開けてヘリウムと水素の混合ガスをガス溜め容器143に導入する。ここで、ガス微量調整バルブ142により、ガス溜め容器143内のガス圧を0.1MPa以下の約500Paに調整する。ガス溜め容器143内のガス圧力はガス圧力測定器144によりモニタする。なお、混合ガス容器バルブ141とガス微量調整バルブ142との間の圧力を、混合ガス容器140に圧力調整器を取り付けて、例えば0.4MPaに一定にすると、ガス溜め容器143内のガス圧調整精度が向上するという効果を奏する。次に、第二のガス供給配管バルブ150を閉めた状態で、水素選択透過膜146の温度を水素選択透過膜加熱機構147によって上昇させると水素ガスのみが、水素選択透過膜146を通過する。さらに、水素ガス純化器148を通して、ガス電界電離イオン源の真空容器115に導入する。そして、エミッタティップ121と引き出し電極124との間の電圧、すなわち引き出し電圧を3kVに設定する。すると、既に述べたように水素ガスは強電界によって分極し、エミッタティップ面に引っ張られる。さらに水素ガスは最も電界の強いエミッタティップ121の先端近傍に到達する。そこで水素ガスが電界電離し、水素イオンビーム114が生成される。水素イオンビーム114は、引き出し電極124の孔127を経由して、イオンビーム照射系に導かれる。すると、既に述べたように、本体制御装置199は、水素イオンビームを照射したときの走査イオン顕微鏡像を演算処理部199bにより生成し、それを画像表示部に表示する。
【0045】
次に、水素選択透過膜146の温度を下げて、水素ガス供給を止める。そして、第二のガス供給配管バルブ150を開ける。こうすると、ヘリウムと水素の混合ガスがガス電界電離イオン源の真空容器115に導入される。そして、引き出し電圧124を8kVに設定する。すると、既に述べたようにヘリウムガスと水素ガスは強電界によって分極し、エミッタティップ面に引っ張られる。ここで、水素ガスはエミッタ先端までの途中でイオン化されてエミッタ先端には、ほとんど到達しない。しかし、ヘリウムガスは最も電界の強いエミッタティップ121の先端近傍に到達する。そこでヘリウムガスが電界電離し、ヘリウムイオンビームが生成される。同様にヘリウムイオンビームは、引き出し電極124の孔127を経由して、イオンビーム照射系に導かれる。
【0046】
すると、既に述べたように、本体制御装置199は、ヘリウムイオンビームを照射したときの走査イオン顕微鏡像を演算処理部199bにより生成し、それを画像表示部に表示する。ここで、得られた走査イオン像のコントラストは、水素イオンビーム照射による走査イオン像と異なることが分かった。これらの2種の走査イオン像を本体制御装置199の記憶部199cに記憶させ、演算処理部199bによる加減乗除などの演算処理によって、試料の元素情報や状態情報が得られることが分かった。
【0047】
本実施例では、ガス電界電離イオン源101が配置された真空容器115に導入される水素濃度が、混合ガス容器140の濃度とは異なる濃度に制御できることが分かる。まず、ガス微量調整バルブ142の調整により、ガス溜め容器143内のガス圧を制御できる。そして、濃度1%の水素ガスが、水素選択透過膜の温度を制御することにより、水素選択透過膜を通過する水素ガス量が制御されて、ほぼ100%の濃度の水素ガスとなり真空容器115に供給される。供給する水素ガス量は、ガス溜め容器143内のガス圧と水素選択透過膜146の温度で制御される。また、第二のガス供給配管バルブ150を開けると、濃度1%の水素ガスが真空容器115に供給される。したがって、これらの制御をすることにより、水素ガス濃度を1%から100%まで制御することができるのである。したがって、水素濃度制御装置296は、ガス微量調整バルブ142、ガス溜め容器143内のガス圧力測定器144、水素選択透過膜146の加熱機構147、及び第二のガス供給配管バルブ150の開閉度の少なくとも1つを制御する。
【0048】
なお、ここで、引き出し電圧を3kVにすると、ヘリウムガスと水素ガスはエミッタティップ121の先端近傍に到達する。ヘリウムはほとんどイオン化されないが、水素はイオン化されて、水素イオンビームが生成される。この場合には、ヘリウムガスの存在によって、水素のイオン電流が若干不安定になるという現象が発生することが分かった。なお、水素イオンの引き出し電圧およびヘリウムイオンの引き出し電圧を本体制御装置199の記憶部199cに記憶させて、必要に応じて引き出し電圧を切り替えれば、水素イオンビームとヘリウムイオンビームを効率良く切り替えることができて、試料の観察および元素分析・状態解析の効率が向上するという効果を奏する。
【0049】
なお、混合ガス容器140はカバー151に覆われており、万が一に混合ガス容器からガスが漏れると、水素ガスセンサー152で警報する。
【0050】
以上のようにして、ヘリウムと水素の混合ガスを用いて、安定した水素イオンビームとヘリウムイオンビームが得られる。なお、本実施例では、濃度約1%の水素ガスを用いたが、本願発明者は、混合ガス容器140内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下すなわち約4%以下の濃度とすると、この混合ガスをエミッタティップ121に供給して、水素ガスイオンを安定して得られ、かつヘリウムイオンを安定して得られることも見出した。すなわち、水素イオン化電界は他のガス種に比べて低く、他のガスに比べ濃度を小さくすることが、他のガスとの共存する場合には肝要であることを、本願発明者は突き止めた。特に、上記濃度範囲の水素濃度にすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、他のガスイオン種との強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。さらに、爆発下限以下すなわち約4%以下の濃度とすることにより、万が一に混合ガスが大気圧に比べて高い圧力であるときに、容器外に漏れ出しても安全であるという効果を奏する。このため、安全対策の簡略化が可能となる。
【0051】
従来は、水素ガスを供給する時には、100%水素ガスの1Mpa以上の高圧ガス容器を用いていたが、特に1気圧以上の水素ガスが入った容器や配管から水素ガスが漏れるとイオンビーム装置設置場所での水素ガス爆発の懸念があった。本発明を適用すればこの問題も回避できるという効果を奏する。
【0052】
さらに、ヘリウムイオンを用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。特に、ヘリウムは、イオン化電界が高く、水素と同居しても、高い引き出し電圧を印加した状態ではヘリウムイオンの放出にはあまり影響を与えない。逆に、水素イオンを放出している場合には、ヘリウムガスが中性の状態で存在するが、これは水素ガスの安定度にはあまり影響しないことを見出したのである。本実施例によると以上のような効果を奏する。このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。
【0053】
特に、水素イオンビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のヘリウムビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0054】
また、本実施例では、ヘリウムと水素ガスとの混合ガスを用いたが、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど、その他の不活性ガス、あるいは窒素ガスおよび酸素ガスでも本発明は適用可能である。
【0055】
各々のガス種に対して、水素ガス濃度制御装置により最適な水素ガス濃度でガス電界電離イオン源の真空容器115に水素ガスを供給できる。すなわち、混合ガスを用いた場合の水素イオン強度と他のガスイオン強度の調整が容易になるという効果を奏する。
【0056】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスと不活性ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給して、水素ガスイオンを安定して得られる。特に、上記濃度範囲の水素濃度とすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、他のガスイオン種との強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。水素イオンビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。その効果はガス種の質量数が大きくなるにしがって大きくなる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、不活性ガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、不活性ガスイオン種を用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0057】
また、特にネオンを用いた場合には、水素ガスとネオンガスの混合ガスを真空容器115内に導入したときに、水素イオンビームが安定化(ビーム電流値の安定化)することを見出した。これは、ネオンガスがエミッタティップに吸着して、その上層で水素がイオン化されるためと考えられる。また、ネオンイオンビームを用いれば、水素やヘリウムに比べれば高速の加工が可能になるという効果を奏する。なお、2種類の混合ガスのみならず、ヘリウムとネオンと濃度約4%以下の水素ガスの3種の混合ガスであっても良い。また、同様に複数のガス種を含む混合ガスであっても良い。
【0058】
また、既に述べたように、エミッタティップを含む真空容器には非蒸発ゲッタポンプを備えるようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。非蒸発ゲッタポンプは、混合ガス中に含まれる不純物ガスを取り除く効果を発揮する。水素ガスも非蒸発ゲッタポンプによって排気されるが、水素ガス濃度が0.1%以上に大量にあるため、水素ガスの排気能力は飽和する。一方、その他の不純物ガスの排気は可能であるため、不純物ガス濃度をさげることが可能であることを本願発明者は見出したのである。混合ガス中に含まれるガス種が不活性ガスである場合には、非蒸発ゲッタポンプによって、ほとんど排気されないため、この効果が特に顕著になる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0059】
また、既に述べたように本実施例のイオンビーム装置において、少なくとも、エミッタティップに印加する電圧と前記引き出し電極に印加する電圧を供給する電源の制御装置を備えて、これらの電源の制御装置あるいは本体制御装置199が、エミッタティップに印加する電圧と引き出し電極に印加する電圧の差分であるイオン引出電圧を記憶することが可能であり、少なくともヘリウムイオン引出電圧と、水素イオン引出電圧を記憶する制御装置であること有することを特徴とするイオンビーム装置とすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスとヘリウムガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。エミッタティップに印加する電圧と前記引き出し電極に印加する電圧の差分であるイオン引出電圧について、ヘリウムイオンを用いる場合には、比較的高い最適な引出電圧を用いる。一方、水素イオンを用いる場合には、比較的低い最適な引出電圧を用いる。このようにすると、各々のイオン強度を最適な状態に調整することが容易になる。このようにすると、水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、ヘリウムイオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、ヘリウムイオンを用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。特に、ヘリウムは、イオン化電界が高く、水素と同居しても、高い引き出し電圧を印加した状態ではヘリウムイオンの放出にはあまり影響を与えない。逆に、水素イオンを放出している場合には、ヘリウムガスが中性の状態で存在するが、これは水素ガスの安定度にはあまり影響しないことを見出したのである。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0060】
また、本実施例のイオンビーム装置のように、混合ガス容器の水素ガス濃度を前記混合ガス容器の濃度とは異なる濃度でエミッタティップ近傍に供給すると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、エミッタティップの温度によっては、混合ガス濃度とは変えてエミッタティップ周辺に供給すると、より安定な水素ビームが得られることが分かった。また、水素ガス種以外のガスによっては、水素ガス濃度を下げた方が、より安定なイオンビームが得られることが分かった。特に、上記濃度範囲の水素濃度とすると、水素ガス除去するのに好適であり、また、水素イオンビームを得るのに十分な量が得られる。このようにして、水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他のガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0061】
次に、
図3に示す対物レンズの動作について詳細に説明する。
まず、試料に大きなダメージを与えなることなしに観察するため、イオン加速電圧は2kVとした。また、試料109は、接地電位とした。そして、対物レンズ108の4個の電極の内、301、303、304は、接地電位とし、試料から2番目に近い302電極にイオンビーム114を試料上で集束するように正の高電圧1kVを印加した。このときは、対物レンズの4個の電極の内、試料に最も近い電極301と、試料に2番目に近い電極302、試料に3番目に近い電極303によって形成される電界によってイオンビーム114の軌道を制御して、試料上で集束させる。なお、試料に3番目に近い電極303に補助的に電圧を印加してイオンビーム114を試料上に集束しても良い。ここで、試料109に最も近い電極301と、試料109に2番目に近い電極302、試料109に3番目に近い電極303との関係で、試料109に2番目に近い電極302に対して、試料109に最も近い電極301と電極303とが非対称位置に配置されていることが特徴となる。また、電極形状としては、電極301と電極302は略平坦となっており、電極302がより試料に近づくのに好適となっている。このときに、対物レンズ108の主面は、試料に2番目に近い電極302付近に形成される。加速電圧が2kVと低く、試料109に2番目に近い電極302に印加する電圧も低い。このため、電極302を、電極301に近づけても十分信頼性を保つことができ、さらに対物レンズ108の焦点距離を短くすることができるため、レンズの収差を少なくすることが可能となった。すなわち、当該加速電圧2kVにおいても十分小さいビーム径として約1nmが得られる。このことから、低加速電圧イオンビーム照射により、低損傷観察を実現できる。
【0062】
次に、より詳細な観察をするために、イオン加速電圧は50kVとした。また、試料は、接地電位とした。そして、対物レンズ108の4個の電極の内、電極301、302、304は、接地電位とし、試料109から3番目に近い電極303にイオンビーム114を試料上で集束するように正の高電圧40kVを印加した。このときは、対物レンズ108の4個の電極の内、試料109に2番目に近い電極302、試料109に3番目に近い電極303と、試料109に4番目に近い電極304によって形成される電界によってイオンビームの軌道を制御して、試料上で集束させる。このときに、対物レンズ108の主面は、試料109に3番目に近い電極303付近に形成される。すなわち、上記の加速電圧2kVのときの焦点距離に比べて長くなる。なお、試料109に2番目に近い電極302に補助的に電圧を印加してイオンビーム114を試料上に集束しても良い。このときの焦点距離は若干変わるが、上記の本質には変わりない。ここで、試料109に2番目に近い電極302、試料109に3番目に近い電極303、試料109に4番目に近い電極304との関係で、試料109に2番目に近い電極302に対して、試料109に4番目に近い電極304とが対称位置に配置されていることが特徴となる。また、電極形状としては、電極303は他の電極に比べて厚く、かつ、中心に向かって傾斜構造をもっており、いわゆるバトラー型となっており、特に球面収差が少なくするのに好適となっている。この特徴は、特に大電流のイオンビームを照射するのにビームの制限開き角を大きくした時にレンズ収差を少なくするのに好適となる。また、上記で述べたように電極301と電極302が平坦な構造を持ち、バトラー型の特徴を持つ電極303、電極304との組み合わせが本体物レンズ108の構造上の特徴となっている。この構造は、本実施例の効果をもたらすのに好適となっている。
【0063】
また、電極302、電極303、電極304は、その間隔を十分にとっているため高電圧40kVの印加に対しても十分な信頼性を持ち、さらに、試料109に3番目に近い電極303を、試料109に2番目に近い電極302に十分近づけることによって、レンズの収差を少なくすることが可能となる。すなわち、当該加速電圧50kVにおいても極小のビーム径として約0.2nmが得られる。このことから、高加速電圧イオンビーム照射により、超高分解能観察を実現できる。ここで、イオン加速電圧50kVとしたときの超高分解能を強調したが、イオン種として水素や、ヘリウムを用いた場合には、試料材質によっては、スパッタリング率が低下するという場合もある。また、試料中に入射したイオンの存在分布の広がりが大きく、局所的なダメージが少なくなるということがわかった。すなわち、高加速電圧にすると低損傷観察あるいは、低損傷で超高精度寸法計測が実現できる場合もあることがわかった。
【0064】
なお、上記のイオン加速電圧2kVとイオン加速電圧50kVの場合の2種の対物レンズの動作と、水素イオンビーム照射と、別種のイオンビーム照射の組み合わせを自在にすると、観察や加工を種々の条件で実現できるという効果を奏する。
【0065】
例えば、相対的に小さい質量数の水素を用いるとイオンビームで試料極表面の観察に好適となり、相対的に大きい質量数のネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを用いるとイオンビームで試料を加工すること好適となる。
【0066】
また、特に、20kV以上の高加速電圧で、相対的に大きい質量数のネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを試料に照射した場合には、特にスパッタリング率が向上して高速の加工が実現できる。また、逆に試料材質によっては、2kV程度の加速電圧を印加して試料に照射すれば、損傷を少なくして加工することができる。
【0067】
以上で述べた、相対的に高い加速電圧を用いる場合の対物レンズに印加する電圧等の条件、および相対的に低い加速電圧を用いる場合の対物レンズに印加する電圧等の条件は、本体制御装置199に記憶されており、イオンビーム照射の目的および試料構造・材質などに応じて、適した条件を呼び出して観察・加工・計測する。特に一枚のウエハに対して異なる条件の2つ以上を記憶しておき短時間で切り替えて計測すると、計測のスループットを向上できるという効果を奏する。
【0068】
また、特に、本実施例では4個の電極により対物静電レンズを構成することにより、各電極の光学軸を精度良く一致させることが可能となった。すなわち、各電極の中心軸の違いを大きくても20マイクロメートル以内に調整して構成すると収差を少なくすることができた。このことにより、極微細ビームを形成することが可能になった。ただし、電極数を4個以上にしても、同様な電極構成とすれば、本実施例の効果は得られる。電極の数を補助的に加えても本発明の範囲内である。
【0069】
なお、本実施例ではレンズ電極に正の高電圧を印加したが、負の高電圧を印加しても良い。このときには、印加する電圧の絶対値が高くなるが、収差をさらに少なくできるという効果を奏する。
【0070】
以上述べたように、本実施例では、ガスイオンビームにより観察・加工・計測する際に、イオンエネルギーを変えて照射することが可能となる。そして、少なくとも2つの異なる加速電圧に対して、イオンビームを試料上で集束させたときに、4個の電極からなる静電レンズの焦点距離が異なるようにすることで、各々の加速電圧に対して静電レンズの収差を少なくすることが可能となる。すなわち、各加速電圧で、試料上のビーム径を小さくすることができる。このことにより、高加速電圧イオンビーム照射により、超高分解能観察を実現する一方で、低加速電圧イオンビーム照射により、低損傷観察を実現できる。また、試料構造に依存して、加速電圧を変えてイオンビーム照射して、試料構造寸法を計測する場合にも、各々の加速電圧条件で、高精度の寸法計測を実現できる。また、試料材質によって加速電圧を変えてイオンビーム照射して微細加工する場合にも、各々の加速電圧条件で、極微細高速加工を実現できる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0071】
また、本実施例では、少なくとも2つの異なる加速電圧に対して、イオンビームを試料上で集束させたときに、相対的に低い第一の加速電圧をエミッタティップに印加したときに静電レンズの4個の電極のうちで、試料に相対的に近い電極Aに、絶対値が最も高い電圧を印加して、相対的に高い第二の加速電圧を印加したときに、前記静電レンズの4個の電極のうちで、試料から相対的に遠い電極Bに、絶対値が最も高い電圧を印加すると、各々の加速電圧に対して静電レンズの収差を少なくすることが可能となる。すなわち、各加速電圧で、試料上のビーム径を小さくすることができる。
【0072】
以上述べたように、本実施例では、超高分解能観察、低損傷観察、高精度寸法計測および極微細高速加工を実現できるという効果を奏する。さらには、本実施例では、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供されるという効果を奏する。
【実施例2】
【0073】
次に
図5および
図6を参照して、本発明の第2の実施例に係るイオンビーム装置の一例について説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情が無い限り本実施例にも適用することができる。
【0074】
図5は、本実施例に係るイオンビーム装置の一例を示す概略構成図である。本実施例の冷却機構104は、ヘリウム循環方式を採用している。
図6は、
図5に示したイオンビーム装置のガス供給機構126および水素ガス濃度制御機構について詳細に説明する。本例では、エミッタティップ周辺が円筒の壁190や引き出し電極124に囲まれてガス分子イオン化室159が構成され、供給したガスがエミッタティップ周辺で圧力が高くなり、イオン電流を増加できる構造であり、ガス供給配管はこのイオン化室159に接続されている。
【0075】
まず、
図5を参照して、本実施例に係るイオンビーム装置の一例を説明する。本図では、
図1に示したイオンビーム装置の冷却機構104の一例について詳細に説明する。
【0076】
本例の冷却機構104は、冷媒となるヘリウムガスをGM型冷凍機501および熱交換器502、509、510、512を用いて冷却して、これを圧縮機ユニット(コンプレッサ)500により循環させる。コンプレッサ500で加圧された例えば0.9MPaの常温の温度300Kのヘリウムガスは配管503を通じて熱交換器502に流入し、後述する戻りの低温のヘリウムガスと熱交換して温度約60Kに冷却される。冷却されたヘリウムガスは断熱されたトランスファーチューブ504内の配管503を通じて輸送され、ガス電界電離イオン源101近くに配置された熱交換器505に流入する。ここで、熱交換器505に熱的に一体化された熱伝導体(図示せず)を温度約65Kに冷却し、前記輻射シールド等を冷却する。加温されたヘリウムガスは熱交換器505を流出し配管507を通じて、GM型冷凍機501の一次冷却ステージ508に熱的に一体化された熱交換器509に流入し、温度約50Kに冷却され、熱交換器510に流入する。後述する戻りの低温のヘリウムガスと熱交換して温度約15Kに冷却され、そののち、GM型冷凍機501の二次冷却ステージ511に熱的に一体化された熱交換器512に流入し、温度約9Kに冷却され、トランスファーチューブ504内の配管513を通じて輸送され、ガス電界電離イオン源101近くに配置された熱交換器514に流入し、熱交換器514で熱的に接続された良熱伝導体の冷却伝導棒253を温度約10Kに冷却する。熱交換器514で加温されたヘリウムガスは配管515を通じて熱交換器510、502に順次流入し、前述のヘリウムガスと熱交換してほぼ常温お温度約275Kになって、配管515を通じて圧縮機ユニット500に回収される。なお、前述した低温部は真空断熱容器516内に収納され、トランスファーチューブ504とは、図示していないが断熱的に接続されている。また、真空断熱容器516内において、図示していないが低温部は輻射シールド板や、積層断熱材等により室温部からの輻射熱による熱侵入を防止している。
【0077】
また、トランスファーチューブ504は床120または床120に設置された支持体527に強固に固定支持されている。ここで、図示していないが熱伝導率が低い断熱材であるガラス繊維入りのプラスチック製に断熱体でトランスファーチューブ504の内部で固定支持された配管503、507、513、515も床120で固定支持されている。また、ガス電界電離イオン源101近くにおいて、トランスファーチューブ504は、ベースプレート118に支持固定されており、同様にここで、図示していないが熱伝導率が低い断熱材であるガラス繊維入りのプラスチック製に断熱体でトランスファーチューブ504の内部で固定支持された配管503、507、513、515もベースプレート118で固定支持されている。
【0078】
すなわち、本冷却機構は、圧縮機ユニット(コンプレッサ)216で発生させた第1の高圧ガスを膨張させて寒冷を発生する寒冷発生手段と、この寒冷発生手段の寒冷で冷却し、圧縮機ユニット500で循環する第2の移動する冷媒であるヘリウムガスで被冷却体を冷却する冷却機構である。なお、符号211、212はヘリウムガス配管である。
【0079】
冷却伝導棒253は変形可能な銅網線およびサファイアベースを経てエミッタティップ121に接続される。これによりエミッタティップ121の冷却が実現する。本実施例では、GM型冷凍機501は床を振動させる原因になるが、ガス電界電離イオン源101、イオンビーム照射系カラム102、試料室103などはGM冷凍機とは隔離されて設置されており、さらにガス電界電離イオン源101近傍に設置した熱交換器505、514に連結された配管503、507、513、515は殆ど振動しない床120やベースプレート118に強固に固定支持されて振動せず、さらに床から振動絶縁されているため機械振動の伝達の極めて少ないシステムとなることが特徴である。
【0080】
本例では、GM型冷凍機501を用いたが、その代わりに、パルス管冷凍機、又はスターリング型冷凍機を用いてもよい。また、本実施例では、冷凍機は、2つの冷却ステージを有するが、単一の冷却ステージを有するものでもよく、冷却ステージの数は特に限定されるものではない。例えば、1段の冷却ステージを持つ小型のスターリング型冷凍を用いて、最低冷却温度を50Kとしたヘリウム循環冷凍機とすれば、コンパクトで低コストのイオンビーム装置を実現できる。また、この場合には、ヘリウムガスの代わりにネオンガスや水素を用いてもよい。
【0081】
本実施例のガス電界電離イオン源およびイオンビーム装置によれば、冷却機構からの振動は、エミッタティップに伝達されにくく、エミッタベースマウントの固定機構が備えられているためエミッタティップの振動が防止され高分解能観察が可能となるという特徴を持つ。
【0082】
更に、本願の発明者等は、コンプレッサ216又は500の音がガス電界電離イオン源101を振動させてその分解能を劣化させることを突き止めた。そのため、本実施例では、コンプレッサ216とガス電界電離イオン源101を空間的に分離するイオンビーム装置に防音カバー517を設けた。これにより、コンプレッサ216の音に起因した振動の影響を低減することができる。それによって、高分解能観察が可能となる。特に、音を防ぐには隙間をなくすことが肝要である。イオン光源の試料に対する光学倍率が大きく、エミッタティップの振動が試料上のビーム振動として現れる。このため、振動防止が本イオンビーム装置の性能向上には重要である。
【0083】
図6に、本実施例に係るイオンビーム装置のガス電界電離イオン源101およびガス供給機構126を示す。冷凍機構104については、詳細は省略した。
【0084】
まず、ガス電界電離イオン源101およびイオンビーム照射系の動作、走査イオン像取得の動作は、実施例1で記述したイオンビーム装置と同じである。
【0085】
また、ガス供給機構126は、混合ガス容器140、混合ガス容器バルブ141、ガス微量調整バルブ142、ガス溜め容器143、ガス圧力測定器144、第一のガス供給配管145、水素選択透過膜146、水素選択透過膜加熱機構147、水素ガス純化器148、第二のガス供給配管149、第二のガス供給配管バルブ150、混合ガス容器カバー(図示せず)、ガス溜め容器排気ポンプ153、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154、非蒸発ゲッタ材料156、非蒸発ゲッタ材料の加熱機構157などから構成されている。
【0086】
次に、イオン化ガス供給機構の動作について説明する。まず、容量10リットルの混合ガス容器140には、濃度96%のヘリウムガスと濃度4%の水素ガスの混合ガスが約10MPaの圧力で封入されている。ここで、水素ガス濃度とは、全ガスに対する水素ガスの体積比率である。
【0087】
まず、非蒸発ゲッタ材料156を加熱機構157により加熱して、非蒸発ゲッタ材料156を活性化する。ここでは、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154を開けて非蒸発ゲッタ材料156から放出されたガスを、ガス溜め容器排気ポンプ153により排気する。なお、この非蒸発ゲッタ材料156は水素ガスを効率良く吸蔵することができる。非蒸発ゲッタ材料156の温度が十分さがったら、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154を閉める。
【0088】
次に、混合ガス容器バルブ141を開けてヘリウムと水素の混合ガスをガス溜め容器143に導入する。ここで、ガス微量調整バルブ142により、ガス溜め容器143内のガス圧を0.1MPa以下の約200Paに調整する。ガス溜め容器143内のガス圧力はガス圧力測定器144によりモニタする。なお、混合ガス容器バルブ141とガス微量調整バルブ142との間の圧力を、混合ガス容器140に圧力調整器を取り付けて、例えば0.4MPaに一定にすると、ガス溜め容器143内のガス圧調整精度が向上するという効果を奏する。
【0089】
ここで、導入されたヘリウムと水素の混合ガスの内、水素ガスは非蒸発ゲッタ材料156に吸蔵される。一方、ヘリウムガスは、ほとんど吸着されない。また、不純物ガスの窒素ガスや酸素ガスなども非蒸発ゲッタ材料156に吸着される。ここで、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154を開けてヘリウムガスを、ガス溜め容器排気ポンプ153により排気する。その後に、非蒸発ゲッタ材料156を加熱機構157により加熱して、吸蔵された水素ガスを放出させる。この時に非蒸発ゲッタ材料156の温度を、窒素ガスや酸素ガスなどの不純物ガスがあまり放出しないように制御する。すると、混合ガス中の不純物ガス濃度が低下する。なお、非蒸発ゲッタ材料156の加熱機構157は、
図2に示された非蒸発ゲッタ材料温度制御装置291により制御される。非蒸発ゲッタ材料温度制御装置は水素濃度制御装置296に組み込むこともできる。
【0090】
次に、第二のガス供給配管バルブ150を閉めた状態で、水素選択透過膜146の温度を水素選択透過膜加熱機構147によって上昇させると水素ガスのみが、水素選択透過膜146を通過する。さらに、水素ガス純化器148を通して、ガス電界電離イオン源101が設置された真空容器115に導入する。そして、エミッタティップ121と引き出し電極124との間の電圧、すなわち引き出し電圧を3kVに設定する。すると、既に述べたように水素ガスは強電界によって分極し、エミッタティップ面に引っ張られる。さらに水素ガスは最も電界の強いエミッタティップ121の先端近傍に到達する。そこで水素ガスが電界電離し、水素イオンビームが生成される。水素イオンビームは、引き出し電極124の孔を経由して、イオンビーム照射系に導かれる。すると、既に述べたように、本体制御装置199は、水素イオンビームを照射したときの走査イオン顕微鏡像を生成し、それを画像表示部に表示する。
【0091】
本実施例では、水素ガス中の不純物はほとんど除去されており、水素イオンビームの安定度は飛躍的に向上するという効果を奏する。
【0092】
同様に、まず、非蒸発ゲッタ材料156を加熱機構157により加熱して、非蒸発ゲッタ材料156を活性化する。ここでは、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154を開けて非蒸発ゲッタ材料156から放出されたガスを、ガス溜め容器排気ポンプ153により排気する。非蒸発ゲッタ材料156の温度が十分さがったら、ガス溜め容器排気ポンプバルブ154を閉める。
【0093】
次に、混合ガス容器バルブ141を開けてヘリウムと水素の混合ガスをガス溜め容器143に導入する。ここで、ガス微量調整バルブ142により、ガス溜め容器143内のガス圧を0.1MPa以下の約200Paに調整する。ガス溜め容器143内のガス圧力はガス圧力測定器144によりモニタする。ここで、導入されたヘリウムと水素の混合ガスの内、水素ガスは非蒸発ゲッタ材料156に吸蔵される。一方、ヘリウムガスは、ほとんど吸着されない。また、不純物ガスの窒素ガスや酸素ガスなども非蒸発ゲッタ材料156に吸着される。ここで、第二のガス供給配管バルブ150を開けて純化されたヘリウムガスが、ガス電界電離イオン源101が設置された真空容器115に導入される。そして、引き出し電圧を8kVに設定する。すると、既に述べたようにヘリウムガスは最も電界の強いエミッタティップ121の先端近傍に到達する。そこでヘリウムガスが電界電離し、ヘリウムイオンビームが生成される。
【0094】
すると、既に述べたように、本体制御装置199は、ヘリウムイオンビームを照射したときの走査イオン顕微鏡像を生成し、それを画像表示部に表示する。ここで、得られた走査イオン像のコントラストは、水素イオンビーム照射による走査イオン像と異なる。これらの2種の走査イオン像を本体制御装置199の記憶部に記憶させて、加減乗除などの演算処理によって、試料の元素情報や状態情報が得られる。
【0095】
本実施例では、ガス電界電離イオン源101が設置された真空容器115に導入される水素ガスの濃度およびヘリウムガスの濃度が、混合ガス容器140の濃度とは異なる濃度に制御できることが分かる。まず、ガス微量調整バルブ142の調整により、ガス溜め容器143内のガス圧を制御できる。そして、濃度4%の水素ガスが、水素選択透過膜146の温度を制御することにより、水素選択透過膜146を通過する水素ガス量が制御されて、ほぼ100%の濃度で不純物ガスが極めて少ない水素ガスとなり真空容器115に供給される。ここで供給される水素ガス量は、ガス溜め容器143内のガス圧と水素選択透過膜146の温度で制御される。また、第二のガス供給配管バルブ150を開けると、ほぼ100%の濃度のヘリウムガス、すなわち濃度がほぼ0%の水素ガスが真空容器115に供給される。したがって、これらの制御をすることにより、水素ガス濃度を0%から100%まで制御することができる。したがって、水素濃度制御装置296は、ガス微量調整バルブ142、ガス溜め容器143内のガス圧力測定器144、水素選択透過膜の加熱機構147、第二のガス供給配管バルブ150の開閉度、非蒸発ゲッタ材料156の加熱機構157、及びガス溜め容器排気ポンプバルブ154の少なくとも1つを制御する。
【0096】
また、本実施例では、ヘリウムと水素ガスとの混合ガスを用いたが、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど、その他の不活性ガスでも本発明は適用可能である。
【0097】
各々のガス種に対して、水素ガス濃度制御装置296により最適な水素ガス濃度でガス電界電離イオン源101が設置された真空容器115に水素ガスを供給できる。すなわち、混合ガスを用いた場合の水素イオン強度と他のガスイオン強度の調整が容易になるという効果を奏する。
【0098】
本実施例では、濃度4%の水素ガスを含んだ混合ガスを用いている。このため、万が一、この混合ガスが混合ガス容器140から外部に漏れても、水素ガスの空気に対する爆発下限に比べて低いため爆発事故を発生しない。通常は、イオンビームを形成するためのガス量はわずかなため、このような配慮はなされていなかった。しかしながら、ガス電界電離イオン源101を用いて、その能力を最大限に生かす場合には、既に述べたように機械振動を極めて小さく必要がある。これはイオン光源の試料に対する光学倍率が大きく、エミッタティップの振動が試料上のビーム振動として現れるからである。本実施例でも、イオンビーム装置に防音カバー517を設けた。従来のイオンビーム装置の防音カバーに比べて、さらに隙間をなくした構造になっている。このような装置の構造で、わずかでも水素ガスが漏れると、水素ガスが防音カバー内に滞留して水素爆発の懸念が大きくなった。すなわち、従来の考え方では決して生まれない発想であった。
【0099】
以上の実施例では、真空容器と、真空容器内にエミッタティップと、該エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段を備えるガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する静電レンズと、該集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射して、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記ガス供給手段には、少なくとも水素ガスと、不活性ガスまたは窒素ガスを含む混合ガス容器と、前記水素を吸着する材料を含む容器と、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0100】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られる。この結果、水素イオンビーム電流が特に安定するということを見出した。
【0101】
ここで、水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。その効果はガス種の質量数が大きくなるにしがって大きくなる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、不活性ガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、不活性ガスイオン種を用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【0102】
また、特にネオンを用いた場合には、水素ガスとネオンガスの混合ガスを真空容器115内に導入したときに、水素イオンビームが安定化することを見出した。これは、ネオンガスがエミッタティップに吸着して、その上層で水素がイオン化されるためと考えられる。
【0103】
また、以上の実施例では、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管とは別に、不活性ガスまたは窒素ガスをエミッタティップ近傍に供給する配管を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0104】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素濃度を下げる。このときに水素濃度があまりに大きいと、水素ガス吸着材料への負担が大きい。水素濃度を下げられた混合ガス中に含まれる不活性ガスまたは窒素ガスはエミッタティップに供給される。これにより安定した不活性ガスまたは窒素ガスイオンビームが得られる。また一方で、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られる。この結果、水素イオンビーム電流が特に安定する。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【0105】
また、以上の実施例では、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管には水素ガスとは異なる不純物ガス濃度を低下させる純化器を備えることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0106】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。さらに、水素ガスとは異なる不純物ガス濃度を低下させる純化器を通す。これにより、さらに安定した水素イオンビームが得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【0107】
また、以上の実施例では、前記水素を吸着する材料を含む容器と、該吸着された水素をエミッタティップ近傍に供給する配管との間に水素選択透過膜を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。さらに、水素選択透過膜を通すことにより不純物ガス濃度を低下させる。これにより、さらに安定した水素イオンビームが得られる、このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【0108】
さらに、本実施例のイオンビーム装置の他の例において、2種のガスの供給管があって、該ガス供給経路に加熱機構と排気経路を設け、少なくとも2つの排気経路が真空ポンプと接続されており、少なくとも2つの排気経路を分離するバルブを設けることを特徴とするイオンビーム装置とする。
本実施例について
図8を用いて説明する。
図8にガスの供給機構およびイオン源の詳細を示す。ガスの供給機構は、ボンベバルブ551を備えたガスボンベ553、減圧弁555、ストップバルブ557、および微量なガス流量を調整可能である微量流量調整バルブ559からなる第1系統と、ボンベバルブ552を備えたガスボンベ554、減圧弁556、ストップバルブ558、および微量なガス流量を調整可能である微量流量調整バルブ560からなる第2系統との2系統を有する。なお、微量流量調整バルブ559、560は例えばニードルバルブである。一方の系統の第一のガスボンベ553には希釈された水素が高圧力で充填されている。また、他方の第二のガスボンベ554にはアルゴン、キセノン、クリプトン、ネオン、酸素、窒素のいずれかが高圧力で充填されている。ガス電界電離イオン源101に先端にタングステンエミッタ121を持つ。本実施例では、第一のガスボンベ553には希釈水素、第二のガスボンベ554にはキセノンが充填される例について述べる。なお、
図8では水素ガスを吸着する非蒸着ゲッタ材料については図示されていないが、所望の箇所に設置することができる。
【0109】
次に、イオン源の動作について述べる。水素ボンベ553のボンベバルブ551を開け、次に減圧弁555によりガス配管内の圧力を調整する。次にイオン源へガス供給に開閉を行うためのストップバルブ557を開ける。最後に微量流量調整バルブ559によりイオン源内へのガス流量を調整する。イオン源のガス圧が0.2Pa程度になるように調整する。ここで、タングステンエミッタ121に20kV高電圧を印加して、先端より水素イオンを引き出す。ここで、水素イオンビームの量が最高になるようにガス流量を微量流量調整バルブ559で調整し、さらに印加高電圧についても調整する。そして微量流量調整ノブ561は固定し、放電電圧は制御装置591に記憶する。次に、ストップバルブ557を閉止し、電圧を印加解除して水素ビームを止める。そしてバイパスバルブ581を開けてイオン源中の水素を真空ポンプ582により排気する。なお、イオン源カラムは真空ポンプ583によっても排気されている。次に、キセノンガスについても同様に、キセノンボンベバルブ552を開け、減圧弁556によりガス配管内の圧力を調整し、ストップバルブ558を開ける。最後に微量流量調整バルブ560によりイオン源内へのガス流量を調整して、イオンエミッションが生じるようにする。キセノンについても水素と同様にキセノンイオンビームの量が適正になるようにガス流量を微量流量調整バルブ560で調整し、微量流量調整ノブ562を固定する。次に水素ビームに切り替えるためには同様にストップバルブ558を閉止し、放電電圧を印加解除してキセノンの放電を止め、バイパスバルブ581を開けてイオン源中のキセノンを排気する。
【0110】
このようにすると、ガス電界電離イオン源101を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス排気供給管601、602をヒータ603、604で加熱して、ガスを供給する時には温度を下げることによって配管からの放出不純物ガスを低減する。2種のガス供給管を各々処理する必要があるが、この際に一方の配管601の不純物ガスが、他方の配管602を汚染しないようにすることが肝要であることを本願発明者は突き止めた。すなわち、水素供給配管を清浄化するためにヒータ603により配管601を加熱している際には、分離バルブ606を閉じて、キセノンガスを汚染しないようにする。このときの不純物ガスは真空配管607を介して真空ポンプ608により排気する。また、キセノンガス供給配管を清浄化するためにヒータ604により配管602を加熱している際には、分離バルブ605を閉じて、水素ガス供給配管601を汚染しないようにする。このときの不純物ガスは真空配管607を介して真空ポンプ608により排気する。以上の処置により供給するイオン化ガスの不純物ガス濃度を下げることができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【0111】
さらに、本実施例のイオンビーム装置において、第一のガス供給経路に、第一のガスである水素ガスの純化器を有して、第二のガス供給経路には、非蒸発ゲッタ材を有する容器を有し、該非蒸発ゲッタ材の不活性ガスの吸着速度が、水素の吸着速度に比べて少なくとも1桁以上低いことを特徴とするイオンビーム装置とする。
【0112】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス供給管の不純物ガス濃度を下げることができる。さらに、第一のガス供給経路に、第一のガスである水素ガスの純化器を配置することにより、水素ガスの純度を上げることができる。また、第二のガス供給経路には、非蒸発ゲッタ材を有する容器を有し、該非蒸発ゲッタ材の不活性ガスの吸着速度が、水素の吸着速度に比べて少なくとも1桁以上低くすると、特に不活性ガスの純度を上げることができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明の上記構成によると以上のような効果を奏する。
【実施例3】
【0113】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。なお、実施例1又は2に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情が無い限り本実施例にも適用することができる。本実施例においては、ガス電界電離イオン源について、エミッタティップを有する真空容器115には真空排気ポンプが少なくとも2個接続されて、各々の真空排気ポンプと真空容器との間に真空バルブを有して、さらに真空排気ポンプ内にはゲッタ材を有している実施例について、
図7を用いて説明する。なお、冷却機構およびイオンビーム照射系については図示していない。
【0114】
まず、イオン化ガス供給機構126の混合ガス容器には、濃度0.1%の水素ガスと99.9%の濃度のネオンガスが充填されている。そして、ガス電界電離イオン源101が配置された真空容器115に水素ガスとネオンガスを供給する。水素ガスの濃度は、0%から100%まで制御可能である。なお、実施例2と同様に、円筒の壁190や引き出し電極124に囲まれたガス分子イオン化室159にガスを供給する構成とすることもできる。
【0115】
本実施例では、
図7の左側に、第一の真空排気ポンプとして、水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上大きいゲッタ材(第一のゲッタ材料)170を内包する真空室171と、真空容器115との間に真空遮断可能なバルブ174を配置する。ここで、第一のゲッタ材料170を加熱機構172によって加熱し、第一のゲッタ材料170を活性化する。この時に発生した不純物ガスは真空遮断可能なバルブ177を開けて、真空ポンプ178で排気する。そして、ネオンイオンビームを照射している場合には、バルブ174を開けて、ネオンガス以外の不純物ガスを除去する。これによりネオンイオンビームが安定化するという効果を奏する。
【0116】
図7の右側に、第二の真空排気ポンプとして、水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上小さいゲッタ材(非蒸発ゲッタ材料、第二のゲッタ材料)180が含まれている。また、真空室181と、真空容器115との間に真空遮断可能なバルブ184を配置する。ここで、第二のゲッタ材料180を加熱機構183によって加熱し、第二のゲッタ材料180を活性化する。この時に発生した不純物ガスはバルブ187を開けて、真空ポンプ188で排気する。そして、水素イオンビームを照射している場合には、バルブ184を開けて、水素ガス以外の不純物ガスを除去する。これにより水素イオンビームが安定化するという効果を奏する。
【0117】
なお、本実施例では、ネオンと水素ガスとの混合ガスを用いたが、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノンなど、その他の不活性ガスでも本発明は適用可能である。
【0118】
すなわち、本実施例は、真空容器と、真空容器内にエミッタティップと、該エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段を備えるガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する静電レンズと、該集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射して、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記エミッタティップを有する真空容器115には真空排気ポンプが少なくとも2個接続されて、各々の真空排気ポンプと真空容器との間に真空バルブを有して、さらに真空排気ポンプ内にはゲッタ材を有しており、第一の真空排気ポンプには水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上大きいゲッタ材が含まれており、第二の真空排気ポンプには水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上小さいゲッタ材が含まれていることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0119】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス供給管の不純物ガス濃度を下げることができる。エミッタティップを有する真空容器には真空排気ポンプを、水素イオンを放出している時には、その他のガス種を排気することができ、不活性ガスイオンを放出しているときは、水素ガスを含んだ、他のガス種を排気することができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0120】
なお、本実施例では濃度0.1%の水素ガスを用いたが、これよりも濃度の低い水素ガスの場合に、イオンビーム形成に対して水素ガス量が少なく混合ガスが早く枯渇して装置利用効率が下がる。また、水素ガス量に対する不純物ガス量が相対的に大きくなり水素イオンビーム電流が不安定になるという問題が発生することが分かった。これは、ネオンガスに当てはまるばかりでなく、他の不活性ガスや窒素ガスなどにも、同じであることが分かった。
【0121】
また、本実施例に示したイオンビーム装置で、エミッタティップに少なくとも2つの異なる電圧を印加可能な加速電源、および引き出し電極に電圧を印加する電源、静電レンズに電圧を印加する電源、試料に電圧を印加する電源を備えており、異なる加速電圧に対して、前記引き出し電極電圧、前記静電レンズ電極電圧、試料電圧の少なくとも2種類の値を記憶する制御装置を備えて、試料に応じて制御装置に記憶された条件を呼び出して、試料表面の構造寸法を計測するイオンビーム装置とすると、ガスイオンビームにより試料表面の構造寸法を計測する際に、水素ガスを含む2種類以上のガスから計測に適したガスを選択することができ、さらに加速電圧を変えて照射することが可能となる。試料構造や試料材質によって、試料損傷が相対的に少ない条件で、あるいは寸法計測精度が相対的に高い条件で試料表面の構造寸法を計測できるという効果を奏する。
【0122】
また、本実施例のイオンビーム装置で試料表面の構造寸法を計測した結果を用いて、デバイス製造プロセスを管理するシステムを構築すれば、デバイス製造の歩留まりが向上する、あるいは、より微細デバイスを製造可能となるという効果を奏する。
【0123】
また、水素ガスの爆発限界の範囲は、空気との混合では下限4.1%から上限74.2%である。本願明細書で爆発限界下限は、この空気との混合下限4.1%を意味するが、酸素との混合比下限4.65%を排除するものではない。
【0124】
なお、本願明細書では、ガス名などの元素種から同位体を区別していない。例えば水素ガスには重水素ガスも含む。
【0125】
以上、本願発明を詳細に説明したが、以下に主な発明の形態を列挙する。
(1)真空容器と、真空容器内にエミッタティップと、該エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段を備えるガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する静電レンズと、該集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射して、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記ガス供給手段は、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガスを含む混合ガス容器を備えて、該容器内の水素ガス濃度が爆発下限以下の濃度であって、前記エミッタティップを含む前記真空容器と該混合ガス容器とを接続する配管を備えることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0126】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給して、水素ガスイオンを安定して得られる。水素イオン化電界は他のガス種に比べて低く、他のガスに比べ濃度を小さくすることが、他のガスとの共存する場合には肝要であることを、本願発明者は突き止めたのである。特に、上記濃度範囲に水素濃度をすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、他のガスイオン種との強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他のガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(2)前記(1)記載のイオンビーム装置において、前記混合ガス容器内のガス種に少なくも不活性ガスを含むことを特徴とするイオンビーム装置である。
【0127】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスと不活性ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給して、水素ガスイオンを安定して得られる。特に、上記濃度範囲に水素濃度をすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、他のガスイオン種との強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、不活性ガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。その効果はガス種の質量数が大きくなるにしがって大きくなる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、不活性ガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、不活性ガスイオン種を用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。本発明によると以上のような効果を奏する。
(3)前記(1)記載のイオンビーム装置において、前記混合ガス容器内のガス種に少なくもヘリウムを含むことを特徴とするイオンビーム装置である。
【0128】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスとヘリウムガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給して、水素ガスイオンを安定して得られる。特に、上記濃度範囲に水素濃度をすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、ヘリウムイオンとの強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、ヘリウムイオンビームを用いれば、水素に比べれば高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、ヘリウムイオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、ヘリウムイオンを用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。特に、ヘリウムは、イオン化電界が高く、水素と同居しても、高い引き出し電圧を印加した状態ではヘリウムイオンの放出にはあまり影響を与えない。逆に、水素イオンを放出している場合には、ヘリウムガスが中性の状態で存在するが、これは水素ガスの安定度にはあまり影響しないことを見出したのである。本発明によると以上のような効果を奏する。
(4)前記(1)記載のイオンビーム装置において、前記混合ガス容器内のガス種に少なくともネオンガスを含むことを特徴とするイオンビーム装置である。
【0129】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスとネオンガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給して、水素ガスイオンを安定して得られる。特に、上記濃度範囲に水素濃度をすると、水素イオンビームの安定度が良好であり、ネオンイオンとの強度の調整も容易なイオンビーム装置が提供される。水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、ネオンイオンビームを用いれば、水素やヘリウムに比べれば高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、ネオンイオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、ネオンイオンを用いた場合には、より安定な微細加工が実現するという効果がある。特に、ネオンガスはエミッタティップ表面に吸着して、水素ガスイオン放出を安定化させるという効果があるということを本願発明者は見出したのである。本発明によると以上のような効果を奏する。
(5)前記(1)記載のイオンビーム装置において、前記エミッタティップを含む前記真空容器には非蒸発ゲッタポンプを備えることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0130】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。非蒸発ゲッタポンプは、混合ガス中に含まれる不純物ガスを取り除く効果を発揮する。水素ガスも非蒸発ゲッタポンプによって排気されるが、水素ガス濃度が0.1%以上に大量にあるため、水素ガスの排気能力は飽和する。一方、その他の不純物ガスの排気は可能であるため、不純物ガス濃度をさげることが可能であることを本願発明者は見出したのである。混合ガス中に含まれるガス種が不活性ガスである場合には、非蒸発ゲッタポンプによって、ほとんど排気されないため、この効果が特に顕著になる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(6)前記(1)記載のイオンビーム装置において、少なくとも、前記エミッタティップに印加する電圧と前記引き出し電極に印加する電圧を供給する電源の制御装置を備えて、前記の電源の制御装置が、前記エミッタティップに印加する電圧と前記引き出し電極に印加する電圧の差分であるイオン引出電圧を記憶することが可能であり、少なくともヘリウムイオン引出電圧と、水素イオン引出電圧を記憶する制御装置であること有することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0131】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスとヘリウムガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。エミッタティップに印加する電圧と前記引き出し電極に印加する電圧の差分であるイオン引出電圧について、ヘリウムイオンを用いる場合には、比較的高い最適な引出電圧を用いる。一方、水素イオンを用いる場合には、比較的低い最適な引出電圧を用いる。このようにすると、各々のイオン強度を最適な状態に調整することが容易になる。このようにすると、水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、ヘリウムイオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。さらに、ヘリウムイオンを用いた場合には、より安定な動作が実現するという効果がある。特に、ヘリウムは、イオン化電界が高く、水素と同居しても、高い引き出し電圧を印加した状態ではヘリウムイオンの放出にはあまり影響を与えない。逆に、水素イオンを放出している場合には、ヘリウムガスが中性の状態で存在するが、これは水素ガスの安定度にはあまり影響しないことを見出したのである。本発明によると以上のような効果を奏する。
(7)前記(1)記載のイオンビーム装置において、前記混合ガス容器の水素ガス濃度を前記混合ガス容器の濃度とは異なる濃度でエミッタティップ近傍に供給することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0132】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。容器内の水素ガス濃度が0.1%以上であって、かつ爆発下限以下の濃度とする。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、エミッタティップの温度によっては、混合ガス濃度とは変えてエミッタティップ周辺に供給すると、より安定な水素ビームが得られることが分かった。また、水素ガス種以外のガスによっては、水素ガス濃度を下げた方が、より安定なイオンビームが得られることが分かった。特に、上記濃度範囲に水素濃度をすると、水素ガス除去するのに好適であり、また、水素イオンビームを得るのに十分な量が得られる。このようにして、水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他のガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(8)また、本発明の一実施例は、真空容器と、真空容器内にエミッタティップと、該エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段を備えるガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する静電レンズと、該集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射して、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記ガス供給手段には、少なくとも水素ガスと、不活性ガスまたは窒素ガスを含む混合ガス容器と、前記水素を吸着する材料を含む容器と、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0133】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。この結果、水素イオンビーム電流が特に安定するということを見出したのである。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(9)前記(8)記載のイオンビーム装置において、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管とは別に、不活性ガスまたは窒素ガスをエミッタティップ近傍に供給する配管を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
【0134】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。この混合ガスをエミッタティップに供給するときに、まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素濃度を下げる。このときに水素濃度があまりに大きいと、水素ガス吸着材料への負担が大きい。水素濃度を下げられた混合ガス中に含まれる不活性ガスまたは窒素ガスはエミッタティップに供給される。これにより安定した不活性ガスまたは窒素ガスイオンビームが得られる。また一方で、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。この結果、水素イオンビーム電流が特に安定する。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(10)前記(8)記載のイオンビーム装置において、水素をエミッタティップ近傍に供給する配管には水素ガスとは異なる不純物ガス濃度を低下させる純化器を備えることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0135】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。さらに、水素ガスとは異なる不純物ガス濃度を低下させる純化器を通す。これにより、さらに安定した水素イオンビームが得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(11)前記(8)記載のイオンビーム装置において、前記水素を吸着する材料を含む容器と、該吸着された水素をエミッタティップ近傍に供給する配管との間に水素選択透過膜を有することを特徴とするイオンビーム装置である。
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。まず、水素ガスを吸着する材料を含む容器において、水素ガスを吸着させる。吸着されなかった水素ガス以外のガスは真空排気ポンプで排気する。その後に、水素を吸着する材料から水素を放出させる。このときには、その他の不純物ガスの放出は少ないように温度で制御する。これにより、より純度の高い水素ガスが得られるのである。さらに、水素選択透過膜を通すことにより不純物ガス濃度を低下させる。これにより、さらに安定した水素イオンビームが得られる、このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(12)前記(8)記載のイオンビーム装置において、2種のガスの供給管があって、該ガス供給経路に加熱機構と排気経路を設け、少なくとも2つの排気経路が真空ポンプと接続されており、少なくとも2つの排気経路を分離するバルブを設けることを特徴とするイオンビーム装置である。
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス排気供給管を加熱して、ガスを供給する時には温度を下げることによって配管からの放出不純物ガスを低減する。2種のガス供給管を各々処理する必要があるが、この際に一方の配管の不純物ガスが、他方の配管を汚染しないようにすることが肝要であることを本願発明者は突き止めたのである。以上の処置により供給するイオン化ガスの不純物ガス濃度を下げることができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(13)前記(8)記載のイオンビーム装置において、第一のガス供給経路に、第一のガスである水素ガスの純化器を有して、第二のガス供給経路には、非蒸発ゲッタ材を有する容器を有し、該非蒸発ゲッタ材の不活性ガスの吸着速度が、水素の吸着速度に比べて少なくとも1桁以上低いことを特徴とするイオンビーム装置である。
【0136】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス供給管の不純物ガス濃度を下げることができる。さらに、第一のガス供給経路に、第一のガスである水素ガスの純化器を配置することにより、水素ガスの純度を上げることができる。また、第二のガス供給経路には、非蒸発ゲッタ材を有する容器を有し、該非蒸発ゲッタ材の不活性ガスの吸着速度が、水素の吸着速度に比べて少なくとも1桁以上低くすると、特に不活性ガスの純度を上げることができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種のイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
(14)、本発明の一実施例は、真空容器と、真空容器内にエミッタティップと、該エミッタティップに対向して設けられた引き出し電極と、前記エミッタティップにガスを供給するガス供給手段を備えるガス電界電離イオン源と、前記エミッタティップから放出されたイオンビームを集束する静電レンズと、該集束レンズを通過した前記イオンビームを偏向する偏向器と、前記イオンビームを試料に照射して、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器を備えるイオンビーム装置であって、
前記エミッタティップを有する真空容器には真空排気ポンプが少なくとも2個接続されて、各々の真空排気ポンプと真空容器との間に真空バルブを有して、さらに真空排気ポンプ内にはゲッタ材を有しており、第一の真空排気ポンプには水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上大きいゲッタ材が含まれており、第二の真空排気ポンプには水素ガスを吸着する速度が、不活性ガスを吸着する速度に比べて1桁以上小さいゲッタ材が含まれていることを特徴とするイオンビーム装置である。
【0137】
このようにすると、ガス電界電離イオン源を搭載して、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種を用いて多様な効果が得られるイオンビーム装置が提供される。さらに、ガス供給管の不純物ガス濃度を下げることができる。エミッタティップを有する真空容器には真空排気ポンプを、水素イオンを放出している時には、その他のガス種を排気することができ、不活性ガスイオンを放出しているときは、水素ガスを含んだ、他のガス種を排気することができる。これにより、少なくとも水素ガスを含む2種類以上のガス種イオンビームを安定して得られる。このようにして、得られた水素ビームを試料に照射した場合には、試料の低ダメージ観察、計測および加工が可能になる。また、他の不活性ガス種や窒素ガスのイオンビームを用いれば、高速の加工が可能になる。さらに、水素イオンビームを照射したときの観察像と、他のガス種イオンビームを照射したときの観察像とを比較する、あるいは演算することにより、試料表面または内部について、より詳細な情報が得られる。本発明によると以上のような効果を奏する。
【0138】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。