(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
CZ法による単結晶シリコンの製造原料となる多結晶シリコン塊は、シーメンス法により合成された多結晶シリコンロッドを反応炉から取り出した後に、それを破砕して得られる。粉砕作業後には、表面を清浄化するために、フッ硝酸等による薬液エッチングを行って製品化される。
【0003】
CZ法で単結晶シリコンを育成する際には、多結晶シリコン塊を石英ルツボ内で融解し、このシリコン融液に単結晶シリコンの種結晶(シード)を接触させて引き上げが行われるから、育成後の単結晶シリコンを高純度のものとするためには、シリコン融液中に含まれる不純物を極力減らす必要がある。このことは、多結晶シリコン塊のバルク不純物濃度と表面に付着している不純物の濃度の双方を極力低減させる必要があることを意味する。
【0004】
多結晶シリコン塊のバルクおよび表面不純物濃度を評価する手法として、一般に、金属不純物に対しては原子吸光分析法、ICP−AES法、ICP−MS法などが用いられ、酸素や炭素等の径元素に対しては赤外線吸収法が用いられる。これらの手法により多結晶シリコン塊の清浄度を評価した上で、製品ランク別に分類される。
【0005】
多結晶シリコン塊のバルク不純物の低減化のために、多結晶シリコンロッド製造時の原料とされるトリクロロシランや水素等のガス精製技術や原料ガス中に含まれる不純物の除去技術のみならず、反応炉の部材等の検討も積み重ねられてきた。一方、多結晶シリコン塊の表面不純物の低減化は専ら、表面のエッチング条件の検討により進められてきており、半導体グレードのものでは、概ね2000pptw以下のものが市場に流通している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、CZ法により育成される単結晶シリコンを高純度のものとするためには、多結晶シリコン塊のバルク不純物濃度と表面に付着している不純物の濃度の双方を極力低減させる必要がある。つまり、多結晶シリコン塊のバルク不純物濃度が低くても表面不純物濃度が高い多結晶シリコン塊は製造原料として不適であり、同様に、多結晶シリコン塊の表面不純物濃度が低くてもバルク不純物濃度が高い多結晶シリコン塊も製造原料として不適である。
【0008】
しかし、多結晶シリコン塊の表面不純物濃度とバルク不純物濃度を別個に評価することとすると、その評価作業が煩雑となり、その結果、多結晶シリコン塊の製造コストも高くなってしまう。例えば、多結晶シリコン塊の極表面領域をエッチングして得た第1の抽出液の分析から表面不純物濃度を求め、さらに深い領域をエッチングして得た第2の抽出液の分析からバルク不純物濃度を求めるなどの手法では、エッチング作業も不純物測定作業も複数回行う必要が生じてしまう。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、一回の不純物測定で、CZ法による単結晶シリコンの製造原料として好適な多結晶シリコン塊を判定・選別することを可能とするための手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコン塊は、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングして得られた抽出液を分析して得られた不純物濃度が、金属元素の1元素につき100pptw未満であり、カーボン濃度につき10ppbw未満である。
【0011】
例えば、前記金属元素は、Li、B、Na、Mg、Al、P、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Mo、Sn、W、Pbの何れかである。
【0012】
また、例えば、前記金属元素は、Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Znの6種のうちの何れかである。
【0013】
好ましくは、前記6元素の合計濃度が100pptw未満である。
【0014】
より好ましくは、前記6元素の合計濃度が80pptw未満である。
【0015】
本発明に係る多結晶シリコン塊の評価方法は、多結晶シリコン塊の清浄度を評価する方法であって、前記多結晶シリコン塊の表面から少なくとも30μmの領域を、フッ酸と硝酸の混合水溶液でエッチングし、該エッチングで得られた抽出液を分析して得られた不純物濃度が、金属元素の1元素につき100pptw未満であり、カーボン濃度につき20ppba未満である場合に清浄と判定する。
【0016】
好ましくは、前記エッチング液の温度を39℃以下に制御しながら前記エッチングを実行する。
【0017】
また、好ましくは、前記エッチング液の循環流量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の1.3以上として前記エッチングを実行する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、CZ法による単結晶シリコンの製造原料として好適な多結晶シリコン塊を判定・選別することを可能とするための手法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[シミ発生とエッチング薬液温度]
多結晶シリコン塊の表面から所定の深さの領域をエッチングする際、一般に、フッ酸(HF)と硝酸(HNO
3)の混酸がエッチャントとして用いられる。このフッ硝酸溶液とシリコンとの反応は発熱反応であり、シリコン1モルに対して85.2kcalの発熱がある。このため、エッチング溶解量が多くなるにつれて発熱量も多くなり、液温が上昇することにより、シリコン表面における反応が激しく進行することとなる。かかる状態でエッチャントが流動していないと、シリコン表面に褐色状のシミが発生してしまい、品質低下を招く結果となる。
【0020】
一方、エッチャントの薬液濃度を低くすると、エッチングの取り代は充分に確保できない。従って、エッチャントの薬液濃度を比較的高めに設定した上で、エッチャントを流動(循環)させることでシリコン塊表面の除熱を効率的に行うとともに、エッチングに伴って生じる反応生成物を速やかに除去することが必要になる。
【0021】
そこで、エッチャントの循環流量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の1.3に設定し、エッチャント温度がシミ発生にどのように影響するかを調べた。
【0022】
実験条件は以下のとおりである。内容量が60リットルの薬液槽に、50wt%水溶液のフッ酸(HF)と70wt%の水溶液の硝酸(HNO
3)の混酸(容積比で1:9)をエッチャントとして充填し、流量を78リットル/分で供給した。エッチャントはポンプで循環させ、槽上部においてオーバーフローさせた。「循環流量」は、78リットル/分を60リットルで除した値である1.3(/分)となる。なお、HFとHNO
3は何れも電子産業用グレードのものである。
【0023】
この薬液槽内で、総量が13kgの多結晶シリコン塊をPP製の籠に収納してエッチングを行い、流路(配管)の一部を冷却することで薬液槽内のエッチャントの上限温度を制御した。なお、この冷却の構造は、特開2013−143549号公報(特許文献1)に開示されているものと同様のものである。
【0024】
表1に、6条件下での薬液槽内のエッチャント温度とシミ発生の有無を調べた結果を纏めた。この結果から、薬液槽内のエッチャント温度(上限)を39℃以下に制御した条件下ではシミの発生が認められない一方、これを超える温度の場合には、エッチャント温度が高くなるほど褐色のシミ発生の程度も高くなっている。
【0026】
なお、エッチャント温度が39℃の場合、120秒のエッチングを行った際のエッチング取り代は60μmであり、充分な取り代が確保できている。
【0027】
以上の結果に基づき、本発明者らは、エッチング液の温度を39℃以下に制御しながらエッチングを実行することが、充分な取り代が確保したうえでシミ発生を抑制することに効果的であると結論付けた。
【0028】
[バルク中金属不純物濃度の表面金属不純物濃度への影響]
続いて、エッチング工程中に、バルク中の金属不純物濃度が表面金属不純物濃度に及ぼす影響について、6条件を設定して調べた。何れの条件においても、エッチング液の上限温度を39℃に制御し、エッチャントの循環量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の1.5に設定した。それ以外の条件は、上述のものとした。
【0029】
先ず、1バッチ目で、バルク中金属不純物濃度と表面金属不純物濃度の総量を評価すべく、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングし、得られた抽出液5.0mlを清浄なテフロン(登録商標)容器に分取し85±5℃の温度範囲にて蒸発乾固させ、1wt%−硝酸水溶液1.0mlを加え定容化してICP−MS測定を行った。
【0030】
分析対象の金属元素は、Li、B、Na、Mg、Al、P、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Mo、Sn、W、Pbとし、P分析にはAgilent社製のICP−MS/MS装置(8800)を用い、それ以外の金属元素分析にはAgilent社製のICP−MS装置(7500CS)を用いた。
【0031】
これに続き、2バッチ目で、バルク中金属不純物濃度の総量を評価すべく、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングし、上記と同様に、抽出液5.0mlを清浄なテフロン(登録商標)容器に分取し85±5℃の温度範囲にて蒸発乾固させ、1wt%−硝酸水溶液1.0mlを加え定容化してICP−MS測定を行った。
【0032】
表2は、Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Znの6種のバルク中の金属不純物濃度の総量、上記6種の金属不純物のバルク中濃度と表面濃度の総量、および
Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Znのうちで最も高い濃度を示した元素の濃度を纏めた表である。なお、濃度の単位は何れもpptwである。
【0034】
実施例
4〜6のものは何れも、金属元素の1元素の最大値が100pptw未満、上記6元素(Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn)の合計濃度が100pptw未満であり、実施例
4のものでは6元素の合計濃度が80pptw未満となっている。
【0035】
この表に示した結果から、バルク中金属不純物濃度が高い程、表面金属不純物濃度も高くなる傾向が読み取れる。これは、エッチング中にエッチャントに溶けだしたバルク中金属不純物元素が、加算され定量されたものである。
【0036】
[エッチャントの循環流量が金属不純物量に及ぼす影響]
続いて、エッチャントの循環流量が金属不純物量に及ぼす影響について、6条件を設定して調べた。何れの条件においても、エッチング液の上限温度を39℃に制御し、エッチャントの循環量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の0.8〜1.7の範囲で設定した。それ以外の条件は、上述のものとした。
【0037】
先ず、1バッチ目で、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングし、続いて、2バッチ目で、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも20μmの領域をエッチングし、上記と同様に、抽出液5.0mlを清浄なテフロン(登録商標)容器に分取し85±5℃の温度範囲にて蒸発乾固させ、1wt%−硝酸水溶液1.0mlを加え定容化してICP−MS測定を行った。
【0038】
表3は、Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Znの6種のバルク中の金属不純物濃度の総量、Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Znのうちで最も高い濃度を示した元素の濃度、および、これらをCZシリコン結晶育成用の原料として用いた際の歩留り(%)を纏めた表である。なお、取代の単位はμmであり、濃度の単位は何れもpptwである。
【0040】
実施例
7〜9のものは何れも、金属元素の1元素の最大値が100pptw未満、上記6元素(Na、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn)の合計濃度が100pptw未満であり、実施例
7のものでは6元素の合計濃度が80pptw未満となっている。
【0041】
そして、実施例
7〜9のものは何れも、CZ歩留りが100%であり、その純度の高さの結果として、極めて良好な歩留りを示している。
【0042】
[エッチャントの循環流量がカーボン不純物量に及ぼす影響]
続いて、エッチャントの循環流量がカーボン不純物量に及ぼす影響について、6条件を設定して調べた。何れの条件においても、エッチング液の上限温度を39℃に制御し、エッチャントの循環量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の0.8〜1.7の範囲で設定した。それ以外の条件は、上述のものとした。
【0043】
先ず、1バッチ目で、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングし、続いて、2バッチ目で、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも20μmの領域をエッチングし、得られた多結晶シリコン塊の表面に付着した有機物を、密閉容器内に不活性ガスを通気しながら加熱温度を350℃に上げて追い出し、吸着剤に吸着させた。
【0044】
なお、この吸着剤は、Tenax−TAであり、これは、2,6−ジフェニル−p−フェニレンオキサイドをベースにした弱極性のポーラスポリマービーズであり、表面積が35m
2/g、ポア面積2.4cm
2/g、平均ポアサイズ200nm、比重は0.25g/cm
3である。
【0045】
その後、吸着剤を加熱し成分を脱着させ、GC−MSに導入しカーボン成分の定量を行った。
【0046】
吸着条件は下記のとおりである。
・試料量:5g
・試料の大きさ:長径20〜30mm、短径5〜10mm
・試料加熱温度と時間:250℃×10分
・通気ガス種類:ヘリウム(50ml/分)
・放出成分の捕捉:−60℃(液体窒素)
・吸着剤の加熱(脱着):昇温速度は−60℃〜250℃を25秒
【0047】
また、GC−MS測定条件は下記のとおりである。
・装置名:アジレント社製、5975C−MSD
・分離カラム:アジレント社製、HP―5MS、25m×0.2mm径、膜厚0.33μm
・温度条件:50℃×5分→300℃(+10℃/分)
・注入口:300℃(スプリット比=20:1)
・キャリアーガス流量:ヘリウム1ml/分
・質量分析検出器:EI(電子衝撃イオン化)モード
【0048】
一方、表面とバルクのカーボンの総計の測定は、19mm径×140mmの棒状のサンプルをエッチングの籠に挿入し、エッチングが終了後に取り出し、小型FZ装置により単結晶化後、赤外線吸収法により測定した。
【0049】
表4は、表面のカーボン不純物濃度、表面とバルクのカーボン不純物の総計、および、これらの多結晶シリコン塊をCZシリコン結晶育成用の原料として用いた際の結晶中のカーボン濃度を纏めた表である。なお、取代の単位はμmであり、表面のカーボン不純物濃度と表面とバルクのカーボン不純物の総計の単位は何れもpptwであり、CZシリコン結晶中のカーボン濃度の単位はppbaである。
【0051】
実施例
10〜12のものは何れも、CZ結晶中のカーボン濃度が5ppba未満となり、極めて良好な結果を示している。
【0052】
表面の有機物については、エッチングが不完全であったり、エッチング後の環境、ハンドリング、梱包材料からのコンタミネーションにより、多くの有機物を吸着、付着している。これらの表面の有機物は、バルクとしてのカーボンとともに単結晶製造時に取り込まれるために、金属元素同様、両方の濃度を低減化する必要がある。
【0053】
以上の結果に基づき、本発明では、多結晶シリコン塊の表面から少なくとも30μmの領域を、フッ酸と硝酸の混合水溶液でエッチングし、該エッチングで得られた抽出液を分析して得られた不純物濃度が、金属元素の1元素につき100pptw未満であり、カーボン濃度につき10ppbw未満である場合に清浄と判定する。
【0054】
従って、フッ酸と硝酸の混合水溶液で表面から少なくとも30μmの領域をエッチングして得られた抽出液を分析して得られた不純物濃度が、金属元素の1元素につき100pptw未満であり、カーボン濃度につき10ppbw未満である、多結晶シリコン塊を得ることができる。
【0055】
条件の選定により、6元素の合計濃度が100pptw未満、好ましくは、80pptw未満とすることができる。
【0056】
本発明では、エッチング液の循環量(リットル/分)を薬液槽の体積(リットル)の1.3以上としてエッチングを実行する。