(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性結晶性樹脂は、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマーを含む請求項3に記載の接合方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂成型品の接合方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、樹脂組成物は、例えばビカット軟化温度140℃以上のように比較的高い耐熱性を有している。この樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂であってもよい。なお本発明におけるビカット軟化温度とは、ISO306のB50法(試験荷重10Nおよび昇温速度50℃/h)に準拠して測定される値をいう。
【0015】
熱可塑性結晶性樹脂には、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)を使用してもよい。熱可塑性結晶性樹脂は、一般的に不透明であるが、結晶化度が低い樹脂では半透明ないしは透明であってもよい。
【0016】
熱可塑性結晶性樹脂には、ガラス繊維を添加してもよい。また、結晶性熱可塑性樹脂には、極性官能基を有する化合物やエラストマーを添加してもよい。極性官能基を有する化合物は、ビスフェノールAエポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂肪族型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物などのエポキシ系化合物であってもよく、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物であってもよい。また、エラストマーはエチレンエチルアクリレート共重合体やエチレングリシジルメタクリレート共重合体等のオレフィン系エラストマーであってもよく、アクリル系エラストマー(例えばアクリル系コアシェルポリマー)、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ジエン系エラストマーであってもよい。
【0017】
本実施の形態では、樹脂組成物によって作製された第1成型品及び第2成型品を用い、これらを互いに接合する。第1成型品及び第2成型品には、表面に互いに接合される対向面が含まれ、これらの対向面は対応するような形状に形成されている。例えば、第1成型品及び第2成型品の対向面は、それぞれ略平坦に形成されていてもよい。また、対向面は、凹凸を有する面であっても第1成型品の凹部と第2成型品の凸部(または第1成型品の凸部と第2成型品の凹部)が対応して密着可能な面であればよい。
【0018】
図1Aから
図1Cは、本実施の形態の一連の工程を概略的に説明する図である。
図1Aに示すように、第1成型品10
1を用意し、真空紫外光照射装置20を用いて第1成型品10
1の照射面10
1aに真空紫外(VUV)光を照射する。ここで、真空紫外光とは、紫外光の内で波長が200nm以下のものを指し、必ずしも真空中で照射しなければならないものではないが、当該波長域の紫外光は、空気による吸収が大きいため、空気中で照射する場合は、真空紫外光が伝播する距離を短くする必要がある。
【0019】
図1Aにおいて、真空紫外光照射装置20は、Xeエキシマランプなどの光源21と、光源21から放出された光を照射物に向けて反射する反射板22とを有している。
図2は、真空紫外光照射装置の一例を示す写真である。この写真に示す真空紫外光照射装置は、筐体上面に形成された開口から上部に向けて真空紫外光を照射することができる。
【0020】
図1Aに示すように、第1成型品10
1は略平坦な照射面10
1aを有している。本実施の形態では、真空紫外光照射装置20から第1成型品10
1の照射面10
1aに向けて2分間にわたって真空紫外光を照射する。このような照射処理によって、第1成型品10
1の照射面10
1aには、照射面10
1aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
1が形成される。
【0021】
同様に、第2成型品10
2を用意し、真空紫外光照射装置20から第2成型品10
2の照射面10
2aに向けて2分間にわたって真空紫外光を照射する。第2成型品10
2は、照射面10
2aを第1成型品10
1と接合される対向面としている。このような照射処理によって、第2成型品10
2の照射面10
2aにも、照射面10
2aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
2が形成される。
【0022】
本実施の形態では、第1成型品10
1及び第2成型品10
2への真空紫外光の照射は、2分に限られることはなく、0分を超え15分以下の時間であってもよい。また、5秒以上11分以下(例えば30秒以上10分以下、あるいは1分以上7分以下)の時間であってもよい。真空紫外光の照射により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aの劣化が進むことで、かえって接合強度が低下する場合があるため、第1成型品10
1及び第2成型品10
2への真空紫外光の照射は所定の時間内であることが好ましい。
【0023】
なお、第1成型品10
1と第2成型品10
2に対する真空紫外光の照射は、同一の真空紫外光照射装置を用いて同時に行ってもよい。また、上記の順番とは逆に、第2成型品10
2への真空紫外光の照射を先に行い、その後で第1成型品10
1へ真空紫外光を照射してもよい。
【0024】
図1Bに示すように、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aが対向して接触するように、第1成型品10
1及び第2成型品10
2とを位置決めする。すなわち、第1成型品10
1の対向面と第2成型品10
2の対向面とが対応して密着するようにする。位置決めされた状態では、第1成型品10
1の略平坦な照射面10
1aと第2成型品10
2の略平坦な照射面10
2aとは、互いにその略全体で接触している。
【0025】
第1成型品10
1及び第2成型品10
2を位置決めする操作は、第1成型品10
1及び第2成型品10
2に真空紫外光を照射する工程(
図1Aを参照)を終えてから、できるだけ短時間(好ましくは5分以内、例えば1分以内)で行うことが望ましい。なお、紫外光として真空紫外光を照射する場合は、照射を終えてから位置決めする操作を行う時間を比較的長くした場合(例えば1ヶ月、好ましくは1週間以内、より好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内、特に好ましくは30分以内)でも、高い接合強度を得やすいため有利である。
【0026】
図1Cに示すように、位置決めされた第1成型品10
1及び第2成型品10
2を第1プレス部材31及び第2プレス部材32により挟持する。そして、第1プレス部材31及び第2プレス部材32によって、第1成型品10
1及び第2成型品10
2を加圧する。
【0027】
例えば、第1プレス部材31及び第2プレス部材32により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aを互いに押圧する方向に10MPa以上の圧力を加える。この圧力は、10MPa以上の範囲で適宜調整すれば良い。圧力の上限は特に限定されないが、極端に高い圧力で押圧する場合、成型品の変形が問題となりうるため、60MPa以下とすることが好ましく、例えば30MPaであってもよい。加圧時間も2分以上、120分以下の範囲で適宜調整すれば良く、例えば60分にわたって加圧してもよい。
【0028】
同時に、第1プレス部材31及び第2プレス部材32は加熱装置を備えていても良く、当該加熱装置により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aとを加熱しても良い。第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aにおける温度は使用する樹脂に応じ50℃から樹脂の融点の範囲で適宜調整すればよく、例えば120℃で維持されるように加熱してもよい。目安としては接合する樹脂の荷重たわみ温度の0.5倍から2倍の範囲で調整すればよい。なお、本発明における荷重たわみ温度とは、ISO75−1,2に準拠して荷重1.8MPaの条件で測定される値をいう。
【0029】
このような加圧によって、第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とは融合し、単一の接合層12を形成するようになる。すなわち、第1成型品10
1と第2成型品10
2とは、それぞれの対向面において互いに融合されて連結される。これによって、第1成型品10
1及び第2成型品10
2は、接合層12を通じて一体として接続され、単一の成型品(例えば三次元中空体)を構成するようになる。
【0030】
接合層12は、真空紫外光により活性化された第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とが、所定時間にわたる加熱及び加圧の工程によって融合したものである。したがって、接合層12による第1成型品10
1及び第2成型品10
2の接続は、機械的に堅牢であり、化学的にも安定である。
【0031】
本実施の形態では、10MPa以上の圧力を加えることにより、例えばビカット軟化温度140℃以上のように比較的高い耐熱性を有する樹脂組成物でなる第1成型品10
1及び第2成型品10
2であっても、確実に接合することができる。この樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂でなるものでもよい。
【0032】
本実施の形態では、真空紫外光により形成した第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とを互いに融合させる接合層12とすることにより接続するものである。したがって、接合層12における変形は小さく、バリが発生することもない。また、接合層12に溝など微細な構造の中空部が存在する場合も、そのような中空部が変形によりつぶれることはない。
【0033】
本実施の形態は、耐熱性が高く(例えばビカット軟化温度140℃以上)、堅牢で安定した性質を有する樹脂、例えばポリアセタール(POM)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や液晶ポリマー(LCP)のような熱可塑性結晶性樹脂を利用することができる。このような熱可塑性結晶性樹脂は、ウォーターポンプ部品等の長期間にわたり熱や大きな機械的応力が加わる成型品(特に三次元中空体)の作製に利用することができる。
【実施例】
【0034】
上述の本実施の形態を適用した実施例について説明する。
図3は、接合試験片を示す写真である。本実施例では、第1成型品及び第2成型品として、
図3の写真に示すような接合試験片を用いる。接合試験片は、各種の樹脂組成物によってISO3167に準拠した引張試験片Type1Aを作成した後、それを長手方向の中央で2等分に切断し、それぞれ切断端部から10mmを接合領域として重ねている。写真では、2つの接合試験片が接合領域で互いに接合されて載置されている。
【0035】
図4は、PBT樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。このグラフは、
図1Aから
図1Cで説明した一連の工程に従い接合した接合試験片を用い、ISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって接合強度を測定した結果を示している。ここで、紫外光としては波長172nm、照度6mW/cm
2の真空紫外光を用い、
図1Bに示した接合試験片の位置決めの工程は、真空紫外光の照射終了から5分以内に行った。また、
図1Cに示した加熱及び加圧の工程は、温度120℃及び圧力30MPaであり、1時間にわたり維持した。
【0036】
図4中の折線aは、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300、ビカット軟化温度214℃、荷重たわみ温度213℃、融点224℃)からなる接合試験片の接合強度を示している。測定値bは、ガラス繊維30質量%で強化したPBT樹脂にエポキシ樹脂を少量添加したものである。これらガラス繊維30%で強化したPBT樹脂及びそれにエポキシ樹脂を少量添加したものは、いずれもビカット軟化温度140℃以上である。
【0037】
折線aに示されるように、ガラス繊維30%質量強化のPBT樹脂は、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間2分で最大の接合強度9.3MPaに達した。
【0038】
測定値bは、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したPBT樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300)にビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 エピコート(登録商標) JER1004K)を1.5質量%添加した組成物(ビカット軟化温度215℃、荷重たわみ温度209℃、融点224℃)からなる接合試験片の接合強度であり、折線aに示したガラス繊維30%強化のPBT樹脂の接合強度が最大となった照射時間2分におけるものである。照射時間2分において、エポキシ樹脂を添加したガラス繊維30%強化のPBT樹脂の接合強度は10.0MPaとなり、エポキシ樹脂を添加していないガラス繊維30%強化のPBT樹脂の9.3MPaよりも接合強度が増加した。
【0039】
図5は、PPS樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するPPS樹脂組成物からなる接合試験片を用い、
図1Aから
図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cm
2の真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、折線cは温度200℃及び圧力30MPa、測定値dは160℃及び圧力30MPaで、それぞれ1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0040】
折線cは、第1成型品及び第2成型品ともに、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラファイド(登録商標)0220A9)にガラス繊維を30質量%添加した組成物(荷重たわみ温度265℃、融点280℃)からなるものである。測定値dは、第1成型品及び第2成型品ともに、PPS樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラファイド(登録商標)0220A9)にガラス繊維を30質量%及びグリシジル基を含むエラストマー(住友化学株式会社製 ボンドファースト7L)を4質量%添加した組成物(荷重たわみ温度235℃、融点280℃)からなるものである。これらガラス繊維30%強化のPPS樹脂及び、それにグリシジル基を含むエラストマーを少量添加したものは、いずれもビカット軟化温度140℃以上である。
【0041】
PPS樹脂については、折線cに示すように、ガラス繊維30質量%強化のPPS樹脂組成物からなる成型品の接合においては、照射時間が0分を超える(特に2分以上の)領域で一定の接合強度が確保された。また、PPS樹脂にガラス繊維30質量%とグリシジル基を含むエラストマーを少量添加した組成物からなる成型品を接合したものは、測定値dに示すように、照射時間2分において、折線cと比較して、加熱温度が低い条件で加圧しても接合強度が顕著に増加した。
【0042】
図6は、POM樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するPOM樹脂組成物からなる接合試験片を用い、
図1Aから
図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cm
2の真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、温度140℃及び圧力15MPaで1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0043】
折線eは、第1成型品及び第2成型品ともに、POM樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラコン(登録商標)M90−44)にポリウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製 レザミンP−4088)を13質量%添加した組成物(荷重たわみ温度82℃、融点165℃)からなるものである。このPOM樹脂組成物のビカット軟化温度は140℃以上である。
【0044】
POM樹脂組成物からなる成型品については、折線eに示すように、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間7分において特に高い接合強度が得られた。
【0045】
図7は、第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するLCP樹脂組成物からなる接合試験片を用い、
図1Aから
図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cm
2の真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、温度120℃及び圧力15MPaで1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0046】
折線fは、第1成型品及び第2成型品ともに、融点約280℃の液晶ポリマー(LCP)をガラス繊維30質量%で強化した組成物(荷重たわみ温度240℃、融点280℃)からなるものである。このLCP組成物のビカット軟化温度は140℃以上である。
【0047】
LCP樹脂組成物からなる成型品についても、折線fに示すように、PPS樹脂組成物からなる成型品と同様に、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間7分において特に高い接合強度が得られた。
【0048】
比較例として、紫外線を第1成型品と第2成型品の一方のみへ照射した場合についても検討した。ここでは、紫外光の照射を第1成型品のみに行い、第2成型品には照射しないこと以外は
図4中の折線aと同じく、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300)樹脂を用い、波長172nm、照度6mW/cm
2の真空紫外光を2分間照射してから5分以内に位置決めした後、温度120℃及び圧力30MPaで加熱及び加圧し、1時間にわたり維持したところ、接合強度は0MPaであった。すなわち、第1成型品と第2成型品の一方のみへの紫外光の照射では、十分な接合は得られないことが確認された。
比較的高い耐熱性を有する樹脂成型品について、樹脂成型品の変形や中空部の変形を小さく抑え、十分な接合強度が得られるように接続する。樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、第1成型品10