特許第6330113号(P6330113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6330113
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】樹脂成型品の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/00 20060101AFI20180514BHJP
【FI】
   B29C65/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-562369(P2017-562369)
(86)(22)【出願日】2017年7月12日
(86)【国際出願番号】JP2017025431
【審査請求日】2017年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-138471(P2016-138471)
(32)【優先日】2016年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】権田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】廣田 晋一
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−023337(JP,A)
【文献】 特開2012−232446(JP,A)
【文献】 特開2003−191387(JP,A)
【文献】 特開2003−220667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、
第1成型品及び第2成型品を提供し、
前記第1成型品及び前記第2成型品の表面の所定の照射領域に真空紫外光をそれぞれ照射し、表面から所定深さまで照射処理によって樹脂組成物の性状が変化した処理層を形成し、
前記照射領域が対向して接触するように、前記第1成型品及び前記第2成型品を位置決めし、
前記第1成型品及び前記第2成型品がそれぞれの照射領域で接合するように、前記第1成型品及び前記第2成型品を加圧し、それぞれの照射領域に形成された処理層が互いに接合するようにすること
を含み、前記第1成型品及び前記第2成型品において前記処理層が形成される部分の樹脂組成物はビカット軟化温度140℃以上であり、前記第1成型品及び前記第2成型品は10MPa以上の圧力で接合する接合方法。
【請求項2】
前記真空紫外光の照射時間が0分を超え15分未満である請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂でなる請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
前記熱可塑性結晶性樹脂は、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマーを含む請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第1成型品及び前記第2成型品はそれぞれ表面に対向面を含み、前記照射領域は前記対向面の少なくとも一部を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線を照射して樹脂成型品を接合する樹脂成型品の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析機器の流路、配管部品、エンジンコントロールユニット(ECU)のケースカバー等に、樹脂組成物によって作製され、内部に中空部が形成された三次元中空体が利用されている。三次元中空体の多くは、樹脂組成物でなる樹脂成型品の複数の構成部材が、互いに接合されて構成されている。
【0003】
樹脂成型品の構成部材を接合するためには、接着剤や熱溶着など、各種の接合技術が提供されている。ただし、樹脂成型品を接着剤で接合する技術は、樹脂成型品を変形させることなく接合することができるが、一般的に接着剤の硬化には数時間かかるため生産性に劣る上、接着剤が中空部に漏出して溝が埋没するといった問題から微細な流路部品の接合には適さないものであった。そして、樹脂成型品を熱溶着する技術は、数分で接合することが可能であるが、接合した樹脂成型品にバリが発生したり、中空部が熱変形したりすることがあった。
【0004】
また、真空紫外光(VUV)により樹脂成型品を処理して接合する技術が提供されている(特許文献1−4、非特許文献1を参照)。この技術によると、樹脂成型品の接合に数分から数十分程度の時間を要するが、接合した樹脂成型品の変形は小さく、中空部の変形も小さい。特許文献1、2、非特許文献1は、樹脂成型品にポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂や環状オレフィン樹脂等の非晶性樹脂でなるものを想定し、接合強度は1MPa以下である。特許文献3、4は、シリコーン接着を想定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−187730号公報
【特許文献2】特開2009−173894号公報
【特許文献3】特開2011−148104号公報
【特許文献4】特開2013−147018号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】谷口義尚、他4名、「光表面活性化によるシクロオレフィンポリマーの接合:接合強度評価とマイクロ流路への応用」、表面技術、表面技術協会、2014、第65巻、第5号、p.36−41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、ウォーターポンプ部品等の長期間にわたり熱や大きな機械的応力が加わる成型品(特に三次元中空体)には、耐熱性が高く堅牢で安定した性質を有する樹脂、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂のような結晶性の熱可塑性樹脂を利用することができる。また、そのような樹脂でなる樹脂成型品を接合することにより三次元中空体を作製する際には、接合による樹脂成型品の変形が小さく、中空部の変形も小さくすることが求められる。
【0008】
前述の真空紫外光で樹脂成型品を処理して接合する技術は、樹脂成型品の変形や中空部の変形を小さく抑えることができたが、非晶性樹脂でなる樹脂成型品の接合やシリコーン接着剤の硬化を想定したものであった。しかし、例えばビカット軟化温度140℃以上のように比較的高い耐熱性を有する樹脂、特に結晶性の熱可塑性樹脂を接合する際には、十分な接合強度を確保することができなった。
【0009】
本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、比較的高い耐熱性を有する樹脂組成物でなる樹脂成型品を接合する場合についても、樹脂成型品の変形や中空部の変形を小さく抑えることができ、高い接合強度(1MPa以上)が得られるような樹脂成型品の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明に係る樹脂成型品の接合方法は、樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、第1成型品及び第2成型品を提供し、前記第1成型品及び前記第2成型品の表面の所定の照射領域に真空紫外光をそれぞれ照射し、前記照射領域が対向して接触するように、前記第1成型品及び前記第2成型品を位置決めし、前記第1成型品及び前記第2成型品がそれぞれの照射領域で接合するように、前記第1成型品及び前記第2成型品を加圧することを含み、前記樹脂組成物はビカット軟化温度140℃以上であり、前記第1成型品及び前記第2成型品は10MPa以上の圧力で接合する。
【0011】
前記真空紫外光は、前記第1成型品及び前記第2成型品に0分を超え15分以下の時間にわたり照射してもよい。前記樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂でなってもよい。前記熱可塑性結晶性樹脂は、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマーを含んでもよい。前記第1成型品及び前記第2成型品はそれぞれ表面に対向面を含み、前記照射領域は前記対向面の少なくとも一部を含んでもよい。ここで対向面とは、例えば平坦面同士のように対向して接触することができる面を指し、凹凸を有する面であっても第1成型品の凹部と第2成型品の凸部(または第1成型品の凸部と第2成型品の凹部)が対応して密着可能な面であれば特に限定されない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、比較的高い耐熱性を有する樹脂組成物についても、樹脂成型品の変形、特に三次元中空体を構成する樹脂成型品における中空部の変形を小さく抑えて接合することができる。また、接合した樹脂成型品は、高い接合強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】樹脂成型品の接合方法の工程を概略的に示す図である。
図1B】樹脂成型品の接合方法の工程を概略的に示す図である。
図1C】樹脂成型品の接合方法の工程を概略的に示す図である。
図2】真空紫外光照射装置の写真である。
図3】接合試験片の写真である。
図4】PBT樹脂組成物における照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。
図5】PPS樹脂組成物における照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。
図6】POM樹脂組成物における照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。
図7】LCP樹脂組成物における照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂成型品の接合方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、樹脂組成物は、例えばビカット軟化温度140℃以上のように比較的高い耐熱性を有している。この樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂であってもよい。なお本発明におけるビカット軟化温度とは、ISO306のB50法(試験荷重10Nおよび昇温速度50℃/h)に準拠して測定される値をいう。
【0015】
熱可塑性結晶性樹脂には、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)を使用してもよい。熱可塑性結晶性樹脂は、一般的に不透明であるが、結晶化度が低い樹脂では半透明ないしは透明であってもよい。
【0016】
熱可塑性結晶性樹脂には、ガラス繊維を添加してもよい。また、結晶性熱可塑性樹脂には、極性官能基を有する化合物やエラストマーを添加してもよい。極性官能基を有する化合物は、ビスフェノールAエポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂肪族型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物などのエポキシ系化合物であってもよく、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物であってもよい。また、エラストマーはエチレンエチルアクリレート共重合体やエチレングリシジルメタクリレート共重合体等のオレフィン系エラストマーであってもよく、アクリル系エラストマー(例えばアクリル系コアシェルポリマー)、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ジエン系エラストマーであってもよい。
【0017】
本実施の形態では、樹脂組成物によって作製された第1成型品及び第2成型品を用い、これらを互いに接合する。第1成型品及び第2成型品には、表面に互いに接合される対向面が含まれ、これらの対向面は対応するような形状に形成されている。例えば、第1成型品及び第2成型品の対向面は、それぞれ略平坦に形成されていてもよい。また、対向面は、凹凸を有する面であっても第1成型品の凹部と第2成型品の凸部(または第1成型品の凸部と第2成型品の凹部)が対応して密着可能な面であればよい。
【0018】
図1Aから図1Cは、本実施の形態の一連の工程を概略的に説明する図である。図1Aに示すように、第1成型品10を用意し、真空紫外光照射装置20を用いて第1成型品10の照射面10aに真空紫外(VUV)光を照射する。ここで、真空紫外光とは、紫外光の内で波長が200nm以下のものを指し、必ずしも真空中で照射しなければならないものではないが、当該波長域の紫外光は、空気による吸収が大きいため、空気中で照射する場合は、真空紫外光が伝播する距離を短くする必要がある。
【0019】
図1Aにおいて、真空紫外光照射装置20は、Xeエキシマランプなどの光源21と、光源21から放出された光を照射物に向けて反射する反射板22とを有している。図2は、真空紫外光照射装置の一例を示す写真である。この写真に示す真空紫外光照射装置は、筐体上面に形成された開口から上部に向けて真空紫外光を照射することができる。
【0020】
図1Aに示すように、第1成型品10は略平坦な照射面10aを有している。本実施の形態では、真空紫外光照射装置20から第1成型品10の照射面10aに向けて2分間にわたって真空紫外光を照射する。このような照射処理によって、第1成型品10の照射面10aには、照射面10aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11が形成される。
【0021】
同様に、第2成型品10を用意し、真空紫外光照射装置20から第2成型品10の照射面10aに向けて2分間にわたって真空紫外光を照射する。第2成型品10は、照射面10aを第1成型品10と接合される対向面としている。このような照射処理によって、第2成型品10の照射面10aにも、照射面10aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11が形成される。
【0022】
本実施の形態では、第1成型品10及び第2成型品10への真空紫外光の照射は、2分に限られることはなく、0分を超え15分以下の時間であってもよい。また、5秒以上11分以下(例えば30秒以上10分以下、あるいは1分以上7分以下)の時間であってもよい。真空紫外光の照射により、第1成型品10の照射面10aと第2成型品10の照射面10aの劣化が進むことで、かえって接合強度が低下する場合があるため、第1成型品10及び第2成型品10への真空紫外光の照射は所定の時間内であることが好ましい。
【0023】
なお、第1成型品10と第2成型品10に対する真空紫外光の照射は、同一の真空紫外光照射装置を用いて同時に行ってもよい。また、上記の順番とは逆に、第2成型品10への真空紫外光の照射を先に行い、その後で第1成型品10へ真空紫外光を照射してもよい。
【0024】
図1Bに示すように、第1成型品10の照射面10aと第2成型品10の照射面10aが対向して接触するように、第1成型品10及び第2成型品10とを位置決めする。すなわち、第1成型品10の対向面と第2成型品10の対向面とが対応して密着するようにする。位置決めされた状態では、第1成型品10の略平坦な照射面10aと第2成型品10の略平坦な照射面10aとは、互いにその略全体で接触している。
【0025】
第1成型品10及び第2成型品10を位置決めする操作は、第1成型品10及び第2成型品10に真空紫外光を照射する工程(図1Aを参照)を終えてから、できるだけ短時間(好ましくは5分以内、例えば1分以内)で行うことが望ましい。なお、紫外光として真空紫外光を照射する場合は、照射を終えてから位置決めする操作を行う時間を比較的長くした場合(例えば1ヶ月、好ましくは1週間以内、より好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内、特に好ましくは30分以内)でも、高い接合強度を得やすいため有利である。
【0026】
図1Cに示すように、位置決めされた第1成型品10及び第2成型品10を第1プレス部材31及び第2プレス部材32により挟持する。そして、第1プレス部材31及び第2プレス部材32によって、第1成型品10及び第2成型品10を加圧する。
【0027】
例えば、第1プレス部材31及び第2プレス部材32により、第1成型品10の照射面10aと第2成型品10の照射面10aを互いに押圧する方向に10MPa以上の圧力を加える。この圧力は、10MPa以上の範囲で適宜調整すれば良い。圧力の上限は特に限定されないが、極端に高い圧力で押圧する場合、成型品の変形が問題となりうるため、60MPa以下とすることが好ましく、例えば30MPaであってもよい。加圧時間も2分以上、120分以下の範囲で適宜調整すれば良く、例えば60分にわたって加圧してもよい。
【0028】
同時に、第1プレス部材31及び第2プレス部材32は加熱装置を備えていても良く、当該加熱装置により、第1成型品10の照射面10aと第2成型品10の照射面10aとを加熱しても良い。第1成型品10の照射面10aと第2成型品10の照射面10aにおける温度は使用する樹脂に応じ50℃から樹脂の融点の範囲で適宜調整すればよく、例えば120℃で維持されるように加熱してもよい。目安としては接合する樹脂の荷重たわみ温度の0.5倍から2倍の範囲で調整すればよい。なお、本発明における荷重たわみ温度とは、ISO75−1,2に準拠して荷重1.8MPaの条件で測定される値をいう。
【0029】
このような加圧によって、第1成型品10の処理層11と第2成型品10の処理層11とは融合し、単一の接合層12を形成するようになる。すなわち、第1成型品10と第2成型品10とは、それぞれの対向面において互いに融合されて連結される。これによって、第1成型品10及び第2成型品10は、接合層12を通じて一体として接続され、単一の成型品(例えば三次元中空体)を構成するようになる。
【0030】
接合層12は、真空紫外光により活性化された第1成型品10の処理層11と第2成型品10の処理層11とが、所定時間にわたる加熱及び加圧の工程によって融合したものである。したがって、接合層12による第1成型品10及び第2成型品10の接続は、機械的に堅牢であり、化学的にも安定である。
【0031】
本実施の形態では、10MPa以上の圧力を加えることにより、例えばビカット軟化温度140℃以上のように比較的高い耐熱性を有する樹脂組成物でなる第1成型品10及び第2成型品10であっても、確実に接合することができる。この樹脂組成物は、熱可塑性結晶性樹脂でなるものでもよい。
【0032】
本実施の形態では、真空紫外光により形成した第1成型品10の処理層11と第2成型品10の処理層11とを互いに融合させる接合層12とすることにより接続するものである。したがって、接合層12における変形は小さく、バリが発生することもない。また、接合層12に溝など微細な構造の中空部が存在する場合も、そのような中空部が変形によりつぶれることはない。
【0033】
本実施の形態は、耐熱性が高く(例えばビカット軟化温度140℃以上)、堅牢で安定した性質を有する樹脂、例えばポリアセタール(POM)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や液晶ポリマー(LCP)のような熱可塑性結晶性樹脂を利用することができる。このような熱可塑性結晶性樹脂は、ウォーターポンプ部品等の長期間にわたり熱や大きな機械的応力が加わる成型品(特に三次元中空体)の作製に利用することができる。
【実施例】
【0034】
上述の本実施の形態を適用した実施例について説明する。図3は、接合試験片を示す写真である。本実施例では、第1成型品及び第2成型品として、図3の写真に示すような接合試験片を用いる。接合試験片は、各種の樹脂組成物によってISO3167に準拠した引張試験片Type1Aを作成した後、それを長手方向の中央で2等分に切断し、それぞれ切断端部から10mmを接合領域として重ねている。写真では、2つの接合試験片が接合領域で互いに接合されて載置されている。
【0035】
図4は、PBT樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。このグラフは、図1Aから図1Cで説明した一連の工程に従い接合した接合試験片を用い、ISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって接合強度を測定した結果を示している。ここで、紫外光としては波長172nm、照度6mW/cmの真空紫外光を用い、図1Bに示した接合試験片の位置決めの工程は、真空紫外光の照射終了から5分以内に行った。また、図1Cに示した加熱及び加圧の工程は、温度120℃及び圧力30MPaであり、1時間にわたり維持した。
【0036】
図4中の折線aは、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300、ビカット軟化温度214℃、荷重たわみ温度213℃、融点224℃)からなる接合試験片の接合強度を示している。測定値bは、ガラス繊維30質量%で強化したPBT樹脂にエポキシ樹脂を少量添加したものである。これらガラス繊維30%で強化したPBT樹脂及びそれにエポキシ樹脂を少量添加したものは、いずれもビカット軟化温度140℃以上である。
【0037】
折線aに示されるように、ガラス繊維30%質量強化のPBT樹脂は、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間2分で最大の接合強度9.3MPaに達した。
【0038】
測定値bは、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したPBT樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300)にビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 エピコート(登録商標) JER1004K)を1.5質量%添加した組成物(ビカット軟化温度215℃、荷重たわみ温度209℃、融点224℃)からなる接合試験片の接合強度であり、折線aに示したガラス繊維30%強化のPBT樹脂の接合強度が最大となった照射時間2分におけるものである。照射時間2分において、エポキシ樹脂を添加したガラス繊維30%強化のPBT樹脂の接合強度は10.0MPaとなり、エポキシ樹脂を添加していないガラス繊維30%強化のPBT樹脂の9.3MPaよりも接合強度が増加した。
【0039】
図5は、PPS樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するPPS樹脂組成物からなる接合試験片を用い、図1Aから図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cmの真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、折線cは温度200℃及び圧力30MPa、測定値dは160℃及び圧力30MPaで、それぞれ1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0040】
折線cは、第1成型品及び第2成型品ともに、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラファイド(登録商標)0220A9)にガラス繊維を30質量%添加した組成物(荷重たわみ温度265℃、融点280℃)からなるものである。測定値dは、第1成型品及び第2成型品ともに、PPS樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラファイド(登録商標)0220A9)にガラス繊維を30質量%及びグリシジル基を含むエラストマー(住友化学株式会社製 ボンドファースト7L)を4質量%添加した組成物(荷重たわみ温度235℃、融点280℃)からなるものである。これらガラス繊維30%強化のPPS樹脂及び、それにグリシジル基を含むエラストマーを少量添加したものは、いずれもビカット軟化温度140℃以上である。
【0041】
PPS樹脂については、折線cに示すように、ガラス繊維30質量%強化のPPS樹脂組成物からなる成型品の接合においては、照射時間が0分を超える(特に2分以上の)領域で一定の接合強度が確保された。また、PPS樹脂にガラス繊維30質量%とグリシジル基を含むエラストマーを少量添加した組成物からなる成型品を接合したものは、測定値dに示すように、照射時間2分において、折線cと比較して、加熱温度が低い条件で加圧しても接合強度が顕著に増加した。
【0042】
図6は、POM樹脂組成物における、照射時間と接合強度との関係を示すグラフである。第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するPOM樹脂組成物からなる接合試験片を用い、図1Aから図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cmの真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、温度140℃及び圧力15MPaで1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0043】
折線eは、第1成型品及び第2成型品ともに、POM樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラコン(登録商標)M90−44)にポリウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製 レザミンP−4088)を13質量%添加した組成物(荷重たわみ温度82℃、融点165℃)からなるものである。このPOM樹脂組成物のビカット軟化温度は140℃以上である。
【0044】
POM樹脂組成物からなる成型品については、折線eに示すように、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間7分において特に高い接合強度が得られた。
【0045】
図7は、第1成型品及び第2成型品として、以下に記載するLCP樹脂組成物からなる接合試験片を用い、図1Aから図1Cで説明した一連の工程に従い、接合試験片の接合領域に波長172nm、照度6mW/cmの真空紫外光を照射し、照射終了から5分以内に接合試験片の位置決めを行い、温度120℃及び圧力15MPaで1時間にわたり加熱及び加圧することで互いに接合した。その後、接合した接合試験器の接合強度をISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって測定した。
【0046】
折線fは、第1成型品及び第2成型品ともに、融点約280℃の液晶ポリマー(LCP)をガラス繊維30質量%で強化した組成物(荷重たわみ温度240℃、融点280℃)からなるものである。このLCP組成物のビカット軟化温度は140℃以上である。
【0047】
LCP樹脂組成物からなる成型品についても、折線fに示すように、PPS樹脂組成物からなる成型品と同様に、照射時間が0分を超える領域において一定の接合強度が確保され、照射時間7分において特に高い接合強度が得られた。
【0048】
比較例として、紫外線を第1成型品と第2成型品の一方のみへ照射した場合についても検討した。ここでは、紫外光の照射を第1成型品のみに行い、第2成型品には照射しないこと以外は図4中の折線aと同じく、第1成型品及び第2成型品ともに、ガラス繊維30質量%で強化したポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製 ジュラネックス(登録商標)3300)樹脂を用い、波長172nm、照度6mW/cmの真空紫外光を2分間照射してから5分以内に位置決めした後、温度120℃及び圧力30MPaで加熱及び加圧し、1時間にわたり維持したところ、接合強度は0MPaであった。すなわち、第1成型品と第2成型品の一方のみへの紫外光の照射では、十分な接合は得られないことが確認された。
【符号の説明】
【0049】
10 第1成型品
10 第2成型品
31 第1プレス部材
32 第2プレス部材
【要約】
比較的高い耐熱性を有する樹脂成型品について、樹脂成型品の変形や中空部の変形を小さく抑え、十分な接合強度が得られるように接続する。樹脂組成物からなる樹脂成型品を接合する接合方法であって、第1成型品10及び第2成型品10を提供し、第1成型品10及び第2成型品10の表面の所定の照射面10a、10aに真空紫外光をそれぞれ照射し、照射面10a、10aが対向して接触するように、第1成型品10及び第2成型品10を位置決めし、第1成型品10及び第2成型品10がそれぞれの照射面10a、10aで接合するように、第1成型品10及び第2成型品10を加圧し、樹脂組成物はビカット軟化温度140℃以上であり、第1成型品10及び第2成型品10は10MPa以上の圧力で接合する。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7