特許第6330346号(P6330346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6330346接着剤組成物、接着剤組成物を用いた電子部材、及び半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6330346
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】接着剤組成物、接着剤組成物を用いた電子部材、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/14 20060101AFI20180521BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20180521BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C09J175/14
   C09J4/02
   C09J11/06
   H01L21/52 E
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-14866(P2014-14866)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-140409(P2015-140409A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 綾
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎明
(72)【発明者】
【氏名】菊地 庄吾
(72)【発明者】
【氏名】橋本 周
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−241508(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014562(WO,A1)
【文献】 特開2013−018181(JP,A)
【文献】 特開2010−106261(JP,A)
【文献】 特開2011−183735(JP,A)
【文献】 特開平10−067977(JP,A)
【文献】 特開2006−202926(JP,A)
【文献】 特開2005−259192(JP,A)
【文献】 特開2013−227420(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001942(WO,A1)
【文献】 特開2001−257219(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066897(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050455(WO,A1)
【文献】 特開2014−160546(JP,A)
【文献】 特開2011−202173(JP,A)
【文献】 特開2008−308513(JP,A)
【文献】 特開2013−144793(JP,A)
【文献】 特開平11−189747(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026470(WO,A1)
【文献】 特開2014−022229(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157375(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/022096(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
H01L21/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物、
(b)2つ又は3つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物(ただし、(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物を含まない)、及び、
(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物、
を含有
前記(a)成分は、一分子中における(メタ)アクリロイル基の総数が6〜15であり且つ重量平均分子量が1500〜200000であるウレタン系化合物を含む、接着剤組成物。
【請求項2】
前記(a)成分は、一分子中における(メタ)アクリロイル基の総数が10〜15であり且つ重量平均分子量が1500〜200000であるウレタン系化合物を含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記接着剤組成物の硬化物の25℃における弾性率が1GPa以上である、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(c)成分がt−ヘキシルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン及びt−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物を用いて得られる電子部材。
【請求項6】
半導体基板の裏面に請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記半導体基板と支持部材又は他の半導体基板とを、それらの間に前記接着剤層を挟んで圧着する圧着工程と、
40〜120℃の温度範囲で前記接着剤層を硬化する硬化工程と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記接着剤層形成工程が、スピンコート法により行われる、請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接着剤組成物を用いた電子部材、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子等の接着剤としては、エポキシ樹脂を用いた熱硬化性樹脂組成物が用いられてきた(例えば、特許文献1)。熱硬化性樹脂組成物の構成成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と反応性を有する硬化剤及びエポキシ樹脂と硬化剤の反応を促進する熱潜在性触媒が一般に用いられている。熱潜在性触媒は硬化温度を決定する重要な因子となっており、室温(25℃)での貯蔵安定性、加熱時の硬化の進み具合等の観点から種々の化合物が用いられてきた。このような接着剤を用いた実際の工程では、170〜250℃の温度で1〜3時間硬化させるのが一般的である。
【0003】
さらに、(メタ)アクリレート誘導体とラジカル開始剤である過酸化物を併用した、ラジカル硬化型の接着剤がある。ラジカル硬化における反応活性種であるラジカルは、非常に反応性に富みながらも、ラジカル開始剤の分解温度以下では、安定に存在することから、ラジカル硬化は、低温硬化と室温付近での保存安定性を両立した硬化系であるとされている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−113480号公報
【特許文献2】特開2002−203427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、LED等の発光体又は固体撮像素子等の受光体のようなセンサ向け接着剤が必要とされている。このようなセンサ向けの接着剤には、センサ又は周辺部材への熱による特性の劣化を抑制する観点から、低温硬化での接着が要求されている。この低温硬化を達成するためには、活性化エネルギーの低い熱触媒を使用する必要があるが、このような熱触媒は室温での保存安定性が悪いことが知られている。また、一般的な接着剤の硬化温度よりも低い温度での硬化が必要であるため、イミダゾールのようなエポキシ硬化促進剤を用いた場合では反応の進行が遅くなる傾向がある。また、この場合、低温、特に100℃以下の条件下では、ほとんど硬化反応が進行しない場合もある。さらに、センサ等の光学部材向けの接着剤には、硬化後における透明性(接着剤層を介した視認性)も求められる。
【0006】
一方、特許文献2のようなラジカル硬化型の接着剤は、エポキシ樹脂を用いた場合と比較して接着強度に劣り、基材に対する接着強度が低下する場合がある。このため、例えば、半導体素子の接着剤に使用した場合、充分な接着強度が得られない場合がある。
さらに、固体撮像素子等のセンサでは、表示精度の向上によりセンサ部分と透明基材とのセルギャップの均一性がわずかに損なわれるだけでも表示性能に大きく影響し、表示ムラ等の表示品位が低下しやすくなってきている。したがって、セルギャップに対する正確さと均一性の要求は厳しくなりつつある。そのため、セルギャップを精度よく、正確に、且つ均一に形成し、維持する必要性が益々高くなっている。これは、液晶等の表示装置などにおいても、近年の表示面積の拡大化及びセルギャップの狭小化に伴い、セルギャップの均一性が同様に要求されている。セルギャップの均一性において、接着剤組成物の硬化物の室温(例えば、25℃)での弾性率が高いほど、圧着時及びその後の組立工程での応力による変形が少ないため好ましいとされている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、硬化後の透明性があり、低温での硬化(例えば、100℃以下)が可能であり、硬化物の室温(例えば、25℃)での弾性率が高く、基板への優れた接着性を有し、且つ260℃での耐リフロー剥離性に優れる接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の成分を含有する接着剤組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物、(b)少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及び、(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物、を含有する、接着剤組成物を提供する。これにより、硬化後の透明性があり、低温での硬化及び硬化時間の短縮が可能となり、また、硬化物の室温での弾性率が高く、基板への優れた接着性を有し、且つ260℃での耐リフロー剥離性に優れる接着剤を得ることができる。
【0010】
この理由について、本願発明者らは以下のように考える。すなわち、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物は反応性が高く、接着剤組成物の硬化物の高耐熱化と高接着化とをより高度に両立できる。このため、(b)少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対して(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物を加えることにより、耐湿熱性に優れるとともに、室温で高い弾性率を有した硬化物を得ることができ、260℃においても充分な弾性率を保持することができる。その結果、基材への接着性を向上させることができ、260℃のリフロー工程における剥離を抑制することができる。
【0011】
また、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物と(b)少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物との相溶性は高く、且つ、それらの屈折率も近いため、硬化後に透明性を有することができる。また、相溶性が高いことから、ワニス状態、半硬化状態で相分離が発生しにくく、保存安定性にも優れる。ラジカル硬化後、硬化の熱により相分離が発生した場合であっても、ミクロな相分離にとどまり、透明性、接着強度等の硬化物の特性のバラツキも小さい。
【0012】
(a)成分は、一分子中における(メタ)アクリロイル基の総数が10〜15であり且つ重量平均分子量が3000〜200000であるウレタン系化合物を含むことが好ましい。これにより、接着剤組成物の耐熱性、密着性、塗工性及びパターン形成性がより向上する。
【0013】
接着剤組成物の硬化物の25℃における弾性率が1GPa以上であることが好ましい。これにより、セルギャップをより精度よく、正確に、且つ均一に形成し、維持することができ、圧着時及びその後の組立工程での応力による変形が少ない接着剤を得ることができる。
【0014】
(c)成分はt−ヘキシルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン及びt−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。40〜100℃の加熱によりラジカルを発生する有機過酸化物は数種類存在するが、これらの有機過酸化物はもともとアクリル共重合体の成形材を作製したり、塗料用途に使用されたりすることが多かった。このような有機過酸化物を接着剤に用いることにより、低温でも充分な接着剤組成物の硬化反応が進行する。さらに、(a)及び(b)成分と併せて用いることにより、反応による硬化収縮が原因で起こる剥離の抑制、半硬化状態での安定性等を向上できる。
【0015】
また、本発明は、上述した接着剤組成物を用いて得られる電子部材を提供する。上述した接着剤組成物は、低温での硬化及び硬化時間の短縮が可能となり、また、硬化物の室温での弾性率が高く、基板への優れた接着性を有し、且つ260℃での耐リフロー剥離性に優れることから、当該接着剤組成物を用いて得られる電子部材の特性も良好となる。
【0016】
さらに、本発明は、半導体基板の裏面に上述した接着剤組成物からなる接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、半導体基板と支持部材又は他の半導体基板とを、それらの間に接着剤層を挟んで圧着する圧着工程と、40〜120℃の温度範囲で接着剤層を硬化する硬化工程と、を備える半導体装置の製造方法を提供する。接着剤層形成工程は、スピンコート法により行われることが好ましい。上述した接着剤組成物は、接着剤としての優れた機能を具備していることから、半導体装置の製造工程において、当該接着剤組成物を用いることで特に優れた効果を発揮し、得られる半導体装置の特性も良好となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬化後の透明性があり、低温での硬化が可能であり、硬化物の室温での弾性率が高く、基板への優れた接着性を有し、且つ260℃での耐リフロー剥離性に優れる接着剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、上記の接着剤組成物を用いて得られる電子部材を提供することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、上記の接着剤組成物を用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】半導体基板上に本実施形態に係る接着剤組成物を用いた接着剤層が形成されている状態を示す断面図である。
図2】支持部材と半導体基板とが本実施形態に係る接着剤組成物を用いた接着剤層を介して接着している状態を示す断面図である。
図3】本実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」又はそれに対応する「メタクリロイル基」を意味する。(メタ)アクリレート等の他の類似表現についても同様である。
また、本明細書において「透明性」とは、接着剤組成物と可視光線との間に相互作用が起こりにくく、電磁波の吸収及び散乱が生じにくいことを意味する。「透明性」の指標としては、入射光と透過光の強度比を百分率で表した透過率を用いる。透過率は対象とする光の波長によって異なるが、本明細書では可視光線を対象とする。可視光線に相当する電磁波とは、JIS Z8120の定義により、下界はおおよそ400nm、上界はおおよそ760nmである。
【0022】
<接着剤組成物>
本実施形態に係る接着剤組成物は、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物、(b)少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及び(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物を含有する。
【0023】
<(a)少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物>
少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物としては、β位等に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーとジイソシアネート化合物との付加反応物であるウレタン(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド(EO)変性ウレタンジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド(PO)変性ウレタンジ(メタ)アクリレート、EO・PO変性ウレタンジ(メタ)アクリレート、カルボキシル基を有するウレタン(メタ)アクリレート、ジオール化合物と2つの水酸基及び2つのエチレン性不飽和基を有する2官能エポキシ(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとの反応物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
上記β位等に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記ジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
耐熱性、剛性及び高密着性をより高いレベルで満足するために、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物の官能基数((メタ)アクリロイルオキシ基の数)及び重量平均分子量を最適化することが好ましい。これにより、粘度を過度に高めることなく選択できる材料の範囲が広くなるため、接着剤組成物の粘度を容易に調整することができる。接着剤組成物の粘度は溶媒を用いることでも低くすることが可能であるが、官能基数及び重量平均分子量が適正された(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物を用いることにより、溶媒の量を低減することができる。溶媒の量を低減することで、硬化後の樹脂層の良好な特性及び信頼性を維持しやすい。
【0026】
(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物の官能基数は、耐熱性、密着性、塗工性及びパターン形成性の観点から、好ましくは2〜15である。この官能基数は、硬化後の樹脂層の物性及び特性の安定性の観点から、より好ましくは8〜15、更に好ましくは10〜15である。
【0027】
当該官能基数が2以上であると、硬化後の樹脂層の耐熱性及び高温における樹脂層の剛性をより一層高めることができる。当該官能基数が15以下であると、硬化後の樹脂層が脆くなることを抑制でき、より良好な密着性を得ることができる。また、(メタ)アクリレート化合物の重量平均分子量が大きくなり過ぎないため、接着剤組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすく、良好な塗工性が得られやすい。さらには、熱硬化後、未反応の(メタ)アクリロイルオキシ基が多く残存することが少なくなり、その結果、樹脂層の物性及び特性の変動をより効果的に回避することができる。
【0028】
(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1500〜200000である。この重量平均分子量は、塗布性向上の観点から、より好ましくは1500〜15000であり、相溶性の観点から、更に好ましくは1500〜11000である。本明細書において、重量平均分子量(Mw)の値は、ゲルパーミエーションクロマトクラフ(GPC)法によって、テトラヒドロフラン、トルエン等の展開溶媒を用いて測定される、標準ポリスチレンに換算された値を意味する。他の成分の重量平均分子量も同様にして測定することができる。
【0029】
重量平均分子量が950以上であると、接着剤組成物の粘度が低くなり過ぎず、基板上の接着剤組成物がだれることを防ぐことができる。また、厚膜の形成が容易である点、硬化収縮に起因する信頼性低下が起こりにくい点からも、重量平均分子量が950以上であることが好ましい。当該重量平均分子量が200000以下であると、樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎないため、特に良好な塗工性が得られる。また、粘度を下げるための溶媒の含有量が少なくて済むため厚膜形成も容易である。
【0030】
(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物としては、硬化後の耐熱性、パターンを有する樹脂層の強度及び密着性の観点から、下記一般式(11)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0031】
式(11)中、R21及びR22は、それぞれ独立に2価の有機基を示す。その具体例としては、炭素数1〜15の直鎖又は分枝アルキレン基及び置換基を有してもよい脂環式基を含む炭素数1〜20の基が挙げられる。ここで脂環式基とは、炭素原子が環状に結合した構造を有する基である。qは1以上の整数であり、例えば1〜5である。特に硬化後の耐熱性及びパターンを有する樹脂層の強度をより向上させる観点から、R22は下記の構造で表される2価の基であることが好ましい。
【化2】
【0032】
代表的な(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物としては、他に下記式(12)、(13)、(14)、(15)及び(16)で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化3】

(式(12)中、mは5〜20の整数を示す。)
【0034】
【化4】

(式(13)中、mは5〜20の整数を示す。)
【0035】
【化5】

(式(14)中、mは5〜20の整数を示す。)
【0036】
【化6】

(式(15)中、mは5〜20の整数を示す。)
【0037】
【化7】

(式(16)中、mは5〜20の整数を示す。)
【0038】
上記各式で表される化合物の市販品としては、上記式(12)で表される化合物であるUN−952(官能基数:10、Mw:6500〜11000)等が挙げられる。
【0039】
その他、アクリロイル基を有するウレタン系化合物(アクリロイルオキシ基を有する化合物)の市販品としては、UN−904(官能基数:10、Mw:4900)、UN−333(官能基数:2、Mw:5000)、UN−1255(官能基数:2、Mw:8000)、UN−2600(官能基数:2、Mw:2500)、UN−6200(官能基数:2、Mw:6500)、UN−3320HA(官能基数:6、Mw:1500)、UN−3320HC(官能基数:6、Mw:1500)、UN−9000PEP(官能基数:2、Mw:5000)、UN−9200A(官能基数:2、Mw:15000)、UN−3320HS(官能基数:15、Mw:4900)、UN−6301(官能基数:2、Mw:33000)(以上はいずれも、根上工業株式会社、商品名)、TMCH−5R(日立化成株式会社、商品名;官能基数:2、Mw:950)、KRM8452(官能基数=10、Mw=1200)、EBECRYL8405(ウレタンアクリレート/1,6−ヘキサンジオールジアクリレート=80/20の付加反応物、官能基数:4、Mw:2700)(以上はいずれも、ダイセル・サイテック株式会社、商品名)等が挙げられる。
【0040】
メタクリロイル基を有するウレタン系化合物(メタクリロイルオキシ基を有する化合物)の市販品としては、UN−6060PTM(根上工業株式会社、商品名;官能基数:2、Mw:6000)、JTX−0309(日立化成株式会社、商品名)、UA−21(新中村化学工業株式会社、商品名)等が挙げられる。
【0041】
接着剤組成物は、(a)成分として、(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物及びそれ以外の多官能(メタ)アクリル単量体を複合使用してもよい。この多官能(メタ)アクリル単量体としては、アミド結合を有する(メタ)アクリレート化合物、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物、グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物及びエチレン性不飽和基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
<(b)少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物>
本実施形態に係る少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されず、脂環式骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体、脂肪族骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体、ジオキサングリコール骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体、官能基を有する多官能(メタ)アクリル単量体等が挙げられる。なお、ここでの「多官能」とは、(メタ)アクリロイル基についていうものであり、化合物中に少なくとも2以上の(メタ)アクリロイル基を有することを意味する。なお、本実施形態における(b)成分は、(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物を含まないものとする。
【0043】
硬化物の透明性を向上させる観点からは、脂環式骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体及びジオキサングリコール骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体が好ましい。一方、硬化物のクラック及び基材からの剥離を防ぐ観点からは、脂肪族骨格を有する多官能(メタ)アクリル単量体を用いることが好ましい。
【0044】
多官能(メタ)アクリル単量体としては、下記の(メタ)アクリロイル基を2つ有する(メタ)アクリル単量体を挙げることができる。
【0045】
(メタ)アクリロイル基を2つ有する(メタ)アクリル単量体としては、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,3−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬株式会社、KAYARAD R−684、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート等)、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(例えば、新中村化学株式会社、A−DCP、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等)、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬株式会社、KAYARAD R−604、ジオキサングリコールジアクリレート、新中村化学株式会社、A−DOG、ジオキサングリコールジアクリレート等)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート(好ましくはポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、より好ましくはエチレンオキサイド5〜15モル変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート)、(ポリ)エチレンオキサイド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0046】
上記の中では、硬化物の透過性を向上させる観点から、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等がより好ましい。
【0047】
また、多官能(メタ)アクリル単量体としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を3つ有する(メタ)アクリル単量体等を挙げることもできる。
【0048】
また、(b)成分の含有量は、(a)成分100質量部に対して、8質量部以上が好ましく、13質量部以上がより好ましく、16質量部以上が更に好ましい。(b)成分の含有量が8質量部以上であると、(b)成分の硬化反応が充分に進み、3次元の架橋により高温側の弾性率が向上し充分な接着強度が得られる。また、本範囲であれば、(b)成分同士の衝突頻度が高く、充分なラジカル重合反応が進行することから、260℃での(b)成分由来のアウトガス発生量が充分に抑制され、剥離が抑えられる。
【0049】
一方で、充分な接着強度を有しながら、ラジカル硬化による硬化収縮を避ける、すなわち反りを緩和できる充分な応力緩和を有する観点から、(b)成分の含有量は、(a)成分100質量部に対して、400質量部以下が好ましく、350質量部以下がより好ましく、300質量部以下が更に好ましい。
なお、(b)成分とは別に、単官能(メタ)アクリル単量体を含有してもよい。単官能(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル等の(メタ)アクリル酸エステル類の他、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸フェニルノルボルニル、(メタ)アクリル酸シアノノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル等の脂環式単量体などが挙げられる。
【0050】
<(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物>
本実施形態に係る接着剤組成物においては、樹脂硬化物の特性を向上させる目的で、(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物を含む。本実施形態に係る接着剤組成物を用いる場合、第1の被着体に接着剤組成物から形成される接着剤層を形成し、第2の被着体を貼り付けた後、熱硬化させて樹脂硬化物を形成する。その際、樹脂硬化物の特性は電子部品の信頼性に大きな影響を及ぼすために、できるたけ接着剤組成物の重合による硬化を進めることが好ましい。
しかし、上記の温度範囲の有機過酸化物を含まない接着剤組成物の場合、所望の特性及び信頼性を維持するために、熱硬化工程において、より高温の加熱又は長時間の加熱が必要となる場合が多い。高温又は長時間の加熱は、樹脂硬化物の劣化又は応力の発生という問題を発生しやすく、信頼性に悪影響を与える。
上記の問題点に鑑み、本実施形態に係る接着剤組成物では、(c)1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物を含み、これにより、樹脂硬化物の特性を向上させるとともに、低温で加熱しても充分な信頼性を得ることができる。
【0051】
また、熱により分解してラジカルを発生した後の有機過酸化物の分解物について、リフロー工程での260℃程度の高温によるガス化(アウトガス)を抑制する観点から、有機過酸化物の含有量は、溶媒を除く接着剤組成物の総量に対して0.001質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。有機過酸化物の含有量がこの範囲であると、充分な硬化反応が進みつつも上記アウトガスの懸念が少なく、好適である。このような観点から、有機過酸化物の含有量は、0.01質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
1時間半減期温度が70〜115℃である有機過酸化物としては、特に限定されるものではないが、t−ヘキシルパーオキシピバレート(パーヘキシルPV、商品名;1時間半減期温度71.3℃、10時間半減期温度53.2℃)、ジラウロイルパーオキサイド(パーヘキシルL、商品名;1時間半減期温度79.3℃、10時間半減期温度61.6℃)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(パーロイル355、商品名;1時間半減期温度76.8℃、10時間半減期温度59.4℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーオクタO、商品名;1時間半減期温度84.4℃、10時間半減期温度65.3℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーブチルO、商品名;1時間半減期温度92.1℃、10時間半減期温度72.1℃)、ベンゾイルパーオキサイド+水(ナイパーBW、商品名;1時間半減期温度92.0℃、10時間半減期温度73.6℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(パーヘキサTMH、商品名;1時間半減期温度106.4℃、10時間半減期温度86.7℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(パーヘキサHC、商品名;1時間半減期温度107.3℃、10時間半減期温度87.1℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート(パーヘキシルI、商品名;1時間半減期温度114.6℃、10時間半減期温度95.0℃)、ナイパーBMT−M(日油株式会社、商品名;ジベンゾイルパーオキサイド+ベンゾイル(m−メチルベンゾイル)パーオキサイド+m−トルイルパーオキサイド、1時間半減期温度91.9℃、10時間半減期温度73.1℃)等が挙げられる。
【0053】
これらのうち、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーブチルO)、ベンゾイルパーオキサイド(ナイパーBW)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーオクタO)のうち少なくとも1つの成分を有することが好ましい。これらの有機過酸化物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
ここで、有機過酸化物の1時間半減期温度は、有機過酸化物が1時間の半減期を得るための分解温度を示し、好ましくは70〜115℃であるが、より好ましくは75〜115℃、更に好ましくは80〜115℃、より更に好ましくは84〜115℃である。
【0055】
これらの有機過酸化物の中でも、接着剤組成物のシェルフライフ及びポットライフ等の取り扱い性と硬化性の良好なバランスを保つ観点から、10時間半減期温度が90〜150℃である有機過酸化物が好ましい。
【0056】
なお、有機過酸化物の半減期温度は、以下のようにして測定される。
【0057】
ベンゼンを溶媒として使用し、0.1mol/Lに調整した有機過酸化物溶液を、窒素置換を行ったガラス管中に密封する。これを所定温度にセットした恒温槽に浸し、熱分解させる。一般的に希薄溶液中の有機過酸化物の分解は近似的に一次反応として取り扱うことができるので、分解有機過酸化物量をx(mol/L)、分解速度定数をk(1/h)、時間をt(h)、有機過酸化物初期濃度をa(mol/L)とすると、下記式(1)及び式(2)が成立する。
dx/dt=k(a−x)・・・(1)
ln{a/(a−x)}=kt・・・(2)
半減期は分解により有機過酸化物濃度が初期の半分に減ずるまでの時間であるから、半減期をt1/2で示し式(2)のxにa/2を代入すれば、下記式(3)のようになる。
kt1/2=ln2・・・(3)
したがって、ある一定温度で熱分解させ、時間(t)とln{a/(a−x)}の関係をプロットし、得られた直線の傾きからkを求めることで、式(3)からその温度における半減期(t1/2)を求めることができる。
【0058】
一方、分解速度定数kに関しては、頻度因子をA(1/h)、活性化エネルギーをE(J/mol)、気体定数をR(8.314J/mol・K)、絶対温度をT(K)とすれば、下記式(4)が成立する。
lnk=lnA−ΔE/RT・・・(4)
式(3)及び式(4)よりkを消去すると、
ln(t1/2)=ΔE/RT−ln(A/2)・・・(5)
で表されるので、数点の温度についてt1/2を求め、ln(t1/2)と1/Tの関係をプロットし得られた直線からt1/2=1hにおける温度(1時間半減期温度)が求められる。10時間半減期温度も、t1/2=10hとした場合の温度を求めることで得られる。
【0059】
上記で挙げた有機過酸化物の中でも好適なものとしては、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーブチルO)、ベンゾイルパーオキサイド(ナイパーBWの主成分)又は1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(パーオクタO)が挙げられる。
【0060】
なお、有機過酸化物は、(a)成分及び(b)成分との組み合わせにおいて優れた耐熱性、耐剥離性及び応力緩和を発揮して、電子部品の信頼性を向上させることができる。
【0061】
なお、本実施形態に係る接着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、(c)成分以外の熱重合開始剤を含有してもよい。(c)成分以外の熱重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−(シクロヘキサン−1,1−カルボニトリル)−2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0062】
<有機溶媒>
本実施形態に係る接着剤組成物は、(a)、(b)及び(c)成分以外に、必要に応じて後述の任意成分を、有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とすることができる。これにより、基材への塗布性を向上させ、作業性を良好にすることができる。
【0063】
ワニス状にするために用いる有機溶媒としては、接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合、溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。用いる有機溶媒としては、特に制限されないが、アルコール系、エーテル系、ケトン系、アミド系、芳香族炭化水素系、エステル系、ニトリル系等が挙げられる。具体的には、低温での揮発性等を考慮して低沸点のジエチルエーテル、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メチルエチルケトン、2−プロパノール等、塗膜安定性を向上させる等の目的で高沸点の、トルエン、メチルイソブチルケトン、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、キシレン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、ブチルセロソルブ、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0064】
これらの中でも、溶解性に優れ、乾燥速度が速いことから、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0065】
本実施形態に係る接着剤組成物に用いられる有機溶媒の量は、ワニス状態にしたときの粘度等によって決定されるもので、特に制限はないが、接着剤組成物全体に対して、概ね、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%の範囲で用いられる。
【0066】
<カップリング剤>
本実施形態に係る接着剤組成物には、カップリング剤を添加することができる。用いられるカップリング剤としては特に制限はなく、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤等の各種のものが用いられる。
【0067】
シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロキシエトキシ)シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾリル)プロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリグリシドキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。
【0068】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピル(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。
【0069】
アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピオネート等が挙げられる。
【0070】
ジルコネート系カップリング剤としては、テトラプロピルジルコネート、テトラブチルジルコネート、テトラ(トリエタノールアミン)ジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、ジルコニウムアセチルアセトネートアセチルアセトンジルコニウムブチレート、ステアリン酸ジルコニウムブチレート等が挙げられる。
【0071】
ジルコアルミネート系カップリング剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化8】

(式(1)中、Rはカルボキシル基又はアミノ基を示す。)
【0072】
上記Rがカルボキシル基である化合物としては、マンシェム CPG−カルボキシジルコアルミネート等があり、また、Rがアミノ基である化合物としては、マンシェム APO−X−アミノジルコアルミネート溶液等が挙げられ、それぞれローヌプーランク社より入手可能である。
【0073】
カップリング剤の配合量は、溶媒を除く接着剤組成物の総量100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜15質量部が特に好ましい。この配合割合が0.1質量部以上であれば、接着強度の向上効果が得られやすい傾向にあり、20質量部以下であれば、揮発分が少なく、硬化物中にボイドが生じにくくなる傾向がある。
【0074】
これらのカップリング剤の中では、材料間の界面の結合又は濡れ性をよくする意味で効果が高いシランカップリング剤を選択することが好ましい。
【0075】
<充填剤>
本実施形態に係る接着剤組成物には、更に必要に応じて充填剤を含有してもよい。充填剤の種類としては、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられるが、耐熱性若しくは熱伝導性を向上させる、又は溶融粘度の調整若しくはチキソトロピック性を付与する観点から、無機フィラーが好ましい。
【0076】
無機フィラーとしては、特に制限はなく、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、ホウ酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、アンチモン酸化物等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0077】
熱伝導性向上のためには、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ又は非晶性シリカが好ましい。溶融粘度の調整又はチキソトロピック性の付与には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ又は非晶性シリカが好ましい。
【0078】
透明性及び作業性の観点から充填剤の配合量は溶媒を除く接着剤組成物全体の3質量%以下であることが好ましい。
【0079】
本実施形態に係る接着剤組成物に充填剤を添加した際のワニスの製造には、分散性を考慮して、ライカイ機、3本ロール、ボールミル、ビーズミル等によって物理的なせん断力を与え、二次凝集した粒子がないように充分に分散させた後に使用するのが好ましい。上記の分散方法は、組み合わせて使用することができる。
【0080】
また、充填剤と低分子量物を予め混合した後、高分子量物を配合することによって、混合する時間を短縮することが可能になる。
【0081】
各々の成分を均一に撹拌混合する方法については、特に制限はないが、デゾルバー、スタテックミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、プラネタリーミキサー、ミックスローター、万能撹拌機等の自転公転式撹拌機の他、ライカイ機、3本ロール等の混練装置などを用いる方法が挙げられ、適宜、組み合わせて用いることができる。ワニス状とした後は、ワニス中の気泡を除去することが好ましい。この意味で、自転公転式撹拌機は、混合及び溶解と気泡の除去とを同時に行うことができるため好適に用いられる。
【0082】
本実施形態に係る接着剤組成物には、更に必要に応じて酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高級脂肪酸等の濡れ向上剤、シリコーン油等の消泡剤、無機イオン交換体等のイオントラップ剤などを単独又は数種類組み合わせて、適宜添加することができる。
【0083】
さらに、本実施形態に係る接着剤組成物は、硬化前であっても透明性を有する傾向があり、接着剤が被着体に形成された時点において、被着体同士の位置合わせを良好に行うことができる。
【0084】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、半導体基板の裏面に本実施形態に係る接着剤組成物からなる接着剤層(以下、「接着樹脂層」ともいう)を形成する接着剤層形成工程と、半導体基板と支持部材又は他の半導体基板とを、それらの間に接着剤層を挟んで圧着する圧着工程と、40〜120℃の温度範囲で接着剤層を硬化する硬化工程と、を備える。以下、各工程について、場合により図面を参照しながら説明する。
【0085】
(接着剤層形成工程)
図1は、半導体基板上に本実施形態に係る接着剤組成物を用いた接着剤層が形成されている状態を示す断面図である。
【0086】
まず、本実施形態に係る接着剤組成物からなる接着剤層1を半導体基板2上に形成する。接着剤層形成工程としては、本実施形態に係る接着剤組成物を半導体基板上に塗布する方法、又はフィルム状の接着剤組成物を半導体基板に貼り付ける方法を採用することができる。半導体基板は、半導体ウェハ及び半導体素子(半導体チップ)のいずれであってもよい。
接着剤組成物を塗布する方法としては、ディスペンス法、スピンコート法、ダイコート法、ナイフコート法等が挙げられる。特に高分子量のものを含有する組成物の塗布に適しているスピンコート法が好ましい。
フィルム状の接着剤組成物を貼り付ける方法を採用する場合、充分な濡れ広がりを確保するため、0〜90℃の範囲でラミネートすることが好ましい。また、均一に貼り付けるため、ロールラミネートすることが好ましい。
フィルム状接着剤組成物の製造方法を以下に説明する。本実施形態に係る接着剤組成物を、支持フィルム上に均一に塗布し、使用した溶媒が充分に揮散する条件、例えば、60〜200℃の温度で0.1〜30分間加熱することにより、フィルム状の接着剤組成物を形成する。このとき、フィルム状の接着剤組成物が所望の厚さとなるように、接着剤組成物の溶媒量、粘度、塗布初期の厚さ(ダイコーター、コンマコーター等のコーターを用いる場合は、コーターと支持フィルムのギャップを調整する)、乾燥温度、風量等を調整する。
支持フィルムは、平坦性を有することが好ましい。例えば、PETフィルムのような支持フィルムは静電気による密着が高いため、作業性を向上するために平滑剤を使用している場合がある。平滑剤の種類及び温度によっては、接着剤に微妙な凹凸を転写し平坦性を下げる場合がある。したがって、平滑剤を使用していない支持フィルム、又は平滑剤の少ない支持フィルムを使用することが好ましい。また、ポリエチレンフィルム等の支持フィルムは柔軟性に優れる点で好ましいが、ラミネート時にロール痕等が感光性接着剤層表面に転写しないよう、支持フィルムの厚さ及び密度を適宜選択することが好ましい。
【0087】
続いて、所望により、半導体基板上に形成された接着剤層を加熱乾燥することによりBステージ化する。Bステージとは、ある種の熱硬化性樹脂の反応において、材料がある種の液体に接触する場合には膨潤し且つ加熱する場合には軟化するが、しかし完全には溶解又は溶融しない中間段階をいう。
【0088】
また、本実施形態に係る接着剤組成物をダイコーター、ナイフコーター等の塗布方法にて基材に塗布した後、乾燥する温度には、特に制限はないが、溶媒に溶解又は分散して接着剤組成物をワニス状とした場合には、使用した溶媒の沸点よりも10〜50℃低くすることが、乾燥時に溶媒の発泡による気泡を作らない意味で好ましい。このような理由で、使用した溶媒の沸点よりも15〜45℃低くすることがより好ましく、使用した溶媒の沸点よりも20〜40℃低くすることが更に好ましい。
【0089】
また、溶媒に溶解又は分散してワニス状とした場合には、特に溶媒の残存量をできるだけ少なくすることが、硬化後の溶媒の発泡による気泡を作らない点で好ましい。
【0090】
上記の加熱乾燥を行う時間は、使用した溶媒が充分に揮散する条件且つ(c)成分が実質的にラジカルを発生しない条件であれば特に制限はないが、通常40〜100℃で、0.1〜90分間加熱して行う。なお、「実質的にラジカルを発生しない」とは、ラジカルが全く発生しないか、又は発生したとしてもごくわずかであることをいい、これにより重合反応が進行しないか、仮に進行したとしても上記接着剤層の物性に影響を及ぼさない程度のものであることをいう。また、減圧条件下で乾燥することで、加熱による(c)成分からのラジカル発生を抑制しつつ、溶剤の残存量を少なくすることができるため好ましい。
【0091】
接着剤層を加熱硬化させる際の発泡により、はんだリフロー時に接着剤層が剥離することを抑制する観点から、接着剤層の内部又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成物、分解生成物、材料由来の水分、表面吸着水等の揮発成分は、充分に少なくすることが好ましい。
なお、上記加熱乾燥は、接着剤層形成工程においてフィルム状の接着剤組成物を貼り付ける方法を採用した場合には、省略することができる。
【0092】
(圧着工程)
図2は、支持部材と半導体基板とが本実施形態に係る接着剤組成物を用いた接着剤層を介して接着している状態を示す断面図である。
【0093】
図2に示すように、半導体基板2上に形成され、所望により加熱乾燥された接着剤層1(接着樹脂層)上に、支持部材3又は他の半導体基板を圧着する。
【0094】
(硬化工程)
接着剤層を介して半導体基板と透明基板とを圧着した後、熱により接着剤層を硬化させる。
【0095】
接着剤層の硬化物を形成する熱硬化工程において、熱硬化(キュア)は、温度を選択して段階的に昇温しながら1〜2時間実施することが好ましい。熱硬化は40〜120℃で行うことが好ましく、特に40〜100℃で行うことがより好ましい。
【0096】
なお、圧着工程及び硬化工程は、必ずしも独立した工程である必要はなく、圧着を行いながら同時に硬化を行ってもよい。
【0097】
以上の工程を経て、本実施形態に係る半導体装置を製造することができる。なお、図3は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。工程(a)は、半導体基板の裏面に本実施形態に係る接着剤組成物からなる接着剤層を形成し、当該接着剤層を所望により加熱乾燥することによりBステージ化する工程であり、工程(b)は、半導体基板と支持部材又は他の半導体基板とを、それらの間に接着剤層を挟んで圧着する工程であり、工程(c)は、40〜120℃の温度範囲で接着剤層を硬化する工程であり、工程(d)は、得られた半導体基板を必要に応じてダイシングする工程に相当する。
【0098】
<接着剤層の硬化物の物性>
以上の組成を有する本実施形態に係る接着剤層の硬化物のTgは、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−30℃以上である。
【0099】
上述した組成を有する本実施形態に係る接着剤組成物を用いて、上述の各工程を経ることにより、25℃における弾性率が、例えば、1GPa以上、40GPa以下の硬化物を得ることができる。硬化物の25℃における弾性率の上限値は、20GPa以下が好ましく、10GPa以下がより好ましい。
【0100】
以上説明した本実施形態に係る接着剤組成物及び半導体装置の製造方法は、例えば、CCD/CMOSイメージセンサの分野において、イメージセンサチップとそれを保護するガラスとの接着に好適に使用することができる他、ディスプレイ材料等の電子部材の分野において、好適に使用することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例のうち、実施例5は参考例に相当する。
【0102】
(a)、(b)及び(c)成分を以下の表1〜6のとおりの配合割合(質量部)で配合し、実施例1〜18及び比較例1〜7の接着剤組成物を得た。なお、表1〜6において、有機溶媒を除く各成分の数字は固形分の質量部を表し、各表記は以下に示すとおりである。なお、本明細書でいう固形分とは、接着剤組成物の水、溶媒等の揮発する物質を除いた不揮発分を指す。すなわち、乾燥工程で揮発せずに残る溶媒以外の成分を指し、25℃付近の室温で液状、水飴状及びワックス状のものも含む。
【0103】
((a)成分)
(a)成分の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレンキットPStQuickシリーズ(東ソー株式会社、商品名)を用いて3次式で近似した。GPCの条件を以下に示す。
ポンプ:L6000 Pump(株式会社日立製作所)
検出器:L3300 RI Monitor(株式会社日立製作所)
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5(計2本)(日立化成株式会社、商品名)
カラムサイズ:直径8mm×300mm
溶離液:DMF/THF(質量比1/1)+LiBr・HO 0.03mol/l+HPO 0.06mol/l
試料濃度:0.1質量%
流量:1ml/min
測定温度:40℃
【0104】
・UN−3320HS(根上工業株式会社、商品名;アクリロイル基を有するウレタン系化合物、重量平均分子量Mw=5000、官能基数=15)
・UN−952(根上工業株式会社、商品名;アクリロイル基を有するウレタン系化合物、重量平均分子量Mw=6500〜11000、官能基数=10)
・UN−904(根上工業株式会社、商品名;アクリロイル基を有するウレタン系化合物、重量平均分子量Mw=4900、官能基数=10)
・UN−3320HA(根上工業株式会社、商品名;アクリロイル基を有するウレタン系化合物、重量平均分子量Mw=1500、官能基数=6)
・UN−333(根上工業株式会社、商品名;アクリロイル基を有するウレタン系化合物、重量平均分子量Mw=5000、官能基数=2)
【0105】
<アクリル重合体の合成>
((a)の比較成分)
(a’−7)
メタクリル酸グリシジル24g、メタクリル酸メチル435g、アクリル酸エチル183g及びアクリル酸ブチル358gを単量体基準で混合し、得られた単量体混合物に更にジラウロイルパーオキサイド5g及び連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.45gを溶解させて、混合液とした。
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコール0.44g及びイオン交換水2000gを加えた。更に撹拌しながら上記混合液を加え、撹拌回転数250min−1、窒素雰囲気下において60℃で5時間、次いで90℃で2時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、質量法で99%であった。)。この樹脂粒子を水洗、脱水及び乾燥することによりアクリル重合体(a’−7)を得た。得られた(a’−7)の重量平均分子量はMw=5万でありガラス転移温度Tgは5℃以上であった。
なお、上記Tgは、JIS K 6240(原料ゴム−示唆走査熱量測定(DSC)によるガラス転移温度の求め方)に準じた方法で測定した。
【0106】
((b)成分)
・A−DCP(新中村化学株式会社、商品名;トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)
・A−DOG(新中村化学株式会社、商品名;ジオキサングリコールジアクリレート)
・BPE−100(新中村化学株式会社、商品名;エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジメタクリレート)
・PE−3A(共栄社化学株式会社、商品名;ペンタエリスリトールトリアクリレート)
【0107】
((b)の比較成分)
・EHPE−3150(株式会社ダイセル、商品名;脂環式エポキシ樹脂)
・YDCN−702(新日鉄住金化学株式会社、商品名;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)
・BAH−100Y(新中村化学株式会社、商品名;エポキシアクリレート)
【0108】
((c)成分)
・パーヘキシルPV(日油株式会社、商品名;t−ヘキシルパーオキシピバレート、1時間半減期温度71.3℃、10時間半減期温度53.2℃)
・パーロイル355(日油株式会社、商品名;ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、1時間半減期温度76.8℃、10時間半減期温度59.4℃)
・パーロイルL(日油株式会社、商品名;ジラウロイルパーオキサイド、1時間半減期温度79.5℃、10時間半減期温度61.6℃)
・パーオクタO(日油株式会社、商品名;1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1時間半減期温度84.4℃、10時間半減期温度65.3℃)
・パーブチルO(日油株式会社、商品名;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1時間半減期温度92.1℃、10時間半減期温度72.1℃)
・ナイパーBMT−M(日油株式会社、商品名;ジベンゾイルパーオキサイド+ベンゾイル(m−メチルベンゾイル)パーオキサイド+m−トルイルパーオキサイド、1時間半減期温度91.9℃、10時間半減期温度73.1℃)
・ナイパーBW(日油株式会社、商品名;ベンゾイルパーオキサイド+水、1時間半減期温度92.0℃、10時間半減期温度73.6℃)
・パーヘキサTMH(日油株式会社、商品名;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1時間半減期温度106.4℃、10時間半減期温度86.7℃)
・パーヘキサHC(日油株式会社、商品名;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1時間半減期温度107.3℃、10時間半減期温度87.1℃)
・パーヘキシルI(日油株式会社、商品名;t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、1時間半減期温度114.6℃、10時間半減期温度95.0℃)
【0109】
((c)の比較成分)
・パーブチルI(日油株式会社、商品名;t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、1時間半減期温度118.4℃、10時間半減期温度98.7℃)
・パークミルD(日油株式会社、商品名;ジクミルパーオキサイド、1時間半減期温度135.7℃、10時間半減期温度116.4℃)
・パーヘキサV(日油株式会社、商品名;n−ブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1時間半減期温度126.5℃、10時間半減期温度104.5℃)
【0110】
(密着助剤)
・A−1160(モメンティブ社、商品名;ウレイド系シランカップリング剤、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)
【0111】
(有機溶媒)
・シクロヘキサノン(関東化学株式会社、化学物質名)
【0112】
(エポキシ硬化促進剤)
・1B2PZ(四国化成工業株式会社、商品名;1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール)
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
実施例及び比較例で得られた接着剤組成物の溶液を用いて、以下の評価を行った。評価結果を表7〜9に示す。
【0120】
<耐リフロー剥離性>
実施例及び比較例の接着剤組成物の溶液を、400μmの6インチウェハを4分の1に切ったシリコン基板上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、70℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚20μmの接着剤層を形成し、試験基板を作製した。得られた試験基板の接着剤層に、4.0cm×5.0cm×120〜170(実測140〜160μm)μmのガラス基板(MATSUNAMI MICRO COVER GLASS 40mm×50mm THICKNESS No.1;松浪硝子工業株式会社、商品名)を貼り付け、70℃で2時間加熱して硬化させた。この試験基板を、260℃の熱板上で30秒間放置した後、室温(25℃)に戻して5分間保持する操作を行い、試験基板の外観を目視にて観察し、下記の基準に基づいて耐リフロー剥離性を評価した。
A:外観異常が見られなかった。
B:基板の一部に剥離が見られた。
C:基板全面に剥離が見られた。
【0121】
<260℃におけるダイシェア強度>
厚さ400μmの6インチウェハのシリコン基板のミラー面とは反対側の面に、300μmの切り込み深さで3mm×3mmにハーフカットを行った。ハーフカット面側に支持体としてダイシングシートを貼り付けた。実施例及び比較例の接着剤組成物の溶液を、上記ハーフカットしたシリコン基板のミラー面上にスピンコーターを用いて均一に塗布した。その後70℃のホットプレートで5分間乾燥させ、膜厚20μmの接着剤層を形成し、試験基板を作製した。この接着剤層を形成した試験基板について、ハーフカットのカットラインに沿ってシリコン基板を割り、3mm×3mmの接着剤層付きシリコンチップを得た。ガラス基板(MATSUNAMI MICRO COVER GLASS 100mm×100mm THICKNESS No.5;松浪硝子工業株式会社、商品名、厚さ0.45〜0.60mm)を10mm×10mmサイズにダイシングし、ガラスチップを得た。上記シリコンチップをこのガラスチップに70℃で2秒間、1Nの圧力で貼り付け、70℃で2時間加熱して硬化させ、試験チップを得た。この試験チップを、260℃の熱板上で20秒以上1分以内放置した後、Dage−4000(デイジ社、商品名)を用いてダイシェア強度を測定した。試験チップは10個作製し、その10個の平均値を260℃におけるダイシェア強度とした。下記の基準を用いて、260℃におけるダイシェア強度を評価した。
A:1MPa以上。
B:0.3MPa以上1MPa未満。
C:0.3MPa未満。
【0122】
<全光線透過率>
実施例及び比較例の接着剤組成物の溶液を、4.0cm×5.0cm×120〜170(実測140〜160μm)μmのガラス基板(MATSUNAMI MICRO COVER GLASS 40mm×50mm THICKNESS No.1;松浪硝子工業株式会社、商品名)上にスピンコータ―を用いて均一に塗布し、70℃のホットプレートで5分間乾燥し、乾燥後の膜厚20μmの接着剤層を形成し、試験基板を作製した。得られた試験基板の接着剤層に、4.0cm×5.0cm×120〜170(実測140〜160μm)μmのガラス基板(MATSUNAMI MICRO COVER GLASS 40mm×50mm THICKNESS No.1;松浪硝子工業株式会社、商品名)を貼り付け、70℃で2時間加熱して硬化させた。得られたサンプルを、COH−300A(日本電色工業株式会社、商品名)を用いて全光線透過率を測定した。下記の基準に基づいて全光線透過率を評価した。
A:透過率が30%以上。
B:透過率が30%未満。
【0123】
<硬化物の25℃における弾性率及び硬化物のTg>
実施例及び比較例の接着剤組成物の溶液を、離型処理されたPETフィルム上にナイフコーターを用いて均一に塗布し、70℃で15分間乾燥させ、膜厚50μmの接着剤層を形成した。このPETフィルムに形成された接着剤層を、オーブンにて70℃で2時間加熱し、硬化させた。得られた硬化物を、幅7mm、長さ40mmの短冊状にカットした後、PETフィルムから剥離し、25℃における弾性率及び硬化物のTgを粘弾性試験器(RSA−III;ティー・エイ・インスツルメント社、商品名)により測定した。なお、測定は試験モード:引っ張り試験、試験温度:0〜150℃、昇温速度:5℃/分、周波数:1Hz、チャック間距離:20mmの条件にて行った。
下記の規準に基づいて硬化物の25℃における弾性率を評価した。
A:1GPa以上。
B:1GPa未満。
下記の基準に基づいて硬化物のTgを評価した。
A:−30℃以上。
B:−30℃未満。
【0124】
【表7】
【0125】
【表8】
【0126】
【表9】
【0127】
表7及び8に示された各実施例の評価結果によれば、本発明の(a)〜(c)成分を含む接着剤組成物は、耐リフロー剥離性及び260℃におけるダイシェア強度の各特性の評価がA又はBであり、全光線透過率及び硬化物の25℃における弾性率の評価がAであり、優れた効果を発揮することが分かった(実施例1〜18)。耐リフロー剥離性及び260℃におけるダイシェア強度の各特性の評価がA又はBであり、全光線透過率及び硬化物の25℃における弾性率の評価がAである接着剤組成物であれば、低温での硬化(例えば、100℃以下)及び硬化時間の短縮が可能であり、且つ無機材質又は金属材質で構成される基板への接着性及び260℃での耐リフロー剥離性に優れる接着剤組成物といえる。
【0128】
一方、表9に記載の比較例の評価結果によれば、(a)成分として少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物ではなく、(メタ)アクリロイル基を有しないアクリル重合体を含有する比較例1は、全光線透過率はA評価であるが、耐リフロー剥離性及び260℃におけるダイシェア強度において充分な接着機能を発現できていない。これは、(b)及び(c)成分によって充分に硬化反応が進行していても、(a)成分として少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するウレタン系化合物を含有しない場合には、260℃における耐熱性及び弾性率が低く、剥離性が低下したものと考えられる。
【0129】
架橋成分として固形エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂及びエポキシアクリレートを使用した比較例2〜4は、エポキシ硬化促進剤としてイミダゾールを添加したが、70℃という低温では硬化反応が進まなかったため、耐リフロー剥離性及び260℃におけるダイシェア強度について優れた効果を発現できなかった。
【0130】
1時間半減期温度が高い有機過酸化物を用いた比較例5〜7は、260℃におけるダイシェア強度においてC評価であり、低温ではほとんど反応せず接着機能を発現できなかったと考えられる。
【符号の説明】
【0131】
1…接着剤層、2…半導体基板、3…支持部材
図1
図2
図3