特許第6330809号(P6330809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6330809
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】2−フルオロブタンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/395 20060101AFI20180521BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20180521BHJP
   C07C 17/383 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C07C17/395
   C07C19/08
   C07C17/383
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-527314(P2015-527314)
(86)(22)【出願日】2014年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2014068886
(87)【国際公開番号】WO2015008781
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-150885(P2013-150885)
(32)【優先日】2013年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達也
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−95669(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123038(WO,A1)
【文献】 特開2001−226318(JP,A)
【文献】 米国特許第4049728(US,A)
【文献】 化学大辞典編集委員会,化学大辞典7 縮刷版,1964年 1月15日,p.907-908
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/395
C07C 17/383
C07C 19/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブテン類を5〜50重量%含有する粗2−フルオロブタンを、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒又は含硫黄系溶媒である非プロトン性極性溶媒中、水又は炭素数4以下のアルコール存在下、ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤とブテン類とを接触させて、ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する方法。
【請求項2】
前記臭素化剤が、N−ブロモスクシンイミドである請求項1記載の変換する方法。
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒が、2−フルオロブタンより30℃以上高い沸点を有するものである請求項1又は2記載の変換する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の変換方法により、ブテン類を、2−フルオロブタンより高沸点の化合物に変換した後、反応液から2−フルオロブタンを回収し、その後、回収された2−フルオロブタンを蒸留精製する、2−フルオロブタンの精製方法。
【請求項5】
反応液から2−フルオロブタンを回収する工程が、70〜10kPaの減圧下に、2−フルオロブタンを回収することを特徴とする、請求項4に記載の2−フルオロブタンの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において用いられるプラズマ反応用ガスや、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤等として有用な2−フルオロブタンに関する。高純度化された2−フルオロブタンは、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマ用エッチングガスやCVD用ガス等のプラズマ反応用ガスとして好適である。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術の微細化は進んでおり、最先端プロセスでは線幅が20nm、さらには10nm世代が採用されてきている。また、微細化に伴ってその加工する際の技術難度も向上しており、使用する材料、装置、加工方法等、多方面からのアプローチにより技術開発が進められている。
【0003】
このような背景から、本出願人も、最先端のドライエッチングプロセスにも対応できる、式(1):C(式中、xは3、4又は5を表し、y、zは正の整数を表し、かつ、y>zである。)で表される飽和フッ素化炭化水素を含むプラズマエッチングガスを開発し、フッ素数の少ない飽和フッ素化炭化水素が、窒化シリコン膜のエッチングに用いられているモノフルオロメタンを凌ぐ性能を有することを報告している(特許文献1)。
【0004】
従来、上記式(1)で表される飽和フッ素化炭化水素の一種である2−フルオロブタンの製造方法としては、例えば、次のものが知られている。
特許文献2には、2−ブタノールに、フッ素化剤として、N,N−ジエチル−3−オキソ−メチルトリフルオロプロピルアミンを接触させて、収率46%で2−フルオロブタンを得たことが記載されている。
特許文献3には、sec−ブチルリチウムシクロヘキサン−ヘキサン溶液に六フッ化硫黄を接触させることにより、フッ化sec−ブチルの生成を確認したとの記載がなされている。
特許文献4には、2−ブテン存在下、2−ブタノールと含フッ素イリドとを接触させる方法が提案されている。
特許文献5には、2−フルオロブタジエンを触媒下に水素化することにより、2−フルオロブタンを得たと記載されている。
また、非特許文献1には、オレフィン化合物をブロモヒドリン化する方法として、メチレンシクロブタンを無溶媒下、N−ブロモスクシンイミド/水系で反応させ、1−(ブロモメチル)シクロブタノールに変換できる旨記載されている。
しかし、上記の従来技術においては、2−フルオロブタンそのものの製造法は記載されているものの、得られた2−フルオロブタンの純度、あるいは不純物についての情報についてはほとんど記載されておらず、2−フルオロブタンを効率良く、精製する方法についても記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009−123038号公報
【特許文献2】特開昭59−46251号公報
【特許文献3】特開2009−292749号公報
【特許文献4】特開2013−095669号公報
【特許文献5】米国特許第2550953号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,Vol.19,2915(1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、先に、反応工程で得られた粗2−フルオロブタンを、蒸留、乾燥、脱窒素・酸素工程を経ることにより、高純度の2−フルオロブタンを得ることができたことを報告している(特願2013−045131号)。
しかしながら、得られた2−フルオロブタンは高純度であるものの、ブテン類を不純物として含むものであった。
ブテン類をより効率よく除去することが、工業的生産性の観点から望ましい。また、分離したブテン類は常温でガス状物質であるために、その取扱いに際しては、工業上さまざまな制約を受ける。このような背景から、我々は2−フルオロブタンの粗体中からブテン類の大部分を簡便に除去するべく鋭意検討を重ねた。
【0008】
フッ素化ブタン中の不飽和不純物を除去する方法として、特表2002−524431号公報には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中に含まれる、フルオロトリクロロエチレン体を除去するために、塩化水素、フッ素、塩素、もしくは水素といった2原子分子を付加させて除去する方法が開示されている。
そこで、この方法を粗2−フルオロブタンの精製に適用し、フッ素や塩素のような反応性の激しい反応剤を用いたところ、構造上脱フッ化水素化しやすい2−フルオロブタンの分解(脱フッ化水素化)を引き起こす問題が生じた。
また、2−フルオロブタンに対して、反応性の低い水素でブテン類を水素化する方法も考えられるが、この方法によると、ガス状物質であるブタンが生成し、新たな不純物となるため、容易に不純物を除去するという目的は達成されない。
【0009】
そこで、本発明は、2−フルオロブタンの粗体中から、ブテン類などの不純物を簡便に除去して、高純度な2−フルオロブタンを得ることができる、ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する方法、及び、この方法を用いる2−フルオロブタンの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、更なる検討を行ったところ、ブテン類を含有する2−フルオロブタンを、非プロトン性極性溶媒下に、ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤、及び、水又は炭素数4以下のアルコールと接触させることで、2−フルオロブタンの分解を抑制しつつ、ブテン類を高沸点化合物に変換できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、(1)〜(3)の変換する方法、(4)、(5)の2−フルオロブタンの生成方法が提供される。
(1)ブテン類を5〜50重量%含有する粗2−フルオロブタンを、非プロトン性極性溶媒中、水又は炭素数4以下のアルコール存在下、ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤とブテン類とを接触させて、ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する方法。
(2)前記臭素化剤が、N−ブロモスクシンイミドである(1)に記載の変換する方法。
(3)前記非プロトン性極性溶媒が、2−フルオロブタンより30℃以上高い沸点を有するものである(1)又は(2)に記載の変換する方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の変換方法により、ブテン類を、2−フルオロブタンより高沸点の化合物に変換した後、反応液から2−フルオロブタンを回収し、その後、回収された2−フルオロブタンを蒸留精製する、2−フルオロブタンの精製方法。
(5)反応液から2−フルオロブタンを回収する工程が、70〜10kPaの減圧下に2−フルオロブタンを回収することを特徴とする、(4)に記載の2−フルオロブタンの精製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2−フルオロブタンの粗体中から、ブテン類などの不純物を簡便に除去して、高純度な2−フルオロブタンを得ることができる、ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する方法、及びこの方法を用いる2−フルオロブタンの精製方法を提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ブテン類を5〜50重量%含有する粗2−フルオロブタンを、非プロトン性極性溶媒中、水又は炭素数4以下のアルコール存在下、ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤とブテン類とを接触させて、ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する方法である。
【0014】
本発明に用いる粗2−フルオロブタンは、例えばJournal of Organic Chemistry,Vol.44,3872(1979)や、Bulletin of the chemical society of Japan,Vol.52,3377(1979)に記載の方法により製造することができる。前者は、2−ブタノールを原料に、ピリジンのポリフッ化水素錯体をフッ素化剤として用いる方法であり、後者は2−ブタノールを原料に、ヘキサフルオロプロペンとジエチルアミンから調製されるN,N−ジエチルアミノヘキサフルオロプロパンをフッ素化剤として用いて、2−フルオロブタンを製造するものである。これ以外の方法として、2−ブロモブタン又は2−(アルキルスルホニルオキシ)ブタンをフッ化カリウム及びフッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物で処理する方法を適用することも可能である。
【0015】
上記に記載したような製造方法で製造された粗2−フルオロブタン中には、2−フルオロブタン(沸点:24〜25℃)の他に、ブテン類として、主に1−ブテン(沸点:−6.3℃)、(E)−2−ブテン(沸点:0.9℃)、(Z)−2−ブテン(沸点:3.7℃)が含まれている。
【0016】
ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤としては、次亜臭素酸ナトリウム、臭素などの無機臭素化合物;N−ブロモアセトアミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタル酸イミド、N−ブロモサッカリン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、ブロモイソシアヌル酸一ナトリウムなどのアミド・イミド系臭素化剤;2,4,4,6−テトラブロモ−2,5−シクロヘキサジエノン、5,5−ジブロモメルドラム酸などの環状ブロモケトン系臭素化剤;が挙げられる。これらの中でも、N−ブロモアセトアミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタル酸イミド、N−ブロモサッカリン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、ジブロモイソシアヌル酸、ブロモイソシアヌル酸一ナトリウムなどのアミド・イミド系臭素化剤が好ましく、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインがより好ましい。
【0017】
ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤の添加量は、臭素化剤中の臭素原子基準で、ブテン類の合計量に対して、0.9〜3当量が好ましく、1.1〜2当量がより好ましい。添加量が少なすぎると、転化率が低くなるので残存するブテン量が多くなり、添加量が多すぎると本発明で使用する水溶性溶媒へ溶解が不十分となり、後処理が面倒な上、臭素化剤自体が腐食性物質のため、反応器等を痛める可能性がある。
【0018】
本発明に用いる、水又は炭素数4以下のアルコールは、ブテン類に対する求核剤として機能する(以下、本発明に用いる、水又は炭素数4以下のアルコールを、「求核剤」ということがある。)。炭素数4以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノールなどの低級飽和アルコール;アリルアルコール、プロパルギルアルコールなどの低級不飽和アルコール;を挙げることができる。
これらの中でも、水、メタノールが好ましく、取扱い易さの点で水がより好ましい。
これら求核剤の添加量は、ブテン類の合計量に対して、1〜5当量が好ましく、2〜3当量がより好ましい。添加量が少なすぎるとブテンの転化率が低くなり、多すぎると臭素化剤の溶解性が低下し、反応系が複雑になり、後処理が面倒になる。
【0019】
本発明に用いられる非プロトン性極性溶媒としては、2−フルオロブタンよりも沸点が30℃以上高いものが好ましい。
より具体的には、アセトン、2−ブタノンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダジリジノン、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒;などが挙げられる。これらの中でも、ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドが、反応で生成するアミド体及びイミド体を良く溶解させる点でより好ましい。
【0020】
非プロトン性極性溶媒の使用量は、原料となる粗2−フルオロブタンに対し、1〜5倍体積量が好ましく、1.5〜3倍体積量がより好ましい。使用量が少ないと、臭素化剤の種類によっては、反応が急激に進行するなど危険があり、使用量が多すぎると廃液の処理が煩雑になる。
【0021】
ブテン類を2−フルオロブタンよりも高沸点の化合物に変換する反応の反応温度は、−30℃〜+25℃の範囲が好ましく、−10℃〜0℃がより好ましい。反応温度が低すぎると、反応に使用する水溶性溶媒と水、もしくはアルコールの組み合わせによっては凝固を引き起こすおそれがある。また、反応温度が高すぎると、2−フルオロブタン自体が揮発しやすくなるので、ロス量が多くなり易い。
【0022】
反応時間は、ブロモニウムイオンを形成しうる臭素化剤の添加方法にもよるが、通常、0.5〜10時間であり、1〜5時間が好ましい。反応時間が短すぎると、反応が完結せず、ブテン類の残量が多くなり易く、反応時間が長すぎると、2−フルオロブタン自体が臭素化される等の副反応を併発し易くなる。
【0023】
反応の実施形態としては、特に制限はないが、反応器に非プロトン性極性溶媒と求核剤とを仕込み、反応器を任意の温度に冷却する。そこへ、ブテン類を含む粗2−フルオロブタンを仕込み、内容物を撹拌しながら、臭素化剤を数回に分割して添加する方法が好適である。一括添加では反応が急激に進行し、発熱を伴って内容物が突沸する危険性がある。
反応時、例えば、ガスクロマトグラフィーにて反応の進行状況を追跡し、ブテン類が残留するようであれば、臭素化剤を追加して添加してもよい。
【0024】
反応系からの2−フルオロブタンの回収方法としては、反応液から減圧下に、直接、2−フルオロブタンを回収する方法;反応液、あるいは反応液を水で希釈した溶液を、炭化水素、ハロゲン化炭化水素などの有機溶媒で抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液や亜硫酸ナトリウム水溶液、亜硫酸水素ナトリウム水溶液などの還元剤で洗浄する方法;などの一般的な方法が採用される。
これらの中でも、沸点の低い2−フルオロブタンの揮発ロス量を軽減するための設備や溶媒等の薬剤を良く冷却する必要のない、前者の方法が好ましい。
【0025】
減圧下に回収する場合、反応器に、回収用受器、トラップを設置し、それらを冷媒(ドライアイス−エタノールなど)で冷却する。通常は、系内の圧力を70kPaから徐々に下げ、40kPa程度まで減圧して2−フルオロブタンを回収する。但し、アミド系、スルホキシド系のような高沸点溶媒(150℃以上)を用いる場合には、溶媒自体が揮発しにくいため、10kPa程度まで減圧し、2−フルオロブタンの回収率を上げるのが好ましい。
【0026】
また、反応器側は蒸発潜熱による温度低下を防ぐため、30〜50℃の範囲に加温することが好ましい。非プロトン性極性溶媒の沸点が比較的低い場合は、溶媒ごと回収用受器、トラップに回収し、その後の精留で分離してもよい。
この方法によれば、場合、目的物のみを有機溶媒層に抽出することも応液で抽出し、回収した2−フルオロブタンは、更に、微量に含まれるブテン類とその他不純物を除去して純度を向上させるために、精留による精製を施してもよい。溶媒と一緒に2−フルオロブタンを回収した場合も同様に、溶媒を精留で分離する。精留時の圧力は、ゲージ圧で、通常常圧〜10気圧、好ましくは常圧〜5気圧程度である。
【0027】
還流量と抜出量の比(以下、「還流比」と言うことがある)は、ガス状態に成りやすい微量ブテン類を効率良く分離するために、還流比30:1以上に設定するのが好ましい。還流比があまりに小さいとブテン類が効率良く分離されず、2−フルオロブタンの純度が向上する効果が小さく、また、初留分が多くなってしまい、実質的に製品として回収する2−フルオロブタンの量が少なくなる。また、極端に還流比が大きすぎると、抜き出し1回当たりの回収までに多大な時間を要すために、精留そのものに多大な時間を要してしまう。製造量が少ない場合においては、精留は回分式でも良いが、製造量が多い場合においては、精留塔を数本経由させる連続式を採用しても良い。また、抽出溶剤を加えた抽出蒸留操作を組み合わせて行っても良い。
【0028】
また、後者の方法で抽出溶媒として用いる有機溶媒としては、反応液、あるいは反応液を水で希釈した溶液と2相分離する溶媒が好ましい。この方法によれば、目的物を有機溶媒層に、高沸点化合物(ブロモヒドリン体)を、反応液の層、あるいは反応液を水で希釈した溶液の層に分離することが可能である。用いる有機溶媒の具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素:ジクロロメメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「重量%」を表す。
【0030】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:HP−6890(アジレント社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後、40℃で10分間保持
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0031】
・不純物分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)
GC部分:HP−6890(アジレント社製)
カラム: ジーエルサイエンス社製 Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後、240℃で10分間保持
MS部分:アジレント社製 5973 NETWORK
検出器 EI型(加速電圧:70eV)
【0032】
[製造例1]
攪拌機、滴下ロート、捕集用トラップを付した容量1Lのガラス製反応器に、スプレードライフッ化カリウム86g(アルドリッチ社製)、2−(p−トルエンスルホニルオキシ)ブタンおよびジエチレングリコール400mlを仕込み、捕集用トラップの出口管から窒素を通気し、窒素雰囲気下に置いた。反応器をオイルバスに浸して、90℃に加熱した。滴下ロートから、2−(p−トルエンスルホニルオキシ)ブタン135gを2.5時間かけて滴下した。90℃で反応を5時間継続し、反応で生成する揮発成分をドライアイス/エタノール浴に浸した捕集用トラップに捕集した。その後、オイルバスの温度を80℃まで下げ、反応器にドライアイス−エタノール浴に浸したガラス製トラップを直列に2つ繋げた。さらに、ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、および真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を50〜45kPa、次いで、35〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分をガラストラップに回収した。最初の捕集トラップ、および2つのガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、1−ブテン5.23面積%、(E)−2−ブテン19.91面積%、(Z)−2−ブテン13.04面積%、2−フルオロブタン58.30面積%、その他不純物3.52面積%を含む混合物(22g)であった。
【0033】
[実施例1]
撹拌子、ジムロート型コンデンサーを付した容量300mlのガラス製反応器に、ジメチルスルホキシド60ml、および、水15gを入れ、0℃に冷却して内容物を撹拌した。ジムロート型コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。反応器に製造例1で得られた粗2−フルオロブタン40gを仕込み、10分間撹拌した。反応器に、N−ブロモスクシンイミド36gを20分間隔で、12gずつ、3分割して投入した。さらに1時間撹拌したのち、内容物をガスクロマトグラフィー分析した結果、1−ブテンが0.03面積%、(Z)−2−ブテンが0.01面積%、2−フルオロブタンが30.39面積%、および、その他不純物が1.11面積%検出され、高リテンション時間領域にブロモヒドリン体の生成が確認された。また、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
【0034】
[実施例2]
実施例1の反応器からジムロート型コンデンサーを外し、捕集用受器、その後にガラス製トラップ取り付けた。ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、および真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を70〜60kPa、次いで、40〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分を捕集用受器、およびガラス製トラップに回収した。捕集用受器、およびガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、98.70面積%の2−フルオロブタンが回収されており、実施例1で仕込んだ粗2−フルオロブタンに対し重量基準で、92%の回収率であった。
【0035】
[実施例3]
実施例1〜2の操作を繰り返して得られた2−フルオロブタン138gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機製、カラム長60cm、充填剤ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−10℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45から65℃まで加温した。全還流実施後、還流比30:1で留分の抜き出しを行った。抜出し開始後、約1.5時間後には、99.9面積%以上の2−フルオロブタン留分が得られるようになり、その結果、99.95面積%の2−フルオロブタンが91g得られた。留分を分析した結果、不純物として、1−ブテン、および、(Z)−2−ブテンがそれぞれ、53面積ppm、85面積ppm、また、イソブチルフルオリドが362面積ppm含まれていた。
【0036】
[実施例4]
撹拌子、ジムロート型コンデンサーを付した容量200mlのガラス製反応器に、ジエチレングリコールジメチルエーテル30ml、および、水7.6gを入れ、0℃に冷却して内容物を撹拌した。ジムロート型コンデサーには0℃の冷媒を循環させた。反応器に製造例1で得られた粗2−フルオロブタン20gを仕込み、10分間撹拌した。反応器に、N−ブロモスクシンイミド18gを20分間隔で、6gずつ、3分割して投入した。さらに1時間撹拌したのち、内容物をガスクロマトグラフィー分析した結果、1−ブテンが0.26面積%、(Z)−2−ブテンが0.10面積%、2−フルオロブタンが29.48面積%、その他不純物が2.64面積%検出され、高リテンション時間領域にブロモヒドリン体の生成が確認された。また、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
【0037】
[実施例5]
実施例4の反応器からジムロート型コンデンサーを外し、捕集用受器、その後にガラス製トラップ取り付けた。ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、および真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を70〜60kPa、次いで、50〜40kPaまで段階的に下げて、揮発成分を捕集用受器、およびガラス製トラップに回収した。捕集用受器、およびガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、96.78面積%の2−フルオロブタンが回収されており、実施例4で仕込んだ粗2−フルオロブタンに対し重量基準で、82%の回収率であった。
【0038】
[実施例6]
実施例1において、溶媒をジメチルスルホキシドからN,N−ジメチルアセトアミド60mlに変更したこと以外は実施例1と同様に反応を実施した。
内容物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、1−ブテンが0.4面積%、(Z)−2−ブテンが0.06面積%、2−フルオロブタンが29.71面積%、およびその他不純物が2.17面積%検出され、高リテンション領域にブロモヒドリン体の生成が確認された。また、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
ジムロート型コンデンサーを外し、捕集用受器、その後にガラス製トラップ取り付けた。ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、および真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を70〜60kPa、次いで、40〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分を捕集用受器、およびガラス製トラップに回収した。捕集用受器、およびガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、94.13面積%の2−フルオロブタンが回収されており、仕込んだ粗2−フルオロブタンに対し重量基準で、89%の回収率であった。
【0039】
[実施例7]
実施例1において、N−ブロモスクシンイミド36gを1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン38.9gに変更したこと、および反応温度は−20℃に変更したこと以外は実施例1と同様に反応を実施した。
内容物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、1−ブテンが0.01面積%、(Z)−2−ブテンが0.002面積%、(E)−2−ブテンが0.005面積%、2−フルオロブタンが38.33面積%、およびその他不純物が2.60面積%検出され、高リテンション時間領域にブロモヒドリン体の生成が確認された。また、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
【0040】
[実施例8]
実施例1において、水15gをメタノール27gおよび、反応温度を−10℃に変更したこと以外は実施例1と同様に反応を実施した。
内容物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、1−ブテン1.45面積%、(E)−2−ブテン1.23面積%、(Z)−2−ブテン2.85面積%残存し、2−フルオロブタンが20.98面積%、その他不純物が4.21面積%検出された。また、高リテンション時間領域に、ブロモメトキシブタン体の生成が確認され、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
【0041】
[実施例9]
撹拌子、ジムロート型コンデンサーを付した容量300mlのガラス製反応器に、ジメチルスルホキシド60ml、および、水15gを入れ、0℃に冷却して内容物を撹拌した。ジムロート型コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。反応器に製造例1で得られた粗2−フルオロブタン40gを仕込み、10分間撹拌した。反応器に、N−ブロモスクシンイミド36gを、12gずつ、20分間隔で3分割して投入した。さらに1時間撹拌したのち、内容物をガスクロマトグラフィー分析した結果、1−ブテンが0.02面積%、(Z)−2−ブテンが0.02面積%、2−フルオロブタンが30.58面積%、および、その他不純物が1.02面積%検出され、高リテンション時間領域にブロモヒドリン体の生成が確認された。また、2−フルオロブタンが臭素化された化合物の生成は認められなかった。
反応液を0℃に冷却し、n−ヘキサン10mlを添加して5分間強撹拌し、未反応ブテン類を含む2−フルオロブタンを抽出し、n−ヘキサン層を分離した。この抽出操作を2回さらに繰り返し、n−ヘキサン層を集め、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別したろ液(n−ヘキサン層)をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1−ブテン、(Z)−2−ブテン、及び2−フルオロブタンはほぼ抽出されており、ブロモヒドリン体はn−ヘキサンに抽出されず、溶媒のジメチルスルホキシドに残存することが確認された。よって、2−フルオロブタンとブロモヒドリン体を容易に分離できることが分かった。
【0042】
[比較例1]
製造例1の反応を繰り返して、1−ブテン5.43面積%、(E)−2−ブテン20.02面積%、(Z)−2−ブテン13.17面積%、2−フルオロブタン57.89面積%、その他不純物3.49面積%を含む混合物249gを実施例3で使用した同じ蒸留塔を用いて蒸留を行った。コンデンサーには−10℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、40から50℃まで加温した。還流比45:1〜30:1の間で留分の抜き出しを行った。その結果、ブテン類を留去し、留分の純度が99.0面積%以上になるまでに、11時間要した。最終的に99.12面積%の2−フルオロブタンが86g得られた。
本蒸留結果から、大量にブテン含む粗2−フルオロブタンを蒸留し、ブテン類を除去するには多大な時間を要し、工業的には生産効率の点で問題のあることが分かる。
【0043】
[比較例2]
ガス導入管、撹拌子を付した容量100mlのガラス製反応器に、1,1,2−トリフロオロトリクロロエタン30mLを仕込み、反応器をドライアイス/エタノール浴に浸し、−70℃に冷却した。反応器に製造例1で製造した粗2−フルオロブタン20gを入れ、ガス導入管から、塩素ガスをマスフローコントローラーを介して、約1時間かけて10.7g導入した。−70℃でさらに、30分間撹拌した後、内容物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、1−ブテン、(E)−2−ブテンおよび、(Z)−2−ブテンがそれぞれ2.21面積%、3.41面積%、3.09面積%残存し、2−フルオロブタンが塩素化された化合物が13.4面積%検出された。