特許第6331014号(P6331014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331014複層式陰イオン交換樹脂塔の再生方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331014
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】複層式陰イオン交換樹脂塔の再生方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20180521BHJP
   B01J 49/07 20170101ALI20180521BHJP
   B01J 49/57 20170101ALI20180521BHJP
【FI】
   C02F1/42 B
   B01J49/00 112
   B01J49/00 162
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-126532(P2014-126532)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-2540(P2016-2540A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】堀井 重希
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−075477(JP,A)
【文献】 特開平07−171422(JP,A)
【文献】 特開昭54−092585(JP,A)
【文献】 特開昭56−108588(JP,A)
【文献】 特開昭49−090639(JP,A)
【文献】 特公昭46−033926(JP,B1)
【文献】 特開平09−117680(JP,A)
【文献】 特開2014−100706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水した後に強塩基性陰イオン交換樹脂層に通水して原水中の陰イオンを除去する複層式陰イオン交換樹脂塔に対し、水酸化ナトリウム水溶液を通水して陰イオン交換樹脂を再生する方法において、
水酸化ナトリウム水溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水し、弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液のpHが設定値以上であることを確認した後に、
濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を強塩基性陰イオン交換樹脂層に通水し、強塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液を希釈水により濃度2重量%以下に希釈し、希釈された液を弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水する工程を含む再生方法であって、
濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液の温度が40〜55℃であり、かつ希釈された液の温度が30℃以下である、
再生方法
【請求項2】
pHの設定値が8〜10の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHの設定値が8〜9の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を線速度(LV)5m/hr(時間)以下で強塩基性陰イオン交換樹脂に通水する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とで構成される複層式陰イオン交換樹脂塔において、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とをつなぐ配管に、希釈水および常温の水酸化ナトリウム水溶液の供給配管を接続したことを特徴とする装置。
【請求項6】
弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液のpHを測定する手段を設けるとともに、当該pHが設定値に到達したときに請求項1記載の工程を開始するように指示する制御装置を設けたことを特徴とする請求項5記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水などの原水をイオン交換樹脂の充填層に通して、純水を製造する技術分野において、複層式の陰イオン交換樹脂塔の再生方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水などの原水より純水を製造するには、例えばイオン交換樹脂を充填した塔を備えた装置に原水を通水し、原水に含まれる種々の成分を除去する操作による。このような純水製造に用いられるイオン交換樹脂充填塔を備えた装置としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを混合して1つの塔に充填した混床塔の他、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とをそれぞれ別の塔に充填した、多床塔などがある。
【0003】
さらに、純水製造を目的として使用される陰イオン交換樹脂は、一部の強酸成分とシリカ・炭酸などの弱酸成分を原水より除去するための弱塩基性陰イオン交換樹脂と、硫酸イオン、塩化物イオンなどの強酸成分を原水より除去するための強塩基性陰イオン交換樹脂の2種類に大別される。
純水製造を目的とした陰イオン交換樹脂塔としては、強塩基性陰イオン交換樹脂のみを備えた塔を使用する単層式と、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の両方の樹脂を備えた塔を使用する複層式がある。このうち複層式の陰イオン交換樹脂塔は、被処理水(通常の場合、陽イオン交換樹脂塔を通水された後の処理水)を、まず弱塩基性陰イオン交換樹脂塔に通水し、その後に強塩基性陰イオン交換樹脂塔に通水する装置である。
【0004】
複層式の場合には、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂とをそれぞれ別々の塔に充填した2塔式(図1参照)と、同じ一つの塔に、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂とが層状になるようにした1塔式(図3参照)とがある。装置構成が簡単なことから従来は主に図3に示す1塔式による装置が採用されていた。
上記構成の純水製造装置において、原水を陽イオン交換樹脂塔、陰イオン交換樹脂塔の順に通水すると原水中のイオンが陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂により除去され、純水が得られる。
【0005】
しかしながら、純水製造装置に対し一定時間、原水の通水を継続すると、イオン交換樹脂は原水の処理量が増えるに従ってイオン除去能力を失っていく。そこで、イオン交換樹脂のイオン除去能力を回復させるために薬品で再生する必要がある。使用済みのイオン交換樹脂のイオン除去能力を回復するには、通常、陽イオン交換樹脂は塩酸、陰イオン交換樹脂は水酸化ナトリウム水溶液で再生される。
【0006】
以下、複層式の陰イオン交換樹脂塔の再生方法について説明する。
複層式の陰イオン交換樹脂塔を備えた装置による純水製造において、原水は、まず陽イオン交換樹脂塔、次いで陰イオン交換樹脂塔の順に通水することで原水中のイオンが陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂により除去され、純水が得られる。複層式の陰イオン交換樹脂塔を再生する場合、再生薬品は、強塩基性陰イオン交換樹脂層、弱塩基性陰イオン交換樹脂層の順に通水される。
【0007】
純水製造の場合とは逆に、再生薬品はまず、強塩基性陰イオン交換樹脂層に入り強塩基性陰イオン交換樹脂と接触して、強酸成分の一部とシリカ・炭酸などの弱酸成分の大部分を脱着させる。その後再生薬品は、弱塩基性陰イオン交換樹脂層に入り、弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触して、硫酸イオン、塩化物イオンなどの強酸成分を脱着させる。
弱塩基性陰イオン交換樹脂に保持された強酸成分等は再生薬品との接触により脱着しやすいことから弱塩基性陰イオン交換樹脂は再生されやすい。このため強塩基性陰イオン交換樹脂の再生処理においてイオン交換に使用されなかった再生薬品中の水酸化ナトリウムを利用して再生させることが可能である。つまり、複層式の陰イオン交換樹脂塔を再生するときは、強塩基性陰イオン交換樹脂の再生廃液が弱塩基性イオン交換樹脂塔にそのまま入り弱塩基性イオン交換樹脂の再生に使用されることになる。このように複層式では再生薬品を有効活用できるため、複層式の方が、強塩基性陰イオン交換樹脂のみを使用する単層式よりも再生薬品量が少なくて済むという特長がある。
【0008】
強塩基性陰イオン交換樹脂を再生するときは、樹脂に吸着しているシリカの脱着率を高めるために、再生薬品として40〜55℃に加温された水酸化ナトリウム水溶液(以下、「温苛性」と呼ぶことがある)を使用することが多い。このとき、強塩基性陰イオン交換樹脂の再生廃液は、その中に強塩基性陰イオン交換樹脂から脱着してきた高濃度のシリカを含むことになる。
【0009】
シリカを高濃度で含む再生廃液が弱塩基性陰イオン交換樹脂層に入り弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触すると、シリカのゲル化が発生することは周知の事実である(例えば非特許文献1参照)。これは、弱塩基性陰イオン交換樹脂がOH型に再生される代わりに、樹脂に吸着されていた硫酸イオン、塩化物イオンなどの強酸成分が脱着されるため、再生液中のpHが中性域まで急激に低下しシリカの溶解度が低下するためである。
【0010】
弱塩基性陰イオン交換樹脂層内でシリカがゲル化したとしても、シリカを含まない水酸化ナトリウム水溶液を十分な時間通液すれば、いったん生じたゲルを溶解させることができる。しかし、水酸化ナトリウム水溶液の通水量が不十分であれば、通水時における陰イオン交換樹脂塔の差圧(入口圧力と出口圧力の差)の上昇や、処理水中のNa濃度やシリカ濃度の増加といった処理水質の悪化を招くことになる。
【0011】
弱塩基性陰イオン交換樹脂層において、シリカのゲル化を防止する方法としては、次の方法が報告されているが、課題もあった。
1)再生薬品の注入初期の水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2重量%以下にし、注入後期には2重量%以上にする方法がある。例えば再生薬品中の水酸化ナトリウム水溶液の濃度を初期は1.5%とし、後期は3%とするなど、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を切り替える方法がある(例えば特許文献1参照)。
【0012】
この方法では、加温(40〜55℃)された水酸化ナトリウム水溶液を再生薬品として強塩基性陰イオン交換樹脂層に注入し、再生薬品を通した後の廃液を弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通すことになるが、廃液中のシリカが低濃度であっても、弱塩基性イオン交換樹脂層を備える塔内において、シリカのゲル化が起こる場合があった。シリカの水に対する溶解度は、たとえばASTM D4993等を参考にして概算値を得ることが可能であり、温度45℃、pH10の場合でも、シリカの溶解度は約660 mg SiO2/L程度に過ぎない。これに対し、一般的に強塩基性陰イオン交換樹脂の再生において「低濃度」とされる1重量%の水酸化ナトリウム水溶液は最大で7500mgSiO2/Lのシリカを含むことができ、このような濃度でシリカを含む再生液が弱塩基性イオン交換樹脂層に流入すれば、弱塩基性イオン交換樹脂に吸着していた硫酸イオン、塩化物イオンなどの強酸成分が脱着されるため、強塩基性イオン交換樹脂を通過した再生液のpHが中性域まで急激に低下しシリカの溶解度が低下するため、シリカのゲル化が生じることは当然といえる。
【0013】
2)再生液(水酸化ナトリウム水溶液)の温度を低温から高温へと切り替える方法がある。例えば30℃以下で再生処理を行った後、温度を上げて45℃で再生処理を行う方法である(例えば特許文献2参照)。
2)の方法では、再生の初期を低温で行うことにより、強塩基性陰イオン交換樹脂からのシリカ脱着量を減らして再生廃液におけるシリカ濃度を下げることはできる。しかしながら、この再生廃液には一定濃度のシリカが含まれていることから、強酸成分を多量に吸着している弱塩基性陰イオン交換樹脂層に流入するとpHの低下を招き、ゲル化を起こすことに変わりがなく、改善が望まれていた。
【0014】
また、低温による再生から高温による再生へと温度を切り替えるタイミングが明確でなく、低温再生時間が短かければあるいは所定時間内での高温再生時間に対する低温再生時間の割合が小さければ、弱塩基性イオン交換樹脂の再生が不十分な状態のまま強塩基性イオン樹脂からの多量のシリカの流入が起こり、ゲル化の可能性が増えることになる。これに対し、低温再生時間が長ければあるいは所定時間内での高温再生時間に対する低温再生時間の割合が大きければ、強塩基性イオン交換樹脂からシリカが十分に脱着するための時間が確保できず、採水時の処理水水質が悪化してしまいかねないという課題があった。また、低温再生時間、高温再生時間の両方を長くとることは、薬品使用量が増えてしまうという課題があった。
【0015】
3)強塩基性陰イオン交換樹脂層の再生廃液のうち、初期の再生廃液を捨て、以降の再生廃液のみ弱塩基性陰イオン交換樹脂層の再生液として利用する方法がある(例えば非特許文献1参照)。
しかしながら、3)の方法では、シリカを高濃度で含んではいるがpHが十分に高い初期の再生液をそのまま捨ててしまうことになり、再生薬品量の増大につながってしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公昭46−33926号公報
【特許文献2】特許第3150836号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ダイヤイオンマニュアル(改訂4版),78〜79頁,平成22年2月26日三菱化学株式会社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、再生薬品としての水酸化ナトリウムを効率的に使用でき、弱塩基性陰イオン交換樹脂層において原水由来のシリカが蓄積するリスクを低減できる方法および当該方法を利用した装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、従来の課題を解決すべく鋭意検討した結果、弱塩基性陰イオン交換樹脂層および強塩基性陰イオン交換樹脂層を備えた複層式陰イオン交換樹脂塔の陰イオン交換樹脂を再生するための薬品(水酸化ナトリウム水溶液)の通水方法として、強塩基性陰イオン交換樹脂層に4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を通水後、強塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した水酸化ナトリウム水溶液を2重量%以下に希釈して弱塩基性陰イオン交換樹脂に通水すること、および必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液の温度を調節し、さらには弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液のpHを基に再生工程を制御することで、課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、原水を弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水した後に強塩基性陰イオン交換樹脂層に通水して原水中の陰イオンを除去する複層式陰イオン交換樹脂塔に対し、水酸化ナトリウム水溶液を通水して陰イオン交換樹脂を再生する方法において、濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂層に通水し、強塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液を希釈水により濃度2重量%以下に希釈し、希釈された液を弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水する、再生方法に係わる発明である。再生溶液である水酸化ナトリウム水溶液の使用量を抑え、再生効率を上げるために、濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を40〜55℃で通水するとよく、さらに希釈後の温度が30℃以下になるように常温の水で希釈してから、弱塩基性陰イオン交換樹脂層に通水するとよい。
【0021】
上記再生工程の前に、濃度4重量%以下、好ましくは温度30℃以下の水酸化ナトリウム水溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂層のみに通水するとよい。この工程を設けることで、吸着した強酸成分のうちの適当な割合をあらかじめ脱着させることができ、ゲル化のリスクを大幅に低減できる。また、弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液のpHが設定値以上であることを確認しておくとよい。さらに、濃度4重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を線速度(LV)5m/hr(時間)以下で強塩基性陰イオン交換樹脂層に通水するとよい。強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着されているシリカを脱着させるためには、シリカの脱着に係る反応時間を確保する必要がある。シリカの脱着だけのことを考えれば、NaOHの濃度を下げ、LVを高くしてもよいが、その場合、水で希釈後のNaOH濃度が下がってしまい、再生廃液量が増えてしまうため、濃度4重量%以上、線速度(LV)を5m/hr(時間)以下とした。
【0022】
また本発明は、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とで構成される複層式陰イオン交換樹脂塔において、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とをつなぐ配管に、希釈水および常温の水酸化ナトリウム水溶液の供給配管を接続した装置に係わる発明である。
さらに、弱塩基性陰イオン交換樹脂を通過した液のpHを測定する手段を設けるとともに、当該pHが設定値に到達したときに上記の再生方法を開始するように指示する制御装置を設けた装置とするとよい。
【0023】
本発明の装置においては、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とは独立しており、両者が連結した配管でつないだ構造をもち、その接続配管から希釈液および再生液を流入させるよう構成されたものが好ましい。具体的には図2に示す2塔式を好適に用いることができる。なお、図3に示す弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層が1塔内に備えられた1塔式であっても、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とが独立した構成であれば好適に用いることができる。このような装置構成とすることで、樹脂混入を回避すると共に、簡易な操作で本発明の再生方法を実施することが可能となる。
【0024】
1塔式の別の装置例として、図4に示す、特開2011-072927号公報に記載の装置の変形例を挙げることができる。すなわち、特開2011-072927号公報に記載の装置では、樹脂充填層が上部と下部に区切られた装置を開示しており、上部または下部の一方に、カチオン交換樹脂充填部を、他方にアニオン交換樹脂充填部を備えたものである。本発明では、図4に示す通り、特開2011-072927号公報に記載の装置の樹脂充填部につき、カチオン交換樹脂充填部とアニオン交換樹脂充填部の代わりに、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層を備えた、陰イオン交換樹脂塔として用いる例である。従って、被処理水(原水)の通水方向の上流側の室に弱塩基性陰イオン交換樹脂を、下流側の室に強塩基性陰イオン交換樹脂を充填して用い、再生時にはその逆の流れとなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は次の効果を奏する。
(i)強塩基性陰イオン交換樹脂層を高温かつ低い線速度(LV:linear velocity)で再生することで、シリカの脱着率が増加し、通水時のシリカリーク濃度を低減することができる。
(ii)次の2つを行うことにより、樹脂再生用の薬品使用量を増やすことなく、弱塩基性イオン交換樹脂層におけるシリカのゲル化のリスクを下げることが可能である。このため、通水時の差圧上昇を防止できるとともに、処理水Na濃度を低減することができる。
a.弱塩基性陰イオン交換樹脂層のみに再生液を供給し、吸着した強酸成分のうちの適当な割合をあらかじめ脱着させること、
b.シリカを高濃度に含む強塩基性陰イオン交換樹脂の再生廃液を水と混合してシリカ濃度および温度を下げてかつ線速度(LV)を上げて、弱塩基性イオン交換樹脂に供給すること、
(iii)再生廃液の出口pHが一定値以上になるまでの間、弱塩基性陰イオン交換樹脂に常温の水酸化ナトリウム水溶液を通水するように制御することにより、(ii)a.から(ii)b.へのタイミングを自動的に決定できる。これにより、再生用の薬品を過剰に使用することなく、確実にシリカのゲル化を防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】複層式陰イオン交換樹脂塔であって、2塔式の装置構成例を示す図である。
図2】複層式陰イオン交換樹脂塔であって、2塔式の装置構成例を示す図である。
図3】複層式陰イオン交換樹脂塔であって、1塔式の装置構成例を示す図である。
図4】複層式陰イオン交換樹脂塔であって、1塔式の別の装置構成例を示す図である。
図5】別の実施態様を示す純水製造装置構成例を示す図である。
図6】比重差によりイオン交換樹脂の2層を形成した複層式陰イオン交換樹脂塔の別の装置構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図2には、左側に弱塩基性陰イオン交換樹脂塔(2)、右側に強塩基性陰イオン交換樹脂塔(3)を備えた陰イオン交換樹脂塔(1)の概略図を示す。
図2中、実線の矢印は被処理水の流れであり、被処理水はまず弱塩基性陰イオン交換樹脂塔(2)を通過し、次いで強塩基性陰イオン交換樹脂塔(3)を通過する。また、破線の矢印は再生液の流れであり、再生液(温苛性)はまず強塩基性陰イオン交換樹脂塔(3)を通過し、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂塔(2)を通過する。
【0028】
図2では左側の弱塩基性陰イオン交換樹脂塔(2)を上昇流通水・下降流再生としているが、下降流通水・上昇流再生という逆の流れとしてもよい。同様に、右側の強塩基性陰イオン交換樹脂塔(3)を下降流通水・上昇流再生としているが、上昇流通水・下降流再生としてもよい。
通水時(純水製造時)には、被処理水(陽イオン交換樹脂塔処理水または脱炭酸塔処理水)中に含まれる陰イオンおよびシリカは、弱塩基性陰イオン交換樹脂層、強塩基性陰イオン交換樹脂層を通過して除去され、純水が得られる。このうちシリカは弱塩基性陰イオン交換樹脂ではほとんど除去されず、強塩基性陰イオン交換樹脂層で除去される。
【0029】
図3には、上方に弱塩基性陰イオン交換樹脂層(22)、下方に強塩基性陰イオン交換樹脂層(23)、底部に集水板(24)を備えた陰イオン交換樹脂塔(21)の概略図を示す。
図3中、実線の矢印は被処理水の流れであり、被処理水はまず弱塩基性陰イオン交換樹脂層(22)を通過し、次いで強塩基性陰イオン交換樹脂層(23)を通過する。また、破線の矢印は再生液の流れであり、再生液(温苛性)はまず強塩基性陰イオン交換樹脂層(23)を通過し、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂層(22)を通過する。
【0030】
通水時(純水製造時)には、被処理水(陽イオン交換樹脂塔処理水または脱炭酸塔処理水)中に含まれる陰イオンおよびシリカは、図2の装置と同様に、弱塩基性陰イオン交換樹脂層(22)、強塩基性陰イオン交換樹脂層(23)を通過して除去され、純水が得られる。このうちシリカは弱塩基性陰イオン交換樹脂層(22)ではほとんど除去されず、強塩基性陰イオン交換樹脂層(23)で除去される。
【0031】
本発明では、次の方法で、陰イオン交換樹脂の再生液である薬品(水酸化ナトリウム水溶液)の供給を行う。
まず、弱塩基性陰イオン交換樹脂層のみに再生液を供給して通水する。その再生廃液は、再生初期には中性付近であるが、再生時間の経過とともにpHが次第に上昇する。再生廃液(弱塩基性陰イオン交換樹脂層を通過した液)のpHが設定値以上であることを確認したら、強塩基性陰イオン交換樹脂層の薬品再生を開始する。ここで設定値としては適宜定めることができるが、pHが8〜10の範囲の間に設定することが好ましく、さらにpHが8〜9の範囲の間に設定することが好ましい。
【0032】
強塩基性陰イオン交換樹脂の再生は、40〜55℃の水酸化ナトリウム水溶液で行うとよく、また線速度(LV)5m/hr(時間)以下で行うとよい。さらに40〜55℃の水酸化ナトリウム水溶液を用い、かつ線速度(LV)5m/hr(時間)以下で行うとよい。さらに強塩基性陰イオン交換樹脂層の再生廃液に常温の水(処理水)を加えて線速度(LV)10m/hr(時間)以上としたうえで、弱塩基性陰イオン交換樹脂に供給するとよい。
【0033】
図2の装置のように、弱塩基性陰イオン交換樹層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とを完全に分離した形として別の塔にすると、一見、装置コストが上がるという短所があるようにみえる。しかしながら、特開2011-072927号公報記載の装置を変形した本明細書の図4に示す装置構成のように、仕切板により、上方に強塩基性陰イオン交換樹の層、下方に弱塩基性陰イオン交換樹脂の層を完全に分離した形で設置する方法を採用すれば、塔の数を減らすことができ、コスト上昇にはならない。
【0034】
たとえば、原水を、弱酸性陽イオン交換樹脂層→強酸性陽イオン交換樹脂層→脱炭酸塔→弱塩基性陰イオン交換樹脂層→強塩基性陰イオン交換樹脂層の順に通水する場合、図5のように構成すれば、塔の数を減らすことができる。
ここで図5には、純水製造における通水時の装置構成と原水がイオン交換樹脂により処理される流れを図5上部の5aとして示す。5a図は、左側上方に弱塩基性陽イオン交換樹脂層(WC)、左側下方に弱塩基性陰イオン交換樹脂層(WA)、右側上方に強塩基性陽イオン交換樹脂層(SC)、右側下方に強塩基性陰イオン交換樹脂層(SA)、右端に脱炭酸塔(DC)を備えた純水製造装置の概略図を示す。
【0035】
5a図中、矢印は被処理水(原水)の流れであり、原水はまず弱塩基性陽イオン交換樹脂層(WC)を通過し、次いで強塩基性陽イオン交換樹脂層(SC)を通過して陽イオン交換樹脂により陽イオンが除去された後、原水(被処理水)を脱炭酸処理する脱炭酸塔(DC)に入る。脱炭酸処理後、被処理水は弱塩基性陰イオン交換樹脂層(WA)を通過し、次いで強塩基性陰イオン交換樹脂層(SA)を通過し処理されることとなる。
【0036】
また図5下部の5b図は、上記の5a図と同じ装置について再生液を通水する説明図である。再生時に脱炭酸塔に再生液は通水しないため図示していない。5b図中、実線矢印は陽イオン交換樹脂を再生するための2〜5重量%の塩酸(図ではHClと表示)の流れであり、破線矢印は陰イオン交換樹脂を再生するための水酸化ナトリウム水溶液(図ではNaOHと表示)の流れである。
【0037】
イオン交換樹脂の再生にあたり、塩酸はまず強塩基性陽イオン交換樹脂層(SC)を通過し、次いで弱塩基性陽イオン交換樹脂層(WC)を通過して再生廃液となる。一方、水酸化ナトリウム水溶液はまず強塩基性陰イオン交換樹脂層(SA)を通過し、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂層(WA)を通過して再生廃液となる。
また、図5のような構成にしておけば、弱型樹脂層と強型樹脂層をつなぐ配管部分(以下「つなぎ配管」という)、例えば弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とをつなぐ配管にpH計(pHを測定する手段)や電気伝導率計などのセンサを容易に設置することができ、原水の水質に変動があるような場合でも破過時間の目安が得られるというメリットもある。例えば、つなぎ配管の適切な位置に電気伝導率計を設置し、設定値以上になれば通水(すなわち純水製造)を中断して再生工程に移行する、といった制御に用いることができる。これに対し、強塩基性陰イオン交換樹脂層(SA)出口において電気伝導率の上昇を検知するよう設定しても、シリカは電気伝導率に寄与しないため、シリカの漏れ(リーク)を防止することは困難となる。
【0038】
さらに、例えば図2に示すように、弱塩基性陰イオン交換樹脂層(WA)の入口にpH計および/または電気伝導率計などのセンサを設置すると共に、装置構成上の適切な位置の配管あるいはその他の再生液が流れる設備に電子弁を設け、センサ信号が設定値に到達または設定値を超えたときに電磁弁を開閉できる制御部を設けることもできる。このような制御手段を設けることで、再生液(水酸化ナトリウム水溶液)の通液のタイミングを自動的に検出し、再生廃液に希釈水を加え、希釈された液をイオン交換樹脂塔へ自動的に通水することも可能である。
【0039】
上記の通り、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性イオン交換樹脂層とは、それぞれが完全に分離した形とすることが好ましいが、この装置構成はこの態様に特に限定されるものではなく、図6に示すように、装置に充填されるイオン交換樹脂の比重を用いて2層を形成したもの、或いは、図5に示す装置のように、各イオン交換樹脂層底部に樹脂は通過しない集水板でそれぞれを分離したものも使用することが可能である。
【0040】
以下、特公昭60-2103号公報に記載された装置の変形例である図6でイオン交換樹脂の再生方法について説明する。図6では、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂とが同一の塔内に充填されているが、これらの樹脂は比重が異なるため、弱塩基性陰イオン交換樹脂層と強塩基性陰イオン交換樹脂層とに分離してイオン交換塔に収容されている。最初に管Aから再生液を供給してイオン交換塔上部の分散管から抜き、次にイオン交換塔下部の下部コレクターから再生液を供給し、かつ管Aから水を供給して、イオン交換塔上部の分散管から抜く構成とすることで、本発明の再生方法を採用することができる。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例において、弱塩基性陰イオン交換樹脂層における「シリカ通過率」を測定した。これは、次のように定義したものである。
シリカ通過率[%]=再生廃液中のシリカ量/供給液中のシリカ量×100
再生廃液中のシリカ量=再生廃液中の平均シリカ濃度×再生廃液量
供給液中のシリカ量=供給液のシリカ濃度×供給流量×供給時間
なお、シリカ濃度は以下により分析した。
分析装置;アジレント・テクノロジー株式会社製 ICP−MS Agilent7500
分析方法はJIS K−0133に準拠して行った。
【0042】
強塩基性陰イオン交換樹脂層の再生廃液には、高濃度にシリカが含まれる。これが弱塩基性陰イオン交換樹脂層に流入したとき、シリカのゲル化が生じて樹脂層に捕捉されたならば、シリカ通過率は低下することになる。したがって、シリカ通過率は100%に近いほど好ましい。結果を以下に示す。
実施例1 弱塩基性陰イオン交換樹脂入口における温度低下の効果
φ40mmのアクリルカラム2本に、Cl型(塩素型)に調製した弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製 ダイヤイオンWA30C)を1000mm充填した。うち1本については、従来法に基づく比較例として、メタケイ酸ナトリウム水溶液(0.25mol/L)を45℃、線速度(LV)10m/hr(時間)で12min(分)通水し、その後、同じ温度の純水で水押出した。
もう1本については、本発明における実施例として、メタケイ酸ナトリウム水溶液(0.25mol/L)を25℃、線速度(LV)10m/hr(時間)で12min(分)通水し、その後同じ温度の純水で水押出した。
【0043】
シリカ通過率の測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
表1から、弱塩基性陰イオン交換樹脂にClイオンが吸着されている状態で、メタケイ酸ナトリウム水溶液を通水する場合、温度が低い方がシリカ通過率が向上することが明らかになった。温度を低下させるための簡便な方法として、常温の水で希釈することが有効である。水で希釈することにより、線速度(LV)を高め、シリカ脱着反応を促進することも期待できる。
【0045】
実施例2〜4 弱塩基性陰イオン交換樹脂の先行常温再生の効果
φ40mmのアクリルカラム3本に、Cl型に調製した弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製 ダイヤイオンWA30C)を1000mm充填した。うち1本については、本発明に基づく実施例として、2重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)を25℃、線速度(LV)10m/hr(時間)でpH8になるまで通水後、メタケイ酸ナトリウム水溶液(0.25mol/L)を25℃、線速度(LV)10m/hr(時間)で12min(分)通液し、その後、同じ温度の純水で水押出した。
残りの2本については、本発明に基づく実施例として、2重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)を25℃、線速度(LV)10m/hr(時間)でpH9、pH10になるまでそれぞれ通水後、メタケイ酸ナトリウム水溶液(0.25mol/L)を25℃、線速度(LV)10m/hr(時間)で12min(分)通水し、その後、同じ温度の純水で水押出した。
【0046】
シリカ通過率の測定結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
表2から、弱塩基性陰イオン交換樹脂だけを先行して常温再生することにより、シリカ通過率を大幅に向上させることができることが明らかになった。また表2から明らかなように、弱塩基性陰イオン交換樹脂の再生廃液pHが8以上になるまで再生することで、シリカ通過率を大幅に高めることができた。なお、pH10になるまで再生してもシリカ通過率は若干向上しただけであった。再生用の薬品使用量を最適化するという観点では、使用量が少なくてすむことから、設定pHは8〜9の範囲の間であることが特に望ましい。
【符号の説明】
【0048】
1 陰イオン交換樹脂塔
2 弱塩基性陰イオン交換樹脂塔
3 強塩基性陰イオン交換樹脂塔
4 集水板
21 陰イオン交換樹脂塔
22 弱塩基性陰イオン交換樹脂層
23 強塩基性陰イオン交換樹脂層
24 集水板
WC 弱酸性陽イオン交換樹脂層
WA 弱塩基性陰イオン交換樹脂層
SC 強酸性陽イオン交換樹脂層
SA 強塩基性陰イオン交換樹脂層
DC 脱炭酸塔
図1
図2
図3
図4
図5
図6