(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331125
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ターゲット材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20180521BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20180521BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C23C14/34 B
B22F3/15 G
B22F3/24 F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-53106(P2014-53106)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-175032(P2015-175032A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上灘 真史
(72)【発明者】
【氏名】井上 惠介
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−028536(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/154817(WO,A1)
【文献】
特開2003−328117(JP,A)
【文献】
特開2004−217990(JP,A)
【文献】
特開2000−203929(JP,A)
【文献】
特開2003−129232(JP,A)
【文献】
特開2004−284929(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0010792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B22F 3/15
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を冷間静水圧プレスで圧縮成形して圧密体を作製し、次いで前記圧密体を所定の形状寸法となるように、接合面となる面を平行に切削加工すること、および前記接合面以外の面を平坦に切削加工することで成形体とし、該成形体を加圧容器に積層挿入して脱気封止した後に熱間静水圧プレスにより加圧焼結して焼結体を得ることを特徴とするターゲット材の製造方法。
【請求項2】
前記焼結体を長手方向で複数に切断することを特徴とする請求項1に記載のターゲット材の製造方法。
【請求項3】
前記焼結体を長手方向に対する直角方向で複数に切断することを特徴とする請求項1に記載のターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大画面の平面表示装置等の電気配線や電極等に用いられる金属薄膜の形成に使用されるターゲット材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、平面表示装置の一種である液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、以下「LCD」という)の薄膜電極および薄膜配線等には、電気抵抗の小さいMo等の高融点の金属薄膜が用いられている。この金属薄膜を形成する方法として、スパッタリング法が好適とされ、ターゲット材が広く利用されている。そして、近年のLCDは、ガラス基板サイズが1500mm×1800mm以上となるような超大型化に伴い、金属薄膜を形成するためのターゲット材に対しても大型化が要求されている。
【0003】
そして、上記のような超大型のLCDに金属薄膜を形成する場合には、マルチカソード方式といわれる全長が3000mm以上の長尺型のターゲット材を並べて使用するスパッタリング装置が使用されるようになってきている。
【0004】
融点の高いMoは、溶解鋳造法による製造が困難であるため、一般に粉末焼結法によりターゲット材が作製されている。そして、一般的に、Mo原料粉末の平均粒径が10μm以下と細かく、Mo原料粉末が凝集した形態で存在しているために、加圧容器への充填密度が上がらず、加圧焼結後に変形しやすいことから、その対策が検討されてきた。
例えば、Mo原料粉末を圧縮成形した複数の圧密体を加圧容器に入れ込み、熱間静水圧プレス(以下、「HIP」という。)により、これらの複数の圧密体同士を接合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−28536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の検討によると、圧縮成形した圧密体の接合面の形状が平坦でなかったり、外周面の形状が曲がったりしていると、圧密体同士を接合したときに、得られるターゲット材に曲がりが生じる場合があることを確認した。この曲がりの問題は、ターゲット材に切削加工などを施して形状を修正する必要があり、歩留の低下につながる。
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、原料粉末を圧縮成形した圧密体を積層挿入して加圧焼結した長尺型のターゲット材で曲がりを発生させることなく、形状精度に優れたターゲット材を安定的に良好な歩留で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決する方法を種々検討した結果、先ず、原料粉末を冷間静水圧プレス(以下、「CIP」という。)で圧縮成型した圧密体を作製することを着想した。そして、この圧密体を所定形状となるように切削加工して成形体とし、該成形体を加圧容器に積層挿入して脱気封止した後にHIPにより加圧焼結することで、等方的組織である形状精度に優れた長尺型のターゲット材を容易に製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、原料粉末を冷間静水圧プレスで圧縮成形して圧密体を作製し、次いで前記圧密体を所定の形状寸法となるように切削加工して成形体とし、該成形体を加圧容器に積層挿入して脱気封止した後に熱間静水圧プレスにより加圧焼結して焼結体を得るターゲット材の製造方法の発明である。
本発明では、前記焼結体を長手方向で複数に切断することもできる。
また、本発明では、前記焼結体を長手方向に対する直角方向で複数に切断することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば全長が3000mm以上の長尺型のターゲット材を曲がりを発生させることなく、高い形状精度で、良好な歩留で安定して製造することが可能となる。また、これにより、超大型サイズのLCD基板に安定して金属薄膜を成膜することが可能なターゲット材を提供することができ、LCDの製造にとって有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の製造方法の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のターゲット材の製造方法では、まず、原料粉末をCIPで圧縮成形して圧密体を作製する。プレス成形等の一軸応力により圧縮成形して圧密体を得ようとすると、全体としての総荷重が大きくなり、設備上の制約が生じる場合がある。その上、圧密体内部での密度分布に差が生じる場合がある。
原料粉末を圧縮成形する手段としては、HIPも適用できる可能性があるところ、HIPで得た圧密体は、硬度が高くなり、後述する切削加工を湿式で行なう場合がある。このため、圧密体や切削粉に付着した油分を除去する工程と切削粉を粉砕する工程が必須となる上、加圧焼結時の圧密体同士の接合が困難になるという問題がある。
このため、本発明では、原料粉末を圧縮成形するために、等方的に成形圧力を付加でき、均一で高い相対密度の圧密体を得ることができるCIPを採用する。これにより、本発明は、次工程で積層挿入するのに好適な圧密体の形状に整えることができる。尚、CIPの条件は、圧密体のハンドリング時や後述する切削加工時に必要な十分な強度と相対密度を有する圧密体を得るために、加圧力10〜1000MPaの条件で行うことが好ましい。
本発明で適用する圧密体の相対密度は、50%以上にすることが好ましい。これは、予め圧密体の強度を増しておくことで、運搬等のハンドリングや切削加工時に圧密体の破損を防ぐためである。また、予め圧密体の密度を確保する理由は、複数の成形体に熱間静水圧プレスを施す際に、焼結における個々の成形体の収縮が過度に進み、圧縮による寸法変形で焼結体に曲がりや局所的な収縮等が生じる問題を抑制するためでもある。
【0013】
本発明で適用できる圧密体の形状は、例えば平板型のターゲット材であれば立方体あるいは直方体であり、円筒型のターゲット材であれば円筒体あるいは円柱体であり、特に限定されない。
また、本発明で適用できる原料粉末としては金属粉末が適用でき、例えばMo、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Wなどの高融点金属単体や、またはそれら複数を混合したものや合金でもよく、特に限定されない。また、本発明で適用する金属粉末の平均粒径は、特に限定はしないところ、0.5〜1000μmのものを用いることが好ましい。尚、本発明でいう平均粒径は、JIS Z 8901で規定される、レーザー光を用いた光散乱法による球相当径で表す。
【0014】
本発明のターゲット材の製造方法では、上記で得た圧密体を所定の形状寸法となるように切削加工して成形体とする。上記で説明したように、圧縮成形した圧密体などを積層して長尺のターゲット材を得ようとすると、圧縮成形した圧密体の接合面の形状が平坦でなかったり、外周面の形状が曲がったりしている場合に、圧密体を接合したときに得られるターゲット材に曲がりが生じる場合がある。
本発明では、上記で得たCIPで圧縮成形した圧密体の接合面となる面を平行に切削加工すること、および前記接合面以外の面を平坦に切削加工することで所定の形状寸法の成形体を得る。これにより、成形体を金属容器内に隙間なく整列して積層挿入することができ、得られる焼結体の長手方向の曲がりの抑制が可能となる。その結果、形状精度に優れた焼結体が得られるため、最終の切削加工における削り代を少なくすることができ、歩留向上に寄与する。
また、本発明で適用する圧密体が円筒形状の場合は、内周面も切削加工することが好ましい。
【0015】
また、本発明では、圧密体の圧縮成形にCIPを採用しているため、切削加工で発生した粉末に粉砕や洗浄などの処理を施すことなく、圧密体を作製する際の原料粉末や他の原料粉末としてそのまま再利用することが可能となり、工数の削減に加え、ターゲット材の総歩留の低下を抑制することができる。
尚、本発明で圧密体を切削加工する際は、例えば圧密体が立方体あるいは直方体である場合にはフライス盤を用いることが好ましく、圧密体が円柱もしくは円筒形状である場合には旋盤等を用いることが好ましい。
また、ハンドリングによる圧密体や成形体の破損を防ぐために、圧密体の切削加工前または成形体の焼結前に仮焼工程を設けて、圧密体や成形体の表面を硬くして形状保持力を向上させてもよい。
【0016】
次に、本発明では、上記で得た成形体を加圧容器に積層挿入して脱気封止した後にHIPにより加圧焼結して焼結体を得る。
図1に長尺のターゲット材の製造に際し、成形体に直方体を適用した場合の一例を示す。
本発明では、例えば、直方体からなる成形体1を加圧容器2に積層挿入して、脱気封止する。尚、本発明では、個々の成形体1のハンドリング性を損なわない範囲で成形体1のサイズを大きくすることで、切削工数および積層工数の削減ができるため、好ましい。
また、本発明では、加圧容器2を加熱しながら脱気パイプ3から脱気する。脱気条件は、加熱温度100〜600℃の範囲で、1kPaよりも低い圧力まで減圧を行うことが好ましい。
【0017】
次に、脱気封止した加圧容器2をHIPにより加圧焼結する。HIP条件は、焼結温度を450℃以上で原料粉末の融点未満、加圧力を30〜150MPa、HIP時間を0.5〜10時間とすることが好ましい。
加圧力が150MPaを超えると、耐え得る装置が限られるという問題がある。また、焼結時間が0.5時間未満以下では、焼結を十分に進行させるのが難しく、高密度の焼結体を得にくい。一方、10時間を超える焼結時間は、製造効率において避ける方がよい。
本発明では、温度を450℃以上、加圧力を30MPa以上とすることにより、相対密度を向上させることに加え、成形体1同士の十分な接合強度を得ることができるという効果を奏する。
また、原料粉末の融点未満の温度で焼結することにより、一体成型された焼結体の組織中で結晶粒の粗大化が抑制でき、ターゲット材としてスパッタリングする際に、異常放電等の不具合の発生を低減できるという効果も得られる。本発明では、均一微細な結晶粒および十分な接合強度を有したターゲット材を得るために、HIPの焼結温度を700〜1250℃にすることがより好ましい。
【0018】
本発明においては、複数の成形体を加圧容器に積層挿入する際に、成形体同士の間、すなわち成形体の接合される面間に、成形体と同一組成の原料粉末を介在させてもよい。相対密度が低い圧密体の表面を切削加工すると、得られる成形体の表面粗さが粗くなることがある。このような複数の成形体のみを金属カプセルに積層挿入した場合は、成形体同士の接合面に隙間が生じてしまい、このような状態でHIPをすると、その接合面の焼結が十分に進まない可能性がある。本発明では、成形体同士の間に、成形体と同一組成の原料粉末を介在させることにより、接合面の隙間を完全に除去し、成形体全体を均一に焼結することが可能となり、得られるターゲット材の形状精度をより向上させることができる。
【0019】
また、本発明においては、例えば、長手方向で複数に切断して平板状の長尺型ターゲット材とすることもできる。このとき、複数の成形体を積層方向に全長が2000mm以上となるように加圧容器内に積層して加圧焼結したのち、その焼結体を長手方向に切断すると、外周面または切断面をターゲット材のスパッタ面にすることができ、一回の加圧焼結であっても長尺で大面積のスパッタ面を有するターゲット材が複数枚得られるため、生産効率の点でも有用である。
また、ターゲット材の厚さは、スパッタリング装置によって異なるところ、殆どの場合には20mm以下である。そこで、本発明では、加圧焼結後の焼結体を長手方向に対する直角方向で複数に切断することで、一回の加圧焼結であっても平板状のターゲット材が複数枚得られるため、生産効率の点でも有用である。
【実施例】
【0020】
先ず、市販の平均粒径5μmのMo粉末をゴム製の型内に充填し、20℃で成形圧225MPaのCIP処理をして円筒型の圧密体を6個作製した。
次に、上記で得た円筒型の圧密体を、
図2に示す円筒型成形体1の寸法が外径=188mm、内径=138mm、高さ=125mmとなるように旋盤で切削加工を実施した。
次に、これらの円筒型の成形体1を1200℃の水素雰囲気で10時間の仮焼きをして、円筒型の成形体1の形状保持力を向上させた。このときの円筒型の成形体1の相対密度をアルキメデス法により測定した結果、75.0%であった。尚、本発明でいう相対密度とは、アルキメデス法により測定されたかさ密度を、成形体の組成比から得られる質量比で算出した元素単体の加重平均として得た理論密度で除した値に100を乗じて得た値をいう。
【0021】
上記で得た6個の円筒型の成形体1を、
図2に示す円筒状の加圧容器2に積層するように全数挿入して、450℃の温度下で加熱しながら脱気パイプ3から脱気して封止した。
次に、加圧容器2を温度1250℃、圧力145MPa、保持時間5時間の条件でHIP処理を施した後、機械加工により加圧容器2を除去して全長が670mmの円筒型のターゲット材を得た。
【0022】
上記で得た円筒型のターゲット材は、円筒型成形体1の破損による変形や、局所的に異常収縮した等の外観上に異常な箇所は認められず、全長での曲がりは3mm未満であり、ターゲット材として良好な形状であることが確認できた。また、円筒型の焼結体から機械加工により試験片を採取し、この焼結体の密度をアルキメデス法により測定した結果、相対密度で99.0%であった。
以上の結果から、本発明の製造方法によれば、形状精度に優れたターゲット材が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0023】
1 成形体
2 加圧容器
3 脱気パイプ