(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遠心鋳造法により形成される外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールにおいて、前記レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物の鉄基合金からなり、遠心鋳造法により形成されることを特徴とする圧延用複合ロール。
前記レスト受け部表面の少なくとも一部の化学組成が質量%で、さらに、Co:1.0〜10.0%、Ti:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜2.0%、N:0.001〜0.15%のうちいずれかの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の圧延用複合ロール。
外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、外層を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造し、外層の凝固途中あるいは凝固後、前記外層の内周面に、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯内径がDres未満となるように、且つ溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする圧延用複合ロールの製造方法。
前記レスト受け部を形成するための溶湯が、質量%で、さらに、Co:1.0〜10.0%、Ti:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜2.0%、N:0.001〜0.15%のうちいずれかの1種または2種以上を含有する請求項3または4に記載の圧延用複合ロールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ホットストリップミル用ワークロール、厚板用ワークロール、各種条鋼用ロールなどの圧延用ロールとして、耐摩耗性に優れた外層を外周に形成したロール胴部と、靭性に優れた鉄基合金の内層からなるロール軸部とを有する複合構造の遠心鋳造製圧延用複合ロール(以下、複合ロールと略す)が広く用いられている。
【0003】
複合ロールは、圧延による熱的、機械的負荷によって、外層の表層部に生じた摩耗、肌荒れ、ヒートクラックなどの損傷が発生するため、一定期間使用後は複合ロールを圧延機から外した後、これらの損傷を研削加工により除去することにより、外層を所定の形状、正常な表面状態として再び次回の圧延に供することが行なわれている。外層の表層部の損傷を研削加工除去することは一般に改削と称されている。通常、複合ロールは、初回の使用開始時点での複合ロール胴径(初径)から、圧延による摩耗および改削により消耗して、複合ロールの胴径が徐々に小さくなっていき、圧延に使用される最小のロール胴径(廃却径)に至った後、廃却されることになる。
【0004】
図1は従来の複合ロール11の概略断面図である。
図1において、複合ロール11は、遠心鋳造法により形成された耐摩耗性に優れる外層12の内面に靱性に優れたダクタイル鋳鉄からなる内層14が溶着一体化された複合構造を有している。また、複合ロール11は、軸方向中心部に外層12で形成されたロール胴部15と、ロール胴部15の両端に形成されたレスト受け部16と、その両端に形成された軸部17とを有している。ロールの改削のため、複合ロール11を圧延機から外して外層12の表層部の研削加工を行う場合、通常レスト受け部16を研削機のレスト部材18に載せて、複合ロール11を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。レスト部材18によって回転可能に支持されるレスト受け部16は、ロール回転による摩擦を受けるため耐摩耗性が要求される。
【0005】
ロール胴部15の外周に形成される外層12は、ハイス材をはじめ耐摩耗性の改善が進んでおり、ロール寿命が格段に延びている。これに伴い、ロールの初径から廃却径に至るまでの改削回数も増加している。
図1に示す従来の複合ロールのように、内層14のダクタイル鋳鉄によりレスト受け部16を形成する場合、そのショアー硬さはHs30〜50で硬さが十分とはいえず、ロール胴部15の外層12の研削加工を繰り返すうちに、ロール回転による摩擦によりレスト受け部16の摩耗量が多くなり、局部的に摩耗量が異なる偏摩耗が生じるという問題があった。このようなレスト受け部16が摩耗や偏摩耗した状態では、研削加工する際に、ロールの芯を出し難く、ロール胴部15の真円度、円筒度等の寸法精度が十分に出せないという問題があった。
【0006】
このような従来技術の問題を解消する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の圧延用複合ロールは、外周に圧延面を有する圧延部と、該圧延部の径方向内側及び圧延部より軸方向外側に位置する芯部とを備え、該芯部は、軸受により回転可能に支持される軸部を圧延部より軸方向外側に備え、軸方向において圧延部と軸部との間に位置する芯部には、ロール支持部材によって支持される環状受部を備え、該環状受部は、芯部に設けられた鍛造材若しくは圧延材からなる部材により、又は芯部に溶射された溶射部材により形成されている。特許文献1に記載の圧延用複合ロールによれば、圧延部の圧延面を研削する際、ロール支持部材によって支持される環状受部において磨耗や偏摩耗が生じるのを極力防止し、ロール圧延面の研削を行ってもロール圧延使用時において必要とされるロール真円度を維持することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の圧延用複合ロールは、レスト受け部(環状受部)の摩耗を低減する点で効果がある。しかしながら、環状部材として、外表面が表面焼入れされた鍛造材若しくは圧延材(具体的には構造用炭素鋼、構造用合金鋼、ステンレス鋼など)、または、芯部に溶射された溶射部材(具体的には超硬合金)が用いられていることから、焼き付きによる損傷に対しては十分ではなかった。また、環状受部を芯部に設けられた鍛造材若しくは圧延材からなる部材で形成する場合は、ロール本体とは別部材である環状部材を製作して、これをロール軸部(芯部)に焼嵌め、溶接、ボルト締結などの方法で嵌合する必要があるため、環状部材の製作や嵌合などの作業工数が増え、製造コストが余計に掛かるという問題があった。また、該環状受部を芯部に溶射された溶射部材(超硬合金)により形成する場合は、溶射のために特別な装置が必要となり、製造コストが余計に掛かるという問題があった。また、溶射被膜の厚みが薄く耐久性が十分でない場合があり、使用中に溶射被膜が剥離するという問題の発生することもあった。
【0009】
本発明は、前述の従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れる外層を有する複合ロールのレスト受け部の耐摩耗性を改善し、改削によるロール外層の研削回数が増加した場合であっても、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つとともに、焼嵌め、溶接、ボルト締結、溶射の作業が不要であり、低コストで製造できる圧延用複合ロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧延用複合ロールは、遠心鋳造法により形成される外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールにおいて、前記レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物の鉄基合金からなり、遠心鋳造法により形成されることを特徴とする。
【0011】
前記本発明の圧延用複合ロールにおいて、レスト受け部表面の少なくとも一部の化学組成が質量%で、さらに、Co:1.0〜10.0%、Ti:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜2.0%、N:0.001〜0.15%のうちいずれかの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0012】
第一の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、外層を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造し、外層の凝固途中あるいは凝固後、前記外層の内周面に、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯内径がDres未満となるように、且つ溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする。
【0013】
第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する遠心鋳造製圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯外径がDresを超える径となりかつ注湯内径がDres未満となるように、且つ溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする。
【0014】
前記本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、前記レスト受け部を形成するための溶湯が、質量%で、さらに、Co:1.0〜10.0%、Ti:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜2.0%、N:0.001〜0.15%のうちいずれかの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の圧延用複合ロールによれば、耐摩耗性に優れる外層を有する複合ロールのレスト受け部の耐摩耗性を改善し、改削による研削回数が増加した場合であっても、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また本発明の圧延用複合ロールの製造方法によれば、遠心鋳造技術を用いて複合ロールを製造できることから、従来技術のように別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の圧延用複合ロールの実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
図2は本発明の圧延用複合ロール1の概略断面図である。
図2において、複合ロール1は、耐摩耗性に優れた外層2を外周に形成したロール胴部5と、靭性に優れた鉄基合金の内層4からなるロール軸部7と、ロール胴部3の両端部に隣接して形成されたレスト受け部層3からなるレスト受け部6を有する。遠心鋳造法により形成された外層2の内面にレスト受け部層3が遠心鋳造法により溶着一体化され、さらに、レスト受け部層3の内面に、内層4が鋳造により溶着一体化される。レスト受け部層3のロール胴部5の両端部に隣接する領域Rで示す露出した部分にレスト受け部6が形成される。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両側のレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径である。複合ロール1を圧延機から外してロール胴部5の研削加工を行う場合、レスト受け部6を研削機のレスト部材8に載せて、複合ロール1を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。
【0019】
レスト受け部6表面の少なくとも一部は、ショアー硬さHs55以上で、化学組成が質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物の鉄基合金からなる鉄基合金からなっていることから、レスト受け部は、極めて優れる耐摩耗性を有するため、レスト受け部の摩耗による損傷を抑えることができるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。特にハイス系材料等の耐摩耗性に優れる外層を有するロール寿命が格段に延びて、改削による研削回数が増加したロールの場合に、その効果を最大限に発揮できる。また、遠心鋳造法を用いてレスト受け部を形成するため、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0020】
本発明の圧延用複合ロール1のレスト受け部6が極めて優れた耐摩耗性を有するのは、レスト受け部表面の少なくとも一部がV+Nb:6.5〜15.0%を含有する鉄基合金からなるため、V、Nbがビッカース硬さでHv2500以上の極めて高硬度のMC炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に著しく寄与するからである。MC炭化物の面積率は8〜25%であることが好ましい。レスト受け部のMC炭化物の含有量が8面積%未満では耐摩耗性が十分でない。MC炭化物の含有量が25面積%を超えるとMC炭化物が内面に濃化して健全に遠心鋳造をすることが困難となる。レスト受け部は所望の耐摩耗性を具備させるために、ショアー硬さHs55以上の硬さが必要である。より好ましいショアー硬さはHs60以上である。硬さは炭化物以外の基地組織の硬さが必要であるためであり、レスト受け部を鉄基合金としたのは強度的な理由である。
【0021】
外層2としては、耐摩耗性に優れるハイス系材料などが好ましく、前記レスト受け部表面の一部を形成する鉄基合金より、MC炭化物の面積率が高く、ショアー硬さが高いものがより好ましい。本発明の圧延用複合ロールはレスト受け部の耐摩耗性が従来技術より改善されているため、外層の長寿命化により、圧延ロールとしての更なる長寿命化が達成できるためである。内層4の鉄基合金としては、靱性に優れたダクタイル鋳鉄が好ましい。
【0022】
本発明のレスト受け部表面の少なくとも一部を形成する材質の化学組成(質量%)の限定理由について、個々の元素毎に、以下に詳しく説明する。
【0023】
C:1.0〜3.5%
Cは、V、Nb、Cr、Mo、Wと結合して高硬度の炭化物(MC、M2C、M6C、M7C3等)を生成し耐摩耗性を高める。Cが1.0%未満では、生成する炭化物の量が少ないため、十分な耐摩耗性が得られない。また、初晶温度を上昇させて鋳造性を阻害するため不都合である。Cが3.5%を超えると、Vとのバランスがくずれるため、VCが均一に分布した組織形態がくずれ、耐肌荒れ性および強靭性の点で劣るようになる。より好ましい含有量は、C:1.0〜3.0%である。
【0024】
Si:0.1〜3.0%
Siは、溶湯の脱酸と湯流れを向上させるため必要な元素である。Siが0.1%未満の場合、脱酸効果が乏しく鋳造欠陥を生じやすい。一方、3.0%を超えると靭性を劣化させるので不都合である。より好ましい含有量は、Si:0.1〜2.0%である。
【0025】
Mn:0.1〜3.0%
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、不純物であるSをMnSとして固定するのに有効である。Mnが0.1%未満の場合、この効果が乏しい。一方、3.0%を超えると残留オーステナイトが生じやすくなり、硬さを安定に維持できない。より好ましい含有量は、Mn:0.1〜2.0%である。
【0026】
Cr:3.5〜10.0%
Crは、炭化物生成のために必要な元素であり、3.5%以上含有させる。しかし、10.0%を超えるとCr系炭化物が過多となるため不都合である。Cr系炭化物の例えばM23C6は、MC、M4C3、M6C、M2Cと比べて硬さが低く、耐摩耗性を劣化させるので好ましくない。より好ましい含有量は、Cr:3.5〜8.0%である。
【0027】
Ni:0.1〜3.5%
Niは、基地組織の焼入れ性を向上させる作用がある。圧延用ロールは大型品が多く、ホットストリップミル用ワークロールでは、重さが6〜15トン程度である。したがって、熱処理を実施する場合も急冷はできないため、材質の焼き入れ性を高めておく必要がある。0.1%未満では、焼き入れ性が不十分で、冷却中パーライト変態が起こり、硬さが十分に得られない。3.5%を超えるとオーステナイトが安定化しすぎ、ベーナイトあるいはマルテンサイトに変態しにくくなる。Niのより好ましい含有量は、0.1〜3.0%である。
【0028】
Mo+0.5×W:3.0〜10.0%
MoとWは同様の効果があり、Cと結合して硬質のM6C、M2C系炭化物を生成し、かつ基地組織中に固溶して基地組織を強化するので耐摩耗性の向上に有効であり、Mo+0.5×Wとしたのは、MoはWに比べて2倍の影響力を有するからである。MoまたはWが単独で含有してもかまわない。Mo+0.5×Wは3.0%以上で効果がある。一方、10.0%を超えると、M6C系炭化物が増加して耐肌荒れ性が劣化するので好ましくない。より好ましい含有量は、Mo+0.5×W:3.0〜8.0%である。
【0029】
V+Nb:6.5〜15.0%
VとNbは、耐摩耗性の向上に最も寄与するMC系炭化物を生成し耐摩耗性を向上させる。このMC炭化物の硬さはHv2500〜3000であり、炭化物の中で最も硬い。6.5%未満ではMC炭化物が不足する。15.0%を超えると、MC炭化物が多く硬すぎてレスト受け部を加工する際に所要時間が長くなるので好ましくない。遠心鋳造する際のVの添加量に応じて、Nbの添加の要否を選択すればよい。VおよびNbの合計含有量は、6.5〜15.0%である。より好ましい含有量は、V+Nb:6.5〜10.0%である。
【0030】
B:0.01%未満
Bは含有量が多いと粒界に偏析して耐クラック性を低下しやすいので、0.01%未満に抑える。
【0031】
S:0.05%未満
Sは含有量が多いと材質を脆弱にするため、0.05%未満に抑える。
【0032】
本発明のレスト受け部の化学組成は、ロールの用途、使用特性などによっては以下の種々の成分の1種または2種以上を選択的に添加することができる。
【0033】
Co:1.0〜10.0%
Coは、基地組織の強化に有効な元素であり、1.0%以上含有で効果がある。一方、10.0%を超えると靭性を低下させる。より好ましい含有量は、Co:1.0〜5.0%である。
【0034】
Ti:0.01〜2.0%
Tiは、Vと同様にCと結合してMC系炭化物を生成し耐摩耗性を向上させる。溶湯中で酸化物を生成して、この生成した酸化物が結晶核として作用するために凝固組織が微細になる。0.01%未満ではこの効果は十分でなく2.0%を超えて含有すると介在物となって残留し好ましくない。より好ましい含有量は、Ti:0.01〜0.1%である。
【0035】
Zr:0.01〜2.0%
Zrは、Vと同様にCと結合してMC系炭化物を生成し耐摩耗性を向上させる。溶湯中で酸化物を生成して、この生成した酸化物が結晶核として作用するために凝固組織が微細になる。0.01%未満ではこの効果は十分でなく2.0%を超えて含有すると介在物となって残留し好ましくない。より好ましい含有量は、Zr:0.1〜0.5%である。
【0036】
N:0.001〜0.15%
Nは、炭化物を安定化させる作用を有する。0.15%を超えると、レスト受け部と内層との境界部に欠陥が発生し易くなる。Nの含有量は0.001〜0.15%が好ましい。より好ましい含有量は、N:0.01〜0.08%である。
【0037】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第一の本発明の製造方法)について説明する。
図6、
図7、
図8は、
図2に示す本発明の複合ロールの製造方法を説明するための遠心鋳造用金型内の概略断面図を示す。説明の便宜上、
図6における、ロール胴部5、外層2、レスト受け部6、レスト受け部層3、ロール軸部7、内層4は、鋳造中の状態を示すものでなく、
図2同様、機械加工後の最終製品における複合ロールの状態を示す。
図6において、21は遠心鋳造用金型、22は鋳型、23は砂型である。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径であり、Lmは遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さ(外層の溶湯と接触する金型21内面の軸方向長さ)である。
【0038】
図7は、
図6に示す構成の型を用いて、遠心鋳造法で形成した外層2、レスト受け部層3の内面に、内層4を注湯して形成した後の概略断面図である。
図7に示すように、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLmが、前記Ltを超える長さの遠心鋳造用金型21を用いる。そして、この遠心鋳造用金型21を回転させて金型21内に、ハイス材等の耐摩耗性に優れた外層2を形成するための溶湯を注湯し、外層2の凝固途中あるいは凝固後、外層2の内周面に、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造する。このとき、レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯内径がDres未満となるように、且つ溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯して遠心鋳造する。このようにして、遠心鋳造用金型21の内面に外層2とレスト受け部層3が形成される。レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯内径は(Dres−3mm)〜(Dres−80mm)が好ましく、(Dres−3mm)〜(Dres−70mm)がより好ましい。
【0039】
ここで、レスト受け部6を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯するのは、遠心鋳造後のレスト受け部層3に黒鉛が生成しないようにし、炭化物、とりわけMC炭化物を有効に生成させ、MC炭化物の面積率を8〜25%とするためである。
【0040】
次いで、外層2およびレスト受け部層3を内面に形成した遠心鋳造用金型21を起立させ、この遠心鋳造用金型21内に、内層4を形成するためのダクタイル鋳鉄等の鉄基合金の溶湯を注湯する。このとき、内層4の溶湯の熱量により、レスト受け部層3の内面の再溶解が多くなりすぎて、レスト受け部層3が内層4と混ざり合い、レスト受け部6の耐摩耗性に影響が出ないよう、内層4の注湯温度等を調整する。このようにして外層2とレスト受け部層3と内層4が溶着一体化した複合ロールを鋳造する。その後、外層2を外周に形成したロール胴部5は必要に応じ焼入れ等の所定の熱処理を施す。そして、ロール胴部3、レスト受け部6、ロール軸部7を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造する。レスト受け部6はレスト受け部層3のロール胴部5の両端部に隣接する部分を機械加工して露出するように削り出して製作する。なお機械加工の一部は熱処理の前に行っても構わない。本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯外径は(Dres+3mm)〜(Dres+50mm)が好ましい。レスト受け部6の表面全体がレスト受け部層3で形成されるためである。さらに好ましくは(Dres+3mm)〜(Dres+20mm)である。
【0041】
また
図7の他の形態として、
図8に示すように、内側に砂型24を設けた遠心鋳造用金型21を用いても構わない。この遠心鋳造用金型21を用いることにより、レスト受け部層3の加工代を軽減できる。
【0042】
図9は、本発明の圧延用複合ロールの製造方法を説明するための注湯状態を示す概念図である。外層2を形成するための溶湯を鋳込むとき、その注湯量は、遠心鋳造による外層2の溶湯の注湯内径Dzが、ロール外層2の廃却径2dより小さくなるようにする。廃却径2dとレスト受け部6の外径Dresの径差が小さい場合には、外層2溶湯の注湯内径Dzをレスト受け部6の外径Dresより小さくして、その後、レスト受け部材6を形成するための溶湯を鋳込み、外層2の内径面を、レスト受け部材6を形成するための溶湯の熱量によりレスト受け部6の外径Dresより大きな径まで再溶解し、この再溶解した外層2が一部混入したレスト受け部層3がレスト受け部6の表面となるようにしてもかまわない。この場合、レスト受け部6の全表面のうち、少なくとも50面積%以上がレスト受け部層3で構成されていれば、レスト受け部6の摩耗による損傷を抑えることができる。
【0043】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第一の本発明の製造方法)は、ロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計Ltが、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLm内に内包されるため、遠心鋳造時にロール胴部5、レスト受け部6となる部分を一体的に製造できる。この製造方法により、レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる鉄基合金からなるため、レスト受け部6は耐摩耗性に優れ、レスト受け部6の摩耗による損傷を抑えられるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0044】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第二の本発明の製造方法)について説明する。ロールの用途によっては、レスト受け部の材質は、圧延に用いるロール胴部の外層として用いることができる。
図3において、複合ロール9は、耐摩耗性に優れた外層2を外周に形成したロール胴部5と、靭性に優れた鉄基合金の内層4からなるロール軸部7と、ロール胴部5の両端部に隣接して形成されたレスト受け部6を有する。遠心鋳造法により形成された外層2によりレスト受け部表面が形成され、その内面に、内層4が鋳造により溶着一体化される。ロール胴部5の両端部に隣接する領域Rで示す露出した部分にレスト受け部6が形成される。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両側のレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径である。複合ロール9を圧延機から外してロール胴部5の研削加工を行う場合、レスト受け部6を
図2に示すような研削機のレスト部材8に載せて、複合ロール9を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。
【0045】
第二の本発明の製造方法は、第一の本発明の製造方法同様に、
図7において、遠心鋳造するとき、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLmが、前記Ltを超える長さの遠心鋳造用金型21を用いる。そして、この遠心鋳造用金型21を回転させて金型21内に、質量%でC:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯を注湯し遠心鋳造する。このとき、外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯の注湯外径がDresを超える径であり、かつその注湯内径がDres未満となるように注湯して遠心鋳造する。また、外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯する。このようにして、遠心鋳造用金型21の内面に外層2が形成される。
【0046】
次いで、外層2を内面に形成した遠心鋳造用金型21を起立させ、この遠心鋳造用金型21内に、内層4を形成するためのダクタイル鋳鉄等の鉄基合金の溶湯を注湯する。このようにして外層2と内層4が溶着一体化した複合ロールを鋳造する。その後、外層2を外周に形成したロール胴部5は必要に応じ焼入れ等の所定の熱処理を施す。そして、ロール胴部5、レスト受け部6、ロール軸部7を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造する。レスト受け部6は外層2の両端部を径小に機械加工して削り出して製作する。なお機械加工の一部は熱処理の前に行っても構わない。
【0047】
第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、第一の本発明の製造方法同様、ロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計Ltが、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLm内に内包されるため、遠心鋳造時にロール胴部5、レスト受け部6となる部分を一体的に製造できる。この製造方法により、レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、質量%で、C:1.0〜3.5%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:3.5〜10.0%、Ni:0.1〜3.5%、Mo+0.5×W:3.0〜10.0%、V+Nb:6.5〜15.0%、B:0.01%未満、S:0.05%未満を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる鉄基合金からなるため、レスト受け部6は耐摩耗性に優れ、レスト受け部の摩耗による損傷を抑えられるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0048】
第一及び第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、前記レスト受け部を形成する溶湯にさらにCo:1.0〜10.0%、Ti:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜2.0%、N:0.001〜0.15%のいずれかの1種または2種以上を含有することが好ましい。これらの理由については、前述のとおりである。
【0049】
図4および
図5は、本発明の他形態の複合ロールの概略断面図を示す。
【実施例】
【0050】
本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
本発明例として
図2に示すような形態の遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部寸法はφ800mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置するものである。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ850mm、軸方向内法長さLmが3200mmの金型を用いた。
【0052】
外層を形成するハイス材の溶湯(C:2.36%、Si:0.58%、Mn:0.72%、Ni:0.58%、Cr:6.33%、Mo:8.30%、V:5.81%、Nb:2.01%、B:0.005%、S:0.02%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物)を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径650mmとなるまで鋳込温度1435℃で鋳込み、その後、表1に質量%で示すレスト受け部を形成するための溶湯を遠心力が120Gで注湯内径610mmとなるまで鋳込んだ。レスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯した。レスト受け部を形成するための溶湯が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄の溶湯を鋳込み、外層、レスト受け部層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部はレスト受け部層のロール胴部の両端部に隣接する部分を機械加工して削り出して製作した。
【0053】
図1に示すような従来の複合ロールを製造する例(比較例1)として、ロール胴部寸法φ830mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置する遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ880mm、軸方向内法長さをLmが3200mmの金型を用いた。
【0054】
比較例1は、外層を形成するハイス材の溶湯(C:2.36%、Si:0.58%、Mn:0.72%、Ni:0.58%、Cr:6.33%、Mo:8.30%、V:5.81%、Nb:2.01%、B:0.005%、S:0.02%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物)を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径680mmとなるまで鋳込温度1435℃で鋳込んだ。そして、レスト受け部を形成するための溶湯を遠心鋳造時に鋳込むことなく、外層が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄の溶湯を鋳込み、外層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部は、ロール胴部の両端部に隣接する部分に、ロール軸部を機械加工して削り出して製作した。
【0055】
本発明例および比較例1の内層のダクタイル鋳鉄は、溶湯の成分で、質量%でC:3.0%、Si:2.6%、Mn:0.3%、P:0.03%、S:0.003%、Ni:1.4%、Cr:0.1%、Mo:0.2%、Mg:0.05%を含有し残部実質的にFeおよび不可避不純物からなるものを用いた。
【0056】
【表1】
【0057】
各々の複合ロールの完成後のレスト受け部から試料を切り出し、本発明例のレスト受け部の金属組織を画像解析してMC炭化物の面積率を測定した。またこれらの試料のショアー硬さを測定した。その結果を表2に示す。
【0058】
本発明例および比較例1の複合ロールにおいて、レスト受け部を研削機のレスト部材に載せて、複合ロールを回転可能に支持し、芯出しを行って研削加工テストを行った。回転速度200rpmにて24時間研削加工を行い、回転終了後のレスト受け部の摩耗量を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
比較例1のレスト受け部は内層のダクタイル鋳鉄で形成されており、MC炭化物の面積率は0%、ショアー硬さHs43であった。また、前記加工テストによるレスト受け部の摩耗量はφ0.130mmであった。
【0060】
本発明例はいずれも、レスト受け部がダクタイル鋳鉄である比較例1に比べ、前記加工テストによるレスト受け部の摩耗量が小さく耐摩耗性に優れることが確認できた。また、本発明例は、耐摩耗性に優れたレスト受け部を遠心鋳造法により形成しているため、別工程の作業が不要であり、圧延用複合ロールの製造コストを低減できる。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例2)
本発明例3として
図3に示すような形態の遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部寸法はφ800mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置するものである。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ850mm、軸方向内法長さLmが3200mmの金型を用いた。
【0063】
外層およびレスト受け部を形成するための溶湯として、前記本発明例1の溶湯を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径630mmとなるまで鋳込温度1430℃で鋳込んだ。外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種せずに注湯した。外層およびレスト受け部を形成するための溶湯が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄(前記実施例1で用いたものと同じ)の溶湯を鋳込み、外層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部は外層と同じ材質からなり、外層の両端部を径小に機械加工して削り出して製作した。
【0064】
この複合ロールを実機での圧延に用い、また研削加工を行ったところ、外層およびレスト受け部とも、耐摩耗性が良好であることが確認できた。また、レスト受け部を研削機のレスト部材に載せて、複合ロールを回転可能に支持し、芯出しを行って研削加工テストを行った。回転速度200rpmにて24時間研削加工を行い、回転終了後のレスト受け部の摩耗量を測定した。この加工テストによるレスト受け部の摩耗量はφ0.010mmであった。