(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遠心鋳造法により形成される外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールにおいて、前記レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなり、遠心鋳造法により形成されることを特徴とする圧延用複合ロール。
外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、外層を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造し、外層の凝固途中あるいは凝固後、前記外層の内周面に、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯内径がDres未満となるように、且つ下記(a)、(b)のいずれかの条件を満足するように注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする圧延用複合ロールの製造方法。
(a)レスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種する。
(b)レスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有する。
前記レスト受け部を形成するための溶湯が、さらに質量%で、W:0.1〜5.0%、Ti:0.01〜0.5%、Al:0.01〜0.5%、Zr:0.01〜0.5%、Co:0.1〜10.0%のうちの1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の圧延用複合ロールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ホットストリップミル用ワークロール、厚板用ワークロール、各種条鋼用ロールなどの圧延用ロールとして、耐摩耗性に優れた外層を外周に形成したロール胴部と、靭性に優れた鉄基合金の内層からなるロール軸部とを有する複合構造の遠心鋳造製圧延用複合ロール(以下、複合ロールと略す)が広く用いられている。
【0003】
複合ロールは、圧延による熱的、機械的負荷によって、外層の表層部に生じた摩耗、肌荒れ、ヒートクラックなどの損傷が発生するため、一定期間使用後は複合ロールを圧延機から外した後、これらの損傷を研削加工により除去することにより、外層を所定の形状、正常な表面状態として再び次回の圧延に供することが行なわれている。外層の表層部の損傷を研削加工除去することは一般に改削と称されている。通常、複合ロールは、初回の使用開始時点での複合ロール胴径(初径)から、圧延による摩耗および改削により消耗して、複合ロールの胴径が徐々に小さくなっていき、圧延に使用される最小のロール胴径(廃却径)に至った後、廃却されることになる。
【0004】
図1は従来の複合ロール11の概略断面図である。
図1において、複合ロール11は、遠心鋳造法により形成された耐摩耗性に優れる外層12の内面に靱性に優れたダクタイル鋳鉄からなる内層14が溶着一体化された複合構造を有している。また、複合ロール11は、軸方向中心部に外層12で形成されたロール胴部15と、ロール胴部15の両端に形成されたレスト受け部16と、その両端に形成された軸部17とを有している。ロールの改削のため、複合ロール11を圧延機から外して外層12の表層部の研削加工を行う場合、通常レスト受け部16を研削機のレスト部材18に載せて、複合ロール11を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。レスト部材18によって回転可能に支持されるレスト受け部16は、ロール回転による摩擦を受けるため耐摩耗性が要求される。
【0005】
ロール胴部15の外周に形成される外層12は、ハイス材をはじめ耐摩耗性の改善が進んでおり、ロール寿命が格段に延びている。これに伴い、ロールの初径から廃却径に至るまでの改削回数も増加している。
図1に示す従来の複合ロールのように、内層14のダクタイル鋳鉄によりレスト受け部16を形成する場合、そのショアー硬さはHs30〜50で硬さが十分とはいえず、ロール胴部15の外層12の研削加工を繰り返すうちに、ロール回転による摩擦によりレスト受け部16の摩耗量が多くなり、局部的に摩耗量が異なる偏摩耗が生じるという問題があった。このようなレスト受け部16が摩耗や偏摩耗した状態では、研削加工する際に、ロールの芯を出し難く、ロール胴部15の真円度、円筒度等の寸法精度が十分に出せないという問題があった。
【0006】
このような従来技術の問題を解消する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の圧延用複合ロールは、外周に圧延面を有する圧延部と、該圧延部の径方向内側及び圧延部より軸方向外側に位置する芯部とを備え、該芯部は、軸受により回転可能に支持される軸部を圧延部より軸方向外側に備え、軸方向において圧延部と軸部との間に位置する芯部には、ロール支持部材によって支持される環状受部を備え、該環状受部は、芯部に設けられた鍛造材若しくは圧延材からなる部材により、又は芯部に溶射された溶射部材により形成されている。特許文献1に記載の圧延用複合ロールによれば、圧延部の圧延面を研削する際、ロール支持部材によって支持される環状受部において磨耗や偏摩耗が生じるのを極力防止し、ロール圧延面の研削を行ってもロール圧延使用時において必要とされるロール真円度を維持することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の圧延用複合ロールは、レスト受け部(環状受部)の摩耗を低減する点で効果がある。しかしながら、環状部材として、外表面が表面焼入れされた鍛造材若しくは圧延材(具体的には構造用炭素鋼、構造用合金鋼、ステンレス鋼など)、または、芯部に溶射された溶射部材(具体的には超硬合金)が用いられていることから、焼き付きによる損傷に対しては十分ではなかった。また、環状受部を芯部に設けられた鍛造材若しくは圧延材からなる部材で形成する場合は、ロール本体とは別部材である環状部材を製作して、これをロール軸部(芯部)に焼嵌め、溶接、ボルト締結などの方法で嵌合する必要があるため、環状部材の製作や嵌合などの作業工数が増え、製造コストが余計に掛かるという問題があった。また、該環状受部を芯部に溶射された溶射部材(超硬合金)により形成する場合は、溶射のために特別な装置が必要となり、製造コストが余計に掛かるという問題があった。また、溶射被膜の厚みが薄く耐久性が十分でない場合があり、使用中に溶射被膜が剥離するという問題の発生することもあった。
【0009】
本発明は、前述の従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れる外層を有する複合ロールのレスト受け部の耐摩耗性、耐焼き付き性を改善し、改削によるロール外層の研削回数が増加した場合であっても、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つとともに、焼嵌め、溶接、ボルト締結、溶射の作業が不要であり、低コストで製造できる圧延用複合ロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧延用複合ロールは、遠心鋳造法により形成される外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールにおいて、前記レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなり、遠心鋳造法により形成されることを特徴とする。
【0011】
前記本発明の圧延用複合ロールにおいて、固体潤滑材が黒鉛であることが好ましい。
【0012】
前記本発明の圧延用複合ロールにおいて、固体潤滑材が炭ホウ化物であることが好ましい。
【0013】
前記本発明の圧延用複合ロールにおいて、固体潤滑材がMnSであることが好ましい。
【0014】
第一の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、外層を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造し、外層の凝固途中あるいは凝固後、前記外層の内周面に、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯内径がDres未満となるように、且つ下記(a)、(b)のいずれかの条件を満足するように注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする。
(a)レスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種する。
(b)レスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有する。
【0015】
第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、外層を表面に有するロール胴部と、鉄基合金の内層からなるロール軸部と、ロール胴部の両端部に隣接して形成したレスト受け部を有する圧延用複合ロールの製造方法であって、ロール胴部の軸方向長さと、レスト受け部の軸方向長さの合計をLt、レスト受け部の外径をDres、中空の遠心鋳造用金型の軸方向内法長さをLmとしたとき、Lm>Ltを満たす遠心鋳造用金型を回転させ前記金型内に、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなる外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を、その注湯外径がDresを超える径となりかつ注湯内径がDres未満となるように、且つ下記(a)、(b)のいずれかの条件を満足するように注湯して遠心鋳造した後、この遠心鋳造用金型内に内層を形成するための溶湯を注湯することを特徴とする。
(a)外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種する。
(b)外層およびレスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有する。
【0016】
前記本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、レスト受け部を形成するための溶湯が、さらに質量%でNi:0.1〜5.0%を含有することが好ましい。
【0017】
前記本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、レスト受け部を形成するための溶湯が、さらに質量%で、W:0.1〜5.0%、Ti:0.01〜0.5%、Al:0.01〜0.5%、Zr:0.01〜0.5%、Co:0.1〜10.0%のうちの1種または2種以上の元素を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧延用複合ロールによれば、耐摩耗性に優れる外層を有する複合ロールのレスト受け部の耐摩耗性、耐焼付き性を改善し、改削による研削回数が増加した場合であっても、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また本発明の圧延用複合ロールの製造方法によれば、遠心鋳造技術を用いて複合ロールを製造できることから、従来技術のように別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の圧延用複合ロールの実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0021】
図2は本発明の圧延用複合ロール1の概略断面図である。
図2において、複合ロール1は、耐摩耗性に優れた外層2を外周に形成したロール胴部5と、靭性に優れた鉄基合金の内層4からなるロール軸部7と、ロール胴部3の両端部に隣接して形成されたレスト受け部層3からなるレスト受け部6を有する。遠心鋳造法により形成された外層2の内面にレスト受け部層3が遠心鋳造法により溶着一体化され、さらに、レスト受け部層3の内面に、内層4が鋳造により溶着一体化される。レスト受け部層3のロール胴部5の両端部に隣接する領域Rで示す露出した部分にレスト受け部6が形成される。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両側のレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径である。複合ロール1を圧延機から外してロール胴部5の研削加工を行う場合、レスト受け部6を研削機のレスト部材8に載せて、複合ロール1を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。外層2としては、耐摩耗性に優れるハイス系材料などが好ましく、内層4の鉄基合金としてはダクタイル鋳鉄が好ましい。
【0022】
レスト受け部6表面の少なくとも一部は、ショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなっていることにより、レスト受け部は耐摩耗性、耐焼付き性に優れ、レスト受け部の摩耗や焼き付きによる損傷を抑えることができるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。特にハイス系材料等の耐摩耗性に優れる外層を有するロール寿命が格段に延びて、改削による研削回数が増加したロールの場合に、その効果を最大限に発揮できる。また、遠心鋳造法を用いてレスト受け部を形成するため、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0023】
ここで、レスト受け部表面の少なくとも一部の固体潤滑材は耐焼き付き性に寄与し、固体潤滑材が0.5面積%未満では耐焼き付き性の効果が乏しく、7面積%を超えると靭性が低下し強度が劣化やすくなる。より好ましい固体潤滑材の面積率は0.5〜5%である。レスト受け部表面の少なくとも一部のMC炭化物は耐摩耗性に寄与し、その含有量が3面積%未満では耐摩耗性が十分でない。MC炭化物含有量が20面積%を超えるとMC炭化物が内面に濃化して健全に遠心鋳造をすることが困難となる。より好ましいMC炭化物の面積率は3〜18%である。レスト受け部表面の少なくとも一部は所望の耐摩耗性を具備させるために、ショアー硬さHs55以上の硬さが必要である。より好ましいショアー硬さはHs60以上である。レスト受け部表面の少なくとも一部を鉄基合金としたのは強度的な理由である。
【0024】
本発明の圧延用複合ロールのレスト受け部表面の少なくとも一部に含有される固体潤滑材としては、黒鉛、炭ホウ化物、MnSが潤滑作用の観点から望ましい。炭ホウ化物としては、M2(C、B)、M6(C、B)、M7(C、B)3、M23(C、B)6、M3(C、B)などのことを言い、Mは、炭化物形成元素であり、主にFe、Mo、Cr、W、Vなどを少なくとも1種を含むものである。例えば鉄モリブデン系炭ホウ化物、鉄クロム系炭ホウ化物などである。
【0025】
本発明の圧延用複合ロールのレスト受け部表面の少なくとも一部に含有されるMC炭化物としては、V、Nbがビッカース硬さでHv2500以上の極めて高硬度のMC炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に著しく寄与するので好ましい。
【0026】
本発明の圧延用複合ロールの他の実施形態について
図3を用いて説明する。
図3において、複合ロール9は、耐摩耗性に優れた外層2を外周に形成したロール胴部5と、靭性に優れた鉄基合金の内層4からなるロール軸部7と、ロール胴部5の両端部に隣接して形成されたレスト受け部6を有する。遠心鋳造法により形成された外層2によりレスト受け部表面が形成され、その内面に、内層4が鋳造により溶着一体化される。ロール胴部5の両端部に隣接する領域Rで示す露出した部分にレスト受け部6が形成される。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両側のレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径である。複合ロール9を圧延機から外してロール胴部5の研削加工を行う場合、レスト受け部6を研削機のレスト部材8に載せて、複合ロール9を回転可能に支持し、芯出しを行って加工する。内層4の鉄基合金としてはダクタイル鋳鉄が好ましい。
【0027】
図3に示す複合ロール9において、外層2およびレスト受け部6は、ショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなっていることから、外層2が耐摩耗性と耐焼き付き性に優れるとともに、レスト受け部6も耐摩耗性、耐焼付き性に優れる。このため、レスト受け部の摩耗や焼き付きによる損傷を抑えることができるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また、遠心鋳造法を用いてレスト受け部を形成するため、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0028】
図4および
図5は、本発明の他形態の複合ロールの概略断面図を示す。
【0029】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第一の本発明の製造方法)について説明する。
図6、
図7、
図8は、
図2に示す本発明の複合ロールの製造方法を説明するための遠心鋳造用金型内の概略断面図を示す。説明の便宜上、
図6における、ロール胴部5、外層2、レスト受け部6、レスト受け部層3、ロール軸部7、内層4は、鋳造中の状態を示すものでなく、
図2同様、機械加工後の最終製品における複合ロールの状態を示す。
図6において、21は遠心鋳造用金型、22は鋳型、23は砂型である。Ltはロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計であり、Dresはレスト受け部6の外径であり、Lmは遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さ(外層の溶湯と接触する金型21内面の軸方向長さ)である。
【0030】
図7は、
図6に示す構成の型を用いて、遠心鋳造法で形成した外層2、レスト受け部層3の内面に、内層4を注湯して形成した後の概略断面図である。
図7に示すように、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLmが、前記Ltを超える長さの遠心鋳造用金型21を用いる。そして、この遠心鋳造用金型21を回転させて金型21内に、ハイス材等の耐摩耗性に優れた外層2を形成するための溶湯を注湯し、外層2の凝固途中あるいは凝固後、外層2の内周面に、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなるレスト受け部を形成するための溶湯を注湯して遠心鋳造する。このとき、レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯内径がDres未満となるように注湯して遠心鋳造する。このようにして、遠心鋳造用金型21の内面に外層2とレスト受け部層3が形成される。レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯内径は(Dres−3mm)〜(Dres−80mm)が好ましく、(Dres−3mm)〜(Dres−70mm)がより好ましい。
【0031】
なお、レスト受け部6を形成するための溶湯を下記(a)、(b)のいずれかの条件を満足するようにして注湯する。
(a)レスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種する。
(b)レスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有する。
ここで、レスト受け部6を形成するための溶湯を溶解炉から出湯後、遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種するのは、レスト受け部6に固体潤滑剤として面積率0.5〜7%の黒鉛を含有させるためであり、黒鉛化接種材としては、Ca−Si系接種材やFe−Si系接種材などが用いられる。また、レスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有するのは、レスト受け部6に固体潤滑材として面積率0.5〜7%の炭ホウ化物、MnSを含有させるためである。
【0032】
次いで、外層2およびレスト受け部層3を内面に形成した遠心鋳造用金型21を起立させ、この遠心鋳造用金型21内に、内層4を形成するためのダクタイル鋳鉄等の鉄基合金の溶湯を注湯する。このとき、内層4の溶湯の熱量により、レスト受け部層3の内面の再溶解が多くなりすぎて、レスト受け部層3が内層4と混ざり合い、レスト受け部6の耐摩耗性や耐焼付き性に影響が出ないよう、内層4の注湯温度等を調整する。このようにして外層2とレスト受け部層3と内層4が溶着一体化した複合ロールを鋳造する。その後、外層2を外周に形成したロール胴部5は必要に応じ焼入れ等の所定の熱処理を施す。そして、ロール胴部3、レスト受け部6、ロール軸部7を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造する。レスト受け部6はレスト受け部層3のロール胴部5の両端部に隣接する部分を機械加工して露出するように削り出して製作する。なお機械加工の一部は熱処理の前に行っても構わない。本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、レスト受け部6を形成するための溶湯の注湯外径は(Dres+3mm)〜(Dres+50mm)が好ましい。レスト受け部6の表面全体がレスト受け部層3で形成されるためである。さらに好ましくは(Dres+3mm)〜(Dres+20mm)である。
【0033】
また
図7の他の形態として、
図8に示すように、内側に砂型24を設けた遠心鋳造用金型21を用いても構わない。この遠心鋳造用金型21を用いることにより、レスト受け部層3の加工代を軽減できる。
【0034】
図9は、本発明の圧延用複合ロールの製造方法を説明するための注湯状態を示す概念図である。外層2を形成するための溶湯を鋳込むとき、その注湯量は、遠心鋳造による外層2の溶湯の注湯内径Dzが、ロール外層2の廃却径2dより小さくなるようにする。廃却径2dとレスト受け部6の外径Dresの径差が小さい場合には、外層2溶湯の注湯内径Dzをレスト受け部6の外径Dresより小さくして、その後、レスト受け部材6を形成するための溶湯を鋳込み、外層2の内径面を、レスト受け部材6を形成するための溶湯の熱量によりレスト受け部6の外径Dresより大きな径まで再溶解し、この再溶解した外層2が一部混入したレスト受け部層3がレスト受け部6の表面となるようにしてもかまわない。この場合、レスト受け部6の全表面のうち、少なくとも50面積%以上がレスト受け部層3で構成されていれば、レスト受け部6の摩耗や焼き付きによる損傷を抑えることができる。
【0035】
第一の本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、レスト受け部を形成するための溶湯は、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなる。本発明のレスト受け部を形成するための溶湯の化学組成(質量%)の限定理由について、個々の元素毎に、以下に詳しく説明する。
【0036】
C:1.3〜3.8%
Cは、V、Nb、Cr、Mo、Wと結合して硬質の炭化物を生成し、耐摩耗性の向上に寄与する。また、Si、Ni、Tiの黒鉛化促進元素によって金属組織中に黒鉛として晶出して耐焼付性を付与し破壊靭性値を向上させる。1.3%未満では耐摩耗性に寄与するMC等の炭化物が少なく、また、黒鉛を必要とする場合は、黒鉛の晶出が困難になる。3.8%を超えると炭化物量が過多となり靱性が低下し、欠け落ちやこれに起因する疵による凹凸が出やすくなる。Cのより好ましい含有量は、1.3〜3.6%である。
【0037】
Si:0.2〜3.5%
Siは、溶湯の脱酸効果があり酸化物の欠陥を減少するとともに、黒鉛が必要な場合は、黒鉛化を促進し耐焼き付き性をさらに向上させる効果がある。0.2%未満では脱酸効果が不足し、黒鉛化の効果も少ない。また、黒鉛化を一層促進したい場合には、溶湯を出湯から遠心鋳造するまでの間に接種の形で添加するとよい。Siは鉄基地中に優先的に固溶する元素であるが、3.5%を超えると材質が脆化する。Siのより好ましい含有量は、0.4〜3.3%である。
【0038】
Mn:0.1〜3.0%
Mnは、溶湯の脱酸や不純物であるSをMnSとして固定する効果があり、0.1%未満ではその効果が少ない。MnSは、固体潤滑剤としての作用があり、これを積極的に生かす場合、必須の元素である。3.0%を超えるとその効果は飽和するのでこれ以上の添加は不要である。Mnのより好ましい含有量は、0.2〜2.8%である。
【0039】
Cr:0.8〜7.5%
Crは、焼き入れ性を増加させ、基地をベーナイトあるいはマルテンサイトにして硬さを保持し、耐摩耗性を維持するのに有効な元素である。0.8%未満ではその効果が十分でない。7.5%を超えると、黒鉛の晶出を阻害する。Crのより好ましい含有量は、0.8〜7.0%である。
【0040】
Mo:1.5〜8.0%
Moは、Cと結合して硬質のM6C、M2C炭化物を生成し硬さを増加させるとともに、基地の焼入れ性を向上させる。1.5%未満ではその効果が少ない。8.0%を超えると、材質の靭性を劣化させる作用が大きくなり、また白銑化傾向が強くなり黒鉛の晶出を阻害する。Moのより好ましい含有量は1.5〜7.8%である。
【0041】
V:1.5〜7.5%
Vは、Cと結合して硬質のMC炭化物を生成する主要元素である。このMC炭化物の硬さはHv2500〜3000であり、炭化物の中で最も硬い。1.5%未満ではMC炭化物が不足する。7.5%を超えると、比重の軽いMC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により内面に濃化し、内層の注入後、溶融しづらく内層との健全な接合が得られない。Vのより好ましい含有量は、1.7〜7.0%である。
【0042】
Nb:0.3〜3.0%
Nbは、Cと結合してMC炭化物を生成する。Nbは、V、Moとの複合含有により、MC炭化物に固溶してMC炭化物を強化し、耐摩耗性を一層向上させる。Nbの添加で生成するMC炭化物は、Vの添加で生成するMC炭化物に比べ、溶湯密度との差が小さいため、レスト受け部を形成する溶湯を遠心力鋳造法で形成する場合、NbはMC炭化物の偏析を軽減させる。0.3%未満ではその効果が不足する。3.0%を超えると、比重の重いNbの添加で生成するMC炭化物が多くなり遠心鋳造中の遠心力により表面側に寄り偏析を発生させる。Nbのより好ましい含有量は0.3〜2.8%である。
【0043】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第一の本発明の製造方法)は、ロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計Ltが、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLm内に内包されるため、遠心鋳造時にロール胴部5、レスト受け部6となる部分を一体的に製造できる。この製造方法により、レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなるため、レスト受け部6は耐摩耗性、耐焼付き性に優れ、レスト受け部6の摩耗や焼き付きによる損傷を抑えられるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0044】
本発明の圧延用複合ロールの製造方法(第二の本発明の製造方法)について説明する。
図3はその形態を示す本発明の圧延用複合ロール9の概略断面図である。第二の本発明の製造方法は、第一の本発明の製造方法同様に、
図7において、遠心鋳造するとき、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLmが、前記Ltを超える長さの遠心鋳造用金型21を用いる。そして、この遠心鋳造用金型21を回転させて金型21内に、質量%でC:1.3〜3.8%、Si:0.2〜3.5%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.8〜7.5%、Mo:1.5〜8.0%、V:1.5〜7.5%、Nb:0.3〜3.0%を含有し、残部実質的にFeおよび不可避不純物からなる外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯を注湯し遠心鋳造する。このとき、外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯の注湯外径がDresを超える径であり、かつその注湯内径がDres未満となるように注湯して遠心鋳造する。このようにして、遠心鋳造用金型21の内面に外層2が形成される。
【0045】
なお、外層2及びレスト受け部6を形成するための溶湯を下記(a)、(b)のいずれかの条件を満足するようにして注湯する。
(a)外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種する。
(b)外層およびレスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有する。
ここで、外層2およびレスト受け部6を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種するのは、外層2およびレスト受け部6に固体潤滑材として面積率0.5〜7%の黒鉛を含有させるためであり、黒鉛化接種材としては、Ca−Si系接種材やFe−Si系接種材などが用いられる。また、外層およびレスト受け部を形成するための溶湯は、さらにB:0.01〜0.2%、S:0.05〜0.3%のいずれか1種以上を含有するのは、外層2およびレスト受け部6に固体潤滑材として面積率0.5〜7%の炭ホウ化物、MnSを含有させるためである。
【0046】
次いで、外層2を内面に形成した遠心鋳造用金型21を起立させ、この遠心鋳造用金型21内に、内層4を形成するためのダクタイル鋳鉄等の鉄基合金の溶湯を注湯する。このようにして外層2と内層4が溶着一体化した複合ロールを鋳造する。その後、外層2を外周に形成したロール胴部5は必要に応じ焼入れ等の所定の熱処理を施す。そして、ロール胴部5、レスト受け部6、ロール軸部7を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造する。レスト受け部6は外層2の両端部を径小に機械加工して削り出して製作する。なお機械加工の一部は熱処理の前に行っても構わない。
【0047】
第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、第一の本発明の製造方法同様、ロール胴部5の軸方向長さと、ロール胴部5の両端部に隣接して設けられるレスト受け部6の軸方向長さの合計Ltが、遠心鋳造用金型21の軸方向内法長さLm内に内包されるため、遠心鋳造時にロール胴部5、レスト受け部6となる部分を一体的に製造できる。この製造方法により、レスト受け部表面の少なくとも一部がショアー硬さHs55以上で、面積率で0.5〜7%の固体潤滑材および3〜20%のMC炭化物を含有する鉄基合金からなるため、レスト受け部6は耐摩耗性、耐焼付き性に優れ、レスト受け部の摩耗や焼き付きによる損傷を抑えられるので、研削加工時のロール胴部の真円度、円筒度等の寸法精度を十分に保つことができる。また、従来技術のように、別部材である環状部材を製作してロール軸部に嵌合する手間のかかる作業や、溶射作業などの別工程の作業が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0048】
第一及び第二の本発明の圧延用複合ロールの製造方法において、前記レスト受け部を形成する溶湯にさらにNiを0.1〜5.0%含有することが好ましい。Niは、黒鉛の晶出を助長する。また基地組織の焼入れ性を向上させる作用がある。圧延用ロールは大型品が多く、ホットストリップミル用ワークロールでは、重さが6〜15トン程度である。したがって、材質の焼き入れ性を高めておく必要がある。0.1%未満では、焼き入れ性が不十分で、冷却中パーライト変態が起こり、硬さが十分に得られない。5.0%を超えるとオーステナイトが安定化しすぎ、ベーナイトあるいはマルテンサイトに変態しにくくなる。Niのより好ましい含有量は、0.1〜4.9%である。
【0049】
本発明では基本的に凝固中晶出する形で固体潤滑材を生成させる。つまり、黒鉛、炭ホウ化物、MnSといった潤滑性のある物質であり、溶湯中に必要元素を添加し凝固中に晶出する形で材質に均質に分散する。これら固体潤滑材のうち、黒鉛については、前記各種元素の説明で述べたので、その他の固体潤滑材に必要な元素について以下説明する。
【0050】
B:0.01〜0.2%
炭ホウ化物は潤滑作用を持つ。潤滑効果は面積率で0.5〜7.0%必要であり、この量が得られるBの添加が必要となる。Bの含有量が0.01%未満では、十分な炭ホウ化物が確保できず、0.2%を超えると最終凝固温度が低下し、引け巣が発生しやすく、また材質的にも脆化するので好ましくない。Bのより好ましい含有量は、0.01〜0.15%である。
【0051】
S:0.05〜0.3%
Sは、通常、鉄系合金では有害元素として取り扱われ、一定量以下の含有量に制限されるが、本発明ではMnSの潤滑性に着目し、一定量添加しその潤滑効果を利用しようとするものである。MnSの潤滑効果は、面積率で0.5〜7.0%必要であり、この効果が必要な場合、Sの含有量は0.05%以上、より好ましくは0.1%以上必要となる。0.3%を超えると靭性が低下するので好ましくない。より好ましくは0.2%以下である。MnSの効果が必要ない場合には、あえて添加する必要はない。S量の添加に応じ、MnSを形成するためのMnの添加が必要であり、Sの2倍のMn添加は必須となる。
【0052】
本発明のレスト受け部を形成するための溶湯は、圧延用複合ロールの用途、使用特性などによっては以下の種々の成分の1種または2種以上を選択的に添加することができる。
【0053】
W:0.1〜5.0%
Wは、Cと結合して硬質のM6C、M2C炭化物を生成する。またMC炭化物にも固溶し、MC炭化物の比重を増加させ、偏析を軽減させる作用がある。0.1%未満ではその効果が少ない。5.0%を超えると、溶湯自体の比重を重くするため、炭化物偏析が発生しやすくなる。Wのより好ましい含有量は0.1〜4.0%である。
【0054】
Ti:0.01〜0.5%
Tiは、黒鉛化阻害元素であるNおよびOと結合し酸窒化物を形成する。これらが溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細化、均質化に効果がある。0.01%未満ではその効果が少ない。0.5%を超えると、溶湯の粘性が増加し、鋳造欠陥が発生しやすくなるので好ましくない。Tiのより好ましい含有量は0.01〜0.3%である。
【0055】
Al:0.01〜0.5%
Alは、黒鉛化阻害元素であるNおよびOと結合し酸窒化物を形成する。これらが溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細均一に晶出させる。0.01%未満ではその効果が十分でない。0.5%を超えると、材質が脆くなり機械的性質の劣化を招く、また含まれているNおよびOの量からも十分である。Alのより好ましい含有量は0.01〜0.3%である。
【0056】
Zr:0.01〜0.5%
Zrは、Cと結合してMC炭化物を生成し耐摩耗性を向上させる。溶湯中で酸化物を生成して、この生成した酸化物が結晶核として作用するために凝固組織が微細になる。またMC炭化物の比重を増加させ偏析防止に効果がある。0.01%未満ではこの効果が十分でない。0.5%を超えると介在物となって残留し好ましくない。Zrのより好ましい含有量は、0.01〜0.3%である。
【0057】
Co:0.1〜10.0%
Coは、基地組織の強化に有効な元素である。また黒鉛を晶出し易くする効果がある。0.1%未満ではその効果を期待できない。10.0%を超えると靱性を低下させる。Coのより好ましい含有量は0.1〜8.0%である。
【実施例】
【0058】
本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
本発明例として
図2に示すような形態の遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部寸法はφ800mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置するものである。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ850mm、軸方向内法長さLmが3200mmの金型を用いた。
【0060】
外層を形成するハイス材の溶湯(C:2.36%、Si:0.58%、Mn:0.72%、Ni:0.58%、Cr:6.33%、Mo:8.30%、V:5.81%、Nb:2.01%を含有し残部実質的にFeおよび不可避不純物)を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径640mmとなるまで鋳込温度1435℃で鋳込み、その後、表1に質量%で示すレスト受け部を形成するための溶湯を遠心力が120Gで注湯内径600mmとなるまで鋳込んだ。レスト受け部を形成するための溶湯が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄の溶湯を鋳込み、外層、レスト受け部層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部はレスト受け部層のロール胴部の両端部に隣接する部分を機械加工して削り出して製作した。
【0061】
本発明例1、本発明例6は、レスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種した。
【0062】
図1に示すような従来の複合ロールを製造する例(比較例1)として、ロール胴部寸法φ830mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置する遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ880mm、軸方向内法長さをLmが3200mmの金型を用いた。
【0063】
比較例1は、外層を形成するハイス材の溶湯(C:2.36%、Si:0.58%、Mn:0.72%、Ni:0.58%、Cr:6.33%、Mo:8.30%、V:5.81%、Nb:2.01%を含有し残部実質的にFeおよび不可避不純物)を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径680mmとなるまで鋳込温度1435℃で鋳込んだ。そして、レスト受け部を形成するための溶湯を遠心鋳造時に鋳込むことなく、外層が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄の溶湯を鋳込み、外層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部は、ロール胴部の両端部に隣接する部分に、ロール軸部を機械加工して削り出して製作した。
【0064】
本発明例および比較例1の内層のダクタイル鋳鉄は、溶湯の成分で、質量%でC:3.0%、Si:2.6%、Mn:0.3%、P:0.03%、S:0.003%、Ni:1.4%、Cr:0.1%、Mo:0.2%、Mg:0.05%を含有し残部実質的にFeおよび不可避不純物からなるものを用いた。
【0065】
【表1】
【0066】
各々の複合ロールの完成後のレスト受け部から試料を切り出し、本発明例のレスト受け部の金属組織を調査し、黒鉛、炭ホウ化物、MnS等の固体潤滑材の存在を確認した。試料を画像解析して組織中の固体潤滑材の材質および面積率、MC炭化物の面積率を測定した。またこれらの試料のショアー硬さを測定した。その結果を表2に示す。
【0067】
本発明例および比較例1の複合ロールにおいて、レスト受け部を研削機のレスト部材に載せて、複合ロールを回転可能に支持し、芯出しを行って研削加工テストを行った。回転速度200rpmにて24時間研削加工を行い、回転終了後のレスト受け部の摩耗量を測定した。その結果を表2に示す。
【0068】
比較例1のレスト受け部は内層のダクタイル鋳鉄で形成されており、黒鉛の面積率は7.5%、MC炭化物の面積率は0%、ショアー硬さHs43であった。また、前記加工テストによるレスト受け部の摩耗量はφ0.130mmであった。
【0069】
本発明例はいずれも、レスト受け部がダクタイル鋳鉄である比較例1に比べ、前記加工テストによるレスト受け部の摩耗量が小さく耐摩耗性に優れることが確認できた。また本発明例は、前記加工テストによるレスト受け部の焼付きによる損傷も小さく耐焼付き性が良好であることが確認できた。また、本発明例は、耐摩耗性、耐焼付き性に優れたレスト受け部を遠心鋳造法により形成しているため、別工程の作業が不要であり、圧延用複合ロールの製造コストを低減できる。
【0070】
【表2】
【0071】
(実施例2)
本発明例8として
図3に示すような形態の遠心鋳造製複合ロールの製造を行った。ロール胴部寸法はφ800mm×2400mm、ロール全長5500mm、ロール胴部の両端部に隣接し、直径がφ650mm、ロール軸方向長さが200mmのレスト受け部がロール胴部の両側に位置するものである。ロール胴部の軸方向長さと、ロール胴部の両端部に隣接して設けられるレスト受け部の軸方向長さの合計の長さLtは2800mmである。遠心鋳造用金型は、内径φ850mm、軸方向内法長さLmが3200mmの金型を用いた。
【0072】
外層およびレスト受け部を形成するための溶湯として、前記本発明例1の溶湯を遠心鋳造用金型内に遠心力が120Gで注湯内径635mmとなるまで鋳込温度1430℃で鋳込んだ。なお、外層およびレスト受け部を形成するための溶湯を溶解炉からの出湯から遠心鋳造するまでの間にSiを含む黒鉛化接種材を接種した。外層およびレスト受け部を形成するための溶湯が凝固した後、遠心鋳造の回転を止め、ロール軸部形成用の鋳型上に前記金型を起立させ、さらにその上にもう片方のロール軸部形成用の鋳型を載せ、これらを組立固定した後、内層となるダクタイル鋳鉄(前記実施例1で用いたものと同じ)の溶湯を鋳込み、外層、内層が溶着一体化した複合ロールを鋳造した。この複合ロールの外層は、1000℃からの焼入れ処理、および530℃で10時間の焼戻しを施した。そして、ロール胴部、レスト受け部、ロール軸部を製品仕上げ寸法に機械加工して複合ロールを製造した。レスト受け部は外層と同じ材質からなり、外層の両端部を径小に機械加工して削り出して製作した。
【0073】
この複合ロールを実機での圧延に用いたところ、外層およびレスト受け部とも、耐摩耗性、耐焼き付き性が良好であることが確認できた。また、レスト受け部を研削機のレスト部材に載せて、複合ロールを回転可能に支持し、芯出しを行って研削加工テストを行った。回転速度200rpmにて24時間研削加工を行い、回転終了後のレスト受け部の摩耗量を測定した。この加工テストによるレスト受け部の摩耗量はφ0.010mmであった。