【0018】
本発明の腐食低減方法は、塩素系酸化剤を含む水系にニコチン酸アミドを存在させることにより、この水系に接する銅系部材の腐食を低減する方法である。
ニコチン酸アミドは、食品の発色剤、強化剤等として用いられる食品添加物素材であり、安全性の高い薬剤である。このため、本発明によれば、ニコチン酸アミドを用いて安全性の高い水処理を行える。
水系に添加されたニコチン酸アミドは、水中の塩素系酸化剤由来の遊離塩素と反応して遊離塩素を結合塩素に変換する。結合塩素は銅系部材に対する腐食の問題がないため、塩素系酸化剤による銅系部材の腐食を低減することができる。
【0021】
本発明では、このような塩素系酸化剤を含む水系に、好ましくはニコチン酸アミドの有効成分濃度が0.1〜20mg/Lとなるように、ニコチン酸アミドを添加する。
ここで、ニコチン酸アミドの添加量が少な過ぎるとニコチン酸アミドを添加したことによる銅系部材の腐食低減効果を十分に得ることができず、一方で、ニコチン酸アミドを上記上限値よりも多く添加しても添加量に見合う効果は得られず徒に薬剤使用量が多くなり実用上好ましくない。
ニコチン酸アミドは、連続的に添加しても間欠的に添加してもよい。また、ニコチン酸アミドは、通常0.1〜5重量%程度の水溶液として添加される。
【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0028】
[銅系部材に対する腐食低減効果の確認]
<実施例1>
試験水中に試験片を浸漬して回転させることにより、試験片を腐食させる回転腐食試験装置を用いて、以下の手順で腐食試験を行った。
【0029】
(1) 1Lビーカーに水道水脱塩素水1.0Lを入れた。
(2) (1)のビーカーに、塩化ナトリウム水溶液(塩化物イオン濃度10重量%)2.5mL、硫酸ナトリウム水溶液(硫酸イオン濃度10重量%)2.5mL、及び0.1重量%ニコチン酸アミド水溶液1.5mLを添加後、水酸化ナトリウムを添加してpH8.0に調整した。この試験水のカルシウム硬度は40〜60mgCaCO
3/Lで酸消費量(pH4.8)は40〜60mgCaCO
3/Lである。また、塩化物イオン濃度は250mg/L、硫酸イオン濃度は250mg/L、全残留塩素濃度は0.5mgCl
2/L、ニコチン酸アミド濃度は3.0mg/Lである。
(3) (2)のビーカーを40℃の試験水槽に入れた。
(4) 支持棒に銅試験片(50mm×30mm×1mm)を取り付け、(3)のビーカー内の試験水に浸るように装置にセットした。銅試験片はトルエンで脱脂して予め重量を測定しておいた。
(5) (4)の支持棒を145rpmの回転速度で回転させて試験を開始した。
3日間の試験後、銅試験片を取り出して乾燥させて重量を測定し、腐食減量から腐食速度(mg/dm
2/day)を算出し、以下の比較例1における腐食速度に対する割合を百分率で求めたところ、47.5%であった。
【0030】
<比較例1>
実施例1において、試験水にニコチン酸アミド水溶液を添加しなかったこと以外は同様に腐食試験を行って腐食速度(mg/dm
2/day)を求め、この値を100%とした。
【0031】
上記の実施例1と比較例1の結果から、ニコチン酸アミドを添加することにより、銅系部材の腐食速度を1/2以下に低減することができ、ニコチン酸アミドが塩素系酸化剤を含む水系の銅系部材の腐食低減に有効であることが確認された。
【0032】
[結合塩素の生成と残留性の確認]
<実施例2>
以下の手順で、塩素系酸化剤を含む水系にニコチン酸アミドを添加した場合の結合塩素の生成と残留性を確認する試験を行った。
【0033】
(1) 500mLコニカルビーカーに超純水500mLを入れた。
(2) (1)のビーカーに炭酸水素ナトリウム水溶液(酸消費量(pH4.8)5重量%)を0.8mL添加した後、水酸化ナトリウムでpH8.0〜8.5に調整した。この試験水の全残留塩素濃度は9〜10mgCl
2/Lである。
(3) (2)の試験水を室温(20〜25℃)にてスターラーで撹拌しながら、エアを300mL/minの通気量で連続的に試験水に吹き込んだ。
(4) (3)のスターラー撹拌及びエア吹き込み開始時に、試験水に1重量%ニコチン酸アミド水溶液を1mL添加した(ニコチン酸アミド濃度20mg/L)。
(5) ニコチン酸アミド添加後の試験水中の全残留塩素濃度と結合塩素濃度をそれぞれJIS K0101に準拠した残留塩素測定法により測定し、その経時変化を
図1(a)に示した。
【0034】
<比較例2>
ニコチン酸アミドの代りにL−ロイシンを同濃度で添加したこと以外は実施例2と同様に試験を行い、全残留塩素濃度と結合塩素濃度の経時変化を
図1(b)に示した。
【0035】
図1(a),(b)より、次のことが分かる。ニコチン酸アミドを添加した実施例1では、残留塩素濃度が経時により低下する一方で、結合塩素濃度が増加し、5時間後には全残留塩素濃度と結合塩素濃度とがほぼ等しくなり、即ち、すべての残留塩素が結合塩素となって、その後次第に全残留塩素及び結合塩素濃度が低下する。即ち、系内の遊離塩素は、自己分解や揮散のために経時的に低減するが、その一部はニコチン酸アミドと反応して結合塩素となり、生成した結合塩素を20時間以上水中に維持することができる。このため、ニコチン酸アミドを添加することにより、塩素系酸化剤による抗菌、殺菌効果を維持した上で、その腐食性を低減して銅系部材の腐食を抑制することができることが分かる。
これに対して、L−ロイシンは、ニコチン酸アミドと同様、食品添加物素材として用いられるものであるが、ニコチン酸アミドのような効果はなく、全残留塩素は短時間で消失する。