特許第6331364号(P6331364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6331364-腐食低減方法及び腐食低減剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331364
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】腐食低減方法及び腐食低減剤
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/14 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   C23F11/14 101
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-250316(P2013-250316)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-108170(P2015-108170A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】村野 靖
(72)【発明者】
【氏名】永井 直宏
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−162150(JP,A)
【文献】 特開2001−228135(JP,A)
【文献】 特開2012−207291(JP,A)
【文献】 特開昭54−059655(JP,A)
【文献】 特開2012−229904(JP,A)
【文献】 特開昭50−093241(JP,A)
【文献】 特公昭52−007053(JP,B2)
【文献】 特開平07−033741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00 − 11/18
C23F 14/00 − 17/00
G01N 31/00 − 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食を低減する方法であって、該水系にニコチン酸アミドを存在させることを特徴とする腐食低減方法。
【請求項2】
請求項1において、該水系のニコチン酸アミドの有効成分濃度が0.1〜20mg/Lであることを特徴とする腐食低減方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記水系に塩素系酸化剤を添加する方法であって、該塩素系酸化剤の添加時の該水系の全残留塩素濃度が0.1〜10mgCl/Lであることを特徴とする腐食低減方法。
【請求項4】
塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食低減剤であって、ニコチン酸アミドを含むことを特徴とする腐食低減剤。
【請求項5】
銅系部材の腐食を低減するための水処理剤であって、塩素系酸化剤とニコチン酸アミドとを含むことを特徴とする水処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食を低減する腐食低減方法及び腐食低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は熱伝導性に優れる特性を有し、空調機器や熱交換器などの伝熱管などに広く使用されているが、これらの水系に接する銅系部材には腐食の問題がある。特に、最近の機器は高効率化が進んでおり、熱交換器に用いられる銅管の肉厚が非常に薄くなっていることから、腐食の発生及び進行は銅管の貫通漏洩につながる危険性が高い。よって、銅系部材に腐食を発生させないこと、発生した腐食を進行させないことが、機器の安定稼動、長寿命化に不可欠である。
【0003】
一般に、腐食反応は金属の溶出反応(アノード反応)と酸化剤の還元反応(カソード反応)が対になって進行する。例えば、冷却水のようなpH中性から弱アルカリ性の環境では、水中の溶存酸素が酸化剤としてカソード反応の担い手になる。抗菌、殺菌の目的で塩素系酸化剤の添加による塩素処理が行われている水系では、系内に酸化性の強い残留塩素が存在するために、この腐食反応がより促進される結果、銅系部材の腐食傾向が高まる。
【0004】
従来、水系に接する銅系部材の腐食を抑制するために、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールといったアゾール系の銅用防食剤を水系に添加する水処理が行われている(例えば、特許文献1,2)。これらアゾール系銅用防食剤は、腐食反応における金属の溶出反応(アノード反応)を抑制する効果に優れており、冷却水系などの水系に、これらのアゾール系銅用防食剤を添加することにより、水系に接する銅系部材に対して優れた腐食抑制効果を発揮するため、広く適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−222555号公報
【特許文献2】特開平6−212459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水系の銅系部材の腐食抑制のための薬剤に限らず、水処理薬剤には、処理対象となる水系の安全性や、作業環境の維持などの面から、より安全性の高い薬剤であることが望まれる。特に、食品工場のように安全性が重視される施設の冷却水系にあっては、より安全性の高い水処理薬剤が望まれる。
【0007】
本発明は、従来のアゾール系銅用防食剤に比べて安全性の高い薬剤を用いて、塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食を効果的に低減する腐食低減方法及び腐食低減剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、食品添加物素材であるニコチン酸アミドが、塩素処理を行っている水系の銅系部材の腐食の低減に有効であることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食を低減する方法であって、該水系にニコチン酸アミドを存在させることを特徴とする腐食低減方法。
【0011】
[2] [1]において、該水系のニコチン酸アミドの有効成分濃度が0.1〜20mg/Lであることを特徴とする腐食低減方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記水系に塩素系酸化剤を添加する方法であって、該塩素系酸化剤の添加時の該水系の全残留塩素濃度が0.1〜10mgCl/Lであることを特徴とする腐食低減方法。
【0013】
[4] 塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食低減剤であって、ニコチン酸アミドを含むことを特徴とする腐食低減剤。
【0014】
[5] 銅系部材の腐食を低減するための水処理剤であって、塩素系酸化剤とニコチン酸アミドとを含むことを特徴とする水処理剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塩素系酸化剤を含む水系に接する銅系部材の腐食の進行を、食品添加物素材のニコチン酸アミドを用いて効果的に抑制することができ、安全性の高い水処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a),(b)はそれぞれ実施例2及び比較例2における全残留塩素濃度と結合塩素濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の腐食低減方法は、塩素系酸化剤を含む水系にニコチン酸アミドを存在させることにより、この水系に接する銅系部材の腐食を低減する方法である。
ニコチン酸アミドは、食品の発色剤、強化剤等として用いられる食品添加物素材であり、安全性の高い薬剤である。このため、本発明によれば、ニコチン酸アミドを用いて安全性の高い水処理を行える。
水系に添加されたニコチン酸アミドは、水中の塩素系酸化剤由来の遊離塩素と反応して遊離塩素を結合塩素に変換する。結合塩素は銅系部材に対する腐食の問題がないため、塩素系酸化剤による銅系部材の腐食を低減することができる。
【0019】
本発明において、水系に添加されて、当該水系に含まれる塩素系酸化剤とは、従来、水系の抗菌、殺菌処理に一般的に用いられているものであり、例えば、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸塩、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸カルシウムなどの塩素酸塩、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カルシウムなどの過塩素酸塩などを挙げることができる。これらの中で、次亜塩素酸塩は適度の酸化性を有するので、好適に使用することができる。
【0020】
水系への塩素系酸化剤の添加量は、通常、当該水系の全残留塩素濃度が0.1〜10mgCl/L、特に0.2〜1.0mgCl/Lとなるように添加される。なお、「mgCl/L」とは、塩素系酸化剤を塩素に換算して示される水中の残留塩素濃度である。
【0021】
本発明では、このような塩素系酸化剤を含む水系に、好ましくはニコチン酸アミドの有効成分濃度が0.1〜20mg/Lとなるように、ニコチン酸アミドを添加する。
ここで、ニコチン酸アミドの添加量が少な過ぎるとニコチン酸アミドを添加したことによる銅系部材の腐食低減効果を十分に得ることができず、一方で、ニコチン酸アミドを上記上限値よりも多く添加しても添加量に見合う効果は得られず徒に薬剤使用量が多くなり実用上好ましくない。
ニコチン酸アミドは、連続的に添加しても間欠的に添加してもよい。また、ニコチン酸アミドは、通常0.1〜5重量%程度の水溶液として添加される。
【0022】
本発明で処理対象とする水系としては、開放循環冷却水系、スクラバー水系などが挙げられる。これらの水系の残留塩素濃度以外の水質としては、通常、カルシウム硬度30〜500mgCaCO/L、酸消費量(pH4.8)30〜500mgCaCO/L、pH7.0〜9.0である。
【0023】
本発明の腐食低減剤は、このような水系であって、塩素系酸化剤による塩素処理が行われている水系の銅系部材の腐食を低減するための腐食低減剤であり、ニコチン酸アミドを含むものである。本発明の腐食低減剤は、場合によりニコチン酸アミドと共に他の水処理剤、例えばスケール防止剤、抗菌剤、殺菌剤、防食剤、分散剤、剥離剤、消泡剤、界面活性剤、キレート剤などを含むものであってもよい。
【0024】
本発明の水処理剤は、塩素系酸化剤とニコチン酸アミドとを含むものであり、本発明の水処理剤によれば、塩素系酸化剤による塩素処理と、ニコチン酸アミドによる銅系部材の腐食低減処理とを同時に行うことができる。ここで、塩素系酸化剤としては、本発明に係る水系に添加される塩素系酸化剤として前述したものが挙げられる。
【0025】
塩素系酸化剤とニコチン酸アミドとは別々に供給されるものであってもよく、予め一剤化されたものであってもよい。本発明の水処理剤は、ニコチン酸アミドと塩素系酸化剤とは、どのような割合で含まれていてもよいが、通常塩素系酸化剤:ニコチン酸アミド=1:1〜5(重量比)で含まれることが好ましい。
【0026】
この本発明の水処理剤についても、ニコチン酸アミドと塩素系酸化剤以外に、前述の他の水処理剤が含まれていてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0028】
[銅系部材に対する腐食低減効果の確認]
<実施例1>
試験水中に試験片を浸漬して回転させることにより、試験片を腐食させる回転腐食試験装置を用いて、以下の手順で腐食試験を行った。
【0029】
(1) 1Lビーカーに水道水脱塩素水1.0Lを入れた。
(2) (1)のビーカーに、塩化ナトリウム水溶液(塩化物イオン濃度10重量%)2.5mL、硫酸ナトリウム水溶液(硫酸イオン濃度10重量%)2.5mL、及び0.1重量%ニコチン酸アミド水溶液1.5mLを添加後、水酸化ナトリウムを添加してpH8.0に調整した。この試験水のカルシウム硬度は40〜60mgCaCO/Lで酸消費量(pH4.8)は40〜60mgCaCO/Lである。また、塩化物イオン濃度は250mg/L、硫酸イオン濃度は250mg/L、全残留塩素濃度は0.5mgCl/L、ニコチン酸アミド濃度は3.0mg/Lである。
(3) (2)のビーカーを40℃の試験水槽に入れた。
(4) 支持棒に銅試験片(50mm×30mm×1mm)を取り付け、(3)のビーカー内の試験水に浸るように装置にセットした。銅試験片はトルエンで脱脂して予め重量を測定しておいた。
(5) (4)の支持棒を145rpmの回転速度で回転させて試験を開始した。
3日間の試験後、銅試験片を取り出して乾燥させて重量を測定し、腐食減量から腐食速度(mg/dm/day)を算出し、以下の比較例1における腐食速度に対する割合を百分率で求めたところ、47.5%であった。
【0030】
<比較例1>
実施例1において、試験水にニコチン酸アミド水溶液を添加しなかったこと以外は同様に腐食試験を行って腐食速度(mg/dm/day)を求め、この値を100%とした。
【0031】
上記の実施例1と比較例1の結果から、ニコチン酸アミドを添加することにより、銅系部材の腐食速度を1/2以下に低減することができ、ニコチン酸アミドが塩素系酸化剤を含む水系の銅系部材の腐食低減に有効であることが確認された。
【0032】
[結合塩素の生成と残留性の確認]
<実施例2>
以下の手順で、塩素系酸化剤を含む水系にニコチン酸アミドを添加した場合の結合塩素の生成と残留性を確認する試験を行った。
【0033】
(1) 500mLコニカルビーカーに超純水500mLを入れた。
(2) (1)のビーカーに炭酸水素ナトリウム水溶液(酸消費量(pH4.8)5重量%)を0.8mL添加した後、水酸化ナトリウムでpH8.0〜8.5に調整した。この試験水の全残留塩素濃度は9〜10mgCl/Lである。
(3) (2)の試験水を室温(20〜25℃)にてスターラーで撹拌しながら、エアを300mL/minの通気量で連続的に試験水に吹き込んだ。
(4) (3)のスターラー撹拌及びエア吹き込み開始時に、試験水に1重量%ニコチン酸アミド水溶液を1mL添加した(ニコチン酸アミド濃度20mg/L)。
(5) ニコチン酸アミド添加後の試験水中の全残留塩素濃度と結合塩素濃度をそれぞれJIS K0101に準拠した残留塩素測定法により測定し、その経時変化を図1(a)に示した。
【0034】
<比較例2>
ニコチン酸アミドの代りにL−ロイシンを同濃度で添加したこと以外は実施例2と同様に試験を行い、全残留塩素濃度と結合塩素濃度の経時変化を図1(b)に示した。
【0035】
図1(a),(b)より、次のことが分かる。ニコチン酸アミドを添加した実施例1では、残留塩素濃度が経時により低下する一方で、結合塩素濃度が増加し、5時間後には全残留塩素濃度と結合塩素濃度とがほぼ等しくなり、即ち、すべての残留塩素が結合塩素となって、その後次第に全残留塩素及び結合塩素濃度が低下する。即ち、系内の遊離塩素は、自己分解や揮散のために経時的に低減するが、その一部はニコチン酸アミドと反応して結合塩素となり、生成した結合塩素を20時間以上水中に維持することができる。このため、ニコチン酸アミドを添加することにより、塩素系酸化剤による抗菌、殺菌効果を維持した上で、その腐食性を低減して銅系部材の腐食を抑制することができることが分かる。
これに対して、L−ロイシンは、ニコチン酸アミドと同様、食品添加物素材として用いられるものであるが、ニコチン酸アミドのような効果はなく、全残留塩素は短時間で消失する。
図1