特許第6331500号(P6331500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331500
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20180521BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180521BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20180521BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/00
   C08G59/06
   H01L23/36 M
   H05K7/20 F
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-45383(P2014-45383)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-196488(P2014-196488A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-46772(P2013-46772)
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
(72)【発明者】
【氏名】住谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】日下 晴彦
【審査官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−077338(JP,A)
【文献】 特開2009−203416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(式1)で表されるエポキシ樹脂、および25℃における熱伝導率が10W/m・
K以上である絶縁性充填剤を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(上記式中、R12はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基
、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置
換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を
有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有し
ていてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、R
12のうち少なくとも一つは水素原子ではなく、R3は水素原子である。)
【請求項2】
前記絶縁性充填剤が、アルミナ、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素から選ばれる少な
くとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(式1)に記載のエポキシ樹脂を、エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂の
総量に対して40質量%以上含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のエポキシ樹
脂組成物。
【請求項4】
前記絶縁性充填剤の配合割合がエポキシ樹脂組成物中の全固形分の10〜95質量%で
あることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載されたエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物を用いた放熱材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型加工性に優れ、かつ高熱伝導性の硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物および、この樹脂組成物を硬化させてなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物(以下、樹脂硬化物と呼称することがある)は、耐熱性、接着性、耐水性、機械的強度および電気的特性に優れていることから、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野で使用されている。特に、電気・電子分野では、絶縁注型、積層材料、封止材料等において幅広く使用されている。近年、電気・電子機器に使用される多層回路基板は、機器の小型化、軽量化および高機能化が進んでおり、更なる多層化、高密度化、薄型化、軽量化と、信頼性および成形加工性の向上等が要求されている。これに伴い、用いられる材料の耐熱性および放熱性が問題になっている。
【0003】
樹脂硬化物の放熱性を向上させる方法としては、樹脂硬化物の熱伝導率を向上する方法が一般に知られており、樹脂硬化物の熱伝導率を向上させる方法としては熱伝導率の高い充填剤をエポキシ樹脂組成物の構成成分として用いる方法がある。しかしながら、近年では樹脂硬化物にさらなる放熱性が求められているため、充填剤に加えてエポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂にも樹脂硬化物の熱伝導率を上げる効果を有することが求められるようになってきた。一方で、エポキシ樹脂組成物には成型や塗布などの加工が容易であることが必須であり、構成成分であるエポキシ樹脂は低粘度かつ低融点であることが求められている。
【0004】
樹脂硬化物の熱伝導率を向上するためには、エポキシ樹脂に配向性を有する部分構造をもつものを用いることが有効であることが知られている。その中でも、一般に用いられているものにビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂がある。
例えば、特許文献1および2には、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルを用いたエポキシ樹脂組成物や3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルと4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの1:1混合物を用いたエポキシ樹脂組成物からなる放熱材料が開示されている。また、非特許文献1には4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルを用いたエポキシ樹脂組成物の熱伝導率測定結果が開示されている。
一方で、特許文献3には、3,3’−ジアルキル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルを用いたエポキシ樹脂組成物からなる、耐熱性に優れた半導体封止材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−203261号公報
【特許文献2】国際公開第2012/2546号パンフレット
【特許文献3】特開平5−311048号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,89(2003),2464−2467頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者等が詳細に検討した結果、特許文献1〜2に記載されている3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルは粘度が高く、かつこれを用いた樹脂硬化物の熱伝導率が十分ではないことが判明した。また、4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルは融点が高く、加工や硬化の条件が極めて限定され実用に供さないことが判明した。さらに、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルと4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの1:1混合物も融点および粘度が高く、またこれを用いた樹脂硬化物の熱伝導率が十分でないことが判明した。
また、特許文献3には、3,3’−ジアルキル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルを用いたエポキシ樹脂組成物を半導体封止材料として用いることが記載されているものの、放熱材料として用いることについて記載も示唆もされておらず、熱伝導率の評価もなされていない。
以上から、樹脂硬化物とした場合に十分な熱伝導率を与え、かつ加工容易なエポキシ樹脂組成物がないという課題が見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、ビフェニル骨格の特定の位置に置換基を有するエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が本課題を解決しうることを見出し、本発明に至った。すなわち、本課題を解決する本発明の態様は、下記[1]〜[5]に存する。
【0009】
[1]下記(式1)で表されるエポキシ樹脂および、25℃における熱伝導率が10W/m・K以上である絶縁性充填剤を少なくとも含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
(上記式中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、R1〜R3のうち少なくとも一つは水素原子ではない。)
【0012】
[2] 前記絶縁性充填剤が、アルミナ、窒化アルミニウム又は窒化ホウ素であることを特徴とする、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3] 前記(式1)で表されるエポキシ樹脂を、エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂の総量に対して40質量%以上含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4] 前記絶縁性充填剤の含量がエポキシ樹脂組成物全体の10〜95質量%であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載されたエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
[6] [5]に記載の硬化物を用いた放熱材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形・加工容易でかつ硬化した場合に十分な耐熱性及び熱伝導率の硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
また、本発明においてエポキシ樹脂組成物とは、硬化物とした際に該硬化物中に含まれる有機物および無機物の原料となる、エポキシ樹脂を含む混合物の総体を意味し、エポキシ樹脂とは官能基としてエポキシ基を含む化合物の単体もしくは混合物を意味する。
なお、後述する(式1)を満足するエポキシ樹脂を、本発明のエポキシ樹脂と略記する場合がある。
また「全固形分」とは、後述する溶媒成分以外のエポキシ樹脂組成物の全成分を意味するものとする。
【0015】
[エポキシ樹脂]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記(式1)で表されるエポキシ樹脂、および25℃における熱伝導率が10W/m・K以上の絶縁性充填剤を少なくとも含むことを特徴とする。
【0016】
【化2】
【0017】
上記式中、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、R1〜R3のうち少なくとも一つは水素原子ではない。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂は、ビフェニル骨格への置換位置を制限することで、分子の対称性が下がり、かつ分子量を低く保つことができ、その結果、低融点かつ低粘度とすることができると考えられる。また、置換位置を制限したことにより、置換基によるビフェニル骨格の配向性阻害効果を小さくでき、樹脂硬化物とした場合にビフェニル骨格の運動性が低下するため、高耐熱性および高熱伝導率を与えることができると考えられる。
そのため、本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物は、優れた加工性を有すると共に、硬化物にした場合、高耐熱性および高熱伝導率を両立することができる。
【0019】
前記置換基を有していてもよいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのヘテロ原子で置換されていないアルキル基や、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、アセチルオキシメチル基、メトキシエチル、トリフルオロメチル基などのヘテロ原子で置換されたアルキル基などが挙げられ、好ましくは炭素数4以下のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基が挙げられる。
【0020】
前記置換基を有していてもよいアルケニル基の具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ヘキセニル基、1−シクロヘキセニルなどのヘテロ原子で置換されていないアルケニル基や、2−ヒドロキシエテニル基、2−メトキシカルボニルエテニル基、2−シアノエテニル基などのヘテロ原子で置換されたアルケニル基などが挙げられ、好ましくは炭素数4以下のアルケニル基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下のアルケニル基が挙げられる。
【0021】
前記置換基を有していてもよいアルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、1−ヘキジニル基などのヘテロ原子で置換されていないアルキニル基や、2−ヒドロキシエチニル基、2−メトキシエチニル基、2−トリメチルシリルエチニル基などのヘテロ原子で置換されたアルキニル基などが挙げられ、好ましくは炭素数4以下のアルケニル基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下のアルケニル基が挙げられる。
【0022】
前記置換基を有していてもよいアリール基の具体例としては、フェニル基、1−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基などのヘテロ原子で置換されていないアリール基や、1−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、1−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基などのヘテロ原子で置換されたアリール基が挙げられ、好ましくはフェニル基が挙げられる。
【0023】
前記置換基を有していてもよいアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシなどのヘテロ原子で置換されていないアルコキシ基や、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのヘテロ原子で置換されたアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下のアルコキシ基が挙げられ、さらに好ましくはメトキシ基が挙げられる。
【0024】
前記置換基を有していてもよいアリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、1−メチルフェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシなどのヘテロ原紙で置換されていないアリールオキシ基や、1−メトキシフェノキシ基、2−メトキシフェノキシ基、3−メトキシフェノキシ基、1−フルオロフェノキシ基、2−フルオロフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基などのヘテロ原子で置換されたアリールオキシ基が挙げられ、好ましくはフェノキシ基が挙げられる。
【0025】
前記置換基を有していてもよいアシル基の具体例としては、アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、フェニルカルボニル基などのヘテロ原子で置換されていないアシル基や、トリフルオロメチルカルボニル基、p−フルオロフェニルカルボニル基などのヘテロ原子で置換されたアシル基が挙げられ、好ましくは炭素数4以下のアシル基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下のアシル基が挙げられる。
【0026】
前記置換基を有していてもよいアルキルまたはアリールカルボニルオキシ基の具体例としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基などのヘテロ原子で置換されていないカルボニルオキシ基や、トリフルオロメチルカルボニルオキシ基、p−フルオロフェニルカルボニルオキシ基などのヘテロ原子で置換されたカルボニルオキシ基が挙げられ、好ましくはアセチルオキシ基が挙げられる。
【0027】
なお、これらの基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1〜10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等);炭素数1〜10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1〜10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1〜10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基等が挙げられる。また、工業的に安価に製造できるとの観点からは無置換であることが好ましい。
【0028】
前記ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、エポキシ樹脂の熱伝導性を十分に発揮させるとの観点からは、R1〜R3がそれぞれ独立に、水素原子、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子であることが好ましい。
【0030】
樹脂硬化物の耐熱性および熱伝導率をより向上させ、かつエポキシ樹脂の製造を容易にする観点からは、R1〜R3のいずれか1つが水素原子であり、かつ、残りの2つがそれぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基、炭素数4以下のアルケニル基又はハロゲン原子であることがさらに好ましい。この場合、エポキシ樹脂の製造をさらに容易にする観点からは、R1又はR2を水素原子にすることが好ましく、樹脂硬化物の耐熱性および熱伝導率をさらに向上する観点からはR3を水素原子にすることが好ましい。
一方で、樹脂硬化物の耐熱性および熱伝導率をさらに向上させ、かつエポキシ樹脂の加工性をより向上させる観点からは、R1及びR2が水素原子であり、かつ、R3が炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基、炭素数4以下のアルケニル基又はハロゲン原子であることがさらに好ましい。
なお、エポキシ樹脂の製造を簡略化する観点からはR1〜R3はヘテロ原子で置換されていないことが好ましいが、ビフェニル骨格の配向性を制御し樹脂硬化物に耐熱性および高熱伝導率を与える観点からはR1〜R3のうち少なくとも1つはヘテロ原子で置換されていることが好ましい。
【0031】
また、前記(式1)で表されるエポキシ樹脂の分子量の下限は特に限定されないが、通常300以上である。なお、分子量は小さい方が低粘度化の面で好ましく、通常450以下であり、420以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、360以下であることがさらに好ましい。なお、本発明において分子量はモル質量を表し、構造式から計算可能である。
【0032】
(式1)に示すエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に用いた場合の加工性向上の観点から、融点130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。なお、固体樹脂として実用に供する場合は、樹脂の硬化前の性状を保つ観点から融点30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、液状樹脂として実用に供する場合は、樹脂の硬化前の性状を保つ観点から融点−50℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましく、−10℃以上であることがさらに好ましい。
【0033】
また、(式1)に示すエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に用いた場合の加工性向上の観点から、せん断粘度10mPa・s以下であることが好ましく、7mPa・s以下であることがより好ましく、6mPa・s以下であることがさらに好ましく、また、3mPa・s以上であることが好ましく、3.5mPa・s以上であることがより好ましく、4mPa・s以上であることがさらに好ましい。ここで、せん断粘度とは、1.45gのエポキシ樹脂を直径50mmのプレート中、厚み0.5mm、150℃、最外周が150回転/分となるようにパラレルプレートを回転させたときのせん断粘度を表す。
【0034】
本発明の(式1)にかかるエポキシ樹脂の具体例を以下に示す。なお、本発明におけるエポキシ樹脂は(式1)を満足するものであれば、この具体例になんら限定されるものではない。
【0035】
【化3】
【0036】
これらの中でも、(式1)で表されるエポキシ樹脂として、以下のものを好ましく用いることができる。
【0037】
【化4】
【0038】
本発明における(式1)で表されるエポキシ樹脂は、(式1)で表される複数の種類のエポキシ樹脂を混合したものであってもよい。
本発明における(式1)で表されるエポキシ樹脂は、対応するジヒドロキシ化合物を、エピクロロヒドリンとの混合下塩基で縮合する方法や、対応するジアリル体を、酸化反応にてエポキシ化する方法などの既知の方法で容易に製造できる。
【0039】
[エポキシ樹脂の純度]
本発明におけるエポキシ樹脂は、製造工程に由来する(式2)に示すオリゴマーを含んでいてもよい。なお、粘度低下による加工性向上の観点から(式2)に示すオリゴマーは少ないことが好ましい。通常、(式2)に示すオリゴマーの含有量は後述のエポキシ当量で評価することができる。
【0040】
【化5】
【0041】
上記式中、nは1以上の整数を表し、Xは(式3)に示す部分構造を表す。
【0042】
【化6】
【0043】
上記式中、点線部はXと(式2)に示す酸素原子との結合を表し、R1〜R3はそれぞれ(式1)におけるR1〜R3と同義である。
【0044】
本発明における(式1)で表されるエポキシ樹脂の純度はエポキシ当量より見積もられ、この値がより計算値に近いものを用いることが好ましい。具体的には、通常エポキシ当量が計算値の0.8倍以上2倍以下のものを用い、0.85倍以上1.5倍以下であることが好ましく、0.9倍以上1.2倍以下であることが特に好ましい。エポキシ当量が低すぎても高すぎても、エポキシ樹脂中の不純物が多くなり、加工性の低下や硬化物の特性悪化を招く傾向がある。該エポキシ当量は、JIS K7236:2001に記載の方法で測定することができる。また、計算値は、上記(式2)においてn=0である場合の分子のモル質量を、該(式2)が有するエポキシ基数で割った値(単位はg/当量である)を表す。
【0045】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、前記(式1)で表されるエポキシ樹脂及び(C)特定の充填剤を少なくとも含むものであるが、その他、(A)他のエポキシ樹脂、(B)硬化剤および硬化促進剤、(D)その他各種添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の形態は特に限定されないが、(式1)で表されるエポキシ樹脂と(C)特定の充填剤とを混ぜ合わせた混合物であってもよく、また、(式1)で表されるエポキシ樹脂と(C)特定の充填剤とを混ぜ合わせた混合物を溶融混合して得た成形体であってもよい。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ樹脂組成物に対する含有割合は、エポキシ樹脂組成物の全固形分に対して通常0.1〜95質量%、好ましくは0.2〜90質量%、特に好ましくは0.4〜80質量%である。前記下限値以上とすることにより、本発明のエポキシ樹脂の特性を十分に発現させることができる傾向があり、前記上限値以下とすることにより、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂の特性を十分に発現させることができる傾向がある。
【0048】
[(A)他のエポキシ樹脂]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、上記(式1)で表されるエポキシ樹脂の他に、さらに他のエポキシ樹脂を含んでいてもよい。他のエポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂を使用することができる。これらは1種のみでも必要に応じて2種以上混合しても用いることができる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂とを用いる場合、全エポキシ樹脂中の本発明のエポキシ樹脂の配合量は、通常10〜100質量%、好ましくは20〜95質量%、特に好ましくは40〜90質量%である。本発明のエポキシ樹脂の割合が前記下限値以上であることにより、本発明のエポキシ樹脂を配合することによる耐熱性および熱伝導性の向上効果を十分に得ることができ、所望の高熱伝導性を得ることができ、前記上限値以下であることにより、他のエポキシ樹脂が有する、加工性制御や硬化物の物性制御など種々の効果を十分に得ることができる。
【0050】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物において、全エポキシ樹脂の含有割合は、エポキシ樹脂組成物の全固形分に対して通常1〜95質量%、好ましくは3〜80質量%、特に好ましくは5〜70質量%である。前記下限値以上とすることにより、エポキシ樹脂の特性を十分に発現させることができる傾向があり、前記上限値以下とすることにより、エポキシ樹脂以外の各種成分の物性を十分に発現させることができる傾向がある。
【0051】
[(B)硬化剤]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は硬化剤を含んでいてもよい。本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれていてもよい硬化剤とは、本発明のエポキシ樹脂組成物が有するエポキシ基の架橋反応に寄与する物質であればよく、一般的にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているもののほか、一般的にエポキシ樹脂の硬化促進剤として知られているものなども含める。すなわち、本発明で用いることができる硬化剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応に寄与する物質、または本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂同士の架橋反応や、エポキシ樹脂とエポキシ基間の架橋反応に寄与する物質との反応を促進させる機能を発現する物質である。
【0052】
本発明で用いることができる硬化剤は特に制限はなく、一般的にエポキシ樹脂の硬化剤および硬化促進剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、一般にエポキシ樹脂の硬化剤と知られる物質としては、フェノール系硬化剤、1級および2級アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤などが挙げられ、一般にエポキシ樹脂の硬化促進剤として知られる物質としては3級アミン系硬化促進剤、イミダゾール類系硬化促進剤、有機ホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム塩系硬化促進剤、ルイス酸系硬化促進剤などの等が挙げられる。
【0053】
前記フェノール系硬化剤の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o−クレゾールノボラック、m−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t−ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,8−ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物またはポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール等が挙げられる。
【0054】
前記1級および2級アミン系硬化剤の例としては、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類などが挙げられる。脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、テトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が挙げられる。ポリエーテルアミン類としては、トリエチレングリコールジアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールビス(プロピルアミン)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン類等が挙げられる。脂環式アミン類としては、イソホロンジアミン、メタセンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン等が挙げられる。芳香族アミン類としては、テトラクロロ−p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、2,4−トルエンジアミン、2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタン、2,4−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−アミノフェノール、m−アミノベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0055】
前記酸無水物系硬化剤の具体例としては、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、無水ヘット酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、1−メチル−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。
【0056】
前記チオール系硬化剤の具体例としては、N,N’N”−シアヌルトリエタノールのトリスメルカプトプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールのトリスメルカプトプロピオン酸エステル、1,4−ブタノールのビス−2−メルカプトブタン酸エステル、ペンタエリスリトールのトリス−2−メルカプトブタン酸エステル、N,N‘N“−シアヌルトリエタノールのトリス−2−メルカプトブタン酸エステル等が挙げられる。
【0057】
硬化促進剤として使用可能な前記第3級アミン系硬化剤としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールおよびエポキシ樹脂と上記第3級アミン類との付加体等が挙げられる。
【0058】
硬化促進剤として使用可能な前記イミダゾール系硬化剤としては、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノ−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加体、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、およびエポキシ樹脂と上記イミダゾール類との付加体等が挙げられる。
【0059】
硬化促進剤として使用可能な前記有機ホスフィン系硬化剤としては、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等が挙げられ、ホスホニウム塩系硬化剤としては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等が挙げられる。
硬化促進剤として使用可能な前記ルイス酸系硬化剤としては、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化チタン、遷移金属のアセチルアセトナート錯体などが挙げられる。
【0060】
その他に、例えば「総説エポキシ樹脂 第1巻」(第1版、エポキシ樹脂技術協会、2003年)の119−209頁、または、「総説エポキシ樹脂 最近の進捗I」(第1版、エポキシ樹脂技術協会、2009年)の43−84頁に記載されている硬化剤および硬化促進剤を用いてもよい。
【0061】
以上に挙げた硬化剤および硬化促進剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。なお、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られる物質は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比で0.3〜1.8の範囲となるように用いることが好ましく、0.8〜1.5の範囲となるように用いることがさらに好ましく、0.9〜1.2の範囲となるように用いることがより好ましい。この範囲外であると未反応のエポキシ基や硬化剤の反応部位が残留し、所望の物性が得られないことがある。一方、一般にエポキシ樹脂の硬化促進剤として知られる物質の場合は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲で用いることが好ましく、0.2〜10質量部の範囲で用いることがより好ましい。これら硬化促進剤が少なすぎると十分な硬化が達成できなくなり、多すぎると硬化促進剤の樹脂硬化物への影響が増大し樹脂硬化物の特性が悪化する傾向にある。
【0062】
なお、これらの硬化剤および硬化促進剤の中のいずれを用いるかは、硬化条件および樹脂硬化物の形状、樹脂硬化物の耐熱性、接着性、吸水性、曲げ強度などの各種性状のバランスによって種々選択される。
【0063】
[(C)充填剤]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、25℃における熱伝導率が10W/m・K以上である絶縁性充填剤を少なくとも含むことを特徴とする。このような特定の充填剤を含むことにより、樹脂硬化物の熱伝導率など、種々の特性の向上を図ることができる。
【0064】
前記絶縁性充填剤の25℃における熱伝導率の値は、硬化物の放熱特性向上及び入手の容易性の観点から、10〜2000W/m・Kであることが好ましく、15〜1200W/m・Kであることがより好ましく、20〜500W/m・Kであることがさらに好ましく、25〜200W/m・Kであることが特に好ましい。
【0065】
絶縁性充填剤の具体例としては、窒化ケイ素(20W/m・K)、アルミナ(32W/m・K)、窒化ホウ素(60W/m・K)、窒化アルミニウム(150W/m・K)、ダイヤモンド(1000W/m・K)等が挙げられ、この中でも硬化物の放熱特性向上の観点およびコストの観点からアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素の少なくともいずれかを含むことが好ましい。なお、これら充填剤の熱伝導率については、理科年表 第84冊 物54を参照できるほか、JIS R1611:2010に記載の手法で得られた値を用いることができる。これらの充填剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。なお、2種以上を組み合わせて用いた場合には、熱伝導率は種類ごとの値を意味する。
【0066】
また、本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、熱膨張性、強度、靱性、衝撃性など種々の特性を向上させるために、上記充填剤に加えてさらに別の充填剤を含んでいてもよい。その具体例としては、絶縁性充填剤としてシリカ、ジルコニア、イットリア、ステアタイト、コージライト、フォルステライト、ムライト、サーメット、イットリア複合化ジルコニアなどが挙げられ、導電性充填剤としては、鉄、真鍮、アルミニウム、銀、銅、炭素、炭化ケイ素等が挙げられる。これらのうち、樹脂硬化物の絶縁性を向上させる点で絶縁性充填剤を含むことが好ましく、コストおよび樹脂組成物の加工性向上の観点からシリカもしくはジルコニアを含む事が特に好ましい。なお、これらの充填剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。
【0067】
なお、充填剤の形状については特に限定されないが、球状など表面積が小さい充填剤を用いた場合、加工性を向上させることができる傾向があり、繊維状など表面積が大きい充填剤を用いた場合、充填剤が有する熱伝導率などの種々の性状を硬化物中でより強く発揮させやすくする傾向があり、扁平状など表面積がこれらの中間のものを用いた場合、両者のバランスを取りやすくなる傾向がある。
【0068】
充填剤は、その粒径が大き過ぎると硬化物中にボイドが残留しやすくなり、小さ過ぎると凝集しやすくなり分散性が悪くなることから、平均粒径が0.05〜1000μm程度のものを用いることが好ましく、0.1〜200μm程度のものを用いることがさらに好ましく、0.5〜100μmのものを用いることが特に好ましい。平均粒径は体積分布をレーザー回折・散乱法や沈降法など既存の測定方法により測定した結果から得ることができる。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物における充填剤の配合割合は、エポキシ樹脂組成物の全固形分に対して通常10〜95質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは25〜80質量%である。充填剤の配合量が前記下限値以上であることにより、充填剤の十分な配合効果が発揮され、また、前記上限値以下であることにより、エポキシ樹脂組成物の加工性を十分に得ることができる傾向がある。
また、上記充填剤中における25℃における熱伝導率が10W/m・K以上である絶縁性充填剤のエポキシ樹脂組成物の全固形分に対する配合割合は、通常20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。含有割合が前記下限値以上であることにより、充填剤の樹脂硬化物に対する放熱性向上効果を十分発揮することが可能である。
【0070】
[(D)その他添加剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その機能性の更なる向上を目的として、各種の添加剤を含んでいてもよい。このようなその他の添加剤としては、基材との接着性やマトリックス樹脂と無機充填剤との接着性を向上させるための添加成分として、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤、保存安定性向上のための紫外線防止剤、酸化防止剤、可塑剤、はんだの酸化皮膜除去のためのフラックス、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
【0071】
ここで、シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(8−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、さらに、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等が挙げられる。
【0072】
一方、チタネートカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0073】
なお、その他の添加剤のうち、カップリング剤の添加量は、エポキシ樹脂組成物中の全固形分に対して0.1〜2.0質量%程度とするのが好ましい。カップリング剤の配合量が少ないと、カップリング剤を配合したことによるマトリックス樹脂と無機充填剤との密着性の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると得られる硬化物からカップリング剤がブリードアウトする可能性がある。以上に挙げたシランカップリング剤、チタネートカップリング剤に代表されるカップリング剤は、いずれも1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ、比率で混合して用いてもよい。また、その他の添加剤の配合量には特に制限はなく、必要な機能性が得られる程度に、通常の樹脂組成物の配合量で用いられる。
【0074】
[溶媒]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、加工時の粘度を適度に調整するために溶媒を配合してもよい。本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が含み得る溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、キシレン等の芳香族類などが挙げられる。
【0075】
以上に挙げた溶媒は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。また、本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物において、溶媒は、前述の如く、エポキシ樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。
なお、本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、硬化時に溶媒が残留することによるボイド形成を防ぐ観点から、溶媒を用いないことが好ましい。
【0076】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化剤により硬化してなる硬化物は、優れた耐熱性および熱伝導率を有すると共に、良好な硬化物性を示すものであり、後述する各用途に有用である。
本発明の硬化物は、エポキシ樹脂組成物を硬化剤により硬化することにより得られるが、硬化物を作成する方法については特に規定されない。プロセス上の観点から好ましくは加熱による硬化である。
【0077】
[硬化物の熱伝導率]
本発明における硬化物の熱伝導率は、混合する他の成分、例えば他のエポキシ樹脂、硬化剤、又は各種充填剤の種類などによって変動するが、本発明のエポキシ樹脂および硬化剤としてエポキシ樹脂に対し5質量%のキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)を用い、150℃で硬化した樹脂硬化物を周期加熱法を用いて測定される熱拡散率から算出される、25℃における熱伝導率が、500μm厚の場合通常0.35W/m・K以上、好ましくは0.38W/m・K以上、特に好ましくは0.40W/m・K以上であることが好ましく、200μm厚の場合通常0.26W/m・K以上、好ましくは0.28W/m・K以上、特に好ましくは0.30W/m・K以上であることが好ましい。この下限値以上の熱伝導率を示すエポキシ樹脂を用いた場合、他の成分の種類に関わらず樹脂硬化物が良好な熱伝導率を示す傾向がある。
【0078】
[硬化物のガラス転移温度]
本発明における硬化物のガラス転移温度は、エポキシ樹脂組成物の組成、硬化条件などによって変動するが、フェノールノボラックであるPSM6200(群栄化学社製)を硬化剤として用い、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用いて175℃で硬化した樹脂硬化物を示差熱量測定にて測定されるガラス転移温度が通常115℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、通常200℃以下である。前記下限値以上のガラス転移温度を示すエポキシ樹脂を用いた場合、他の成分の種類にかかわらず樹脂硬化物が良好な耐熱性を示す傾向がある。
【0079】
[用途]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィルム成形・塗布等のプロセスに適用するのに十分な加工性を有し、かつ樹脂硬化物としたときの耐熱性及び熱伝導率に優れるものであり、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能である。特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物および樹脂硬化物の用途の一例としては、多層プリント配線基板、フィルム状接着剤、液状接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0080】
特に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物としたときの耐熱性及び熱伝導率に優れることから、半導体封止材料、3D−LSI用インターチップフィル、絶縁シートなどの放熱材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の実施例、比較例および参考例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、比較例のうち、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルとして三菱化学社製YX4000H(エポキシ当量:185g/当量)を用い、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルと4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの1:1モル比混合物として三菱化学社製YL6121H(エポキシ当量:157g/当量)を用いた。4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの融点はMacromolecules,1998年、23号、8281−90頁より引用した。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラックであるPSM6200(群栄化学社製)、アミン系硬化剤としてはジアミノジフェニルメタン、イミダゾール系硬化促進剤としては1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールであるC11Z−CN(四国化成工業社製)を用いた。リン系硬化促進剤としてはトリフェニルホスフィン(TPPと略記する場合がある)を用いた。また、実施例、比較例および参考例における各種分析方法は以下の通りである。
【0082】
[エポキシ当量]
JIS K7236:2001に準じて測定し、固形分換算値として表記した。
[融点測定]
Stuart Scientific社製SMP3融点測定装置を用いた。1℃/minの条件で昇温し、固体が全て融解した時点での温度を融点とした。
【0083】
[NMR分析]
Bruker社製400 Ultrashield(400MHz)を用いた。サンプルを重クロロホルムに溶解させ、測定した。
[粘度分析]
アントン・パール社製MCR−301粘度測定装置を用いた。1.45gのサンプルを直径50mmのディスポーザルアルミ皿にいれ、以下の条件で150℃におけるせん断粘度を求めた。
プレート:直径50mmアルミ製パラレルプレート
ギャップ:0.50mm
せん断速度:150回転/分
【0084】
[ガラス転移点(Tg)]
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220示差熱量分析装置を用いた。5mgのサンプルを以下の条件で分析し、観測されたベースライン外挿基線と吸熱側へのベースライン変化最大傾斜点の接線との交点温度をガラス転移点とした。容器:AuメッキSUS製耐圧試料容器
雰囲気:窒素雰囲気下
昇温条件:5〜200℃、10℃/分
【0085】
[エポキシ樹脂の合成]
<合成例1>
エポキシ樹脂(A−1)の合成および物性
以下に構造を示すエポキシ樹脂
(A−1)を合成した。
【0086】
【化7】
【0087】
2,2’−ジメチル−4,4’−ビフェノール(4.0g、19mmol)をエピクロロヒドリン(15ml、190mmol)および2−プロパノール(7.5ml)に溶解させた。得られた溶液を50℃に昇温した後、50質量%水酸化ナトリウム水溶液(3.6ml、45mmol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃に昇温して2時間撹拌した。得られた反応混合物を室温に冷却した後、酢酸エチル(200ml)で抽出し、水(200ml)で2回洗浄した。油層を無水硫酸マグネシウム(5g)で脱水した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をメタノール(20ml)から再結晶することで、目的のエポキシ樹脂(A−1)4.7g(収率77%)を得た。分子量は326であり、エポキシ当量は165g/当量だった。NMRスペクトルは以下の通りだった。
【0088】
1H NMR(重クロロホルム、δ):7.34(s、2H)、7.33(d、J=8.0Hz、2H)、6.85(d、J=8.0Hz、2H)、4.25(m、2H)、4.03(m、2H)、3.40(m、2H)、2.93(m、2H)、2.80(m、2H)、2.30(s、6H)
13C NMR(重クロロホルム、δ):155.8、133.7、129.3、127.2、124.9、111.5、68.8、50.3、44.7、16.4
【0089】
得られたエポキシ樹脂(A−1)の融点および150℃せん断粘度を測定した結果、それぞれ120℃、5.4mPa・sであった。
【0090】
<合成例2>
エポキシ樹脂(A−2)の合成および物性
以下に構造を示すエポキシ樹脂(A−2)を合成した。
【0091】
【化8】
【0092】
2−メチル−4,4’−ビフェノール(1.7g、8.5mmol)をエピクロロヒドリン(7.0ml、89mmol)および2−プロパノール(3.5ml)に溶解させた。得られた溶液を50℃に昇温した後、50質量%水酸化ナトリウム水溶液(1.6ml、20mmol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃に昇温して2時間撹拌した。得られた反応混合物を室温に冷却した後、酢酸エチル(100ml)で抽出し、水(100ml)で2回洗浄した。油層を無水硫酸マグネシウム(3.0g)で脱水した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をメタノール(5ml)から再結晶することで、目的のエポキシ樹脂(A−2)1.8g(収率69%)を得た。分子量は312であり、エポキシ当量は156g/当量であった。NMRスペクトルは以下の通りであった。
【0093】
1H NMR(重クロロホルム、δ):7.46(d、J=8.0Hz、2H)、7.34(s、1H)、7.30(d、J=8.0Hz、1H)、6.97(d、J=8.0Hz、2H)、6.87(d、J=8.0Hz、1H)、4.28(m、2H)、4.03(m、2H)、3.40(m、2H)、2.93(m、2H)、2.80(m、2H)、2.30(s、3H)
13C NMR(重クロロホルム、δ):157.6,155.9、134.1、133.5、129.3、127.8、127.3、124.9、114.8、111.5、68.8、50.3、50.2、44.7、44.6、16.4
【0094】
得られたエポキシ樹脂(A−2)の融点および150℃せん断粘度を測定した結果、それぞれ95℃、5.3mPa・sであった。
【0095】
[充填剤含有樹脂硬化物の物性]
<実施例1>
エポキシ樹脂として化合物(A−1)1.4g、イミダゾール系硬化剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)70mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)および充填剤として窒化ホウ素(日新リフラテック株式会社製、六方晶系、平均粒径2.0μm)0.60gをエポキシ樹脂の融点近傍の温度で簡便に溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱拡散率をアイフェイズ社製mobile 1uを用いて測定し、これにアルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱を乗じて、厚さ方向の熱伝導率を求めた。得られた熱伝導率は1.05W/m・K(500μm厚)であった。
【0096】
<実施例2>
エポキシ樹脂として化合物(A−2)1.4g、イミダゾール系硬化剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)70mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)および充填剤として窒化ホウ素(日新リフラテック株式会社製、六方晶系、平均粒径2.0μm)0.60gをエポキシ樹脂の融点近傍の温度で簡便に溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、1.13W/m・K(500μm厚)であった。
【0097】
<比較例1>
エポキシ樹脂としてYX4000H(三菱化学社製)1.4g、イミダゾール系硬化剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)70mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)および充填剤としておよび窒化ホウ素(日新リフラテック株式会社製、六方晶系、平均粒径2.0μm)0.60gをエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.93W/m・K(500μm厚)であった。
【0098】
<比較例2>
エポキシ樹脂として化合物(A−1)1.0gおよび、イミダゾール系硬化促進剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)50mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.42W/m・K(500μm厚)および0.30W/m・K(200μm厚)であった。
【0099】
<比較例3>
エポキシ樹脂として化合物(A−2)1.0gおよび、イミダゾール系硬化促進剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)50mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.43W/m・K(500μm厚)および0.31W/m・K(200μm厚)であった。
【0100】
以下の表1に評価結果をまとめた。実施例1、2および比較例1を比較すると、エポキシ樹脂(A−1)及び(A−2)を用い、かつ、特定の充填剤を含む本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が高い熱伝導率を有することが明白である。また、実施例1と比較例2、実施例2と比較例3を比較すると、特定の充填剤を含むことでその樹脂硬化物がより効果的に高い熱伝導率を与えることがわかる。
【0101】
【表1】
【0102】
以上の結果から、特定のビフェニル型エポキシ樹脂と、特定の充填剤を含むエポキシ樹脂組成物が樹脂硬化物としたときの加工容易性と高熱伝導率を両立していることが明白である。本発明のエポキシ樹脂組成物を用いることで、高性能な熱伝導材料を安価に提供することが可能となる。
【0103】
[充填剤を含まない樹脂硬化物の物性]
【0104】
<参考例1>
エポキシ樹脂として化合物(A−1)500mg、フェノール系硬化剤としてPSM6200(群栄化学社製)312mg、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン5.0mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で6時間硬化することで厚さ200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は120℃であり、該硬化物の熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.25W/m・K(200μm厚)であった。
【0105】
<参考例2>
エポキシ樹脂として化合物(A−1)1.0g、1級アミン系硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.30g(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で4時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.38W/m・K(500μm厚)および0.30W/m・K(200μm厚)であった。
【0106】
<参考例3>
エポキシ樹脂として化合物(A−2)500mg、フェノール系硬化剤としてPSM6200(群栄化学社製)330mg、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン5.0mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で6時間硬化することで厚さ200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は128℃であり、該硬化物の熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.26W/m・K(200μm厚)であった。
【0107】
<参考例4>
エポキシ樹脂として化合物(A−2)500mg、1級アミン系硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルメタン159mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で4時間硬化することで厚さ200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は206℃であり、該硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.32W/m・K(200μm厚)であった。
【0108】
<参考例5>
エポキシ樹脂としてYX4000H(三菱化学社製)1.0gおよび、イミダゾール系硬化促進剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)50mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.32W/m・K(500μm厚)および0.25W/m・K(200μm厚)であった。
【0109】
<参考例6>
エポキシ樹脂としてYX4000H(三菱化学社製)700mg、フェノール系硬化剤としてPSM6200(群栄化学社製)390mg、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン1.75mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で6時間硬化することで厚さ200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は116℃であり、該硬化物の熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.24W/m・K(200μm厚)であった。
【0110】
<参考例7>
エポキシ樹脂としてYL6121H(三菱化学社製)1.0gおよび、イミダゾール系硬化剤としてキュアゾール(登録商標)C11Z−CN(四国化成工業社製)50mg(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を150℃で2時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.36W/m・K(500μm厚)および0.28W/m・K(200μm厚)であった。
【0111】
<参考例8>
エポキシ樹脂としてYX4000H(三菱化学社製)1.0g、1級アミン系硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.27g(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で4時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は190℃であり、該硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.34W/m・K(500μm厚)および0.27W/m・K(200μm厚)であった。
【0112】
<参考例9>
エポキシ樹脂としてYL6121H(三菱化学社製)1.0g、1級アミン系硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.32g(エポキシ樹脂中のエポキシ基と、硬化剤中のエポキシ基と反応し架橋構造を形成する反応部位との当量比は1.0)をエポキシ樹脂の融点近傍の温度で溶融混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。該エポキシ樹脂組成物を175℃で4時間硬化することで厚さ500μmおよび200μmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物のガラス転移点は196℃であり、該硬化物の25℃における熱伝導率を実施例1と同様の方法で求めた結果、0.36W/m・K(500μm厚)および0.29W/m・K(200μm厚)であった。
【0113】
以下の表2〜5に、比較例2及び3、参考例1〜9の評価結果をまとめた。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
表2から、エポキシ樹脂(A−1)及び(A−2)を用いた樹脂硬化物が、エポキシ樹脂YX400H及びYL6121Hを用いた樹脂硬化物に対して、硬化物の形状に関わらず高い熱伝導率を有していることが明白である。これは、エポキシ樹脂(A−1)および(A−2)が、それぞれビフェニル骨格に対して2つもしくは1つのみのメチル基が置換されている構造のため、メチル基によるビフェニル骨格の配向性阻害効果が小さく、結果として高い配向性を有するのに対し、YX4000HやYL6121Hは、ビフェニル骨格に対して4つメチル基が置換された構造を有するため、メチル基によるビフェニル骨格の配向性阻害効果が大きく、結果として低い配向性を有するためである。
なお、比較例2および3を比較すると、比較例3の方が樹脂硬化物の熱伝導率が高い。これは化合物(A−1)に比べ化合物(A−2)の方がビフェニル骨格への置換数が少ないため、ビフェニル骨格の配向性がさらに大きくなることが理由である。さらに、硬化条件によらず、エポキシ樹脂(A−1)及び(A−2)を用いた樹脂硬化物の熱伝導率が高くなることが、表2、表3、表4の結果からわかる。従って、実施例1及び2のように特定の充填剤を用いた場合においても、硬化条件によらず良好な熱伝導率を有すると考えられる。
さらに、表5から、エポキシ樹脂(A−1)及び(A−2)を用いた樹脂硬化物が高耐熱性を有することも明白である。従って、実施例1及び2のように特定の充填剤を用いた場合においても、硬化条件によらず良好な熱伝導率を有すると考えられる。
また、表3または表4の結果に比べ、表2の樹脂硬化物の方が熱伝導率が優れる傾向がある理由は、樹脂硬化物中に占める本発明のエポキシ樹脂の割合が、表2のような触媒型硬化剤を用いた方が高くなる傾向にあり、本発明のエポキシ樹脂の効果がより強くなるためであると考えられる。
【0119】
[エポキシ樹脂の物性]
<参考例10>
3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテル(三菱化学社製「YX4000H」)の融点および150℃せん断粘度を合成例1と同様の条件で測定したところ、それぞれ105℃、8.1mPa・sであった。
【0120】
<参考例11>
4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの融点は165℃であることから、150℃では溶融しないため150℃せん断粘度は測定できない。
【0121】
<参考例12>
3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルと4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテルの1:1混合物(三菱化学社製「YX6121H」)の融点および150℃せん断粘度を同様の条件で測定したところ、それぞれ135℃、7.1mPa・sであった。
【0122】
合成例1及び2、参考例10〜12の評価結果を以下にまとめた。合成例1及び合成例2のビフェニル型エポキシ樹脂は、参考例10〜12のビフェニル型エポキシ樹脂に比べ同程度から低融点であり、かつ、いずれも低粘度であるため、加工性に優れることが明白である。
【0123】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。その用途の一例としては、多層プリント配線基板、フィルム状接着剤、液状接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D−LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等が挙げられる。