(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単量体が、さらに、前記式(I)で表される化合物と開環メタセシス重合による共重合可能な他の化合物を含むものである、請求項1または2に記載の開環重合体水素化物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の開環重合体水素化物は、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ということがある。)を含む単量体を開環メタセシス重合して得られる開環重合体の、炭素−炭素二重結合の70%以上を水素化して得られるものである。
【0015】
本発明において用いる開環重合体は、化合物(I)由来の繰り返し単位を有する。
前記式(I)中、R
1は、炭素数1〜10の炭化水素基(好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基)、ハロゲン原子、及びハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基(好ましくはハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の炭化水素基)からなる群から選ばれる置換基を表す。
【0016】
R
1の炭素数1〜10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、クロチル基等の炭素数2〜10のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、3−ブチニル基等の炭素数2〜10のアルキニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;等が挙げられる。
R
1のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
R
1のハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基としては、クロロメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
【0017】
mは、0以上、(6n+6)以下の整数、好ましくは0〜4の整数である。mが1以上のとき、R
1の結合位置は限定されない。また、mが2以上のとき、複数のR
1同士は、互いに同一であっても異なっていてもよい。nは、1〜3の整数、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0018】
化合物(I)の具体例としては、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エン、4,5−エポキシ−8−クロロトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エン、4,5−エポキシ−8−メチルトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エン、4,5−エポキシ−8−トリフルオロメチルトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エン等の式(I)中のnが1の化合物;
10,11−エポキシペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]ペンタデカ−4−エン、10,11−エポキシ−4−クロロペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]ペンタデカ−4−エン等の、式(I)中のnが2の化合物;
14,15−エポキシヘプタシクロ[10.5.1.1
3,10.1
5,8.01
3,17]エイコサ−6−エン、14,15−エポキシ−6−クロロヘプタシクロ[10.5.1.1
3,10.1
5,8.01
3,17]エイコサ−6−エン等の、式(I)中のnが3の化合物;が挙げられる。
これらの中でも、入手容易性の観点、及び目的の開環重合体水素化物が効率よく得られることから、nが1の化合物が好ましく、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンがより好ましい。
【0019】
化合物(I)は、例えば、シクロペンタジエンの二量体、三量体、又は四量体をエポキシ化することにより得ることができる。このエポキシ化反応においては、ヘテロポリ酸と過酸化水素等を用いる公知の反応(例えば、特開2006−104110号公報等)を利用することができる。また、ヘテロポリ酸と過酸化水素を用いて反応を行う場合、過酸化水素の量を調整することにより選択的にエポキシ化することができる。
【0020】
本発明に用いる開環重合体は、(i)化合物(I)の1種を単量体として単独重合して得られるもの、(ii)化合物(I)の2種以上を単量体として共重合して得られるもの、(iii)化合物(I)の少なくとも1種と、それと共重合可能な他の任意の化合物(以下、「他の化合物」ということがある。)の少なくとも1種とを含む単量体を共重合して得られるもの、のいずれであってもよい。これらの中でも、本発明の目的とする効果が得られやすいことから、(iii)化合物(I)の少なくとも1種と、他の化合物の少なくとも1種とを含む単量体を共重合して得られるものであるのが好ましい。
【0021】
他の化合物を単量体として用いる場合、単量体中の他の化合物の含有量は、化合物(I)と他の化合物の合計100重量部に対して、通常、80重量部以下、好ましくは0.001〜50重量部、より好ましくは0.01〜40重量部、特に好ましくは0.1〜30重量部である。
【0022】
他の化合物としては、化合物(I)と開環共重合可能で、本発明の目的を阻害しないものであれば特に制約はないが、前記化合物(I)以外の環状オレフィン化合物が挙げられる。環状オレフィン化合物としては、例えば、単環環状オレフィン系化合物やノルボルネン系化合物等が挙げられる。環状オレフィン化合物は、置換基を有するものであってもよい。置換基としては、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基等が挙げられる。これらの置換基の具体例としては、化合物(I)の置換基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0023】
単環環状オレフィン系化合物の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、シクロへプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、及び1,3−シクロオクタジエン等が挙げられる。
【0024】
ノルボルネン系化合物の具体例としては、ノルボルネン、1−メチル−2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、7−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5,5−ジクロロ−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−n−プロピリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン(TCD)、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等が挙げられる。
これらの環状オレフィン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の開環重合体水素化物は、前記化合物(I)のうち少なくとも1種、及び必要に応じて用いられる他の化合物を含む単量体をメタセシス重合触媒存在下で開環メタセシス重合し、得られる開環重合体を水素化することにより得ることができる。
【0026】
メタセシス重合触媒としては、用いる単量体を開環重合できるものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン、及び化合物等が結合してなる遷移金属錯体が挙げられる。この遷移金属錯体において、遷移金属原子としては、通常、5族、6族及び8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。なかでも、遷移金属原子としては、8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。
【0027】
これらの中でも、メタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。
ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。
【0028】
ルテニウムカルベン錯体としては、以下の式(II)又は式(III)で示される錯体が挙げられる。
【0030】
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでいてもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。また、R
2とR
3は互いに結合して、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。
【0031】
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を表す。アニオン性配位子X
1、X
2は、中心原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。例えば、弗素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、及び沃素原子(I)等のハロゲン原子;ジケトネート基;置換シクロペンタジエニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;カルボキシル基;等が挙げられる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0032】
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、中性電子供与性化合物を表す。中性電子供与性化合物L
1、L
2は、中心原子から引き離されたときに電気的に中性である配位子である。
L
1及びL
2の少なくとも一つは、ヘテロ原子含有カルベン化合物である。ヘテロ原子とは、周期律表15族及び16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、砒素原子(As)、及びセレン原子(Se)等が挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、及びSが好ましく、Nが特に好ましい。
【0033】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(IV)又は式(V)で示される化合物が挙げられる。
【0035】
R
4〜R
7は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでいてもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R
4〜R
7は任意の組合せで互いに結合して、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。
【0036】
前記式(IV)又は式(V)で示される化合物としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、及び1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン等が挙げられる。
【0037】
ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類等が挙げられる。なかでも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0038】
また、式(II)及び式(III)において、R
2、R
3、X
1、X
2、L
1及びL
2は、任意の組合せで互いに結合して多座キレート配位子を形成してもよい。
【0039】
前記ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド等が挙げられる。
【0040】
これらのルテニウムカルベン錯体は、Org.Lett.,1999年,第1巻,953頁や、Tetrahedron.Lett.,1999年,第40巻,2247頁等に記載された方法によって製造することができる。
【0041】
メタセシス重合触媒は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
メタセシス重合触媒の含有量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:単量体全体)で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0042】
メタセシス重合触媒を用いる開環重合は、溶剤中又は無溶剤で行なうことができる。重合反応終了後、生成した開環重合体を単離することなく、そのまま水素化反応を行う場合は、溶剤中で重合するのが好ましい。
【0043】
用いる溶剤は生成する開環重合体を溶解し、かつ開環重合反応を阻害しない溶剤であれば特に限定されない。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等の含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル等のエステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、又は脂環族炭化水素の使用が好ましい。
これらの溶媒は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
溶剤中で重合を行う場合、溶剤中の全単量体の濃度は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。全単量体の濃度が1重量%未満では開環重合体の生産性が悪くなることがあり、50重量%を超えると重合後の粘度が高すぎて、その後の水素化等が困難となることがある。
【0045】
メタセシス重合触媒は溶剤に溶解して反応系に添加してもよいし、溶解させることなくそのまま添加してもよい。触媒溶液を調製する溶剤としては、前記開環重合反応に用いる溶剤と同様の溶剤が挙げられる。
【0046】
また、開環重合反応においては、開環重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を反応系に添加することができる。分子量調整剤としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物;アクリロニトリル、アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物等を用いることができる。全単量体に対して、分子量調整剤を0.05〜50モル%使用することにより、所望の分子量を有する開環重合体を得ることができる。
【0047】
開環重合温度は特に制限はないが、通常、−100℃〜+200℃、好ましくは−50℃〜+180℃、より好ましくは−30℃〜+160℃、さらに好ましくは0℃〜+140℃である。重合時間は、通常1分から100時間であり、反応の進行状況に応じて適宜調節することができる。
【0048】
本発明の開環重合体水素化物は、前記開環重合体に含まれる炭素−炭素二重結合を水素化して得られるものである。
本発明の開環重合体水素化物において、炭素−炭素二重結合の水素化割合(水素化率)は、70%以上である
【0049】
水素化率は、例えば、開環重合体の
1H−NMRスペクトルにおける炭素−炭素二重結合に由来するピーク強度と、開環重合体水素化物の
1H−NMRスペクトルにおける炭素−炭素二重結合に由来するピーク強度とを比較することにより求めることができる。
【0050】
水素化反応は、例えば、水素化触媒の存在下に、水素ガスを用いて行なうことができる。
用いる水素化触媒は、均一系触媒、不均一系触媒等、特に限定されず、オレフィン化合物の水素化に際して一般的に用いられているものを適宜使用することができる。
【0051】
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウムの組み合わせ、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウム等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;前記開環メタセシス重合触媒の項で記述したルテニウムカルベン錯体触媒、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929、特開平7−149823、特開平11−109460、特開平11−158256、特開平11−193323、特開平11−109460等に記載されているルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
【0052】
不均一系触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた水素化触媒が挙げられる。より具体的には、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等を用いることができる。これらの水素化触媒は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
これらの中でも、効率よく水素化できる点から、ロジウム、ルテニウム等の貴金属錯体触媒及びパラジウム/カーボン等のパラジウム担持触媒の使用が好ましく、ルテニウムカルベン錯体触媒又はパラジウム担持触媒の使用がより好ましい。
【0054】
前述したルテニウムカルベン錯体触媒は、開環メタセシス重合触媒及び水素化触媒として使用することができる。この場合には、開環メタセシス反応と水素化反応を連続的に行なうことができる。
【0055】
また、ルテニウムカルベン錯体触媒を使用して開環メタセシス反応と水素化反応を連続的に行う場合、エチルビニルエーテル等のビニル化合物やα−オレフィン等の触媒改質剤を添加して該触媒を活性化させてから、水素化反応を開始する方法も好ましく採用される。さらに、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアセトアミド等の塩基を添加して活性を向上させる方法を採用するのも好ましい。
【0056】
水素化反応は、通常、有機溶剤中で行なわれる。有機溶剤としては、生成する水素化物の溶解性により適宜選択することができ、前記開環重合する際に用いることができるとして例示した溶剤と同様のものを使用することができる。したがって、開環重合反応後、溶剤を入れ替えることなく、反応液又は該反応液からメタセシス重合触媒をろ別して得られるろ液に水素化触媒を添加して反応させることもできる。
【0057】
水素化反応の条件は、使用する水素化触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。水素化触媒の使用量は、開環重合体100重量部に対して,通常0.01〜50重量部、好ましくは0.05〜20重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。反応温度は、通常−10℃〜+250℃、好ましくは−10℃〜+210℃、より好ましくは0℃〜+200℃である。この範囲より低い温度では反応速度が遅くなり、逆に高い温度では副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPa、より好ましくは0.1〜6.0MPaである。
【0058】
水素化反応の時間は、水素化率を制御するために適宜選択される。反応時間は、通常0.1〜50時間の範囲であり、開環重合体中の炭素−炭素二重結合のうち70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上を水素化することができる。
【0059】
例えば以上のようにして得られる本発明の開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、通常5000〜500,000、好ましくは10,000〜100,000である。なお、この値は、トルエンを溶媒として用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算値である。また、本発明の開環重合体水素化物のガラス転移温度も、特に限定されないが、通常50〜250℃、好ましくは100〜180℃である。
【0060】
本発明の開環重合体水素化物は、必要に応じて、各種の配合剤を添加して用いてもよい。この配合剤としては、酸化防止剤、溶剤、架橋剤、感放射線化合物、増感剤、界面活性剤、潜在的酸発生剤、酸性化合物、カップリング剤またはその誘導体、光安定剤、消泡剤、顔料、染料、フィラー等が挙げられる。
【0061】
本発明の開環重合体水素化物は、シクロオレフィンポリマーが元来優れる、例えば水蒸気バリア性などの種々の性質に優れる上に、他の材料との密着性に優れるものである。従って、例えば、半導体保護膜用材料、液晶封止用材料、回路保護用材料、平坦化膜材料、電気絶縁膜材料等の電子部品用材料、等の他の材料との密着性が要求される用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0063】
(1)開環重合体水素化物の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
(2)開環重合体水素化物のガラス転移温度は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「EXSTAR DSC6220」)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
(3)開環重合体水素化物の水素化率は、開環重合体の
1H−NMRスペクトルにおける炭素−炭素二重結合に由来するピーク強度と、開環重合体水素化物の
1H−NMRスペクトルにおける炭素−炭素二重結合に由来するピーク強度の積分比から算出した。
【0064】
〔製造例1〕4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンの合成
温度計、滴下漏斗及び撹拌機を備えた3口反応器内を窒素ガスで置換し、この反応器内で、ジシクロペンタジエン50.0g(378.2mmol)とヘキサデシルピリジニウムクロリド一水和物3.39g(9.46mmol)をクロロホルム250mlに溶解させた。次いで、反応器内容物を攪拌しながら、これに、12−タングスト(VI)リン酸n水和物5.45gを、30%過酸化水素水42.88g(378.2mmol)に溶解させて得た溶液を30分かけて滴下し、その後、そのまま室温(25℃、以下にて同じ)で3時間攪拌を続けた。次いで、反応器内容物に、蒸留水150mlと飽和食塩水100mlを加え、分液操作を行うことにより有機層を分取した。得られた有機層に、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた後、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液を濃縮して得た濃縮液を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1.5:18.5(体積比、以下にて同じ))で精製することにより、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エン26.3gを白色固体として得た(収率47%)。
得られた生成物の構造は
1H−NMRで同定した。
【0065】
〔実施例1〕
窒素置換したガラス反応器に、製造例1で得た4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンを1.18部、ジシクロペンタジエンの70%シクロヘキサン溶液を28.6部、1−ヘキセン0.134部、トルエン86.8部を加え、60℃に加熱した。次に、メタセシス重合触媒として、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.0136部を、5.9部のトルエンに溶解させて触媒液を調製した。得られた触媒液を、反応器に添加して重合反応を開始させた。60℃で1時間撹拌後、重合反応液をトルエンで希釈し、多量のメタノール中に滴下してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾別し、アセトンで洗浄した後、40℃で24時間減圧乾燥し、開環重合体1を得た。
【0066】
攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体1を18部と、トルエン86.8部を加えた。次いで、水素化触媒として、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)0.064部を添加し、水素圧0.9MPa、160℃で8時間水素化反応を行った。水素化反応液をトルエンで希釈し、多量のメタノール中に滴下してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾別し、アセトンで洗浄した後、40℃で24時間減圧乾燥し、開環重合体水素化物1を得た。得られた開環重合体水素化物1の数平均分子量(Mn)は1.5×10
4、重量平均分子量(Mw)は5.9×10
4、ガラス転移温度は107℃、水素化率は85%であった。これらの結果は表1に示す。
【0067】
得られた開環重合体水素化物1を5部と、酸化防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](「イルガノックス1010」、BASF社製)0.025部とを、トルエン10部に溶解させて樹脂溶液を調製した。得られた樹脂溶液を、ギャップ50μmのドクターブレードを用いて、厚さ75μmの片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製「コスモシャインA4100」)上に塗布した。次いで、樹脂溶液を塗布した片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを、130℃のオーブン中に5分間静置したのち、放冷することにより、片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ約15μmの開環重合体水素化物1の塗膜を得た。
【0068】
〔実施例2〕
実施例1において、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンの使用量を2.5部に、1−ヘキセンの使用量を0.142部に、トルエンの使用量を92.2部に変更し、メタセシス重合触媒として、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.0144部を、6.25部のトルエンに溶解させた触媒液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物2、及び片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上の開環重合体水素化物2の塗膜を得た。得られた開環重合体水素化物2の数平均分子量(Mn)は1.2×10
4、重量平均分子量(Mw)は4.5×10
4、ガラス転移温度は111℃、水素化率は83%であった。これらの結果は表1に示す。
【0069】
〔実施例3〕
実施例1において、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンの使用量を5.6部に、1−ヘキセンの使用量を0.159部に、トルエンの使用量を105.1部に変更し、メタセシス重合触媒として、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.016部を6.94部のトルエンに溶解させた触媒液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物3、及び片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上の開環重合体水素化物3の塗膜を得た。得られた開環重合体水素化物3の数平均分子量(Mn)は1.1×10
4、重量平均分子量(Mw)は5.0×10
4、ガラス転移温度は113℃、水素化率は80%であった。これらの結果は表1に示す。
【0070】
〔比較例1〕
実施例1において、4,5−エポキシトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−エンを1.18部、ジシクロペンタジエンの70%シクロヘキサン溶液を28.6部、1−ヘキセン0.134部、トルエン86.8部の代わりに、ジシクロペンタジエンの70%シクロヘキサン溶液を28.6部、1−ヘキセン0.127部、トルエン77.9部に変更し、メタセシス重合触媒として、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド0.0124部を5.56部のトルエンに溶解させた触媒液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、開環重合体水素化物1r、及び片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上の開環重合体水素化物1rの塗膜を得た。得られた開環重合体水素化物1rの数平均分子量(Mn)は1.0×10
4、重量平均分子量(Mw)は3.2×10
4、ガラス転移温度は99℃、水素化率は98%であった。これらの結果は表1に示す。
【0071】
実施例1〜3及び比較例1で得られた、片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上の開環重合体水素化物の塗膜につき、下記に示す、JIS K5600に準拠したクロスカット試験を行った。その結果を下記表1に示す。
【0072】
〔クロスカット試験〕
片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上の開環重合体水素化物の塗膜の上から、下のフィルムに達するように1mm間隔で格子状に縦横に6本ずつの切れ込みを入れた。その上にセロハンテープを貼り、その後セロハンテープを剥離し、25マスのうち剥離する部分があるかないかを評価した。評価は以下の基準で行った。
○:全く剥離が無い。
×:完全に剥離したマスがある。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から、実施例1〜3の開環重合体水素化物は、比較例1の開環重合体水素化物に比して、他の材料との密着性に優れるものであることが分かる。