特許第6331885号(P6331885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331885金属品位の計算方法、計算装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331885
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】金属品位の計算方法、計算装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20180521BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20180521BHJP
   G01N 33/20 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/04
   G01N33/20 H
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-174522(P2014-174522)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-50319(P2016-50319A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 治男
(72)【発明者】
【氏名】槙 孝一郎
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00〜61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニッケルまたはコバルトを含む金属硫化物と、塩素とを反応させた場合の残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算装置に計算させる計算方法であって、
前記計算装置に、
前記金属硫化物と、前記塩素とを反応させる反応槽を物理的に分割せず、計算を行う所定の領域である分割領域に分割する分割手順と、
反応定数及び拡散定数を用いない流体の計算により、浸出が反応槽で均一な状態である理想状態の前記ニッケルまたは前記コバルトの浸出量と、前記理想状態の浸出量に対する偏差の予測に基づいて前記残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位の計算を実行させ、
前記偏差を、
前記塩素の前記反応槽内の濃度の平均値である平均濃度と、前記塩素の前記分割領域の平均濃度である領域濃度とに基づいて計算される濃度差、前記金属硫化物の前記分割領域の平均濃度である金属硫化物濃度、および前記金属硫化物が前記反応槽に滞留する滞留時間に基づいて計算して予測させる
金属品位の計算方法。
【請求項2】
少なくともニッケルまたはコバルトを含む金属硫化物と、塩素とを反応させた場合の残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算する計算装置であって、
前記金属硫化物と、前記塩素とを反応させる反応槽を物理的に分割せず、計算を行う所定の領域である分割領域に分割し、
反応定数及び拡散定数を用いない流体の計算により、浸出が反応槽で均一な状態である理想状態の前記ニッケルまたは前記コバルトの浸出量と、前記理想状態の浸出量に対する偏差の予測に基づいて前記残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算し、
前記偏差を、
前記塩素の前記反応槽内の濃度の平均値である平均濃度と、前記塩素の前記分割領域の平均濃度である領域濃度とに基づいて計算される濃度差、前記金属硫化物の前記分割領域の平均濃度である金属硫化物濃度、および前記金属硫化物が前記反応槽に滞留する滞留時間に基づいて計算して予測する
金属品位の計算装置。
【請求項3】
少なくともニッケルまたはコバルトを含む金属硫化物と、塩素とを反応させた場合の残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算装置に計算させるためのプログラムであって、
前記計算装置に、
前記金属硫化物と、前記塩素とを反応させる反応槽を物理的に分割せず、計算を行う所定の領域である分割領域に分割させ、
反応定数及び拡散定数を用いない流体の計算により、浸出が反応槽で均一な状態である理想状態の前記ニッケルまたは前記コバルトの浸出量と、前記理想状態の浸出量に対する偏差の予測に基づいて前記残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位の計算をさせ、
前記偏差を、
前記塩素の前記反応槽内の濃度の平均値である平均濃度と、前記塩素の前記分割領域の平均濃度である領域濃度とに基づいて計算される濃度差、前記金属硫化物の前記分割領域の平均濃度である金属硫化物濃度、および前記金属硫化物が前記反応槽に滞留する滞留時間に基づいて計算して予測させるのを
実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属品位の計算方法、計算装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)などを含む粒状物質をスラリー(slurry)とし、スラリーに塩素を吹き込んで有価金属を分離させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−197533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、残渣に含まれているニッケルやコバルトなどの金属品位を計算しなかったため、残渣に含まれているニッケルやコバルトなどの金属品位を推定することが難しい場合があった。
【0005】
本発明の1つの側面は、残渣に含まれているニッケルやコバルトなどの金属品位を推定しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様における、少なくともニッケルまたはコバルトを含む金属硫化物と、塩素とを反応させた場合の残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算装置に計算させる計算方法であって、前記計算装置に、前記金属硫化物と、前記塩素とを反応させる反応槽を物理的に分割せず、計算を行う所定の領域である分割領域に分割し、反応定数及び拡散定数を用いない流体の計算により、浸出が反応槽で均一な状態である理想状態の前記ニッケルまたは前記コバルトの浸出量と、前記理想状態の浸出量に対する偏差の予測に基づいて前記残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位の計算を実行させ、前記偏差を、前記塩素の前記反応槽内の濃度の平均値である平均濃度と、前記塩素の前記分割領域の平均濃度である領域濃度とに基づいて計算される濃度差、前記金属硫化物の前記分割領域の平均濃度である金属硫化物濃度、および前記金属硫化物が前記反応槽に滞留する滞留時間に基づいて計算して予測させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
残渣に含まれているニッケルまたはコバルトなどの金属品位を推定しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る計算装置のハードウェア構成の一例を説明するブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る計算装置による全体処理の一例を説明するフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る反応槽の一例を説明するモデル図である。
図4】本発明の一実施形態に係る計算結果の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<計算装置のハードウェア構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る計算装置のハードウェア構成の一例を説明するブロック図である。
【0011】
計算装置は、例えば計算装置1である。以下、計算装置が計算装置1である場合を例に説明する。計算装置1は、例えばPC(Personal Computer)などである。計算装置1は、タブレット、またはサーバなどの情報処理装置でもよい。
【0012】
計算装置1は、CPU(Central Processing Unit)1H1と、記憶装置1H2と、入力装置1H3と、出力装置1H4とを有する。
【0013】
CPU1H1は、計算装置1の有する装置の制御と、各種処理を実現するための演算とを行う。
【0014】
計算装置1の有する各装置は、バス(Bus)1H5によって相互に接続している。
【0015】
記憶装置1H2は、主記憶装置、および補助記憶装置等である。主記憶装置は、例えばメモリなどである。補助記憶装置は、例えばハードディスクである。記憶装置1H2は、計算装置1が用いる中間データを含むデータ、およびプログラムなどを記憶する。
【0016】
入力装置1H3は、ユーザの操作によって、計算に必要なパラメータ、および命令を計算装置1に入力するための装置である。入力装置1H3は、例えばキーボード、およびマウスなどである。
【0017】
出力装置1H4は、計算装置1による各種処理結果、および計算結果をユーザに出力するための装置である。出力装置1H4は、例えばディスプレイなどである。
【0018】
なお、計算装置1のハードウェア構成は、図1の構成に限られない。例えば計算装置1は、CPU1H1、および記憶装置1H2以外に演算装置、および記憶装置を有し、演算、および記憶を並列、分散、または冗長して行う装置でもよい。また、計算装置1には、並列、分散、または冗長して演算、および記憶を行う装置が計算装置1の外部に接続されている構成でもよい。
【0019】
<全体処理>
計算装置1は、少なくともニッケルまたはコバルトを含む金属硫化物(以下、硫化物という。)MS(Mは、ニッケルまたはコバルトなどの金属である。)と、塩素Clとを反応させた場合の残渣に含まれるニッケルまたはコバルトの品位を計算するための処理を行う。
【0020】
以後の説明は、残渣中に含まれるニッケル品位の(以下、残渣中のニッケル品位という。)の計算方法を例に説明する。
【0021】
計算装置1は、残渣中のニッケル品位(NiRes)を計算するための処理を行う。なお、実施形態は、ニッケルNiに限られない。計算装置1は、例えば硫化物MSに含まれるコバルトを計算してもよい。
【0022】
硫化物MSと、塩素Clと、の反応は、下記(1)式の総括反応式により進行する。
【0023】
MS+Cl →M2++2Cl+S (式1)
ここで、上述の(1)式のMは、元素状のニッケルを示し、Sは、元素状の硫黄を示す。
【0024】
硫化物MSと、塩素Clとの反応は、例えば硫化物MSを含むスラリーに塩素ガスを吹き込んで金属を酸化浸出させる塩素浸出法である。スラリーは、硫化物MSを液体で分散させた物質である。分散に用いる液体は、例えば塩化ニッケル水溶液といった塩化物水溶液である。
【0025】
計算装置1は、上述の(1)式で示す浸出反応の残渣に含まれるニッケルの品位を計算するための処理を行う。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る計算装置による全体処理の一例を説明するフローチャートである。
【0027】
ステップS0201では、計算装置1は、反応槽を分割領域に分割する分割処理を行う。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態に係る反応槽の一例を説明するモデル図である。
【0029】
反応槽は、例えば反応槽2である。以下、反応槽2を例に説明する。
【0030】
分割処理は、例えば図示するように反応槽2を高さ方向に20の分割領域に分割する処理である。なお、分割数、および分割方向は、図3の場合に限られない。例えば分割方向は、径方向であってもよい。
【0031】
分割処理を行うことによって、計算装置1は、反応槽2を分割しない1槽の場合に対して計算量を少なくすることができる。
【0032】
ステップS0202では、計算装置1は、理想状態のニッケルの浸出量を計算する処理を行う。
【0033】
ニッケルNiの浸出反応速度vは、例えば下記(2)式で示される。
【0034】
【数1】
ここで、[Ni]は、ニッケルNiイオン濃度を示す。[Cl]は、塩素Clイオン濃度を示す。[MS]は、硫化物MSイオン濃度を示す。上述の(2)式より、槽全体での滞留時間tのうち、微小時間ΔtでのニッケルNiの浸出量Δ[Ni]は、下記(3)式で示される。[Cl]、[MS]、および滞留時間tは、例えば流体解析などで算出する。
【0035】
【数2】
上述の(3)式より、反応槽2でのニッケルNiの平均浸出量Δ[Ni]aveは、下記(4)式で示される。
【0036】
【数3】
ここで、上述の(4)式での<>は、反応槽2の分割領域での平均を示す。以下、同様に記載する。
【0037】
上述の(4)式でのkは、ニッケルNi品位の実績データとのフィッティングで計算される定数である。フィッティングの詳細は、後述する。Δt/tは、槽全体での滞留時間tで規格化した滞留時間である。
【0038】
(4)式で示されるニッケルNiの平均浸出量Δ[Ni]aveを理想状態のニッケルNiの浸出量Δ[Ni]と、理想状態に対する偏差とに分けて示す場合、下記(5)式のように示せる。
【0039】
【数4】
ここで、[Cl]は、反応槽2での、塩素Clイオン濃度の平均値である平均濃度を示す。理想状態のニッケルNiの浸出量は、例えば(5)の第一項で計算される量である。理想状態に対する偏差は、例えば(5)の第二項で計算される量である。理想状態は、例えば滞留時間tが無限大の場合などである。
【0040】
ステップS0202では、計算装置1は、例えば(5)の第一項に基づいて理想状態のニッケルNiの浸出量を計算する処理を行う。
【0041】
ステップS0203では、計算装置1は、理想状態に対する偏差を計算する処理を行う。理想状態に対する偏差は、例えば(5)の第二項に基づいて偏差を計算する処理を行う。
【0042】
ステップS0204では、計算装置1は、全ニッケル量から理想状態のニッケルの浸出量と、理想状態に対する偏差とを減算する処理を行う。
【0043】
残渣に含まれるニッケルNiの品位Rは、下記(6)で示せる。
【0044】
【数5】
ここで、Aは、全ニッケルNi量を示す。
【0045】
上述の(6)式は、全ニッケル量Aから浸出量を減算する計算を示す式である。すなわち、(6)式は、第一項で理想状態での残渣に含まれるニッケル量を示し、第二項で残渣のずれに対応させた計算を行う式である。
【0046】
残渣に含まれるニッケルNiの品位Rは、例えば下記(7)で計算される均一度に基づいて計算する方法がある。
【0047】
【数6】
均一度は、上述の(7)式で示すように、塩素Clの平均濃度に対して塩素Clの濃度が±0.5パーセントとなる領域の体積について、槽全体の領域である槽体積に対する割合を計算した度合いである。
【0048】
(6)式で計算される残渣に含まれるニッケル量は、(7)式の均一度で計算されたニッケル量より精度良く計算することができる。
【0049】
図4は、本発明の一実施形態に係る計算結果の一例を説明する図である。
【0050】
比較図3は、(6)式の計算によって計算した「計算」と、実際の実験結果である「実績」とを比較するための図である。
【0051】
比較図3では、「計算」、および「実績」は、「条件1」乃至「条件5」の場合について比較される。
【0052】
「条件1」は、反応槽2について改造を行う前の条件である。
【0053】
「条件2」は、反応槽2について攪拌翼の形状を変更した条件である。
【0054】
「条件3」は、反応槽2について攪拌翼の設置位置を変更した条件である。
【0055】
「条件4」は、反応槽2について邪魔板を設置した条件である。
【0056】
「条件5」は、硫化物MSの流量を変更した条件である。
【0057】
フィッティング、すなわち上述の(2)式などのkは、例えば「条件1」の「計算」、および「実績」から計算される。
【0058】
比較図3の「条件2」乃至「条件5」で示すように、(6)式の計算によって計算した「計算」は、実際の実験結果である「実績」に対して精度良く計算されている。比較図3で示すように(6)式の計算によって計算した「計算」は、残渣中ニッケルNi品位が10パーセント以下の場合、精度良く計算できる。つまり、(6)式の計算によって計算した「計算」は、特に残渣中ニッケルNi品位が9パーセント以下の場合、より精度よく計算できる。
【0059】
したがって、(6)式の計算によって、計算装置1は、残渣に含まれているニッケルなどの品位を推定しやすくすることができる。また、残渣に含まれているニッケルなどの品位を推定することによって、残渣に含まれているニッケルなどの品位を低減することのできる設備設計をしやすくすることができる。
【0060】
上記の説明は、ニッケルの品位についてのものであるが、ニッケルをコバルトに置き換えることにより、コバルトの品位も同様に計算することができる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 計算装置
1H1 CPU
1H2 記憶装置
1H3 入力装置
1H4 出力装置
1H5 バス
2 反応槽
3 比較図
図1
図2
図3
図4