特許第6332034号(P6332034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6332034-架橋性アリールアミン組成物 図000034
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332034
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】架橋性アリールアミン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/58 20060101AFI20180521BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180521BHJP
   C08F 12/34 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   C07C211/58CSP
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
   !C08F12/34
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-549431(P2014-549431)
(86)(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公表番号】特表2015-511215(P2015-511215A)
(43)【公表日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】EP2012076301
(87)【国際公開番号】WO2013098175
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】11010251.4
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ラファエル・カイル
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・モヌーリ
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−528916(JP,A)
【文献】 特開2008−163306(JP,A)
【文献】 特表2010−515260(JP,A)
【文献】 特表2011−506617(JP,A)
【文献】 特開2008−98615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 211/00−211/65
H01L 51/00−51/56
C08F 12/00−12/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式NArArAr(式中、Ar、Ar及びArは同じでも異なってもよく、置換又は無置換のフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を表す)で表されるアリールアミンコアと、以下の基
【化1】

で表される少なくとも1つの付加−重合性基Xとを有しており、前記付加−重合性基は一般式(1)
C(R) (1)
(式中、R及びRは互いに独立にそれぞれC〜Cのアルキル基を表す)
のスペーサーを介して、アリールアミンコアの1つの環に結合している、アリールアミン化合物。
【請求項2】
及び/又はRがメチル基である、請求項1に記載のアリールアミン化合物。
【請求項3】
一般式(4)
【化2】

(A及びR10〜R13のうちの少なくとも1つは、一般式(1)のスペーサーを介して結合している付加−重合性基を有しており、Aは置換又は無置換のフェニレン基、ナフチレン基及びアントラセニレン基からなる群から選択され、nは1、2、又は3であり、R10〜R13は無置換又は置換のフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基である)
の化学式を有する、請求項1又は2に記載のアリールアミン化合物。
【請求項4】
が置換又は無置換のフェニレン又はナフチレンであり、かつ/又は10〜R13の少なくとも1つが置換又は無置換のフェニル又はナフチルである、請求項3に記載のアリールアミン化合物。
【請求項5】
式XVII〜XXXVIII
【化3A】

【化3B】

【化3C】

【化3D】

で表される、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のアリールアミン化合物。
【請求項6】
式XLVI
【化4】

で表される、請求項1に記載のアリールアミン化合物。
【請求項7】
有機電子デバイスの製造での請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
前記デバイスが有機発光ダイオード(OLED)である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアリールアミン化合物から得られるポリマーを含有する、有機発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電子デバイスの製造に有用な、新規な架橋性アリールアミン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスは、典型的には電極間に1つ以上の半導体層を有している。
【0003】
デバイスの性能及び効率の最適化が可能になることから、様々な理由のために特に有機発光ダイオード(OLED)の分野で多層デバイスが有利であるということが見出されてきた。
【0004】
多層デバイス合成における1つの課題は、デバイスの寿命及び効率に悪影響を与える、層間の界面混合を防ぐことである。これは特に、異なる層が順に基板上に塗布される、経済的に最も好ましい溶液プロセス又は蒸着プロセスを適用する場合に重要である。層材料は多くの場合有機溶媒に可溶なので、次の層を溶液から塗布すると、前の層の望ましくない構造変化の原因となる。
【0005】
この問題を解決する1つの可能性は、次の層の積層がその完全性又は組成に影響を与えない方法で層を塗布した後に層を改質することである。
【0006】
1つの可能性は、一連の層の塗布にいわゆる直交溶媒系を使用することである。
直交溶媒系とは、次の層を塗布するために、前に塗布した層が不溶(すなわち非常に低い溶解性)である溶媒系が使用されることを意味する。しかし、これは使用可能な材料を限定し、またデバイスの最適設計が非常に限定される恐れがある。
【0007】
この問題を解決するための別の可能性は、塗布した後に層を架橋させることである。架橋後は、通常、層は溶解しなくなり、構造及び組成は次の層の塗布によっては影響を受けなくなる。
【0008】
(非特許文献1)には、溶液プロセスで製造されるポリマー発光ダイオード用の架橋性正孔輸送材料が開示されている。架橋性基としてのトリフルオロビニルエーテル基又はスチリル基を有するアリールアミン化合物は参照文献のスキーム4〜6に開示されている。架橋性基は−CH−Oブリッジ又はスペーサーを介して材料の電気的に活性なコアと結合している。
【0009】
(非特許文献2)には、架橋をベースとする溶液プロセスで製造される多層OLEDの手法についての概要が示されている。シロキサン、スチレン、トリフルオロビニルエーテル、ケイ皮酸塩、カルコン、オキセタンを含む様々な架橋物質について記載されている。様々なアリールアミン化合物が開示されており、これらすべては、直接又はCH−O−スペーサーを介してアリールアミンの電気的に活性なコアと結合している架橋性基を有している。
【0010】
(非特許文献3)には、これもまたCH−O−スペーサーを介して分子の電気的に活性なコアと結合している架橋性スチリル基を有している、アリールアミン化合物が記載されている。
【0011】
(特許文献1)には、特にエレクトロルミネッセンスデバイスに使用される、架橋性基置換されたフッ素化合物が記載されている。請求項に記載されている化合物は、
【化1】
(式中、置換基Rの少なくとも1つは架橋性基である)
の構造を有している。
【0012】
請求項4によれば、4−ベンゾ−3,4−シクロブタン−1−イル及びp−ビニルベンジル、すなわちスチレン基は、フルオレニル構造の9位又は9’位にCH2基を介して結合していた。このような基を含むアリールアミンは明確には開示されていない。
【0013】
(特許文献2)には、架橋性基が結合しているフルオレニル基を有する、アリールアミンが開示されている。
【化2】
式中、このRもまたベンゾ−3,4−シクロブタン−1−イル及びp−ビニルベンジルを含む架橋性基である。この文献に示されている実施例のみがCH−Oスペーサーを介して結合しているスチリル基を含んでいる。
【0014】
(特許文献3)には、アリールアミン化合物が開示されている。
【化3】
式中、Spは任意選択的なスペーサーであり、Xは架橋性基である。スチリル及びベンゾシクロブタンが架橋性基として記載されており、スペーサーはアルキレン基とすることができ、特にはベンゾシクロブタン架橋性基と組み合わせることができる。開示された化合物はいずれもスペーサーSpを含んでおらず、架橋性基は必ずアリールアミンの電気的に活性なコアと直接結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2005/049689号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/049548号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/043070号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Jen et al,J.Mater.Chem.2008,18,4495−4509
【非特許文献2】Marder et al.,Chem.Mat.Rev.2011,23,658−681
【非特許文献3】Jen et al.,Chem.Mater.2008,20,413−422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
アリールアミンの電気的に活性なコアと直接又はスペーサーCH2−O−を介して結合した架橋性基を含有している、先行技術に記載されているアリールアミン化合物は、多層膜の1つとしてこのような化合物を含有するデバイスの安定性に関して十分に満足できるものではない。したがって、容易に架橋して多層膜を積層し易くする一方で、満足できる寿命及び効率を有するデバイスを提供する、多層OLEDに使用するための、架橋性基を有するアリールアミン化合物に対する需要が未だ存在している。
【0018】
したがって、本発明の目的は先行技術の化合物に対して改良されたアリールアミン化合物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に従うアリールアミン化合物を用いることでこの目的は達成される。
【0020】
本発明に従うアリールアミン化合物は、アリールアミンコアと、以下の基
【化4A】
からなる群から選択される少なくとも1つの付加−重合性基Xを有しており、前記付加重合性基は一般式(1)
C(R)−(C(R))m (1)
(式中、
及びRは互いに独立にそれぞれC〜Cのアルキル基又は5〜30個の炭素原子のアリール基を表し、
及びRは互いに独立に水素、C〜Cのアルキル基又は5〜30個の炭素原子のアリール基であり、mは0〜20の整数である)
のスペーサーを介して、又は一般式(2)又は(3)
【化5】
(式中、
は水素、C〜Cのアルキル、又はC〜C30のアリールを表し、
及びRは互いに独立にCアルキレン又はC〜C30のアリーレン基を表すが、
がメチレン基の場合にはR及びRの両方が付加−重合性基Xを保持しRは水素ではない)
のフルオレンサブユニットを介して、アリールアミンコアの1つの環に結合している。
【0021】
本発明の好ましい実施形態は従属項及び本明細書の以下で明らかにされている。
【0022】
本発明に従うアリールアミン化合物は、アリールアミンコアを有している。用語アリールアミンコアは、本明細書で用いられる場合、通常、アリール基が1つ以上の窒素原子と結合している構造要素のことをいう。
【0023】
通常、アリールアミンコアは、NArArAr(式中、Ar、Ar、及びArは同じでも異なってもよく、置換又は無置換のC〜C30のアリール、又は置換又は無置換のC〜C30のヘテロアリール基を表す)と表現することができる。アリール基の好ましい例は、フェニル、ナフチル、アントラセニルであり、特にはフェニル又はナフチルである。好ましいヘテロアリール基は、少なくとも1つのヘテロ原子、好ましくはO、N、及びSから選択されるヘテロ原子を含有する、5員環又は6員環のヘテロアリール化合物であり、特にこの好ましくはヘテロアリール環は少なくとも1つの窒素原子を含有している。
【0024】
用語付加−重合性基は、本発明との関係で用いられる場合、付加重合反応、すなわち(縮重合によって重合する基とは対照的に)低分子量化合物の形成又は分離なしに化学結合の転移によってポリマーを形成する反応、を行うことが可能な基のことをいう。付加重合性基は、その化学構造に応じて、熱的に、又は、UV若しくは可視光の照射によって、重合することができる。当業者であれば、その知識に基づいて、意図する重合方法及びポリマーに求められる特性に応じた、適切な付加−重合性基を選択するであろう。
【0025】
本発明に従うアリールアミン化合物は、スペーサー又は以下でより具体的に定義されるようなフルオレン基を介してアリールアミンコアの1つの環と結合している少なくとも1つの付加重合性基を有している。
【0026】
スペーサーは、一般式C(R)−(C(R))(式中、R及びRは互いに独立に、それぞれC〜Cのアルキル基又は5〜30個の炭素原子のアリール基を表す)を有している。
【0027】
驚くべきことに、アリールアミンコアに結合している炭素原子上に水素原子を持たないスペーサーは、有機電子デバイス中で使用された場合、それぞれ炭素原子に1つ以上の水素原子を有する対応する化合物と比較して、より安定性を高めるということが見出された。
【0028】
本発明の好ましい実施形態に従うと、式(1)のスペーサーは、置換基R及びRを有する炭素原子を介してアリールアミンコアと結合している。
【0029】
及びRは互いに独立に、水素、C〜Cのアルキル基、又は5〜30個の炭素原子のアリール基であり、mは0〜20の整数である。好ましい実施形態に従うと、R及びRは共にC〜Cのアルキル基、特に好ましくはメチル基を表す。
【0030】
別の好ましい実施形態に従うと、mは0〜6、好ましくは0〜3の整数であり、特に好ましくはmは0又は1〜3の整数である。
【0031】
あるいは、付加重合性基は、式(2)又は(3)のフルオレンサブユニットを介してアリールアミンコアの環と結合していてもよい。
【化6】
式中、Rは水素、C〜Cのアルキル、又はC〜C30のアリールを表し、
及びRは互いに独立にCアルキレン又はC〜C30のアリーレン基を表すが、
ただし、Rがメチレンの場合にはR及びRの両方が付加−重合性基Xを保持しRは水素ではない。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、Rは水素又はC〜Cのアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0033】
別の好ましい実施形態に従うと、R及びRは共にメチレン基(−CH−)である。
【0034】
本明細書では、用語C−アルキレンは、CHだけでなく、一方又は両方の水素原子が例えばアルキル基又はアルコキシ基などの置換基で置換されたメチレン基も含むことが意図されている。
【0035】
本発明に従う第1の好ましい分類のアリールアミン化合物は、一般式(4)の化合物で表される。
【化7】
式中、A及びR10〜R13のうちの少なくとも1つは、一般式(1)のスペーサーを介して結合している付加−重合性基を保持しており、Aは上で定義したArと同じ意味を有していてもよく、好ましくはAは置換又は無置換の5〜7員環のアリール環又はヘテロアリール環からなる群から選択され、nは1、2、又は3であり、R10〜R13はArで前に定義したような無置換又は置換のC〜C30のアリール又はC〜C30ヘテロアリール環である。
【0036】
別の好ましい実施形態に従うと、式(4)で表される本発明の化合物は、置換又は無置換のフェニル基又はナフチル基を有している。
【0037】
付加重合性基は、好ましくは、付加重合によって重合できる少なくとも1つの不飽和結合を有している。
【0038】
X基としては通常ビニル基が好ましく、特にはビニルフェニルが好ましい(一般的にはスチリル又はビニルフェニルとも呼ばれる)。
【0039】
アリールアミン化合物の以下の具体例(式I〜式XLV)は、それぞれ本発明に従う好ましいものであり、化合物XVII〜XLVが特に好ましい。
【化8A】
【化8B】
【化8C】
【化8D】
【化8E】
【化8F】
【化8G】
【化8H】
【0040】
本発明に従う2つの特に好ましい化合物は、式XLVI及び式XLVIIの化合物である。
【化9】
【0041】
本発明に従う化合物は、文献に記載の方法及び当業者に公知の方法に従って合成することができる。したがって、ここでは詳細に記載する必要はない。当業者であれば、目的とする生成物に応じて、適切な反応条件及び反応物を選択するであろう。
【0042】
本発明に従う化合物は、多層有機電子デバイスのいずれの層の作製にも、特にはOLED積層体のいずれの層の作製にも(正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロック層等)、使用することができる。当業者であれば、層に求められる機能に応じた適切な化合物を選択するであろう。
【0043】
本発明に従う組成物を用いることで、本発明のアリールアミン化合物から得られるフィルム層の架橋密度を細かく制御することができ、また、例えばガラス転移温度を下げる(その結果より多くの溶媒の除去、高い二重結合変換率、及び硬化に必要なエネルギーの低減が可能)などの複数の利点を得ることができる。更に、収縮及びフィルムの形態が改良される。
【0044】
本発明に従うアリールアミン化合物は、特にはOLEDの正孔輸送層の製造に好適であり、したがって、本発明の別の実施形態は、OLEDの正孔輸送層を製造するために本発明に従う組成物を使用することに関する。
【0045】
実用上の理由から、形成されるポリマーに悪影響を与えない温度で効率的に架橋するアリールアミン化合物を用いることが好ましい。通常、必要とされる架橋形成のための反応温度は150〜250℃の範囲であり、好ましくは化合物b)は、220℃以下の温度で、特には200℃以下で、必要な架橋度を得るために選択される。
【0046】
最後に、本発明の第3の実施形態は、本発明に従うアリールアミン化合物から得られるポリマーに関する。
【0047】
デバイスの特性の望ましくない変化を避けるために前に積層された層は次に積層する層の反応条件で不活性である必要ある、溶液プロセス法や気相プロセス法によって多層OLEDデバイスを製造するのに、本発明に従う化合物は特に有用である。このような多層有機電子デバイスの製造方法のための溶液プロセス及び気相プロセスは当業者に知られており、また文献にも記載されているため、ここでは詳しく説明する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】比較例3及び実施例4、5に従うOLEDデバイスの概略構造を示す。
図2】比較例3及び実施例4、5のJ−V特性を示す。
図3】比較例3のデバイス及びデバイス実施例4、5のデバイスの寿命データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
OLEDは一般的に、
例えば(但しこれに限定されない)ガラス、プラスチック、金属である基板;
一般に透明なアノード(例えば、酸化インジウムスズ(ITO)アノード);
例えば(但しこれに限定されない)PEDOT/PSSである正孔注入層(HIL);
正孔輸送層(HTL);
発光層(EML);
電子輸送層(ETL);
LiF、CsCOなどの電子注入層(EIL);及び
一般に金属のカソード(例えばAl層)を有している。デバイス実施例3〜5のデバイスの概略構造は図1に示されている。
【実施例】
【0050】
実施例1:化合物XLVIの合成
【化10】
コンデンサーを備え、アルゴン下の250mlの2口丸底フラスコに、5.3gのN4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニルビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)及び4.2gの2(4−ブロモフェニル−2−プロパノール)を65mlのジクロロメタンに溶解させた。次いで3.15mlのBFとEtOを室温で撹拌しながら滴下した。反応は薄層クロマトグラフィー(TLC)で追跡した。反応完結後、反応媒体をシリカゲルプラグで濾過した。プラグは25mlのジクロロメタンで洗浄した。減圧下で溶媒を除去した後、粗生成物を回収し、溶離液として50/50v/vのヘキサン/ジクロロメタン混合物を用いたシリカゲルでフラッシュクロマトグラフィーを行うことにより精製した。8.1gの純粋なN4,N4’−ビス(4−(2−(4−ブロモフェニル)プロパン−2−イル)フェニル)−N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)ビフェニル−4,4’−ジアミンが得られた。構造はNMRで同定した。
【化11】
【0051】
コンデンサーを備え、アルゴン下の250mlの2口丸底フラスコに、5.1gのN4,N4’−ビス(4−(2−(4−ブロモフェニル)プロパン−2−イル)フェニル)−N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)ビフェニル−4,4’−ジアミンと、3.34gのCsFと、0.14gのPd(dba)(dbaはジベンジリデンアセトンリガンドを示す)とを入れた。次いで、30mlの乾燥THF、3.3mlのビニルトリブチルスズ、及び0.11mlの2,8,9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデセンをシリンジで連続的に添加した。反応媒体を還流まで加熱し、50時間撹拌した。シリカゲルのプラグでの濾過と減圧蒸留による溶媒の除去を行った後、粗生成物が得られた。これを最初にメタノール中で析出させることで精製し、濾過して回収し、ヘキサン/トルエンの65/35v/v混合物を用いてシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーを行うことによって再び精製した。2.05gの純粋な化合物XLVIが得られた。構造はNMRで同定した。
【化12】
【0052】
実施例2−化合物XLVIIの合成
【化13】
コンデンサーを備えた500mlの3口丸底フラスコに、14.6gの2,7−ジブロモフルオレンと、150mlの水酸化カリウム(KOH)2Mと、150mlのトルエンと、2.9mlのテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)50重量%水溶液とを入れた。次いで、17.6mlのp−ビニルベンジルクロリドを激しく機械撹拌している状態でゆっくり添加した。反応を80℃で終夜撹拌し、冷却後有機相を抽出し、その後中性のpHになるまで水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。粗生成物を回収し、ジクロロメタンとヘキサンの20/80のv/v混合物を用いてシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーを行うことによって精製した。7.8gの純粋な2,7−ジブロモ−9,9−ジ(ビニルベンジル)フルオレンが得られた。
構造はNMRで同定した。
【化14】
【0053】
オーブン中で乾燥したアルゴン雰囲気下の3口丸底フラスコに、4.5gのN−フェニル−1−ナフチルアミンと、5.6gの2,7−ジブロモ−9,9−ジ(ビニルベンジル)フルオレンと、4.7gのKOt−Buと、0.138gのPd(dba)(dbaはジベンジリデンアセトンを表す)と、100mlの乾燥トルエンを入れた。次いで、P(t−Bu)の1Mトルエン溶液0.3mlを添加し、反応媒体を80℃で24時間撹拌した。冷却後、反応媒体を50gのアルミナプラグで濾過した。プラグを100mlのトルエンで洗浄した。減圧下で蒸留してトルエンを除去することで粗生成物を得、これを60/40v/vのヘキサン/トルエン混合物を用いてシリカゲル上でフラッシュクロマトグラフィーを行うことによって精製した。2.1gの純粋な化合物XLVIIが得られた。構造はNMRで同定した。
【化15】
【0054】
デバイス実施例
デバイス製造の一般的方法
全てのデバイスは、高真空熱蒸着及び溶液プロセス(スピンコーティング)を組み合わせることによって製造した。アノード電極は120nmの酸化インジウムスズ(ITO)であった。製造後すぐに全てのデバイスをエポキシ樹脂で封止されたガラス蓋で窒素グローブボックス(<1ppmのHOおよびO)内に封入し、湿分ゲッターをパッケージ内に取り入れた。浜松ホトニクス製のC9920−12外部量子効率測定システムを用いてデバイスを光学的および電気的に特性決定した。EQEは、%で表現された外部量子効率のことであり、作動安定性試験はデバイスを室温で定電流で駆動することにより行った。LT70は寿命の尺度であり、デバイスが定電流で駆動された時に光の出力が初期値の70%減少する時間に相当する。
【0055】
OLED積層体は、ITO表面から順に、空気中でのスピンコーティングによって積層された、Plexcore OC AQ 1200(自己ドープ型ポリマー、ポリ(チオフェン−3−[2[(2−メトキシエトキシ)エトキシ]−2,5−ジイル、Plextronics Inc社から供給)である60nmの正孔注入層(HIL)で構成された。
【化16】
【0056】
その先の製造工程は窒素グローブボックス(HOとOが<1ppm)中で行った。HILを180℃で20分、ホットプレート上でアニールした。
【0057】
HTM1又は化合物XLVI又は化合物XLVIIの1重量%トルエン溶液をスピンコーティングすることで、HILの上に30nmの正孔輸送層(HTL)を積層した。その後、HTLを200℃で60分、ホットプレート上でアニールした。
【0058】
その後、発光層(EML)として、20%のトリス[4−メチル−2−フェニルキノリン]イリジウム(III)[Ir(Mphq)]でドープしたTCzMeの20nm層を真空熱蒸着によって積層した。次いで、電子輸送層(ETL)として、ビス(2−メチル−8−キノリレート)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)の10nm層を真空熱蒸着によって積層した。次いで、電子注入層(EIL)として、BCP:CsCO10%(BCP=2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)の45nm層を真空熱蒸着によって積層した。カソードは50nmのAlで構成された。
【0059】
デバイスの詳細と性能データは表1にまとめられている。本明細書で用いられているHTM1、化合物XLVI、化合物XLVII、TCzMe、Ir(Mphq)、BAlq、BCPは以下の構造を有している。
【化17】
【0060】
【表1】
【0061】
表1のデバイス実施例4及び5から、本発明の化合物を含有するデバイスが良好な特性を有していることが分かる。特に、HTLとして本発明の化合物XVLI及びXLVIIを有するデバイスは、HTM1を有する比較例3よりも低い電圧を有する。これは図2のJ−V特性から理解することができる。HTLとして本発明の化合物XVLI及びXLVIIを使用することで、HTM1を使用したデバイスよりも10mA/cmでそれぞれ電圧を0.5V及び0.6V低くすることができる(図1参照)。これは、ひいてはHTM1を用いた場合の13.1lm/Wに対して、XVLIIを用いた場合、最大15.5lm/Wのより高い電力効率(PE)、すなわち18%の増加を実現する。
【0062】
図3から、HTLとして本発明の化合物XVLI及びXLVIIを使用することが、デバイスの安定性に良い影響を与えたことは明らかである。HTM1と比較して、これらの化合物を用いるとより長い寿命が得られた。本発明の化合物XVLI及びXLVIIはそれぞれ22時間及び21時間のLT70(L=8000cd/m)を与え、これはHTM1が実現することができる寿命(LT70=13時間)よりも60%長い。
【0063】
理論に拘束されるものではないが、HTM1の場合、残った未反応のビニル基がトリアリールアミン窒素のパラ位の共役コアに直接結合しているので、これらが問題を生じさせている可能性がある。すなわち、これらは直接、材料に含まれているラジカルカチオン(正孔)と相互作用し、その結果電荷のトラップ及び起こり得る劣化機構によってデバイスの安定が妨げられていると思われる。本発明の化合物XLVI及びXLVIIの場合、HTM1に対して向上した性能(電圧及び寿命)から、共役コアと共役していないスチレン基を有することで、未反応スチレン基がラジカルカチオン(正孔)と相互作用することが妨げられ、それにより正孔輸送に与える影響及びHTLの劣化が抑制されることが示唆される。
【0064】
これは、HTLとして、本発明の化合物XLVI及びXLVIIを用いることの明確な優位性を示している。
図1
図2
図3