特許第6332038号(P6332038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332038機能性被膜、液浸部材、液浸部材の製造方法、露光装置、及びデバイス製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332038
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】機能性被膜、液浸部材、液浸部材の製造方法、露光装置、及びデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20180521BHJP
   G03F 7/38 20060101ALI20180521BHJP
   G03F 7/20 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   C23C14/06 F
   G03F7/38 501
   !G03F7/20 521
   !G03F7/20 501
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-558589(P2014-558589)
(86)(22)【出願日】2014年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2014051234
(87)【国際公開番号】WO2014115755
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】61/755,098
(32)【優先日】2013年1月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】岸梅 工
(72)【発明者】
【氏名】瀧 優介
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/081062(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/138967(WO,A1)
【文献】 特表2009−504919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
G03F 7/20
G03F 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に浸漬された状態で使用される基材の表面に施される機能性被膜であって、
Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンの膜(ta−C:Ti膜)を含み、
前記膜の組成において、下記の式(1)により定義され、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)であるαが、0.03以上0.09以下である機能性被膜。
【数1】
【請求項2】
前記膜の表面における、純水の静的接触角βが30度以下である請求項1に記載の機能性被膜。
【請求項3】
前記膜の表面の、純Tiの表面と比較した汚れ指数γは80%以下である請求項1または2に記載の機能性被膜。
【請求項4】
前記基材がTiで構成される請求項1からのいずれか一項に記載の機能性被膜。
【請求項5】
記の式(2)により定義される、前記膜に占めるsp混成軌道のカーボン原子(sp−C原子)の割合δが、59%以下である請求項に記載の機能性被膜。
【数2】
【請求項6】
体との間で液体を保持して液浸空間を形成可能な液浸部材であって、
前記液浸部材の、前記液体と接する領域の少なくとも一部に請求項1からのいずれか一項に記載の機能性被膜が形成されている液浸部材。
【請求項7】
環状の部材である、請求項6に記載の液浸部材。
【請求項8】
メッシュ形状を有する、請求項6または7に記載の液浸部材。
【請求項9】
液体を介して露光光を用いて基板を露光する露光装置であって、
請求項6から8のいずれか一項に記載の前記液浸部材を備える露光装置。
【請求項10】
液体を回収する液体回収機構の一部に、前記液浸部材を備える請求項に記載の露光装置。
【請求項11】
請求項または10に記載の前記露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、を含むデバイス製造方法。
【請求項12】
基材の表面に施される機能性被膜であって、
Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンの膜(ta−C:Ti膜)を含み、
前記膜の組成において、下記の式(3)により定義される、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)であるαが、0.03以上0.09以下である機能性被膜。
【数3】
【請求項13】
前記膜の厚さは、10nm以上1μm以下である請求項12に記載の機能性被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性被膜、液浸部材、液浸部材の製造方法、露光装置、及びデバイス製造方法に関する。より詳細には、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質を有する機能性被膜、この機能性被膜を用いた液浸部材、液浸部材の製造方法、露光装置、及びデバイス製造方法に関する。
本願は、2013年1月22日に出願された米国特許仮出願第61/755,098号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ工程で用いられる露光装置において、例えば下記特許文献に開示されているような、液体を介して露光光で基板を露光する液浸露光装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/266533号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/018155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液浸露光装置において、基板等の物体上に液浸領域が形成されている状態では、基板であるウェハ表面のレジストやトップコートに含まれた成分が液体(純水)に溶出していることがある。そのため、液浸領域を形成する部材表面に、液体(純水)中に溶出していたレジストやトップコート成分が再析出し、この析出物が水流(液流)によって剥離して基板に付着してしまう可能性がある。基板に析出物が付着した状態でその基板を露光してしまうと、例えば基板に形成されるパターンに欠陥が生じる等、露光不良が発生し、不良デバイスが発生する可能性がある。さらに、何らかの原因で液体に混入した異物が液浸領域を形成する部材に付着し、この付着した異物が再度液体に混入した状態で基板を露光することもあり得る。
このため、液浸領域を形成する部材を定期的に洗浄し、表面の析出物を除去する必要が生じるが、洗浄の頻度・時間が増加すると生産性が低下する可能性がある。
また、液浸水を保持するために、液浸領域を形成する部材の表面は親水性を有することが求められている。さらに、部材表面はできる限り汚染しにくいことが求められている。すなわち、露光装置に搭載される、液浸領域を形成する部材には、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質が求められている。従来、このような表面性質を有する機能性被膜は存在しなかった。
【0005】
本発明の態様は、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質を有する機能性被膜を提供することを目的とする。また、本発明の態様は、露光不良の発生及び生産性の低下を抑制できる、液浸部材、液浸部材の製造方法、及び露光装置を提供することを目的とする。さらに、本発明の態様は、不良デバイスの発生及び生産性の低下を抑制できるデバイス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る機能性被膜は、液体に浸漬された状態で使用される基材の表面に施される機能性被膜であって、Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンの膜(ta−C:Ti膜)を含む。
【0007】
例えば、上記の態様では、前記膜の組成において、下記の式(1)により定義され、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)であるαが、0.03以上0.09以下である。
【数1】
【0008】
上記の態様では、前記膜の表面における、純水の静的接触角βが30度以下にできる。
【0009】
上記の態様では、前記膜の表面の、純Tiの表面と比較した汚れ指数γは80%以下にできる。
【0010】
上記の態様では、前記基材がTiで構成できる。
【0011】
例えば、上記の態様では、前記基材がTiで構成され、下記の式(2)により定義される、前記膜に占めるsp混成軌道のカーボン原子(sp−C原子)の割合δが、59%以下にできる。
【数2】
【0012】
本発明の一態様に係る液浸部材は、物体に照射される露光光の光路が液体で満たされるように前記物体との間で前記液体を保持して液浸空間を形成する液浸部材であって、上記の態様に記載の前記機能性被膜によって覆われた前記基材で構成され、かつ、前記基材がメッシュ形状を有する。
【0013】
本発明の一態様に係る露光装置は、液体を介して露光光を用いて基板を露光する露光装置であって、上記の態様に記載の前記液浸部材を備える。
【0014】
上記の態様では、露光装置は、液体を回収する液体回収機構の一部に、前記液浸部材を備えることができる。
【0015】
本発明の一態様に係るデバイス製造方法は、上記の態様に記載の前記露光装置を用いて基板を露光する工程と、露光された前記基板を現像する工程と、を含む。
【0016】
本発明の一態様に係る機能性被膜は、基材の表面に施される機能性被膜であって、Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンの膜(ta−C:Ti膜)を含み、前記膜の組成において、下記の式(3)により定義される、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)であるαが、0.03以上0.09以下である。
【数3】
【0017】
例えば、上記の態様では、前記膜の厚さは、10nm以上1μm以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質を有する機能性被膜を提供することができる。また、本発明の態様によれば、スループットを向上させ、露光不良の発生及び生産性の低下を抑制できる液浸部材、液浸部材の製造方法、及び露光装置を提供することができる。さらに、本発明の態様によれば、不良デバイスの発生及び生産性の低下を抑制できるデバイス製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る機能性被膜を示す断面図。
図2A】FCVA成膜装置の一例を示す概略構成図。
図2B】第1実施形態に係る液浸部材の製造方法を説明するための図。
図2C】第1実施形態に係る液浸部材の製造方法を説明するための図。
図3】汚染加速試験後の各試料の膜面を撮影した外観写真。
図4】様々なTi/C原子比率のta−C膜およびta−C:Ti膜について、数値化された汚染程度および純水の静的接触角を測定した結果を示す図。
図5】様々なTi濃度の黒鉛原料を用いて作製したta−C:Ti膜の化学組成。
図6】バイアス電圧とta−C:Ti膜の化学組成との関係を示す図。
図7】第1実施形態に係る露光装置を示す概略構成図。
図8】第1実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図9A】第1実施形態に係るメッシュ部材の一例を説明するための図。
図9B】第1実施形態に係るメッシュ部材の一例を説明するための図。
図9C】第1実施形態に係るメッシュ部材の一例を説明するための図。
図10】第2実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図11】第3実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図12】第4実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図13】第5実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図14】第6実施形態に係る液浸部材の近傍を示す側断面図。
図15図14に示す液浸部材を上側から見た図。
図16図14に示す液浸部材を下側から見た図。
図17図14に示す液浸部材の一部を拡大した図。
図18】マイクロデバイス製造工程の一例を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0021】
<機能性被膜>
図1は、本発明の実施形態に係る機能性被膜を示す断面図である。
上述の課題を克服するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、アモルファスカーボン膜においてTi含有量を制御することによって、親水性と防汚染性を兼ね備えた機能性被膜を作製することに成功した。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る機能性被膜208Bは、液体に浸漬された状態で使用される基材208Aの表面に施される機能性被膜である。機能性被膜208Bは、Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボン膜(以下、「ta−C:Ti膜」と称する。)である。基材208Aの材料としては、特に限定されるものではないが、たとえばシリコン(Si)やチタン(Ti)を用いることができる。基材208Aの表面に機能性被膜208Bを配したものを、以下では試料208とも呼ぶ。
【0022】
本実施形態において、機能性被膜(ta−C:Ti膜)208Bは、基材208Aの液体と接する領域の少なくとも一部の上に、フィルタードカソーディックバキュームアーク法(FCVA法)により成膜することができる。
【0023】
マイクロ波プラズマCVD(化学気相成長法)法、直流プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、有磁場プラズマCVD法等のCVD法、または、イオンビーム蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、レーザ蒸着法、レーザスパッタ法、アークイオンプレーティング法等のPVD法(物理気相成長法)では、a−C:Ti膜が作製できるが、ta−C:Ti膜は作製することが難しい。
また、FCVA法は、上記の成膜法の中でも、室温でも高い付着力で、かつ、複雑な形状の基材にも均一にコーティングを行うことが可能な成膜法である。
【0024】
FCVA法とは、ターゲットにアーク放電させることによりイオン化された粒子を発生させ、その粒子のみを基板に導いて成膜させる成膜法である。FCVA装置200の概略構成図を図2Aに示す。FCVA装置200では、グラファイトターゲット202が設置されたアークプラズマ発生室201と、成膜チャンバ206とが、空間フィルタ205により連結されている。成膜チャンバ206は、その内部に基板ホルダー207を具備する。基板ホルダー207は基材208Aを固定し、不図示の駆動手段により、基材208AをθX方向に傾斜させたり、θY方向に回転させることができる。空間フィルタ205は、−X軸方向及びY軸方向にダブルベンドされる。空間フィルタ205の周囲には電磁石コイル203が巻回され、成膜チャンバ206との連通部付近にイオンスキャンコイル204が巻回されている。
【0025】
FCVA法によりta−C:Ti膜を成膜するには、まず、アークプラズマ発生室201内のグラファイトターゲット202に直流電圧を印加することによりアーク放電させて、アークプラズマを発生させる。発生したアークプラズマ中の中性粒子、Cイオン、Tiイオン、Ti2+イオン、Ti3+イオン、Ti4+イオン、その他のイオンは、空間フィルタ205へと搬送され、空間フィルタ205を通過する過程で、中性粒子は電磁石コイル203によりトラップされ、Cイオン、Tiイオン、Ti2+イオン、Ti3+イオン、Ti4+イオン、その他のイオンのみが成膜チャンバ206内へと導かれる。この際、イオンスキャンコイル204によって、イオン流はその飛行方向を任意方向へ動かすことができる。成膜チャンバ206内の基材208Aには、負のバイアス電圧が印加されている。アーク放電によりイオン化されたCイオン、Tiイオン、Ti2+イオン、Ti3+イオン、Ti4+イオン、その他のイオンは、バイアス電圧により加速され、基材208A上に緻密な膜として堆積する。
【0026】
このようにして成膜されたta−C:Ti膜は、C原子とTi原子から構成される固体膜であり、Cについては、sp混成軌道を有するsp−Cと、sp混成軌道を有するsp−Cに大別される。
FCVA法においては、バイアス電圧をコントロールすることにより、sp−Cの割合を制御することが可能であり、ta−C膜及びta−C:Ti膜が成膜可能である。具体的には、FCVA法では、成膜時のバイアス電圧を調整することによって、ta−C膜及びta−C:Ti膜中のsp−C/sp−C含有比率を制御することができる。バイアス電圧を調整することにより、sp−Cが59%以下という割合のta−C:Ti膜を成膜することができる。
一方、ta−C:Ti膜中のTi含有量については、原料として用いているTi含有黒鉛焼結体中のTi含有量を変化させることによって制御できる。
【0027】
また、FCVA法では、飛行エネルギーの揃ったCイオン、Tiイオン、Ti2+イオン、Ti3+イオン、Ti4+イオン、その他のイオンのみが成膜チャンバ206内に導かれ、基材208Aに印加するバイアス電圧をコントロールすることにより、基材208Aへ入射する各種イオン粒子のイオン衝撃エネルギーを制御することができる。したがって、複雑な形状の基材208Aにおいても、均一成膜することが可能である。
【0028】
ta−C:Ti膜の組成については、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)をαと定義した場合、αは下記の式(1)により表され、αが、0.03以上、0.09以下である。これにより、ta−C:Ti膜は、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質を有するものとなる。αが0.03よりも小さいと、防汚染性を有するが、親水性が十分でない。一方、αが0.09よりも大きいと、超親水性を有するが、防汚染性が十分でない。
【0029】
【数1】
【0030】
このようなta−C:Ti膜からなる機能性被膜208Bの表面における、純水の静的接触角をβと定義した場合、βを30度以下とすることができる。これにより、機能性被膜208Bは、親水性を有するものとなる。
【0031】
また、ta−C:Ti膜からなる機能性被膜208Bの表面の、純Tiの表面と比較した汚れ指数をγと定義した場合、γを80%以下とすることができる。これにより、機能性被膜208Bは、防汚染性を有するものとなる。
【0032】
このように、ta−C:Ti膜からなる機能性被膜208Bは、親水性と防汚染性を兼ね備えた表面性質を有するものとなる。
【0033】
また、基材208Aがチタン(Ti)からなる場合、下記の式(2)において定義される、機能性被膜に占めるsp混成軌道のカーボン原子(sp−C原子)の割合δを59%以下とすることができる。これにより、機能性被膜208Bは、内部応力が低く抑えられたものとなり、基材208Aとの十分な付着力を確保することができる。
【0034】
【数2】
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る機能性被膜の特性を評価するために行った実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
本実施例では、平板状のSiからなる基材208Aに、機能性被膜としてTiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボン膜(ta−C:Ti膜)208B、及び、比較実験として純Ti膜を成膜することにより試料208とし、その特性を評価した。
【0037】
「製造例」
基材208Aを、有機溶剤、アルカリ液、および純水中で超音波洗浄した。洗浄後の基材208Aを、図2Aに示すような構成のFCVA成膜装置の成膜チャンバ内の基材ホルダーに片面(以下、A面という)が成膜されるように設置した。次に、カーボンイオンビームの射出方向に対して基材208A(図2A図2Cでは「208」と表記)のA面の角度が45度(図2Bにおけるφ=45度)となるように基材ホルダーを傾け、さらに基材208Aを基板ホルダーごと図2BのY軸が回転軸となるような方向(θY方向)に回転させながらta−C:Ti膜208Bの成膜を行い、試料208を得た。
【0038】
このとき、ターゲットとして、Tiをそれぞれ0at%、1.0at%、1.25at%、1.50at%、1.8at%、2.15at%、4.0at%含有させた黒鉛焼結体を原料として用いた。そして、それぞれアーク電流80Aにてアークプラズマを発生させ原料を蒸発、イオン化させた。そして、バイアス電圧を−1980Vとし、1500Hzのパルスを印加することにより、基材208A上に、ta−C:Ti膜208Bを成膜して試料208とした。成膜時間を制御することにより、各々の膜厚を実質的に50nmとした。膜厚は触針式段差計で測定した。膜厚は50nmに限定されず、10nm〜1000nmのいずれの膜厚を選択してもよい。例えば、ta−C:Ti膜の厚さは、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000nmにできる。なお、Ti含有量0at%の純黒鉛焼結体原料を用いて作製したTi/C原子比率0の膜はta−C膜である。
【0039】
このようにして得られたta−C:Ti膜について、各元素の化学組成を測定した。ta−C:Ti膜中の各元素の化学組成は、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)およびHFS(水素前方散乱分析法)により測定した。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、不純物のO,H濃度が極めて低い良質なTi含有テトラヘドラルアモルファスカーボン膜(ta−C:Ti膜)が得られていることがわかる。原料中のTi濃度が増加するにつれて、ta−C:Ti膜のTi/C原子比率も増加する。
【0040】
また、各Ti/C原子比率のta−C膜およびta−C:Ti膜について、汚染加速実験を行った。
汚染加速実験は、平板状のSiからなる基材208Aを用い、上述したような各Ti/C原子比率のターゲットを用いて、ta−C:Ti膜208Bをそれぞれ成膜した。また、比較として純Tiからなる基材208Aも用意した。これらの試料208を、汚染液としてトップコート成分を含む溶液中に縦に浸漬し、振盪機で40時間汚染させた。その結果を図3に示す。
【0041】
図3は、汚染加速試験後の各試料を上部から撮影した外観写真である。白く見える部分がトップコート成分からなる汚染物の析出である。
ta−C膜はほとんど汚染されておらず、一方、純Ti基材は激しく汚染されている。ta−C:Ti膜はTi/C原子比率が増加するほど、汚染程度も増加していくことがよくわかる。図3の各写真を画像処理することにより、白色の汚染領域の面積を数値化した。
【0042】
図4は、各Ti/C原子比率のta−C膜およびta−C:Ti膜について、数値化された汚染程度および純水の静的接触角を測定した結果である。
純水の静的接触角は、汚染試験を行う前に、ta−C:Ti膜を大気暴露した後、波長254nmの紫外線を照射する前に測定した値(△印)と、紫外線を照射した直後に測定した値(○印)とを、それぞれ示している。
【0043】
まず、紫外線照射前について、純水の静的接触角を測定した結果を述べる。
Ti/C原子比率が0(ゼロ:Tiを含有しない)の場合、すなわちta−C膜の場合、純水の静的接触角についてみると、紫外線照射前は、約40度〜60度であった。
一方、Tiをドープしたta−C:Ti膜の純水の静的接触角についてみると、紫外線を照射する前では、40〜80程度であり、撥水性が高いことがわかった。また、Ti/C原子比率が大きくなるほど、純水の接触角は大きくなる傾向があることも確認された。なお、比較例として純Tiについても評価したところ、純Tiの場合、純水の静的接触角は、70〜80度と撥水性が非常に高いことがわかった。
【0044】
次に、紫外線照射後について、純水の静的接触角を測定した結果を述べる。
Ti/C原子比率が0(ゼロ:Tiを含有しない)場合、紫外線を照射することにより、接触角は、紫外線照射前(約40度〜60度)に比べて、約28度まで著しく低下することがわかった。
これと同様に、ta−C:Ti膜についても、紫外線を照射することで、接触角を小さくすることができることがわかった。以下に詳細に説明する。
【0045】
Ti/C原子比率(α)が0.03より小さい領域Iの試料では、紫外線照射前に、純水の接触角は40〜60程度であった。これに対して、紫外線を照射することにより、Tiを含まない場合と同様に、純水の接触角は約28度まで低下することがわかった。この領域Iでは、Ti濃度が変化しても、数値に大きな変動は見られない。
つぎに、Ti/C原子比率(α)が0.03以上0.09以下の領域IIでは、紫外線照射前に、純水の接触角は45〜65程度であるが、紫外線を照射することにより、28度より小さくなることがわかった。また、この領域IIでは、Ti/C原子比率(α)が大きくなるほど、純水の接触角は急激に小さくなることもわかった。
また、Ti/C原子比率(α)が0.09よりも大きい領域IIIでは、膜中のTi濃度が高いので純Tiの性質に似ており、紫外線照射前は、純水の接触角は50〜70程度であるが、紫外線を照射することにより、接触角が実質的に0(ゼロ)の超親水化状態になることがわかった。
【0046】
なお、純Tiについての、純水の静的接触角は、紫外線照射前は、70〜80度と撥水性が非常に高いが、紫外線を照射することで、接触角が実質的に0の超親水化状態となることも確認された。
このように、Tiをドープしたta−C:Ti膜では、紫外線を照射することにより、純水の接触角が大きく変化することが判明した。すなわち、純水の接触角が劇的に小さくなり、膜表面が親水性を有するようになる。また、Ti/C原子比率との関係について述べると、紫外線を照射する前の(Ti/C原子比率が増えるにつれて、純水の接触角は増加する)傾向と比べると、紫外線を照射した後の傾向は、全く異なる挙動を示すことがわかった。
【0047】
次に、各領域I〜IIIのta−C:Ti膜について汚染程度を評価した。汚染程度は、純Tiの汚染領域の面積を1として相対数値化(純Tiの汚染領域の面積により規格化)した。数値が小さいほど汚染程度が微弱であることを表す、すなわち、汚れにくいことを示している。
図4から、Ti/C原子比率(α)が増えるにつれて、数値化された汚染程度(◇印で示す)が大きくなる、すなわち、汚染されやすくなる傾向にあることがわかる。
Ti/C原子比率(α)が0.03より小さい領域Iでは、汚染程度は0.15よりも小さく、汚れにくい。また、領域Iの範囲内では、Ti濃度が変化しても、数値に大きな変動は見られない。つぎに、Ti/C原子比率(α)が0.03以上0.09以下の領域IIでは、αが大きくなるにつれて汚染程度が急激に増加する。また、Ti/C原子比率(α)が0.09よりも大きい領域IIIでは、膜中のTi濃度が高いので純Tiの性質に似ており、汚染程度が0.7以上であり、非常に汚染されやすい。また、領域IIIの範囲内では、Ti濃度が変化しても、数値に大きな変動は見られず、飽和した傾向を示す。
【0048】
以上より、ta−C:Ti膜の防汚染性について、αが0.03よりも小さい領域Iでは、汚染程度は0.15以下であり汚れにくい。しかし、この領域では接触角が大きく、親水性は十分ではない。
一方、ta−C:Ti膜の親水性について、αが0.09よりも大きい領域IIIでは、純水の接触角が0(ゼロ)の超親水化状態になっている。しかし、この領域IIIは汚染程度が0.7以上であり、純Tiと同レベルとなり、非常に汚染されやすい。
これに対し、αが0.03以上0.09以下の領域IIでは、接触角が小さく、また汚染程度も低く抑えられ、防汚染性と親水性とを兼ね備えていることがわかる。特に、αが0.04以上0.05以下である領域IISの試料は、防汚染性と親水性とを極めてバランスよく兼ね備えており、特に良好な特性を示すことがわかった。
【0049】
液浸露光装置のメッシュ表面に求められる性質は、液浸水を保持できればよいので、超親水性である必要はなく、純水の静的接触角が30度未満程度の適度な親水性で十分である。好ましくは、接触角は20度以下である。一方で、防汚染性は高いほど、換言すれば、汚染されにくい表面であるほど良い。ゆえに、図4における領域IIのTi濃度を有するta−C:Ti膜が、防汚染性と親水性を両立するta−C:Ti膜であると結論付けることができる。特に、Ti/C原子比率(α)が0.04以上0.05以下である領域IISのTi濃度を有するta−C:Ti膜が、優れた特性を有することが明らかとなった。
【0050】
このような、Ti/C原子比率(α)が0.04以上0.05以下である領域IISとなるta−C:Ti膜は、図5から、Ti含有量1.25at%や1.5at%の黒鉛焼結体原料を用いることによって作製可能であることがわかる。
Ti含有量1.5at%の黒鉛焼結体原料を用いて作製されたta−C:Ti膜について、sp−C/sp−C原子比率を測定した。sp−C原子とsp−C原子の原子比率はX線光電子分光(XPS)により測定した。
また、バイアス電圧を変えてta−C:Ti膜を作製した。得られたta−C:Ti膜について、各元素の化学組成を測定した。その結果を図6に示す。
なお、化学組成測定用の試料208にはSiからなる基材208Aを用いた。応力測定用の試料208にはTiからなる基材208Aを用いた。
【0051】
図6から、バイアス電圧を変えることにより、sp−C/sp−C原子比率を変化させることができることが判明した。
ta−C:Ti膜を構成する全元素中のsp−C原子の割合(δ)は、59at%以下であることがわかる。この値は重要で、sp−C原子比率(δ)が60at%を超えてくると、圧縮応力が強くなり、実質的に様々な用途で付着力が確保できない。それ故、付着力を確保するために、膜を構成する全元素中のsp−C原子の割合は、59at%以下とすることができる。さらにsp−C原子の割合は、49at%以下であることが、好ましい。
なお、バイアス電圧は−190V〜−3000Vの間のいずれの電圧値を選択してもよい。これにより、低圧縮応力のta−C:Ti膜が得られる。一方、フローティング(floating)〜−150V間のいずれかの電圧値を選択すると圧縮応力の高いta−C:Ti膜が得られる。この場合、Tiメッシュとの付着力が弱くなる。
【0052】
また、図6からわかるように、バイアス電圧を変化させても、ta−C:Ti膜中のTi/C原子比率は変化せず一定である。一方、蒸発速度を変化させることができるアーク電流を変化させてもta−C:Ti膜中のTi/C原子比率(α)は変化せず一定である。従って、ta−C:Ti膜の化学組成、Ti/C原子比率(α)は、原料中のTi濃度によってのみ一義的に制御可能である。
【0053】
この領域IIの膜を成膜したメッシュ部材からなる液浸部材を具備した液浸露光装置は、液浸水を保持しながら高速でステージを運動させながら連続露光動作が可能であり、かつ、液浸部材の汚染速度が従来の5分の1程度になった。それ故、液浸部材の洗浄および交換のために装置を停止する頻度も5分の1になり、従来装置と比較して極めてスループットの高い液浸露光装置を提供できるようになった。
【0054】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るta−C:Ti膜からなる機能性被膜は、良好な親水性と防汚染性とを兼ね備えたものとなる。
このような機能性被膜を用いることによって、スループットを向上させ、露光不良の発生及び生産性の低下を抑制できる液浸部材、液浸部材の製造方法、及び露光装置を提供することができる。さらに、不良デバイスの発生及び生産性の低下を抑制できるデバイス製造方法を提供することができる。
【0055】
以下、本発明の実施形態に係る機能性被膜を用いた、液浸部材及び露光装置について説明する。
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。そして、水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向およびY軸方向のそれぞれと直行する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、θZ方向とする。後述する各実施形態において、機能性被膜によって被覆される、メッシュ部材24(多孔性部材)の基材は全てTiである。
【0056】
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。図7は、第1実施形態に係る露光装置EXの一例を示す概略構成図である。図7において、露光装置EXは、マスクMを保持して移動可能なマスクステージ1と、基板Pを保持して移動可能な基板ステージ2と、マスクステージ1を移動する第1駆動システム1Dと、基板ステージ2を移動する第2駆動システム2Dと、マスクステージ1及び基板ステージ2それぞれの位置情報を計測可能な干渉計システム3と、マスクMを露光光ELで照明する照明系ILと、露光光ELで照明されたマスクMのパターンの像を基板Pに投影する投影光学系PLと、露光装置EX全体の動作を制御する制御装置4とを備えている。
【0057】
マスクMは、基板Pに投影されるデバイスパターンが形成されたレクチルを含む。マスクMは、例えばガラス板等の透明板上にクロム等の遮光膜を用いて所定のパターンが形成された透過型マスクを含む。なお、マスクMとして、反射型マスクを用いることもできる。基板Pは、デバイスを製造するための基板である。基板Pは、例えばシリコンウェハのような半導体ウェハ等の基材に感光膜が形成されたものを含む。感光膜は、感光材(フォトレジスト)の膜である。また、基板Pが、感光膜と別の膜を含んでもよい。例えば、基板Pが、反射防止膜を含んでもよいし、感光膜を保護する保護膜(トップコート膜)を含んでもよい。
【0058】
本実施形態の露光装置EXは、液体LQを介して露光光ELで基板Pを露光する液浸露光装置である。露光装置EXは、露光光ELの光路Kの少なくとも一部が液体LQで満たされるように液浸空間LSを形成可能な液浸部材6を備えている。液浸空間LSは、液体LQで満たされた空間である。本実施形態においては、液体LQとして、水(純水)を用いる。
【0059】
本実施形態において、液浸空間LSは、投影光学系PLの複数の光学素子のうち、投影光学系PLの像面に最も近い終端光学素子5から射出される露光光ELの光路Kが液体LQで満たされるように形成される。終端光学素子5は、投影光学系PLの像面に向けて露光光ELを射出する射出面5Uを有する。液浸空間LSは、終端光学素子5とその終端光学素子5の射出面5Uと対向する位置に配置された物体との間の光路Kが液体LQで満たされるように形成される。射出面5Uと対向する位置は、射出面5Uから射出される露光光ELの照射位置を含む。
【0060】
液浸部材6は、終端光学素子5の近傍に配置されている。液浸部材6は、下面7を有する。本実施形態において、射出面5Uと対向可能な物体は、下面7と対向可能である。物体の表面が射出面5Uと対向する位置に配置されたとき、下面7の少なくとも一部と物体の表面とが対向する。射出面5Uと物体の表面とが対向しているとき、射出面5Uと物体の表面との間に液体LQを保持できる。また、液浸部材6の下面7と物体の表面とが対向しているとき、下面7と物体の表面との間に液体LQを保持できる。一方側の射出面5U及び下面7と、他方側の物体の表面との間に保持された液体LQによって、液浸空間LSが形成される。
【0061】
本実施形態において、射出面5U及び下面7と対向可能な物体は、終端光学素子5の射出側(像面側)で移動可能な物体を含み、射出面5U及び下面7と対向する位置に移動可能な物体を含む。本実施形態においては、その物体は、基板ステージ2、及びその基板ステージ2に保持された基板Pの少なくともー方を含む。なお、以下においては、説明を簡単にするために、主に、一方側の射出面5U及び下面7と他方側基板Pの表面とが対向している状態を例にして説明する。しかしながら、一方側の射出面5U及び下面7と他方側の基板ステージ2の表面とが対向している場合も同様である。
【0062】
本実施形態においては、射出面5U及び下面7と対向する位置に配置された基板Pの表面の一部の領域(局所的な領域)が液体LQで覆われるように液浸空間LSが形成され、その基板Pの表面と下面7との間に液体LQの界面(メニスカス、エッジ)LGが形成される。すなわち、本実施形態においては、露光装置EXは、基板Pの露光時に、投影光学系PLの投影領域PRを含む基板P上の一部の領域が液体LQで覆われるように液浸空間LSを形成する局所液浸方式を採用する。
【0063】
照明系ILは、所定の照明領域IRを均一な照度分布の露光光ELで照明する。照明系ILは、照明領域IRに配置されたマスクMの少なくとも一部を均一な照度分布の露光光ELで照明する。照明系ILから射出される露光光ELとして、例えば水銀ランプから射出される輝線(g線、h線、i線)及びKrFエキシマレーザ光(波長248nm)、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)等の遠紫外光(DUV光)及びF2レーザ光(波長157nm)等の真空紫外光(VUV光)等が用いられる。本実施形態においては、露光光ELとして、紫外光(遠紫外光)であるArFエキシマレーザ光を用いる。
【0064】
マスクステージ1は、マスクMを保持するマスク保持部1Hを有する。マスク保持部1Hは、マスクMを着脱可能である。本実施形態において、マスク保持部1Hは、マスクMのパターン形成面(下面)とXY平面とが実質的に平行となるように、マスクMを保持する。第1駆動システム1Dは、リニアモータ等のアクチュエータを含む。マスクステージ1は、第1駆動システム1Dの作動により、マスクMを保持してXY平面内を移動可能である。本実施形態においては、マスクステージ1は、マスク保持部1HでマスクMを保持した状態で、X軸、Y軸及びθZ方向の3つの方向に移動可能である。
【0065】
投影光学系PLは、所定の投影領域PRに露光光ELを照射する。投影光学系PLは、投影領域PRに配置された基板Pの少なくとも一部に、マスクMのパターンの像を所定の投影倍率で投影する。投影光学系PLの複数の光学素子は、鏡筒PKで保持される。本実施形態の投影光学系PLは、その投影倍率が例えば1/4、1/5又は1/8等の縮小系である。なお、投影光学系PLは、当倍系及び拡大系のいずれでもよい。本実施形態においては、投影光学系PLの光軸AXは、Z軸と実質的に平行である。また、投影光学系PLは、反射光学素子を含まない屈折系、屈折光学素子を含まない反射系、反射光学素子と屈折光学素子とを含む反射屈折系のいずれでもよい。また、投影光学系PLは、倒立像と正立像とのいずれを形成してもよい。
【0066】
基板ステージ2は、ベース部材8のガイド面8G上を移動可能である。本実施形態においては、ガイド面8Gは、XY平面と実質的に平行である。基板ステージ2は、基板Pを保持して、ガイド面8Gに沿って、XY平面内を移動可能である。
【0067】
基板ステージ2は、基板Pを保持する基板保持部2Hを有する。基板保持部2Hは、基板Pをリリース可能に保持可能である。本実施形態において、基板保持部2Hは、基板Pの露光面(表面)とXY平面とが実質的に平行となるように、基板Pを保持する。第2駆動システム2Dは、リニアモータ等のアクチュエータを含む。基板ステージ2は、第2駆動システム2Dの作動により、基板Pを保持してXY平面内を移動可能である。本実施形態においては、基板ステージ2は、基板保持部2Hで基板Pを保持した状態で、X軸、Y軸、Z軸、θX、θY及びθZ方向の6つの方向に移動可能である。
【0068】
基板ステージ2は、基板保持部2Hの周囲に配置された上面2Tを有する。本実施形態において、上面2Tは、平坦であり、XY平面と実質的に平行である。また、基板ステージ2は、凹部2Cを有する。基板保持部2Hは、凹部2Cの内側に配置される。本実施形態において、上面2Tと、基板保持部2Hに保持された基板Pの表面とが、実質的に同一平面内に配置される(面一となる)。
【0069】
干渉計システム3は、XY平面内におけるマスクステージ1及び基板ステージ2のそれぞれの位置情報を計測する。干渉計システム3は、XY平面内におけるマスクステージ1の位置情報を計測するレーザ干渉計3Aと、XY平面内における基板ステージ2の位置情報を計測するレーザ干渉計3Bとを備えている。レーザ干渉計3Aは、マスクステージ1に配置された反射面1Rに計測光を照射し、その反射面1Rを介した計測光を用いて、X軸、Y軸及びθZ方向に関するマスクステージ1(マスクM)の位置情報を計測する。レーザ干渉計3Bは、基板ステージ2に配置された反射面2Rに計測光を照射し、その反射面2Rを介した計測光を用いて、X軸、Y軸、及びθZ方向に関する基板ステージ2(基板P)の位置情報を計測する。
【0070】
また、本実施形態においては、基板ステージ2に保持された基板Pの表面の位置情報を検出するフォーカス・レベリング検出システム(不図示)が配置されている。フォーカス・レベリング検出システムは、Z軸、θX、及びθY方向に関する基板Pの表面の位置情報を検出する。
【0071】
基板Pの露光時、マスクステージ1の位置情報がレーザ干渉計3Aで計測され、基板ステージ2の位置情報がレーザ干渉計3Bで計測される。制御装置4は、レーザ干渉計3Aの計測結果に基づいて、第1駆動システム1Dを作動し、マスクステージ1に保持されているマスクMの位置制御を実行する。また、制御装置4は、レーザ干渉計3Bの計測結果及びフォーカス・レベリング検出システムの検出結果に基づいて、第2駆動システム2Dを作動し、基板ステージ2に保持されている基板Pの位置制御を実行する。
【0072】
本実施形態の露光装置EXは、マスクMと基板Pとを所定の走査方向に同期移動しつつ、マスクMのパターンの像を基板Pに投影する走査型露光装置(所謂スキャニングステッパ)である。基板Pの露光時、制御装置4は、マスクステージ1及び基板ステージ2を制御して、マスクM及び基板Pを、露光光ELの光路(光軸AX)と交差するXY平面内の所定の走査方向に移動する。本実施形態においては、基板Pの走査方向(同期移動方向)をY軸方向とし、マスクMの走査方向(同期移動方向)もY軸方向とする。制御装置4は、基板Pを投影光学系PLの投影領域PRに対してY軸方向に移動するとともに、その基板PのY軸方向への移動と同期して、照明系ILの照明領域IRに対してマスクMをY軸方向に移動しつつ、投影光学系PLと基板P上の液浸空間LSの液体LQとを介して基板Pに露光光ELを照射する。これにより、基板Pは露光光ELで露光され、マスクMのパターンの像が基板Pに投影される。
【0073】
次に、本実施形態に係る液浸部材6の一例及び液浸部材6の製造方法について、図面を参照して説明する。図8は、液浸部材6の近傍を示す側断面図である。
【0074】
なお、以下の説明においては、終端光学素子5の射出面5U及び液浸部材6の下面7と対向する位置に基板Pの表面が配置されている場合を例にして説明するが、上述のように、終端光学素子5の射出面5U及び液浸部材6の下面7と対向する位置には、基板ステージ2の上面2T等、基板P以外の物体も配置可能である。また、以下の説明においては、終端光学素子5の射出面5Uを、終端光学素子5の下面5U、と称することがある。
【0075】
液浸部材6は、終端光学素子5と基板Pとの間の露光光ELの光路Kが液体LQで満たされるように液浸空間LSを形成可能である。液浸部材6は、環状の部材であって、露光光ELの光路Kを囲むように配置されている。本実施形態においては、液浸部材6は、終端光学素子5の周囲に配置される側板部12と、Z軸方向に関して少なくとも一部が終端光学素子5の下面5Uと基板Pの表面との間に配置される下板部13とを有する。
なお、液浸部材6は、環状の部材でなくてもよい。例えば、液浸部材6が終端光学素子5及び射出面5Uから射出される露光光ELの光路Kの周囲の一部に配置されていてもよい。
【0076】
側板部12は、終端光学素子5の外周面14と対向し、その外周面に沿って形成された内周面15との間には、所定の間隙が形成されている。
【0077】
下板部13は、中央に開口16を有する。下面5Uから射出された露光光ELは、開口16を通過可能である。例えば、基板Pの露光中、下面5Uから射出された露光光ELは、開口16を通過し、液体LQを介して基板Pの表面に照射される。本実施形態においては、開口16における露光光ELの断面形状はX軸方向に長い矩形状(スリット状)である。開口16は、露光光ELの断面形状に応じた形状を有する。すなわち、XY平面内における開口16の形状は、矩形状(スリット状)である。また、開口16における露光光ELの断面形状と、基板Pにおける投影光学系PLの投影領域PRの形状とは実質的に同じである。
【0078】
また、液浸部材6は、液浸空間LSを形成するための液体LQを供給する供給口31と、基板P上の液体LQの少なくとも一部を吸引して回収する回収口32とを備えている。
【0079】
本実施形態においては、液浸部材6の下板部13は、露光光ELの光路の周囲に配置されている。下板部13の上面33は+Z軸方向を向いており、所定の間隙を介して上面33と下面5Uとが対向する。供給口31は、下面5Uと上面33との間の内部空間34に液体LQを供給可能である。本実施形態においては、供給口31は、光路Kに対してY軸方向両側のそれぞれに設けられている。
【0080】
供給口31は、流路36を介して、液体供給装置35と接続されている。液体供給装置35は、清浄で温度調整された液体LQを送出可能である。流路36は、液浸部材6の内部に形成された供給流路36A、及びその供給流路36Aと液体供給装置35とを接続する供給管で形成される流路36Bを含む。液体供給装置35から送出された液体LQは、流路36を介して供給口31に供給される。供給口31は、液体供給装置35からの液体LQを光路Kに供給する。
【0081】
回収口32は、流路38を介して、液体回収装置37と接続されている。液体回収装置37は、真空システムを含み、液体LQを吸引して回収可能である。流路38は、液浸部材6の内部に形成された回収流路38A、及びその回収流路38Aと液体回収装置37とを接続する回収管で形成される流路38Bを含む。液体回収装置37が作動することにより、回収口32から回収された液体LQは、流路38を介して、液体回収装置37に回収される。
【0082】
本実施形態において、液浸部材6の回収口32には、メッシュ部材24(多孔性部材)が配置されている。基板Pとの間の液体LQの少なくとも一部が回収口32(メッシュ部材24)を介して回収される。液浸部材6の下面7は、露光光ELの光路Kの周囲に配置されたランド面21と、露光光ELの光路Kに対してランド面21の外側に設けられた液体回収領域22とを含む。本実施形態において、液体回収領域22は、メッシュ部材24の表面(下面)を含む。
【0083】
以下の説明において、液体回収領域22を、回収面22、と称することがある。
【0084】
ランド面21は、基板Pの表面との間で液体LQを保持可能である。本実施形態において、ランド面21は−Z軸方向を向いており、下板部13の下面を含む。ランド面21は、開口16の周囲に配置されている。本実施形態において、ランド面21は、平坦であり、基板Pの表面(XY平面)と実質的に平行である。本実施形態において、XY平面内におけるランド面21の外形は、矩形状であるが、他の形状、例えば円形でもよい。
【0085】
回収面22は、一方側の下面5U及び下面7と他方側の基板Pの表面との間の液体LQの少なくとも一部を回収可能である。回収面22は、露光光ELの光路Kに対するY軸方向(走査方向)の両側に配置されている。本実施形態においては、回収面22は、露光光ELの光路Kの周囲に配置されている。すなわち、回収面22は、ランド面21の周囲に矩形環状に配置されている。また、本実施形態において、ランド面21と回収面22とは、実質的に同一平面内に配置される(面一である)。なお、ランド面21と回収面は同一平面内に配置されていなくてもよい。
【0086】
回収面22は、メッシュ部材24の表面(下面)を含み、回収面22に接触した液体LQをメッシュ部材24の孔を介して回収する。
【0087】
図9Aは、本実施形態のメッシュ部材24を拡大した平面図、図9Bは、図9AのA−A線断面矢視図である。図9A及び9Bに示すように、本実施形態において、メッシュ部材24は、複数の小さい孔24Hが形成された薄いプレート部材である。メッシュ部材24は、薄いプレート部材を加工して、複数の孔24Hを形成した部材であり、メッシュプレートとも呼ばれる。
【0088】
メッシュ部材24は、基板Pの表面と対向する下面24Bと、下面24Bと反対側の上面24Aとを有する。下面24Bは、回収面22を形成する。上面24Aは、回収流路38Aと接する。孔24Hは、上面24Aと下面24Bとの間に形成されている。すなわち、孔24Hは、上面24Aと下面24Bとを貫通するように形成されている。以下の説明において、孔24Hを、貫通孔24H、と称することがある。
本実施形態において、上面24Aと下面24Bとは、実質的に平行である。すなわち、本実施形態において、上面24Aと下面24Bとは、基板Pの表面(XY平面)と実質的に平行である。本実施形態において、貫通孔24Hは、上面24Aと下面24Bとの間を、Z軸方向と実質的に平行に貫通する。液体LQは、貫通孔24Hを流通可能である。基板P上の液体LQは、貫通孔24Hを介して、回収流路38Aに引き込まれる。
【0089】
本実施形態において、XY平面内における貫通孔(開口)24Hの形状は、円形である。また、上面24Aにおける貫通孔(開口)24Hの大きさと、下面24Bにおける貫通孔(開口)24Hの大きさとは実質的に等しい。なお、XY平面内における貫通孔24Hの形状は、円形以外の形状、例えば5角形、6角形等の多角形でもよい。また、上面24Aにおける貫通孔(開口)24Hの径や形状は、下面24Bにおける貫通孔(開口)24Hの径や形状と異なっていてもよい。
【0090】
本実施形態においては、制御装置4は、真空システムを含む液体回収装置37を作動して、メッシュ部材24の上面24Aと下面24Bとの間に圧力差を発生させることによって、メッシュ部材24(回収面22)より液体LQを回収する。回収面22から回収された液体LQは、流路38を介して、液体回収装置37に回収される。
【0091】
基板Pの露光中、基板Pから液体LQへと溶出した物質(例えばレジストやトップコート等の有機物)が、液浸部材6を構成する部材表面に再析出する可能性がある。液浸部材6の液体LQに接する領域に析出物が発生すると、その析出物が液流(水流)によって剥離して基板Pに付着してしまう可能性がある。
【0092】
本実施形態においては、液浸部材6の液体LQと接する領域の少なくとも一部に、上述したような機能性被膜、すなわち、Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボン膜(ta−C:Ti膜)が成膜されている。ta−C:Ti膜は、化学的に不活性であり、かつ、成膜される下地(基材)への付着力に優れるという性質を有する。また、本実施形態のta−C:Ti膜は、親水性と防汚染性とを兼ね備えている。
そのため、本実施形態において、液浸部材6のうち、ta−C:Ti膜が成膜されている領域では、接している液体LQ中に溶出しているレジスト成分やトップコート成分との化学的親和性が低く、液体LQへの濡れ・乾きを繰り返した状態となっても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の付着及び再析出が起こりにくい。したがって、液体LQに接する領域の液浸部材6の表面にトップコート成分が再析出して、この再析出物が剥離し、露光中の基板Pの表面に付着して露光不良が発生することを効果的に抑制することができる。これによりスループットを向上させることができる。
【0093】
本実施形態において、液浸部材6において、その表面にta−C:Ti膜が成膜される部分は、液体LQと接する領域であれば特に限定されることはなく、液体回収領域22(回収口32、メッシュ部材24)、ランド面21、下板部13、側板部12の液体LQと接する領域の少なくとも一部に成膜されていればよい。これらの液浸部材6を構成する部材のうち、レジスト成分やトップコート成分の再析出が発生しやすい領域、及び、液体LQの液流による影響を受けやすい領域にta−C:Ti膜が成膜されている構成とすることができる。
【0094】
このような構成とすることにより、レジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制し、再析出物の剥離、基板Pへの付着を抑制することができる。上述したレジスト成分やトップコート成分の再析出が発生しやすい領域、及び、液体LQの液流による影響を受けやすい領域としては、特に、液体回収領域22の回収口32(メッシュ部材24)が挙げられる。回収口32(メッシュ部材24)の表面にta−C:Ti膜が成膜されていることにより、レジスト成分やトップコート成分の再析出、再析出物の剥離、基板Pへの再析出物の付着を効果的に抑制し、露光不良を抑制することができる。
【0095】
また、本実施形態によれば、液浸部材6へのレジスト成分やトップコート成分の再析出が発生しにくくなるため、液浸部材6の洗浄作業の頻度を低減することができる。また、液浸部材6の表面にta−C:Ti膜が成膜されていることにより、繰り返しの露光工程により、レジスト成分やトップコート成分の再析出が起こった場合でも、液浸部材6の表面とレジスト成分やトップコート成分との化学的親和性が低いためにその付着力が弱く、再析出物の洗浄作業時間を短縮することができる。したがって、本実施形態によれば、洗浄作業の頻度・時間を低減することができるため、液浸露光装置のダウンタイムを短縮することができ、生産性の低下を抑制することが可能となる。
【0096】
本実施形態において、液浸部材6の基材は、Ti製である。これにより、ta−C:Ti膜は、内部応力が低く抑えられたものとなり、液浸部材6の基材との十分な付着力を確保することができる。なお、液浸部材6の基材が、ステンレス、Al等の耐食性を有する金属製、セラミックス製でもよい。
液浸部材6の少なくとも一部に成膜されるta−C:Ti膜の膜厚は特に限定されず、5nm以上とすることができ、10nm〜1μmが好ましい。ta−C:Ti膜としては、膜中に水素を殆ど含まないものを用いることができる。
【0097】
図9Cは、本実施形態において、回収口32のメッシュ部材24にta−C:Ti膜が成膜されている場合の一例を示す断面矢視図である。
本実施形態においては、図9Cに示すように、ta−C:Ti膜は、下面24B、貫通孔24Hの内壁面、上面24Aに成膜されている。下面24B、貫通孔24Hの内壁面、及び上面24Aのta−C:Ti膜の膜厚は特に限定されず、化学的に不活性なta−C:Ti膜を成膜することによる効果を得るために島状にならずに連続したta−C:Ti膜が成膜されていれば良く、5nm以上とすることができ、10nm〜1μmが好ましい。例えば、ta−C:Ti膜の厚さは、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000nmにできる。下面24B、上面24A、貫通孔24Hの内壁面に成膜されるta−C:Ti膜の厚さは、それぞれ実質的に同一でも異なっていてもよい。貫通孔24Hの内壁面のta−C:Ti膜の厚さは、貫通孔24Hの孔径により調整することができる。なお、ta−C:Ti膜は、下面24Bおよび/または上面24Aにのみ成膜されていてもよい。
【0098】
本実施形態において、図9Cに示すように、回収口32のメッシュ部材24にta−C:Ti膜を成膜するには、微細な貫通孔24Hの内壁面にも均一に成膜させることが可能な、FCVA法により成膜することができる。
図9Cに示すように、メッシュ部材24の上面24A、下面24B及び貫通孔24Hの内壁面にta−C:Ti膜をFCVA法により成膜する方法について説明する。
【0099】
まず、図2Aに示したFCVA装置200において、基板ホルダー207に、メッシュ部材24を、メッシュ部材24の上面24AがCイオン粒子の飛行方向(Y軸方向)と対向するように設置する。次に、図2Bに示すように、基板ホルダー207を不図示の駆動手段により操作して、メッシュ部材24をθX方向に回転させて、Cイオンの飛行方向であるY軸に対して上面24A平面が角度Φとなるように傾斜させる。さらに、基板ホルダー207の不図示の駆動手段により、θY方向に回転させながらta−C:Ti膜(ta−C)膜の成膜を行う。このようにメッシュ部材24を設置、回転させて成膜することにより、メッシュ部材24の上面24Aだけでなく、貫通孔24Hの内壁面にもCイオンが到達し、ta−C:Ti膜を成膜させることができる。なお、メッシュ部材24の上面24A平面のY軸(Cイオンの飛行方向)に対する傾斜角度Φは、メッシュ部材24の貫通孔24Hの内部までCイオンが到達し、貫通孔24Hの内壁面にta−C:Ti膜を成膜することができる角度であれば特に限定されず、例えば、45度とすることができる。
【0100】
メッシュ部材24の上面24A側へta−C:Ti膜を成膜した後、メッシュ部材24を基板ホルダー207から取り外し、片面(上面24A)側が成膜されたメッシュ部材24を、下面24BがCイオン粒子の飛行方向(Y軸方向)と対向するように基板ホルダー207に設置する。次いで、メッシュ部材24の下面24B側へ、上述した上面24A側の成膜方法と同じ手順で、傾斜角度ΦでθY方向に回転させながらta−C膜(ta−C)膜の成膜を行う。メッシュ部材24の下面24B側へta−C:Ti膜(ta−C)膜を成膜する際の、下面24B平面のY軸に対する傾斜角度Φは、上面24A側への成膜の際の下面24A平面のY軸に対する傾斜角度Φと同一とすることができる。上面24A側への成膜時の傾斜角度Φと下面24B側への成膜時の傾斜角度Φが同一となるようにメッシュ部材24を設置して成膜することにより、貫通孔24H内壁面に成膜されるta−C:Ti膜の膜厚を均一とすることができる。上記のような方法により、メッシュ部材24の上面24A、下面24B、及び貫通孔24Hの内壁面に、ta−C:Ti膜を成膜することにより、本実施形態に係る液浸部材6を製造することができる。
【0101】
本実施形態の液浸部材6において、その表面にta−C:Ti膜が成膜されている領域は、撥液性であるが、液体LQを保持して液浸空間LSを形成し、スムーズに液体LQの供給・回収を行うために、そのta−C:Ti膜の少なくとも一部を親液性とすることができる。なお、本実施形態において、「撥液性」とはその表面に純水を滴下したときの接触角が50度を超えるものを指し、「親液性」とはその表面に純水を滴下したときの接触角が50度以下であるものを指す。
【0102】
液浸部材6のta−C:Ti膜が成膜された領域を、撥液性から親液性へと変化させるには、ta−C:Ti膜が成膜された領域のうち、親液性としたい領域に対して、大気中にて紫外線を照射することにより行うことができる。ta−C:Ti膜を親水性にする場合は、波長254nmの紫外線を使用することができる。
【0103】
また、ta−C:Ti膜の表面に付着した汚染物(レジスト成分やトップコート成分)により、親水性が低下する場合があるが、紫外線を照射することで、親液性を復帰させることができる。
このときも、波長254nmの紫外線を用いることができる。
【0104】
以上説明したように、本実施形態の液浸部材によれば、液浸部材6の液体LQと接する領域の少なくとも一部にta−C:Ti膜が成膜されていることにより、ta−C:Ti膜が成膜されている領域では、接している液体LQ中に溶出しているレジスト成分やトップコート成分との化学的親和性が低く、液体LQへの濡れ・乾きを繰り返した状態となっても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の付着及び再析出が起こりにくい。したがって、液体LQに接する領域の液浸部材6の表面にレジスト成分やトップコート成分が再析出して、この再析出物が剥離し、露光中の基板Pの表面に付着して露光不良が発生することを効果的に抑制することができる。
【0105】
また、本実施形態の液浸部材によれば、液浸部材6へのレジスト成分やトップコート成分の再析出が発生しにくくなるため、液浸部材6の洗浄作業の頻度を低減することができる。また、液浸部材6の表面にta−C:Ti膜が成膜されていることにより、繰り返しの露光工程により、レジスト成分やトップコート成分の再析出が起こった場合でも、液浸部材6の表面とレジスト成分やトップコート成分との化学的親和性が低いために水流で再溶解して排出することが可能であり、またその付着力も弱いために、再析出物の洗浄作業時間を短縮することができる。したがって、本実施形態によれば、洗浄作業の頻度・時間を低減することができるため、液浸露光装置のダウンタイムを短縮することができ、生産性の低下を抑制することが可能となる。
【0106】
さらに、本実施形態の液浸部材の製造方法によれば、露光不良が発生することを効果的に抑制することができ、かつ、洗浄作業の頻度・時間を低減して生産性の低下を抑制することができる液浸部材を提供することが可能となる。
【0107】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一または同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0108】
図10は、第2実施形態に係る液浸部材6Bの一部を示す側断面図である。図10に示すように、液浸部材6Bの下面7は、第1ランド面51と、第1ランド面の外周に設けられた第2ランド面52より構成され、第1ランド面51と第2ランド面52は実質的に同一平面内に配置される(面一である)。供給流路36Aは、終端光学素子5の外周面14と対向して設けられた側板部12と、外周面57により形成されている。回収口53はメッシュ部材54の表面を含み、基板Pと対向せず、外周面57と対向するように配置されている。本実施形態の液浸部材6Bにおいては、第1ランド面51と、第2ランド面52の間に形成された第1開口55を介して空隙56に流入した液体LQは、回収口53のメッシュ部材54を介して吸引、回収される。なお、本実施形態においては、特開2008−182241号公報に開示されているような構成の液浸部材6Bでもよい。
【0109】
本実施形態において、液浸部材6Bの構成部材のうち、その表面にta−C:Ti膜が成膜される領域としては、第1実施形態と同様に、液体LQと接する領域の構成部材が挙げられ、例えば、回収口53、メッシュ部材54、第1ランド面51、第2ランド面52、外周面57である。中でも、液体LQの界面LGと接する第2ランド面52、液体LQを回収する回収口53であるメッシュ部材54にta−C:Ti膜が成膜されていることが好ましい。なお、メッシュ部材54の構成およびメッシュ部材54へのta−C:Ti膜の成膜方法は、第1実施形態と同様である。
【0110】
本実施形態においても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制することができるため、再析出物剥離による基板Pへの付着による露光不良が発生することを抑制することができる。また、レジスト成分やトップコート成分の再析出抑制により、洗浄工程の頻度を低減させることができるため、生産性の低下を抑制することができる。
【0111】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一または同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0112】
図11は、第3実施形態に係る液浸部材6Cの一部を示す側断面図である。図11に示すように、液浸部材6Cにおいては、終端光学素子5の周囲に設置された供給部材61により形成された供給流路61Hは、供給口62が基板Pと対向している。回収部材63により供給部材61の外周に形成された回収流路63Hは、回収口64が基板Pと対向している。トラップ部材65は回収部材63の外周に取り付けられており、トラップ面66はトラップ部材65のうち基板P側を向く面(すなわち下面)であって、図6に示すように、水平面に対して傾斜している。本実施形態の液浸部材6Cにおいては、供給口62から基板Pに、基板面に対して実質的に垂直方向から供給された液体LQは、終端光学素子5の下面5Uと基板Pとの間に濡れ広がるように供給される。また、液浸空間LSの液体LQは、回収口64より基板面から実質的に垂直方向に吸引、回収される。なお、本実施形態においては、特開2005−109426号公報に開示されているような構成の液浸部材6Cでもよい。
【0113】
本実施形態において、液浸部材6Cの構成部材のうち、その表面にta−C:Ti膜が成膜される領域としては、第1実施形態と同様に、液体LQと接する領域の構成部材が挙げられ、供給部材61、回収部材63、トラップ部材65(トラップ面66)のいずれでもよい。
【0114】
本実施形態においても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制することができるため、再析出物剥離による基板Pへの付着による露光不良が発生することを抑制することができる。また、レジスト成分やトップコート成分の再析出抑制により、洗浄工程の頻度を低減させることができるため、生産性の低下を抑制することができる。
【0115】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一または同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0116】
図12は、第4実施形態に係る液浸部材6Dの一部を示す側断面図である。図12に示すように、液浸部材6Dにおいては、終端光学素子5の周囲に、圧力調整用回収流路71A、圧力調整用供給流路72A、供給流路73A、回収流路74A、及び補助回収流路75Aが、液浸部材6Dの内周側から外周側に向かって順に形成されている。液浸部材6Dの下面7には、終端光学素子5の周囲に、圧力調整用回収口71B、圧力調整用供給口72B、供給口73B、回収口74B、及び補助回収口75Bが、液浸部材6Dの内周側から外周側に向かって順に、基板Pと対向して形成されている。
【0117】
本実施形態の液浸部材6Dにおいては、供給口73Bから供給された液体LQは、基板P上に濡れ拡がり、液浸領域LSを形成する。液浸領域LSの液体LQは、回収口74Bから吸引、回収される。基板P上の液浸領域LSの液体LQを回収口74Bで回収しきれなかった場合、その回収しきれなかった液体は回収口74Bの外側に流出するが、補助回収口75Bを介して回収することができる。また、基板Pの露光中、圧力調整用回収口71Bから液浸空間LSの液体LQを回収したり、圧力調整用供給口72Bから液浸空間LSへと液体LQを供給することにより、液浸領域LSを所望の形状・圧力に制御することができる。なお、本実施形態においては、特開2005−223315号公報に開示されているような構成の液浸部材6Dでもよい。
【0118】
本実施形態において、液浸部材6Dの構成部材のうち、その表面にta−C:Ti膜が成膜される領域としては、第1実施形態と同様に、液体LQと接する領域に配置される構成部材が挙げられる。
【0119】
本実施形態においても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制することができるため、再析出物剥離による基板Pへの付着による露光不良が発生することを抑制することができる。また、レジスト成分やトップコート成分の再析出抑制により、洗浄工程の頻度を低減させることができるため、生産性の低下を抑制することができる。
【0120】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一または同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
図13は、第5実施形態に係る液浸部材6Eの一部を示す側断面図である。図13に示すように、液浸部材6Eにおいては、壁82aと壁83aとの間に隙間81が画定されており、この隙間81に連続して設けられた分離チャンバ84を有する。液体LQは、この隙間81を通って、分離チャンバへ84と導入される。液体と気体とは分離チャンバ84にて分離される。
分離チャンバ84に連続して、気体回収路85および液体回収路87が、それぞれ設けられている。分離チャンバ84で分離された気体は、膜86を通って、気体回収路85から回収される。分離された液体は、液体回収路87から回収される。
【0121】
本実施形態において、液浸部材6Eの構成部材のうち、その表面にta−C:Ti膜が成膜される領域としては、第1実施形態と同様に、液体LQと接する領域に配置される構成部材が挙げられる。
特に、本実施形態においては、液体回収路87の入口部分に、ta−C:Ti膜が成膜されたメッシュ部材89が配されていることが好ましい。
【0122】
本実施形態においても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制することができるため、再析出物剥離による基板Pへの付着による露光不良が発生することを抑制することができる。また、レジスト成分やトップコート成分の再析出抑制により、洗浄工程の頻度を低減させることができるため、生産性の低下を抑制することができる。
【0123】
<第6実施形態>
次に、第6実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一または同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
図14は、第6実施形態に係る液浸部材103の一例を示す側断面図、図15は、液浸部材103を上側(+Z側)から見た図、図16は、液浸部材103を下側(−Z側)から見た図、図17は、図14の一部を拡大した図である。
【0124】
本実施形態において、液浸部材103は、少なくとも一部が射出面107に対向するように配置されるプレート部131と、少なくとも一部が終端光学素子108の側面108Fに対向するように配置される本体部132と、流路形成部材133とを含む。本実施形態において、プレート部131と本体部132とは一体である。本実施形態において、流路形成部材133は、プレート部131及び本体部132と異なる。本実施形態において、流路形成部材133は、本体部132に支持されている。なお、流路形成部材133と、プレート部131及び本体部132とが一体でもよい。
【0125】
なお、側面108Fは、射出面107の周囲に配置されている。本実施形態において、側面108Fは、光路Kに対する放射方向に関して、外側に向かって上方に傾斜している。なお、光路Kに対する放射方向は、投影光学系PLの光軸AXに対する放射方向を含み、Z軸と垂直な方向を含む。
【0126】
液浸部材103は、射出面107が面する位置に開口115を有する。射出面107から射出された露光光ELは、開口115を通過して基板Pに照射可能である。本実施形態において、プレート部131は、射出面107の少なくとも一部と対向する上面116Aと、基板Pの表面が対向可能な下面116Bとを有する。開口115は、上面116Aと下面116Bとを結ぶように形成される孔を含む。上面116Aは、開口115の上端の周囲に配置され、下面116Bは、開口115の下端の周囲に配置される。
【0127】
本実施形態において、上面116Aは、平坦である。上面116Aは、XY平面と実質的に平行である。なお、上面116Aの少なくとも一部が、XY平面に対して傾斜していてもよいし、曲面を含んでもよい。本実施形態において、下面116Bは、平坦である。下面116Bは、XY平面と実質的に平行である。なお、下面116Bの少なくとも一部が、XY平面に対して傾斜していてもよいし、曲面を含んでもよい。下面116Bは、基板Pの表面との間で液体LQを保持する。
【0128】
図16に示すように、本実施形態において、下面116Bの外形は、八角形である。なお、下面116Bの外形が、例えば四角形、六角形等、任意の多角形でもよい。また、下面116Bの外形が、円形、楕円形等でもよい。
【0129】
液浸部材103は、液体LQを供給可能な供給口117と、液体LQを回収可能な回収口118と、回収口118から回収された液体LQが流れる回収流路119と、回収流路119の液体LQと気体Gとを分離して排出する排出部120とを備えている。
【0130】
供給口117は、光路Kに液体LQを供給可能である。本実施形態において、供給口117は、基板Pの露光の少なくとも一部において、光路Kに液体LQを供給する。供給口117は、光路Kの近傍において、その光路Kに面するように配置される。本実施形態において、供給口117は、射出面107と上面116Aとの間の空間SRに液体LQを供給する。供給口117から空間SRに供給された液体LQの少なくとも一部は、光路Kに供給されるとともに、開口115を介して、基板P上に供給される。なお、供給口117の少なくとも一つの少なくとも一部が側面108Fに面していてもよい。
【0131】
液浸部材103は、供給口117に接続される供給流路129を備えている。供給流路129の少なくとも一部は、液浸部材103の内部に形成されている。本実施形態において、供給口117は、供給流路129の一端に形成された開口を含む。供給流路129の他端は、供給管134Pが形成する流路134を介して液体供給装置135と接続される。
【0132】
液体供給装置135は、クリーンで温度調整された液体LQを送出可能である。液体供給装置135から送出された液体LQは、流路134及び供給流路129を介して供給口117に供給される。供給口117は、供給流路129からの液体LQを光路K(空間SR)に供給する。
【0133】
回収口118は、基板P上(物体上)の液体LQの少なくとも一部を回収可能である。回収口118は、基板Pの露光において、基板P上の液体LQの少なくとも一部を回収する。回収口118は、−Z方向を向いている。基板Pの露光の少なくとも一部において、基板Pの表面は、回収口118に面する。
【0134】
本実施形態において、液浸部材103は、回収口118を有する第1部材128を備えている。第1部材128は、第1面128B、第1面128Bと異なる方向を向く第2面128A、及び第1面128Bと第2面128Aとを結ぶ複数の孔128Hを有する。本実施形態において、回収口118は、第1部材128の孔128Hを含む。本実施形態において、第1部材128は、複数の孔(openingsあるいはpores)128Hを有するメッシュ部材(多孔部材)である。なお、第1部材128が、網目状に多数の小さい孔が形成されたメッシュフィルタでもよい。すなわち、第1部材128には、液体LQを回収可能な孔を有する各種部材を適用できる。
【0135】
回収流路119の少なくとも一部は、液浸部材103の内部に形成されている。本実施形態において、回収流路119の下端に開口132Kが形成されている。開口132Kは、下面116Bの周囲の少なくとも一部に配置される。開口132Kは、本体部132の下端に形成されている。開口132Kは、下方(−Z方向)を向く。本実施形態において、第1部材128は、開口132Kに配置されている。回収流路119は、本体部132と第1部材128との間の空間を含む。
【0136】
第1部材128は、光路K(下面116B)の周囲の少なくとも一部に配置される。本実施形態において、第1部材128は、光路Kの周囲に配置される。なお、環状の第1部材128が光路K(下面116B)の周囲に配置されていてもよいし、複数の第1部材128が、光路K(下面116B)の周囲において、離散的に配置されてもよい。
【0137】
本実施形態において、第1部材128は、プレート状の部材である。第1面128Bは、第1部材128の一方の面であり、第2面128Aは、第1部材128の他方の面である。本実施形態において、第1面128Bは、液浸部材103の下側(−Z方向側)の空間SPに面している。空間SPは、例えば、液浸部材103の下面114と液浸部材103の下面114に対向する物体(基板P等)の表面との間の空間を含む。液浸部材103の下面114に対向する物体(基板P等)上に液浸空間LSが形成されている場合、空間SPは、液浸空間(液体空間)LSと気体空間GSとを含む。
【0138】
本実施形態において、第1部材128は、第1面128Bが空間SPに面し、第2面128Aが回収流路119に面するように開口132Kに配置される。本実施形態において、第1面128Bと第2面128Aとは、実質的に平行である。第1部材128は、第2面128Aが+Z方向を向き、第1面128Bが第2面128Aの反対方向(−Z方向)を向くように開口132Kに配置される。また、本実施形態において、第1部材128は、第1面128B及び第2面128AとXY平面とが実質的に平行となるように、開口132Kに配置される。
【0139】
以下の説明において、第1面128Bを、下面128B、と称することがあり、第2面128Aを、上面128A、と称することがある。
【0140】
なお、第1部材128は、プレート状でなくてもよい。また、下面128Bと上面128Aとが非平行でもよい。また、下面128Bの少なくとも一部がXY平面に対して傾斜していてもよいし、曲面を含んでもよい。また、上面128Aの少なくとも一部がXY平面に対して傾斜していてもよいし、曲面を含んでもよい。
【0141】
孔128Hは、下面128Bと上面128Aとを結ぶように形成される。流体(気体G及び液体LQの少なくとも一方を含む)は、第1部材128の孔128Hを流通可能である。本実施形態において、回収口118は、下面128B側の孔128Hの下端の開口を含む。孔128Hの下端の周囲に下面128Bが配置され、孔128Hの上端の周囲に上面128Aが配置される。
【0142】
回収流路119は、第1部材128の孔128H(回収口118)に接続されている。第1部材128は、孔128H(回収口118)から、下面128Bと対向する基板P(物体)上の液体LQの少なくとも一部を回収する。第1部材128の孔128Hから回収された液体LQは、回収流路119を流れる。
【0143】
本実施形態において、液浸部材103の下面114は、下面116B及び下面128Bを含む。本実施形態において、下面128Bは、下面116Bの周囲の少なくとも一部に配置される。本実施形態において、下面116Bの周囲に環状の下面128Bが配置される。なお、複数の下面128Bが、下面116B(光路K)の周囲に離散的に配置されてもよい。
【0144】
本実施形態において、第1部材128は、第1部分381と、第2部分382とを含む。本実施形態において、第2部分382は、光路Kに対する放射方向に関して、第1部分381の外側に配置される。本実施形態において、第2部分382は、第1部分381よりも、空間SPから回収流路119への孔128Hを介した気体Gの流入が抑制されている。本実施形態において、光路Kに対する放射方向に関して、第1部分381の幅は、第2部分382の幅より小さい。
【0145】
本実施形態において、第2部分382では、孔128Hを介した空間SPから回収流路119への気体Gの流入抵抗が、第1部分381よりも大きい。
【0146】
第1部分381及び第2部分382は、それぞれ複数の孔128Hを有する。例えば、空間SPに液浸空間LSが形成されている状態において、第1部分381の複数の孔128Hのうち、一部の孔128Hは、液浸空間LSの液体LQと接触し、一部の孔128Hは、液浸空間LSの液体LQと接触しない可能性がある。また、第2部分382の複数の孔128Hのうち、一部の孔128Hは、液浸空間LSの液体LQと接触する可能性があり、一部の孔128Hは、液浸空間LSの液体LQと接触しない可能性がある。
【0147】
本実施形態において、第1部分381は、空間SPの液体LQ(基板P上の液体LQ)と接触している孔128Hから液体LQを回収流路119に回収可能である。また、第1部分381は、液体LQと接触していない孔128Hから回収流路119に気体Gを吸い込む。
【0148】
すなわち、第1部分381は、液浸空間LSに面している孔128Hから液浸空間LSの液体LQを回収流路119に回収可能であり、液浸空間LSの外側の気体空間GSに面している孔128Hから回収流路119に気体Gを吸い込む。
【0149】
換言すれば、第1部分381は、液浸空間LSに面している孔128Hから液浸空間LSの液体LQを回収流路119に回収可能であり、液浸空間LSに面していない孔128Hから回収流路119に気体Gを吸い込む。
【0150】
すなわち、液浸空間LSの液体LQの界面LGが、第1部分381と基板Pとの間に存在する場合において、第1部分381は、液体LQを気体Gとともに回収流路119に回収する。なお、界面LGにおいて、液浸空間LSと気体空間GSとに面している孔128Hから液体LQと気体Gの両方を吸い込んでもよい。
【0151】
第2部分382は、空間SPの液体LQ(基板P上の液体LQ)と接触している孔128Hから液体LQを回収流路119に回収可能である。また、第2部分382は、液体LQと接触していない孔128Hから回収流路119への気体Gの流入が抑制される。
【0152】
すなわち、第2部分382は、液浸空間LSに面している孔128Hから液浸空間LSの液体LQを回収流路119に回収可能であり、液浸空間LSの外側の気体空間GSに面している孔128Hから回収流路119への気体Gの流入が抑制される。
【0153】
本実施形態において、第2部分382は、実質的に液体LQのみを回収流路119に回収し、気体Gは回収流路119に回収しない。
【0154】
本実施形態において、液浸部材の構成部材のうち、その表面にta−C:Ti膜が成膜される領域としては、第1実施形態と同様に、液体LQと接する領域に配置される構成部材が挙げられる。
【0155】
本実施形態においても、液体LQ中のレジスト成分やトップコート成分の再析出を抑制することができるため、再析出物剥離による基板Pへの付着による露光不良が発生することを抑制することができる。また、レジスト成分やトップコート成分の再析出抑制により、洗浄工程の頻度を低減させることができるため、生産性の低下を抑制することができる。
特に本実施形態の液浸部材では、液体の回収圧力が高い。このような液浸部材に対して、本発明の実施形態に係るta−C:Ti膜を用いることで、上述したような効果を、より十分に発揮することができる。
【0156】
なお、上述の各実施形態においては、投影光学系PLの終端光学素子5の射出側(像面側)の光路が液体LQで満たされているが、例えば国際公開第2004/019128号に開示されているように、終端光学素子の入射側(物体面側)の光路も液体LQで満たされる投影光学系PLを採用することができる。
【0157】
なお、上述の各実施形態においては、液体LQとして水を用いているが、水以外の液体であってもよい。
また、本実施形態では、液浸部材6の表面にta−C:Ti膜を設け、紫外線を照射することにより親水性としたが、液浸部材の一部を撥水性としてしてもよい。液体と接触する部分に親水性のta−C:Ti膜を設けその外周に撥水性のta−C:Ti膜を設けることにより、親水性の部分に液体を保持する効果が期待できる。なお、ta−C:Ti膜を成膜後に遮光部材で覆った状態で紫外線を照射することにより、撥水性の部分と親水性の部分を組み合わせることができる。
【0158】
なお、上述の各実施形態の基板Pとしては、半導体デバイス製造用の半導体ウェハのみならず、ディスプレイデバイス用のガラス基板、薄膜磁気ヘッド用のセラミックウェハ、あるいは露光装置で用いられるマスクまたはレチクルの原版(合成石英、シリコンウェハ)等が適用される。
【0159】
露光装置EXとしては、マスクMと基板Pとを同期移動してマスクMのパターンを走査露光するステップ・アンド・スキャン方式の走査型露光装置(スキャニングステッパ)の他に、マスクMと基板Pとを静止した状態でマスクMのパターンを一括露光し、基板Pを順次ステップ移動させるステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置(ステッパ)にも適用することができる。
【0160】
さらに、ステップ・アンド・リピート方式の露光において、第1パターンと基板Pとを実質的に静止した状態で、投影光学系を用いて第1パターンの縮小像を基板P上に転写した後、第2パターンと基板Pとを実質的に静止した状態で、投影光学系を用いて第2パターンの縮小像を第1パターンと部分的に重ねて基板P上に一括露光してもよい(スティッチ方式の一括露光装置)。また、スティッチ方式の露光装置としては、基板P上で少なくとも2つのパターンを部分的に重ねて転写し、基板Pを順次移動させるステップ・アンド・スティッチ方式の露光装置にも適用できる。
【0161】
また、例えば米国特許第6611316号に開示されているように、2つのマスクのパターンを、投影光学系を介して基板上で合成し、1回の走査露光によって基板上の1つのショット領域を実質的に同時に二重露光する露光装置などにも本発明を適用することができる。また、プロキシミティ方式の露光装置、ミラープロジェクション・アライナーなどにも本発明を適用することができる。
【0162】
また、露光装置EXが、例えば米国特許第6341007号、米国特許第6208407号、米国特許第6262796号等に開示されているような、複数の基板ステージを備えたツインステージ型の露光装置でもよい。この場合、端部に回収口が配置され、捕捉面を有する回収流路が、複数の基板ステージのそれぞれに設けられていてもよいし、一部の基板ステージに設けられていてもよい。
【0163】
また、露光装置EXが、例えば米国特許第6897963号、米国特許出願公開第2007/0127006号等に開示されているような、基板を保持する基板ステージと、基準マークが形成された基準部材及び/又は各種の光電センサを搭載し、露光対象の基板を保持しない計測ステージとを備えた露光装置でもよい。また、複数の基板ステージと計測ステージとを備えた露光装置にも適用することができる。この場合、端部に回収口が配置され、捕捉面を有する回収流路が、計測ステージに配置されていてもよい。
【0164】
露光装置EXの種類としては、基板Pに半導体素子パターンを露光する半導体素子製造用の露光装置に限られず、液晶表示素子製造用又はディスプレイ製造用の露光装置や、薄膜磁気ヘッド、撮像素子(CCD)、マイクロマシン、MEMS、DNAチップ、あるいはレチクル又はマスクなどを製造するための露光装置などにも広く適用できる。
【0165】
なお、上述の各実施形態においては、レーザ干渉計を含む干渉計システムを用いて各ステージの位置情報を計測するものとしたが、これに限らず、例えば各ステージに設けられるスケール(回折格子)を検出するエンコーダシステムを用いてもよい。
【0166】
なお、上述の実施形態においては、光透過性の基板上に所定の遮光パターン(又は位相パターン・減光パターン)を形成した光透過型マスクを用いたが、このマスクに代えて、例えば米国特許第6778257号に開示されているように、露光すべきパターンの電子データに基づいて透過パターンスは反射パターン、あるいは発光パターンを形成する可変成形マスク(電子マスク、アクティブマスク、あるいはイメージジェネレータとも呼ばれる)を用いてもよい。また、非発光型画像表示素子を備える可変成形マスクに代えて、自発光型画像表示素子を含むパターン形成装置を備えるようにしても良い。
【0167】
上述の各実施形態においては、投影光学系PLを備えた露光装置を例に挙げて説明してきたが、投影光学系PLを用いない露光装置及び露光方法に本発明を適用することができる。例えば、レンズ等の光学部材と基板との間に液浸空間を形成し、その光学部材を介して、基板に露光光を照射することができる。
【0168】
また、例えば国際公開第2001/035168号に開示されているように、干渉縞を基板P上に形成することによって、基板P上にライン・アンド・スペースパターンを露光する露光装置(リソグラフィシステム)にも本発明を適用することができる。
【0169】
上述の実施形態の露光装置EXは、本願請求の範囲に挙げられた各構成要素を含む各種サブシステムを、所定の機械的精度、電気的精度、光学的精度を保つように、組み立てることで製造される。これら各種精度を確保するために、この組み立ての前後には、各種光学系については光学的精度を達成するための調整、各種機械系については機械的精度を達成するための調整、各種サブシステムから露光装置への組み立て工程は、各種サブシステム相互の、機械的接続、電気回路の配線接続、気圧回路の配管接続等が含まれる。この各種サブシステムから露光装置への組み立て工程の前に、各サブシステム個々の組み立て工程がある。各種サブシステムの露光装置への組み立て工程が終了したら、総合調整が行われ、露光装置全体としての各種精度が確保される。なお、露光装置の製造は温度およびクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
【0170】
半導体デバイス等のマイクロデバイスは、図18に示すように、マイクロデバイスの機能・性能設計を行うステップ501、この設計ステップに基づいたマスク(レクチル)を製作するステップ502、デバイスの基材である基板を製造するステップ503、上述の実施形態の露光装置を用いて、マスクのパターンからの露光光で基板を露光する工程、及び露光された基板を現像する工程を含む基板処理ステップ504、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)505、検査ステップ506等を経て製造される。
【0171】
なお、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した露光装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0172】
一例として、上記の実施形態では、液体に浸漬された状態で使用される基材の表面に施される機能性被膜について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の機能性被膜は、液体に浸漬された状態で使用される基材以外の、種々の基材の表面に施すことができる。
具体的には、本発明の一実施形態に係る機能性被膜308Bは、基材308Aの表面に施される機能性被膜であって、Tiドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンの膜(ta−C:Ti膜)を含む。その膜の組成において、下記の式(3)により定義される、Cに対するTiの原子比率(Ti/C原子比率)であるαは、0.03以上0.09以下である。
【数3】
【0173】
ta−C:Ti膜の厚さは、例えば、10nm以上1μm以下とすることができる。具体的には、ta−C:Ti膜の厚さは、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000nmにできる。なお、ta−C:Ti膜の厚さは、これに限定されない。
【0174】
上記の機能性被膜308Bは、化学的に安定でかつ汚れにくいという特性を持つため、液浸部材のみでなく、光学部材等の保護膜としても使用することができる。例えば、高温で密着して使用する部材の表面を保護する保護膜として使用することができる。
【符号の説明】
【0175】
2…基板ステージ、5…終端光学素子、6…液浸部材、22…液体回収領域(回収面)、24…メッシュ部材、24H…貫通孔(孔)、208A…基材、208B…機能性被膜、208…試料、EL…露光光、EX…露光装置、K…光路、LQ…液体、LS…液浸空間、P…基板。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18