(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332041
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】合成石英ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/00 20120101AFI20180521BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B24B37/00 H
G11B5/84 A
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-2402(P2015-2402)
(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-155139(P2015-155139A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-7673(P2014-7673)
(32)【優先日】2014年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 晴信
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−129232(JP,A)
【文献】
特開2005−059184(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/043418(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/043253(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/035545(WO,A1)
【文献】
再公表特許第2011/121903(JP,A1)
【文献】
特開2009−087441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00−37/34
G11B5/84
C03C19/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密研磨前に界面活性剤が添加されている水溶液に表面が鏡面化された合成石英ガラス基板を浸漬させた後、コロイダルシリカ水分散液を用いて浸漬後の合成石英ガラス基板を精密研磨することを特徴とする合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
精密研磨直前に浸漬する請求項1記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤が、直鎖のアルキルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする請求項3に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ノニオン系界面活性剤のHLB値が、8〜15であることを特徴とする請求項3又は4に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤の添加量が、0.01〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記コロイダルシリカ水分散液に含まれるコロイダルシリカ砥粒の一次粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用いて研磨を行うようにした請求項1〜7のいずれか1項に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
合成石英ガラスインゴットを順次、成型、アニール、スライス加工して、得られた合成石英ガラス基板を面取り、ラッピング及び粗研磨して、表面が鏡面化された合成石英ガラス基板を得た後、前記合成石英ガラス基板について、請求項1〜8のいずれか1項記載の浸漬及び精密研磨を行う請求項1〜8のいずれか1項記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
精密研磨工程が、セミファイナル又はファイナルポリッシュ工程である請求項9記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク、ナノインプリント、液晶用カラーフィルター等、最先端技術に用いられる合成石英ガラス基板を作製するためのコロイダルシリカ水分散液を使用する研磨工程を含む合成石英ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短い波長の光でリソグラフィーを行う技術が確立されるにつれ、パターンの超微細化が可能となってきているが、波長が短くなることによる焦点深度の浅さから、マスクに使用される合成石英ガラス基板に完全性が求められている。具体的には、微細パターニング用反射型マスク用基板として、基板の表面が高平坦、かつ低欠陥で、面粗さが小さいものが好適とされている。
【0003】
また、現行で使用されているArFエキシマレーザー(波長193nm)を用い、ダブルパターニングなどの手法を用いたパターンの微細化、EUV光を用いたリソグラフィーに必要とされる基板としても、低欠陥、低粗度の要求を満たす合成石英ガラス基板を用いることが考えられている。
【0004】
フォトマスクやナノインプリント、液晶用に使用される合成石英ガラス基板等は、高平坦度、高平滑性、低欠陥度等の要求スペックに応じるため、その表面調整に、ラッピング工程、ポリッシング工程等、数段階の工程を経て製品が製造される。
ラッピング工程では、インゴットからスライスしたときの加工歪みを除去し、ポリッシング工程では、基板を鏡面化して表面の平坦度及び形状の作り込みを行い、最終的に精密研磨工程において、コロイダルシリカ砥粒の研磨スラリーを用いて基板表面を平滑にし、微小欠陥を除去した基板を製造する。
【0005】
現在、合成石英ガラス基板表面を低欠陥、低粗度に仕上げる手法としては、最終精密研磨工程において、コロイダルシリカ砥粒の研磨スラリーを同伴させながら軟質のスェード系研磨布を用いて研磨をすることが一般的な手法として用いられる。
【0006】
EUVリソグラフィーなどのデザインルールの超微細化のトレンドにより、コロイダルシリカスラリーを用いた精密研磨工程の研磨精度を高めるため、研究が多く進められている。
【0007】
例えば、特開2009−087441号公報(特許文献1)では、研磨液中に含まれるシリカ粒子の凝集物がガラス基板に付着することを防ぐために、被研磨物のガラス基板とシリカ凝集物の電位差が20mV以下となる条件でガラス基板を研磨する方法が記載されている。なお、シリカ凝集体のゼータ電位は、シリカ単体のゼータ電位とは異なり、ゼロ電位方向へ変化したものであることが文献内で記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−087441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コロイダルシリカ砥粒による研磨は、低粗度、低欠陥の基板表面を作り出すための有効な手法であるが、研磨レートが酸化セリウム砥粒や酸化ジルコニウム砥粒と比較して格段に遅い。特許文献1が示すように、ゼータ電位を制御することによってガラス基板表面へのシリカ凝集物の付着を抑えることは表面改質には効果がある一方で、研磨レートが一般的なコロイダルシリカ砥粒を用いた研磨よりも更に遅くなる可能性が考えられ、工業的観点からみてスループットが良いとは言い難い。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、合成石英ガラス基板の研磨工程において優れた研磨レートを示し、かつフォトマスク用など基板表面における低欠陥、低粗度の要求を満たすことのできる合成石英ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨スラリーに用いる研磨工程に投入する基板の表面の状態に着目して鋭意検討した。その結果、特に、合成石英ガラス基板を研磨直前にノニオン系界面活性剤が入っている水溶液に浸すことで、従来のコロイダルシリカ砥粒の研磨スラリーを使用した場合の表面品質を維持しながら、研磨レートの向上を同時に達成できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の合成石英ガラス基板の製造方法を提供する。
〔1〕
精密研磨前に界面活性剤が添加されている水溶液に
表面が鏡面化された合成石英ガラス基板を浸漬させた後、コロイダルシリカ水分散液を用いて
浸漬後の合成石英ガラス基板を精密研磨することを特徴とする合成石英ガラス基板の製造方法。
〔2〕
精密研磨直前に浸漬する〔1〕記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
3〕
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤であることを特徴とする〔1〕
又は〔2〕に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
4〕
前記ノニオン系界面活性剤が、直鎖のアルキルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする〔
3〕に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
5〕
前記ノニオン系界面活性剤のHLB値が、8〜15であることを特徴とする〔
3〕又は〔
4〕に記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
6〕
前記界面活性剤の添加量が、0.01〜0.5質量%であることを特徴とする〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
7〕
前記コロイダルシリカ水分散液に含まれるコロイダルシリカ砥粒の一次粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする〔1〕〜〔
6〕のいずれかに記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔
8〕
界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用いて研磨を行うようにした〔1〕〜〔
7〕のいずれかに記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔9〕
合成石英ガラスインゴットを順次、成型、アニール、スライス加工して、得られた合成石英ガラス基板を面取り、ラッピング及び粗研磨して、表面が鏡面化された合成石英ガラス基板を得た後、前記合成石英ガラス基板について、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の浸漬及び精密研磨を行う〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
〔10〕
精密研磨工程が、セミファイナル又はファイナルポリッシュ工程である〔9〕記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一般的なコロイダルシリカ砥粒を使用した研磨スラリーを用いた場合よりも研磨レートを向上させつつ、基板表面の欠陥数が少なく、更に面粗さの小さい合成石英ガラス基板を製造することが可能となる。また、基板を製造するための時間が少なくなるため、製造工程のスリム化、コストダウンにもつながる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明における合成石英ガラス基板の製造方法は、コロイダルシリカ砥粒を研磨スラリーに使用する研磨工程直前に、界面活性剤、特にアルキルエーテル型のノニオン系界面活性剤を添加している水溶液に基板を浸漬させることによって、研磨開始時における基板表面の環境が、コロイダルシリカ砥粒が集まりやすい状態を提供する。即ち、精密研磨工程の最初期に基板表面へ静電気的に引き寄せられるコロイダルシリカ砥粒が増加し、基板表面に多くのコロイダルシリカ砥粒が配置されることにより、続いてコロイダルシリカ砥粒同士の静電気的引力、もしくはファンデルワールス力によって後続のコロイダルシリカ砥粒が基板表面に衝突しやすくすることが研磨レート向上に有効であり、同時に基板表面の低欠陥、低粗度を達成する。
また、本手法は、あらゆる大きさの合成石英ガラス基板に対しても、研磨レートを向上させつつ、低欠陥、低粗度の要求を満たす基板を効率よく製造することを可能とする。
【0015】
一般的に合成石英ガラス基板をコロイダルシリカ砥粒が含まれる研磨スラリーを用いて研磨する際、同伴させる研磨布は、合成石英ガラス基板表面を低欠陥かつ高平滑に仕上げるために有利であるスェード系研磨布が選択される。これは、コロイダルシリカ砥粒が含まれる研磨スラリーを使用する工程はファイナル研磨工程、もしくはセミファイナル研磨工程といった面質を決める工程でよく使用されるためである。
【0016】
スェード系研磨布は、研磨時に基板と接触するナップ層に発泡構造を形成するために、ノニオン系やアニオン系の界面活性剤が用いられる。ナップ層が形成された後、洗浄後研磨布として使用されるが、ナップの発泡構造中に界面活性剤が残留している可能性は否めない。実際、研磨途中において、研磨スラリー中に界面活性剤由来と考えられる泡が発生する現象がしばしば見られる。
【0017】
この現象から、研磨布に残留している界面活性剤の電気的引力による影響、発生する泡による空間的障害により研磨に参加するコロイダルシリカ砥粒は、被研磨物である合成石英ガラス基板に対し基板全面ではなく、部分的に連続的に接触し、結果として基板全面において研磨が進行すると考えられる。
【0018】
しかし、スェード系研磨布を用い、コロイダルシリカ砥粒が含まれる研磨スラリーを同伴させた研磨工程直前に基板表面を界面活性剤で処理すると、電気的に基板表面に引き寄せられるコロイダルシリカ粒子の数が多くなって被研磨物である基板に衝突する確率が上がり、研磨レートを向上させることができる。
即ち、スェード系研磨布のナップ層に残留している界面活性剤が研磨スラリー中に含まれる水分によって溶出してくるよりも早く、基板表面のノニオン系界面活性剤と研磨スラリー中のコロイダルシリカ粒子との相互作用が得られるために、研磨工程の最初期の基板表面におけるコロイダルシリカ粒子の存在確率を引き上げることができ、研削力が上がった状態で研磨を開始することができる。
【0019】
研磨機に仕込まれる合成石英ガラス基板の基板表面の電位はゼロではなく、一般的に若干負に帯電していることが多い。その合成石英ガラス基板表面に対し、研磨砥粒としてのコロイダルシリカ粒子が近づくとき、電気的反発を伴いながら研磨が進行する。しかし、界面活性剤によって基板表面の電位をゼロに近づけておくことにより、コロイダルシリカ粒子が近づきやすくなる。
ノニオン系の場合は、それ自身が電荷を持たず研磨の進行を促進させ、かつ上記副反応を引き起こす可能性がないことより好ましい。
更に、スェード系研磨布の中には、ナップ層を形成させる際に、電荷をもつアニオン系などの界面活性剤を用いているものもあり、そのような研磨布を用いた研磨工程では、ノニオン系界面活性剤以外のものを用いると、合成石英ガラス基板表面と研磨布内の残留界面活性剤の異種の界面活性剤が相互作用し、研磨スラリーの不安定化などの不具合が起こる場合がある。
【0020】
本発明で使用されるノニオン系界面活性剤は、直鎖のアルキルエーテル型であることが好ましい。
これは、一般的に、コロイダルシリカ砥粒を研磨スラリーとして使用する際、液性はアルカリもしくは弱酸性であることが多く、エーテル結合が強酸性下でのみ開裂する特性を考慮すると、アルキルエーテル型の形を持つことで、研磨中にノニオン系界面活性剤の構造が化学的に破壊される可能性が極めて低い理由による。更に、アルキル鎖の部分が直鎖構造であれば、界面活性剤の分子が立体的に嵩高くなることが少ないため、コロイダルシリカ砥粒と基板表面の衝突における障害となりにくく、更に好ましい。
【0021】
また、本発明において使用されるノニオン系界面活性剤は、次式のグリフィン式で導かれるHLB値(Hydrophile Lipophile Balance value)
HLB=(ポリオキシエチレン鎖の分子量/ノニオン系界面活性剤の分子量)×
(100/5)
において、8〜15の範囲の値を有するものが好ましい。HLB値が8よりも小さい場合、合成石英ガラス基板表面上のノニオン系界面活性剤が消泡剤としての機能を発揮することがしばしばあり、研磨布中に残留している界面活性剤と相互作用を引き起こし、研磨スラリーの電気的バランスが崩れコロイダルシリカ砥粒が凝集もしくは溶解する不具合を起こす可能性がある。逆に、HLB値が15より大きい場合、合成石英ガラス基板表面のノニオン系界面活性剤がコロイダルシリカ砥粒の周りに集まりミセル構造を形成し、コロイダルシリカ砥粒の研削力の低下につながるおそれがある。
【0022】
また、合成石英ガラス基板を浸漬させる際に使用するノニオン系界面活性剤水溶液としては、市販品のノニオン系界面活性剤を純水に溶解させたものを使用することができ、例えば日本乳化剤(株)製Newcolシリーズ、日華化学(株)製サンモールシリーズ、花王(株)製エマルゲンシリーズ等を用いることができる。
【0023】
合成石英ガラス基板表面を浸漬処理する際に使用する界面活性剤水溶液の濃度は、好ましくは0.01〜0.5質量%、更に好ましくは0.01〜0.1質量%である。水溶液の濃度が0.01質量%よりも低い場合、基板表面にコロイダルシリカ砥粒を引き寄せるために必要な合成石英ガラス基板表面の電位の変化を十分に引きだしにくい場合がある。一方、水溶液の濃度が0.5質量%よりも高い場合、界面活性剤が研磨布中の残留界面活性剤と相互作用し、研磨スラリーの不安定化を招く不具合を生じる場合がある。なお、界面活性剤が添加された水溶液に対する合成石英ガラス基板の液浸処理温度は室温でよく、加温してもよい。また浸漬時間も好ましくは1〜180秒間、より好ましくは10〜150秒間、更に好ましくは10〜100秒間である。
【0024】
研磨に同伴させるスラリーは、コロイダルシリカ砥粒を主成分とし、その砥粒の一次粒子径は、20〜200nmのものが好ましく、より好ましくは20〜150nm、特に好ましくは20〜100nmである。粒径が小さすぎると、合成石英ガラス基板表面を高平滑にすることに有利である反面、コロイダルシリカ砥粒同士が凝集しやすい、合成石英ガラス基板表面に付着しやすく残渣として凸欠陥となる不具合が発生する場合がある。また、逆に粒径が大きすぎると、研磨レートが上がり、研磨時間短縮の効果から生産性の向上が期待できるが、合成石英ガラス基板表面の面粗さが悪くなり、ファイナルポリッシュ工程では使用しづらい場合がしばしば見受けられる。
【0025】
なお、コロイダルシリカ砥粒を純水に分散させた研磨剤としては、市販品を用いても固形砥粒を純水に分散させたもののどちらも使用することができ、例えば(株)フジミインコーポレーテッド製COMPOL−50、COMPOL−80、COMPOL−120、COMPOL−EX III、日産化学工業(株)製ST−XL、ST−YL、ST−ZL、Dupont製SYTON、扶桑化学工業(株)製GPシリーズ等を用いることができる。また、研磨布としては、ノニオン系、アニオン系の界面活性剤、特にノニオン系界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用いることが好ましい。
【0026】
以上の研磨前処理及び研磨布を用いて、研磨スラリーを同伴させて合成石英ガラス基板を研磨することによって、研磨布のライフを延長、高感度欠陥検査装置で検出される欠陥数を抑制、及び合成石英ガラス基板表面の平滑性を向上させることが可能となる。
【0027】
本発明の製造方法の対象である合成石英ガラス基板は、半導体関連電子材料に用いることができ、特にフォトマスク用、ナノインプリント用、液晶カラーフィルター用、磁気デバイス用として好適に用いることができる。その大きさは特に規定されることはないが、研磨対象としては、例えば、四角形状の合成石英ガラス基板では5インチ角や6インチ角基板、丸形状のガラス基板では6インチφ、8インチφのウェーハ等が挙げられる。
【0028】
本発明に適用される合成石英ガラス基板は、合成石英ガラスインゴットを成型、アニール、スライス加工、面取り、ラッピング、基板表面を鏡面化するための研磨工程を経ることにより得られる。
本発明の製造方法は、好ましくはセミファイナルもしくはファイナルポリッシュ等の精密研磨工程において適用される。
【0029】
なお、本発明に係わる研磨方法としては、バッジ式の両面研磨が一般的であるが、片面研磨工程でも使用できる。また、枚葉式研磨等他の研磨方法との組み合わせによって実施されるものであってもよい。なお、研磨圧は特に制限されないが、50〜150gf/cm
2程度が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
スライスされた合成石英ガラス基板原料(6インチ角、厚さ6.35mm)を、遊星運動を行う両面ラップ機にてラッピングした後、遊星運動を行う両面ポリッシュ機にて粗研磨を行い、原料基板を用意した。
粗研磨した基板を、ノニオン系界面活性剤として日本乳化剤(株)製Newcol 2310(HLB14.0)のポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.05質量%溶解している水溶液に45秒間浸漬させた後、ノニオン系界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用い、研磨剤としてSiO
2濃度が40質量%のコロイダルシリカ水分散液((株)フジミインコーポレーテッド製、粒子径76.8nm)を用いて研磨を実施した。研磨圧は、100gf/cm
2で、5μmを研磨取代として研磨を実施したところ、研磨時間20分間で研磨が完了した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してからレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査を実施したところ、長径40nm級以上の欠陥は平均1.8個であった。また、基板表面の面粗さ(Rms)は0.15nmであった。
【0032】
[実施例2]
実施例1と同様に粗研磨した基板を、ノニオン系界面活性剤として日本乳化剤(株)製Newcol 2303(HLB8.3)のポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.01質量%溶解している水溶液に10秒間浸漬させた後、ノニオン系界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用い、研磨剤としてSiO
2濃度が40質量%のコロイダルシリカ水分散液((株)フジミインコーポレーテッド製、粒子径54.8nm)を用いて研磨を実施した。研磨圧は、100gf/cm
2で、5μmを研磨取代として研磨を実施したところ、研磨時間24分間で研磨が完了した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してからレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査を実施したところ、長径40nm級以上の欠陥は平均1.6個であった。また、基板表面の面粗さ(Rms)は0.15nmであった。
【0033】
[実施例3]
実施例1と同様に粗研磨した基板を、ノニオン系界面活性剤として花王(株)製エマルゲン709(HLB13.3)のポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.05質量%溶解している水溶液に100秒間浸漬させた後、アニオン系界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用い、研磨剤としてSiO
2濃度が40質量%のコロイダルシリカ水分散液(日産化学工業(株)製、粒子径100.2nm)を用いて研磨を実施した。研磨圧は、90gf/cm
2で、5μmを研磨取代として研磨を実施したところ、研磨時間22分間で研磨が完了した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してからレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査を実施したところ、長径40nm級以上の欠陥は平均1.6個であった。また、基板表面の面粗さ(Rms)は0.17nmであった。
【0034】
[実施例4]
スライスされた8インチφのウェーハ(厚さ0.725mm)を、遊星運動を行う両面ラップ機にてラッピングした後、遊星運動を行う両面ポリッシュ機にて粗研磨を行い、原料基板を用意した。この基板を、HLB13.2のポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.05質量%溶解している水溶液に30秒間浸漬させた後、実施例1と同じ研磨布を用い、研磨剤としてSiO
2濃度が20質量%のコロイダルシリカ水分散液(扶桑化学工業(株)製、粒子径82.2nm)を用いた研磨圧50gf/cm
2の条件で研磨を実施した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してから表面の面粗さ(Rms)は0.15nmであった。また、スクラッチやピットといった研磨起因のキズは検出されなかった。
【0035】
[比較例1]
実施例1と同様に粗研磨した基板をノニオン系界面活性剤の処理をせず、ノニオン系界面活性剤を用いてナップ層を発泡させたスェード研磨布を用い、研磨剤としてSiO
2濃度が40質量%のコロイダルシリカ水分散液((株)フジミインコーポレーテッド製、粒子径54.8nm)を用いて研磨を実施した。研磨圧は、100gf/cm
2で、5μmを研磨取代として研磨を実施したところ、研磨時間42分間で研磨が完了した。
研磨終了後、洗浄・乾燥してからレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて欠陥検査を実施したところ、長径40nm級以上の欠陥は平均1.6個であった。また、基板表面の面粗さ(Rms)は0.15nmであった。