(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板上に、ケイ素を含有するターゲットと、窒素及び酸素の一方又は双方を含有する反応性ガスとを用い、反応性スパッタにより、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜を形成するハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法であって、
上記ハーフトーン位相シフト膜を第1の層及び第2の層を含む複数層で構成し、
上記ターゲットに印加する電力を一定として、チャンバー内に導入する反応性ガス流量を、増加させた後減少させることにより掃引したとき、上記反応性ガス流量と、該反応性ガス流量の掃引により測定されるターゲット電圧値又はターゲット電流値とにより形成されるヒステリシス曲線において、
上記第1の層及び第2の層のうち、一方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限以下の反応性ガス流量を、他方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限及び上限の双方より内側の反応性ガス流量を、各々設定して、上記第1の層及び第2の層を形成することを特徴とするハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
上記他方の層を、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値以上である反応性ガス流量を設定して形成することを特徴とする請求項1又は2記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
上記ケイ素を含有するターゲットが、ケイ素のみからなるターゲットであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、パターンの更なる微細化のための研究開発が進められている。特に、近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求は、ますます高くなってきている。これに伴い、微細加工の際のフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術の分野においても、より微細で、かつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
【0003】
一般に、フォトリソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、通常、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。今日のフォトリソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉などの影響によって、半導体基板上のレジスト膜に、本来の形状が転写されない結果となってしまう。
【0004】
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉などの影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC: Optical Proximity Correction)を施した形状がある。また、パターンの微細化と高精度化に応えるべく、変形照明、液浸技術、二重露光(ダブルパターニングリソグラフィ)などの技術も応用されている。
【0005】
解像度向上技術(RET: Resolution Enhancement Technology)のひとつとして、位相シフト法が用いられている。位相シフト法は、フォトマスク上に、位相を概ね180°反転させる膜のパターンを形成し、光の干渉を利用してコントラストを向上させる方法である。これを応用したフォトマスクのひとつとして、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクがある。ハーフトーン位相シフト型フォトマスクは、石英などの露光光に対して透明な基板の上に、位相を概ね180°反転させ、パターン形成に寄与しない程度の透過率を有するハーフトーン位相シフト膜のフォトマスクパターンを形成したものである。ハーフトーン位相シフト型フォトマスクとしては、モリブテンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブテンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)からなるハーフトーン位相シフト膜を有するものなどが提案されている(特開平7−140635号公報(特許文献1))。
【0006】
また、フォトリソグラフィ技術により、より微細な像を得るために、露光光源に、より短波長のものが使われるようになり、現在の最先端の実用加工工程では、露光光源は、KrFエキシマレーザ光(248nm)からArFエキシマレーザ光(193nm)に移行している。ところが、より高エネルギーのArFエキシマレーザ光を使うことにより、KrFエキシマレーザ光では見られなかったマスクダメージが生じることが判明した。そのひとつが、フォトマスクを連続使用すると、フォトマスク上に異物状の成長欠陥が発生する問題である。この成長欠陥は、ヘイズと呼ばれ、その原因は、当初は、マスクパターン表面における硫酸アンモニウム結晶の成長と考えられていたが、現在では、有機物が関与するものも考えられるようになってきている。
【0007】
ヘイズの問題の対策として、例えば、特開2008−276002号公報(特許文献2)には、フォトマスクに対してArFエキシマレーザ光を長時間照射したときに発生する成長欠陥に対し、所定の段階でフォトマスクを洗浄することにより、フォトマスクの継続使用ができることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フォトマスク技術においては、微細化が進むにつれて、露光波長よりもパターン幅が小さくなり、上述したとおり、OPC、変形照明、液浸露光、位相シフト法、二重露光などの高解像度技術を用いるようになってきている。位相シフト膜は、薄い方がパターン形成に有利であるだけでなく、三次元効果を低減することができるため有利である。そのため、フォトリソグラフィにおいて、より微細なパターンを形成するためには、更に、薄い膜が求められる。
【0010】
また、フォトマスクブランクをフォトマスクの製造プロセスで使用する際、フォトマスクブランク上に異物が存在すると、異物がパターン欠陥の原因となるため、このような異物を除去するために、フォトマスクブランクは、フォトマスク製造過程において何度も洗浄される。更に、フォトマスクをフォトリソグラフィ工程で使用する際、製造されたフォトマスクそのものにパターン欠陥がなくても、フォトリソグラフィ工程中に、フォトマスクに異物が付着すると、これを用いてパターニングされた半導体基板には、パターン転写不良が生じるため、フォトマスクもまた繰り返し洗浄される。
【0011】
フォトマスクブランクやフォトマスクの異物除去のためには、ほとんどの場合、硫酸過水やオゾン水、アンモニア過水などによる化学的な洗浄が施される。ここで、硫酸過水は、硫酸と過酸化水素水を混合して得られる強力な酸化作用をもった洗浄剤であり、オゾン水はオゾンを水に溶け込ませたものであり、硫酸過水の代替として用いられる。特に、アンモニア過水は、アンモニア水と過酸化水素水を混合して得られる洗浄剤で、表面に付着した有機系異物がアンモニア過水に浸漬されると、アンモニアの溶解作用と過酸化水素の酸化作用により表面から有機系異物が離脱して分離されることで洗浄される。
【0012】
このような薬液による化学的洗浄は、フォトマスクブランクやフォトマスクに付着したパーティクルや汚染物といった異物を除去するために必要である一方で、フォトマスクブランクやフォトマスクが備えるハーフトーン位相シフト膜などの光学膜にダメージを与えるおそれがある。例えば、上述したような化学的洗浄によって光学膜の表面が変質してしまい、本来備えているはずの光学特性が変化してしまう可能性があり、フォトマスクブランクやフォトマスクの化学的洗浄は、繰り返し施されるものであるから、各洗浄工程で生じる光学膜の特性変化(例えば、位相差変化)は、可能な限り低く抑えられることが必要である。
【0013】
このような要求を満たすものとしては、ケイ素と窒素及び/又は酸素とを含む膜、例えば、遷移金属を含有しないケイ素と窒素とからなる膜、又は遷移金属を含有しないケイ素と窒素と酸素とからなる膜とすることで、化学的な耐性を向上させることができる。
【0014】
一般に、フォトマスクブランクのパターン形成用の薄膜は、スパッタリング法を用いて形成される。例えば、透明基板上に、ケイ素と窒素とからなる膜(SiN膜)を形成する場合、通常、成膜室内にSiターゲットを配置し、Ar等の希ガスと窒素ガスとの混合ガスを供給し、プラズマ化したガスがSiターゲットに衝突することで飛び出したSi粒子が途中窒素を取り込んで透明基板に堆積したり、ターゲット表面で窒素と反応したり、透明基板上で反応したりするプロセスにより膜が形成される。SiN膜の窒素含有率は、主に混合ガス中の窒素ガスの混合比率を増減させることで調整され、これによって、様々な窒素含有率のSiN膜を透明基板上に成膜することが可能となっている。
【0015】
しかし、SiN膜を、Siターゲットを用いて成膜する場合、混合ガス中の窒素ガスの流量によっては、安定した成膜が困難となる領域があり、膜の位相差や透過率などの光学特性の制御が難しく、特に、所定の位相差、例えば略180°の位相差を確保して、所定の透過率、例えば15%以下の透過率で、面内の光学特性が均一な膜を得ることが難しいという問題がある。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ケイ素と、窒素及び酸素から選ばれる一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜において、面内の光学特性の均一性のよいハーフトーン位相シフト膜を備えるハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため、耐薬品性に優れたハーフトーン位相シフト膜として、ケイ素と、窒素及び酸素から選ばれる一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜に着目し、所定の位相差を確保した上で、面内均一性が良好なハーフトーン位相シフト膜について鋭意検討を重ねた結果、ケイ素含有膜であるハーフトーン位相シフト膜を形成する反応性スパッタにおいて、ハーフトーン位相シフト膜を第1の層及び第2の層を含む複数層で構成し、ターゲットに印加する電力を一定として、チャンバー内に導入する反応性ガス流量を、増加させた後減少させることにより掃引したとき、反応性ガス流量と、反応性ガス流量の掃引により測定されるターゲット電圧値又はターゲット電流値とにより形成されるヒステリシス曲線において、第1の層及び第2の層のうち、一方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限以下の反応性ガス流量を、他方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限及び上限の双方より内側の反応性ガス流量を、各々設定して、第1の層及び第2の層を形成することで、所定の位相差を確保した上で、耐薬品性、光学特性の面内均一性の良好なハーフトーン位相シフト膜を有するハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクとなり、このような面内均一性の良好なハーフトーン位相シフト膜が再現性よく形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
従って、本発明は、以下のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法を提供する。
請求項1:
透明基板上に、ケイ素を含有するターゲットと、窒素及び酸素の一方又は双方を含有する反応性ガスとを用い、反応性スパッタにより、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜を形成するハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法であって、
上記ハーフトーン位相シフト膜を第1の層及び第2の層を含む複数層で構成し、
上記ターゲットに印加する電力を一定として、チャンバー内に導入する反応性ガス流量を、増加させた後減少させることにより掃引したとき、上記反応性ガス流量と、該反応性ガス流量の掃引により測定されるターゲット電圧値又はターゲット電流値とにより形成されるヒステリシス曲線において、
上記第1の層及び第2の層のうち、一方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限以下の反応性ガス流量を、他方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限及び上限の双方より内側の反応性ガス流量を、各々設定して、上記第1の層及び第2の層を形成することを特徴とするハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
請求項2
上記他方の層を、
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電圧値V
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電圧値V
Hとの差に対し、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電圧値V
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電圧値V
Dとの差が±15%以内である反応性ガス流量、又は
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差に対し、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電流値I
Aと、反応性ガス流量を減少させたときに示されるターゲット電流値I
Dとの差が±15%以内である反応性ガス流量
を設定して形成することを特徴とする請求項1記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
請求項3:
上記他方の層を、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値以上である反応性ガス流量を設定して形成することを特徴とする請求項1又は2記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
請求項4:
上記反応性ガスが、窒素ガス(N
2)又は酸素ガス(O
2)を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
請求項5:
上記ケイ素を含有するターゲットが、ケイ素のみからなるターゲットであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
請求項6:
上記ハーフトーン位相シフト膜が、遷移金属を含有しないことを特徴とする請求項5記載のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐薬品性に優れた、ケイ素と窒素及び酸素から選ばれる一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜において、光学特性の面内均一性を改善することができ、所定の位相差を確保した上で、面内均一性が良好なハーフトーン位相シフト膜を有するハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明においては、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクを、石英基板等の透明基板上に、ケイ素を含有するターゲットと、窒素及び酸素の一方又は双方を含有する反応性ガスとを用い、反応性スパッタにより、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方とを含有するハーフトーン位相シフト膜を形成する。
【0022】
真空又は減圧下で、チャンバー内で、ターゲットと反応性ガスとを用いて反応性スパッタを実施すると、ターゲットに印加する電力を一定として、反応性ガス未供給の状態から反応性ガスの量(流量)を徐々に増加させると、反応性ガスが増加するに従って、ターゲットで測定される電圧(ターゲット電圧)が徐々に減少する。この電圧の減少は、始めは徐々に(小さい傾斜で)減少し、その後、急激に(大きい傾斜で)減少する領域を経て、再び徐々に(小さい傾斜で)減少する挙動を示す。一方、反応性ガスの量を増加させて、上述した電圧が再び徐々に減少する領域を経たのち、反転させて反応性ガスの量を減少させると、反応性ガスが減少するに従って、ターゲットで測定される電圧(ターゲット電圧)が徐々に増加する。この電圧の増加は、始めは徐々に(小さい傾斜で)増加し、その後、急激に(大きい傾斜で)増加する領域を経て、再び徐々に(小さい傾斜で)増加する挙動を示す。しかしながら、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電圧と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧とは、上述した急激に(大きい傾斜で)減少及び増加する領域において、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧の方が低く測定される。
【0023】
また、真空又は減圧下で、チャンバー内で、ターゲットと反応性ガスとを用いて反応性スパッタを実施すると、ターゲットに印加する電力を一定として、反応性ガス未供給の状態から反応性ガスの量(流量)を徐々に増加させると、反応性ガスが増加するに従って、ターゲットで測定される電流(ターゲット電流)が徐々に増加する。この電流の増加は、始めは徐々に(小さい傾斜で)増加し、その後、急激に(大きい傾斜で)増加する領域を経て、再び徐々に(小さい傾斜で)増加する挙動を示す。一方、反応性ガスの量を増加させて、上述した電流が再び徐々に
増加する領域を経たのち、反転させて反応性ガスの量を減少させると、反応性ガスが減少するに従って、ターゲットで測定される電流(ターゲット電流)が徐々に減少する。この電流の減少は、始めは徐々に(小さい傾斜で)減少し、その後、急激に(大きい傾斜で)減少する領域を経て、再び徐々に(小さい傾斜で)減少する挙動を示す。しかしながら、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電流と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電流とは、上述した急激に(大きい傾斜で)増加及び減少する領域において、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電流の方が高く測定される。
【0024】
このように、反応性スパッタにおいては、ターゲットに印加する電力を一定として、チャンバー内に導入する反応性ガス流量を、増加させた後減少させることにより掃引したとき、反応性ガス流量と、反応性ガス流量の掃引により測定されるターゲット電圧値又はターゲット電流値とにより、磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)として知られているヒステリシス曲線に類似した、例えば、
図1に示されるようなヒステリシス曲線が形成される。
【0025】
反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電圧又はターゲット電流と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧又はターゲット電流とにより、ヒステリシス曲線の範囲(ヒステリシス領域)が形成されるが、この領域において、反応性ガスの量の下限及び上限は、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電圧値又はターゲット電流値と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧値又はターゲット電流値とが、実質的に一致した点とすることができ、例えば、
反応性ガス流量増加時のターゲット電圧値をV
A、反応性ガス流量減少時のターゲット電圧値をV
Dとしたとき、下記式(1−1)
(V
A−V
D)/{(V
A+V
D)/2}×100 (1−1)
で求められる変化率、又は
反応性ガス流量増加時のターゲット電流値をI
A、反応性ガス流量減少時のターゲット電流値をI
Dとしたとき、下記式(1−2)
(I
D−I
A)/{(I
A+I
D)/2}×100 (1−2)
で求められる変化率
が、ヒステリシス領域の中央部から下限側又は上限側に向かって徐々に減少して、例えば2%以下となった点、特に、実質的にほとんどゼロになった点を、ヒステリシス領域の反応性ガスの量の下限又は上限とすることができる。
【0026】
ヒステリシス領域の下限以下の反応性ガス流量では、スパッタ中、反応性ガスがターゲット表面に吸着しても、ターゲット表面よりスパッタ粒子として放出されるため、ターゲットの表面のエロージョン部が、金属状態(ここでの金属にはケイ素が含まれる)に保たれている状態と考えられる(これをメタルモードと呼ぶことがある)。また、ヒステリシス領域の上限以上の反応性ガス流量では、スパッタ中、ターゲットの表面が反応性ガスと反応し、ターゲットの表面が金属化合物で完全に覆われている状態と考えられる(これを反応モードと呼ぶことがある)。一方、ヒステリシス領域の下限を超えて上限未満の反応性ガス流量では、ターゲットの表面のエロージョン部の一部が金属化合物で覆われている状態と考えられる(これを遷移モードと呼ぶことがある)。
【0027】
フォトマスクブランクにおいて、膜の面内の均一性は重要である。ハーフトーン位相シフト膜には、ケイ素を含んだものが一般に用いられており、膜にある程度透過率をもたせるために、酸素や窒素などを添加する必要があり、その場合、所定の位相差で所定の透過率となるケイ素含有膜を形成するためには、遷移モードで成膜する必要がある。しかし、遷移モードでの成膜は、面内の均一性が低下しやすい。また、反応モードでは、成膜レートが遅く、かつターゲット表面が絶縁化しやすい。そのため、本発明においては、メタルモードの反応性ガス流量と、遷移モードの反応性ガス流量を組み合わせて、反応性スパッタを実施する。
【0028】
具体的には、ハーフトーン位相シフト膜を第1の層及び第2の層を含む複数層(2〜10層が好ましい)で構成し、第1の層及び第2の層の各々において、第1の層及び第2の層のうち、一方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限以下の反応性ガス流量を、他方の層のスパッタにおいては、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限及び上限の双方より内側の反応性ガス流量を、各々設定して、第1の層及び第2の層を形成する。
【0029】
特に、他方の層は、
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電圧値V
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電圧値V
Hとの差に対し、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電圧値V
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電圧値V
Dとの差が±15%以内(即ち、−15%〜+15%)、好ましくは±10%以内(即ち、−10%〜+10%)である反応性ガス流量、又は
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差に対し、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電流値I
Aと、反応性ガス流量を減少させたときに示されるターゲット電流値I
Dとの差が±15%以内(即ち、−15%〜+15%)、好ましくは±10%以内(即ち、−10%〜+10%)である反応性ガス流量
を設定して形成することが好ましい。
【0030】
この場合、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電圧値V
L及びヒステリシス領域の反応ガス流量の上限におけるターゲット電圧値V
Hには、各々の、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電圧と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧との平均値を適用することができる。また、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
L及びヒステリシス領域の反応性ガスの上限におけるターゲット電流値I
Hには、各々の、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電流と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電流との平均値を適用することができる。
【0031】
本発明は、
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電圧値V
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電圧値V
Hとから、下記式(2−1)
(V
L−V
H)/{(V
L+V
H)/2}×100 (2−1)
で求められる変化率、又は
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとから、下記式(2−2)
(I
H−I
L)/{(I
L+I
H)/2}×100 (2−2)
から求められる変化率
が15%以上であるヒステリシス曲線が形成される場合において、特に効果的である。
【0032】
また、本発明は、
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電圧値V
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電圧値V
Hとの差に対し、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値における、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電圧値V
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電圧値V
Dとの差、又は
ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差に対し、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値における、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電流値I
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電流値I
Dとの差
が+10%以上又は−10%以下であるヒステリシス曲線が形成される場合において、特に効果的である。
【0033】
なお、メタルモード及び反応モードでは、いずれも、反応性ガスの量を増加させたときのターゲット電圧値又はターゲット電流値と、反応性ガスの量を減少させたときのターゲット電圧値又はターゲット電流値とは、実質的に一致している。
【0034】
更に、本発明においては、他方の層を、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値以上である反応性ガス流量を設定して形成することが好ましい。換言すれば、他方の層を、遷移モードの反応モード側で形成することが好ましい。本発明においては、メタルモードの反応性ガス流量で成膜した層と、遷移モードの反応性ガス流量、特に、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限と上限との平均値以上である反応性ガス流量で成膜した層の2種の層とを組み合わせることによって、特に、従来、膜の面内で位相差や透過率などの光学特性が均一な膜を得ることが難しかった、170〜190°、特に175〜185°、とりわけ略180°の位相差において、透過率が15%以下、特に10%以下、例えば3%以上のハーフトーン位相シフト膜において、より均一なハーフトーン位相シフト膜を形成することができる。
【0035】
ハーフトーン位相シフト膜を構成する第1の層及び第2の層の配置は、第1の層を成膜するときの反応性ガス流量を、ヒステリシス領域の下限以下の反応性ガス流量(即ち、メタルモード)とし、第2の層を成膜するときの反応性ガス流量を、ヒステリシス領域の反応性ガス流量の下限及び上限の双方より内側の反応性ガス流量(即ち、遷移モード)としたとき、例えば、第2の層を透明基板から最も離間する側(表面側)とすることで、薬品耐性を良好にすることができ、また、第2の層を透明基板から最も離間する側(表面側)、又は透明基板に最も近い側(基板側)に形成すれば、各々の側において、反射率の低減に効果的である。更に、ハーフトーン位相シフト膜のエッチングにおける制御性、例えば、終端検出の精度を良くする観点からは、第1の層を基板に最も近い側、第2の層をそれ以外の位置にすることが有効である。複数層構造の具体例としては、第1の層と第2の層との2層構造、第1の層の表面側と基板側に第2の層を設けた3層構造、第1の層と第2の層とを交互に設けた4層以上の互層構造などが挙げられる。ハーフトーン位相シフト膜は、後述する表面酸化層を除き、第1の層及び第2の層で、ハーフトーン位相シフト膜の膜厚の70〜100%、特に100%となるように構成することが好ましい。
【0036】
本発明のハーフトーン位相シフト膜は、スパッタ法により成膜するが、DCスパッタ、RFスパッタのいずれの方法をも用いることができる。ターゲットとスパッタガスは、層構成や組成に応じて適宜選択される。ケイ素を含有するターゲットとしては、ケイ素ターゲット(ケイ素のみからなるターゲット)、窒化ケイ素ターゲット、ケイ素と窒化ケイ素の双方を含むターゲットなどが挙げられる。この場合、ハーフトーン位相シフト膜として、遷移金属を含まないもの、例えば、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸窒化物等のケイ素系材料のハーフトーン位相シフト膜を形成することができる。
【0037】
ハーフトーン位相シフト膜の成膜中、ターゲットの材料と反応して、膜の成分の一部となる反応性ガスとして具体的には、窒素ガス(N
2ガス)、酸素ガス(O
2ガス)、窒素酸化物ガス(N
2Oガス、NOガス、NO
2ガス)などを用いることができる。更に、スパッタガスには、希ガスとして、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどを用いることもできる。ハーフトーン位相シフト膜の窒素と酸素の含有率は、スパッタガスに、反応性ガスとして、窒素を含むガス、酸素を含むガスを用い、これらの導入量を適宜調整して反応性スパッタすることで、調整することができる。なお、スパッタ圧力は通常0.01〜1Pa、好ましくは0.03〜0.2Paである。
【0038】
第1の層は該層に相当する層毎に、また、第2の層も該層に相当する層毎に、各々の成膜条件を満たす反応性ガス流量の範囲において、膜厚方向に同一の成膜条件で成膜しても、また、段階的又は連続的に成膜条件を変化させて成膜してもよい。
【0039】
ハーフトーン位相シフト膜は、ハーフトーン位相シフト膜の膜質変化を抑えるために、その表面側の層(最表面部の層)として、表面酸化層を設けることができる。この表面酸化層の酸素含有率は20原子%以上であってよく、更には50原子%以上であってもよい。表面酸化層を形成する方法として、具体的には、大気酸化(自然酸化)による酸化の他、強制的に酸化処理する方法としては、ケイ素系材料の膜をオゾンガスやオゾン水により処理する方法や、酸素存在雰囲気中で、オーブン加熱、ランプアニール、レーザー加熱などにより、300℃程度に加熱する方法などを挙げることができる。この表面酸化層の厚さは10nm以下、特に5nm以下、とりわけ3nm以下であることが好ましく、通常、1nm以上で酸化層としての効果が得られる。表面酸化層は、スパッタ工程で酸素量を増やして形成することもできるが、欠陥のより少ない層とするためには、前述した大気酸化や、酸化処理により形成することが好ましい。
【0040】
本発明のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクには、従来のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクと同様、ハーフトーン位相シフト膜の上に遮光膜を設けることができる。遮光膜を設けることにより、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクに、露光光を完全に遮光する領域を設けることができる。遮光膜の材料としては、種々の材料が適用可能であるが、エッチング加工用の補助膜としても利用可能な、クロム系材料による膜を用いることが好ましい。それらの膜構成及び材料については多数の報告(例えば、特開2007−33469号公報(特許文献3)、特開2007−233179号公報(特許文献4)など)があるが、好ましい遮光膜の膜構成としては、例えば、Cr系などの遮光膜を設け、更に、遮光膜からの反射を低減させるCr系などの反射防止膜を設けたものなどが挙げられる。遮光膜及び反射防止膜は、いずれも単層で構成しても、多層で構成してもよい。Cr系遮光膜やCr系反射防止膜の材料としては、クロム単体、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム窒化炭化物(CrNC)、クロム酸化窒化炭化物(CrONC)などが挙げられる。
【0041】
このようなCr系遮光膜及びCr系反射防止膜は、クロム単体ターゲット、又はクロムに酸素、窒素及び炭素から選ばれるいずれか1種又は2種以上を添加したターゲットを用い、Ar、He、Neなどの希ガスに、成膜する膜の組成に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス及び炭素含有ガスから選ばれるガスを適宜添加したスパッタガスを用いた反応性スパッタにより成膜することができる。
【0042】
また、遮光膜を設ける場合の別態様として、ハーフトーン位相シフト膜上に、加工補助膜として、特開2007−241065号公報(特許文献5)で示されるようなクロム系材料を用いた加工補助膜(エッチングストッパー膜)を設け、その上に、ケイ素、ケイ素系化合物又は遷移金属ケイ素系化合物による遮光膜を設けることもできる。
【0043】
遮光膜の上には、更に、ハードマスク膜を形成してもよい。ハードマスク膜としては遮光膜とエッチング特性が異なる膜が望ましく、例えば、遮光膜をCr系の膜としたときには、SF
6やCF
4などのフッ素系ガスでエッチングできる膜を用いることが好ましく、このような膜には、ケイ素膜、ケイ素と、窒素及び/又は酸素とを含む膜、更に、これらにモリブデン、タングステン、タンタル、ジルコニウムなどの遷移金属を含んだケイ素系ハードマスク膜が挙げられる。
【0044】
本発明のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクは、常法によりハーフトーン位相シフト型フォトマスクとすることができる。例えば、ハーフトーン位相シフト膜上に、クロム系材料膜による遮光膜や反射防止膜が形成されているハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクでは、例えば、下記の工程でハーフトーン位相シフト型フォトマスクを製造することができる。
【0045】
まず、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクのクロム系材料膜上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン照射を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、クロム系材料膜にレジストパターンを転写する。更に、得られたクロム系材料膜パターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングによりハーフトーン位相シフト膜にパターンを転写する。そして、遮光膜として残すべきクロム系材料膜がある場合には、その部分を保護するレジストパターンを形成した後、不要なクロム系材料膜を、再び、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより剥離し、レジスト材料を常法に従って除去することにより、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクを得ることができる。
【0046】
また、ハーフトーン位相シフト膜上のクロム系材料膜による遮光膜や反射防止膜上に、更に、ケイ素系ハードマスク膜が形成されているハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクでは、例えば、下記の工程でハーフトーン位相シフト型フォトマスクを製造することができる。
【0047】
まず、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクのケイ素系ハードマスク膜上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン照射を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングによってケイ素系ハードマスク膜にレジストパターンを転写する。次に、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、クロム系材料膜にケイ素系ハードマスク膜パターンを転写する。更に、レジストを除去した後、得られたクロム系材料膜パターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングによりハーフトーン位相シフト膜にパターンを転写すると同時に、ケイ素系ハードマスク膜を除去する。そして、遮光膜として残すべきクロム系材料膜がある場合には、その部分を保護するレジストパターンを形成した後、不要なクロム系材料膜を、再び、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより剥離し、レジスト材料を常法に従って除去することにより、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクを得ることができる。
【0048】
本発明のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクから製造されるハーフトーン位相シフト型フォトマスクは、被加工基板にハーフピッチ50nm以下、特に30nm以下、とりわけ20nm以下のパターンを形成するためのフォトリソグラフィにおいて、被加工基板上に形成したフォトレジスト膜に、ArFエキシマレーザ(193nm)などの波長200nm以下の露光光でパターンを転写する露光において、特に有効である。
【0049】
本発明のハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクから製造されたハーフトーン位相シフト型フォトマスクを用いたパターン露光方法では、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクから製造されたハーフトーン位相シフト型フォトマスクを用い、ハーフトーン位相シフト膜のパターンを含むフォトマスクパターンに、露光光を照射して、被加工基板上に形成したフォトマスクパターンの露光対象であるフォトレジスト膜に、フォトマスクパターンを転写する。露光光の照射は、ドライ条件による露光でも、液浸露光でもよいが、本発明のパターン露光方法は、実生産において比較的短時間に累積照射エネルギー量が上がってしまう、液浸露光により300mm以上のウェハーを被加工基板として、フォトマスクパターンを露光する際に、特に有効である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス及び窒素ガスを用い、ターゲットに印加する電力及びアルゴンガスの流量を一定にし、窒素ガスの流量を変化させたときにターゲットに流れる電流を測定することにより、ヒステリシス曲線を得た。具体的には、ターゲットに印加する電力を1kWとし、アルゴンガスを17sccm、窒素ガスを5sccmチャンバー内に流した状態でスパッタを開始し、窒素ガス流量を毎秒0.1sccmずつ、最終的に窒素ガス流量を50sccmまで増加させ、その条件を30秒保持した後、今度は、逆に50sccmから毎秒0.1sccmずつ窒素流量を5sccmまで減少させた。得られたヒステリシス曲線を
図1に示す。
図1において、実線は、窒素ガス流量を増加させたときのターゲット電流、
破線は窒素ガス流量を減少させたときのターゲット電流を示す。
【0052】
図1中、Aで示される位置の反応性ガス流量は10.0sccmであり、メタルモードである。また、
図1中、Cで示される位置の反応性ガス流量は30.0sccmであり、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の上下限より内側である遷移モードである。このときのヒステリシス領域の窒素ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差は、0.57Aである。また、Cで示される位置において、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差に対する、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電流値I
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電流値I
Dとの差の割合は、9%である。
【0053】
一方、
図1中、Bで示される位置の反応性ガス流量は19.1sccmであり、遷移モードである。このBで示される位置において、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の下限におけるターゲット電流値I
Lと、ヒステリシス領域の窒素ガス流量の上限におけるターゲット電流値I
Hとの差に対する、反応性ガス流量の増加時に示されるターゲット電流値I
Aと、反応性ガス流量の減少時に示されるターゲット電流値I
Dとの差の割合は、14%である。
【0054】
上記で得られたヒステリシス曲線に基づき、152mm角、厚さ6.35mmの石英基板に、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲットを用い、スパッタガスとして窒素ガスとアルゴンガスを用い、上記で得られたヒステリシス領域の窒素ガス流量の下限以下であるメタルモードの条件(
図1中、Aで示される条件:アルゴンガス流量:17.0sccm、窒素ガス流量:10.0sccm、ターゲット印加電力:1kW)で、組成比が原子比でSi:N=62:38である第1層を成膜した。次に、第1層の上に、上記で得られたヒステリシス領域の窒素ガス流量の上下限より内側である遷移モードの条件(
図1中、Cで示される条件:アルゴンガス流量:17.0sccm、窒素ガス流量:30.0sccm、ターゲット印加電力:1kW)で、組成比が原子比でSi:N=46:54である第2層を成膜し、第1層及び第2層からなるSiNのハーフトーン位相シフト膜を形成した。得られたハーフトーン位相シフト膜の位相差は177deg、透過率は6.0%、膜厚は67nmであった。また、面内分布は位相差が−0.3%、透過率が1.3%であり、面内均一性は良好であった。
【0055】
なお、位相差及び透過率の面内分布は、基板のハーフトーン位相シフト膜を形成した面の対角線の交点と、該交点から対角線上で95mmの位置の任意の1点とで位相差及び透過率を測定し、これらの測定値から、下記の式(3−1)及び(3−2)により算出した。
・位相差の面内分布[%]=(PS(I)−PS(E))/{(PS(I)+PS(E))/2}×100 (3−1)
(式中、PS(I)は交点での位相差、PS(E)は上記任意の1点での位相差である。)
・透過率の面内分布[%]=(T(I)−T(E))/{(T(I)+T(E))/2}×100 (3−2)
(式中、T(I)は交点での透過率、T(E)は上記任意の1点での透過率である。)
【0056】
[比較例1]
実施例1で得られたヒステリシス曲線に基づき、152mm角、厚さ6.35mmの石英基板に、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲットを用い、スパッタガスとして窒素ガスとアルゴンガスを用い、実施例1で得られたヒステリシス領域の窒素ガス流量の上下限より内側である遷移モードの条件(
図1中、Bで示される条件:アルゴンガス流量:17.0sccm、窒素ガス流量:19.1sccm、ターゲット印加電力:1kW)のみで、組成比が原子比でSi:N=47:53である単層からなるSiNのハーフトーン位相シフト膜を形成した。得られたハーフトーン位相シフト膜の位相差は177deg、透過率は6.0%、膜厚は62nmであった。また、面内分布は位相差が−1.0%、透過率が−10.8%であり、面内均一性が悪かった。