特許第6332110号(P6332110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332110
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】クリンカー搬送用コンベア
(51)【国際特許分類】
   B65G 43/02 20060101AFI20180521BHJP
   F27D 15/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   B65G43/02 Z
   F27D15/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-74839(P2015-74839)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-193788(P2016-193788A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】横川 仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘志
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智洋
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 宣幸
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−520739(JP,A)
【文献】 特開2003−207281(JP,A)
【文献】 特開2013−234099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 43/00−43/10
F27D 7/00−15/02
B65G 17/00−17/48
B65G 45/00−45/26
B65G 69/00−69/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカーの収容面である底面と、該底面を取り囲んで立ち上がる側壁部分を有し、高温クリンカーを収容可能な収容バケットが、搬送方向に連続して複数配置されてなる高温クリンカー収容手段と、
前記高温クリンカー収容手段を搬送可能な周回路からなるバケット移動手段と、
ミスト状の水分を噴霧することが可能なバケット冷却手段と、を備え、
前記バケット冷却手段が、前記バケット移動手段を構成する周回路におけるクリンカー搬出地点を始点としクリンカー投入地点を終点とする空冷域内における前記クリンカー投入地点の上流側近傍であって、収容バケットの底面であるクリンカーの収容面が上方を向いている位置範囲において、前記収容バケットの内面の略全面にミスト状の水分を同時に直接散布できる位置であって、開口部付近におけるミストの広がり径が、搬送方向に垂直な方向の幅と概ね同じ大きさとなる位置に設置されている散水スプレーであるクリンカー搬送用コンベア。
【請求項2】
前記周回路の上方空間における前記散水スプレーが設置されている位置よりも下流側で且つ前記クリンカー投入地点よりも上流側の空間内にバケット温度測定手段としての温度計が設置されている請求項1に記載のクリンカー搬送用コンベア。
【請求項3】
前記周回路の上方空間における前記クリンカー投入地点の下流側近傍の空間内にバケット温度測定手段としての第2温度計が設置されている請求項1又は2に記載のクリンカー搬送用コンベア。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のクリンカー搬送用コンベアの運転方法であって、
前記散水スプレーによって前記収容バケットの内面に散布された水分が、前記収容バケットが前記クリンカー投入地点に到達する前に全て蒸発することとなるように前記水分の噴霧量を制御しながら前記水分の噴霧を行うクリンカー搬送用コンベアの運転方法。
【請求項5】
前記クリンカー投入地点の下流側近傍の収容バケット上の空間の温度を測定し、この温度から推定されるバケット温度が一定の温度を超えた場合には、前記水分の噴霧を行い、前記バケット温度が前記一定の温度以下であった場合には、前記水分の噴霧を行わない請求項4に記載のクリンカー搬送用コンベアの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカー搬送用コンベアに関する。詳しくは、ロータリーキルン等から排出される高温のクリンカーを搬送するクリンカー搬送用コンベア、及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製錬等で発生する鉄鋼ダストの処理方法として、還元焙焼により鉄鋼ダスト中に含まれる亜鉛等の有価金属を回収するプロセスが広く実施されている。このような有価金属の回収プロセスにおいては、ロータリーキルン等の大型の回転炉で鉄鋼ダストを還元焙焼する工程を経ることが一般的である。そして、ロータリーキルンから排出される鉄鋼ダストの残滓はクリンカーとして回収され、クリンカー搬送用コンベアの収容バケットに投入されて、次工程へと搬送される。
【0003】
上記プロセスにおいて、ロータリーキルン等から排出されるクリンカーは、その排出時における温度が通常900℃〜1200程度の高温に達している。そして、クリンカー搬送用コンベアへの投入時においても、尚、800〜1000℃程度の高温状態を保持している。従って、このような高温のクリンカーが連続的に投入されるクリンカー搬送用コンベアの収容バケットは、操業期間中、恒常的に高温のクリンカーとの衝突が繰り返される。そして、そのような過酷な熱環境下での稼働は、クリンカー搬送用コンベア各部に過度の加熱に起因する劣化や損傷を引き起こす。
【0004】
このような過度の加熱による搬送用のコンベアの各部の損傷を和らげるための対応策として、例えばクリンカーを収容する収容バケット部への注水による冷却が従来から試みられていた。
【0005】
しかしながら、このような注水による冷却を行った場合、注水量が少ないと、冷却効果が不十分となるのみならず、注水される冷却水が直接触れる部分のみにおいて冷却水が蒸発してしまい、局所的な加熱と冷却が繰り返されることにより、反って、上記部分を起点にバケット底面に亀裂が発生してしまう等という問題が生じる場合が多く見られた。
【0006】
一方、バケット内に十分に冷却水が溜まる程度にまで注水量を増やしてバケット内部の全面を万遍なく冷却しようとすると、クリンカーの投入時にまで冷却水が残存することとなる。そうすると、クリンカーが水を含むことによって、収容バケット底面等へ付着し、これによるクリンカー排出量の減少やバケットの動作不良、更にはバケット底面の腐食を促進させることによる損傷を生じさせる現象が多く見られた。そして、そのような場合には、新たなクリンカーの収容バケットへの投入前に、クリンカー搬送用コンベアの稼働を一旦停止するか或いは搬送速度を調整することによって、冷却水の完全な蒸発を促す必要が生じ、これが実操業におけるクリンカー搬送用コンベアの稼働率を低下させる一因となった。
【0007】
例えば、特許文献1には、酸化鉄塊成化物を還元炉内で還元し還元鉄塊成化物として排出する還元鉄塊成化物を冷却する装置において、散水時のスプレー幅を最適角度に調整したスプレー散水により処理物を冷却する方法が開示されている。しかし、コンベアそのものを熱損傷から守るための冷却については何ら検討の跡がなく、ただちに、コンベアそのものの冷却手段として適応可能な手段ではない。この方法においては、クリンカーが落下する搬送面では、クリンカー中に鉄鋼ダストを還元するために添加されるコークス等の還元剤が残っており、多量の排ガスが発生する。又、この冷却方法では、クリンカーの温度は低減させることができるものの、コンベア自体の温度を下げるには不十分であることが明らかである。又、上記のような収容バケット底面等への好ましくないクリンカーの付着も発生してしまうものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−184801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高温のクリンカーを搬送するクリンカー搬送用コンベアであって、高温に曝されるバケット部分等を、その稼働を中断することなく必要十分な温度にまで冷却することができる冷却手段を備えることによって、耐久性と実操業時における稼働率とを向上させたクリンカー搬送用コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、クリンカー搬送用コンベアに、ミスト状の水分を、収容バケットの内面の略全面に同時に直接散布することが可能な散水スプレーを、搬送路中の特定の位置に設置することによって、高温に曝される収容バケットの内面を、その稼働を中断することなく効果的に冷却することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 高温クリンカーを収容可能な収容バケットが、搬送方向に連続して複数配置されてなる高温クリンカー収容手段と、前記高温クリンカー収容手段を搬送可能な周回路からなるバケット移動手段と、ミスト状の水分を噴霧することが可能なバケット冷却手段と、を備え、前記バケット冷却手段が、前記バケット移動手段を構成する周回路におけるクリンカー搬出地点を始点としクリンカー投入地点を終点とする空冷域内における前記クリンカー投入地点の上流側近傍において、前記収容バケットの内面の略全面にミスト状の水分を同時に直接散布できる位置に設置されている散水スプレーであるクリンカー搬送用コンベア。
【0012】
(2) 前記周回路の上方空間における前記散水スプレーが設置されている位置よりも下流側で且つ前記クリンカー投入地点よりも上流側の空間内にバケット温度測定手段としての温度計が設置されている(1)に記載のクリンカー搬送用コンベア。
【0013】
(3) 前記周回路の上方空間における前記クリンカー投入地点の下流側近傍の空間内にバケット温度測定手段としての第2温度計が設置されている(1)又は(2)に記載のクリンカー搬送用コンベア。
【0014】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載のクリンカー搬送用コンベアの運転方法であって、前記散水スプレーによって前記収容バケットの内面に散布された水分が、前記収容バケットが前記クリンカー投入地点に到達する前に全て蒸発することとなるように前記水分の噴霧量を制御しながら前記水分の噴霧を行うクリンカー搬送用コンベアの運転方法。
【0015】
(5) 前記クリンカー投入地点の下流側近傍の収容バケット上の空間の温度を測定し、この温度から推定されるバケット温度が一定の温度を超えた場合には、前記水分の噴霧を行い、前記バケット温度が前記一定の温度以下であった場合には、前記水分の噴霧を行わない(4)に記載のクリンカー搬送用コンベアの運転方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温のクリンカーを搬送するクリンカー搬送用コンベアであって、高温に曝される収容バケットの内面を、その稼働を中断することなく必要十分な温度にまで冷却することができる冷却手段を備えることによって、耐久性と実操業時における稼働率とを向上させたクリンカー搬送用コンベアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のクリンカー搬送用コンベアの全体構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のクリンカー搬送用コンベアのバケット冷却手段の設置態様及び冷却水の散布態様を模式的に示す斜視図である。
図3A】本発明のクリンカー搬送用コンベアのバケット冷却手段の設置態様及び冷却水の噴霧態様の説明に供する概念図である。
図3B】本発明のクリンカー搬送用コンベアのバケット冷却手段の設置態様及び冷却水の噴霧態様の説明に供する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<クリンカー搬送用コンベア>
[全体構成]
本発明のクリンカー搬送用コンベアは、鉄鋼ダストの還元焙焼処理を行うロータリーキルン等から排出される高温のクリンカーを、次工程へ搬送するために用いる搬送装置として好ましく用いることができるコンベア装置である。
【0019】
図1に示す通り、本発明の好ましい実施形態の一つであるクリンカー搬送用コンベア1は、搬送方向Aに沿って連続して配置される複数の収容バケット31と、これら複数の収容バケット31によって構成される高温クリンカー収容手段3を、同時に搬送方向に移動可能な周回路であるバケット移動手段2とを備える。そして、クリンカー搬送用コンベア1は、バケット移動手段2の経路上における所定範囲の上方空間内に本発明特有のバケット冷却手段4を構成する散水スプレー41が設置されている。
【0020】
クリンカー搬送用コンベア1は、回転駆動部21を回転させると、張られている搬送用チェーン22が回転し、それに伴って収容バケット31の搬送が開始される。搬送速度の一例を挙げれば1〜10m/分である。クリンカー搬送用コンベア1を用いたプロセスにおいては、クリンカー搬送用コンベア1をこのような状態で稼働させながら、ロータリーキルン12等で還元焙焼された排出物のうち、投入シュート内の篩部6を通過したものが、高温のクリンカー11として、クリンカー搬送用コンベア1の投入口7から、移動中の収容バケット31に次々と収容される。収容されたクリンカー11は、A方向に向けて搬送され、バケット移動手段2がその移動方向を反転させる終端部で収容バケット31が回転する際に、下方に落下し、搬出口8から搬出される。
【0021】
本明細書においては、バケット移動手段2の周回路上におけるクリンカー11の投入開始地点(図1に示す位置a)を、「クリンカー投入地点」と言うものとする。又、同周回路上におけるクリンカー11の搬出地点(図1に示す位置b)を「クリンカー搬出地点」と言うものとする。そして、同周回路上のクリンカー搬出地点bから搬送方向Aに沿ってクリンカー投入地点aに至るまでの範囲のことを、同周回路上の「空冷域」と言うものとする。
【0022】
クリンカー搬送用コンベア1においては、クリンカー搬出地点bにおいて収容バケット31から高温のクリンカー11が搬出された後、次サイクルのクリンカー11がクリンカー投入地点aにおいて収容バケット31に新たに投入されるまでの範囲、即ち、この空冷域においては、クリンカー11が収容されていない空の状態で収容バケット31が搬送されるため、この空冷域を搬送される間に収容バケット31の温度は緩やかに低下していく。散水スプレー41は、この空冷域が終了する直前の位置である、クリンカー投入地点aの上流側近傍、詳しくは、同位置の上方空間に収容バケット31から所定の距離にある高さの位置に設置される。尚、ここで上記の上方空間とは、図1に示す通り、収容バケット31の底面であるクリンカーの収容面が上方を向いている位置範囲における、収容バケット31上の空間のことを言う。
【0023】
[バケット移動手段]
バケット移動手段2は、連続して設置される複数の収容バケット31からなる高温クリンカー収容手段を搬送するための周回移動手段である。本発明のクリンカー搬送用コンベアにおいて特段の構造に限定されるものではないが、例えば、図1に示す通り、始端部及び終端部に配置される2箇所の回転駆動部21と、回転駆動部21を渡り架ける外周の搬送用チェーン22とから構成されている構造のものを、その好ましい一例として挙げることができる。
【0024】
そして、複数の収容バケット31からなる高温クリンカー収容手段3を搬送用チェーン22の上に連続的に配置することにより、複数の収容バケット31が、搬送面の始端(図1における搬送用チェーン22左端)から、搬送面の終端(図1における搬送用チェーン22の右端)へ向けて搬送され、その後、終端で右側の回転駆動部21に沿って搬送面に対して180度反転し、そのまま始端側に移動し、そこで又180度反転して循環するバケット移動手段2を構成することができる。
【0025】
[高温クリンカー収容手段]
クリンカー搬送用コンベア1における高温クリンカー収容手段3は、高温クリンカーを収容可能な収容バケット31が、搬送方向に連続して複数配置されることによって構成される。収容バケット31は、搬出対象に応じて必要とされる耐熱性を備えた金属製の箱状部材であればよいが、例えば、SUS310S等からなるステンレス製等の耐熱性の高い板材により形成された収容部を有する箱状部材であることが好ましい。
【0026】
又、収容バケット31の形状は、ロータリーキルン12等から排出され連続的に投入される所定量のクリンカーを収容可能な形状及び容量を有するものであれば、特段の形状及び容量に限定されない。但し、収容部分が特に側壁部分を有さないプレートのみからなる所謂エプロンタイプのものではなく、あくまでバケットタイプの収容バケットであることが必要である。エプロンタイプの収容部であると、冷却水が蒸発気化による冷却効果を発する前に漏出してしまうことが多くなるが、バケットタイプとすることにより、冷却水が蒸発するまでの間、バケット内に冷却水を確実に保持して十分な冷却効果を発現させることができる。
【0027】
[バケット冷却手段]
クリンカー搬送用コンベア1は、バケット冷却手段4として、収容バケット31の内面の略全面に、ミスト状の水分を同時に直接散布することが可能な散水スプレー41によって構成される。散水スプレー41として、例えば、従来の普及品である円錐スプレーノズル等を用いることができる。
【0028】
図2は、3つの収容バケット31が連結配置されて周回路上をA方向に搬送される態様と、それらの収容バケット31に対する散水スプレー41によるミスト状の水分の散布の好ましい実施態様とを、模式的に示した斜視図である。ミスト状の水分の散布対象である収容バケット31に対する散水スプレー41の相対的な設置位置は、図1に示す通り、上記の空冷域内であってクリンカー投入地点aの上流側近傍において、ミスト状の水分の散布対象である収容バケット31の内面の略全面にミスト状の水分を同時に直接散布できる位置であればよい。
【0029】
例えば、図3A図3Bに示すように、収容バケット31の開口部の幅が、搬送方向に沿った幅がwsであり、搬送方向に垂直な方向の幅がweである場合、散水スプレー41の設置位置は、ミスト噴出角度θに応じて高さhを調整するか、或いは高さhに応じてミスト噴出角度θを調整することにより、収容バケット31の開口部付近におけるミストの広がり径が、搬送方向に垂直な方向の幅weと概ね同じ大きさとなるように、ミスト噴出角度θ及び/又は散水スプレーの設置の高さhの組合せを調整することによって、本発明の効果を享受することができる。
【0030】
上記の散水スプレー41の設置位置とミスト状の水分の噴霧の好ましい実施態様の具体例を以下に例示する。例えば、収容バケット31の開口面のサイズが、25cm×94cm(図2に示す(ws)×(we))である場合、散水スプレーのミスト噴出角度θが60°〜110°、クリンカー投入地点aからの周回路上の距離が0.3m〜3.0mの範囲の地点の収容バケット31の上方空間内であって、収容バケット31の開口部からの高さhが0.1m〜0.5m程度の位置に散水スプレーを設置する例を好ましい具体例として挙げることができる。散水スプレー41の設置位置をこのように最適化することにより、収容バケット31の内面の略全面に同時にミスト状の水分を直接散布することが可能となり、収容バケット31の内面を万遍なく冷却することができる。又、冷却に寄与せずに収容バケット31の外に噴霧される水分量を最小化することができる。
【0031】
又、上記の通り、収容バケット31の開口面からの高さhが0.1m〜0.5m程度の位置に、ミスト噴出角度θが60°〜110°である散水スプレー41を設置したクリンカー搬送用コンベア1を、概ね900℃程度のクリンカーを2〜10t/hの搬出速度で搬出するロータリーキルン12に接続して用いる場合、この散水スプレー41からのミスト状の水分の散水量は、5〜10L/min.程度とすることが好ましい。上記設置条件の下で、散水量を上記範囲とすることにより、収容バケット31が、散水スプレー直下を通過した後、クリンカー投入地点aに移動するまでの間に、収容バケット31内の水分を完全に蒸発させて、収容バケット31の温度を十分に低下させることができる。
【0032】
[温度測定手段]
クリンカー搬送用コンベア1においては、バケット移動手段2の周回路上の空間であって散水スプレー41が設置されている位置よりも下流側、且つ、クリンカー投入地点aよりも上流側の上方空間内に、温度測定手段5として、赤外線式温度計等の温度計51が設置されていることが好ましい。温度計51は必ずしも常設されているものに限らないが、常設されていることによって、測定された温度をクリンカー搬送用コンベア1の運転の制御情報として、恒常的にバケット冷却手段にフィードバックできる構成を更に備えていることが好ましい。
【0033】
又、クリンカー搬送用コンベア1の収容バケット31の温度を測定するために、温度計51による温度測定は、収容バケット31に散布された水分が完全に蒸発した後の状態における温度を測定できる位置、即ち、クリンカー投入地点aの直前の上方空間内であることが好ましい。又、外気温度の影響を極力排して収容バケット31の温度を測定するために、温度計51の設置位置は、収容バケット31の搬送経路上の搬送方向に沿った中央線上であって、クリンカー11との直接接触によりその搬送を妨げたり、或いは、衝突による温度計の破損が起こることを避けられる範囲で、可能な限り収容バケット31の開口面に近づけた位置とすることが好ましい。
【0034】
又、クリンカー搬送用コンベア1においては、バケット移動手段2の周回路上の空間であって、クリンカー投入地点aの下流側近傍の上方空間内に、温度測定手段5として第2温度計52が設置されていることがより好ましい。第2温度計52は必ずしも常設されているものに限らないが、常設されていることによって、測定された温度をクリンカー搬送用コンベア1の運転の制御情報として、恒常的にバケット冷却手段にフィードバックできる構成を更に備えていることが好ましい。この第2温度計52によれば、クリンカー搬入の有無を上記位置におけるガス温度を得て、この温度の上下とクリンカー搬入の有無を結び付けて管理することができる。これにより、下記に詳細を示す通り、より効率よく収容バケット冷却手段によるミスト状の水分の噴霧量を制御することができる。
【0035】
<クリンカー搬送用コンベアの運転方法>
クリンカー搬送用コンベア1は、散水スプレー41によって収容バケット31の内面に散布された水分が、収容バケット31がクリンカー投入地点aに到達する前に全て蒸発することとなるようにミスト状の水分の噴霧量を調整しながら運転する。このような水分の噴霧量の制御により、クリンカー11の収容バケット31の内部への好ましくない付着による弊害を回避しながら、収容バケット31を十分に冷却して、クリンカー搬送用コンベア1の耐久性と実操業における稼働率を向上させることができる。
【0036】
具体的な制御態様の実例は以下の通りである。上記の温度計51で把握した収容バケット31の推定温度が、非散水時において200℃を超えて300℃以下である場合に、同温度を100℃〜200℃以内に制御する例を好ましい一例として挙げることができる。収容バケット31の推定温度が100℃未満となると、収容バケット31がクリンカー投入地点aに到達する際に、収容バケット31の底面に水分が残存してしまう。一方で、同推定温度が200℃を超えると、収容バケットの冷却効果が不十分となる。上記のように収容バケット31の推定温度を100℃〜200℃以内に制御することによって、内部に散水された水分を次サイクルのクリンカー投入前に十分に蒸発させることができる。
【0037】
又、クリンカー搬送用コンベア1の運転においては、クリンカー投入地点aの下流側近傍、好ましくは同地点直後の位置上における収容バケット31の推定温度を、第2温度計52によって、上記同様に把握して、この位置での収容バケット31の推定温度を基準にして、散水スプレー41によるミストの噴霧の実行の有無を制御することが好ましい。具体的には上記温度が一定の温度を超えた場合には、高温のクリンカーの投入が行われたものと判断してミスト状の水分の噴霧を行い、一方、同温度が一定の温度以下となった場合には、高温のクリンカーの投入が中断されたものと判断してミスト状の水分の噴霧を中断するという制御である。高温のクリンカー11が投入された直後のケーシング内のガス温度を測定し、このガス温度とクリンカーの排出量、散水スプレー41からのミストの散水量、収容バケット31の底面中央部分の温度との相関を求め、これをバケット冷却手段の作動にフィードバックして制御することにより、クリンカー11の投入量の増減に適切に対応することが可能である。
【0038】
上記の制御は、具体的には下記の方法で実施可能である。即ち、バケット冷却手段にミスト状の水分の噴霧を必要に応じて停止するための電磁弁を設け、クリンカー11の排出がない時は、この電磁弁を閉じる。電磁弁の作動条件は、第2温度計52の測定値によるものとしているが、バケット移動手段2の駆動モーターの電流値から条件を取るようにしてもよい。上記のガス温度による制御を行う場合には、運転中のガス温度は、一般に300〜400℃、停止中のガス温度が30℃程度である。よって、同ガス温度が80℃以上の噴霧開始、70℃以下で噴霧停止とする制御を行う例を好ましい制御態様の一例として挙げることができる。
【実施例】
【0039】
図1示すクリンカー搬送用コンベア1において、ミスト状の水分の噴霧条件による冷却効果の差異を検証するための試験操業を行った。収容バケットは、厚さ12mmのSUS310S製で、その開口面のサイズは25cm×94cmとし、バケット底面の開口面からの深さは中央の最深部において16.5cmとした。搬送速度は5m/分とした。又、散水スプレーとしては、ミストの噴霧角度が85°である円錐スプレーを用い、これを、収容バケット開口面からの高さ0.2mの位置に設置した。このクリンカー搬送用コンベアに、約900℃の高温のクリンカーを搬入し、搬送した。
【0040】
(実施例1)
散水スプレーによるミスト状の水分の収容バケットに対する噴霧量を8L/min.とし、収容バケットの冷却を行いながら、24時間の試験操業を行った。ミスト状の水分の散布前に300℃であった収容バケット底面の推定温度は、140℃となり、160℃の温度低下が得られた。又、上記時間内にミスト状の水分散布に起因する収容バケット底面等へのクリンカーの付着はほとんど無く、同底面等の亀裂や変形、或いは、その他の部分の強度低下による破断も発生しなかった。上記の亀裂や変形等が発生しなかったことにより、操業時間内でのロータリーキルンの停止は不要であり、クリンカーの品質の安定と、作業者の作業負担の軽減が期待できること、及び、クリンカー搬送用コンベアの耐用年数を通常の1年から2年程度へと延長することが可能であることも推認することができた。
【0041】
(実施例2)
上記噴霧量を6L/min.とした他は、実施例1と同条件で試験操業を行った。噴霧前に300℃であった収容バケットの底面の推定温度は、200℃となり、100℃の温度低下が得られた。又、上記のクリンカー付着はほとんど無く、上記の亀裂や変形等も、実施例1と同様、発生しなかった。
【0042】
(比較例1)
上記噴霧量を4L/min.とした他は、実施例1と同条件で試験操業を行った。上記のクリンカー付着はほとんど無かったが、噴霧前に300℃であった上記推定温度は、230℃となり、温度低下は70℃に止まった。
【0043】
(比較例2)
上記噴霧量を24L/min.とした他は、実施例1と同条件で試験操業を行った。噴霧前に300℃であった上記推定温度は、80℃となり、220℃の温度低下が得られた。しかしながら、ミスト状の水分散布に起因する水分が収容バケット底面に残存することによって、同面へのクリンカーの付着が発生した。
【0044】
(比較例3)
散水スプレーによる噴霧に代えて、8L/min.の注水量で普通蛇口から流水を垂れ流して収容バケット内に注水する態様で冷却を行い、その他の条件は、実施例1と同一条件として試験操業を行った。注水前に300℃あったコンベアの搬送面中央部位の温度は、160℃となり、140℃の温度低下が得られた。しかしながら、注水された水が収容バケット底面に残存することによって、同面へのクリンカーの付着が発生した。
【0045】
(比較例4)
散水スプレーによる噴霧に代えて、6L/min.の注水量で普通蛇口から流水を垂れ流して収容バケット内に注水する態様で冷却を行い、その他の条件は、実施例1と同一条件として試験操業を行った。注水前に300℃であったコンベアの搬送面中央部位の温度は、170℃となり、130℃の温度低下が得られた。しかしながら、注水された水が収容バケット底面に残存することによって、同面へのクリンカーの付着が発生した。
【0046】
(比較例5)
散水スプレーによる噴霧に代えて、4L/min.の注水量で普通蛇口から流水を垂れ流して収容バケット内に注水する態様で冷却を行い、その他の条件は、実施例1と同一条件として試験操業を行った。上記のクリンカー付着はほとんど無かったが、注水前に300℃であった上記推定温度は、230℃となり、温度低下は70℃に止まった。
【0047】
(比較例6)
水分の噴霧及び注水を行わず、その他の条件については、実施例1と同一条件で試験操業を行った。収容バケット底面の推定温度は300℃であり、同底面の亀裂や変形、或いは他部分の強度低下による破断が発生した。コンベアの耐用年数は1年程度と推認された。
【0048】
以上より、本発明のクリンカー搬送用コンベア及びその運転方法によれば、高温のクリンカーを搬送するクリンカー搬送用コンベアであって、高温に曝されるバケット部分等を、その稼働を中断することなく必要十分な温度にまで冷却することができる冷却手段を備えることによって、耐久性と実操業時における稼働率とを向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 クリンカー搬送用コンベア
11 クリンカー
12 ロータリーキルン
2 バケット移動手段
21 回転駆動部
22 搬送用チェーン
3 高温クリンカー収容手段
31 収容バケット
4 バケット冷却手段
41 散水スプレー
5 温度測定手段
51 温度計
52 第2温度計
6 篩部
7 投入口
8 搬出口
図1
図2
図3A
図3B