特許第6332259号(P6332259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332259
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】異方性磁性粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20180521BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 9/22 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01F1/059
   C22C38/00 303D
   B22F9/20 A
   B22F1/00 Y
   B22F9/22 A
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-251846(P2015-251846)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-117937(P2017-117937A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前原 永
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−113481(JP,A)
【文献】 特開2004−115921(JP,A)
【文献】 米国特許第06413327(US,B1)
【文献】 特開2000−049006(JP,A)
【文献】 特開2001−135509(JP,A)
【文献】 特開2006−291257(JP,A)
【文献】 特開平09−074006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
H01F 1/053
H01F 1/06
B22F 1/00
B22F 9/20
B22F 9/22
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンを含む溶液から、Rと鉄とランタンとを含む沈殿物を得た後、前記沈殿物からRと鉄とランタンとを含む酸化物を得る工程と、
または、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンとタングステンを含む溶液から、Rと鉄とランタンとタングステンを含む沈殿物を得た後、前記沈殿物からRと鉄とランタンとタングステンを含む酸化物を得る工程と、
前記酸化物を還元性ガスによる処理をすることにより、部分酸化物を得る工程と、
前記部分酸化物を920℃〜1200℃の範囲にある温度で還元拡散することにより合金粒子を得る工程と、
前記合金粒子を窒化することにより、下記一般式で表される異方性磁性粉末を得る工程と、を含む異方性磁性粉末の製造方法。
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【請求項2】
前記RがSmである請求項1に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記xの範囲が0.11≦x≦0.22である請求項1または2に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記xの範囲が0.15≦x≦0.19である請求項1から3のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記合金粒子を得る工程において、前記部分酸化物を950℃〜1200℃の範囲にある温度で還元拡散する請求項1から4のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記異方性磁性粉末の円形度が0.5以上である請求項1から5のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記異方性磁性粉末のレーザー回折式粒径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した平均粒径が3.5μm以上 6.2μm以下、粒径D10が1.6μm以上 2.8μm以下、D50が3.5μm以上 5.7μm以下、D90が6.0μm以上 9.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.25以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値である。
スパン=(D90−D10)/D50
【請求項8】
z=0のとき、残留磁束密度が127Am2/g以上、保磁力が10kOe以上である請求項1から7のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
z>0のとき、残留磁束密度が119Am2/g以上、保磁力が17kOe以上、角型比が6kOe以上である請求項1から7のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項10】
レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した平均粒径が3.5μm以上 6.2μm以下、粒径D10が1.6μm以上 2.8μm以下、D50が3.5μm以上 5.7μm以下、D90が6.0μm以上 9.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.25以下であり、下記一般式で表される異方性磁性粉末。
ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値である。
スパン=(D90−D10)/D50
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【請求項11】
前記xの範囲が0.11≦x≦0.22である請求項10に記載の異方性磁性粉末。
【請求項12】
前記xの範囲が0.15≦x≦0.19である請求項10または11に記載の異方性磁性粉末。
【請求項13】
円形度が0.5以上である請求項10から12のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末。
【請求項14】
前記RがSmである請求項10から13のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末。
【請求項15】
z=0のとき、残留磁束密度が127Am2/g以上、保磁力が10kOe以上である請求項10から14のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末。
【請求項16】
z>0のとき、残留磁束密度が119Am2/g以上、保磁力が17kOe以上、角型比が6kOe以上である請求項10から14のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性磁性粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、希土類金属酸化物と遷移金属酸化物を混合粉砕し、それらを原料とした還元拡散法により、形状がほぼ球状で粒子径が1〜5μ程度のシャープな粒度分布を有する希土類−鉄−窒素系異方性磁性粉末を得る製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、着磁性改善のため、鋳型鋳造によりSm―La―Fe―Mn合金インゴットを作成し、粉砕工程を経て、ランタンを重量百分率で0.1〜5wt%含有する粒径が2μmの希土類−鉄−窒素系異方性磁性粉末を得る製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、希土類化合物と遷移金属化合物とを含む溶液とアルカリ溶液との反応により得られた沈殿物を酸化することにより酸化物を得たのち、それら酸化物を原料とした還元拡散法により粒径が比較的小さく組成が均一な希土類−鉄−窒素系磁性粉末を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001―181713号公報
【特許文献2】特開2002―217010号公報
【特許文献3】特開2014−080653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載された異方性磁性粉末の製造方法では、粉砕することにより磁性粉末の表面が劣化したものや微小粒子を多く含む磁性粉末を用いるため、PPSの融点である280℃以上、特に320℃以上に加熱すると、微小粒子の表面の酸化により保持力が低下する場合がある。また、特許文献3に記載された異方性磁性粉末の製造方法では、複数の粒子が焼結した粒子を多く含む磁性粉末を用いるため、PPSとの混錬時に剥離が起こり、剥離した部分の酸化により保持力が低下する場合がある。
【0007】
本発明は、磁気特性が良く、耐熱性のある希土類−鉄−窒素系の異方性磁性粉末およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の異方性磁性粉末の製造方法は、
R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンを含む溶液から、Rと鉄とランタンとを含む沈殿物を得た後、前記沈殿物からRと鉄とランタンとを含む酸化物を得る工程と、
または、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンとタングステンを含む溶液から、Rと鉄とランタンとタングステンを含む沈殿物を得た後、前記沈殿物からRと鉄とランタンとタングステンを含む酸化物を得る工程と、
前記酸化物を還元性ガスによる処理をすることにより、部分酸化物を得る工程と、
前記部分酸化物を920℃〜1200℃の範囲にある温度で還元拡散することにより合金粒子を得る工程と、
前記合金粒子を窒化することにより、下記一般式で表される異方性磁性粉末を得る工程と、を含む。
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【0009】
本発明の異方性磁性粉末は、
レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した平均粒径が3.5μm以上 6.2μm以下、粒径D10が1.6μm以上 2.8μm以下、D50が3.5μm以上 5.7μm以下、D90が6.0μm以上 9.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.25以下であり、下記一般式で表される。
ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値である。
スパン=(D90−D10)/D50
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気特性が良く、耐熱性のある希土類−鉄−窒素系の異方性磁性粉末の提供とその磁性粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る異方性磁性粉末の製造方法の概略構成を示す図である。
図2】実施例2における磁性粉末のSEM像を示す図である。
図3】比較例1における磁性粉末のSEM像を示す図である。
図4】実施例8における磁性粉末のSEM像を示す図である。
図5】比較例2における磁性粉末のSEM像を示す図である。
図6】実施例2、8及び比較例1、2、5における磁性粉末の粒度分布(頻度分布)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
<異方性磁性粉末の製造方法>
図1は、本実施形態に係る異方性磁性粉末の製造方法を説明するためのものである。図1を参照して製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態に係る異方性磁性粉末の製造方法は、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンを含む溶液を準備する原料調整工程1と、その溶液からRと鉄とランタンとを含む沈殿物を得る沈殿工程2と、その沈殿物からRと鉄とランタンとを含む酸化物を得る酸化工程3と、を有する(以下、この場合を単に「タングステンを含まない場合」ともいう。)。または、これらの工程にかえて、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とランタンとタングステンを含む溶液を準備する原料調整工程1と、その溶液からRと鉄とランタンとタングステンを含む沈殿物を得る沈殿工程2と、その沈殿物からRと鉄とランタンとタングステンを含む酸化物を得る酸化工程3と、を有する(以下、この場合を単に「タングステンを含む場合」ともいう。)。
本実施形態では、タングステンを含まない場合もタングステンを含む場合も、さらに、酸化物を還元性ガスによる処理をすることにより、部分酸化物を得る前処理工程4と、部分酸化物を920℃以上の温度で還元拡散することにより、合金粒子を得る還元拡散工程5と、合金粒子を窒化することにより、下記一般式で表される異方性磁性粉末を得る窒化工程6と、を有する。
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【0015】
本実施形態では、沈殿工程2において、最終的に得られる異方性磁性粉末のxの範囲が0.08≦x≦0.3になるように所定濃度のランタンを含む沈殿物を得る。そして、酸化工程3および前処理工程4を経てから、還元拡散工程5において、所定濃度のランタンを含む部分酸化物を920℃以上で還元拡散することで、ランタンを溶融させ拡散させる。これにより、還元拡散工程5において、粒子成長が適度に促進されるとともに、微小粒子の生成、微小粒子の焼結体の生成及び粗大粒子の生成を抑制することができるので、窒化工程6において残留磁束密度に優れた異方性磁性粉末を得ることができるものと考えられる。
【0016】
一方、タングステンを含む場合も、還元拡散工程5において、粒子成長が適度に促進されるとともに、微小粒子の生成、微小粒子の焼結体の生成及び粗大粒子の生成を抑制することができる。タングステンを含む場合は、これに加えて、還元拡散工程5において、タングステンが粒子間の隙間に存在し状態が維持されることで、ランタンによる粒子の過剰成長を軽減できると考えられる。このため、窒化工程6において保持力と角型比に優れた異方性磁性粉末を得ることができる。
【0017】
以下、各工程について説明する。
【0018】
[原料調整工程1]
強酸性の溶液にR原料と鉄原料とランタン原料を最終物の目的の組成が得られるよう適宜溶解することで、Rと鉄とランタンを含む溶液を調整する。SmFe17を主相として得る場合、R及びFeのモル比(R:Fe)は1.5:17〜3.0:17のある範囲であることが好ましく、2.0:17〜2.5:17の範囲であることがより好ましい。
【0019】
R原料、鉄原料、ランタン原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されず、例えば、入手のしやすさの点で、R原料としては各金属の酸化物が、Fe原料としては、FeSOが、ランタン原料としてはLaClが挙げられる。Rと鉄とランタンを含む溶液の濃度は、R原料と鉄原料とランタン原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整し、酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。タングステンを含む場合、タングステンの原料としては、溶解性の点と入手しやすい点でタングステン酸アンモニウムが挙げられ、タングステン酸アンモニウムを用いる場合は、Rと鉄とランタンを含む溶液とは別に、水に実質的に溶解する範囲で調整する。
以下では、タングステンを含まない場合について説明するが、以下の説明は原則としてタングステンを含む場合にも当てはまる。
【0020】
[沈殿工程2]
Rと鉄とランタンを含む溶液と沈殿剤を反応させることにより、Rと鉄とランタンとを含む不溶性の沈殿物を得る。沈殿剤としては、アルカリ性の溶液(アンモニア水、苛性ソーダなど)でRと鉄とランタンとを含む溶液と反応して沈殿物が得られるものであれば限定されず、金属元素を含まない点でアンモニア水が好ましい。
【0021】
沈殿反応は、沈殿物の粒子の性状を容易に調整できる点から、Rと鉄とランタンを含む溶液と、沈殿剤と、をそれぞれ溶媒(好ましくは水)に滴下する方法であることが好ましい。また、Rと鉄とランタンとを含む溶液と沈殿剤との供給速度、反応温度、反応液濃度、反応時のpH等を適宜制御することにより、構成元素の分布が均質で、粒度分布のシャープな、粉末形状の整った、沈殿物が得られる。このような沈殿物を使用することによって、最終製品である磁性粉末の磁気特性が向上する。反応温度は、0〜50℃とすることができ、35〜45℃であることが好ましい。反応液濃度は、金属イオンの総濃度として0.65mol/L〜0.85mol/Lとすることが好ましく、0.7mol/L〜0.85mol/Lとすることがより好ましい。反応pHは、5〜9とすることが好ましく、6.5〜8とすることがより好ましい。
【0022】
この沈殿工程2により、最終的に得られる磁性粉末の粉末径、粉末形状、粒度分布がおよそ決定される。この沈殿物粉末の粒径をレーザー回折式湿式粒度分布計を用いて測定した場合、全粉末が、0.05〜20μm、好ましくは0.1〜10μmの範囲にほぼ入るような大きさと分布であることが好ましい。また、平均粒径は、粒度分布における小粒径側からの体積累積50%に相当する粒径として測定され、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0023】
沈殿工程2は、得られる沈殿物を分離洗浄する工程を含んでもよい。洗浄する工程は上澄み溶液の導電率が5mS/m以下となるまで適宜行う。沈殿物を分離する工程としては、例えば、得られた沈殿物に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、濾過法、デカンテーション法等を用いることができる。
【0024】
沈殿物を分離した後は、続く酸化工程3の熱処理において沈殿物が残存する溶媒に再溶解して、沈殿物が凝集したり、粒度分布、粉末径等が変化したりすることを抑制するために、脱溶媒しておくことが好ましい。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70〜200℃のオーブン中で5時間〜12時間乾燥する方法を挙げることができる。
【0025】
[酸化工程3]
酸化工程3は、沈殿工程2で得られるRと鉄とランタンとを含む沈殿物からRと鉄とランタンとを含む酸化物を得る工程であり、例えば、熱処理により沈殿物を酸化物に変換することができる。沈殿物を熱処理する場合、酸素の存在下で行われる必要があり、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、酸素存在下で行われる必要があるため、沈殿物中の非金属部分に酸素原子を含むことが好ましい。
【0026】
熱処理の温度及び時間は、700〜1300℃の温度で数時間とすることができ、900〜1200℃の温度で数時間(例えば、1〜3時間)とすることが好ましい。
【0027】
沈殿物から得られる酸化物は、酸化物粒子内においてR、鉄、ランタンの微視的な混合が充分になされ、沈殿物の形状、粒度分布等が反映された酸化物粒子である。
【0028】
[前処理工程4]
前処理工程4においては、酸化工程3で得られる酸化物を還元性ガスによる還元雰囲気下で加熱処理することで、一部が還元された部分酸化物を得る。還元性ガスは水素(H)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)等の炭化水素ガスなどの還元性ガスから適宜選択されるが、コストの点で水素ガスが好ましい。この場合の加熱処理の温度は、300〜900℃の範囲に設定することが好ましく、400〜800℃の範囲に設定することがより好ましい。加熱処理の温度が300℃以上であるとFe酸化物の還元が効率的に進行する。また900℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒径を維持することができる。
また、還元性ガスとして水素を用いる場合、前処理工程4に供される酸化物層の厚みを20mm以下に調整し、更に反応炉内の露点を−10℃以下に調整することが好ましい。
【0029】
[還元拡散工程5]
還元拡散工程5においては、前処理工程4で得られるRと鉄とランタンとを含む酸化物の一部が還元された部分酸化物と、金属カルシウムとを混合し、窒素以外のアルゴンなどの不活性ガス雰囲気又は真空中で加熱処理することにより、Rと鉄とランタンとを含む合金粒子を得る。部分酸化物がカルシウム融体又はカルシウムの蒸気と接触することで還元拡散が行われる。
還元拡散処理における熱処理の温度は920〜1200℃の範囲、より好ましくは、950〜1200℃の範囲、特に好ましくは1000〜1100℃の範囲とすることができる。ランタンの融点である920℃以上に設定するとランタンの拡散は起こるが、十分に拡散させるためには950℃以上であるのが好ましい。また、1200℃以下とすることにより、複数の粒子が焼結した粒子の生成が抑制されるので、耐熱性を維持することができる。
【0030】
還元拡散処理の熱処理時間は、還元反応をより均一に行う観点から、10分〜10時間の範囲の時間で行うことができ、10分〜2時間の範囲で行うことが好ましい。
【0031】
金属カルシウムは、粒状又は粉末状の形で使用されるが、その粒子径は10mm以下であることが好ましい。これにより還元拡散反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。また、金属カルシウムは、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、Feが酸化物の形である場合には、これを還元するに必要な分を含む)の1.1〜3.0倍量の割合で添加することができ、1.5〜2.0倍量の割合で添加することが好ましい。
【0032】
還元拡散工程5では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する水洗工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、希土類源として使用される希土類酸化物当り1〜30質量%、好ましくは5〜30質量%の割合で使用される。
【0033】
[窒化工程6]
窒化工程6においては、還元拡散工程5で得られる合金粒子を窒化処理することにより、異方性の磁性粒子を得ることができる。本実施形態では、金属同士を溶融させているのではなく沈殿工程2において得られる粒子状の沈殿物を用いているため、還元拡散工程5にて多孔質塊状の合金粒子が得られる。これにより、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化工程6を行うことができるため、窒化を均一に行うことができる。
【0034】
合金粒子の窒化処理は、上記還元のための加熱温度領域から降温させて、300〜600℃、特に400〜550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。窒化処理における熱処理時間は、合金粒子の窒化が充分に均一に行われる程度に設定されればよく、例えば2〜30時間程度である。
【0035】
[水洗―表面処理工程7]
窒化工程6後に得られる生成物には、磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。そこで、その場合は水洗―表面処理工程7においては、この生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH))懸濁物として磁性粒子から分離することができる。さらに残留する水酸化カルシウムは、磁性粒子を酢酸等で洗浄して充分に除去してもよい。生成物を水中に投入した際には、金属カルシウムの水による酸化及び副生CaOの水和反応によって、複合した焼結塊状の反応生成物の崩壊、すなわち微粉化が進行する。次に表面処理のため表面処理剤としてリン酸溶液を窒化工程6で得られた磁性粒子固形分に対してPOとして0.10〜10wt%の範囲で投入する。適宜溶液から分離し乾燥することで異方性の磁性粉末が得られる。
【0036】
<異方性磁性粉末>
以下、先に説明した製造方法により得られる異方性磁性粉末について説明する。
【0037】
本実施形態に係る異方性磁性粉末は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した平均粒径が3.5μm以上 6.2μm以下、粒径D10が1.6μm以上 2.8μm以下、D50が3.5μm以上 5.7μm以下、D90が6.0μm以上 9.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.25以下であり、下記一般式(以下、単に「一般式」ともいう。)で表される。ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値である。
スパン=(D90−D10)/D50
v−xFe(100−v−w−z)La
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v‐x≦30、5≦w≦15、0.08≦x≦0.3、0≦z≦2.5である)
【0038】
平均粒径及びD10、D50、D90は、レーザー回折式粒径分布測定装置により測定される。平均粒径は、体積基準分布における平均値を示し、D10、D50、D90はそれぞれを体積基準分布の頻度の累積が丁度10%、50%、90%になるときの粒径を示す。
平均粒径、粒径D10、粒径D50、粒径D90を所定の値以上とし、微小粒子を少なくすることで、残留磁束密度および耐熱性を向上させることができる。一方、平均粒径等を所定の値以下とし、多磁区構造を有する粗大粒子を少なくすることで、残留磁束密度を向上させることができる。
【0039】
さらに、スパンを一定の値以下とし、シャープな粒度分布で、均一な粒子形とすることにより、磁気特性と耐熱性を向上させることができる。
【0040】
一般式において、Rを3原子%以上30原子%以下と規定するのは、3原子%未満では、鉄成分の未反応部分(α−Fe相)が分離して窒化物の保磁力が低下し、実用的な磁石ではなくなり、30原子%を越えると、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種の元素が析出し、磁性粉末が大気中で不安定になり、残留磁束密度が低下するからである。また、窒素を5原子%以上15原子%以下と規定するのは、5原子%未満では、ほとんど保磁力が発現できず、15原子%を越えるとSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種の元素、鉄自体の窒化物が生成するからである。磁気特性の点より、好ましい組成は、RがSmであって、z=0のとき、Sm9.1Fe77.213.55La0.15、z>0のときSm9.0Fe76.913.6La0.160.34で表すことができる。
【0041】
一般式において、xの値が、磁気特性の点で0.08≦x≦0.3の範囲にあるのが好ましく、0.11≦x≦0.22の範囲にあるのがより好ましく、0.15≦x≦0.19の範囲にあるのが特に好ましい。また、zの値が、磁気特性の点で0≦z≦2.5の範囲にあるのが好ましい。
【0042】
円形度の測定には、走査電子顕微鏡を用い、住友金属テクノロジーの粒子解析Ver.3を画像解析ソフトとして用いる。3000倍で撮影したSEM画像を画像処理で二値化し、粒子1個に対して、円形度を求める。本発明で規定する円形度とは、1000個〜10000個程度の粒子を計測して求めた円形度の平均値を意味する。
一般的に粒径が小さい粒子が多くなるほど円形度は高くなるため、1μm以上の粒子について円形度の測定を行った。円形度の測定においては定義式:円形度=(4πS/L2)を用いる。但し、Sは、粒子の二次元投影面積、Lは二次元投影周囲長である
【0043】
円形度の平均値が、0.50以上が好ましい。円形度が0.50を下回った場合、流動性が悪くなることで、磁場成形時に粒子間で応力がかかるため磁気特性が低下する。
【0044】
一般式にてz=0のとき、異方性磁性粉末の残留磁束密度が127Am2/g以上、保磁力が10kOe以上であることが好ましい。これにより、異方性磁性粉末が十分な磁気特性を有しているので、ボンド磁石に使用することができる。
【0045】
一般式にてz>0のとき、異方性磁性粉末の残留磁束密度が119Am2/g以上、保磁力が17kOe以上、Hkが6kOe以上であることが好ましい。これにより、ボンド磁石に使用する異方性磁性粉末として、十分な磁気特性を有している。
【0046】
<複合材料>
以下、複合材料およびボンド磁石について説明する。
【0047】
複合材料は、先に説明した異方性磁性粉末と、樹脂より作製される。この異方性磁性粉末を含むことで、高い磁気特性を有する複合材料を構成することができる。
【0048】
複合材料に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を挙げることができる。
【0049】
複合材料を得る際の異方性磁性粉末と樹脂の混合比(樹脂/磁性粉末)は、0.10〜0.15であることが好ましく、0.11〜0.14であることがより好ましい。
【0050】
複合材料は、例えば、混練機を用いて、280〜330℃で異方性磁性粉末と樹脂とを混合することにより得ることができる。
【0051】
<ボンド磁石>
複合材料を用いることにより、ボンド磁石を製造することができる。具体的には例えば、複合材料を加熱しながら配向磁場で磁化容易磁区を揃え(配向工程)、次いで着磁磁場でパルス着磁する(着磁工程)ことにより、ボンド磁石を得ることができる。
【0052】
配向工程における加熱温度は、例えば90〜200℃であることが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。配向工程における配向磁場の大きさは、例えば720kA/mとすることができる。
また、着磁工程における着磁磁場の大きさは、例えば1500〜2500kA/mとすることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
[原料調整工程1]
Fe−Sm硫酸溶液を調製した。純水2.0kgにFeSO・7HO 5.0kgを混合溶解した。さらにSm 0.49kg、31.8%のLaCl 0.048kgと70%硫酸0.74kgとを加えてよく攪拌し、完全に溶解する。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/l、Sm濃度が0.112mol/l、La濃度が0.0064mol/lとなるように調整し、これをFe−Sm―La硫酸溶液とした。
【0054】
[沈殿工程2]
温度が35℃に保たれた純水2kg中に、原料調整工程1で得られたFe−Sm硫酸溶液を攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液を滴下させ、pHを7〜8に調整した。これにより、Fe−Sm−La水酸化物を含むスラリーを得る。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離する。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0055】
[酸化工程3]
沈殿工程2で得られた水酸化物を大気中1000℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のFe−Sm−La酸化物を得た。
【0056】
[前処理工程4]
上記で得られたFe−Sm−La酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、770℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。
これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元される黒色の部分酸化物を得た。
【0057】
[還元拡散工程5]
前処理工程4で得られた部分酸化物60gと平均粒径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内にいれた。
炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入する。温度を1045℃まで上昇させて、そのまま2時間保持することにより、Fe−Sm−La合金粒子を得た。
【0058】
[窒化工程6]
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、温度を450℃まで上昇させて、そのまま23時間保持して、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0059】
[水洗―表面処理工程7]
窒化工程6で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。
次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌する。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。
【0060】
得られたスラリーに対して、リン酸溶液を加えた。
リン酸溶液を、磁性粒子固形分に対してPOとして1wt%分投入した。
5分攪拌後、固液分離した後80℃で真空乾燥を3時間行い磁性粉末を得た。得られた磁性粉末はSm9.2Fe77.113.59La0.11で表された。
【0061】
[評価]
(磁気特性)
実施例の製造方法によって得られた磁性粒子を、パラフィンワックスと共に試料容器に詰め、ドライヤーにてパラフィンワックスを溶融した後、16kA/mの配向磁場にてその磁化容易磁区を揃えた。この磁場配向した試料を32kA/mの着磁磁場でパルス着磁し、最大磁場16kA/mのVSM(振動試料型磁力計)を用いて残留磁束密度、保磁力、角形比を測定した。
【0062】
(実施例2〜4)
原料調整工程1において、表1に示されるランタン組成となるようLaClの量を変更する以外は実施例1と同様にして磁性粉末を得た。
【0063】
(比較例1)
[原料調整工程1]
原料調整工程1においてLaClを添加しないこと以外は実施例1と同様にしてFe―Sm硫酸溶液を調整した。
[沈殿工程2〜水洗―表面処理工程7]
以降実施例1と同様にして磁性粉末を得た。
【0064】
(実施例5)
[原料調整工程1]
まず、実施例1と同様にしてFe−Sm―La硫酸溶液を調製した。
【0065】
[沈殿工程2]
温度が35℃に保たれた純水2kg中に、原料調整工程1で得られたFe−Sm―La硫酸溶液を攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液と、12.5%のタングステン酸アンモニウム201.8gを滴下させ、pHを7〜8に調整した。これにより、Fe−Sm−La−W水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離する。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0066】
[酸化工程3〜水洗―表面処理工程7]
以降実施例1と同様にして磁性粉末を得た。得られた磁性粉末はSm9.2Fe77.113.55La0.110.12で表された。
【0067】
(実施例6〜8)
原料調整工程1および沈殿工程2において、表1に示されるランタンとタングステンの組成となるようLaClおよびタングステン酸アンモニウム量を変更する以外は実施例5と同様にして磁性粉末を得た。
【0068】
(比較例2)
[原料調整工程1]
比較例1と同様にしてSm―Fe硫酸溶液を調整した。
【0069】
[沈殿工程2]
温度が35℃に保たれた純水2kg中に、原料調整工程1で得られたFe−Sm硫酸溶液を攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液と、12.5%のタングステン酸アンモニウム202g滴下させ、pHを7〜8に調整した。これにより、Fe−Sm−La−W水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離する。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0070】
[酸化工程3〜水洗―表面処理工程7]
以降実施例1と同様にして磁性粉末を得た。
【0071】
(比較例3〜10)
原料調整工程1において、表1に示されるランタン組成となるようLaClの量を変更する以外は実施例1と同様にして磁性粉末を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すとおり、実施例1〜4に係る異方性磁性粉末は、比較例1および比較例3〜10と比較して優れた残留磁束密度と保持力と角型比を示した。また実施例5〜8に係る異方性磁性粉末は、比較例2および比較例3〜10と比較して、残留磁束密度を維持しつつ、優れた保持力と角型比を示した。
【0074】
表2に、320℃で30分の大気焼成を行った後の実施例と比較例の磁気特性を示す。
【0075】
【表2】
表2に示すとおり、実施例2および3の異方性磁性粉末は、比較例1と比較して大気焼成前後において残留磁束密度と保持力と角型比の低下が小さいため、優れた耐熱特性を示した。
また、実施例7の異方性磁性粉末は、比較例2と比較して、大気焼成前後において残留磁束密度と保持力と角型比の低下が小さいため優れた耐熱特性を示した。
【0076】
図2図3にはそれぞれ、実施例2、比較例1の異方性磁性粉末のSEM像を示す。図2の異方性磁性粉末は、図3と比較して微小粒子が少なく、複数の粒子が焼結した粒子が少ないことを確認できた。
【0077】
図4図5にはそれぞれ、実施例8、比較例2の異方性磁性粉末のSEM像を示す。図4の異方性磁性粉末は、図5と比較して微小粒子が少なく、複数の粒子が焼結した粒子が少ないことを確認できた。
【0078】
実施例2、実施例8、比較例1、比較例2、比較例5の粒度分布を図6に示し、D10、D50、D90、スパン(SPAN)の値を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3及び図6より、実施例2の異方性磁性粉末は、比較例1と比べてD10、D50、D90および平均粒径が大きく、スパンが小さいことから、微小粒子や複数の粒子が焼結した粒子の生成の抑制と粒度分布がシャープになることにより、残留磁束密度が高くなった。
また、実施例2の異方性磁性粉末は、比較例5と比べて、D10、D50、D90および平均粒径が小さく、スパンが小さいことから、多磁区構造を有する粗大粒子の生成の抑制と粒度分布がシャープになることにより、残留磁束密度が高くなった。
【0081】
実施例8の異方性磁性粉末は、比較例2と比べてD10、D50、D90および平均粒径が大きいことから、微小粒子や複数の粒子が焼結した粒子の生成の抑制により、残留磁束密度が高くなった。
【0082】
表4に実施例2、実施例7、比較例1、比較例2の異方性磁性粉末の円形度を示す。
【0083】
【表4】
実施例2、実施例7の異方性磁性粉末は、比較例1、比較例2と比べて、円形度が高いことから、流動性が改善のより磁場成形時の粒子間の応力が抑制され、磁気特性の改善が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る異方性磁性粉末を用いた複合材料及ボンド磁石は、耐熱性に優れ、高い保磁力を有することから、例えば、高温下での使用が求められる自動車用モーター(特にウォーターポンプ)等の用途に好適に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6