(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、
図1を用いて本実施形態に係る走査型顕微鏡の構成を説明する。この走査型顕微鏡10は、光源20から放射されたレーザビーム(照明光)を観察試料に照射して走査する走査光学系30と、この試料からの反射光または蛍光を検出する検出光学系40と、を有して構成される。なお、以降の説明において、走査光学系30の光軸方向をz軸とし、このz軸に直交する面内で互いに直交する方向をそれぞれx軸及びy軸とする。また、走査光学系30により走査される試料の面を試料面50として説明する。
【0010】
走査光学系30は、光源20側から順に、ビームエキスパンダ31、ビームスプリッター32、走査ユニット33、瞳投影レンズ34、瞳位置調整光学系35、第2対物レンズ36、及び、対物レンズ37を有する。また、検出光学系40は、走査光学系30の側方に配置され、ビームスプリッター32側から順に、結像レンズ41、遮光板42、及び、光検出器43を有する。また、この走査型顕微鏡10には、走査ユニット33で走査する位置(試料面50上の座標)及び光検出器43で検出された値を処理する処理部70が設けられている。
【0011】
この走査型顕微鏡10において、光源20から放射されたレーザビームは、ビームエキスパンダ31で必要なビーム径の略平行光束となり、ビームスプリッター32を透過し、走査ユニット33に入射する。この走査ユニット33は、後述するように光軸に直交する方向にレーザビームを2次元的に走査するものであり、例えば、
図2に示すようにレーザビームを反射することによりこのレーザビームを光軸に直交する面内で所定の方向(この方向をx軸方向とする)に偏向させる第1の偏向素子33x、及び、光軸に直交する面内で第1の偏向素子33xの偏向方向と略直交する方向(この方向をy軸方向とする)に偏向させる第2の偏向素子33yからなる2つの偏向素子で構成されている。また、これらの第1及び第2の偏向素子33x,33yは、駆動部60のモータで回転(揺動)されるように構成されている。そして、この走査ユニット33を出射したレーザビーム(略平行光束)は瞳投影レンズ34により一次像面Iに結像された後、第2対物レンズ36を通過することにより再び略平行光束となり、対物レンズ37によって試料面(対物レンズ37の焦点面)50上に結像される。
【0012】
試料面50上に結像されたレーザビームの像は点像となっており、その点像の径は対物レンズ37の開口数(NA)で決まる大きさである。試料面50上の点像(照射領域)からの反射光、若しくは、このレーザ光により試料が励起して発生する蛍光は、再び対物レンズ37で集光されて略平行光束となり、第2対物レンズ36により一次像面Iに結像された後、さらに瞳投影レンズ34で略平行光束にされて走査ユニット33に入射する。そして、この走査ユニット33を出射した反射光(略平行光束)はビームスプリッター32で反射されて検出光学系40内に入り、結像レンズ41により遮光板42の開口部42a上に集光される。この遮光板42の開口部42aを通過した光のみが光検出器43に到達し検出される。
【0013】
上述のように、遮光板42の開口部42aは試料面50上に結像されたレーザビームの点像と共役であり、試料面50上の照射領域から出た光(反射光または蛍光)はこの開口部42aを通過することができる。一方、試料面50上の他の領域から出た光のほとんどはこの開口部42a上には結像されず、通過することができない。以上より、処理部70が走査ユニット33の走査に同期させて光検出器43で検出された光信号を処理することにより、試料面50上のレーザビームが照射された座標と光信号から求められる輝度を用いて、試料面50の二次元的な画像を得ることができる。これによりこの走査型顕微鏡10は、高い分解能で試料面50の像を得ることができる。
【0014】
ここで、本実施形態に係る走査型顕微鏡10の走査光学系30には、第2対物レンズ36の一次像面I上若しくはその近傍に瞳位置調整光学系35が配置されている。この瞳位置調整光学系35は、上述した走査ユニット33の第1及び第2の偏向素子33x,33yの偏向方向に関して異なる屈折力を有するように構成されている。例えば、この瞳位置調整光学系35は、
図3(a)に示すように、第1の偏向素子33xの偏向方向(x軸方向)には屈折力を有さず、
図3(b)に示すように、第2の偏向素子33yの偏向方向(y軸方向)には負の屈折力を有するシリンドリカルレンズを用いることができる。
【0015】
走査光学系30にこのような瞳位置調整光学系35を用いることにより、
図3に示すように、第2対物レンズ36及び瞳投影レンズ34でリレーされる対物レンズ36の瞳Pの像は、x軸方向とy軸方向とで異なる位置に形成される。具体的には上述のシリンドリカルレンズを用いた場合、このシリンドリカルレンズはx軸方向には屈折力がなく、y軸方向には負の屈折力を有するため、y軸方向の瞳像の形成される位置が像側に移動することになる。そのため、x軸と光軸とを含む第1の面内における瞳像結像位置と略同一の位置にx軸方向に回転する第1の偏向素子33xの回転中心を配置し、y軸と光軸とを含む第2の面内における瞳像結像位置と略同一の位置にy軸方向に回転する第2の偏向素子33yの回転中心を配置することにより、第1及び第2の偏向素子33x,33yのいずれも、回転するのに十分な間隔を空けて、その回転中心と瞳像とを一致させることができる。
【0016】
走査光学系30にこのような瞳位置調整光学系35が配置されていない場合、すなわち、走査ユニット33のいずれか一方の偏向素子にのみ対物レンズ37の瞳像が形成されている場合(例えば、
図3(a)に示すように第1偏向素子33xにのみ瞳像が形成されているとき)は、
図4(a)に示すように、瞳像が形成されていない方の偏向素子(例えば、第2偏向素子33y)が回転すると、対物レンズ37の瞳Pから光束Bがずれて蹴られてしまうため、光量の損失に繋がる。また、画角を持った光束の主光線が、対物レンズ37の瞳位置において理想光軸から偏心してしまうため、対物レンズ37の像面におけるテレセントリック性が崩れ、視野の周辺部においてPSF(点像分布関数)の歪みが生じ、特に、微細構造を観察する際の画質低下に繋がってしまう。
【0017】
一方、瞳位置調整光学系35を配置し、第1の偏向素子33xだけでなく、第2の偏向素子33yもその回転中心に対物レンズ37の瞳像が形成されるように構成することにより、いずれの偏向素子33x,33yを回転させたとしても、
図4(b)に示すように、対物レンズ37の瞳Pから光束Bがずれることがなく、光量の損失が発生しないとともに、テレセントリック性の崩れもないため、最良の像を取得することが可能となる。
【0018】
なお、このような瞳位置調整光学系35は、上述の例で示したように、負の屈折力を有することが好ましい。負の屈折力を有する瞳位置調整光学系35を配置することにより、ペッツバール和が小さくなり、収差が収斂しやすくなるため望ましいためである。反対に、この瞳位置調整光学系35に正の屈折力を持たせると、ペッツバール和が大きくなるため収差設計が難しくなるが、正の屈折力を有する瞳位置調整光学系35を用いることも可能である。
【0019】
また、このような瞳位置調整光学系35は、試料面50と共役な位置、すなわち、一次像面I上にその主面が位置する配置が望ましい。この瞳位置調整光学系35を一次像面I上に配置することにより、像の共役関係を崩すことなく、瞳共役位置を変化させることが可能となる。反対に、この瞳位置調整光学系35を一次像面Iから光軸方向に離れた位置に配置すると、像の共役関係に瞳位置調整光学系35の屈折力が影響し、非点収差が発生してまうとともに、像の倍率も変化してしまうため好ましくない。
【0020】
それでは、
図5を用いて瞳位置調整光学系35の焦点距離と走査ユニット33を構成する偏向素子33x,33yの配置位置との関係について説明する。まず、x軸と光軸とを含む第1の面内での関係について説明する。ここで、瞳位置調整光学系35の第1の面内の焦点距離をf
cxとし、瞳投影レンズ34の焦点距離をf
sとする。なお、瞳位置調整光学系35は一次像面I上に配置されている、すなわち、瞳位置調整光学系35の主面が瞳投影レンズ34の物体側の焦点面上に配置されているとする。
【0021】
走査光学系30に瞳位置調整光学系35が配置されていない場合、対物レンズ37の瞳Pの光軸上から出射した光線は第2対物レンズ36で光軸に略平行とされて瞳投影レンズ34に入射する。
図5(a)に示すように、この瞳Pの光軸上から出た光線の瞳投影レンズ34の主面に対する入射高さをh
1とする。この光線は瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sの光軸上の点を通過する。一方、瞳位置調整光学系35が配置されている場合、瞳Pの光軸上から出た上述の光線は、この瞳位置調整光学系35と瞳投影レンズ34の合成主点H′で屈折する。この光線の瞳投影レンズ34の主面に対する入射高さをh
2とする。この光線は、瞳位置調整光学系35と瞳投影レンズ34との合成された焦点面S
xの光軸上の点を通過する。ここで、瞳投影レンズ34の主面から瞳位置調整光学系35と瞳投影レンズ34の合成された焦点面S
xまでの光軸上の距離をL
Gxとし、瞳投影レンズ34の像側の焦点面Ssからこの合成された焦点面S
xまでの光軸上の距離をΔG
xとすると、次式(1)の関係が成立する。
【0022】
h
2/L
Gx = h
1/(L
Gx+ΔG
x) (1)
【0023】
また、
図5(a)より、この走査光学系30はL
Gx+ΔG
x=f
sの関係を有することから、上記式(1)は次式(2)のように表される。
【0024】
h
2/h
1 = L
Gx/f
s (2)
【0025】
一方、
図5(b)に示すように、対物レンズ37の瞳Pの光軸上から出射して第2対物レンズ36で光軸に略平行とされて瞳位置調整光学系35の主面の高さh
1の位置に入射した光線は、瞳投影レンズ34が無い場合は、上述の瞳投影レンズ34の主面上の高さh
2相当の位置を通過して、瞳位置調整光学系35の像側の焦点面S
cxの光軸上の点を通過する。ここで、瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sから瞳位置調整光学系35の像側の焦点面S
cxまでの光軸上の距離をd
xとすると、次式(3)の関係が成立し、さらに、この式(3)を変形した次式(4)の関係が成立する。
【0026】
h
1/f
cx = h
2/(f
s+d
x) (3)
h
2/h
1 = (f
s+d
x)/f
cx (4)
【0027】
以上より、式(2)及び式(4)から次式(5)の関係が導き出され、さらに、この式(5)を変形して次式(6)の関係が導き出される。
【0028】
L
Gx/f
s = (f
s+d
x)/f
cx (5)
f
cx・L
Gx = f
s・(f
s+d
x) (6)
【0029】
図5より明らかなように、この走査光学系30は、d
x=f
cx−2f
sの関係と、L
Gx=f
s−ΔG
xの関係とを有しているため、これらの関係を式(6)に当てはめることにより、次式(7)の関係が導き出される。
【0031】
また、上述の第1の面内での関係と同様に、y軸と光軸とを含む第2の面内においても、瞳位置調整光学系35の第2の面内の焦点距離をf
cyとし、瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sから瞳位置調整光学系35と瞳投影レンズ34との合成された焦点面S
yまでの光軸上の距離をΔG
yとすると、次式(8)の関係が導き出される。
【0033】
以上より、瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sからΔG
x離れた位置に第1の偏向素子33xを配置し、また、瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sからΔG
y離れた位置に第2の偏向素子33yを配置する場合は、上述の式(7)及び式(8)の関係を満たすように、瞳位置調整光学系35のx軸方向及びy軸方向の焦点距離f
cx,f
cyを設定すれば良い。なお、
図5においては、瞳位置調整光学系35がx軸方向においてもy軸方向においても正の屈折力を有する場合について説明したが、負の屈折力を有する場合も同様である。なお、第1及び第2の偏向素子33x,33yを配置するための瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sから距離ΔG
x,ΔG
yは、瞳投影レンズ34の像側の焦点面S
sから試料面50の方向を正とする。
【0034】
ところで、このような瞳位置調整光学系35は、上述したように一次像面I上にその主面が位置する配置が望ましいが、この瞳位置調整光学系35を一次像面I上に配置すると、例えば、この瞳位置調整光学系35のキズ等がある場合、そのキズが像面に投影されてしまう。そのため、瞳投影レンズ34の像側の開口数(NA)で決まる焦点深度内に入らず、且つ、像の共役関係や倍率を大きく崩さない範囲で、一次像面Iの物体側、若しくは、像側にこの瞳位置調整光学系35を配置することが望ましい。
【0035】
また、このような瞳位置調整光学系35としては、x軸方向とy軸方向とで屈折力が異なるものであれば良く、また、上述のシリンドリカルレンズのように光を透過させる光学部材だけでなく、光を反射する光学部材を用いることができる。光を透過させる光学系としては、上述のシリンドリカルレンズに加えて、トーリックレンズを用いることもできる。また、リキッドレンズや音響光学素子(AOD)を用いることもできる。また、光を反射させる光学系としては、円筒鏡やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーを用いることができる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は、従来の走査型顕微鏡の瞳投影レンズ34のままで、この瞳投影レンズ34の後側焦点面に第1の偏向素子33xの位置を合わせる位置調整機構(例えば、筐体と第1の偏向素子33xを保持する保持部材との間に挟み込むことによりこの第1の偏向素子33xの位置を調整するスペーサ等)を設け、さらに、一次像面Iの近傍に瞳位置調整光学系(シリンドリカルレンズ)35を追加するだけで構成することができ、この走査型顕微鏡10の性能を容易に向上させることができる。
【0037】
前記課題を解決するために、本発明に係る走査型顕微鏡は、光源から放射された照明光を集光して試料に照射するとともに、この試料から出射した光を集光する対物レンズと、この対物レンズの瞳像を投影する瞳投影レンズと、対物レンズ及び瞳投影レンズの光軸と略直交する面内の第1の方向に回転する第1の偏向素子、及び、この光軸と略直交する面内の第1の方向と略直交する第2の方向に回転する第2の偏向素子を有し、これらの第1の偏向素子及び第2の偏向素子を用いて照明光により試料を走査する走査ユニットと、第1の方向及び第2の方向で異なる屈折力を有し、光軸及び第1の方向を含む第1の面内における瞳像と光軸及び第2の方向を含む第2の面内における瞳像とをそれぞれ光軸方向の異なる位置に形成する瞳位置調整光学系と、を有し、第1の方向及び第2の方向における屈折力のうち、少なくとも一方は負の値であり、走査ユニットの第1の偏向素子は第1の面内の瞳像と略同一位置に回転の中心が位置するように配置され、走査ユニットの第2の偏向素子は第2の面内の瞳像と略同一の位置に回転の中心が位置するように配置されることを特徴とする。
このような走査型顕微鏡において、瞳位置調整光学系は、対物レンズによる試料像の位置、若しくはその近傍に配置されることが好ましい。
また、このような走査型顕微鏡において、瞳位置調整光学系は、対物レンズによる試料像の位置の光軸方向の試料側若しくは像側であって、瞳投影レンズの焦点深度の外に配置されることが好ましい。
また、このような走査型顕微鏡は、瞳投影レンズの焦点距離をf
sとし、瞳位置調整光学系の第1の面内に関する焦点距離をf
cx、第2の面内に関する焦点距離をf
cyとし、瞳投影レンズの像側の焦点面から第1の偏向素子の回転中心までの光軸上の距離であって、瞳投影レンズの像側の焦点面から試料方向を正と定義した光軸上の距離をΔG
xとし、瞳投影レンズの像側の焦点面から第2の偏向素子の回転中心までの光軸上の距離であって、瞳投影レンズの像側の焦点面から試料方向を正と定義した光軸上の距離をΔG
yとしたとき、次式
f
cx = f
s2/ΔG
x
f
cy = f
s2/ΔG
y
の条件を満足することが好ましい。
また、このような走査型顕微鏡において、瞳位置調整光学系は、シリンドリカルレンズであることが好ましい。