(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光を屈折させて眼球に入射させる光学器具を装着した被験者の前記眼球の状態に基づいて求められた視線情報を、前記光学器具での前記光の屈折に関する光学情報と、前記光学器具に対して予め行われた光線追跡結果とを用いて補正する補正ステップと、
補正された前記視線情報と、前記光学器具における位置情報及び前記光学情報とに基づいて、前記被験者が装用する眼鏡レンズの収差分布及びレンズ面形状のうち少なくとも一方を決定する設計ステップとを含む眼鏡レンズの設計方法。
光を屈折させて眼球に入射させる光学器具を装着した被験者の前記眼球の状態に基づいて求められた視線情報を、前記光学器具での前記光の屈折に関する光学情報と、前記光学器具に対して予め行われた光線追跡結果とを用いて補正する補正ステップと、
補正された前記視線情報と、前記光学器具における位置情報及び前記光学情報とに基づいて、収差分布及びレンズ面形状の異なる複数の眼鏡レンズ群の中から前記被験者が装用する眼鏡レンズを選択する選択ステップとを含む眼鏡レンズ選択方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る視線検出装置100の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、視線検出装置100は、ヘッドバンドHB、眼球撮影カメラCMR及び出力ケーブルOLを有している。視線検出装置100としては、例えば(株)ナックイメージテクノロジーのEMR−9や、ISCAN Inc.のAA−ETL−400BやAA−ETL−500Bなどが挙げられる。
【0017】
ヘッドバンドHBは、被験者の頭部に装着される。眼球撮影カメラCMRは、ヘッドバンドHBが装着された状態で被験者の瞳孔を撮影する。なお、視線検出装置100は、眼球撮影カメラCMRによる撮影結果から、被験者がどこを見ているのかを算出する不図示の処理部を有していてもよい。また、視線検出装置100は、被験者の眼球の角膜頂点を検出するための赤外光の発光部や、被験者の前方視野を撮影するための視野カメラを有する構成であっても良い。
【0018】
視野カメラを有する構成の場合、視野カメラは頭部の動きに関わらず視野を撮影しつつける必要があるため、頭部の動きと同期する位置に取り付ける必要がある。視野カメラを2つつけるのであれば、実際の視野により近くするためにもそれぞれの眼球の真上の、例えばヘッドバンド上に取り付ける。より実際の視野に近くするためには、例えば、ヘッドバンドから下に垂らす形で取り付けるのが良い。視野カメラを1つしか付けないのであれば、両眼の中央、つまり鼻の真上のヘッドバンド上に取り付ける。これも目の高さに取り付けるほうが望ましいのは同様である。
【0019】
視野カメラを有する構成の場合、視野カメラのゆがみを補正することは重要である。発明者のめざす累進屈折力レンズを設計するためには、1〜2mmの誤差は致命的であるのだが、通常の視野カメラは中心から離れるに従ってゆがみが大きくなるため、特に周辺において大きな誤差をもってしまう。また、広い視野をカバーする眼鏡レンズを設計するためには視野カメラのレンズ(以下、視野レンズ)として広角レンズを用いることになるのだが、広角になればなるほど大きなゆがみを有しているため、視線を検出する際には大きな誤差という欠点を伴うことになる。実際に画角90度の視野レンズを用いたところ、この大きなゆがみのために物点座標がずれてしまい、その結果、許容できない誤差を含んだ視線情報となってしまった。その後、さらに画角の広い視野レンズを用いたが、さらに大きな許容できない誤差を伴ってしまった。よって、視野カメラを有する構成の場合、視野カメラのゆがみを補正するゆがみ補正部を付加することが望ましい。
【0020】
ゆがみ補正部における補正方法は、視野レンズの設計情報が入手できるのであればディストーション等のゆがみ情報を得ることができるため、それを打ち消す補正をするという方法であってもいいし、例えば数メートル離れたところに格子模様を描いた紙を張って撮影し、その撮影画像からゆがみ情報を実測し、それを打ち消す補正をするという方法であっても良い。いずれにしても、視野カメラのゆがみを補正するゆがみ補正手段を付加することにより、物点位置が補正されるため、より誤差の少ない視線情報を得ることができる。このようにして、従来より誤差のさらに少ない視線情報を得ることができ、従来より誤差のさらに少ない視線とレンズとの交点を得ることができ、従来より装用者の視線にさらに適合したレンズを設計・提供することが可能となるため、顧客満足度の高いレンズを提供することができる。
【0021】
図2は、本実施形態に係る視線情報補正装置200の構成を示す図である。
図2に示すように、本実施形態では、視線情報補正装置200として、汎用パーソナルコンピューターが用いられている。視線情報補正装置200は、本体部201、入力部202及び出力部203を有している。なお、視線情報補正装置200としては、汎用パーソナルコンピューターに代えて、例えば専用のデバイスを用いても良い。また、視線情報補正装置200を小型に形成し、視線検出装置100に組み込んだ構成としても構わない。なお、
図1の視線検出装置100と
図2の視線情報補正装置200により、
図43に示すように、視線情報補正システム400を構成する。
【0022】
図2において、本体部201は、例えばUSB端子や汎用端子などを有線で接続可能な接続端子CTと、外部との間で無線によって情報の通信を行う通信部CMと、CDやDVDなどの光学式記憶媒体やSDカードなどの磁気式記憶媒体などを挿入可能なスロットSLと、本体部201の内部に設けられたハードディスクドライブなどの記憶部MRと、CPUやメモリなどを備え統括的な処理を行う処理部PRとを有している。
【0023】
本体部201は、例えば接続端子CTを介して視線検出装置100の出力ケーブルOLに接続可能である。なお、視線情報補正装置200と視線検出装置100との間が通信部CMを介して無線によって接続された構成であっても良い。また、視線検出装置100による出力結果を光学式記憶媒体や磁気式記憶媒体などの記憶媒体に記憶させ、当該記憶媒体をスロットSTに差し込んで読み取らせる構成であっても構わない。
【0024】
出力部203は、ディスプレイなどの画像表示装置MTを有している。画像表示装置MTは、例えば本体部201を介した情報を出力する。また、本体部201を介した情報は、例えば接続端子CTやスロットSLから出力したり、記憶部MRへ出力したりすることもできる。汎用パーソナルコンピューターを用いることにより、手軽に実施できるという利点がある。
【0025】
次に、眼鏡を装着した被験者が上記の視線検出装置100及び視線情報補正装置200を用いて視線を検出する場合の動作について説明する。
まず、被験者が眼鏡を装着している状態で視線検出装置100を用いる場合に、視線情報補正装置200を用いるべき理由を説明する。
【0026】
図3及び
図4は、眼球撮影カメラCMRと被験者の眼球EBとの位置関係を示す図である。
図3は被験者が眼鏡レンズLを装用している場合、
図4は被験者が眼鏡レンズLを装用していない場合、をそれぞれ示している。
【0027】
図3に示す場合、眼球撮影カメラCMRは、眼鏡レンズLを装用した被験者の眼球EBを撮影するように位置が調整されている。具体的には、眼球撮影カメラCMRは、眼鏡レンズLを介して被験者の瞳孔Pを撮影するように位置が調整されている。
【0028】
また、
図4に示す場合、眼球撮影カメラCMRは、被験者の瞳孔Pを直接的に撮影するように位置が調整されている。
図4には、視線方向を変える光学器具として眼鏡レンズを装用しない場合の被験者の眼球を、眼球撮影カメラが撮影している場合の例を示した。
【0029】
図3及び
図4において、眼球EBの向いている方向は同じである。それにも拘わらず、
図3において眼鏡レンズLを介した後に瞳孔を撮影する方向(R2→R3)と、
図4において瞳孔を撮影する方向(D2→D3)とは異なっている。これは、眼鏡レンズLを介した光が屈折するためである。このように、本実施形態では、眼鏡レンズLは、光を屈折させて眼球に入射させる光学器具として用いられている。
図3の場合と
図4の場合とでは、眼球撮影カメラCMRで撮影される瞳孔の映像が異なるため、撮影画像から計算される被験者の眼球位置や視線方向、眼球回旋角に誤差が生じる場合がある。
【0030】
図5は、光を屈折させて眼球に入射させる光学器具として眼鏡レンズLを装用した被験者が、ある注視点GPを見ている場合の視線の例を示した。注視点GPと眼球EBの回旋中心OCとを直線的に結んだ場合、その直線と眼鏡レンズとの交点は、直線と表面との交点がD1、光線と裏面との交点がD2となる。
【0031】
一方、実際の光線の光路は、眼鏡レンズによる屈折作用により直線では結ばれず、光線と眼鏡レンズの表面との交点はR1、光線と裏面との交点はR2となる。このように、D1とR1が一致せず、D2とR2が一致しないため、視線検出装置100によって得られる視線方向(OC→D2)と、被験者の視線方向(OC→R2)とが一致しない。同様の理由で、視線方向から計算される被験者の眼球回旋角も、検出される値と実際の値とは一致しない。
【0032】
すなわち、被験者が眼鏡のように光を屈折させて眼球に入射させる光学器具を装着している場合には、例えば視線検出装置100によって得られる視線方向や眼球回旋角は、誤差を含んだ値となる可能性がある。この誤差は、眼鏡を装着した被験者が眼鏡レンズLのどこを通して対象物を見るかを調査する場合や、調査結果を元に眼鏡レンズを設計する場合に、無視できない大きさとなる。
【0033】
例えば、累進屈折力レンズの場合には、非点収差の少ない子午線上から水平方向に数ミリずれたところでは大きな非点収差を含むため、ボケやゆがみが生じる。このボケやゆがみがどの程度まで許容できるかを調査する場合には、1〜2mmの誤差が致命的となる。
【0034】
例えば
図6は、加入度3のレンズの非点収差図である。この図において、中心から下方に10mm、中心線から水平方向右側において(図中の両矢印上)、中心から3mmに離れたところでは非点収差が1.0ジオプターとなるため許容されうる場合が多いが、5mm水平方向から離れたところでは非点収差が1.5ジオプターとなり、装用者によっては許容できない値となる場合がある。このように、2mmの違いで性能が異なってくるため、数ミリ単位の誤差であっても解消することは有効である。
【0035】
また、上下方向においても、2mmの誤差は大きい。累進屈折力レンズには、近方視をする際の参照ポイントである近用参照点がどれくらい下方にあるのかを示す値として、累進帯長がある。累進帯長が12mmのレンズと累進帯長が14mmのレンズではその性能が大きく異なる。
【0036】
このように、特に眼鏡レンズLにおいては、数ミリの誤差であっても解消することが有効である。そのため、被験者が眼鏡を装用している状態で視線検出装置100を用いる場合に、視線検出装置100によって検出される視線方向・眼球回旋角を視線情報補正装置200によって補正する必要がある。
【0037】
視野撮影部を有する構成の場合、本発明のねらう精度の設計のためには1〜2mmの誤差が致命的であることを考慮すると、以下の仕様を満たしていることが望ましい。すなわち、本発明のねらう設計のためには少なくとも0.1mmの精度が必要であり、レンズの水平方向の横幅をD(mm)、前記装用者の角膜頂点間距離をD1(mm)、前記装用者の角膜頂点から回旋点までの距離をD2(mm)としたときに、前記視野撮影部の全画角が atan(D/(2×(D1+D2)))×2 以上であり、前記視野撮影部の水平方向の画素数がD/0.1 以上である。これは、装用者が横幅D(mm)のレンズを装用した場合の視野をカバーする必要があり、かつ、横幅D(mm)において0.5mmの検出精度が必要であることから来る。例えば、横幅75mmのレンズを装用し、角膜頂点間距離が12mm、角膜頂点から回旋点までの距離が13mmの装用者の場合、視野カメラは全画角が112度以上、水平方向の画素数が750画素以上が望ましい。市販されている視線検出装置の視野撮影部の出力はVGAであり、本発明のねらう設計を行うためには不足していた。
【0038】
図7は、当該動作手順の概略を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、視線検出装置100を用いて視線情報を取得する(ステップ161)。視線情報を取得する際には、光を屈折させて眼球に入射させる光学器具(例、眼鏡レンズLなど)を装着した被験者の視線情報を求める。この視線情報には、光学器具での光の屈折に起因する視線方向・眼球回旋角の誤差が含まれている。
【0039】
視線情報を取得した後、当該視線情報を視線情報補正装置200に入力する(ステップ162)。視線情報補正装置200では、被験者が装着している光学器具の光学情報を用いて、視線情報補正装置200に入力された視線情報を補正する(ステップ163)。ここで、光学情報は、光学器具での光の屈折に関する情報である。
【0040】
例えば単焦点球面レンズの光学情報としては、表面の曲率半径、裏面の曲率半径、レンズ厚、レンズ屈折力などが挙げられる。また、レンズと眼球の回転中心である回旋点との相対位置を明確にするためにレンズの前傾角やそり角、角膜頂点距離(レンズの中心と角膜頂点との距離)、角膜回旋点間距離(角膜頂点と回旋点との距離)などが含まれる場合もある。裏面の曲率半径を保存する代わりに、実行時に裏面の曲率半径を導くことのできる、処方度数が含まれる場合もある。
【0041】
また、例えば単焦点乱視レンズの場合の光学情報としては、表面の曲率半径、裏面のベース曲率半径、裏面のクロス曲率半径、レンズ厚、レンズ屈折力などが挙げられる。また、レンズと眼球の回転中心である回旋点との相対位置を明確にするためにレンズの前傾角やそり角、角膜頂点距離(レンズの中心と角膜頂点との距離)、角膜回旋点間距離(角膜頂点と回旋点との距離)などが含まれる場合もある。裏面のベース曲率半径・クロス曲率半径を保存する代わりに、実行時に裏面のベース曲率半径・クロス曲率半径を導くことのできる、処方度数S・Cが含まれる場合もある。
【0042】
例えば累進屈折力レンズの場合の光学情報は、表面、裏面の面形状が再現できるパラメータと、レンズ厚、レンズ屈折力などが考えられ、レンズと眼球の回転中心である回旋点との相対位置を明確にするためにレンズの前傾角やそり角、角膜頂点距離(レンズの中心と角膜頂点との距離)、角膜回旋点間距離(角膜頂点と回旋点との距離)などが含まれる場合もある。累進屈折力レンズの場合の面形状が再現できるパラメータとしては、3次元測定器などで測定できる光軸方向のサグ量が考えられる。また、サグ量をいくつかの構成要素に分割できる場合には、面形状の母球面ベース曲率半径、母球面クロス曲率半径、残存サグ量という構成をとることもできる。面形状が、非球面や多項式等の別の表現式を含んでいる場合には、当該表現式を表現するために必要なパラメータが含まれる場合もある。
【0043】
球面やトーリック面以外の面の場合、上記光学情報が大量になる場合がある。特に累進屈折力レンズの場合、データが大量になる傾向がある。その場合の記憶領域削減方法としては、処方範囲をいくつか細分化されたグループに分け、グループ毎に共通の上記レンズ形状基礎データ(の全部または一部)を用いる、などの工夫が考えられる。レンズシリーズあたり1枚のメモリチップに収まらないようでは実用上とても不便であるため、これら記憶領域削減方法は有用である。
【0044】
累進屈折力レンズの場合など、面形状をサグメッシュにて表現した場合、面形状の再現性を優先すると、サグメッシュのメッシュ間隔が狭くなり、データも大量になる上、視線検出する際の計算時間が長くなる。上記誤差補正手段を、視線検出装置100から取得した結果を保存した保存データに対して適応する場合にも、視線検出装置100から取得した結果に対しリアルタイムに適応する場合も、計算時間の短縮化が必要となることが多い。そのため、面形状が特徴的である部分、例えば累進屈折力レンズの場合の子午線を中心とした10mmの範囲など、に対してはレンズ形状基礎データに従って形状を再現するが、その外側の範囲に関しては単焦点として再現する、などの工夫や、最も単純には、サグメッシュを荒くするなどの計算削減方法は有用である。
【0045】
上記のような光学情報は、例えば視線情報補正装置200の記憶部MRに記憶させておいても構わないし、接続端子CTや通信部CM、スロットSLなどを介して外部から視線情報補正装置200に入力させるようにしても構わない。この場合、処理部PRは、視線情報を補正する際に、光学情報として、例えば記憶部MRに記憶された光学情報や、接続端子CTや通信部CM、スロットSLなどを介して外部から得られる光学情報を用いることができる。
【0046】
例えば眼鏡レンズLの光学情報であれば、異なるレンズシリーズに対応できるようにするため、レンズシリーズ毎にメモリカードなどの記憶媒体を作成しておき、各記憶媒体にレンズシリーズ内のすべての処方に対応できる表面形状基礎データなどのデータを記憶させておくようにしても構わない。
【0047】
この場合、新しいレンズシリーズが登場したときに、当該新しいレンズシリーズの光学情報を記憶する記憶媒体を作成することにより、容易に対応できる。また、すべてのレンズシリーズのデータを1つの保存領域に保存できる場合には、新しいレンズシリーズが登場するたびにデータを更新すれば良い。
【0048】
次に、視線情報を補正する動作を詳細に説明する。まず、処理部PRは、注視点位置、レンズ形状、回旋点から、回旋点を通る光線の中で注視点位置を通る光線を求める。注視点位置、レンズ、回旋点を配置する際の相対位置関係は、表面形状基礎データにおける、前傾角やそり角、角膜頂点距離(レンズの中心と角膜頂点との距離)、角膜回旋点間距離(角膜頂点と回旋点との距離)などを考慮する必要がある。視野中に基準となるいくつかの物体を決め、その物体までの距離を予め測定しておき、この物体までの距離を演算中に用いることにより、例えば、注視点位置の補正に用いることにより、より精度の高い結果を得ることができる。
【0049】
被験者のレンズの相対位置が、表面形状基礎データから得られたデフォルト値と異なる場合には、この段階で実測の値を用いて相対位置を決める方が精度は高くなる。回旋点を通る光線の中で注視点位置を通る光線を求める際には、逐次追い込み方法やニュートン法などの追い込み方法を用いて求めることが一般的であるが他の方法を用いても良い。
【0050】
この結果、注視点位置と回旋点を通り光学器具を通過する光線が求まる。これにより、
図5における、回旋点から光学器具へと入射する光線の第一視線方向ベクトル(OC→R2)と、入射点座標R2、および、光学器具から注視点へと射出する光線の第二視線方向ベクトル(R1→GP)と射出点座標R1が求まる。補正された視線方向として第一視線ベクトル(OC→R2)を採用し、補正された眼球回旋角として、当該第一視線方向ベクトル(OC→R2)を角度換算した値を採用する。角度換算するときの基準は光軸を用いることが一般的であるが、自然な視線方向を基準として用いてもかまわない。注視点へと向かう視線方向が必要な場合には第二視線方向ベクトル(R1→GP)を計算して採用すればよく、光学器具への入射座標が必要な場合にはR2を採用すればよく、光学器具からの射出座標が必要な場合にはR1を採用すればよい。
【0051】
また、予め光線追跡を行いその結果を保存しておき、視線計測時には保存した結果を用いる場合には、処理部PRは、記憶部MRに記憶された光学情報、あるいは、接続端子CTや通信部CM、スロットSLなどを介して外部から得られる光学情報の中から、被験者の装用している光学器具に関するデータを検索する。その後、処理部PRは、視線検出装置100から得られた注視点近くを通る光線に関するデータを検索する。その後、注視点近くを通る光線に関するデータ群を補間処理することにより、注視点と回旋点を通る光線を求め、その光線から補正された視線情報を得ることになる。
【0052】
ここで、上記ピッチは、光学器具の光線通過範囲および必要とされる補正精度によって適正に設定する必要がある。例えば、光学器具の裏面において5mmピッチで光線を通すようにしても構わない。また、計算時間を優先するのであれば、5mmよりもピッチを大きく設定しても構わないし、精度を優先するのであれば、5mmよりもピッチを小さく設定してもよい。累進屈折力レンズの場合には、当該ピッチを例えば3mm以下、望ましくは1mm程度に設定すると良い。
【0053】
また、上記入射光線情報としては、回旋点から光学器具へ向かう方向ベクトルが含まれる。また、上記入射交点情報としては、回旋点から光学器具へ向かう光線と光学器具との交点座標が含まれる。また、上記射出光線情報としては、光学器具から注視点へと向かう方向ベクトルが含まれる。また、上記射出交点情報には、光学器具から注視点へと向かう光線と光学器具との交点座標が含まれる。
【0054】
次に、処理部PRは、光線検索と補間を行う。射出光線情報と射出交点情報とから射出光線群を再現し、射出光線群から注視点に近い2本を選ぶ。注視点に近い2本の射出光線に対応した入射光線を選び、選ばれた2本の射出光線と入射光線とを補間して回旋点と注視点を通る光線を生成する。生成された光線は、当該補間して求めた光線であるため、必ずしも注視点を通るわけではなく、注視点のごく近くを通る場合もあるため、注視点を通る光線として、この補間光線を採用することができる。
【0055】
なお、補間光線を求める際に、入射光線情報の補間や射出光線情報の補間だけでなく、光学器具との交点の補間も行うことにより、補間光線の交点を得ることができる。また、補間光線情報より、視線方向・回旋角を求めることができる。
【0056】
例えば、頭を固定している、椅子に座っているなどのため、被験者と眼鏡と視線検出装置の相対位置が変わらない場合はこれまでに述べた方法で十分誤差が補正されているのだが、顔を大きく動かす、顔をすばやく動かす、運動するなど体が安定してない、車に乗っているなど安定状態にない場合、被験者と眼鏡と視線検出装置の相対位置が測定の最中に変わってしまう。発明者が実験をしたところ、これも大きな誤差を生む原因であった。そのため、被験者と眼鏡と視線検出装置のうちの少なくとも二つ、可能であればすべての相対位置を検出し、その相対位置のずれを補正する、相対位置検出手段と相対位置補正手段を伴っていることが望ましい。
【0057】
相対位置検出手段は、例えば、眼球撮影カメラにおいて、被験者と被験者の装用する眼鏡の少なくとも一方の特徴点を、可能であれば両方の特徴点を検出するようにし、その特徴点を測定している間は追いかけ続けるように設定することで達成される。これに限らず、相対位置検出用のカメラを設置する、磁力を使って互いの相対位置がわかる仕組みを導入する、などによっても達成される。
【0058】
相対位置補正手段は、相対位置検出手段によって検出された被験者や眼鏡の特徴点から相対位置を計算し、それを補正する。これにより、想定している被験者と眼鏡と視線検出装置の相対関係がずれた場合であっても、誤差が生じるのを防ぐことが出来る。これにより、従来よりさらに顧客満足度の高いレンズを設計することが出来る。
【0059】
以上の処理により、補正された視線方向・補正された眼球回旋角・光学器具と補正された視線との補正された交点を得ることができる。この結果、従来より誤差の少ない視線情報を得ることができ、従来より誤差の少ない視線とレンズとの交点を得ることができ、従来より装用者の視線に適合したレンズを設計・提供することが可能となるため、顧客満足度の高いレンズを提供することができる。すなわち、眼球画像、瞳孔画像や眼球回旋角などの眼球情報、注視点、レンズ入射視線方向、レンズ射出視線方向、レンズ交点などの視線情報に対し、眼球と注視点との間にある1でない屈折率を持つレンズ等の屈折物の屈折率や屈折率に基づく屈折力などを用いて補正を行う視線関連装置や視線補正方法などを実現することができる。簡単に言うと、眼球情報、視線情報に対し、眼球と注視点との間にあるレンズ等の屈折物の屈折率や屈折力を用いて補正を行うことができる。
【0060】
なお、本実施形態において、例えば
図8に示すように、処理部PR及びスロットSLがヘッドバンドHBなどに固定された構成であっても構わない。この場合、処理部PRとして、視線誤差補正機能を備えたチップCHが用いられる。スロットSLは、光学媒体や磁気媒体などの記憶媒体が挿入可能である。スロットSLは、記憶媒体に記憶された光学情報などのデータを読み込むことができるようになっている。
【0061】
この構成においては、眼球撮影カメラCMRによって撮影された視線情報の出力と、中間データである視線誤差補正機能へのデータの取り込みが不要となる。すなわち、誤差の補正された視線情報をダイレクトに取り出すことが可能となる。これにより、視線検出装置101の出力結果に対して誤差補正という変換作業を行う必要がなくなり、作業のスピードアップが図れる。また、中間データがなくなるため、ハードディスクなどの記憶装置の容量の節約にもなる。
【0062】
処理のスピードアップが図られ、リアルタイムで誤差補正されたデータが得られるため、例えば別途視野カメラが設けられる場合、当該視野カメラの動画と誤差補正された視線情報とを組み合わせて表示することも可能となる。このため、視線情報取得と誤差補正を別々の工程で行っていたときには取得することの出来なかった、被験者の応答を確認しながらのデータ取得が可能となる。また、装置のコンパクト化が可能となる。
【0063】
視線誤差の補正を行った後、例えば視線追跡結果評価装置を用いて、補正結果の評価を行っても良い。補正結果を評価する場合、例えば視線追跡結果評価装置は、まず視線誤差の補正結果である補正された眼球回旋角を用いることにより眼鏡レンズと視線との交点を求め、次に求めた結果を表示デバイス上に表示することが挙げられる。なお、当該表示デバイス上に表示する際には、眼鏡フレーム及び眼鏡レンズの図に対応させるように、上記求めた結果を表示させる。
【0064】
表示デバイスに示された眼鏡フレームと補正された交点との位置関係を確認することにより、眼鏡フレームが実際の装用者の視線の移動範囲に納まっているかを把握することができる。補正された交点と補正されていない交点とでは、上記の通り、場合によっては5mmもの差が出るため、装用者が装用できるフレーム群は大幅に異なってくることになり、補正された交点によるフレーム群の方が正しいフレーム群を与えることになる。これはお客様にとって大きなメリットとなる。
【0065】
例えば、眼鏡フレームと眼鏡レンズの絵と補正された交点を図示したものが
図9(a)及び
図9(b)である。眼鏡レンズには近用参照点NPが描かれており、眼鏡フレームFRM、補正交点ACPも同時に描かれている。このように眼鏡レンズ上の近用参照点を図示しておくことにより、装用者が普段の生活をしたときに近用参照点まで眼球を回旋させることができるのかを手軽に知ることができる。
【0066】
例えば
図9(a)に示す場合において、右眼の評価結果を見ると近用参照点NPに補正された交点ACPが到達しているが、左眼の評価結果を見ると近用参照点NPに補正された交点ACPが到達していないことがわかる。すなわち、この装用者の場合、普段の生活において左眼は近用参照点の位置まで回旋できてないため、装用しているレンズが装用者にあっていないことがわかる。
【0067】
また、例えば
図9(b)に示す場合ように、眼鏡レンズに収差の大きい範囲を図示することにより、装用者の視線移動のくせとレンズの収差の小さい範囲が適合しているか否かを簡単に判別することができる。例えば
図9(b)の場合、収差の大きい領域を補正された交点が通過することがないため、収差的に合ったレンズを装着していることがわかる。
【0068】
補正結果を評価する際、視線追跡結果評価装置は、例えば別途視野カメラが設けられている場合、当該視野カメラによって撮影された動画と補正された眼鏡レンズとから視界方向への射出ベクトルとを表示することにより、どのような角度でどの点を見ているのかを明確に判別することができる。これにより、見難さの原因追求を行うことができる。
【0069】
このように、視線追跡結果評価装置を用いて視線誤差の補正結果を評価することにより、視線誤差の正確な評価を行うことが可能となり、装用者が装用しているフレームや眼鏡レンズが、当該装用者にとって適切なものか否かの評価を手軽に行うことができる。また、これまで理由が明確でなかった不快感の原因を突き止め、改善することができる。すなわち、眼球画像、瞳孔画像や眼球回旋角などの眼球情報、注視点、レンズ入射視線方向、レンズ射出視線方向、レンズ交点などの視線情報に対し、眼球と注視点との間にある1でない屈折率を持つレンズ等の屈折物の屈折率や屈折率に基づく屈折力などを用いて補正を行って求めた補正情報を利用して評価値を算出する評価値算出装置や評価値算出方法を実現することができる。この評価値を用いて、後述するレンズを設計する方法や、レンズを選択する方法を実現することができる。また、評価値を用いて設計したレンズを実現することができ、評価値を表示する表示方法を実現することができる。
【0070】
次に、本実施形態に係る眼鏡レンズの設計方法を説明する。
図10は、本実施形態に係る眼鏡レンズの設計方法を示すフローチャートである。
図10に示すように、本実施形態では、装用者毎にレンズを設計する。まず、視線検出装置100と視線情報補正装置200を用意する。その後、眼鏡レンズなどの光学器具を装着した被験者に対し、準備した視線検出装置100を装着する。その後、上記説明と同様に、装用者の視線を測定し(ステップ191)、取得した視線情報を入力し(ステップ192)、入力された視線情報に含まれる誤差を補正する(ステップ193)。
【0071】
その後、補正された視線情報を用いることにより、補正された眼球の回旋角、光学器具と視線との交点を得ることができる。この結果、被験者がレンズ上の視線の動く領域を得ることができる。この領域が、眼鏡レンズにおける使用エリアとなる(ステップ194)。
【0072】
次に、その使用エリアの収差が小さくなるよう収差分布や面形状を決定する(ステップ195)。レンズのすべての領域の収差を良くすることには限界があるため、使用領域の収差を優先的に小さくすることができるようになる。例えば、被験者のレンズ上の視線領域における非点収差を1.0ジオプター以下になるよう設計することが考えられる。また、より交点密度の高い領域や滞在時間の長い領域においては、0.5ジオプター以下にするなど、さらに収差を抑えることも考えられる。遠用領域と近用領域とでは非点収差に対する許容量が異なるため、遠用領域においては0.5ジオプター以下にし、近用領域においては1.0ジオプター以下にする場合もある。また、非点収差だけでなく、平均球面度数やディストーションなど他の収差に関して、この領域を優先的に小さくする場合もある。このように補正された視線情報を用いることにより、実際の装用状態のレンズにおける装用者の視線と、レンズの収差分布を合わせる設計が可能となり、装用者に快適な視界を提供することができるようになる。
【0073】
以上の説明は、1人に対してレンズの設計を行う方法の実施の形態であるが、複数人に対して眼鏡レンズの設計を行う場合も可能である。
図11は、複数人に対して眼鏡レンズの設計を行う場合のフローチャートである。複数人に対して眼鏡レンズの設計を行うメリットとして、例えば補正された視線情報を大量に集めることにより、人間の共通する目の使い方を反映させた製品を作ることができることにある。1人に対して本発明を実施した場合はその人専用のレンズになるが、人間の共通する目の使い方を反映させたレンズは多くの人にとって快適な視界を提供する製品として生産するができる。この結果、安価な眼鏡レンズを提供することができる。
【0074】
複数人の補正された視線情報をとる作業は、1人の補正された視線情報をとる作業と同等の作業を、繰り返し行うことによって取得できる(ステップ201〜ステップ203)。このようにして取得された複数の補正された視線情報を用いることにより、補正された眼球の回旋角、光学器具と視線との交点を複数得る(ステップ204)。
【0075】
このようにして得られた複数の交点を統計処理することにより、多くの人の視線が通る領域を得る(ステップ205)。この際、交点密度の高さや滞在時間の長さを考慮することが望ましい。次に、その領域の収差が小さくなるよう収差分布や面形状を決定する(ステップ206)。レンズのすべての領域の収差を良くすることには限界があるため、使用領域の収差を優先的に小さくする。このように補正された視線情報を用いることにより、多くの人が使用する領域とレンズの収差分布を合わせる設計が可能となり、また、このようにして設計されたレンズを大量に生産することにより、多くの装用者にとって快適な視界を安く提供することができるようになる。
【0076】
次に、上記のようにして設計された眼鏡レンズを製造する方法を説明する。すでに述べられた方法によって設計されたレンズに対し、加工機が必要とする加工ピッチに従って加工データの取得を行う。加工ピッチはどのような加工機を用いるか、加工ツールにどのようなものを用いるかによって最適なピッチが選ばれる。
【0077】
設計データはコンピュータに入力され、専用ソフトによって指定されたピッチの加工データを出力する。出力された加工データを加工機に送ることによってレンズの製造が行われる。このような方法で製造されたレンズは、実際の装用状態のレンズにおける装用者の視線と、レンズの収差分布を合わせる設計が可能となり、装用者に快適な視界を提供するレンズとなる。
【0078】
以上の説明は、測定された後に補正された視線情報から得られたレンズ形状のデータを直接的に製造装置へ送信し、このデータを用いて加工する場合の例であるが、これに限られることは無い。例えば、データの転送、加工のタイミングに関しては任意である。また、データを取得する場所と、視線情報を補正する場所、加工データを作成する場所、加工機の場所については、同じ場所にある必要はなく、それぞれが別の場所に設けられていても良い。この場合、通信手段によって各種データの通信を行うことで、各場所において作業を行うことが出来る。
【0079】
次に、上記の視線検出装置100及び視線情報補正装置200を用いて眼鏡レンズを選択する方法を説明する。
図12は、本実施形態に係る眼鏡レンズの選択方法を示すフローチャートである。
【0080】
本実施形態においては、まず、視線検出装置100及び視線情報補正装置200を用いて上記説明と同様の手順により、被験者の視線情報を取得し、当該視線情報を補正する(ステップ211〜ステップ213)。この結果、補正された眼球の回旋角、光学器具と視線との交点を得ることができる。
【0081】
次に、処理部PRは、補正された眼球の回旋角、光学器具と視線との交点のデータを用いて、被験者についてのレンズ上の視線の動く領域(使用エリア)を求める(ステップ214)。この場合、被験者に処方するレンズを複数タイプ準備しておき、この複数タイプのレンズに対し、被験者の使用エリアの収差をそれぞれ取得する。処理部PRは、取得した使用エリアの収差を用いて、被験者に適する眼鏡レンズを選択する。この場合、例えば被験者の使用エリアの収差が一番小さいものを被験者にとって最適なものとして選ぶこともできるし、被験者の使用エリアの収差をもとに優先順位付けを行うこともできる。後者の場合、例えば被験者が優先順位付けをもとに最終決定を行う。
【0082】
このように、補正された視線情報を元にレンズ選択を行うことが大切であり、視線情報を補正することによって初めて装用者の視線領域とレンズ性能とが一致したレンズを選択することが出来、装用者にとって快適な視界を提供することができるようになる。
【0083】
次に、本実施形態に係る眼鏡レンズの説明をする。本実施形態の眼鏡レンズは、補正された視線を用いて特徴点が定められたレンズとなる。特徴点とは、例えば、近用参照点やある値のアスをもつ領域など、レンズにおける収差を特徴付ける点である。以下、近用領域の性能を決める際の手順を示す。
【0084】
近用領域を決める際には、装用者に本を持ってもらうなどして普段の近用作業位置に注視対象物を置いてもらうことにより、近用作業時の注視点、近用注視点を特定する。続いて、その近用注視点を見ている被験者に対し、視線検出装置100と視線情報補正装置200、またはそれを一体化した視線検出装置101を用いることにより、近用注視点を注視している際の補正された視線を取得する。
【0085】
この補正された視線とレンズとの交点に近用注視時参照ポイントを配置すれば、被験者の実際の視線に合ったレンズとなる。すなわち、補正された視線とレンズとの交点に近用注視時参照ポイントが配置されることになる。
【0086】
ここで、近用注視時参照ポイントとは、近用注視時の補正された光線とレンズとの交点であり、レンズ上に設定される参照点となる。
【0087】
例えば、近用注視時参照ポイントで安定的に、すなわち度数の変化が少なくアスも少ない状態で安定した像を見る場合、近用注視時参照ポイントに近用参照点を設定すればよい。また、近用注視時参照ポイントにおいて、近用注視点を視認可能な度数で十分であれば、近用注視時参照ポイントに近用参照円の上端を設定すればよい。
【0088】
近用注視時参照ポイントに、近用参照点を設定するか、近用参照円の上端を設定するか、もしくは、その中間を設定するか、について、例えばメーカーや眼鏡店ごとに近用作業時の視線とレンズ上のどの点を対応させるかが決められている場合、当該決められている点を近用注視時参照ポイントに設定すればよい。
【0089】
従来の視線検出装置によって定められる近用参照ポイントは、
図5における視線OC→D2によって定められるD2に近用注視時参照ポイントが設定されることになる。これに対して、本発明の視線検出装置を使うことにより、
図3における視線OC→R2によって定められるR2に近用注視時参照ポイントが設定されることになる。
【0090】
このため、近用注視時参照ポイントをNRPとし、近用注視点と回旋点(もしくは瞳孔中心)とを直線で結んだ線とレンズとの交点をD1(表面)、D2(裏面)とし、本発明によって補正された視線とレンズとの交点をR1(表面)、R2(裏面)としたときに、近用参照点もしくは近用参照円が設定されているレンズ面をi(i=1のとき表面、i=2のとき裏面)とすると、
y(NRP)≠y(Di) となっている。
【0091】
より好ましくは、近用注視時参照ポイントにおける透過球面度数がゼロより大きいときには、
|y(NRP)|<|y(Di)|
となっている。
【0092】
また、近用注視時参照ポイントにおける透過球面度数がゼロ未満のときには、
|y(NRP)|>|y(Di)|
となっている。
【0093】
以下、被験者の望む透過性能を達成する際の手順を示す。被験者には、まず、はっきり見えている第一状態、当該第一状態に比べてぼやけた第二状態、当該第一状態に比べてかなりぼやけた第三状態、をそれぞれ体感させる。具体的には、第一状態については、被験者の処方度数に合った単焦点レンズ(処方単焦点レンズと呼ぶ)を装用させることにより体験させる。第二状態については、処方単焦点レンズから多少度数のずれた乱視レンズ(例えば、0.25Dptや0.5Dpt)を装用させることにより体験させる。第三状態については、処方単焦点レンズからかなり度数のずれた乱視レンズ(例えば、0.75Dptや1.00Dpt)を装用させることにより体験させる。
【0094】
次に、被験者に、各状態でどの範囲を見たいのかを指定させる。例えば、部屋の中に被験者を立たせ、部屋の壁に升目や模様などを貼り、第一状態でどの升目・模様まで見たいのかを指定させる。次に、第二状態でどの升目・模様まで見たいのかを指定させる。その後、第三状態でどの升目・模様まで見たいのかを指定させる。
【0095】
第一状態、第二状態及び第三状態の各状態について、被験者に数点指定させる。この指定する点の数は多い方がより複雑な領域を示すことができ、被験者の希望がより反映されるため、望ましい。
【0096】
被験者に点を指定させる際、被験者の指定した点を見ている時の当該被験者の補正された視線を、視線検出装置100と視線情報補正装置200、またはそれを一体化した視線検出装置101を用いることにより取得する。この作業により、被験者の視野に対する希望と、レンズ上の座標、および、その位置での希望性能(許容非点収差値)とのマッチングが完成する。具体的には、0.5Dptの乱視レンズを装用して求めたレンズ上の座標においては、0.5Dpt以下の透過非点収差が達成されれば良いことになる。換言すると、上記によって得られたレンズ上の座標において希望性能を満たせば、被験者が望む視野を提供するレンズが可能となることになる。
【0097】
このように、補正された視線に基づき設計を行ったレンズは、被験者の指定した点と回旋点(もしくは瞳孔中心)とを直線で結んだ線とレンズとの交点をD1(表面)、D2(裏面)とし、本発明によって補正された視線とレンズとの交点をR1(表面)、R2(裏面)とすると、
D1≠R1 かつ D2≠R2
となっている。
【0098】
度数がほぼ一定の遠用エリアにおいては、レンズの光学中心からの距離をLENGTH()とすると、
遠用エリアの度数がプラスの時には、
LENGTH(D1)<LENGTH(R1)
かつ
LENGTH(D2)<LENGTH(R2)
となっている。
また、遠用エリアの度数がマイナスの時には、
LENGTH(D1)>LENGTH(R1)
かつ
LENGTH(D2)>LENGTH(R2)
となっている。
【0099】
尚、この例では乱視度数をずらしたレンズを装用させ、被験者の視野とレンズ上の透過非点収差分布とのマッチングを行ったが、球面度数を処方度数からずらしたレンズを装用させることで、被験者の視野とレンズ上の透過球面度数分布とのマッチングを行うことも出来る。また、被験者がどのようにぼけるのかの認識がある場合には、度数をずらしたレンズをかけさせることは必須ではない。
【0100】
次に、本実施形態に係る視性能通知方法の説明をする。当該視性能通知方法は、視線検出装置100と視線情報補正装置200を用いることにより取得した情報、および、その情報から計算される値を被験者に提示する方法である。まず、視線検出装置100と視線情報補正装置200、またはそれを一体化した視線検出装置101を用い、被験者の補正された視線を取得する。
【0101】
その後、取得された視線とレンズとの交点を求め、レンズ上の交点群を取得する。また、近用注視点を見たときの、補正された視点とレンズとの交点を取得し、当該取得結果とレンズにおけるフィッティングポイントとから補正された累進帯長を取得する。当該取得した累進帯長これを、被験者に通知又は提示する。
【0102】
提示方法としては、例えば、モニタによる提示や紙に印刷しての提示、レンズ仕様書としての提示、配布などが挙げられる。また、単に本方式による交点の図示だけでなく、従来の方法による交点と本方式による交点の両方を例えば
図31にように提示しても良い。これにより、本発明のレンズの効果がよりダイレクトに伝えることができる。本方式による交点とレンズの収差分布を重ねて図示すればさらに効果的である。また、累進帯長についても、例えば
図5のような図と共に本方式による累進帯長を記述すれば、本発明のレンズの効果がわかりやすく伝わる。このような通知方法、特に、従来の方式と本方式の併記による通知方法を用いることにより、従来の方法では得られなかった納得を与えることができるなど、高い効果が見込まれる。
【0103】
なお、上記説明した動作については、所定のプログラムを用いてコンピュータに行わせても良い。
【0104】
例えば、プログラムを用いて、コンピュータに、上記視線情報を所定の入力部に入力させる入力ステップと、入力部に入力された視線情報を補正する上記の演算ステップとを実行させても良い。
【0105】
また、プログラムを用いて、コンピュータに、上記視線情報を検出する検出ステップと、上記視線情報を補正する演算ステップとを実行させても良い。
【0106】
また、プログラムを用いて、コンピュータに、上記視線情報を補正する補正ステップと、補正された視線情報と注視点位置、レンズ形状、回旋点といった位置情報及び上記光学情報とに基づいて被験者が装用する眼鏡レンズの収差分布及びレンズ面形状のうち少なくとも一方を決定する設計ステップとを実行させても良い。
【0107】
また、プログラムを用いて、コンピュータに、上記光学情報を用いて上記視線情報を補正する補正ステップと、補正された視線情報と上記位置情報及び光学情報とに基づいて、被験者が装用する眼鏡レンズの収差分布及びレンズ面形状のうち少なくとも一方を決定する設計ステップと、決定結果に応じて所定の加工装置に眼鏡レンズを加工させる加工ステップとを実行させても良い。
【0108】
また、プログラムを用いて、コンピュータに、上記光学情報を用いて上記視線情報を補正する補正ステップと、補正された視線情報、上記位置情報及び光学情報に基づいて、収差分布及びレンズ面形状の異なる複数の眼鏡レンズ群の中から被験者が装用する眼鏡レンズを選択する選択ステップとを実行させても良い。
【0109】
なお、上記プログラムは、CD−ROM、DVD、フラッシュメモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録させておくことができる。記録媒体に記録された上記プログラムを用いることにより、コンピュータに上記動作を実行させても良い。また、上記プログラムは、インターネットを介してデータ信号によってコンピュータに提供することもできる。
【0110】
図41はこれらの様子を示す図である。パーソナルコンピュータ200は、前述した視線情報補正装置200としての汎用パーソナルコンピューターであり、CD−ROM304を介してプログラムの提供を受ける。また、パーソナルコンピュータ200は通信回線301との接続機能を有する。コンピュータ302は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク303などの記録媒体にプログラムを格納する。通信回線301は、インターネットなどの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ302はハードディスク303を使用してプログラムを読み出し、通信回線301を介してプログラムをパーソナルコンピュータ300に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波にのせて、通信回線301を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体やデータ信号などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0111】
次に、本実施形態における実施例を説明する。
【0112】
(実施例1)
本実施例1では、眼鏡レンズとして、単焦点球面レンズの場合を考える。
図13は、記憶部MRなどの記憶されるレンズ形状基礎データの内容を示す。また、透過光線情報を保存する場合の保存内容は
図14である。透過光線情報は、
図13のレンズ形状基礎データを用い、レンズと回旋点を再現し、回旋点を通る光線を生成しすることによって得られる(
図15)。
図13のレンズ形状基礎データを有する眼鏡レンズは回転対称レンズであるため、1軸に沿って行なえば十分である。
【0113】
図13に関して、実施例としては、(y、z)=(20、0)から(y、z)=(−20、0)の範囲において、5mmピッチにて例示したが、必要に応じて範囲を広げたり、ピッチを細かくすることになる。
【0114】
視線検出装置100を用いて得られた注視点が回旋点を原点として(100、−50、0)の座標にあった場合の補正を考える。回旋点を通り、レンズによって屈折し、注視点を通る光線を求めると、
図16のようになる。これにより求まった値は
図17のようになる。視線検出装置100による値も併記したが、その差は明らかで、本発明の効果が大きいことが理解できる。
【0115】
(実施例2)
本実施例2では、眼鏡レンズとして、単焦点乱視レンズの場合を考える。レンズ形状基礎データを保存する場合の保存内容が
図18である。また、透過光線情報を保存する場合の保存内容は
図19である。透過光線情報は、
図18のレンズ形状基礎データを用い、レンズと回旋点を再現し、回旋点を通る光線を生成しすることによって得られる(
図20、
図21)。
【0116】
図19に関して、実施例としては、(y、z)=(20、−5)から(y、z)=(−20、−5)の範囲において、5mmピッチにて例示したが、必要に応じて範囲を広げたり、ピッチを細かくすることになる。
【0117】
視線検出装置100を用いて得られた注視点が回旋点を原点として(100、−96.8、0)の座標にあった場合の補正を考える。回旋点を通り、レンズによって屈折し、注視点を通る光線を求めると、
図22のようになる。これにより求まった値は
図23のようになる。視線検出装置100による値も併記したが、その差は明らかで、本発明の効果が大きいことが理解できる。
【0118】
(実施例3)
累進屈折力レンズの場合を考える。レンズ形状基礎データを保存する場合の保存内容が
図24と
図25である。
図25は累進面形状を母球面からの差分としてサグ化したものである。また、透過光線情報を保存する場合の保存内容は
図17である。透過光線情報は、
図24、
図25のレンズ形状基礎データを用い、レンズと回旋点を再現し、回旋点を通る光線を生成しすることによって得られる(
図26)。
【0119】
図27に関して、実施例としては、(y、z)=(20、−5)から(y、z)=(−20、−5)の範囲において、5mmピッチにて例示したが、必要に応じて範囲を広げたり、ピッチを細かくすることになる。
【0120】
視線検出装置100を用いて得られた注視点が回旋点を原点として(100、−50、0)の座標にあった場合の補正を考える。回旋点を通り、レンズによって屈折し、注視点を通る光線を求めると、
図28のようになる。これにより求まった値は
図29のようになる。視線検出装置100による値も併記したが、その差は明らかで、本発明の効果が大きいことが理解できる。
【0121】
(実施例4)
本実施例4では、補正された眼球の回旋角、光学器具と視線との交点のデータを用いて、被験者についてのレンズ上の視線の使用エリアを求める例を説明する。
【0122】
レンズタイプの候補が3種類あったとする。その3種類のレンズはフィッティングポイントの水平方向における非点収差を測った場合の、非点収差が1.0ジオプターを越えるまでの距離が異なっている。例えばレンズAは3mm、レンズBは6mm、レンズCは15mmである。
【0123】
ここで被験者の補正された視線情報より計算した使用エリアは、例えば
図30に示すように、フィッティングポイント水平方向において5mmであった。この被験者の場合、レンズAを装用した場合は非点収差が1.0ジオプター以上の非常に見づらい領域を通るため、不快さを感じる。よって、レンズB又はレンズCから選ぶことになる。
【0124】
この場合、被験者はレンズCを装用した場合に不快さを感じないが、レンズCは5mmの被験者に対しては過補正とも言える。よって、優先順位はレンズBがレンズCよりも高く、レンズAは不適合となる。しかし、従来の視線検出装置の場合、被験者の補正された視線情報より計算した使用エリアは、例えば
図31に示すように、フィッティングポイント水平方向において7mmとなる。この場合、レンズA、レンズBは不適合であり、レンズCのみが適合となり、過補正されたレンズを選択の余地が無いように選ばなければならない。このように、視線情報の補正の有無により結果が変わってきてしまうのである。
【0125】
(第2の実施の形態)
以下、図面を参照して、本発明による第2の実施の形態について説明する。
図32は、本発明の第2の実施の形態による眼鏡装用状態測定システム1の概略を説明する図である。眼鏡装用状態測定システム1は、眼鏡撮影装置10とコンピュータ20とを有する。眼鏡撮影装置10は、被験者の頭部に装着され、眼鏡を装用した被験者を連続的に撮影する。コンピュータ20は、眼鏡撮影装置10により連続的に撮影された画像に基づいて、眼鏡の位置の変化量を測定することで、被験者における眼鏡の装用状態の変化を測定する。
【0126】
図33は、眼鏡撮影装置10の構成を説明する図である。
図33(a)は、眼鏡撮影装置10を被験者2の頭部に装着した様子を示す図であり、
図33(b)は、被験者2側から見た眼鏡撮影装置10の構成を示す図である。
図33(a)に示すように、眼鏡撮影装置10は、カメラ11、赤外光源12、ダイクロイックミラー13およびヘッドバンド14を有する。眼鏡撮影装置10は、ヘッドバンド14により被験者2の頭部に対して固定される。これにより、被験者2の顔に対する眼鏡撮影装置10の相対位置が固定される。
【0127】
ヘッドバンド14には、カメラ11、赤外光源12、およびダイクロイックミラー13が取り付けられている。眼鏡3を装用した被験者2の頭部にヘッドバンド14を装着すると、ダイクロイックミラー13が眼鏡3の前方に配置され、カメラ11および赤外光源12が眼鏡3の斜め上方に配置される。
【0128】
なお、
図33(b)に示すように、カメラ11としては、眼鏡3の左目側周辺を撮像する左側カメラ11Lと、眼鏡3の右目側周辺を撮像する右側カメラ11Rとが設けられている。赤外光源12としては、眼鏡3の左目側周辺を照明する左側赤外光源12Lと、眼鏡3の右目側周辺を照明する右側赤外光源12Rとが設けられている。ダイクロイックミラー13としては、眼鏡3の左目側の前方に配置される左側ダイクロイックミラー13Lと、眼鏡3の右目側の前方に配置される右側ダイクロイックミラー13Rとが設けられている。
【0129】
ダイクロイックミラー13は、赤外光を反射し、可視光を透過する。ゆえに被験者2は、ヘッドバンド14を装着した状態であっても、眼鏡3およびダイクロイックミラー13を通して前方の視界を自由に見ることができる。
【0130】
赤外光源12から照射された赤外光は、ダイクロイックミラー13で反射されて眼鏡3を照明する。カメラ11は、ダイクロイックミラー13を介して、赤外光で照明された眼鏡3を連続的に撮像する。
【0131】
なお、被験者が装用する眼鏡3には、
図34に示すように、左右の眼鏡レンズ3L,3Rのそれぞれに2箇所のマーク31L,32L,31R,32Rが予め付されている。したがって、左右の眼鏡レンズ3L,3Rと共にこれらのマーク31L,32L,31R,32Rがカメラ11によって撮像される。なお、これらのマーク31L,32L,31R,32Rは、被験者の視界の妨げにならない程度の大きさとなっている。
【0132】
カメラ11に連続的に撮像された眼鏡の画像は、コンピュータ20に入力される。コンピュータ20は、例えば、
図35に示すように、眼鏡の左目側および右目側の撮像画像をそれぞれモニタ21に表示する。またコンピュータ20は、連続的に撮像された眼鏡の画像ごとに、画像の基準座標Oに対するマーク31L,32L,31R,32Rの位置を算出し、コンピュータ20内の記録装置(不図示)に記録していく。コンピュータ20は、このマーク31L,32L,31R,32Rの位置の変化量に基づいて、眼鏡の位置の変化量を求める。
【0133】
本実施形態では、眼鏡の位置の変化量として、眼鏡の平行移動量と前後方向を軸とする回転量とを演算する。この演算方法の一例を、
図36を用いて説明する。
図36(a)は、時刻t0における眼鏡の右目側の撮像画像を示し、
図36(b)は、時刻tにおける眼鏡の右目側の撮像画像を示す。なお、これらの撮像画像には、実際は被験者の目や眼鏡のフレームも写っているが、
図36では省略している。
【0134】
ここでは、時刻t0での眼鏡の装用状態を基準装用状態とする。時刻tでは、眼鏡の装用状態が基準装用状態から変化して眼鏡の位置が変化している。
【0135】
基準座標Oは、
図36(a)および(b)に示すように、画像の左下隅に設定されているとする。画像のx方向は、
図36の紙面左右方向であり、画像のy方向は、
図36の紙面上下方向であるとする。マーク31Rおよびマーク32Rの時刻t0における座標は、それぞれ(x1(t0),y1(t0))、(x2(t0),y2(t0))であり、時刻tにおける座標は、それぞれ(x1(t),y1(t))、(x2(t),y2(t))であるとする。時刻t0から時刻tまでに、マーク31Rとマーク32Rとを結ぶ線分の中点Pが移動した量は、x方向、y方向においてそれぞれdx(t)、dy(t)であるとする。時刻t0におけるマーク31Rとマーク32Rとを結ぶ線分L(t0)と、時刻tにおけるマーク31Rとマーク32Rとを結ぶ線分L(t)とがなす角度は、θ(t)であるとする。
【0136】
ここで、時刻t0の基準装用状態に対する、時刻tにおける眼鏡の位置は、基準装用状態におけるマーク31Rおよびマーク32R間の中点P(t0)を中心に、眼鏡の前後方向を軸として角度θ(t)回転し、x方向にdx(t)、y方向にdy(t)平行移動したものとなる。すなわち、時刻t0から時刻tまでにおいて、眼鏡の前後方向を軸とする回転量は角度θ(t)であり、眼鏡の平行移動量はdx(t)、dy(t)である。
【0137】
角度θ(t)を算出するには、まず、線分L(t0)の傾きΔ(t0)と、線分L(t)の傾きΔ(t)とを、以下の式(1)および(2)により算出する。
Δ(t0) = (y2(t0) − y1(t0)) / (x2(t0) − x1(t0)) …(1)
Δ(t) = (y2(t) − y1(t)) / (x2(t) − x1(t)) …(2)
【0138】
そして、傾きΔ(t0),Δ(t)から、以下の式(3)により、角度θ(t)を算出する。
θ(t) = arctan(Δ(t)) −arctan(Δ(t0)) …(3)
【0139】
dx(t)、dy(t)は、以下の式(4)および(5)により算出する。
dx(t) = {(x1(t) + x2(t)) − (x1(t0) + x2(t0))} / 2 …(4)
dy(t) = {(y1(t) + y2(t)) − (y1(t0) + y2(t0))} / 2 …(5)
【0140】
なお、ここでは、眼鏡の右目側の撮像画像を用いて演算する場合について説明したが、眼鏡の左目側の撮像画像を用いて演算する場合も同様であるため説明を省略する。
【0141】
コンピュータ20は、このようにして眼鏡の位置の変化量(平行移動量dx(t),dy(t)および前後方向を軸とする回転量θ(t))を連続的に算出することで、被験者が動いている場合における、眼鏡の装用状態の変化を連続的に測定することができる。
【0142】
眼鏡装用状態測定システム1による測定結果は、例えば、被験者が装用している眼鏡のフレームが被験者にフィットしているか否かを検討する場合に用いることができる。この場合、眼鏡撮影装置10による撮影中、被験者には、眼鏡装用時を想定して自由に動いてもらう。例えば、ランニングの際に眼鏡を装用する被験者の場合には、眼鏡撮影装置10による撮影中にランニングをしてもらったりする。
【0143】
眼鏡装用状態測定システム1による測定の結果、眼鏡位置の変化量が大きい場合、被験者が動くことで眼鏡がずれてしまっており、被験者に眼鏡のフレームが合っていない可能性が高い。したがって、眼鏡位置の変化量が所定閾値以上であった場合には、鼻パッドを調整したり、眼鏡のフレームを変えたりすることなどが考えられる。
【0144】
また、眼鏡装用状態測定システム1による測定結果は、複数種類の眼鏡フレームの中から購入するフレームを選択する場合にも用いることができる。この場合、複数種類の眼鏡フレームにおいてそれぞれ眼鏡装用状態測定システム1による測定を行い、最も眼鏡位置の変化量が少なかったフレームを、購入するフレームとして選択することなどが考えられる。
【0145】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
眼鏡装用状態測定システム1は、被験者2が装用する眼鏡3を連続的に撮像する眼鏡撮影装置10と、眼鏡撮影装置10により撮像された画像から、眼鏡3のレンズに付されたマーク31L,32L,31R,32Rを連続的に抽出するコンピュータ20と、抽出したマーク31L,32L,31R,32Rの位置の変化量を算出し、この変化量に基づいて、眼鏡3の位置の変化量を測定するコンピュータ20と、を備える。これにより、眼鏡3を装用した被験者2が動いている状態における、眼鏡3の装用状態の変化を測定することができる。すなわち、この変化量に基づき眼鏡レンズ又は眼鏡フレームが被験者に対して合っているかどうかの可否を判断することができる。また、この変化量として演算(測定)された平行移動量や回転量(測定量)により、眼鏡レンズ又は眼鏡フレームが被験者に対して合っているかどうかの可否を判断することができる。
【0146】
なお、上記コンピュータ20による処理は、コンピュータ20が所定のプログラムを実行することにより行われる。
図42は、そのプログラムのフローチャートを示す図である。ステップS301において、コンピュータ20は、眼鏡撮影装置10のカメラ11により被験者2が装用する眼鏡3を連続的に撮像された画像を入力する。ステップS302において、コンピュータ20は、入力された画像から、眼鏡3のレンズに付されたマーク31L,32L,31R,32Rを連続的に抽出する。ステップS303において、コンピュータ20は、抽出したマーク31L,32L,31R,32Rの位置の変化量を算出し、この変化量に基づいて、眼鏡3の位置の変化量を測定する。
【0147】
コンピュータ20が実行するプログラムは、第1の実施の形態の
図41と同様に、記録媒体やデータ信号などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として、コンピュータ20に供給することができる。
【0148】
(変形例1)
眼鏡位置の変化量を、眼鏡レンズに付された2箇所のマークと被験者の顔の一部の特徴点との相対的な位置関係から求めるようにしてもよい。この場合、眼鏡撮影装置10は、眼鏡と共に被験者の顔の一部を撮像するようにする。
図37に、この場合の眼鏡撮影装置10による撮像画像の一例を示す。
図37(a)は、時刻t0における右目側の撮像画像を示し、
図37(b)は、時刻tにおける右目側の撮像画像を示す。ここでは、一例として、被験者の鼻2nの頂点を特徴点として設定した場合について説明する。コンピュータ20は、時刻t0および時刻tの撮像画像から、それぞれ、マーク31R,32Rを抽出すると共に、上記設定した特徴点を抽出し、当該特徴点の位置を基準座標Oとして、マーク31R,32Rの位置座標を算出する。そしてコンピュータ20は、上述した実施の形態と同様に、時刻tおよび時刻t0におけるマーク31R,32Rの位置座標から、眼鏡位置の回転量θ(t)および平行移動量dx(t),dy(t)を算出する。なお、ここでは、眼鏡の右目側の撮像画像を用いて演算する場合について説明したが、眼鏡の左目側の撮像画像を用いて演算する場合も同様であるため説明を省略する。
【0149】
変形例1によれば、被験者の顔に対する眼鏡の相対位置の変化量を求めることができるので、ヘッドバンド14が動いて、被験者の顔に対する眼鏡撮影装置10の相対位置がずれてしまった場合にも、その影響を受けることなく眼鏡位置の変化量を測定することができる。
【0150】
(変形例2)
上述した眼鏡撮影装置10に、さらに視線検出部を設けてもよい。
図38は、変形例2における眼鏡撮影装置10Xの構成を示す図である。眼鏡撮影装置10Xは、上述した実施の形態における眼鏡撮影装置10の構成に加え、左目の視線を検出する左目視線検出部15Lと、右目の視線を検出する右目視線検出部15Rとを備える。なお、左目視線検出部15Lおよび右目視線検出部15Rとしては、公知の視線検出装置を用いることができる。例えば、赤外線で照明された眼球の画像を撮像し、眼球の画像に基づいて瞳孔中心の位置座標や角膜反射点の位置座標などの眼球運動データを算出し、眼球運動データに基づいて視線の方向を検出する視線検出装置などを用いることができる。このように眼鏡撮影装置10Xが視線検出部15を有することにより、眼鏡の位置の変化量を測定できると同時に、視線検出を行うことができる。
【0151】
また、
図39は、被験者の視線が眼鏡レンズ3L,3Rを透過する点(透過点)33L,33Rを説明する図であり、眼鏡レンズ3L,3Rを上から見た様子を示している。
図39(a)および(b)は、視線の方向は同じであるが、眼鏡レンズ3L,3Rの位置が異なる場合を示している。
図39(a)および(b)に示すように、視線の方向は同じであっても、眼鏡レンズ3L,3Rの位置が異なれば、透過点33L,33Rの位置は異なる。また、眼鏡レンズ3L,3Rの位置は同じであっても、視線の方向が異なれば、透過点33L,33Rの位置は異なる。このように、透過点33L,33Rの位置は、眼鏡レンズ3L,3Rの位置および視線の方向によって決まるため、眼鏡レンズ3L,3Rの位置の変化量(すなわち眼鏡の位置の変化量)および視線の方向から、透過点33L,33Rの位置を求めることができる。
【0152】
そこで、変形例2の眼鏡装用状態測定システム1では、左目視線検出部15Lおよび右目視線検出部15R(まとめて視線検出部15とも呼ぶ)は、カメラ11による眼鏡画像の撮像中、視線の方向を連続的に検出して、検出結果をコンピュータ20に出力する。コンピュータ20は、視線検出部15により検出された視線の方向と、カメラ11による撮像画像に基づいて算出した眼鏡の位置の変化量とに基づいて、透過点33L,33Rの位置を連続的に算出する。なお、透過点33L,33Rとしては、眼鏡レンズ3L,3Rの表面および裏面の両方の位置を求めてもよいし、いずれか一方の位置を求めてもよい。
【0153】
この眼鏡装用状態測定システム1による透過点の測定結果は、例えば、累進眼鏡レンズの設計や選択の際に用いることができる。累進眼鏡レンズには、遠方を見るための遠用領域と、近方を見るための近用領域と、これらの領域の間を結ぶ累進領域とが設定されている。例えば、累進眼鏡レンズを装用した被験者が遠方を見た状態で、眼鏡撮影装置10Xによる撮影を行い、透過点の位置を測定したとする。この場合、透過点の位置における度数が遠用領域における所定度数から外れた場合、被験者が装用している累進眼鏡レンズが被験者に適していないと判断することができる。また累進眼鏡レンズを装用した被験者が近方を見た状態で、眼鏡撮影装置10Xによる撮影を行い、透過点の位置を測定したとする。この場合、透過点の位置における度数が近用領域における所定度数から外れた場合、被験者が装用している累進眼鏡レンズが被験者に適していないと判断することができる。このように累進眼鏡レンズが被験者に適していないと判断された場合、別の累進眼鏡レンズを選択したり、累進眼鏡レンズの設計を変更したりすることなどが考えられる。
【0154】
また、左目視線検出部15Lおよび右目視線検出部15Rによる視線検出のキャリブレーションを、同一眼鏡の異なる複数の装用状態のそれぞれに対して行うようにしてもよい。例えば、基準となる眼鏡装用状態でキャリブレーションを行った後、基準となる眼鏡装用状態から眼鏡の位置をずらした装用状態でキャリブレーションを行う。各キャリブレーションの結果は、それぞれに対応する装用状態における眼鏡レンズのマークの位置に対応付けて、コンピュータ20内の記憶装置に記憶させておく。なお、キャリブレーションでは、被験者に特定の位置の点を数か所注視させ、その各点に対応する視線方向を検出する。
【0155】
実際の測定時において、コンピュータ20は、眼鏡撮影装置10による撮影画像から求めた眼鏡レンズのマークの位置に基づいて、記憶装置に記憶された複数の装用状態におけるキャリブレーション結果の中から、眼鏡レンズのマークの位置が最も近いキャリブレーションの結果を選択する。これにより、測定時の眼鏡装用状態に最も近い眼鏡装用状態でのキャリブレーションの結果を選択することができる。そしてコンピュータ20は、選択したキャリブレーションの結果に基づいて、左目視線検出部15Lおよび右目視線検出部15Rにより検出された視線の方向を補正する。
【0156】
このように同一眼鏡の異なる複数の装用状態においてそれぞれ視線検出のキャリブレーションを行うことにより、視線方向の検出精度を高めることができるので、視線検出結果を用いて行う眼鏡レンズ上における視線の透過点の算出精度も高めることができる。
【0157】
(変形例3)
上述した実施の形態では、左右の眼鏡レンズのそれぞれに付した2箇所のマークを用いて眼鏡の変化量を算出する例について説明したが、マークの数は2箇所に限らなくてもよい。
【0158】
例えば、眼鏡レンズに、回転量が求まる形状(すなわち回転対称ではない形状)を有するマークを1箇所付して、この1箇所のマークの平行移動量および回転量から、眼鏡位置の平行移動量および回転量を算出するようにしてもよい。また例えば、回転対称であるマークを付す場合には、左右の眼鏡レンズにそれぞれ1箇所ずつマークを付して、これらのマークの移動量および左右の眼鏡レンズ間の距離から、眼鏡位置の平行移動量および回転量を算出するようにしてもよい。すなわち、回転対称であるマークを付す場合には、左右の眼鏡レンズで合わせて(すなわち眼鏡の一対のレンズにおいて)少なくとも2箇所以上のマークを伏すようにすればよい。
【0159】
また、左右の眼鏡レンズのそれぞれに3箇所のマークを伏すようにしてもよい。
図40は、この場合における眼鏡の撮像画像の一例を示す図である。
図40(a)は、時刻t0における眼鏡の右目側の撮像画像を示し、
図40(b)は、時刻tにおける眼鏡の右目側の撮像画像を示す。時刻t0から時刻tまでの間に眼鏡がx軸(左右方向)を回転軸として傾いた場合、
図40に示すように、時刻tにおけるマーク34R〜36Rを結んだ三角形のy方向の高さが時刻t0と比べて短くなっている。したがって、コンピュータ20は、このマーク34R〜36Rを結んだ三角形の変形量に基づいて、眼鏡のx軸(左右方向)を軸とする回転量(チルト方向の回転量)を算出することができる。同様にして、コンピュータ20は、眼鏡のy軸(上下方向)を軸とする回転量も算出することができる。なお、眼鏡の平行移動量および前後方向を軸とする回転量は、上述した実施の形態と同様に、マーク34R〜36Rの位置の変化量から算出することができる。また、ここでは、眼鏡の右目側の撮像画像を用いて演算する場合について説明したが、眼鏡の左目側の撮像画像を用いて演算する場合も同様であるため説明を省略する。
【0160】
このように眼鏡レンズに3箇所のマークを伏した場合には、眼鏡の平行移動量および前後方向を軸とする回転量に加え、左右方向および上下方向を軸とする回転量を算出することができる。なお、この場合、コンピュータ20は、左右方向を軸とする回転量および上下方向を軸とする回転量の両方を算出するようにしてもよいし、いずれか一方を算出するようにしてもよい。また、この場合、マークの個数は3箇所に限らなくてよく、左右の眼鏡レンズで合わせて(すなわち眼鏡の一対のレンズにおいて)少なくとも3箇所設ければよい。
【0161】
また、眼鏡の左右方向または上下方向の回転量を求めるためには、マークが小さな点である場合少なくとも3箇所必要であるが、眼鏡の左右方向または上下方向の回転量が求まる形状(例えば三角形など)のマークであれば、1箇所であってもよい。ただし、マークの大きさは小さい方が被験者の視界を妨げないため好ましい。
【0162】
(変形例4)
上述した実施の形態では、眼鏡位置の変化量を求めるためのマークを眼鏡レンズに付した例について説明したが、眼鏡のフレームに付しておくようにしてもよい。
【0163】
また、眼鏡のレンズまたはフレームに付されたマークではなく、眼鏡のレンズまたはフレームの輪郭に基づいて、眼鏡位置の変化量を算出するようにしてもよい。この場合、予め、基準となる眼鏡装用状態における眼鏡の画像を撮影しておく。コンピュータ20は、この撮影画像から眼鏡のレンズまたはフレームの輪郭を抽出し、抽出した眼鏡レンズまたはフレームの輪郭データをコンピュータ20内の記憶装置に記憶しておく。そして実際の測定の際には、コンピュータ20は、予め記憶装置に記憶された輪郭データに基づいて、眼鏡のレンズまたはフレームの輪郭の位置の変化量(平行移動量や回転量)を算出し、この変化量に基づいて、上述した実施の形態と同様に、眼鏡の位置の変化量を算出する。
【0164】
(変形例5)
上述した実施の形態では、眼鏡撮影装置10を被験者の頭部に固定する例について説明したが、この他の方法で、被験者の顔に対する眼鏡撮影装置10の相対位置を固定しておくようにしてもよい。
【0165】
(変形例6)
上述した実施の形態では、眼鏡レンズに付された2箇所のマークの位置の変化量に基づいて、眼鏡の平行移動量および前後方向を軸とする回転量の両方を算出する例について説明した。しかしながら、眼鏡レンズに付された2箇所のマークの位置の変化量に基づいて、眼鏡の平行移動量および前後方向を軸とする回転量のいずれか一方を算出するようにしてもよい。
【0166】
以上の説明はあくまで一例であり、上記の実施形態の構成に何ら限定されるものではない。また、上記実施形態に各変形例の構成を適宜組み合わせてもかまわない。
従来の視線検出装置は、眼鏡等の光を屈折させて眼球に入射させる光学器具を被験者が装着していることは念頭に置いておらず、回旋中心と注視点とを結ぶ視線が結ばれていることを前提に視線方向や眼球回旋角を計算している。したがって、被験者が上記の光学器具を装着している場合、被験者の実際の視線は光学器具の位置に応じて屈折するため、検出結果と実際の視線情報との間には誤差が含まれてしまう。
この誤差はレンズ設計をするにあたり無視できない大きさであり、実際に従来の視線検出装置の出力結果を用いて設計を行い、被験者に装用してもらったところ、設計時に用いた視線と実際の被験者の視線とが異なるため、被験者が実際に感じる収差は設計とは異なってしまい被験者にとって不満の残る結果となってしまった。
上記実施形態によれば、より正確な視線情報の検出に寄与することができる。被験者が眼鏡を使用している場合でも、視野の全域で眼球運動データを正しく較正できる。
また、従来技術では、眼鏡を装用した被験者が動いている状態で、眼鏡の装用状態がどのように変化するかは考慮されていなかった。
上記実施形態によれば、被験者における眼鏡の装用状態の変化を測定することができる。
【0167】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2012年第205453号(2012年9月19日出願)
日本国特許出願2012年第206295号(2012年9月19日出願)