特許第6332403号(P6332403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332403
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20180521BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20180521BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20180521BHJP
   H04N 5/369 20110101ALI20180521BHJP
   C09B 23/00 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/26
   G02B5/28
   H01L27/146 D
   H04N5/369
   !C09B23/00 E
   !C09B23/00 L
【請求項の数】24
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2016-207905(P2016-207905)
(22)【出願日】2016年10月24日
(62)【分割の表示】特願2013-519476(P2013-519476)の分割
【原出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2017-62479(P2017-62479A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2016年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-126555(P2011-126555)
(32)【優先日】2011年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
(72)【発明者】
【氏名】柏原 智
(72)【発明者】
【氏名】下田 博司
(72)【発明者】
【氏名】関川 賢太
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】大澤 光生
(72)【発明者】
【氏名】上條 克司
(72)【発明者】
【氏名】有嶋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】熊井 裕
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6036689(JP,B2)
【文献】 国際公開第2011/158635(WO,A1)
【文献】 特開2012−008532(JP,A)
【文献】 米国特許第05543086(US,A)
【文献】 特開平01−228960(JP,A)
【文献】 特開2011−101089(JP,A)
【文献】 特開2012−103340(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040578(WO,A1)
【文献】 特開2006−033138(JP,A)
【文献】 特開2008−209574(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/006573(WO,A1)
【文献】 特開2007−256717(JP,A)
【文献】 特開2005−331545(JP,A)
【文献】 特開2008−133447(JP,A)
【文献】 特開2008−001543(JP,A)
【文献】 特開2004−137100(JP,A)
【文献】 特開2006−350081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02B 5/28
H01L 27/146
H04N 5/369
C09B 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層を具備する光学フィルタであって、
前記近赤外線吸収色素(A)は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、半値全幅が60nm以下であり、かつピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と前記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと前記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有し、
前記近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、かつ下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下であり、
前記近赤外線吸収層の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備し、
前記選択波長遮蔽層の少なくとも1つは、光を反射し、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、前記近赤外線吸収層における光の透過率が5%以下となる波長域のうち長波長側の端の波長より10nm短い波長から前記長波長側の端の波長までの範囲にある、誘電体多層膜であり、
710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下である光学フィルタ。
D(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(1)
式(1)中、T700は、前記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、前記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
【請求項2】
前記光を反射する選択波長遮蔽層は、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、710nm以上である請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記近赤外線吸収層は、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記透明樹脂(B)は、屈折率(n20d)が1.54以上である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記近赤外線吸収層は、前記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.86以下である、請求項1〜4いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記近赤外線吸収色素(A1)が、下記一般式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選択される少なくとも1種からなる、請求項1〜5いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【化1】
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環A)を形成しているか、RおよびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環B)を形成している。複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、臭素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数7〜11のアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基))を示す。
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【請求項7】
前記近赤外線吸収色素(A)が、さらに、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が720nm超800nm以下の領域にあり、半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する近赤外線吸収色素(A2)を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記近赤外線吸収色素(A2)が、下記一般式(F2)で示されるシアニン系化合物から選択される少なくとも1種からなる、請求項7に記載の光学フィルタ。
【化2】
ただし、式(F2)中の記号は以下のとおりである。
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
Zは、PF、ClO、R−SO、(R−SO−N(Rは少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。)、またはBFを示す。
14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nはを示す。
【請求項9】
前記透明樹脂(B)がアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エン・チオール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記近赤外線吸収層における、前記近赤外線吸収色素(A)の全量に対する前記近赤外線吸収色素(A1)の割合が3〜100質量%であり、前記透明樹脂(B)100質量部に対する前記近赤外線吸収色素(A)の割合が0.05〜5質量部である請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記近赤外線吸収層の膜厚が0.1〜100μmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記選択波長遮蔽層は、420〜695nmの可視光を透過し710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
前記選択波長遮蔽層が低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる請求項1〜12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
420〜620nmの可視光の透過率が70%以上であり、かつ下式(2)で表わされる透過率の変化量Dfが−0.8以下である請求項1〜13いずれか1項に記載の光学フィルタ。
Df(%/nm)=[Tf700(%)−Tf630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(2)
式(2)中、Tf700は、前記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、Tf630は、前記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
【請求項15】
さらに透明基材を有する請求項1〜14いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
前記透明基材は、ガラスである請求項15に記載の光学フィルタ。
【請求項17】
前記ガラスは、CuOを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはCuOを含有するリン酸塩系ガラスである、請求項16に記載の光学フィルタ。
【請求項18】
光電変換素子と、前記光電変換素子上に設けられた、近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層と、を具備する、固体撮像素子であって、
前記近赤外線吸収色素(A)は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、半値全幅が60nm以下であり、かつピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と前記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと前記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有し、
前記近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、かつ下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下であり、
前記近赤外線吸収層の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備し、
前記選択波長遮蔽層の少なくとも1つは、光を反射し、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、前記近赤外線吸収層における光の透過率が5%以下となる波長域のうち長波長側の端の波長より10nm短い波長から前記長波長側の端の波長までの範囲にある、誘電体多層膜であり、
710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下である固体撮像素子。
D(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(1)
式(1)中、T700は、前記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、前記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
【請求項19】
前記光を反射する選択波長遮蔽層は、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、710nm以上である請求項18に記載の固体撮像素子。
【請求項20】
前記近赤外線吸収層は、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下である、請求項18または19に記載の固体撮像素子。
【請求項21】
前記透明樹脂(B)は、屈折率(n20d)が1.54以上である、請求項18または19に記載の固体撮像素子。
【請求項22】
前記光電変換素子上に、遮光層、平坦化層、カラーフィルタ層およびマイクロレンズから選ばれる少なくとも一つをさらに備える、請求項18〜21いずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項23】
前記選択波長遮蔽層は、420〜695nmの可視光を透過し710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する請求項18〜22いずれか1項に記載の固体撮像素子。
【請求項24】
前記選択波長遮蔽層が低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる請求項18〜23いずれか1項に記載の固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線遮蔽効果を有する光学フィルタおよび固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な用途に、可視波長領域の光は十分に透過するが、近赤外波長領域の光は遮蔽する光学フィルタが使用されている。
【0003】
例えば、固体撮像素子(CCD、CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ、デジタルビデオ等の撮像装置や、受光素子を用いた自動露出計等の表示装置においては、固体撮像素子または受光素子の感度を人間の視感度に近づけるため、撮像レンズと固体撮像素子または受光素子との間にそのような光学フィルタを配置している。また、PDP(プラズマディスプレイパネル)においては、近赤外線で作動する家電製品用リモコン装置の誤作動を防止するため、前面(視認側)に光学フィルタを配置している。
【0004】
これらのうちでも撮像装置用の光学フィルタとしては、近赤外波長領域の光を選択的に吸収するように、フツリン酸塩系ガラスや、リン酸塩系ガラスにCuO等を添加したガラスフィルタが知られているが、光吸収型のガラスフィルタは、高価である上に、薄型化が困難であり、近年の撮像装置の小型化・薄型化要求に十分に応えることができないという問題があった。
【0005】
そこで、上記問題を解決すべく、基板上に、例えば酸化シリコン(SiO)層と酸化チタン(TiO)層とを交互に積層し、光の干渉によって近赤外波長領域の光を反射して遮蔽する反射型の干渉フィルタ、透明樹脂中に近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルム等が開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、これらを組み合わせた近赤外線を吸収する色素を含有する樹脂層と近赤外線を反射する層とを積層した光学フィルタも開発されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、近赤外線を吸収する色素を含有する樹脂層については、例えば、特許文献3に記載されている。
【0006】
しかしながら、これら従来の撮像装置用の光学フィルタでは、近赤外領域の波長の光を遮蔽する性能や、暗部をより明るく撮影するために求められる波長帯(630〜700nm)の透過性が十分でなく、さらに、固体撮像素子の機能を阻害させないという層形成上の制約もあるため、十分な近赤外線カットフィルタ機能を有する光学フィルタが得られていないのが現状である。
【0007】
一方、700〜750nm付近に最大吸収波長を示し、波長630〜700nmの光の吸収曲線の傾斜が急峻である近赤外線吸収色素は、他の遮蔽成分や遮蔽部材と組合せて用いることにより、良好な近赤外線遮蔽特性が得られるとして、これを透明樹脂、例えば、シクロオレフィン樹脂に分散した樹脂層として近赤外線カットフィルタに用いられている。しかしながら、このような近赤外線吸収色素は、近赤外線吸収波長域が狭く、他の遮蔽部材と組合せても吸収が十分でない波長域が出現する場合が多く問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2008−181028号公報
【特許文献2】日本国特開2008−51985号公報
【特許文献3】日本国特開2012−008532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、近赤外線吸収色素を効果的に用いた、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、近赤外線遮蔽特性に優れるとともに、十分な小型化、薄型化ができる光学フィルタの提供を目的とする。
また、本発明は、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽特性を有するとともに、撮像装置の十分な小型化、薄型化、低コスト化ができる固体撮像素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層を具備する光学フィルタであって、
上記近赤外線吸収色素(A)は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有し、
上記透明樹脂(B)は、屈折率(n20d)が1.54以上であり、
上記近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下であり、
前記近赤外線吸収層の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備し、
前記選択波長遮蔽層の少なくとも1つは、光を反射し、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、前記近赤外線吸収層における光の透過率が5%以下となる吸収波長域のうち長波長側の端の波長より10nm短い波長から前記長波長側の端の波長までの範囲にある、誘電体多層膜であり、
710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下である、光学フィルタが提供される。
D(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(1)
式(1)中、T700は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
【0011】
なお、屈折率(n20d)とは、20℃において波長589nmの光線を用いて測定される屈折率をいう。ここで使用する色素用溶媒とは、室温付近において色素を十分溶解せしめ吸光度が測定できる溶媒をいう。
【0012】
上記近赤外線吸収色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて700〜720nmの領域にピーク波長を示す最大吸収ピークを有する色素であってよく、上記近赤外線吸収層は、上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.86以下であってよい。
【0013】
上記近赤外線吸収色素(A1)は、下記一般式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選択される少なくとも1種からなってもよい。
【0014】
【化1】
【0015】
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環A)を形成しているか、RおよびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環B)を形成している。複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、臭素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数7〜11のアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基))を示す。
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0016】
上記近赤外線吸収色素(A)は、さらに、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が720nm超800nm以下の領域にあり、半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する近赤外線吸収色素(A2)を含有してもよい。
【0017】
上記近赤外線吸収色素(A2)は、下記一般式(F2)で示されるシアニン系化合物から選択される少なくとも1種からなってもよい。
【化2】
【0018】
ただし、式(F2)中の記号は以下のとおりである。
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
Zは、PF、ClO、R−SO、(R−SO−N(Rは少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。)、またはBFを示す。
14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nは1〜6の整数を示す。
【0019】
上記透明樹脂(B)は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エン・チオール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。なお、上記「アクリル系樹脂」の用語は、アクリル樹脂に加えてアクリル樹脂が変性された樹脂等のアクリル樹脂類の樹脂を含むものとして用いられる。その他の樹脂についても同様である。
【0020】
上記近赤外線吸収層における、上記近赤外線吸収色素(A)の全量に対する上記近赤外線吸収色素(A1)の割合は3〜100質量%の範囲とされてよく、上記透明樹脂(B)100質量部に対する上記近赤外線吸収色素(A)の割合は0.05〜5質量部であってよい。
上記近赤外線吸収層の膜厚は、0.1〜100μmであってよい。
【0021】
上記光学フィルタが有する光を反射する選択波長遮蔽層は、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、710nm以上であってよい。
上記光学フィルタが有する選択波長遮蔽層は、420〜695nmの可視光を透過し710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層であってよい。
【0022】
上記光学フィルタが有する選択波長遮蔽層は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなってもよい。
このような選択波長遮蔽層を具備する上記光学フィルタは、420〜620nmの可視光の透過率が70%以上であり、かつ下式(2)で表わされる透過率の変化量Dfが−0.8以下の光学フィルタであってよい。
Df(%/nm)=[Tf700(%)−Tf630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(2)
式(2)中、Tf700は、上記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、Tf630は、上記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
上記光学フィルタは、さらに透明基材を有してよく、該透明基材は、ガラスからなってよい。さらに、上記ガラスは、CuOを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはCuOを含有するリン酸塩系ガラスであってよい。
【0023】
本発明の他の態様によれば、光電変換素子と、上記光電変換素子上に設けられた、近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層と、を具備する、固体撮像素子であって、
上記近赤外線吸収色素(A)は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有し、
上記透明樹脂(B)は、屈折率(n20d)が1.54以上であり、
上記近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下であり、
前記近赤外線吸収層の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備し、
前記選択波長遮蔽層の少なくとも1つは、光を反射し、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、前記近赤外線吸収層における光の透過率が5%以下となる吸収波長域のうち長波長側の端の波長より10nm短い波長から前記長波長側の端の波長までの範囲にある、誘電体多層膜であり、
710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下である、固体撮像素子が提供される。
【0024】
上記固体撮像素子は、光電変換素子上に、遮光層、平坦化層、カラーフィルタ層およびマイクロレンズから選ばれる少なくとも一つをさらに備えてもよい。
上記固体撮像素子が有する選択波長遮蔽層は、420〜695nmの可視光を透過し710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層であってよい。
上記固体撮像素子が有する選択波長遮蔽層は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなってよい。
【0025】
本発明の他の態様によれば、近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層を備える、撮像装置用レンズであって、
上記近赤外線吸収色素(A)は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有し、
上記透明樹脂(B)は、屈折率(n20d)が1.54以上であり、
上記近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下であり、
前記近赤外線吸収層の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備し、
前記選択波長遮蔽層の少なくとも1つは、光を反射し、該反射により光の透過率が5%以下となる反射波長域の短波長側の端の波長が、前記近赤外線吸収層における光の透過率が5%以下となる吸収波長域のうち長波長側の端の波長より10nm短い波長から前記長波長側の端の波長までの範囲にある、誘電体多層膜であり、
710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下である、撮像装置用レンズが提供される。
【0026】
上記近赤外線吸収層は、レンズ本体の少なくとも一方の面に形成された層であってよい。
上記撮像装置用レンズが有する選択波長遮蔽層は、420〜695nmの可視光を透過し710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層であってよい。
上記撮像装置用レンズが有する選択波長遮蔽層は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなってよい。
【0027】
本発明の他の態様によれば、上記固体撮像素子を具備する、撮像装置が提供される。
本発明の他の態様によれば、上記撮像装置用レンズを具備する、撮像装置が提供される。
ここで、本明細書において、特に断りのない限り、光を透過するとは、その波長における光の透過率が85%以上であることをいう。また、光を遮蔽するとは、その波長における光の透過率が5%以下であることをいう。さらに、光を反射するとは、光を遮蔽すると同様に、その波長における光の透過率が5%以下であることをいう。また、特定の波長領域の透過率について、透過率が例えば85%以上とは、その波長領域の全波長において透過率が85%を下回らないことをいい、同様に透過率が例えば5%以下とは、その波長領域の全波長において透過率が5%を超えないことをいう。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽機能を有し、かつ撮像装置の十分な小型化、薄型化、低コスト化ができる、光学フィルタ、固体撮像素子、およびレンズ、並びに、これらを用いた撮像装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る光学フィルタを概略的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態の光学フィルタを用いた撮像装置の一例を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る固体撮像素子の一例を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態の固体撮像素子の変形例を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る撮像装置用レンズの一例を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る撮像装置用レンズの変形例を示す断面図である。
図7】本発明の実施形態の固体撮像素子を用いた撮像装置の一例を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る近赤外線吸収層と組合せて用いる選択波長遮蔽層の透過スペクトルを示す図である。
図9】本発明の実施例と比較例における近赤外線吸収層の透過スペクトルを示す図である。
図10】本発明の実施例と比較例の透過スペクトルを示す図である。
図11図10の透過スペクトルの近赤外波長領域を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、下記近赤外線吸収色素(A)を、屈折率(n20d)が1.54以上の透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層であって、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下である近赤外線吸収層を具備する光学フィルタに関する。なお、本明細書において屈折率は、特に断りのない限り屈折率(n20d)をいう。
【0031】
本実施形態に用いられる近赤外線吸収色素(A)は、屈折率が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(A1)を含有する。
【0032】
本明細書において、近赤外線吸収色素をNIR吸収色素ともいう。また、NIR吸収色素(A1)を、上記既定の色素用溶媒に最大吸収ピークのピーク波長における吸光度が1となる濃度で溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルを、単にNIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルという。さらに、NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルにおける最大吸収ピークのピーク波長をNIR吸収色素(A1)のλmaxまたは、λmax(A1)という。NIR吸収色素(A1)以外のNIR吸収色素(A)についても同様である。
【0033】
NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルにおける最大吸収ピークのピーク波長であるλmax(A1)における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度(Ab630)とλmax(A1)における吸光度の差を、630nmとλmax(A1)との波長差で除した値を、以下、「吸収スペクトル傾き」という。NIR吸収色素(A1)以外のNIR吸収色素(A)についても同様である。なお、吸収スペクトル傾きを式で示すと以下のとおりである。
吸収スペクトル傾き=(1−Ab630)/(λmax(A1)−630)
また、近赤外線吸収層における上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dを、単に透過率の変化量Dともいう。
【0034】
NIR吸収色素(A)の吸収スペクトルを測定するために用いる色素用溶媒としては、屈折率が1.500未満であり、測定されるNIR吸収色素(A)に対して規定の色素用溶媒であれば特に制限されない。NIR吸収色素(A)の種類によるが、具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、トルエン等の芳香族溶媒、シクロヘキサンノン等の脂環族溶媒が挙げられる。
【0035】
NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおけるλmaxは、695〜720nmの領域にあるが、700〜720nmにあることが好ましい。NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける半値全幅は60nm以下であるが、50nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましい。NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける吸収スペクトル傾きは、0.010〜0.050であるが、0.010〜0.030が好ましく、0.010〜0.014がより好ましい。
【0036】
また、NIR吸収色素(A1)としては、その吸収スペクトルが上記特徴を有する以外に、その吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収ピーク以外に半値全幅が100nm以下の、形状がシャープな吸収ピークを有しないことが好ましい。NIR吸収色素(A1)の上記吸光特性は、近赤外線カットフィルタに求められる波長630〜700nm付近の間で急峻に吸光度が変化する光学特性に合致する。
【0037】
本実施形態の光学フィルタにおいては、NIR吸収色素(A1)を含むNIR吸収色素(A)を用い、これを後述の透明樹脂(B)に分散させて、近赤外線吸収層を形成することで、該近赤外線吸収層の上記吸光特性、すなわち、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ透過率の変化量Dが−0.8以下である吸光特性を達成している。
【0038】
つまり、NIR吸収色素(A)は、近赤外線吸収層における450〜600nmの可視波長帯域を高透過とし、695〜720nmの近赤外波長帯域を低透過(遮光)とし、その境界領域を急峻にする作用を有する。NIR吸収色素(A)のこの作用は、NIR吸収色素(A1)により実現される。そのために、NIR吸収色素(A)は、実質的に、NIR吸収色素(A1)のλmax(A1)の最小値である695nmより短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)を含有しない。この観点から、NIR吸収色素(A)はNIR吸収色素(A1)のみで構成されてもよい。
【0039】
しかしながら、本実施形態の光学フィルタにおいては、近赤外波長領域の透過率を広範囲に抑制することが好ましく、そのために、好ましい態様として、上記近赤外線吸収層と、例えば、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層が組み合わせて用いられることがある。
【0040】
ところが、誘電体多層膜等からなる選択波長遮蔽層は、視線角度により分光スペクトルが変動することが知られている。このため、光学フィルタの実使用においては、近赤外線吸収層と選択波長遮蔽層の組合せにおいて、このような分光スペクトルの変動に配慮する必要がある。このような選択波長遮蔽層との組合せを考慮すると、近赤外線吸収層は上記吸光特性を有する限り、さらに長波長域の光を遮光することが好ましく、そのために、NIR吸収色素(A)は、その吸収スペクトルにおいて、NIR吸収色素(A1)のλmax(A1)の最大値である720nmを超え800nm以下の波長領域にピーク波長があり半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する、NIR吸収色素(A2)を含有することが好ましい。
【0041】
すなわち、NIR吸収色素(A)は、これを含有する近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする作用が求められ、さらに好ましくは、近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する性質を付与することが求められる。そこで、NIR吸収色素(A)としては、近赤外線吸収層において可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜が急峻となるように、NIR吸収色素(A1)を用い、さらに好ましくは近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光させるために、NIR吸収色素(A1)に加えてNIR吸収色素(A2)を組み合わせて用いる。
【0042】
NIR吸収色素(A2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおけるλmax(λmax(A2))は、720nmを超え800nm以下の領域にあるが、720nmを超え760nmにあることが好ましい。NIR吸収色素(A2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける半値全幅は100nm以下であり60nm以下が好ましい。半値全幅の下限としては30nmが好ましく、40nmがより好ましい。NIR吸収色素(A2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける吸収スペクトル傾きは、0.007〜0.011が好ましく、0.008〜0.010がより好ましい。
【0043】
また、NIR吸収色素(A2)としては、その吸収スペクトルが上記特徴を有する以外に、その吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収ピーク以外に半値全幅が100nm以下の、形状がシャープな吸収ピークを有しないことが好ましい。
以下、このようなNIR吸収色素(A1)およびNIR吸収色素(A2)のそれぞれについて説明し、続いてこれらを含むNIR吸収色素(A)について説明する。
【0044】
(NIR吸収色素(A1))
NIR吸収色素(A1)としては、上記吸光特性を有する化合物であれば、特に制限されない。一般にNIR吸収色素として用いられるシアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等から、上記吸光特性を有する化合物を適宜選択して使用できる。これらのうちでも、特にスクアリリウム系化合物は、化学構造を調整することで上記NIR吸収色素(A1)として求められる波長帯で急峻な吸収傾きが得られるとともに、保存安定性および光に対する安定性を確保できる点で好ましい。
【0045】
NIR吸収色素(A1)として、具体的には、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、式(F1)で示される化合物を化合物(F1)ともいう。他の化合物についても同様である。
化合物(F1)は、スクアリリウム骨格の左右にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環の4位に窒素原子が結合するとともに該窒素原子を含む飽和複素環が形成された構造を有するスクアリリウム系化合物であり、上記NIR吸収色素(A1)としての吸光特性を有する化合物である。化合物(F1)においては、近赤外線吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ということもある。)や透明樹脂(B)への溶解性を高める等のその他の要求特性に応じて、以下の範囲でベンゼン環の置換基を適宜調整できる。
【0046】
【化3】
【0047】
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環A)を形成しているか、RおよびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環B)を形成している。複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、臭素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数7〜11のアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。置換基としては、フッ素原子、臭素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基))を示す。
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
なお、化合物(F1)は、上記一般式(F1)で示される構造の共鳴構造を有する式(F1−1)で示される化合物(F1−1)を含む。
【0048】
【化4】
【0049】
ただし、式(F1−1)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じである。
【0050】
化合物(F1)において、RおよびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環A)を形成しているか、RおよびRは互いに連結して窒素原子と共に5員環または6員環の環構成原子として酸素原子を含んでもよい複素環(環B)を形成している。
およびRが環Aを形成している場合のR、RおよびRが環Bを形成している場合のRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、臭素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいアリル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数7〜11のアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。置換基としては、フッ素原子、臭素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。
これらのなかでも、RおよびRとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0051】
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基))を示す。RおよびRは、いずれか一方が水素原子であって、他方が−NRである組合せが好ましい。
−NRとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、−NH−C(=O)−Rが好ましい。Rとしては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。置換基としては、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。これらのうちでも、フッ素原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基および炭素数1〜6のフロロアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基から選ばれる基が好ましい。
【0052】
また、化合物(F1)において、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環が有する基R〜Rは、左右で異なってもよいが、左右で同一であることが好ましい。
【0053】
化合物(F1)として、好ましくは、下記式(F11)で示される化合物、および下記式(F12)で示される化合物が挙げられる。なお、下記式(F11)で示される化合物は、米国特許第5,543,086号明細書に記載された化合物である。
【0054】
【化5】
【0055】
ただし、式(F11)中の記号は、以下のとおりである。
、R、R、R、およびRは、上記式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。なお、−NRとしては、−NH−C(=O)−CH、−NH−C(=O)−C13、−NH−C(=O)−C等が好ましい。
Yは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい−CH−を示し、Xは、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基で置換されてもよい−CH−または−CHCH−を示す。Yは、−CH−、−C(CH−が好ましく、Xは、−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−が好ましい。
【0056】
【化6】
【0057】
ただし、式(F12)中の記号は、以下のとおりである。
、R、R、R、およびRは、上記式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。なお、−NRとしては、−NH−C(=O)−(CH−CH(mは、0〜19)、−NH−C(=O)−Ph−R10(R10は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基を示す。)
等が好ましい。
Yは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい−CH−を示し、Xは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい−CH−または−CHCH−を示す。Y、Xともに−CH−、−C(CH−が好ましい。
【0058】
ここで、化合物(F12)は、そのλmaxが700〜720nmの間にあり、これを含有する近赤外線吸収層における透過率の変化量Dを−0.86以下とできる、NIR吸収色素(A1)として好ましい化合物である。λmaxを上記範囲とすることで、可視波長帯の透過領域を広げることが可能となる。
【0059】
以下に、化合物(F11)および化合物(F12)の具体例の化学構造および吸光特性を示す。
化合物(F11)として、具体的には、下記式(F11−1)で示される化合物が挙げられる。
【0060】
【化7】
【0061】
また、化合物(F12)として、具体的には、下記式(F12−1)、式(F12−1)、式(F12−2)、式(F12−3)、式(F12−4)、式(F12−5)でそれぞれ示される化合物が挙げられる。
【0062】
【化8】
【0063】
【化9】
【0064】
【化10】
【0065】
【化11】
【0066】
【化12】
【0067】
上記化合物(F11−1)および化合物(F12−1)〜化合物(F12−5)の吸光特性を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、上記化合物(F11)や化合物(F12)等の化合物(F1)は、従来公知の方法で製造可能である。
化合物(F11−1)等の化合物(F11)は、例えば、ここに参照により引用される米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。
また、化合物(F12)は、例えば、ここに参照により引用されるJ.Org.Chem.2005,70(13),5164−5173に記載の方法で製造できる。
【0070】
これらのうちでも、化合物(F12−1)〜化合物(12−5)は、例えば以下の反応式(F3)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F3)によれば、1−メチル−2−ヨード−4−アミノベンゼンのアミノ基に所望の置換基Rを有するカルボン酸塩化物を反応させてアミドを形成する。次いで、ピロリジンを反応させ、さらに3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンと反応させることで、化合物(F12−1)〜化合物(12−5)が得られる。
【0071】
【化13】
【0072】
反応式(F3)中Rは、−CH、−(CH−CH、−Ph、−Ph−OCH、Ph−CFを示す。−Phはフェニル基、−Ph−は1,4−フェニレン基を示す。Etはエチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0073】
本実施形態においては、NIR吸収色素(A1)として、上記NIR吸収色素(A1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
(NIR吸収色素(A2))
NIR吸収色素(A2)としては、上記吸光特性を有する、具体的には、その吸収スペクトルにおいて、λmax(A2)が720nm超800nm以下の波長領域にあり半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する化合物であれば、特に制限されない。一般にNIR吸収色素として用いられるシアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等から、上記吸光特性を有する化合物を適宜選択して使用できる。
【0075】
NIR吸収色素(A2)としては、上記のとおりNIR吸収色素(A1)の可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域における光の吸収特性を阻害しない範囲で、近赤外波長帯域の比較的長波長側での光の吸収をできるだけ幅広く確保できる化合物が好ましい。このような観点からNIR吸収色素(A2)としては、化学構造を調整することで上記NIR吸収色素(A2)として求められる吸光特性が付与されたシアニン系化合物が好ましい。シアニン系化合物は古くからCD−R等の記録色素として用いられてきた色素であり低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できることが知られている。
NIR吸収色素(A2)として使用可能な、シアニン系化合物として、具体的には、下記一般式(F2)に示される化合物が挙げられる。
【0076】
【化14】
【0077】
ただし、式(F2)中の記号は以下のとおりである。
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
Zは、PF、ClO、R−SO、(R−SO−N(Rは少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。)、またはBFを示す。
14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nは1〜6の整数を示す。
【0078】
なお、化合物(F2)におけるR11としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、R12およびR13はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。R14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子が好ましく、nは1〜4の整数が好ましい。n個の繰り返し単位を挟んだ左右の構造は異なってもよいが、同一の構造が好ましい。
化合物(F2)としてより具体的には、下記式(F21)で示される化合物、下記式(F22)で示される化合物等が例示される。
【0079】
【化15】
【0080】
【化16】
【0081】
また、NIR吸収色素(A2)として、下記式(F4)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。
【0082】
【化17】
【0083】
上記NIR吸収色素(A2)として好ましく使用される、化合物(F21)、化合物(F22)および化合物(F4)の吸光特性を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
なお、上記化合物(F21)、化合物(F22)および化合物(F4)は、従来公知の方法で製造可能である。本実施形態においては、NIR吸収色素(A2)として、上記NIR吸収色素(A2)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
(NIR吸収色素(A))
本実施形態に用いられるNIR吸収色素(A)は、NIR吸収色素(A1)を必須成分として含有し、さらに好ましくは、NIR吸収色素(A2)を含有する。
NIR吸収色素(A)における、NIR吸収色素(A1)の含有量は、NIR吸収色素(A)がNIR吸収色素(A1)以外に含有するNIR吸収色素(A)、例えばNIR吸収色素(A2)等の種類によるが、NIR吸収色素(A)の全量に対して3〜100質量%の範囲が好ましく、30〜100質量%がより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。NIR吸収色素(A1)の含有量を上記範囲とすることで、NIR吸収色素(A)は、これを含有する近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする特性、具体的には、透過率の変化量Dを−0.8以下とする特性の付与が可能となる。
【0087】
また、NIR吸収色素(A)における、NIR吸収色素(A2)の含有量は、NIR吸収色素(A)の全量に対して0〜97質量%の範囲が好ましく、0〜70質量%がより好ましく、0〜50質量%が特に好ましい。
NIR吸収色素(A2)の含有量を上記範囲とすることで、NIR吸収色素(A)は、NIR吸収色素(A1)による上記効果を阻害することなく、これを含有する近赤外線吸収層に、近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する特性を付与することが可能となる。
【0088】
NIR吸収色素(A)は、NIR吸収色素(A1)の1種または2種以上を含有し、好ましくは、これに加えてNIR吸収色素(A2)の1種または2種以上を含有する。なお、NIR吸収色素(A)は、NIR吸収色素(A1)、NIR吸収色素(A2)による上記効果を阻害しない限りにおいて、必要に応じてその他のNIR吸収色素(A)を含有してもよい。
【0089】
ここで、本実施形態において、NIR吸収色素(A)としては、上記のとおり、近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする特性および近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する特性を付与するために、NIR吸収色素(A1)を含む複数のNIR吸収色素(A)を使用することが好ましい。複数のNIR吸収色素(A)を使用する場合、その数に制限はないが2〜4が好ましい。複数のNIR吸収色素(A)は、互いに相溶性が近いことが好ましい。
【0090】
さらに、使用する複数のNIR吸収色素(A)のλmaxのうち、最も長波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)と、最も短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)の関係は、吸収光の漏れを抑える必要から以下の関係にあることが好ましい。
NIR吸収色素(A)のうちで最も長波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)をNIR吸収色素(Ay)、そのλmaxをλmax(Ay)とし、NIR吸収色素(A)のうちで最も短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)をNIR吸収色素(Ax)、そのλmaxをλmax(Ax)として、10nm≦λmax(Ay)−λmax(Ax)≦40nmの関係にあることが好ましい。
【0091】
なお、NIR吸収色素(Ax)は、NIR吸収色素(A1)から選択される。NIR吸収色素(Ay)は、NIR吸収色素(A1)から選択されてもよいが、好ましくはNIR吸収色素(A2)から選択される。NIR吸収色素(Ay)がNIR吸収色素(A2)から選択される場合、例えば、吸収スペクトル傾きが0.007〜0.011であり半値全幅30〜100nmのNIR吸収色素(A2)を用いることで、近赤外波長帯域の吸収帯を広く確保しつつ、可視波長帯域を高透過とすることが可能となり好ましい。
【0092】
本発明においては、上記NIR吸収色素(A)を、以下の透明樹脂(B)に分散させて用いることにより、得られるNIR吸収色素(A)を含有する樹脂層、すなわち近赤外線吸収層において、光学フィルタ、特に近赤外線カットフィルタにおいて重要な波長630〜700nmの間で急峻に吸収曲線が変化する光学特性を維持しながら、遮蔽領域をNIR吸収色素(A)の最大吸収ピークのピーク波長から長波長域にまで広げることを可能とした。このような本実施形態における近赤外線吸収層の光学特性は、具体的には、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下である。
【0093】
本実施形態に係る光学フィルタが有する近赤外線吸収層は、上記NIR吸収色素(A)を、屈折率が1.54以上の透明樹脂(B)に分散させてなる。透明樹脂(B)の屈折率は、1.55以上が好ましく、1.56以上がより好ましい。透明樹脂(B)の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が挙げられる。
【0094】
透明樹脂(B)としては、屈折率が1.54以上の透明樹脂であれば、特に制限されない。具体的には、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アルキド系樹脂等の熱可塑性樹脂、エン・チオール系樹脂、エポキシ系樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂、光硬化型アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、シルセスキオキサン系樹脂等の熱もしくは光により硬化させる樹脂において、屈折率が1.54以上の透明樹脂(B)が用いられる。
これらのなかでも、透明性の点から、屈折率が1.54以上のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エン・チオール系樹脂、エポキシ系樹脂等が好ましく用いられ、さらに、屈折率が1.54以上のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂がより好ましく用いられる。透明樹脂の屈折率が1.54以上であれば、上記樹脂を混合して用いてもよいし、アロイ化した樹脂を用いてもよい。
【0095】
透明樹脂(B)としては、上記に分類される透明樹脂の製造に際して原料成分の分子構造を調整する等によりポリマーの主鎖や側鎖に特定の構造を導入する等の従来公知の方法で屈折率を上記範囲に調整したものが用いられる。
透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、アクリル系樹脂として、オグソールEA−F5503(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.60)、オグソールEA−F5003(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.60)を硬化させた樹脂等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂としては、OKPH4HT(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.64)、OKPH4(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.61)、B−OKP2(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.64)、バイロン103(商品名、東洋紡社製、屈折率:1.55)、ポリカーボネート系樹脂としてLeXanML9103(商品名、sabic社製、屈折率1.59)、ポリマーアロイとしてはポリカーボネートとポリエステルのアロイとしてパンライトAM−8シリーズ(商品名、帝人化成社製)やxylex 7507(商品名、sabic社製)が挙げられる。
【0096】
透明樹脂(B)において、屈折率を1.54以上とするために導入される構造としては、屈折率を上記範囲にできる構造であれば特に制限はない。例えば、ポリエステル樹脂としては、下記式(B1)に示されるフルオレン誘導体が芳香族ジオールとして導入されたポリエステル樹脂を、屈折率値や可視光領域における透明性の点から好適に用いることができる。
【0097】
【化18】
【0098】
(ただし、式(B1)中、R21は炭素数が2〜4のアルキレン基、R22、R23、R24およびR25は、各々独立に水素原子、炭素数が1〜7のアルキル基、または炭素数が6〜7のアリール基を表す。)
【0099】
近赤外線吸収層におけるNIR吸収色素(A)の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.05〜5質量部の割合が好ましく、0.05〜3質量部の割合がより好ましい。NIR吸収色素(A)の含有量が透明樹脂(B)100質量部に対して0.05質量部以上であれば、十分な近赤外線吸収特性を維持できる。5質量部以下であれば、可視領域の透過率を損なうことなく、十分な近赤外吸収特性を維持できる。
【0100】
本実施形態の光学フィルタは上記近赤外線吸収層を具備する。近赤外線吸収層は、例えば、基材を用いて以下のようにして製造できる。剥離性の基材を用いて、該基材上に近赤外線吸収層を成形した後、該基材からこれを剥離してフィルム状としたものを光学フィルタに用いてもよい。また、基材として光学フィルタに適用可能な透明基材を用い、該透明基材上に近赤外線吸収層を成形したものを光学フィルタに使用できる。
【0101】
基材上に近赤外線吸収層を形成するには、まず、NIR吸収色素(A)、および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を、溶媒に分散または溶解させて塗工液を調製する。
【0102】
必要に応じて配合される他の成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で配合される、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、シランカップリング剤,熱もしくは光重合開始剤、重合触媒等が挙げられる。これら任意成分は、塗工液中の透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、それぞれ15質量部以下の量で配合することが好ましい。なお、本明細書において、近赤外線ないし赤外線吸収剤の用語は、近赤外線吸収色素を含まないものとして使用される。
【0103】
上記近赤外線ないし赤外線吸収剤のうち無機微粒子としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、ホウ化ランタンなどが挙げられる。なかでも、ITO微粒子は、可視波長領域の光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、赤外波長領域の光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
【0104】
ITO微粒子の数平均凝集粒子径は、散乱を抑制し、透明性を維持する点から、5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、5〜70nmであることがより一層好ましい。ここで、本明細書において、数平均凝集粒子径とは、検体微粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値をいう。
【0105】
近赤外線ないし赤外線吸収剤は、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、近赤外線ないし赤外線吸収剤がその機能を発揮できる量の範囲として、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.3〜10質量部の割合で配合できる。
【0106】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられる。市販品として、Ciba社製、商品名「TINUVIN 479」等が挙げられる。
【0107】
無機系紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の粒子が挙げられる。無機系紫外線吸収剤の数平均凝集粒子径は、透明性の点から、5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、5〜70nmであることがより一層好ましい。
紫外線吸収剤は、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、紫外線吸収剤がその機能を発揮できる量の範囲として、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の割合で配合できる。
【0108】
光安定剤としては、ヒンダードアミン類、;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。塗工液中の光安定剤の含有量は、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。
【0109】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
用いるシランカップリング剤の種類は、組合せて使用する透明樹脂(B)に応じて適宜選択できる。塗工液中のシランカップリング剤の含有量は、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、1〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部が特に好ましい。
【0110】
光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等が挙げられる。また熱重合開始剤としてアゾビス系、および過酸化物系の重合開始剤が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。塗工液中の光または熱重合開始剤の含有量は、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。
【0111】
塗工液が含有する溶媒としては、NIR吸収色素(A)、および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分を安定に分散または溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0112】
溶媒の量は、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分100質量部に対して、10〜5000質量部であることが好ましく、30〜2000質量部が特に好ましい。なお、塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0113】
塗工液の調製には、マグネチックスターラー、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の撹拌装置を使用できる。高い透明性を確保するためには、撹拌を十分に行うことが好ましい。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0114】
塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0115】
塗工液を塗工する剥離性の支持基材は、フィルム状であっても板状であってもよく、剥離性を有するものであれば、材料も特に限定されない。具体的には、ガラス板や、離型処理されたプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなるフィルム、ステンレス鋼板等が使用される。
また、塗工液を塗工し得られる近赤外線吸収層とともに、そのまま光学フィルタに用いる透明基材としては、後述の透明基材が挙げられる。
【0116】
これら基材上に上記塗工液を塗工した後、乾燥させることで該基材上に近赤外線吸収層が形成される。塗工液が透明樹脂(B)の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化処理を設ける。また、剥離性の支持基材上に形成された近赤外線吸収層は剥離して光学フィルタの製造に用いる。
【0117】
本実施形態の光学フィルタに係る近赤外線吸収層は、透明樹脂(B)の種類によっては、押出成形により製造することも可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。
【0118】
本実施形態において、近赤外線吸収層の厚さは、特に限定されるものではなく、用途、すなわち使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められてよい。好ましくは0.1〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜50μmの範囲である。上記範囲とすることで、十分な近赤外線吸収能と膜厚の平坦性を両立することができる。0.1μm以上、さらには1μm以上とすることで、近赤外線吸収能を十分に発現させることができる。100μm以下とすると、膜厚の平坦性が得やすくなり、吸収率のバラツキを生じにくくすることができる。50μm以下すると、さらに装置の小型化に有利となる。
【0119】
本実施形態に用いる近赤外線吸収層は、450〜600nmの可視光の透過率が70%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり、かつ下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下である。
D(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(1)
式(1)中、T700は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
なお、近赤外線吸収層の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。
近赤外線吸収層の、450〜600nmの可視光の透過率は70%以上であり、80%以上が好ましい。また、695〜720nmの波長域における光の透過率は10%以下であり、8%以下が好ましい。さらに、透過率の変化量Dが−0.8以下であり、−0.86以下が好ましい。
【0120】
450〜600nmの可視光波長域における透過率が70%以上、好ましくは80%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下、好ましくは8%以下であれば近赤外線カットフィルタとしての用途に有用である。また、透過率の変化量Dが、−0.8以下、好ましくは−0.86以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻となり、例えばデジタルスチルカメラやデジタルビデオ等の近赤外線吸収材に好適となる。透過率の変化量Dが、−0.8以下、好ましくは−0.86以下であれば、さらに、近赤外波長領域の光を遮蔽しつつ可視波長域の光の利用効率が向上し、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利となる。
【0121】
本実施形態の光学フィルタに係る近赤外線吸収層は、NIR吸収色素(A)として含有するNIR吸収色素(A1)、例えば、表1に示されるような化合物、の光学特性により可視波長領域の光の透過率(630nmにおける透過率で代表)が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる屈折率が1.54以上を示す透明樹脂(B)の作用により、従来の近赤外線吸収層に比べて、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。よって、近赤外線吸収層をそれ自身単独であるいは他の選択波長遮蔽層等と組み合わせて用いてNIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学フィルタが得られる。
【0122】
また、その近赤外線遮蔽特性は、NIR吸収色素(A)による近赤外線の吸収を利用するものであるため、反射型フィルタのような分光透過率の入射角依存性の問題が生ずることもない。
【0123】
さらに、本実施形態の光学フィルタに係る近赤外線吸収層は、NIR吸収色素(A)および透明樹脂(B)を溶媒に分散、溶解させて調製した塗工液を基材上に塗工し、乾燥させさらに必要に応じて硬化させることにより製造できるため、容易に、かつ十分に光学フィルタの小型化、薄型化ができる。
【0124】
本実施形態の光学フィルタは上記近赤外線吸収層を具備する。光学フィルタの構成は、近赤外線吸収層を具備する以外は特に制限されず、近赤外線吸収層がそれ自体単独で光学フィルタを構成してもよく、他の構成要素とともに光学フィルタを構成してもよい。他の構成要素としては、上記透明基材のほかに、特定の波長域の光の透過と遮蔽を制御する選択波長遮蔽層が挙げられる。
【0125】
選択波長遮蔽層としては、420〜695nmの可視光を透過し所定の波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層が好ましい。例えば、光学フィルタを固体撮像素子用の近赤外線カットフィルタとして用いる場合には、選択波長遮蔽層が遮蔽する光の波長領域は710〜1100nmが好ましく、710〜1200nmがより好ましい。なお、選択波長遮蔽層が遮蔽する光の波長領域の下限は、組合せる近赤外線吸収層が含有する色素の吸光特性に応じて適宜変更可能である。例えば、NIR吸収色素(A1)としてその吸収スペクトルの最大吸収ピークにおけるλmaxが700〜720nmにあるNIR吸収色素(A1)を用いる場合には、この色素を含有する近赤外線吸収層と組合せる選択波長遮蔽層が遮蔽する光の波長領域の下限は720nmであってもよい。上限については上記同様に1100nmが好ましく、1200nmがより好ましい。なお、以下において、NIR吸収色素(A1)を含有する近赤外線吸収層と組合せる選択波長遮蔽層が遮蔽する光の波長領域の下限については、上記と同様に用いるNIR吸収色素(A1)に合わせて適宜調整できる。
【0126】
さらに、選択波長遮蔽層は400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましく、410nm以下の光の遮蔽性を有することがより好ましい。選択波長遮蔽層は一層で所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよく、複数層を組み合わせて所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよい。本実施形態においては、上記近赤外線吸収層の吸光特性と組み合わせる選択波長遮蔽層の光学特性とにより特定の波長領域を高性能に遮蔽する光学フィルタとできる。
【0127】
このように本実施形態の光学フィルタが420〜695nmの可視光を透過し所定の波長域の光、例えば、710〜1100nmの波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層を具備する場合には、該光学フィルタが有する光学特性として具体的には、以下の光学特性が好ましい。
【0128】
420〜620nmの可視光における透過率は70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。また、710〜860nmの波長域における光の透過率は0.3%以下が好ましい。さらに、下記式(2)で表わされる透過率の変化量Dfは−0.8以下が好ましく、−0.86以下がより好ましい。
Df(%/nm)=[Tf700(%)−Tf630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(2)
式(2)中、Tf700は、上記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、Tf630は、上記光学フィルタの透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
【0129】
上記光学特性を有する本実施形態の光学フィルタは、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻であり、近赤外波長領域の光を遮蔽しつつ可視波長域の光の利用効率が向上された光学フィルタである。このような光学フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラやデジタルビデオ等の近赤外線吸収フィルタとして好適であり、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利である。
【0130】
選択波長遮蔽層は、光学フィルタの用途に応じて上記近赤外線吸収層の片側または両側に配置される。配置される選択波長遮蔽層の数は制限されない。用途に応じて片側のみに1以上の選択波長遮蔽層を配置してもよく、両側にそれぞれ独立した数の1以上の選択波長遮蔽層を配置してもよい。透明基材を含めて光学フィルタの各構成要素の積層順は特に制限されない。光学フィルタの用いられる用途に応じて適宜設定される。
【0131】
また、光の利用効率を高めるために、モスアイ構造のように表面反射を低減する構成を設けてもよい。モスアイ構造は、例えば400nmよりも小さい周期で規則的な突起配列を形成した構造で、厚さ方向に実効的な屈折率が連続的に変化するため、周期より長い波長の光の表面反射率を抑える構造であり、モールド成型等により光学フィルタの表面に形成できる。
【0132】
図1は、本実施形態に係る光学フィルタの例を概略的に示す断面図である。図1(a)は、透明基材12上に近赤外線吸収層11を有する光学フィルタ10Aの断面図を示す。また、図1(b)は、近赤外線吸収層11の両方の主面に選択波長遮蔽層13が配置された光学フィルタ10Bの断面図を示す。
【0133】
図1(a)に示す構成、すなわち、透明基材12上に近赤外線吸収層11を有する構成は、上記のとおり透明基材12上に近赤外線吸収層11を直接形成させる方法と、上記で得られたフィルム状の近赤外線吸収層11の単体を、フィルム状または板状の透明基材のいずれかの主面に、図示されていない粘着剤層を介して貼着することにより作製する方法が挙げられる。また、本実施形態に係る光学フィルタにおける透明基材12上に近赤外線吸収層11を有する構成の変形として、近赤外線吸収層11を2枚の透明基材12が挟み込む構成や、透明基材12の両方の主面に近赤外線吸収層11が形成または貼着された構成が挙げられる。
【0134】
上記粘着剤層における粘着剤としては、例えば、アクリル酸エステル共重合体系、ポリ塩化ビニル系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、酢酸ビニル共重合体系、スチレン−アクリル共重合体系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン−ブタジエン共重合体系、ブチルゴム系、シリコーン樹脂系等の粘着剤が挙げられる。粘着剤層は予め近赤外線吸収層11上に設けておいてもよい。この場合、その粘着面にシリコーンやPET等の離型フィルムを貼付けておくことが、作業性、取り扱い性の点から好ましい。粘着剤には、紫外線吸収剤等の種々の機能を有する添加剤を添加してもよい。
【0135】
透明基材12としては、可視波長領域の光を、近赤外線吸収層11と組み合わせて光学フィルタとした際にその機能を果たせる程度に十分に、透過するものであれば、その形状は特に限定されるものではなく、ブロック状であっても、板状であっても、フィルム状であってもよい。透明基材を構成する材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらの材料は、紫外領域および/または近赤外領域の波長に対して吸収特性を有するものであってもよい。透明基材12は、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラスフィルタであってもよい。
【0136】
透明基材12としてのガラスは、可視域で透明な材料から、使用する装置、配置する場所等を考慮して、アルカリ成分の含有有無や線膨張係数の大きさ等の特性を、適宜選択して使用できる。特に、ホウケイ酸ガラスは、加工が容易で、光学面における傷や異物等の発生が抑えられるため好ましく、アルカリ成分を含まないガラスは、接着性、耐候性等が向上するため好ましい。
【0137】
また、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置において、モアレや偽色を低減するためのローパスフィルタや波長板の材料として使用されており、透明基材12の材料として、これらの結晶を用いた場合には、本実施形態に係る光学フィルタに、ローパスフィルタや波長板の機能も付与でき、撮像装置のさらなる小型化、薄型化ができる点から好ましい。
【0138】
さらに、上記撮像装置の固体撮像素子または固体撮像素子パッケージには、該固体撮像素子を保護するカバーが気密封着されている。このカバーを透明基材12として使用すれば、カバーとして使用可能な光学フィルタが得られ、撮像装置のさらなる小型化、薄型化ができる。カバーの材料は、結晶であっても、ガラスであっても、樹脂であってもよいが、耐熱性の観点からは、結晶やガラスが好ましい。樹脂を選択する場合は、耐熱性を考慮した材料、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、シルセスキオキサン等を含有した有機無機ハイブリッド材料等が好ましい。カバー中に不純物としてα線放出性元素(放射性同位元素)が含まれていると、α線を放出して固体撮像素子に一過性の誤動作(ソフトエラー)を引き起こす。したがって、カバーには、α線放出性元素含有量ができるだけ少ない高純度に精製された原料を使用し、製造工程でもこれら元素の混入をできるだけ防止することが好ましい。α線放出性元素のなかでも、U、Thの含有量を、20ppb以下とすることが好ましく、5ppb以下とすることがより好ましい。また、カバーの一面(固体撮像素子に近接する面)にα線を遮蔽する膜を設けてもよい。
【0139】
透明基材12として用いるガラス板は、表面にシランカップリング剤による表面処理が施されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理が施されたガラス板を用いることにより、近赤外線吸収層11との密着性を高めることができる。シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。ガラス板の厚みは、装置の小型化、薄型化、および取り扱い時の破損を抑制する点から、0.03〜5mmの範囲が好ましく、軽量化および強度の点から、0.05〜1mmの範囲がより好ましい。
【0140】
透明基材12として、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の透明プラスチックからなるフィルムを使用する場合、その厚みは、10〜300μmの範囲が好ましい。また、近赤外線吸収層11を形成する前に、フィルムの表面にコロナ処理や易接着処理を施すことが好ましい。
【0141】
透明基材12として、透明プラスチックからなるフィルムを使用した場合は、透明基材12の他方の主面を粘着剤または接着剤を介してガラス板に貼着できる。ガラス板には、透明基材12の材料として例示したものと同様のものを使用でき、特に、ホウケイ酸ガラスは、加工が容易で、光学面における傷や異物等の発生が抑えられるため好ましい。
【0142】
後述のように、光学フィルタ10Aは、透明基材12側を、例えば撮像装置の固体撮像素子に直接貼着して使用されることがある。この場合、透明基材12の線膨張係数と被貼着部の線膨張係数との差が30×10−7/K以下であることが、貼着後の剥がれ等を抑制する観点から好ましい。例えば、被貼着部の材質がシリコンであれば、線膨張係数が30×10−7〜40×10−7/K近傍の材料、例えば、ショット社製のAF33、テンパックス、旭硝子社製のSW−3、SW−Y、SW−YY、AN100、EN―A1等(以上、商品名)のガラスが透明基材12の材料として好適である。被貼着部の材質がアルミナ等のセラミックであれば、線膨張係数が50×10−7〜80×10−7/K近傍の材料、例えば、ショット社製のD263、B270、旭硝子社製のFP1、FP01eco等のガラスが透明基材12の材料として好適である。
【0143】
図1(b)に示す構成の光学フィルタ10Bにおいて近赤外線吸収層11の両方の主面に形成される選択波長遮蔽層13としては、誘電体多層膜や近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含有する特定の波長の光を吸収する層等が挙げられる。
【0144】
光学フィルタ10Bにおいて、組み合せる2枚の選択波長遮蔽層13は、同一であっても異なってもよい。2枚の選択波長遮蔽層13が、光学特性の異なる第1の選択波長遮蔽層13a、第2の選択波長遮蔽層13bとして構成される場合、用いられる光学装置により選択波長遮蔽特性とその並び順が適宜調整される。この観点から、近赤外線吸収層11、第1の選択波長遮蔽層13aおよび第2の選択波長遮蔽層13bの位置関係として、具体的には以下の(i)〜(iii)の位置関係が挙げられる。
(i)第1の選択波長遮蔽層13a、近赤外線吸収層11、第2の選択波長遮蔽層13b
(ii)近赤外線吸収層11、第1の選択波長遮蔽層13a、第2の選択波長遮蔽層13b
(iii)近赤外線吸収層11、第2の選択波長遮蔽層13b、第1の選択波長遮蔽層13a
【0145】
このようにして得られる光学フィルタ10Bを装置に設置する際の方向については、設計に応じて適宜選択される。
また、近赤外線吸収層11が透明基材上に設けられている場合には、透明基材が、第1の選択波長遮蔽層13aまたは第2の選択波長遮蔽層13bに接する側に配置されることが好ましい。すなわち、透明基材を有する場合、透明基材が最外層に位置しないことが好ましい。
【0146】
誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層することで、光の干渉を利用して特定の波長域の光の透過と遮蔽を制御する機能を発現させた選択波長遮蔽層である。
【0147】
高屈折率の誘電体膜を構成する高屈折率材料としては、屈折率がこれと組み合わせて用いられる低屈折率材料に比べて高い材料であれば特に制限されない。具体的には、屈折率が1.6を超える材料が好ましい。より具体的には、Ta(2.22)、TiO(2.41)、Nb(2.3)、ZrO(1.99)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、成膜性と屈折率等をその再現性、安定性を含め総合的に判断して、TiO等が好ましく用いられる。なお、化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。以下、低屈折率材料についても同様に化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。
【0148】
低屈折率の誘電体膜を構成する低屈折率材料としては、屈折率がこれと組み合わせて用いられる高屈折率材料に比べて低い材料であれば特に制限されない。具体的には、屈折率が1.55未満の材料が好ましい。より具体的には、SiO(1.46)、SiO(1.46以上1.55未満)、MgF(1.38)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、SiOが成膜性における再現性、安定性、経済性などの点で好ましい。
【0149】
近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含有する特定の波長の光を吸収する層としては、例えば、従来公知の方法で各吸収剤を透明樹脂に分散させた光吸収層が挙げられる。透明樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アルキド系樹脂等の熱可塑性樹脂、エン・チオール系樹脂、エポキシ系樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂、光硬化型アクリル系樹脂、シルセスキオキサン系樹脂等の熱や光により硬化される樹脂等が挙げられる。これら光吸収層における各吸収剤の含有量は各吸収剤の光吸収能に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で適宜調整される。
【0150】
例えば、ITO微粒子を透明樹脂に分散させた赤外線吸収層を用いる場合には、ITO微粒子を赤外線吸収層中に0.5〜30質量%の割合で含有させることが好ましく、1〜30質量%含有させることがより好ましい。ITO微粒子の含有量が0.5質量%以上であれば、赤外波長領域の光の遮蔽性に対し一定の効果が得られる。また、ITO微粒子の含有量が30質量%以下であれば、可視波長領域の光に吸収を示さず、透明性を保持できる。
【0151】
本実施形態に係る光学フィルタを、例えば、固体撮像素子用の近赤外線カットフィルタとして用いる場合には、上記近赤外線吸収層11と組み合わせて用いる選択波長遮蔽層が遮蔽する光の波長領域は710〜1100nmが好ましく、710〜1200nmがより好ましい。さらに、選択波長遮蔽層は400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましく、410nm以下の光の遮蔽性を有することがより好ましい。このような選択波長遮蔽層を誘電体多層膜で構成する場合、例えば、図1(b)に示すような、近赤外線吸収層11を、光を遮蔽する波長領域が異なる第1の誘電体多層膜13aおよび第2の誘電体多層膜13bで挟み込んだ構造の光学フィルタ10Bとすることが好ましい。
【0152】
この場合、第1の誘電体多層膜13aは、例えば、420〜695nmの可視光を透過し、710nm以上、近赤外線吸収層11による吸収波長域の長波長側の端の波長以下の波長を短波長側の端の波長とし、820〜950nm付近の波長を長波長側の端の波長とする、波長領域の光を反射する光学特性を有する層とできる。
ここで、近赤外線吸収層11による吸収波長域とは、可視光から近赤外光領域において透過率が5%以下となる波長域をいう。なお、第1の誘電体多層膜13aが反射する光の波長領域の短波長側の端の波長は、具体的には近赤外線吸収層11による吸収波長域の長波長側の端の波長より10nm短い波長から該長波長側の端の波長までの範囲にあることが好ましく、さらに、該長波長側の端の波長より3〜10nm短い波長がより好ましい。第1の誘電体多層膜13aは、さらに必要に応じて上記以外の反射波長領域を有してもよい。
【0153】
また、第2の誘電体多層膜13bは、例えば、420〜695nmの可視光を透過し、好ましくは400nm以下、より好ましくは410nm以下の紫外線波長領域の光と、少なくとも、710nmを超え上記第1の誘電体多層膜13aの反射波長領域の長波長側の端の波長以下の波長を短波長側の端の波長とし、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上の波長を長波長側の端の波長とする、波長領域の光を反射する光学特性を有する層とできる。なお、第2の誘電体多層膜13bが反射する光の波長領域の短波長側の端の波長は、具体的には上記第1の誘電体多層膜13aの反射波長領域の長波長側の端の波長より100nm短い波長から該長波長側の端の波長までの範囲にあることが好ましい。
【0154】
例えば、近赤外線吸収層11による吸収波長域が695〜720nmである場合、第1の誘電体多層膜13aの反射波長領域は、短波長側の端の波長を710〜717nmから選ばれる波長とし、長波長側の端の波長を820〜950nmから選ばれる波長とすることが好ましい。この場合第2の誘電体多層膜13bの反射波長領域は、第1の誘電体多層膜13aの長波長側の端の波長から20〜100nm短い波長を短波長側の端の波長とし、1100〜1200nmを長波長側の端の波長とすることが好ましい。
【0155】
第2の誘電体多層膜13bは、好ましくは400nm以下、より好ましくは410nm以下の紫外線波長領域の光を反射する光学特性を有する誘電体多層膜と、少なくとも、710nmを超え、上記第1の誘電体多層膜13aの反射波長領域の長波長側の端の波長以下、の波長を短波長側の端の波長とし、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上の波長を長波長側の端の波長とする、波長領域の光を反射する光学特性を有する誘電体多層膜とに分けて設計して別々に設けられてもよいが、1つの誘電体多層膜として設計されることが薄膜化の観点から好ましい。
【0156】
また、第1の誘電体多層膜13aは近赤外線吸収層11に比べて固体撮像素子から遠い側に設けられることが好ましい。第2の誘電体多層膜13bの配設位置は特に制限されない。近赤外線吸収層11、第1の誘電体多層膜13aおよび第2の誘電体多層膜13bの位置関係として、具体的には固体撮像素子から近い順に以下の(i)〜(iii)の位置関係が挙げられる。
(i)第2の誘電体多層膜13b、近赤外線吸収層11、第1の誘電体多層膜13a
(ii)近赤外線吸収層11、第1の誘電体多層膜13a、第2の誘電体多層膜13b
(iii)近赤外線吸収層11、第2の誘電体多層膜13b、第1の誘電体多層膜13a
これらのうちでも、本実施形態においては、得られる光学フィルタ10Bに製造上の歪み等が生じない観点から(i)の配置が最も好ましい。
【0157】
また、透明基材上に近赤外線吸収層11を形成したものを用いてもよく、その場合にも、固体撮像素子からの、近赤外線吸収層11、第1の誘電体多層膜13aおよび第2の誘電体多層膜13bの位置関係は、上記(i)〜(iii)の位置関係が挙げられる。透明基材と近赤外線吸収層11の位置関係は、近赤外線吸収層11が固体撮像素子に近い側の配置となる。これらを組み合わせると、透明基材上に近赤外線吸収層11が形成されたものを用いる場合には、固体撮像素子から近い順に以下の(i)’〜(iii)’の配置が可能となる。
(i)’第2の誘電体多層膜13b、近赤外線吸収層11、透明基材、第1の誘電体多層膜13a
(ii)’近赤外線吸収層11、透明基材、第1の誘電体多層膜13a、第2の誘電体多層膜13b
(iii)’近赤外線吸収層11、透明基材、第2の誘電体多層膜13b、第1の誘電体多層膜13a
これらのうちでも、本実施形態においては、(i)’の配置が最も好ましい。
【0158】
誘電体多層膜の具体的な層数や膜厚については、第1の誘電体多層膜13aおよび第2の誘電体多層膜13bにおいて、それぞれ、求められる光学特性に応じて、用いる高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率に基づいて、誘電体多層膜を用いた従来のバンドパスフィルタ等の設計手法を用いて設定される。なお、設定に従い各層の材料を選択すれば、これを用いて各層の厚さを調整し積層する方法は確立されているので、誘電体多層膜を設計とおりに製造することは容易である。
【0159】
光学フィルタの分光特性においては、透過光波長と遮光波長の境界波長領域で透過率を急峻に変化させる性能が求められる。透過光波長と遮光波長の境界波長領域で透過率を急峻に変化させる性能を得るためには、誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜との合計積層数として15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。合計積層数が増えると製作時のタクトが長くなり、誘電体多層膜の反りなどが発生するため、また、誘電体多層膜の膜厚が増加するため、100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がさらに好ましい。低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜の積層順は交互であれば、最初の層が低屈折率誘電体膜であっても高屈折率誘電体膜であってもよく、積層の合計総数が奇数であっても偶数であってもよい。
【0160】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、光学フィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、選択波長遮蔽特性によるが、2000〜5000nmが好ましい。また、近赤外吸収層の両面、もしくは透明基材と該透明基材上に形成された近赤外吸収層の各々の面に誘電体多層膜を配設する場合、誘電体多層膜の応力により反りが生じる場合がある。この反りの発生を抑制するために各々の面に成膜される誘電体多層膜の膜厚の差は、所望の選択波長遮蔽特性を有するように成膜した上で、可能な限り少ない方が好ましい。
【0161】
誘電体多層膜は、その形成にあたっては、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0162】
本実施形態の光学フィルタ10A、10Bは、近赤外線吸収層11を具備する。近赤外線吸収層11は、含有するNIR吸収色素(A)の光学特性により可視波長領域の光の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる透明樹脂(B)の作用により、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。この近赤外線吸収層11を有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性を有する本実施形態の光学フィルタ10A、10Bが得られる。
【0163】
本実施形態の光学フィルタ10Aにおいては、光学フィルタ10Aが用いられる用途に応じて、光学フィルタ10Aと、他の選択波長遮蔽層、特に、上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層を有する部材とともに用いることで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された優れた近赤外線遮蔽特性が発揮される。
【0164】
また、NIR吸収色素(A)および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を、溶媒に分散または溶解させて調製した塗工液を透明基材12の主面に、塗工、乾燥、さらに必要に応じて硬化処理することにより、近赤外線吸収層11を形成できるため、光学フィルタ10Aは、容易に、かつ低コストで製造でき、また、小型化、薄型化にも対応できる。
【0165】
また、本実施形態の光学フィルタ10Bは、近赤外線吸収層11と、他の選択波長遮蔽層、特に、上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層と、を組み合わせて有し、さらに好ましくは、該選択波長遮蔽層が400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することから、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された優れた近赤外線遮蔽特性を有する近赤外線カットフィルタとして使用できる。
【0166】
このような本実施形態の光学フィルタ10Bによれば、例えば、420〜620nmの可視光の透過率が70%以上であり、710〜860nmの波長域における光の透過率が0.3%以下であり、かつ上記式(2)で表わされる透過率の変化量Dfが−0.8以下である近赤外線遮蔽特性に優れる光学特性を達成できる。
【0167】
また、本実施形態の光学フィルタ10Bにおいては、近赤外線吸収層11と組合せて用いることが好ましい選択波長遮蔽層についても、上記NIR吸収色素(A)以外の近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤等の各種吸収剤を透明樹脂に分散させてなる層の場合、近赤外線吸収層11と同様の工程で形成できるため、容易に、かつ低コストで製造できる。さらに、誘電体多層膜についてもその製造は十分知られた方法行うことができ容易に作成できる。よって、本実施形態の光学フィルタ10Bについても、容易に、かつ低コストで製造でき、また、小型化、薄型化にも対応できる。
【0168】
本実施形態の光学フィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等の近赤外線カット用の光学フィルタ、PDP用の光学フィルタ等として使用できる。本実施形態の光学フィルタはデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置において好適に用いられ、光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。
【0169】
また、本実施形態の光学フィルタは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置の固体撮像素子、自動露出計の受光素子、撮像レンズ、PDP等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することもできる。さらに、車両(自動車等)のガラス窓やランプにも同様に粘着剤層を介して直接貼着して使用できる。
【0170】
以下に図2を参照しながら、本実施形態の光学フィルタを撮像レンズと固体撮像素子との間に配置して用いた撮像装置の例を説明する。
【0171】
図2(a)は、上記光学フィルタ10Aを用いた撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この撮像装置9Aは、図2(a)に示すように、前面に選択層として、上記光学フィルタ10Bが有する第2の誘電体多層膜13bと同様の第2の誘電体多層膜8が形成された固体撮像素子3と、その前面に以下の順に、光学フィルタ10Aと、2枚の撮像レンズ4と、カバーガラス5とを有し、さらにこれらを固定する筐体6とを有する。2枚のレンズ4は、固体撮像素子3の撮像面に向けて配置された、第1のレンズ4a、第2のレンズ4bからなる。カバーガラス5は、第1のレンズ4a側に上記光学フィルタ10Bが有する第1の誘電体多層膜13aと同様の第1の誘電体多層膜7が形成されている。
【0172】
光学フィルタ10Aは固体撮像素子3側に透明基材12が、第2のレンズ4b側に近赤外線吸収層11が位置するように配置されている。または、光学フィルタ10Aは、固体撮像素子3側に近赤外線吸収層11が、第2のレンズ4b側に透明基材12が位置するように配置されていてもよい。固体撮像素子3と、2枚のレンズ4とは、光軸xに沿って配置されている。
【0173】
撮像装置9Aにおいては、被写体側より入射した光は、カバーガラス5および第1の誘電体多層膜7、第1のレンズ4a、第2のレンズ4b、光学フィルタ10A、さらに第2の誘電体多層膜8を通って固体撮像素子に受光される。この受光した光を固体撮像素子3が電気信号に変換し、画像信号として出力される。入射光は第1の誘電体多層膜7、近赤外線吸収層11を有する光学フィルタ10A、第2の誘電体多層膜8の順に通過することで、十分に近赤外線が遮蔽された光として固体撮像素子3で受光される。
【0174】
図2(b)は、上記光学フィルタ10Bを用いた撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この撮像装置9Bは、図2(b)に示すように、固体撮像素子3と、その前面に以下の順に、光学フィルタ10Bと、2枚の撮像レンズ4と、カバーガラス5とを有し、さらにこれらを固定する筐体6とを有する。2枚のレンズ4は、固体撮像素子3の撮像面に向けて配置された、第1のレンズ4a、第2のレンズ4bからなる。光学フィルタ10Bは固体撮像素子3側に第2の誘電体多層膜13bが、第2のレンズ4b側に第1の誘電体多層膜13aが位置するように配置されている。固体撮像素子3と、2枚のレンズ4とは、光軸xに沿って配置されている。
【0175】
撮像装置9Bにおいては、被写体側より入射した光は、カバーガラス5、第1のレンズ4a、第2のレンズ4b、光学フィルタ10Bを通って固体撮像素子3に受光される。この受光した光を固体撮像素子3が電気信号に変換し、画像信号として出力される。光学フィルタ10Bは、上記のとおりNIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽機能を有する光学フィルタであるため、十分に近赤外線が遮蔽された光が固体撮像素子3で受光される。
【0176】
なお、撮像装置9Bにおいて、固体撮像素子3の前面に設けられた光学フィルタ10Bを透明基材にかえ、そのかわりに撮像装置9Bにおいて最前面に位置するカバーガラス5を本実施態様の、近赤外線吸収層11を有する光学フィルタ10A、10Bで置き換えて配設する構成としてもよい。光学フィルタ10Aを用いる場合には、固体撮像素子に近い側の主面に近赤外線吸収層11が位置するように配置される。この場合、光学フィルタ10Aの近赤外線吸収層11の固体撮像素子側の主面に、上記第2の誘電体多層膜を配置できる。あるいは、第2の誘電体多層膜は、第1のレンズ4a、第2のレンズ4b及び透明基材におけるいずれかの主面、固体撮像素子の透明基材側の主面もしくは固体撮像素子の光電変換素子より外側の内部、例えば上記平坦化層の外側に配設できる。
【0177】
一方、第1の誘電体多層膜は、光学フィルタ10Aが有する透明基材12の固体撮像素子とは反対側の主面に配設できる。光学フィルタ10Bを用いる場合には、上記(i)〜(iii)に説明した配置順となるように撮像装置30に光学フィルタ10Bを配設する。
【0178】
(第2の実施形態)
図3は、本実施形態に係る固体撮像素子の一部を概略的に示す断面図である。本実施形態の固体撮像素子は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)等の情報機器に組み込まれる、小型カメラ等の撮像装置に使用される固体撮像素子である。これ以降の実施形態においては、重複する説明を避けるため、第1の実施形態と共通する点については場合により説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0179】
図3に示すように、この固体撮像素子20Aにおいては、光電変換素子101および遮光層102が形成されたシリコン基板等の半導体基板103上に、平坦化層104、カラーフィルタ層105およびマイクロレンズ106が順に設けられている。さらにマイクロレンズ106上に、上記光学フィルタと同様のNIR吸収色素(A)が透明樹脂(B)に分散された近赤外線吸収層107が設けられている。
【0180】
光電変換素子101は、半導体基板103の表層に複数形成されており、それらの光電変換素子101を除く部分に可視光を含む全光線を遮蔽する遮光層102が形成されている。光電変換素子101に入射された光はフォトダイオードによって光電変換される。平坦化層104は、受光素子101および遮光層102上に形成され、全体を平らにしている。
【0181】
カラーフィルタ層105は、光電変換素子101に対応して形成され、例えば原色系の場合、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のカラーフィルタからなり、補色系(YMC)の場合、イエロー(Y)、マゼンタ(Mg)、シアン(Cy)のカラーフィルタからなる。カラーフィルタの色数に制限はなく、より色再現性を広げるため、例えば上記原色系においては、黄色等を追加して3色以上としてもよい。また、各色の配置も特に制限はない。さらに、本実施形態では、カラーフィルタ層105が全面に設けられているが、その一部が設けられていないか、あるいはカラーフィルタ層105自体を有さない構造であってもよい。カラーフィルタは、例えば顔料もしくは染料を含有する樹脂により形成される。
【0182】
マイクロレンズ106は、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ノボラック樹脂等の樹脂により、加熱成形法やエッチング法等を用いて形成される。マイクロレンズ106は、樹脂の他、ガラス、結晶等により形成されてもよい。マイクロレンズ106を通過した光が、光電変換素子101に集光される。
【0183】
近赤外線吸収層107は、上記第1の実施形態と同様に調製した塗工液をマイクロレンズ106上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成できる。なお、塗工、乾燥、必要に応じて行われる硬化は、複数回に分けて行うことができる。塗工液の調製方法、塗工液の塗工方法としては、第1の実施形態で使用したものと同様のものが使用される。したがって、第1の実施形態において記載した説明は、すべて本実施形態にも適用される。
また、近赤外線吸収層107の厚さ、光学特性等についても、上記第1の実施形態における近赤外線吸収層と同様にできる。
【0184】
本実施形態の固体撮像素子20Aは、図示されていないが、近赤外線吸収層107の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備することが好ましい。
選択波長遮蔽層としては、420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましい。遮蔽する波長領域は、710〜1200nmがより好ましい。近赤外線吸収層107をこのような選択波長遮蔽層と組み合わせて用いれば、近赤外線領域の光を高性能に遮蔽できる。選択波長遮蔽層はさらに、400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましく、410nm以下の光の遮蔽性を有することがより好ましい。
【0185】
選択波長遮蔽層は一層で上記所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよく、複数層を組み合わせて所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよい。また、選択波長遮蔽層は、近赤外線吸収層107の内側においては必ずしも近赤外線吸収層107に接するように設ける必要はなく、光電変換素子101と近赤外線吸収層107の間であれば配設する位置は適宜選択できる。例えば、マイクロレンズ106の下面、カラーフィルタ層105の下面、または平坦化層104の下面に設けられていてもよく、あるいは、これらの2ヶ所以上に設けられていてもよい。
【0186】
本実施形態の固体撮像素子20Aにおいて、選択波長遮蔽層を近赤外線吸収層107の外側に設ける場合は、近赤外線吸収層107より外側に構成要素が存在しないため、必然的に近赤外線吸収層107の外側表面に設けることになる。しかしながら、必ずしも、固体撮像素子20Aのみで完全に近赤外線遮蔽を達成する必要はなく、上記近赤外線吸収層107の外側に設ける選択波長遮蔽層を、後述の撮像装置において固体撮像素子20Aの前面に配置される各種光学部材の主面のいずれかに設けることで対応することもできる。用途に応じて、これらの中から設置箇所を適宜選択すればよい。
【0187】
近赤外線吸収層107と選択波長遮蔽層の具体的な組合せとしては、光電変換素子101から遠い側から順に、420〜695nmの可視光は透過し以下の反射波長領域を有する第1の誘電体多層膜、近赤外線吸収層107、420〜695nmの可視光は透過し以下の反射波長領域を有する第2の誘電体多層膜が配置される組合せが挙げられる。
第1の誘電体多層膜が有する反射波長領域は、例えば、その短波長側の端の波長が、710nm以上、近赤外線吸収層107による吸収波長域の長波長側の端の波長以下であり、その長波長側の端の波長が好ましくは820〜950nm付近の波長の領域を含むものである。該反射波長領域は、さらに必要に応じて他の領域を含んでもよい。
第2の誘電体多層膜が有する反射波長領域は、例えば、その短波長側の端の波長が、710nmを超え上記第1の誘電体多層膜の反射波長領域の長波長側の端の波長以下であり、その長波長側の端の波長が、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上の波長の領域を含むものである。該反射波長領域は、400nm以下、より好ましくは410nm以下の紫外線波長領域を含むことが好ましい。
【0188】
この場合、上述のとおり第1の誘電体多層膜は、近赤外線吸収層107の上面に形成されるが、第2の誘電体多層膜は、マイクロレンズ106の上面または下面、もしくは、カラーフィルタ層105の下面、または平坦化層104の下面に設けられていてもよい。
【0189】
さらに、固体撮像素子20Aには、例えばマイクロレンズ106の上面、あるいはマイクロレンズ106の上面に設けられた近赤外線吸収層107やその上に選択波長遮蔽層が形成されている場合は、その上に従来公知の方法で反射防止層を形成するようにしてもよい。反射防止層を設けることにより、入射光の再反射を防止でき、撮像画像の品質を向上させることができる。なお、選択波長遮蔽層についての具体的な態様は好ましい態様を含めて、上記第1の実施形態の光学フィルタにおける選択波長遮蔽層と同様とできる。
【0190】
固体撮像素子20Aでは、マイクロレンズ106の上面に近赤外線吸収層107が1層設けられているが、近赤外線吸収層107は、マイクロレンズ106の下面、カラーフィルタ層105の下面、または平坦化層104の下面に設けられていてもよく、あるいは、これらの2ヶ所以上に設けられていてもよい。
【0191】
図4はそのような例を示したものである。図4に示す固体撮像素子20Bでは、近赤外線吸収層107は平坦化層104とカラーフィルタ層105との間に設けられている。固体撮像素子20Bにおいては、マイクロレンズ106上面と比較してフラットな面への設置になるため、固体撮像素子20Aに比べて、近赤外線吸収層107の形成が容易となる。
【0192】
図示されていないが、固体撮像素子20Bにおいても、近赤外線吸収層107の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備することが好ましい。選択波長遮蔽層の光学特性や配置は、上記固体撮像素子20Aにおいて説明したのと同様とできる。近赤外線吸収層107に接するように選択波長遮蔽層を設ける場合は、該層を設ける面もフラットな面となるので、固体撮像素子20Aに比べて、これらの層の形成も容易となる。
【0193】
本実施形態の固体撮像素子20A、20Bが、近赤外線吸収層107と、上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層と、を組み合わせて有する場合には、従来、別体で配置していた近赤外線カットフィルタを省略でき、撮像装置の小型化、薄型化、低コスト化ができる。
【0194】
近赤外線吸収層107は、含有するNIR吸収色素(A)の光学特性により可視波長領域の光の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる透明樹脂(B)の作用により、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。この近赤外線吸収層107を有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性を有する本実施形態の固体撮像素子20A、20Bが得られる。
【0195】
本実施形態の固体撮像素子20A、20Bにおいては、この近赤外線吸収層107と他の選択波長遮蔽層、特に上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層とを組み合わせて有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する固体撮像素子とできる。
【0196】
さらに、固体撮像素子20A、20Bが、近赤外線吸収層107とともに用いることで近赤外線カットフィルタ機能が発揮される上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層を有しない場合であっても、固体撮像素子20A、20Bが用いられる撮像装置において、固体撮像素子20A、20Bの前面に配置される該撮像装置を構成する他の光学部材に上記選択波長遮蔽層を設けることで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する撮像装置とできる。
【0197】
また、NIR吸収色素(A)および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を、溶媒に分散または溶解させて調製した塗工液をマイクロレンズ106の上面に、塗工、乾燥、さらに必要に応じて硬化処理することにより、近赤外線吸収層107を形成できるため、固体撮像素子としての機能を損なうこともない。さらに、近赤外線吸収層107と組合せて用いることが好ましい選択波長遮蔽層についても、上記NIR吸収色素(A)以外の近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤等の各種吸収剤を透明樹脂に分散させてなる層の場合、近赤外線吸収層107と同様の工程で形成できるため、固体撮像素子としての機能を損なうこともない。さらに、誘電体多層膜についても固体撮像素子としての機能を損なうことなく形成できる。
【0198】
このため、本実施形態の固体撮像素子20A、20Bは、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性と固体撮像素子としての機能を併せ持つことができ、これを用いて、小型、かつ薄型で、低コストであり、しかも、撮像画像の品質に優れる撮像装置を得ることができる。
【0199】
(第3の実施形態)
図5は本実施形態に係る撮像装置用レンズを示す断面図である。この撮像装置用レンズは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA等の情報機器に組み込まれる小型カメラ等の撮像装置の、固体撮像素子に結像させるレンズ系の全部または一部を構成するレンズである。
【0200】
図5に示す撮像装置用レンズ70Aでは、レンズ本体71として、一方の面71aが凹面を有し、他方の面71bが凸面を有し、さらに、外周部に平板部74を有するガラス凹凸レンズが用いられている。このガラス凹凸レンズの凹面側の面71aに上記光学フィルタと同様のNIR吸収色素(A)が透明樹脂(B)に分散された近赤外線吸収層72が設けられ、他方の凸面側の面71bに反射防止膜73が設けられている。図5に示したような凹凸レンズは、凸レンズの機能を有するものは凸メニスカス、凹レンズの機能を有するものは凹メニスカスと呼ばれている。
【0201】
近赤外線吸収層72は、上記第1の実施形態と同様に調製した塗工液をレンズ本体71の一方の面71a上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成できる。なお、塗工、乾燥、必要に応じて行われる硬化は、複数回に分けて行うことができる。塗工液の調製方法、塗工液の塗工方法としては、第1の実施形態で使用したものと同様のものが使用される。したがって、第1の実施形態において記載した説明は、すべて本実施形態にも適用される。
また、近赤外線吸収層72の厚さ、光学特性等についても、上記第1の実施形態における近赤外線吸収層と同様にできる。
【0202】
また、例えば、レンズ本体71の一方の面71aに従来公知の方法で反射防止膜73を設け、他方の面71bに近赤外線吸収層72を設けるようにしてもよい。さらに、他方の面71bに、反射防止膜73に代えて、一方の面71aと同様の近赤外線吸収層72を形成してもよい。すなわち、レンズ本体71の両方の主面71a、71bにいずれも近赤外線吸収層72を設けるようにしてもよい。
【0203】
本実施形態の撮像装置用レンズ70Aは、図示されていないが、近赤外線吸収層72の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備することが好ましい。
選択波長遮蔽層としては、420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましい。光を遮蔽する波長領域は、710〜1200nmがより好ましい。近赤外線吸収層72をこのような選択波長遮蔽層と組み合わせて用いれば、近赤外線領域の光を高性能に遮蔽できる。選択波長遮蔽層はさらに、400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましく、410nm以下の光の遮蔽性を有することがより好ましい。
【0204】
選択波長遮蔽層は一層で上記所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよく、複数層を組み合わせて所定の波長領域の光を遮蔽するようにしてもよい。また、選択波長遮蔽層は、近赤外線吸収層72の内側においては必ずしも近赤外線吸収層72に接するように設ける必要はなく、例えば、レンズ本体71の近赤外線吸収層72を有する面の反対面に設けられていてもよい。
【0205】
本実施形態の撮像装置用レンズ70Aにおいて、選択波長遮蔽層を近赤外線吸収層72の外側に設ける場合は、近赤外線吸収層72より外側に構成要素が存在しないため、必然的に近赤外線吸収層72の外側表面に設けることになる。
ここで、撮像装置用レンズ70Aにおいて、撮像装置用レンズのみで完全に近赤外線遮蔽を達成する必要はなく、上記近赤外線吸収層72の片側または両側に設ける選択波長遮蔽層を、後述の撮像装置において固体撮像素子の前面に撮像装置用レンズ70Aとともに配置される他の光学部材の主面や固体撮像素子の表面、すなわち前側の主面に設けることで対応することもできる。用途に応じて、これらの中から設置箇所を適宜選択すればよい。
【0206】
近赤外線吸収層72と選択波長遮蔽層の具体的な組合せとしては、固体撮像素子から遠い側から順に、420〜695nmの可視光は透過し以下の反射波長領域を有する第1の誘電体多層膜、近赤外線吸収層72、420〜695nmの可視光は透過し以下の反射波長領域を有する第2の誘電体多層膜が配置される組合せが挙げられる。
第1の誘電体多層膜が有する反射波長領域は、例えば、その短波長側の端の波長が、710nm以上、近赤外線吸収層72による吸収波長域の長波長側の端の波長以下であり、その長波長側の端の波長が好ましくは820〜950nm付近の波長の領域を含むものである。該反射波長領域は、さらに必要に応じて他の領域を含んでもよい。
第2の誘電体多層膜が有する反射波長領域は、例えば、その短波長側の端の波長が、710nmを超え上記第1の誘電体多層膜の反射波長領域の長波長側の端の波長以下であり、その長波長側の端の波長が、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上の波長の領域を含むものである。該反射波長領域は、400nm以下、より好ましくは410nm以下の紫外線波長領域を含むことが好ましい。
【0207】
撮像装置において固体撮像素子の前面に配設される撮像装置用レンズ70Aの向きに応じて、撮像装置用レンズ70Aにおける上記第1の誘電体多層膜、および、第2の誘電体多層膜の配設位置が決定する。
【0208】
レンズ本体71に用いられるレンズは、従来、この種の用途に使用されるレンズであれば、形状や材質等は特に限定されるものではない。
レンズ本体71を構成する材料としては、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶;BK7、石英、精密プレス成形用低融点ガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの材料は、紫外領域および/または近赤外領域の波長の光に対して吸収特性を有するものであってもよい。また、レンズ本体71は、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した色ガラスで構成されていてもよい。また、図面は、いずれも屈折型レンズの例であるが、フレネルレンズ等の回折を利用した回折レンズや、屈折と回折を併用したハイブリッドレンズ等であってもよい。
【0209】
レンズ本体71は、また、複数のレンズを接着剤で接合した構造のものであってよく、この場合、接合面に近赤外線吸収層72を設けることができる。図6は、そのような撮像装置用レンズの一例を示したものである。この撮像装置用レンズ70Bは、レンズ本体71が2つのレンズ71A、71Bで構成され、レンズ71A、71Bは外周部に平板部74を有し、レンズ71A、71Bの接合面に近赤外線吸収層72を設けるとともに、接合面とは反対側の面に反射防止膜73を設けている。この撮像装置用レンズ70Bは、2つのレンズ71A、71Bの一方、例えば、レンズ71Aに近赤外線吸収層72を設け、接着剤で他方、例えば、レンズ71Bと一体に貼り合わせて形成するようにしてもよく、あるいは、2つのレンズ71A、71Bを、近赤外線吸収層72を接着剤として貼り合わせるようにしてもよい。
【0210】
図示されていないが、撮像装置用レンズ70Bにおいても、近赤外線吸収層72の片側または両側に選択波長遮蔽層をさらに具備することが好ましい。選択波長遮蔽層の光学特性や配置は、上記撮像装置用レンズ70Aにおいて説明したのと同様とできる。
【0211】
レンズ本体71に用いるレンズの種類や、反射防止膜73の有無等は、用途や、組み合わせて使用するレンズの種類、配置場所等を考慮して適宜定められる。
【0212】
レンズ本体71としてガラスからなるレンズを使用する場合、その表面は、近赤外線吸収層72や反射防止膜73との密着性を高めるため、シランカップリング剤による表面処理が施されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。
【0213】
レンズ本体71としてプラスチックからなるレンズを使用する場合、近赤外線吸収層72や反射防止膜73を形成する前に、レンズ表面にコロナ処理や易接着処理を施すことが好ましい。
【0214】
本実施形態の撮像装置用レンズ70A、70Bが、近赤外線吸収層72と、上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層と、を組み合わせて有する場合には、従来、別体で配置していた近赤外線カットフィルタを省略でき、撮像装置の小型化、薄型化、低コスト化ができる。
【0215】
近赤外線吸収層72は、含有するNIR吸収色素(A)の光学特性により可視波長領域の光の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる透明樹脂(B)の作用により、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。この近赤外線吸収層72を有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性を有する本実施形態の撮像装置用レンズ70A、70Bが得られる。
【0216】
本実施形態の撮像装置用レンズ70A、70Bにおいては、この近赤外線吸収層72と他の選択波長遮蔽層、特に上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層とを組み合わせて有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する撮像装置用レンズとできる。
【0217】
さらに、撮像装置用レンズ70A、70Bが、近赤外線吸収層72とともに用いることで近赤外線カットフィルタ機能が発揮される上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層を有しない場合であっても、撮像装置用レンズ70A、70Bが用いられる撮像装置において、撮像装置用レンズ70A、70Bとともに該撮像装置を構成する他の光学部材に上記選択波長遮蔽層を設けることで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する撮像装置とできる。
【0218】
また、NIR吸収色素(A)および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を、溶媒に分散または溶解させて調製した塗工液をレンズ本体71の主面に、塗工、乾燥、さらに必要に応じて硬化処理することにより、近赤外線吸収層72を形成できるため、撮像装置用レンズ70は、容易に、かつ低コストで製造できる。さらに、近赤外線吸収層72と組合せて用いることが好ましい選択波長遮蔽層についても、上記NIR吸収色素(A)以外の近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤等の各種吸収剤を透明樹脂に分散させてなる層の場合、近赤外線吸収層72と同様の工程で形成できるため、容易に、かつ低コストで製造できる。さらに、誘電体多層膜についてもその製造は十分知られた方法で行うことができ容易に作成できる。
【0219】
このため、本実施形態の撮像装置用レンズ70A、70Bは、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性と撮像装置用レンズとしての機能を併せ持つことができ、これを用いて、小型、かつ薄型で、低コストであり、しかも、撮像画像の品質に優れる撮像装置を得ることができる。
【0220】
(第4の実施形態)
図7は、上記第2の実施形態の固体撮像素子20Aを用いた本実施形態に係る撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この撮像装置30は、図7に示すように、固体撮像素子20Aと、カバーガラス31と、複数のレンズ群32と、絞り33と、これらを固定する筐体34とを有する。複数のレンズ群32は、固体撮像素子20Aの撮像面に向けて配置された、第1のレンズL1、第2のレンズL2、第3のレンズL3および第4のレンズL4からなる。第4のレンズL4と第3のレンズL3との間に、絞り33が配置されている。固体撮像素子20Aと、レンズ群32と、絞り33は、光軸xに沿って配置されている。
なお、固体撮像素子20Aにおいては、近赤外線吸収層107の片側または両側に420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層が設けられている。ここで、光を遮蔽する波長領域は、710〜1200nmがより好ましい。
【0221】
撮像装置30においては、被写体側より入射した光は、第1のレンズL1、第2のレンズL2、第3のレンズL3、絞り33、第4のレンズL4、およびカバーガラス31を通って固体撮像素子20Aに受光される。この受光した光を固体撮像素子20Aが電気信号に変換し、画像信号として出力される。固体撮像素子20Aには、近赤外線吸収層107が設けられており、さらに、近赤外線吸収層107の片側または両側に420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層が設けられているため、近赤外線を遮蔽された光が固体撮像素子20Aで受光される。
上記において選択波長遮蔽層は、近赤外線吸収層107の片側または両側の主面上に接する形で設けられてもよく、あるいは、固体撮像素子20A内の近赤外線吸収層107と光電変換素子101との間のいずれかの層間に設けられてもよい。さらに、必要に応じて上記レンズ群32やカバーガラス31から選ばれるいずれかの部材の片側または両側の主面上に設けられてもよい。
【0222】
上記で用いる選択波長遮蔽層はさらに、400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有することが好ましく、410nm以下の光の遮蔽性を有することがより好ましい。上記選択波長遮蔽層が近赤外線領域の光は遮蔽するが400nm以下の紫外線波長領域の光を遮蔽する光学特性を有しない場合は、これとは別にこのような紫外線波長領域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層を設けてもよい。該選択波長遮蔽層が配設される位置は、特に制限されないが、近赤外線吸収層107の内側であって、光電変換素子101との間のいずれかの層間でもよい。また、このような選択波長遮蔽層を、2か所以上に設けることもできる。
【0223】
ここで、固体撮像素子20Aが有する近赤外線吸収層107と選択波長遮蔽層の具体的な組合せとして、光電変換素子101から遠い側から順に、上記第2の実施形態で説明したのと同様な光学特性を有する第1の誘電体多層膜、近赤外線吸収層107、上記第2の実施形態で説明したのと同様な光学特性を有する第2の誘電体多層膜が配置される組合せが挙げられる。これらが、配置される組合せについては以下のとおりにできる。
【0224】
第1の誘電体多層膜は、固体撮像素子20Aの有する近赤外線吸収層107の表面、すなわちカバーガラス31側の主面または、カバーガラス31の両方の主面、第2〜第4の各レンズにおける両方の主面、第1のレンズの内側の主面から選ばれるいずれかの面上に設けることができる。第2の誘電体多層膜の配置については、上記固体撮像素子20Aで説明した位置に設けることができる。
【0225】
撮像装置30において、近赤外線吸収層107を有しない以外は固体撮像素子20Aと同様の固体撮像素子を用い、その代わりに第4のレンズL4を、上記第3の実施形態の、近赤外線吸収層72を有する撮像装置用レンズ70Aで置き換えて配設した場合について説明する。この撮像装置において、撮像装置用レンズ70Aは、該レンズが有する近赤外線吸収層72が固体撮像素子より遠い側に位置するように配置されている。この場合、撮像装置用レンズ70Aには、近赤外線吸収層72を有する側と反対側の主面に、上で説明した反射防止膜73にかえて、上記第2の誘電体多層膜を配置できる。第2の誘電体多層膜は、あるいは、レンズ32のいずれかの主面、カバーガラス31のいずれかの主面、または、固体撮像素子のカバーガラス31側の主面もしくは固体撮像素子の光電変換素子より外側の内部、例えば上記平坦化層の外側に配設できる。
【0226】
一方、第1の誘電体多層膜は、撮像装置用レンズ70Aが有する近赤外線吸収層72の撮像素子とは反対側の主面、すなわち第3のレンズL3側の主面、または第2のレンズL2、第3のレンズL3における両方の主面、第1のレンズの内側の主面から選ばれるいずれかの面上に配設できる。
【0227】
また、撮像装置30において、近赤外線吸収層107を有しない以外は固体撮像素子20Aと同様の固体撮像素子を用い、その代わりにカバーガラス31を上記第1の実施態様の、例えば、近赤外線吸収層11を有する光学フィルタ10A、10Bで置き換えて配設する構成としてもよい。光学フィルタ10Aを用いる場合には、固体撮像素子に近い側の主面に近赤外線吸収層11が位置するように配置される。この場合、光学フィルタ10Aの近赤外線吸収層11の固体撮像素子側の主面に、上記第2の誘電体多層膜を配置できる。第2の誘電体多層膜は、または、固体撮像素子の光学フィルタ10A側の主面もしくは固体撮像素子の光電変換素子より外側の内部、例えば上記平坦化層の外側に配設できる。
【0228】
一方、第1の誘電体多層膜は、光学フィルタ10Aが有する透明基材12の固体撮像素子とは反対側の主面、すなわち第4のレンズL4側の主面、または、第2のレンズL2、第3のレンズL3、第4のレンズL4における両方の主面、第1のレンズの内側の主面から選ばれるいずれかの面上に配設できる。
光学フィルタ10Bのような上記近赤外線吸収層、第1の誘電体多層膜、および第2の誘電体多層膜を組み合わせて有する光学フィルタを用いる場合には、上記(i)〜(iii)に説明した配置順となるように撮像装置30に光学フィルタ10B等を配設する。
【0229】
前述したように、固体撮像素子20Aが有する近赤外線吸収層107、撮像装置用レンズ70Aが有する近赤外線吸収層72、光学フィルタ10A、10Bが有する近赤外線吸収層11、が含有するNIR吸収色素(A)の光学特性により可視波長領域の光の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる透明樹脂(B)の作用により、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。よって、本実施形態に係る撮像装置が有する固体撮像素子20A、撮像装置用レンズ70Aまたは、光学フィルタ10A、10Bは、近赤外線吸収層を有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された光学特性を有する。
【0230】
このような、固体撮像素子20A、撮像装置用レンズ70A、および、光学フィルタ10A、10Bは、この近赤外線吸収層と他の選択波長遮蔽層、特に上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層とを組み合わせて有することで、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する固体撮像素子、撮像装置用レンズとできる。したがって、このような固体撮像素子20Aまたは撮像装置用レンズ70A、あるいは、カバーガラス31のかわりに設けられた光学フィルタ10A、10Bを具備する本実施形態に係る撮像装置においては、従来、別体で配置していた近赤外線カットフィルタを省略でき、撮像装置の小型化、薄型化、低コスト化が図られるとともに、品質の良い撮像画像を得ることができる。
【0231】
また、上述したように本実施形態に係る撮像装置は、上記近赤外線吸収層を有する固体撮像素子20Aまたは撮像装置用レンズ70Aを有し、さらに、この近赤外線吸収層と組合せる他の選択波長遮蔽層、特に上記420〜695nmの可視光を透過し、710〜1100nmの波長領域の光を遮蔽する光学特性を有する選択波長遮蔽層が、固体撮像素子20Aまたは撮像装置用レンズ70Aとは別に該撮像装置の光軸xに沿って配置される光学部材上に配設された構成であってもよい。
このような構成とすることでも、上記NIR吸収色素(A)の吸光特性が有効に利用された、優れた近赤外線遮蔽特性を有する本実施形態に係る撮像装置が得られる。この場合も、従来、別体で配置していた近赤外線カットフィルタを省略でき、撮像装置の小型化、薄型化、低コスト化が図られるとともに、品質の良い撮像画像を得ることができる。
【0232】
また、本実施形態の固体撮像素子が使用される撮像装置も、図7に示す構造のものに限定されるものではなく、固体撮像素子を備えたものであれば種々の構造の撮像装置に適用できる。
【実施例】
【0233】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。例1〜7および例10〜16が実施例であり、例8、9および例17、18が比較例である。
なお、実施例中の透過率および透過率の変化量Dは下記に示す方法で測定した。
[透過率および透過率の変化量D、Df]
近赤外線吸収層および光学フィルタについて紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて透過スペクトル(透過率)を測定し、算出した。
【0234】
[光学フィルタの製造]
NIR吸収色素(A)として、上記表1に示すNIR吸収色素(A1)および上記表2に示すNIR吸収色素(A2)を用いて、図1(a)に示す透明基板基材12上に近赤外線吸収層11が形成された構成の実施例および比較例の光学フィルタを製造した。
(例1)
NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として表1に示す化合物(F12−1)と、アクリル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:オグソールEA−F5003、屈折率1.60)の50質量%テトラヒドフラン溶液とを、アクリル樹脂100質量部に対して化合物(F12−1)が0.23質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させた。その後、塗膜に波長365nmの紫外線を360mJ/cm照射して硬化させ、ガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ1を得た。得られた光学フィルタ1の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、表3に示す。
【0235】
(例2)
NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F12−2)を用いたこと以外は例1と同様にしてガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ2を得た。得られた光学フィルタ2の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、表3に示す。
【0236】
(例3)
NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F12−4)を用い、アクリル樹脂100質量部に対する化合物(F12−4)の量を0.23質量部となるような割合としたこと以外は例1と同様にしてガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ3を得た。得られた光学フィルタ3の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、表3に示す。
【0237】
(例4)
NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F12−5)を用いたこと以外は例4と同様にしてガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ4を得た。得られた光学フィルタ4の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、表3に示す。
【0238】
(例5)
NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11−1)を用い、アクリル樹脂100質量部に対する化合物(F11−1)の量を1.2質量部となるような割合としたこと以外は例1と同様にしてガラス板上に膜厚3μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ5を得た。得られた光学フィルタ5の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、表3に示す。また、300〜900nmの波長領域の透過スペクトルを図9に実線で示す。
【0239】
(例6)
NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11−1)と、ポリカーボネート樹脂(sabic社製、サンプル名:Lexan ML9103、屈折率:1.59)の10質量%シクロペンタノン溶液とを、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して化合物(F11−1)が0.45質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ6を得た。得られた光学フィルタ6の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を表3に示す。
【0240】
(例7)
NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)およびNIR吸収色素(A2)を用いた。NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F12−1)、およびNIR吸収色素(A2)として上記表2に示す化合物(F21)を、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.64)の20質量%シクロヘキサノン溶液とを、ポリエステル樹脂100質量部に対して化合物(F12−1)が0.08質量部、化合物(F21)が2.1質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ7を得た。得られた光学フィルタ7の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を表3に示す。
【0241】
(例8)
NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11−1)と、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、商品名:BR−80、屈折率1.49)の15質量%シクロヘキサノン溶液とを、アクリル樹脂100質量部に対して化合物(F11−1)が0.45質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ8を得た。得られた光学フィルタ8の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を表3に示す。
【0242】
(例9)
NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11−1)と、シクロオレフィン樹脂(JSR社製、商品名:アートンRH5200、屈折率1.52)の25質量%トルエン溶液とを、シクロオレフィン樹脂100質量部に対して化合物(F11−1)が0.2質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し70℃で10分間加熱後、さらに110℃で10分間加熱することで乾燥させガラス板上に膜厚22μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ9を得た。得られた光学フィルタ9の透過率を測定した。その透過結果から、近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、結果を表3に示す。
また、300〜900nmの波長領域の透過スペクトルを図9に破線で示す。
【0243】
【表3】
【0244】
[光学フィルタの設計]
例1〜9で作製した近赤外線吸収層からなる光学フィルタ1〜9を用いて、図1(b)に示す第1の誘電体多層膜13a、近赤外線吸収層11、第2の誘電体多層膜13bの順に積層された構成の例10〜18の光学フィルタを設計した。
【0245】
(例10〜18)
誘電体多層膜は、例10〜18において全て同様として設計した。第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜ともに、高屈折率の誘電膜としてTiO膜、低屈折率の誘電膜としてSiO膜を想定した。具体的には、マグネトロンスパッター装置に、TiまたはSiのターゲットを用いて、ArガスとOガスを導入した反応性スパッタによりTiO膜、SiO膜をサンプルとして作製した。得られたTiO膜およびSiO膜の光学定数を、分光透過率測定により求めた。
【0246】
高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において、誘電体多層膜の積層数、TiO膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚、SiO膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚、をパラメーターとして、シミュレーションし、波長400〜700nmの光を90%以上透過し、波長715〜900nmの光の透過率が5%以下となるような第1の誘電体多層膜の構成を求めた。得られた第1の誘電体多層膜の構成を表4に、この第1の誘電体多層膜の透過率スペクトルを図8(a)にIR−1として点線で示す。なお、第1の誘電体多層膜においては第1層が近赤外線吸収層側に形成される設定であり、全体の膜厚は3536nmであった。
【0247】
【表4】
【0248】
上記同様に高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において、誘電体多層膜の積層数、TiO膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚、SiO膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚、をパラメーターとして、シミュレーションし、波長420〜780nmの光を90%以上透過し、波長410nm以下の光および850〜1200nmの光の透過率がともに5%以下となるような第2の誘電体多層膜の構成を求めた。得られた第2の誘電体多層膜の構成を表5に、この第2の誘電体多層膜の透過率スペクトルを図8(a)にIR−2として破線で示す。なお、第2の誘電体多層膜においては、第1層が近赤外線吸収層側に形成される設定であり、全体の膜厚は4935nmであった。また、図8(b)に、上記第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜を積層した場合の透過率スペクトルをIR−1+IR−2として実線で示した。
【0249】
【表5】
【0250】
上記で設計した例10〜18の光学フィルタについて透過スペクトルを作成した。表6に光学フィルタの仕様および光学特性を示す。例13および例17の光学フィルタの、300〜900nmの波長領域の透過スペクトル(0〜100%)を図10に、650〜800nmの波長領域の透過スペクトル(0〜20%)を図11に示す。なお、図10および図11において実線は例13の透過スペクトルを、破線は例17の透過スペクトルをそれぞれ示す。
【0251】
【表6】
【0252】
本発明は以上説明した実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
なお、本出願は、2011年6月6日付けで出願された日本特許出願(特願2011−126555)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0253】
本発明の光学フィルタは、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽特性を有するとともに、十分な小型化、薄型化ができることから、デジタルスチルカメラ等の撮像装置、プラズマディスプレイ等の表示装置、車両(自動車等)用ガラス窓、ランプ等に有用である。本発明の固体撮像素子は、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽機能と固体撮像素子としての機能を併せ持つことができることから、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA等の情報機器に組み込まれる小型カメラ等の撮像装置に有用である。本発明の撮像装置用レンズは、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽機能を有し、かつ撮像装置の十分な小型化、薄型化、低コスト化ができることから、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA等の情報機器に組み込まれる小型カメラ等の、固体撮像素子を用いた撮像装置に有用である。
【符号の説明】
【0254】
10A、10B…光学フィルタ、12…透明基材、11、72、107…近赤外線吸収層、13…選択波長遮蔽層、7、13a…第1の誘電体多層膜、8、13b…第2の誘電体多層膜、20A、20B…固体撮像素子、9A、9B、30…撮像装置、5、31…カバーガラス、4、32、70A、70B…撮像装置用レンズ、71…レンズ本体、
101…光電変換素子、102…遮光層、103…半導体基板、104…平坦化層、105…カラーフィルタ層、106…マイクロレンズ、L1〜L4…第1〜第4のレンズ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11