特許第6332523号(P6332523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332523ニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332523
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20180521BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20180521BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/46
   C22B3/04
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-100417(P2017-100417)
(22)【出願日】2017年5月19日
(62)【分割の表示】特願2014-99521(P2014-99521)の分割
【原出願日】2014年5月13日
(65)【公開番号】特開2017-155342(P2017-155342A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
(72)【発明者】
【氏名】高石 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−100938(JP,A)
【文献】 特開平08−209374(JP,A)
【文献】 特開平11−080986(JP,A)
【文献】 特開2001−262389(JP,A)
【文献】 特開平07−300691(JP,A)
【文献】 特開2001−115288(JP,A)
【文献】 特開平09−125280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
C25C 1/00− 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを、銅を含む塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得るニッケル塩素浸出工程における脱銅電解設備を用いた前記塩素浸出液の銅濃度調整方法において、
前記脱銅電解設備が、金属ニッケルを充填したカラム槽を備え、
前記塩素浸出液の銅濃度が15〜55g/Lの間で任意に設定された管理基準値から3g/L以上低下した時には下記(1)の手段を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値から3g/L以上上昇した時には下記(2)の手段を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値から3g/L未満低下した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が前記管理基準値から3g/L未満上昇した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じて塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下になるように維持する、
ことを特徴とするニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法。
(記)
(1)酸化還元電位が400mV(Ag/AgCl電極基準)以上の塩素浸出液と、前記金属ニッケルを充填したカラム槽の前記金属ニッケルを金属銅に入れ替えて形成した金属銅を充填したカラム槽内で金属銅を接触させることによって、塩素浸出液中の銅濃度を上昇させる銅補充手段。
(2)塩素浸出液を、前記金属ニッケルを充填したカラム槽内で金属ニッケルを接触させることによって、還元して価数が2価の銅イオン濃度を低下させた後に、前記還元後の塩素浸出液を銅電解採取することによって、塩素浸出液中の銅濃度を低下させる脱銅手段。
(3)上記(1)も(2)も実施しない中立手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを水溶液中に塩素浸出する方法に関するものであり、詳しくは、ニッケルを塩素浸出して形成された塩素浸出液に含まれ、浸出剤として用いられる銅の塩素浸出液中における銅濃度の調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケルおよびコバルトの製錬においては、例えば、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られたNi等のニッケル硫化物を主成分とするニッケルマットが生産されている。
【0003】
一方で、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching、通称HPAL)し、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって、例えば硫化水素ガスをニッケルイオンおよびコバルトイオンを含んだ浸出液中に吹込むことによって、得られたNiS等の硫化物を主成分とするニッケルおよびコバルトを含む混合硫化物(以降、混合硫化物と称する。)も生産されている。
【0004】
上記ニッケルマットや混合硫化物を原料として、ニッケルおよびコバルトを精製する方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、塩素ガスの酸化作用を利用してニッケルマットや混合硫化物を浸出し、浸出されたニッケルイオンおよびコバルトイオンを電解採取によって電気ニッケル及び電気コバルトとして製品化する方法が実用化されている。
【0005】
この方法は、混合硫化物を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケル及びコバルトを塩化物水溶液中に塩素浸出する。
そこで得られた、酸化剤としての2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、混合硫化物を接触させることにより、混合硫化物中のニッケルおよびコバルトが置換浸出されると共に、2価の銅クロロ錯イオンの一部が1価の銅クロロ錯イオンに還元される。
【0006】
次いで、前記1価および2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に粉砕したニッケルマットを接触させて、銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、銅イオンはCuSまたはCu(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
その置換浸出終液とセメンテーション残渣からなるスラリーは、固液分離後、置換浸出終液は次の浄液工程へ、セメンテーション残渣は塩素浸出工程へ送られる。
【0007】
浄液工程では、得られた置換浸出終液から鉄、鉛、銅、亜鉛等の不純物を除去すると共に、置換浸出終液中のコバルトを溶媒抽出等の方法を用いて分離する。
次いでニッケルを電解採取して電気ニッケルを製造する方法である。
この方法はシンプルで、電解採取で発生した塩素ガスを浸出に再利用する等、効率的かつ経済的な生産を実現している。
【0008】
特許文献1に記載されている塩素浸出工程におけるニッケルを含む金属硫化物の塩素浸出反応は、浸出液中の銅イオンの酸化還元反応を利用して金属成分を浸出する反応である。
前記塩素浸出工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
【0009】
そこで、この浸出反応が効率的に進行するためには、塩素浸出液中の銅濃度が10g/L以上であることが条件であり、最大60g/Lの範囲内で、その銅濃度が高いほど塩素吸収効率が高くなるため、金属成分の浸出率が向上する。
すなわち、ニッケルマットや混合硫化物等の原料中に微量に含まれる銅は、ニッケルおよびコバルトを精製する上での不純物ではあるが、前記塩素浸出工程や置換浸出工程では酸化剤として利用され、塩素浸出工程と置換浸出工程の間を、塩素浸出液とセメンテーション残渣として循環している。
【0010】
上記の通り、原料から持ち込まれた銅は、塩素浸出工程と置換浸出工程の間を循環しながら、次第に塩素浸出工程と置換浸出工程に蓄積して行くため、塩素浸出液中の銅濃度を10〜60g/Lの範囲内の適正値に維持するために、例えば塩素浸出液を脱銅電解することによって、銅粉として銅を系外に抜き出して銅バランスを取っている。
【0011】
この脱銅電解方法として、例えば、特許文献2では、含銅塩化ニッケル溶液中の銅イオンを還元して2価銅比を低下させた後に、銅を電解採取する方法が開示されており、この方法に基づいた操業も行われている。
この還元時に使用する還元剤としては金属ニッケルが用いられており、塩素浸出液を金属ニッケルが充填されたカラム槽に通液することによって、ニッケルの溶解と2価の銅クロロ錯イオンの一部の1価の銅クロロ錯イオンへの還元が同時に行われることになる。
この特許文献2の方法により、脱銅電解の電流効率が向上し、ランニングコストの大幅な低減を図ることができた。
【0012】
しかしながら、前記脱銅電解は、塩素浸出液中の銅濃度を低下させるための方法であって、銅濃度を10g/L以上に維持するためには、銅濃度を上昇させる手段も必要になる場合がある。
前述の通り、塩素浸出法を用いたニッケルおよびコバルト製錬プロセスは、原料に含まれる不純物としての銅を上手く利用することで成立している。
【0013】
すなわち、この不純物としての銅は、塩素浸出液からセメンテーション残渣として分離されるため、置換浸出終液の銅濃度は0.02g/L以下であり、その後の浄液工程では残った微量の銅を除去すれば良い。また、原料からのインプット見合いの銅は、脱銅電解工程での銅電解採取によって銅粉として払出される。
よって、塩素浸出法を用いたニッケルおよびコバルト製錬プロセスでは、原料中に銅が不純物として含まれていることが前提条件となる。
【0014】
ところで、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットには銅を始めとする不純物が含有されているが、ニッケル酸化鉱石を原料としたニッケルマットには銅がほとんど含有されていないという特徴があり、ニッケルおよびコバルト製錬プロセスへの主な銅のインプット源は、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットになる。
一方で、混合硫化物もニッケル酸化鉱石を原料としているため、銅をほとんど含有していないという特徴を有する。
したがって、このニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットの処理量によって、銅のインプット量が大きく変動することになる。
【0015】
そこで、例えば、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットが大幅に不足した場合、またはニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットが不足した状態で混合硫化物を増処理する必要が生じた場合、原料構成比の大幅な変動が起因して、次第に塩素浸出工程と置換浸出工程の銅保有量が減少して行く、すなわち塩素浸出液中の銅濃度が低下して行く状況となる。
【0016】
ここで、混合硫化物の増処理は、塩素浸出液や置換浸出終液の流量の増加を意味し、混合硫化物の増処理によって塩素浸出液中の銅濃度が低下して行く状況とは、原料から持ち込まれる銅量に対して置換浸出終液の流量の増加によって浄液工程へ持ち出される銅量が増加する状況のことを言う。
【0017】
塩素浸出液中の銅濃度が10g/L未満に低下した場合、1価の銅クロロ錯イオンによる塩素ガスの気液吸収能力が低下するため、未反応の塩素ガスが大量に塩素浸出反応槽の気相部に放出されることになる。
【0018】
このことは、塩素ガスのロスが増加してコストが増加するだけに止まらず、浸出残渣に残留するニッケルおよびコバルトが増加し、ニッケルおよびコバルトの浸出率が低下して、ニッケルおよびコバルトの実収率が低下することに繋がる。加えて、上記の問題により、塩素ガスの吹込み量を減らして原料処理量を減らす操作を行わざるを得ないため、ニッケルの生産量が減少する。また、環境問題にも繋がる可能性もある。さらに、巨大な塩素ガス吸収装置と多量の吸収液を必要とするため、工業的な操業が現実的には不可能となる。
【0019】
塩素浸出液中の銅濃度が60g/Lを超えると、塩素浸出反応は安定するが、置換浸出工程では塩素浸出液中の銅イオンの除去も同時に行われているため、必要なニッケルマット量が増加すると共にセメンテーション残渣量が増加する。
置換浸出工程でのセメンテーション残渣量の増加は、固液分離等、そのハンドリングに手間を要すことになり、効率的では無い。
また、塩素浸出工程では、増加したセメンテーション残渣の塩素浸出のために、ニッケルおよびコバルトを浸出するための必要量以上の塩素を消費することになり、経済的では無い。
【0020】
上記は必要なニッケルマット量が確保できた場合の問題点であるが、必要なニッケルマット量が確保できない場合には、置換浸出工程での脱銅が不可能となり、電気ニッケルや電気コバルトの製造そのものが成り立たなくなる。
そこで、原料構成比が変わっても、言い換えれば全原料平均の銅含有率が大幅に変動しても、塩素浸出液の銅濃度を適正範囲に維持するための手段や管理方法を確立する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2012−026027号公報
【特許文献2】特開平11−080986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを水溶液中に塩素浸出する方法において、原料構成比が変わって、全原料平均の銅含有率が大幅に変動しても、塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上に維持することで、塩素ガスの増加するロスに伴うコスト増加を防ぎ、ニッケルおよびコバルトの実収率の低下および生産量の減少を防ぎ、さらに環境問題を発生させることも無く、工業的に操業を継続することができる、ニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法を提供することを目的とする。
【0023】
また、原料構成比が変わっても、塩素浸出液中の銅濃度を60g/L以下に維持することで、必要なニッケルマット量が増加することに伴う、生産効率の悪化や塩素消費量の増加によるコストアップ、さらには電気ニッケルや電気コバルトへの銅の混入によって操業が継続できなくなることを回避することができる、ニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明者らは、塩素浸出液に銅を溶解する原料、装置、方法について研究を重ねた結果、脱銅電解工程において、塩素浸出液を還元するために設けられた、金属ニッケルが充填されたカラム槽に金属銅を充填することによって、従来の脱銅電解設備をそのまま利用して、塩素浸出液の銅濃度を上昇させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち、本発明によるニッケルを含む金属硫化物からニッケルを、銅を含む塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得るニッケル塩素浸出工程における脱銅電解設備を用いた塩素浸出液の銅濃度調整方法において、その脱銅電解設備が、金属ニッケルを充填したカラム槽を備え、塩素浸出液の銅濃度が15〜55g/Lの間で任意に設定された管理基準値から3g/L以上低下した時には下記(1)の手段を講じ、塩素浸出液の銅濃度が管理基準値から3g/L以上上昇した時には下記(2)の手段を講じ、塩素浸出液の銅濃度が管理基準値から3g/L未満低下した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じ、塩素浸出液の銅濃度が管理基準値から3g/L未満上昇した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じて塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下になるように維持することを特徴とする。
【0026】
(1)酸化還元電位が400mV(Ag/AgCl電極基準)以上の塩素浸出液と、前記金属ニッケルを充填したカラム槽の前記金属ニッケルを金属銅に入れ替えて形成した金属銅を充填したカラム槽内で金属銅を接触させることによって、塩素浸出液中の銅濃度を上昇させる銅補充手段。
(2)塩素浸出液を、前記金属ニッケルを充填したカラム槽内で金属ニッケルを接触させることによって、還元して価数が2価の銅イオン濃度を低下させた後に、該還元後の塩素浸出液を銅電解採取することによって、塩素浸出液中の銅濃度を低下させる脱銅手段。
(3)上記(1)も(2)も実施しない中立手段。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、原料構成比が変わって、全原料平均の銅含有率が大幅に変動しても、塩素浸出液中の銅濃度を10〜60g/Lの範囲内の適正値に維持することができるため、安定した塩素浸出操業を継続することができる。
当然のことながら、塩素ガスのロスが増加したり、ニッケルおよびコバルトの実収率が低下したり、環境問題を発生させることも無い。
また、生産効率の悪化や塩素消費量の増加によるコストアップ、さらには電気ニッケルや電気コバルトへの銅の混入も発生しない。
【0028】
さらには、脱銅電解工程において、塩素浸出液を還元するために設けられた、金属ニッケルが充填されたカラム槽の充填物を金属銅に置き換えることによって、従来の脱銅電解設備をそのまま利用して、塩素浸出液の銅濃度を上昇させることができる。
また、カラム槽への充填物を金属ニッケルから金属銅に入れ替え、銅電解採取槽の通電を停止するだけで、従来の脱銅電解工程を銅補充工程に切替えることができる。
このことにより、従来の脱銅電解工程が銅濃度調整工程に高度化され、塩素浸出工程へのフレキシブルな銅の出し入れが可能になる。
【0029】
しかも、塩素浸出液の酸化還元電位は400mV以上と高いため、酸や酸化剤等の薬剤を必要とせず、塩素浸出液と金属銅を接触させるだけで銅を塩素浸出液に溶解することができる。
【0030】
本発明によれば、以上述べた効果を有し、最終的にはニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットの処理量に係わらず、混合硫化物の増処理、電気ニッケルの増産を可能とするもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係るニッケルおよびコバルト製錬プロセスの概略フローシートである。
図2】本発明に係る銅濃度調整工程の概略フローシートである。
図3】塩素浸出液の通液時間と塩素浸出液の銅濃度の推移を示した図である。
図4】塩素浸出液の空間速度と溶解速度の関係を示した図である。
図5】塩素浸出液の空間速度と酸化還元電位の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る銅濃度調整方法を含むニッケル塩素浸出工程を踏まえて塩素浸出液の銅濃度の調整方法に関し、詳細に説明する。
本発明によるニッケル塩素浸出工程における塩素浸出液の銅濃度の調整方法は、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を形成する際に、その塩素浸出液の銅濃度の管理基準値を15〜55g/Lの間で任意に設定し、その管理基準値に対する塩素浸出液の銅濃度挙動によって以降の採りうる手段を予め定め、その定められた手段に沿って実施することにより塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下になるように維持することを特徴とするものである。
下記に、管理基準値に対する銅濃度挙動[A]から[D]と、それに対応して予め定められた採りうる手段を表1に示す。
【0033】
[A]管理基準値から塩素浸出液の銅濃度が、3g/L以上低下した時には下記(1)の手段を講じる。
[B]塩素浸出液の銅濃度が、管理基準値から3g/L以上上昇した時には下記(2)の手段を講じる。
[C]塩素浸出液の銅濃度が、管理基準値から3g/L未満低下した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じる。
[D]塩素浸出液の銅濃度が、管理基準値から3g/L未満上昇した時には下記(1)、(2)、(3)のいずれかの手段を講じる。
【0034】
【表1】
【0035】
1.ニッケルおよびコバルト製錬プロセス
図1に本発明を含むニッケルおよびコバルト製錬プロセスの概略フローシートを示す。
本発明は、ニッケルおよびコバルト製錬プロセスの全体工程の中の、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る方法にあって、塩素浸出液中の銅濃度を調整する技術ではあるが、原料処理も含めたニッケルおよびコバルト製錬プロセスにおける全体最適化を達成するための技術であるため、本発明に特に関係する、原料処理比率、塩素浸出、置換浸出(セメンテーション)について詳細に説明する。
【0036】
(1)原料
主要な原料は、ニッケルマットと混合硫化物の2種類となる。
ニッケルマットとは、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られたニッケル硫化物を指している。
【0037】
このニッケルマットの主成分はNiとNi(金属ニッケル)であり、そのおおよその化学組成は、Niが65〜80重量%、Coが約1重量%、Cuが0.1〜4重量%、Feが0.1〜5重量%、Sが18〜25重量%である。
ニッケル酸化鉱石を原料としたニッケルマットと比較して、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットは不純物の含有量が高いという特徴があり、ニッケルおよびコバルト製錬プロセスへの主な銅のインプット源は、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットである。
したがって、このニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットの処理量によって、銅のインプット量が大きく変動することになる。
【0038】
一方で、混合硫化物とは、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出し、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって、例えば硫化水素ガスをニッケルイオン及びコバルトイオンを含んだ浸出液中に吹込むことによって、得られたニッケルおよびコバルトを含む混合硫化物を指している。
【0039】
混合硫化物の主成分はNiSとCoSであり、そのおおよその化学組成は、Niが55〜60重量%、Coが3〜6重量%、Cuが0.1重量%未満、Feが0.1〜1重量%、Sが30〜35重量%である。
【0040】
(2)塩素浸出
混合硫化物および後述するセメンテーション残渣を、塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによって混合硫化物中のニッケルおよびコバルトと、セメンテーション残渣中のニッケルおよび銅を、塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る。
【0041】
この工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
その主要な塩素浸出反応式を下記(式1〜4)に示した。
【0042】
【化1】
【0043】
塩素浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が480〜560mV、温度が105〜115℃である。
この浸出反応が効率的に進行するためには、塩素浸出液中の銅濃度が10g/L以上であることが条件であり、最大60g/Lの範囲内で、その銅濃度が高いほど塩素吸収効率が高くなるため、金属成分の浸出率が向上する。
【0044】
塩素浸出液中の銅濃度が10g/L未満に低下した場合、1価の銅クロロ錯イオンによる塩素ガスの気液吸収能力が低下するため、未反応の塩素ガスが大量に塩素浸出反応槽の気相部に放出されることになる。
このことは、塩素ガスのロスが増加してコストが増加するだけに止まらず、浸出残渣に残留するニッケルおよびコバルトが増加し、ニッケルおよびコバルトの浸出率が低下して、ニッケルおよびコバルトの実収率が低下することに繋がる。加えて、上記の問題により、塩素ガスの吹込み量を減らして原料処理量を減らす操作を行わざるを得ないため、ニッケルの生産量が減少する。
また、環境問題につながる可能性もある。
さらに、巨大な塩素ガス吸収装置と多量の吸収液を必要とするため、現実的には工業的な操業が不可能となる。
【0045】
一方、塩素浸出液中の銅濃度が60g/Lを超えると、塩素浸出反応は安定するが、置換浸出工程では塩素浸出液中の銅イオンの除去も同時に行われているため、必要なニッケルマット量が増加すると共にセメンテーション残渣量が増加する。
この置換浸出工程でのセメンテーション残渣量の増加は、固液分離等、そのハンドリングに手間を要すことになり、効率的では無い。また、塩素浸出工程では、増加したセメンテーション残渣の塩素浸出のために、ニッケルおよびコバルトを浸出するための必要量以上の塩素を消費することになり、経済的では無い。
【0046】
以上、述べたことは必要なニッケルマット量が確保できた場合の問題点であるが、必要なニッケルマット量が確保できない場合には、置換浸出工程での脱銅が十分に行われず、置換浸出終液の銅濃度が上昇して、次の浄液工程への脱銅負荷の上昇、さらには電気ニッケルや電気コバルトへの銅の混入を引き起こし、電気ニッケルや電気コバルトの製造そのものが成り立たなくなる。
【0047】
そこで、塩素浸出液中の銅濃度は60g/L以下に維持する必要がある。
そのため、この塩素浸出液中の銅濃度の調整が、本発明の銅濃度調整工程において行われる。
塩素浸出液中の銅濃度の増減は、銅濃度を増加させる場合は、塩素浸出液と金属銅を接触させる方法によって行い、一方で銅濃度を低下させる場合には、銅電解採取によって銅粉を抜出す方法によって実施される。
【0048】
(3)置換浸出(セメンテーション)
置換浸出工程は、第1の置換浸出工程(図1では置換浸出1と記載)と第2の置換浸出工程(図1では置換浸出2と記載)の、2つのステージで構成される。
【0049】
先ず、塩素浸出液に含まれる2価の銅のクロロ錯イオンの酸化力を使って、第1の置換浸出工程を実施して混合硫化物中のニッケルおよびコバルトを浸出する。
この第1の置換浸出工程で得られた置換浸出液は2価の銅クロロ錯イオンの一部が1価の銅のクロロ錯イオンに還元されている。
【0050】
次に、第2の置換浸出工程の実施により当該置換浸出液とニッケルマットを接触させることにより、置換浸出液中の銅イオンとニッケルマット中のニッケルのセメンテーション反応が行われる。
主要な置換浸出反応式を下記(式5〜7)に示した。
【0051】
【化2】
【0052】
置換浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が50〜300mV、温度が70〜100℃である。
この置換浸出終液の銅濃度を低下させるためには、混合硫化物中に含まれるNiSよりも還元力の強いNi(金属ニッケル)やNiを含有したニッケルマットが必要となる。
【0053】
混合硫化物とニッケルマットの不溶解残渣とセメンテーション反応によって得られた銅を含んだ固体を含む、セメンテーション残渣は、第2の置換浸出工程で得られた置換浸出終液と固液分離された後、塩素浸出工程に送られる。
このセメンテーション反応は、固体のニッケルが溶出してニッケルイオンとなり、その溶出したニッケルと電気化学的に当量の液中の銅イオンが固体となるため、置換浸出工程は塩素浸出液中に含まれる銅を固体として除去する脱銅工程であるとも言える。
【0054】
置換浸出液中の銅イオンはCuSまたはCuメタルの形態となって固体となるため、第2の置換浸出工程で得られる置換浸出終液中の銅濃度は0.02g/L以下となる。
しかし、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットが大幅に不足した場合、またはニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットが不足した状態で混合硫化物を増処理する必要が生じた場合、この置換浸出終液として浄液工程へ持ち出される銅量の方が、原料から持ち込まれる銅量よりも多い状況が発生することがある。
【0055】
かかる状況では、次第に塩素浸出工程と置換浸出工程の銅保有量が減少して行く、すなわち塩素浸出液中の銅濃度が低下して行く問題が発生する。
そこで、本発明では、従来技術である脱銅電解工程において、塩素浸出液を還元するために設けられた、金属ニッケルが充填されたカラム槽の充填物を金属銅に置き換えることによって、従来の脱銅電解設備をそのまま利用して、塩素浸出液の銅濃度を上昇させる。
【0056】
2.塩素浸出液の銅濃度の調整方法
本発明は、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る方法において重要な役割を果たす銅を、金属銅を溶解することで補充するに当たり、酸化還元電位が560mVの酸化力を持つ塩素浸出液と金属銅を接触させることで、銅の不均化反応を進行させて金属銅を溶解することを特徴としている。
【0057】
塩素浸出反応における銅の果たす役割については、これまで述べた通りであり、ニッケルを含む金属硫化物の塩素浸出反応は、浸出液中の銅イオンの酸化還元反応を利用して金属成分を浸出する反応である。
この塩素浸出工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
【0058】
この浸出反応が効率的に進行するためには、塩素浸出液中の銅濃度が10g/L以上であることが条件であり、最大60g/Lの範囲内で、その銅濃度が高いほど塩素吸収効率が高くなるため、金属成分の浸出率が向上する。
塩素浸出反応では酸化雰囲気となるため、2価の銅クロロ錯イオンが存在する領域まで酸化還元電位は上昇する(400mV以上)。
本発明では、下記(式8)に示した通り、この2価の銅クロロ錯イオンの酸化力を利用して金属銅を酸化させて溶解する。
【0059】
【化3】
【0060】
図2に本発明に係る銅濃度調整工程の概略フローシートを示す。
図2に示した概略フローシートのうち、(a)は塩素浸出液の銅濃度を低下させる場合のフローシートであり、特許文献2に示された従来法である。(b)は塩素浸出液の銅濃度を上昇させる場合のフローシートである。
【0061】
塩素浸出工程で発生した塩素浸出液の一部を、金属ニッケルが充填されたカラム槽に通液して、塩素浸出液中の2価の銅クロロ錯イオンの一部を1価の銅クロロ錯イオンに還元する。
塩素浸出液の組成は、Ni濃度が200〜250g/L、Cu濃度が10〜60g/Lである。
この還元工程で、酸化還元電位400〜500mV、2価銅比((Cu2+濃度/全Cu濃度)×100%)60〜80%の塩素浸出液が、酸化還元電位380〜480mV、2価銅比10〜30%に還元される。
【0062】
次に、前記還元処理後の塩素浸出液にニッケル電解廃液を混合し、脱銅電解給液の銅濃度調整を行う。
脱銅電解給液の銅濃度は、15〜25g/Lに調整する。
その後、脱銅電解給液を電解槽に供給し、不溶性アノードを用いた電解採取法によって、銅粉として銅を電解採取する。
【0063】
電解条件は、通電電流が11000〜14000A/槽、電流密度が280〜360A/m、脱銅電解給液量が20L/分・槽、脱銅電解廃液のCu濃度が10〜15g/Lである。
【0064】
脱銅電解槽底から抜き取った銅粉スラリーは、遠心分離機で脱水され、銅粉は銅製錬系に払出される。
脱銅電解廃液および銅粉スラリーの脱水ろ液は、置換浸出工程に供給される。
【0065】
次に、図2(b)は本発明に係る塩素浸出液の銅濃度を上昇させる場合のフローシートで、この場合は、従来法に係る金属ニッケルが充填されたカラム槽の充填物を金属銅に置き換えることによって、従来の脱銅電解設備をそのまま利用して、塩素浸出液の銅濃度を上昇させることができる。
【0066】
銅濃度を上昇させた塩素浸出液は、従来法に係る濃度調整工程、銅電解採取工程を通さずに、銅濃度調整液として置換浸出工程に供給される。
本発明は、図2(a)の従来法と、図2(b)の本発明法を組み合わせることにより、塩素浸出液の銅濃度の低下と上昇を自在に切替える方法である。
この方法は、従来技術に係る設備を利用し、金属ニッケルまたは金属銅を充填した複数のカラム槽と、切替え配管、切替えバルブによって、簡単に実施することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0068】
500mLのビーカーに10mm×10mm×1mmサイズに切断した金属銅を500g装入した。
その金属銅が装入された500mLビーカーに、表2に示した組成のニッケル電解廃液で希釈した塩素浸出液を3.4mL/分の流量で通液した。
その時のSV比(空間速度)は0.5である。
【0069】
【表2】
【0070】
図3は、金属銅と接触させた後の塩素浸出液のCu濃度の経時変化を示している。そのCu濃度の測定は、ICP−AES法により行った。
図3から、通液を開始してから1時間後にはCu濃度が約33g/Lに上昇し、1時間後以降、Cu濃度が安定すること、すなわち銅の溶解が安定して進行することが分かる。
【実施例2】
【0071】
実施例1と同様に、500gの金属銅が装入された500mLビーカーに、表2に示した組成の塩素浸出液を、SV比(空間速度)が1.2及び2.5になるように通液した。
【0072】
図4は、この時のSV比と溶解速度の関係を示すものである。
銅の溶解が十分に安定した3時間後のCu濃度を用いて、銅濃度の増加量[g/L]×通液量[L/h]を、溶解速度[g/h]と定義した。なお、Cu濃度の測定は実施例1と同様にICP−AES法により行った。
図4から、金属銅の充填量と通液流量を適切に管理すれば、塩素浸出液のCu濃度を定量的に上昇させる、すなわちコントロールすることができることが分かる。
【0073】
図5は、SV比と酸化還元電位の関係を示すものである。
塩素浸出液の酸化還元電位(560mV)に対して、金属銅と接触させた後の塩素浸出液の酸化還元電位は大きく低下しており、還元反応が進行していることが分かる。
また酸化還元電位が約430mVにおける2価銅比は10%程度であるため、SV比が0.5でも、金属銅の溶解が十分に進行していることが分かる。
【実施例3】
【0074】
実機設備である、容積6m、硬質ゴムが内面にライニングされた圧延鋼製のカラム槽に、100mm×100mm×18mmのサイズに切断した金属銅24100kgを装入した。
そのカラム槽に、塩素浸出液を38〜42L/分の流量で通液した操業を、約5日間、継続した。
【0075】
得られた塩素浸出液の組成は、Ni濃度が202〜249g/L、Cu濃度が21〜28g/Lであり、金属銅と接触させた後の塩素浸出液のCu濃度は26〜35g/Lとなった。
また、塩素浸出液の酸化還元電位は480〜510mV、2価銅比は51〜72%、金属銅と接触させた後の塩素浸出液の酸化還元電位は430〜450mV、2価銅比は14〜27%であった。
【実施例4】
【0076】
実機設備である、容積6m、硬質ゴムが内面にライニングされた圧延鋼製のカラム槽に、充填量が20〜24tになるように、100mm×100mm×15mmのサイズに切断した金属ニッケルを約1日毎に追い足し装入した。
そのカラム槽に、塩素浸出液を140〜180L/分の流量で通液した操業を、約7日間、継続した。
【0077】
1槽当たりアノードが24枚、カソードが23枚載置された脱銅電解槽を8槽用いて、12000A/槽の通電電流にて、約7日間の銅電解採取操業を実施した。
その際、金属ニッケルが充填されたカラム槽に通液した後の塩素浸出液を、Cu濃度が15〜25g/Lになるようにニッケル電解廃液で希釈して、銅電解給液を調製して用いた。
その銅電解給液量は18〜22L/分・槽で、その銅電解給液の組成は、Ni濃度が159〜200g/L、Cu濃度が18〜25g/Lであり、銅電解廃液のCu濃度は10〜14g/Lであった。
図1
図2
図3
図4
図5