特許第6332538号(P6332538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332538リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6332538
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180521BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180521BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   C01B25/45 Z
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-187449(P2017-187449)
(22)【出願日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年11月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】北川 高郎
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−195156(JP,A)
【文献】 特開2017−143049(JP,A)
【文献】 特表2016−524307(JP,A)
【文献】 特開2015−069822(JP,A)
【文献】 特許第6176381(JP,B1)
【文献】 国際公開第2011/030786(WO,A1)
【文献】 特許第6288340(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/13− 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、
前記二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、前記二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下であり、
前記中心粒子が一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記中心粒子がLiFePOであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記二次粒子の粒度分布において、1.0μm以上かつ45.0μm以下の範囲に最大ピークを有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.07以上かつ0.25以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であって、
中心粒子および前記中心粒子の前駆体の製造工程と、
前記中心粒子および前記中心粒子の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させて、スラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程と、を有し、
前記スラリー調製工程において、分散処理後の中心粒子の粒度分布におけるメディアン径と、分散処理前の中心粒子の結晶子径から算出される結晶子径との比(メディアン径/結晶子径)が1.00以上かつ2.10以下、および、分散後のメディアン径が100nm以上かつ160nmに調整することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン二次電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とから構成されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料の負極活物質としては、一般に炭素系材料またはリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そのようなLi含有金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)が挙げられる。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池の正極としては、正極材料およびバインダー等を含む正極材料合剤が用いられている。正極活物質としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そして、この正極材料合剤を電極集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより、リチウムイオン二次電池の正極が形成される。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電解液には非水系溶媒が用いられる。非水系溶媒としては、高電位で酸化還元する正極活物質や、低電位で酸化還元する負極活物質を適用することができる。これにより、高電圧を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の従来の二次電池と比べて、軽量かつ小型であるとともに、高エネルギーを有している。そのため、リチウムイオン二次電池は、携帯用電話機およびノート型パーソナルコンピューター等の携帯用電子機器に用いられる小型電源のみならず、定置式の非常用大型電源としても用いられている。
【0006】
近年、リチウムイオン二次電池の性能向上が求められ、種々検討されている。例えば、リチウムイオン二次電池を高電流密度領域で使用する場合、性能向上のためには、さらなる電子伝導性の向上が求められる。このような物性要求に対しては、正極活物質の表面を炭素質の材料(以下、「炭素質被膜」と言うことがある。)で被覆する技術が知られている。これらの正極材料の製造方法としては、正極活物質または正極活物質の前駆体と、有機化合物とを含むスラリーを噴霧し、乾燥して造粒体を生成し、この造粒体を500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて熱処理することが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−014340号公報
【特許文献2】特開2009−004371号公報
【特許文献3】特開2011−049161号公報
【特許文献4】特開2012−104290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を製造するためには、電極内の構造を均一にする必要がある。そのためには、分散性能が高い混練装置を用いてスラリーの均一性を高めることが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載されているような、粒子表面に導電性炭素質被膜を有する一次粒子からなる造粒体を正極材料として用いる場合、分散性能が高い混練装置を用いると、強いせん断力が造粒体にかかる。そのため、造粒体の崩壊が生じ、電子伝導性の低下と、これに伴うレート特性の劣化が生じるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、分散性能の高い混練装置を用いた場合においても、造粒体の崩壊による電子伝導性の低下を引き起こし難いリチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、並びに、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)を0.03以上かつ0.30以下とし、前記中心粒子が一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされることにより、分散性能の高い混練装置を用いた場合においても、造粒体が崩壊し難く、造粒体の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、前記二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、前記二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下であり、前記中心粒子が一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であって、中心粒子および前記中心粒子の前駆体の製造工程と、前記中心粒子および前記中心粒子の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させて、スラリーを調製するスラリー調製工程と、前記スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程と、を有し、前記スラリー調製工程において、分散処理後の中心粒子の粒度分布におけるメディアン径と、分散処理前の中心粒子の結晶子径から算出される結晶子径との比(メディアン径/結晶子径)が1.00以上かつ2.10以下、および、分散後のメディアン径が100nm以上かつ160nmに調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下であるため、分散性能の高い混練装置を用いた場合においても、造粒体が崩壊し難く、造粒体の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制することができるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することができる。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、電極内の構造が均一であり、かつ電極内の電子伝導性が高いリチウムイオン二次電池用正極が得られる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法によれば、スラリー調製工程において、分散処理後の中心粒子の粒度分布におけるメディアン径と、分散処理前の中心粒子の結晶子径から算出される結晶子径との比(メディアン径/結晶子径)を指標として、前記中心粒子の凝集度を調整するため、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例および比較例において、リチウムイオン二次電池用正極材料の粒度分布図である。
図2】実施例および比較例において、リチウムイオン二次電池用正極材料をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下である。
【0022】
二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)は0.03以上かつ0.30以下であり、0.07以上かつ0.25以下であることが好ましい。
造粒体崩壊度が0.03未満では、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーを混練する際に、二次粒子がほとんど崩れないため、電極集電体との接触頻度が少なくなり、電極集電体と活物質間の電子伝導性が低下する。一方、造粒体崩壊度が0.30を超えると、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーを混練する際に、二次粒子が崩壊し易く、二次粒子の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制することができない。
【0023】
リチウムイオン二次電池用正極材料をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された二次粒子の粒度分布は、1.0μm以上かつ45.0μm以下の範囲に最大ピークを有することが好ましく、2.0μm以上かつ25.0μm以下の範囲に最大ピークを有することがより好ましい。
二次粒子の粒度分布が1.0μm以上に最大ピークを有すれば、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーの粘度が低くなり、電極集電体へのスラリーの塗工性が良好となる。一方、二次粒子の粒度分布が45.0μm以下に最大ピークを有すれば、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーを用いて、電極集電体上に形成した正極合剤層の表面の凹凸を減らすことができるため、短絡や電流密度の不均一化を抑制できる。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料をなす二次粒子は、中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子(一次粒子)が造粒されたものである。本実施形態における二次粒子は、それを構成する活物質粒子(一次粒子)同士の間に細孔(空隙)を有する。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料をなす二次粒子の細孔径は、80nm以上かつ1000nm以下であることが好ましく、100nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
二次粒子の細孔径が80nm以上であると、二次粒子の内部まで電解液が浸透し易くなり、二次粒子内のリチウムイオンの移動が容易となる。一方、二次粒子の細孔径が1000nm以下であると、活物質粒子(一次粒子)同士の接触頻度が高く、二次粒子の強度が高くなる。そのため、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーを混練する際に、二次粒子が崩壊し難く、二次粒子の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制できる。
【0026】
二次粒子の細孔径は、水銀ポロシメーター(水銀圧入法、装置名:POREMASTER、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)により測定することができる。
【0027】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における活物質粒子の平均一次粒子径は、10nm以上かつ700nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
活物質粒子の平均一次粒子径が10nm以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量の増加を抑制し、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、活物質粒子の平均一次粒子径が700nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が長くなることを抑制できる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増加して出力特性が悪化することを抑制できる。
【0028】
ここで、平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。活物質粒子の平均一次粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察した一次粒子を任意に複数個選択し、その一次粒子の平均粒子径を算出してもよい。
【0029】
リチウムイオン二次電池用正極材料のBET比表面積は、5m/g以上かつ25m/g以下であることが好ましい。
BET比表面積が5m/g以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムイオンの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。また、二次粒子内部における活物質粒子間の接触頻度が大きくなるので、二次粒子の強度を高めることができる。一方、BET比表面積が25m/g以下であると、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極の空隙率が高くなり過ぎるのを防ぐことができる。そのため、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0030】
リチウムイオン二次電池用正極材料のBET比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
リチウムイオン二次電池用正極材料の平均二次粒子径は、1.0μm以上かつ45.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以上かつ25.0μm以下であることがより好ましい。
平均二次粒子径が1.0μm以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーの粘度が低くなり、集電体へのスラリーの塗工性が良好となる。一方、平均二次粒子径が45.0μm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を含むスラリーを用いて、電極集電体上に形成した正極合剤層の表面の凹凸を減らすことができるため、短絡や電流密度の不均一化を抑制できる。
【0032】
リチウムイオン二次電池用正極材料に含まれる炭素量、すなわち、炭素質被膜を形成する炭素量は、中心粒子100質量部に対して、0.1質量部以上かつ10質量部以下であることが好ましく、0.6質量部以上かつ3質量部以下であることがより好ましい。
炭素量が0.1質量部以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素量が10質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0033】
リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積に対する炭素量の割合(「[炭素量]/[正極材料の一次粒子の比表面積]」)は、0.01質量%・g/m以上かつ0.5質量%・g/m以下であることが好ましく、0.03質量%・g/m以上かつ0.3質量%・g/m以下であることがより好ましい。
炭素量の割合が0.01質量%・g/m以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素量の割合 が0.5質量%・g/m以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0034】
(中心粒子)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子は、電気化学的に活性であれば特に限定されないが、一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表される組成であると、リチウムイオン二次電池のレート特性が良好となる。
なお、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの15元素のことである。
【0035】
一般式LiFePOで表わされる化合物としては、例えば、LiFePO、LiFe0.95Mg0.05PO、Li0.95Fe0.95Al0.05PO、LiFe0.95Mg0.05PO、Li0.95Fe0.95Al0.05PO等が挙げられる。これらの中でも、電気化学的活性を示さない金属が含まれておらず、理論上のエネルギー密度が最も高くなる点から、LiFePOが好ましい。
【0036】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800m以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が5nm以上であると、中心粒子の一次粒子の表面を炭素質被膜で充分に被覆することができる。そして、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量を高くし、充分な充放電性能を実現することができる。一方、中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が800nm以下であると、中心粒子の一次粒子の内部抵抗を小さくすることができる。そして、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
【0037】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の凝集体からなる正極活物質を生成し易いことから、中心粒子の一次粒子の形状は球状であることが好ましい。
中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、リチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、スラリーを調製する際の溶剤量を低減することができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、電極集電体へのスラリーの塗工が容易となる。さらに、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、中心粒子の一次粒子の表面積が最小となり、スラリーにおけるバインダー樹脂(結着剤)の配合量を最小限にすることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いた正極の内部抵抗を小さくすることができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、リチウムイオン二次電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0038】
(炭素質被膜)
炭素質被膜は、中心粒子の表面を被覆する。
中心粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の電子伝導性を向上させることができる。
【0039】
炭素質被膜は、熱処理された有機化合物に由来する熱分解炭素質被膜であり、前記炭素質被膜の厚さは、0.2nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上かつ4nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚さが0.2nm以上であると、炭素質被膜の厚さが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成できなくなることを抑制できる。そして、リチウムイオン二次電池用正極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚さが10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
【0040】
また、炭素質被膜の厚さが0.2nm以上かつ10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極における単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0041】
中心粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上かつ95%以下であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
【0042】
炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下であることが好ましく、0.4g/cm以上かつ1.0g/cm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であれば、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示すからである。一方、炭素質被膜の密度が1.5g/cm以下であれば、炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)を0.03以上かつ0.30以下とすることにより、分散性能の高い混練装置を用いた場合においても、造粒体が崩壊し難く、造粒体の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制することができるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することができる。
【0044】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、例えば、中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程と、中心粒子および中心粒子の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の中心粒子原料と、炭素質被膜前駆体である有機化合物とを、水に溶解または分散させて、スラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程と、を有する。
【0045】
(中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程)
一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表される化合物(中心粒子)の製造方法としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法が用いられる。このような方法で得られたLiFePOとしては、例えば、粒子状のもの(以下、「LiFePO粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
【0046】
LiFePO粒子は、例えば、Li源と、Fe源と、P源と、水と、必要に応じてM源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、LiFePOは、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、LiFePOの前駆体であってもよい。この場合、LiFePOの前駆体を焼成することで、目的のLiFePO粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0047】
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩および水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらの中でも、Li源としては、酢酸リチウム、塩化リチウムおよび水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0048】
Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩が挙げられる。これらの中でも、Fe源としては、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)および硫酸鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0049】
P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0050】
M源としては、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0051】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程により、中心粒子間に、炭素質被膜の前駆体である有機化合物が介在し、それらが均一に混合するため、中心粒子の表面を有機化合物でムラなく被覆することができる。
中心粒子原料と有機化合物とを、水に溶解あるいは分散させて、均一なスラリーを調製する。この溶解あるいは分散の際には、分散剤を加えてもよく、炭素源である有機化合物に分散剤としての機能を持たせてもよい。
中心粒子原料と有機化合物とを、水に溶解あるいは分散させる方法としては、電極活物質が分散し、有機化合物が溶解または分散する方法であれば、特に限定されないが、例えば、ボールミル、サンドミル等の媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
また、中心粒子の凝集度を調整することで、二次粒子内の活物質粒子同士の接触頻度を調整し、二次粒子の強度(造粒体崩壊度)を制御することができる。
さらに、焼成工程により、中心粒子の表面を被覆する有機化合物が炭化することにより、炭素質被膜が均一に被覆された中心粒子を含む正極活物質粒子(正極材料)が得られる。
【0052】
本実施形態における正極活物質の製造方法で用いられる有機化合物としては、中心粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されない。このような有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、エチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール等が挙げられる。
【0053】
スラリー調製工程では、中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させて、均一なスラリーを調製する。
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させる際には、分散剤を加えることもできる。また、同時に中心粒子の凝集度を調整することにより、二次粒子の強度(造粒体崩壊度)を制御する。
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させつつ、中心粒子の凝集度を調整する方法としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が挙げられる。
【0054】
ここで、中心粒子同士の凝集度を制御する指標として、媒体撹拌型分散装置を用いた分散処理後の粒度分布におけるメディアン径と、分散処理前の結晶子径から算出される結晶子径との比(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))が挙げられる。(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))が大きい値を示すほど、中心粒子の凝集度が高く、二次粒子内の活物質粒子同士の接触頻度の高い箇所と低い箇所のバラツキが大きくなるため、二次粒子の強度が低下し、造粒体崩壊度が大きい値を示すようになる。一方、(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))が小さい値を示すほど、中心粒子の凝集度が低く、二次粒子内の活物質粒子同士の接触頻度が全体的に均一に高くなるため、二次粒子の強度が向上し、造粒体崩壊度が小さい値を示すようになる。媒体撹拌型分散装置の分散強度が低いと(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))の値は大きくなり、媒体撹拌型分散装置の分散強度が高いと(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))の値は小さくなる。
また、中心粒子同士の凝集度および(メディアン径(nm)/結晶子径(nm))の制御を行うために、分散処理前の活物質粒子の結晶子径は、30nm以上かつ300nm以下であることが好ましく、80nm以上かつ130nm以下であることがより好ましい。媒体撹拌型分散装置を用いた分散処理後の粒度分布におけるメディアン径は、80nm以上かつ200nm以下であることが好ましく、100nm以上かつ160nm以下であることがより好ましい。
【0055】
(焼成工程)
次いで、スラリー調製工程で調製したスラリーを、高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
次いで、得られた乾燥物を、非酸化性雰囲気下、好ましくは600℃以上かつ1000℃以下、より好ましくは650℃以上かつ840℃以下の温度にて、0.1時間以上かつ40時間以下焼成する。
【0056】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる雰囲気が好ましい。乾燥物の酸化をより抑えたい場合には、水素(H)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去することを目的として、非酸化性雰囲気中に酸素(O)等の支燃性ガスまたは可燃性ガスを導入してもよい。
【0057】
ここで、焼成温度を600℃以上とすることにより、乾燥物に含まれる有機化合物の分解および反応が充分に進行し易く、有機化合物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた凝集体中に高抵抗の有機化合物の分解物が生成することを防止し易い。また、焼成温度を650℃以上とすることで、焼成物を正極活物質粒子として使用した電極をプレスする際に、電極の空隙率が高くなり過ぎないため、正極合剤層中の電子移動抵抗が小さくなり、エネルギー密度が向上する。一方、焼成温度を1000℃以下とすることにより、中心粒子原料中のリチウム(Li)が蒸発し難く、また、中心粒子が目的の大きさ以上に粒成長することが抑制される。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止でき、充分な充放電レート性能を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。また、焼成温度を840℃以下とすることで、焼成物を正極活物質として用いた電極を加圧する際に、電極の空隙率が低くなり過ぎない。そのため、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による耐久性の劣化を抑えることが可能となる。
【0058】
以上により、乾燥物中の有機化合物が熱分解して生成した熱分解炭素質被膜により中心粒子の一次粒子の表面が被覆された活物質粒子で造粒された二次粒子が得られる。
【0059】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、一般式LiFePO(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを有する活物質粒子で造粒された二次粒子を含む。
【0060】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、金属箔からなる電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0061】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、レート特性に優れる。
【0062】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極材料ペーストを調製する。この際、本実施形態における正極材料ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック等の導電助剤を添加してもよい。
【0063】
「結着剤」
結着剤、すなわち、バインダー樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0064】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられる結着剤の配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池用正極材料100質量部に対して、1質量部以上かつ30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上かつ20質量部以下であることがより好ましい。
結着剤の配合量が1質量部以上であると、正極合剤層と電極集電体との間の結着性を充分に高くすることができる。これにより、正極合剤層の圧延形成時等において正極合剤層の割れや脱落が生じることを抑制できる。また、リチウムイオン二次電池の充放電過程において、正極合剤層が電極集電体から剥離し、電池容量および充放電レートが低下することを抑制できる。一方、結着剤の配合量が30質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の内部抵抗が低下し、高速充放電レートにおける電池容量が低下することを抑制できる。
【0065】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等の粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0066】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、結着剤の性質に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;並びに、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカーおよびホモジナイザー等の混錬機を用いた混合方法が挙げられる。
【0069】
正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤との混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。
その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を得る。
【0070】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極である。具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極としての本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、非水電解質と、を備えてなる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質およびセパレータは特に限定されない。
【0071】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0072】
「非水電解質」
非水電解質としては、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解したものが挙げられる。
【0073】
「セパレータ」
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0074】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、高エネルギー密度であり、入出力特性に優れる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
「リチウムイオン二次電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、200℃にて6時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール4.5gと、純水と、媒体粒子としての直径0.1mmのジルコニアボールとを用いて、サンドミルにて分散処理を行った。この際、スラリー質量を分母とし、正極活物質の質量を分子とした時の割合が0.5になるように純水量を調整した。また、サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を135nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.10となる点をサンドミル分散の終点とした。
次いで、このスラリーを170℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、700℃にて1.5時間焼成することで、炭素質被膜で被覆された造粒体の正極材料1を得た。
【0077】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料1と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料1:AB:PVdF=94.5:0.5:5となるように加えて、これらを混合し、混練機(プライミクス社製、商品名:FILMIX)を用いて、35m/secの条件で1分間混練し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。正極合剤層の量は、リン酸鉄リチウムの理論容量を170mAh/gとして計算した場合の容量密度が2.8mAh/cmとなるように調整した。
その後、正極合剤層の厚さが90μmとなるまで加圧し、実施例1の正極1を作製した。
【0078】
この正極1に対し、負極としてリチウム金属を配置し、これら正極1と負極との間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレータを配置し、電池用部材1とした。
一方、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに1mol/LのLiPF溶液を加えて、リチウムイオン伝導性を有する電解質溶液1を作製した。
次いで、電池用部材1を電解質溶液1に浸漬し、実施例1のリチウムイオン二次電池1を作製した。
【0079】
[実施例2]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を131nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.07となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料2を得た。
正極材料2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池2を作製した。
【0080】
[実施例3]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を127nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.03となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料3を得た。
正極材料3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池3を作製した。
【0081】
[実施例4]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を124nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.01となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料4を得た。
正極材料4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池4を作製した。
【0082】
[実施例5]
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、180℃にて3時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール4.5gと、純水と、媒体粒子としての直径0.1mmのジルコニアボールとを用いて、サンドミルにて分散処理を行った。この際、スラリー質量を分母とし、正極活物質の質量を分子とした時の割合が0.5になるように純水量を調整した。また、サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を125nmに調整し、サンドミル前の結晶子径105nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.19となる点をサンドミル分散の終点とした。
次いで、このスラリーを170℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、700℃にて1.5時間焼成することで炭素質被膜で被覆された造粒体の正極材料5を得た。
正極材料5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池5を作製した。
【0083】
[実施例6]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を114nmに調整し、サンドミル前の結晶子径105nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.09となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極材料6を得た。
正極材料6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池6を作製した。
【0084】
[実施例7]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を109nmに調整し、サンドミル前の結晶子径105nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.04となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の正極材料7を得た。
正極材料7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池7を作製した。
【0085】
[実施例8]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を107nmに調整し、サンドミル前の結晶子径105nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.02となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の正極材料8を得た。
正極材料8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池8を作製した。
【0086】
[実施例9]
「リチウムイオン二次電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、150℃にて1時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール4.5gと、純水と、媒体粒子としての直径0.1mmのジルコニアボールとを用いて、サンドミルにて分散処理を行った。この際、スラリー質量を分母とし、正極活物質の質量を分子とした時の割合が0.5になるように純水量を調整した。また、サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を171nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が2.09となる点をサンドミル分散の終点とした。
次いで、このスラリーを170℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極材料の造粒体造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、700℃にて1.5時間焼成することで、炭素質被膜で被覆された造粒体の正極材料9を得た。
正極材料9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン二次電池9を作製した。
【0087】
[実施例10]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を118nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.44となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例9と同様にして、実施例10の正極材料10を得た。
正極材料10を用いたこと以外は実施例9と同様にして、実施例10のリチウムイオン二次電池10を作製した。
【0088】
[実施例11]
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を101nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.23となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例9と同様にして、実施例11の正極材料11を得た。
正極材料11を用いたこと以外は実施例9と同様にして、実施例11のリチウムイオン二次電池11を作製した。
【0089】
「比較例1」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を243nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.98となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料21を得た。
正極材料21を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池21を作製した。
【0090】
「比較例2」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を162nmに調整し、サンドミル前の結晶子径123nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.32となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料22を得た。
正極材料22を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池22を作製した。
【0091】
「比較例3」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を264nmに調整し、サンドミル前の結晶子径105nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が2.51となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例5と同様にして、比較例3の正極材料23を得た。
正極材料23を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池23を作製した。
【0092】
「比較例4」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を301nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が3.67となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例9と同様にして、比較例4の正極材料24を得た。
正極材料24を用いたこと以外は実施例9と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池24を作製した。
【0093】
「比較例5」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を93nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.13となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例9と同様にして、比較例5の正極材料25を得た。
正極材料25を用いたこと以外は実施例9と同様にして、比較例5のリチウムイオン二次電池25を作製した。
【0094】
「比較例6」
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布におけるメディアン径を91nmに調整し、サンドミル前の結晶子径82nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.11となる点をサンドミル分散の終点としたこと以外は実施例9と同様にして、比較例6の正極材料26を得た。
正極材料26を用いたこと以外は実施例9と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池26を作製した。
【0095】
[リチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価]
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例6の正極活物質、サンドミル後のスラリー、リチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池について、以下の通り、評価を行った。
【0096】
(1)サンドミル前の結晶子径
サンドミル前の結晶子径は以下の方法で測定した。
まず、水熱合成後の沈殿物を水洗することで得られる正極活物質を大気中120℃で乾燥し、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、XRD測定用の試料ホルダーに充填し、測定装置(商品名:X’pert MPD,PANalytical社製)を用いてXRD測定を行った。XRD測定条件は下記の通りである。
【0097】
<XRD測定条件>
線源:Cu−Kα
ステップサイズ:0.01°/step
スキャン速度 3秒/step
【0098】
得られたXRD回折パターンにおいて、2θが28.8−30.8°の範囲にあるピークの半値幅(B)から結晶子径を算出した。結晶子径の算出式は下記の通りである。
【0099】
<結晶子径算出式>
結晶子径(nm)={0.9×1.5418×0.1}/{β(Å)×COS(29.78/2×π/2)}
β=(B−b
b:基準試料Siの半値幅(2θ=47.3°)
【0100】
(2)サンドミル後のメディアン径
サンドミル後の分散スラリーの粒度分布は、以下の方法で測定した。
測定装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いて測定した。
サンドミル分散処理後のスラリーを用いて粒度分布を測定した。サンドミル分散処理後のスラリーデータ取り込み回数を半導体レーザー(LD)5000回、発光ダイオード(LED)1000回として測定し、データの演算条件は下記の通りとした。
【0101】
<演算条件>
(サンプル屈折率)
LD実部:1.70
LD虚部:0.20
LED実部:1.70
LED虚部:0.20
(分散媒屈折率)
LD実部:1.33
LD虚部:0.00
LED実部:1.33
LED虚部:0.00
(反復回数):15回
(粒子径基準):体積
(演算アルゴリズム):標準演算
【0102】
(3)造粒体崩壊度
リチウムイオン二次電池用正極材料における造粒体崩壊度は、二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bを用いて下記式から算出される。
造粒体崩壊度=(相対粒子量а−相対粒子量b)/相対粒子量a
相対粒子量aおよび相対粒子量bは下記の方法で測定した。
【0103】
(i)相対粒子量a
リチウムイオン二次電池用正極材料0.1gと純水40gを75mlのポリ容器に入れ、蓋を閉め、10回手振りを行い、混合溶液を調製した。
次いで、この混合溶液を用いて二次粒子の粒度分布を測定した。得られた二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量を相対粒子量aとした。
【0104】
(ii)相対粒子量b
リチウムイオン二次電池用正極材料47gと純水47aとポリビニルピロリドン(PVP)0.47gを75mlのポリ容器に入れ、蓋を閉め、30回手振りを行った後、このスラリーを分散処理した。
分散処理はホモジナイザー(本体商品名:T25 digital ULTRA−TURRAX、シャフトジェネレーター商品名:S25N−18G、IKA社製)を用いて、回転数8500rpm、処理時間4minにて行った。
このホモジナイザー処理後のスラリーを用いて二次粒子の粒度分布を測定した。
ここで、二次粒子径が1.0μm以上かつ45.0μm以下の範囲内にある相対粒子量(%)の最大ピークの相対粒子量bとした。
【0105】
相対粒子量aおよび相対粒子量bの算出に用いる二次粒子の粒度分布を、測定装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いて測定した。粒度分布は、データ取り込み回数を半導体レーザー(LD)5000回、発光ダイオード(LED)1000回として測定し、データの演算条件は下記の通りとした。
【0106】
<演算条件>
LD実部:1.70
LD虚部:0.20
LED実部:1.70
LED虚部:0.20
(分散媒屈折率)
LD実部:1.33
LD虚部:0.00
LED実部:1.33
LED虚部:0.00
(反復回数):15回
(粒子径基準):体積
(演算アルゴリズム):標準演算
相対粒子量aおよび相対粒子量bの算出に用いる粒度分布を測定した結果は図1または図2に示すように出力される。
【0107】
(4)BET比表面積
リチウムイオン二次電池用正極材料のBET比表面積は、測定装置(商品名:HM model−1208、マウンテック社製)を用いて、一点法、相対圧0.29(P/P)にて測定した。
【0108】
(5)炭素量
リチウムイオン二次電池用正極材料の炭素量は、炭素硫黄分析装置(商品名:EMIA−220V、堀場製作所製)を用いて測定した。
【0109】
(6)200サイクル後5C放電容量
リチウムイオン二次電池の200サイクル後5C放電容量は、以下の方法で測定した。
まず、25℃環境下で、電流値2.0Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値2.0Cにて電池電圧が2.5Vになるまで放電したところまでを1サイクルとし、これを200サイクル繰り返した。
次いで、25℃環境下で、電流値0.5Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値5.0Cにて電池電圧が2.5Vになるまで放電した際の放電容量を200サイクル後5C放電容量とした。
また、200サイクル後5C放電容量が70mAh/g以上の場合、レート特性を○、70mAh/g未満の場合、レート特性を×と評価した。
【0110】
「評価結果」
実施例1〜実施例11のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価結果、並びに、比較例1〜比較例6のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価結果を表1に示す。
また、実施例1、実施例2および比較例2におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の粒度分布図を図1に、実施例1、実施例2および比較例2におけるリチウムイオン二次電池用正極材料をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布図を図2に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の結果から、実施例1〜実施例11と、比較例1〜比較例6とを比較すると、造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.30より大きくかつ0.03未満である比較例1〜比較例6は、200サイクル後5C放電容量が70mAh/g未満であり、レート特性に乏しいことが分かった。比較例1〜比較例4に関しては、造粒体が崩壊し易いため、混練機で混練する際に造粒体が過剰に崩壊し、これに伴って電子伝導性が低下したためであると考えられる。また、比較例5および比較例6に関しては、造粒体がほとんど崩れないため、電極集電体との接触頻度が少なくなり、電極集電体と活物質粒子間の電子伝導性が低下したためと考えられる。
一方、造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.30以下かつ0.03以上である実施例1〜実施例11は、200サイクル後5C放電容量が70mAh/g以上であり、レート特性に優れることが分かった。これは、混練機で混練する際に造粒体の崩壊頻度が比較例1〜比較例4に比べて低く、造粒体の崩壊に伴う電子伝導性の低下を抑制できたため、かつ混練機で混練する際の造粒体の崩壊速度が比較例5および比較例6に比べて高く、集電体と活物質粒子間の接触頻度の低下を抑制できたためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度、および耐久性に優れるため、移動体用途を初めとするリチウムイオン二次電池の信頼性の進歩に大きく貢献することができる。
【要約】
【課題】分散性能の高い混練装置を用いた場合においても、造粒体の崩壊による電子伝導性の低下を引き起こし難いリチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、並びに、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子で造粒された二次粒子からなり、前記二次粒子の粒度分布における最大ピークの相対粒子量aと、前記二次粒子をホモジナイザーにて分散処理した後に測定された粒度分布における最大ピークの相対粒子量bとから算出される造粒体崩壊度((a−b)/a)が0.03以上かつ0.30以下である。
【選択図】なし
図1
図2