特許第6332646号(P6332646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332646活性エステル基を含有するシラン化合物とそれを用いた材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332646
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】活性エステル基を含有するシラン化合物とそれを用いた材料
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20180521BHJP
   G01N 33/547 20060101ALI20180521BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20180521BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20180521BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20180521BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C07F7/18 TCSP
   G01N33/547
   C12M1/00 A
   C12M1/00 C
   C12M3/00 A
   C12M1/34 F
   C12M1/34 B
   A61K47/24
   G01N33/552
   G01N33/545 Z
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-527335(P2015-527335)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2014069056
(87)【国際公開番号】WO2015008834
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-149487(P2013-149487)
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西野 泰斗
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−225789(JP,A)
【文献】 特開2007−186472(JP,A)
【文献】 特開2006−143715(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/038901(WO,A1)
【文献】 特開2012−180324(JP,A)
【文献】 特開2000−336093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
C12M
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるシラン化合物。
【化1】
[式(1)中、
1は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキル基を表わし、
2は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルコキシ基、ハロゲン原子又はそれらの組み合わせを表し、
aは、0乃至2の整数であり、
Xは、水素原子、フェニル基、又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
Yは、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、
Zは、式(1−1)又は式(1−2)で表される1価の有機基であり、
3乃至R5は、各々独立して、水素原子又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
1は、炭素原子数4乃至10の炭化水素環又は芳香環を表し、
bは、4以上の整数であり、その最大値はT1が取り得る最大の置換基数である。]
【請求項2】
前記Zが式(1−1)で表される1価の有機基であり、且つR3及びR4が水素原子である、請求項1に記載のシラン化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシラン化合物を被担持物質に担持させたシラン担持物。
【請求項4】
前記被担持物質が蛋白質、細胞、化合物又はそれらの組み合わせである、請求項3に記載のシラン担持物。
【請求項5】
前記蛋白質が抗体、疾患マーカー、細胞増殖因子、細胞接着因子又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載のシラン担持物。
【請求項6】
前記化合物がペプチド、アミノ酸、医薬品、生理活性物質又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載のシラン担持物。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のシラン化合物及び有機溶剤を含む、単分子層又は多分子層形成用組成物。
【請求項8】
更に水及び/又は有機酸を含む、請求項7に記載の単分子層又は多分子層形成用組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のシラン化合物にて表面修飾された基体。
【請求項10】
前記基体の表面修飾された面に被担持物質を担持させた、請求項9に記載の基体。
【請求項11】
前記被担持物質が蛋白質、細胞、化合物又はそれらの組み合わせである、請求項10に記載の基体。
【請求項12】
前記蛋白質が抗体、疾患マーカー、細胞増殖因子、細胞接着因子又はそれらの組み合わせである、請求項11に記載の基体。
【請求項13】
前記化合物がペプチド、アミノ酸、医薬品、生理活性物質又はそれらの組み合わせである、請求項11に記載の基体。
【請求項14】
前記基体が平板基板、不織布又は微粒子である、請求項9乃至請求項13の何れか1項に記載の基体。
【請求項15】
前記微粒子がシリカ系微粒子、プラスチック系微粒子、金属微粒子又は磁性微粒子である、請求項14に記載の基体。
【請求項16】
前記微粒子の直径が0.001μm乃至1000μmである、請求項14又は請求項15に記載の基体。
【請求項17】
請求項9乃至請求項16の何れか1項に記載の基体を用いて作製された細胞足場用材料。
【請求項18】
請求項9乃至請求項16の何れか1項に記載の基体を用いて作製された細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料。
【請求項19】
請求項7又は請求項8に記載の単分子層又は多分子層形成用組成物を基板に塗布する工程、その基板を乾燥する工程、その基板を洗浄する工程、及びその基板を乾燥する工程を含む、請求項9乃至請求項16の何れか1項に記載の基体の製造方法。
【請求項20】
請求項1に記載の式(1)で表されるシラン化合物の製造方法であって、
式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とを、非プロトン性溶媒中、塩基存在下、0乃至30℃で反応させて式(1)で表されるシラン化合物を得る工程を含む、製造方法。
【化2】
[式(1)乃至式(3)中、R1、R2、a、X、Y、及びZは、前記の定義と同じである。]
【請求項21】
シラン化合物を被担持物質に担持させたシラン担持物の製造方法であって、
請求項20に記載の式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とを反応させて式(1)で表されるシラン化合物を得る工程と、得られたシラン化合物を被担持物質に担持させる工程とを含む、製造方法。
【請求項22】
単分子層又は多分子層形成用組成物の製造方法であって、
請求項20に記載の式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とを反応させて式(1)で表されるシラン化合物を得る工程と、得られたシラン化合物を有機溶剤に溶解させる工程とを含む、製造方法。
【請求項23】
シラン化合物にて表面修飾された基体の製造方法であって、
請求項20に記載の式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とを反応させて式(1)で表されるシラン化合物を得る工程と、得られたシラン化合物を用いて基体表面をシラン化する工程とを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エステル基を含有するシラン化合物(本明細書では、「シランカップリング剤」とも称する。)に関し、詳細には、簡便に合成することができる、新規なシランカップリング剤、及び該シランカップリング剤を用いた材料に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、抗体、及び蛋白質などのバイオマテリアルをガラスやシリコンウエハ等の無機材料基板に固定化する技術は、細胞培養、細胞/蛋白質の分離・検出、ゲノム解析、及びプロテオーム解析の分野で有用であり、バイオマテリアルを無機材料基板に固定化する際に、架橋剤としてシランカップリング剤が使用されている。
そのため、現在までに、種々のシランカップリング剤が提案されている(特許文献1乃至特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−225789号公報
【特許文献2】特開2007−186472号公報
【特許文献3】特開2006−143715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1乃至特許文献3に記載されたシラン化合物は、複数の反応工程を経て合成されるため、その合成が煩雑であり、また工業的生産に向かないという問題がある。
そのため、市場において入手容易な化合物を用いて、簡便に合成することができるシラン化合物が望まれている。
そこで、本発明は、簡便に合成することができる、新規なシラン化合物の提供を目的とする。又、該シラン化合物に蛋白質、細胞、化合物等を担持させたシラン担持物、該シラン化合物を含む単分子層又は多分子層形成用組成物、該組成物又は該シラン担持物を用いて表面を修飾した高機能を有する基体の提供を目的とする。これらの基体は、例えば細胞足場用材料や細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料としての応用が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、第1観点として、式(1)で表されるシラン化合物に関する。
【化1】
[式(1)中、
1は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキル基を表わし、
2は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルコキシ基、ハロゲン原子又はそれらの組み合わせを表し、
aは、0乃至2の整数であり、
Xは、水素原子、フェニル基、又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
Yは、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、
Zは、式(1−1)又は式(1−2)で表される1価の有機基であり、
3乃至R5は、各々独立して、水素原子又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
1は、炭素原子数4乃至10の炭化水素環又は芳香環を表し、
bは、4以上の整数であり、その最大値はT1が取り得る最大の置換基数である。]
第2観点として、前記Zが式(1−1)で表される1価の有機基であり、且つR3及びR4が水素原子である、第1観点に記載のシラン化合物に関する。
第3観点として、第1観点又は第2観点に記載のシラン化合物を被担持物質に担持させたシラン担持物に関する。
第4観点として、前記被担持物質が蛋白質、細胞、化合物又はそれらの組み合わせである、第3観点に記載のシラン担持物に関する。
第5観点として、前記蛋白質が抗体、疾患マーカー、細胞増殖因子、細胞接着因子又はそれらの組み合わせである、第4観点に記載のシラン担持物に関する。
第6観点として、前記化合物がペプチド、アミノ酸、医薬品、生理活性物質又はそれらの組み合わせである、第4観点に記載のシラン担持物に関する。
第7観点として、第1観点又は第2観点に記載のシラン化合物及び有機溶剤を含む、単分子層又は多分子層形成用組成物に関する。
第8観点として、更に水及び/又は有機酸を含む、第7観点に記載の単分子層又は多分子層形成用組成物に関する。
第9観点として、第1観点又は第2観点に記載のシラン化合物にて表面修飾された基体に関する。
第10観点として、前記基体の表面修飾された面に被担持物質を担持させた、第9観点に記載の基体に関する。
第11観点として、前記被担持物質が蛋白質、細胞、化合物又はそれらの組み合わせである、第10観点に記載の基体に関する。
第12観点として、前記蛋白質が抗体、疾患マーカー、細胞増殖因子、細胞接着因子又はそれらの組み合わせである、第11観点に記載の基体に関する。
第13観点として、前記化合物がペプチド、アミノ酸、医薬品、生理活性物質又はそれらの組み合わせである、第11観点に記載の基体に関する。
第14観点として、前記基体が平板基板、不織布又は微粒子である、第9観点乃至第13観点の何れか1つに記載の基体に関する。
第15観点として、前記微粒子がシリカ系微粒子、プラスチック系微粒子、金属微粒子又は磁性微粒子である、第14観点に記載の基体に関する。
第16観点として、前記微粒子の直径が0.001μm乃至1000μmである、第14観点又は第15観点に記載の基体に関する。
第17観点として、第9観点乃至第16観点の何れか1つに記載の基体を用いて作製された細胞足場用材料に関する。
第18観点として、第9観点乃至第16観点の何れか1つに記載の基体を用いて作製された細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料に関する。
第19観点として、第7観点又は第8観点に記載の単分子層又は多分子層形成用組成物を基板に塗布する工程、その基板を乾燥する工程、その基板を洗浄する工程、及びその基板を乾燥する工程を含む、第9観点乃至第16観点の何れか1つに記載の基体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシラン化合物は、市場において入手容易な化合物を用いて、簡便に合成することができる。例えば、目的のシラン化合物を1工程のみで得ることができる。
本発明のシラン化合物は、細胞足場用材料、細胞・蛋白質分離用材料、及び細胞・蛋白質検出用材料などに有用である。
本発明の細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料は、細胞・蛋白質又は化合物を選択的に分離・検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、細胞付着試験において、実施例1で処理したガラス基板上のHepG2細胞の光学顕微鏡写真である。
図2図2は、細胞付着試験において、実施例2で処理したガラス基板上のHepG2細胞の光学顕微鏡写真である。
図3図3は、細胞付着試験において、実施例3で処理したガラス基板上のHepG2細胞の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[シラン化合物]
本発明は、式(1)で表されるシラン化合物である。
【化2】
[式(1)中、
1は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキル基を表わし、
2は、置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルコキシ基、ハロゲン原子又はそれらの組み合わせを表し、
aは、0乃至2の整数であり、
Xは、水素原子、フェニル基、又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
Yは、置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、
Zは、式(1−1)又は式(1−2)で表される1価の有機基であり、
3乃至R5は、各々独立して、水素原子又は置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
1は、炭素原子数4乃至10の炭化水素環又は芳香環を表し、
bは、4以上の整数であり、その最大値はT1が取り得る最大の置換基数である。]
【0009】
前記炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、及び第三ブチル基等が挙げられる。
前記炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、第三ブトキシ基、及びヘキシルオキシ基等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
前記炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、及び第三ブチル基等が挙げられる。
前記炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基、及びn−オクチレン基等が挙げられる。
【0010】
前記炭素原子数4乃至10の炭化水素環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、及びノルボルネン環等が挙げられる。
前記炭素原子数4乃至10の芳香環としては、ベンゼン環、及びナフタレン環等が挙げられる。
【0011】
なお、前記炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキル基、炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルコキシ基、炭素原子数1乃至6の直鎖又は分岐アルキル基、及び炭素原子数1乃至10の直鎖又は分岐アルキレン基は、任意の置換基、例えば、ヒドロキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、及びブトキシカルボニル基等によって置換されていてもよい。
【0012】
これらの中でも、より簡便に合成できる観点から、前記Zが式(1−1)で表される1価の有機基であり、且つR3及びR4が水素原子である、シラン化合物が好ましい。
【0013】
[シラン化合物の製造方法]
本発明のシラン化合物は、例えば、式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とを、非プロトン性溶媒中、塩基存在下で反応させることにより合成することができる。
【化3】
[式(1)乃至式(3)中、R1、R2、a、X、Y、及びZは、上記式(1)に記載された定義と同義である。]
【0014】
前記式(2)で表される化合物としては、アクリル酸 N−スクシンイミジル、メタクリル酸 N−スクシンイミジル、2−エチルアクリル酸 N−スクシンイミジル、2−ベンジルアクリル酸 N−スクシンイミジル、2−トリフルオロメチルアクリル酸 N−スクシンイミジル、アクリル酸 N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミジル、メタクリル酸 N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミジル、2−エチルアクリル酸 N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミジル、2−ベンジルアクリル酸 N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミジル、2−トリフルオロメチルアクリル酸 N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミジル、アクリル酸 N−ヒドロキシフタルイミジル、メタクリル酸 N−ヒドロキシフタルイミジル、2−エチルアクリル酸 N−ヒドロキシフタルイミジル、2−ベンジルアクリル酸 N−ヒドロキシフタルイミジル、及び2−トリフルオロメチルアクリル酸 N−ヒドロキシフタルイミジル等が挙げられる。
【0015】
前記式(3)で表される化合物としては、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(メトキシ)ジメチルシラン、3−メルカプトプロピル(エトキシ)ジメチルシラン、(3−メルカプトオクチル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトオクチル)トリエトキシシラン、3−メルカプトオクチル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトオクチル(ジエトキシ)メチルシラン、3−メルカプトオクチル(メトキシ)ジメチルシラン、及び3−メルカプトオクチル(エトキシ)ジメチルシラン等が挙げられる。
【0016】
前記式(3)で表される化合物の使用量は、前記式(2)で表される化合物の1モル当量に対して0.1乃至20倍モル当量、好ましくは0.5乃至10倍モル当量、より好ましくは1乃至5倍モル当量である。
【0017】
前記溶媒としては、非プロトン性であれば特に制限はないが、好ましくは、極性溶媒である。非プロトン性の極性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)等のアミド類;ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
前記塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の三級アミンが挙げられ、その中でもトリエチルアミンが好ましい。
前記塩基の使用量は、前記式(2)で表される化合物の1モル当量に対して0.001乃至20倍モル当量、好ましくは0.005乃至5倍モル当量、より好ましくは0.01乃至1倍モル当量である。
【0019】
反応条件として、反応時間は0.01乃至100時間、反応温度は0乃至100℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1乃至10時間で、反応温度が0乃至30℃である。
【0020】
[シラン化合物を被担持物質に担持させたシラン担持物]
本発明は、上記シラン化合物を被担持物質に担持させたシラン担持物である。
上記シラン化合物を被担持物質に担持させる方法としては、公知の方法が挙げられ、被担持物質を溶解・分散させた溶媒でシラン化合物を処理した後、乾燥もしくは加熱処理を行う方法等が挙げられる。
【0021】
前記被担持物質としては、蛋白質、細胞、及び化合物等が挙げられる。
前記蛋白質としては、癌胎児性抗原、扁平上皮癌関連抗原、サイトケラチン19フラグメント、シアル化糖鎖抗原 KL−6、ナトリウム利尿ペプチド、トロポニン、ミオグロビン等の疾患マーカー;インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−18(IL−18)、インターロイキン−21(IL−21)、インターフェロン−α(IFN−α)、インターフェロン−β(IFN−β)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、単球コロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、マクロファージ炎症蛋白質−1α(MIP−1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子−1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF−1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)、インシュリン、成長ホルモン等の細胞増殖因子;コラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン−1乃至12、ニトジェン、テネイシン,トロンボスポンジン,フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デスモグレイン、各種インテグリン、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ−D−リジン、ポリ−L−リジン等の細胞接着因子;及びIgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の各種抗体等が挙げられる。
【0022】
前記細胞としては、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられる。
【0023】
前記化合物としては、アンジオテンシンI乃至IV、ブラジキニン、フィブリノペプチド、ナトリウム利尿ペプチド、ウロディラチン、グアニリン、エンドセリン1乃至3、サリューシン、ウロテンシン、オキシトシン、ニューロフィジン、バソプレシン、副腎皮質刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、エンドルフィン、リポトロピン、ウロコルチン1乃至3、黄体形成ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、コルチスタチン、プロラクチン放出ペプチド、メタスチン、タキキニン、サブスタンスP、ニューロキニン、エンドキニン、ニューロテンシン、ニューロメジン、ゼニン、グレリン、オベスタチン、メラニン凝集ホルモン、オレキシン、ニューロペプチド、ダイノルフィン、ネオエンドルフィン、エンドモルフィン、ノシセプチン、ピログルタミル化RF アミドペプチド、ガラニン、ガストリン、コレシストキニン、セクレチン、リラキシン、グルカゴン、グリセンチン、アドレノメデュリン、アミリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ディフェンシン、チモシン等のペプチド;アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、ジヒドロキシフェニルアラニン、チロキシン、フォスフォセリン、デスモシン、β−アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γ−アミノ酪酸、テアニン、カイニン酸、ドウモイ酸、イボテン酸等のアミノ酸;アンピシリン、ストレプトマイシン、アンフェタミン、メスカリン、リン酸オセルタミビル、メトホルミン、ジフェンヒドラミン、エフェドリン塩酸塩、アマンタジン塩酸塩、プロカイン塩酸塩,クロルプロマジン,アミノ安息香酸エチル等の医薬品;D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、ノイラミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等の糖類;及びドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)、アトラジン、リニュロン、シマジン等の生理活性物質等が挙げられる。
【0024】
[単分子層又は多分子層形成用組成物]
本発明は、上記式(1)で表されるシラン化合物及び有機溶剤を含む、単分子層又は多分子層形成用組成物である。
本明細書等において、「単分子層」とは、基体に結合しているシラン化合物が一層に並んでいる状態をいう。一方、「多分子層」とは、基体に結合しているシラン化合物に、さらに別のシラン化合物が結合して、シラン化合物のいくつかの層が積み重なって形成されている状態をいう。
【0025】
本発明の単分子層又は多分子層形成用組成物に使用される有機溶剤としては、上記式(1)で表されるシラン化合物を溶解させることができれば特に限定されず、エーテル、エステル、炭化水素、ケトン、アルデヒド、又は高級アルコール等が挙げられ、例えばメチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メチルイソブチルカルビノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエテルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、3−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸メチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、3−メトキシプロピルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシブチルブチレート、アセト酢酸メチル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等を挙げることができる。これらの溶剤は単独で、または二種以上の組み合わせで使用することができる。
特にプロピレングリコールモノメチルエーテルは好ましく用いることができる。
【0026】
また、前記有機溶剤に上記式(1)で表されるシラン化合物を溶解させる濃度は任意であるが、上記式(1)で表されるシラン化合物と有機溶剤の総質量(合計質量)に対して、式(1)で表されるシラン化合物の濃度は0.001乃至90質量%であり、好ましくは0.002乃至80質量%であり、より好ましくは0.005乃至70質量%である。
【0027】
また、本発明の単分子層又は多分子層形成用組成物は、水及び/又は有機酸を含ませてもよい。
前記水としては、浄水、精製水、硬水、軟水、天然水、海洋深層水、電解アルカリイオン水、電解酸性イオン水、イオン水、及びクラスター水等が挙げられる。
前記有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、ミキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、及び酒石酸等を挙げることができる。
【0028】
前記組成物に含有される水の濃度は任意であるが、有機溶剤の総質量(二種以上の有機溶剤を使用する場合は、その合計質量)に対して、水の濃度は0.001乃至99質量%であり、好ましくは0.002乃至80質量%であり、より好ましくは0.005乃至50質量%である。
前記組成物に含有される有機酸の濃度は任意であるが、有機溶剤の総質量(二種以上の有機溶剤を使用する場合は、その合計質量)に対して、有機酸の濃度は0.001乃至50質量%であり、好ましくは0.002乃至30質量%であり、より好ましくは0.005乃至10質量%である。
【0029】
[表面修飾された基体、及び該基体の表面修飾された面に被担持物質を担持させた基体]
本発明は、上記シラン化合物にて表面修飾された基体である。
本発明の上記シラン化合物にて表面修飾させた基体は、基体表面をシラン化合物を用いてシラン化することにより得られる。
前記基体としては、本発明のシラン化合物により、表面がシラン化されるものであれば特に制限はないが、ガラス、シリカ、シリコンウエハ、アルミナ、タルク、クレー、アルミニウム、鉄、マイカ、酸化チタン、石英、基板、不織布、及び微粒子等を挙げることができる。また、基体の形状は、特に限定されず、板状、フィルム状又は3次元成形体等でもよい。
その中でも、平板基板、不織布、及び微粒子が好ましい。微粒子としては、シリカ系微粒子、プラスチック系微粒子、金属微粒子、及び磁性微粒子が好ましく、微粒子の直径は、通常、0.001μm乃至1000μm、好ましくは0.01μm乃至500μmである。
【0030】
シラン化する方法としては、公知の方法が挙げられ、本発明のシラン化合物を溶解させた溶媒で基体を処理した後、加熱処理を行う方法、基体をアルカリ溶液で処理した後、本発明のシラン化合物のアルコール溶液で処理し、その後、加熱処理を行う方法、及び基体を本発明のシラン化合物を溶解させた有機溶媒中で、還流下又は室温で振動撹拌を行う方法等が挙げられる。
【0031】
また、本発明は、上記基体の表面修飾された面に被担持物質を担持させた基体である。
基体の表面修飾された面に被担持物質を担持させる方法としては、被担持物質を溶解・分散させた溶媒で該面を処理した後、乾燥もしくは加熱処理を行う方法等が挙げられる。
また、前記被担持物質としては、段落[0021]乃至[0023]で挙げた被担持物質を使用することができる。
【0032】
[細胞足場用材料]
本発明は、上記基体を用いて作製された細胞足場用材料である。
「細胞足場用材料」とは、細胞が該材料と接することによって、細胞の接着、増殖、分化、活性化、移動、遊走、形態変化など様々な細胞機能が発現、促進される材料を意味する。
細胞足場用材料を作製するための基材としては、ハイドロキシアパタイトやβ−TCP(リン酸三カルシウム)、α−TCP等のセラミックス、ガラス、ポリ塩化ビニル、エチルセルロースやアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリ(エチレン−ビニルアセテート)コポリマー、ポリ(ブタジエン−スチレン)コポリマー、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)コポリマー、ポリ(エチレン−エチルアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン−メタアクリレート)コポリマー、ポリクロロプレン、スチロール樹脂、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、アクリル系ブロックコポリマー等のプラスチック等が挙げられる。また、これらの基材は、上記物質のいずれか一種からなるものであっても良いし、複数種を含む複合体からなるものであっても良い。
細胞足場材料を保持した培養器材としては、細胞の培養に一般的に用いられるシャーレ、フラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バック、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、細胞培養フラスコ、スピナーフラスコ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等が挙げられる。
細胞足場用材料の形態は、特に限定されず、スポンジ、メッシュ、及び不繊布状成形物等の形態を挙げることができるが、細胞の均一な播種が可能となるよう、多孔性であることが好ましい。
細胞足場用材料の形状は、特に限定されず、膜状、球状、ディスク状、粒子状、ブロック状など任意の形状を用いることができる。
【0033】
細胞足場用材料への細胞の播種は、公知の方法を用いて行うことができ、緩衝液、生理食塩水、培養液、またはコラーゲン溶液等の液体に細胞を懸濁して得られた懸濁液に細胞足場用材料を浸漬する、あるいは当該懸濁液を細胞足場用材料へ注入することによって行うことができる。また、必要に応じて、引圧または加圧条件下で播種してもよい。播種する細胞の数(播種密度)は、懸濁液の細胞濃度や注入量によって調整することが可能であり、用いる細胞の種類の特性や細胞足場用材料に応じて適宜調整することが好ましい。細胞を培養する際の培養条件、培養装置、培地の種類、足場材料の種類、その含量、添加物の種類、添加物の含量、培養期間、培養温度などは、当事者により適宜選択される。
【0034】
[細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料]
本発明は、上記基体を用いて作製された細胞、蛋白質又は化合物分離・検出用材料である。
「細胞・蛋白質分離・検出用材料」とは、測定対象サンプルや抗体などを担持させて、生体組織、体液、骨髄液、血液、細胞培養液等から目的の細胞・蛋白質を選択的に分離する材料を意味する。
細胞・蛋白質分離・検出用材料の形状は、特に制限されず、平面基板状、フィルター状、微粒子状など任意の形状を用いることができる。フィルターの形態は、膜、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等、任意の形態をとりうる。フィルターの材質は、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸エステルなど)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、ポリアクリレート、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿などの少なくとも1種より選択される材質が用いられる。
【0035】
細胞・蛋白質の分離は、公知の方法を用いて行うことができ、生体組織、体液、骨髄液、血液、細胞培養液等の細胞・蛋白質の懸濁液に細胞・蛋白質分離用材料を添加する、あるいは当該懸濁液を細胞・蛋白質分離用材料へ添加または注入することによって行うことができる。フィルター状の細胞・蛋白質分離用材料である場合は、当該懸濁液を透過させることもできる。捕捉された細胞・蛋白質は、適当な緩衝液、生理食塩水、培地等を用いて洗浄することも、回収することもできる。回収の際には、各種キレート剤、各種界面活性剤、超音波や酵素を用いて細胞・蛋白質分離用材料から細胞・蛋白質を剥離することもできる。細胞・蛋白質分離用材料が磁性を有する微粒子である場合は、磁力により細胞・蛋白質を保持した細胞・蛋白質分離用材料を回収することができる。また、必要に応じて、細胞・蛋白質分離用材料に捕捉された細胞を適当な条件下で培養することによって、特定の細胞へと分化させたり、増殖させたりすることができる。
【0036】
分離した細胞・蛋白質の検出は、公知の方法を用いて行うことができる。検出される細胞・蛋白質は、細胞・蛋白質分離用材料に保持された状態であってもよく、また当該材料から剥離された状態であってもよい。例えば、検出対象が細胞である場合は、細胞・蛋白質分離用材料にて捕捉した細胞を当該分野にて標準的な顕微鏡を用いて観察することができる。この際、分離した細胞について特異的抗体を用いて染色してもよい。細胞表面マーカーを認識する特異的抗体を用いてELISAやフローサイトメトリーにより細胞を検出することができる。また、分離した細胞からDNA(デオキシリボ核酸)或いはRNA(リボ核酸)を抽出しサザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法、RT−PCR法などによって解析することにより細胞を検出することができる。細胞数を測定する際には、コロニー形成法、クリスタルバイオレッド法、チミジン取り込み法、トリパンブルー染色法、3−(4,5−Dimethylthial−2−yl )−2,5−Diphenyltetrazalium Bromide(MTT)染色法、WST−1(登録商標)染色法、WST−8(登録商標)染色法、フローサイトメトリー法、細胞数自動測定装置を利用した方法などを用いることができる。
例えば、検出対象が蛋白質又はペプチドである場合は、質量分析装置を用いた方法、ウェスタンブロッティングやドットブロッティング、ELISA、フローサイトメトリーなどの抗原抗体反応を用いた方法により目的の蛋白質又はペプチドを検出することができる。また、各種電気泳動法により蛋白質を分離し、クマシー・ブリリアントブルー染色や銀染色にて検出することもできる。蛋白質又はペプチドの定量方法としては、紫外吸収法、ブラッドフォード法、ローリー法、フェノール試薬法、ビシンコニン酸法(BCA法)などを用いることができる。
また、検出対象の蛋白質又はペプチドを予め標識化することができる。蛋白質又はペプチドを標識化する方法としては、例えば蛍光標識、酵素標識、ビオチン標識、ポリエチレングリコール(PEG)標識等が挙げられ、いずれの方法も利用できる。蛍光標識法の場合、Cy3、Cy5、FITC(fluorescein isothiocyanate)、ローダミン等の物質が利用できる。酵素標識法の場合、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、酸フォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等の物質を利用できる。
【0037】
[基体の製造方法]
本発明の基体の製造方法は、上記単分子層又は多分子層形成用組成物を基板に塗布する工程、その基板を乾燥する工程、その基板を洗浄する工程、及びその基板を乾燥する工程を含む。
前記単分子層又は多分子層形成用組成物を基板に塗布する方法としては、例えば、前記単分子層又は多分子層形成用組成物を基体上にキャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられる。
また、基板を乾燥する方法としては、ホットプレート、オーブン等を用いた公知の乾燥方法が挙げられる。
さらに、基板を洗浄する方法としては、水や有機溶剤等を用いた公知の洗浄方法が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0039】
[合成例1]
【化4】
マグネチックスターラーを備えた500mL四ッ口フラスコに、アクリル酸 N−スクシンイミジル(12.50g、0.0739mol)、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシラン(15.24g、0.0776mol)、トリエチルアミン(0.37g、0.0037mol)、アセトニトリル(250g)を仕込み、5乃至10℃にて、4時間攪拌した。その後、反応液中の溶媒、及び、残存するトリエチルアミンをエバポレータで減圧留去し、化合物1を得た(収量:27.00g、収率:100%)。
1H-NMR(400MHz) in CDCl3: 0.73-0.79ppm(m, 2H), 1.66-1.76ppm(m, 2H), 2.59ppm(t, = 7.3 Hz, 2H), 2.76-2.95ppm(m, 8H), 3.57ppm(s, 9H)
【0040】
[実施例1乃至3]
化合物1 0.1g、水0.5g及びPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)9.5gを攪拌混合して溶液を作製した。その後、孔径0.03μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いてろ過して、単分子層又は多分子層形成用組成物を調製した。
調製した組成物を、ガラス基板上にスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレート上において180℃で1分間ベークした。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルにて、1分間浸漬させ、スピンドライ後、100℃で30秒間乾燥させ、ガラス基板上に単分子層又は多分子層を形成した。
得られたガラス基板を、以下の試薬に4時間浸漬させ、その後水で洗浄した。
実施例1:浸漬なし
実施例2:Poly-L-lysine FITC Labeled試薬(アルドリッチ社製)0.1wt%水溶液
実施例3:Collagen Type FITC Conjugate from bovine skin(アルドリッチ社製) 0.1wt%水溶液
【0041】
[比較例1乃至3]
ガラス基板を以下の試薬に4時間浸漬させ、その後水で洗浄した。
比較例1:浸漬なし
比較例2:Poly-L-lysine FITC Labeled試薬(アルドリッチ社製)0.1wt%水溶液
比較例3:Collagen Type FITC Conjugate from bovine skin(アルドリッチ社製) 0.1wt%水溶液
【0042】
[ポリ−L−リジンおよびコラーゲン担持確認]
24穴平底マイクロプレート(コーニング社製)に実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2及び比較例3で処理した各ガラス基板を配置し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、シグマアルドリッチ社製)1mLを添加した。本プレートについて2104 EnVision(登録商標)マルチラベルカウンター(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いて励起波長490nm、蛍光波長530nmにおける各ガラス基板の蛍光強度(相対的蛍光単位、RFU)を測定した。本測定により、FITCでラベルされたポリ−L−リジン及びコラーゲンの吸着を確認することができる。その結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
蛍光強度の測定の結果、実施例2及び3の処理によりFITCでラベルされたポリ−L−リジン及びコラーゲンが、ガラス基板上に比較例に比べてより多く吸着されていることが示された。
【0045】
[細胞付着試験]
(細胞懸濁液の調製)
試験に供試した細胞は、ヒト肝癌細胞株HepG2(DSファーマバイオメディカル社製)を用いた。培養時の培地は、10%(v/v)FBS(牛胎児血清(バイオロジカルインダストリーズ社製))を含むDMEM培地(和光純薬工業(株)製)を用いた。細胞は、37℃ CO2インキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をPBS5mLで洗浄した後、トリプシン−EDTA溶液(インビトロジェン社製)1mLを添加して細胞を剥がし、上記の培地10mLにて懸濁した。本懸濁液を遠心分離(久保田商事株式会社製、型番5900、1500rpm/3分、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0046】
(細胞のガラス基板への付着)
24穴平底マイクロプレート(コーニング社製)に実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2及び比較例3で処理した各ガラス基板を配置し、調製した上記HepG2細胞懸濁液を2.5×105cells/wellとなるように各1mL加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で24時間CO2インキュベーター内にて静置した。
【0047】
(細胞付着数の測定)
24時間後、上記細胞付着試験を行った実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2及び比較例3で処理した各ガラス基板について、光学顕微鏡(OLYMPUS社製、CK30−F100、倍率100倍)を用いて細胞の付着状態を観察した。引き続き、これらの各ガラス基板を別の24穴平底マイクロプレート(コーニング社製)に移し、PBS1mLで洗浄した。PBSを除いた後、トリプシン−EDTA溶液(インビトロジェン社製)500μLを添加した。5乃至10分後、10%(v/v)FBSを含むDMEM培地(和光純薬工業(株)製)を500μL添加し、剥がれた細胞を1.5mLマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に移した。遠心分離((株)トミー精工製、型番:MX−307、300G/3分、室温)後、上清を除き、10%(v/v)FBSを含むDMEM培地(和光純薬工業(株)製)100μLを添加して細胞懸濁液を調製した。本懸濁液にトリパンブルー染色液を等量添加後、血球計測板(エルマ販売株式会社製)にて生細胞数(細胞付着数)を計測した。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2及び比較例3で処理した各ガラス基板に対する細胞の付着数を培養24時間後、比較した。その結果を下記表2に示す。また、実施例1、実施例2、実施例3に関する光学顕微鏡での観察結果を図1乃至3に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
細胞付着試験の結果、培養24時間後、実施例1で処理したガラス基板に対して、実施例2及び3で処理した各ガラス基板では、HepG2細胞の付着数が増加していた。特に、実施例2においては播種した細胞数よりも、24時間後の細胞数が増えていたことから、接着後に細胞増殖が促進されたことも示唆された。また、顕微鏡による観察でも、実施例1で処理したガラス基板に対して、実施例2及び3で処理した各ガラス基板へのHepG2細胞の付着数は増加していることを確認した。
図1
図2
図3