特許第6332722号(P6332722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6332722
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ベンズイミダゾロンジオキサジン化合物
(51)【国際特許分類】
   C09B 19/02 20060101AFI20180521BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C09B19/02CSP
   C09B67/20 F
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-511179(P2018-511179)
(86)(22)【出願日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2017032234
【審査請求日】2018年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-179564(P2016-179564)
(32)【優先日】2016年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一司
(72)【発明者】
【氏名】荻原 尊男
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254835(JP,A)
【文献】 特開2008−257204(JP,A)
【文献】 特公昭55−44775(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 19/02
C09B 67/20
C07D 498/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し;X、X、X、Xの内、1つ以上はハロゲン原子であり;R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す)で表される化合物。
【請求項2】
及びXがそれぞれ独立に水素原子、塩素原子又は臭素原子であり、X、X、X及びXがそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であり(ただし、X、X、X、Xの内、1つ以上はハロゲン原子である)、R、R、R及びRがそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜2の一価の炭化水素基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
及びXがそれぞれ独立に水素原子又は塩素原子であり、X、X、X及びXがそれぞれ独立に水素原子又は臭素原子であり(ただし、X、X、X、Xの内、1つ以上は臭素原子である)、R、R、R及びRがそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜2の一価の炭化水素基である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載の化合物を含有する着色剤。
【請求項5】
請求項4に記載の着色剤を少なくとも含有する着色組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ベンズイミダゾロンジオキサジン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一定の構造を有するベンズイミダゾロンジオキサジン化合物が開示されている。しかしながら、特許文献1には、下記式(I)で表される本発明のベンズイミダゾロンジオキサジン化合物は開示されていない。
【0003】
【特許文献1】特開平7−196663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来からベンズイミダゾロンジオキサジン化合物は、カラーフィルタ用遮光性組成物やインクジェット用着色組成物、塗料、印刷インキ、着色プラスチック、トナーなど様々な用途に用いられてきた。
【0005】
このような広範な用途、ならびに技術進歩に伴い生じる新たな用途に対応するべく、新たな化合物の創出が希求されている。
【0006】
なかでも黒色インキでは、可視光波長域(380nm〜780nm)の光を一様に透過しないことが要求される。このような問題に対し、現在は黄色顔料又は橙色顔料又は茶色顔料と赤色顔料又は紫色顔料と青色顔料又は緑色顔料といった複数の色材を組み合わせて使用するのが一般的である。そのうち、長波長域(550nm〜780nm)の吸収には、主にベンズイミダゾロンジオキサジン化合物、フタロシアニン化合物、インダンスレン化合物などの青色顔料が使用されている。しかしながら、従来公知のベンズイミダゾロンジオキサジンは主たる光吸収帯のピークが550nm付近にあるため、長波長域(550nm〜780nm)の吸収が小さい点で十分ではない場合があった。また、フタロシアニン化合物及びインダンスレン化合物の光吸収帯のピークは550nm〜780nmの範囲にあるものの、同様に吸収が小さいといった問題点があり、長波長域により強い吸収を持つ青色顔料の創出が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記式(I)で表される化合物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。即ち本発明は、式(I):
【0008】
【化1】
(式中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し;X、X、X、Xの内、1つ以上はハロゲン原子であり;
、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す)で表される化合物(以下、「本発明化合物」と表記する場合がある)に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明化合物は、ベンズイミダゾロンジオキサジン構造を有する化合物でありながら、C.I.Pigment Blue 80よりも長波長域に吸収を有するという格別顕著な効果を奏する。ベンズイミダゾロンジオキサジン構造中のベンゼン環の水素原子をハロゲン原子で置換したことによる光吸収帯の長波長シフトのためと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記式(I)中、X、Xがハロゲン原子である場合、該ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の各原子が挙げられ、なかでも、塩素原子又は臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0011】
上記式(I)中、X、X、X、Xの内、1つ以上はハロゲン原子であることが必要であるが、X、X、X、Xのいずれか又は全てがハロゲン原子である場合、該ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の各原子が挙げられる。なかでも、ピーク波長の長波長化の観点からは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。
【0012】
上記式(I)中、「置換基を有していてもよい一価の炭化水素基」の「一価の炭化水素基」は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ビニル基、アリル基などが挙げられる。上記式(I)中、「置換基を有していてもよい一価の炭化水素基」の「置換基」は、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基などを挙げることができるが、これらに限定されない。ここで、本段落における置換基としてのハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の各原子が挙げられる。
上記式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜2の一価の炭化水素基である場合が好ましい。
【0013】
このような本発明化合物は、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適宜利用して製造することができる。以下、本発明化合物の製造方法の一態様を記載する。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本発明化合物は、例えば、特開平11−335575に記載の方法で後記する式(V)の化合物を合成し、これを、後記するハロゲン化反応でハロゲン化することにより製造することができる。詳細を下記する。
【0015】
<縮合反応>
酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミンなどの塩基1モル及び下記式(II)のp−ベンゾキノン化合物2モルをエタノール、ジメチルアセトアミドなどの溶剤中に懸濁し、そしてこの懸濁液を40℃〜70℃に加熱する。下記式(III)のアミン化合物1モルを1時間かけて添加し、そしてこの混合物を引き続き還流下で1時間〜10時間加熱する。次いで更に酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミンなどの塩基1モルを添加し、次いで、下記式(IV)のアミン化合物1モルを添加する。この混合物を還流下で1時間〜10時間撹拌し、次いで固体生成物を熱いうちに濾別し、そして60℃〜100℃のエタノール、ジメチルアセトアミドなどの溶剤で洗浄し、次いで沸騰水で洗浄する。生成物をジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの溶剤中に懸濁し、この懸濁液を80℃〜150℃にて1時間〜10時間加熱し、熱いうちに濾過し、この固体生成物を60℃〜100℃のエタノール、ジメチルアセトアミドなどの溶剤で洗浄し、次いで沸騰水で洗浄し、90℃〜120℃で乾燥させる。
【0016】
【化2】
【0017】
(式(II)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、又はハロゲン原子を示し、X及びXはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基などの脱離基を示す。)
【0018】
【化3】
【0019】
(式(III)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す。)
【0020】
【化4】
【0021】
(式(IV)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す。)
【0022】
<閉環反応>
前記縮合反応で得られた生成物を、10℃以下の濃硫酸に1時間かけて添加する。次いで二酸化マンガン2モル〜4モルを3時間かけて添加し、この混合物を引き続き室温にて18時間〜48時間攪拌する。この混合物を、冷却しながら水を添加することにより硫酸濃度80%に希釈する。過剰の二酸化マンガンを、過酸化水素(30%)を用いて破壊する。この混合物をポリプロピレンフィルターにて濾過し、この固体生成物を硫酸(80%)で洗浄し、次いで硫酸(50%)で洗浄し、引続き水で洗浄する。90℃〜120℃で乾燥し、下記式(V)で表される化合物を得る。
【0023】
【化5】
【0024】
(式(V)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し;R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す。)
【0025】
<ハロゲン付加反応>
臭素、N−ブロモスクシンイミド、トリクロロイソシアヌル酸、N−ヨードスクシンイミドなどのハロゲン化試薬1モル〜32モルを温度が10℃以下の濃硫酸に添加し、次いで前記閉環反応で得られた上記式(V)で表される化合物1モルを添加し、室温で2時間〜48時間撹拌する。次いでこれを氷に注ぎ、得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いでエタノールで洗浄し、90℃〜120℃で乾燥し、ベンゼン環がハロゲン原子で1〜4置換された化合物の混合物として得られる。この方法を経て単一化合物として得る場合は、得られた混合物を、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶剤に添加し、次いで4−ジメチルアミノピリジンなどの塩基、ジ−tert−ブチルジカーボネート(「tert」はターシャリーの意味で記載している)などのカーボネート化合物を添加し、室温で2時間〜48時間攪拌する。次いでこれを水に注ぎ、クロロホルムなどの溶剤で抽出し、溶剤層を減圧下で濃縮し混合物を得る。得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離して得られる単一化合物を有する溶液それぞれを濃縮し、N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶剤及びトルエン−4−スルホン酸一水和物などの酸を添加し、100℃〜200℃で2時間〜24時間攪拌し、沈殿物を得る。沈殿物を濾過し、N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶剤で洗浄し、90℃〜120℃で乾燥し、本発明化合物を得ることができる。
【0026】
本発明化合物は、単独で用いても良いし、置換基の異なる2種類以上の化合物で用いてもよい。2種類以上の化合物を用いる場合には、合成の段階で2種類以上の化合物を合成したものを用いても良いし、それぞれ合成した化合物を別途混合してもよく、その混合方法は特に限定されるものではない。
【0027】
本発明化合物は、多様な用途に適用可能と考えられる。例えば、印刷インキ、塗料、着色プラスチック、トナー、インクジェット用インキ、ディスプレイ用遮光性部材、種子着色などの広範囲な用途の着色剤として用いることができる。
【0028】
本発明化合物は、有機顔料としての性質を示すものであり、ソルトミリング処理などにより、顔料粒子の微細化を施すことで、より好適に使用できる場合がある。このような処理は、公知慣用の方法で行えばよい。
【0029】
本発明化合物は、本発明化合物以外の有機顔料、有機染料、有機顔料誘導体などの色材を、調色などの目的で併用してもよい。これらは、上述のような用途にあわせて適宜選択されるべきものであり、用途によっては、本発明化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜併用してもよい。
【0030】
本発明化合物の用途の一態様として、黒色インキとしての使用について以下に説明する。
【0031】
黒色インキは、可視光波長域(380nm〜780nm)の光を一様に透過しないことが求められ、現在は黄色顔料と赤色顔料と青色顔料といった複数の色材を組み合わせて使用するのが一般的である。
【0032】
ここで、本発明化合物は黒色インキ中の青色顔料として好適に使用できる。本発明化合物が、特徴的な可視光波長領域の吸収に基づく高い着色力により、有機顔料として際立った遮光性が得られることによる。
【0033】
本発明化合物は、黒色インキ中の青色顔料として使用する際、上述したように、単独で用いても良いし、置換基の異なる2種類以上の化合物で用いてもよい。2種類以上の化合物を用いる場合には、合成の段階で2種類以上の化合物を合成したものを用いても良いし、それぞれ合成した化合物を別途混合してもよく、その混合方法は特に限定されるものではない。
【0034】
また、本発明化合物は、黒色インキ中の青色顔料として使用する際、ベンズイミダゾロンジオキサジン構造中のベンゼン環の水素原子が最大4つハロゲン置換されうるが、該ハロゲン置換数が、2置換以上のものを用いるのがより好ましく、4置換のものを用いるのがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明化合物は、黒色インキ中の青色顔料として使用する際、本発明化合物以外のベンズイミダゾロンジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料、インダンスレン顔料などを併用することもできる。これらは、単独で使用しても良いし2種以上を適宜選択して併用することもできる。
【0036】
その他の着色材としては、公知の顔料、染料等を併用することができるが、アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾメチン顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、カルバゾールジオキサジン顔料、スレン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料等に代表される有機顔料が好ましい。黄色、橙色、茶色、赤色、紫色、青色ならびに緑色の有機顔料としては、例えば、ピグメント・イエロー1、1:1、2、3、4、5、6、9、10、12、13、14、16、17、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、41、42、43、48、53、55、61、62、62:1、63、65、73、74、75、81、83、87、93、94、95、97、100、101、104、105、108、109、110、111、116、117、119、120、126、127、127:1、128、129、130、133、134、136、138、139、142、147、148、150、151、153、154、155、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、172、173、174、175、176、180、181、182、183、184、185、188、189、190、191、191:1、192、193、194、195、196、197、198、199、200、202、203、204、205、206、207、208、213、214のような黄色顔料;ピグメント・オレンジ1、2、5、13、16、17、19、20、21、22、23、24、34、36、38、39、43、46、48、49、61、62、64、65、67、68、69、70、71、72、73、74、75、77、78、79、81のような橙色顔料;ピグメント・ブラウン23、25、41のような茶色顔料;ピグメント・レッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、12、14、15、16、17、21、22、23、31、32、37、38、41、47、48、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、50:1、52:1、52:2、53、53:1、53:2、53:3、57、57:1、57:2、58:4、60、63、63:1、63:2、64、64:1、68、69、81、81:1、81:2、81:3、81:4、83、88、90:1、101、101:1、104、108、108:1、109、112、113、114、122、123、144、146、147、149、151、166、168、169、170、172、173、174、175、176、177、178、179、181、184、185、187、188、190、193、194、200、202、206、207、208、209、210、213、214、216、220、221、224、230、231、232、233、235、236、237、238、239、242、243、245、247、249、250、251、253、254、255、256、257、258、259、260、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、279のような赤色顔料;ピグメント・バイオレット1、1:1、2、2:2、3、3:1、3:3、5、5:1、14、15、16、19、23、25、27、29、31、32、37、39、42、44、47、49、50のような紫色顔料;ピグメント・ブルー1、1:2、9、14、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、19、25、27、28、29、33、35、36、56、56:1、60、61、61:1、62、63、66、67、68、71、72、73、74、75、76、78、79のような青色顔料;ピグメント・グリーン1、2、4、7、8、10、13、14、15、17、18、19、26、36、45、48、50、51、54、55のような緑色顔料などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において特に断りがない場合は、「部」及び「%」は質量基準である。
【0038】
[合成例1]
N−ブロモスクシンイミド 530部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物A(下記構造)350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物B 390部を得た。
【0039】
【化6】
【0040】
得られた生成物B 390部をN,N−ジメチルホルムアミド2000部に添加し、次いで4−ジメチルアミノピリジン100部、ジ−tert−ブチルジカーボネート800部(「tert」はターシャリーの意味で記載している)を添加し、室温で16時間攪拌した。次いでこれを水8000部に注ぎ、クロロホルム8000部で抽出し、クロロホルム層を減圧下で濃縮し生成物Cを得た。
【0041】
得られた生成物Cを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール/ジメチルスルホキシド)で分離して得られた単一化合物9種を有する溶液それぞれを濃縮し、N,N−ジメチルアセトアミド500部及びトルエン−4−スルホン酸一水和物50部を添加し、130℃で4時間攪拌し、沈殿物を得た。沈殿物を濾過し、N,N−ジメチルアセトアミド200部及びメタノール800部で洗浄し、90℃で乾燥し、化合物1〜9を得た。
【0042】
・化合物1 0.9部(収率 0.2%)
・化合物2 1.2部(収率 0.3%)
・化合物3 0.8部(収率 0.2%)
・化合物4 0.6部(収率 0.1%)
・化合物5 0.5部(収率 0.1%)
・化合物6 0.8部(収率 0.2%)
・化合物7 1.3部(収率 0.2%)
・化合物8 1.8部(収率 0.3%)
・化合物9 3.4部(収率 0.6%)
【0043】
得られた化合物1〜9について、それぞれ約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、化合物1、化合物2はm/z=546、化合物3、化合物4、化合物5、化合物6はm/z=624、化合物7、化合物8はm/z=704、化合物9はm/z=782であった。
化合物1〜9について具体的な構造を下記する。
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
【化10】
【0048】
【化11】
【0049】
【化12】
【0050】
【化13】
【0051】
【化14】
【0052】
【化15】
【0053】
[合成例2]
ジブロモイソシアヌル酸 957部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで化合物Dとクロラニルを用いて特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物E 350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物F 280部を得た。
【0054】
【化16】
【0055】
【化17】
【0056】
【化18】
【0057】
得られた生成物F 約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、m/z=680(化合物10、化合物11、化合物12、化合物13の混合物)、m/z=758(化合物14、化合物15の混合物)、m/z=838(化合物16)、その他の化合物の混合物が1:8:87:4の割合で含まれていた。
【0058】
【化19】
【0059】
【化20】
【0060】
【化21】
【0061】
【化22】
【0062】
【化23】
【0063】
【化24】
【0064】
【化25】
【0065】
[合成例3]
ジブロモイソシアヌル酸 1060部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで化合物Gとクロラニルを用いて特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物H(下記構造)350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物I 267部を得た。
【0066】
【化26】
【0067】
【化27】
【0068】
得られた生成物I 約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、m/z=736(化合物17、化合物18、化合物19、化合物20の混合物)、m/z=814(化合物21、化合物22の混合物)、m/z=894(化合物23)、その他の化合物の混合物が1:10:84:5の割合で含まれていた。
【0069】
【化28】
【0070】
【化29】
【0071】
【化30】
【0072】
【化31】
【0073】
【化32】
【0074】
【化33】
【0075】
【化34】
【0076】
[合成例4]
ジブロモイソシアヌル酸 957部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで化合物Jとクロラニルを用いて特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物K 350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物L 318部を得た。
【0077】
【化35】
【0078】
【化36】
【0079】
得られた生成物L 約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、m/z=600(化合物24、化合物25の混合物)m/z=680(化合物26、化合物27、化合物28、化合物29の混合物)、m/z=758(化合物30、化合物31の混合物)、m/z=838(化合物32)、その他の化合物の混合物が1:5:12:78:4の割合で含まれていた。
【0080】
【化37】
【0081】
【化38】
【0082】
【化39】
【0083】
【化40】
【0084】
【化41】
【0085】
【化42】
【0086】
【化43】
【0087】
【化44】
【0088】
【化45】
【0089】
[合成例5]
ジブロモイソシアヌル酸 1019部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで化合物Mとブロマニルを用いて特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物N 350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物P 378部を得た。
【0090】
【化46】
【0091】
【化47】
【0092】
【化48】
【0093】
得られた生成物P 約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、m/z=634(化合物33、化合物34の混合物)m/z=714(化合物35、化合物36、化合物37、化合物38の混合物)、m/z=792(化合物39、化合物40の混合物)、m/z=878(化合物41)、その他の化合物の混合物が7:12:31:47:3の割合で含まれていた。
【0094】
【化49】
【0095】
【化50】
【0096】
【化51】
【0097】
【化52】
【0098】
【化53】
【0099】
【化54】
【0100】
【化55】
【0101】
【化56】
【0102】
【化57】
【0103】
[合成例6]
N−ヨードスクシンイミド 1338部を温度が10℃以下の濃硫酸52500部に添加し、次いで化合物Jとクロラニルを用いて特開平11−335575に記載の方法で合成した化合物K 350部を添加し、室温で20時間撹拌した。次いでこれを氷525000部に注ぎ、沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、酸が検出されなくなるまで水で洗浄し、次いで30000部のエタノールで洗浄し、90℃で乾燥し、生成物Q 252部を得た。
【0104】
得られた生成物Q 約5mgをテトラヒドロフラン 1.0mLに分散させたものを用いて、GC/TOFMS JMS−T100GC(日本電子株式会社製)で分子量を測定したところ、m/z=648(化合物42、化合物43の混合物)m/z=774(化合物44、化合物45、化合物46、化合物47の混合物)、m/z=900(化合物48、化合物49の混合物)、m/z=1026(化合物50)、その他の化合物の混合物が16:33:30:14:7の割合で含まれていた。
【0105】
【化58】
【0106】
【化59】
【0107】
【化60】
【0108】
【化61】
【0109】
【化62】
【0110】
【化63】
【0111】
【化64】
【0112】
【化65】
【0113】
【化66】
【0114】
[実施例1]
前記合成例1で得られた化合物1 0.4部、味の素ファインテクノ株式会社製の樹脂系分散剤であるPB−821(製品名) 0.5部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 7.4部を混合し、0.2〜0.3mmφのジルコニアビーズを加え、ペイントコンディショナーで2時間分散し、着色組成物を得た。得られた着色組成物 0.1部にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 99.9部を添加し、評価用組成物(N−1)を調製した。
【0115】
[実施例2]
化合物1に代えて、化合物2を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−2)を調製した。
【0116】
[実施例3]
化合物1に代えて、化合物3を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−3)を調製した。
【0117】
[実施例4]
化合物1に代えて、化合物4を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−4)を調製した。
【0118】
[実施例5]
化合物1に代えて、化合物5を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−5)を調製した。
【0119】
[実施例6]
化合物1に代えて、化合物6を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−6)を調製した。
【0120】
[実施例7]
化合物1に代えて、化合物7を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−7)を調製した。
【0121】
[実施例8]
化合物1に代えて、化合物8を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−8)を調製した。
【0122】
[実施例9]
化合物1に代えて、化合物9を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−9)を調製した。
【0123】
[実施例10]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.05部、化合物2 0.05部、化合物3 0.025部、化合物4 0.025部、化合物5 0.025部、化合物6 0.025部、化合物7 0.05部、化合物8 0.05部、及び化合物9 0.1部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−10)を調製した。
【0124】
[実施例11]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.02部、化合物2 0.02部、化合物3 0.02部、化合物4 0.02部、化合物5 0.02部、化合物6 0.02部、化合物7 0.04部、化合物8 0.04部、及び化合物9 0.2部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−11)を調製した。
【0125】
[実施例12]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.01部、化合物2 0.01部、化合物3 0.01部、化合物4 0.01部、化合物5 0.01部、化合物6 0.01部、化合物7 0.02部、化合物8 0.02部、及び化合物9 0.3部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−12)を調製した。
【0126】
[実施例13]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.1部、化合物2 0.1部、化合物3 0.02部、化合物4 0.02部、化合物5 0.02部、化合物6 0.02部、化合物7 0.04部、化合物8 0.04部、及び化合物9 0.04部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−13)を調製した。
【0127】
[実施例14]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.15部、化合物2 0.15部、化合物3 0.01部、化合物4 0.01部、化合物5 0.01部、化合物6 0.01部、化合物7 0.02部、化合物8 0.02部、及び化合物9 0.02部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−14)を調製した。
【0128】
[実施例15]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.04部、化合物2 0.04部、化合物3 0.05部、化合物4 0.05部、化合物5 0.05部、化合物6 0.05部、化合物7 0.04部、化合物8 0.04部、及び化合物9 0.04部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−15)を調製した。
【0129】
[実施例16]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物3 0.05部、化合物4 0.05部、化合物5 0.05部、化合物6 0.05部、化合物7 0.1部、及び化合物8 0.1部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−16)を調製した。
【0130】
[実施例17]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、化合物1 0.1部、化合物2 0.1部、及び化合物9 0.2部の混合物を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−17)を調製した。
【0131】
[実施例18]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、生成物F 0.4部を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−19)を調製した。
【0132】
[実施例19]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、生成物I 0.4部を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−20)を調製した。
【0133】
[実施例20]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、生成物L 0.4部を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−21)を調製した。
【0134】
[実施例21]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、生成物P 0.4部を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−22)を調製した。
【0135】
[実施例22]
上記実施例1で用いた化合物1 0.4部に代えて、生成物Q 0.4部を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−23)を調製した。
【0136】
[比較例1]
上記実施例1で用いた化合物1に代えて、Hostaperm Blue R5R VP2548 (C.I.Pigment Blue 80、クラリアント社製)を用いる以外は、上記実施例1と同様な操作を行い、評価用組成物(N−18)を調製した。
【0137】
<ピークトップ位置の確認>
上記実施例1〜22及び比較例1で得られた評価用組成物(N−1)〜(N−23)の吸光スペクトルを分光光度計(U−3900、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により測定した。結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
比較例と比べ、本発明化合物は吸光スペクトルピーク波長が長波長側にシフトし、赤みの少ない青色を示していた。
【0140】
本発明化合物は、ベンズイミダゾロンジオキサジン構造を有する化合物でありながら、比較として用いたC.I.Pigment Blue 80(特開平7−196663号公報に記載の化合物であり、本技術分野において代表的な青色顔料のひとつ)よりも長波長域に吸収を有する(より青みである)という格別顕著な効果を奏する。本発明化合物は、ベンズイミダゾロンジオキサジン構造中のベンゼン環の水素原子をハロゲン原子で置換したものであり、これにより、光吸収帯の長波長シフトが生じたためと推測される。このような本発明化合物は、上述したような多様な用途に用いることができる。
【要約】
本発明は、長波長域に、より強い吸収を持つ有機顔料を提供することを課題とする。
式(I):
(式中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を示し;X、X、X、Xの内、1つ以上はハロゲン原子であり;R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を示す)で表される化合物、これを含有する着色剤を提供することで上記課題を解決することができる。