特許第6332793号(P6332793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332793
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】微生物燃料電池および浮遊体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20180521BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01M8/16
   H01M8/02
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-82824(P2014-82824)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-204198(P2015-204198A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭広
(72)【発明者】
【氏名】横山 浩
(72)【発明者】
【氏名】石田 三佳
【審査官】 菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0033757(US,A1)
【文献】 特開2012−190787(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073284(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0048574(US,A1)
【文献】 特開2011−228195(JP,A)
【文献】 特開2009−140824(JP,A)
【文献】 特公昭50−015290(JP,B1)
【文献】 国際公開第2004/024633(WO,A1)
【文献】 特開2008−060067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、
前記容器内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む液体と、
前記液体の表面に浮いている浮きと、
前記液体略鉛直方向に沿って延在するように前記浮きにより直接または間接的に支持されたアノードと、
前記液体の表面に浮くように前記浮きにより直接または間接的に支持され、外気に接触するとともに、前記液体に直接接触するか、またはカチオン透過性を有する隔膜を挟んで前記液体に隣接するように配置された、ガス透過性を有するカソードと、
を有し、
前記容器の内側面と前記アノードとは、前記液体のみを介して互いに対向している、
微生物燃料電池。
【請求項2】
液体の表面に浮くための浮きと、
前記浮きを前記液体に浮かせたときに前記液体中に略鉛直方向に沿って延在するように前記浮きにより直接または間接的に支持されたアノードと、
前記浮きを前記液体に浮かせたときに前記液体の表面に浮くように前記浮きにより直接または間接的に支持され、前記浮きを前記液体に浮かせたときに外気に接触するように配置された、ガス透過性を有するカソードと、
前記浮きを前記液体に浮かせたときに前記カソードと前記液体との間に位置するように前記カソードの一方の面に接合された、カチオン透過性を有する隔膜と、
を有
前記アノードは、鉛直方向に対して垂直な水平方向について他の部材に囲われていない、
微生物燃料電池用の浮遊体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池および前記微生物燃料電池に用いられうる浮遊体に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産農家にとって、畜舎から出る廃水の処理は、多大なコストおよび労力を要するため、大きな負担となっている。一方、微生物燃料電池は、微生物による有機物の酸化によって電気エネルギーを生産できるだけでなく、有機廃棄物の分解処理も同時に行うことができる。このため、微生物燃料電池は、畜舎における廃水処理などの様々な用途において有用な新技術として期待されている。
【0003】
微生物燃料電池は、2槽型と1槽型とに大別される。2槽型の微生物燃料電池は、カチオン透過性を有する隔膜で互いに仕切られているアノード槽およびカソード槽を有する。2槽型の微生物燃料電池では、カソード槽内にフェリシアン化カリウム(鉄化合物イオン)や酸素、鉄イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどの電子を受容可能な物質が必要である。
【0004】
1槽型の微生物燃料電池では、カソード槽の代わりに、エアカソードとも称されるガス透過性を有するカソードが使用される(例えば、非特許文献1参照)。図1は、アノードとカソードとが別体の1槽型の微生物燃料電池の断面模式図であり、図2は、アノードとカソードとが一体の1槽型の微生物燃料電池の断面模式図である。図1および図2に示されるように、微生物燃料電池10は、容器11と、容器11内に収容された有機物および電子供与微生物12を含む液体(燃料)13と、液体13に接触するように配置されたアノード14と、液体13に接触するように配置されたカチオン透過性を有する隔膜15と、隔膜15を挟んで液体13に隣接するように配置され、かつ外気とも接触するカソード(エアカソード)16とを有する。カソード16は、隔膜15および/またはアノード14と膜電極接合体(以下「MEA」という)17を構成し、容器11の壁面の一部を構成する。このような1槽型の微生物燃料電池は、2槽型の微生物燃料電池と比較して、微生物による反応が起こる槽(アノード槽)とは別のカソード槽を必要としない点で優れている。
【0005】
一方、海や河川などの底泥が存在する場所において、底泥中の微生物を利用して発電および底泥中の有機物の分解を行う微生物燃料電池が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2に記載の微生物燃料電池は、底泥中に埋め込まれたアノードと、水面に浮かべられたカソードとを有している。非特許文献2に記載の微生物燃料電池は、水中の酸素濃度低下に起因する出力の低下を抑制するために、カソードを水面に浮かべている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yanzhen Fan, et al., "Enhanced Coulombic efficiency and power density of air-cathode microbial fuel cells with an improved cell configuration", Journal of Power Sources, Vol. 171, pp. 348-354.
【非特許文献2】Aijie Wang, et al., "Sediment microbial fuel cell with floating biocathode for organic removal and energy recovery", Fromt. Environ. Sci. Eng., Vol. 6, pp. 569-574.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1および図2に示されるように、従来の1槽型(エアカソード型)の微生物燃料電池10では、カソード16を含むMEA17が、容器11の壁面の一部を構成している。このため、従来の微生物燃料電池10では、液体13の圧力に耐えうる強度がMEA17に要求されるため、ラボスケールからパイロットスケールまたはプラントスケールにスケールアップすることが困難である。また、従来の微生物燃料電池10には、蒸発などにより液体13の量が減少すると、MEA17と液体13との接触面積が減少してしまい、出力が低下してしまうという問題もある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、液体の量の変化の影響を受けずに出力が安定であり、かつスケールアップが容易な微生物燃料電池、およびそれに用いられるMEAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アノードおよびカソードを液体の中または表面に浮かせることで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の微生物燃料電池に関する。
【0011】
[1]容器と、前記容器内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む液体と、前記液体に接触するように配置されたアノードと、外気に接触し、かつ前記液体に直接接触するか、またはカチオン透過性を有する隔膜を挟んで隣接するように配置された、ガス透過性を有するカソードと、を有し、前記アノードおよび前記カソードは、前記液体の中または表面に浮いている、微生物燃料電池。
[2]前記アノード、前記隔膜および前記カソードは、一体化されて膜電極接合体を構成しており、前記膜電極接合体は、前記アノードが前記液体に接触し、前記カソードが外気に接触するように、前記液体の表面に浮いている、[1]に記載の微生物燃料電池。
[3]前記アノードおよび前記カソードを前記液体の中または表面に浮かすための浮きをさらに有する、[1]または[2]に記載の微生物燃料電池。
【0012】
また、本発明は、以下の微生物燃料電池用の浮遊体に関する。
[4]アノードと、ガス透過性を有するカソードと、前記カソードの一方の面に接合されたカチオン透過性を有する隔膜と、前記アノード、前記隔膜および前記カソードを液体の中または表面に浮かすための浮きと、を有する、微生物燃料電池用の浮遊体。
[5]前記アノードは、前記隔膜の前記カソードが配置されていない面に接合されている、[4]に記載の微生物燃料電池用の浮遊体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体(燃料)の量の変化の影響を受けずに出力が安定であり、かつスケールアップが容易な微生物燃料電池およびそれに用いられるMEAを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アノードとカソードとが別体の従来の微生物燃料電池の断面模式図である。
図2】アノードとカソードとが一体の従来の微生物燃料電池の断面模式図である。
図3】実施の形態1に係る微生物燃料電池の構成を示す断面模式図である。
図4】実施の形態2に係る微生物燃料電池の構成を示す断面模式図である。
図5】実施の形態2の変形例に係る微生物燃料電池の構成を示す断面模式図である。
図6】実施例における電圧測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図3は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100の構成を示す断面模式図である。図3に示されるように、微生物燃料電池100は、容器110と、有機物(燃料)および電子供与微生物120を含む液体130と、アノード140と、隔膜150およびカソード160を含む膜電極接合体(MEA)170と、浮き180とを有する。本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、アノード140は、隔膜150に接合されていない。
【0017】
容器110は、微生物燃料電池100の本体部を構成し、液体130を収容する。容器110の素材、形状および大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、従来の1槽型の微生物燃料電池(図1および図2参照)とは異なり、カソード160(またはカソード160を含むMEA170)が容器110の壁面の一部を構成するということはない。このため、液体130の圧力の増大によるカソード160の破壊を考慮することなく、容器110を大きくすること、すなわち微生物燃料電池100をスケールアップすることができる。
【0018】
液体130は、燃料となる有機物および電子供与微生物120を含む。通常、液体130は、1種または2種以上の電解質を含有する水溶液である。電解質の種類は、水中で電離可能な物質であれば特に限定されない。電解質の例には、NaHPO/NaHPO、KHPO/KHPO、NaCO/NaHCO、NaCl、KCl、NHClなどが含まれる。また、液体130には、必要に応じて電子メディエータや導電性微粒子などの電子伝達性介在物質をさらに添加してもよい。
【0019】
電子供与微生物120の種類は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。有機廃水や汚泥などを燃料として使用する場合は、外部から電子供与微生物を加えなくとも、それらに生息する電子供与微生物をそのまま利用することができる。たとえば、シュードモナスやジオバクターなどは、土壌や淡水、海水などの自然環境の至るところに生息しているため、有機廃水や汚泥などを燃料とすれば、外部から添加することなく利用できる。
【0020】
燃料となる有機物の種類は、電子供与微生物120が代謝可能であれば、特に限定されない。燃料となる有機物としては、アルコールや単糖類、多糖類などの有用資源だけでなく、農産業廃棄物や有機廃液、し尿、汚泥、食物残渣などの未利用資源(有機性廃棄物)も使用することができる。燃料となる有機物は、電子供与微生物120の維持および増殖のため、また微生物燃料電池100を連続して稼働させるため、必要に応じて追加される。
【0021】
アノード140は、液体130に接触するように配置される。本実施の形態では、アノード140は、導線190を介して浮き180により支持されており、液体130中に浮いている(浸漬されている)。アノード140の素材および形状は、特に限定されず、電子供与微生物120の付着性や電子供与微生物120からの電子伝達度などに応じて適宜選択されうる。アノード140の素材の例には、炭素や金属などが含まれる。アノード140の形状の例には、クロスなどの平面形状や、ブラシ状や棒状、粒状などの立体形状が含まれる。アノード140の例には、カーボンペーパーやグラファイト板、カーボンクロス、カーボンメッシュ、グラファイト粒子、活性化グラファイト粒子、カーボンフェルト、網状ガラス化カーボン、カーボンブラシ、ステンレス鋼メッシュなどが含まれる。
【0022】
膜電極接合体(MEA)170は、隔膜150およびガス透過性を有するカソード160を含む。隔膜150およびカソード160は、互いに接合されている。MEA170は、隔膜150が液体130に接触し、カソード160が外気に接触するように配置される。本実施の形態では、円環形状の浮き180の貫通孔を塞ぐように浮き180の下側に隔膜150が固定されており、浮き180の貫通孔内において隔膜150上にカソード160が積層されている。
【0023】
隔膜150は、カチオンを選択的に透過させうる膜であり、液体130とカソード160との間に配置されている。前述のとおり、本実施の形態では、円環形状の浮き180の貫通孔を塞ぐように浮き180の下側に隔膜150が固定されている。隔膜150の種類は、カチオンを選択的に透過させることができれば、特に限定されない。隔膜150の例には、プロトン交換膜が含まれる。プロトン交換膜は、プロトン伝導性のイオン交換高分子電解質からなる膜である。プロトン交換膜の素材の例には、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、有機/無機複合化合物が含まれる。パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂は、例えば、スルホ基および/またはカルボキシル基を有するパーフルオロビニルエーテルを基礎とする重合単位と、テトラフルオロエチレンを基礎とする重合単位とを含む共重合体を含む。そのようなフッ素イオン交換樹脂としては、ナフィオン(登録商標)が知られている。また、有機/無機複合化合物は、炭化水素系高分子(例えばポリビニルアルコール)および無機化合物(例えばタングステン酸)が複合化した化合物からなる物質である。これらの素材からなる膜は、市販されている。
【0024】
カソード(エアカソード)160は、隔膜150を挟んで液体130と隣接するように配置されている。前述のとおり、本実施の形態では、円環形状の浮き180の貫通孔内において隔膜150上にカソード160が積層されている。カソード160の素材は、ガス透過性および導電性を有するものであれば特に限定されない。カソード160の素材の例には、炭素や金属などが含まれる。カソード160の例には、カーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンメッシュ、グラファイト粒子、活性化グラファイト粒子、カーボンフェルト、網状ガラス化カーボン、ステンレス鋼メッシュなどが含まれる。また、これらの表面に、プラチナや活性炭などの酸素還元触媒を担持させてもよい。
【0025】
浮き180は、液体130の表面に浮いており、アノード140、隔膜150およびカソード160を直接または間接的に支持している。その結果、アノード140は、液体130の中に浮いており、隔膜150およびカソード160は、液体130の表面に浮いている。すなわち、アノード140、隔膜150、カソード160および浮き180は、一つの浮遊体を構成する。浮き180の素材および形状は、アノード140およびカソード160を液体130の中または表面に浮かすことができれば特に限定されない。たとえば、浮き180は、発泡スチロールなどの発泡プラスチックや、樹脂や金属などからなる中空構造体などである。本実施の形態では、浮き180は、円環形状の発泡プラスチックである。
【0026】
本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、容器110内において、電子供与微生物120により有機物(例えば酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、隔膜150を透過してカソード160表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード140で回収されて、外部回路を経由してカソード160に移動する。また、カソード160は通気性を有するため、カソード160表面には酸素も存在する。このような状況において、カソード160表面では、水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。したがって、容器110内に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
【0027】
以上のように、本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、アノード140およびMEA170(カソード160)が容器110の壁面の一部を構成することなく液体130の中または表面に浮いている。このため、液体130の圧力の増大によるアノード140およびMEA170の破壊を考慮することなく、容器110を大きくすること、すなわち微生物燃料電池100をスケールアップすることができる。また、液体130の量に関係なく、アノード140およびMEA170(カソード160)の全面が常に液体130と接触することから、液体130の量の変化の影響を受けずに外部回路に電力を安定して出力することができる。
【0028】
また、アノード140およびMEA170を取り付けられた浮き180(浮遊体)を液体130の表面に浮かべるか、または取り出すだけで、本実施の形態に係る微生物燃料電池100を容易に設置または撤去することができる。したがって、本実施の形態に係る微生物燃料電池100を既存の施設に導入することも容易である。
【0029】
なお、本実施の形態では、隔膜150を有する微生物燃料電池100について説明したが、隔膜150は必須の構成要件ではない。すなわち、カソード160は、アノード140と接触してはいけないが、液体130には直接接触していてもよい。しかしながら、電池の実用性を考慮した場合は、隔膜150はあることが好ましい。
【0030】
[実施の形態2]
図4は、実施の形態2に係る微生物燃料電池200の構成を示す模式図である。図4に示されるように、微生物燃料電池200は、容器110と、有機物および電子供与微生物120を含む液体130と、アノード240、隔膜150およびカソード160を含むMEA270と、浮き180とを有する。
【0031】
実施の形態2に係る微生物燃料電池200は、アノード240がMEA270に含まれており、隔膜150に接合されている点で、実施の形態1に係る微生物燃料電池100と異なる。そこで、実施の形態1に係る微生物燃料電池100と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0032】
MEA270は、液体透過性を有するアノード240、隔膜150およびガス透過性を有するカソード160を含む。アノード240、隔膜150およびカソード160は、互いに接合されており、一体化されている。MEA270は、アノード240が液体130に接触し、カソード160が外気に接触するように配置される。本実施の形態では、円環形状の浮き180の貫通孔を塞ぐように浮き180の下側にアノード240および隔膜150が固定されており、浮き180の貫通孔内において隔膜150上にカソード160が積層されている。
【0033】
アノード240は、液体130に接触するように配置される。前述のとおり、本実施の形態では、円環形状の浮き180の貫通孔を塞ぐように浮き180の下側に隔膜150が固定されており、さらに隔膜150の下側(カソード160が配置されていない面)にアノード240が積層されている。アノード240の素材は、液体透過性および導電性を有するものであれば特に限定されない。アノード240の素材の例には、炭素や金属などが含まれる。また、アノード240の形状も、特に限定されない。たとえば、図4に示されるように、アノード240は平面形状であってもよい。また、図5に示されるように、アノード240は、平面形状の部分に加えて、さらにブラシ状や棒状などの立体形状の部分を有していてもよい。このようにすることで、アノード240と液体130(電子供与微生物120)との接触面積が増大するため、微生物燃料電池200の出力を向上させることができる。なお、アノード240が隔膜150の一部にのみ接合されている場合などは、アノード240は液体透過性を有していなくてもよい。
【0034】
本実施の形態に係る微生物燃料電池200は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100の効果に加え、アノード240、隔膜150およびカソード160が一体化されているため、より容易に設置されうるという効果を有する。
【0035】
なお、上記各実施の形態では、アノード140,240およびカソード160を液体130の中または表面に浮かすための浮き180を有する微生物燃料電池100,200について説明したが、浮き180は必須の構成要件ではない。たとえば、アノード140,240、隔膜150またはカソード160を中空構造とするなどしてこれら自身を浮くようにすれば、浮き180は無くてもよい。しかしながら、電池の実用性を考慮した場合は、浮き180はあることが好ましい。
【0036】
以下、実施例を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0037】
本実施例では、実施の形態1に係る微生物燃料電池(図3参照)を作製し、その電圧特性を測定した。
【0038】
1.微生物燃料電池の作製
(1)アノードの作製
10×9cmのカーボンクロス1枚および10×3cmのカーボンクロス2枚を、結束バンドを用いて導線に固定することで、アノードを作製した。
【0039】
(2)MEAの作製
粒子径30〜40nmの導電性カーボン粉末(Vulcan XC-72;CABOT社)16mg、粒子径2〜3nmのプラチナ粉末(田中貴金属工業株式会社)16mg、イオン伝導性ポリマー溶液(ナフィオン(登録商標)を5質量%含む溶液)0.32mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをテフロン(登録商標)シート(直径7.0cm)の面上に均一に塗布し乾燥させて、触媒層を形成した。前述のテフロンシート上の触媒層をプロトン交換膜(Nafion-117;直径11cm)に触媒層が接触するようにプロトン交換膜上にテフロンシートを積層した状態で、ホットプレス機を用いてプレス(120℃、10分間)することで、触媒層(厚み約100μm)をプロトン交換膜に転写した。
【0040】
次いで、テフロン加工済みのカーボンクロス(直径7.0cm)に前述のイオン伝導性ポリマー溶液0.8mLを塗布した。さらに、その上に前述のプロトン交換膜を、イオン伝導性ポリマー溶液に触媒層が接触するように積層した状態で、前述と同様の条件でプレスして圧着させることで、カソードおよび隔膜を含むMEAを作製した。
【0041】
(3)培地の調製
以下の表に示される添加物を蒸留水に加えて、培地(電解質溶液)を調製した。
【表1】
【0042】
(4)微生物燃料電池の作製
容器として、一方の開口が塞がれているガラス製の円筒を準備した。容器の内部空間の大きさは、直径10.5cm×高さ15cmである。前述の培地と、電子供与微生物および燃料としての活性汚泥とを9:1の割合で混合した。得られた混合液0.8Lを、容器の内部に導入した。
【0043】
発泡スチロールからなる円環形状の浮き(外径10cm×内径7cm×高さ5cm)にアノードおよびMEA(プロトン交換膜およびカソード)を固定した。このとき、下側からアノード、プロトン交換膜およびカソードの順になるように各部材を配置した。
【0044】
容器内の液体に浮きを浮かべることで、容器内にアノードおよびMEAを設置した。アノードは、液体中に浸漬された状態となり、カソードは、外気と接触した状態となった。カソードと液体との間には、プロトン交換膜が存在していた。アノードおよびカソードを外部の電圧計と接続した。
【0045】
2.微生物燃料電池の電圧特性の測定
微生物燃料電池を作製し、最初の5日間のみ容器内の液体を撹拌しながら動作させ、その後は撹拌せずに動作させて、室温で1分ごとに電圧を測定した。外部抵抗は、4.3kΩとした。
【0046】
図6は、撹拌を停止した後の電圧の経時的変化を示すグラフである。このグラフから、本発明に係る微生物燃料電池が安定して発電できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
たとえば、燃料として有機廃液を使用した場合、本発明に係る微生物燃料電池およびMEAは、有機廃液から電気エネルギーを回収するだけでなく、有機廃液の浄化処理も行うことができる。したがって、本発明に係る微生物燃料電池およびMEAは、畜舎における廃水処理や、都市部における下水処理などにおいて有用である。
【符号の説明】
【0048】
10 微生物燃料電池
11 容器
12 電子供与微生物
13 液体
14 アノード
15 隔膜
16 カソード(エアカソード)
17 膜電極接合体(MEA)
100,200 微生物燃料電池
110 容器
120 電子供与微生物
130 液体
140,240 アノード
150 隔膜
160 カソード(エアカソード)
170,270 膜電極接合体(MEA)
180 浮き
190 導線
図1
図2
図3
図4
図5
図6