特許第6333211号(P6333211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333211
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】眼科デバイス製造用シリコーン
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/20 20060101AFI20180521BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20180521BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20180521BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20180521BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08G77/20
   C08F290/06
   A61L27/18
   G02C7/04
   A61F2/16
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-88462(P2015-88462)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-204534(P2016-204534A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宗夫
【審査官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−094323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシリコーン
【化1】
[式(1)中、R1は下記式(2)で表される基であり、
【化2】
(式(2)中、nは2〜8の整数であり、Rはメチル基または水素原子である)
は互いに独立に、炭素数1〜10の、置換又は非置換の一価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、
は下記式(3)で表される基であり、
【化3】
(式(3)中、mは2〜10の整数であり、Xは−C2p−2(OH)で示される、水酸基を3個有する分岐していてもよいアルキル基であり、pは1〜6の整数である)
aは1〜500の整数であり、bは1〜100の整数であり、但し、a+bは50〜600である]。
【請求項2】
上記式(1)において、Xが下記式(4)又は下記式(5)で表される基である、請求項1記載のシリコーン。
【化4】
【化5】
【請求項3】
請求項1又は2記載のシリコーンから導かれる繰返し単位を含む重合体。
【請求項4】
請求項1又は2記載のシリコーンと、これと重合性の他の化合物とから導かれる繰返し単位を含む、請求項3記載の重合体。
【請求項5】
請求項3又は4記載の重合体からなる眼科デバイス。
【請求項6】
下記式(1)で表されるシリコーンの製造方法であって、
【化6】
[式中、R1は下記式(2)で表される基であり、
【化7】
(式(2)中、nは2〜8の整数であり、Rはメチル基または水素原子である)
は互いに独立に、炭素数1〜10の、置換又は非置換の一価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、
は下記式(3)で表される基であり、
【化8】
(式(3)中、mは2〜10の整数であり、Xは−C2p−2(OH)で示される、水酸基を3個有する分岐していてもよいアルキル基であり、pは1〜6の整数である)
aは1〜500の整数であり、bは1〜100の整数であり、但し、a+bは50〜600である]
(i)下記式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと
【化9】
(式(6)中、R1、R、R、a及びbは上記の通りである)
下記式(7)で表される化合物とを
【化10】
(式(7)中、kは0〜8の整数であり、Yは−C2p−2(OR)で表される基であり、pは1〜6の整数であり、Rは水酸基の保護基である)
付加反応させて下記式(8)で表される化合物を得る工程と、
【化11】
(式(8)中、R1、R、R、a及びbは上記の通りであり、Aは下記式(9)で表される基であり、
【化12】
mは2〜10の整数であり、Yは−C2p−2(OR)で表される基であり、pは1〜6の整数であり、Rは水酸基の保護基である)
(ii)上記式(8)で表される化合物における−C2p−2(OR)で表される基から水酸基の保護基(R)を除去して上記式(1)で表される化合物を得る工程
を含む、前記製造方法。
【請求項7】
上記式(7)において、Yが下記式(10)または(11)で表される基である、請求項6記載の製造方法
【化13】
【化14】
(上記式中、Rは水酸基の保護基である)。
【請求項8】
水酸基の保護基(R)が−SiRで示されるシリル基である(R、R、Rは互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である)、請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
上記(ii)水酸基の保護基(R)を除去する工程を、酸の存在下アルコール溶媒中で行う、請求項6〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科デバイス製造用シリコーンに関する。詳細には、両末端に(メタ)アクリレート基を有し、眼科デバイス製造用の他のモノマーと共重合させて架橋構造を形成することにより、コンタクトレンズ(親水性コンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲル)、眼内レンズ、人工角膜などの眼科デバイスに好適な可撓性ポリマーを与えるシリコーン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素透過性と親水性を有する眼用デバイス、特にはコンタクトレンズの原材料として様々な重合性シリコーンモノマーが開発されている。特に、高い酸素透過性を与えるコンタクトレンズ材料として、両末端に重合性の基を有し親水性側鎖を有するポリシロキサンが開発されている。例えば特許文献1には、両末端に重合性の基を有し、親水性側鎖を有するポリシロキサンを重合成分として製造された親水性コンタクトレンズが記載されており、親水性側鎖として下記(a)または(b)で示される基が記載されている。
【化1】
(nは2または3の整数である)
【化2】
【0003】
特許文献2には、高酸素透過性及び高親水性を有し、適度な強度及び弾性率を有するコンタクトレンズの原材料として、主鎖の両末端に重合性基を有し、下記式で示されるポリオキシエチレン側鎖を有するポリシロキサンが記載されている。
【化3】
(nは4〜100の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基である)
上記特許文献1及び2に記載のポリシロキサンはウレタン結合を含まないため医療用途に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭62−29776号公報
【特許文献2】特許第5490547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、親水性側鎖が上記(b)に示されるようなエーテル結合と2個の水酸基を有するアルキル基であるポリシロキサンは、親水性が不十分なため他の親水性モノマーとの相溶性が悪く、また、エーテル結合の加水分解により、得られる重合体は機械的強度の耐久性に劣る。また、親水性基が上記(a)又は(c)に示されるようなポリエーテル基であるポリシロキサンは、該ポリエーテル基が酸化劣化したり加水分解されるため、得られる重合体は機械的強度の耐久性に劣る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、両末端に重合性の基を有するポリシロキサンであり、他の親水性モノマーとの相溶性が良好であり、且つ、機械的強度の耐久性が向上された(共)重合体を与えるシリコーンを提供することを目的とする。尚、本発明で課題とする機械的強度の耐久性とは、重合体をリン酸緩衝液に浸漬しても機械的強度(破断強度や破断伸度)が低下しないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)で表されるシリコーンが、他の親水性モノマーとの相溶性が良好であり、且つ、機械的強度の耐久性が向上された(共)重合体を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記式(1)で表されるシリコーン及びその製造方法を提供する。
【化4】
[式(1)中、R1は下記式(2)で表される基であり、
【化5】
(式(2)中、nは2〜8の整数であり、Rはメチル基または水素原子である)
は互いに独立に、炭素数1〜10の、置換又は非置換の一価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、
は下記式(3)で表される基であり、
【化6】
(式(3)中、mは2〜10の整数であり、Xは−C2p−2(OH)で示される、水酸基を3個有する分岐していてもよいアルキル基であり、pは1〜6の整数である)
aは1〜500の整数であり、bは1〜100の整数であり、但し、a+bは50〜600である]。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーンは、他の親水性モノマーとの相溶性が良く、且つ、機械的強度の耐久性に優れた(共)重合体を与える。さらにポリシロキサン構造を有するため、高い酸素透過性を有する(共)重合体を与える。従って、本発明のシリコーンは眼科デバイス製造用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシリコーンは上記式(1)で表され、親水性側鎖として上記式(3)で表される基を有することを特徴とする。詳細には、親水性側鎖がエーテル結合を有さず、且つ、水酸基を3個有するアルキル基を有することを特徴とする。これらにより、該シリコーンは親水性が高く他の親水性モノマーとの相溶性が良好であり、且つ、親水性側鎖が酸化劣化及び加水分解されにくいため機械的強度の耐久性が向上された(共)重合体を与える。親水性側鎖がエーテル結合を有すると酸化劣化及び加水分解されやすくなり、得られる(共)重合体は機械的強度の耐久性に劣る。また、アルキル基に結合する水酸基の数が3個未満では親水性が不十分であり他の親水性モノマーとの相溶性が劣り、無色透明の重合体を与えることができない。
【0011】
上記式(1)において、R1は下記式(2)で表される基である。
【化7】
ここでnは2〜8の整数であり、好ましくは3または4であり、Rはメチル基または水素原子である。
【0012】
式(1)においてRは互いに独立に、炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、置換又は非置換の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、及びナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基が挙げられる。これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子で置換された基であってもよい。該置換された一価炭化水素基としては例えばトリフロロプロピル基が挙げられる。中でも、メチル基が好ましい。
【0013】
式(1)においてRは互いに独立に、炭素数1〜6の、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0014】
式(1)においてAは下記式(3)で表される基である。
【化8】
ここでmは2〜10の整数であり、好ましくは4〜7の整数である。
【0015】
式(3)において、Xは−C2p−2(OH)で表される、水酸基を3個有する分岐していてもよいアルキル基である。pは1〜6の整数であり、好ましくは3〜6の整数である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、メチルブチル基、ジメチルブチル基、ペンチル基、メチルペンチル基、及びヘキシル基等が挙げられ、これらの基の炭素原子に結合している水素原子のうち3個が夫々水酸基に置換されている。好ましくは、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、及びsec−ブチル基の構造を有するものがよい。また、3個の水酸基は同一の炭素原子に結合していてもよいが、好ましくは一つの炭素原子に結合する水酸基は一つであるのがよい。
【0016】
上記Xとしては、特には下記式(4)又は下記式(5)で表される基が好ましい。
【化9】
【化10】
【0017】
式(1)において、aは1〜500の整数、好ましくは50〜300の整数であり、bは1〜100の整数、好ましくは4〜40の整数であり、但し、a+bは50〜600、好ましくは80〜340、特に好ましくは100〜300である。a+bが前記下限値未満では、所望の可撓性を有するポリマーを得ることが難しく、一方、前記上限値を超えては、他の親水性モノマーとの相溶性が悪くなるおそれがある。特には、a及びbが各々上記範囲内にあり、且つ、a/bが10〜50であることが、親水性とシロキサンの疎水性とのバランスの点で好ましい。
【0018】
本発明はさらに、上記式(1)で示されるシリコーンの製造方法を提供する。該製造方法は後述する第1の工程と第2の工程を含む。
【0019】
第1の工程は、下記式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと下記式(7)で表される不飽和炭化水素基含有化合物とを付加反応させて、下記式(8)で表される化合物を得る工程である。
【化11】
(式(6)において、R1、R、R、a及びbは上記の通りである)
【化12】
(式(7)において、kは0〜8の整数であり、好ましくは2〜5の整数である。Yは−C2p−2(OR)で表される基であり、pは1〜6の整数であり、Rは水酸基の保護基である)
【化13】
(式(8)において、R1、R、R、a及びbは上記の通りであり、Aは下記(9)で表される基である)
【化14】
(式(9)において、m及びYは上記の通りである)
【0020】
上記式(7)及び(9)において、Yは、上記したXのために例示された基における3個の水酸基の夫々が水酸基の保護基(R)で保護された基である。特に好ましくは、Yは下記式(10)又は(11)で表される基である。
【化15】
【化16】
(上記式中、Rは水酸基の保護基である)。
【0021】
水酸基の保護基(R)は、通常使用される保護基であってよい。例えば、アセチル基、メトキシアセチル基等のアシル基、tert−ブチル基等のアルキル基、ベンジル基等のアラルキル基、メトキシメチル基等のエーテル基、及び−SiRで示されるシリル基が挙げられる。特に好ましくは−SiRで示されるシリル基がよい。R、R、及びRは互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基、ベンジル基、又はフェニル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びtert−ブチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。−SiRで示されるシリル基としては、例えば、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、tert−ブチルジメチルシリル(TBDMS)基、トリベンジルシリル基、及びtert−ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)が挙げられる。好ましくはアルキルシリル基であり、特に好ましくはトリメチルシリル(TMS)基である。上記シリル基で保護することにより、比較的穏やかな条件下で保護や脱保護が可能なため、副反応が少ないという点で好ましい。
【0022】
例えば、Y:−C2p−2(OR)のRがシリル基(−SiR)である上記式(7)で表される化合物は、アルケニルアルコールの水酸基を少なくとも1種のシリル化剤と反応させてシリルエーテルとすることにより製造される。該反応はアルコールのシリル化反応として公知の方法に従えばよい。例えば、イミダゾールなどの塩基存在下、DMFまたはTHFなどの溶媒中で反応させればよい。シリル化剤は、従来公知のものであってよく、例えば下記式で示される化合物が挙げられる。
【化17】
【化18】
(式中、R、R、及びRは上述の通りである)
【0023】
上記シリル化剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、及びtert−ブチルジメチルクロロシランが挙げられる。好ましくはヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシランおよびこれらの混合物である。
【0024】
アルケニルアルコールは下記式で表される。
【化19】
(式中、k及びXは上述の通りである)
例えば下記式で表される化合物が挙げられる。
【化20】
【化21】
【0025】
上記式(7)で表される化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化22】
【化23】
【0026】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。配合比率は従来公知の方法に従えばよく、式(6)オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基の個数に対する式(7)で示される化合物中の不飽和炭化水素基の個数比が1以上、好ましくは1.05以上となる量で使用するのがよい。上限は特に制限されないが、通常、前記個数比が2以下、特には1.5以下となる量である。
【0027】
好ましい態様としては、例えば、式(7)で示される化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でオルガノハイドロジェンポリシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、反応系中に残存するSiH量を常法に従い測定することで反応の完結を確認する。例えば、水素ガス発生量法が使用できる。その後、反応液から溶媒を留去する。反応終点を上記のように確認することにより、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが生成物中に残存しないため高純度のシリコーンを得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0028】
付加反応終了後に、反応液から過剰の式(7)で示される化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗してビニルエーテル化合物を水層へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2層分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。なお、過剰の式(7)で示される化合物は、後述する第2の工程にて、水溶性の高いアルケニルアルコール化合物に変換してから水洗して水層へ抽出し、除去しても良い。
【0029】
本発明の製造方法における第2の工程は、上記式(8)で表される化合物が有する−C2p−2(OR)で示される基から水酸基の保護基(R)を除去して、上記式(1)で表される化合物を得る工程である(以下、脱保護反応という)。
【0030】
該脱保護反応は従来公知の方法に従い行えばよい。例えば、シリル基を除去する方法(即ち、脱シリル化)は、反応を促進させるために酸の存在下で行うことが好ましい。酸としては、例えば硫酸、塩酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及びトリフルオロ酢酸などが挙げられる。水を含まないトリフルオロメタンスルホン酸、及びトリフルオロ酢酸が好ましい。酸の濃度は、0.01〜5質量%が好ましい。
【0031】
該脱保護反応は式(8)で表される化合物が溶解する適宜な溶媒中で行えばよい。該溶媒としては非水系溶媒が好ましく、例えばメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、及びi-プロピルアルコール等のアルコール溶媒が挙げられる。溶媒が水を含むと、シリコーンのシロキサン結合が開裂するので好ましくない。
【0032】
脱保護反応の温度及び時間は使用する酸や溶媒等に応じて適宜設定されればよいが、反応温度40〜80℃、反応時間1〜10時間であるのがよい。該脱保護反応後、溶媒を留去することで目的の脱保護されたシリコーン(式(1))が得られる。
【0033】
また、上記第1及び第2の工程の何れの反応においても、必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。該重合禁止剤は(メタ)アクリル化合物に従来使用されているものであればよい。例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシフェノール、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)などのフェノール系重合禁止剤が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合禁止剤の量は特に制限されるものでないが、得られる化合物の質量に対して5〜500ppmとなる量が好ましく、より好ましくは10〜100ppmとなる量である。
【0034】
上記式(6)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは従来公知の方法で製造することができる。特には、末端源である(メタ)アクリルシリコーンダイマーを出発原料とする方法が好ましい。(メタ)アクリルシリコーンダイマーは例えば下記式で表される。
【化24】
(Rは上記の通りである)
【0035】
上記式で表される(メタ)アクリルシリコーンダイマーとしては、例えば、下記式(12)で表される化合物が挙げられる。
【化25】
例えば、上記式(12)で表される化合物と、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサンを目的の構造となる量で仕込み、トリフロロメタンスルホン酸触媒で酸平衡反応させる。その後、中和し、低沸点物を減圧ストリップすることで、下記式(13)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが得られる。
【化26】
(式中、a及びbは上記の通りである)
【0036】
本発明のシリコーンは、他の単官能モノマーと共重合して架橋構造を有するポリマーを製造するために適する。単官能モノマーとは上記シリコーンと重合する基を1つ有する他のモノマー(以下、重合性モノマー、または親水性モノマーという)である。本発明のシリコーンはこれら他の重合性モノマーとの相溶性が良好である。そのため、他の重合性モノマーと共重合することにより無色透明の共重合体を与えることができる。本発明のシリコーンと他の重合性モノマーとから導かれる繰返し単位を含む共重合体の製造において、本発明のシリコーンの配合割合は、本発明のシリコーンと重合性モノマーとの合計100質量部に対して本発明のシリコーン化合物を好ましくは1〜50質量部、より好ましくは10〜40質量部となる量がよい。尚、本発明のシリコーンを単独重合して眼内レンズ用ポリマーを形成することもできる。
【0037】
該重合性モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基および他の共重合可能な炭素−炭素不飽和結合有するモノマーが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、 2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモロホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、ビニルピリジン、及びマレイミドなどが挙げられる。また、(メタ)アクリル、スチリル、(メタ)アクリルアミド等の重合性基を含有するトリストリメチルシロキシシリルプロピルシランモノマー及びビストリメチルシロキシメチルシリルプロピルシランモノマーも使用できる。
【0038】
また他の架橋性モノマーを併用することもできる。該架橋性モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビニルメタクリレート、アリルメタクリレート及びこれらのメタクリレート類に対応するアクリレート類、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。該架橋性モノマーの量は、重合性モノマーの合計100質量部に対し0.1〜10質量部が好ましい。
【0039】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、α,α′−ジエトキシアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部であるのがよい。
【0040】
本発明のシリコーンから導かれる繰返し単位を含む(共)重合体は、酸素透過性、親水性、防汚性に優れ、且つ、機械的強度の耐久性にも優れる。従って、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記実施例において、粘度はキャノンフェンスケ粘度計を用い、比重は浮秤計を用いて測定した。屈折率はデジタル屈折率計RX−5000(アタゴ社製)を用いて測定した。H−NMR分析は、JNM−ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
【0042】
[実施例1]
第1の工程
下記式(14)で表される化合物26.7g(0.066モル、下記式(15)で表される化合物中のSiH基の個数に対する不飽和炭化水素基の個数比が1.1となる量)及びイソプロピルアルコール194gを、攪拌機、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた500ミリリットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物とビニルシロキサンの反応物(錯体)のトルエン溶液(白金含有量0.5%)0.35gを前記フラスコ中に添加した後、下記式(15)で表される化合物70.4g(0.01モル)
【化27】
【化28】
を、滴下ロートを用いて、2時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。70℃で7時間熟成した後、反応系中の残存SiH量を水素ガス発生量法に従い測定したところ、反応前の水素ガス発生量の2%以下であった。これにより反応の完結を確認した。イソプロピルアルコールを減圧ストリップし、下記式(16)で示される化合物を含むオイル状粗生成物91gを得た。
尚、水素ガス発生量は以下の方法により測定したものである。
清浄な100mlマイヤーフラスコに、試料10gを正確に取り、次にn−ブタノール10mlに溶解した液に20%苛性ソーダ水溶液を20ml徐々に添加し、発生した水素ガス量をガスビュレットで測定した。下記式に当てはめて、0℃、1気圧におけるガス発生量に換算した。
水素ガス発生量(ml/g)=0.359 x P x V / T x S
(P:測定時の気圧(mmHg)、V:発生水素ガス量(ml)、T:273+t℃(t℃:発生水素ガス温度=測定時の温度)、S:試料量)
【化29】
【0043】
第2の工程
前記オイル状粗生成物69.2g、イソプロピルアルコール146g、及びトリフルオロメタンスルホン酸の1質量%メタノール溶液2.2g(トリフルオロメタンスルホン酸として100ppm)を攪拌機、ジムロート、及び温度計を付けた500ミリリットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温し、5時間反応させた。イソプロピルアルコールを減圧ストリップし、オイル状粗生成物57gを得た。該粗生成物にアセトン120gを添加し溶解させ、水30gで洗浄した。この操作をさらに2回繰り返し、水/アセトン層に下記式で表されるアルケニルアルコール不純物を抽出して除去した。
【化30】
白濁した下層74gに4−メトキシフェノール0.0007g(100ppm)及
び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.0007g(100ppm)を加え、減圧ストリップすることで無色透明のオイル状生成物45gを得た(収率71.4%)。H−NMR分析により該生成物は下記式(17)で表されるシリコーンであることが確認された(シリコーン1)。該シリコーンの粘度は25000mm/s(25℃)であり、比重は0.986(25℃)であり、屈折率は1.4201であった。
【化31】
【0044】
上記シリコーン1のH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
0.1ppm(540H)、0.4ppm(12H)、0.5ppm(4H)、1.0〜1.3ppm(60H)、1.6ppm(4H)、1.9ppm(6H)、2.6ppm(18H)、3.6ppm(36H)、4.0ppm(4H)、5.5ppm(2H)、6.0ppm(2H)
【0045】
[実施例2]
上記式(14)で表される化合物に変えて下記式(18)の化合物24.8g(0.066モル)を使用した他は実施例1を繰り返し、無色透明のシリコーン39.9g(収率67%)を得た。H−NMR分析により下記式(19)で表されるシリコーンであることが確認された(シリコーン2)。該シリコーンの粘度は26000mm/s(25℃)であり、比重は0.984(25℃)であり、屈折率は1.4206であった。
【化32】
【化33】
【0046】
上記シリコーン2のH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
0.1ppm(540H)、0.4〜0.6ppm(16H)、1.2〜1.5ppm(48H)、1.7ppm(4H)、1.9ppm(6H)、3.0ppm(18H)、3.5ppm(12H)、3.7ppm(12H)、5.5ppm(2H)、6.1ppm(2H)
【0047】
[比較用合成例1]
特公昭62−29776号公報(特許文献1)の実施例18及び19に記載の方法において、両末端メタクリル基含有オルガノハイドロジェンシリコーンを上記式(15)の化合物に替えた他は特許文献1の実施例18及び19の方法を繰り返し、下記式(20)のシリコーンを合成した(以下、シリコーン3という)。
【化34】
【0048】
[比較用合成例2]
特許第5490547号公報(特許文献2)の実施例1及び2に記載の方法において、両末端メタクリル基含有オルガノハイドロジェンシリコーンを上記式(15)の化合物に替えた他は特許文献2の実施例1及び2の方法を繰り返し、下記式(21)のシリコーンを合成した(以下、シリコーン4という)。
【化35】
【0049】
モノマー混合物の調製
[実施例3]
実施例1で得られたシリコーン1 30質量部、N−ビニル−2−ピロリドン 70質量部、トリアリルイソシアヌレート 0.1質量部、及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド 0.1質量部を攪拌混合しモノマー混合物1を得た。
【0050】
[実施例4]
実施例4では、シリコーン1を実施例2で得たシリコーン2に替えた他は実施例3と同じ組成及び方法にてモノマー混合物を調製した(モノマー混合物2と称す)。
【0051】
[比較例1及び2]
比較例1及び2では、シリコーン1を、比較用合成例1で得たシリコーン3または比較用合成例2で得たシリコーン4に各々替えた他は実施例3と同じ組成及び方法にてモノマー混合物を調製した(シリコーン3、4の順にモノマー混合物3、4と称す)。
【0052】
[評価試験]
(1)他の重合性モノマーとの相溶性
上記で得た各モノマー混合物の外観を目視により観察した。シリコーンと他の重合性モノマーとの相溶性が良好である混合物は無色透明になるが、相溶性が悪い混合物は濁りを生じる。結果を下記表1に示す。
【0053】
(2)フィルム(重合体)の外観
上記で得た各モノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。該混合液を、石英ガラス板2枚をはさんだ鋳型に流し込み、超高圧水銀ランプで1時間照射して厚さ約0.3mmのフィルムを得た。該フィルムの外観を目視観察した。結果を下記表1に示す。
【0054】
(3)フィルム(重合体)の水濡れ性(表面親水性)
上記(2)で製造したフィルムに対して、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液適法にて水接触角(°)の測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0055】
(4)フィルム(重合体)の耐汚染性
上記(2)で製造したフィルムを37℃リン酸緩衝液(PBS(−))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬した後の各フィルムを、公知の人工脂質液中にて、37℃±2℃にて8時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて濯ぎ洗いをし、0.1%スダンブラック−胡麻油溶液に浸漬した。浸漬前後で染色状態に差異が確認されない場合を○、確認された場合を×とした。結果を下記表1に示す。
【0056】
(5)機械的強度の耐久性
上記(2)に従いフィルムを2枚作製し、その内の1枚の表面水分を拭き取った後に37℃リン酸緩衝液(PBS(一))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬後のフィルム各々を幅2.0mmのダンベル形状にカットし、試験サンプルの上下端を冶具で挟み、一定速度で引っ張り続けた際の破断強度および破断伸度を、破断試験機AGS−50NJ(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。PBS(一)に浸漬する前後での破断強度と破断伸度が、夫々10%以内の変化の場合は○とし、いずれか一方に10%を超える減少が認められる場合は×とした。結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
上記表1に示す通り、比較例1のシリコーンは、他の重合性モノマーとの相溶性が悪く無色透明な重合体を得られない。また、該シリコーンを含むモノマー混合物から得られる重合体をリン酸緩衝液に浸漬すると機械的強度が低下する。比較例2のシリコーンを含むモノマー混合物から得られる重合体もリン酸緩衝液に浸漬すると機械的強度が低下する。これに対し、本発明のシリコーンは他の重合性モノマーとの相溶性が良好であるため無色透明な重合体を与え、該重合体は親水性及び耐汚染性に優れる。さらに得られる重合体はリン酸緩衝液に浸漬しても機械的強度が低下しない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のシリコーンは、無色透明であり、親水性、及び耐汚染性に優れ、且つ、機械的強度の耐久性に優れる重合体を与える。従って、本発明のシリコーン及び該シリコーンの製造方法は、コンタクトレンズ材料、眼内レンズ材料、及び人工角膜材料など、眼科デバイスの製造のために有用である。